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特許7420003プラズマ処理装置用のプラズマ放出ノズル及びプラズマ処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】プラズマ処理装置用のプラズマ放出ノズル及びプラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/24 20060101AFI20240116BHJP
   B01J 19/08 20060101ALI20240116BHJP
   B01J 19/26 20060101ALI20240116BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
H05H1/24
B01J19/08 E
B01J19/26
H01L21/304 645C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020129893
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022026423
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】倉家 尚之
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 良介
(72)【発明者】
【氏名】内藤 薫
(72)【発明者】
【氏名】近藤 真悟
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-068298(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0314938(US,A1)
【文献】国際公開第2013/069799(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/24
B01J 19/08
B01J 19/26
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを流通させるプラズマ流路(10)と、
上記プラズマ流路を流通するプラズマを、上記プラズマ流路における上記プラズマの流通方向と異なる方向に放出するプラズマ放出部(20)と、
を備え、
上記プラズマ流路は、筒体(11)により構成され、
上記プラズマ放出部は複数設けられ、上記筒体(11)の周面に等間隔に設けられており、
上記筒体の一方の端部には、上記プラズマを流入させるプラズマ流入部(12)が設けられており、
上記筒体の他方の端部には、上記流通方向に対向する平面を有する平面部(13)と、上記筒体の外方に開口してなる上記プラズマ放出部とが設けられている、プラズマ処理装置用のプラズマ放出ノズル(1)。
【請求項2】
上記プラズマ放出部は、上記プラズマ流路における上記プラズマの流通方向と上記プラズマの放出方向とのなす角が、上記流通方向の前方側において5°~90°の範囲内となるように、上記プラズマを放出するように構成されている、請求項1に記載のプラズマ処理装置用のプラズマ放出ノズル。
【請求項3】
上記平面部と上記流通方向とのなす角度が、0°よりも大きく90°以下の範囲内である、請求項1又は2に記載のプラズマ処理装置用のプラズマ放出ノズル。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置用のプラズマ放出ノズルと、該プラズマ放出ノズルを保持するノズル保持部(55)と、上記プラズマを生成するプラズマ生成部とを備えるプラズマ処理装置であって、
上記プラズマ放出ノズルを、上記ノズル保持部に保持された状態で上記プラズマ流路の軸線を中心に回動させるノズル回動部(70)を有する、プラズマ処理装置。
【請求項5】
プラズマを流通させるプラズマ流路(10)と、上記プラズマ流路を流通するプラズマを、上記プラズマ流路における上記プラズマの流通方向と異なる方向に放出するプラズマ放出部(20)と、を備えるプラズマ処理装置用のプラズマ放出ノズル(1)と、
該プラズマ放出ノズルを保持するノズル保持部(55)と、上記プラズマを生成するプラズマ生成部(60)とを備えるプラズマ処理装置であって、
