(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】緯糸検知装置
(51)【国際特許分類】
D03D 51/34 20060101AFI20240116BHJP
D03D 47/30 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
D03D51/34 101
D03D47/30
(21)【出願番号】P 2020170916
(22)【出願日】2020-10-09
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100221729
【氏名又は名称】中尾 圭介
(72)【発明者】
【氏名】水野 結介
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-239743(JP,A)
【文献】特開平03-260145(JP,A)
【文献】特開2016-154928(JP,A)
【文献】特開2009-099118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D29/00-51/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1受光部及び第2受光部と、
前記第1受光部の出力信号と前記第2受光部の出力信号との差分を抽出する差分抽出部と、
抽出された前記差分に基づいて緯糸を検知する判定部とを備え、
前記第1受光部は、第1範囲を検知し、
前記第2受光部は、第2範囲を検知し、
前記第1範囲及び前記第2範囲の少なくとも一方は、前記緯糸の飛走しうる領域の一部を含み、
前記第1範囲は、前記緯糸の飛走しうる領域において前記第2範囲と重ならず、
前記第1範囲と前記第2範囲とは、複数の筬羽のうち同一の筬羽を含
み、
前記第1受光部の出力信号を前記筬羽の端部と前記第1範囲との距離に基づいて補正し、及び/または、前記第2受光部の出力信号を前記筬羽の端部と前記第2範囲との距離に基づいて補正し、補正された前記出力信号を前記差分抽出部に供給する補正部をさらに備える、
緯糸検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、緯糸検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エアジェット織機は、複数の筬羽の間に経糸を通し、ノズルからのエア噴射により経糸と直交する方向に緯糸を通すことにより製織を行っている。ここで、所定の緯入れ位置に緯糸を所定タイミングで到達させることが品質の良い織布を織る上で重要である。このため、エアジェット織機には、緯糸の飛走タイミングを検知する飛走センサが設けられている。
【0003】
ここで、ノズル及び筬は、エアジェット織機の前後方向に往復揺動される。この際に筬羽が振動する。このため、飛走センサの出力信号には、緯糸の通過によって変化する信号だけでなく、筬羽の振動に起因する振動周波数成分(以下、「筬羽振動周波数成分」と呼ぶ)が含まれた状態になる。飛走センサの出力信号からこのような筬羽振動周波数成分を除去する手法が以下の特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の手法では、飛走センサの出力信号から、周波数測定回路により筬羽振動周波数を特定する。そして、帯域除去フィルタの除去中心周波数を筬羽振動周波数に設定し、飛走センサの出力信号から筬羽振動周波数成分を除去する必要がある。
【0006】
この手法では、筬羽振動周波数を十分な精度で正確に特定して、帯域除去フィルタの設定を行う必要がある。
このため、装置構成の複雑化、処理時間増大による遅延などの問題が生じる。このため、遅延を生じることなく、簡易な処理と構成とにより、緯糸を安定して検知できる緯糸検知装置が望まれている。
【0007】
本開示は、遅延を生じることなく、簡易な処理と構成とにより、緯糸を安定して検知することが可能な緯糸検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示における緯糸検知装置は、第1受光部及び第2受光部と、第1受光部の出力信号と第2受光部の出力信号との差分を抽出する差分抽出部と、抽出された差分に基づいて緯糸を検知する判定部とを備え、第1受光部は、第1範囲を検知し、第2受光部は、第2範囲を検知し、第1範囲及び第2範囲の少なくとも一方は、緯糸の飛走しうる領域の一部を含み、第1範囲は緯糸の飛走しうる領域において第2範囲と重ならず、第1範囲と第2範囲とは、複数の筬羽のうち同一の筬羽を含む。
【0009】
本開示における緯糸検知装置において、第1受光部の出力信号を筬羽の端部と第1範囲との距離に基づいて補正し、及び/または、第2受光部の出力信号を前記筬羽の端部と前記第2範囲との距離に基づいて補正し、補正された出力信号を差分抽出部に供給する補正部をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、緯糸検知装置において、遅延を生じることなく、簡易な処理と構成とにより、緯糸を安定して検知することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1における緯糸検知装置の構成と検知範囲とを示す概要図である。
【
図2】実施の形態1における緯糸検知装置の受光部と筬羽との関係を示す斜視図である。
【
図3】実施の形態2における緯糸検知装置の構成と検知範囲とを示す概要図である。
【
図4】実施の形態3における緯糸検知装置の構成と検知範囲とを示す概要図である。
【
図5】実施の形態4における緯糸検知装置の構成と検知範囲とを示す概要図である。
【
図6】実施の形態5における緯糸検知装置の構成と検知範囲とを示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、緯糸検知装置の実施の形態につき、図面を用いて説明する。なお、各図において、同一部分には同一番号を付している。
【0013】
実施の形態1.
