(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】内燃機関の点火装置
(51)【国際特許分類】
F02P 3/055 20060101AFI20240116BHJP
【FI】
F02P3/055 D
(21)【出願番号】P 2020073600
(22)【出願日】2020-04-16
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】入江 将嗣
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-124165(JP,A)
【文献】特開2009-019953(JP,A)
【文献】特開2016-163512(JP,A)
【文献】特開2020-045217(JP,A)
【文献】特開2015-056415(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0178372(US,A1)
【文献】特開2003-134795(JP,A)
【文献】特開2014-020892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02P 3/055
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次巻線(21)を流れる電流の増減により2次巻線(22)に点火用の高電圧を発生させる点火コイル(2)と、上記点火コイルへの通電制御を行うイグナイタ(I)と、を備える内燃機関の点火装置(1)であって、
上記イグナイタは、上記1次巻線に接続されるスイッチング素子(3)が搭載されるスイッチング回路部(30)と、通電指令信号(IGt)に基づいて上記スイッチング素子への通電を制御する制御回路部(4)と、を有しており、
上記制御回路部は、
上記スイッチング素子の温度に対応する素子温度信号(Vs)を監視して、上記スイッチング素子の温度が通電禁止温度(T1)を超える範囲において、上記スイッチング素子への通電を遮断する過昇温保護回路(5)と、
上記通電指令信号の入力を起点とする劣化検出期間(Ta)において、上記素子温度信号に基づく温度増分(ΔVs)を監視し、上記温度増分と上記スイッチング回路部の劣化検出閾値(Vth)との比較結果に基づいて、劣化検出信号(S1)を出力する劣化検出回路(6)と、を有
し、
上記劣化検出回路は、
上記通電指令信号の入力をトリガとして、上記劣化検出期間を生成する劣化検出期間生成回路(7)と、
上記通電指令信号の入力時点からの上記素子温度信号の変化に基づいて、上記温度増分を算出する温度増分算出回路(61)と、
上記温度増分と上記劣化検出閾値とを比較して、上記温度増分が上記劣化検出閾値を超えたときに上記劣化検出信号を出力する比較回路(62)と、
上記劣化検出期間生成回路から上記劣化検出期間に対応するタイマ信号(B3)が出力される間のみ、上記劣化検出信号の通過を許可するフィルタ回路(63)と、を有する、内燃機関の点火装置。
【請求項2】
1次巻線(21)を流れる電流の増減により2次巻線(22)に点火用の高電圧を発生させる点火コイル(2)と、上記点火コイルへの通電制御を行うイグナイタ(I)と、を備える内燃機関の点火装置(1)であって、
上記イグナイタは、上記1次巻線に接続されるスイッチング素子(3)が搭載されるスイッチング回路部(30)と、通電指令信号(IGt)に基づいて上記スイッチング素子への通電を制御する制御回路部(4)と、を有しており、
上記制御回路部は、
上記スイッチング素子の温度に対応する素子温度信号(Vs)を監視して、上記スイッチング素子の温度が通電禁止温度(T1)を超える範囲において、上記スイッチング素子への通電を遮断する過昇温保護回路(5)と、
上記通電指令信号の入力を起点とする劣化検出期間(Ta)において、上記素子温度信号に基づく温度増分(ΔVs)を監視し、上記温度増分と上記スイッチング回路部の劣化検出閾値(Vth)との比較結果に基づいて、劣化検出信号(S1)を出力する劣化検出回路(6)と、を有し、
上記劣化検出回路は、上記劣化検出信号を外部へ通知する通知機能、又は、上記劣化検出信号の出力情報を記憶する記憶機能を有し、
上記過昇温保護回路は、上記スイッチング素子の温度が上記通電禁止温度を超えたときに、過昇温検出信号(S)を出力し、
上記記憶機能は、上記過昇温検出信号の出力情報を記憶する、内燃機関の点火装置。
【請求項3】
上記劣化検出期間は、上記通電指令信号の入力期間の範囲内で設定され、上記劣化検出閾値は、上記スイッチング素子の温度が上記通電禁止温度に達するよりも前に、上記劣化検出信号が出力されるように設定される、請求項1又は2に記載の内燃機関の点火装置。
【請求項4】
上記劣化検出回路は、上記劣化検出信号を外部へ通知する通知機能、又は、上記劣化検出信号の出力情報を記憶する記憶機能を有する、請求項
1に記載の内燃機関の点火装置。
【請求項5】
上記劣化検出回路は、上記通電指令信号が入力される度に、上記スイッチング回路部の劣化の有無を判定すると共に、上記劣化検出信号の連続出力回数が、所定回数に達したときに劣化確定信号(S2)を出力する、請求項1~4のいずれか1項に記載の内燃機関の点火装置。
【請求項6】
1次巻線(21)を流れる電流の増減により2次巻線(22)に点火用の高電圧を発生させる点火コイル(2)と、上記点火コイルへの通電制御を行うイグナイタ(I)と、を備える内燃機関の点火装置(1)であって、
上記イグナイタは、上記1次巻線に接続されるスイッチング素子(3)が搭載されるスイッチング回路部(30)と、通電指令信号(IGt)に基づいて上記スイッチング素子への通電を制御する制御回路部(4)と、を有しており、
上記制御回路部は、
上記スイッチング素子の温度に対応する素子温度信号(Vs)を監視して、上記スイッチング素子の温度が通電禁止温度(T1)を超える範囲において、上記スイッチング素子への通電を遮断する過昇温保護回路(5)と、
上記通電指令信号の入力を起点とする劣化検出期間(Ta)において、上記素子温度信号に基づく温度増分(ΔVs)を監視し、上記温度増分と上記スイッチング回路部の劣化検出閾値(Vth)との比較結果に基づいて、劣化検出信号(S1)を出力する劣化検出回路(6)と、を有し、
