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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】ポリオレフィン系接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 123/26 20060101AFI20240116BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240116BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240116BHJP
   H01M 50/105 20210101ALI20240116BHJP
   H01M 50/121 20210101ALI20240116BHJP
   H01M 50/124 20210101ALI20240116BHJP
【FI】
C09J123/26
C09J11/06
B32B15/08 Q
H01M50/105
H01M50/121
H01M50/124
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020509863
(86)(22)【出願日】2019-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2019010255
(87)【国際公開番号】W WO2019188283
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2018068498
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018068499
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂田 秀行
(72)【発明者】
【氏名】岡野 祥平
(72)【発明者】
【氏名】中島 桃子
【審査官】高崎 久子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/187904(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/111488(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/038615(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/030024(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/195266(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/042837(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/114934(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
B32B
H01M50/00-50/198
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性ポリオレフィン(A1)、プロピレンを30モル%以上含有し、変性ポリオレフィン(A1)よりも融点の高い変性ポリオレフィン(A2)、熱可塑性樹脂(B)、及び硬化剤(C)を含有し、前記変性ポリオレフィン(A1)及び前記変性ポリオレフィン(A2)が、α、β-不飽和カルボン酸及びその酸無水物の少なくとも1種によって酸変性されたプロピレン・1-ブテン共重合体であり、前記変性ポリオレフィン(A1)のプロピレンと1-ブテンのモル比がプロピレン/1-ブテン=98/2~40/60であり、前記変性ポリオレフィン(A2)のプロピレンと1-ブテンのモル比がプロピレン/1-ブテン=99/1~55/45であり、前記変性ポリオレフィン(A1)と前記変性ポリオレフィン(A2)との融点の差が3~55℃であり、前記変性ポリオレフィン(A1)と前記変性ポリオレフィン(A2)の融点がそれぞれ50~160℃であり、前記変性ポリオレフィン(A1)と前記変性ポリオレフィン(A2)の酸価がそれぞれ2~50mgKOH/gであり、前記熱可塑性樹脂(B)がスチレン系エラストマー又はオレフィン系エラストマーであり、前記熱可塑性樹脂(B)の配合量は、前記変性ポリオレフィン(A1)および前記変性ポリオレフィン(A2)の合計量100質量部に対して3~60質量部である、接着剤組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂(B)が酸変性熱可塑性樹脂である、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂(B)が、2~50mgKOH/gの酸価を有する、請求項1または2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記硬化剤(C)が、エポキシ硬化剤またはイソシアネート硬化剤である、請求項1~のいずれか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂(B)の質量比が、前記変性ポリオレフィン(A1)および前記変性ポリオレフィン(A2)の合計量100質量部に対して5~30質量部である、請求項1~のいずれか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
ポリオレフィン樹脂基材と金属基材との接着に用いられる請求項1~のいずれか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の接着剤組成物によって接着されたポリオレフィン樹脂基材と金属基材の積層体。
【請求項8】
請求項に記載の積層体を構成部材とするリチウムイオン電池用包装材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物、積層体、およびリチウムイオン電池用包装材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコン、携帯電話等の携帯端末装置、ビデオカメラ、衛星などに用いられる電池として、超薄型化、小型化の可能なリチウムイオン電池(LiB)が盛んに開発されている。このLiBの包装材料は、従来用いられていた金属製缶とは異なり、軽量で電池の形状を自由に選択できるという利点から、基材層/バリア層/シーラント層のような構成の積層体が用いられるようになってきた。
