(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20240116BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
(21)【出願番号】P 2020184031
(22)【出願日】2020-11-03
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】芝村 悠平
【審査官】川口 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-172024(JP,A)
【文献】特開2017-112768(JP,A)
【文献】特開2013-165607(JP,A)
【文献】米国特許第05005640(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力変換を行う電力変換装置(13)であって、
前記電力変換を行うためのスイッチング素子(32)を有するパワーモジュール(41)と、
前記パワーモジュールを冷却する冷媒が流れる冷媒流路(51)を形成する流路形成部(52)と、
を備え、
前記冷媒流路は、
一方向(X)に延び、前記冷媒を案内する案内路(63)と、
前記案内路の上流側に設けられ、前記案内路の幅方向(Y)に曲がっている曲がり路(62)と、
前記案内路に接続された分岐口(72,72M)を有し、前記案内路から複数に分岐した分岐路(71)と、
を有し、
前記案内路は、前記曲がり路の内周面(62c)から延びた内側面(63c)と、前記曲がり路の外周面(62d)から延びた外側面(63d)と、を前記幅方向において互いに対向する一対の対向面として有しており、
複数の前記分岐口のうち最も上流に設けられた上流分岐口(72M)は、前記幅方向において前記外側面よりも前記内側面に近い位置に設けられている、電力変換装置。
【請求項2】
前記上流分岐口は、前記幅方向において前記案内路の中心線(C1)と前記内側面との間に設けられている、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記幅方向において、前記上流分岐口の幅寸法(Wa)は、前記上流分岐口と前記案内路の前記中心線との離間距離(Wb)よりも小さい、請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記分岐路は、前記一方向に直交する方向(Y,Z)に延びている、請求項1~3のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記冷媒流路は、
前記分岐路を有し前記案内路に接続され、前記パワーモジュールに重ねて設けられ、前記パワーモジュールを冷却する冷却路(70)を有している、請求項1~4のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記冷媒流路は、
前記曲がり路を介して前記案内路に接続され、前記冷媒を前記曲がり路に供給する供給路(61)を有しており、
前記冷却路は、前記供給路と前記パワーモジュールとの間に設けられている、請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記冷媒流路は、前記曲がり路に前記冷媒を導入する導入路(60)を有しており、
前記導入路の上流端部(60a)の断面積(S1)は、前記案内路と前記曲がり路との境界部(65)の断面積(S2)
以下である、請求項1~6のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記上流分岐口は、前記一方向を長手とする扁平状になっている、請求項1~7のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記一方向での前記上流分岐口の長さ寸法(La1)は、複数の前記分岐口のうち前記上流分岐口に隣り合う分岐口(72)と前記上流分岐口との離間距離(Lb)よりも大きい、請求項1~8のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記上流分岐口は、前記案内路と前記曲がり路との境界部(65)を前記一方向に跨ぐ位置に設けられている、請求項1~9のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記分岐口において、前記案内路に設けられた案内側部分(72a)の前記一方向の長さ寸法(La2)は、前記曲がり路に設けられた曲がり側部分(72b)の前記一方向の長さ寸法(La3)よりも大きい、請求項10に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書における開示は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電力変換を行う電力変換装置が開示されている。この電力変換装置は、スイッチング素子を有するパワーモジュールと、冷媒が流れる冷媒流路と、パワーモジュールを収容したケースと、を有している。ケースにおいては、管状突条の開口部がパワーモジュールで塞がれることで冷媒流路の一部が形成されている。パワーモジュールには冷却フィンが形成されており、この冷却フィンが突条の内部に入り込んだ状態になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、冷媒流路が冷却フィン等により複数の分岐路に分岐した構成では、冷媒が流れる流量や速さが分岐路ごとにばらつき、冷媒によるパワーモジュールの冷却効果が低下する、ということが懸念される。
【0005】
本開示の主な目的は、冷媒によるパワーモジュールの冷却効果を高めることができる電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この明細書に開示された複数の態様は、それぞれの目的を達成するために、互いに異なる技術的手段を採用する。また、特許請求の範囲およびこの項に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例であって、技術的範囲を限定するものではない。
【0007】
上記目的を達成するため、開示された1つの態様は、
電力変換を行う電力変換装置(13)であって、
電力変換を行うためのスイッチング素子(32)を有するパワーモジュール(41)と、
パワーモジュールを冷却する冷媒が流れる冷媒流路(51)を形成する流路形成部(52)と、
を備え、
冷媒流路は、
一方向(X)に延び、冷媒を案内する案内路(63)と、
案内路の上流側に設けられ、案内路の幅方向(Y)に曲がっている曲がり路(62)と、
案内路に接続された分岐口(72,72M)を有し、案内路から複数に分岐した分岐路(71)と、
を有し、
