(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】クレーン
(51)【国際特許分類】
B66C 13/14 20060101AFI20240116BHJP
【FI】
B66C13/14
(21)【出願番号】P 2020039980
(22)【出願日】2020-03-09
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木原 瑞希
(72)【発明者】
【氏名】西本 昌司
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-193235(JP,A)
【文献】特開2003-045732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/00-15/06
B66C 19/00-23/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤロープを介してフック部へ電力を供給する電力供給システムを備えたクレーンであって、
前記電力供給システムは、
前記ワイヤロープと、
上下方向に貫通する孔部を有する環状のコアと、
前記コアに巻回される導線と、を含んで構成されるトランスを備えており、
前記トランスは、前記孔部に挿通される前記ワイヤロープと前記導線との間に介設された接触防止部を有
し、
前記接触防止部は、前記ワイヤロープと前記導線との間において、前記孔部の内周面から前記孔部側に突起した突起部で構成される、ことを特徴とするクレーン。
【請求項2】
前記接触防止部は、少なくとも前記孔部の内周面を覆うカバー部材で構成され、前記カバー部材と前記コアとの間に前記導線が挿通される、ことを特徴とする請求項1に記載のクレーン。
【請求項3】
前記カバー部材は、更に前記コアの上下端面を覆うように構成される、ことを特徴とする請求項2に記載のクレーン。
【請求項4】
前記突起部は、複数設けられ、
前記複数の突起部の内端同士の間に隙間が設けられ、
前記隙間の寸法は、前記ワイヤロープの直径よりも小さい、ことを特徴とする請求項
1~請求項3の何れか一項に記載のクレーン。
【請求項5】
前記突起部は、当該突起部の内端と前記孔部の内周面との間に隙間が設けられ、
前記隙間の寸法は、前記ワイヤロープの直径よりも小さい、ことを特徴とする請求項
1~請求項3の何れか一項に記載のクレーン。
【請求項6】
ワイヤロープを介してフック部へ電力を供給する電力供給システムを備えたクレーンであって、
前記電力供給システムは、
前記ワイヤロープと、
上下方向に貫通する孔部を有する環状のコアと、
前記コアに巻回される導線と、を含んで構成されるトランスを備えており、
前記トランスは、前記孔部に挿通される前記ワイヤロープと前記導線との間に介設された接触防止部を有
し、
前記接触防止部は、前記導線と前記ワイヤロープとを隔てる非磁性体部材で構成され、
前記非磁性体部材は、前記孔部を、前記ワイヤロープが挿通される第一孔部と前記導線が挿通される第二孔部とに区画するように、当該非磁性体部材の一端と他端とが前記孔部の内周面に各々接合される、ことを特徴とす
るクレーン。
【請求項7】
前記ワイヤロープの索端は、ブームに対してロープソケットを介して固定され、
前記コアは、前記ロープソケットと一体に構成され、
前記コアの前記孔部に前記ワイヤロープの索端が挿通されている、ことを特徴とする請求項1から請求項
6のいずれか一項に記載のクレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、移動式クレーン、天井クレーン、ガントリークレーン等のクレーンが知られている。クレーンは、ワイヤロープやフック部を備え、荷物を吊り下げた状態でこれを搬送可能としている。
【0003】