【0003】
LiBは、電池内容物として正極材及び負極材と共に、炭酸プロピレン、炭酸エチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルなどの非プロトン性溶媒にリチウム塩を溶解した電解液若しくはその電解液を含浸させたポリマーゲルからなる電解質層を含んでいる。このような強浸透性の溶媒がシーラント層を通過すると、バリア層とシーラント層間のラミネート強度を低下させてデラミネーションを生じさせ、最終的には電解液が漏れ出すといった問題が生じる。また、電池の電解質であるリチウム塩としてはLiPF6、LiBF4 等の物質が用いられているが、これらの塩は水分との加水分解反応によりフッ酸を発生させ、フッ酸がバリア層を腐食することによりラミネート強度を低下させる。電池用包装材料は、このように電解質に対する耐性を有していることが必要である。
【0004】
また、LiBはさまざまな環境下で使用されることを想定して、より過酷な耐性を備えている必要がある。例えば、モバイル機器に使用される場合には、車内等の60~70℃という高温環境での耐漏液性が要求される。また、携帯電話に使用され誤って水中に落としたことを想定し、水分が浸入しないよう耐水性も必要とされる。
【0005】
このような状況のもと、耐電解液性を向上させたリチウムイオン電池用包装材料が種々提案されている(例えば、特許文献1~2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開2014/123183号パンフレット
【文献】国際公開2017/187904号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記提案されている接着剤組成物は、成形性の点でいまだ不十分であった。具体的には、包装材料をパウチ状に加工する際、接着層が基材間の延びに追従できず、剥離することがあった。また、高温環境下における硬化後の接着剤の接着性が貧弱となったり、引張力により破断したりと、耐熱性および耐久性の面でもいまだ不十分なものであった。
【0008】
本発明は、ポリオレフィン樹脂基材と金属基材との良好な接着性および耐電解液性を示し、基材への顕著な追従性を持ち、低温での貼り合わせが可能である。加えて、硬化後は優れた耐熱性および耐久性の発現に必要な貯蔵弾性率および破断伸度を満たす接着剤組成物を提供するものである。さらにその接着剤組成物からなる接着剤層を含む電池用包装材料及び前記包装材料を用いた電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するため、本発明者らは鋭意検討し、2種の融点の異なる変性ポリオレフィン、および熱可塑性樹脂の配合が有効であることを見出し、以下の発明を提案するに至った。
【0010】
変性ポリオレフィン(A1)、プロピレンを30モル%以上含有し変性ポリオレフィン(A1)よりも融点の高い変性ポリオレフィン(A2)、および熱可塑性樹脂(B)を含有する接着剤組成物。
【0011】
前記変性ポリオレフィン(A1)のプロピレンと1-ブテンのモル比はプロピレン/1-ブテン=98~40/2~60であり、前記変性ポリオレフィン(A2)のプロピレンと1-ブテンのモル比がプロピレン/1-ブテン=99~55/1~45であることが好ましい。
また、前記変性ポリオレフィン(A1)と前記変性ポリオレフィン(A2)の融点の差が3~55℃であり、融点が50~160℃、前記変性ポリオレフィン(A1)及び前記変性ポリオレフィン(A2)の酸価がそれぞれ2~50mgKOH/gであることが好ましい。
【0012】
前記熱可塑性樹脂(B)は酸変性熱可塑性樹脂であってもよく、2~50mgKOH/gの酸価を有することが好ましい。また、前記熱可塑性樹脂(B)は、スチレン系熱可塑性樹脂である事が好ましく、前記熱可塑性樹脂(B)の質量比は、前記変性ポリオレフィン(A1)及び前記変性ポリオレフィン(A2)の合計量100質量部に対して5~30質量部であることが好ましい。
【0013】
さらに硬化剤(C)を含有することが好ましく、前記硬化剤(C)はエポキシ硬化剤またはイソシアネート硬化剤であることが好ましい。
【0014】
前記いずれかに記載の接着剤組成物はポリオレフィン樹脂基材と金属基材との接着に用いることができる。
【0015】
前記いずれかに記載の接着剤組成物によって接着されたポリオレフィン樹脂基材と金属基材の積層体および前記積層体を構成部材とするリチウムイオン電池用包装材料。
【発明の効果】
【0016】
本発明の接着剤組成物は、融点の異なる2種の変性ポリオレフィンおよび熱可塑性樹脂を含み、基材との顕著な追従性を有するため、成形性(深絞り性)などの加工特性に優れる。また、ポリオレフィン基材の熱収縮影響が小さい80℃以下のような低温で張り合わせ、40℃以下のような低温でのエージングを行ってもポリオレフィン樹脂基材と金属基材との良好な接着性および耐電解液性を発現することができ、かつ硬化後は優れた耐熱性、および耐久性を示すことができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<変性ポリオレフィン(A1)および(A2)>
本発明で用いる変性ポリオレフィン(A1)および(A2)は限定的ではないが、ポリエチレン、ポリプロピレンおよびプロピレン・α-オレフィン共重合体の少なくとも1種に、変性がほどこされたものであることが好ましい。また、変性ポリオレフィン(A1)および(A2)はポリプロピレンまたはプロピレン・α-オレフィン共重合体に変性がほどこされたものがより好ましい。
【0018】
プロピレン・α-オレフィン共重合体は、プロピレンを主体としてこれにα-オレフィンを共重合したものである。α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン、酢酸ビニルなどを1種又は数種用いることができる。プロピレン・α-オレフィン共重合体におけるプロピレン成分とα-オレフィン成分のモル比は99~40/1~60であることが好ましく、98~45/2~55がより好ましく、94~60/6~40がさらに好ましい。また、プロピレン・α-オレフィン共重合体におけるプロピレン成分と1-ブテン成分の合計量が72モル%以上であることが好ましく、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%である。また、プロピレン・α-オレフィン共重合体はエチレン含有量が少ないことが好ましい。
【0019】