案内路は、曲がり路の内周面(62c)から延びた内側面(63c)と、曲がり路の外周面(62d)から延びた外側面(63d)と、を幅方向において互いに対向する一対の対向面として有しており、
複数の分岐口のうち最も上流に設けられた上流分岐口(72M)は、幅方向において外側面よりも内側面に近い位置に設けられている、電力変換装置である。
【0008】
案内路において複数の分岐口が一方向に並んでいる構成では、これら分岐口ごとに冷媒の流れの速さが異なりやすく、これら分岐口に流れ込む冷媒の流量や速さがばらつきやすいと考えられる。特に、複数の分岐口のうち最上流にある上流分岐口では、他の分岐口に比べて冷媒の流れが速くなりやすく、冷媒が流れ込みにくい、ということが懸念される。
【0009】
これに対して、曲がり路から案内路に流入する冷媒については、曲がり路の内周面に近いほど流れが遅くなりやすい、という知見が得られた。そこで、上記態様によれば、上流分岐口が案内路の内側面寄りの位置に設けられているため、曲がり路の内周面寄りの位置を通って流れが遅くなった冷媒が上流分岐口に到達しやすくなっている。これにより、上流分岐口に流れ込む冷媒の流量が不足しにくくなり、その結果、複数の分岐口に流れ込む冷媒の流量や速さがばらつくことを抑制できる。したがって、冷媒によるパワーモジュールの冷却効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態における駆動システムの構成を示す図。
【
図5】冷媒流路とパワーモジュールとの位置関係について説明するための図。
【
図7】第2実施形態における冷媒流路とパワーモジュールとの位置関係について説明するための図。
【
図8】第3実施形態における冷媒流路とパワーモジュールとの位置関係について説明するための図。
【
図9】第4実施形態における冷媒のベクトルについて説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、図面を参照しながら本開示を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組み合わせが可能であることを明示している部分同士の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0012】
<第1実施形態>
図1に示す駆動システム10は、例えば電気自動車(EV)やハイブリッド自動車(HV)、燃料電池車などの車両に搭載されている。駆動システム10は、バッテリ11、モータ12、電力変換装置13を有している。駆動システム10は、モータ12を駆動して車両の駆動輪を駆動するシステムである。
【0013】
バッテリ11は、充放電可能な2次電池で構成された直流電圧源であり、電力変換装置13を介してモータ12に電力を供給する電源部に相当する。2次電池は、たとえばリチウムイオン電池、ニッケル水素電池である。バッテリ11は、インバータ30に高電圧(たとえば数100V)を供給する。
【0014】
モータ12は、3相交流方式の回転電機である。モータ12は、3相としてU相、V相、W相を有している。モータ12は、車両の走行駆動源である電動機として機能する。モータ12は、回生時に発電機として機能する。なお、モータ12をモータジェネレータや電動モータと称することもできる。
【0015】
電力変換装置13は、バッテリ11とモータ12との間で電力変換を行う。ここでは、電力変換装置13の回路構成について
図1を参照しつつ説明する。電力変換装置13は、平滑コンデンサ21、インバータ30、制御装置35を有している。
【0016】
平滑コンデンサ21は、バッテリ11から供給される直流電圧を平滑化するコンデンサである。平滑コンデンサ21は、高電位側の電力ラインであるPライン25と低電位側の電力ラインであるNライン26とに接続されている。Pライン25はバッテリ11の正極に接続され、Nライン26はバッテリ11の負極に接続されている。平滑コンデンサ21の正極は、バッテリ11とインバータ30との間において、Pライン25に接続されている。また、平滑コンデンサ21の負極は、バッテリ11とインバータ30との間において、Nライン26に接続されている。平滑コンデンサ21は、バッテリ11に並列に接続されている。平滑コンデンサ21は、アームスイッチ32に対して設けられており、スイッチング素子に対して設けられたコンデンサに相当する。
【0017】
インバータ30は、DC-AC変換回路である。インバータ30は、3相分のアーム回路31を備えて構成されている。アーム回路31は、レグと称されることがある。アーム回路31は、上アーム31aと、下アーム31bをそれぞれ有している。上アーム31aと下アーム31bは、上アーム31aをPライン25側として、Pライン25とNライン26との間で直列接続されている。上アーム31aと下アーム31bとの接続点は、モータ12における対応する相の巻線に出力ライン27を介して接続されている。アーム回路31及び出力ライン27は、モータ12のU相、V相、W相のそれぞれに対して設けられている。インバータ30は、上アーム31a及び下アーム31bを3つずつ有している。
【0018】
アーム31a,31bは、アームスイッチ32及びダイオード33を有している。アームスイッチ32は半導体素子等のスイッチング素子により形成されている。このスイッチング素子としては、例えばnチャネル型の絶縁ゲートバイポーラトランジスタIGBTがある。アーム31a,31bは、それぞれアームスイッチ32とダイオード33とを1つずつ有している。アーム31a,31bにおいては、ダイオード33が還流用としてアームスイッチ32に逆並列に接続されている。上アーム31aにおいては、アームスイッチ32のコレクタがPライン25に接続されている。下アーム31bにおいては、アームスイッチ32のエミッタがNライン26に接続されている。そして、上アーム31aにおけるアームスイッチ32のエミッタと、下アーム31bにおけるアームスイッチ32のコレクタが相互に接続されている。ダイオード33のアノードは対応するアームスイッチ32のエミッタに接続され、カソードはコレクタに接続されている。
【0019】
インバータ30は、制御装置35によるスイッチング制御にしたがって直流電圧を交流電圧に変換し、モータ12へ出力する。これにより、モータ12は所定の回転トルクを発生するように動作する。インバータ30は、バッテリ11からの直流電力を3相交流電力に変換し、電力変換部に相当する。インバータ30は、車両の回生制動時、駆動輪からの回転力を受けてモータ12が発電した交流電圧を、制御装置35によるスイッチング制御にしたがって直流電圧に変換し、Pライン25へ出力する。このように、インバータ30は、バッテリ11とモータ12との間で双方向の電力変換を行う。なお、アームスイッチ32は、電力変換を行うためのスイッチング素子に相当する。
【0020】