上記劣化検出回路は、上記通電指令信号が入力される度に、上記スイッチング回路部の劣化の有無を判定すると共に、上記劣化検出信号の連続出力回数が、所定回数に達したときに劣化確定信号(S2)を出力する
、内燃機関の点火装置。
【請求項7】
上記劣化検出回路は、上記劣化確定信号が出力されたときに、その時点において出力されている上記通電指令信号に対しては、上記スイッチング素子の通電動作を許可し、次回以降の上記スイッチング素子の通電動作を禁止する、請求項
5又は6に記載の内燃機関の点火装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の点火用の点火コイルとイグナイタを備える点火装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の点火装置は、点火用の高電圧を出力する点火コイルと、点火コイルへの通電を制御する点火制御装置としてのイグナイタとで構成される。イグナイタは、例えば、IGBT等のスイッチング素子と、該スイッチング素子の動作を制御する制御回路部とを備えており、スイッチング素子は、点火コイルの1次巻線に接続している。点火コイルの2次巻線は、点火プラグに接続しており、制御回路部によってスイッチング素子をオンオフ動作させることにより、点火コイルの2次巻線に発生する高電圧を点火プラグに印加して、火花放電させるよう構成されている。
【0003】
従来、イグナイタの制御回路部は、過電流や過電圧から保護するための保護回路を備えている。また、発熱体であるスイッチング素子を過昇温から保護する過昇温保護機能を備えたものがある。例えば、特許文献1には、第1リードフレームにスイッチング用の第1半導体素子を搭載し、離れて配置した第2リードフレームに相対的に低温となる第2半導体素子を搭載して、熱伝導を抑制する熱抵抗を介在させるとともに、第1半導体素子の作動温度を検出して、所定温度を超えたときに過昇温と判断し、第1半導体素子の動作を制限するようにした装置が提案されている。
【0004】
この過昇温保護機能において、第2半導体素子は、例えば、比較器を構成しており、第1リードフレーム上に搭載される感温素子からの入力電圧を基準電圧と比較して、過昇温と判断されたときに第1半導体素子のオフ信号を出力させる。これにより、第1半導体素子への通電が遮断されて、過度の温度上昇による不具合から保護されるその後、所定温度を下回ることで過昇温のおそれが解消されると、通電が再び許可される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、過昇温保護機能は、正常な動作時、つまり定められた通電時間の範囲内でスイッチング素子がオンオフ制御されているときには作動せず、異常な動作時、例えば、正常な通電時間を超えてオン状態が継続する場合(すなわち、オンロック状態)に作動するよう設計されている。一方、スイッチング素子の温度上昇は、通電時間だけでなく、その実装状態に左右され、さらに、経年による放熱性の変化の影響を受けやすい。
【0007】
通常、スイッチング素子は基板上に半田等の接合材を用いて接合されたスイッチング回路部を構成しており、接合材を介して基板へ放熱している。そのため、長期使用により接合材の劣化が進行すると、接合材の内部に生じるクラックが増加して放熱性が悪化する。その結果、正常な動作時であっても温度が上昇しやすくなり、過昇温保護機能が作動する温度に達してしまうことがある。このような意図しない過昇温保護動作によって、スイッチング素子への通電が遮断されると、正規の点火タイミングよりも早いタイミングでの点火(すなわち、プレイグニッション)となるために、内燃機関の部品損傷等につながるおそれがある。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、スイッチング回路部の劣化による温度上昇を検出して、意図しないタイミングでの過昇温保護動作を抑制し、内燃機関の点火動作への影響を抑制可能な点火装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の一態様は、
1次巻線(21)を流れる電流の増減により2次巻線(22)に点火用の高電圧を発生させる点火コイル(2)と、上記点火コイルへの通電制御を行うイグナイタ(I)と、を備える内燃機関の点火装置(1)であって、
上記イグナイタは、上記1次巻線に接続されるスイッチング素子(3)が搭載されるスイッチング回路部(30)と、通電指令信号(IGt)に基づいて上記スイッチング素子への通電を制御する制御回路部(4)と、を有しており、
上記制御回路部は、
上記スイッチング素子の温度に対応する素子温度信号(Vs)を監視して、上記スイッチング素子の温度が通電禁止温度(T1)を超える範囲において、上記スイッチング素子への通電を遮断する過昇温保護回路(5)と、
上記通電指令信号の入力を起点とする劣化検出期間(Ta)において、上記素子温度信号に基づく温度増分(ΔVs)を監視し、上記温度増分と上記スイッチング回路部の劣化検出閾値(Vth)との比較結果に基づいて、劣化検出信号(S1)を出力する劣化検出回路(6)と、を有し、
上記劣化検出回路は、
上記通電指令信号の入力をトリガとして、上記劣化検出期間を生成する劣化検出期間生成回路(7)と、
上記通電指令信号の入力時点からの上記素子温度信号の変化に基づいて、上記温度増分を算出する温度増分算出回路(61)と、
上記温度増分と上記劣化検出閾値とを比較して、上記温度増分が上記劣化検出閾値を超えたときに上記劣化検出信号を出力する比較回路(62)と、
上記劣化検出期間生成回路から上記劣化検出期間に対応するタイマ信号(B3)が出力される間のみ、上記劣化検出信号の通過を許可するフィルタ回路(63)と、を有する、内燃機関の点火装置にある。
また、本発明の他の一態様は、
1次巻線(21)を流れる電流の増減により2次巻線(22)に点火用の高電圧を発生させる点火コイル(2)と、上記点火コイルへの通電制御を行うイグナイタ(I)と、を備える内燃機関の点火装置(1)であって、
上記イグナイタは、上記1次巻線に接続されるスイッチング素子(3)が搭載されるスイッチング回路部(30)と、通電指令信号(IGt)に基づいて上記スイッチング素子への通電を制御する制御回路部(4)と、を有しており、