ところで、特許文献1には、ワイヤロープを介してフック部へ電力を供給するクレーンが開示されている。かかるクレーンは、ブームの先端部の近傍に設けられた送電部からフック部の近傍に設けられた受電部へ、ワイヤロープを介して交流電力を送電する。送電部と受電部にはトランスが設けられ、トランスの一方のコイルがワイヤロープで構成される。そのため、かかるトランスは、一方のコイル(ワイヤロープ)がトランスのコアに対して動く点が一般的なトランスとは異なっている。従来のトランスでは、短絡を防止するためにエナメル線等の被覆線がコイルに用いられるが、上記のようなフック部への電力供給に用いるトランスでは、ワイヤロープや隣接するコイルにエナメル等の被覆を施したとしても、摺動に対して被覆の強度が不足することとなる。従って、ワイヤロープを介してフック部へ電力供給するために用いるトランスのコイルを被覆線とすると、被覆が剥がれることによってトランスで短絡が生じる可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トランスで短絡が生じることを防止できるクレーンを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一の発明は、
ワイヤロープを介してフック部へ電力を供給する電力供給システムを備えたクレーンであって、
前記電力供給システムは、
前記ワイヤロープと、
上下方向に貫通する孔部を有する環状のコアと、
前記コアに巻回される導線と、を含んで構成されるトランスを備えており、
前記トランスは、前記孔部に挿通される前記ワイヤロープと前記導線との間に介設された接触防止部を有し、
前記接触防止部は、前記ワイヤロープと前記導線との間において、前記孔部の内周面から前記孔部側に突起した突起部で構成される、ものである。
【0007】
第二の発明は、第一の発明に係るクレーンにおいて、
前記接触防止部は、少なくとも前記孔部の内周面を覆うカバー部材で構成され、前記カバー部材と前記コアとの間に前記導線が挿通される、ものである。
【0008】
第三の発明は、第二の発明に係るクレーンにおいて、
前記カバー部材は、更に前記コアの上下端面を覆うように構成される、ものである。
【0010】
第四の発明は、第一から第三のいずれかの発明に係るクレーンにおいて、
前記突起部は、複数設けられ、
前記複数の突起部の内端同士の間に隙間が設けられ、
前記隙間の寸法は、前記ワイヤロープの直径よりも小さい、ものである。
【0011】
第五の発明は、第一から第三のいずれかの発明に係るクレーンにおいて、
前記突起部は、当該突起部の内端と前記孔部の内周面との間に隙間が設けられ、
前記隙間の寸法は、前記ワイヤロープの直径よりも小さい、ものである。
【0012】
第六の発明は、
ワイヤロープを介してフック部へ電力を供給する電力供給システムを備えたクレーンであって、
前記電力供給システムは、
前記ワイヤロープと、
上下方向に貫通する孔部を有する環状のコアと、
前記コアに巻回される導線と、を含んで構成されるトランスを備えており、
前記トランスは、前記孔部に挿通される前記ワイヤロープと前記導線との間に介設された接触防止部を有し、
前記接触防止部は、前記導線と前記ワイヤロープとを隔てる非磁性体部材で構成され、
前記非磁性体部材は、前記孔部を、前記ワイヤロープが挿通される第一孔部と前記導線が挿通される第二孔部とに区画するように、当該非磁性体部材の一端と他端とが前記孔部の内周面に各々接合される、ものである。
【0014】
第七の発明は、第一から第六のいずれかの発明に係るクレーンにおいて、
前記ワイヤロープの索端は、ブームに対してロープソケットを介して固定され、
前記コアは、前記ロープソケットと一体に構成され、
前記コアの前記孔部に前記ワイヤロープの索端が挿通されている、ものである。
【発明の効果】
【0015】
第一の発明に係るクレーンにおいて、トランスは、孔部に挿通されるワイヤロープと導線との間に介設された接触防止部を有する。かかるクレーンによれば、ワイヤロープと導線が電気的に接触しない。従って、トランスで短絡が生じることを防止できる。
また、接触防止部は、ワイヤロープと導線との間において、孔部の内周面から孔部側に突起した突起部で構成される。かかるクレーンによれば、ワイヤロープと導線が電気的に接触しない。従って、トランスで短絡が生じることを防止できる。
【0016】
第二の発明に係るクレーンにおいて、接触防止部は、少なくとも孔部の内周面を覆うカバー部材で構成され、カバー部材とコアとの間に導線が挿通される。かかるクレーンによれば、ワイヤロープ、導線、コアが互いに電気的に接触しない。従って、トランスで短絡が生じることを防止できる。
