(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】制御装置、および制御方法
(51)【国際特許分類】
B25J 19/06 20060101AFI20240116BHJP
【FI】
B25J19/06
(21)【出願番号】P 2020143876
(22)【出願日】2020-08-27
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100155712
【氏名又は名称】村上 尚
(72)【発明者】
【氏名】寧 霄光
(72)【発明者】
【氏名】菅野 重樹
(72)【発明者】
【氏名】和田 智博
(72)【発明者】
【氏名】坂本 義弘
【審査官】樋口 幸太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/001658(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/033583(WO,A1)
【文献】特開2009-107622(JP,A)
【文献】特開2020-49552(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品を保持するための保持機構を有して前記物品を移動させるロボットの動作速度を制御する制御装置であって、
前記ロボットの位置と人または物体の位置とから、接触を予測する予測部と、
前記予測部にて接触が予測された場合、非常停止をする前記ロボットの減速の加速度を、
前記保持機構が前記物品を保持しているか否かに応じて変更する加速度変更部と、を備える制御装置。
【請求項2】
前記加速度変更部は、前記物品が有る場合、前記物品が無い場合より、前記減速の加速度をより小さくする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記加速度変更部は、前記物品が有る場合、前記物品が無い場合より、減速開始タイミングをより早くする請求項1または2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記加速度変更部は、非常停止をする前記ロボットの前記減速の加速度を、前記物品の種類に応じて変更する請求項1から3のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項5】
物品を移動させるロボットの動作速度を制御する制御装置であって、
前記ロボットの位置と人または物体の位置とから、接触を予測する予測部と、
前記予測部にて接触が予測された場合、非常停止をする前記ロボットの減速の加速度を、前記物品の有無に応じて変更する加速度変更部と、を備え、
前記加速度変更部は、前記物品の保持状態に応じて、非常停止をする前記ロボットの減速中に、前記減速の加速度を減少させる
制御装置。
【請求項6】
前記加速度変更部は、前記物品の保持状態に応じて、前記減速の加速度を減少させた後、接触を回避するために停止すべき停止タイミングまでに前記ロボットが停止できるよう、前記減速の加速度を増加させる請求項5に記載の制御装置。
【請求項7】
前記加速度変更部は、前記ロボットの最高速度から減速した想定で、前記ロボットの減速開始タイミングを決定する請求項1から6のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項8】
前記予測部にて接触が予測された場合、前記加速度変更部は、現在の前記ロボットの動作速度から前記動作速度を上昇させない請求項1から6のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項9】
物品を保持するための保持機構を有して前記物品を移動させるロボットの動作速度を制御する制御方法であって、
前記ロボットの位置と人または物体の位置とから、接触を予測する予測ステップと、
前記予測ステップにて接触が予測された場合、非常停止をする前記ロボットの減速の加速度を、
前記保持機構が前記物品を保持しているか否かに応じて変更する加速度変更ステップと、を含む制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロボットの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
作業者がロボットと共同して作業を行うロボット装置が知られている。作業者の安全性の担保のために、作業者がロボットの作業範囲に侵入したことをレーザースキャナーなどにより検知した場合、ロボットは即時停止することが一般的である。
【0003】
