(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】電気機器
(51)【国際特許分類】
H05K 7/20 20060101AFI20240116BHJP
H05K 5/04 20060101ALI20240116BHJP
H05K 7/06 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
H05K7/20 A
H05K5/04
H05K7/06 C
H05K7/20 M
(21)【出願番号】P 2020115388
(22)【出願日】2020-07-03
【審査請求日】2022-12-26
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須永 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】久保木 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】廣田 将義
【審査官】小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-220527(JP,A)
【文献】特開昭62-085449(JP,A)
【文献】特開昭60-249351(JP,A)
【文献】特開昭62-293653(JP,A)
【文献】特開2017-147881(JP,A)
【文献】特開2019-175971(JP,A)
【文献】特開2019-140247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 5/04
H05K 7/06
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
前記筐体の内部に配される回路基板と、
前記筐体の内部に配され、通電
時の発熱量が互いに異なる複数の電子部品と、
前記電子部品と接続された平板状のバスバーと、を備え、
前記筐体の内部には、絶縁性液冷媒が充填され、
前記回路基板は、当該回路基板の板面である基板面の法線が水平となる姿勢で配され、
複数の前記電子部品は
前記発熱量が下部から上部に向かって減少するように前記回路基板の前記基板面に配置されると共に前記絶縁性液冷媒中に浸漬されて
おり、
前記バスバーは長手方向が鉛直方向に沿うように配置され、前記バスバーの板面が前記回路基板の前記基板面に対し垂直となる姿勢で配され、
前記回路基板の前記基板面及び前記バスバーの前記板面に沿って鉛直方向に延びる前記絶縁性液冷媒の流路が形成されている、電気機器。
【請求項2】
複数の前記電子部品を備え、
前記電子部品は、一方の前記基板面および他方の前記基板面の両基板面上に実装されている、請求項1に記載の電気機器。
【請求項3】
前記絶縁性液冷媒の単位体積当たり塵埃粒子の含有量は、空気の単位体積当たりの塵埃粒子の含有量より低い、請求項1又は請求項2に記載の電気機器。
【請求項4】
前記筐体は、金属を含む材料で形成されている、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電気機器。
【請求項5】
前記筐体と前記電子部品との間には、前記絶縁性液冷媒が流通可能な流路が形成されている、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電気機器。
【請求項6】
前記バスバーは金属を含ん
で形成さ
れ、前記バスバーと前記電子部品とが、金属を含んで形成された金属部材を介して接続されている、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の電気機器。
【請求項7】
複数の前記電子部品を備え、前記バスバーは、複数の前記電子部品の間において鉛直方向に延びるように配されている、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の電気機器。
【請求項8】
複数の前記電子部品は、前記筐体の内部において、上下方向について1/2の高さより下方に配された前記電子部品からの発熱量の合計が、通電時の全ての前記電子部品からの発熱量の70%以上を占めるように配されている、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の電気機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気機器の一例として、入力された直流の電圧を所定レベルの直流の電圧に変換して出力するDC-DCコンバータ装置等が知られている。DC-DCコンバータ装置は、例えば電気自動車やハイブリッド自動車等の車両に搭載される。DC-DCコンバータ装置等の電気機器に用いられる電子部品は、通電に伴って発熱する発熱部品であり発熱量も比較的大きい。電子部品からの発熱が電気機器の筐体内にこもると、筐体内が高温になって電子部品の性能が低下する可能性がある。