はじめに、実施の形態1における緯糸検知装置100の構成について、
図1及び
図2を参照して説明する。緯糸検知装置100は、複数の筬羽を有する織機において緯糸の検知に使用される装置である。
図1は、実施の形態1における緯糸検知装置100の構成と検知範囲とを示す概要図である。
図2は、実施の形態1における緯糸検知装置100の飛走センサ110と筬羽10との関係を示す斜視図である。
【0014】
[筬羽の構成]
図1の(a)及び
図2に示されるように、筬羽10は、複数の筬羽10a~10nにより構成されている。
図1の(b)及び
図2に示されるように、筬羽10a~10nそれぞれには、長手方向の中央付近における凸部形状の上顎11と、同じく長手方向の中央付近における凸部形状の下顎12と、上顎11及び下顎12の間の凹部における緯糸の飛走しうる領域13とが設けられている。
【0015】
なお、緯糸の飛走しうる領域13は、筬羽10a~10nそれぞれと直交する方向における、凹部により形成されるハッチングで示される空間である。緯糸は、圧縮エアの噴射により、緯糸の飛走しうる領域13内のいずれかの位置を通り飛走する。以下、緯糸の飛走しうる領域を「緯糸飛走領域」と呼ぶ。従って、緯糸は、筬羽10a~10nに直交するように、緯糸飛走領域13内を飛走する。
【0016】
[緯糸検知装置100の構成]
緯糸検知装置100は、
図1の(c)に示されるように、主に、飛走センサ110、差分抽出部120、及び判定部130を備えている。飛走センサ110は、複数の受光部として、第1受光部111と、第2受光部112とを有する。
【0017】
第1受光部111と第2受光部112とは、独立した2つの受光素子であってもよいし、3つ以上の受光素子のうちの選択された2つの受光素子であってもよいし、複数の受光素子を備えた画像センサの中の異なる受光素子であってもよいし、複数の受光素子を備えた撮像素子の中の検知範囲が同一でない第1領域素子群と第2領域素子群であってもよい。なお、飛走センサ110として、2次元の画像センサだけでなく、1次元のラインセンサを用いることも可能である。飛走センサ110は、第1受光部111と第2受光部112とにより検知される範囲を照射するための発光素子または投光器を備えていてもよい。差分抽出部120は、第1受光部111の出力信号と第2受光部112の出力信号との差分を抽出する。判定部130は、差分抽出部120において抽出された差分に基づいて、緯糸を検知する。
【0018】
[飛走センサ110の検知範囲]
第1受光部111は、第1範囲としての検知範囲111dを検知する。第2受光部112は、第2範囲としての検知範囲112dを検知する。ここで、検知範囲111d及び検知範囲112dの少なくとも一方は、緯糸飛走領域13の一部を含み、検知範囲111dは緯糸飛走領域13において検知範囲112dと重ならず、検知範囲111dと検知範囲112dとは、複数の筬羽10のうち同一の筬羽を含むように設定されている。
図1の(a)に示す具体例において、第1範囲としての第1受光部111の検知範囲111dと、第2範囲としての第2受光部112の検知範囲112dとは、緯糸の飛走方向、すなわち、緯糸飛走領域13の長手方向と直交する方向において異なる位置に設定されている。
【0019】
検知範囲111dと検知範囲112dの少なくとも一方は、緯糸飛走領域13ように設定されている。
図1の(a)に示す具体例において、検知範囲111dは、緯糸飛走領域13に含まれている。第2受光部112の検知範囲112dは、緯糸飛走領域13に含まれていない。
【0020】
検知範囲111d及び検知範囲112dの少なくとも一方は、緯糸飛走領域13の一部を含み、検知範囲111dは緯糸飛走領域13において検知範囲112dと重ならず、検知範囲111dと検知範囲112dは、複数の筬羽10のうち同一の筬羽一部を含むように設定されている。
図1の(a)に示す具体例において、第1受光部111の検知範囲111dと第2受光部112の検知範囲112dとは、同一の筬羽10p~10rの一部を含むように設定されている。
【0021】
[緯糸の検知]
第1受光部111と第2受光部112とにおいて、それぞれの検知範囲111d及び112dは、同一の筬羽10p~10rの一部を含んでいる。このため、それぞれの出力信号は、同じ周波数及び同じ位相の筬羽振動周波数成分を含んでいる。
