IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友ベークライト株式会社の特許一覧

特許7420094生体用電極、生体センサーおよび生体信号測定システム
<>
  • 特許-生体用電極、生体センサーおよび生体信号測定システム 図1
  • 特許-生体用電極、生体センサーおよび生体信号測定システム 図2
  • 特許-生体用電極、生体センサーおよび生体信号測定システム 図3
  • 特許-生体用電極、生体センサーおよび生体信号測定システム 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】生体用電極、生体センサーおよび生体信号測定システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/263 20210101AFI20240116BHJP
   A61B 5/256 20210101ALI20240116BHJP
【FI】
A61B5/263
A61B5/256 100
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021016395
(22)【出願日】2021-02-04
(62)【分割の表示】P 2020506363の分割
【原出願日】2019-10-03
(65)【公開番号】P2021074591
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-07-22
(31)【優先権主張番号】P 2018211725
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】北添 雄眞
(72)【発明者】
【氏名】八木澤 隆
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 毅
(72)【発明者】
【氏名】植野 真臣
(72)【発明者】
【氏名】原田 拓弥
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0143554(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0051960(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0245451(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の生体電位を検出するためのみに用いる、生体用電極であって、
板状支持部と、
前記板状支持部の一面に設けられた弾性柱状部と、
前記弾性柱状部の先端を覆うように形成された導電性樹脂層と、
前記導電性樹脂層と電気的に接続するとともに、先端側から基端側に向かって前記弾性柱状部の内部に配置された導電線と、
を備え、
前記弾性柱状部が、導電性フィラーを含有せず、かつシリコーンゴムを含む、絶縁性弾性部材で構成されており、
前記導電線の引張破断伸度が、1%以上50%以下である、
生体用電極。
【請求項2】
請求項1に記載の生体用電極であって、
前記導電線が、導電繊維で構成される、生体用電極。
【請求項3】
請求項2に記載の生体用電極であって、
前記導電線が、線状の前記導電繊維を複数本撚り合わせた撚糸で構成される、生体用電極。
【請求項4】
請求項2または3に記載の生体用電極であって、
前記導電繊維が、金属繊維、金属被覆繊維、炭素繊維、導電性ポリマー繊維、導電性ポリマー被覆繊維、および導電ペースト被覆繊維からなる群から選択される一種以上を含む、生体用電極。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の生体用電極であって、
前記導電性樹脂層は、前記弾性柱状部の全体の長さをLとしたとき、前記弾性柱状部の先端から8/10L以下の領域に形成されている、生体用電極。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の生体用電極であって、
前記導電性樹脂層が、導電性フィラーとシリコーンゴムを含む、生体用電極。
【請求項7】
請求項に記載の生体用電極であって、
前記導電性フィラーの含有量は、前記シリコーンゴム100質量%に対して、30質量%以上90質量%以下である、生体用電極。
【請求項8】
請求項またはに記載の生体用電極であって、
前記導電性フィラーが、金属粒子、銀・塩化銀粒子、金属繊維、金属被覆繊維、カーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、炭素繊維、カーボンナノチューブ、導電性ポリマー、導電性ポリマー被覆繊維および金属ナノワイヤーからなる群から選択される一種以上を含む、生体用電極。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の生体用電極であって、
前記導電性樹脂層の膜厚が、5μm以上200μm以下である、生体用電極。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の生体用電極であって、
脳波測定用電極に用いる、生体用電極。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の生体用電極を備える、生体センサー。
【請求項12】
請求項11に記載の生体センサーを備える、生体信号測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体用電極、生体センサーおよび生体信号測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
これまで生体用電極において様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、脳波測定電極において、突出部の先端に設けられ、脳波の測定時に頭皮に接触する接触部が金属からなることが記載されている(特許文献1の請求項1、図2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-111361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載の生体用電極において、装着安定性および測定安定性の点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、突出部(柱状部)の先端が金属からなる金属部で構成された生体用電極を検討した。その結果、先端が測定対象に接触したとき、対象者に痛みや違和感を与えることがあること、また、金属部は接触時に殆ど変形しないので、先端の接触面積が増大せず、接触抵抗を低減できない恐れがあることが見出された。
【0006】
これに対して、柱状部の先端が金属部より柔軟性を有する導電性樹脂層で被覆された生体用電極について検討をした。その結果、導電性樹脂層で被覆された先端は、対象者への痛みや違和感を和らげることができること、測定対象への追従性が向上するため、先端の接触面積が増大して、接触抵抗を低減できることが判明した。
【0007】
しかしながら、生体用電極の柱状部において、先端から基端まで導電性樹脂層で覆われた構成を検討してみると、柱状部の変形時による導電性樹脂層の断線や、柱状部の伸び縮み変形による導電性樹脂層の内部抵抗の変動により、ノイズが生じる恐れがあることが分かった。
【0008】
このような知見に基づきさらに鋭意研究したところ、柱状部の先端を導電性樹脂層で覆った上で、この導電性樹脂層と電気的に接続するとともに、先端側から基端側に向かって柱状部の内部に導電線を配置することで、変形による断線やノイズ発生を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明によれば、
板状支持部と、
前記板状支持部の一面に設けられた弾性柱状部と、
前記弾性柱状部の先端を覆うように形成された導電性樹脂層と、
前記導電性樹脂層と電気的に接続するとともに、先端側から基端側に向かって前記弾性柱状部の内部に配置された導電線と、
を備える、生体用電極が提供される。
【0010】
また本発明によれば、上記生体用電極を備える、生体センサーが提供される。
【0011】
また本発明によれば、上記生体センサーを備える、生体信号測定システムが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、装着安定性および測定安定性に優れた生体用電極、それを用いた生体センサーおよび生体信号測定システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0014】
図1】本実施形態の生体用電極の一例の概要を示す模式図である。(a)は斜視図であり、(b)は、(a)のA-A断面図である。
図2】本実施形態の生体用電極の一例の概要を示す模式図である。(a)は斜視図であり、(b)は、(a)のA-A断面図である。
図3】本実施形態に係る導電線の変形例を模式的に示す断面図である。
図4】本実施形態の生体センサーの概要を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施の形態では図示するように前後左右上下の方向を規定して説明する。しかし、これは構成要素の相対関係を簡単に説明するために便宜的に規定するものである。従って、本発明を実施する製品の製造時や使用時の方向を限定するものではない。
尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。
本明細書中、「略」という用語は、特に明示的な説明の無い限りは、製造上の公差やばらつき等を考慮した範囲を含むことを表す。「~」は、特に明示しない限り、上限値と下限値を含むことを表す。
【0016】
本実施形態の生体用電極について概説する。
生体用電極は、板状支持部と、板状支持部の一面に設けられた弾性柱状部と、弾性柱状部の先端を覆うように形成された導電性樹脂層と、導電性樹脂層と電気的に接続するとともに、先端側から基端側に向かって弾性柱状部の内部に配置された導電線と、を備える。
【0017】
本発明者は、次のような知見を得た。
これまで、生体用電極の柱状部の導通を導電性樹脂層のみで実現する構成が検討されてきた。この場合、柱状部の表面を先端から基端まで導電性樹脂層で覆うような構成を採用することが考えられる。
しかしながら、この構成において、測定安定性に改善の余地があることが判明した。
詳細なメカニズムは定かではないが、測定対象に接触した場合、柱状部の変形時によって導電性樹脂層に断線が生じたり、柱状部の伸び縮み変形によって導電性樹脂層の内部抵抗が変動し、ノイズが生じる恐れがあると推察される。
【0018】