頻繁に即時停止していると生産性が低くなりすぎるため、作業者とロボットが接触しない範囲で協働することが求められている。特許文献1には、ロボットと周囲の物との間の最短距離に応じて、動作速度を制限速度以下に制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来技術では、ロボットが保持する物品(ワーク)についてなんら考慮がされていない。作業者との接触回避のための非常停止時には、ロボットが急制動するため、ロボットが保持する物品もしくはその内容物に慣性力によって過大な力を加え、物品を破損させることがある。
【0006】
本発明の一態様は、物品を移動させるロボットと作業者との接触を回避し、かつ物品への影響を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る制御装置は、物品を移動させるロボットの動作速度を制御する制御装置であって、前記ロボットの位置と人または物体の位置とから、接触を予測する予測部と、前記予測部にて接触が予測された場合、非常停止をする前記ロボットの減速の加速度を、前記物品の有無に応じて変更する加速度変更部と、を備える。
【0008】
上記の構成によれば、物品の有無に応じて減速の加速度を変更するため、非常停止による物品への影響を低減することができる。
【0009】
前記加速度変更部は、前記物品が有る場合、前記物品が無い場合より、前記減速の加速度をより小さくてもよい。
【0010】
上記の構成によれば、物品がある方が減速の加速度を小さくすることができ、例えば慣性力によって物品が脱落または破損するリスクを低減することができる。
【0011】
前記加速度変更部は、前記物品が有る場合、前記物品が無い場合より、減速開始タイミングをより早くしてもよい。
【0012】
上記の構成によれば、物品の有無に応じて可能な限り作業を継続させることで、生産性を向上させることができる。
【0013】
前記加速度変更部は、非常停止をする前記ロボットの前記減速の加速度を、前記物品の種類に応じて変更してもよい。
【0014】
上記の構成によれば、物品の種類に応じて減速の加速度を変更することができる。そのため、慣性力を物品(質量、または強度等)に合わせて調整することができ、物品の脱落または破損するリスクを低減することができる。
【0015】
前記加速度変更部は、前記物品の保持状態に応じて、非常停止をする前記ロボットの減速中に、前記減速の加速度を減少させてもよい。
【0016】
上記の構成によれば、保持状態が悪ければ、減速の加速度を減少させて慣性力を低減することで、物品の脱落を防ぐことができる。
【0017】
前記加速度変更部は、前記物品の保持状態に応じて、前記減速の加速度を減少させた後、接触を回避するために停止すべき停止タイミングまでに前記ロボットが停止できるよう、前記減速の加速度を増加させてもよい。
【0018】
上記の構成によれば、一度減速の加速度を減少させた場合でも、その後に減速の加速度を増加させることで、遅くとも停止タイミングまでにロボットが停止できるよう制御することができる。
【0019】
前記加速度変更部は、前記ロボットの最高速度から減速した想定で、前記ロボットの減速開始タイミングを決定してもよい。
【0020】
上記の構成によれば、ロボットの最高速度基準で算出するため、どんな状況でも停止することができる減速開始タイミングを決定することができる。
【0021】
前記予測部にて接触が予測された場合、前記加速度変更部は、現在の前記ロボットの動作速度から前記動作速度を上昇させない構成であってもよい。
【0022】
上記の構成によれば、予測部によって接触を予測してから、動作速度を上昇させる速度プロファイルを禁止することができ、計画した減速開始タイミングからの減速で、停止タイミングまでに停止することができるようになる。
【0023】
本発明の一態様に係る制御方法は、物品を移動させるロボットの動作速度を制御する制御方法であって、前記ロボットの位置と人または物体の位置とから、接触を予測する予測ステップと、前記予測ステップにて接触が予測された場合、非常停止をする前記ロボットの減速の加速度を、前記物品の有無に応じて変更する加速度変更ステップと、を含む。
【0024】
本発明の各態様に係る制御装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記制御装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記制御装置をコンピュータにて実現させる制御装置の予測プログラム、加速度変更プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0025】
本発明の一態様によれば、物品を移動させるロボットと作業者との接触を回避し、かつ物品への影響を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施形態1に係る制御システムの要部の構成を示すブロック図である。
【