【0017】
第三の発明に係るクレーンにおいて、カバー部材は、更にコアの上下端面を覆うように構成される。かかるクレーンによれば、コアの上下端面においても、ワイヤロープ、導線、コアが互いに電気的に接触しない。従って、トランスで短絡が生じることをより確実に防止できる。
【0019】
第四の発明に係るクレーンにおいて、突起部は、複数設けられ、複数の突起部の内端同士の間に隙間が設けられ、隙間の寸法は、ワイヤロープの直径よりも小さい。かかるクレーンによれば、突起部を介して磁束が漏れることが防止される。従って、磁束の漏れによる送電効率の低下を防止できる。また、ワイヤロープと導線が電気的に接触しない。従って、トランスで短絡が生じることを防止できる。
【0020】
第五の発明に係るクレーンにおいて、突起部は、突起部の内端と孔部の内周面との間に隙間が設けられ、隙間の寸法は、ワイヤロープの直径よりも小さい。かかるクレーンによれば、突起部を介して磁束が漏れることが防止される。従って、磁束の漏れによる送電効率の低下を防止できる。また、ワイヤロープと導線が電気的に接触しない。従って、トランスで短絡が生じることを防止できる。
【0021】
第六の発明に係るクレーンにおいて、トランスは、孔部に挿通されるワイヤロープと導線との間に介設された接触防止部を有する。かかるクレーンによれば、ワイヤロープと導線が電気的に接触しない。従って、トランスで短絡が生じることを防止できる。
また、接触防止部は、導線とワイヤロープとを隔てる非磁性体部材で構成される。かかるクレーンによれば、非磁性体部材を介して磁束が漏れることが防止される。従って、磁束の漏れによる送電効率の低下を防止できる。また、ワイヤロープと導線が電気的に接触しない。従って、トランスで短絡が生じることを防止できる。 さらに、非磁性体部材は、孔部を、ワイヤロープが挿通される第一孔部と導線が挿通される第二孔部とに区画するように、非磁性体部材の一端と他端とがコアの内周面に各々接合される。かかるクレーンによれば、非磁性体部材を介して磁束が漏れることが防止される。従って、磁束の漏れによる送電効率の低下を防止できる。また、導線が挿通された第二孔部へワイヤロープが移動しない。従って、トランスで短絡が生じることをより確実に防止できる。
【0023】
第七の発明に係るクレーンにおいて、ワイヤロープの索端は、ブームに対してロープソケットを介して固定され、コアは、ロープソケットと一体に構成され、コアの孔部にワイヤロープの索端が挿通されている。かかるクレーンによれば、ワイヤロープに対する導線とコアの摺動がなくなる。また、フック部に対する導線とコアの接触がなくなる。これにより、摺動又は接触によるトランスの損傷が生じて、ワイヤロープ、導線、コアが互いに電気的に接触することがなくなる。従って、トランスで短絡が生じることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図4】クレーンにおける電力供給システムを示す図。
【
図6】ブームヘッドからフック部へ電力を供給する回路を示す図。
【
図7】1次側コアと2次側コアが設けられる位置を示す図。
【
図8】接触防止部がカバー部材で構成されたトランスを示す図、(A)内周面を覆うカバー部材を有するトランスの断面図、(B)導線が巻回された1次側コアの斜視図、(C)内周面と上下端面を覆うカバー部材を有するトランスの断面図。
【
図9】接触防止部が突起部で構成されたトランスを示す図、(A)突起部が2つ設けられたトランスの斜視図、(B)突起部が1つ設けられたトランスの斜視図。
【
図10】接触防止部が非磁性体部材で構成されたトランスを示す図。
【
図11】ロープソケットとコアが一体に構成されたトランスを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本願に開示する技術的思想は、以下に説明する実施形態のほか、他の実施形態にも適用できる。
【0026】
まず、
図1及び
図2を用いて、第一実施形態に係るクレーン1について説明する。なお、本願においては、クレーン1を移動式クレーンとして説明するが、フック部が取り付けられたワイヤロープを備える他種のクレーンに対しても適用できる。例えば、他種のクレーンは、天井クレーンやガントリークレーンである。
