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特許7420068アンモ酸化反応による芳香族ニトリルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】アンモ酸化反応による芳香族ニトリルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 253/28 20060101AFI20240116BHJP
   C07C 255/51 20060101ALI20240116BHJP
   B01J 23/26 20060101ALI20240116BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240116BHJP
【FI】
C07C253/28
C07C255/51
B01J23/26 Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020510677
(86)(22)【出願日】2019-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2019011026
(87)【国際公開番号】W WO2019188459
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2018067764
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(72)【発明者】
【氏名】神原 豊
(72)【発明者】
【氏名】大森 雄太
(72)【発明者】
【氏名】久古 陽一
(72)【発明者】
【氏名】辻本 智雄
(72)【発明者】
【氏名】山元 一成
(72)【発明者】
【氏名】畠山 剛
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-267942(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0209484(US,A1)
【文献】特開2012-176938(JP,A)
【文献】特公昭49-045860(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
B01J
C07B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の反応管を含む固定床反応器を用いて、芳香族炭化水素、アンモニアおよび酸素を含む混合ガスを触媒上で接触反応させて、対応する芳香族ニトリルを製造する方法であって、
前記触媒が、バナジウム、クロム及びホウ素を含む酸化物と、アルミナ、シリカアルミナ、ジルコニア及びチタニアから選ばれる1種以上の担体とから構成され、
前記反応管の一つに1種類の前記触媒を充填させた場合にホットスポットとなる個所を認定し、前記複数の反応管に対し、当該ホットスポットに相当する部分に、前記触媒に不活性物を混合したものを充填し、それ以外の部分に前記触媒を充填する、前記芳香族ニトリルの製造方法。
【請求項2】
複数の反応管を含む固定床反応器を用いて、芳香族炭化水素、アンモニアおよび酸素を含む混合ガスを触媒上で接触反応させて、対応する芳香族ニトリルを製造する方法であって、
前記触媒が、バナジウム、クロム及びホウ素を含む酸化物と、アルミナ、シリカアルミナ、ジルコニア及びチタニアから選ばれる1種以上の担体とから構成され、
前記反応管の一つに1種類の前記触媒を充填させた場合にホットスポットとなる個所を認定し、前記複数の反応管に対し、少なくとも当該ホットスポットに相当する部分に、前記触媒を充填し、それ以外の部分にホウ素を含まないかあるいは前記触媒よりホウ素量が少ない触媒を充填する、前記芳香族ニトリルの製造方法。
【請求項3】
複数の反応管を含む固定床反応器を用いて、芳香族炭化水素、アンモニアおよび酸素を含む混合ガスを触媒上で接触反応させて、対応する芳香族ニトリルを製造する方法であって、
前記触媒が、バナジウム、クロム及びホウ素を含む酸化物と、アルミナ、シリカアルミナ、ジルコニア及びチタニアから選ばれる1種以上の担体とから構成され、
前記反応管の一つに1種類の前記触媒を充填させた場合にホットスポットとなる個所を認定し、前記複数の反応管に対し、当該ホットスポットに相当する部分に、焼成温度が異なる2種の触媒のうち焼成温度が低い方の触媒を充填し、それ以外の部分に焼成温度が高い方の触媒を充填する、前記芳香族ニトリルの製造方法。
【請求項4】
前記バナジウム、クロム及びホウ素を含む酸化物が下記の組成式で表される、請求項1からのいずれかに記載の芳香族ニトリルの製造方法。
組成式 VCrde
[式中のVはバナジウム、Crはクロム、Bはホウ素、Xはリン、モリブデン、鉄、タングステン、ゲルマニウム、マンガン、スズ、タンタル、ニオブ、アンチモン、ビスマス、鉛、テルル、コバルト、ニッケル、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム及びバリウムから選ばれた1種の元素、Oは酸素を示す。添字のa,b,c,d,eは各元素の原子比率を表し、a=1、b=0.5~2.0、c=0.01~1.5、d=0~2.0であり、eは上記各元素が結合して生成する酸化物または複合酸化物に対応する酸素数を示す。]
【請求項5】
前記担体がチタニアである、請求項1からのいずれかに記載の芳香族ニトリルの製造方法。
【請求項6】