制御装置35は、例えばECUであり、インバータ30の駆動を制御する。ECUは、Electronic Control Unitの略称である。制御装置35は、例えばプロセッサ、メモリ、I/O、これらを接続するバスを備えるマイクロコンピュータ(以下、マイコン)を主体として構成される。制御装置35は、メモリに記憶された制御プログラムを実行することで、インバータ30の駆動に関する各種の処理を実行する。
【0021】
制御装置35は、車両に搭載された統合ECUなどの上位ECUから入力される信号や、電流センサなどの各種センサから入力される信号を用いて駆動指令を生成し、この駆動指令に応じてアームスイッチ32にオン駆動やオフ駆動を行わせる。
【0022】
次に、電力変換装置13の構造について、
図2~
図4を参照しつつ説明する。
【0023】
図2に示すように、電力変換装置13は、パワーモジュール41及びケース42を有している。パワーモジュール41はケース42に収容されている。ケース42は、全体として直方体状に形成されている。ケース42は、パワーモジュール41の設置などに用いる開口部を有している。この開口部はカバーや外部機器などにより覆われている。本実施形態では、互いに直交した方向をX方向、Y方向、Z方向と称し、開口部がZ方向に開口されているとする。また、X方向、Y方向、Z方向を、横方向、縦方向、上下方向と称することもできる。
【0024】
ケース42は、複数の部材が組付けられることで形成されている。例えば、ケース42は、矩形筒状のケース本体に配管等の部材が組付けられることで構成されている。ケース本体や配管等の部材は、アルミニウム等の金属材料により形成されており、熱伝導性を有している。電力変換装置13においては、パワーモジュール41の他にも制御基板などの電気部品がケース42に収容されている。
【0025】
パワーモジュール41は、アームスイッチ32を構成するスイッチング素子と、スイッチング素子を保護するモジュール本体とを有している。モジュール本体は、スイッチング素子を封止した封止樹脂体を有している。モジュール本体には、スイッチング素子に電気的に接続された端子が複数設けられている。これら端子には、電力端子と信号端子とが含まれている。電力端子としては、Pライン25に接続されたP端子と、Nライン26に接続されたN端子と、出力ライン27に接続された出力端子とがある。なお、スイッチング素子を半導体スイッチと称し、パワーモジュール41を半導体モジュールと称することもできる。
【0026】
パワーモジュール41は、ケース42に複数収容されている。本実施形態では、パワーモジュール41が1相分のアーム回路31を構成するスイッチング素子を有しており、ケース42には、例えば3つのパワーモジュール41が収容されている。なお、パワーモジュール41は、複数相分のアーム回路31を構成するスイッチング素子を有していてもよく、1つのスイッチング素子を有していてもよい。
【0027】
パワーモジュール41は、全体として矩形板状に形成されている。複数のパワーモジュール41は、それぞれの板面がZ方向に直交する向きで、Z方向に直交する方向において横並びに設けられている。本実施形態では、3つのパワーモジュール41がX方向において横並びに設けられている。これらパワーモジュール41の板面においては、隣り合う辺のうち一方がX方向に延び、他方がY方向に延びている。なお、パワーモジュール41をパワーカードと称することもできる。
【0028】
図2、
図3に示すように、電力変換装置13には冷却器50が設けられている。冷却器50は、水等の冷媒によりパワーモジュール41を冷却する。冷却器50は、冷媒が流れる冷媒流路51と、冷媒流路51を形成する流路形成部52とを有している。冷媒流路51を流れる冷媒は、流路形成部52を介してパワーモジュール41との間で熱交換を行うことでパワーモジュール41を冷却する。冷媒流路51は、冷媒を導入する導入路60と、パワーモジュール41を冷却する冷却路70と、冷媒を排出する排出路80とを有している。冷媒流路51においては、導入路60に流入した冷媒が、冷却路70を通過して排出路80から排出される。ケース42においては、導入路60と排出路80とがY方向に並べられており、導入路60及び排出路80と冷却路70とがZ方向に並べられている。冷却路70は、導入路60と排出路80とにY方向にかけ渡された状態になっている。
【0029】
流路形成部52は、導入路60を形成する導入部52aと、冷却路70を形成する冷却部52bと、排出路80を形成する排出部52cとを有している。導入部52a、冷却部52b及び排出部52cは、全体として金属材料により形成されており、全体として熱伝導性を有している。例えば、導入部52a、冷却部52b及び排出部52cは、ケース42や配管部材などにより形成されている。導入部52a及び排出部52cは、ケース42から外側に向けて突出しており、これら突出部分のそれぞれには、ゴム製や樹脂製の可撓性を有する外部配管が接続されている。
【0030】
図3において、導入部52a及び導入路60は、Z方向に直交する方向が長手になるように全体として扁平状に形成されている。導入路60は、上流路61、曲がり路62及び下流路63を有している。導入路60は、全体としてX方向に延びており、上流端部と下流端部との間で折り返された形状になっている。上流路61は、導入路60の上流端部である導入口60aを形成している。下流路63は、導入路60の下流端部を形成している。曲がり路62は、上流路61において折り返された部分を形成している。
【0031】
上流路61及び下流路63は、いずれもX方向に延びており、互いに平行にY方向に並べられている。上流路61及び下流路63においては、それぞれの幅方向がY方向になっている。冷媒が流れる経路においては、曲がり路62が、上流路61と下流路63との間に設けられており、これら上流路61と下流路63とを接続している。曲がり路62は下流路63の上流側に設けられている。X方向においては、曲がり路62は、上流路61及び下流路63に対して横並びに設けられている。曲がり路62は、上流路61及び下流路63のそれぞれに対して幅方向に曲がっている。曲がり路62は、下流路63に対して例えば180度曲がっている。曲がり路62は、X方向において上流路61及び下流路63とは反対側に向けて膨らむように湾曲している。曲がり路62を湾曲路と称することもできる。
【0032】
上流路61と下流路63とでは、いずれもX方向が冷媒の流れ方向になっている一方で、冷媒が流れる向きはX方向において互いに逆になっている。曲がり路62は、上流路61から流入してきた冷媒を下流路63に流出させるように、冷媒の流れる向きを変更している。曲がり路62は、冷媒の流れる向きを連続的に変更するように連続的に曲がっている。なお、上流路61が冷媒を供給する供給路に相当し、下流路63が冷媒を案内する案内路に相当する。また、X方向が一方向に相当する。
【0033】