【0027】
クレーン1は、主に走行体2と旋回体3で構成されている。
【0028】
走行体2は、左右一対の前輪4と後輪5を備えている。また、走行体2は、荷物Wの搬送作業を行う際に接地させて安定を図るアウトリガ6を備えている。なお、走行体2は、アクチュエータによって、その上部に支持する旋回体3を旋回自在としている。
【0029】
旋回体3は、その後部から前方へ突き出すようにブーム7を備えている。そのため、ブーム7は、アクチュエータによって旋回自在となっている(矢印A参照)。また、ブーム7は、アクチュエータによって伸縮自在となっている(矢印B参照)。更に、ブーム7は、アクチュエータによって起伏自在となっている(矢印C参照)。
【0030】
加えて、ブーム7には、ワイヤロープ8が架け渡されている。ブームヘッド11から垂下するワイヤロープ8には、フック部9が取り付けられている。また、ブーム7の基端側近傍には、ウインチ10が設けられている。ウインチ10は、アクチュエータと一体的に構成されており、ワイヤロープ8の巻き入れ及び巻き出しを可能としている。そのため、フック部9は、昇降自在となっている(矢印D参照)。
【0031】
ブームヘッド11には、トップシーブ12が設けられている。また、フック部9には、フックシーブ13が設けられている。トップシーブ12とフックシーブ13には、ワイヤロープ8が巻き掛けられている(
図2参照)。
【0032】
加えて、ブームヘッド11には、過巻防止装置14が取り付けられている。過巻防止装置14は、ブームヘッド11に吊られる過巻ウエイト15を有する。ワイヤロープ8の巻き入れにより、フック部9が過巻ウエイト15に当接すると、ワイヤ16がゆるんで過巻スイッチ17がオンとなる。過巻スイッチ17がオンになるとワイヤロープ8の巻き入れが自動的に停止する。
【0033】
次に、
図3を用いて、クレーン1の制御構成について説明する。
【0034】
クレーン1は、コントローラ20を備えている。コントローラ20には、各種操作具21~24が接続されている。また、コントローラ20には、各種バルブ31~34が接続されている。更に、コントローラ20には、各種センサ51~54が接続されている。
【0035】
上述したように、ブーム7は、アクチュエータによって旋回自在となっている(
図1における矢印A参照)。本願においては、かかるアクチュエータを旋回用油圧モータ41(
図1参照)と定義する。旋回用油圧モータ41は、方向制御弁である旋回用バルブ31によって適宜に稼動される。つまり、旋回用油圧モータ41は、旋回用バルブ31が作動油の流動方向を切り替えることで適宜に稼動される。なお、旋回用バルブ31は、オペレータによる旋回操作具21の操作に基づいて稼動される。また、ブーム7の旋回角度は、旋回用センサ51によって検出される。そのため、コントローラ20は、ブーム7の旋回角度を認識することができる。
【0036】
また、上述したように、ブーム7は、アクチュエータによって伸縮自在となっている(
図1における矢印B参照)。本願においては、かかるアクチュエータを伸縮用油圧シリンダ42(
図1参照)と定義する。伸縮用油圧シリンダ42は、方向制御弁である伸縮用バルブ32によって適宜に稼動される。つまり、伸縮用油圧シリンダ42は、伸縮用バルブ32が作動油の流動方向を切り替えることで適宜に稼動される。なお、伸縮用バルブ32は、オペレータによる伸縮操作具22の操作に基づいて稼動される。また、ブーム7の伸縮長さは、伸縮用センサ52によって検出される。そのため、コントローラ20は、ブーム7の伸縮長さを認識することができる。
【0037】
更に、上述したように、ブーム7は、アクチュエータによって起伏自在となっている(
図1における矢印C参照)。本願においては、かかるアクチュエータを起伏用油圧シリンダ43(
図1参照)と定義する。起伏用油圧シリンダ43は、方向制御弁である起伏用バルブ33によって適宜に稼動される。つまり、起伏用油圧シリンダ43は、起伏用バルブ33が作動油の流動方向を切り替えることで適宜に稼動される。なお、起伏用バルブ33は、オペレータによる起伏操作具23の操作に基づいて稼動される。また、ブーム7の起伏角度は、起伏用センサ53によって検出される。そのため、コントローラ20は、ブーム7の起伏角度を認識することができる。