前記少なくともホットスポットに相当する部分が、前記反応管の入口から前記ホットスポットを含む部分までである、請求項からのいずれかに記載の芳香族ニトリルの製造方法。
【請求項7】
前記反応管中の触媒層全体の重量を1とした場合に、前記少なくともホットスポットに相当する部分の触媒量が0.6以下である、請求項からのいずれかに記載の芳香族ニトリルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族炭化水素、アンモニアおよび酸素を含む混合ガスを触媒上で接触反応させて芳香族ニトリルを製造する方法に関する。芳香族ニトリルは、合成樹脂、農薬等の製造原料およびアミン、イソシアネート等の中間原料として有用である。
【背景技術】
【0002】
芳香族炭化水素に気相でアンモニアと酸素を反応させる反応は、アンモ酸化反応と呼ばれ種々提案されている。アンモ酸化反応の反応形式としては固定床、流動層等の形式が例示されている。アンモ酸化反応では、多量の反応熱が発生するために反応温度の制御が著しく困難であり、その解決策の一つとして流動層形式の反応が有効とされ、種々の方法が提案されている。例えば、触媒にシリカを担体に用いる方法(特許文献1)は、反応温度制御の点で優れた性能を示す。しかしながら、これらの触媒は何れも流動状態における触媒磨耗と微粉化が免れず、安定した反応を継続することが難しい。さらに、流動層形式では反応後のガスと触媒を分離する工程が必要となり経費が増大するため、好ましくない。
【0003】
一方、固定床形式では多管式の反応器が用いられ、反応熱の除去効率の向上が求められる。一般的には、アルミナやチタニアに有効成分を担持した金属酸化物触媒が使用される。その際有効な触媒としてバナジウム、クロム、アンチモン、モリブデン、スズ、ホウ素等の酸化物又はそれらの複合酸化物が用いられている。しかしながら、公知の触媒を用いた場合、局部的過熱による燃焼反応の進行、すなわち反応温度制御の困難から生じる二酸化炭素、シアン化水素等の副生成物の増大により、目的生成物である芳香族ニトリルの収率の低下などの問題が生じている。
【0004】
また、固定床で発熱反応を行うと、局所的に最も温度が高くなる部分であるホットスポットが形成され、副反応や暴走反応が起こり、装置の耐熱温度を超える恐れがあるため、ホットスポットを抑制する方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-209332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、固定床反応器を用いたアンモ酸化反応によって芳香族ニトリルを製造するにあたって、局所的に最も温度が高くなる部分であるホットスポットを抑制し、副反応や暴走反応がなく、安定な運転を可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、反応管のホットスポットに相当する部分に不活性物を充填するなどすることによって、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は下記のとおりである。
<1> 複数の反応管を含む固定床反応器を用いて、芳香族炭化水素、アンモニアおよび酸素を含む混合ガスを触媒上で接触反応させて、対応する芳香族ニトリルを製造する方法であって、
前記触媒が、バナジウム、クロム及びホウ素を含む酸化物と、アルミナ、シリカアルミナ、ジルコニア及びチタニアから選ばれる1種以上の担体とから構成され、
前記反応管の一つに1種類の前記触媒を充填させた場合にホットスポットとなる個所を認定し、前記複数の反応管に対し、少なくとも当該ホットスポットに相当する部分に不活性物を充填し、それ以外の部分に前記触媒を充填する、前記芳香族ニトリルの製造方法である。
<2> 複数の反応管を含む固定床反応器を用いて、芳香族炭化水素、アンモニアおよび酸素を含む混合ガスを触媒上で接触反応させて、対応する芳香族ニトリルを製造する方法であって、
前記触媒が、バナジウム、クロム及びホウ素を含む酸化物と、アルミナ、シリカアルミナ、ジルコニア及びチタニアから選ばれる1種以上の担体とから構成され、
前記反応管の一つに1種類の前記触媒を充填させた場合にホットスポットとなる個所を認定し、前記複数の反応管に対し、少なくとも当該ホットスポットに相当する部分に、前記触媒に不活性物を混合したものを充填し、それ以外の部分に前記触媒を充填する、前記芳香族ニトリルの製造方法である。
<3> 複数の反応管を含む固定床反応器を用いて、芳香族炭化水素、アンモニアおよび酸素を含む混合ガスを触媒上で接触反応させて、対応する芳香族ニトリルを製造する方法であって、
前記触媒が、バナジウム、クロム及びホウ素を含む酸化物と、アルミナ、シリカアルミナ、ジルコニア及びチタニアから選ばれる1種以上の担体とから構成され、
前記反応管の一つに1種類の前記触媒を充填させた場合にホットスポットとなる個所を認定し、前記複数の反応管に対し、少なくとも当該ホットスポットに相当する部分に、前記触媒を充填し、それ以外の部分にホウ素を含まないかあるいは前記触媒よりホウ素量が少ない触媒を充填する、前記芳香族ニトリルの製造方法である。
<4> 複数の反応管を含む固定床反応器を用いて、芳香族炭化水素、アンモニアおよび酸素を含む混合ガスを触媒上で接触反応させて、対応する芳香族ニトリルを製造する方法であって、
前記触媒が、バナジウム、クロム及びホウ素を含む酸化物と、アルミナ、シリカアルミナ、ジルコニア及びチタニアから選ばれる1種以上の担体とから構成され、