これに対して、生体用電極の柱状部の導通を、表面に形成された導電性樹脂層のみではなく、導電性樹脂層および導電線の両者で実現する構成を検討した。この導電線は、柱状部の先端側から基端側に向かってその内部に配置されるもので、先端側の導電性樹脂層と電気的に接続できる。
【0019】
生体用電極の複数の柱状部が測定対象に接触すると、柱状部は外側に広がるように弾性変形する。すなわち、柱状部の外側が縮み方向に、内側が引張り方向に変形する。このとき、柱状部の表面における変形と比べ、その内部の変形や変形歪みは比較的小さくなる。
したがって、検討の結果、柱状部の内部に配置された導電線は、柱状部の表面に形成された導電性樹脂層と比べて破断されにくくなり、また、変形による内部抵抗の変動も低減されることが分かった。
したがって、導電性樹脂層および導電線の両者を採用する本実施形態の生体用電極は、導電性樹脂層単独を採用する構成と比べて、柱状部の変形による断線やノイズ発生を抑制できるため、測定安定性を向上できることが見出された。
【0020】
本発明者が検討した結果、生体用電極の柱状部の先端に、金属、黒鉛、あるいはメッキ被膜またはカーボン被膜されたセラミックを用いた場合、先端部が硬く構成されるため、鉄球を先端に設けたときと同様に、対象者に痛みや違和感を与えることが予測される。
【0021】
また、生体用電極の柱状部の先端に形成された導電性樹脂層は、金属からなる金属部と比較して柔軟性に優れており、また、測定対象への追従性も高く構成される。このため、本実施形態の生体用電極は、装着安定性および測定安定性に優れた構造を実現できる。
【0022】
本実施形態の生体用電極は、脳波、心拍、筋肉活動、神経システム活動などの生体からの電位変動を検出できる。生体用電極はコネクタや電子部品等をさらに備えて、外部装置と接続できる生体センサーを構成できる。この生体センサーはウェアラブル可能である。生体センサーから検出された脳波などの生体電位を解析することにより、様々な用途に応じた生体信号測定システムを構築できる。
【0023】
以下、本実施形態の生体用電極の構成について詳述する。
【0024】
図1は、本実施形態の生体用電極100の概要を示す模式図で、(a)は斜視図であり、(b)は、(a)のA-A断面図である。
【0025】
生体用電極100の一例は、図1に示ように、板状支持部10、柱状部20(弾性柱状部)および導電性樹脂層30を備える。
板状支持部10は、絶縁性弾性部材で構成されており、その一面12に1または2以上の柱状部20を有してもよい。柱状部20は、絶縁性弾性部材で構成されている。導電性樹脂層30は、導電性弾性部材で構成されており、柱状部20の少なくとも先端22(先端部26の一部)の表面を覆うように形成されてもよい。導電線60は、柱状部20の内部に、導電性樹脂層30と導通するように配置されている。
【0026】
生体用電極100の先端部26が測定対象に接触したとき、導電性樹脂層30および導電線60を介して、柱状部20で検出した生体電気信号を、板状支持部10に設けられたコネクタ(外部接続部110)に伝送され得る。そして、コネクタを介して、生体用電極100が検出した生体電気信号が外部に伝送される。
【0027】
導電線60は、公知のものを使用することができるが、例えば、導電繊維で構成され得る。
導電繊維としては、金属繊維、金属被覆繊維、炭素繊維、導電性ポリマー繊維、導電性ポリマー被覆繊維、および導電ペースト被覆繊維からなる群から選択される一種以上を用いることができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
上記金属繊維、金属被覆繊維、の金属材料は、導電性を有するものであれば限定されないが、銅、銀、金、ニッケル、錫、鉛、亜鉛、ビスマス、アンチモン、ステンレス、アルミニウム、およびこれらの合金等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、導通性の観点から、銀を用いることができる。また、金属材料は、クロム等の環境に負荷を与える金属を含まないことが好ましい。
【0029】
上記金属被覆繊維、導電性ポリマー被覆繊維、導電ペースト被覆繊維の繊維材料は、特に限定されないが、合成繊維、半合成繊維、天然繊維のいずれでもよい。これらの中でも、ポリエステル、ナイロン、ポリウレタン、絹および綿等を用いることが好ましい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
上記炭素繊維は、例えば、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。
【0031】
上記導電性ポリマー繊維および導電性ポリマー被覆繊維の導電性ポリマー材料は、例えば、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリフェニレンビニレン、ポリナフタレン、及びこれらの誘導体等の導電性高分子およびバインダ樹脂の混合物、あるいは、PEDOT-PSS((3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリ(スチレンスルホン酸))等の導電性高分子の水溶液が用いられる。
【0032】
上記導電ペースト被覆繊維の導電ペーストに含まれる樹脂材料は特に限定されないが伸縮性を有することが好ましく、例えばシリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム、アクリルゴム、スチレンゴム、クロロプレンゴム、およびエチレンプロピレンゴムからなる群から選択される一種以上を含むことができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
上記導電ペースト被覆繊維の導電ペーストに含まれる導電性フィラーは特に限定されないが、公知の導電材料を用いてもよいが、金属粒子、金属繊維、金属被覆繊維、カーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、炭素繊維、カーボンナノチューブ、導電性ポリマー、導電性ポリマー被覆繊維および金属ナノワイヤーからなる群から選択される一種以上を含むことができる。
【0034】
上記導電性フィラーを構成する金属は、特に限定はされないが、例えば、銅、銀、金、ニッケル、錫、鉛、亜鉛、ビスマス、アンチモン、或いはこれらの合金のうち少なくとも一種類、あるいは、これらのうちの二種以上を含むことができる。この中でも、導電性の高さや入手容易性の高さから、銀または銅が好ましい。
【0035】
上記導電線60が、線状の導電繊維を複数本撚り合わせた撚糸で構成されてもよい。これにより、変形時における導電線60の断線を抑制できる。
【0036】
本明細書において、導電繊維における被覆とは、単に繊維材料の外表面を覆うことのみならず、単繊維を撚り合わせた撚糸などの場合は、その撚糸の中の繊維間隙に金属、導電性ポリマー、または導電ペーストが含浸し、撚糸を構成する単繊維を1本毎に被覆するものを含む。
【0037】
上記導電線60の引張破断伸度は、例えば、1%以上~50%以下、好ましくは1.5%以上~45%である。このような数値範囲内とすることで、変形時の破断を抑制しつつも、柱状部20の過度な変形を抑制できる。
【0038】
上記導電線60は、柱状部20の内部を導通する態様であれば各種の配置構造を採用し得る。導電線60の配置構造の一例を、図3(a)~(f)に示す。
導電線60の先端は、柱状部20の先端22あるいは傾斜面28に対して、突出した構造(図3(a)、(d)、(e))、略同一面上となる構造(図3(b))、埋没した構造(図3(c))のいずれでもよい。導電性樹脂層30との接続安定性の観点から、突出した構造を採用することができる。
導電線60の先端の突出部分は、一部または全体が導電性樹脂層30で覆われている。
【0039】
導電線60の先端の吐出構造は、折り返し無し(図3(a))、折り返し有り(図3(d))、柱状部20の先端部の表面に巻き付ける構造(図3(e))が採用し得る。また、導電線60は、柱状部20の中心軸を通過せず、中心軸に対して傾斜してもよい(図3(f))。
【0040】
導電線60の先端と反対側の他端は、板状支持部10の他面14に接続されるコネクタと電気的に導通を図ることができればどのような構成とされていてもよい。例えば、導電線60の他端は、柱状部20の基端部24を通過し、さらに板状支持部10の一面12、側面あるは、他面14側まで延在していてもよい。導電線60の他端は、他面14に設けられた導電性樹脂層30を介してコネクタと電気的に接続してもよい。
【0041】
導電性樹脂層30は、柱状部20の少なくとも先端22の表面を覆うように構成されてもよく、柱状部20の先端22から先端部26まで、先端22から基端部24の途中まで覆うように構成されてもよい。すなわち、柱状部20の表面全体を覆わないように構成すればよい。
この導電性樹脂層30は、先端22を覆う部分と離間して、板状支持部10の一面12や他面14を覆うように構成されてもよい。
【0042】
導電性樹脂層30は、柱状部20の全体の長さ(先端22から基端部24までの距離)をLとしたとき、柱状部20の先端22から、例えば、8/10L以下、好ましくは7/10L以下、より好ましくは6/10L以下の領域に形成されてもよい。これにより、コストを削減することができる。
一方、導電性樹脂層30は、柱状部20の全体の長さをLとしたとき、柱状部20の先端22から例えば、1/10L以上、好ましくは2/10L以上、より好ましくは3/10L以上の領域に形成されてもよい。これにより、導電線60との接続安定性を高めることができる。また柱状部20の先端部にある程度の面積を有する導電性樹脂層30を形成することで、接触抵抗を低減できる。
【0043】
板状支持部10の上面視形状は、例えば、楕円や正円などの略円形でもよく、正方形、長方形、五角形、六角形などの略多角形でもよい。多角形の角部に丸み(アール)が付与されてもよい。
ここで、上面視とは、柱状部20の先端22から板状支持部10に向かって見たときの上面方向から観察することを意味する。
【0044】
板状支持部10の一面12は、平面で構成されてもよいが、一部または全体に湾曲面を有してもよい。
ここで、一面12とは、柱状部20の側面と板状支持部10とが接する接点を少なくとも3点通過する面で構成されてもよい。また、板状支持部10と柱状部20との間は、そこに界面が存在せず、シームレスに構成されていてもよい。
【0045】
板状支持部10の他面14は、コネクタと接続可能な構造を有し得る。例えば、一面12とは反対側の他面14には、コネクタと電気的に接続可能な電極が、一部を露出した状態で埋設されてもよい。
また、他面14の少なくとも一部または全体が導電性弾性部材で覆われていてもよい。このとき、板状支持部10の側面は導電性弾性部材で覆われていなくてもよい。
【0046】