変性ポリオレフィン中(A1)のプロピレン含有量は28モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、50モル%以上がさらに好ましく、65モル%以上が特に好ましい。また、100モル%以下が好ましく、98モル%以下がより好ましく、90モル%以下が特に好ましい。プロピレンを30モル%以上含有することで、プロピレン基材との密着性が良好となることに寄与する。また、プロピレン以外にα-オレフィン成分を含有してもよい。
【0020】
変性ポリオレフィン(A1)のプロピレンと1-ブテンのモル比はプロピレン/1-ブテン=98~40/2~60であることが好ましい。プロピレンのモル比が50%以上であることがより好ましく、さらに好ましくは60%以上であり、より好ましくは70%以上である。プロピレンのモル比が40%以上であることで、ポリオレフィン基材、特にポリプロピレン基材との優れた密着性を発現できる。また、プロピレンのモル比が95%以下であることがより好ましい。さらに好ましくは93%以下であり、最も好ましくは90%以下である。さらに、1-ブテンのモル比が2%以上であれば変性ポリオレフィンが柔軟となり、基材との追従性などの加工特性が向上する。1-ブテンのモル比は5%以上であることがより好ましく、さらに好ましくは7%以上であり、最も好ましくは10%以上である。1-ブテンのモル比が50%以下であることがより好ましい。さらに好ましくは40%以下であり、最も好ましくは30%以下である。
【0021】
変性ポリオレフィン中(A2)のプロピレン含有量は30モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、45モル%以上がさらに好ましく、60モル%以上が特に好ましく、70モル%以上が最も好ましい。また、100モル%以下が好ましく、99モル%以下がより好ましく、97モル%以下が特に好ましい。プロピレンを30モル%以上含有することで、プロピレン基材との良好な密着性を示す傾向がある。また、プロピレン以外にα-オレフィン成分を含有してもよい。
【0022】
変性ポリオレフィン(A2)のプロピレンと1-ブテンのモル比はプロピレン/1-ブテン=99~45/1~55であることが好ましい。プロピレンのモル比が55%以上であることがより好ましく、さらに好ましくは65%以上であり、より好ましくは76%以上である。プロピレンのモル比が45%以上であることで、ポリオレフィン基材、特にポリプロピレン基材との優れた密着性を発現できる。また、プロピレンのモル比が97%以下であることがより好ましい。さらに好ましくは94%以下であり、最も好ましくは92%以下である。さらに、1-ブテンのモル比が1%以上であれば変性ポリオレフィンが柔軟となり、基材との追従性などの加工特性が向上する。1-ブテンのモル比は3%以上であることがより好ましく、さらに好ましくは6%以上であり、最も好ましくは8%以上である。1-ブテンのモル比が45%以下であることがより好ましい。さらに好ましくは35%以下であり、最も好ましくは24%以下である。
【0023】
本発明で用いる変性ポリオレフィン(A1)および(A2)の変性として、具体的には、酸変性、塩素変性、アクリル変性、水酸基変性等が挙げられる。(A1)および(A2)は両者がそれぞれこれらの変性をほどこされている必要がある。また、変性ポリオレフィン(A1)および(A2)は酸変性されていることが特に好ましい。
【0024】
変性ポリオレフィン(A1)、(A2)はポリオレフィンがα,β-不飽和カルボン酸及びその酸無水物によって酸変性されていることが好ましい。α,β-不飽和カルボン酸及びその酸無水物としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸及びこれらの酸無水物が挙げられる。これらの中でも酸無水物が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。これらα,β-不飽和カルボン酸及びその酸無水物は1種類又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
変性ポリオレフィン(A1)および(A2)の酸価は、ポリオレフィン樹脂基材と金属基材との接着性および耐電解液性の観点から、それぞれ2~50mgKOH/gの範囲であることが好ましい。より好ましくは3~45mgKOH/g、さらに好ましくは5~40mgKOH/g、特に好ましくは7~35mgKOH/gの範囲である。2mgKOH/g未満であると、硬化剤との相溶性が乏しくなることがある。そのため、架橋密度が低く、接着強度、耐薬品性(耐電解液性)が低下することがある。前記の値を超えると、分子量が低く、凝集力が弱くなるため、接着強度、耐薬品性(耐電解液性)が低下することがある。さらに製造効率も低下するため好ましくない。また変性ポリオレフィン(A1)と(A2)の酸価は同じでも異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。
【0026】
変性ポリオレフィン(A1)および(A2)の酸価は、α,β-不飽和カルボン酸、α,β-不飽和カルボン酸の酸無水物およびラジカル発生剤の使用量により調整することができる。
【0027】
変性ポリオレフィン(A1)および(A2)は、互いに融点が異なる必要がある。高融点の変性ポリオレフィンと低融点の変性ポリオレフィンを併用することで、ポリオレフィン基材の熱収縮影響が小さい80℃以下のような低温で貼り合わせ、40℃以下のような低温でのエージングを行ってもポリオレフィン樹脂基材と金属基材との良好な接着性および耐薬品性を発現することができ、かつ硬化後は優れた耐熱性を有する。
変性ポリオレフィン(A1)と(A2)の融点は異なっていて、(A1)よりも(A2)の方が高融点である。(A1)と(A2)の融点の差は、3~55℃であることが好ましく、より好ましくは4~45℃、さらに好ましくは5~30℃である。前記の範囲外であると低温加工性、耐電解液性、および高温条件における耐久性を並立することができないおそれがある。
【0028】
変性ポリオレフィン(A1)の融点(Tm)は、好ましくは50℃~155℃の範囲であり、より好ましくは55℃~120℃の範囲である。さらに好ましくは60℃~100℃の範囲であり、最も好ましくは70℃~90℃の範囲である。前記の値未満であると、結晶由来の凝集力が弱くなり、接着性や耐薬品性が劣る場合がある。一方、前記の値を超えると、溶液安定性、流動性が低く接着する際の操作性に問題が生じる場合がある。
【0029】
変性ポリオレフィン(A2)の融点(Tm)は、好ましくは55℃~160℃の範囲であり、より好ましくは60℃~125℃の範囲である。さらに好ましくは65℃~105℃の範囲であり、最も好ましくは75℃~95℃の範囲である。前記の値未満であると、結晶由来の凝集力が弱くなり、接着性や耐薬品性が劣る場合がある。一方、前記の値を超えると、溶液安定性、流動性が低く接着する際の操作性に問題が生じる場合がある。