前記反応管の一つに1種類の前記触媒を充填させた場合にホットスポットとなる個所を認定し、前記複数の反応管に対し、少なくとも当該ホットスポットに相当する部分に、焼成温度が異なる2種の触媒のうち焼成温度が低い方の触媒を充填し、それ以外の部分に焼成温度が高い方の触媒を充填する、前記芳香族ニトリルの製造方法である。
<5> 前記バナジウム、クロム及びホウ素を含む酸化物が下記の組成式で表される、上記<1>から<4>のいずれかに記載の芳香族ニトリルの製造方法である。
組成式 VCrde
[式中のVはバナジウム、Crはクロム、Bはホウ素、Xはリン、モリブデン、鉄、タングステン、ゲルマニウム、マンガン、スズ、タンタル、ニオブ、アンチモン、ビスマス、鉛、テルル、コバルト、ニッケル、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム及びバリウムから選ばれた1種の元素、Oは酸素を示す。添字のa,b,c,d,eは各元素の原子比率を表し、a=1、b=0.5~2.0、c=0.01~1.5、d=0~2.0であり、eは上記各元素が結合して生成する酸化物または複合酸化物に対応する酸素数を示す。]
<6> 前記担体がチタニアである、上記<1>から<5>のいずれかに記載の芳香族ニトリルの製造方法である。
<7> 前記少なくともホットスポットに相当する部分が、前記反応管の入口から前記ホットスポットを含む部分までである、上記<2>から<6>のいずれかに記載の芳香族ニトリルの製造方法である。
<8> 前記反応管中の触媒層全体の重量を1とした場合に、前記少なくともホットスポットに相当する部分の触媒量が0.6以下である、上記<2>から<7>のいずれかに記載の芳香族ニトリルの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、固定床反応器を用いたアンモ酸化反応によって芳香族ニトリルを製造するにあたって、ホットスポットを抑制し、副反応や暴走反応がなく、安定な運転を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明で使用される複数の反応管を含む固定床反応器の一例を示す概略図である。
図2】比較例1で使用した反応管の概略図である。
図3】実施例1~4で使用した反応管の概略図である。
図4】比較例2で使用した反応管の概略図である。
図5】実施例5で使用した反応管の概略図である。
図6】比較例3で使用した反応管の概略図である。
図7】実施例6及び7で使用した反応管の概略図である。
図8】比較例4で使用した反応管の概略図である。
図9】実施例8及び9で使用した反応管の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0012】
本発明は、以下の実施形態1~4を含むものであるが、共通する要件として、「複数の反応管を含む固定床反応器を用いて、芳香族炭化水素、アンモニアおよび酸素を含む混合ガスを触媒上で接触反応させて、対応する芳香族ニトリルを製造する方法であって、前記触媒が、バナジウム、クロム及びホウ素を含む酸化物と、アルミナ、シリカアルミナ、ジルコニア及びチタニアから選ばれる1種以上の担体とから構成され、前記反応管の一つに1種類の前記触媒を充填させた場合にホットスポットとなる個所を認定することを含む」点が挙げられる。
【0013】
本発明で原料として用いられる芳香族炭化水素としては、トルエン、エチルベンゼンなどのアルキルベンゼン;キシレン、メシチレン、シメン、ジュレン、ジエチルベンゼンなどのポリアルキルベンゼン;メチルナフタレン、エチルナフタレンなどのアルキルナフタレン;及びジメチルナフタレン、ジエチルナフタレンなどのポリアルキルナフタレン等が挙げられ、ベンゼン、ナフタレン等の炭素環を有し、結合したメチル基、エチル基、プロピル基、ホルミル基、アセチル基、ヒドロキシメチル基、メトキシカルボニル基等、アンモ酸化反応によりシアノ基を生成し得る側鎖(以下、置換基と称す)を少なくとも1つ有する炭化水素化合物である。また、この炭化水素化合物はハロゲン基、ヒドロキシ基、アルコキシル基、アミノ基、ニトロ基、ニトリル基等を含んでいても使用できる。これらの化合物は単独または混合物で使用できる。
【0014】
本発明に用いられるアンモニアは工業用グレードでよい。アンモニアの使用量は、芳香族炭化水素1モルに含まれる置換基1個に対して1~20倍モル、好ましくは3~15倍モルの範囲である。これより使用量が少ないと目的生成物の収率は低下し、一方、これより多いと空時収率が小さくなる。本発明の方法では、反応ガスに含まれる未反応アンモニアを回収し、反応系に戻し再使用できる。反応ガスから未反応アンモニアの回収方法は種々考えられるが、工業的には、未反応アンモニアを水に吸収させた後、それを蒸留操作でアンモニアを他の副生成物と分離するのが有利である。ここで回収されるアンモニア中の水分量は蒸留の操作条件によって異なるが、通常は5~20容量%が含まれる。
【0015】
本発明で使用される酸素は、酸素含有ガスの形で供給され、通常は空気が用いられる。別法として、空気または酸素を不活性ガス、例えば窒素、炭酸ガス、排ガス等で希釈して用いることもできる。酸素の使用量は、芳香族炭化水素1モルに含まれる置換基1個に対してOとして1.5倍モル以上、好ましくは2~50倍モルの範囲である。これより使用量が少ないと目的生成物の収率が低下し、一方、これより多いと空時収率が小さくなる。
【0016】
本発明において用いられる触媒は、バナジウム、クロム及びホウ素を含む酸化物(以下、「金属酸化物」と呼ぶことがある)と、アルミナ、シリカアルミナ、ジルコニア及びチタニアから選ばれる1種以上の担体とから構成される。