【0003】
そこで、例えば下記特許文献1には、発熱部品(電子部品)を、ヒートスプレッタや絶縁層を介して放熱部位形成部材に接続し、放熱部位形成部材内の水路に冷却水を循環させて冷却する構成の電力変換装置用冷却装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電気自動車やハイブリッド自動車に用いられる電気機器の小型化が希求されている。電子部品の小型化によって放熱面積が小さくなると、電子部品自体が従来よりも高温になり易く、電気機器内において局所的に温度が高くなる。電気機器の内部が局所的に高温になると、周辺の電子部品や回路へ熱的な影響を及ぼす可能性があり、不具合の発生が懸念される。
【0006】
本明細書に開示される技術は、上記のような事情に基づいて完成されたものであって、局所的な温度上昇が抑制された電気機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る電気機器は、筐体と、前記筐体の内部に配される回路基板と、前記筐体の内部に配され、通電によって発熱する少なくとも1つの電子部品と、を備え、前記筐体の内部には、絶縁性液冷媒が充填され、前記回路基板は、当該回路基板の板面である基板面の法線が水平となる姿勢で配され、前記電子部品は、前記筐体の下部側に配され、前記電子部品の少なくとも一部は、前記絶縁性液冷媒中に浸漬されている。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、局所的な温度上昇が抑制された電気機器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態にかかる電気機器の筐体内部の構成を模式的に示した斜視図である。
【
図2】
図2は、電気機器の筐体内部の構成を模式的に示した側面図である。
【
図3】
図3は、電子部品の実装態様の一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様が列挙されて説明される。
【0011】
(1)本開示に係る電気機器は、筐体と、前記筐体の内部に配される回路基板と、前記筐体の内部に配され、通電によって発熱する少なくとも1つの電子部品と、を備え、前記筐体の内部には、絶縁性液冷媒が充填され、前記回路基板は、当該回路基板の板面である基板面の法線が水平となる姿勢で配され、前記電子部品は、前記筐体の下部側に配され、前記絶縁性液冷媒中に浸漬されている。
【0012】
上記(1)の構成によれば、電子部品の活電部(発熱部)が、絶縁性液冷媒によって直接冷却される。筐体の下部側に配された電子部品から放出された熱は、絶縁性液冷媒に伝えられ、温められた絶縁性液冷媒が、回路基板の基板面に沿って上昇する。これにより、筐体の内部に絶縁性液冷媒の自然対流が生じて、筐体内において熱が分散され、電気機器における局所的な温度上昇が抑制される。なお、上記において電子部品は、少なくとも一部が絶縁性液冷媒中に浸漬されていればよく、複数の電子部品を有する場合には、少なくとも1つの電子部品が筐体の下部側に配されていればよい。
【0013】
(2)本開示に係る電気機器は、複数の前記電子部品を備え、前記電子部品は、一方の前記基板面および他方の前記基板面の両基板面上に実装されていることが好ましい。
【0014】
上記(2)の構成によれば、回路基板の2つの板面の双方に電子部品が実装されることで、一方の基板面のみに電子部品が実装される構成と比較して、複数の電子部品を実装するのに必要な回路基板の面積が小さくなる。これにより、電子部品の実装密度の増加を抑制しながら、回路基板ひいては電気機器の小型化を図ることが可能となる。
【0015】
(3)前記絶縁性液冷媒の単位体積当たり塵埃粒子の含有量は、空気の単位体積当たりの塵埃粒子の含有量より低いことが好ましい。
【0016】
電気機器では、筐体中を浮遊する塵埃粒子により、筐体内部に配された電子部品等の電子部品の活電部間に短絡が生じ、不具合が発生する可能性がある。不具合の発生を回避するためには、電子部品同士の間隔を大きく(実装密度を小さく)設定する必要があり、電気機器の小型化を図る上で障害となっていた。上記(3)の構成によれば、筐体中を浮遊する塵埃粒子が、絶縁性液冷媒を充填しない従来の構成と比較して減少し、塵埃粒子によって短絡が生じる可能性が低下する。これにより、従来の構成と比較して電子部品の実装密度を増加させ、電気機器の小型化を図ることが可能となる。
