(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】ハイブリッドシステムの制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/16 20160101AFI20240116BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20240116BHJP
F02D 41/04 20060101ALI20240116BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
B60W20/16
B60W10/06 900
F02D41/04
F02D45/00 360A
(21)【出願番号】P 2021080567
(22)【出願日】2021-05-11
【審査請求日】2023-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】近藤 学宏
【審査官】佐々木 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-68802(JP,A)
【文献】特開2016-108965(JP,A)
【文献】特開2020-16159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-20/50
F02D 41/00-45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(60)及びモータ(70,80)を有すると共に、前記エンジンの排気系(67)に三元触媒(68)を有し、少なくとも前記モータにより駆動対象を駆動するハイブリッドシステム(95)を、制御する制御装置(91)において、
前記エンジンの運転状態をリーン運転(L)からストイキ運転(S)に切り替える際に、前記リーン運転から一旦リッチ運転(R)に切り替えてから前記ストイキ運転に切り替えるリッチ運転部(αR)と、
前記リッチ運転への切替前から切替後にかけての期間に、前記エンジンに対する吸気量を制限する吸気制限(I)を実施することにより、前記吸気制限を実施しない場合に比べて前記吸気量を小さくする吸気制限部(αI)と、
前記リッチ運転への切替前における前記吸気制限の実施期間に、前記エンジンに対する燃料カット(C)を実施する燃料カット部(αC)と、
を有する制御装置。
【請求項2】
前記吸気制限部は、前記三元触媒の温度が所定温度よりも低い場合に比べて当該所定温度よりも高い場合の方が、前記吸気制限による前記吸気量の減少幅を小さくする、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記燃料カットの実施期間に、前記エンジンの回転を支援する回転支援制御(Cs)を実施することにより、前記回転支援制御を実施しない場合に比べて前記エンジンの回転速度の低下を抑制する回転支援部(αCs)を有する、請求項1又は2のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項4】
前記回転支援制御は、前記モータにより前記エンジンを駆動することを含む、請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記ハイブリッドシステムは、前記エンジンの回転により発電する発電機(70)を有し、
前記回転支援制御は、前記燃料カットが実施されない場合に比べて、前記発電機による前記エンジンの発電負荷を小さくすることを含む、請求項3又は4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記駆動対象は車両であり、
前記ハイブリッドシステムに対する要求出力をシステム要求出力として、
前記モータに給電するバッテリの充電状態と前記車両の加速度と前記車両の速度とのうちの少なくともいずれか1つに基づいて、前記リーン運転から前記ストイキ運転への切替タイミングを変更する切替制御(T)を実施することにより、前記燃料カットの実施期間に必要となる電力を供給不能になるまで前記システム要求出力が上昇するよりも前に、前記運転状態を前記リーン運転から前記ストイキ運転に切り替える切替制御部(αT)を有する、
請求項1~5のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項7】
前記ハイブリッドシステムは、前記エンジン及び前記モータのうちの前記モータのみにより前記駆動対象を駆動するものである、請求項1~6のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項8】
前記ハイブリッドシステムは、前記エンジン及び前記モータにより前記駆動対象を駆動するものであり、
前記燃料カットの実施期間に、前記燃料カットが実施されない場合に比べて、前記モータによる前記駆動対象に対する駆動出力を大きくする出力補償制御を実施する、請求項1~6のいずれか1項に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンとモータとを有するハイブリッドシステムを制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッドシステムを示す文献としては、例えば下記の特許文献1がある。そして、ハイブリッドシステムの中には、エンジンの排気系に三元触媒を有するものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者等は、このような三元触媒を有するハイブリッドシステムにおいて、燃費等の観点から、エンジンの運転状態についてはリーン運転を基本とし、出力が不足する場合にだけストイキ運転に切り替えることを考えた。しかしながら、その場合には、次に示す問題が発生し得ることに着目した。
【0005】