図2】ロボットと障害物との位置関係の概要を示す図である。
【
図3】実施形態1に係る制御システムの動作を示すフローチャートである。
【
図4】実施形態1に係るアームの動作速度を示すグラフである。
【
図5】実施形態2に係る制御システムの要部の構成を示すブロック図である。
【
図6】実施形態2に係る制御システムの動作を示すフローチャートである。
【
図7】実施形態2に係る保持状態が悪化してから良化した場合でのアームの動作速度を示すグラフである。
【
図8】実施形態2に係る保持状態が悪化したまま減速した場合でのアームの動作速度を示すグラフである。
【
図9】変形例に係る制御システムの要部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。
【0028】
〔実施形態1〕
以下、実施形態1の制御システムについて説明する。説明の便宜上、実施形態1にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、以降の各実施形態では、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。また、簡潔化のため、公知技術と同様の事項についても、説明を適宜省略する。
【0029】
§1 適用例
ロボットと作業者とが協働する場合において、ロボットおよび障害物の動作を予測することで、両者の接触を回避することができる。両者が接触するタイミングを予め予測し、減速の加速度を決定することで、当該接触するタイミングまでにロボットが停止できるように減速を開始することができる。
【0030】
ロボットがワークを搬送していた場合、急制動で停止すると慣性力により、ワークまたはその内容物を破損させるリスクがある。そこで、ワークの有無により減速の加速度を変更することで、ワークの破損リスクを低減することができる。
【0031】
§2 構成例
図1は、実施形態1に係る制御システム101の要部の構成を示すブロック図である。
図2は、ロボットと障害物との位置関係の概要を示す図である。制御システム101は、ロボットコントローラ1(制御装置)およびロボット2を備える。
【0032】
ロボットコントローラ1は、制御部10と、記憶部21と、駆動部22とを備える。ロボット2は、アーム31と、距離センサ32と、在荷センサ33とを備える。
【0033】
制御部10は、ロボットコントローラ1の各部を統括的に制御する。制御部10は、予測部11と、加速度変更部12と、距離取得部14と、在荷情報取得部15と、を備える。
【0034】
アーム31は、多軸(多関節)のロボットアームである。アーム31は、ワーク3(物品)の把持機構または真空吸着機構を備える。ロボット2は、アーム31によってワーク3を移動させる固定されたロボットである。
【0035】
距離センサ32は、アーム31の可動範囲に障害物4(作業者または物体)が侵入してくることを検知する機能を持つセンサである。距離センサ32は、距離センサ32と障害物4との間の距離を検知することにより、障害物4の位置を特定する。距離センサ32は、取得した距離センサ32と障害物4との間の距離の情報を、ロボットコントローラ1に送信する。すなわち、距離センサ32は、障害物4の位置の情報をロボットコントローラ1に送信する。距離センサ32は、レーザースキャナー、カメラ、ライトカーテン、マットスイッチなどであってもよい。距離センサ32で取得した障害物4の位置の情報を、ロボットコントローラ1に送信する。
【0036】
在荷センサ33は、例えばアーム31に取り付けられたセンサであり、アーム31がワーク3(物品)を把持しているか否かを判別するセンサである。在荷センサ33は、ワーク3の有無をロボットコントローラ1に送信する。アーム31が把持機構を備える場合、在荷センサ33は、把持機構がワーク3に加える力を測定する力センサであってもよい。アーム31が真空吸着機構を備える場合、在荷センサ33は、吸引経路に設けられた圧力センサであってもよい。在荷センサ33は、ワーク3を検出する近接センサ、または温度によってワーク3の有無を検知する温度センサ、またはワーク3を撮像するカメラであってもよい。
【0037】
距離取得部14は、所定の周期で距離センサ32から、距離センサ32と障害物4との間の距離の情報、すなわち障害物4の位置の情報を取得する。距離取得部14は、障害物4の位置の情報を、予測部11に出力する。
【0038】
予測部11は、アーム31の位置の情報と障害物4の位置の情報とに基づいて、アーム31と障害物4との接触を予測する。ロボットコントローラ1の制御部10は、アーム31を制御しているので、アーム31の位置の情報を持っている。予測とは、現在までに取得した状態(アーム31の位置および障害物4の位置の時間履歴)を基に、一定時間経過後のあるタイミングにおけるアーム31と障害物4との状態(位置および速度)を予測することである。予測部11は、予測結果を加速度変更部12に出力する。例えば、予測した結果、アーム31と障害物4とが接触する場合、予測部11は、接触が予測されることと、接触する時刻(接触予測タイミング)とを加速度変更部12に出力する。