上記制御回路部は、
上記スイッチング素子の温度に対応する素子温度信号(Vs)を監視して、上記スイッチング素子の温度が通電禁止温度(T1)を超える範囲において、上記スイッチング素子への通電を遮断する過昇温保護回路(5)と、
上記通電指令信号の入力を起点とする劣化検出期間(Ta)において、上記素子温度信号に基づく温度増分(ΔVs)を監視し、上記温度増分と上記スイッチング回路部の劣化検出閾値(Vth)との比較結果に基づいて、劣化検出信号(S1)を出力する劣化検出回路(6)と、を有し、
上記劣化検出回路は、上記劣化検出信号を外部へ通知する通知機能、又は、上記劣化検出信号の出力情報を記憶する記憶機能を有し、
上記過昇温保護回路は、上記スイッチング素子の温度が上記通電禁止温度を超えたときに、過昇温検出信号(S)を出力し、
上記記憶機能は、上記過昇温検出信号の出力情報を記憶する、内燃機関の点火装置にある。
また、本発明のさらに他の一態様は、
1次巻線(21)を流れる電流の増減により2次巻線(22)に点火用の高電圧を発生させる点火コイル(2)と、上記点火コイルへの通電制御を行うイグナイタ(I)と、を備える内燃機関の点火装置(1)であって、
上記イグナイタは、上記1次巻線に接続されるスイッチング素子(3)が搭載されるスイッチング回路部(30)と、通電指令信号(IGt)に基づいて上記スイッチング素子への通電を制御する制御回路部(4)と、を有しており、
上記制御回路部は、
上記スイッチング素子の温度に対応する素子温度信号(Vs)を監視して、上記スイッチング素子の温度が通電禁止温度(T1)を超える範囲において、上記スイッチング素子への通電を遮断する過昇温保護回路(5)と、
上記通電指令信号の入力を起点とする劣化検出期間(Ta)において、上記素子温度信号に基づく温度増分(ΔVs)を監視し、上記温度増分と上記スイッチング回路部の劣化検出閾値(Vth)との比較結果に基づいて、劣化検出信号(S1)を出力する劣化検出回路(6)と、を有し、
上記劣化検出回路は、上記通電指令信号が入力される度に、上記スイッチング回路部の劣化の有無を判定すると共に、上記劣化検出信号の連続出力回数が、所定回数に達したときに劣化確定信号(S2)を出力する内燃機関の点火装置にある。
【発明の効果】
【0010】
上記構成において、過昇温保護回路は、素子温度信号に基づくスイッチング素子の温度が、予め定めた通電禁止温度を超えると、スイッチング素子への通電を遮断する。これにより、スイッチング素子が通電禁止温度を超える過昇温状態となることから保護される。さらに、劣化検出回路は、素子温度信号に基づくスイッチング素子の温度増分を監視する。スイッチング回路部が劣化すると放熱性が低下し、正常時よりも温度が上昇しやすくなるので、通電指令信号の入力から所定の劣化検出期間の温度増分と、劣化検出閾値との比較により、劣化の有無を判定することができる。これにより、過昇温保護回路の作動前に劣化の進行を検出することが可能になり、意図しない通電の遮断による点火動作への影響を抑制することができる。
【0011】
以上のごとく、上記態様によれば、スイッチング回路部の劣化による温度上昇を検出して、意図しないタイミングでの過昇温保護動作を抑制し、内燃機関の点火動作への影響を抑制可能な点火装置を提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態1における、内燃機関の点火装置の構成を示す回路図。
【
図2】実施形態1における、点火装置の要部であり、過昇温検出及び劣化検出のための構成を示す回路図。
【
図3】実施形態1における、点火装置の要部であり、素子温度検出のための構成を示す回路図。
【
図4】実施形態1における、制御回路部による過昇温検出時の素子温度の推移を示すタイムチャート図。
【
図5】実施形態1における、点火装置への通電指令と制御回路部の劣化検出動作との関係を、正常時と劣化時とで比較して示すタイムチャート図。
【
図6】実施形態1における、点火装置への通電指令と制御回路部の劣化検出動作との関係を、劣化途中の場合について示すタイムチャート図。
【
図7】実施形態2における、制御回路部の要部である劣化検出機関生成回路の構成例と、その各部の信号波形を示す図。
【
図8】実施形態2における、制御回路部の劣化検出動作と、素子温度に基づく温度増分及び劣化検出信号の推移を示すタイムチャート図。
【
図9】実施形態3における、点火装置の要部構成図と、正常時及び劣化時の劣化検出動作を比較して示すタイムチャート図。
【
図10】実施形態3の変形例における、点火装置の要部構成図と、正常時及び劣化時の劣化検出動作を比較して示すタイムチャート図。
【
図11】実施形態3の変形例における、点火装置の要部構成図と、正常時及び劣化時の劣化検出動作を比較して示すタイムチャート図。
【
図12】実施形態3の変形例における、点火装置の要部構成図と、正常時及び劣化時の劣化検出動作を比較して示すタイムチャート図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態1)
内燃機関の点火装置に係る実施形態について、
図1~
図6を参照して説明する。
図1に示すように、点火装置1は、1次巻線21及び2次巻線22を有する点火コイル2と、スイッチング回路部30及び制御回路部4を有するイグナイタIと、を備える。点火コイル2は、1次巻線21を流れる電流の増減により2次巻線22に点火用の高電圧を発生させるものであり、2次巻線22の高圧側には、点火プラグPが接続されている。ここで、接続とは電気的な接続を意味し、以降の説明においても同様とする。
【0014】
イグナイタIは、スイッチング素子3が搭載されるスイッチング回路部30と、スイッチング素子3への通電を制御する制御回路部4と、を有する。スイッチング素子3は、1次巻線21の一端に接続されており、制御回路部4は、通電指令信号としての点火信号IGtに基づいて、スイッチング素子3をオンオフ駆動することにより点火動作を制御する。制御回路部4は、過昇温保護回路としてのロック防止回路5と、ロック防止回路5に併設された劣化検出回路6と、を有している。
【0015】