板状支持部10は、柱状部20と一体部材で構成されてもよい。すなわち、板状支持部10は、柱状部20と同じ樹脂材料で一体化して構成され得る。例えば、後述のシリコーンゴム系硬化性組成物等の硬化性エラストマー組成物を金型成形することで、板状支持部10と複数の柱状部20とをシームレスで結合した成形体が得られる。これにより、柔軟性と強度に優れた弾性成形体を実現できる。
【0047】
板状支持部10及び柱状部20のそれぞれは、絶縁性弾性部材の一つとして、導電性フィラーを含有せずに、シリコーンゴムを含む絶縁性シリコーンゴム(ゴム成形体)で構成され得る。
【0048】
柱状部20の一または二以上が、板状支持部10の一面12から突出するように設けられていてもよい。
柱状部20の上面視形状は、楕円や正円などの略円形でもよく、正方形、長方形、五角形、六角形などの略多角形でもよい。
【0049】
複数の柱状部20は、板状支持部10の一面12の中心部分50を囲むように配置されることが好ましい。言い換えると、複数の柱状部20は、板状支持部10の外周縁に沿って配置される。これにより、柱状部20の生体への追従性を高めることができる。
ここで、中心部分50は、一面12の垂線方向から見たときの、一面12の重心位置を含む領域としてもよい。また、一面12の重心位置から一面12の周縁までの最短距離をDminとしたとき、中心部分50は、重心位置から2/10Dmin以下、好ましくは1/10Dmin以下の範囲内としてもよい。
【0050】
複数の柱状部20は、板状支持部10の一面12の上面視形状が略円形の場合、一面12上に略円状または略楕円状となるように配置されてもよい。このような柱状部20は、中心部分50の周囲に、1個または2個以上の同心円を構成するように配置されていてもよい。これにより、測定対象に接触したときに、柱状部20の先端部26が半径方向に向かって略均等に広がるため、測定安定性を高めることができる。
なお、板状支持部10の中心部分50は、同じ円周上に存在する複数の柱状部20の先端22から、ほぼ等距離に位置する部分とすることができる。
【0051】
柱状部20は、板状支持部10の一面12の垂直方向に対して、その中心が偏心した構造を有していてもよい。製造安定性の観点から、偏心構造の柱状部20の中心軸は、板状支持部10の中心部分50から外側に向かって傾く構成が好ましい。
【0052】
柱状部20の中心軸の傾きとは、中心部分50を基準として各柱状部20の内側から外側に向かって、中心部分50および柱状部20の中心部分を通過する断面視において、柱状部20の中心軸と板状支持部10の一面12(表面)とがなす外側の角度(鋭角)を意味する。
柱状部20の中心軸の傾きは、例えば、45度~90度、好ましくは50度~88度、より好ましくは60度~85度である。このような数値範囲内とすることにより、金型からの脱型性を高めることができる。
【0053】
複数の柱状部20の先端部26は、図1(b)に示すように、各柱状部20の内側から外側を通過する方向、例えば、半径方向の断面視において、内側よりも外側の柱状部20の高さが高くなるように構成される傾斜面28を有することができる。各柱状部20の傾斜面28は、板状支持部10の中心部分50に向くように構成され得る。この傾斜面28は、柱状部20と測定対象とが接触するときに、測定対象の測定面に追従できるため、接触面積のバラツキを抑制できる。
【0054】
先端部26を有する柱状部20は、略円錐台状または略角錐台状に構成され得る。この中でも測定安定性の観点から、略円錐台状が好ましい。錐台状の柱状部20は、板状支持部10との接続部分(基端部24)側から先端22側に向かって小径となるように構成される。このため、金型成形における製造安定性を高められる。また、押当方向に見たときに、柱状部20の内側側面が、内側から外側に向かって広がるようなテーパー形状を有するため、柱状部20の変形バラツキを一層抑制できる。
【0055】
傾斜面28の上面視形状は、例えば、略楕円形状とし得る。この略楕円形状は、柱状部20が配置される略円周の半径方向に長軸を有する。測定面に対する追従性を高めることができる。
【0056】
傾斜面28の傾斜角θは、図1(b)に示すように、各柱状部20の内側から外側を通過する断面視において、柱状部20の外側側面と傾斜面28とがなす角度を意味する。
傾斜面28の傾斜角θは、例えば、10~89度、好ましくは15度~80度、より好ましくは20度~60度、さらに好ましくは25度~50度である。上記下限値以上とすることにより、測定面に対する追従性を高めることができる。上記上限値以下とすることにより、変形状態のバラツキを抑制できる。
【0057】
柱状部20は、図2(b)に示すように、上記の傾斜面28を有しない構成としてもよい。傾斜面28を有しない柱状部20は、略円柱状、略角柱状、略円錐状、略角錐状、略円錐台状または略角錐台状に構成され得る。この中でも、製造安定性の観点から、錐状または錐台状等のテーパー形状を有する構造が好ましく、測定安定性の観点から、略円錐台状が好ましい。錐台状の柱状部20は、板状支持部10の接続部分(基端部24)側から先端22側に向かって小径となるように構成される。先端22の上面視形状は、例えば、略円形でもよく略多角形でもよい。
【0058】
柱状部20は、中心部分50と柱状部20とを通る断面視において、板状支持部10と接続する基端部24から先端22までの柱状部長さは、基端部24における柱状部幅よりも長く構成され得る。これにより、柱状部20の配置密度を高められる。また柱状部20の変形時に互いに接触することを抑制できる。
【0059】
導電性樹脂層30は、導電性弾性部材の一つとして、導電性フィラーおよびシリコーンゴムを含む導電性シリコーンゴムで構成される。例えば、後述の導電性フィラーを含まない絶縁性シリコーンゴム系硬化性組成物に、導電性フィラーを加えた導電性溶液(導電性シリコーンゴム系硬化性組成物)を、上記の成形体に塗布することにより、導電性樹脂層30を形成できる。板状支持部10や柱状部20を構成するシリコーンゴムと同種のシリコーンゴム材料を用いることで、導電性樹脂層30の密着性を向上できる。
【0060】
上記導電性フィラーは、公知の導電材料を用いてもよいが、金属粒子、銀・塩化銀粒子、金属繊維、金属被覆繊維、カーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、炭素繊維、カーボンナノチューブ、導電性ポリマー、導電性ポリマー被覆繊維および金属ナノワイヤーからなる群から選択される一種以上を含むことができる。
【0061】
上記導電性フィラーを構成する金属は、特に限定はされないが、例えば、銅、銀、金、ニッケル、錫、鉛、亜鉛、ビスマス、アンチモン、銀/塩化銀、或いはこれらの合金のうち少なくとも一種類、あるいは、これらのうちの二種以上を含むことができる。この中でも、導電性の高さや入手容易性の高さから、銀または銅が好ましい。
【0062】
上記導電性フィラーの含有量の下限値は、導電性樹脂層30中のシリコーンゴム100質量%に対して、例えば、30質量%以上、好ましくは35質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。これにより、薄膜の場合でも、生体電気信号の伝送性を高めることができる。一方、上記導電性フィラーの含有量の上限値は、導電性樹脂層30中のシリコーンゴム100質量%に対して、例えば、90質量%以下、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。これにより、柱状部20の変形に対する導電性樹脂層30の耐久性を高めることができる。
【0063】
導電性樹脂層30の膜厚の下限値は、例えば、5μm以上、好ましくは8μm以上、より好ましくは10μm以上である。これにより、繰り返し使用時の耐久性を高めることができる。一方、導電性樹脂層30の膜厚の上限値は、例えば、200μm以下、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。これにより、柱状部20の変形容易性を維持することが可能である。柱状部20の断面視において、柱状部20の先端22または側面上の少なくとも一部の導電性樹脂層30の膜厚が上記数値範囲内とすることが好ましい。
【0064】
導電性樹脂層30の膜厚において、柱状部20の先端22表面における膜厚D1が、基端部24側の導電性樹脂層30の膜厚と比べて厚くなるように構成されてもよい。例えば、柱状部20の先端22側の一部を、ペースト状の導電性溶液にディップ(浸漬塗布)を行ってもよい。この厚膜は柱状部20の先端部の周方向全体に設けられていることが好ましい。これにより、導電性樹脂層30の先端部での剥離を抑制し、柱状部20の断線などの破損を抑制できる。このため、生体用電極100の耐久性を向上できる。
【0065】
ここで、上記シリコーンゴム系硬化性組成物について説明する。
上記シリコーンゴムは、シリコーンゴム系硬化性組成物の硬化物で構成することができる。シリコーンゴム系硬化性樹脂組成物の硬化工程は、例えば、100℃~250℃で1分間~30分間加熱(1次硬化)した後、200℃で1時間~4時間ポストベーク(2次硬化)することによって行われる。
【0066】
本実施形態に係るシリコーンゴム系硬化性組成物は、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)を含むことができる。ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)は、本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物の主成分となる重合物である。
【0067】
上記ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)は、直鎖構造を有するビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を含むことができる。
【0068】
上記ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)は、直鎖構造を有し、かつ、ビニル基を含有しており、かかるビニル基が硬化時の架橋点となる。
【0069】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)のビニル基の含有量は、特に限定されないが、例えば、分子内に2個以上のビニル基を有し、かつ15モル%以下であるのが好ましく、0.01~12モル%であるのがより好ましい。これにより、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)中におけるビニル基の量が最適化され、後述する各成分とのネットワークの形成を確実に行うことができる。本実施形態において、「~」は、その両端の数値を含むことを意味する。
【0070】