上記プラズマ放出ノズルを、上記ノズル保持部に保持された状態で上記プラズマ流路の軸線を中心に回動させるノズル回動部(70)を有し、
上記プラズマ流路は、筒体(11)により構成され、
上記ノズル回動部は上記筒体(11)を回動させるとともに、上記プラズマ生成部は上記筒体の一部を挟むように配置された一対の電極(62、63)を備え
上記筒体の一方の端部には、上記プラズマを流入させるプラズマ流入部(12)が設けられており、
上記筒体の他方の端部には、上記流通方向に対向する平面を有する平面部(13)と、上記筒体の外方に開口してなる上記プラズマ放出部とが設けられている、プラズマ処理装置。
【請求項6】
上記プラズマ放出部は、上記プラズマ流路における上記プラズマの流通方向と上記プラズマの放出方向とのなす角が、上記流通方向の前方側において5°~90°の範囲内となるように、上記プラズマを放出するように構成されている、請求項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
上記平面部と上記流通方向とのなす角度が、0°よりも大きく90°以下の範囲内である、請求項5又は6に記載のプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置用のプラズマ放出ノズル及びプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被処理物の表面における有機物等の異物の除去、レジストの剥離、被膜との密着性改善、金属酸化物の還元、製膜、表面改質などを目的として、被処理物の表面にプラズマを吹き付けるプラズマ処理が行われている。かかるプラズマ処理を行うためのプラズマ処理装置として、特許文献1には、ロボットアームの先端に反応管を設け、反応管で生成されたプラズマを反応管に設けられた吹き出し口から吹き出して被処理物に吹き付ける構成が開示されている。かかるプラズマ処理装置では、被処理物の表面の形状に応じて、反応管が設けられたロボットアームを駆動制御して変位させることにより、吹き出し口から吹き出されるプラズマの吹き出し方向を制御して、被処理物の表面の所望の部位にプラズマを吹き付けてプラズマ処理を施すことを可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-060577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示の構成では、ロボットアームを用いるため、設備に導入するには大幅なコスト増加が懸念される。また、複雑に入り組んだ被処理物の表面にプラズマ処理を施す場合、ロボットアームの移動範囲が制限されて、狭い溝形状の部位などにプラズマを吹き付けることが困難となり、プラズマ処理を十分に施すことができないおそれがある。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたもので、複雑に入り組んだ被処理物の表面にプラズマ処理を施すことができるとともに、設備への導入コストの低下を図ることができるプラズマ処理装置用のプラズマ放出ノズルを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、プラズマを流通させるプラズマ流路(10)と、
上記プラズマ流路を流通するプラズマを、上記プラズマ流路における上記プラズマの流通方向と異なる方向に放出するプラズマ放出部(20)と、
を備え、
上記プラズマ流路は、筒体(11)により構成され、
上記プラズマ放出部は複数設けられ、上記筒体(11)の周面に等間隔に設けられており、
上記筒体の一方の端部には、上記プラズマを流入させるプラズマ流入部(12)が設けられており、
上記筒体の他方の端部には、上記流通方向に対向する平面を有する平面部(13)と、上記筒体の外方に開口してなる上記プラズマ放出部とが設けられている、プラズマ処理装置用のプラズマ放出ノズル(1)にある。
また、本発明の他の態様は、プラズマを流通させるプラズマ流路(10)と、上記プラズマ流路を流通するプラズマを、上記プラズマ流路における上記プラズマの流通方向と異なる方向に放出するプラズマ放出部(20)と、を備えるプラズマ処理装置用のプラズマ放出ノズル(1)と、