すなわち、三元触媒の機能の一つは、窒素酸化物を浄化することであるが、その浄化機能は、三元触媒に酸素が供給されることにより低下する。その点、リーン運転では、理論空燃比よりも空気が多くなることにより排気に酸素が含まれる。その排気中の酸素により三元触媒の機能が低下してしまう。ただし、その場合であっても、リーン運転の実施期間においては、NOxの発生量自体が少ないため、浄化率が低下していても、排出NOx量を規制値以下に抑制できる。
【0006】
しかしながら、リーン運転からストイキ運転に切り替わった直後においては、それまでのリーン運転で発生した酸素により、三元触媒の機能が低下している状態において、開始されたストイキ運転により発生した大量のNOxが、三元触媒に吹き込んでしまう。そのため、多くのNOxが三元触媒で浄化されずに、そのまま三元触媒を吹き抜けてしまう。以下では、このようにNOxが三元触媒を吹き抜けてしまうことを、「NOxの吹き抜け」という。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、リーン運転からストイキ運転への切替直後におけるNOxの吹き抜けを抑制することを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の制御装置は、ハイブリッドシステムを制御する。前記ハイブリッドシステムは、エンジン及びモータを有すると共に、前記エンジンの排気系に三元触媒を有し、少なくとも前記モータにより駆動対象を駆動する。前記制御装置は、以下に示すリッチ運転部と吸気制限部と燃料カット部とを有する。
【0009】
前記リッチ運転部は、前記エンジンの運転状態をリーン運転からストイキ運転に切り替える際に、前記リーン運転から一旦リッチ運転に切り替えてから前記ストイキ運転に切り替える。前記吸気制限部は、前記リッチ運転への切替前から切替後にかけての期間に、前記エンジンに対する吸気量を制限する吸気制限を実施することにより、前記吸気制限を実施しない場合に比べて前記吸気量を小さくする。前記燃料カット部は、前記リッチ運転への切替前における前記吸気制限の実施期間に、前記エンジンに対する燃料カットを実施する。
【0010】
本発明によれば、リーン運転から一旦リッチ運転に切り替えてからストイキ運転に切り替える。そのため、リッチ運転の実施期間に排気に含まれる燃料により、三元触媒の酸素を還元して、三元触媒によるNOxの浄化機能を回復させることができる。そのため、リッチ運転よりも後のストイキ運転の実施期間におけるNOxの吹き抜けを抑制できる。
【0011】
しかも、そのリッチ運転への切替前から切替後にかけての期間に、吸気制限を実施する。そのため、吸気制限を実施せずに吸気量が多い状態でリッチ運転に切り替える場合に比べて、リッチ運転でのNOxの発生量を抑制できる。そのため、リッチ運転の実施期間においても、NOxの吹き抜けを抑制できる。
【0012】
しかも、リッチ運転の実施前における吸気制限の実施期間に、燃料カットを実施する。そのため、次の問題を回避できる。すなわち、もし仮に当該吸気制限の実施期間に、燃料カットを実施せずに燃料噴射量を維持したならば、吸気制限によりリーン運転における燃焼がリッチ側にシフトすることにより、NOxの排出量が多くなってしまうおそれがある。他方、もし仮に当該吸気制限の実施期間に、リーン運転での空燃比を維持すべく燃料噴射量を小さくしたならば、当該リーン運転における燃焼が不安定になってしまうおそれがある。その点、本発明では、このように燃料カットを実施するため、エンジンでの燃焼自体を停止させることができる。そのため、燃焼が不安定になってしまうおそれがない。
【0013】
以上、本実施形態によれば、燃焼を不安定にすることなく、NOxの吹き抜けを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態の制御装置及びハイブリッドシステムを示すブロック図
【
図6】触媒温度及び吸気量と、NOxの吹き抜け量との関係を示すグラフ
【
図8】ストイキ切替制御を行った際の各値の推移を示すタイムチャート
【
図9】比較例において、
図8と同じ各値の推移を示すタイムチャート
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施できる。
【0016】
図1は、本実施形態の制御装置91及びその制御対象であるハイブリッドシステム95を示すブロック図である。車両90に、ハイブリッドシステム95と制御装置91とが搭載されている。
【0017】
まず、ハイブリッドシステム95について説明する。ハイブリッドシステム95は、エンジン60と第1MG70と第1インバータ73とバッテリ75と第2インバータ79と第2MG80とを有する。なお、第1インバータ73と第2インバータ79とは、共用の1つのインバータであってもよい。
【0018】
バッテリ75は、リチウムイオン電池等であって、第1MG70や第2MG80と電気的に接続されている。以下では、バッテリ75の充電率を「SOC」という。第2インバータ79は、バッテリ75と第2MG80との間に設けられており、当該間で電力変換(DCAC変換)を行う。第2MG80は、力行時には、バッテリ75から第2インバータ79を介して供給される電力により車輪99を駆動する。他方、回生時には、車輪99から伝わる回転力により発電して、第2インバータ79を介してバッテリ75を充電する。
【0019】
エンジン60は、車両90の第1MG70を駆動する。なお、本実施形態では、第2MG80によるトルクのみで車両90の駆動し、エンジン60によるトルクは全て第1MG70に吸収される。つまりエンジン60は、第1MG70の駆動用にのみ使用される。第1インバータ73は、第1MG70とバッテリ75との間に設けられており、当該間で電力変換(ACDC変換)を行う。第1MG70は、エンジン60により駆動されて発電して、第1インバータ73を介してバッテリ75を充電したり、それとは逆に、バッテリ75から第1インバータ73を介して供給される電力により、エンジン60を駆動したりする。
【0020】
