(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】電動工具
(51)【国際特許分類】
B25F 5/00 20060101AFI20240116BHJP
B24B 47/12 20060101ALI20240116BHJP
H02P 6/24 20060101ALI20240116BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
B25F5/00 C
B25F5/00 G
B25F5/00 B
B24B47/12
H02P6/24
H02P27/06
(21)【出願番号】P 2021117477
(22)【出願日】2021-07-15
(62)【分割の表示】P 2019533982の分割
【原出願日】2018-06-29
【審査請求日】2021-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2017148732
(32)【優先日】2017-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017148733
(32)【優先日】2017-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005094
【氏名又は名称】工機ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079290
【氏名又は名称】村井 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100136375
【氏名又は名称】村井 弘実
(72)【発明者】
【氏名】吉成 拓家
(72)【発明者】
【氏名】谷本 英之
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/098563(WO,A1)
【文献】特開2011-205848(JP,A)
【文献】特開2017-063565(JP,A)
【文献】特開2016-158464(JP,A)
【文献】特開2014-104537(JP,A)
【文献】特開2008-252966(JP,A)
【文献】特開平11-311436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25F 5/00
B24B 23/02
H02P 6/24
H02P 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブラシレスモータと、
前記ブラシレスモータに通電するためのインバータ回路と、
前記インバータ回路を制御する制御部と、
作業者が操作可能であり、前記インバータ回路への入力電圧の印加、遮断を切り替えるための操作スイッチと、
前記制御部へ信号を送信する前記制御部に接続される電子スイッチと、
前記インバータ回路への電力供給経路を接続または遮断するための機械スイッチと、
を備え、
前記電子スイッチと前記機械スイッチは、作業者の前記操作スイッチへの操作に応じてオン状態とオフ状態とが切り替わるように構成され、
前記インバータ回路は、上アーム側スイッチング素子及び下アーム側スイッチング素子を有し、
前記制御部は、前記モータの駆動中に、前記電子スイッチがオン状態からオフ状態になると、前記ブラシレスモータに制動力を与えるブレーキ制御を実行するように構成され、
前記ブレーキ制御は、前記上アーム側スイッチング素子のいずれかと前記下アーム側スイッチング素子のいずれかとの組み合わせをスイッチング制御により順次切り替えることで、前記上アーム側スイッチング素子、前記ブラシレスモータ、前記下アーム側スイッチング素子、に電流を流す制御である、電動工具。
【請求項2】
交流を直流に変換して前記インバータ回路に供給する整流回路を備え、
前記
機械スイッチは、前記整流回路の入力側に設けられた2極スイッチであり、交流電源と前記整流回路の一方の入力端子との間、及び前記交流電源と前記整流回路の他方の入力端子との間、の双方の導通、遮断を切り替える、請求項1に記載の電動工具。
【請求項3】
前記制御部は、前記ブラシレスモータの回転数が閾値以下に低下すると、前記ブレーキ制御における前記上アーム側スイッチング素子及び前記下アーム側スイッチング素子の少なくともいずれかのデューティを低下させる、請求項1又は2に記載の電動工具。