なお、本明細書中において、ビニル基含有量とは、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を構成する全ユニットを100モル%としたときのビニル基含有シロキサンユニットのモル%である。ただし、ビニル基含有シロキサンユニット1つに対して、ビニル基1つであると考える。
【0071】
また、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)の重合度は、特に限定されないが、例えば、好ましくは1000~10000程度、より好ましくは2000~5000程度の範囲内である。なお、重合度は、例えばクロロホルムを展開溶媒としたGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)におけるポリスチレン換算の数平均重合度(又は数平均分子量)等として求めることができる。
【0072】
さらに、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)の比重は、特に限定されないが、0.9~1.1程度の範囲であるのが好ましい。
【0073】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)として、上記のような範囲内の重合度および比重を有するものを用いることにより、得られるシリコーンゴムの耐熱性、難燃性、化学的安定性等の向上を図ることができる。
【0074】
ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)としては、特に、下記式(1)で表される構造を有するものであるが好ましい。
【0075】
【化1】
【0076】
式(1)中、Rは炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられ、中でも、ビニル基が好ましい。炭素数1~10のアリール基としては、例えば、フェニル基等が挙げられる。
【0077】
また、Rは炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基が挙げられる。炭素数1~10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0078】
また、Rは炭素数1~8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0079】
さらに、式(1)中のRおよびRの置換基としては、例えば、メチル基、ビニル基等が挙げられ、Rの置換基としては、例えば、メチル基等が挙げられる。
【0080】
なお、式(1)中、複数のRは互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。さらに、R、およびRについても同様である。
【0081】
さらに、m、nは、式(1)で表されるビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)を構成する繰り返し単位の数であり、mは0~2000の整数、nは1000~10000の整数である。mは、好ましくは0~1000であり、nは、好ましくは2000~5000である。
【0082】
また、式(1)で表されるビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)の具体的構造としては、例えば下記式(1-1)で表されるものが挙げられる。
【0083】
【化2】
【0084】
式(1-1)中、RおよびRは、それぞれ独立して、メチル基またはビニル基であり、少なくとも一方がビニル基である。
【0085】
さらに、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)としては、ビニル基含有量が分子内に2個以上のビニル基を有し、かつ0.4モル%以下である第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)と、ビニル基含有量が0.5~15モル%である第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)とを含有するものであるのが好ましい。シリコーンゴムの原料である生ゴムとして、一般的なビニル基含有量を有する第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)と、ビニル基含有量が高い第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)とを組み合わせることで、ビニル基を偏在化させることができ、シリコーンゴムの架橋ネットワーク中に、より効果的に架橋密度の疎密を形成することができる。その結果、より効果的にシリコーンゴムの引裂強度を高めることができる。
【0086】
具体的には、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)として、例えば、上記式(1-1)において、Rがビニル基である単位および/またはRがビニル基である単位を、分子内に2個以上有し、かつ0.4モル%以下を含む第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)と、Rがビニル基である単位および/またはRがビニル基である単位を、0.5~15モル%含む第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)とを用いるのが好ましい。
【0087】
また、第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)は、ビニル基含有量が0.01~0.2モル%であるのが好ましい。また、第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)は、ビニル基含有量が、0.8~12モル%であるのが好ましい。
【0088】
さらに、第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)と第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)とを組み合わせて配合する場合、(A1-1)と(A1-2)の比率は特に限定されないが、例えば、重量比で(A1-1):(A1-2)が50:50~95:5であるのが好ましく、80:20~90:10であるのがより好ましい。
【0089】
なお、第1および第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)および(A1-2)は、それぞれ1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0090】
また、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)は、分岐構造を有するビニル基含有分岐状オルガノポリシロキサン(A2)を含んでもよい。
【0091】
<<オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)>>
本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)を含むことができる。
オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)は、直鎖構造を有する直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と分岐構造を有する分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)とに分類され、これらのうちのいずれか一方または双方を含むことができる。
【0092】
直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、直鎖構造を有し、かつ、Siに水素が直接結合した構造(≡Si-H)を有し、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)のビニル基の他、シリコーンゴム系硬化性組成物に配合される成分が有するビニル基とヒドロシリル化反応し、これらの成分を架橋する重合体である。
【0093】
直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)の分子量は特に限定されないが、例えば、重量平均分子量が20000以下であるのが好ましく、1000以上、10000以下であることがより好ましい。
【0094】
なお、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)の重量平均分子量は、例えばクロロホルムを展開溶媒としたGPC(ゲル透過クロマトグラフィー)におけるポリスチレン換算により測定することができる。
【0095】
また、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、通常、ビニル基を有しないものであるのが好ましい。これにより、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)の分子内において架橋反応が進行するのを的確に防止することができる。
【0096】
以上のような直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)としては、例えば、下記式(2)で表される構造を有するものが好ましく用いられる。
【0097】
【化3】
【0098】
式(2)中、Rは炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、これらを組み合わせた炭化水素基、またはヒドリド基である。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられる。炭素数1~10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0099】
また、Rは炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基、これらを組み合わせた炭化水素基、またはヒドリド基である。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~10のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、ブテニル基等が挙げられる。炭素数1~10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0100】