前記金属酸化物には、他成分を加えてもよく、例えば、リン、モリブデン、鉄、タングステン、ゲルマニウム、マンガン、スズ、タンタル、ニオブ、アンチモン、ビスマス、鉛、テルル、コバルト、ニッケル、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム及びバリウムから選ばれた2種以上の元素を含んでもよい。
【0017】
前記金属酸化物は、下記の組成式で表されることが好ましい。
組成式 VCrde
[式中のVはバナジウム、Crはクロム、Bはホウ素、Xはリン、モリブデン、鉄、タングステン、ゲルマニウム、マンガン、スズ、タンタル、ニオブ、アンチモン、ビスマス、鉛、テルル、コバルト、ニッケル、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム及びバリウムから選ばれた1種の元素、Oは酸素を示す。添字のa,b,c,d,eは各元素の原子比率を表し、a=1、b=0.5~2.0、c=0.01~1.5、d=0~2.0であり、eは上記各元素が結合して生成する酸化物または複合酸化物に対応する酸素数を示す。]
Xとしては、モリブデン、リン、ナトリウム、カリウムが好ましく、モリブデンが特に好ましい。
【0018】
前記担体としてはアルミナ、シリカアルミナ、ジルコニア及びチタニアが挙げられるが、中でもチタニアが好ましい。
担体の量は、触媒中で50~99重量%が好ましく、より好ましくは65~97重量%である。
【0019】
本触媒におけるバナジウム源としては、メタバナジン酸アンモニウム、硫酸バナジル、およびシュウ酸、酒石酸などの有機酸のバナジウム塩類が使用されるが、その後の焼成操作で分解し、容易に酸化物となりうるメタバナジン酸アンモニウム、シュウ酸バナジル、酒石酸バナジルなどが好ましい。
【0020】
クロム源としては、無水クロム酸、硝酸クロム、水酸化クロム、クロム酸アンモニウム、クロム酸ナトリウム、重クロム酸アンモニウム、重クロム酸カリウム、重クロム酸ナトリウムおよびシュウ酸、酒石酸などの有機酸のクロム塩類が使用されるが、その後の焼成操作で分解し、容易に酸化物となりうるシュウ酸クロム、酒石酸クロムなどが好ましい。
【0021】
ホウ素源としては、ホウ酸、ホウ酸アンモニウムなどが使用される。
【0022】
本発明で使用される触媒は、以下の方法を用いて製造することができる。
前記バナジウム源、クロム源、ホウ素源となる化合物と、必要によりその他の化合物との水溶液を混合し、均一水溶液とした後に、担体を加え混合する。
例えば、酸化バナジウムをシュウ酸に溶かした水溶液に、無水クロム酸をシュウ酸に溶かした水溶液と、ホウ酸水溶液とを加え、均一水溶液とした後に担体であるアルミナまたはチタニアの粉末を加え混合する。その後、十分に触媒の均質化を図るため機械的な操作により混練する。
混練後、110℃~150℃で乾燥し、その後、粉砕して粉末を得る。ここで、粉砕前に、乾燥品を250℃~500℃にて予備焼成を行うことが好ましく、270℃~450℃がより好ましい。
【0023】
次いで粉末を機械的に圧縮成形し、さらに焼成することによって触媒を調製する。
まず、成形機により適当な形状に成形する。触媒の形状としては円柱、リング、球状、三つ葉、四つ葉などが好ましいが、特に円柱、リング状が好ましい。成形機には押し出し成形機、転動造粒機、打錠成形機等があるが、高い強度を有する触媒を得るために打錠成形機を使用するのが最も好ましい。打錠成形機を使用する場合、粉末を圧縮成形する際に黒鉛やエチルセルロースなどの成形助剤(バインダー)を添加する方が好ましい。添加量は1%~10%が好ましい。成形後、焼成を350~800℃、好ましくは400℃~700℃で数時間以上、空気を流通しながら行う。
触媒のサイズは、外径3mm~8mm、高さ3mm~8mmとなるように成形するのが好ましい。
【0024】
上記の方法により調製した触媒を用いた反応の形式は、通常は気相流通固定床形式である。反応装置としては、触媒粒子を反応器に充填し、原料のガス(芳香族炭化水素と、アンモニアおよび酸素を含む混合ガス)を連続的に反応させる充填層触媒反応器が一般的である。
【0025】
充填層触媒反応器の伝熱方式は、断熱式と熱交換式に大別されるが、本発明での反応は、発熱反応であるため、熱交換式を用いるのが好ましい。特に反応管内に触媒を充填し、管外に熱媒体を通す単管あるいは多管の熱交換式が好ましい。
【0026】
反応器の材質は、原料の種類や反応条件によるが、一般にはステンレス鋼や炭素鋼などが好ましい。
【0027】
本発明で使用される固定床反応器は、複数の反応管を含むが、反応管の数は2~10万本程度が一般的であり、2~5万本が好ましい。図1に、本発明で使用される複数の反応管を含む固定床反応器の一例を示す概略図を示す。図1では、芳香族炭化水素としてメタキシレンを用いた場合を示す。
反応管の管径は1cmから5cm、長さは10cm~7mが好ましい。
【0028】
反応温度は300~600℃の広い範囲で実施できるが、330~500℃であることが好ましい。300℃より低い温度では原料化合物の転化率が小さく、600℃より高い温度では二酸化炭素、シアン化水素などの生成が増加しニトリル化合物の収率が低下する。熱媒体としては、高温であるため、溶融塩が特に好ましい。最高の収率を示す反応温度は、原料の種類、原料濃度、接触時間、および触媒の焼成温度などにより変化するので、これらの条件に応じて適宜この範囲で選択することが好ましい。原料のガスと触媒の接触時間は一般にはかなり広い範囲に採ることができるが、0.5~30秒であることが好ましい。