該プラズマ放出ノズルを保持するノズル保持部(55)と、上記プラズマを生成するプラズマ生成部(60)とを備えるプラズマ処理装置であって、
上記プラズマ放出ノズルを、上記ノズル保持部に保持された状態で上記プラズマ流路の軸線を中心に回動させるノズル回動部(70)を有し、
上記プラズマ流路は、筒体(11)により構成され、
上記ノズル回動部は上記筒体(11)を回動させるとともに、上記プラズマ生成部は上記筒体の一部を挟むように配置された一対の電極(62、63)を備え
上記筒体の一方の端部には、上記プラズマを流入させるプラズマ流入部(12)が設けられており、
上記筒体の他方の端部には、上記流通方向に対向する平面を有する平面部(13)と、上記筒体の外方に開口してなる上記プラズマ放出部とが設けられている、プラズマ処理装置にある。
【発明の効果】
【0007】
上記プラズマ処理装置用のプラズマ放出ノズルにおいては、プラズマ放出部は、プラズマ流路におけるプラズマの流通方向と異なる方向にプラズマを放出するように構成されている。当該プラズマ放出ノズルを用いれば、複雑に入り組んだ被処理物の表面にプラズマ処理を施す際に、ロボットアームを用いる場合に比べて移動範囲が制限されにくいため、複雑に入り組んだ部位や狭い溝形状の部位にプラズマ処理を施すことができる。また、当該プラズマ放出ノズルを用いれば、ロボットアームを用いる必要がないため、設備への導入コストの低下を図ることができる。
【0008】
以上のごとく、上記態様によれば、複雑に入り組んだ被処理物の表面にプラズマ処理を施すことができるとともに、設備への導入コストの低下を図ることができるプラズマ処理装置用のプラズマ放出ノズルを提供することができる。
【0009】
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態1における、プラズマ処理装置の構成を示す概念図。
図2】実施形態1における、プラズマ処理装置用のプラズマ放出ノズルの先端部分の側面図。
図3】実施形態1における、プラズマ処理装置用のプラズマ放出ノズルの先端部分の底面図。
図4図2における、VI-VI線位置断面図。
図5】(a)~(c)実施形態1における、プラズマ放出ノズルの第1の使用態様を説明する概念図。
図6】(a)~(d)実施形態1における、プラズマ放出ノズルの第2の使用態様を説明する概念図。実施形態1における、
図7】(a)~(c)実施形態1における、プラズマ放出ノズルの第3の使用態様を説明する概念図。
図8】(a)、(b)第1の比較試験におけるプラズマ放出ノズルの構成を説明する概念図。
図9】第1の比較試験の試験条件を説明する概念図。
図10】(a)、(b)第2の比較試験におけるプラズマ放出ノズルの構成を説明する概念図。
図11】(a)~(d)第3の比較試験におけるプラズマ放出ノズルの構成を説明する概念図。
図12】変形形態1におけるプラズマ放出ノズルの(a)側面図、(b)XIIb-XIIb線位置の断面図、及び(c)使用態様を説明する概念図。
図13】変形形態2におけるプラズマ放出ノズルの縦断面図。
図14】変形形態3におけるプラズマ放出ノズルの(a)縦断面図、(b)使用態様を説明する概念図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態1)
プラズマ処理装置用のプラズマ放出ノズルの実施形態について、図1図11を用いて説明する。
本実施形態のプラズマ処理装置用のプラズマ放出ノズル1は、プラズマ流路10、プラズマ放出部20を備える。プラズマ流路10はプラズマを流通させ、プラズマ放出部20は、プラズマ流路10を流通するプラズマPをプラズマ流路10におけるプラズマの流通方向L1と異なる方向L2に放出する。
【0012】
以下、本実施形態のプラズマ処理装置用のプラズマ放出ノズル1について、詳述する。なお、本明細書において、プラズマ処理装置用のプラズマ放出ノズル1を「プラズマ放出ノズル1」ともいう。
図1に示すように、本実施形態のプラズマ放出ノズル1は、プラズマ処理装置100に備えられる。プラズマ処理装置100は、プラズマ放出ノズル1の他に、ガス貯留部30、ガス制御部40、配管50、プラズマ生成部60を備える。