なお、式(2)中、複数のRは互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。Rについても同様である。ただし、複数のRおよびRのうち、少なくとも2つ以上がヒドリド基である。
【0101】
また、Rは炭素数1~8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。複数のRは互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0102】
なお、式(2)中のR,R,Rの置換基としては、例えば、メチル基、ビニル基等が挙げられ、分子内の架橋反応を防止する観点から、メチル基が好ましい。
【0103】
さらに、m、nは、式(2)で表される直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)を構成する繰り返し単位の数であり、mは2~150整数、nは2~150の整数である。好ましくは、mは2~100の整数、nは2~100の整数である。
【0104】
なお、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0105】
分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、分岐構造を有するため、架橋密度が高い領域を形成し、シリコーンゴムの系中の架橋密度の疎密構造形成に大きく寄与する成分である。また、上記直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)同様、Siに水素が直接結合した構造(≡Si-H)を有し、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)のビニル基の他、シリコーンゴム系硬化性組成物に配合される成分のビニル基とヒドロシリル化反応し、これら成分を架橋する重合体である。
【0106】
また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の比重は、0.9~0.95の範囲である。
【0107】
さらに、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、通常、ビニル基を有しないものであるのが好ましい。これにより、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の分子内において架橋反応が進行するのを的確に防止することができる。
【0108】
また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)としては、下記平均組成式(c)で示されるものが好ましい。
【0109】
平均組成式(c)
(H(R3-aSiO1/2(SiO4/2
(式(c)において、Rは一価の有機基、aは1~3の範囲の整数、mはH(R3-aSiO1/2単位の数、nはSiO4/2単位の数である)
【0110】
式(c)において、Rは一価の有機基であり、好ましくは、炭素数1~10の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基である。炭素数1~10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~10のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。
【0111】
式(c)において、aは、ヒドリド基(Siに直接結合する水素原子)の数であり、1~3の範囲の整数、好ましくは1である。
【0112】
また、式(c)において、mはH(R3-aSiO1/2単位の数、nはSiO4/2単位の数である。
【0113】
分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は分岐状構造を有する。直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、その構造が直鎖状か分岐状かという点で異なり、Siの数を1とした時のSiに結合するアルキル基Rの数(R/Si)が、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)では1.8~2.1、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)では0.8~1.7の範囲となる。
【0114】
なお、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、分岐構造を有しているため、例えば、窒素雰囲気下、1000℃まで昇温速度10℃/分で加熱した際の残渣量が5%以上となる。これに対して、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)は、直鎖状であるため、上記条件で加熱した後の残渣量はほぼゼロとなる。
【0115】
また、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の具体例としては、下記式(3)で表される構造を有するものが挙げられる。
【0116】
【化4】
【0117】
式(3)中、Rは炭素数1~8の置換または非置換のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基、もしくは水素原子である。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられ、中でも、メチル基が好ましい。炭素数1~8のアリール基としては、例えば、フェニル基が挙げられる。Rの置換基としては、例えば、メチル基等が挙げられる。
【0118】
なお、式(3)中、複数のRは互いに独立したものであり、互いに異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0119】
また、式(3)中、「-O-Si≡」は、Siが三次元に広がる分岐構造を有することを表している。
【0120】
なお、分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0121】
また、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)において、Siに直接結合する水素原子(ヒドリド基)の量は、それぞれ、特に限定されない。ただし、シリコーンゴム系硬化性組成物において、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)中のビニル基1モルに対し、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)と分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)の合計のヒドリド基量が、0.5~5モルとなる量が好ましく、1~3.5モルとなる量がより好ましい。これにより、直鎖状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B1)および分岐状オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B2)と、ビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1)との間で、架橋ネットワークを確実に形成させることができる。
【0122】
<<シリカ粒子(C)>>
本実施形態に係るシリコーンゴム系硬化性組成物は、必要に応じ、シリカ粒子(C)を含むことができる。これにより、エラストマーの硬さや機械的強度の向上を図ることができる。
【0123】
シリカ粒子(C)としては、特に限定されないが、例えば、ヒュームドシリカ、焼成シリカ、沈降シリカ等が用いられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0124】
シリカ粒子(C)は、例えば、BET法による比表面積が例えば50~400m/gであるのが好ましく、100~400m/gであるのがより好ましい。また、シリカ粒子(C)の平均一次粒径は、例えば1~100nmであるのが好ましく、5~20nm程度であるのがより好ましい。
【0125】
シリカ粒子(C)として、かかる比表面積および平均粒径の範囲内であるものを用いることにより、形成されるシリコーンゴムの硬さや機械的強度の向上、特に引張強度の向上をさせることができる。
【0126】
<<シランカップリング剤(D)>>
本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、シランカップリング剤(D)を含むことができる。
シランカップリング剤(D)は、加水分解性基を有することができる。加水分解基が水により加水分解されて水酸基になり、この水酸基がシリカ粒子(C)表面の水酸基と脱水縮合反応することで、シリカ粒子(C)の表面改質を行うことができる。
【0127】
また、このシランカップリング剤(D)は、疎水性基を有するシランカップリング剤を含むことができる。これにより、シリカ粒子(C)の表面にこの疎水性基が付与されるため、シリコーンゴム系硬化性組成物中ひいてはシリコーンゴム中において、シリカ粒子(C)の凝集力が低下(シラノール基による水素結合による凝集が少なくなる)し、その結果、シリコーンゴム系硬化性組成物中のシリカ粒子(C)の分散性が向上すると推測される。これにより、シリカ粒子(C)とゴムマトリックスとの界面が増加し、シリカ粒子(C)の補強効果が増大する。さらに、ゴムのマトリックス変形の際、マトリックス内でのシリカ粒子(C)の滑り性が向上すると推測される。そして、シリカ粒子(C)の分散性の向上及び滑り性の向上によって、シリカ粒子(C)によるシリコーンゴムの機械的強度(例えば、引張強度や引裂強度など)が向上する。
【0128】
さらに、シランカップリング剤(D)は、ビニル基を有するシランカップリング剤を含むことができる。これにより、シリカ粒子(C)の表面にビニル基が導入される。そのため、シリコーンゴム系硬化性組成物の硬化の際、すなわち、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)が有するビニル基と、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)が有するヒドリド基とがヒドロシリル化反応して、これらによるネットワーク(架橋構造)が形成される際に、シリカ粒子(C)が有するビニル基も、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)が有するヒドリド基とのヒドロシリル化反応に関与するため、ネットワーク中にシリカ粒子(C)も取り込まれるようになる。これにより、形成されるシリコーンゴムの低硬度化および高モジュラス化を図ることができる。
