(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】多層容器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B65D 1/00 20060101AFI20240116BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20240116BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240116BHJP
B29C 49/22 20060101ALI20240116BHJP
B29C 49/16 20060101ALI20240116BHJP
B29C 49/06 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
B65D1/00 111
B32B27/34
B32B27/36
B29C49/22
B29C49/16
B29C49/06
(21)【出願番号】P 2020563168
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(86)【国際出願番号】 JP2019049842
(87)【国際公開番号】W WO2020137808
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2018248402
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮部 高徳
【審査官】米村 耕一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/057463(WO,A1)
【文献】特開2016-169027(JP,A)
【文献】国際公開第2017/141969(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 1/00
B32B 1/02
B32B 27/34-27/36
B29C 49/06-49/22
C08G 69/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリエステル樹脂(X)を含有するポリエステル層と、
ポリアミド樹脂(Y)を含有するポリアミド層と、を有し、
最内層がポリエステル層であり、かつ、中間層としてポリアミド層を有し、
前記ポリアミド樹脂(Y)が、ジアミンに由来する構成単位と、ジカルボン酸に由来する構成単位とを有し、該ジアミンに由来する構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来する構成単位であり、該ジカルボン酸に由来する構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位であるポリアミド樹脂(Y-1)を含み、
横方向(TD)の延伸倍率が
3.0倍以上であり、かつ、横方向(TD)の延伸倍率に対する縦方向(MD)の延伸倍率(MD/TD)が0.6以上
0.85以下である、
多層容器。
【請求項2】
多層容器の容量が200~600mLである、請求項1に記載の多層容器。
【請求項3】
多層容器の容量が200~350mLである、請求項1に記載の多層容器。
【請求項4】
多層容器の全体の厚みが50~500μmである、請求項1~3のいずれか1つに記載の多層容器。
【請求項5】
多層容器が、ポリアミド層の内側及び外側に少なくとも1層ずつのポリエステル層を有する、請求項1~4のいずれか1つに記載の多層容器。
【請求項6】
多層容器が、最内層及び最外層としてポリエステル層を有し、中間層としてポリアミド層を有する3層構造である、請求項1~5のいずれか1つに記載の多層容器。
【請求項7】
熱可塑性ポリエステル樹脂(X)が、ジカルボン酸に由来する構成単位と、ジオールに由来する構成単位とを有し、該ジカルボン酸に由来する構成単位の50モル%以上がテレフタル酸に由来する構成単位であり、かつ、該ジオールに由来する構成単位の50モル%以上がエチレングリコールに由来する構成単位である熱可塑性ポリエステル樹脂(X-1)を含有する、請求項1~6のいずれか1つに記載の多層容器。
【請求項8】
熱可塑性ポリエステル樹脂(X-1)が、ジカルボン酸に由来する構成単位と、ジオールに由来する構成単位とを有し、該ジカルボン酸に由来する構成単位の90モル%以上がテレフタル酸に由来する構成単位であり、かつ、該ジオールに由来する構成単位の90モル%以上がエチレングリコールに由来する構成単位である、請求項7に記載の多層容器。
【請求項9】
ポリアミド樹脂(Y-1)が、ジアミンに由来する構成単位と、ジカルボン酸に由来する構成単位とを有し、該ジアミンに由来する構成単位の80モル%以上がキシリレンジアミンに由来する構成単位であり、かつ、該ジカルボン酸に由来する構成単位の80モル%以上がアジピン酸に由来する構成単位である、請求項1~8のいずれか1つに記載の多層容器。
【請求項10】
下記工程1及び2を含む多層容器の製造方法。
工程1:熱可塑性ポリエステル樹脂(X)を含有するポリエステル層と、ポリアミド樹脂(Y)を含有するポリアミド層と、を有し、
最内層がポリエステル層であり、かつ、中間層としてポリアミド層を有し、
前記ポリアミド樹脂(Y)が、ジアミンに由来する構成単位と、ジカルボン酸に由来する構成単位とを有し、該ジアミンに由来する構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来する構成単位であり、該ジカルボン酸に由来する構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位であるポリアミド樹脂(Y-1)を含む、多層プリフォームを射出成形する工程
工程2:工程1で得られた多層プリフォームを下記(1)~(5)の条件を満たす方法で二軸延伸ブロー成形する工程
(1)多層プリフォームの表面を80~120℃に加熱した後、
(2)金型内で多層プリフォームをロッドで縦方向に延伸しつつ、多段階に圧力を変えて高圧空気をブローし、
(3)多段階に高圧空気をブローする際の一段階目の圧力(一次ブロー圧力)が、0.3~2.0MPaであり、
(4)一次ブロー遅延時間が0.1~0.5秒であり、
(5)横方向(TD)の延伸倍率が
3.0倍以上であり、かつ、横方向(TD)の延伸倍率に対する縦方向(MD)の延伸倍率(MD/TD)が0.6以上
0.85以下である。
【請求項11】
前記多層プリフォームのポリアミド層の水分率が0.005~1質量%である、請求項10に記載の多層容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層容器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)に代表されるポリエステル樹脂は、透明性、機械的特性、溶融安定性、リサイクル性等に優れるという特徴を有することから、現在、フィルム、シート、中空容器等の各種包装材料に広く利用されている。一方、ボトル用途では、ポリエステル樹脂のみからなる中空容器では、炭酸ガス、酸素等に対するガスバリア性が必ずしも十分ではない。
そこで、従来から、外層と内層を構成する樹脂として、ポリエステル樹脂を用い、前記外層と内層の間に、中間層として、ポリアミド樹脂から形成されるバリア層を有する多層体や多層容器が検討されている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-169027号公報
【文献】特開昭60-232952号公報
【文献】特開2006-111718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリアミド樹脂として、メタキシリレンジアミンとアジピン酸から構成されるポリアミド樹脂を用いた場合、酸素バリア性に優れた多層容器が得られるが、ポリエステル樹脂から形成される内層や外層と、バリア層(中間層)が、外部からの衝撃等により、層間剥離してしまう場合があることが分かった。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、酸素バリア性を向上させつつ、耐層間剥離性に優れた多層容器及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上記課題に鑑みて鋭意検討した結果、特定のポリアミド樹脂を含むポリアミド層と、ポリエステル層とを有する多層容器において、延伸倍率を特定の範囲とすることにより上記の課題が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下の多層容器及びその製造方法に関する。
<1> 熱可塑性ポリエステル樹脂(X)を含有するポリエステル層と、
ポリアミド樹脂(Y)を含有するポリアミド層と、を有し、
最内層がポリエステル層であり、かつ、中間層としてポリアミド層を有し、
前記ポリアミド樹脂(Y)が、ジアミンに由来する構成単位と、ジカルボン酸に由来する構成単位とを有し、該ジアミンに由来する構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来する構成単位であり、該ジカルボン酸に由来する構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位であるポリアミド樹脂(Y-1)を含み、
横方向(TD)の延伸倍率が2.2倍以上であり、かつ、横方向(TD)の延伸倍率に対する縦方向(MD)の延伸倍率(MD/TD)が0.6以上1.0未満である、
多層容器。
<2> 多層容器の容量が200~600mLである、上記<1>に記載の多層容器。
<3> 多層容器の容量が200~350mLである、上記<1>に記載の多層容器。
<4> 多層容器の全体の厚みが50~500μmである、上記<1>~<3>のいずれか1つに記載の多層容器。
<5> 多層容器が、ポリアミド層の内側及び外側に少なくとも1層ずつのポリエステル層を有する、上記<1>~<4>のいずれか1つに記載の多層容器。
<6> 多層容器が、最内層及び最外層としてポリエステル層を有し、中間層としてポリアミド層を有する3層構造である、上記<1>~<5>のいずれか1つに記載の多層容器。
<7> 熱可塑性ポリエステル樹脂(X)が、ジカルボン酸に由来する構成単位と、ジオールに由来する構成単位とを有し、該ジカルボン酸に由来する構成単位の50モル%以上がテレフタル酸に由来する構成単位であり、かつ、該ジオールに由来する構成単位の50モル%以上がエチレングリコールに由来する構成単位である熱可塑性ポリエステル樹脂(X-1)を含有する、上記<1>~<6>のいずれか1つに記載の多層容器。
<8> 熱可塑性ポリエステル樹脂(X-1)が、ジカルボン酸に由来する構成単位と、ジオールに由来する構成単位とを有し、該ジカルボン酸に由来する構成単位の90モル%以上がテレフタル酸に由来する構成単位であり、かつ、該ジオールに由来する構成単位の90モル%以上がエチレングリコールに由来する構成単位である、上記<7>に記載の多層容器。
<9> ポリアミド樹脂(Y-1)が、ジアミンに由来する構成単位と、ジカルボン酸に由来する構成単位とを有し、該ジアミンに由来する構成単位の80モル%以上がキシリレンジアミンに由来する構成単位であり、かつ、該ジカルボン酸に由来する構成単位の80モル%以上がアジピン酸に由来する構成単位である、上記<1>~<8>のいずれか1つに記載の多層容器。
<10> 下記工程1及び2を含む多層容器の製造方法。
工程1:熱可塑性ポリエステル樹脂(X)を含有するポリエステル層と、ポリアミド樹脂(Y)を含有するポリアミド層と、を有し、
最内層がポリエステル層であり、かつ、中間層としてポリアミド層を有し、
前記ポリアミド樹脂(Y)が、ジアミンに由来する構成単位と、ジカルボン酸に由来する構成単位とを有し、該ジアミンに由来する構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来する構成単位であり、該ジカルボン酸に由来する構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位であるポリアミド樹脂(Y-1)を含む、多層プリフォームを射出成形する工程
工程2:工程1で得られた多層プリフォームを下記(1)~(5)の条件を満たす方法で二軸延伸ブロー成形する工程
(1)多層プリフォームの表面を80~120℃に加熱した後、
(2)金型内で多層プリフォームをロッドで縦方向に延伸しつつ、多段階に圧力を変えて高圧空気をブローし、
(3)多段階に高圧空気をブローする際の一段階目の圧力(一次ブロー圧力)が、0.3~2.0MPaであり、
(4)一次ブロー遅延時間が0.1~0.5秒であり、
(5)横方向(TD)の延伸倍率が2.2倍以上であり、かつ、横方向(TD)の延伸倍率に対する縦方向(MD)の延伸倍率(MD/TD)が0.6以上1.0未満である。
<11> 前記多層プリフォームのポリアミド層の水分率が0.005~1質量%である、上記<10>に記載の多層容器の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、酸素バリア性を向上させつつ、耐層間剥離性に優れた多層容器及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施形態を用いて説明する。なお、以下の説明において、数値範囲を示す「A~B」の記載は、「A以上B以下」(A<Bの場合)、又は、「A以下B以上」(A>Bの場合)を表す。すなわち、端点であるA及びBを含む数値範囲を表す。
また、質量部及び質量%は、それぞれ、重量部及び重量%と同義である。
【0009】
[多層容器]