【0030】
変性ポリオレフィン(A1)および(A2)の質量比は、(A1)/(A2)=99~21/1~79であり、好ましくは75~25/25~75の範囲である。より好ましくは60~40/40~60の範囲である。前記の範囲内だと低温加工性、耐電解液性、および高温条件における耐久性を並立することができる。
【0031】
変性ポリオレフィン(A1)および(A2)の融解熱(ΔH)は、1J/g~60J/gの範囲であることが好ましい。より好ましくは3J/g~50J/gの範囲であり、最も好ましくは5J/g~40J/gの範囲である。前記の値未満であると、結晶由来の凝集力が弱くなり、接着性や耐薬品性が劣る場合がある。一方、前記の値を超えると、溶液安定性、流動性が低く接着する際の操作性に問題が生じる場合がある。
【0032】
変性ポリオレフィン(A1)および(A2)の製造方法としては、特に限定されず、例えばラジカルグラフト反応(すなわち主鎖となるポリマーに対してラジカル種を生成し、そのラジカル種を重合開始点として不飽和カルボン酸および酸無水物をグラフト重合させる反応)、などが挙げられる。
【0033】
ラジカル発生剤としては、特に限定されないが、例えば有機過酸化物、アゾニトリル類等が挙げられ、有機過酸化物を使用することが好ましい。有機過酸化物としては、特に限定されないが、ジ-tert-ブチルパーオキシフタレート、tert-ブチルヒドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシピバレート、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等、アゾニトリル類としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソプロピオニトリル等が挙げられる。
【0034】
変性ポリオレフィン(A1)および(A2)の重量平均分子量(Mw)は、10,000~200,000の範囲であることが好ましい。より好ましくは20,000~180,000の範囲であり、さらに好ましくは30,000~160,000の範囲であり、特に好ましくは40,000~140,000の範囲であり、最も好ましくは、50,000~110,000の範囲である。前記の値未満であると、凝集力が弱くなり接着性が劣る場合がある。一方、前記の値を超えると、流動性が低く接着する際の操作性に問題が生じる場合がある。前記範囲内であれば、硬化剤との硬化反応が活かされるため好ましい。
【0035】
<熱可塑性樹脂(B)>
本発明で用いられる熱可塑性樹脂(B)は特に限定されないが、スチレン骨格を有する熱可塑性樹脂を用いることができる。スチレン系熱可塑性樹脂として具体的には、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合樹脂、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合樹脂、スチレンーブタジエン共重合樹脂、スチレン-エチレン共重合樹脂、スチレン-ブチレン共重合樹脂、スチレン-エチレン-スチレン共重合樹脂、スチレン-ブチレン-スチレン共重合樹脂などのスチレン系エラストマー等が挙げられる。また、スチレン骨格を有さない熱可塑性樹脂としてはエチレンープロピレン共重合樹脂、エチレン-ブテン共重合樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン-エチルアクリレート共重合樹脂等のオレフィン系エラストマー等が挙げられる。中でもスチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合樹脂、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンなどのスチレン系エラストマーが、変性ポリオレフィン(A1)および(A2)との相溶性や、耐熱性の観点から好ましい。
【0036】
熱可塑性樹脂(B)は、酸価を有していてもよい。好ましくは2~50mgKOH/gの範囲、より好ましくは3~45mgKOH/gの範囲、さらに好ましくは5~40mgKOH/gの範囲、特に好ましくは7~35mgKOH/gの範囲で酸価を有することが好ましい。また、熱可塑性樹脂(B)は酸変性されている場合、無水マレイン酸変性されていることが好ましい。前記範囲の酸価を有することで変性ポリオレフィン(A1)および(A2)、ならびに硬化剤(C)との相溶性が良好となり、かつ硬化剤(C)との架橋により凝集力、接着力および耐熱性が向上する。
【0037】
熱可塑性樹脂(B)の配合量は、変性ポリオレフィン(A1)および(A2)の合計量100質量部に対して3~60質量部であることが好ましい。より好ましくは5~40質量部の範囲であり、8~30質量部の範囲がさらに好ましく、10~20質量部の範囲が特に好ましい。前記範囲にあることで接着剤組成物として適度な柔軟性を持ち、深絞り性等の加工特性とポリオレフィン基材との接着性を兼備できる。
【0038】
<接着剤組成物>
本発明の接着剤組成物は変性ポリオレフィン(A1)および(A2)、ならびに熱可塑性樹脂(B)を含有する組成物である。本発明の接着剤組成物は、さらに硬化剤(C)を含有することができる。
接着剤組成物の不揮発分中における(A1)、(A2)および(B)の合計量は60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、最も好ましくは80質量%以上である。
【0039】
<硬化剤(C)>
本発明で用いられる硬化剤(C)は特に限定されないが、例えば、エポキシ硬化剤、イソシアネート硬化剤、カルボジイミド系硬化剤、オキサゾリン系硬化剤などが挙げられ、エポキシ硬化剤またはイソシアネート硬化剤であることが好ましい。
【0040】
本発明に用いるエポキシ硬化剤は特に限定されず、エポキシ樹脂およびこれらから誘導された化合物を好ましく用いることができる。具体例として、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステルタイプ、あるいは3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等の脂環族あるいは脂肪族エポキサイド等が挙げられ、1種単独で用いても2種以上を併用しても構わない。
【0041】