【0022】
検知範囲111dは、緯糸飛走領域13の一部を含んでいる。このため、第1受光部111の出力信号は、緯糸飛走領域13内の緯糸の通過によって変化する信号成分(以下、「緯糸信号成分」)を含んでいる。
【0023】
検知範囲112dは、緯糸飛走領域13を含んでいない。このため、第2受光部112の出力信号は、緯糸信号成分を含むことはなく、上記の筬羽振動周波数成分のみを含んでいる。
【0024】
差分抽出部120は、筬羽振動周波数成分と緯糸信号成分とを含む第1受光部111の出力信号と、筬羽振動周波数成分のみを含む第2受光部112の出力信号とを受け、共通する筬羽振動周波数成分をキャンセルし、緯糸信号成分を抽出する。すなわち、筬羽振動周波数成分がどのような位相と周波数であったとしても、また、位相と周波数とが刻々と変化する状態であったとしても、第1受光部111の出力信号と第2受光部112の出力信号には同じ筬羽振動周波数成分が含まれるため、差分抽出部120において筬羽振動周波数成分をキャンセルすることが可能である。
【0025】
判定部130は、差分抽出部120において抽出された緯糸信号成分に基づいて、緯糸の通過を判定し、緯糸を検知する。以上の実施の形態1の処理によると、従来のような筬羽振動周波数を特定した上での帯域除去フィルタの設定を行う必要がなくなり、2つの出力信号の差分抽出と判定とによる簡易な処理と構成により、遅延を生じることなく、緯糸を安定して検知することが可能になる。
【0026】
実施の形態2.
次に、実施の形態2における緯糸検知装置100の構成と緯糸の検知とについて、
図3を参照して説明する。
図3は、実施の形態2における緯糸検知装置100の構成と検知範囲とを示す概要図である。なお、
図3において
図1と同一物には同一番号を付すことで重複した説明を省略し、異なる部分を中心にして説明を行う。
【0027】
[飛走センサ110の検知範囲]
第1受光部111は、第1範囲を検知する。第2受光部112は、第2範囲を検知する。
図3の(a)に示す具体例において、
図1の(a)と同様に、第1範囲としての検知範囲111dは、緯糸飛走領域13の一部を含んでいる。第2範囲としての検知範囲112dは、緯糸飛走領域13を含んでいない。
【0028】
また、検知範囲111dと検知範囲112dは、少なくとも、複数の筬羽10のうち同一の筬羽の一部を含むように設定されている。
図3の(a)に示す具体例において、検知範囲111dは、筬羽10p,10q,及び10rの一部を含むように設定されている。検知範囲112dは、筬羽10o,10p,及び10qの一部を含むように設定されている。すなわち、検知範囲111d及び112dは、共に同一の筬羽10p及び10qの一部を含みつつ、筬羽の配列方向に互いに異なる筬羽の一部をも含んでいる。
【0029】
[緯糸の検知]
検知範囲111dは、緯糸飛走領域13の一部を含んでいる。このため、第1受光部111の出力信号は、緯糸信号成分と筬羽振動周波数成分とを含んでいる。検知範囲112dは、緯糸飛走領域13を含んでいない。このため、第2受光部112の出力信号は、緯糸信号成分を含むことはなく、筬羽振動周波数成分のみを含んでいる。
【0030】
ここで、検知範囲111d及び112dは、筬羽10p及び10qを共通して含んでいるため、それぞれの出力信号に同じ周波数及び同じ位相の筬羽振動周波数成分を含んでいる。また、検知範囲111dにおける筬羽10rに基づく筬羽振動周波数成分と、検知範囲112dにおける筬羽10oに基づく筬羽振動周波数成分とは、周波数と位相とについて完全一致しないとしても比較的近い状態であると考えられる。
【0031】
差分抽出部120は、筬羽振動周波数成分と緯糸信号成分とを含む第1受光部111の出力信号と、筬羽振動周波数成分のみを含む第2受光部112の出力信号とを受け、共通する筬羽振動周波数成分をキャンセルし、緯糸信号成分を抽出する。
【0032】
判定部130は、差分抽出部120において抽出された、共通する筬羽振動周波数成分をほとんど含まない状態の緯糸信号成分に基づいて、緯糸の通過を判定し、緯糸を検知する。以上の実施の形態2の処理によると、実施の形態1の処理と同様に、2つの出力信号の差分抽出と判定とによる簡易な処理と構成により、遅延を生じることなく、緯糸を安定して検知することが可能になる。
【0033】
実施の形態3.