エンジン60に対しては、エンジン60内に気体を吸入する吸気系61と、吸気系61内又はエンジン60内に燃料を噴射するインジェクタ65と、エンジン60内の燃料に点火する点火プラグ66と、エンジン60内の気体を排出する排気系67とが設けられる。
【0021】
吸気系61には、上流側から順に、吸気量を調整するためのスロットルバルブ62と、吸気系61内の気圧を検出する吸気圧センサ63とが設けられている。吸気圧センサ63は、例えば、吸気マニホールド内の気圧等を検出する。ただし、吸気圧センサ63に代えて、制御装置91がエンジン60の回転数やトルク等の変化から吸気圧を推定するようにしてもよい。
【0022】
排気系67には、一酸化炭素、炭化水素、及び窒素酸化物の分解を促進して浄化するための三元触媒68が設けられている。三元触媒68は、温度が上がると活性し、浄化率が上がる。また、三元触媒68は、酸素が吹き込まれると窒素酸化物の浄化性能が低下する。以下では、三元触媒68の温度を、単に「触媒温度」という。触媒温度は、触媒温度検出部69により検出される。触媒温度検出部69は、エンジン60の温度や運転条件やその履歴等から触媒温度を推定するものであってもよいし、触媒温度を計測する触媒温度センサを有するものであってもよい。
【0023】
以下では、エンジン60の出力を「エンジン出力」といい、第1MG70の出力を「第1MG出力」といい、第2MG80の出力を「第2MG出力」という。なお、第1MG70が発電を行っている時は、第1MG出力はマイナスであり、第2MG80が発電を行っている時は、第2MG出力はマイナスである。
【0024】
また以下では、第1MG出力と第2MG出力との和を「モータ出力」といい、モータ出力とエンジン出力との和を、「システム出力」という。よって、システム出力は、ハイブリットシステム全体の出力である。また以下では、システム出力の要求値を「システム要求出力」といい、エンジン出力の要求値を「エンジン要求出力」といい、第2MG出力の要求値を「第2MG要求出力」という。
【0025】
制御装置91は、CPU、ROM、RAM等を有するECU(電子制御ユニット)である。制御装置91は、ハイブリッドシステム95や車両90から各種情報を取得すると共に、当該情報に基づいてハイブリッドシステム95を制御する。制御装置91は、燃費等の観点から、エンジン60の運転状態を基本的にはリーン運転Lに制御し、システム出力が不足する場合にだけストイキ運転Sに切り替える。なお、リーン運転Lは、理論空燃比よりも空気が多い状態で燃焼させる運転であり、ストイキ運転Sは、理論空燃比で燃焼させる運転である。
【0026】
次に本実施形態で解決すべき課題と、その解決手段の概要とについて説明する。リーン運転Lでは、理論空燃比よりも空気が多くなることにより排気に酸素が含まれる。その排気中の酸素により三元触媒68の窒素酸化物の浄化性能が低下してしまう。ただし、その場合であっても、リーン運転Lの実施中においては、NOxの発生量自体が少ないため、排出NOx量を規制値以下に抑制できる。
【0027】
しかしながら、リーン運転Lからストイキ運転Sに切り替わった直後においては、それまでのリーン運転Lで発生した酸素により、三元触媒68の活性が低下している状態において、開始されたストイキ運転Sにより発生した大量のNOxが、三元触媒68に吹き込んでしまう。そのため、多くのNOxが三元触媒68で浄化されずに、そのまま三元触媒68を吹き抜けるNOxの吹き抜けが発生する。
【0028】
そこで、制御装置91は、所定の要件を満たすことを条件に、リーン運転Lの状態から、NOx排出量を低減するためのNOx低減制御(I,C,Cs,R)を実施してから、ストイキ運転Sに切り替える。
【0029】
次に、そのNOx低減制御(I,C,Cs,R)を実施するための構成について、説明する。制御装置91は、当該構成として、リッチ運転部αRと吸気制限部αIと燃料カット部αCと回転支援部αCsと切替制御部αTとを有する。
【0030】
リッチ運転部αRは、エンジン60の運転状態をリーン運転Lからストイキ運転Sに切り替えるべき時に、リーン運転Lから一旦リッチ運転Rに切り替えてからストイキ運転Sに切り替える。リッチ運転Rは、理論空燃比よりも燃料が多い状態で燃焼させる運転である。吸気制限部αIは、エンジン60に対する吸気量を制限する吸気制限Iを実施することにより、吸気制限Iを実施しない場合に比べて当該吸気量を小さくする。
【0031】
燃料カット部αCは、リッチ運転Rの実施前における吸気制限Iの実施期間に、エンジン60に対して燃料カットCを実施する。回転支援部αCsは、燃料カットCの実施期間に、第1MG70によりエンジン60の回転を支援する回転支援制御Csを実施することにより、回転支援制御Csを実施しない場合に比べてエンジン60の回転速度の低下を抑制する。
【0032】
以下では、以上に示した燃料カットCと回転支援制御Csとを、まとめて「燃料カット等(C,Cs)」という。そして、燃料カットCの実施期間に必要となる電力を、「燃料カット時電力」という。つまり、燃料カットCの実施期間には、システム要求出力の全てをモータ出力により賄う必要がある。それに必要な電力が、この燃料カット時電力である。よって、この燃料カット時電力は、システム要求出力が大きくなるほど大きくなる。
【0033】
切替制御部αTは、バッテリ75のSOCと車両90の加速度と車両90の速度とに基づいて、リーン運転Lからストイキ運転Sへの切替タイミングを変更する切替制御Tを実施する。それにより、燃料カット時電力を供給不能になるまでシステム要求出力が上昇する前に、エンジン60の運転状態をリーン運転Lからストイキ運転Sに切り替える。
【0034】
具体的には、切替制御部αTは、バッテリ75のSOCが所定の充電閾値よりも大きい場合に比べて小さい場合の方が、早期にリーン運転Lからストイキ運転Sに切り替わり易くする。また、切替制御部αTは、車両90の加速度が所定の閾加速度よりも小さい場合に比べて大きい場合の方が、早期にリーン運転Lからストイキ運転Sに切り替わり易くする。また、切替制御部αTは、車両90の速度が所定の閾速度よりも小さい場合に比べて大きい場合の方が、早期にリーン運転Lからストイキ運転Sに切り替わり易くする。