プラズマ放出ノズル1は、配管50の先端に設けられたノズル保持部55により、配管50と連通するように保持されている。ガス貯留部30にはプラズマ生成用ガスが貯留されており、ガス制御部40はガス貯留部30に貯留されたプラズマ生成用ガスを配管50を介してプラズマ放出ノズル1に供給する。そして、プラズマ生成部60により、プラズマ生成用ガスからプラズマが生成されて、プラズマ放出ノズル1から放出される。
【0013】
ガス貯留部30に貯留されたプラズマ生成用ガスの種類は限定されないが、He、Arなどの希ガスや、Nガス、Oガス、Hガスや、CO、CHなどの炭素を含むガスや、水蒸気などの添加ガスや、HDMSO(ヘキサメチルジシロキサン)、TEOS(オルトケイ酸テトラエチル)などの有機Si系ガス、及び、これらの混合ガスのいずれかとすることができる。配管50を流通するガスの流量はガス制御部40により制御される。例えば、当該ガス流量は0.5~100SLMとすることができる。
【0014】
図1に示すプラズマ生成部60は、電源部61、高圧電極62及び接地電極63を備える。電極62、63は、プラズマ放出ノズル1の一部を挟むように配置されている。高圧電極62に電源部61から電力を付与することにより、プラズマ放出ノズル1の内部において電極62、63の間に交流磁界を発生する。これにより、プラズマ放出ノズル1を流通するプラズマ生成用ガスからプラズマが生成される。
【0015】
図1図2に示すように、本実施形態1では、プラズマ流路10は筒体11からなる。本実施形態1では、筒体11は円筒状をなしており、図2に示す筒体11の内径Dは、例えば1~20mmとすることができ、好ましくは1~10mmとすることができる。プラズマ流路10における流通方向L1は、筒体11の長手方向Yに直交する断面の中心を通る軸線10aに平行となっている。
【0016】
図1に示すように、本実施形態1では、プラズマ放出ノズル1において、筒体11の一方の端部は開口してプラズマ流入部12を構成している。筒体11は、プラズマ流入部12においてノズル保持部55に保持されている。ノズル保持部55は配管50に接続されており、配管50を流通するプラズマ生成用ガスがプラズマ流入部12からプラズマ流路10に流入することとなる。
【0017】
図1図4に示すように、筒体11の他方の端部には平面部13とプラズマ放出部20とが設けられている。図4に示すように、平面部13は流通方向L1に対向する壁面を構成している。平面部13と流通方向L1とのなす角Bは限定されないが、0°よりも大きく90°以下の範囲内とすることができ、本実施形態1では90°としている。
【0018】
図4に示すように、プラズマ放出部20は、筒体11の他方の端部を平面部13と軸線10aとの交点13aを含む切り欠き面21に沿って切り欠いてなる開口部からなる。当該切り欠き面21の法線方向のうちプラズマの流通方向L1の前方が、プラズマ放出部20におけるプラズマ放出方向L2となる。そして、プラズマ放出方向L2とプラズマの流通方向L1とのなす角A、すなわち、切り欠き面21の法線とプラズマの流通方向L1とのなす角Aは、例えば、5~90°とすることができ、好ましくは10~75°、より好ましくは15~60°とすることができる。
【0019】
図1に示すように、本実施形態1では、プラズマ放出ノズル1をノズル保持部55に保持された状態でプラズマ流路10の軸線10aを中心に回動させるノズル回動部70と、ノズル回動部70の回動を制御する回動制御部71とを有する。ノズル回動部70の回動範囲は特に限定されず、中心に0~360°の範囲で回動可能としてもよいし、0~360°よりも狭い範囲で回動可能としてもよい。また、プラズマ放出部20からプラズマを放出する際のノズル回動部70の回転速度も特に限定されないが、300rpm以下とすることができる。
【0020】
次に、本実施形態1のプラズマ放出ノズル1を用いたプラズマ処理の第1の態様について、図5(a)~図5(c)を用いて説明する。
本プラズマ処理形態における処理対象として、図5(a)に示すように、凹部81を有する樹脂ケース80を用いる。凹部81は深いバスタブ形状をなしている。本プラズマ処理形態では、まず、図5(a)に示すように、凹部81の内側にプラズマ放出ノズル1の先端を位置させ、プラズマ放出部20から凹部表面82に向けてプラズマを放出する。そして、ノズル回動部70により、プラズマ放出ノズル1を凹部表面82に沿って回動させることで、図5(b)に示すように、凹部表面82の全域にプラズマ処理を施す。これにより、図5(c)に示すように、凹部81に注型材83を流し込むことにより型成形する際に、プラズマ処理を施した凹部表面82と注型材83とが固着することが防止される。