本発明の多層容器は、熱可塑性ポリエステル樹脂(X)を含有するポリエステル層と、ポリアミド樹脂(Y)を含有するポリアミド層と、を有し、最内層がポリエステル層であり、かつ、中間層としてポリアミド層を有し、前記ポリアミド樹脂(Y)が、ジアミンに由来する構成単位と、ジカルボン酸に由来する構成単位とを有し、該ジアミンに由来する構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来する構成単位であり、該ジカルボン酸に由来する構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位であるポリアミド樹脂(Y-1)を含み、横方向(TD)の延伸倍率が2.2倍以上であり、かつ、横方向(TD)の延伸倍率に対する縦方向(MD)の延伸倍率(MD/TD)が0.6以上1.0未満である。
【0010】
本発明者らは、熱可塑性ポリエステル樹脂(X)を含有するポリエステル層と、ポリアミド樹脂(Y)として、特定のポリアミド樹脂(Y-1)を含有するポリアミド層とを有し、最内層がポリエステル層であり、かつ、中間層としてポリアミド層を有する多層容器において、横方向(TD)の延伸倍率が2.2倍以上であり、かつ、横方向(TD)の延伸倍率に対する縦方向(MD)の延伸倍率(MD/TD)が0.6以上1.0未満であることにより、優れた酸素バリア性及び耐層間剥離性に優れた多層容器が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。上記の効果が得られる理由は明らかではないが、延伸配向効果を十分に発現させることで各層の残留応力が大きくなり、層間剥離の発生起点を抑制できると推定される。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
<ポリエステル層>
本発明の多層容器は、熱可塑性ポリエステル樹脂(X)を含有するポリエステル層を有する。ポリエステル層は、少なくとも多層容器の最内層であり、最内層のポリエステル層は、ポリアミド層と直接的に接するように配置されることが好ましい。
【0012】
(熱可塑性ポリエステル樹脂(X))
ポリエステル層が含有する熱可塑性ポリエステル樹脂(X)(以下、単に「ポリエステル樹脂(X)」ともいう。)について以下に説明する。本発明において、ポリエステル樹脂(X)として、ポリエステル樹脂の中でも、熱可塑性を示すポリエステル樹脂を使用する。なお、不飽和ポリエステルの中には、熱硬化性を示すポリエステル樹脂も存在する。
熱可塑性ポリエステル樹脂(X)としては、ジカルボン酸とジオールとの重縮合ポリマーであることが好ましく、ジカルボン酸に由来する構成単位(ジカルボン酸単位)としては、芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位が好ましく例示され、かつ、ジオールに由来する構成単位(ジオール単位)としては、脂肪族ジオールに由来する構成単位が好ましく例示される。なお、ジカルボン酸として、ジカルボン酸に加えて、ジカルボン酸のエステルを使用してもよく、具体的には、ジカルボン酸の炭素数1~4のアルキルエステルが好ましく例示される。
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテル-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-ジカルボン酸、ジフェニルケトン-ジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸及び2,7-ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、及び4,4’-ビフェニルジカルボン酸が好ましく、イソフタル酸、テレフタル酸がより好ましく、テレフタル酸が更に好ましい。なお、上述したように、芳香族ジカルボン酸として、芳香族ジカルボン酸の炭素数1~4のアルキルエステルを使用してもよい。
【0013】
芳香族ジカルボン酸として、スルホフタル酸、スルホフタル酸金属塩も挙げられる。スルホフタル酸又はスルホフタル酸金属塩は、それぞれ、下記式(I)又は(I’)で表される。
【0014】
【0015】
上記式(I’)中、Mは、金属原子である。nはMの原子価を示す。
Mの金属原子としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム等のアルカリ土類金属が挙げられる。中でも、アルカリ金属が好ましく、ナトリウム又はリチウムが好ましく、ナトリウムがより好ましい。なお、nが2以上の場合は、Mを介して他の単位(例えば他のスルホフタル酸単位又はスルホフタル酸金属塩単位におけるスルホ基)と架橋されうる。
【0016】
上記式(I)及び(I’)中、RAは、置換もしくは無置換のアルキル基、又は置換もしくは無置換のアリール基である。mは0~3の整数を示す。なお、mが2又は3のとき、それぞれのRAは、同じであっても、異なっていてもよい。
上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基等が挙げられる。これらの中でも、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましい。
上記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。これらの中でも、炭素数6~12のアリール基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
上記アルキル基及びアリール基が有してもよい置換基としては、例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、シアノ基、水酸基、ニトロ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基等が挙げられる。これらの基の中で水素原子を有するものは、更に上述の置換基により置換されていてもよい。
【0017】
RAの具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、1-メチルプロピル基、2-メチルプロピル基、ヒドロキシメチル基、1-ヒドロキシエチル基、メルカプトメチル基、メチルチオエチル基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ベンジル基、4-ヒドロキシベンジル基が挙げられ、中でもメチル基、エチル基、ベンジル基が好ましい。
【0018】
上記式(I)及び(I’)中、RBは、水素原子、又は炭素数1~4のアルキル基を示す。
【0019】
好ましいRAについては、上記の通りであるが、ポリエステル樹脂(X)に使用されるスルホフタル酸又はスルホフタル酸金属塩としては、m=0、すなわちベンゼン環がRAにより置換されていない、それぞれ下記式(Ia)又は(I’a)で表される単位が好ましい。
【0020】
【0021】
上記式(Ia)中、RBは、前記式(I)におけるRBと同じである。
また、上記式(I’a)中、RB、M、及びnは、前記式(I’)におけるRB、M、及びnと同じである。
【0022】
更に、前記式(Ia)で表されるスルホフタル酸、又は前記式(I’a)で表されるスルホフタル酸金属塩としては、2つの-CO-がオルト位に結合したフタル酸構造、メタ位に結合したイソフタル酸構造及びパラ位に結合したテレフタル酸構造が挙げられ、中でもイソフタル酸構造が好ましい。すなわち、下記式(Ib)で表されるスルホイソフタル酸、及び下記式(I’b)で表されるスルホイソフタル酸金属塩の少なくとも一方であることが好ましい。
【0023】
【0024】
上記式(Ib)中、RBは、前記式(I)におけるRBと同じである。
上記式(I’b)中、RB、M、及びnは、前記式(I’)におけるRB、M、及びnと同じである。
【0025】
スルホイソフタル酸又はスルホイソフタル酸金属塩中のスルホ基の位置としては、2,4,5,6位を取りうるが、下記式(Ic)又は(I’c)で表される5位に置換されているものが好ましい。
【0026】
【0027】
上記式(I’c)中、M及びnは、前記式(I’)におけるM及びnと同じである。
【0028】
ポリエステル樹脂(X)中、前記式(Ic)又は式(I’c)で表されるスルホイソフタル酸又はスルホイソフタル酸金属塩としては、例えば、5-スルホイソフタル酸、5-スルホイソフタル酸ナトリウム、5-スルホイソフタル酸リチウム、5-スルホイソフタル酸カリウム、ビス(5-スルホイソフタル酸)カルシウム、5-スルホイソフタル酸ジメチルナトリウム、5-スルホイソフタル酸ジエチルナトリウム等が挙げられる。
【0029】
ポリエステル樹脂(X)がスルホフタル酸及びスルホフタル酸金属塩よりなる群から選択される少なくとも1つに由来する構成単位を含有する場合、少なくともスルホフタル酸金属塩に由来する構成単位を含有することが好ましい。ポリエステル樹脂中のスルホフタル酸及びスルホフタル酸金属塩に由来する構成単位の含有量は、ジカルボン酸に由来する構成単位全体の好ましくは0.01~15モル%であり、より好ましくは0.03~10.0モル%であり、更に好ましくは0.06~5.0モル%であり、より更に好ましくは0.08~2.0モル%である。ただし、熱水に対する耐熱性や成形時の着色防止の点からは、ポリエステル樹脂中のスルホフタル酸及びスルホフタル酸金属塩に由来する構成単位の含有量は、ジカルボン酸に由来する構成単位全体の0.08モル%以下が好ましく、0.06モル%以下がより好ましく、0.03モル%以下が更に好ましい。この場合、下限値は0モル%でもよい。
【0030】
また、脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール、2-ブテン-1,4-ジオール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、メチルペンタンジオール及びジエチレングリコールなどの直鎖又は分岐構造を有する脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノール、イソソルビド、スピログリコール、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール、ノルボルネンジメタノール及びトリシクロデカンジメタノールなどの脂環式ジオールが挙げられる。これらの中では、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノールが好ましく、エチレングリコールがより好ましい。
また、ポリエステル樹脂が、ジオールに由来する構成単位として、脂環式ジオールに由来する構成単位を含有することも好ましく、脂環式ジオールとしては、シクロヘキサンジメタノール、イソソルビド、スピログリコール、及び2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオールよりなる群から選択される少なくとも1つの脂環式ジオールが好ましい。前記脂環式ジオールに由来する構成単位を含有する場合、その含有量は、ジオールに由来する構成単位全体に対して、好ましくは1~50モル%であり、より好ましくは2~40モル%であり、更に好ましくは3~30モル%であり、より更に好ましくは5~25モル%である。
【0031】
本発明において使用される熱可塑性ポリエステル樹脂(X)としては、ジカルボン酸に由来する構成単位(ジカルボン酸単位)の50モル%以上が芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位であり、かつ、ジオールに由来する構成単位(ジオール単位)の50%以上が脂肪族ジオールに由来する熱可塑性ポリエステル樹脂を含有することが好ましく、ジカルボン酸単位の50モル%以上がテレフタル酸に由来する構成単位であり、かつ、ジオール単位の50モル%以上がエチレングリコールに由来する構成単位である熱可塑性ポリエステル樹脂(X-1)を含有することがより好ましい。
熱可塑性ポリエステル樹脂(X-1)は、ジカルボン酸単位の80モル%以上がテレフタル酸に由来する構成単位であり、かつ、ジオール単位の80モル%以上がエチレングリコールに由来する構成単位であることがより好ましく、ジカルボン酸単位の90モル%以上がテレフタル酸に由来する構成単位であり、かつ、ジオール単位の90モル%以上がエチレングリコールに由来する構成単位であることが更に好ましい。
なお、以下の説明において、ジカルボン酸単位の50モル%以上がテレフタル酸に由来する構成単位であり、かつ、ジオール単位の50モル%以上がエチレングリコールに由来する構成単位である熱可塑性ポリエステル樹脂(X-1)を、ポリエチレンテレフタレートともいう。
上記したようにジカルボン酸単位中に占めるテレフタル酸に由来する構成単位の割合を50モル%以上とすることで、ポリエステル樹脂が非晶質となりにくく、そのため、多層容器は、その内部に高温のものを充填する時等に熱収縮しにくくなり、耐熱性が良好となる。
熱可塑性ポリエステル樹脂(X)が、ポリエチレンテレフタレート(熱可塑性ポリエステル樹脂(X-1))を使用する場合、熱可塑性ポリエステル樹脂(X)は、ポリエチレンテレフタレート単体で構成されてもよいが、ポリエチレンテレフタレートに加えて、ポリエチレンテレフタレート以外のポリエステル樹脂を含んでいてもよい。ポリエチレンテレフタレートは、好ましくは熱可塑性ポリエステル樹脂(X)全量に対して80~100質量%、より好ましくは90~100質量%含有される。
ポリエチレンテレフタレート(ポリエステル樹脂(X-1))の好ましい態様について、以下に説明する。
【0032】