【0038】
加えて、上述したように、フック部9は、アクチュエータによって昇降自在となっている(
図1における矢印D参照)。本願においては、かかるアクチュエータを巻回用油圧モータ44(
図1参照)と定義する。巻回用油圧モータ44は、方向制御弁である巻回用バルブ34によって適宜に稼動される。つまり、巻回用油圧モータ44は、巻回用バルブ34が作動油の流動方向を切り替えることで適宜に稼動される。なお、巻回用バルブ34は、オペレータによる巻回操作具24の操作に基づいて稼動される。また、ワイヤロープ8の巻出長さは、巻回用センサ54によって検出される。そのため、コントローラ20は、ワイヤロープ8の巻出長さを認識することができる。
【0039】
次に、
図4及び
図5を用いて、クレーン1が備える電力供給システム60について説明する。電力供給システム60は、ワイヤロープ8を介してフック部9へ電力を供給するものである。なお、ここではフック部9に電気機器67が設けられているものとする。電気機器67は、電力が供給されて作動する機器であり、例えばカメラ、センサ類、IMU等である。
【0040】
電力供給システム60は、ワイヤロープ8のほか、バッテリ61、送電回路62、送電部63、受電部65、受電回路66を備えている。
【0041】
上述したように導電体であるワイヤロープ8は、トップシーブ12とフックシーブ13に巻き掛けられており、電気的に一つの閉回路を構成している。
【0042】
バッテリ61は、電力供給システム60の電源となるものである。バッテリ61は、旋回体3(
図1参照)に備わる電源装置である。バッテリ61は、送電回路62と接続されており、送電回路62へ直流電力を送電する。
【0043】
送電回路62は、直流電力を交流電力に変換するものである。送電回路62は、ブームヘッド11に設けられている。送電回路62は、送電部63と接続されており、交流電力を送電部63に送電する。
【0044】
送電部63は、交流電力をワイヤロープ8に送電するものである。送電部63は、ブームヘッド11の近傍に設けられている。送電部63は、後述するトランス70の1次側コア71に巻回された導線72を指す。
【0045】
受電部65は、ワイヤロープ8から交流電力を受電するものである。受電部65は、フック部9の近傍に設けられている。受電部65は、後述するトランス80の2次側コア81に巻回された導線82を指す。
【0046】
受電回路66は、交流電力を直流電力に変換するものである。受電回路66は、フック部9に設けられている。受電回路66は、フック部9に備わる電気機器67と接続されており、直流電力を電気機器67に送電する。
【0047】
電力供給システム60において、導線72は、送電回路62と接続されており、交流電力が送電回路62から送電される。一方、導線82は、受電回路66と接続されており、交流電力を受電回路66に送電する。
【0048】
次に、
図6から
図8を用いて、トランス70・80について詳しく説明する。なお、
図6では、送電回路62と受電回路66を省略し、電源を交流電源として図示している。また、
図8(A)及び
図8(C)では、奥行き方向に存在する導線72を省略している。
【0049】
トランス70・80は、同様の構成を有する。そのため、以下においては、主としてトランス70について記載する。
【0050】
トランス70は、電磁誘導を利用して交流電力の電圧の高さを変換するものである。トランス70は、ワイヤロープ8、1次側コア71、導線72を含んで構成される。一方、トランス80は、ワイヤロープ8、2次側コア81、導線82を含んで構成される。
【0051】
ワイヤロープ8は、トランス70における一方側のコイルとして構成される。ワイヤロープ8は、1次側コア71の孔部73に挿通される。
【0052】