【0129】
シランカップリング剤(D)としては、疎水性基を有するシランカップリング剤およびビニル基を有するシランカップリング剤を併用することができる。
【0130】
シランカップリング剤(D)としては、例えば、下記式(4)で表わされるものが挙げられる。
【0131】
-Si-(X)4-n・・・(4)
上記式(4)中、nは1~3の整数を表わす。Yは、疎水性基、親水性基またはビニル基を有するもののうちのいずれかの官能基を表わし、nが1の時は疎水性基であり、nが2または3の時はその少なくとも1つが疎水性基である。Xは、加水分解性基を表わす。
【0132】
疎水性基は、炭素数1~6のアルキル基、アリール基、またはこれらを組み合わせた炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基等が挙げられ、中でも、特に、メチル基が好ましい。
【0133】
また、親水性基は、例えば、水酸基、スルホン酸基、カルボキシル基またはカルボニル基等が挙げられ、中でも、特に、水酸基が好ましい。なお、親水性基は、官能基として含まれていてもよいが、シランカップリング剤(D)に疎水性を付与するという観点からは含まれていないのが好ましい。
【0134】
さらに、加水分解性基は、メトキシ基、エトキシ基のようなアルコキシ基、クロロ基またはシラザン基等が挙げられ、中でも、シリカ粒子(C)との反応性が高いことから、シラザン基が好ましい。なお、加水分解性基としてシラザン基を有するものは、その構造上の特性から、上記式(4)中の(Y-Si-)の構造を2つ有するものとなる。
【0135】
上記式(4)で表されるシランカップリング剤(D)の具体例は、次の通りである。
上記官能基として疎水性基を有するものとして、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシランのようなアルコキシシラン;メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシランのようなクロロシラン;ヘキサメチルジシラザンが挙げられる。この中でも、ヘキサメチルジシラザン、トリメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン、及びトリメチルエトキシシランからなる群から選択される一種以上を含むトリメチルシリル基を有するシランカップリング剤が好ましい。
【0136】
上記官能基としてビニル基を有するものとして、例えば、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシランのようなアルコキシシラン;ビニルトリクロロシラン、ビニルメチルジクロロシランのようなクロロシラン;ジビニルテトラメチルジシラザンが挙げられる。この中でも、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、ジビニルテトラメチルジシラザン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、及びビニルメチルジメトキシシランからなる群から選択される一種以上を含むビニル基含有オルガノシリル基を有するシランカップリング剤が好ましい。
【0137】
またシランカップリング剤(D)がトリメチルシリル基を有するシランカップリング剤およびビニル基含有オルガノシリル基を有するシランカップリング剤の2種を含む場合、疎水性基を有するものとしてはヘキサメチルジシラザン、ビニル基を有するものとしてはジビニルテトラメチルジシラザンを含むことが好ましい。
【0138】
トリメチルシリル基を有するシランカップリング剤(D1)およびビニル基含有オルガノシリル基を有するシランカップリング剤(D2)を併用する場合、(D1)と(D2)の比率は、特に限定されないが、例えば、重量比で(D1):(D2)が、1:0.001~1:0.35、好ましくは1:0.01~1:0.20、より好ましくは1:0.03~1:0.15である。このような数値範囲とすることにより、所望のシリコーンゴムの物性を得ることができる。具体的には、ゴム中におけるシリカの分散性およびゴムの架橋性のバランスを図ることができる。
【0139】
本実施形態において、シランカップリング剤(D)の含有量の下限値は、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の合計量100重量部に対して、1質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、5質量%以上であることがさらに好ましい。また、シランカップリング剤(D)の含有量上限値は、ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の合計量100重量部に対して、100質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、40質量%以下であることがさらに好ましい。
シランカップリング剤(D)の含有量を上記下限値以上とすることにより、エラストマーを含む柱状部と導電性樹脂層との密着性を高めることができる。また、シリコーンゴムの機械的強度の向上に資することができる。また、シランカップリング剤(D)の含有量を上記上限値以下とすることにより、シリコーンゴムが適度な機械特性を持つことができる。
【0140】
<<白金または白金化合物(E)>>
本実施形態に係るシリコーンゴム系硬化性組成物は、白金または白金化合物(E)を含むことができる。
白金または白金化合物(E)は、硬化の際の触媒として作用する触媒成分である。白金または白金化合物(E)の添加量は触媒量である。
【0141】
白金または白金化合物(E)としては、公知のものを使用することができ、例えば、白金黒、白金をシリカやカーボンブラック等に担持させたもの、塩化白金酸または塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とオレフィンの錯塩、塩化白金酸とビニルシロキサンとの錯塩等が挙げられる。
【0142】
なお、白金または白金化合物(E)は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0143】
本実施形態において、シリコーンゴム系硬化性組成物中における白金または白金化合物(E)の含有量は、触媒量を意味し、適宜設定することができるが、具体的にはビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)、シリカ粒子(C)、シランカップリング剤(D)の合計量100重量部に対して、白金族金属が重量単位で0.01~1000ppmとなる量であり、好ましくは、0.1~500ppmとなる量である。
白金または白金化合物(E)の含有量を上記下限値以上とすることにより、シリコーンゴム系硬化性組成物が適切な速度で硬化することが可能となる。また、白金または白金化合物(E)の含有量を上記上限値以下とすることにより、製造コストの削減に資することができる。
【0144】
<<水(F)>>
また、本実施形態に係るシリコーンゴム系硬化性組成物には、上記成分(A)~(E)以外に、水(F)が含まれていてもよい。
【0145】
水(F)は、シリコーンゴム系硬化性組成物に含まれる各成分を分散させる分散媒として機能するとともに、シリカ粒子(C)とシランカップリング剤(D)との反応に寄与する成分である。そのため、シリコーンゴム中において、シリカ粒子(C)とシランカップリング剤(D)とを、より確実に互いに連結したものとすることができ、全体として均一な特性を発揮することができる。
【0146】
(その他の成分)
さらに、本実施形態のシリコーンゴム系硬化性組成物は、上記(A)~(F)成分以外に、他の成分をさらに含むことができる。この他の成分としては、例えば、珪藻土、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化バリウム、酸化マグネシウム、酸化セリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、ガラスウール、マイカ等のシリカ粒子(C)以外の無機充填材、反応阻害剤、分散剤、顔料、染料、帯電防止剤、酸化防止剤、難燃剤、熱伝導性向上剤等の添加剤が挙げられる。
【0147】
本実施形態に係る導電性溶液は、導電性フィラーを含まない上記シリコーンゴム系硬化性組成物に加えて、上記導電性フィラーおよび溶剤を含むものである。
【0148】
上記溶剤としては、公知の各種溶剤を用いることができるが、例えば、高沸点溶剤を含むことができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0149】
上記溶剤の一例としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、オクタン、デカン、ドデカン、テトラデカンなどの脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、トリフルオロメチルベンゼン、ベンゾトリフルオリドなどの芳香族炭化水素類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、シクロペンチルエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタンなどのハロアルカン類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのカルボン酸アミド類;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド類などを例示することができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0150】
上記導電性溶液は、溶液中の固形分量などを調製することで、スプレー塗布やディップ塗布等の各種の塗布方法に適切な粘度を備えることができる。
【0151】
また、上記導電性溶液が上記導電性フィラーおよび上記シリカ粒子(C)を含む場合、導電性樹脂層30が含むシリカ粒子(C)の含有量の下限値は、シリカ粒子(C)および導電性フィラーの合計量100質量%に対して、例えば、1質量%以上であり、好ましくは3質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上とすることができる。これにより、導電性樹脂層30の機械的強度を向上させることができる。一方で、上記導電性樹脂層30が含むシリカ粒子(C)の含有量の上限値は、シリカ粒子(C)および導電性フィラーの合計量100質量%に対して、例えば、20質量%以下であり、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下である。これにより、導電性樹脂層30における導電性と機械的強度や柔軟性とのバランスを図ることができる。