導入路60は、Z方向において互いに対向する一対の対向面として天井面及び床面を有している。これら天井面及び床面には、曲がり路62の天井面62a及び床面62bと、下流路63の天井面63a及び床面63bとが含まれている。また、導入路60は、Z方向に直交する方向において互いに対向する一対の対向面として一対の壁面を有している。これら壁面には、曲がり路62の内周面62c及び外周面62dと、下流路63の内側面63c及び外側面63dとが含まれている。
【0034】
曲がり路62の内周面62cは、互いに対向する一対の湾曲面のうち内側の湾曲面であり、外周面62dは外側の湾曲面である。下流路63においては、内側面63cが曲がり路62の内周面62cから延びており、外側面63dが曲がり路62の外周面62dから延びている。なお、湾曲面を曲がり面と称することもできる。また、導入路60については、一対の壁面が並んだ方向が導入路60にとっての幅方向である。
【0035】
本実施形態では、説明の便宜上、「流路形成部52の内面」のことを「冷媒流路51の内面」というように表現する。例えば曲がり路62の内周面62cは、正確には流路形成部52の内周面62cであるが、本実施形態では、曲がり路62の内周面62cと表現する。
【0036】
図2~
図4に示すように、冷却部52b及び冷却路70は、Z方向に直交する方向が長手になるように全体として扁平状に形成されている。冷却部52bの外面のうち、冷却部52bの厚さ方向に直交する方向に延びる面を扁平面と称すると、冷却部52bはZ方向に並んだ一対の扁平面を有している。一対の扁平面のうち一方を上面と称し、他方を下面と称する。
【0037】
冷却路70は、複数の分岐路71、重なり路75、接続路76を有している。冷媒が流れる経路においては、複数の分岐路71のそれぞれが、互いに並列の関係で下流路63と重なり路75との間に設けられている。これら分岐路71は、下流路63と重なり路75とをそれぞれ接続している。下流路63から冷却路70に流入する冷媒は、複数の分岐路71に流れ込んで分岐した後に、これら分岐路71のそれぞれから流れ出すことで重なり路75にて合流する。また、冷媒が流れる流路においては、接続路76が重なり路75と排出路80とを接続している。接続路76は、重なり路75と排出路80との間に、互いに並列の関係で複数設けられている。重なり路75から排出路80に流入する冷媒は、複数の接続路76のいずれかを通る。
【0038】
重なり路75は、パワーモジュール41に重なる位置に設けられている。重なり路75は、Z方向に直交する方向が長手になるように全体として扁平状に形成されている。重なり路75は、Z方向において互いに対向する一対の対向面として、天井面75a及び床面75bを有している。これら天井面75a及び床面75bは、重なり路75の厚さ方向であるZ方向に直交する方向に延びている。重なり路75と導入路60とは、Z方向に並ぶように互いに重ねられている。重なり路75は、上流路61、曲がり路62及び下流路63のそれぞれの少なくとも一部にZ方向に重複する位置に設けられている。
【0039】
複数の分岐路71は、Z方向において下流路63と重なり路75との間に設けられている。分岐路71は下流路63の下流側に設けられている。分岐路71は、その上流端部である分岐入口72と、下流端部である分岐出口73とを有している。分岐路71は、下流路63の天井面63a及び重なり路75の床面75bに直交するZ方向に延びている。分岐路71においては、Z方向での一端に分岐入口72が設けられ、他端に分岐出口73が設けられている。本実施形態では、分岐路71において下端部に分岐入口72が設けられ、上端部に分岐出口73が設けられている。分岐入口72は下流路63の天井面63aに設けられており、分岐出口73は重なり路75の床面75bに設けられている。複数の分岐路71のそれぞれにおいて、分岐入口72と分岐出口73とはZ方向に並んでいる。なお、
図3においては、分岐入口72を明確に図示するためにドットハッチングを用いている。また、分岐入口72が分岐口に相当する。
【0040】
複数の分岐路71は、いずれもY方向に直交する方向が長手になるように全体として扁平状に形成されている。これら分岐路71は、X方向において所定間隔で直列に並べられている。各分岐入口72及び各分岐出口73は、それぞれY方向に直交する方向が長手になるように全体として扁平状に形成されており、X方向において所定間隔で直列に並べられている。
【0041】
冷却部52b及び冷却路70は、Z方向において導入部52a及び導入路60とパワーモジュール41との間に設けられている。冷却路70においては、重なり路75の天井面75aが冷却部52bの上面に沿って延びている。パワーモジュール41は、冷却部52bに重ねられた状態になっている。パワーモジュール41の板面と、冷却部52bの上面と、重なり路75の天井面75aとは、Z方向に直交する方向において互いに対向する状態になっている。導入路60から重なり路75に流れ込んだ冷媒は、重なり路75の天井面63aに沿って流れることでパワーモジュール41の板面に沿って流れて、パワーモジュール41の冷却を行う。複数の接続路76は、Z方向において重なり路75と排出路80との間に設けられている。これら接続路76は、複数の分岐路71と同様に、X方向に並べられている。接続路76は、Y方向において分岐路71に並ぶ位置に配置されている。
【0042】
図2に示すように、重なり路75においては、Y方向での一端寄りの位置に分岐出口73が設けられており、他端よりの位置に排出路80が接続されている。分岐出口73から重なり路75に流れ込んだ冷媒は、全体として接続路76に向けてY方向に流れる。パワーモジュール41は、Y方向での分岐出口73と接続路76との間の位置であって、分岐出口73及び接続路76にY方向に並ぶ位置に設けられている。Y方向においては、パワーモジュール41と分岐出口73と接続路76とが1つずつ並べられている。このため、分岐出口73から重なり路75に流れ込んで接続路76から流出する冷媒は、パワーモジュール41にZ方向に重複する位置を通りやすくなっている。
【0043】
図2、
図5に示すように、冷却路70は、Y方向において下流路63から上流路61側に向けて延び、この上流路61を介して下流路63とは反対側まで延びている。Z方向においてパワーモジュール41に重複する位置には導入路60の上流路61が設けられている。上流路61は、X方向に並べられた複数のパワーモジュール41の全てに重複するようにX方向に延びている。このため、パワーモジュール41には、重なり路75の冷却効果が直接的に付与されることに加えて、上流路61の冷却効果が冷却部52bを介して間接的に付与される。ここでは、上流路61の冷却効果により重なり路75が冷却されて重なり路75の冷却効果が向上することで、上流路61の冷却効果が冷却部52bを介して間接的に付与されることになる。
【0044】
図3、