【請求項4】
前記制御部は、前記ブレーキ制御における進角を、前記ブラシレスモータの駆動制御における進角よりも大きくする、請求項1から3のいずれか一項に記載の電動工具。
【請求項5】
前記ブレーキ制御は、前記ブラシレスモータを駆動する際の電流方向と同方向の電流を前記インバータ回路に流すことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の電動工具。
【請求項6】
ブラシレスモータと、
前記ブラシレスモータに通電するためのインバータ回路と、
前記インバータ回路を制御する制御部と、
前記インバータ回路への入力電圧の印加、遮断を切り替えるスイッチと、を備え、
前記インバータ回路は、上アーム側スイッチング素子及び下アーム側スイッチング素子を有し、
前記制御部は、前記スイッチがオフになると、前記ブラシレスモータに制動力を与えるブレーキ制御を行い、
前記ブレーキ制御は、前記上アーム側スイッチング素子のいずれかと前記下アーム側スイッチング素子のいずれかとの組み合わせをスイッチング制御により順次切り替えることで、前記上アーム側スイッチング素子、前記ブラシレスモータ、前記下アーム側スイッチング素子、に電流を流す制御であり、
交流電源を整流する整流回路と、前記整流回路からの電流を平滑する平滑コンデンサを有し、
前記ブレーキ制御時の電流は、前記整流回路を通ることを特徴とする、電動工具。
【請求項7】
前記
機械スイッチは、2極スイッチであり、前記インバータ回路に繋がる2つの経路の双方の導通、遮断を切り替える、請求項1に記載の電動工具。
【請求項8】
交流を直流に変換して前記インバータ回路に供給する第1整流回路を備え、
前記
機械スイッチは、前記第1整流回路の入力側に設けられ、交流電源と前記第1整流回路の一方の入力端子との間、及び前記交流電源と前記第1整流回路の他方の入力端子との間、の双方の導通、遮断を切り替える、請求項7に記載の電動工具。
【請求項9】
ブラシレスモータと、
前記ブラシレスモータに通電するためのインバータ回路と、
前記インバータ回路を制御する制御部と、
前記インバータ回路への入力電圧の印加、遮断を切り替えるスイッチと、を備え、
前記インバータ回路は、上アーム側スイッチング素子及び下アーム側スイッチング素子を有し、
前記制御部は、前記スイッチがオフになると、前記ブラシレスモータに制動力を与えるブレーキ制御を行い、
前記ブレーキ制御は、前記上アーム側スイッチング素子のいずれかと前記下アーム側スイッチング素子のいずれかとの組み合わせをスイッチング制御により順次切り替えることで、前記上アーム側スイッチング素子、前記ブラシレスモータ、前記下アーム側スイッチング素子、に電流を流す制御であり、
前記スイッチは、2極スイッチであり、前記インバータ回路に繋がる2つの経路の双方の導通、遮断を切り替え、
交流を直流に変換して前記インバータ回路に供給する第1整流回路を備え、
前記スイッチは、前記第1整流回路の入力側に設けられ、交流電源と前記第1整流回路の一方の入力端子との間、及び前記交流電源と前記第1整流回路の他方の入力端子との間、の双方の導通、遮断を切り替え、
前記制御部に電源を供給するための第2整流回路を備え、
前記第2整流回路は、前記スイッチを介さずに前記交流電源に接続される、電動工具。
【請求項10】
ブラシレスモータと、
上アーム側スイッチング素子と下アーム側スイッチング素子を有し、前記ブラシレスモータに通電するためのインバータ回路と、
前記インバータ回路を制御する制御部と、
前記インバータ回路への入力電圧の印加、遮断を切り替えるスイッチと、
交流を直流に変換して前記インバータ回路に供給する整流回路と、を備え、
前記制御部は、前記スイッチがオフになると、前記ブラシレスモータに制動力を与えるブレーキ制御を行い、
前記ブレーキ制御は、前記上アーム側スイッチング素子のいずれかと前記下アーム側スイッチング素子のいずれかとの組み合わせをスイッチング制御により順次切り替えることで、前記整流回路に電流を流す制御である、電動工具。
【請求項11】
前記制御部は、PWM制御によって、所定のデューティ比により前記上アーム側スイッチング素子及び前記下アーム側スイッチング素子のオンオフを切り替えながら前記ブレーキ制御を行うように構成される、請求項1または10に記載の電動工具。
【請求項12】