【0021】
さらに、本実施形態1のプラズマ放出ノズル1を用いたプラズマ処理の第2の態様について、図6(a)~図6(d)を用いて説明する。
本プラズマ処理形態における処理対象として、図6(a)に示すように、上端が開口したケース84を用いる。当該ケース84の側壁上端には凸状のリブ85が全周にわたって形成されている。本プラズマ処理形態では、まず、図6(b)に示すように、リブ85の側方にプラズマ放出ノズル1の先端を位置させ、プラズマ放出部20からリブ85に向けてプラズマを放出する。そして、リブ85に沿って移動させることで、リブ85の表面86の全域にプラズマ処理を施す。これにより、図6(c)に示すようにケース84の開口を覆うように蓋87を取り付けた際に、図6(d)に示すように蓋87の外縁のシール溝88に充填されたシール剤89とプラズマ処理が施されたリブ85の表面との接着状態が改善されシール性を向上することができる。
【0022】
さらに、本実施形態1のプラズマ放出ノズル1を用いたプラズマ処理の第3の態様について、図7(a)~図7(c)を用いて説明する。
本プラズマ処理形態における処理対象として、図7(a)に示すように、プリント基板90の上にはんだ92を介して載置された、はんだリフロー前のICチップ91を用いる。本プラズマ処理形態では、まず、図7(b)に示すように、ICチップ91の側方にプラズマ放出ノズル1の先端を位置させ、プラズマ放出部20からICチップ91とプリント基板90との隙間93に向けてプラズマを放出する。そして、プラズマ放出ノズル1をICチップ91の外周に沿って移動させることで隙間93にプラズマを送り込んで、隙間93内に位置するプリント基板90の上面、ICチップ91の裏面及びはんだ92の表面にプラズマ処理を施す。これにより、プリント基板90の上面、ICチップ91の裏面及びはんだ92の表面の濡れ性が向上するため、図7(c)に示すように、ディスペンサー94により隙間93にアンダーフィルを充填する際に、アンダーフィルを隙間93に確実に浸透させることができる。その結果、はんだリフロー後の冷熱によるクラックの発生を抑制することができる。
【0023】
次に、本実施形態1のプラズマ放出ノズル1についての比較試験1を行った。
比較試験1では、比較形態1として、図8(b)に示すプラズマ放出ノズル200を用いた。プラズマ放出ノズル200では、プラズマ流路10がプラズマ放出部220に向かうにしたがって湾曲しており、プラズマ放出部220は図8(a)に示す本実施形態1の場合と同様の方向に開口して、プラズマ放出方向L3にプラズマを放出するように構成されている。
【0024】
比較試験1は、日本産業規格JISK6850:1999に規定する接着剤-剛性被着材の引張せん断接着強さ試験方法に基づいて行った。図9に示すように、樹脂板97、98を接着剤によりなる接着層99により接合した。試験例では本実施形態1のプラズマ放出ノズル1を用いて樹脂板97、98の接合面97a、98aにプラズマ処理をし、比較例1では比較形態1のプラズマ放出ノズル200を用いて接合面97a、98aにプラズマ処理をした。そして、樹脂板97をD1方向に引っ張るとともに、樹脂板98をD1方向と反対のD2方向に引っ張った。なお、D1方向及びD2方向はともに樹脂板97、98の面方向に平行となっている。当該比較試験1は、株式会社島津製作所社製オートグラフ(型番AG-100kNG)を用いて行った。
【0025】
比較試験1によれば、試験例1では引張荷重を増加すると接着層99が破壊されて樹脂板97、98の両方の表面に破壊された接着層99が残存した状態となった。一方、比較例1では、引張荷重を増加すると接着層99は破壊されずに樹脂板97、98の一方の表面から接着層99が剥離した状態となった。これらの結果から、試験例1における接着層99と樹脂板97、98との接着力が、比較例1の場合よりも上昇していることが確認できた。
【0026】