【0017】
(4)前記筐体は、金属を含む材料で形成されていることが好ましい。
【0018】
上記(4)の構成によれば、筐体が高い熱伝導率を有することで、電子部品から絶縁性液冷媒に伝えられた熱が、絶縁性液冷媒から筐体へ、さらには外部へと伝わり易くなる。これにより、電気機器の放熱性が向上し、温度上昇が抑制される。
【0019】
(5)前記筐体と前記電子部品との間には、前記絶縁性液冷媒が流通可能な流路が形成されていることが好ましい。
【0020】
上記(5)の構成によれば、筐体と電子部品との間を絶縁性液冷媒が流通することで、筐体内において絶縁性液冷媒が良好に対流し、熱分散性が向上する。また、筐体に沿って絶縁性液冷媒が流通することで、絶縁性液冷媒から筐体へ熱が伝わり易くなって放熱性が向上する。これにより、電気機器の温度上昇が抑制される。
【0021】
(6)本開示に係る電気機器は、金属を含んで平板状に形成されたバスバーをさらに備え、前記バスバーと前記電子部品とが、金属を含んで形成された金属部材を介して接続されていることが好ましい。
【0022】
上記(6)の構成によれば、電子部品からの熱が、高い熱伝導率を有する金属部材を介してバスバーに伝えられる。そして、バスバーに伝えられた熱は、大きな比表面積を有するバスバーの表面から、これに接触する絶縁性液冷媒に伝えられる。これにより、電子部品からの熱が速やかに絶縁性液冷媒へと伝えられ、電気機器の熱分散性や放熱性が向上する。
【0023】
(7)前記バスバーは、一方向に長い長手状をなし、長手方向が鉛直方向に沿うように配されていることが好ましい。
【0024】
上記(7)の構成によれば、バスバーに伝えられた熱は、高い熱伝導率を有するバスバーの内部においても下から上へ伝えられ分散される。これにより、電気機器の内部における熱分散性が一層向上する。
【0025】
(8)前記バスバーは、当該バスバーの板面が前記回路基板の前記基板面に対し垂直となる姿勢で配されていることが好ましい。
【0026】
上記(8)の構成によれば、絶縁性液冷媒が回路基板の基板面およびバスバーの板面に沿って流通し、絶縁性液冷媒の流れが整えられる。これにより、筐体11の内部において絶縁性液冷媒が一層スムーズに対流し、電気機器の熱分散性や放熱性が向上する。
【0027】
[本開示の実施形態の詳細]
以下に、本開示の実施形態が説明される。本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0028】
<実施形態>
本開示の実施形態が
図1から
図3を参照しつつ説明される。以下の説明では、
図1および
図2における上側を上とし、
図1における
紙面手前で
図2における左側を前とし、
図1における紙面奥左側で
図2における紙面奥側を左として説明する。なお、複数の同一部材については、一部の部材にのみ符号を付し、他の部材の符号を省略する場合がある。
【0029】
(電気機器10)
本実施形態では、自動車等の車両に搭載される電気機器10について例示する。電気機器10は、入力された直流の電圧を所定レベルの直流の電圧に変換して出力するスイッチング型のDC-DCコンバータ(直流電圧変換装置)を含む機器であって、周知の回路構成を有する。本実施形態にかかる回路構成は、特に限定されないが、直流電圧を交流電圧に変換する第1のコンバータ、交流電圧の変圧を行うトランス(変圧器)、交流電圧を直流電圧に変換する第2のコンバータを備え、出力電圧を整える整流回路や、共振回路、平滑回路等を有して構成される。トランスは、電圧を昇圧させるものでも降圧させるものでも構わないが、本実施形態に係る電気機器10は、トランスによって電圧を降圧させる降圧コンバータを含むものとする。以下の説明では、第1のコンバータに係るスイッチング素子を高圧側スイッチング素子、第2のコンバータに係るスイッチング素子を低圧側スイッチング素子と称することがある。
【0030】
図1および
図2に示されるように、本実施形態にかかる電気機器10は、筐体11と、筐体11の内部に配される回路基板20と、を備える。回路基板20には、電子部品30が取り付けられており、筐体11の内部には、絶縁性液冷媒40が充填されている。電気機器10は、
図1および
図2に示す姿勢、すなわち回路基板20の基板面20A,20Bの法線が水平となる姿勢で、車両に搭載される。
【0031】
(筐体11)
図1および