ポリエチレンテレフタレートは、テレフタル酸、エチレングリコール以外の二官能性化合物由来の構成単位を含むものであってもよいが、その二官能性化合物としては、テレフタル酸及びエチレングリコール以外の上記した芳香族ジカルボン酸及び脂肪族ジオール、並びに芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジオール以外の二官能性化合物が挙げられる。この際、テレフタル酸、エチレングリコール以外の二官能性化合物由来の構成単位は、ポリエステル樹脂を構成する全構成単位の総モルに対して、20モル%以下が好ましく、より好ましくは10モル%以下である。
なお、ポリエステル樹脂が、ポリエチレンテレフタレート以外の場合であっても、脂肪族ジオール、芳香族ジカルボン酸、以外の二官能性化合物由来の構成単位を含むものであってもよい。
【0033】
脂肪族ジオール、芳香族ジカルボン酸以外の二官能性化合物としては、脂肪族ジオール以外の脂肪族二官能性化合物、芳香族ジカルボン酸以外の芳香族二官能性化合物等が挙げられる。
脂肪族ジオール以外の脂肪族二官能性化合物としては、直鎖又は分岐の脂肪族二官能性化合物が挙げられ、具体的には、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸及びセバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸;10-ヒドロキシオクタデカノイル酸、乳酸、ヒドロキシアクリル酸、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオン酸及びヒドロキシブチル酸などの脂肪族ヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。
また、上記の脂肪族二官能性化合物は、脂環式二官能性化合物であってもよく、例えば、シクロヘキサンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸及びトリシクロデカンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;ヒドロキシメチルシクロヘキサンカルボン酸、ヒドロキシメチルノルボルネンカルボン酸及びヒドロキシメチルトリシクロデカンカルボン酸などの脂環式ヒドロキシカルボン酸などが挙げられる。
これらのうち、好ましい脂環式二官能性化合物としては、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、及び1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。これら脂環式二官能性化合物由来の構成単位を含む共重合ポリエステル樹脂は製造が容易であり、また、多層容器の落下衝撃強度や透明性を改善させることが可能になる。上述したもののうち、更に好ましいものとしては、容易に入手可能であり高い落下衝撃強度が得られることから、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸が挙げられる。
芳香族ジカルボン酸以外の芳香族二官能性化合物は、特に限定されることはないが、具体例としては、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシトルイル酸、ヒドロキシナフト酸、3-(ヒドロキシフェニル)プロピオン酸、ヒドロキシフェニル酢酸及び3-ヒドロキシ-3-フェニルプロピオン酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸;並びにビスフェノール化合物及びヒドロキノン化合物などの芳香族ジオールが挙げられる。
【0034】
また、ポリエチレンテレフタレートは、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸由来の構成単位を含む場合、その芳香族ジカルボン酸は、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、及び4,4’-ビフェニルジカルボン酸よりなる群から選択されることが好ましい。これらはコストが低く、また、これらのうち1種を含む共重合ポリエステル樹脂は、製造が容易である。ポリエチレンテレフタレートがこれら芳香族ジカルボン酸由来の構成単位を含む場合、その芳香族ジカルボン酸由来の構成の割合は、ジカルボン酸単位の1~20モル%であることが好ましく、より好ましくは1~10モル%である。
これらの中で特に好ましい芳香族ジカルボン酸としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸が挙げられ、イソフタル酸が最も好ましい。イソフタル酸由来の構成単位を含むポリエチレンテレフタレートは、成形性に優れ、また、結晶化速度が遅くなることによって、成形品の白化を防ぐという点で優れている。また、ナフタレンジカルボン酸由来の構成単位を含むポリエチレンテレフタレートは、樹脂のガラス転移点を上昇させ、耐熱性が向上するうえ、紫外線を吸収するため、紫外線に対して耐性が求められる多層容器の製造に好適に使用される。なお、ナフタレンジカルボン酸としては、2,6-ナフタレンジカルボン酸成分が、製造が容易であり経済性が高いことから好ましい。
【0035】
ポリエチレンテレフタレートは、エチレングリコール成分の二量体であり、ポリエチレンフタレートの製造工程において少量形成される少量のジエチレングリコール副生成物単位を含むことがある。多層容器が良好な物性を保つためには、ポリエステル樹脂中のジエチレングリコール単位の割合は、極力低いことが好ましい。ジエチレングリコール由来の構成単位の割合は、ポリエステル樹脂の全構成単位に対して、好ましくは3モル%以下、より好ましくは2モル%以下であり、更に好ましくは1モル%以下である。
【0036】
熱可塑性ポリエステル樹脂(X)は、上述したポリエステル樹脂(X-1)に加えて、他の熱可塑性ポリエステル樹脂を含有してもよく、他の熱可塑性ポリエステル樹脂としては、ジカルボン酸由来の構成単位と、ジオール由来の構成単位とから構成され、前記ジカルボン酸由来の構成単位の80モル%以上(好ましくは85モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上)がテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸及びそれらのエステルから選択される少なくとも1種に由来し、前記ジオール由来の構成単位の5~60モル%(好ましくは15~60モル%)がスピログリコールに由来し、95~40モル%(好ましくは85~40モル%)がエチレングリコールに由来するポリエステル樹脂(X-2)が挙げられる。
ポリエステル樹脂(X-2)は、好ましくは非結晶性ポリエステル樹脂である。
また、他の非晶性ポリエステル樹脂の他の一例としては、ジカルボン酸由来の構成単位と、ジオール由来の構成単位とから構成され、前記ジカルボン酸由来の構成単位の80モル%以上(好ましくは85モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上)がテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸及びそのエステルから選択される少なくとも1種に由来し、前記ジオール由来の構成単位の90~10モル%(好ましくは85~40モル%)が1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来し、10~90モル%(好ましくは15~60モル%)がエチレングリコールに由来するポリエステル樹脂(X-3)が挙げられる。
熱可塑性ポリエステル樹脂(X)としては、特開2006-111718号公報の段落0010~0021に記載のポリエステル樹脂、特開2017-105873号公報に記載のポリエステル樹脂、国際公開第2013/168804号に記載のポリエステル樹脂を参酌でき、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0037】
熱可塑性ポリエステル樹脂(X)は、モノカルボン酸、モノアルコール等の単官能性化合物由来の構成単位を含んでもよい。これら化合物の具体例としては、安息香酸、o-メトキシ安息香酸、m-メトキシ安息香酸、p-メトキシ安息香酸、o-メチル安息香酸、m-メチル安息香酸、p-メチル安息香酸、2,3-ジメチル安息香酸、2,4-ジメチル安息香酸、2,5-ジメチル安息香酸、2,6-ジメチル安息香酸、3,4-ジメチル安息香酸、3,5-ジメチル安息香酸、2,4,6-トリメチル安息香酸、2,4,6-トリメトキシ安息香酸、3,4,5-トリメトキシ安息香酸、1-ナフトエ酸、2-ナフトエ酸、2-ビフェニルカルボン酸、1-ナフタレン酢酸及び2-ナフタレン酢酸等の芳香族単官能性カルボン酸;プロピオン酸、酪酸、n-オクタン酸、n-ノナン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸及びリノレン酸等の脂肪族モノカルボン酸;ベンジルアルコール、2,5-ジメチルベンジルアルコール、2-フェネチルアルコール、フェノール、1-ナフトール及び2-ナフトール等の芳香族モノアルコール;ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール、ペンタデシルアルコール、ステアリルアルコール、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールモノアルキルエーテル、ポリテトラメチレングリコールモノアルキルエーテル、オレイルアルコール及びシクロドデカノール等の脂肪族又は脂環式モノアルコール等が挙げられる。
これらの中では、ポリエステル製造の容易性及びそれらの製造コストの観点から、安息香酸、2,4,6-トリメトキシ安息香酸、2-ナフトエ酸、ステアリン酸及びステアリルアルコールが好ましい。単官能性化合物由来の構成単位の割合は、ポリエステル樹脂の全構成単位の総モルに対して好ましくは5モル%以下、より好ましくは3%以下、更に好ましくは1%以下である。単官能性化合物は、ポリエステル樹脂分子鎖の末端基又は分岐鎖の末端基封止として機能し、それによりポリエステル樹脂の過度の高分子量化を抑制し、ゲル化を防止する。
【0038】
更に、熱可塑性ポリエステル樹脂(X)は、必要な物性を得るために、カルボキシ基、ヒドロキシ基及びそれらのエステル形成基から選択される少なくとも3つの基を有する多官能性化合物を共重合成分としてもよい。多官能性化合物としては、例えば、トリメシン酸、トリメリット酸、1,2,3-ベンゼントリカルボン酸、ピロメリット酸及び1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸などの芳香族ポリカルボン酸;1,3,5-シクロヘキサントリカルボン酸などの脂環式ポリカルボン酸;1,3,5-トリヒドロキシベンゼンなどの芳香族多価アルコール;トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセリン及び1,3,5-シクロヘキサントリオールなどの脂肪族又は脂環式多価アルコール;4-ヒドロキシイソフタル酸、3-ヒドロキシイソフタル酸、2,3-ジヒドロキシ安息香酸、2,4-ジヒドロキシ安息香酸、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、2,6-ジヒドロキシ安息香酸、プロトカテク酸、ガリック酸及び2,4-ジヒドロキシフェニル酢酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸;酒石酸及びリンゴ酸などの脂肪族ヒドロキシカルボン酸;及びそれらのエステル体が挙げられる。
ポリエステル樹脂中における多官能性化合物由来の構成単位の割合は、ポリエステルの全構成単位の総モル数に対して、0.5モル%未満であることが好ましい。
上述のもののうち、好ましい多官能性化合物としては、反応性と製造コストの観点から、トリメリット酸、ピロメリット酸、トリメシン酸、トリメチロールプロパン及びペンタエリスリトールが挙げられる。
【0039】
熱可塑性ポリエステル樹脂(X)の製造には、公知の方法である直接エステル化法やエステル交換法を適用することができる。ポリエステル樹脂の製造時に使用する重縮合触媒としては、公知の三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等のアンチモン化合物、酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物、塩化アルミニウム等のアルミニウム化合物等が例示できるが、これらに限定されない。また、他の製造方法として、長い滞留時間及び/又は高温押出のような方法で、異なる種のポリエステル樹脂をエステル交換する方法が挙げられる。
【0040】
また、熱可塑性ポリエステル樹脂(X)は、再生ポリエステル樹脂、あるいは使用済みポリエステル又は工業リサイクル済みポリエステルに由来する材料(例えばポリエステルモノマー、触媒及びオリゴマー)を含んでもよい。
なお、ポリエステル樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上の樹脂を併用してもよい。
【0041】
熱可塑性ポリエステル樹脂(X)の固有粘度は、特に制限はないが、好ましくは0.5~2.0dL/g、より好ましくは0.6~1.5dL/gである。固有粘度が0.5dL/g以上であるとポリエステル樹脂の分子量が充分に高いために、多層容器は構造物として必要な機械的性質を発現することができる。
なお、固有粘度は、フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタン(=6/4質量比)混合溶媒に、測定対象のポリエステル樹脂を溶解して0.2、0.4、0.6g/dL溶液を調製し、25℃にて自動粘度測定装置(マルバーン製、Viscotek)により固有粘度を測定したものである。