本発明に用いるグリシジルアミン型エポキシ樹脂の具体例としては、特に限定されないが、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルパラアミノフェノール、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサノン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン等のグリシジルアミン系などが挙げられる。中でもN,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミンが好ましい。これらグリシジルアミン型エポキシ樹脂を単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0042】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂の具体例としては、特に限定されないが、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が挙げられ、これらが金属基材との接着性および耐薬品性という観点から好ましい。これらグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0043】
本発明で使用されるエポキシ硬化剤として、金属基材との接着性および耐薬品性という観点からグリシジルアミン型エポキシ樹脂とグリシジルエーテル型エポキシ樹脂を併用することが好ましい。好ましい質量比は、グリシジルアミン型エポキシ樹脂/グリシジルエーテル型エポキシ樹脂=1~30/99~70であり、より好ましくは、5~20/95~80であり、さらに好ましくは8~15/92~85である。
【0044】
本発明に用いるイソシアネート硬化剤は特に限定されず、ジイソシアネート、トリイソシアネートおよびこれらから誘導された化合物を好ましく用いることができる。
例えば、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ビス(4-イソシアネートシクロヘキシル)メタン、または水添化ジフェニルメタンジイソシアネート等のジイソシアネートが挙げられる。さらに前記ジイソシアネートから誘導された化合物、即ち、前記ジイソシアネートのイソシアヌレート体、アダクト体、ビウレット型、ウレトジオン体、アロファネート体、イソシアネート残基を有するプレポリマー(ジイソシアネートとポリオールから得られる低重合体)、トリグリシジルイソシアヌレート、またはこれらの複合体等が挙げられる。これらを単独で使用しても良いし、2種以上を任意に組み合わせて使用しても良い。
【0045】
本発明で使用されるイソシアネート硬化剤として、中でも耐電解液性が優れるという理由から、前記ジイソシアネート化合物のイソシアヌレート体を有するものが好ましい。
【0046】
本発明で使用される硬化剤(C)は、エポキシ硬化剤やイソシアネート硬化剤のほかに、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、カップリング剤類等も挙げられる。カルボジイミド化合物としては、ジメチルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、t-ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ-β-ナフチルカルボジイミド等のモノカルボジイミド化合物類、または脂肪族ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート、もしくは脂環族ジイソシアネートなど有機ジイソシアネートを縮合触媒の存在下、無溶媒又は不活性溶媒中で、脱炭酸縮合反応を行なうことにより製造することができるポリカルボジイミド化合物類等が挙げられる。また、オキサゾリン化合物としては、2-オキサゾリン、2-メチル-2-オキサゾリン、2-フェニル-2-オキサゾリン、2,5-ジメチル-2-オキサゾリン、または2,4-ジフェニル-2-オキサゾリンなどのモノオキサゾリン化合物、2,2’-(1,3-フェニレン)-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-(1,2-エチレン)-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-(1,4-ブチレン)-ビス(2-オキサゾリン)、または2,2’-(1,4-フェニレン)-ビス(2-オキサゾリン)などのジオキサゾリン化合物等が挙げられる。また、カップリング剤としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等が挙げられる。
【0047】
本発明の接着剤組成物に硬化剤(C)を含有させる場合、硬化剤(C)の配合量は、変性ポリオレフィン(A1)および(A2)の合計量(A1)+(A2)100質量部に対して、0.5~40質量部の範囲が好ましく、より好ましくは1~35質量部であり、さらに好ましくは2~30質量部であり、特に好ましくは3~25質量部の範囲である。前記の値未満であると、十分な硬化効果が得られず接着性および耐薬品性が低い場合がある。前記の範囲を超えると、ポットライフ性や接着性が低下することがあり、また追従性の低下により成形時にピンホールが発生することがある。さらにコスト面の観点から好ましくない。
【0048】
本発明にかかる接着剤組成物は、本発明の性能を損なわない範囲で、前記変性ポリオレフィン(A1)および(A2)、熱可塑性樹脂(B)並びに硬化剤(C)の他に各種の粘着付与剤、可塑剤、硬化促進剤、難燃剤、顔料、ブロッキング防止剤等の添加剤を配合して使用することができる。
【0049】
本発明にかかる接着剤組成物は、本発明の性能を損なわない範囲で、さらに有機溶剤を含有することができる。有機溶剤としては変性ポリオレフィン(A1)および(A2)、熱可塑性樹脂(B)および硬化剤(C)を溶解または分散させるものであれば特に限定されないが、脂肪族炭化水素および脂環族炭化水素などの低極性溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤などの高極性溶剤などが例示される。保存安定性やポットライフの観点から、低極性溶剤と高極性溶剤を併用することが好ましい。高極性溶剤と低極性溶剤の含有量比は5O~3/50~97(質量比)が好ましく、45~5/55~95がより好ましく、40~10/60~90がさらに好ましい。
【0050】