1次側コア71は、上下方向に貫通する孔部73を有する環状のものである。ここでいう「環状」とは、無端状に一周繋がった形状だけでなく、環の周方向の途中に不連続な部分(例えば0~1mm程度の隙間)を有する形状(例えばC字型の形状)を含む概念である。この隙間は、1つだけでなく複数あってもよい。本願において、1次側コア71は、円環状であるが、これに限定されるものではなく、矩形環状等でもよい。また、孔部73は、平面視円形状であるが、これに限定されるものではなく、平面視矩形状等でもよい。1次側コア71は、トランス70におけるコア(磁心)として構成される。また、1次側コア71は、磁性体部材で構成される。
【0053】
例えば、1次側コア71は、過巻ウエイト15と索端8aの間に設けられる(
図7参照)。但し、1次側コア71は、過巻ウエイト15の位置が変化し得るので、過巻ウエイト15に接触しないよう十分に索端8aに近い位置に設けられることが好ましい。一方、2次側コア81は、過巻ウエイト15を介して1次側コア71に対向するようにフック部9の近傍に設けられる。
【0054】
導線72は、1次側コア71に巻回されるものである。導線72は、トランス70における他方側のコイルとして構成される。
【0055】
トランス70は、孔部73に挿通されるワイヤロープ8と導線72との間に介設された接触防止部74を有する。接触防止部74は、カバー部材75等で構成される。
【0056】
カバー部材75は、少なくとも孔部73の内周面71aを覆うものである(
図8(A)参照)。カバー部材75と1次側コア71の間には、導線72が挿通される。例えば、導線72は、1次側コア71の周方向の全周に亘って等間隔に巻回される(
図8(B)参照)。これにより、トランス70に生じる磁束の漏れを減少させることができる。カバー部材75は、内周面71aと内周面71aに沿うように延びる導線72を覆う。従って、内周面71aと導線72に向かってワイヤロープ8が移動したとしても、カバー部材75により内周面71aと導線72が保護されるため、内周面71aと導線72に対するワイヤロープ8の接触が防止される。
【0057】
カバー部材75は、更に1次側コア71の上下端面71b・71cを覆うように構成されることが好ましい(
図8(C)参照)。カバー部材75と1次側コア71の間には、導線72が挿通される。カバー部材75は、上下端面71b・71cと上下端面71b・71cに沿うように延びる導線72を覆う。従って、ワイヤロープ8の緩み等により上端面71bと導線72に向かってワイヤロープ8が移動したとしても、カバー部材75により上端面71bと導線72が保護されるため、上端面71bと導線72に対するワイヤロープ8の接触が防止される。同様に、下端面71cと導線72に向かってワイヤロープ8が移動したとしても、カバー部材75により下端面71cと導線72が保護されるため、下端面71cと導線72に対するワイヤロープ8の接触が防止される。
【0058】
以上のように、本クレーン1において、トランス70は、孔部73に挿通されるワイヤロープ8と導線72との間に介設された接触防止部74を有する。かかるクレーン1によれば、ワイヤロープ8と導線72が電気的に接触しない。従って、トランス70で短絡が生じることを防止できる。また、短絡による送電能力の低下を防止できる。
【0059】
具体的に説明すると、本クレーン1において、接触防止部74は、少なくとも孔部73の内周面71aを覆うカバー部材75で構成され、カバー部材75と1次側コア71の間に導線72が挿通される。かかるクレーン1によれば、ワイヤロープ8、導線72、1次側コア71が互いに電気的に接触しない。従って、トランス70で短絡が生じることを防止できる。また、短絡による送電能力の低下を防止できる。
【0060】
加えて、本クレーン1において、カバー部材75は、更に1次側コア71の上下端面71b・71cを覆うように構成される。かかるクレーン1によれば、1次側コア71の上下端面71b・71cにおいても、ワイヤロープ8、導線72、1次側コア71が互いに電気的に接触しない。従って、トランス70で短絡が生じることをより確実に防止できる。また、短絡による送電能力の低下をより確実に防止できる。
【0061】
次に、
図9を用いて、第二実施形態に係るクレーン1について説明する。以下においては、第一実施形態に係るクレーン1の説明で用いた名称と符号を用いることで、同じものを指すこととする。また、第一実施形態に係るクレーン1に対して相違する部分を中心に説明する。