【0042】
<ポリアミド層>
本発明の多層容器は、ポリアミド樹脂(Y)として、特定のポリアミド樹脂(Y-1)を含有するポリアミド層を有する。該ポリアミド層は、中間層である。また、全体厚みを100%としたとき、ポリアミド層が多層容器の内表面より5~60%の位置から存在することが好ましく、多層容器の内表面より5~35%の位置から存在することがより好ましい。また、ポリアミド層の厚みは、好ましくは1~15%である。
本発明では、多層容器が上記の特定のポリアミド樹脂(Y-1)を含有するポリアミド樹脂層を有することで、多層容器に高いガスバリア性を持たせることができる。そのため、外部から容器壁を通って酸素が侵入することを防止することができる。更に、後述するように、驚くべきことに、特定の位置に、特定の厚みのポリアミド層を配置することにより、より高い酸素バリア性を発揮すると共に、ポリエステル層との層間剥離が抑制される。
ポリアミド層が含有するポリアミド樹脂(Y)について詳述する。
【0043】
(ポリアミド樹脂(Y))
ポリアミド樹脂(Y)は、ジアミンに由来する構成単位(以下、「ジアミン単位」ともいう。)と、ジカルボン酸に由来する構成単位(以下、「ジカルボン酸単位」ともいう。)とを有し、該ジアミンに由来する構成単位(ジアミン単位)の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来する構成単位であり、該ジカルボン酸に由来する構成単位(ジカルボン酸単位)の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位であるポリアミド樹脂(Y-1)を含有する。
【0044】
本発明において、ポリアミド樹脂(Y-1)は、ジアミンに由来する構成単位(ジアミン単位)のうち、キシリレンジアミンに由来する構成単位を70モル%以上含有し、80~100モル%含有することが好ましく、90~100モル%含有することがより好ましい。
キシリレンジアミンは、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、又はその両方が好ましいが、メタキシリレンジアミンであることがより好ましい。そして、ポリアミド樹脂を構成するジアミン単位は、メタキシリレンジアミン由来の構成単位を50モル%以上含有することが好ましく、70モル%以上含有することがより好ましく、80~100モル%含有することが更に好ましく、90~100モル%含有することがより更に好ましい。ジアミン単位中のメタキシリレンジアミン由来の構成単位が上記範囲内であることで、ポリアミド樹脂(Y-1)はガスバリア性がより良好になる。
【0045】
ポリアミド樹脂(Y-1)におけるジアミン単位は、キシリレンジアミン由来の構成単位のみからなっていてもよいが、キシリレンジアミン以外のジアミン由来の構成単位を含有していてもよい。ここで、キシリレンジアミン以外のジアミンとしては、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、2-メチルペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチル-ヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチル-ヘキサメチレンジアミン等の直鎖又は分岐構造を有する脂肪族ジアミン;1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノメチル)デカリン、ビス(アミノメチル)トリシクロデカン等の脂環式ジアミン;ビス(4-アミノフェニル)エーテル、パラフェニレンジアミン、ビス(アミノメチル)ナフタレン等の芳香環を有するジアミン類等が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
ポリアミド樹脂(Y-1)において、ジカルボン酸に由来する構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位である。炭素数4~20のα,ω-直鎖状脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等が例示され、これらの中でも、アジピン酸、セバシン酸が好ましい。
ポリアミド樹脂(Y-1)は、ジカルボン酸に由来する構成単位のうち、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位を70モル%以上含有し、80~100モル%含有することが好ましく、90~100モル%含有することがより好ましい。
【0047】
ポリアミド樹脂(Y-1)におけるジカルボン酸単位は、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位のみからなっていてもよいが、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位以外の構成単位を含有していてもよい。
ここで、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸としては、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;ダイマー酸等のその他の脂肪族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、キシリレンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸等が例示できるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
また、ポリアミド樹脂(Y-1)は、ジアミン単位の70モル%以上がキシリレンジアミン(好ましくは、メタキシリレンジアミン)に由来する構成単位であり、かつ、ジカルボン酸単位の70モル%以上がアジピン酸に由来する構成単位であることが特に好ましく、ジアミン単位の80モル%以上がキシリレンジアミン(好ましくはメタキシリレンジアミン)に由来する構成単位であり、かつ、ジカルボン酸単位の80モル%以上がアジピン酸に由来する構成単位であることが最も好ましい。このような構成単位を有するポリアミド樹脂(Y-1)は、ガスバリア性が良好であるうえに、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性ポリエステル樹脂(X)と成形加工性が近似するため、多層容器の加工性が良好である。このポリアミド樹脂(Y-1)においては、アジピン酸以外のジカルボン酸単位を構成する化合物としては、炭素数4~20のα,ω-直鎖状脂肪族ジカルボン酸(但し、アジピン酸は除く)のうち1種以上が好ましく使用される。
【0049】
また、好ましいポリアミド樹脂(Y-1)としては、ジアミン単位の70モル%以上がキシリレンジアミン(好ましくはメタキシリレンジアミン)に由来する構成単位であり、ジカルボン酸単位の70~99モル%がアジピン酸に由来する構成単位であり、かつ、1~30モル%がイソフタル酸に由来する構成単位であるポリアミド樹脂を例示することもできる。前記ポリアミド樹脂は、ジアミン単位の80モル%以上がキシリレンジアミン(好ましくはメタキシリレンジアミン)に由来する構成単位であり、ジカルボン酸単位の80~99モル%がアジピン酸に由来する構成単位であり、かつ、1~20モル%がイソフタル酸に由来する構成単位であるポリアミド樹脂であることがより好ましい。
ジカルボン酸単位としてイソフタル酸単位を加えることで融点が低下し、成形加工温度を下げることができるため成形中の熱劣化を抑制することができ、また、結晶時間を遅延することより延伸成形性が向上する。
【0050】
ポリアミド樹脂(Y-1)の数平均分子量は、成形性及び酸素バリア性の観点から、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上であり、そして、好ましくは100,000以下、より好ましくは50,000以下、更に好ましくは40,000以下である。数平均分子量は、国際公開第2017/090556号の段落0016に記載の方法に従って測定される。
ポリアミド樹脂(Y-1)は、結晶性樹脂であることが好ましく、その融点は、成形容易性の観点から、好ましくは190℃以上300℃以下、より好ましくは200℃以上270℃以下、更に好ましくは210℃以上250℃以下である。
ポリアミド樹脂(Y-1)のガラス転移温度は、成形容易性の観点から、好ましくは75~95℃である。
【0051】
本発明において、ポリアミド樹脂(Y)中のポリアミド樹脂(Y-1)の含有量は、酸素バリア性の観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上、より更に好ましくは60質量%以上、より更に好ましくは70質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0052】
本発明において、ポリアミド樹脂(Y)は、ポリアミド樹脂(Y-1)に加えて、他のポリアミド樹脂を含有していてもよい。他のポリアミド樹脂としては、ジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸単位の構成単位とを含み、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の、30~65モル%が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来し、70~35モル%がイソフタル酸に由来するポリアミド樹脂(Y-2)が例示される(但し、合計が100モル%を超えることはない)。
このようなポリアミド樹脂(Y-2)を配合することにより、透明性及び酸素バリア性をより向上させることができる。本発明で用いるポリアミド樹脂(Y-2)は、通常、非晶性樹脂である。非晶性樹脂を用いることにより、多層容器の透明性をより向上させることができる。
【0053】
ポリアミド樹脂(Y-2)は、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上が、好ましくは80モル%以上が、より好ましくは90モル%以上が、更に好ましくは95モル%以上が、一層好ましくは99モル%以上がキシリレンジアミンに由来する。キシリレンジアミンは、メタキシリレンジアミン及びパラキシリレンジアミンが好ましく、メタキシリレンジアミンがより好ましい。
本発明におけるポリアミド樹脂(Y-2)の好ましい実施形態の一例は、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がメタキシリレンジアミンに由来するポリアミド樹脂である。
キシリレンジアミン以外のジアミンとしては、パラフェニレンジアミン等の芳香族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン等の脂肪族ジアミンが例示される。これらの他のジアミンは、1種のみでも2種以上であってもよい。
ジアミン成分として、キシリレンジアミン以外のジアミンを用いる場合は、ジアミン由来の構成単位の30モル%以下であり、より好ましくは1~25モル%、特に好ましくは5~20モル%の割合で用いる。
【0054】
本発明では、上述の通り、ポリアミド樹脂(Y-2)におけるジカルボン酸由来の構成単位の、30~65モル%が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸(好ましくは炭素数4~8のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸、より好ましくはアジピン酸)に由来し、70~35モル%がイソフタル酸に由来する。
ポリアミド樹脂(Y-2)におけるジカルボン酸由来の構成単位を構成する全ジカルボン酸のうち、イソフタル酸の割合の下限値は、35モル%以上であり、40モル%以上が好ましく、41モル%以上がより好ましい。前記イソフタル酸の割合の上限値は、70モル%以下であり、67モル%以下が好ましく、65モル%以下がより好ましく、62モル%以下が更に好ましく、60モル%以下がより更に好ましく、58モル%以下がより更に好ましい。
このような範囲とすることにより、本発明の多層容器の酸素バリア性がより向上する傾向にある。
【0055】
ポリアミド樹脂(Y-2)におけるジカルボン酸由来の構成単位を構成する全ジカルボン酸のうち、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸(好ましくは炭素数4~8のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸、より好ましくはアジピン酸)の割合の下限値は、30モル%以上であり、33モル%以上が好ましく、35モル%以上がより好ましく、38モル%以上が更に好ましく、40モル%以上が一層好ましく、42モル%以上であってもよい。前記炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸の割合の上限値は、65モル%以下であり、60モル%以下が好ましく、59モル%以下であることがより好ましい。このような範囲とすることにより、本発明の多層容器の酸素バリア性がより向上する傾向にある。
炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸は、上述の通り、炭素数4~8のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸であることが好ましい。
ポリアミド樹脂(Y-2)の原料ジカルボン酸成分として用いるのに好ましい炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸としては、例えばコハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示でき、1種又は2種以上を混合して使用できるが、これらの中でもポリアミド樹脂の融点が成形加工するのに適切な範囲となることから、アジピン酸が好ましい。
【0056】
ポリアミド樹脂(Y-2)における、ジカルボン酸由来の構成単位を構成する全ジカルボン酸のうち、イソフタル酸と炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸の合計の割合は、90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましく、98モル%以上であることが更に好ましく、100モル%であってもよい。このような割合とすることにより、本発明の多層容器の透明性がより向上する傾向にある。
【0057】
イソフタル酸と炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外のジカルボン酸としては、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸といった異性体等のナフタレンジカルボン酸等を例示することができ、1種又は2種以上を混合して使用できる。
ポリアミド樹脂(Y-2)はテレフタル酸由来の構成単位を実質的に含まないことが好ましい。実質的に含まないとは、ポリアミド樹脂(Y-2)に含まれるイソフタル酸のモル量の5モル%以下であり、3モル%以下が好ましく、1モル%以下が更に好ましい。このような構成とすることにより、適度な成形加工性が維持され、ガスバリア性が湿度によってより変化しにくくなる。
【0058】
なお、ポリアミド樹脂(Y-2)は、ジカルボン酸由来の構成単位とジアミン由来の構成単位から構成されるが、ジカルボン酸由来の構成単位及びジアミン由来の構成単位以外の構成単位や、末端基等の他の部位を含みうる。他の構成単位としては、ε-カプロラクタム、バレロラクタム、ラウロラクタム、ウンデカラクタム等のラクタム、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸等由来の構成単位が例示できるが、これらに限定されるものではない。更に、ポリアミド樹脂(Y-2)は、合成に用いた添加剤等の微量成分が含まれる。ポリアミド樹脂(Y-2)は、通常、95質量%以上、好ましくは98質量%以上が、ジカルボン酸由来の構成単位又はジアミン由来の構成単位である。
【0059】
ポリアミド樹脂(Y-2)の数平均分子量(Mn)は、8,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましい。上記ポリアミド樹脂(Y-2)の数平均分子量の上限値は特に定めるものではないが、例えば、50,000以下であり、更には30,000以下、20,000以下であってもよい。本発明の実施形態の一例として、ポリアミド樹脂(Y-2)のMnがポリアミド樹脂(Y-1)のMnよりも小さい形態が挙げられる。より好ましくは、ポリアミド樹脂(Y-2)のMnがポリアミド樹脂(Y-1)のMnよりも、5,000以上小さいことであり、更に好ましくは、8,000以上小さいことであり、一層好ましくは、10,000以上小さいことである。前記ポリアミド樹脂(Y-2)のMnとポリアミド樹脂(Y-1)のMnとの差の上限は、25,000以下であることが例示される。このような構成とすることにより、ポリアミド樹脂(Y-1)とポリアミド樹脂(Y-2)との分散性、相溶性が良好となり、透明性とガスバリア性がより優れる傾向にある。
【0060】
ポリアミド樹脂(Y-2)のガラス転移温度は、90℃を超え150℃以下であることが好ましく、95~145℃であることがより好ましく、101~140℃であることが更に好ましく、120~135℃であることが一層好ましい。このような構成とすることにより、多層容器の耐層間剥離性がより向上する傾向にある。
【0061】
本発明において、ポリアミド樹脂(Y)中のポリアミド樹脂(Y-2)の含有量は、耐層間剥離性、透明性及びバリア性の観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、より更に好ましくは30質量%以上であり、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
本発明において、ポリアミド樹脂(Y)中のポリアミド樹脂(Y-1)とポリアミド樹脂(Y-2)の合計含有量は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。
また、ポリアミド樹脂(Y-1)及びポリアミド樹脂(Y-2)は、それぞれ1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
前記のジアミン及びジカルボン酸以外にも、ポリアミド樹脂(Y)を構成する成分として、本発明の効果を損なわない範囲で、ε-カプロラクタムやラウロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸、アミノウンデカン酸等の脂肪族アミノカルボン酸類;p-アミノメチル安息香酸のような芳香族アミノカルボン酸も共重合成分として使用できる。
【0063】
本発明においてポリアミド樹脂は、溶融状態での重縮合反応(以下、「溶融重縮合」と記載することがある。)により製造することが好ましい。例えば、ジアミンとジカルボン酸とからなるナイロン塩を水の存在下に、加圧法で昇温し、加えた水及び縮合水を除きながら溶融状態で重合させる方法により製造することが好ましい。また、ジアミンを溶融状態のジカルボン酸に直接加えて、常圧下で重縮合する方法によって製造してもよい。この場合、反応系を均一な液状状態で保つために、ジアミンをジカルボン酸に連続的に加え、その間、反応温度が、生成するオリゴアミド及びポリアミドの融点よりも下回らないように反応系を昇温しつつ、重縮合を進行させることが好ましい。また、ポリアミド樹脂は、必要に応じて溶融重縮合により得られたものを更に固相重合することにより分子量を高めることもできる。
【0064】
ポリアミド樹脂は、リン原子含有化合物の存在下で重縮合してもよい。ポリアミド樹脂は、リン原子含有化合物の存在下で重縮合すると、溶融成形時の加工安定性が高められ、着色が抑制されやすくなる。
リン原子含有化合物の好ましい具体例としては、次亜リン酸化合物(ホスフィン酸化合物又は亜ホスホン酸化合物ともいう)や亜リン酸化合物(ホスホン酸化合物ともいう)等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。リン原子含有化合物は有機金属塩であってもよいが、中でもアルカリ金属塩が好ましい。
次亜リン酸化合物の具体例としては、次亜リン酸;次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸リチウム、次亜リン酸カルシウム等の次亜リン酸金属塩;次亜リン酸エチル、ジメチルホスフィン酸、フェニルメチルホスフィン酸、フェニル亜ホスホン酸、フェニル亜ホスホン酸エチル等の次亜リン酸化合物;フェニル亜ホスホン酸ナトリウム、フェニル亜ホスホン酸カリウム、フェニル亜ホスホン酸リチウム等のフェニル亜ホスホン酸金属塩等が挙げられる。
亜リン酸化合物の具体例としては、亜リン酸、ピロ亜リン酸;亜リン酸水素二ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸カルシウム等の亜リン酸金属塩;亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、エチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸ジエチル等の亜リン酸化合物;エチルホスホン酸ナトリウム、エチルホスホン酸カリウム、フェニルホスホン酸ナトリウム、フェニルホスホン酸カリウム、フェニルホスホン酸リチウム等のフェニルホスホン酸金属塩等が挙げられる。
リン原子含有化合物は、上記のうち1種類でもよいし、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、ポリアミド樹脂の重合反応を促進する効果の観点及び着色防止効果の観点から、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸リチウム、次亜リン酸カルシウム等の次亜リン酸金属塩が好ましく、次亜リン酸ナトリウムがより好ましい。
【0065】
また、ポリアミド樹脂の重縮合は、リン原子含有化合物及びアルカリ金属化合物の存在下で行われることが好ましい。重縮合中のポリアミド樹脂の着色を防止するためにはリン原子含有化合物を十分な量存在させる必要があるが、リン原子含有化合物の使用量が多すぎるとアミド化反応速度が促進されすぎてポリアミド樹脂のゲル化を招くおそれがある。そのため、アミド化反応速度を調整する観点から、アルカリ金属化合物を共存させることが好ましい。
アルカリ金属化合物としては特に限定されないが、好ましい具体例としてアルカリ金属水酸化物やアルカリ金属酢酸塩を挙げることができる。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムを挙げることができ、アルカリ金属酢酸塩としては、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸ルビジウム、酢酸セシウムを挙げることができる。
ポリアミド樹脂を重縮合する際にアルカリ金属化合物を使用する場合、アルカリ金属化合物の使用量は、ゲルの生成を抑制する観点から、アルカリ金属化合物のモル数をリン原子含有化合物のモル数で除した値が、好ましくは0.5~1、より好ましくは0.55~0.95、更に好ましくは0.6~0.9となる範囲が好ましい。
【0066】
本発明において、ポリアミド樹脂(Y)のアミノ基濃度は、ポリエステル樹脂のリサイクル性を向上させる観点、すなわち、再生ポリエステル樹脂の黄変を抑制する観点から、50μmol/g以下であることが好ましく、45μmol/g以下であることがより好ましく、40μmol/g以下であることが更に好ましく、30μmol/g以下であることがより更に好ましく、20μmol/g以下であることが特に好ましい。
ポリアミド樹脂のアミノ基濃度は、ポリアミド樹脂を精秤し、フェノール/エタノール=4/1容量溶液に20~30℃で撹拌溶解させ、完全に溶解した後、撹拌しつつ、メタノール5mLで容器内壁を洗い流し、0.01mol/L塩酸水溶液で中和滴定することで求められる。
ポリアミド樹脂のアミノ基濃度の調整方法は特に限定されないが、ジアミンとジカルボン酸の仕込み比(モル比)を調整して重縮合反応を行う方法、アミノ基をキャップするモノカルボン酸類をジアミンとジカルボン酸と共に仕込んで重縮合反応を行う方法、重縮合反応を行った後、アミノ基をキャップするカルボン酸と反応させる方法等により、アミノ基濃度を低く抑えることができる。
【0067】
(遷移金属)
本発明において、ポリアミド層は、ポリアミド樹脂(Y)の酸化反応を誘起させて酸素吸収能を高め、ガスバリア性を更に高める目的で、遷移金属を含んでもよい。
遷移金属としては、元素周期律表の第VIII族の遷移金属、マンガン、銅、及び亜鉛よりなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、酸素吸収能を発現させる観点から、コバルト、鉄、マンガン、及びニッケルよりなる群から選択される少なくとも1種がより好ましく、コバルトが更に好ましい。
遷移金属は、単体のほか、上記の金属を含む低価数の酸化物、無機酸塩、有機酸塩、又は錯塩の形で使用される。無機酸塩、有機酸塩又は錯塩であることが好ましく、有機酸塩であることがより好ましい。無機酸塩としては、塩化物や臭化物等のハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩等が挙げられる。一方、有機酸塩としては、カルボン酸塩、スルホン酸塩、ホスホン酸塩等が挙げられる。また、β-ジケトン又はβ-ケト酸エステル等との遷移金属錯体も利用することができる。
酸素吸収能が良好に発現する観点から、遷移金属を含むカルボン酸塩、炭酸塩、アセチルアセトナート錯体、酸化物及びハロゲン化物よりなる群から選択される少なくとも1種を使用することが好ましく、オクタン酸塩、ネオデカン酸塩、ナフテン酸塩、ステアリン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、及びアセチルアセトナート錯体よりなる群から選択される少なくとも1種を使用することがより好ましく、オクタン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、酢酸コバルト、ステアリン酸コバルト等のコバルトカルボキシレート類を使用することが更に好ましい。
【0068】
上記遷移金属は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
ポリアミド層中の遷移金属の含有量は、多層容器のガスバリア性を高めかつ黄変を抑制する観点から、好ましくは100~1,000質量ppm、より好ましくは120~800質量ppm、更に好ましくは150~600質量ppm、更に好ましくは200~500質量ppmである。
なお、遷移金属を含むカルボン酸塩等を使用する場合に、遷移金属の含有量とは、当該遷移金属を含む化合物中の遷移金属自体の含有量を意味する。
【0069】
(その他の成分)
ポリエステル層及びポリアミド層は、各種の添加剤成分を含有してもよい。添加剤成分としては、例えば、着色剤、熱安定剤、光安定剤、防湿剤、防水剤、滑剤、展着剤などが挙げられる。