次に、実施の形態3における緯糸検知装置100の構成と緯糸の検知とについて、
図4を参照して説明する。
図4は、実施の形態3における緯糸検知装置100の構成と検知範囲とを示す概要図である。なお、
図4において
図1と同一物には同一番号を付すことで重複した説明を省略し、異なる部分を中心にして説明を行う。
【0034】
[飛走センサ110の検知範囲]
第1受光部111は、第1範囲を検知する。第2受光部112は、第2範囲を検知する。
図4の(a)に示す具体例において、第1範囲としての検知範囲111dは、上顎11に近い緯糸飛走領域13の一部と、上顎11の一部を含むように設定されている。第2範囲としての検知範囲112dは、下顎12に近い緯糸飛走領域13の一部と、下顎12の一部を含むように設定されている。すなわち、検知範囲111dと検知範囲112dとは、緯糸飛走領域13の一部を含んでいる。
【0035】
なお、上顎11に近い緯糸飛走領域13の一部と、下顎12に近い緯糸飛走領域13の一部とは、部分的に重なる領域が存在していてもよい。また、緯糸飛走領域13の開口断面積は、緯糸の断面積に比べて十分に大きい。このため、飛走する緯糸は、緯糸飛走領域13内において、第1受光部111の検知範囲111d及び第2受光部112の検知範囲112dのいずれか一方を通過する。
【0036】
検知範囲111dと検知範囲112dは、複数の筬羽10のうち同一の筬羽の一部を含むように設定されている。
図4の(a)に示す具体例において、検知範囲111dと検知範囲112dは、筬羽10p,10q,及び10rの一部を含むように設定されている。
【0037】
[緯糸の検知]
緯糸が緯糸飛走領域13のいずれの位置を通過するかに応じて、第1受光部111と第2受光部112とのいずれか一方の出力信号が、緯糸信号成分と筬羽振動周波数成分とを含んでいる。そして、第1受光部111と第2受光部112との他方の出力信号が、筬羽振動周波数成分のみ出力信号に含んでいる。
【0038】
ここで、検知範囲111d及び112dは、同一の筬羽10p~10rの一部を含んでいる。このため、それぞれの出力信号は、同じ周波数及び同じ位相の筬羽振動周波数成分を含んでいる。
【0039】
差分抽出部120は、筬羽振動周波数成分と緯糸信号成分とを含む第1受光部111及び第2受光部112のいずれか一方の出力信号と、筬羽振動周波数成分のみを含む第1受光部111及び第2受光部112のいずれか他方の出力信号とを受け、共通する筬羽振動周波数成分をキャンセルし、緯糸信号成分を抽出する。なお、緯糸飛走領域13の緯糸の通過する状況において、第1受光部111の出力信号と第2受光部112の出力信号とのどちらが緯糸信号成分を含むかが変化することがあるが、差分抽出部120の緯糸信号成分抽出には何ら不具合を生じることはない。
【0040】
判定部130は、差分抽出部120において抽出された緯糸信号成分に基づいて、緯糸の通過を判定し、緯糸を検知する。以上の実施の形態3の処理によると、実施の形態1の処理と同様に、2つの出力信号の差分抽出と判定とによる簡易な処理と構成により、遅延を生じることなく、緯糸を安定して検知することが可能になる。
【0041】
実施の形態4.