図2に示されるように、筐体11は、上方に開口した直方体深箱状の本体11Mと、本体11Mの上部の開口を閉止する蓋体11Lと、を有する。本体11Mおよび蓋体11Lは、例えばアルミニウム、ステンレス等の金属を含む材料で形成されている。金属の中でも、アルミニウムやアルミニウム合金のように熱伝導率の高い金属を含む材料で形成されていることが好ましく、場合によっては、ステンレス鋼の表面に銅めっきやニッケルめっきを施したものを用いてもよい。表面積が比較的小さい蓋体11Lに銅合金を用いたり銅めっきを施したりして、蓋体11Lをヒートシンクとして機能させてもよい。本体11Mは、矩形状の底壁と、底壁の周縁から立ち上がる4枚の側壁とを有し、回路基板20を収容可能な大きさに一体的に形成されている。蓋体11Lは、本体11Mの開口を水密に閉止可能であることが好ましい。
【0032】
(回路基板20)
図1および
図2に示されるように、筐体11の内部には、長方形平板状の回路基板20が収容されている。回路基板20は、例えば絶縁材料からなる絶縁板の実装面に、プリント配線技術によって導電路が形成された周知の構成の平板状の部材である。導電路は、例えば銅等の金属を含む材料で形成される。電気機器10において、回路基板20は、当該回路基板20の板面である基板面20A,20Bの法線が水平となる姿勢で、筐体11の内部に配されている。換言すれば、回路基板20は、基板面20A,20Bが鉛直方向に延びたいわゆる縦型姿勢で、筐体11の内部に収容されている。
【0033】
図1に示されるように、本実施形態では、筐体11の内部に収容された回路基板20の左縁、右縁、上縁と、本体11Mもしくは蓋体11Lの内面との間に、それぞれ絶縁性液冷媒40が流通可能な隙間(流路)が形成されている。
図2に示されるように、回路基板20では、一方の基板面20Aおよび他方の基板面20Bが実装面とされ、回路基板20の両基板面20A,20B上に、電子部品30が実装されている。また、
図1および
図2に示されるように、基板面20Aの左右方向中央位置には、バスバー51が上下に延びるように配されている。
【0034】
(電子部品30)
図1および
図2に示されるように、回路基板20の基板面20A,20B上には、種々の電子部品30が実装されている。
図1および
図2に示されるように、基板面20A,20B上に実装された電子部品30と、筐体11の本体11Mの内面との間には、それぞれ絶縁性液冷媒40が流通可能な隙間が形成されている。電子部品30には、例えば抵抗、コイル、コンデンサ、ヒューズ、リレー、ダイオード、IC(Integrated Circuit)や、FET(Field Effect Transistor)等のスイッチング素子等が含まれる。より具体的には、
図1および
図2に示されるように、高圧側スイッチング素子である高圧側FET31Aや、低圧側スイッチング素子である低圧側FET31B、トランス32、共振回路を構成する共振コイル33A、チョークコイル33B等が含まれる。
【0035】
電子部品30は、筐体11内部の下部側に配される。
図1および
図2に示されるように、本実施形態にかかる電気機器10は複数の電子部品30を有しており、複数の電子部品30は、全体的に基板面20A,20Bの下寄りの位置に実装されている。電気機器10が複数の電子部品30を有する場合、少なくとも1つの電子部品30は、筐体11の内部において、上下方向について1/2の高さよりも下方、好ましくは1/3の高さよりも下方、より好ましくは1/4の高さよりも下方に位置するように配される。このように、発熱部品である電子部品30を筐体11内部の下部側に配することで、通電時の発熱によって筐体11内の下部位置する絶縁性液冷媒40が温められて上昇し、絶縁性液冷媒40の対流が生じ易くなって熱分散性が向上する。本実施形態では、高圧側FET31Aおよび低圧側FET31Bと、複数のコイル含むトランス32が、筐体11内の最下部に配置されている。なお、本実施形態では、
図1に示されるように、基板面20A上に、4個の高圧側FET31Aと、6個の低圧側FET31Bと、1個のトランスおよび共振コイル33Aと、2個のチョークコイル33Bが実装されている。
【0036】
スイッチング素子やコイルは、DC-DCコンバータである電気機器10に含まれる多様な電子部品30の中でも、通電時の発熱量が特に大きく、比較的小型である。DC-DCコンバータの回路構成にもよるが、通電時の全ての電子部品30からの発熱量を100%とすると、高圧側FET31Aは4個の合計で25%以上、低圧側FET31Bは6個の合計で15%以上、トランス32は15%以上、共振コイル33Aは2個で10%以上、これら4種の電子部品30の合計で70%以上を占めることがある。本実施形態では、最も発熱量の大きい3種の電子部品30(高圧側FET31A、低圧側FET31B、トランス32)を筐体11の最下部に配し、これらの直上位置に、これらに次いで発熱量の大きい共振コイル33A、チョークコイル33Bを配置している。これにより、筐体11内において、電気機器10に通電した際の電子部品30からの発熱量は、下部から上部に向かって大きく減少する(下部における発熱量と上部における発熱量との差が大きくなる)ものとされている。