【0062】
接触防止部74は、ワイヤロープ8と導線72との間において、孔部73の内周面71aから孔部73側に突起した突起部76で構成される。孔部73に挿通されたワイヤロープ8と導線72は、接触防止部74を介して対向して設けられる。
【0063】
突起部76は、複数設けられ、複数の突起部76の内端76a同士の間に隙間Fが設けられる(
図9(A)参照)。例えば、突起部76は、2つ設けられ、各突起部76の内端76a同士が対向するように構成される。隙間Fの寸法Eは、ワイヤロープ8の直径Gよりも小さい。つまり、隙間Fの寸法Eは、ワイヤロープ8が隙間Fを通過しない程度に小さい。従って、導線72に向かってワイヤロープ8が移動したとしても、導線72に対するワイヤロープ8の接触が防止される。但し、隙間Fの寸法Eは、電磁気的な回路を生じない程度に大きい。また、ワイヤロープ8が隙間Fを塞いだときに導通しないように、少なくとも突起部76には、導通を起こさない樹脂等の被覆が施されている。
【0064】
或いは、突起部76は、突起部76の内端76aと孔部73の内周面71aの間に隙間Fが設けられる(
図9(B)参照)。例えば、突起部76は、1つ設けられ、内周面71aに向かって延びるように構成される。隙間Fの寸法E及び突起部76の被覆は、突起部76が複数設けられた場合と同様である。
【0065】
以上のように、本クレーン1において、接触防止部74は、ワイヤロープ8と導線72との間において、孔部73の内周面71aから孔部73側に突起した突起部76で構成される。かかるクレーン1によれば、ワイヤロープ8と導線72が電気的に接触しない。従って、トランス70で短絡が生じることを防止できる。また、短絡による送電能力の低下を防止できる。
【0066】
具体的に説明すると、本クレーン1において、突起部76は、複数設けられ、複数の突起部76の内端76a同士の間に隙間Fが設けられ、隙間Fの寸法Eは、ワイヤロープ8の直径Gよりも小さい。かかるクレーン1によれば、突起部76を介して磁束が漏れることが防止される。従って、磁束の漏れによる送電効率の低下を防止できる。また、ワイヤロープ8と導線72が電気的に接触しない。従って、トランス70で短絡が生じることを防止できる。また、短絡による送電能力の低下を防止できる。
【0067】
或いは、本クレーン1において、突起部76は、突起部76の内端76aと孔部73の内周面71aとの間に隙間Fが設けられ、隙間Fの寸法Eは、ワイヤロープ8の直径Gよりも小さい。かかるクレーン1によれば、突起部76を介して磁束が漏れることが防止される。従って、磁束の漏れによる送電効率の低下を防止できる。また、ワイヤロープ8と導線72が電気的に接触しない。従って、トランス70で短絡が生じることを防止できる。また、短絡による送電能力の低下を防止できる。
【0068】
次に、
図10を用いて、第三実施形態に係るクレーン1について説明する。
【0069】
接触防止部74は、導線72とワイヤロープ8を隔てる非磁性体部材77で構成される。非磁性体部材77は、非磁性体で構成される部材である。ここでいう「非磁性体」とは、強磁性を帯びない物質のことである。本願において、非磁性体部材77は、樹脂(例えばPBT(ポリブチレンテレフタレート)等のエンジニアリングプラスチック)で構成されている。なお、非磁性体部材77は、例えば、木材や非磁性セラミックスで構成してもよい。
【0070】
非磁性体部材77は、孔部73を、ワイヤロープ8が挿通される第一孔部73aと導線72が挿通される第二孔部73bとに区画するように、非磁性体部材77の一端と他端とが1次側コア71の内周面71aに各々接合される。非磁性体部材77は、第一孔部73aから第二孔部73bへのワイヤロープ8の移動を遮断する。従って、導線72に向かってワイヤロープ8が移動したとしても、導線72に対するワイヤロープ8の接触が防止される。
【0071】
以上のように、本クレーン1において、接触防止部74は、導線72とワイヤロープ8とを隔てる非磁性体部材77で構成される。かかるクレーン1によれば、非磁性体部材77を介して磁束が漏れることが防止される。従って、磁束の漏れによる送電効率の低下を防止できる。また、ワイヤロープ8と導線72が電気的に接触しない。従って、トランス70で短絡が生じることを防止できる。また、短絡による送電能力の低下を防止できる。