次に、実施の形態4における緯糸検知装置100の構成と緯糸の検知とについて、
図5を参照して説明する。
図5は、実施の形態4における緯糸検知装置100の構成と検知範囲とを示す概要図である。なお、
図5において
図1と同一物には同一番号を付すことで重複した説明を省略し、異なる部分を中心にして説明を行う。
【0042】
[飛走センサ110の検知範囲]
第1受光部111は、第1範囲を検知する。第2受光部112は、第2範囲を検知する。
図5の(a)に示す具体例において、
図4の(a)と同様に、第1範囲としての検知範囲111dは、上顎11に近い緯糸飛走領域13の一部と、上顎11の一部を含むように設定されている。第2範囲としての検知範囲112dは、下顎12に近い緯糸飛走領域13の一部と、下顎12の一部を含むように設定されている。すなわち、検知範囲111dと検知範囲112dとは、緯糸飛走領域13の一部を含んでいる。
【0043】
なお、上顎11に近い緯糸飛走領域13の一部と、下顎12に近い緯糸飛走領域13の一部とは、部分的に重なる領域が存在していてもよい。また、緯糸飛走領域13の開口断面積は、緯糸の断面積に比べて十分に大きい。このため、飛走する緯糸は、緯糸飛走領域13内において、第1受光部111の検知範囲111d及び第2受光部112の検知範囲112dのいずれか一方を通過する。
【0044】
検知範囲111dと検知範囲112dは、少なくとも、複数の筬羽10のうち同一の筬羽の一部を含むように設定されている。
図5の(a)に示す具体例において、検知範囲111dは、筬羽10p,10q,及び10rの一部を含むように設定されている。検知範囲112dは、筬羽10o,10p,及び10qの一部を含むように設定されている。すなわち、
図3の(a)と同様に、検知範囲111d及び112dは、共に同一の筬羽10p及び10qの一部を含みつつ、筬羽の配列方向に互いに異なる筬羽の一部をも含んでいる。
【0045】
[緯糸の検知]
緯糸が緯糸飛走領域13のいずれの位置を通過するかに応じて、第1受光部111と第2受光部112とのいずれか一方の出力信号が、緯糸信号成分と筬羽振動周波数成分とを含んでいる。そして、第1受光部111と第2受光部112との他方の出力信号が、筬羽振動周波数成分のみ出力信号に含んでいる。
【0046】
ここで、検知範囲111d及び112dは、筬羽10p及び10qを共通して含んでいるため、それぞれの出力信号に同じ周波数及び同じ位相の筬羽振動周波数成分を含んでいる。また、検知範囲111dにおける筬羽10rに基づく筬羽振動周波数成分と、検知範囲112dにおける筬羽10oに基づく筬羽振動周波数成分とは、周波数と位相とについて完全一致しないとしても比較的近い状態であると考えられる。
【0047】
差分抽出部120は、筬羽振動周波数成分と緯糸信号成分とを含む第1受光部111及び第2受光部112のいずれか一方の出力信号と、筬羽振動周波数成分のみを含む第1受光部111及び第2受光部112のいずれか他方の出力信号とを受け、共通する筬羽振動周波数成分をキャンセルし、緯糸信号成分を抽出する。なお、緯糸飛走領域13の緯糸の通過する状況において、第1受光部111の出力信号と第2受光部112の出力信号とのどちらが緯糸信号成分を含むかが変化することがあるが、差分抽出部120の緯糸信号成分抽出には何ら不具合を生じることはない。
【0048】
判定部130は、差分抽出部120において抽出された、共通する筬羽振動周波数成分をほとんど含まない状態の緯糸信号成分に基づいて、緯糸の通過を判定し、緯糸を検知する。以上の実施の形態4の処理によると、実施の形態1の処理と同様に、2つの出力信号の差分抽出と判定とによる簡易な処理と構成により、遅延を生じることなく、緯糸を安定して検知することが可能になる。
【0049】
実施の形態5.