【0035】
図2は、制御装置91を
図1とは異なる見方でブロック分けしたブロック図である。制御装置91は、ハイブリッドシステム95の全体を制御するシステム制御部10と、エンジン60を制御するエンジン制御部20と、第1MG70を制御する第1MG制御部30と、第2MG80を制御する第2MG制御部40とを有する。
【0036】
システム制御部10は、バッテリ制御部11と出力調整部15と目標算出部16とを有する。バッテリ制御部11は、バッテリ75から、バッテリ電圧、バッテリ温度、バッテリ状態等のバッテリ情報等を取得すると共に、それらのバッテリ情報に基づいてSOCを算出する。
【0037】
出力調整部15は、車速、アクセル開度、SOC等を取得すると共に、それらの情報に基づいて、システム要求出力とエンジン要求出力と第2MG要求出力とを算出する。第2MG制御部40は、その第2MG要求出力に基づいて、第2インバータ79を制御することにより第2MG80を制御する。
【0038】
目標算出部16は、エンジン要求出力に基づいて、エンジン60の目標回転速度及び目標トルクを算出する。第1MG制御部30は、その目標回転速度に基づいて、第1MG70を制御する。具体的には、第1MG制御部30は、エンジン60の回転速度が目標回転速度になるように、第1MG70の発電負荷をフィードバック制御する。さらに、第1MG制御部30は、第1MG70の発電負荷を零にしてもエンジン60の回転速度を目標回転速度に制御できない場合には、第1MG70によりエンジン60を駆動する。
【0039】
エンジン制御部20は、制御実施部26を有する。制御実施部26は、リーン運転Lやストイキ運転Sの際には、目標算出部16により算出された目標トルクに基づいて、スロットルバルブ62やインジェクタ65等を制御することにより、エンジン60を制御する。
【0040】
次に、エンジン制御部20等による、リーン運転Lからストイキ運転Sへの切替について説明する。エンジン制御部20は、さらに、運転選択部22と吸気算出部25と達成判定部27とを有する。
【0041】
運転選択部22は、SOCやシステム要求出力や目標トルクや車速や加速度等の各情報に基づいて、エンジン60の運転状態をリーン運転Lにするかストイキ運転Sにするか選択する。具体的には、前述の通り、基本的にはリーン運転Lを選択するが、システム出力が不足する場合にはストイキ運転Sを選択する。そして、運転選択部22は、ストイキ運転Sの選択のされ易さを、SOCと車両90の加速度と車両90の速度とに基づいて変更する。それにより、前述の切替制御Tを実施する。よって、この運転選択部22を主体に、前述の切替制御部αTが形成されている。
【0042】
加速度は、例えば、システム要求出力(アクセル開度等)等から算出してもよいし、車速の時間変化から算出してもよいし、エンジン60や第1MG70や第2MG80の回転数の時間変化などから算出してもよい。また、運転選択部22は、さらにOSC(酸素ストレージ能)やOBD(車上自己診断)にも基づいて、リーン運転Lにするかストイキ運転Sにするか選択するものであってもよい。運転選択部22は、運転状態の選択をリーン運転Lからストイキ運転Sに切り替えた場合、ストイキ切替指令を発信する。
【0043】
吸気算出部25は、運転選択部22からストイキ切替指令を受信すると、吸気制限Iを実施すべく、吸気制限Iで達成すべき目標吸気量を算出する。よって、この吸気算出部25を主体に、前述の吸気制限部αIが形成されている。なお、このとき、吸気算出部25は、触媒温度が所定温度よりも低い場合に比べて当該所定温度よりも高い場合の方が、三元触媒68の活性が高くなることから、目標吸気量を高く算出して、吸気制限Iによる吸気量の減少幅を小さくする。
【0044】
制御実施部26は、吸気算出部25から目標吸気量を受信すると、その目標吸気量に基づいてスロットルバルブ62の開度を絞ることにより、吸気制限Iを実施する。ただし、それに代えて又は加えて、例えば、カムタイミングを変更することにより、吸気制限Iを実施してもよい。また例えば、エンジン60が、ターボチャージャを有する場合には、エアバイパスバルブの開度や排気バイパスバルブの開度を大きくすることによって、吸気制限Iを実施してもよい。
【0045】
さらに、制御実施部26は、吸気制限Iの開始と同時に燃料カットCを開始すべく、インジェクタ65の燃料噴射を停止させる。その燃料カットCにより、エンジン60での燃焼が停止する。よって、この制御実施部26を主体に、前述の燃料カット部αCが形成されている。
【0046】
エンジン60での燃焼が停止すると、エンジン出力が低下する。このとき、第1MG制御部30は、フィードバック制御において、目標回転速度を維持すべく、第1MG70による発電を止めて、これとは逆に第1MG70によりエンジン60を駆動する。これによりモータ出力が上昇して、回転支援制御Csが開始される。よって、この第1MG制御部30を主体に、前述の回転支援制御Csが形成されている。
【0047】
達成判定部27は、吸気算出部25から受信した目標吸気量と、吸気圧センサ63から受信した吸気圧とに基づいて、吸気量が目標吸気量まで減少したか否かを判定する。目標吸気量まで減少したと判定した場合には、達成信号を発信する。
【0048】
制御実施部26は、達成信号を受信すると、インジェクタ65による燃料噴射を再開させることにより、燃料カットCを解除する。それにより、エンジン60での燃焼が再開する。このとき、制御実施部26は、吸気制限Iを維持したまま、インジェクタ65の燃料噴射量を理論空燃比を超える噴射量に制御することにより、リッチ運転Rに切り替える。よって、この制御実施部26を主体に、前述のリッチ運転部αRが形成されている。
【0049】
このリッチ運転Rの開始により、エンジン出力が上昇する。その上昇分だけ、フィードバック制御により、第1MG70の出力が低下してさらには発電状態となる。それにより、回転支援制御Csが解除される。その後、制御実施部26は、吸気制限Iを解除してから、インジェクタ65の燃料噴射量を理論空燃比に制御することにより、ストイキ運転Sに切り替える。