図2に示すように、制御回路部4には、スイッチング素子3の温度に対応する素子温度信号としての検出電圧Vsが入力されており、ロック防止回路5は、検出電圧Vsに基づいて、スイッチング素子3を過昇温から保護する。具体的には、ロック防止回路5は、サーマルシャットダウン(すなわち、Thermal Shutdown)式ロック防止回路として構成されており、検出電圧Vsを監視して、スイッチング素子3の温度が通電禁止温度T1を超える範囲において、スイッチング素子3への通電を遮断するために、過昇温検出信号Sを出力する。
【0016】
図3に示すように、スイッチング素子3の温度は、例えば、スイッチング回路部30に搭載される温度検出素子32を用いて検出することができる。温度検出素子32は、ここでは、複数の感温ダイオードD1、D2を含む感温素子として構成される。その場合には、スイッチング素子3の温度を示す素子温度信号として、温度検出素子32に接続される検出用端子TSDの端子電圧が検出され、検出電圧Vsとしてロック防止回路5及び劣化検出回路6に入力される。
【0017】
図4に示すように、通電禁止温度T1は、スイッチング素子3への通電が許可される素子温度の上限値である。ロック防止回路5によって、検出電圧Vsから推定されるスイッチング素子3の温度が、通電禁止温度T1を超えないように、スイッチング素子3への通電が制御される。通電禁止温度T1は、例えば、スイッチング素子3の製品仕様に応じた耐熱温度よりも低い温度となるように、適宜設定することができる。
【0018】
劣化検出回路6には、ロック防止回路5と同様に、素子温度信号としての検出電圧Vsが入力されている。劣化検出回路6は、検出電圧Vsに基づいて、スイッチング素子3の温度上昇を監視し、スイッチング回路部30の劣化を検出する。具体的には、劣化検出回路6は、点火信号IGtの入力を起点とする劣化検出期間Taにおいて、検出電圧Vsに基づく温度増分ΔVsを監視する。そして、温度増分ΔVsを、スイッチング回路部30の劣化検出閾値Vthと比較し、その比較結果に基づいて、劣化検出信号S1を出力する。
【0019】
好適には、
図5、
図6に示すように、劣化検出回路6において、劣化検出期間Taは、点火信号IGtの入力期間Tsの範囲内で設定される。また、劣化検出閾値Vthは、検出電圧Vsに基づくスイッチング素子3の温度が通電禁止温度T1に達するよりも前に、劣化検出信号S1が出力されるように設定されることが望ましい。これにより、ロック防止回路5によってスイッチング素子3の通電が遮断される前に、スイッチング回路部30の部分的な劣化等に起因するスイッチング素子3の温度上昇を検出可能となる。
【0020】
好適には、劣化検出回路6は、点火信号IGTの入力をトリガとして、劣化検出期間Taを生成する劣化検出期間生成回路7を有する。また、劣化検出回路6は、温度増分算出回路としての差動増幅回路61と、比較回路62と、フィルタ回路63と、を有する。差動増幅回路61は、点火信号IGTの入力時点からの検出電圧Vsの変化に基づいて、温度増分ΔVsを算出する。比較回路62は、温度増分ΔVsと劣化検出閾値Vthとを比較して、温度増分ΔVsが劣化検出閾値Vthを超えたときに、劣化検出信号S1を出力する。フィルタ回路63は、劣化検出期間生成回路7から劣化検出期間Taに対応する信号が出力される間のみ、劣化検出信号S1の通過を許可する。
【0021】
これにより、点火信号IGTが入力すると、速やかに所定の劣化検出期間Taが生成されると共に、温度増分ΔVsが算出されて、劣化検出閾値Vthと比較される。その比較結果に基づく劣化検出信号S1は、生成された劣化検出期間Taが継続している間、外部等への出力が可能であり、劣化検出期間Taの終了後は、出力が許可されない。このようにして、速やかに劣化を検出して外部等へ通知することができる。
【0022】
以下、内燃機関の点火装置1の構成と作動について、詳述する。
本形態において、内燃機関は、例えば、自動車用エンジンであり、
図1に示す点火装置1によって点火プラグPを点火動作させると、図示しないエンジン燃焼室内の混合気が着火燃焼する。エンジンの運転は、図示しないエンジン用の電子制御ユニット(すなわち、Engine Control Unit;以下、ECU)によって制御されている。ECUは、点火コイル2の点火動作のための通電指令信号である点火信号IGtを発信し、イグナイタIは、制御回路部4の入力端子11に入力される点火信号IGtに応じて、点火コイル2への通電を切り替えるスイッチング素子3を駆動する。
【0023】
点火コイル2は、1次巻線21の一端に電源線Lvが接続され、主電源端子+Bを介して図示しない電源から給電されるようになっている。1次巻線21の他端は、スイッチング回路部30のコイル側端子IGCを介して、スイッチング素子3に接続される。電源には、例えば、車載バッテリを用いることができる。点火コイル2は、1次巻線21への通電を遮断したときに、2次巻線22に発生する高電圧を、点火プラグPの電極間に印加して、火花放電を生じさせる。
【0024】
2次巻線22の低圧側は、オン飛火防止ダイオード23を介して接地線24に接続される。オン飛火防止ダイオード23は、アノード端子が2次巻線22側、カソード端子が接地側となるように接続されており、接地側へ向かう方向が順方向となるように、点火コイル2の電流方向を規制して、通電オン時の電圧によるオン飛火を防止することができる。
【0025】
イグナイタIは、スイッチング素子3と、スイッチング素子3の温度に応じた素子温度信号(すなわち、検出電圧Vs)を出力する温度検出素子32を、一個のスイッチ用半導体チップに集積化したスイッチング回路部30を有している。スイッチング素子3は、公知のパワートランジスタ、例えば、IGBT(すなわち、Insulated Gate Bipolar Transistor;絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)31にて構成されている。IGBT31のコレクタ側は、コイル側端子IGCに接続され、IGBT31のエミッタ側は、スイッチング回路部30の接地側端子33を介して、接地線Lgに接続される。接地線Lgは、グランド端子GNDを介して外部のグランドに接続される。
【0026】