次に、実施の形態5における緯糸検知装置100の構成と緯糸の検知とについて、
図6を参照して説明する。
図6は、実施の形態5における緯糸検知装置100の構成と検知範囲とを示す概要図である。なお、
図6において
図1と同一物には同一番号を付すことで重複した説明を省略し、異なる部分を中心にして説明を行う。
【0050】
[緯糸検知装置100の構成]
緯糸検知装置100は、
図6に示されるように、主に、飛走センサ110、補正部140、差分抽出部120、及び判定部130を備えている。補正部140は、第1受光部111の出力信号のレベルと第2受光部112の出力信号のレベルとを一致させるようにそれぞれ補正し、レベルを補正されたそれぞれの出力信号を差分抽出部120に供給する。
【0051】
ここで、筬羽10は、端部を固定されているため、中央に近づくにつれて筬羽の配列方向の振動の振幅が大きくなる。従って、
図6において、第1受光部111により検知される範囲は、第2受光部112により検知される範囲より筬羽振動周波数成分の振幅が大きくなる。
そこで、補正部140は、例えば、筬羽10の端部と第1受光部111の検知範囲111dの中心点との距離、及び筬羽10の端部と第2受光部112の検知範囲112dの中心点との距離に応じて、第1受光部111の出力信号に対する増幅度と、第2受光部112の出力信号に対する増幅度とを調整する。これにより、補正部140は、第1受光部111の出力信号に含まれる筬羽振動周波数成分と第2受光部112の出力信号に含まれる筬羽振動周波数成分とのレベルを一致させる。ここで、レベルとは、信号の振幅または信号の値を意味する。
【0052】
検知範囲111dと検知範囲112dとのいずれか一方の中心点が筬羽10の中央にある場合、検知範囲111dと検知範囲112dとのいずれか他方の出力信号のみを調整してもよい。なお、以上の説明における「筬羽の端部と検知範囲の中心点との距離」については、検知範囲の中心点を検知範囲の端部と置き換えて、「筬羽の端部と検知範囲の端部との距離」を用いてもよい。
また、補正部140は、AGC(Automatic Gain Control:自動利得制御)回路を用いて、第1受光部111の出力信号に対する増幅度と第2受光部112の出力信号に対する増幅度とを自動的に調整し、第1受光部111の出力信号と第2受光部112の出力信号とにおける筬羽振動周波数成分のレベルを一定値に近づけることが可能である。
なお、第1受光部111と第2受光部112との出力信号に含まれる筬羽振動周波数成分のレベルを完全に一致させなくてもよく、筬羽振動周波数成分の振幅の差に応じて適宜増幅度を調整して双方の筬羽振動周波数成分のレベルを近づけてもよい。
【0053】
従って、実施の形態5によると、第1受光部111の検知範囲111d及び第2受光部112の検知範囲112dにおける、筬羽10の振動の振幅の違いに影響されず、第1受光部111の出力信号のレベルと第2受光部112の出力信号のレベルとが一致するように補正される。また、実施の形態5によると、第1受光部111の感度と第2受光部112の感度との差、検知範囲111dの照度と検知範囲112dの照度との差などの影響を受けず、第1受光部111の出力信号のレベルと第2受光部112の出力信号のレベルとが一致するように補正される。この結果、差分抽出部120は、筬羽振動周波数成分を正確にキャンセルすることが可能になる。
【0054】
以上の実施の形態5の処理によると、各種の条件の違いに影響されず、2つの出力信号の差分抽出と判定とによる簡易な処理と構成により、遅延を生じることなく、緯糸を安定して検知することが可能になる。また、実施の形態5に示した補正部140は、実施の形態1~4のいずれの検知範囲の違いに対しても適用することができる。
【0055】
[実施の形態により得られる効果]
以上説明したように、本開示の実施の形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
本開示における緯糸検知装置は、飛走センサ110に第1受光部111と第2受光部112とを備え、第1受光部111は、第1範囲としての検知範囲111dを検知し、第2受光部112は、第2範囲としての検知範囲112dを検知し、検知範囲111d及び検知範囲112dの少なくとも一方は、緯糸飛走領域13の一部を含み、検知範囲111dは緯糸飛走領域13において検知範囲112dと重ならず、検知範囲111dと検知範囲112dとは、複数の筬羽10のうち同一の筬羽を含むように設定されている。そして、第1受光部111の出力信号と第2受光部112の出力信号との差分を抽出し、抽出された差分に基づいて緯糸を検知する。
【0056】
ここで、第1受光部111の出力信号と第2受光部112の出力信号には同じ筬羽振動周波数成分が含まれる。このため、筬羽振動周波数成分がどのような状態であったとしても、差分抽出において筬羽振動周波数成分はキャンセルされる。本開示によれば、緯糸検知装置100において、遅延を生じることなく、簡易な処理と構成とにより、筬羽振動周波数成分をキャンセルし、緯糸を安定して検知することが可能になる。
【0057】
本開示における緯糸検知装置100において、差分抽出の前に出力信号を補正する補正部140を更に備え、補正部140は、第1受光部111の出力信号を筬羽10の端部と検知範囲111dとの距離に基づいて補正し、及び/または、第2受光部112の出力信号を筬羽10の端部と検知範囲112dとの距離に基づいて補正する。本開示によれば、緯糸検知装置100において、各種の状況において、筬羽振動周波数成分を正確にキャンセルすることができ、緯糸を安定して検知することが可能になる。
【符号の説明】
【0058】
10,10a~10n 筬羽、11 上顎、12 下顎、13 緯糸飛走領域、100 緯糸検知装置、110 飛走センサ、111 第1受光部、111d 検知範囲、112 第2受光部、112d 検知範囲、120 差分抽出部、130 判定部、140 補正部。