【0072】
具体的に説明すると、本クレーン1において、非磁性体部材77は、孔部73を、ワイヤロープ8が挿通される第一孔部73aと導線72が挿通される第二孔部73bとに区画するように、非磁性体部材77の一端と他端とが1次側コア71の内周面71aに各々接合される。かかるクレーン1によれば、非磁性体部材77を介して磁束が漏れることが防止される。従って、磁束の漏れによる送電効率の低下を防止できる。また、導線72が挿通された第二孔部73bへワイヤロープ8が移動しない。従って、トランス70で短絡が生じることをより確実に防止できる。また、短絡による送電能力の低下をより確実に防止できる。
【0073】
以上、トランス80は、トランス70と同様の構成を有する。従って、トランス80は、トランス70と同様の効果を奏する。トランス80では、特にフック部9が昇降する際に、2次側コア81や導線82に対するワイヤロープ8の移動が多くなるため、その効果を発揮する。
【0074】
次に、
図11を用いて、第四実施形態に係るクレーン1について説明する。
【0075】
ワイヤロープ8の索端8aは、ブーム7に対してロープソケット90を介して固定される。索端8aは、ワイヤロープ8の端部を折り返すとともに、ワイヤロープ8が2本重なった部位をワイヤクリップ91やシージング92で留めて輪状に構成した部位である。ここでは、ワイヤクリップ91やシージング92よりも端部側の部位をワイヤロープ8の索端8aとする。また、1次側コア71は、ロープソケット90と一体に構成され、1次側コア71の孔部73にワイヤロープ8の索端8aが挿通されている。このように構成されることで、1次側コア71と導線72は、ワイヤロープ8に対して摺動することがなくなる。また、ロープソケット90と1次側コア71と索端8aは、ロープソケット90が揺動するときに一体で揺動される。このため、1次側コア71と索端8aの相対関係がほぼ変化することがなく、安定した送電が期待できる。更に、1次側コア71と導線72は、フック部9とフック部9に押し上げられた過巻ウエイト15に接触することもなくなる。これにより、例えば1次側コア71が樹脂等で被覆されている場合に、ワイヤロープ8に対する摺動、及びフック部9と過巻ウエイト15に対する接触により被覆が損傷することがなくなる。従って、損傷によってワイヤロープ8、導線72、1次側コア71が互いに電気的に接触することがなくなる。
【0076】
以上のように、本クレーン1において、ワイヤロープ8の索端8aは、ブーム7に対してロープソケット90を介して固定され、1次側コア71は、ロープソケット90と一体に構成され、1次側コア71の孔部73にワイヤロープ8の索端8aが挿通されている。かかるクレーン1によれば、ワイヤロープ8に対する導線72と1次側コア71の摺動がなくなる。また、フック部9と過巻ウエイト15に対する導線72と1次側コア71の接触がなくなる。これにより、摺動又は接触によるトランス70の損傷が生じて、ワイヤロープ8、導線72、1次側コア71が互いに電気的に接触することを防止できる。従って、トランス70で短絡が生じることを防止できる。また、短絡による送電能力の低下を防止できる。
【0077】
最後に、上述の実施形態においては、ブーム7の先端側(ブームヘッド11)からフック部9へ電力を供給する構成として説明したが、ブーム7の基端側からブーム7の先端側へ電力を供給する構成にも応用可能である。また、電力を供給する構成に限定されるものではなく、情報(電圧信号・電流信号)を送信する構成にも応用可能である。
【符号の説明】
【0078】
1 クレーン
2 走行体
3 旋回体
8 ワイヤロープ
8a 索端
9 フック部
60 電力供給システム
70 トランス
71 1次側コア(コア)
71a 内周面
71b 上端面
71c 下端面
72 導線
73 孔部
73a 第一孔部
73b 第二孔部
74 接触防止部
75 カバー部材
76 突起部
76a 内端
77 非磁性体部材
80 トランス
81 2次側コア(コア)
82 導線
90 ロープソケット
E 寸法
F 隙間
G 直径