温度検出素子32は、ここでは、複数の感温ダイオードD1、D2が、順方向に直列接続されている。感温ダイオードD1、D2は、順方向電流が流れるときにダイオードの両端に発生する順方向電圧(以下、ダイオード順電圧)が、温度と相関があることを利用して、スイッチング素子3と同等温度となるスイッチング回路部30の温度を検出することができる。温度検出素子32は、感温ダイオードD1、D2のアノード端子が、検出用端子TSD側、カソード端子が接地側となるように接続されており、接地側へ向かう方向が順方向となる。
【0027】
制御回路部4は、いわゆるモノリシックIC(すなわち、monolithic IC)であり、ドライブ回路41、フィルタ回路42、過電圧保護回路43、過電流保護回路44、及び劣化検出回路6を備えるロック防止回路5が、一個の制御用半導体チップに集積化されている。フィルタ回路42は、ECUから発信される点火信号IGtを波形整形して、ハイレベル又はローレベルの二値信号としてドライブ回路41へ出力する。ドライブ回路41は、スイッチング回路部30のゲート端子34を介してIGBT31のゲート側に接続されており、フィルタ回路42からの入力信号に応じて、IGBT31への通電信号を出力する。これに伴い、IGBT31のゲート電圧がハイレベル電圧又はローレベル電圧に切り替えられ、点火コイル2の通電がオンオフ制御される。
【0028】
過電圧保護回路43は、電源端子12を介して電源線Lvに接続され、電源電圧の変動等による過電圧から、スイッチング回路部30を保護するように構成される。また、過電流保護回路44は、スイッチング回路部30のセンスエミッタ端子35に接続されて、点火信号IGtのオン時に点火コイル2に流れる1次電流を検出する。そして、過剰な電流を検出したときに、1次電流を制限して、スイッチング回路部30を過電流から保護するように構成される。主電源端子+Bとグランド端子GNDの間には、ノイズ防止用のコンデンサ13が配置される。
【0029】
ロック防止回路5は、例えば、スイッチング素子3がオン状態で固定されるような運転状態において、スイッチング素子3に過度な発熱による温度上昇が生じることを防止する、過昇温保護動作を実施する。このような運転状態は、具体的には、点火信号IGtが常時オンとなるロック通電時や、オン時間が長く通電周期が短くなる高回転・高デューティ制御時であり、ロック防止回路5は、スイッチング素子3の過昇温を検出したときに、ドライブ回路41に過昇温検出信号Sを出力することにより、スイッチング素子3への通電を遮断させる(すなわち、サーマルシャットダウン)。これにより、スイッチング素子3を、過昇温による破壊等の不具合から保護する機能を有する。
【0030】
図2において、ロック防止回路5は、電源端子12に接続される定電流源51と、スイッチング素子3の過昇温を検出するための過昇温検出回路52を備える。過昇温検出回路52は、例えば、ヒステリシスを持たせた比較回路にて構成される。なお、
図2中の制御回路部4には、ロック防止回路5及び劣化検出回路6とその周辺回路を含めた、スイッチング素子3の通電制御のための要部を示している。
【0031】
過昇温検出回路52のプラス入力端子には、検出用端子TSDを介して、温度検出素子32の温度に応じた検出電圧Vsが入力される。一方、過昇温検出回路52のマイナス入力端子には、通電禁止温度T1に相当する検出閾値電圧Vth1を与える電源53が接続される。なお、定電流源51は、過昇温検出回路52のプラス入力端子と、検出用端子TSDとの間に接続されて、所定の検出電流を、感温ダイオードD1、D2に印加可能となっている。
【0032】
図4に示すように、スイッチング素子3の通電制御時において、点火信号IGtがオンロック状態となると、素子温度が通電時間と共に上昇し、通電禁止温度T1に到達する。このとき、一般に、感温ダイオードD1、D2は、温度が高くなるほど、ダイオード順電圧が小さくなる特性を持つ。そのため、通電許可時に過昇温検出回路52に入力される検出電圧Vsは、時間経過と共に低下し、
図4の時点t1において、通電禁止温度T1に対応する検出閾値電圧Vth1に到達する。
【0033】
このとき、
図2において、過昇温検出回路52は、検出電圧Vsが検出閾値電圧Vth1を超えると、過昇温検出信号Sを出力する。ドライブ回路41は、過昇温検出信号Sが入力すると、スイッチング素子3のゲート電圧をローレベル電圧に切り替える。これにより、スイッチング素子3がオフとなり、点火コイル2への通電が遮断される。すなわち、
図4の時点t1において、素子通電信号が遮断されることで、素子温度が徐々に低下する。一方、検出電圧Vsは、徐々に上昇する。
【0034】
このように、予め通電禁止温度T1に応じた検出閾値電圧Vth1を設定することで、検出電圧Vsとの比較による過昇温検出が可能になり、スイッチング素子3を過昇温から保護することができる。その際、過昇温検出により通電禁止した後に、再び通電許可する通電許可温度T2を設定し、対応する解除閾値電圧Vth2まで温度が低下してから通電許可するように、ヒステリシスを持たせた通電制御を行うことが望ましい。
【0035】
具体的には、
図4の時点t1から素子温度が通電許可温度T2に到達する時点t2まで、通電禁止となる。通電禁止領域では、点火信号IGtが入力しても素子通電信号が遮断されることで、スイッチング素子3はオフのままとなる。その後、時点t2において、素子温度が通電許可温度T2を超えると、過昇温検出信号Sの出力が解除され、再び通電許可となる。これにより、時点t3において、点火信号IGtが入力すると、点火信号IGtに対応する素子通電信号が出力され、素子温度が再び上昇すると共に、検出電圧Vsが低下する。
【0036】
このように、ロック防止回路5は、検出閾値電圧Vth1及び解除閾値電圧Vth2に基づいて、過昇温検出回路52を作動させることにより、スイッチング素子3を所定の温度範囲に制御可能となる。ただし、上述したように、点火コイル2は、1次巻線21への通電の遮断により点火動作を行うので、過昇温保護動作によってスイッチング素子3が強制的にオフとなることにより、意図しないタイミングでの点火が生じることがある。また、スイッチング素子3の温度上昇は、その実装状態に左右され、特に、長期使用による劣化によって放熱性が低下すると、温度上昇しやすくなる。
【0037】