また、ポリエステル層及びポリアミド層それぞれは、本発明の目的を逸脱しない範囲内において、ポリエステル樹脂及びポリアミド樹脂以外の樹脂成分を含有していてもよい。ポリエステル層において、ポリエステル樹脂(X)は、主成分となるものであり、具体的には、ポリエステル樹脂(X)の含有量は、層全体の樹脂量に対して、好ましくは80~100質量%、より好ましくは90~100質量%である。
ポリアミド層中のポリアミド樹脂(Y)の含有量は、層全体の樹脂量に対して、好ましくは50~100質量%、より好ましくは70~100質量%、更に好ましくは80~100質量%、より更に好ましくは90~100質量%である。
また、ポリエステル樹脂層が、着色剤を含有することが好ましく、黄変に対して補色として機能する点から、青色又は紫色着色剤を含有することが好ましい。ポリエステル層における青色又は紫色着色剤の含有量は、ポリエステル樹脂に対して、好ましくは0.1~100質量ppmであり、より好ましくは0.5~50質量ppmであり、更に好ましくは1~30質量ppmである。
【0070】
<多層容器>
本発明の多層容器は、中空容器であることが好ましく、該多層容器が中空容器である場合、胴部が、少なくとも多層積層構造を有する。
本発明の多層容器は、ポリエステル層及びポリアミド層を有し、最内層がポリエステル層であり、かつ、中間層としてポリアミド層を有する。本発明の多層容器は、少なくとも最内層のポリエステル層と、該ポリエステル層に直接的に接するように設けられたポリアミド層を有することが好ましい。
本発明の多層容器は、最内層に加えて、ポリアミド層の外側にも、ポリエステル層を有することが好ましい。すなわち、ポリアミド層の内側及び外側に少なくとも1層ずつのポリエステル層を有することが好ましい。ポリアミド層に直接的に接するようにポリアミド層の外側にポリエステル層を有することがより好ましい。なお、ポリアミド層の外側のポリエステル層は、最外層である場合に限定されるものではなく、前記ポリエステル層の外側に、更に複数の層が設けられていてもよい。
これらの中でも、本発明の多層容器は、最内層及び最外層としてポリエステル層を有し、中間層としてポリアミド層を有する3層構造であることが特に好ましい。
【0071】
本発明の多層容器は、ポリエステル層と、ポリアミド層以外の、その他の層を有していてもよい。その他の層としては、具体的には、ポリエステル層とポリアミド層の間に介在され、これらの層を接着させるための樹脂層や接着剤層が挙げられる。ただし、成形加工性、及びリサイクル時の分別性を向上させる観点から、ポリエステル層とポリアミド層との間には、樹脂層や接着剤層を介在させないことが好ましい。
【0072】
本発明の多層容器は、横方向(TD)の延伸倍率が2.2倍以上であり、かつ、横方向(TD)の延伸倍率に対する縦方向(MD)の延伸倍率(MD/TD)が0.6以上1.0未満である。当該範囲で延伸されていることで、本発明の多層容器は、酸素バリア性及び耐層間剥離性に優れる。
本発明の多層容器は、ブロー延伸することにより得られたものであることが好ましく、二軸延伸ブロー成形するインジェクションブロー成形によって製造されたものであることがより好ましい。すなわち、本発明の多層容器は、ブロー延伸成形容器であることが好ましく、二軸延伸ブロー成形容器であることがより好ましい。
【0073】
本発明において、多層容器の縦方向(MD)とは、容器の口部から底部へと流れる方向である。多層容器の横方向(TD)とは、縦方向に直行する方向であり、容器の周方向である。横方向(TD)の延伸倍率は、多層容器の底面から70mmの高さにおける多層容器の胴部直径と、それに対応するブロー成形前のプリフォームの胴部直径とから計算される。なお、それぞれの胴部直径は厚みの中心を基準に計算される。縦方向(MD)の延伸倍率は、多層容器のサポートリング下の長さとブロー成形前のプリフォームのサポートリング下の長さとから計算される。
【0074】
本発明の多層容器における横方向(TD)の延伸倍率は、酸素バリア性及び耐層間剥離性を向上させる観点から、2.2倍以上であり、好ましくは3.0倍以上、より好ましくは3.3倍以上である。本発明の多層容器の容量が200~350mLである場合、本発明の多層容器における横方向(TD)の延伸倍率は、好ましくは2.3倍以上、より好ましくは2.6倍以上、更に好ましくは2.8倍以上、更に好ましくは3.0倍以上である。
本発明の多層容器における縦方向(MD)の延伸倍率は、酸素バリア性及び耐層間剥離性を向上させる観点から、好ましくは1.5~4.0倍、より好ましくは2.0~3.0倍、更に好ましくは2.1~2.5倍である。
【0075】
横方向(TD)の延伸倍率に対する縦方向(MD)の延伸倍率(MD/TD)は、酸素バリア性及び耐層間剥離性を向上させる観点から、0.6以上1.0未満であり、好ましくは0.65以上0.95以下、より好ましくは0.68以上0.90以下、更に好ましくは0.68以上0.80以下、より更に好ましくは0.68以上0.75以下、より好ましくは0.68以上0.72以下である。
【0076】
延伸倍率が上記範囲内にある場合、多層容器の胴部のポリアミド層の配向度(平均値)は、好ましくは20~45、より好ましくは25~45である。ここで、配向度は、アッベ屈折計を用いて23℃で測定したポリアミド層の屈折率から下記式により求められる。
配向度=[{n(x)+n(y)}/2-n(z)]×1000
(n(x):ボトル高さ方向の屈折率、n(y):ボトル周方向の屈折率、n(z):厚み方向の屈折率)
【0077】
配向度はポリマー分子の配向の具合、すなわち結晶性の程度を表す指標として用いられている。配向度が高いほど整然と延伸されている分子の割合が多いことを示す。ポリアミド層の配向度はブロー条件によって制御される。配向度が上記範囲になるように、一次ブロー圧力、一次ブロー遅延時間、二次ブロー圧力、多層プリフォーム表面の加熱温度等を適切に制御することによって、バリア層が均一に延伸され、ブロー成形後のバリア層のひずみを大きくすることができる。これにより、多層ボトルの層間の密着性が改善され、耐層間剥離性能が良好になる。
【0078】
多層容器の容量は特に限定されないが、酸素バリア性及び耐層間剥離性、並びに、製造上の観点から、好ましくは30mL以上3,000mL以下、より好ましくは50mL以上2,000mL以下、更に好ましくは100mL以上1,500mL以下、より更に好ましくは200mL以上1,000mL以下、より更に好ましくは200mL以上600mL以下、より更に好ましくは200mL以上350mL以下、より更に好ましくは200mL以上330mL以下、より更に好ましくは200mL以上300mL以下である。本発明の効果は比較的小容量の多層容器において顕著に現れるので、比較的小容量の多層容器であることが好ましい。
小容量の多層容器は、全体の延伸倍率が小さくなるため、耐層間剥離性が低くなりやすい。しかし、本発明の延伸倍率の比率の範囲とすると、特に周方向の延伸がされることで、小容量の容器であっても耐層間剥離性が良好になるものと考えられる。
【0079】
多層容器の全体の厚みは、好ましくは50~500μm、より好ましくは100~450μm、更に好ましくは150~400μm、より更に好ましくは150~350μm、より更に好ましくは150~300μm、より更に好ましくは150~250μmの範囲内である。多層容器が中空容器である場合、中空容器の胴部における総厚み(すなわち、胴部の全層の合計厚み)は、好ましくは50~500μm、より好ましくは100~450μm、更に好ましくは150~400μm、より更に好ましくは150~350μm、より更に好ましくは150~300μm、より更に好ましくは150~250μmの範囲内である。
【0080】
本発明の多層容器の全体厚みを100%としたとき、ポリアミド層が多層容器の内表面より5~60%の位置から存在することが好ましく、多層容器の内表面より5~35%の位置から存在することがより好ましい。なお、少なくとも、多層容器の胴部のいずれかの位置において、上記の要件を満たしていれば好ましいが、胴部の中央部(多層容器の高さ方向の中央部)において、上記の要件を満たすことがより好ましい。
なお、多層容器が複数のポリアミド層を有する場合、少なくとも1層のポリアミド層が、上記の要件を満たしていれば好ましいが、最も内側に存在するポリアミド層が上記の要件を満たすことがより好ましく、多層容器がポリアミド層を1層のみ有し、かつ、該ポリアミド層が上記の要件を満たすことが更に好ましい。
【0081】
多層容器の全体厚みを100%としたとき、ポリアミド層は、多層容器の内表面より5~60%の位置から存在することが好ましく、多層容器の内表面より5~35%の位置から存在することがより好ましい。ポリアミド層が多層容器の内表面より5~35%の位置から存在することにより、耐層間剥離性により優れ、更に、酸素バリア性にもより優れる多層容器を得ることができる。また、ポリアミド層が多層容器の内表面より5~35%の位置から存在することによって、後述するように多層容器内部から電子線照射を行った場合であっても、ポリアミド層に電子線が到達し、到達した電子線がラジカルを発生させることによって、より酸素バリア性が向上する。更に、電子線により、ポリエステル層とポリアミド層との界面の接着性が向上し、耐剥離性がより向上する。
ポリアミド層は、上述した観点から、多層容器の全体の厚みを100%としたとき、多層容器の内表面から、好ましくは5%以上、より好ましくは5.5%以上、更に好ましくは6%以上、更に好ましくは6.5%以上、より更に好ましくは8%以上、より更に好ましくは10%以上、より更に好ましくは12%以上の位置から存在する。また、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下、更に好ましくは35%以下、更に好ましくは30%以下、更に好ましくは20%以下の位置から存在する。
【0082】
また、本発明の多層容器におけるポリアミド層の厚みは、多層容器の全体厚みを100%としたとき、好ましくは1%以上、より好ましくは1.5%以上、更に好ましくは2%以上であり、そして、好ましくは15%以下、より好ましくは12.5%以下、更に好ましくは10%以下である。ポリアミド層の厚みが上記範囲内であると、十分な酸素バリア性が得られると共に、耐剥離性向上効果が期待できる。
ここで、本明細書におけるポリアミド層の位置及び厚みは、以下の方法により測定される。
ボトル底部から70mmの位置において、ボトルの水平方向の4方向(0°、90°、180°、270°)で、1.5cm×1.5cmのサンプルをカッターで切り出し、マイクロメーター(株式会社ミツトヨ製「クイックマイクロMDQ」)を用いて総厚みを測定し、光の干渉を利用した膜厚計(グンゼ株式会社製「DC-8200」)を用いて、各層厚みの比率を測定して、得られた総厚みと各層厚みの比率からポリアミド層の位置及び、厚みを算出した。
【0083】
なお、ポリアミド層は、多層容器の底部や首部には積層されていなくてもよく、少なくとも胴部の一部、好ましくは胴部の中央部、より好ましくは胴部の長さの50%以上において、ポリアミド層が上記の厚み及び位置に存在することが好ましい。
【0084】
ポリエステル層及びポリアミド層の合計に対するポリアミド樹脂の含有量は、好ましくは0.5~12質量%であり、より好ましくは1~10質量%であり、更に好ましくは1.5~8質量%、より更に好ましくは2~7質量%である。
【0085】
ポリエステル層とポリアミド層とを有する多層容器の酸素吸収性能を発現するまでの誘導期間や、酸素吸収の発現期間は、ポリアミド層の位置や多層容器の容量によっても異なる。通常、耐層間剥離性と酸素吸収性能をバランスさせる観点からは、ポリアミド層の位置は、後述するプリフォームのサポートリングの下部から、プリフォームの射出ゲート中心から20~40mm程度の位置までが好ましい。一方で、酸素吸収性能を重視する場合は、ポリアミド層の位置は、サポートリングの上部から射出ゲート付近まであることが好ましく、また、ポリアミド層の厚みを厚くすることも好ましい。
また、酸素吸収性能は多層容器の容量によっても異なる。多層容器の質量が同じであれば、酸素吸収性能の観点からは500mL容量の多層容器よりも200~350mL容量の多層容器の方が好ましく、200~330mL容量の多層容器の方がより好ましく、200~300mL容量の多層容器の方が更に好ましい。
【0086】
(電子線照射)
本発明の多層容器は、容器内部から電子線照射されたものであることが好ましい。なお、本発明の多層容器は、後述するプリフォームの内部から電子線照射し、その後、ブロー成形したものであってもよく、また、ブロー成形後の多層容器成形体の内部から電子線照射したものであってもよい。これらの中でも、ブロー成形後の多層容器成形体の内部から電子線照射したものであることが好ましい。
従来から、容器の滅菌を目的として、電子線照射が行われている。電子線滅菌は、γ線やX線による滅菌とは異なり、処理時間が短いという利点を有する。容器では、容器内部のみを滅菌すればよいことから、近年、容器内表面のみに電子線を照射して、容器内部を滅菌処理することが行われている。容器内部から電子線を照射する場合には、容器外部から電子線照射をする場合に比べて、低い加速電圧で滅菌処理することが可能であり、省エネルギーの観点でも利点を有する。
本発明の多層容器において、ポリアミド層が多層容器の内表面より5~35%の位置から存在する場合には、容器内部から電子線照射した場合であっても、ポリアミド層まで電子線が到達可能である。
電子線の照射条件については後述する。
【0087】