脂肪族炭化水素としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカンなどが挙げられる。脂環族炭化水素としては、シクロヘキサン、シクロヘキセン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロへキサンなどが挙げられる。アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、プロパンジオールなどが挙げられる。エーテル系溶剤としては、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-iso-ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-iso-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノ-n-ブチルエーテルなどが挙げられる。ケトン系溶剤としては、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、ヘキサノン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセトフェノンなどが挙げられる。エステル系溶剤としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、ギ酸ブチルなどが挙げられる。
【0051】
前記の有機溶剤のうち、低極性溶剤としては、脂環族炭化水素であるシクロヘキサン等がこのましく、高極性溶剤としてはケトン系溶剤であるメチルエチルケトン等が好ましく、なかでもシクロヘキサンとメチルエチルケトンの混合溶剤であることがより好ましい。これらの有機溶剤は、(A1)、(A2)、および(B)の合計量100質量部に対し、80~20OO質量部含有することが好ましい。より好ましくは90~1600質量部、さらに好ましくは100~1200質量部、特に好ましくは110~800質量部の範囲である。前記範囲内では、溶液状態およびポットライフ性が良好となりやすい。
【0052】
<積層体>
本発明の積層体は、ポリオレフィン樹脂基材と金属基材を本発明にかかる接着剤組成物で積層したものである。
【0053】
積層する方法としては、従来公知のラミネート製造技術を利用することができる。例えば、特に限定されないが、金属基材の表面に接着剤組成物をロールコータやバーコータ等の適当な塗布手段を用いて塗布し、乾燥させる。乾燥後、金属基材表面に形成された接着剤組成物の層(接着剤層)が溶融状態にある間に、その塗布面にポリオレフィン樹脂基材を積層接着(ラミ接着)して積層体を得ることができる。
前記接着剤組成物により形成される接着剤層の厚みは、特に限定されないが、0.5~10μmにすることが好ましく、0.8~9.5μmにすることがより好ましく、1~9μmにすることがさらに好ましい。
【0054】
<ポリオレフィン樹脂基材>
ポリオレフィン樹脂基材としては、従来から公知のポリオレフィン樹脂の中から適宜選択すればよい。例えば、特に限定されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体などを用いることができる。中でも、ポリプロピレンの無延伸フィルム(以下、CPPともいう。)の使用が好ましい。その厚さは、特に限定されないが、20~100μmであることが好ましく、25~95μmであることがより好ましく、30~90μmであることがさらに好ましい。なお、ポリオレフィン樹脂基材には必要に応じて顔料や種々の添加物を配合してもよいし、表面処理を施してもよい。
【0055】
<金属基材>
金属基材としては、特に限定されないが、例えばアルミニウム、銅、鉄鋼、クロム、亜鉛、ジュラルミン、ダイカストなどの各種金属およびその合金を使用することができる。また、その形状としては、金属箔、圧延鋼板、パネル、パイプ、カン、キャップなど任意の形状を取り得ることができる。一般的には、加工性等の観点からアルミ二ウム箔が好ましい。また、使用目的によっても異なるが、一般的には0.01~10mm、好ましくは0.02~5mmの厚みのシートの形で使用される。
また、これら金属基材の表面を予め表面処理を施しておいてもよいし、未処理のままでもよい。いずれも場合であっても同等の効果を発揮することができる。

<<実施例>>
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0057】
<変性ポリオレフィン(A)の製造例>
製造例1
1Lオートクレーブに、プロピレン・1-ブテン共重合体(Tm:80℃、プロピレン/1-ブテン=8O/2O モル比)100質量部、トルエン233質量部及び無水マレイン酸20質量部、ジ-tert-ブチルパーオキサイド5質量部を加え、140℃まで昇温した後、更に1時間撹拌した(ここで、1時間「反応」したという)。その後、得られた反応液を100℃まで冷却後、予め40℃に加温したトルエン717質量部とメチルエチルケトン950質量部が入った容器に攪拌しながら注ぎ、40℃まで冷却し、更に30分間攪拌し、更に25℃まで冷却することで樹脂を析出させた(ここで、反応液をメチルエチルケトンなどの溶剤に攪拌しながら注ぎ込み、冷却することで樹脂を析出させる操作を「再沈」という)。その後、当該樹脂を含有するスラリー液を遠心分離することで無水マレイン酸がグラフト重合した酸変性プロピレン・1-ブテン共重合体と(ポリ)無水マレイン酸および低分子量物とを分離した。
更に、遠心分離して取り出した酸変性プロピレン・1-ブテン共重合体を、予め25℃に保温した新たな2000質量部のメチルエチルケトンが入った容器に攪拌しながら投入し、1時間攪拌を続けた。その後、スラリー液を遠心分離することで、更に酸変性プロピレン・1-ブテン共重合体と(ポリ)無水マレイン酸および低分子量物とを分離した。当該操作を2回繰り返すことで、精製した(ここで、遠心分離して取り出した酸変性プロピレン・1-ブテン共重合体をメチルエチルケトンに攪拌しながら投入し、再度遠心分離することで、精製を強化する操作を「リスラリー」とする)。
精製後、減圧下70℃で5時間乾燥させることにより、変性ポリオレフィンである無水マレイン酸変性プロピレン・1-ブテン共重合体(PO-1、酸価25mgKOH/g、重量平均分子量60,000、Tm80℃)を得た。
【0058】
製造例2
製造例1で用いたプロピレン・1-ブテン共重合体(Tm:80℃)をプロピレン・1-ブテン共重合体(Tm:90℃、プロピレン/1-ブテン=85/15 モル比)に変更し、リスラリー回数を1回、リスラリーの際に投入するメチルエチルケトンの量を1000質量部に変更した以外は製造例1と同様にすることにより、変性ポリオレフィンである無水マレイン酸変性プロピレン・1-ブテン共重合体(PO-2、酸価25mgKOH/g、重量平均分子量60,000、Tm90℃)を得た。
【0059】
製造例3