【0029】
本発明の反応は通常、常圧にて行われるが、加圧下または減圧下にても行うことができる。反応生成物の捕集は、任意の適当な方法、例えば、生成物が析出するのに十分な温度まで冷却し捕集する方法、水その他適当な溶媒などで反応生成ガスを洗浄、捕集する方法などが使用される。
【0030】
本発明のアンモ酸化反応による芳香族ニトリルの製造方法について、芳香族炭化水素としてメタキシレンを用いた場合の反応式を以下に示す。
【化1】
【0031】
本発明の実施形態1は、上述した共通事項に加えて、前記複数の反応管に対し、少なくとも当該ホットスポットに相当する部分に不活性物を充填し、それ以外の部分に前記触媒を充填することを特徴とする。
ここで、上記「少なくとも当該ホットスポットに相当する部分」とは、反応管の一つに1種類の前記触媒を該反応管の全体に充填させた場合に、局所的に最も温度が高くなる反応管の部分(ホットスポット)を含む場合は勿論のこと、該ホットスポットを含んでいなくても該ホットスポットからわずかに外れた部分を含む場合も包含される。
具体的には、反応管中の触媒層全体の重量を1とした場合に、上記ホットスポットが0.3の位置で生じた場合、上記「少なくとも当該ホットスポットに相当する部分」には、0.4の位置から開始される部分(例えば、0.4~0.6の位置)も含まれる。
反応管中の触媒層全体の重量を1とした場合に、上記「少なくともホットスポットに相当する部分」の不活性物量は用いる材質により異なるが、例えば0.001~0.9であることが好ましく、0.01~0.8であることがより好ましい。
【0032】
本発明の実施形態1で使用される不活性物としては、過剰な発熱反応を抑えることができる物質であれば特に制限なく使用できるが、好ましくは、磁器等の金属酸化物製や、金属製のリング、ペレット、ボールなどの形状を有するものが挙げられ、磁製のリング、ボール形状を有するものがより好ましい。
【0033】
本発明の実施形態2は、上述した共通事項に加えて、前記複数の反応管に対し、少なくとも当該ホットスポットに相当する部分に、前記触媒に不活性物を混合したものを充填し、それ以外の部分に前記触媒を充填することを特徴とする。
本発明の実施形態2では、上記「少なくともホットスポットに相当する部分」が、前記反応管の入口から前記ホットスポットを含む部分までであることが好ましい。
本発明の実施形態2では、反応管中の触媒層全体の重量を1とした場合に、上記「少なくともホットスポットに相当する部分」の触媒量が0.6以下であることが好ましく、0.55以下であることがより好ましい。ここでいう触媒量とは、触媒に不活性物を混合したものの量を指す。
【0034】
本発明の実施形態2で使用される不活性物としては、本発明の実施形態1で使用される不活性物と同じものを使用することができる。
本発明の実施形態2において、触媒と不活性物との混合比率は、重量比で0.05:1~20:1が好ましく、0.1:1~10:1がより好ましい。
なお、上記「ホットスポットに相当する部分」に、前記触媒に不活性物を混合したものを充填せず、当該ホットスポットより前に存在する前層に、前記触媒に不活性物を混合したものを充填し、かつ、前層より後に存在する後層(当該ホットスポットはこの後層に含まれる)に前記触媒を充填することもできる。
【0035】
本発明の実施形態3は、上述した共通事項に加えて、前記複数の反応管に対し、少なくとも当該ホットスポットに相当する部分に、前記触媒を充填し、それ以外の部分にホウ素を含まないかあるいは前記触媒よりホウ素量が少ない触媒を充填することを特徴とする。
本発明の実施形態3では、上記「少なくともホットスポットに相当する部分」が、前記反応管の入口から前記ホットスポットを含む部分までであることが好ましい。
本発明の実施形態3では、反応管中の触媒層全体の重量を1とした場合に、上記「少なくともホットスポットに相当する部分」の触媒量が0.6以下であることが好ましく、0.55以下であることがより好ましい。ここでいう触媒量とは、ホウ素を含むか、あるいは他方よりホウ素量の多い触媒の量を指す。
なお、上記「ホットスポットに相当する部分」に、前記触媒を充填せず、当該ホットスポットより前に存在する前層に、前記触媒を充填し、かつ、前層より後に存在する後層(当該ホットスポットはこの後層に含まれる)にホウ素を含まないかあるいは前記触媒よりホウ素量が少ない触媒を充填することもできる。
【0036】
本発明の実施形態4は、上述した共通事項に加えて、前記複数の反応管に対し、少なくとも当該ホットスポットに相当する部分に、焼成温度が異なる2種の触媒のうち焼成温度が低い方の触媒を充填し、それ以外の部分に焼成温度が高い方の触媒を充填することを特徴とする。
本発明の実施形態4では、上記「少なくともホットスポットに相当する部分」が、前記反応管の入口から前記ホットスポットを含む部分までであることが好ましい。
本発明の実施形態4では、反応管中の触媒層全体の重量を1とした場合に、上記「少なくともホットスポットに相当する部分」の触媒量が0.6以下であることが好ましく、0.55以下であることがより好ましい。ここでいう触媒量とは、焼成温度が低い方の触媒の量を指す。
本発明の実施形態4における2種の触媒について、焼成温度の差は10~150℃であることが好ましく、20~100℃であることがより好ましい。
なお、上記「ホットスポットに相当する部分」に、焼成温度が異なる2種の触媒のうち焼成温度が低い方の触媒を充填せず、当該ホットスポットより前に存在する前層に、前記焼成温度が低い方の触媒を充填し、かつ、前層より後に存在する後層(当該ホットスポットはこの後層に含まれる)に焼成温度が高い方の触媒を充填することもできる。