【0039】
在荷情報取得部15は、在荷センサ33から、アーム31が移動させているワーク3の有無およびワーク3の種類の情報を取得する。在荷情報取得部15は、ワーク3の有無およびワーク3の種類の情報を、加速度変更部12に出力する。
【0040】
加速度変更部12は、接触が予測されるか否かと接触予測タイミングを基に、アーム31の加速度を決定する。判断にあたっては、在荷センサ33によって取得したワーク3の有無およびワーク3の種類の情報を用いる。加速度変更部12は、ワーク3の有無に応じて、非常停止するアーム31の減速の加速度を変更する(異ならせる)。加速度変更部12は、決定したアーム31の加速度を駆動部22に出力する。
【0041】
記憶部21は、ロボットコントローラ1でのメモリ、およびプログラムを含む記憶領域である。また、記憶部21は、ワーク3の種類ごとに、あらかじめ定められた非常停止時の減速の加速度、ならびに、ワーク3の質量、形状、硬さ及び温度などのパラメータを記憶している。
【0042】
駆動部22は、決定された加速度に従い、実際にアーム31を駆動する。駆動部22には、モータドライバに加え、当該モータドライバへの指令値を作る回路部も含まれる。
【0043】
本実施形態では、アーム31の制御をロボットコントローラ1が実施するが、PLCがロボットコントローラ1の機能を有していても構わない。
【0044】
§3 動作例
図2において、実線で示す範囲41は、制御システムが障害物4を検知する範囲である。この中に障害物4が侵入することで、予測部11は、予測を行う。範囲(障害物検知範囲)41の内側に破線で示す範囲42はあり、アーム31がワーク3を把持している場合において、障害物4が範囲42に侵入した場合、減速を開始する。範囲42の内側に一点鎖線で示す範囲43はあり、アーム31がワーク3を把持していない場合において、障害物4が範囲43に侵入した場合、減速を開始する。
【0045】
範囲42および範囲43は理解しやすいよう疑似的に示した範囲であり、実際にはアーム31の動作の予測結果と、障害物4の動作の予測結果とから、接触予測タイミングが特定される。例えば、範囲41に障害物4が侵入した場合に、障害物4の動作を予測した結果、範囲42または範囲43に障害物4が侵入するであろうタイミングに減速が開始される。
【0046】
図3は、実施形態1に係る制御システム101の動作を示すフローチャートである。
図4は、実施形態1に係るアーム31の動作速度の一例を示すグラフである。
図4において、横軸は時間、縦軸はアーム31の動作速度である。
【0047】
S11において、距離取得部14は、距離センサ32を用いて、障害物検知範囲41に入る障害物4を検知し、予測部11に出力する。予測部11は、アーム31(ロボット2)と障害物4とが未来において接触するか否かを判定する。予測部11は、現在の状況(現在のアーム31および障害物4の位置)及び、記憶部21に保存されている過去の状況(現在までのアーム31および障害物4の位置の履歴)を基に、アーム31および障害物4の動作予測を行う。接触しないと予測された場合(S11でNo)、処理をS11に戻し、ループする。接触すると予測された場合(S11でYes)、処理をS12に遷移する。また、現在時刻をt0とし処理開始タイミングとする。
【0048】
S12において、予測部11は、接触を回避するためにアーム31を停止すべき停止タイミングte(停止時刻)を得る。停止タイミングteは、障害物4がアーム31およびワーク3の可動範囲に安全距離を加味した範囲に入る直前のタイミングとして、予測部11によって特定される。停止タイミングの特定にあたっては、アーム31と障害物4とを含めたシステムとしてのリスクアセスメントを行い、その結果を考慮した予測を予測部11によって行う。
【0049】
S13において、在荷情報取得部15は、在荷センサ33を用いてアーム31が把持するワーク3の有無を判定し、判定した結果を加速度変更部12に出力する。ワーク3がない場合(S13でNo)、S14に遷移し、加速度変更部12はアーム31の非常停止のための減速の加速度をD0とする。ワーク3がある場合(S13でYes)、S15に遷移し、加速度変更部12はアーム31の非常停止のための減速の加速度をD1とする。ここで、|D1|<|D0|の関係があり、ワーク3を把持していない場合の方が、より大きな加速度で減速するように設定される。なお、D1とD0とで減速の加速度の方向(符号)は同じであり、ここでは加速度の絶対値の大小関係を述べている。加速度D1、D0は、アーム31を停止させる方向に働く。