【0037】
電子部品30は、半田付け等の公知の手法によって既知の態様で回路基板20の実装面である基板面20Aもしくは基板面20B上に実装され、基板面20A,20B上に金属を含む材料によって形成された導電路と電気的に接続されている。一例として、
図3に、高圧側FET31Aや低圧側FET31Bを構成するFET31の実装態様について示す。
図3に示されるように、FET31は、素子が内蔵された本体部31Mと、本体部31Mの外側に突出して設けられた端子部31Lとを有する。
図3では、3個の端子部31Lが突設された三端子型のFET31を示しているが、FET31がこのような形状に限定されるものではない。
図3に示されるように、基板面20Aおよび基板面20Bに張り巡らされた電路の一部にはランド52が形成されており、端子部31Lの突出端は、半田付け等によってランド52に接続されている。なお、後述するバスバー51は基板面20Aに形成された導電路に電気的に接続されており、基板面20A上に実装された電子部品30とバスバー51は、金属を含んで形成されたランド52を含む導電路を介して接続されている。
【0038】
(絶縁性液冷媒40)
図1および
図2に示されるように、筐体11の内部には、絶縁性液冷媒40が充填されている。本実施形態では、絶縁性液冷媒40は、回路基板20全体が浸漬するように、筐体11の内部を満たしている。絶縁性液冷媒40が筐体11の内部を完全に満たしている必要は無く、電子部品30が絶縁性液冷媒40中に浸漬していればよい。複数の電子部品30が配されている場合、一部の電子部品30が浸漬されていればよいが、少なくとも筐体の下部に配置する発熱量の大きなスイッチング素子やコイルが浸漬されていることが好ましく、全ての電子部品30が浸漬されていることがさらに好ましい。
【0039】
絶縁性液冷媒40は、導電性を有しない液状の冷媒である。絶縁性液冷媒40としては、例えばパーフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロケトン、フッ素系不活性液体を用いることができる。具体的には、スリーエムジャパン社製のノベック(登録商標)やフロリナート(登録商標)、ソルベイ社製のガルデン(登録商標)等が挙げられる。環境への負荷等を配慮すると、ハイドロフルオロエーテル系のノベックの利用が特に好ましい。電子部品30を絶縁性液冷媒40中に浸漬させることにより、電子部品30の活電部が絶縁性液冷媒40によって直接冷却される。
【0040】
絶縁性液冷媒40として、本実施形態では、単位体積当たりの塵埃粒子の含有量が、空気の単位体積当たりの塵埃粒子の含有量より低いものを使用する。例えば、粒子径が100nm以上、より具体的には1000nm以上の塵埃粒子の含有量が空気よりも低い絶縁性液冷媒40の使用が好ましい。なお、上記において空気は、仮に電子部品30が絶縁性液冷媒40中に浸漬されていないとした場合に、通常、電子部品30近傍に存在すると考えられる気体である。塵埃粒子が電子部品30の活電部に付着すると、トラッキングにより短絡が生じる可能性がある。単位体積当たりの塵埃粒子の含有量が空気より低い絶縁性液冷媒40を用いることで、短絡を避けるために必要な活電部間の間隔が小さくなる。よって、電子部品30同士の間隔を小さくして、電気機器10の小型化を図ることが可能となる。
【0041】
また、絶縁性液冷媒40として、本実施形態では、空気よりも大きな絶縁耐圧を有するものを使用する。例えば、空気の絶縁耐圧が約3kV/mmであるのに対し、ノベックの絶縁耐圧は約16kV/mmである。空気よりも大きな絶縁耐圧を有する絶縁性液冷媒40を用いることで、短絡を避けるために必要な活電部間の間隔が小さくなる。よって、電子部品30同士の沿面距離を小さく、すなわち回路基板20への電子部品30の実装密度を大きくして、電気機器10の小型化を図ることが可能となる。
【0042】
(バスバー51)
図1および
図2に示されるように、回路基板20の基板面20Aには、バスバー51が配されている。バスバー51は、金属板材をプレス成形又はフォーミング加工することによって一方向に長い長手平板状に形成した導電部材である。本実施形態では、銅を含む材料で形成され、非常に高い熱伝導率を有するバスバー51を使用する。