図6に示すように、複数の分岐入口72は、下流路63において内寄りの位置にある。すなわち、複数の分岐入口72はいずれも、Y方向において外側面63dよりも内側面63cに近い位置に設けられている。また、各分岐入口72は、内寄りの位置のうちでも、下流路63の中心を通ってX方向に延びる中心線C1と内側面63cとの間の位置にある。さらに、各分岐入口72は、Y方向において中心線C1よりも内側面63cに近い位置に設けられている。
【0045】
複数の分岐入口72は、いずれも中心線C1に沿って細長く延びた長方形状になっている。各分岐入口72においては、短辺がY方向に延び、長辺がX方向に延びている。Y方向においては、各分岐入口72の幅寸法Waが、各分岐入口72と下流路63の中心線C1との離間距離Wbよりも小さくなっている。各分岐入口72は、X方向に等間隔で直線上に並べられている。X方向においては、各分岐入口72の長さ寸法La1が、隣り合う分岐入口72の離間距離Lbよりも長くなっている。
【0046】
複数の分岐入口72は、下流路63の天井面63aにおいて内側面63cから外側面63dに向けて延びている。これら分岐入口72は、下流路63の幅方向において内側面63cから離間していない。仮に、分岐入口72が内側面63cから外側面63d側に離間していたとしても、Y方向において分岐入口72と内側面63cとの離間距離は、分岐入口72と中心線C1との離間距離Wb、及び分岐入口72の幅寸法Waのいずれよりも小さくなっている。
【0047】
複数の分岐入口72のうち、下流路63において最も上流側に設けられた分岐入口72を上流分岐入口72Mと称すると、この上流分岐入口72Mは、その一部が曲がり路62に突出した位置にある。上流分岐入口72Mは、下流路63と曲がり路62との境界部65をX方向に跨ぐ位置にある。上流分岐入口72Mは、下流路63の床面63bに加えて曲がり路62の床面62bにも設けられている。なお、上流分岐入口72Mが上流分岐口に相当する。
【0048】
上流分岐入口72Mは、境界部65をX方向に跨ぐ位置のうち下流路63寄りの位置にある。上流分岐入口72Mにおいて、下流路63に設けられた部分を第1部分72aと称し、曲がり路62に設けられた部分を第2部分72bと称すると、X方向において第1部分72aの長さ寸法La2は、第2部分72bの長さ寸法La3よりも大きくなっている。例えば、長さ寸法La2は、長さ寸法La3の2倍よりも大きくなっている。なお、第1部分72aが案内側部分に相当し、第2部分72bが曲がり側部分に相当する。
【0049】
上流分岐入口72Mは、曲がり路62において内寄りの位置にある。すなわち、上流分岐入口72Mは、曲がり路62の幅方向において、外周面62dから内周面62c側に離間した位置にある。また、上流分岐入口72Mは、曲がり路62の中心線C2から内周面62c側に離間した位置にある。なお、中心線C2は、内周面62cと外周面62dとの真ん中においてこれら内周面62c及び外周面62dに沿って延びている。
【0050】
ここで、導入路60での冷媒の流れ方について、
図6を参照しつつ説明する。
【0051】
上流路61において曲がり路62に近い領域では、上流路61の幅方向について冷媒の流にばらつきが小さくなりやすい。
図6においては、冷媒の流れの向きや速さをベクトルとして矢印で示しており、この矢印が長く且つ太いほど冷媒のベクトルが大きいことを意味する。冷媒のベクトルが大きいと、この冷媒の流れが速くなりやすく、冷媒の流量が多くなりやすい。
図6では、上流路61に図示した複数の矢印が、冷媒のベクトルの大きさが上流路61の幅方向についてほぼ均一であることを示している。
【0052】
一方、曲がり路62では、上流路61から流れ込んできた冷媒のベクトルの大きさが均一ではなくなっている。具体的には、曲がり路62の幅方向において、内周面62cに近いほど冷媒のベクトルが小さくなっている。これは、冷媒等の非圧縮性流体において式1が成立するためである。式1においては、v[m/s]が流体の速度を示し、p[kg/m2]が流体の圧力を示し、ρ[kg/m3]が流体の密度を示す。
【0053】
v2/2+p/ρ=const・・・式1
曲がり路62では、冷媒が流れる位置が内周面62cに近いほど、冷媒の遠心力の影響により流速が低下しやすい。このため、式1によれば、曲がり路62において冷媒が流れる位置が内周面62cに近いほど冷媒の圧力が増加しやすい。
【0054】
そして、曲がり路62から下流路63に流れ込む冷媒については、曲がり路62において内周面62cに近い位置を流れていた冷媒は、下流路63でも内側面63cに近い位置を流れやすい。同様に、曲がり路62において外周面62dに近い位置を流れていた冷媒は、下流路63でも外側面63dに近い位置を流れやすい。このように、下流路63においては、冷媒が流れる位置が内側面63cに近いほど冷媒のベクトルが小さくなりやすい。例えば、下流路63の中心線C1と内側面63cとの間を流れる冷媒は、中心線C1と外側面63dとの間を流れる冷媒に比べて、全体として流れが遅くなりやすい。また、下流路63の長手方向においては、曲がり路62に近い領域ほど冷媒のベクトルが曲がり路62での冷媒のベクトルに近い状況になりやすい。このような、曲がり路62及び下流路63での冷媒の速さやベクトルの状況に関する知見は、上記式1の他にも、試験やシミュレーションなどによっても得られている。
【0055】
上流分岐入口72Mは、曲がり路62及び下流路63のいずれにおいても内寄りの位置にある。換言すれば、上流分岐入口72Mは、曲がり路62及び下流路63のいずれにおいても、曲がり路62にてベクトルが小さくなった冷媒が通る可能性の高い位置に配置されている。このように、上流分岐入口72Mに到達した冷媒のベクトルが十分に小さくなっていると、この冷媒は上流分岐入口72Mを通過して曲がり路62や下流路63を進むのではなく、上流分岐入口72Mに流れ込みやすくなる。このため、上流分岐入口72Mに流れ込む冷媒の流量が不足するということが生じにくい。これは、下流路63にて生じるディフューザ効果を受けにくい位置に上流分岐入口72Mが配置されているためであるとも言える。本実施形態では、下流路63において冷媒が上流分岐入口72Mに流れ込むことよりも冷媒が下流路63をX方向に進むことの方が生じやすい現象のことをディフューザ効果と称する。
【0056】
曲がり路62において内周面62cの近くを流れる冷媒と、下流路63において内周面62cの近くを流れる冷媒とでは、下流路63において内周面62cの近くを流れる冷媒の方が流れが遅くなりやすい。これは、曲がり路62においては、冷媒の流れの向きが強制的に変えられることで冷媒の流れが乱れやすいためである。このため、曲がり路62においては、上流分岐入口72Mのうち第2部分72bに流れ込む冷媒の流量が不足することが考えられる。しかし、下流路63においては、上流分岐入口72Mのうち第1部分72aに流れ込む冷媒の流量が十分に確保されることで、上流分岐入口72Mの全体においては冷媒の流れ込む流量が不足しにくくなっている。