【0050】
図3は、以上に示したNOx低減制御(I,C,Cs,R)等を示すフローチャートである。まず、S100において、エンジン60の運転状態をリーン運転Lからストイキ運転Sに切り替える必要が有るか否かのストイキ要否判定を実施する。そのストイキ要否判定において、ストイキ運転Sへの切替が必要と判定した場合、続くS200において、ストイキ切替制御を実施する。続くS300では、ストイキ運転Sが実施されている状況下において、リーン復帰制御(S300)を実施する。以上のフローは、例えば所定周期で繰り返し実施する。
【0051】
図4は、
図3に示すストイキ要否判定(S100)の詳細を示すフローチャートである。このストイキ要否判定(S100)では、まずS110において、リーン運転Lの実施中であるか否か判定する。リーン運転Lの実施中でないと判定した場合(S110:NO)、ストイキ運転Sへの切替を不要と判定して、フローを終了する。他方、S110において、リーン運転Lの実施中であると判定した場合(S110:YES)、前述の切替制御Tを実施すべくS120に進む。
【0052】
そのS120では、SOCが充電閾値よりも小さいか否か判定する。SOCが充電閾値よりも小さいと判定した場合(S120:YES)、バッテリ75を充電しつつ、システム要求出力を満たす必要があるため、S130に進む。そのS130では、システム要求出力が充電時用の閾出力よりも大きいか否か判定する。この充電時用の閾出力は、後述する非充電時用の閾出力よりも小さい。システム要求出力が、この小さい充電時用の閾出力よりも大きいと判定した場合(S130:YES)、リーン運転Lでは、充電しつつシステム要求出力を満たすことができない可能性があるとして、S200に進んで、ストイキ切替制御に(S200)移行する。よって、充電時には、非充電時に比較して早期にストイキ切替制御(S200)に移行する。この充電時の閾出力は、燃料カット時電力を供給不能になるまでシステム要求出力が上昇するよりも前に、超えられる大きさに設定されている。
【0053】
他方、S130で、システム要求出力が充電時用の閾出力よりも小さいと判定した場合(S130:NO)、リーン運転Lでも、充電しつつシステム要求出力を満たすことができるとして、ストイキ切替制御(S200)に移行することなく、フローを終了する。
【0054】
他方、遡るS120において、SOCが充電閾値よりも大きいと判定した場合(S120:NO)、充電は不要であるとして、S121に進む。そのS121では、車両90の加速度が閾加速度よりも大きいか否か判定する。車両90の加速度が閾加速度よりも小さいと判定した場合(S121:NO)、リーン運転Lでもシステム要求出力を満たすことができるとして、ストイキ切替制御(S200)に移行することなくフローを終了する。他方、S121で加速度が閾加速度よりも大きいと判定した場合(S121:YES)、S122に進む。
【0055】
そのS122では、車両90の速度が閾速度よりも大きいか否か判定する。閾速度よりも小さいと判定した場合(S122:NO)、システム要求出力が高い状態が長時間続く可能性が低いことから、リーン運転Lでもシステム要求出力を満たすことができるとして、ストイキ切替制御(S200)に移行することなくフローを終了する。他方、S122において、車両90の速度が閾速度よりも大きいと判定した場合(S122:YES)、次のS123に進む。
【0056】
S123では、システム要求出力が、充電時の閾出力よりも大きい非充電時の閾出力よりも大きいか否か判定する。システム要求出力が非充電時の閾出力よりも大きいと判定した場合(S123:YES)、リーン運転Lではシステム要求出力を満たすことができない可能性があるとして、S200に進んで、ストイキ切替制御を実施する。他方、S123で、システム要求出力が非充電時の閾出力よりも小さいと判定した場合(S123:NO)、リーン運転Lでもシステム要求出力を満たすことができるとして、ストイキ切替制御(S200)に移行することなく、フローを終了する。
【0057】
よって、車両90の加速度が閾加速度よりも大きく(S121:YES)且つ車両90の速度が閾速度よりも大きい(S122:YES)場合には、それ以外の場合に比べて早期にストイキ切替制御(S200)に移行する。この非充電時の閾出力も、燃料カット時電力を供給不能になるまでシステム要求出力が上昇するよりも前に、超えられる大きさに設定されている。
【0058】
次に、以上に示したストイキ要否判定(S100)における所定の各ステップS121,S122,S123について、補足説明する。S121の加速度の判定では、登坂時であるか否かの登坂判定を行い、登坂時であると判定した場合には、閾加速度を下げるようにしてもよい。これにより、同じ加速度でも、登坂時には、より早くストイキ運転Sに切り替わるようにすることができる。
【0059】
また、S122の車速の判定では、例えば加速度が大きくなるほど閾速度を小さくしてもよい。これにより、同じ車速でも、加速度が大きいほど、より早くストイキ運転Sに切り替わるようにすることができる。またS122でも、S121の場合と同じく登坂判定を行い、登坂時であると判定した場合には、閾速度を下げるようにしてもよい。これにより、同じ速度でも、登坂時には、より早くストイキ運転Sに切り替わるようにすることができる。
【0060】
図5は、
図3及び
図4に示すストイキ切替制御(S200)の詳細を示すフローチャートである。このストイキ切替制御(S200)では、まずS210において、燃料カット時電力を供給可能か否かの給電可否判定を実施する。ただし、ストイキ要否判定(S100)では、前述の通り、燃料カット時電力を供給不能になるまでシステム要求出力が上昇するよりも前に、ストイキ切替制御(S200)に移行する。よって、ハイブリッドシステム95に故障等が有る等の格段の事情が無い限りは、S210ではYESと判定される。この給電可否判定は、例えばSOC及び触媒温度に基づいて実施してもよいし、これに代えて又は加えて、急加速などの、必要電力を供給できなくなる条件に当てはまるか否かに基づいて実施してもよい。