図1および
図2に示されるように、バスバー51は、長手方向が上下方向に一致し、基板面20Aに対して板面が垂直になるように基板面20A上に配され、基板面20A上に形成された導電路に電気的に接続される。これにより、前述したように、バスバー51と電子部品30は、ランド52を含む導電路等の金属部材を介して接続される。なお、
図2に示されるように、基板面20A上に配された状態で、バスバー51の前端縁と筐体11の本体11Mの前壁の内面との間には、絶縁性液冷媒40が流通可能な隙間が形成されている。
【0043】
図1に示されるように、本実施形態では、バスバー51は基板面20Aの左右方向の中心位置に配されており、基板面20A上に実装された高圧側FET31Aおよびチョークコイル33Bと、低圧側FET31B、トランス32および共振コイル33Aと、の間に位置している。これにより、発熱量が特に大きな複数の電子部品30が、基板面20A上においてバスバー51の左右に分かれた状態で配される。
【0044】
(電気機器10における熱分散と放熱)
続いて、本実施形態の電気機器10における熱分散および放熱の一例について説明する。
電気機器10への通電が開始されると、筐体11内において絶縁性液冷媒40中に浸漬された電子部品30が発熱する。
図1および
図2に示されるように筐体11の最下部に配された高圧側FET31Aや低圧側FET31B、トランス32において、特に大きな熱が発生する。これらの電子部品30で発生した熱は、活電部等に接触する絶縁性液冷媒40に伝達される。熱を伝達された絶縁性液冷媒40は温度が上昇し、比重が小さくなるので、矢線F1のように上昇する。絶縁性液冷媒40は、バスバー51に沿って矢線F2,F3のようにさらに上昇する。周囲の絶縁性液冷媒40をまきこんで上昇流を発生させながら上昇した絶縁性液冷媒40は、最上部の液面(本実施形態では筐体11の蓋体11Lの下面)付近に到達すると、矢線F4,F5のように液面(蓋体11Lの下面)に沿って筐体11の左右端部に移動する。
【0045】
蓋体11Lの下面に到達した絶縁性液冷媒40の熱は、金属を含む材料で形成された熱伝導率の高い蓋体11Lに伝達され、蓋体11Lの上面から筐体11の外部に放散される。これにより、絶縁性液冷媒40の温度が下がり、比重が大きくなるので、絶縁性液冷媒40は矢線F6,F7のように筐体11の本体11Mの側壁に沿って下降する。下降する絶縁性液冷媒40は、周囲の絶縁性液冷媒40をまきこんで下降流を発生させる。本体11Mも金属を含む材料で形成され高い熱伝導率を有しているため、絶縁性液冷媒40の熱は本体11Mの側壁に伝達され、側壁の外面から筐体11の外部に放散される。これにより、絶縁性液冷媒40の温度はさらに低下する。
【0046】
本体11Mの底壁まで移動した絶縁性液冷媒40は、矢線F8に示すように、下壁に沿って移動して電子部品30の近傍に流入する。最下部に配された高圧側FET31Aや低圧側FET31B、トランス32の近傍に流入する絶縁性液冷媒40は、蓋体11Lや本体11Mの側壁等を介して筐体11の外部に熱を放散しているので、温度が低下している。このように温度が低下した絶縁性液冷媒40が、高圧側FET31Aや低圧側FET31B、トランス32等の発熱量の大きな電子部品30と接触することにより、これらから発生する熱が、再び絶縁性液冷媒40に伝達される。電子部品30からの熱が伝達された絶縁性液冷媒40は、矢線F1に示すように再び上昇する。なお、基板面20B側でも、電子部品30からの発熱等に応じて絶縁性液冷媒40の対流が生じる。
【0047】
図1および
図2に示されるように、筐体11の内部において、回路基板20の左縁、右縁、上縁と、本体11Mもしくは蓋体11Lの内面との間には、それぞれ絶縁性液冷媒40が流通可能な隙間が形成されている。また、基板面20A,20B上に実装された電子部品30と、筐体11の本体11Mの内面との間にも、それぞれ絶縁性液冷媒40が流通可能な隙間が形成されている。さらには、基板面20A上に配された状態で、バスバー51の前端縁と筐体11の本体11Mの前壁の内面との間にも、絶縁性液冷媒40が流通可能な隙間が形成されている。よって、絶縁性液冷媒40は、上記のような大まかな流れに加え、これらの隙間を通して、基板面20A側と基板面20B側の間を含む筐体11内全体を比較的自由に流通可能とされている。
【0048】
このように、絶縁性液冷媒40が、電子部品30の活電部を直接冷却しながら筐体11の内部を対流することで、電気機器10の内部において熱が分散され、蓋体11Lや本体11Mの側壁等を介して、筐体11の外部に熱が放散される。