無水マレイン酸の仕込み量を3質量部、ジ-tert-ブチルパーオキサイドの仕込み量を1質量部に変更し、リスラリー回数を1回、リスラリーの際に投入するメチルエチルケトンの量を1000質量部に変更した以外は製造例1と同様にすることにより、変性ポリオレフィンである無水マレイン酸変性プロピレン・1-ブテン共重合体(PO-3、酸価5mgKOH/g、重量平均分子量90,000、Tm80℃)を得た。
【0060】
製造例4
製造例1で用いたプロピレン・1-ブテン共重合体をエチレン・プロピレン共重合体(Tm:100℃、エチレン/プロピレン=75/25 モル比)に変更した以外は製造例1と同様にすることにより、変性ポリオレフィンである無水マレイン酸変性エチレン・プロピレン共重合体(PO-4、酸価25mgKOH/g、重量平均分子量60,000、Tm100℃)を得た。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
表1および表2で用いた熱可塑性樹脂(B)は以下のものである。
B-1: クレイトン社製 クレイトン(登録商標)FG1924 (無水マレイン酸変性スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン樹脂、酸価11mgKOH/g)
B-2: 旭化成社製 タフテック(登録商標)M1911 (無水マレイン酸変性スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン樹脂、酸価2mgKOH/g)
B-3: クレイトン社製 クレイトン(登録商標)FG1901 (無水マレイン酸変性スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン樹脂、酸価19mgKOH/g)
B-4: タフマー(登録商標)MH7020(無水マレイン酸変性エチレン‐1-ブテン共重合体、酸価11mgKOH/g
B-5: 旭化成社製 タフテック(登録商標)H1517 (スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン樹脂、酸価0mgKOH/g)
B-6: クレイトン社製 クレイトン(登録商標)G1730 (スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン樹脂、酸価0mgKOH/g)
B-7: 三井化学社製 タフマー(登録商標)DF640 (エチレン・ブタジエン樹脂、酸価0mgKOH/g)
【0064】
実施例1
水冷還流凝縮器と撹拌機を備えた500mlの四つ口フラスコに、製造例1で得られた無水マレイン酸変性プロピレン・1-ブテン共重合体(PO-1)を90質量部、無水マレイン酸変性プロピレン・1-ブテン共重合体(PO-2)を10質量部、熱可塑性樹脂クレイトンFG1924(B-1)を15質量部、シクロヘキサンを424質量部およびメチルエチルケトンを228質量部仕込み、撹拌しながら80℃まで昇温し、撹拌を1時間続けた後、硬化剤(C-1)を3.8質量部、(C-2)を0.5質量部配合し、接着剤組成物を得た。この接着剤組成物を用いて、下記の方法で積層体を作成した。評価結果を表1に示す。
【0065】
実施例2~15、比較例1~6
酸変性プロピレン・1-ブテン共重合体または酸変性エチレン・プロピレン共重合体、熱可塑性樹脂を表1および表2に示すとおりに変更し、実施例1と同様な方法で実施例2~15、比較例1~6を作製した。配合量および評価結果を表1および表2に示す。
【0066】
金属基材とポリオレフィン樹脂基材との積層体の作製
金属基材にはアルミニウム箔(住軽アルミ箔社製、8079-0、厚さ40μm)を使用し、ポリオレフィン樹脂基材には無延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡社製パイレン(登録商標)フィルムCT、厚さ40μm)(以下、CPPともいう。)を使用した。
得られた接着剤組成物を金属基材にバーコータを用いて乾燥後の接着剤層の膜厚が3μmになるように調整して塗布した。塗布面を温風乾燥機を用いて100℃雰囲気で1分間乾燥させ、膜厚3μmの接着剤層が積層された金属基材を得た。前記接着剤層表面にポリオレフィン樹脂基材を重ね合わせ、テスター産業社製の小型卓上テストラミネーター(SA-1010-S)を用いて、ラミネート温度80℃で、0.3MPa、1m/分にて貼り合わせ、40℃、50%RHにて5日間養生することで積層体を得た。
得られた積層体に対して、接着性、耐電解液性、成形性、破断伸度および貯蔵弾性率を評価した。結果を表1および表2に示す。
【0067】
表1および表2で用いた硬化剤は以下のものである。
(C-1) グリシジルエーテル型エポキシ樹脂:jER(登録商標)152(三菱化学社製)
(C-2) グリシジルアミン型エポキシ樹脂:TETRAD(登録商標)-X(三菱ガス化学社製)
(C-3) 多官能ポリイソシアネート:スミジュール(登録商標)N3300(コベストロ社製)
【0068】
上記のようにして得られた各変性ポリオレフィンおよび接着剤組成物に対して下記方法に基づいて分析測定および評価を行った。
酸価の測定
本発明における酸価(mgKOH/g)は、1gの試料を中和するのに必要とするKOH量のことであり、JIS K0070(1992)の試験方法に準じて、測定した。具体的には、100℃に温度調整したキシレン100gに、変性ポリオレフィンまたは熱可塑性樹脂1gを溶解させた後、同温度でフェノールフタレインを指示薬として、0.1mol/L水酸化カリウムエタノール溶液[商品名「0.1mol/Lエタノール性水酸化カリウム溶液」、和光純薬(株)製]で滴定を行った。この際、滴定に要した水酸化カリウム量をmgに換算して酸価(mgKOH/g)を算出した。
【0069】
重量平均分子量(Mw)の測定
本発明における重量平均分子量は日本ウォーターズ社製ゲルパーミエーションクロマトグラフAlliance e2695(以下、GPC、標準物質:ポリスチレン樹脂、移動相:テトラヒドロフラン、カラム:Shodex KF-806 + KF-803、カラム温度:40℃、流速:1.0ml/分、検出器:フォトダイオードアレイ検出器(波長254nm = 紫外線))によって測定した値である。
【0070】
融点の測定
本発明における融点は示差走査熱量計(以下、DSC、ティー・エー・インスツルメント・ジャパン製、Q-2000)を用いて、10℃/分の速度で200℃まで昇温後、同速度で-50℃まで冷却し、再度同速度で昇温した際の融解ピークのトップ温度から測定した値である。
【0071】
ポットライフ性の評価