【0057】
下流路63の全体としては冷媒が下流側に進むほどディフューザ効果が弱くなっていく。このため、複数の分岐入口72のうち上流分岐入口72Mよりも下流側にある分岐入口72については、ディフューザ効果を受けにくく、流れ込む冷媒の流量が不足するということが生じにくい。したがって、複数の分岐入口72について、それぞれに流れ込む冷媒の流量がばらつくという流量アンバランスが抑制される。
【0058】
本実施形態とは異なり、例えば下流路63において十分に大きいベクトルを有する冷媒が到達しやすい位置に上流分岐入口72Mが配置されている構成では、ディフューザ効果により冷媒が上流分岐入口72Mを通過して下流路63を進みやすい。このため、上流分岐入口72Mに流れ込む冷媒の流量が不足しやすい。一方で、下流路63においては、冷媒が下流側に進むほどディフューザ効果が弱くなっていく。このため、複数の分岐入口72のうち、下流路63の下流端に近い分岐入口72ほど冷媒が流れ込みやすく、流れ込む冷媒の流量が過剰に多くなりやすい。このように、上流分岐入口72Mがディフューザ効果を受けやすい構成では、複数の分岐入口72に流れ込む冷媒の流量がばらつきやすく、流量アンバランスが生じることが懸念される。
【0059】
導入路60は、ディフューザ効果を弱めるような形状になっている。具体的には、導入路60においては、導入口60aの断面積S1が、曲がり路62と下流路63との境界部65の断面積S2以下になっている。導入路60においては、導入口60aが導入路60の一部を細く絞った状態になっており、冷媒の流れが速くなりすぎることが導入口60aにより規制されている。ここで、導入路60においては、冷媒の流れが速いことでディフューザ効果が強くなりやすい。このため、導入口60aが導入路60を絞っていることで、導入路60全体においてディフューザ効果が低減されている。このように、導入路60においては、導入口60aによりディフューザ効果が低減され、且つそのディフューザ効果を受けにくい位置に上流分岐入口72Mが配置されている。したがって、上流分岐入口72Mに流れ込む冷媒の流量が不足するということが更に生じにくくなっている。
【0060】
ここまで説明した本実施形態によれば、複数の分岐入口72のうち上流分岐入口72Mは、下流路63の幅方向において内側面63c寄りの位置に設けられている。この構成では、曲がり路62において内周面62c寄りの位置を通って流れが遅くなった冷媒が上流分岐入口72Mに到達しやすくなっている。このため、上流分岐入口72Mに流れ込む冷媒の流量が不足しにくくなり、その結果、上流分岐入口72Mを含む複数の分岐入口72に流れ込む冷媒の流量や速さがばらつくということを抑制できる。したがって、冷媒によるパワーモジュール41の冷却効果を高めることができる。
【0061】
例えば、本実施形態とは異なり、下流路63でのディフューザ効果により上流分岐入口72Mに流れ込む冷媒の流量が、他の分岐入口72に流れ込む冷媒の流量に比べて十分に大きくなってしまっている、という構成を想定する。この構成では、複数のパワーモジュール41のうち、上流分岐入口72MにY方向に並んだパワーモジュール41については、供給される冷媒の流量が他のパワーモジュール41に比べて少なくなりやすい。このため、上流分岐入口72Mに対応するパワーモジュール41については冷却効果が低下してしまう。これに対して、本実施形態によれば、複数のパワーモジュール41に対して供給される冷媒の流量ばらつきが抑制されているため、全てのパワーモジュール41に対する冷却効果を高めることができる。
【0062】
また、下流路63でのディフューザ効果を低減する方法としては、上流路61を長くして上流路61にて冷媒の流れを遅くするという方法や、冷媒流路51全体として冷媒の流れを遅くするという方法などが考えられる。ところが、これら方法では、冷媒が冷媒流路51に滞在する時間が長くなって冷媒の温度が上昇しやすくなり、冷媒によるパワーモジュール41の冷却効果が低下することが懸念される。これに対して、本実施形態によれば、冷媒流路51において冷媒の流れが局所的に遅くなりやすい位置に上流分岐入口72Mが設けられているため、冷媒流路51全体について冷媒の流れを遅くする必要がない。このため、冷媒流路51の全体として冷媒の流れが遅いことで冷媒の冷却効果が低下するということを回避できる。
【0063】
本実施形態によれば、上流分岐入口72Mが下流路63の中心線C1と内側面63cとの間に設けられている。この構成では、曲がり路62を通って流れが遅くなった冷媒が上流分岐入口72Mに到達しやすく、曲がり路62を通って流れが速くなった冷媒が上流分岐入口72Mに到達しにくくなる。このため、下流路63において、流れが遅くなった冷媒が上流分岐入口72Mに到達することが、流れが速くなった冷媒により阻害される、ということが生じにくくなっている。したがって、流れが遅くなった冷媒が上流分岐入口72Mに到達しやすい構成を実現できる。
【0064】
本実施形態によれば、上流分岐入口72Mの幅寸法Waが、下流路63の中心線C1と上流分岐入口72Mとの離間距離Wbよりも小さくなっている。この構成では、上流分岐入口72Mが極力細い形状にされ、且つ下流路63の内側面63cに極力近い位置に配置されている。このため、曲がり路62を通って流れが遅くなった冷媒が上流分岐入口72Mに到達しやすくすること、及び曲がり路62を通って流れが速くなった冷媒が上流分岐入口72Mに到達しにくくすること、の両方をより確実に実現できる。
【0065】
本実施形態によれば、分岐路71がX方向に直交する方向に延びている。すなわち、分岐路71が下流路63に直交する方向に延びている。この構成では、分岐路71が下流路63と重なり路75とを最短距離で接続しているため、分岐路71の短縮化や冷却器50の小型化を実現できる。また、分岐路71を極力短くできるため、冷媒がパワーモジュール41に到達するまでに冷媒温度が上昇するということが生じにくくなっている。これにより、冷却路70によるパワーモジュール41の冷却効果を高めることができる。
【0066】
本実施形態によれば、冷却路70の重なり路75がパワーモジュール41に重ねて設けられている。この構成では、重なり路75とパワーモジュール41とが互いに対向する領域が極力大きくなっているため、重なり路75の冷却効果がパワーモジュール41に付与されやすくなっている。これにより、重なり路75によるパワーモジュール41の冷却効果を高めることができる。
【0067】
本実施形態によれば、冷却路70の重なり路75が、導入路60の上流路61とパワーモジュール41との間に設けられている。この構成では、重なり路75の冷却効果をパワーモジュール41に直接的に付与できることに加えて、上流路61の冷却効果を重なり路75を介してパワーモジュール41に間接的に付与できる。これにより、冷媒流路51によるパワーモジュール41の冷却効果を高めることができる。