【0049】
さらに、本実施形態では、電子部品30からの発熱が、金属を含む材料で形成されたランド52を含む導電路等の熱伝導率の高い金属部材を経由するルートによっても分散される。
図3に二点矢線H1で示すように、例えばFET31における発熱は、端子部31Lからランド52へと伝達される。そして、基板面20A上に形成されたランド52を含む導電路へ、さらには導電路に接続されたバスバー51へと伝えられる。
図1および
図2に二点矢線H2で示すように、バスバー51に伝えられた熱は、バスバー51の内部を上方に向かって移動する。平板状に形成されたバスバー51は大きな比表面積を有し、その表面には絶縁性液冷媒40が接しているため、バスバー51内部の熱は、長手方向に沿って下方から上方に移動しながら、バスバー51の表面から絶縁性液冷媒40に伝達される。バスバー51から熱を伝達され、温度が上昇して比重が小さくなった絶縁性液冷媒40は、バスバー51に沿って矢線F1,F2,F3のように上昇する。これにより、前述したのと同様の絶縁性液冷媒40の対流が生じ、電気機器10の内部において熱が分散される。そして、絶縁性液冷媒40の熱は、蓋体11Lや本体11Mの側壁等を介して筐体11の外部に放散される。
【0050】
以上のように、電気機器10は、簡素な構造でありながら熱分散性および放熱性に極めて優れたものとなっている。
【0051】
(実施形態の作用効果)
本実施形態の作用効果について、改めて説明する。
本実施形態に係る電気機器10は、筐体11と、筐体11の内部に配される回路基板20と、筐体11の内部に配され、通電によって発熱する少なくとも1つの電子部品30と、を備え、筐体11の内部には、絶縁性液冷媒40が充填され、回路基板20は、当該回路基板20の板面である基板面20A,20Bの法線が水平となる姿勢で配され、電子部品30は、筐体11の下部側に配され、絶縁性液冷媒40中に浸漬されている。
【0052】
本実施形態の構成によれば、電子部品30の活電部を、絶縁性液冷媒40によって直接冷却できる。筐体11の下部側に配された電子部品30から放出された熱は、絶縁性液冷媒40に伝えられ、温められた絶縁性液冷媒40が、回路基板20の基板面20A,20Bに沿って上昇する。これにより、筐体11の内部に絶縁性液冷媒40の自然対流が生じて、筐体11内において熱が分散され、電気機器10における局所的な温度上昇が抑制される。この結果、電子部品30の実装間隔を小さくして、電気機器10の小型化を図ることが可能となる。なお、上記の電子部品30には、FET31等の半導体スイッチング素子が含まれる。また、上記の電子部品30には、コイルを有するトランス32等の素子や、コイル33が含まれる。FET31等の半導体スイッチング素子や、トランス32、コイル33は、電気機器10に用いられる電子部品30の中でも発熱量が大きい。これらの電子部品30を絶縁性液冷媒40に浸漬し筐体11内の下部側にまとめて配置することで、筐体11の内部において絶縁性液冷媒40の自然対流が生じ易くなり、熱分散性を向上させて局所的な温度上昇を効果的に抑制することができる。
【0053】
本実施形態に係る電気機器10は、複数の電子部品30を備え、電子部品30は、一方の基板面20Aおよび他方の基板面20Bの両基板面20A,20B上に実装されている。
【0054】
本実施形態の構成によれば、回路基板20の2つの板面の双方に電子部品が実装されることで、一方の基板面のみに電子部品が実装される構成と比較して、複数の電子部品30を実装するのに必要な回路基板20の面積が小さくなる。これにより、電子部品30の実装密度の増加を抑制しながら、回路基板20ひいては電気機器10の小型化を図ることが可能となる。
【0055】
本実施形態に係る電気機器10において、絶縁性液冷媒40の単位体積当たり塵埃粒子の含有量は、空気の単位体積当たりの塵埃粒子の含有量より低い。
【0056】
本実施形態の構成によれば、筐体11中を浮遊する塵埃粒子が、絶縁性液冷媒40が充填されていない従来の構成の電気機器と比較して減少し、塵埃粒子によって短絡が生じる可能性が低下する。これにより、従来の構成と比較して電子部品30の実装密度を増加させ、電気機器10の小型化を図ることが可能となる。
【0057】
本実施形態に係る電気機器10において、筐体11は、金属を含む材料で形成されている。
【0058】
本実施形態の構成によれば、筐体11が高い熱伝導率を有することで、電子部品30から絶縁性液冷媒40に伝えられた熱が、絶縁性液冷媒40から筐体11へ、さらには外部へと伝わり易くなる。これにより、電気機器10の放熱性が向上し、電気機器10の温度上昇が抑制される。