【0050】
ワーク3がない場合での減速の加速度D0は、アーム31の非常停止時の減速の加速度である、最大の減速の加速度を用いてもよい。対して、ワーク3がある場合での減速の加速度D1は、事前にワーク3を破損させないように設定した減速の加速度である。このように、加速度変更部12は、非常停止をするアーム31の減速の加速度を、ワーク3の有無に応じて異なるものに変更する。
【0051】
S16において、
図4に示すように、加速度変更部12は特定された減速の加速度D
0またはD
1並びに、停止タイミングt
eを用いて、減速開始タイミングt
s0またはt
s1を算出する。ここで、t
s0はワーク3がない場合での減速開始タイミングであり、t
s1はワーク3がある場合での減速開始タイミングである。ワーク3がある場合、減速の加速度の絶対値がより小さいため、停止までに掛かる時間がより長くなる。それゆえ、ワーク3がある場合、加速度変更部12は、ワーク3がない場合より早い減速開始タイミングで減速を開始させる。
【0052】
減速開始タイミングの算出にあたっては、現在のアーム31の動作速度を基準に算出するのではなく、最高速度VrMAXを基に算出してもよい。これは、現在の動作速度よりも高い最高速度であっても、減速して停止できるように、安全側で考えるためである。
【0053】
S17において、減速開始タイミングts0またはts1までアーム31の動作を継続する。
【0054】
S18において、ワーク3の有無に合わせた減速開始タイミングであるts0またはts1までに再度、予測部11は、アーム31と障害物4とが未来において接触するか否かを判定する。障害物4の移動速度または移動方向が変化しているかもしれないためである。その結果、接触しないと予測された場合(S18でNo)、S11に戻りアーム31を非常停止することなく処理を継続する。対して、接触すると予測された場合(S18でYes)、S19に遷移する。
【0055】
S19において、ワーク3の有無に合わせた減速開始タイミングであるts0またはts1に、加速度変更部12は、ワーク3の有無に応じた減速の加速度D1またはD0で、アーム31の非常停止のための減速を開始する。実際の減速動作としては、加速度変更部12の指令値に従い駆動部22がアーム31を減速し、停止させる。例えば、減速開始後、障害物4の移動速度が変化し、接触しないと予測された場合でもアーム31は減速し、停止させる。
【0056】
なお、S13~S15の処理は、S11より前に行ってもよい。
【0057】
§4 作用・効果
本実施形態の制御システム101では、ロボット2と障害物4との接触が予測された場合、予測部11は障害物4とアーム31とが安全距離を担保して停止できる停止タイミングteを算出する。その後、アーム31が最高速度VrMAXで動作していても停止タイミングteに停止できるように、減速開始タイミングts0またはts1から減速を開始することができる。
【0058】
また、本実施形態の制御システム101では、ワーク3の有無に応じて、減速の加速度を変更することができる。ワーク3の有無に応じて、減速開始タイミングを変更する。ワーク3がある場合、非常停止のための減速の加速度の絶対値をより小さくすることで、ワーク3に作用する力を小さくする。それゆえ、非常停止の減速によるワーク3への影響を低減し、減速時の慣性力によるワーク3の破損を防ぐことができる。減速開始タイミングの算出にあたっては、ロボットの最高速度から減速する場合を考慮して算出することで、安全に停止できるようになる。
【0059】
また、障害物4が一度、接触すると予測された場合でも、減速開始タイミングts0またはts1の前に状況が変化し、接触しないと予測が変わった場合、ロボット2は動作を継続することができる。そのため、本実施形態の制御システム101では、障害物4とアーム31が安全距離を担保して接触する直前まで減速しないとすることができ、生産性を向上させることができる。また、ワーク3がない場合、ワーク3がある場合よりも減速開始タイミングを遅くする。これにより、ロボット2は、ワーク3の有無に応じて可能な限り作業を継続することができ、生産性を向上させることができる。
【0060】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。
【0061】
図5は、実施形態2に係る制御システム102の要部の構成を示すブロック図である。制御システム102は、ロボットコントローラ5およびロボット6を備える。
【0062】
ロボットコントローラ5は、ロボットコントローラ1とは、制御部10の代わりに制御部10aを備える点が異なる。制御部10aは、制御部10の構成に加え、状態判定部13および状態取得部16を備える点が、制御部10と異なる。ロボット6は、ロボット2の構成に加え、把持力センサ34を備える点がロボット2と異なる。
【0063】