【0152】
本実施形態の生体用電極100の製造方法の一例は次の工程を含むことができる。
まず、金型を用いて、上記シリコーンゴム系硬化性組成物を加熱加圧成形し、板状支持部10および柱状部20を有する成形体を得る(成形工程)。
【0153】
続いて、導電線60を柱状部20の内部に挿入させる(導電線挿入工程)。例えば、針を使って導電線60を柱状部20の内部に通すことができる。なお、ミシンを使用することで量産可能である。
あるいは、上記成形工程時において、導電線60を配置した成形空間内に、上記シリコーンゴム系硬化性組成物を導入し、加圧加熱成形するインサート成形を用いてもよい。
【0154】
続いて、得られた成形体の柱状部20の先端部を、上記導電性溶液にディップ塗布し、加熱乾燥する(先端被覆工程)。
その後、所定の温度・温度条件でポストキュア(アニール工程)を行う。
以上により、生体用電極100を製造することができる。
【0155】
なお、上記成形工程の後、上記導電線挿入工程の前に、柱状部20の先端部26を所望の形状に切断(カット)し、傾斜面28を形成してもよい。あるいは、カットに代えて、金型成形により、柱状部20の先端部26に傾斜面28を形成してもよい。
【0156】
本実施形態の生体用電極100は、脳、心臓、筋肉、神経等の生体活動から発生する生体電気信号を検知することができる。この生体用電極100は、柔軟性を備えることから、頭皮への装着性に優れるため、脳波測定用電極として好適に用いることができる。
【0157】
生体用電極100を使用した脳波測定用電極は、BMI(Brain Machine Interface)への活用が期待される。
【0158】
また、生体用電極100は、測定部分にジェルの塗布が必要なウエットセンサーではなく、簡便で繰り返し使用が可能なドライセンサーとして使用できる。また、生体用電極100は、バネ付きの金属ピン型のドライセンサーと比較して、対象者(ユーザー)の痛みや違和感を軽減できる柔軟性を有することができる。また、生体用電極100は小型化によりウェアラブルデバイスに搭載可能である。
【0159】
本実施形態の生体センサーについて説明する。
図4は、生体センサー200の一例の概要を示す模式図である。
本実施形態の生体センサー200は、生体用電極100を備えており、生体用電極100に接続した外部接続部110をさらに備えることができる。
【0160】
外部接続部110は、生体用電極100の板状支持部10に取り外し自在に取り付けられていてもよいが、板状支持部10に固定されていてよい。
【0161】
外部接続部110は、耐久性の観点からシリコーンゴムより強固であり、導電性を有する外部電極部を少なくとも備える。外部電極部は、例えば、金属製で構成される。この外部電極部は、生体用電極100で検知した生体電気信号を、外部の電子部品に送ることができる。外部電極部の形状は、特に限定されないが、電子部品と接続可能なコネクタや、配線が取り付け可能に構成される。例えば、外部接続部110は金属製のスナップボタンで構成され、外部の配線や基板の電極とコンタクトピンで電気的に接続される構造を有し得る。
【0162】
生体センサー200は、外部接続部110を介して電気的に接続可能な電子部品をさらに備えてもよい。電子部品としては、各種用途に応じて公知の部品を使用できるが、例えば、増幅器(アンプ)、AD変換器、インピーダンス、CPU、メモリ、通信回路、バッテリー等が挙げられる。これらの1個または2個以上が、回路基板上にモジュール化されていてもよい。これにより、生体センサー200をウェアラブルデバイスとして活用できる。
また、電子部品として、加速センサー、温度センサーなどの他のセンサーを併用してもよい。
【0163】
生体センサー200は、1個または2個以上の複数の生体用電極100を備える。生体センサー200は、ヘッドギアやアームバンドなどの生体への取り付け治具に設置されていてもよい。
【0164】
本実施形態の生体信号測定システムについて説明する。
本実施形態の生体信号測定システムは、生体センサー200を備えるものである。生体信号測定システムは、生体センサー200から受けたデータを、表示、解析または保存するシステム(測定装置)であり得る。
【0165】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、参考形態の例を付記する。
1. 板状支持部と、
前記板状支持部の一面に設けられた弾性柱状部と、
前記弾性柱状部の先端を覆うように形成された導電性樹脂層と、
前記導電性樹脂層と電気的に接続するとともに、先端側から基端側に向かって前記弾性柱状部の内部に配置された導電線と、
を備える、生体用電極。
2. 1.に記載の生体用電極であって、
前記導電線が、導電繊維で構成される、生体用電極。
3. 2.に記載の生体用電極であって、
前記導電線が、線状の導電繊維を複数本撚り合わせた撚糸で構成される、生体用電極。
4. 2.または3.に記載の生体用電極であって、
前記導電繊維が、金属繊維、金属被覆繊維、炭素繊維、導電性ポリマー繊維、導電性ポリマー被覆繊維、および導電ペースト被覆繊維からなる群から選択される一種以上を含む、生体用電極。
5. 1.~4.のいずれか一つに記載の生体用電極であって、
前記導電線の引張破断伸度が、1%以上50%以下である、生体用電極。
6. 1.~5.のいずれか一つに記載の生体用電極であって、
前記導電性樹脂層は、前記弾性柱状部の全体の長さをLとしたとき、前記弾性柱状部の先端から8/10L以下の領域に形成されている、生体用電極。
7. 1.~6.のいずれか一つに記載の生体用電極であって、
前記弾性柱状部が、シリコーンゴムを含む絶縁性弾性部材で構成される、生体用電極。
8. 1.~7.のいずれか一つに記載の生体用電極であって、
前記導電性樹脂層が、導電性フィラーとシリコーンゴムを含む、生体用電極。
9. 8.に記載の生体用電極であって、
前記導電性フィラーの含有量は、前記シリコーンゴム100質量%に対して、30質量%以上90質量%以下である、生体用電極。
10. 8.または9.に記載の生体用電極であって、
前記導電性フィラーが、金属粒子、銀・塩化銀粒子、金属繊維、金属被覆繊維、カーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、炭素繊維、カーボンナノチューブ、導電性ポリマー、導電性ポリマー被覆繊維および金属ナノワイヤーからなる群から選択される一種以上を含む、生体用電極。
11. 1.~10.のいずれか一つに記載の生体用電極であって、
前記導電性樹脂層の膜厚が、5μm以上200μm以下である、生体用電極。
12. 1.~11.のいずれか一つに記載の生体用電極であって、
脳波測定用電極に用いる、生体用電極。
13. 1.~12.のいずれか一つに記載の生体用電極を備える、生体センサー。
14. 13.に記載の生体センサーを備える、生体信号測定システム。
【0166】
以下、参考形態の例を付記する。
1. 板状支持部と、
前記板状支持部の一面から突出した複数の弾性柱状部と、
前記弾性柱状部の先端を覆うように形成された導電性樹脂層と、
前記導電性樹脂層と電気的に接続するとともに、先端側から基端側に向かって前記弾性柱状部の内部に配置された導電線と、
を備える、生体用電極。
2. 1.に記載の生体用電極であって、
前記導電線が、導電繊維で構成される、生体用電極。
3. 2.に記載の生体用電極であって、
前記導電線が、線状の導電繊維を複数本撚り合わせた撚糸で構成される、生体用電極。
4. 2.または3.に記載の生体用電極であって、
前記導電繊維が、金属繊維、金属被覆繊維、炭素繊維、導電性ポリマー繊維、導電性ポリマー被覆繊維、および導電ペースト被覆繊維からなる群から選択される一種以上を含む、生体用電極。
5. 1.~4.のいずれか一つに記載の生体用電極であって、
前記導電線の引張破断伸度が、1%以上50%以下である、生体用電極。
6. 1.~5.のいずれか一つに記載の生体用電極であって、
前記導電性樹脂層は、前記弾性柱状部の全体の長さをLとしたとき、前記弾性柱状部の先端から8/10L以下の領域に形成されている、生体用電極。
7. 1.~6.のいずれか一つに記載の生体用電極であって、
前記弾性柱状部が、シリコーンゴムを含む絶縁性弾性部材で構成される、生体用電極。
8. 1.~7.のいずれか一つに記載の生体用電極であって、
前記導電性樹脂層が、導電性フィラーとシリコーンゴムを含む、生体用電極。
9. 8.に記載の生体用電極であって、
前記導電性フィラーの含有量は、前記シリコーンゴム100質量%に対して、30質量%以上90質量%以下である、生体用電極。
10. 8.または9.に記載の生体用電極であって、
前記導電性フィラーが、金属粒子、金属繊維、金属被覆繊維、カーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、炭素繊維、カーボンナノチューブ、導電性ポリマー、導電性ポリマー被覆繊維および金属ナノワイヤーからなる群から選択される一種以上を含む、生体用電極。
11. 1.~10.のいずれか一つに記載の生体用電極であって、
前記導電性樹脂層の膜厚が、5μm以上200μm以下である、生体用電極。
12. 1.~11.のいずれか一つに記載の生体用電極であって、
脳波測定用電極に用いる、生体用電極。
13. 1.~12.のいずれか一つに記載の生体用電極を備える、生体センサー。
14. 13.に記載の生体センサーを備える、生体信号測定システム。
【実施例
【0167】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0168】
表1に示す原料成分は以下の通りである。
【0169】
(ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A))
(A1-1):第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン:ビニル基含有量は0.13モル%、Mn=227,734、Mw=573,903、IV値(dl/g)=0.89)、下記の合成スキーム1により合成したビニル基含有ジメチルポリシロキサン(上記式(1-1)で表わされる構造)
(A1-2):第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン:ビニル基含有量は0.92モル%、下記の合成スキーム2により合成したビニル基含有ジメチルポリシロキサン(上記式(1-1)で表わされる構造でRおよびRがビニル基である構造)
【0170】
(オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B))
(B):オルガノハイドロジェンポリシロキサン:モメンティブ社製、「TC-25D」