【実施例
【0037】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に何らの制限を受けるものではない。
【0038】
<触媒Aの調製>
無水クロム酸CrO196gを純水200mLに溶解しクロム酸水溶液を調製した。次に、シュウ酸753gに純水600mLを加え、50℃~60℃に加熱してシュウ酸水溶液を調製した。このシュウ酸水溶液に攪拌下、上記クロム酸水溶液を徐々に加えシュウ酸クロム水溶液を調製した。
一方、シュウ酸444gを純水400mLに溶解し、80~90℃に加熱後、よく攪拌しながら五酸化バナジウムV178gを徐々に加え、シュウ酸バナジル水溶液を調製した。次に、上記で調製したシュウ酸バナジル水溶液に上記で調製したシュウ酸クロム水溶液を70℃~90℃で滴下、混合した。この混合水溶液にホウ酸12.1gを70℃~90℃で添加し、混合した。このようにして調製した触媒溶液を85℃~95℃にて加熱し、熟成した。その後、100℃~110℃にて濃縮した。濃縮した調合液に、アナターゼ型である酸化チタン1333gを添加し、70℃で均質となるまでニーダーを用いて混練すると共に水分を蒸発させた。その後、得られたケーキを乾燥機にて110℃で乾燥した。
次に、乾燥品を焼成炉にて400℃で2時間予備焼成し、その後、粉砕機にて粉砕した。粉砕した粉にグラファイトを4wt%添加し、混合した。次に、この原料粉を外径5.7mm、内径2.4mm、高さ5.8mmのリング状の形となるように、打錠成形機を用いて打錠成形した。成形後、焼成炉にて600℃で15時間焼成した。この触媒の原子比はCr:V:Bが1.0:1.0:0.1で、組成式はVCr0.1x(xは金属酸化物に相当する数)で表され、触媒中の担体チタニアの濃度は80wt%であった。
【0039】
<触媒Bの調製>
ホウ酸と同時にMoOを21.0g添加した以外は触媒Aと同様に触媒を調製した。
【0040】
<触媒Cの調製>
ホウ酸を添加しない以外は触媒Aと同様に触媒を調製した。
【0041】
<触媒Dの調製>
焼成温度を600℃から650℃とした以外は触媒Aと同様に触媒を調製した。
【0042】
(比較例1)
図2のように反応管の入口側下降部を予熱層とし、反応管の出口側上昇部を触媒層とし、触媒層において反応管の中央部に熱電対の先端を上下に移動させて温度を測定できるよう、外径2mmのさや管を挿入した内径20mm、高さ500mmのSUS304製U字型反応管を準備した。
次に、上記で調製した触媒Aをペンチで8つに破砕後、目開き1.25mm、次いで0.95mmの篩で篩分けして0.95~1.25mmの破砕触媒Aを調製した。そして、触媒層の全体に破砕触媒Aを10g充填した。
398℃に保持した溶融塩浴に反応管を設置し、反応管の入口側と出口側の配管はヒーターで加熱保温した。原料としてメタキシレン1.95g/hr、アンモニア2.45g/hr、空気155Nml/min、窒素390Nml/minを常圧で反応管中に導入し接触反応させた。反応生成ガスはテトラヒドロフランに吸収し、トリデカンを内部標準として島津製作所製GC-2010ガスクロマトグラフィー、カラムDB-1、長さ60m、厚み0.25マイクロメートル、内径0.25mm(アジレントテクノロジー社製)を用い、ヘリウムキャリアー15ml/min、注入口温度235℃、スプリット比11、検出器FID、235℃、カラム温度120℃で5分保持後、40℃/minで230℃まで昇温し10分保持し、注入量1マイクロリットルの条件で分析した。分析の結果、メタキシレンの転化率は91%、イソフタロニトリルの収率は71%であった。
なお、図2における触媒層において、ホットスポットと記載した個所において、ホットスポットが生じた。ホットスポットは、触媒層全体の重量を1とした場合に0.31付近に生じた。触媒層の最高温度であるホットスポット温度は447℃であった。結果を下記表1にまとめた。
【0043】
(実施例1)
図3のように反応管の入口側下降部を予熱層とし、反応管の出口側上昇部を触媒層とし、触媒層において反応管の中央部に熱電対の先端を上下に移動させて温度を測定できるよう、外径2mmのさや管を挿入した内径20mm、高さ500mmのSUS304製U字型反応管を複数準備した。
次に、触媒Aをペンチで8つに破砕後、目開き1.25mm、次いで0.95mmの篩で篩分けして0.95~1.25mmの破砕触媒Aを調製した。触媒層内に一層目としての前層に破砕触媒Aを2g、二層目としての不活性物層(比較例1で認定したホットスポット部に相当)に不活性物である外径3mm、内径1mm、高さ2.5mmの磁製リング(坂口電熱株式会社製)を12g、三層目としての後層に破砕触媒Aを8g充填した。前層及び後層における触媒全体の重量を1とした場合に0.2の位置から不活性物を充填した。
404℃に保持した溶融塩浴を用いた以外は比較例1と同様に活性試験を行った結果、メタキシレンの転化率は92%、イソフタロニトリルの収率は69%であった。
触媒層の内部温度は一層目(前層)で上昇後、二層目(不活性物層)で下降し、三層目(後層)で触媒槽内の最高温度であるホットスポットが生じた。ホットスポット温度は439℃であった。結果を下記表1にまとめた。
【0044】
(実施例2)
触媒層内に一層目としての前層に破砕触媒Aを3g、三層目としての後層に破砕触媒Aを7g充填し、前層及び後層における触媒全体の重量を1とした場合に0.3の位置から不活性物を充填した以外は、実施例1と同様に触媒を充填した。