把持力センサ34は、アーム31がワーク3の保持状態を示すセンサである。例えば、アーム31(の先端のエンドエフェクタ)がワーク3を挟み込む場合では、把持力センサ34はロードセルでもよく、アーム31がワーク3を真空吸着する場合では、把持力センサ34は圧力センサでもよい。把持力センサ34はこれらに限定されず、ワーク3の保持状態を検出するセンサであればよい。保持状態とは、ワーク3がしっかりと保持されているか、落下させる可能性はないかなどの、保持の良好さを示す指標である。例えば、真空吸着する場合では、吸引経路の圧力が所定値より低ければ(すなわち吸着圧(負圧)が所定値より大きければ)、保持状態は良好である。ワーク3を挟み込む場合では、把持力が所定値より大きければ、保持状態は良好である。また、所定期間における把持力の最大値と最小値の差が所定値より大きく、ワーク3が振動していることを示していれば、保持状態は悪い。
【0064】
状態取得部16は、把持力センサ34を用いて、ワーク3の保持状態(センサ値)を取得する。状態取得部16は、取得した保持状態を状態判定部13に出力する。
【0065】
状態判定部13は、状態取得部16で取得した保持状態を基に、アーム31の非常停止時の減速の加速度を調整する機能をもつ。状態判定部13は、加速度変更部12からアーム31の減速の加速度を取得する。状態判定部13は、加速度変更部12によって調整されたアーム31の加速度を、ワーク3の保持状態に応じて変更する。具体的には、保持状態が悪い場合、ワーク3を落下させないように減速の加速度の絶対値を小さくする。
【0066】
図6は、実施形態2に係る制御システム102の動作を示すフローチャートである。
図7は、実施形態2に係る保持状態が悪化してから良化した場合でのアーム31の動作速度を示すグラフである。
図8は、実施形態2に係る保持状態が悪化したまま減速した場合でのアーム31の動作速度を示すグラフである。
図7、8において、横軸は時間、縦軸はアーム31の動作速度である。なお、本実施形態では、加速度変更部12は、接触が予測された場合、アーム31の動作速度をt
0時点の速度V
r(t
0)より上昇させない。最高速度V
rMAXではなく、アーム31がt
0時点の速度V
r(t
0)で動作し続けると想定して、停止開始タイミングt
s1,t
s0は決定される。
【0067】
図6において、S11~S19は
図3と同じであるが、
図6ではS19以降に処理S21~S23が追加される。
【0068】
S21において、状態取得部16で把持力センサ34を用いて、保持状態を取得し、状態判定部13に出力する。状態判定部13は、取得した保持状態を基に、ワーク3の保持状態を判定する。保持状態が悪い場合(S21でNo)、S22に遷移し、保持状態が良い場合(S21でYes)、S23に遷移する。
【0069】
S22において(保持状態が悪い場合)、状態判定部13は、減速の加速度を調整し保持状態に合わせた減速の加速度D2に低下させる。|D2|<|D1|である。すなわち、状態判定部13は、非常停止をするアーム31の減速中に、減速の加速度の絶対値を減少させる。S22の後、S21に戻り、再度保持状態を判定する。
【0070】
S23において(保持状態が良い場合)、状態判定部13は、停止タイミングteまでにアーム31が停止できるかを判断し、停止できる減速の加速度D3に加速度の絶対値を増加させる。|D3|>|D1|である。ただし、減速の加速度D1で停止タイミングteまでにアーム31が停止できる場合、|D3|=|D1|としてよい。
【0071】
すなわち、保持状態が悪い場合、状態判定部13は、減速の加速度を減少させ、慣性力を弱めるようにするが、その状態を維持すると、停止タイミングteに停止することができなくなる。そのため、保持状態が良くなってきた時点で、状態判定部13は、減速の加速度を増加させ、停止タイミングteにアーム31が停止できるように調整する。
【0072】
図7において、ワーク3があった場合(
図7において実線)、時刻t
0からt
m1の間は減速の加速度D
1で減速しており、この間保持状態は良好である。時刻t
m1において、保持状態が悪化したため、時刻t
m1において減速の加速度をD
2に減少させ、慣性力を弱めるようにする。その結果、時刻t
m2にワーク3の保持状態は良化し、安定して把持できる状態になったため、停止タイミングt
eに停止できるように、時刻t
m2から時刻t
eにかけて減速の加速度をD
3に増加させる。ここで、減速の加速度には、|D
0|≧|D
3|>|D
1|>|D
2|の関係がある。
【0073】
また、
図8において、ワーク3があった場合(
図8において実線)、時刻t
m1に保持状態が悪化したため、時刻t
m1において減速の加速度をD
2に減少させたが、保持状態が良化しなかった場合に関して示す。一度保持状態が悪くなってから、ワーク3がなかった場合での減速カーブ(