このような結果となったことについて、以下のように推察される。図8(b)に示すように、比較例1では、プラズマ流路210を流通するプラズマは、符号Pで示すように、湾曲するプラズマ流路210の壁面に繰り返し衝突する。その結果、プラズマの活性種の失活が促進され、樹脂板97、98のプラズマ処理が十分に行われなかったと推察される。一方、図8(a)に示すように、試験例1では、プラズマ流路10にガスが流通することにより平面部13付近においてガスの対流が生じるため、プラズマ流路10を流通するプラズマは当該対流によってプラズマ放出部20からプラズマ放出方向L2に放出される。これにより、プラズマが壁面に衝突しにくくなり、活性種の失活が抑制され、その結果、比較例1に比べて樹脂板97、98のプラズマ処理が十分に行われたと推察される。
【0027】
さらに、本実施形態1のプラズマ放出ノズル1についての比較試験2を行った。
比較試験2では、比較形態2として、図8(b)に示すプラズマ放出ノズル300を用いた。プラズマ放出ノズル300では、プラズマ流路310がプラズマ放出部320に向かって直線状に形成されており、プラズマ放出部320はプラズマの流通方向L1にプラズマを放出するように構成されている。
【0028】
比較試験2において、試験例2では、図10(a)に示すように、本実施形態1のプラズマ放出ノズル1を、プラズマの流通方向L1が樹脂板97、98のプラズマ処理を行う表面98aと平行となるとともに、プラズマ放出部20が表面97a、98a側を向くように表面97a、98aに沿わせて移動しつつプラズマを放出する。比較例2では、図10(b)に示すように、比較形態2のプラズマ放出ノズル300プラズマの流通方向L1が樹脂板97、98の表面97a、98aと平行となるように表面97a、98aに沿わせて移動しつつプラズマを放出する。このようにしてプラズマ処理を施した樹脂板97、98を比較試験1と同様に、図9に示すように、引張せん断接着強さ試験を行った。
【0029】
比較試験2においても、試験例2では引張荷重を増加すると接着層99が破壊されて樹脂板97、98の両方の表面に破壊された接着層99が残存した状態となった。一方、比較例2では、引張荷重を増加すると接着層99は破壊されずに樹脂板97、98の一方の表面から接着層99が剥離した状態となった。これらの結果から、試験例2における接着層99と樹脂板97、98との接着力が、比較例2の場合よりも上昇していることが確認できた。
【0030】
さらに、本実施形態1のプラズマ放出ノズル1についての比較試験3を行った。
比較試験3において、試験例3では、図11(a)に示す断面図及び図11(b)に示す上面図のように、本実施形態1のプラズマ放出ノズル1を用いて、深いバスタブ形状の凹部81を有する樹脂ケース80に対して、ノズル回動部70により、プラズマ放出ノズル1を凹部表面82に沿って回動させつつプラズマ放出部20から凹部表面82に向けてプラズマを放出し、凹部表面82の全域にプラズマ処理を施す。
【0031】
一方、比較例3では、図11(c)に示す断面図及び図11(d)に示す上面図のように、比較形態2のプラズマ放出ノズル300を用いて、樹脂ケース80の凹部81の底部に向けてプラズマ放出部320からプラズマを放出し、凹部表面82の全域にプラズマ処理を施す。そして、図5(c)に示す場合と同様に試験例3及び比較例3において凹部81に注型材を充填し、注型材と樹脂ケース80との間の引張せん断接着強さ試験を比較試験1と同様に行った。
【0032】
比較試験3においても、試験例3では引張荷重を増加すると凹部81内の注型材が破壊されて凹部表面82に破壊された注型材が残存した状態となった。一方、比較例2では、引張荷重を増加すると注型材は破壊されずに凹部表面82から接着層99が剥離した状態となった。これらの結果から、試験例3における注型材と凹部表面82との接着力が、比較例3の場合よりも上昇していることが確認できた。
【0033】
次に、本実施形態1のプラズマ放出ノズル1における作用効果について、詳述する。
本実施形態1のプラズマ放出ノズル1によれば、プラズマ放出部20は、プラズマ流路10におけるプラズマの流通方向L1と異なる方向L2にプラズマを放出するように構成されている。これにより、プラズマ放出ノズル1を用いれば、複雑に入り組んだ被処理物の表面にプラズマ処理を施す際に、ロボットアームを用いる場合に比べて移動範囲が制限されにくいため、複雑に入り組んだ部位や狭い溝形状の部位にプラズマ処理を施すことができる。また、当該プラズマ放出ノズル1を用いれば、ロボットアームを用いる必要がないため、低コスト化を図ることができる。