【0068】
本実施形態によれば、導入路60においては導入口60aの断面積S1が境界部65の断面積S2以下になっている。この構成では、導入路60全体においてディフューザ効果が低減されているため、ディフューザ効果を受けにくい位置に配置された上流分岐入口72Mに流れ込む冷媒の流量が不足するということをより確実に抑制できる。
【0069】
本実施形態によれば、上流分岐入口72MがX方向を長手とする扁平状になっている。この構成では、上流分岐入口72Mに流れ込むほどに流れが遅くなった冷媒が、下流路63の流れ方向であるX方向において上流分岐入口72Mのどこかに到達する、という可能性を高めることができる。これにより、上流分岐入口72Mに流れ込む冷媒の流量が増加しやすくなり、その結果、上流分岐入口72Mに流れ込む冷媒の流量が不足するということをより確実に抑制できる。
【0070】
本実施形態によれば、上流分岐入口72Mの長さ寸法La1が隣り合う分岐入口72の離間距離Lbよりも大きくなるほどに、上流分岐入口72MがX方向に長くなっている。このため、上流分岐入口72Mに流れ込むほどに流れが遅くなった冷媒が、下流路63の流れ方向であるX方向において上流分岐入口72Mのどこかに到達する、という可能性を更に高めることができる。しかも、隣り合う分岐入口72の離間距離Lbが上流分岐入口72Mの長さ寸法La1以下になるほどに、上流分岐入口72Mの隣にある分岐入口72が上流分岐入口72Mに近い位置に配置されている。このため、上流分岐入口72Mの隣にある分岐入口72についても、曲がり路62にて遅くなった冷媒が到達しやすくなっており、流れ込む冷媒の流量が不足するということを抑制できる。
【0071】
導入路60については、曲がり路62にて流れが遅くなった冷媒が常に同じ位置を通るわけではないが、曲がり路62と下流路63との境界部65周辺を通る可能性が高い、という知見が得られている。これに対して、本実施形態によれば、上流分岐入口72Mが曲がり路62と下流路63との境界部65をX方向に跨ぐ位置に設けられている。このため、流れが遅くなった冷媒が通る位置がX方向において境界部65よりも曲がり路62及び下流路63のいずれにずれた場合でも、流れが遅くなった冷媒が上流分岐入口72Mに到達することになる。したがって、流れが遅くなった冷媒を上流分岐入口72Mに到達する可能性を高めることができる。なお、流れが遅くなった冷媒が通る位置とは、この冷媒が通る位置のうちX方向において最も上流側の位置のことを示す。
【0072】
しかも、上流分岐入口72Mにおいては、下流路63に設けられた第1部分72aの長さ寸法La2が、曲がり路62に設けられた第2部分72bの長さ寸法La3よりも大きくなっている。このため、下流路63において第1部分72aに流れ込む冷媒の流量が不足しないようにすること、及び曲がり路62にて流れが遅くなった冷媒が境界部65よりも曲がり路62側を通る場合でもその冷媒を第2部分72bに流れ込ませること、を両立できる。
【0073】
本実施形態によれば、上流分岐入口72Mは、境界部65をX方向に跨いでいることで曲がり路62に入り込んでいる。このため、例えば上流分岐入口72Mが曲がり路62に入り込まない位置に設けられた構成に比べて、下流路63をX方向に短くできる。このため、X方向について、導入路60やケース42、電力変換装置13の小型化を図ることができる。
【0074】
<第2実施形態>
上記第1実施形態では、パワーモジュール41が導入路60及び冷却路70の両方にZ方向に重複する位置に設けられていた。これに対して、第2実施形態では、パワーモジュール41が導入路60及び冷却路70のうち冷却路70だけにZ方向に重複する位置に設けられている。本実施形態で特に説明しない構成、作用、効果については第1実施形態と同様である。本実施形態では、上記第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0075】
上記第1実施形態では、冷却路70が下流路63から上流路61側に向けて延びていたが、本実施形態では、
図7に示すように、冷却路70が下流路63から上流路61とは反対側に向けて延びている。パワーモジュール41は、Y方向において下流路63を介して上流路61とは反対側に設けられている。パワーモジュール41は、Y方向において上流路61から離間した位置に設けられている。このため、パワーモジュール41と下流路63とがZ方向に重複しない構成になっている。
【0076】
なお、冷却路70が下流路63から上流路61とは反対側に向けて延びた構成であっても、パワーモジュール41が上流路61にZ方向に重複する位置に設けられていてもよい。例えば、パワーモジュール41がY方向において上流路61と下流路63と重なり路75とにかけ渡された位置に設けられた構成とする。この構成では、上流路61、下流路63及び重なり路75のそれぞれの冷却効果がパワーモジュール41に付与される。
【0077】
<第3実施形態>
上記第1実施形態では、パワーモジュール41は、その板面の隣り合う辺のうち一方がX方向に延び他方がY方向に延びる向きで設置されていた。これに対して、第3実施形態では、パワーモジュール41は、その板面の隣り合う辺の両方がX方向及びY方向のいずれに対しても傾斜する向きで設置されている。本実施形態で特に説明しない構成、作用、効果については第1実施形態と同様である。本実施形態では、上記第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0078】
図8に示すように、複数のパワーモジュール41は、上流路61の長手方向に沿ってX方向に並べられている。これらパワーモジュール41は、X方向に対して傾斜した向きで設けられている。この構成でも、上記第1実施形態と同様に、隣り合うパワーモジュール41はX方向において互いに離間している。これも上記第1実施形態と同様に、Z方向においては、パワーモジュール41と上流路61との間に冷却路70が入り込んだ状態になっている。
【0079】
<第4実施形態>
上記第1実施形態では、曲がり路62が湾曲していたが、第2実施形態では、曲がり路62が段階的に曲がっている。本実施形態で特に説明しない構成、作用、効果については第1実施形態と同様である。本実施形態では、上記第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0080】
図9に示すように、曲がり路62が変更する冷媒の流れる向きは90度より小さく、例えば45度になっている。下流路63を流れる冷媒の向きは、上流路61を流れる冷媒の向きに対して逆向きになっているのではなく、上流路61を流れる冷媒の向きに対して例えば45度だけ傾斜している。曲がり路62は、内周面62c及び外周面62dのうち少なくとも外周面62dが段階的に曲がっていることで全体として段階的に曲がっている。例えば、外周面62dは、上流路61の外側面を延長するように設けられた部分と、下流路63の外側面63dを延長するように設けられた部分とを有しており、2段階に曲がっている。