図8における破線)上に乗る時刻t
m3においても、保持状態が良化していなかった場合、時刻t
m3から時刻t
eにかけて、最大の減速の加速度D
0で減速し、停止タイミングt
eまでに停止する。これは、ワーク3の破損よりも障害物4の安全確保を優先し、非常停止動作をするためである。ここで、減速の加速度には、|D
0|>|D
1|>|D
2|の関係がある。
【0074】
したがって、保持状態に合わせて、減速の加速度を調整し慣性力を弱め、ワーク3を破損させずにアーム31を減速停止させることができる。また、現在の減速の加速度が小さく、停止タイミングに停止できない場合は、非常停止動作での最大の減速の加速度に変更し、障害物への接触を回避することができる。
【0075】
なお、S23の後、再度S21に戻ってもよい。把持状態に応じて、減速の加速度の増減を繰り返し調整してもよい。ただし、上述のように、減速カーブが、ワーク3がなかった場合での減速カーブ(
図8における破線)を右に超えないようにする。
【0076】
〔変形例1〕
在荷センサ33は複数設けられていてもよい。また、在荷センサ33によってワーク3の種類を判定してもよい。加速度変更部12は、ワーク3の種類毎に異なる減速の加速度を設定してもよい。例えば、ワーク3の質量が大きければ、減速の加速度をより小さくしてもよい。例えば、ワーク3の強度が低ければ、減速の加速度をより小さくしてもよい。また、把持しにくいワーク3については、減速の加速度をより小さくしてもよい。これにより、ワーク3の種類毎に脱落または破損を防ぎつつできる限り生産性が高い減速の加速度を設定できる。
【0077】
〔変形例2〕
図9は変形例2に係る制御システム103の要部の構成を示すブロック図である。制御システム103は、ロボットコントローラ1、ロボット7およびPLC8(プログラマブルロジックコントローラ)を備える。ロボット7は、ロボット2に対し、在荷センサ33がなくてもよい点が異なる。
【0078】
PLC8は、制御システム103におけるロボットコントローラ1の上位装置であり、制御システム103の状態を管理する機能を持つ。PLC8は、現在ロボット7がワーク3を把持しているか(把持させているか)の情報を有している。PLC8は、在荷センサ33に代わり、ロボットコントローラ1の在荷情報取得部15に、ワーク3の有無またはワーク種類を通知してもよい。
【0079】
上位装置にあたるPLC8の通知に従いロボットコントローラ1が動作でき、他のシステムとの連携が容易になる利点がある。
【0080】
〔変形例3〕
上述のように、予測部11が、障害物4とアーム31との接触を予測した場合、加速度変更部12は、アーム31の動作速度を上昇させないように制御してもよい。この制御により、停止タイミングまでに、アーム31が停止できるようになる。
【0081】
一方で、予測部11が、障害物4とアーム31との接触を予測した後に、停止開始タイミングの前に、アーム31の動作速度を上昇させてもよい。アーム31の動作速度が上昇した場合、再度予測部11によって、接触を予測してもよい。この再予測により、アーム31の停止が間に合わず接触する事態を回避できるようになる。
【0082】
〔変形例4〕
ロボットコントローラを、多軸のアームを備えるロボット2の代わりに、AGV(Automatic guided vehicle)またはモバイルロボット等のロボットの制御に適用してもよい。すなわち、ワークを搬送するAGVまたはモバイルロボットの非常停止時の減速の加速度を、搬送する(移動させる)ワークの有無に応じて変更してもよい。
【0083】
〔ソフトウェアによる実現例〕
ロボットコントローラ1および5の制御ブロック(特に制御部10、予測部11、加速度変更部12、状態判定部13、距離取得部14、在荷情報取得部15、および状態取得部16)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0084】
後者の場合、ロボットコントローラ1および5は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などをさらに備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
【0085】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0086】
1、5 ロボットコントローラ(制御装置)
2、6、7 ロボット
3 ワーク(物品)
4 障害物(人または物体)
10、10a 制御部
11 予測部
12 加速度変更部
13 状態判定部
14 距離取得部
15 在荷情報取得部
16 状態取得部
31 アーム(ロボット)
101、102、103 制御システム
ts0、ts1 減速開始タイミング
te 停止タイミング