例えば、スイッチング素子3は、スイッチング回路部30の回路基板との間に介在するハンダ等の接合材を介して放熱しているため、ハンダ劣化の進行によってクラックが増加すると、放熱性が悪化する。その場合には、オンロック等の異常時に限らず、正常な通電指令による動作時においても、ロック防止回路5が作動し、正規の点火タイミングよりも早い点火タイミングとなるプレイグニッションによって、エンジンを損傷させるおそれがある。
【0038】
そこで、本形態において、ロック防止回路5には、劣化検出回路6が併設される。劣化検出回路6は、スイッチング回路部30の劣化による温度上昇を検出し、ロック防止回路5からの過昇温検出信号Sよりも前に、劣化検出信号S1を出力するように構成される。
図2において、劣化検出回路6は、差動増幅回路61と、比較回路62と、フィルタ回路63と、カウンタ回路64とを有する。また、劣化検出回路6における劣化検出期間Taを生成する劣化検出期間生成回路7と、点火信号IGtの入力からの温度増分ΔVsを算出する差動増幅回路61と、検出用端子TSDとの接続をオフする開閉スイッチSW1と、開閉スイッチSW1がオフされる時点の電圧を保持するコンデンサ65とを有している。
【0039】
差動増幅回路61は、点火信号IGTの入力時点の検出電圧Vsを基準とし、入力時点からの検出電圧Vsの変化に基づいて、温度増分ΔVsを算出する。差動増幅回路61は、一対の信号線L1、L2に接続される一対の差動入力端子を有し、信号線L1、L2から入力される素子温度信号の差分値を、所定の増幅率で増幅した値を、温度増分ΔVsとして出力するように構成される。一対の信号線L1、L2は、過昇温検出回路52のプラス入力端子と検出用端子TSDとの間に接続される共通の信号線から分岐しており、それぞれに検出電圧Vsが入力されるようになっている。一対の信号線L1、L2のうち一方の信号線L1には、開閉スイッチSW1が挿入されると共に、開閉スイッチSW1よりも差動増幅回路61側において、一方の信号線L1と接地線Lgとの間に、コンデンサ65が接続されている。
【0040】
図5に示すように、開閉スイッチSW1は、点火信号IGtに連動してオンオフが切り替えられ、通常状態ではオン(すなわち、閉状態)となっている。このとき、開閉スイッチSW1がオンとなっている間、信号線L1を介して、差動増幅回路61と検出用端子TSDとが接続されることにより、差動増幅回路61に検出電圧Vsが入力される。また、信号線L1を介してコンデンサ65が充電され、コンデンサ65の端子電圧(以下、コンデンサ電圧)A1は、信号線L1に入力される検出電圧Vsと同電圧となっている。
【0041】
すなわち、
図5の左図に示す時点t11以前において、信号線L1から差動増幅回路61へ入力されるコンデンサ電圧A1は、信号線L2から差動増幅回路61へ入力される検出電圧Vsと同電圧であり、これらの差分値に基づいて差動増幅回路61から出力される温度増分ΔVsは一定となっている。時点t11において、点火信号IGtが入力すると、開閉スイッチSW1がオフとなり、コンデンサ電圧A1は、その時点t11における検出電圧Vsを保持する。
【0042】
これにより、時点t11以降において、差動増幅回路61に信号線L1から入力するコンデンサ電圧A1は、点火信号IGTの入力時点における検出電圧Vsに固定される。一方、点火信号IGtによってスイッチング素子3がオンとなることで、信号線L2から入力する検出電圧Vsは、徐々に低下する。このとき、点火コイル2の1次側を流れる通電電流I1が上昇するのに伴い、スイッチング素子3の温度が上昇するが、スイッチング回路部30の劣化のない正常時であれば、コンデンサ電圧A1と検出電圧Vsとの差分値は比較的小さい。
【0043】
これに対して、
図5の右図に示すように、スイッチング回路部30の劣化時には、点火信号IGTの入力後、比較的短時間で、検出電圧Vsが低下し、コンデンサ電圧A1と検出電圧Vsとの差分値が大きくなる。この正常時と劣化時の検出電圧Vsの変化の違いを利用して、劣化検出期間Taにおける温度増分ΔVsを算出し、予め設定された劣化検出閾値Vthと比較することで、劣化検出が可能になる。劣化検出期間Taは、点火信号IGTの入力を起点とする所定の期間であり、温度増分ΔVsは、コンデンサ電圧A1と検出電圧Vsとの差分値を、差動増幅回路61によって増幅した値として算出される。
【0044】
比較回路62のプラス入力端子には、差動増幅回路61にて算出される温度増分ΔVsが入力されており、マイナス入力端子には、劣化検出閾値Vthに相当する電圧を与える電源66が接続される。比較回路62は、温度増分ΔVsが劣化検出閾値Vthを超えたときに、劣化検出信号S1を出力する。
図5に示す正常時には、温度増分ΔVsが劣化検出閾値Vthに到達することはなく、劣化検出信号S1は出力されない。
【0045】
比較回路62からの劣化検出信号S1は、フィルタ回路63を介して、カウンタ回路64へ入力される。フィルタ回路63には、劣化検出期間生成回路7から劣化検出期間Taに対応する信号が入力されており、劣化検出期間Taである間のみ、劣化検出信号S1の通過を許可する。これにより、劣化検出期間生成回路7は、点火信号IGtの入力をトリガとして、劣化検出期間Taを生成するタイマ回路等で構成されて、所定の劣化検出期間Taが継続している間、フィルタ回路63へ信号を出力する。
【0046】
劣化検出期間Taは、通常の点火信号IGtの入力期間Tsよりも短い期間に設定されることが望ましい。
図5の右図に示すように、劣化時には、放熱性が低下して、点火信号IGtの入力から比較的短時間で温度が上昇するので、その場合の温度の上昇率を予め知り、劣化検出閾値Vthを適切に設定する。劣化検出閾値Vthは、劣化時において、所定の劣化検出期間Taにおける温度上昇後の素子温度が、通電禁止温度T1に到達しない範囲で、言い換えれば、検出電圧Vsが過昇温検出閾値Vth1に達しないように、劣化検出期間Taと劣化検出閾値Vthを設定することが望ましい。この劣化検出閾値Vthを、所定の劣化検出期間Taにおける温度増分ΔVsを比較することで、ロック防止回路5が作動するより前に、劣化検出回路6により、速やかな劣化検出が可能になる。
【0047】