【0034】
また、本実施形態1では、プラズマ放出部20は、プラズマ流路10におけるプラズマの流通方向L1とプラズマの放出方向L2とのなす角Aが、流通方向L1の前方側において5°~90°の範囲内となるようにプラズマを放出するように構成されている。これにより、複雑に入り組んだ部位や狭い溝形状の部位にプラズマ処理をより施しやすくなる。
【0035】
また、本実施形態1では、プラズマ流路10は、筒体11により構成され、筒体11の一方の端部には、プラズマを流入させるプラズマ流入部12が設けられており、筒体11の他方の端部には、流通方向L1に対向する平面を有する平面部13と、筒体11の外方に開口してなるプラズマ放出部20とが設けられている。これにより、流通方向L1を流通するプラズマの流れ方向を平面部13によってプラズマ放出方向L2に変えてプラズマ放出部20からプラズマを放出することができ、プラズマの活性種の失活を抑制することができる。
【0036】
また、本実施形態1では、平面部13に平行な平面方向と流通方向L1とがなす角度Bが、流通方向前方において、0°よりも大きく90°以下の範囲内である。これにより、簡易な構成でプラズマをプラズマ放出部20からプラズマ放出方向L2に放出することができる。
【0037】
また、本実施形態1では、プラズマ処理装置100は、プラズマ処理装置用のプラズマ放出ノズル1と、プラズマ放出ノズル1を保持するノズル保持部55と、プラズマを生成するプラズマ生成部60とを備える。そして、プラズマ放出ノズル1を、ノズル保持部55に保持された状態でプラズマ流路10の軸線10aを中心に回動させるノズル回動部70を有する。これにより、プラズマ放出方向L2を軸線10aを中心に回動されることができ、複雑に入り組んだ部位や狭い溝形状の部位にプラズマ処理を一層施しやすくなる。
【0038】
本実施形態1のプラズマ放出ノズル1では、プラズマ放出部20が一つ設けられていたがこれに限らず、プラズマ放出部20が複数設けられていてもよい。例えば、図12(a)~(c)に示す変形形態1のように、筒体11の周面に等間隔に4つのプラズマ放出部20を設けてもよい。当該変形形態1では、プラズマ放出部20はいずれも円形に開口した開口部からなる。そして、各プラズマ放出部20からプラズマが放出されるように構成されている。プラズマ放出部20を形成する開口部の開口径は特に限定されないが、本変形形態1では筒体11の直径を5mmとしたとき、当該開口径は1~2mmとすることができる。本変形形態1によれば、図12(b)に示すように、プラズマが軸線10aを中心に4方向に放射状に放出されることとなるため、図12(c)に示すように、深いバスタブ形状の凹部81を有する樹脂ケース80における凹部表面82をプラズマ処理するのに適する。なお、変形形態1においても、本変形形態1と同等の作用効果を奏する。
【0039】
また、図13に示す変形形態2のように、筒体11の周面に等間隔に2つのプラズマ放出部20を設けてもよい。当該変形形態2においても変形形態1と同様の作用効果を奏する。
【0040】
また、本実施形態1のプラズマ放出ノズル1では、平面部13と軸線10aとのなす角Bを90°としたが、これに替えて、図14(a)に示す変形形態3のように、当該なす角bを60°としてもよい。当該変形形態3によれば、図14(b)に示すように、凸状のリブ85などに表面86にプラズマ処理をする際に適する。当該変形形態3においても実施形態1と同様の作用効果を奏する。
【0041】
以上のごとく、上記実施態様及び変形形態によれば、複雑に入り組んだ被処理物の表面にプラズマ処理を施すことができるプラズマ処理装置用のプラズマ放出ノズル1を、低コストで提供することができる。
【0042】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 プラズマ放出ノズル
10 プラズマ流路
10a 軸線
11 筒体
12 プラズマ流入部
13 平面部
20 プラズマ放出部
55 ノズル保持部
60 プラズマ生成部
70 ノズル回動部
71 回動制御部
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