【0061】
S210で、燃料カット時電力を供給できないと判定した場合(S210:NO)、S243に進み、リーン運転Lの状態から、NOx低減制御(I,C,Cs,R)を実施することなくストイキ運転Sに切り替える。他方、S210で、燃料カット時電力を供給できると判定した場合(S210:YES)、NOx低減制御(I,C,Cs,R)を実施すべく、S211に進む。
【0062】
S211では、吸気制限Iでの目標吸気量を算出する。続くS212では、算出された目標吸気量に基づいて、スロットルバルブ62の閉方向への制御量を算出する。続くS213では、S212で算出した制御量に基づいてスロットルバルブ62を閉方向に制御することにより吸気制限Iを開始する。さらに、このとき、インジェクタ65による燃料噴射を止めることにより燃料カットCを実施する。それに伴い、第1MG70による発電が止まり、それまでとは逆に第1MG70がエンジン60を駆動するようになることにより、回転支援制御Csが開始される。
【0063】
続くS220では、システム要求出力の低下の有無を判定する。システム要求出力の低下ありと判定した場合(S220:YES)、吸気制限I及び燃料カット等(C,Cs)の実施中にシステム要求出力が低下して、ストイキ運転Sに切り替える必要がなくなったことを意味する。そのため、S221に進んで、吸気制限I及び燃料カット等(C、Cs)を解除して、リーン運転Lを再開させる。他方、S220において、システム要求出力の低下なしと判定した場合(S220:NO)、S230に進む。
【0064】
S230では、電動要求による燃焼再開要求の有無を判定する。すなわち、先のS210で燃料カット時電力を供給可能と判定した場合(S210:YES)でも、故障や予期せぬ電力消費、目標吸気量への到達遅延等により、電力が不足してしまうことがある。その際は、吸気量が目標吸気量にまで減少していなくても、直ちに燃料カットCを解除して、エンジン60での燃焼を再開させる必要がある。そのため、このS230で燃焼再開要求ありと判定した場合(S230:YES)、吸気量が目標吸気量に達するのを待たずに、リッチ運転Rを開始すべくS241に進む。他方、S230で、電動要求による燃焼再開要求なしと判定した場合(S230:NO)、S240に進む。
【0065】
S240では、吸気量が目標吸気量にまで減少したか否か判定する。吸気量が目標空気量にまで減少していないと判定した場合(S240:NO)、吸気制限Iを維持すべくS220に戻る。他方、S240で、吸気量が目標空気量まで減少したと判定した場合(S240:YES)、S241に進む。
【0066】
S241では、リッチ補正量を算出する。リッチ補正量は、今までのリーン運転Lにより三元触媒68に付着した酸素を充分に還元して三元触媒68の活性を充分に復活させるのに必要な、リッチ運転Rの継続時間や燃料噴射量を含む。続くS242では、吸気制限Iを維持しつつ、燃料カット等(C,Cs)を解除して、S241で算出したリッチ補正量に基づいてリッチ運転Rを開始する。続くS243では、吸気制限Iを解除してからリッチ運転Rを終了して、ストイキ運転Sを開始する。その後は、S300のリーン復帰制御に進む。
【0067】
次に、以上に示したストイキ切替制御(S200)における所定のステップS210,S211について、補足説明する。S211での目標吸気量の算出では、前述の通り、触媒温度が所定温度よりも低い場合に比べて当該所定温度よりも高い場合の方が、三元触媒68の活性が高くなることから、目標吸気量を大きくする。つまり、触媒温度が高いほど、三元触媒68で浄化できるNOxの量が多くなる。そのため、
図6に示すように、同じNOxの吹き抜け量(等高線)でよいなら、触媒温度(横軸)が高いほど吸気量(縦軸)を多くできる。そのため、触媒温度が高いほど、吸気制限Iによる吸気の減量幅を抑えることができる。そのため、上記の通り、触媒温度が高いほど、目標吸気量を大きくする。
【0068】
また、S210での給電可否判定では、触媒温度が高いほど、燃料カット時電力を供給可能と判定し易くする。その理由を以下に説明する。前述のとおり、触媒温度(横軸)が高いほど、吸気制限Iによる吸気の減量幅を小さくできる。そのため、吸気量が目標吸気量に到達するまでの到達時間を短縮できる。その到達時間と燃料カットCの実施期間とが一致する。そのため、触媒温度が高いほど、燃料カットCの実施期間を短くでき、燃料カット時電力を抑制できる。そのため、上記のとおり、触媒温度が高いほど、燃料カット時電力を供給可能と判定し易くする。なお、これと同様の理由で、前述のS130での充電時用の閾出力と、S123での非充電時用の閾出力とについても、触媒温度が高いほど高く設定して、ストイキ運転Sに切り替わるタイミングを遅くすることができる。
【0069】
図7は、
図3及び
図5に示すリーン復帰制御(S300)の詳細を示すフローチャートである。このリーン復帰制御(S300)では、まず、S310において、エンジン60の回転速度及びトルクが、それぞれ目標回転速度及び目標トルクに到達したか否か判定する。目標回転速度及び目標トルクにそれぞれ到達したと判定した場合(S310:YES)、S320に進む。
【0070】
S320では、システム要求出力が到達時用の閾出力よりも小さいか否かを判定する。この到達時用の閾出力は、後述する未到達時用の閾出力よりも大きい。システム要求出力が、この大きい到達時用の閾出力よりも小さいと判定した場合(S320:YES)、リーン運転Lでもシステム要求出力を満たせるとして、S330に進んで、リーン運転Lに復帰した後、フローを終了する。よって、エンジン60の回転速度及びトルクが、それぞれ目標回転速度及び目標トルクに到達した場合(S310:YES)には、そうでない場合(S310:NO)に比べて、リーン運転Lに復帰し易い。他方、S320で、システム要求出力が、この大きい到達時の閾出力よりも大きいと判定した場合(S320:NO)、ストイキ運転Sを維持すべく、S310に戻る。
【0071】