劣化検出期間Taにおいて、劣化検出信号S1が出力されると、フィルタ回路63の出力A2が、ローレベル信号からハイレベル信号に切り替わる。劣化検出期間Taが終了すると、劣化検出信号S1が出力されていても、フィルタ回路63の出力A2は、ローレベル信号に切り替わる。これにより、フィルタ回路63からカウンタ回路64へ、劣化検出信号S1が出力される。
【0048】
なお、スイッチング回路部30の劣化は、経年等により徐々に進行する。そのため、
図6に示すように、劣化の進行途中においては、放熱性の低下によって検出電圧Vsが比較的低下しやすくなっており、劣化検出期間Taの終了後に、温度増分ΔVsが劣化検出閾値Vthに到達することがある。その場合には、劣化検出信号S1が出力されても、フィルタ回路63の通過が許可されず、フィルタ回路63の出力A2は、ローレベル信号のままとなる。
【0049】
カウンタ回路64は、フィルタ回路63からの出力A2が、ハイレベル信号となった回数を計測して、記憶する。カウンタ回路64の出力端子は、ドライブ回路41へ接続されており、例えば、計測された回数に応じた信号を、ドライブ回路41へ出力して、スイッチング素子3の通電動作を制限することができる。
【0050】
このようにして、点火信号IGtが出力される度に、ロック防止回路5の過昇温検出回路52において、過昇温の有無が判定されると共に、劣化検出回路6において、劣化の有無が判定される。したがって、スイッチング回路部30の劣化により放熱性が低下した状態となっても、過昇温検出信号Sが出力されるより前に、劣化検出信号S1が出力されることによって、意図しないタイミングで過昇温保護動作が実施されることを回避することができる。
【0051】
上記実施形態1の構成において、劣化検出回路6は、劣化検出信号S1に基づく処理を外部のECU等へ通知する通知機能、又は、劣化検出信号S1の出力情報を、劣化検出回路6内の記憶部等に保持する記憶機能を有していてもよい。例えば、劣化検出信号S1に基づく処理を外部のECU等で行う場合には、劣化検出回路6がカウンタ回路64を有しない構成であってもよい。
【0052】
また、劣化検出回路6が、カウンタ回路64を有する構成においては、カウンタ回路64を用いて計測される劣化検出信号S1の回数に基づいて、その連続出力回数が、所定回数に達したときに劣化確定信号S2を出力するように構成してもよい。劣化確定信号S2が出力されたときには、その時点において出力されている点火信号IGtに対しては、スイッチング素子3の通電動作を許可し、次回以降のスイッチング素子3の通電動作を禁止することが望ましい。
以下の実施形態において、制御回路部4の各部の具体的構成例や制御例について、さらに説明する。
【0053】
(実施形態2)
実施形態2における点火装置1について、
図7、
図8により説明する。本形態の点火装置1の基本回路構成は、
図1、
図2に示した上記実施形態1と同様であり、図示を省略する。本形態では、劣化検出回路6の劣化検出期間生成回路7の具体的構成例と、劣化検出動作の詳細例を示している。以下、相違点を中心に説明する。
なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0054】
図7の上図に示すように、劣化検出回路6において、劣化検出期間生成回路7は、点火信号IGtの入力をトリガとして、劣化検出期間Taに相当するタイマ信号B3を生成する。タイマ信号B3は、劣化検出信号S1と共にフィルタ回路63に入力され、その出力A2がカウンタ回路64に入力される。カウンタ回路64は、入力される劣化検出信号S1の連続出力回数が所定回数に達したときに、ドライブ回路41へ劣化確定信号S2を出力する。
【0055】
本形態において、劣化検出期間生成回路7は、アナログ回路の構成例として示される。具体的には、劣化検出期間生成回路7は、定電流源71と、コンデンサ72と、比較回路73と、インバータ回路74と、アンド回路75とを含むアナログ回路にて構成することができる。定電流源71は、スイッチSW2を介して電源端子12と接続されており、点火信号IGtの入力によって、スイッチSW2がオンとなると、定電流源71に接続されるコンデンサ72と、比較回路73のプラス入力端子に、定電流が供給される。比較回路73のマイナス入力端子には、電源76から所定の基準電圧Vrefが与えられる。コンデンサ72の一端側は、定電流源71と比較回路73の間に接続され、他端側は接地されている。
【0056】
これにより、
図7の下図において、比較回路73のプラス入力端子への入力電圧B1が、点火信号IGtの入力と共に、徐々に上昇する。比較回路73の出力は、インバータ回路74を介して反転された信号として、アンド回路75に入力されており、入力電圧B1が基準電圧Vrefに到達するまで、インバータ回路74からアンド回路75への入力B2は、ハイレベル信号となっている。一方、アンド回路75には、点火信号IGtが直接入力されるようになっており、点火信号IGtの入力時点によって、アンド回路75からの出力であるタイマ信号B3が、ローレベル信号からハイレベル信号に切り替わる。
【0057】
これにより、劣化検出期間生成回路7からの出力として、アンド回路75からのハイレベル信号のタイマ信号B3が、上記
図2における劣化検出回路6のフィルタ回路63へ出力され、劣化検出期間Taが開始される。ここで、比較回路73の基準電圧Vrefは、劣化検出期間Taの長さに対応するように設定されており、点火信号IGtの入力を起点として上昇する入力電圧B1が、基準電圧Vrefを上回ることで、アンド回路75への入力B2がローレベル信号となる。また、アンド回路75からのタイマ信号B3が、ローレベル信号に切り替わり、劣化検出期間Taが終了する。このようにして、劣化検出期間Taが継続されている間、タイマ信号B3がハイレベル信号となる。
【0058】
なお、コンデンサ72の正端子側と比較回路73との間には、スイッチSW3を介して、接地された抵抗Rが接続されている、スイッチSW2がオンとなっている間は、スイッチSW3はオフとなっており、スイッチSW2のオフ時にスイッチSW3がオンとなることで、抵抗Rを介してコンデンサ72を接地電位に接続し、速やかに放電できる。
【0059】
また、本形態では、