前記上アーム側スイッチング素子は、第1スイッチング素子、第2スイッチング素子、第3スイッチング素子を有し、
前記制御部は、前記ブラ
シレスモータを駆動させる際には前記上アーム側の
前記第1、第2、第3スイッチング素子をこの順にオンするように制御し、
前記ブレーキ制御は、前記上アーム側の前記第1、第2、第3スイッチング素子をこの順にオンするように制御してブレーキをかける制御である、請求項1または10に記載の電動工具。
【請求項13】
前記制御部は、前記ブレーキ制御における進角を、前記ブラシレスモータの駆動制御における進角と異ならせる、請求項1または10に記載の電動工具。
【請求項14】
前記制御部へ信号を送信する前記制御部に接続される電子スイッチと、前記インバータ回路への電力供給経路を接続または遮断するための機械スイッチを含み、
前記スイッチは作業者が操作可能な操作スイッチであり、
前記電子スイッチと前記機械スイッチは、作業者の前記操作スイッチへの操作に応じてオン状態とオフ状態とが切り替わるように構成され、
前記制御部は、前記モータの駆動中に、前記電子スイッチがオン状態からオフ状態になると前記ブレーキ制御を実行するように構成される、請求項10に記載の電動工具。
【請求項15】
オフ状態である前記電子スイッチをオン状態とするように前記操作スイッチを操作すると、前記機械スイッチよりも先に前記電子スイッチがオン状態となる、請求項1または14に記載の電動工具。
【請求項16】
オン状態である前記機械スイッチをオフ状態とするように前記操作スイッチを操作すると、前記電子スイッチよりも先に前記機械スイッチがオフ状態となる、請求項1または14に記載の電動工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータを駆動源とするグラインダ等の電動工具に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1は、グラインダを開示する。グラインダにおいては、作業終了後にモータにブレーキをかけ、砥石を早めに停止させることで作業性を向上させることが求められている。このとき、ブレーキが強すぎると砥石が外れる恐れがあるため、適切な制動力をモータに与える必要がある。下記特許文献2は、ブラシレスモータを駆動源とするドライバドリルにおいて、ブラシレスモータに通電するインバータ回路の下アーム側スイッチング素子を短絡することでブレーキをかけることを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-269426号公報
【文献】特許第5381390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2のように下アーム側スイッチング素子を短絡するブレーキをグラインダに適用すると、ブレーキ力が強すぎて砥石が外れやすい。ここで、下アーム側スイッチング素子をPWM制御によりオンオフすることでブレーキ力を弱めることはできるが、この場合は大きな回生エネルギーが発生して素子が破損するリスクがあった。
【0005】
本発明はこうした状況を認識してなされたものであり、その目的は、素子の劣化や破損を抑制したブレーキを行うことの可能な電動工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様は、電動工具である。この電動工具は、
ブラシレスモータと、
前記ブラシレスモータに通電するためのインバータ回路と、
前記インバータ回路を制御する制御部と、
作業者が操作可能であり、前記インバータ回路への入力電圧の印加、遮断を切り替えるための操作スイッチと、
前記制御部へ信号を送信する前記制御部に接続される電子スイッチと、
前記インバータ回路への電力供給経路を接続または遮断するための機械スイッチと、
を備え、
前記電子スイッチと前記機械スイッチは、作業者の前記操作スイッチへの操作に応じてオン状態とオフ状態とが切り替わるように構成され、
前記インバータ回路は、上アーム側スイッチング素子及び下アーム側スイッチング素子を有し、
前記制御部は、前記モータの駆動中に、前記電子スイッチがオン状態からオフ状態になると、前記ブラシレスモータに制動力を与えるブレーキ制御を実行するように構成され、