【0171】
(シリカ粒子(C))
(C):シリカ微粒子(粒径7nm、比表面積300m/g)、日本アエロジル社製、「AEROSIL300」
【0172】
(シランカップリング剤(D))
(D-1):ヘキサメチルジシラザン(HMDZ)、Gelest社製、「HEXAMETHYLDISILAZANE(SIH6110.1)」
(D-2):ジビニルテトラメチルジシラザン、Gelest社製、「1,3-DIVINYLTETRAMETHYLDISILAZANE(SID4612.0)」
【0173】
(白金または白金化合物(E))
(E):白金または白金化合物:モメンティブ社製、「TC-25A」
【0174】
(水(F))
(F):純水
【0175】
(金属粉(G))
(G1):銀粉、徳力化学研究所社製、商品名「TC-101」、メジアン径d50:8.0μm、アスペクト比16.4、平均長径4.6μm
【0176】
(ビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)の合成)
[合成スキーム1:第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)の合成]
下記式(5)にしたがって、第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)を合成した。
すなわち、Arガス置換した、冷却管および攪拌翼を有する300mLセパラブルフラスコに、オクタメチルシクロテトラシロキサン74.7g(252mmol)、カリウムシリコネート0.1gを入れ、昇温し、120℃で30分間攪拌した。なお、この際、粘度の上昇が確認できた。
その後、155℃まで昇温し、3時間攪拌を続けた。そして、3時間後、1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン0.1g(0.6mmol)を添加し、さらに、155℃で4時間攪拌した。
さらに、4時間後、トルエン250mLで希釈した後、水で3回洗浄した。洗浄後の有機層をメタノール1.5Lで数回洗浄することで、再沈精製し、オリゴマーとポリマーを分離した。得られたポリマーを60℃で一晩減圧乾燥し、第1のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-1)を得た(Mw=573,903、Mn=227,734)。また、H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量は0.13モル%であった。
【0177】
【化5】
【0178】
[合成スキーム2:第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)の合成]
上記(A1-1)の合成工程において、オクタメチルシクロテトラシロキサン74.7g(252mmol)に加えて2,4,6,8-テトラメチル2,4,6,8-テトラビニルシクロテトラシロキサン0.86g(2.5mmol)を用いたこと以外は、(A1-1)の合成工程と同様にすることで、下記式(6)のように、第2のビニル基含有直鎖状オルガノポリシロキサン(A1-2)を合成した。また、H-NMRスペクトル測定により算出したビニル基含有量は0.92モル%であった。
【0179】
【化6】
【0180】
<シリコーンゴム系硬化性組成物の調製>
次のようにしてシリコーンゴム系硬化性組成物を調製した。
まず、下記の表1に示す割合で、90%のビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)、シランカップリング剤(D)および水(F)の混合物を予め混練し、その後、混合物にシリカ粒子(C)を加えてさらに混練し、混練物(シリコーンゴムコンパウンド)を得た。
ここで、シリカ粒子(C)添加後の混練は、カップリング反応のために窒素雰囲気下、60~90℃の条件下で1時間混練する第1ステップと、副生成物(アンモニア)の除去のために減圧雰囲気下、160~180℃の条件下で2時間混練する第2ステップとを経ることで行い、その後、冷却し、残り10%のビニル基含有オルガノポリシロキサン(A)を2回に分けて添加し、20分間混練した。
続いて、下記の表1に示す割合で、得られた混練物(シリコーンゴムコンパウンド)100重量部に、オルガノハイドロジェンポリシロキサン(B)、白金または白金化合物(E)を加えて、ロールで混練し、シリコーンゴム系硬化性組成物A、B(エラストマー組成物)を得た。
【0181】
【表1】
【0182】
<ディップコート用の導電性溶液の調製>
得られた13.7重量部のシリコーンゴム系硬化性組成物Aを、31.8重量部のデカン(溶剤)に浸漬し、続いて自転・公転ミキサーで撹拌し、54.5重量部の金属粉(G1)を加えた後に三本ロールで混練することで、導電性ペースト(ディップコート用の導電性溶液)を得た。
【0183】
<スプレー塗装用の導電性溶液の調製>
得られた13.7重量部のシリコーンゴム系硬化性組成物Aを、31.8重量部のデカン(溶剤)に浸漬し、続いて自転・公転ミキサーで撹拌し、54.5重量部の金属粉(G1)を加えた後に三本ロールで混練することで、樹脂ワニスを得た。その後、樹脂ワニスをデカンで2.5倍加えて、自転・公転ミキサーで撹拌し希釈して、スプレー塗装用の導電性溶液を得た。
【0184】
<生体用電極の作製>
(実施例1)
上記で得られたシリコーンゴム系硬化性組成物Aを、板状支持部および6本の柱状部の成形空間を有する金型を用いて、180℃、10MPaで10分間加熱して、硬化させ、板状支持部と6本の柱状部とが一体化した成形体を得た(成形工程)。
続いて、全ての柱状部における先端部を斜めに切断し、先端部に傾斜面を形成した(切断工程)。
得られた成形体の各柱状部の内部に、縫い針を用いて、導電線A(ミツフジ社製、AGposs、太さ:100d/34f、引張破断伸度:29.3%)を通した(導電線挿入工程)。
続いて、柱状部の先端部のみ(柱状部の全長をLとしたとき、先端から約1/2Lの領域)を、上記の<ディップコート用の導電性溶液>にディップし、120℃、30分間で加熱乾燥した(先端被覆工程)。
その後、140℃、2時間のポストキュアを行った(アニール工程)。
以上により、図1に示す、生体用電極Aを得た。
この生体用電極Aの先端構造は、図3(a)に示すとおり、導電線60の先端が柱状部20の先端22よりも突出しており、導電性樹脂層30で覆われていた。
【0185】
(実施例2)
導電線Aに代えて、導電線B(ミツフジ社製、AGposs、太さ:70d/24f、引張破断伸度:27.9%)を使用した以外は、実施例1と同様にして、生体用電極Bを得た。
【0186】
(実施例3)
導電線Aに代えて、導電線C(日本精線社製、金属繊維 ステンレス鋼繊維ナスロン、SUS304、太さ:0.22mm、引張破断伸度:1.6%)を使用した以外は、実施例1と同様にして、生体用電極Cを得た。
【0187】
(比較例1)
実施例1と同様にして、上記<生体用電極の作製>に基づいて、成形工程、切断工程を行い、導電線挿入工程を行わずに、成形体を得た。
得られた成形体の表面全体に、上記の<スプレー塗装用の導電性溶液>をスプレー塗布し、120℃、30分間で加熱乾燥させ、成形体の表面に導電性樹脂層を形成した。
続いて、柱状部の先端部のみを、上記の<ディップコート用の導電性溶液>にディップし、120℃、30分間で加熱乾燥した。その後、140℃、2時間のポストキュアを行い、生体用電極Dを得た。
【0188】
得られた生体用電極A~Dについて、下記の評価項目について評価を実施した。評価結果を表2に示す。
【0189】
(装着安定性)
実施例1と同様にして、上記<生体用電極の作製>に基づいて、成形工程、切断工程および導電線挿入工程を行い、導電線と接続するように先端部に2mmφの鋼球(ツバキ・ナカシマ製 高炭素クロム軸受鋼鋼材)を取り付け、比較例2の生体用電極Eを得た。
【0190】
被験者の後頭部に対して、比較例2の生体用電極Eの6本の柱状部の先端部を押し当てつつ、先端部とは反対側の生体用電極Eの他面に対して、プッシュプルゲージ(日本電産シンポ株式会社製、製品名:デジタルフォースゲージ FGJN-2)の測定子、15Nの一定荷重で押し付けたところ、当該被験者において、痛みを感じ、短時間しか耐えられない、との評価が示された。
【0191】
これに対して、実施例1~3の生体用電極A~Cを用いたところ、接触感はあるが、気にならない、あるいは、痛みは感じない、と評価が示された。したがって、実施例1~3の生体用電極A~Cは、比較例2の生体用電極Eと比べて装着安定性に優れていることがわかった。
【0192】
【表2】
【0193】
(測定安定性)
<脳波測定システムの作製>
図4に示すように、上記の<生体用電極の作製>で得られた生体用電極100の他面14に、外部接続部110(ケーブルの端部が装着自在の構造を有する金属製のスナップボタン)を装着した。この外部接続部110に、ディスポ電極コード(株式会社ミユキ技研 製品名:AP-C131-015)、ポータブル脳波計(株式会社ミユキ技研 製品名:PolymateMini AP-108)をこの順で電気的に接続して、脳波測定システムを作製した。ポータブル脳波計は、ノートパソコンとBluetooth(登録商標)で接続され、波形表示プログラム(株式会社ミユキ技研 製品名:Mobile Acquisition Monitor)により、頭部との接触抵抗を取得した。グランドとリファレンスは、左耳たぶを使用した。
【0194】
続いて、被験者の頭部に脳波測定用のヘッドギア(国際10/20法に基づくノード配置を備えるヘッドギアを3Dプリンターで成形したもの)を装着させた。
その後、被験者の後頭部に、生体用電極100の先端部を接触させて、被験者の後頭部(0z)に対して、得られた生体用電極100の6本の柱状部20の先端部26を押し当てつつ、生体用電極100の外部接続部110に対して、プッシュプルゲージ(日本電産シンポ株式会社製、製品名:デジタルフォースゲージ FGJN-2)の測定子を、まずは15N荷重で押し付け、徐々に除力して、10N、5N、3N時における接触抵抗(kΩ)を連続的に測定し、荷重に対する接触抵抗の変化を評価した。その結果を表2に示す。
【0195】
表2を踏まえると、実施例1の生体用電極は、比較例1と比べて、荷重変化初期時の接触抵抗の変化量(Δ(15N-10N))が小さく抑えられており、比較的広い荷重変化時の接触抵抗の変化量(Δ(15N-3N))も小さく抑えられていることが分かった。
【0196】
以上より、実施例1~3の生体用電極A~Cは、比較例1の生体用電極Dと比べて測定安定性に優れていることがわかった。
【0197】
この出願は、2018年11月9日に出願された日本出願特願2018-211725号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
図1
図2
図3
図4