402℃に保持した溶融塩浴を用いた以外は実施例1と同様に活性試験を行った結果、メタキシレンの転化率は91%、イソフタロニトリルの収率は68%であった。
触媒層の内部温度は一層目(前層)で触媒層の最高温度であるホットスポットが生じ、二層目(不活性物層)で下降し、三層目(後層)で上昇後下降した。ホットスポット温度は429℃であった。結果を下記表1にまとめた。
【0045】
(実施例3)
触媒層内に一層目としての前層に破砕触媒Aを4g、三層目としての後層に破砕触媒Aを6g充填し、前層及び後層における触媒全体の重量を1とした場合に0.4の位置から不活性物を充填した以外は、実施例1と同様に触媒を充填した。
400℃に保持した溶融塩浴を用いた以外は実施例1と同様に活性試験を行った結果、メタキシレンの転化率は92%、イソフタロニトリルの収率は68%であった。
触媒層の内部温度は一層目(前層)で触媒層の最高温度であるホットスポットが生じ、二層目(不活性物層)で下降し、三層目(後層)で上昇後下降した。ホットスポット温度は431℃であった。結果を下記表2にまとめた。
【0046】
(実施例4)
触媒層内に一層目としての前層に破砕触媒Aを3g、三層目としての後層に破砕触媒Aを7g充填し、触媒性能の経時変化を評価するため実施例1~3と同じ寸法の別装置とした以外は実施例2と同様に触媒を充填した。
406℃に保持した溶融塩浴を用いた以外は実施例1と同様に活性試験を行った結果、メタキシレンの転化率は90%、イソフタロニトリルの収率は68%であった。
触媒層の内部温度は一層目(前層)で上昇し、二層目(不活性物層)で下降し、三層目(後層)で触媒層の最高温度であるホットスポットが生じた。ホットスポット温度は433℃であった。
同様の条件で240日間連続して触媒の活性試験を行った結果、メタキシレン転化率は91%、イソフタロニトリルの収率は69%、ホットスポット位置は三層目(後層)で変わらず435℃であった。結果を下記表2にまとめた。
【0047】
(比較例2)
図4のように反応管の入口側下降部を触媒層とし、触媒層において反応管の中央部に外径6.8mmの多芯温度計を挿入した内径28mm、高さ4000mmのSUS304製U字型反応管を流動砂浴加熱装置内に設置した。そして、触媒層全体に触媒Bを1410g充填した。
砂浴を384℃に保持し、原料としてメタキシレン170g/hr、アンモニア4.6NL/min、空気14NL/min、窒素40NL/minをゲージ圧80kPaに保持した反応管中に導入し接触反応させた。実施例1と同様に分析した結果、メタキシレンの転化率は94%、イソフタロニトリルの収率は72%であった。
なお、図4における触媒層において、ホットスポットと記載した個所において、ホットスポットが生じた。ホットスポットは、触媒層全体の重量を1とした場合に0.32付近に生じた。触媒層の最高温度であるホットスポット温度は427℃であった。結果を下記表3にまとめた。
【0048】
(実施例5)
図5のように反応管の入口側下降部を触媒層とし、触媒層において反応管の中央部に外径6.8mmの多芯温度計を挿入した内径28mm、高さ4000mmのSUS304製U字型反応管を流動砂浴加熱装置内に設置した。
次に、触媒層内に一層目としての前層に触媒Bを360g、二層目としての不活性物層(比較例2で認定したホットスポット部に相当)に不活性物である外径6mm、内径3mm、高さ6mmの磁製リング(坂口電熱株式会社製)を400g、三層目としての後層に触媒Bを980g充填した。前層及び後層における触媒全体の重量を1とした場合に0.27の位置から不活性物を充填した。
砂浴を385℃に保持し、比較例2と同様に接触反応させた。比較例2と同様に分析した結果、メタキシレンの転化率は93%、イソフタロニトリルの収率は69%であった。
触媒層の内部温度は一層目(前層)で触媒槽内の最高温度であるホットスポットが生じた。ホットスポット温度は411℃であった。結果を下記表3にまとめた。
【0049】
触媒Aを充填した実施例1~3及び比較例1、並びに、触媒Bを充填した実施例5及び比較例2から明らかなように、ホットスポット部に不活性物を充填することによりホットスポット温度を低下させることができた。また、実施例4から明らかなように長期間にわたって安定に運転ができた。
【0050】
(比較例3)
図6のように反応管の入口側下降部を触媒層とし、反応管の中央部に外径6.8mmの多芯温度計を挿入した内径28mm、高さ4000mmのSUS304製U字型反応管を流動砂浴加熱装置内に設置した。そして、触媒層全体に触媒Aを1300g充填した。
砂浴を378℃に保持し、原料としてメタキシレン170g/hr、アンモニア4.6NL/min、空気14NL/min、窒素40NL/minをゲージ圧80kPaに保持した反応管中に導入し接触反応させた。実施例1と同様に活性試験を行った結果、メタキシレンの転化率は92%、イソフタロニトリルの収率は72%であった。
なお、図6における触媒層において、ホットスポットと記載した個所において、ホットスポットが生じた。ホットスポットは、触媒層全体の重量を1とした場合に0.23付近に生じた。触媒層の最高温度であるホットスポット温度は423℃であった。結果を下記表4にまとめた。
【0051】
(実施例6)
図7のように反応管の入口側下降部を触媒層とし、反応管の中央部に外径6.8mmの多芯温度計を挿入した内径28mm、高さ4000mmのSUS304製U字型反応管を流動砂浴加熱装置内に設置した。