本発明の多層容器は、中空容器であることが好ましく、中空容器の内部に液体を充填して使用される液体用包装容器であることがより好ましく、飲料用包装容器であることが更に好ましい。内部に充填される液体としては、水、炭酸水、酸素水、水素水、牛乳、乳製品、ジュース、コーヒー、コーヒー飲料、炭酸ソフトドリンク類、茶類、アルコール飲料等の飲料;ソース、醤油、シロップ、みりん類、ドレッシング等の液体調味料;農薬、殺虫剤等の化学品;医薬品;洗剤等、種々の物品を挙げることができる。特に、酸素存在下で劣化を起こしやすい飲料や炭酸飲料、例えば、ビール、ワイン、コーヒー、コーヒー飲料、フルーツジュース、炭酸ソフトドリンク、炭酸水、茶類が好ましく挙げられる。
【0088】
また、本発明の多層容器は、酸素バリア性に優れる。本発明の多層容器の容量が200~350mLである場合、容器の酸素バリア性(mL/bottle・day・0.21atm)は、好ましくは0.015以下であり、より好ましくは0.008以下である。また、本発明の多層容器の容量が350mLを超え500mL以下である場合、容器の酸素バリア性(mL/bottle・day・0.21atm)は、好ましくは0.020以下であり、より好ましくは0.015以下である。なお、前記の酸素バリア性は、後述する実施例で作製した容器を基準としている。
容器の酸素バリア性は、ASTM D3985に準じて、MOCON法による酸素透過度試験により評価することができる。測定にはMOCON社製OX-TRAN2/61を使用し、得られた各ボトルに各容量の1/5の水を充填し、酸素分圧0.21atmの条件下で温度23℃、ボトル内部湿度100%RH、外部湿度50%RHにて、ボトル内部に1atmの窒素を20mL/minで流通し、クーロメトリックセンサーにてボトル内部を流通後の窒素中に含まれる酸素を検出することで測定する。
【0089】
[多層容器の製造方法]
本発明の多層容器の製造方法は、成形品の構造等を考慮して適切な製造方法が選択される。具体的には、射出成形機から金型中に溶融した樹脂又は樹脂組成物を射出してプリフォームを製造後、ブロー延伸することにより得ることができる(インジェクションブロー成形、インジェクションストレッチブロー成形)。また、押出成形機から金型中に溶融した樹脂又は樹脂組成物を押し出すことで得られるパリソンを金型内でブローすることにより得ることができる(ダイレクトブロー成形)。
【0090】
本発明の多層容器は、プリフォームを二軸延伸ブロー成形するインジェクションブロー成形によって製造することが好ましい。
具体的には、本発明の多層容器の製造方法は、以下の工程1及び工程2をこの順で含む製造方法であることが好ましい。
工程1:熱可塑性ポリエステル樹脂(X)を含有するポリエステル層と、ポリアミド樹脂(Y)を含有するポリアミド層と、を有し、
最内層がポリエステル層であり、かつ、中間層としてポリアミド層を有し、
前記ポリアミド樹脂(Y)が、ジアミンに由来する構成単位と、ジカルボン酸に由来する構成単位とを有し、該ジアミンに由来する構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来する構成単位であり、該ジカルボン酸に由来する構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位であるポリアミド樹脂(Y-1)を含む、多層プリフォームを射出成形する工程
工程2:工程1で得られた多層プリフォームを下記(1)~(5)の条件を満たす方法で二軸延伸ブロー成形する工程
(1)多層プリフォームの表面を80~120℃に加熱した後、
(2)金型内で多層プリフォームをロッドで縦方向に延伸しつつ、多段階に圧力を変えて高圧空気をブローし、
(3)多段階に高圧空気をブローする際の一段階目の圧力(一次ブロー圧力)が、0.3~2.0MPaであり、
(4)一次ブロー遅延時間が0.1~0.5秒であり、
(5)横方向(TD)の延伸倍率が2.2倍以上であり、かつ、横方向(TD)の延伸倍率に対する縦方向(MD)の延伸倍率(MD/TD)が0.6以上1.0未満である。
【0091】
本発明の多層容器は、コールドパリソン成形してもよく、ホットパリソン成形してもよい。コールドパリソン(2ステージ成形)成形は、射出成形後のプリフォームを室温まで冷やして、保管されたのちに、別の装置で再加熱し、ブロー成形に供給される成形方法である。一方、ホットパリソン成形(1ステージ成形)は、パリソンを室温まで完全に冷却することなく、射出成形時の予熱とブロー前の温調をすることで、ブロー成形する方法である。ホットパリソン成形では、多くの場合は、同一成形機ユニット内に、射出成形機、温調ゾーン及びブロー成形機を備え、プリフォーム射出成形とブロー成形が行われる。
本発明の多層容器の製造方法の好ましい実施形態は、コールドパリソン成形によって成形する形態である。
【0092】
(工程1)
本発明の多層容器の製造方法は、多層プリフォームを射出成形する工程を含む。
多層プリフォームは、熱可塑性ポリエステル樹脂(X)を含有するポリエステル層と、ポリアミド樹脂(Y)を含有するポリアミド層と、を有し、最内層がポリエステル層であり、かつ、中間層としてポリアミド層を有し、前記ポリアミド樹脂(Y)が、ジアミンに由来する構成単位と、ジカルボン酸に由来する構成単位とを有し、該ジアミンに由来する構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来する構成単位であり、該ジカルボン酸に由来する構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位であるポリアミド樹脂(Y-1)を含む。熱可塑性ポリエステル樹脂(X)を含有するポリエステル層、ポリアミド樹脂(Y)を含有するポリアミド層、及び層構成に関しては、多層容器について上記で説明したのと同様である。
【0093】
なお、プリフォームの成形に先立ち、ポリエステル層が熱可塑性ポリエステル樹脂(X)以外の、その他の成分を含む場合には、予め熱可塑性ポリエステル樹脂(X)と、その他の成分とを混合して、ポリエステル樹脂混合物又はポリエステル樹脂組成物を調製することが好ましい。なお、前記混合は、ドライブレンドでもよく、メルトブレンド(溶融混練)でもよい。すなわち、熱可塑性ポリエステル樹脂(X)と、その他の成分とをドライブレンドして、ポリエステル樹脂混合物を調製してもよく、また、熱可塑性ポリエステル樹脂(X)と、その他の成分とをメルトブレンドして、ポリエステル樹脂組成物を調製してもよい。これらの中でも、熱履歴を少なくする観点から、ドライブレンドであることが好ましい。ここで、ドライブレンドとは、粉粒状又はペレット状の形態で機械的に混合することを意味する。混合には、タンブラーミキサー、リボンミキサー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー等の混合装置を使用してもよい。あるいは、成形加工に供する際に、熱可塑性ポリエステル樹脂(X)の供給フィーダーとは別のフィーダー(あるいは液添装置)にてその他の成分を所定量供給することで、パリソンを成形直前にポリエステル樹脂混合物としてもよい。
また、熱可塑性ポリエステル樹脂(X)と、その他の成分とを溶融混練する場合には、溶融混練における温度は特に限定されないが、熱可塑性ポリエステル樹脂(X)が十分に溶融し、その他の成分と十分に混練されるという観点から、好ましくは300~255℃であり、より好ましくは290~260℃であり、更に好ましくは285~265℃である。また、溶融混練する時間は特に限定されないが、熱可塑性ポリエステル樹脂(X)と、その他の成分とが均一に混合するという観点から、好ましくは10~600秒であり、より好ましくは20~400秒であり、更に好ましくは30~300秒である。溶融混練に使用される装置は特に限定されないが、開放型のミキシングロール、非開放型のバンバリーミキサー、ニーダー、連続混練機(単軸混練機、二軸混練機、多軸混練機等)などが挙げられる。
【0094】
また、プリフォームの成形に先立ち、ポリアミド層が、ポリアミド樹脂(Y)以外の、その他の成分を含む場合には、予めポリアミド樹脂(Y)と、その他の成分とを混合して、ポリアミド樹脂混合物又はポリアミド樹脂組成物を調製することが好ましい。混合は、ドライブレンドでもよく、メルトブレンド(溶融混練)でもよい。すなわち、ポリアミド樹脂(Y)と、その他の成分とをドライブレンドして、ポリアミド樹脂混合物を調製してもよく、また、ポリアミド樹脂(Y)と、その他の成分とをメルトブレンドして、ポリアミド樹脂組成物を調製してもよい。これらの中でも、熱履歴を少なくする観点から、ドライブレンドであることが好ましい。混合には、上述したポリエステル樹脂混合物と同様の混合装置が使用される。あるいは、成形加工に供する際に、ポリアミド樹脂(Y)の供給フィーダーとは別のフィーダー(あるいは液添装置)にてその他の成分を所定量供給することで、パリソンを成形直前にポリアミド樹脂混合物としてもよい。
また、ポリアミド樹脂(Y)と、その他の成分とを溶融混練する場合には、溶融混練における温度は特に限定されないが、ポリアミド樹脂(Y)が十分に溶融し、その他の成分と十分に混練されるという観点から、好ましくは300~245℃であり、より好ましくは290~250℃であり、更に好ましくは280~255℃である。また、溶融混練する時間は特に限定されないが、ポリアミド樹脂(Y)とその他の成分が均一に混合するという観点から、好ましくは10~600秒であり、より好ましくは20~400秒であり、更に好ましくは30~300秒である。溶融混練に使用される装置は特に限定されないが、開放型のミキシングロール、非開放型のバンバリーミキサー、ニーダー、連続混練機(単軸混練機、二軸混練機、多軸混練機等)などが挙げられる。
【0095】
次に、ポリエステル樹脂(X)又はポリエステル樹脂組成物を第一の押出機から押し出し、ポリアミド樹脂(Y)又はポリアミド樹脂組成物を第二の押出機から押し出し、パリソン(多層プリフォーム)を成形する。より具体的には、押出成形法、共射出成形法、又は、圧縮成形法等により、多層プリフォームを成形する工程であることが好ましい。
押出成形では、ポリエステル樹脂又はポリエステル樹脂組成物、及びポリアミド樹脂又はポリアミド樹脂組成物を、共押出成形して、多層プリフォームを成形する。
また、共射出成形では、ポリエステル樹脂又はポリエステル樹脂組成物、及びポリアミド樹脂又はポリアミド樹脂組成物を金型にそれぞれ押し出し、共射出成形して、多層プリフォームを成形する。
圧縮成形では、加熱溶融状態のポリエステル樹脂又はポリエステル樹脂組成物が流動する押出流路内に、加熱溶融状態のポリアミド樹脂又はポリアミド樹脂組成物を間歇的に押し出して、押し出されたポリアミド樹脂又はポリアミド樹脂組成物の実質上全体を囲む、ポリエステル樹脂又はポリエステル樹脂組成物を押出流路の押出口から押し出して、溶融樹脂成形材料として適宜成形金型に供給して、次いで圧縮成形して多層プリフォームを成形する方法が例示される。
これらの中でも、生産性の観点から、共射出成形であることが好ましい。
【0096】
本発明において、全体厚みを100%としたとき、ポリアミド層が多層プリフォームの内表面より5~60%(好ましくは5~35%)の位置から存在し、また、ポリアミド層の厚みが全体厚みの1~15%となるように、多層プリフォームを製造することが好ましい。具体的には、上述した射出シリンダーユニットからの射出量を調整することで、所望の位置に所望の厚みでポリアミド層を有する多層容器が得られる。
バリア層の位置を厚み方向に変更したボトルの作製は、ポリエステル内層、ポリアミド層、ポリエステル外層等の各層に対応する各溶融樹脂の金型内への射出量の調整が可能なバルブステム機構を有することで得ることができる。この他、ポリエステル層とポリアミド層の合流部における各層の流路の進入角度を調整することでも、ポリアミド層の厚み方向における位置を任意に調整することができる。なお、ポリアミド層の厚み方向の位置を調整する方法は、上記の方法に限定されるものではない。
【0097】
多層容器成形体の内部から電子線を照射することにより、より低い加速電圧で滅菌処理することが可能であり、省エネルギーの観点でも利点を有する。
照射する電子線の加速電圧は、多層容器の内表面を滅菌し、また、ポリアミド層に電子線を到達させて、酸素吸収性能及び耐剥離性を向上させる観点から、好ましくは1keV以上、より好ましくは5keV以上、更に好ましくは10keV以上である。また、省エネルギー性の観点から、好ましくは200keV以下、より好ましくは150keV以下、更に好ましくは130keV以下である。
また、照射する電子線の照射強度(吸収線量)は、多層容器の内表面を滅菌し、また、ポリアミド層に電子線を到達させて、酸素吸収性能及び耐剥離性を向上させる観点から、好ましくは1kGy以上、より好ましくは5kGy以上、更に好ましくは10kGy以上であり、そして、省エネルギー性の観点から、好ましくは100kGy以下、より好ましくは75kGy以下、更に好ましくは50kGy以下である。
多層容器の内部から電子線を照射する方法及び装置としては特に限定されず、例えば、特開2018-072076号公報、特開2013-129453号公報等が参照される。
【0098】
多層プリフォームのポリアミド層の水分率(Wp)は、好ましくは0.005~1質量%である。ここで、Wpは、以下の工程2の二軸延伸ブロー成形を行う直前における値である。Wpの上限値は、より好ましくは0.7質量%、更に好ましくは0.5質量%、より更に好ましくは0.3質量%である。上記範囲であると、多層プリフォームから多層容器へのブロー成形が容易であり、ブロー工程中でのポリアミド層の結晶化を抑制し、耐層間剥離性が良好となるため好ましい。また、多層容器の水分率が低くなるため好ましい。さらに吸湿によるポリアミド層の白化を防止できるので好ましい。
なお、本明細書におけるWpは、多層プリフォームを丁寧に解体してポリアミド層のみを取り出し、水分測定装置(平沼産業(株)製「AQ-2000」)を用い、カールフィッシャー法により水分率を測定した値である。測定温度は235℃、測定時間は30分である。