図8に示すように、劣化検出信号S1の検出を複数回行って、所定の回数に到達したときに、劣化確定信号S2が出力されるようにする。このとき、点火信号IGtの入力によって、劣化検出期間生成回路7にて生成される、劣化検出期間Taが継続されている間、フィルタ回路63へハイレベル信号が出力され、上記
図5に示したように、温度増分ΔVsが劣化検出閾値Vthを超えると、劣化検出信号S1が出力される。カウンタ回路64は、これを1回目の出力として計測し、同様にして、2回目以降の出力がなされると、その連続出力回数を計測する。
【0060】
このように、点火信号IGtの入力毎に、劣化検出回路6の劣化検出動作が繰り返し行われ、カウンタ回路64に出力される。カウンタ回路64は、点火信号IGtの入力に対応する連続した劣化検出信号S1の検出回数を、連続出力回数として計測する。そして、連続出力回数が、予め定めた回数(例えば、5回)となったときに、劣化が確定されたものとして、検出確定信号S2をドライブ回路41に出力する。
【0061】
これにより、劣化検出の精度を向上させて、誤検出等を抑制しながら、劣化の進行に応じた通電動作を適切に行うことができる。なお、検出確定信号S2を出力する条件は、一例であり、断続的な出力を含む回数であってもよいし、確定のための回数は適宜変更することができる。また、カウンタ回路64は、上記構成に限るものではなく、アナログ式又はデジタル式の任意の構成とすることができる。
【0062】
(実施形態3)
実施形態3における点火装置1について、
図9により説明する。本形態の点火装置1の基本回路構成は、上記実施形態2と同様であり、説明を省略する。本形態では、
図9の上図に示すように、劣化検出回路6を備えるロック防止回路5を、ドライブ回路41に接続すると共に、制御回路部4に設けられた外部出力端子IGfに接続して、劣化検出回路6からの劣化確定信号S2を出力可能としている。外部出力端子IGfは、例えば、外部のECU等へ接続することができる。
【0063】
これにより、
図9の下図に示すように、劣化検出回路6による劣化検出動作時に、上記
図2に示したカウンタ回路64から劣化確定信号S2が出力されると、外部出力端子IGfからの出力が、ローレベル信号からハイレベル信号に切り替えられて、外部のECUへ通知される。ECUは、劣化確定信号S2に基づく通知を受信すると、例えば、次回からの点火信号IGtの出力を停止して、劣化によるスイッチング回路部30の温度上昇を抑制する処置を行う。
【0064】
このように、外部への通知機能を有することで、例えば、ECUからの点火信号IGtの出力を制御可能となるので、意図しないタイミングでの点火動作等を抑制できる。ECUは、例えば、劣化確定信号S2が出力されたときに、警告灯を点灯して乗員に通知することができる。または、外部出力端子IGfを警告灯に直接接続してもよい。
【0065】
図10に他の例として示すように、実施形態2と同様の構成の制御回路部4において、劣化検出回路6から劣化確定信号S2が出力されたときに、ドライブ回路41へ直ちに出力せず、次回以降の通電制御に反映されるようにしてもよい。例えば、点火信号IGtに基づくスイッチング素子3の通電制御中は、ドライブ回路41への出力を許可せず、今回の点火動作の終了後に、劣化確定信号S2が出力されるようにする。
【0066】
その場合には、今回の点火信号IGtに基づく通電電流I1は、所定の点火タイミングまで流れるので、意図しないタイミングで、点火動作が行われることを防止できる。また、次回以降の点火信号IGtに基づく通電動作は許可されず、通電電流I1は流れない。このようにしても、点火動作への影響を抑制しながら、劣化によるスイッチング素子3の温度上昇を抑制することができる。
【0067】
図11に他の例として示すように、上記
図9に示した外部出力端子IGfを設ける代わりに、制御回路部4に、記憶機能となる記憶回路45を設けて、劣化確定信号S2を出力するようにしてもよい。記憶回路45の回路構成は任意であり、例えば、出力された劣化確定信号S2の情報をメモリセルに保持するメモリ回路であってもよいし、劣化確定信号S2の出力履歴を機械的に保持するツェナーザップ素子等を含む回路であってもよい。
【0068】
これにより、外部出力端子IGfのような外部への通知機能を有しない構成においても、記憶回路45に記憶された情報に基づいて、劣化確定信号S2の出力の有無を調べることができる。したがって、製品回収時の調査等において、記憶回路45の記憶情報を調べることにより、例えば、イグナイタIの動作停止の原因が、劣化確定信号S2の出力によるものか否かを判断することができる。劣化確定信号S2に限らず、劣化検出信号S1の出力履歴を記憶するようにしてもよい。
【0069】
図12に他の例として示すように、
図11に示した記憶回路45に、劣化検出回路6の劣化確定信号S2に加えて、ロック防止回路5からの過昇温検出信号Sを出力して、記憶するようにしてもよい。例えば、過昇温検出信号Sの出力の有無や、出力回数を記憶させておくことで、その後の調査時において、過昇温による異常検出時の過渡的な熱履歴を知り、製品寿命や劣化への影響度合いを検証することができる。
【0070】
以上のように、上記構成の点火装置1によれば、制御回路部4が、素子温度信号に基づいて、過昇温検出を行うロック防止回路5と、劣化検出を行う劣化検出回路6とを備えているので、過昇温検出による保護動作に先立って、劣化の進行による温度上昇を検出することができる。これにより、劣化検出時には、その後の通電指令による点火動作を許可しないことで、例えば、プレイグニッションによるエンジンの損傷等を抑制することができる。
【0071】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。例えば、上記各実施形態において、イグナイタIの制御回路部4やスイッチング回路部30の構成は、適宜変更することができる。また、内燃機関は、自動車用エンジンに限るものではなく、点火装置1の具体的構造も、図示したものに限らず、適用される内燃機関に応じて、適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0072】
I イグナイタ
1 点火装置
2 点火コイル
3 スイッチング素子
30 スイッチング回路部
4 制御回路部
5 ロック防止回路(過昇温保護回路)
6 劣化検出回路
7 劣化検出期間生成回路