次に、触媒A50gと不活性物である外径6mm、内径3mm、高さ6mmの磁製リング(坂口電熱株式会社製)50gとを均一になるよう混合した小袋(触媒A:不活性物=1:1混合触媒)を8袋用意した。触媒層内に一層目としての前層(比較例3で認定したホットスポット部に相当)に触媒A:不活性物=1:1混合触媒を800g、二層目としての後層に触媒Aを900g充填した。触媒層全体の重量を1とした場合に入口から0.47の位置まで触媒A:不活性物=1:1混合触媒を充填した。
砂浴を385℃に保持し、原料としてメタキシレン170g/hr、アンモニア4.6NL/min、空気14NL/min、窒素40NL/minをゲージ圧80kPaに保持した反応管中に導入し接触反応させた。比較例3と同様に活性試験を行った結果、メタキシレンの転化率は92%、イソフタロニトリルの収率は70%であった。
触媒層の内部温度は二層目(後層)で触媒層内の最高温度であるホットスポットが生じた。ホットスポット温度は419℃であった。結果を下記表4にまとめた。
【0052】
(実施例7)
触媒A67gと不活性物である外径6mm、内径3mm、高さ6mmの磁性リング(坂口電熱株式会社製)33gとを均一になるよう混合した小袋(触媒A:不活性物=2:1混合触媒)を6袋用意した。実施例6と同様の反応管の触媒層内に一層目としての前層(比較例3で認定したホットスポット部に相当)に触媒A:不活性物=2:1混合触媒を600g、二層目としての後層に触媒Aを900g充填した。触媒層全体の重量を1とした場合に入口から0.40の位置まで触媒A:不活性物=2:1混合触媒を充填した。
砂浴を384℃に保持した以外は実施例6と同様に活性試験を行った結果、メタキシレンの転化率は93%、イソフタロニトリルの収率は70%であった。
触媒層の内部温度は二層目(後層)で触媒層内の最高温度であるホットスポットが生じた。ホットスポット温度は415℃であった。結果を下記表4にまとめた。
【0053】
実施例6、7、及び比較例3から明らかなように不活性物混合触媒A-触媒Aの二層充填によりホットスポット温度を低下させることができた。
【0054】
(比較例4)
図8のように反応管の入口側下降部を予熱層とし、反応管の出口側上昇部を触媒層とし、触媒層において反応管の中央部に熱電対の先端を上下に移動させて温度を測定できるよう、外径2mmのさや管を挿入した内径20mm、高さ500mmのSUS304製U字型反応管を準備した。そして、触媒層全体に破砕触媒Aを20g充填した。
390℃に保持した溶融塩浴を用い、原料としてメタキシレン3.9g/hr、アンモニア4.9g/hr、空気310Nml/min、窒素780Nml/minを常圧で反応管中に導入し接触反応させた。実施例1と同様に活性試験を行った結果、メタキシレンの転化率は91%、イソフタロニトリルの収率は62%であった。
なお、図8における触媒層において、ホットスポットと記載した個所において、ホットスポットが生じた。ホットスポットは、触媒層全体の重量を1とした場合に0.25付近に生じた。触媒層の最高温度であるホットスポット温度は486℃であった。結果を下記表5にまとめた。
【0055】
(実施例8)
図9のように反応管の入口側下降部を予熱層とし、反応管の出口側上昇部を触媒層とし、触媒層において反応管の中央部に熱電対の先端を上下に移動させて温度を測定できるよう、外径2mmのさや管を挿入した内径20mm、高さ500mmのSUS304製U字型反応管を準備した。
次に、触媒C(ホウ酸を含まない触媒)をペンチで8つに破砕後、目開き1.25mm、次いで0.95mmの篩で篩分けして0.95~1.25mmの破砕触媒Cを調製した。触媒層内に一層目としての前層(比較例4で認定したホットスポット部に相当)に破砕触媒Aを10g、二層目としての後層に破砕触媒Cを10g充填した以外は実施例6と同様に触媒を充填した。触媒層全体の重量を1とした場合に入口から0.5の位置まで破砕触媒Aを充填した。
376℃に保持した溶融塩浴を用い、原料としてメタキシレン3.9g/hr、アンモニア4.9g/hr、空気310Nml/min、窒素780Nml/minを常圧で反応管中に導入し接触反応させた以外は実施例6と同様に活性試験を行った結果、メタキシレンの転化率は92%、イソフタロニトリルの収率は64%であった。
触媒層の内部温度は二層目(後層)で触媒層の最高温度であるホットスポットが生じ、ホットスポット温度は458℃であった。結果を下記表5にまとめた。
【0056】
(実施例9)
触媒D(焼成温度が高い触媒)をペンチで8つに破砕後、目開き1.25mm、次いで0.95mmの篩で篩分けして0.95~1.25mmの破砕触媒Dを調製した。触媒層内に一層目としての前層(比較例4で認定したホットスポット部に相当)に破砕触媒Aを10g、二層目としての後層に破砕触媒Dを10g充填した以外は実施例8と同様に触媒を充填した。触媒層全体の重量を1とした場合に入口から0.5の位置まで破砕触媒Aを充填した。
384℃に保持した溶融塩浴を用いた以外は実施例8と同様に活性試験を行った結果、メタキシレンの転化率は91%、イソフタロニトリルの収率は64%であった。
触媒層の内部温度は二層目(後層)で触媒層の最高温度であるホットスポットが生じ、ホットスポット温度は465℃であった。結果を下記表5にまとめた。
【0057】
実施例8、9、及び比較例4から明らかなように触媒A-触媒Cの二層充填及び触媒A-触媒Dの二層充填によりホットスポット温度を低下させることができた。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9