【0059】
本実施形態に係る電気機器10において、筐体11と電子部品30との間には、絶縁性液冷媒40が流通可能な流路が形成されている。
【0060】
本実施形態の構成によれば、筐体11と電子部品30との間を絶縁性液冷媒40が流通することで、筐体11内において絶縁性液冷媒40が良好に対流し、熱分散性が向上する。また、筐体11に沿って絶縁性液冷媒40が流通することで、絶縁性液冷媒40から筐体11へ熱が伝わり易くなって放熱性が向上する。これにより、電気機器10の温度上昇が抑制される。
【0061】
本実施形態に係る電気機器10は、金属を含んで平板状に形成されたバスバー51をさらに備え、バスバー51と電子部品30とが、金属を含んで形成された金属部材を介して接続されている。
【0062】
本実施形態の構成によれば、電子部品30からの熱が、ランド52を含む導電路等の高い熱伝導率を有する金属部材を介して、バスバー51に伝えられる。そして、バスバー51に伝えられた熱は、熱伝導率が高く大きな比表面積を有するバスバー51の表面から絶縁性液冷媒40に伝えられる。これにより、電子部品30で生じた熱が速やかに絶縁性液冷媒40へと伝えられ、電気機器10の熱分散性や放熱性が向上する。
【0063】
本実施形態に係る電気機器10において、バスバー51は、一方向に長い長手状をなし、長手方向が鉛直方向に沿うように配されている。
【0064】
本実施形態の構成によれば、バスバー51に伝えられた熱は、高い熱伝導率を有するバスバー51の内部においても下から上へ伝えられ分散される。これにより、電気機器の内部における熱分散性が一層向上する。
【0065】
本実施形態に係る電気機器10において、バスバー51は、当該バスバー51の板面が回路基板20の基板面20Aに対し垂直となる姿勢で配されている。
【0066】
本実施形態の構成によれば、絶縁性液冷媒40が回路基板20の基板面20Aおよびバスバー51の板面に案内されながら流通し、絶縁性液冷媒40の流れが整えられる。これにより、筐体11の内部において絶縁性液冷媒40が一層スムーズに対流し、電気機器10の熱分散性や放熱性が向上する。
【0067】
<他の実施形態>
本開示は上記記述および図面によって説明された実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本明細書に開示された技術の技術的範囲に含まれる。
【0068】
(1)電子部品30は、上記のものに限定されない。上記実施形態に記載した各電子部品30の寸法形状や数、配置も一例に過ぎない。
【0069】
(2)回路基板20は、上記のように配されたものに限定されない。上記実施形態では、回路基板20を筐体11の前後方向について後寄りに配し、比較的発熱量の大きな電子部品30を、回路基板20の前側の板面である基板面20A上に実装した。例えば回路基板を筐体内の前後方向中央に配し、一方の基板面および他方の基板面の両基板面に、発熱量の大きな電子部品30を分散させて配置してもよい。
【0070】
(3)回路基板20や筐体11は、上記のような寸法形状のものに限定されない。上記実施形態では、上下の高さ寸法が左右の幅寸法より大きな縦長形状の回路基板20および筐体11について記載した。例えば左右の幅寸法が上下の高さ寸法よりも大きい横長形状の回路基板および筐体を用いてもよい。このようにすれば、絶縁性液冷媒と蓋体との接触面積が大きくなり、蓋体を介した放熱性が一層向上する。
【0071】
(4)バスバー51の形状や数、配置は、上記のようなものに限定されない。例えば複数のバスバーが、回路基板の一方の基板面および他方の基板面の両基板面に配されていてもよい。また、複数のバスバーが、回路基板の一方の基板面もしくは両基板面において、左右方向に間隔を空けて鉛直方向に延びるように平行して並んで配されていてもよい。このようにすれば、絶縁性液冷媒の流れをさらに整えることができる。
【0072】
(5)電気機器10は、DC-DCコンバータを含むものに限定されない。例えばAC-DCコンバータや電気接続箱、配電箱、ECU等にも、本技術は適用可能である。
【符号の説明】
【0073】
10: 電気機器(DC-DCコンバータ)
11: 筐体
11L: 蓋体
11M: 本体
20: 回路基板
20A,20B: 基板面
30: 電子部品
31: FET
31A: 高圧側FET
31B: 低圧側FET
31L: 端子部
31M: 本体部
32: トランス
33: コイル
33A: 共振コイル
33B: チョークコイル
40: 絶縁性液冷媒
51: バスバー
52: ランド