ポットライフ性とは、変性ポリオレフィンに硬化剤を配合し、その配合直後または配合後一定時間経過後の該溶液の安定性を指す。ポットライフ性が良好な場合は、溶液の粘度上昇が少なく長期間保存が可能であることを指し、ポットライフ性が不良な場合は、溶液の粘度が上昇(増粘)し、ひどい場合にはゲル化現象を起こし、基材への塗布が困難となり、長期間保存が不可能であることを指す。
接着剤組成物のポットライフ性を、25℃雰囲気で24時間貯蔵した後に、B型粘度計を用いて25℃の溶液粘度を測定することで評価した。
評価結果を表1および表2に示す。
<評価基準>
☆(実用上極めて優れる):300mPa・s未満
◎(実用上特に優れる):300mPa・s以上500mPa・s未満
○(実用上優れる):500mPa・s以上800mPa・s未満
△(実用可能):800mPa・s以上1000mPa・s未満
×(実用不可能):1000mPa・s以上またはゲル化により粘度測定不可
【0072】
<初期接着性の評価>
積層体を100mm×15mm大きさに切断し、T型剥離試験により接着性を以下の基準により評価した。
T型剥離試験はASTM-D1876-61の試験法に準拠し、オリエンテックコーポレーション社製のテンシロンRTM-100を用いて、25℃環境下で、引張速度50mm/分における剥離強度を測定した。金属基材/ポリオレフィン樹脂基材間の剥離強度(N/cm)は5回の試験値の平均値とした。
評価基準は以下のとおりとした。
☆(実用上極めて優れる): 8.0N/cm以上
◎(実用上特に優れる): 7.5N/cm以上8.0N/cm未満
○(実用上優れる): 7.0N/cm以上7.5N/cm未満
△(実用可能): 6.5N/cm以上7.0N/cm未満
×(実用不可能): 6.5N/cm未満
【0073】
<85℃耐電解液性の評価>
リチウムイオン電池の包装材としての利用性を検討するため耐電解液性の評価を行った。積層体を、100mm×15mm大きさに切断し、電解液[エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/ジメチルカーボネート=1/1/1(容積比)100gに6フッ化リン酸リチウムを13g添加したもの]に85℃で1日間浸漬させた。その後、積層体を取り出しイオン交換水で洗浄、ペーパーワイパーで水を拭き取り、十分に水分を乾燥させ、T型剥離試験により耐電解液性を以下の基準により評価した。
☆(実用上極めて優れる): 8.0N/cm以上
◎(実用上特に優れる): 7.5N/cm以上8.0N/cm未満
○(実用上優れる): 7.0N/cm以上7.5N/cm未満
△(実用可能): 6.5N/cm以上7.0N/cm未満
×(実用不可能): 6.5N/cm未満
【0074】
<成形性の評価>
成形性は作製した積層体の限界成形深さ(深絞り性)により評価した。限界成形深さは、以下の方法で実施した。
積層体を80×120mm大きさに切断し、冷間成形を行った。具体的には、株式会社アマダ製の張り出し成形機(品番:TP-25C-X2)と、55mm×35mmの口径を有する形成金型(雌型)と、これに対応した成形金型(雄型)を用いて、押え圧0.4MPaで0.5mmの成形深さから0.5mm単位で成形深さを変えて、それぞれ10個のサンプル(積層体)について冷間成形を行った。冷間成形後のサンプルについて、皺やアルミニウム箔にピンホール、クラックが10個のサンプル全てにおいて発生しない最も深い成形深さを、そのサンプルの限界成形深さとした。この限界成形深さから、以下の基準により電池用包装材料の成形性を評価した。評価結果を表1および表2に示す。
<評価基準>
☆(実用上極めて優れる): 限界成形深さ6.0mm以上
◎(実用上特に優れる): 限界成形深さ4.0mm以上6.0mm未満
○(実用上優れる): 限界成形深さ3.0mm以上4.0mm未満
△(実用可能): 限界成形深さ2.0mm以上3.0mm未満
×(実用不可能): 限界成形深さ2.0mm未満
【0075】
耐熱性および耐久性は、引張破断伸度と貯蔵弾性率によって評価した。
【0076】
破断伸度の測定
本発明における25℃の引張破断伸度(Eb)は、JIS K7161(2014)の試験法に準拠して測定した。具体的には、オリエンテックコーポレーション社製のテンシロンRTM-100を用いて、25℃環境下で、速度50mm/分における引張において破断した際の伸度(%)を測定した値である。
また、85℃の破断伸度は、85℃環境下において同様に測定した値である。得られた接着剤組成物をテフロン(登録商標)シートに500μmアプリケーターを用いて、乾燥後の接着剤層の膜厚が50μmになるように調整して塗布した。塗布面を温風乾燥機を用いて100℃雰囲気で1分間乾燥させた。テフロンシートから接着剤層を剥離し、膜厚50μmの試験片を得た。試験片を50mm×15mmに切断し、前記T型剥離試験と同様の方法で実施し試験片が破断した時点の伸び率により評価した。
☆(実用上極めて優れる): 300%以上
◎(実用上特に優れる): 250%以上300%未満
○(実用上優れる): 220%以上250%未満
△(実用可能): 200%以上220%未満
×(実用不可能): 200%未満
【0077】
貯蔵弾性率の測定
本発明における貯蔵弾性率(E)は、JIS K7244-4(1999)の試験法に準拠して測定した。具体的には、アイティー計測制御社製、動的粘弾性測定装置 DVA-200を用いて、周波数10Hzにて、-50℃から5℃/分の速度で昇温しながら測定した値である。貯蔵弾性率は80℃環境下、および110℃環境下でそれぞれ測定した。試験片は、前記破断伸度の測定で用いた試験片と同様に作製した。
☆(実用上極めて優れる): 1.0×10Pa以上
◎(実用上特に優れる): 1.0×10Pa以上1.0×10Pa未満
○(実用上優れる): 5.0×10Pa以上1.0×10Pa未満
△(実用可能): 1.0×10Pa以上5.0×10Pa未満
×(実用不可能): 1.0×10Pa未満
【0078】
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明にかかる接着剤組成物は、互いに融点の異なる変性ポリオレフィン、熱可塑性樹脂および硬化剤を含有し、基材との顕著な追従性を示すため、深絞り性などの加工特性に優れる。また、低温での貼り合わせ条件下でもポリオレフィン樹脂基材と金属基材との良好な接着性および耐薬品性を発現することができ、かつ硬化後は優れた耐熱性および耐久性を有する。そのため、本発明の接着剤組成物から形成されるポリオレフィン樹脂基材と金属基材との積層体は、家電外板、家具用素材、建築内装用部材などの分野のみならず、パソコン、携帯電話、ビデオカメラなどに用いられるリチウムイオン電池の包装材(パウチ形態)としても幅広く利用し得るものである。