他方、遡るS310において、エンジン60の回転数が目標回転数に到達していないか、トルクが目標トルクに到達していないと判定した場合(S310:NO)、S311に進む。S311では、システム要求出力が、到達時用の閾出力よりも小さい未到達時用の閾出力よりも小さいか否かを判定する。システム要求出力が、その小さい未到達時用の閾出力よりも小さいと判定した場合(S311:YES)、リーン運転Lでもシステム要求出力を満たせるとして、S330に進んで、リーン運転Lに復帰した後、フローを終了する。他方、S311において、システム要求出力が、この小さい未到達時の閾出力よりも大きいと判定した場合(S311:NO)、S312に進んで、現在のストイキ運転Sでの出力を大きくした後、S310に戻る。よって、目標回転数に到達していないか目標トルクに到達していないと判定した場合(S310:NO)には、それぞれに到達したと判定した場合(S310:YES)に比べて、リーン運転Lに復帰し難い。
【0072】
図8は、
図5に示すストイキ切替制御(S200)を行った場合における各値の推移の例を示すタイムチャートである。以下では、所定の6つのタイミングt1~t6を、時系列順に、それぞれ「第1タイミングt1」「第2タイミングt2」「第3タイミングt3」「第4タイミングt4」「第5タイミングt5」「第6タイミングt6」という。
【0073】
図8(a)は、システム要求出力及びエンジン出力の推移を示している。このようにシステム要求出力は、第1タイミングt1から第6タイミングt6までの間に上昇したものとする。そして、第2タイミングt2までは、リーン運転Lが行われたものとする。よって、第2タイミングt2までは、エンジン出力は、リーン運転L時のエンジン出力となる。
【0074】
そして、第2タイミングt2で、吸気制限I及び燃料カット等(C,Cs)が開始されたものとする。この第2タイミングt2で、エンジン出力がゼロになる。そして、第3タイミングt3で、燃料カット等(C,Cs)が解除されてリッチ運転Rが開始されたものとする。よって、この第3タイミングt3で、再びエンジン出力が現れる。
【0075】
そして、第4タイミングt4で、吸気制限Iが解除されて、第5タイミングt5で、リッチ運転Rからストイキ運転Sに切り替えられたものとする。第3タイミングt3以降は、第6タイミングt6の手前までの間にエンジン出力が増加する。
【0076】
図8(b)は、モータ出力及び第2MG出力の推移を示している。第2MG出力は、第1タイミングt1から第6タイミングt6までの間に増加する。その第2MG出力に第1MG出力を足したものがモータ出力となる。よって、モータ出力と第2MG出力との乖離分が、第1MG出力となる。モータ出力は、
図8(a)に示すシステム要求出力とエンジン出力との乖離分を補うべく導入される。そのモータ出力は、第2タイミングt2から第3タイミングt3までの期間(t2~t3)で、回転支援制御Csが実施されることにより、大きくなる。そして特に、燃料カットCが終了する第3タイミングt3の直前で、モータ出力が最大となる。その第3タイミングt3の直前でのモータ出力を満たせるように、前述の充電時用の閾出力及び非充電時用の閾出力が定められている。そして、前述の給電可否判定では、その第3タイミングt3の直前でのモータ出力を満たせるか否か判定している。
【0077】
図8(c)は、NOxの吹き抜け量の推移を示している。第2タイミングt2以前(~t2)は、リーン運転Lでの排気に含まれる酸素により三元触媒68の活性が低下しているものの、当該リーン運転LではNOx発生量自体が少ない。そのため、第2タイミングt2以前(~t2)は、浄化率が低下していても、排出NOx量を規制値以下に抑制でき、NOxの吹き抜け量は充分小さい。
【0078】
その後の第2タイミングt2から第3タイミングt3までの期間(t2~t3)では、燃料カットCを実施するため、燃焼がなくNOxが発生しない。そのため、NOxの吹き抜け量も無いか小さい。その後の第3タイミングt3から第5タイミングt5までの期間(t3~t5)では、リッチ運転Rを実施するためNOxが発生しNOxの吹き抜け量が若干多くなる。ただし、リッチ運転Rへの切替前の第2タイミングt2から切替後の第4タイミングt4まで吸気制限Iを実施するため、当該吸気制限Iを実施しない場合に比べて、リッチ運転RでのNOxの吹き抜け量が抑えられる。そして、リッチ運転Rにおける排気に含まれる燃料により、三元触媒68の酸素が還元されて、三元触媒68のNOx浄化率が復活する。そのため、第5タイミングt5以降のストイキ運転Sの実施期間(t5~)には、NOxの吹き抜け量が充分に抑えられる。
【0079】
図9は、仮にNOx低減制御(I,C,Cs,R)を実施せずに、第1タイミングt1と第6タイミングt6との間の所定の切替タイミングtXでリーン運転Lからストイキ運転Sに切り替えた場合の比較例を示すタイムチャートである。この比較例を参照しつつ、本実施形態の効果について説明する。
【0080】
この比較例では、切替タイミングtXの直後においては、それまでのリーン運転Lで発生した酸素により三元触媒68の活性が低下している。その状態で、開始されたストイキ運転Sにより発生した大量のNOxが、三元触媒68に吹き込んでしまう。そのため、三元触媒68は、充分にNOxを浄化することができず、
図9(c)に示すように、切替タイミングtXの直後は、NOxの吹き抜け量が大きくなってしまう。
【0081】
その点、本実施形態では、
図8(a)に示すように、リーン運転Lから一旦リッチ運転Rに切り替えてからストイキ運転Sに切り替える。そのため、リッチ運転Rの実施期間(t3~t5)に排気に含まれる燃料により、三元触媒68の酸素を還元して、三元触媒68の活性を回復させることができる。そのため、リッチ運転Rよりも後のストイキ運転Sの実施期間(t5~)におけるNOxの吹き抜けを抑制できる。
【0082】