Wpを上記範囲内に保つために、多層プリフォームを多層ボトルにブロー成形するまで、JIS K7129で規定される水蒸気透過度が好ましくは20g/m2・day以下、より好ましくは10g/m2・day以下、更に好ましくは5g/m2・day以下、特に好ましくは2.5g/m2・day以下のフィルムからなる袋に保存するのが好ましい。Wpが上記範囲内に保たれる限り保存期間は特に限定されないが、実際の多層ボトル製造においては通常365日間まで保存される。
【0099】
(工程2)
本発明の多層容器の製造方法は、工程1で得られた多層プリフォームを二軸延伸ブロー成形する工程を含む。二軸延伸ブロー成形は、下記(1)~(5)の条件を満たす方法で行われる。
(1)多層プリフォームの表面を80~120℃に加熱した後、
(2)金型内で多層プリフォームをロッドで縦方向に延伸しつつ、多段階に圧力を変えて高圧空気をブローし、
(3)多段階に高圧空気をブローする際の一段階目の圧力(一次ブロー圧力)が、0.3~2.0MPaであり、
(4)一次ブロー遅延時間が0.1~0.5秒であり、
(5)横方向(TD)の延伸倍率が2.2倍以上であり、かつ、横方向(TD)の延伸倍率に対する縦方向(MD)の延伸倍率(MD/TD)が0.6以上1.0未満である。
【0100】
具体的には、まず、多層プリフォームの表面を80~120℃に加熱する(条件(1))。多層プリフォーム表面の加熱温度は、好ましくは90~110℃、より好ましくは95~108℃である。加熱温度が上記範囲であると、ブロー成形性が良好である。また、ポリアミド層又はポリエステル層が冷延伸され白化することが無く、あるいはポリアミド層が結晶化し白化することが無く、耐層間剥離性能も良好となる。なお、表面温度の測定は、赤外放射温度計を使用し、通常0.95の放射率で測定できる。
加熱は、赤外線ヒータ等で行われる。通常、数本以上のヒータで加熱するが、ヒータの出力バランスも重要である。ヒータ出力バランス、プリフォーム加熱温度、加熱時間は外気温やプリフォーム温度に応じて適切に決められる。
【0101】
二軸延伸ブロー成形する工程では、次いで、加熱されたプリフォームに、二軸延伸ブロー成形を行う。すなわち、加熱されたプリフォームを金型に設置し、金型内で多層プリフォームをロッドで縦方向に延伸しつつ、多段階に(少なくとも二段階に)圧力を変えて高圧空気をブローする(条件(2))。圧力を変えて多段階にブローすることで、多層プリフォームから多層容器への賦形性が良好となり、耐層間剥離性が良好となる。
【0102】
多段階ブローの一段階目の圧力(一次ブロー圧力)は、0.3~2.0MPaであり(条件(3))、好ましくは0.4~1.8MPa、より好ましくは0.5~1.5MPaである。特に本発明の多層容器の容量が200~350mLである場合、一次ブロー圧力は、好ましくは0.35~0.85MPa、より好ましくは0.4~0.7MPa、更に好ましくは0.4~0.65MPaである。一段階目の圧力を前記の範囲とすることで、多層プリフォームから多層容器への賦形性が良好となり、耐層間剥離性が良好となる。
【0103】
多段階ブローの最終段階の圧力(二次ブロー圧力)は、2.0~4.0MPaであることが好ましく、より好ましくは2.2~3.8MPa、更に好ましくは2.4~3.6MPaである。最終段階の圧力を前記の範囲とすることで、多層プリフォームから多層容器への賦形性が良好となり、耐層間剥離性が良好となる。
【0104】
前記多層プリフォームをロッドで延伸を始めてから一段階目のブローを開始するまでの時間(一次ブロー遅延時間)は、0.1~0.5秒であり(条件(4))、好ましくは0.12~0.45秒、より好ましくは0.15~0.40秒である。特に本発明の多層容器の容量が200~350mLである場合、一次ブロー遅延時間は、好ましくは0.12~0.25秒、より好ましくは0.15~0.20秒である。前記の範囲とすることで、多層プリフォームから多層容器への賦形性が良好となり、耐層間剥離性が良好となる。
【0105】
二軸延伸ブロー成形における延伸倍率は、横方向(TD)の延伸倍率が2.2倍以上であり、かつ、横方向(TD)の延伸倍率に対する縦方向(MD)の延伸倍率(MD/TD)が0.6以上1.0未満である(条件(5))。当該範囲で延伸することで、酸素バリア性及び耐層間剥離性に優れた多層容器を得ることができる。
【0106】
横方向(TD)の延伸倍率は、酸素バリア性及び耐層間剥離性を向上させる観点から、2.2倍以上であり、好ましくは3.0倍以上、より好ましくは3.3倍以上である。本発明の多層容器の容量が200~350mLである場合、本発明の多層容器における横方向(TD)の延伸倍率は、好ましくは2.3倍以上、より好ましくは2.6倍以上、更に好ましくは2.8倍以上、更に好ましくは3.0倍以上である。
本発明の多層容器における縦方向(MD)の延伸倍率は、酸素バリア性及び耐層間剥離性を向上させる観点から、好ましくは1.5~4.0倍、より好ましくは2.0~3.0倍、更に好ましくは2.1~2.5倍 である。
【0107】
横方向(TD)の延伸倍率に対する縦方向(MD)の延伸倍率(MD/TD)は、酸素バリア性及び耐層間剥離性を向上させる観点から、0.6以上1.0未満であり、好ましくは0.65以上0.95以下、より好ましくは0.68以上0.90以下、更に好ましくは0.68以上0.80以下、より更に好ましくは0.68以上0.75以下、より好ましくは0.68以上0.72以下である。
【実施例】
【0108】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に制限されるものではない。
【0109】
実施例、比較例で使用した熱可塑性ポリエステル樹脂(X)及びポリアミド樹脂(Y-1)は以下の通りである。
<熱可塑性ポリエステル樹脂(X)>
・PET(ポリエステル樹脂):ポリエチレンテレフタレート(固有粘度:0.83dL/g)、商品名:「BK2180」、三菱ケミカル株式会社製(融点248℃)
<ポリアミド樹脂(Y-1)>
・MXD6(ポリアミド樹脂):ポリ(メタキシリレンアジパミド)(相対粘度:2.7、融点=240±5℃)、商品名:「MXナイロン S6007」、三菱ガス化学株式会社製
【0110】
[測定・評価方法]
<ポリアミド層の位置及び厚み>
実施例及び比較例で作製したボトルにおけるポリアミド層の位置及び厚みは、次のようにして測定した。
ボトル底部から70mmの位置において、ボトルの水平方向の4方向(0°、90°、180°、270°)で、1.5cm×1.5cmのサンプルをカッターでを切り出し、マイクロメーター(株式会社ミツトヨ製「クイックマイクロMDQ」)を用いて総厚みを測定し、光の干渉を利用した膜厚計(グンゼ株式会社製「DC-8200」)を用いて、各層厚みの比率を測定して、得られた総厚みと各層厚みの比率からポリアミド層の位置及び、厚みを算出した。
【0111】
<各層の同定方法>
各層の同定は、下記のIR測定、及び1H-NMR測定により可能である。
(IR測定)
各層のサンプルを2cm×2cm角に切り出し、以下の装置を用いてIR測定を実施する。
装置:Spectrum100、パーキンエルマージャパン社製
(1H-NMR)
各層のサンプルを取り出し、重トリフルオロ酢酸溶媒に、1mg/mLの濃度になるように溶解させて、1H-NMRを実施する。
装置:AVANCE III-500、AscendTM 500、BRUKER社製
【0112】
<容器の酸素バリア性>
容器の酸素バリア性は、以下の方法により評価した。
ASTM D3985に準じて、MOCON法による酸素透過度試験を行った。測定にはMOCON社製OX-TRAN2/61を使用した。各実施例及び比較例で得られた各ボトルに各容量の1/5の水を充填し、酸素分圧0.21atmの条件下で温度23℃、ボトル内部湿度100%RH、外部湿度50%RHにて、ボトル内部に1atmの窒素を20mL/minで流通し、クーロメトリックセンサーにてボトル内部を流通後の窒素中に含まれる酸素を検出することで測定した。
測定開始から3日経過後の酸素透過量値により判断した。
容量が200mL以上350mL以下であるボトルについての評価基準は、以下の通りである。
A:0.008mL/(bottle・day・0.21atm)以下
B:0.008mL/(bottle・day・0.21atm)を超え、0.015mL/(bottle・day・0.21atm)以下
C:0.015mL/(bottle・day・0.21atm)を超える
また、容量が350mLより大きく500mL以下であるボトルについての評価基準は、以下の通りである。
A:0.015mL/(bottle・day・0.21atm)以下
B:0.015mL/(bottle・day・0.21atm)を超え、0.020mL/(bottle・day・0.21atm)以下
C:0.020mL/(bottle・day・0.21atm)を超える
【0113】
<耐層間剥離性>
得られた多層ボトルに各ボトルの容量分の炭酸水を入れ、23℃、50%RHの環境で1週間保管したボトルに、サイドインパクト試験機(振り子の先に3kgの錘が付いており、ボトルに対して90°の位置から振り子を下ろし、ボトルの胴部に衝撃性を与える装置)を用いて、1週間保管後の炭酸水が入ったボトル胴部に繰り返し衝撃を与えた。ポリエステル層とポリアミド層が剥離していないボトルを合格とし、ポリエステル層とポリアミド層が剥離するまでの試験回数によって耐層間剥離性を評価した。ポリエステル層とポリアミド層が剥離するまでの試験回数が28回未満のものをC、28回以上40回未満のものをB、40回以上のものをAとした。剥離するまでの試験回数が多いものほど、耐層間剥離性に優れる。
【0114】
<耐層間剥離性向上率>
前記のようにして測定した耐層間剥離性について、各容量のボトルにおける比較例(延伸倍率比(MD/TD)が1.04~1.07)を基準として、延伸倍率(MD/TD)を変化させた場合の耐層間剥離性の変化率(向上率)を算出した。具体的には、500mL容量ボトルの場合、実施例1~3のボトルを用いて測定した「剥離するまでの試験回数」(前記<耐層間剥離性>に記載)を、比較例1のボトルを用いて同様に測定した試験回数で除して算出した。同様の評価を、345mL容量ボトルの場合、実施例4及び5のボトルを用いて測定した試験回数を、比較例2のボトルを用いて測定した試験回数で除して算出し、更に実施例6及び7のボトルを用いて測定した試験回数を、比較例3のボトルを用いて測定した試験回数で除して算出し、200mL容量ボトルの場合、実施例8~10のボトルを用いて測定した試験回数を、比較例4のボトルを用いて測定した試験回数で除して算出し、実施例11及び12のボトルを用いて測定した試験回数を、比較例5のボトルを用いて測定した試験回数で除して算出した。
耐層間剥離性向上率の数値が大きいものが、耐層間剥離性に与える効果が高い延伸倍率比であることがわかる。
【0115】
実施例1~12及び比較例1~5
<プリフォームの製造>
各溶融樹脂の金型への射出量の調整が可能なバルブシステム機構を有する射出成形機、及び多層ホットランナー金型を使用して、以下に示した条件で、ポリエステル層/ポリアミド層/ポリエステル層からなる3層構造を有するプリフォームを製造した。
具体的には、実施例1では、総厚みを100%としたときに、内表面(内側)からポリエステル層(内層)45%/ポリアミド層(バリア層)10%/ポリエステル層(外層)45%となるように各樹脂の射出量を調整して射出して、キャビティーを満たすことにより、ポリエステル層/ポリアミド層/ポリエステル層の3層構造を有するプリフォームを得た。プリフォームの形状は、表1に記載のとおりである。
また、実施例2~12及び比較例1~5についても、それぞれポリアミド層の内層からの開始位置と、ポリアミド層の厚さが所望の値となるように、ポリエステル樹脂及びポリアミド樹脂の射出量を調整して、射出成形を行った。
スキン側射出シリンダー温度:285℃
コア側射出シリンダー温度:265℃
金型内樹脂流路温度:290℃
金型冷却水温度:15℃
サイクルタイム:33秒
プリフォーム中の中間層を構成するポリアミド樹脂の割合:5質量%
【0116】
<多層ボトルの製造>
上記の製造方法にて作製したプリフォームを用いて、ボトルを成形した。
具体的には、得られたプリフォームを、二軸延伸ブロー成形装置(株式会社フロンティア製、型式EFB1000ET)により二軸延伸ブロー成形してペタロイド型ボトルを得た。ボトルの寸法及び容量は表1に記載のとおりであり、底部はペタロイド形状である。胴部にディンプルは設けなかった。500mL容量ボトルの胴部平均厚みは0.35mm、345mL容量ボトルの胴部平均厚みは0.37mm、200mL容量ボトルの胴部平均厚みは0.20mmであった。二軸延伸ブロー成形条件は、表1及び以下に示した通りである。得られたボトルの総質量に対するポリアミド層の割合は5質量%であった。なお、得られた多層ボトルの首部付近、及び底部は、ポリエステル層のみから形成されていた。
二次ブロー圧力:2.5MPa
一次ブロー時間:0.30sec
二次ブロー時間:2.0sec
ブロー排気時間:0.6sec
金型温度:30℃
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
表1の結果から明らかなように、本発明によれば、酸素バリア性を向上させつつ、耐層間剥離性に優れた多層容器及びその製造方法を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明によれば、酸素バリア性を向上させつつ、耐層間剥離性に優れた多層容器が得られる。
本発明の多層容器は、特に、酸素存在下で劣化を起こしやすい飲料や炭酸飲料、例えば、ビール、ワイン、コーヒー、コーヒー飲料、フルーツジュース、炭酸ソフトドリンク、炭酸水、茶類等を収容する容器として好適に使用できる。