【0081】
上記第1実施形態と同様に、上流路61を流れる冷媒のベクトルが上流路61の幅方向においてばらついていなかったとしても、曲がり路62を流れる冷媒のベクトルは、冷媒が流れる位置が内周面62cに近いほど小さくなりやすい。下流路63についても同様に、下流路63を流れる冷媒のベクトルは、冷媒が流れる位置が内側面63cに近いほど小さくなりやすい。
【0082】
上流分岐入口72Mは、曲がり路62と下流路63との境界部65に加えて、上流路61と曲がり路62との境界部66をX方向に跨ぐ位置に設けられている。上流分岐入口72Mは、曲がり路62及び上流路61の両方に入り込んだ位置にある。上流分岐入口72Mのうち、上流路61に設けられた部分については、上流路61において流速が遅くなっていない冷媒が流れ込む可能性が高い。その一方で、上流分岐入口72Mのうち下流路63に設けられた第1部分72aについては、曲がり路62を通って流速が遅くなった冷媒が流れ込みやすくなっている。このため、上流分岐入口72Mの全体としては、流れ込む冷媒の流量が不足するということが生じにくくなっている。
【0083】
<他の実施形態>
この明細書の開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。例えば、開示は、実施形態において示された部品、要素の組み合わせに限定されず、種々変形して実施することが可能である。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品、要素が省略されたものを包含する。開示は、一つの実施形態と他の実施形態との間における部品、要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示される技術的範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。
【0084】
上記各実施形態において、複数の分岐入口72は、互いに異なる形状や大きさになっていてもよい。例えば、上流分岐入口72Mを含む各分岐入口72の長さ寸法は、隣り合う分岐入口72の離間距離Lbよりも長くなくてもよい。また、各分岐入口72は、下流路63の長手方向に延びる扁平状であれば、楕円状などであってもよい。さらに、各分岐入口72は、下流路63の長手方向に延びていなくてもよく、扁平状でなくてもよい。
【0085】
上記各実施形態において、複数の分岐入口72のうち、上流分岐入口72Mが外側面63dよりも内側面63cに近い位置に設けられていれば、他の分岐入口72は内側面63cよりも外側面63dに近い位置に設けられていてもよい。同様に、上流分岐入口72Mが内側面63cと中心線C1との間に設けられていれば、他の分岐入口72は内側面63cと中心線C1との間に設けられていなくてもよい。さらに、上流分岐入口72Mが中心線C1よりも内側面63cに近い位置に設けられていれば、他の分岐入口72は内側面63cよりも中心線C1に近い位置に設けられていなくてもよい。
【0086】
上記各実施形態において、複数の分岐入口72は、下流路63の長手方向に並べられていれば、等間隔に配置されていなくてもよい。また、複数の分岐入口72は、中心線C1に沿って直線上に並べられていなくてもよい。例えば、複数の分岐入口72の少なくとも1つは、他の分岐入口72に対して下流路63の幅方向にずれた位置に配置されていてもよい。
【0087】
上記各実施形態において、上流分岐入口72Mは、曲がり路62と下流路63との境界部65を跨いでいれば、第1部分72aの長さ寸法La2は第2部分72bの長さ寸法La3より長くなくてもよい。また、上流分岐入口72Mは、曲がり路62に入り込んでいなくてもよい。例えば、上流分岐入口72Mが境界部65から下流路63側に離間した位置に設けられた構成とする。
【0088】
上記各実施形態において、複数の分岐入口72は、下流路63の床面63bや内側面63c、外側面63dに設けられていてもよい。ただし、上流分岐入口72Mは、外側面63dではなく、天井面63a、床面63b及び内側面63cのいずれかに設けられていることが好ましい。
【0089】
上記各実施形態において、複数の分岐路71から流出した冷媒は冷却路70で合流せずに、排出路80にて合流してもよい。例えば、重なり路75が複数設けられており、複数の分岐路71と複数の接続路76とが複数の重なり路75を介して個別に接続された構成とする。この構成では、複数の分岐路71から流出した冷媒は、重なり路75ではなく排出路80にて合流する。上記第1実施形態では、パワーモジュール41と重なり路75とが3つずつ設けられ、1つのパワーモジュール41に1つの重なり路75が重なっていてもよい。また、冷却路70は、パワーモジュール41を冷却することが可能であれば、重なり路75を有していなくてもよい。例えば、複数の分岐路71のそれぞれがパワーモジュール41を冷却する位置に設けられた構成とする。
【0090】
上記各実施形態において、パワーモジュール41は、重なり路75と導入路60との間に設けられていてもよく、導入路60を介して重なり路75とは反対側に設けられていてもよい。
【0091】
上記各実施形態において、アームスイッチ32を構成するスイッチング素子は、IGBTに限定されない。例えばMOSFETなどを用いてもよい。
【0092】
上記各実施形態において、ケース42は、金属材料ではなく、樹脂材料などにより形成されていてもよい。
【0093】
上記各実施形態において、電力変換装置13が搭載された車両としては、乗用車やバス、建設作業車、農業機械車両などがある。また、車両は移動体の1つであり、電力変換装置13が搭載される移動体としては、車両の他に電車や飛行機などがある。電力変換装置13としては、インバータ装置やコンバータ装置などがある。このコンバータ装置としては、交流入力直流出力の電源装置、直流入力直流出力の電源装置、交流入力交流出力の電源装置などがある。
【符号の説明】
【0094】
13…電力変換装置、32…スイッチング素子としてのアームスイッチ、41…パワーモジュール、51…冷媒流路、52…流路形成部、60…導入路、60a…上流端部としての導入口、61…供給路としての上流路、62…曲がり路、62c…内周面、62d…外周面、63…案内路としての下流路、63c…内側面、63d…外側面、65…境界部、70…冷却路、71…分岐路、72…分岐口としての分岐入口、72a…案内側部分としての第1部分、72b…曲がり側部分としての第2部分、72M…上流分岐口としての上流分岐入口、C1…中心線、La1,La2,La3…長さ寸法、Lb…離間距離、S1,S2…断面積、Wa…幅寸法、Wb…離間距離、X…一方向、Y…幅方向及び直交する方向、Z…直交する方向。