しかも、そのリッチ運転Rへの切替前から切替後にかけての期間(t2~t4)に、吸気制限Iを実施する。そのため、吸気制限Iを実施せずに吸気量が多い状態でリッチ運転Rに切り替える場合に比べて、リッチ運転RでのNOxの発生量を抑制できる。そのため、リッチ運転Rの実施期間(t3~t5)においても、NOxの吹き抜けを抑制できる。
【0083】
しかも、リッチ運転Rへの切替前における吸気制限Iの実施期間(t2~t3)に、燃料カットCを実施する。そのため、次の問題を回避できる。すなわち、もし仮に当該吸気制限Iの実施期間(t2~t3)に、燃料カットCを実施せずに燃料噴射量を維持したならば、吸気制限Iによりリーン運転Lにおける燃焼がリッチ側にシフトすることにより、NOxの排出量が多くなってしまうおそれがある。他方、もし仮に当該吸気制限Iの実施期間(t2~t3)に、リーン運転Lでの空燃比を維持すべく燃料噴射量を小さくしたならば、リーン運転Lにおける燃焼が不安定になってしまうおそれがある。その点、このように燃料カットCを実施するため、エンジン60での燃焼自体を停止させることができる。そのため、燃焼が不安定になってしまうおそれがない。
【0084】
しかも、ハイブリッドシステム95は、第2モータ80のみにより車両90を駆動する。そのため、燃料カットCによりエンジン60の出力が低下しても、走行出力が低下してしまうことがない。そのため、燃料カットCの開始時(t2)に走行出力が急低下したり、燃料カットCの終了時(t3)に走行出力が急上昇したりするのを、回避できる。
【0085】
しかも、その燃料カットCの実施期間(t2~t3)には、第1MG70によりエンジン60を駆動する。そのため、燃料カットCからの復帰後のエンジン回転数および吸気量のばらつきを低減することができ、リッチ運転Rでの噴射量の精度を向上させることができる。
【0086】
以上、本実施形態によれば、燃焼を不安定にしたり、走行出力を急変させたり、エンジン回転数および吸気量のばらつきを顕著に大きくしたりすることなく、NOxの吹き抜けを抑制できる。
【0087】
さらに、切替制御部αTは、バッテリ75のSOCが小さい場合や、車両90の加速度が大きい場合や、車両90の速度が大きい場合に、早期にリーン運転Lからストイキ運転Sに切り替わり易くする。それにより、燃料カット時電力を供給不能になるまでシステム要求出力が上昇するよりも前に、エンジン60の運転状態をリーン運転Lからストイキ運転Sに切り替える。そのため、燃料カット時電力を供給不能になるといった弊害を回避できる。
【0088】
また、吸気制限Iでは、触媒温度が高い場合の方が、吸気制限Iでの吸気量の減少幅を小さくする。そのため、触媒温度が高くてNOxの浄化能力が高い時に、吸気量の減少幅を無駄に大きくしてしまうのを回避できる。また逆の言い方をすれば、吸気制限Iでは、触媒温度が低い場合の方が、吸気制限Iでの吸気量の減少幅を大きくする。そのため、触媒温度が低くてNOxの浄化能力が低い時に、吸気量の減少幅が足りなくて、リッチ運転RでのNOx排出を充分に抑えられない、といった弊害も回避できる。
【0089】
[他の実施形態]
以上に示した各実施形態は、例えば次のように変更して実施できる。第1実施形態の吸気制限Iでは、触媒温度が高い場合の方が、吸気量の減少幅を小さくしている。それに代えて、当該吸気量の減少幅を固定にしてもよい。
【0090】
第1実施形態では、エンジン60は、第1MG70を介しての充電用にのみ使用されている。これに代えて、エンジン60と第2MG80との双方により車両90を駆動するようにしてもよい。この場合、燃料カットCの実施期間(t2~t3)には、第2MG80のみにより車両90を駆動するようにしてもよい。また、燃料カットCの実施期間(t2~t3)には、燃料カットCが実施されない場合に比べて、第2MG80による車両90の駆動出力を大きくする出力補償制御を実施することが好ましい。燃料カットCによる走行出力の低下を、第2MG80の出力増加により補うことができるからである。
【0091】
第1実施形態では、第1MG70及び第2MG80との2つのMGが設けられている。これに代えて、これら2つのMGの役割を兼ね備えた1つのMGを設け、エンジン60とそのMGとの間に第1クラッチを設けると共に、そのMGと車輪99との間に第2クラッチを設けてもよい。
【0092】
第1実施形態の回転支援制御Csでは、燃料カットCの実施期間(t2~t3)に、第1MG70によりエンジン60を駆動している。これに代えて、燃料カットCの実施期間(t2~t3)に、エンジン60に対する発電負荷、つまり第1MGによる発電量を、当該燃料カットCが実施されない場合に比べて単に小さくすることにより、エンジン60の回転を支援してもよい。
【0093】
第1実施形態では、燃料カットCの実施期間に、回転支援制御Csを実施している。これに代えて、回転支援制御Csを実施しないようにしてもよい。また、回転支援制御Csに代えて又は加えて、次のようにしてトルクショックを緩和してもよい。すなわち、燃料カットCの終了時に合わせて点火遅角を行うことにより、燃料カットCの終了直後のトルクを制限する。その状態から、徐々に点火を進角させて点火遅角を解除していくことにより、徐々にトルクを上げる。これによっても、燃料カットCの終了時におけるトルクショックを緩和できる。
【0094】
第1実施形態では、切替制御部αTは、バッテリ75のSOC(充電率)が小さい場合に、早期にリーン運転Lからストイキ運転Sに切り替わり易くなるようにしている。このSOC(充電率)に代えて、バッテリ75の充電量が小さい場合に、早期にリーン運転Lからストイキ運転Sに切り替わり易くなるようにしてもよい。
【0095】
第1実施形態では、車両90に、ハイブリッドシステム95と制御装置91とが搭載されている。これに代えて、例えばボート等の車両以外のものに、ハイブリッドシステム95と制御装置91とが搭載されていてもよい。
【符号の説明】
【0096】
60…エンジン、67…排気系、68…三元触媒、70…第1MG、80…第2MG、90…車両、91…制御装置、95…ハイブリッドシステム、C…燃料カット、I…吸気制限、L…リーン運転、R…リッチ運転、S…ストイキ運転、αC…燃料カット部、αI…吸気制限部、αR…リッチ運転部。