前記ブレーキ制御は、前記上アーム側スイッチング素子のいずれかと前記下アーム側スイッチング素子のいずれかとの組み合わせをスイッチング制御により順次切り替えることで、前記上アーム側スイッチング素子、前記ブラシレスモータ、前記下アーム側スイッチング素子、に電流を流す制御である。
【0007】
本発明の別の態様は、電動工具である。この電動工具は、
ブラシレスモータと、
前記ブラシレスモータに通電するためのインバータ回路と、
前記インバータ回路を制御する制御部と、
前記インバータ回路への入力電圧の印加、遮断を切り替えるスイッチと、を備え、
前記インバータ回路は、上アーム側スイッチング素子及び下アーム側スイッチング素子を有し、
前記制御部は、前記スイッチがオフになると、前記ブラシレスモータに制動力を与えるブレーキ制御を行い、
前記ブレーキ制御は、前記上アーム側スイッチング素子のいずれかと前記下アーム側スイッチング素子のいずれかとの組み合わせをスイッチング制御により順次切り替えることで、前記上アーム側スイッチング素子、前記ブラシレスモータ、前記下アーム側スイッチング素子、に電流を流す制御であり、
交流電源を整流する整流回路と、前記整流回路からの電流を平滑する平滑コンデンサを有し、
前記ブレーキ制御時の電流は、前記整流回路を通ることを特徴とする。
【0008】
本発明の別の態様は、電動工具である。この電動工具は、
ブラシレスモータと、
前記ブラシレスモータに通電するためのインバータ回路と、
前記インバータ回路を制御する制御部と、
前記インバータ回路への入力電圧の印加、遮断を切り替えるスイッチと、を備え、
前記インバータ回路は、上アーム側スイッチング素子及び下アーム側スイッチング素子を有し、
前記制御部は、前記スイッチがオフになると、前記ブラシレスモータに制動力を与えるブレーキ制御を行い、
前記ブレーキ制御は、前記上アーム側スイッチング素子のいずれかと前記下アーム側スイッチング素子のいずれかとの組み合わせをスイッチング制御により順次切り替えることで、前記上アーム側スイッチング素子、前記ブラシレスモータ、前記下アーム側スイッチング素子、に電流を流す制御であり、
前記スイッチは、2極スイッチであり、前記インバータ回路に繋がる2つの経路の双方の導通、遮断を切り替え、
交流を直流に変換して前記インバータ回路に供給する第1整流回路を備え、
前記スイッチは、前記第1整流回路の入力側に設けられ、交流電源と前記第1整流回路の一方の入力端子との間、及び前記交流電源と前記第1整流回路の他方の入力端子との間、の双方の導通、遮断を切り替え、
前記制御部に電源を供給するための第2整流回路を備え、
前記第2整流回路は、前記スイッチを介さずに前記交流電源に接続される。
【0009】
本発明の別の態様は、電動工具である。この電動工具は、
ブラシレスモータと、
上アーム側スイッチング素子と下アーム側スイッチング素子を有し、前記ブラシレスモータに通電するためのインバータ回路と、
前記インバータ回路を制御する制御部と、
前記インバータ回路への入力電圧の印加、遮断を切り替えるスイッチと、
交流を直流に変換して前記インバータ回路に供給する整流回路と、を備え、
前記制御部は、前記スイッチがオフになると、前記ブラシレスモータに制動力を与えるブレーキ制御を行い、
前記ブレーキ制御は、前記上アーム側スイッチング素子のいずれかと前記下アーム側スイッチング素子のいずれかとの組み合わせをスイッチング制御により順次切り替えることで、前記整流回路に電流を流す制御である。
【0010】
前記ブレーキ制御は、前記ブラシレスモータを駆動する際の電流方向と同方向の電流を前記インバータ回路に流してもよい。
【0011】
交流電源を整流する整流回路と、前記整流回路からの電流を平滑する平滑コンデンサを有し、前記ブレーキ制御時の電流は、前記整流回路を通ってもよい。
【0012】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法やシステムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、素子の劣化や破損を抑制したブレーキを行うことの可能な電動工具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態に係る電動工具1の側断面図。
【
図2】トリガ7がオフの状態における電動工具1の要部拡大断面図。
【
図3】トリガ7がオンの状態における電動工具1の要部拡大断面図。
【
図5】電動工具1の起動から停止までの動作の流れを示すフローチャート。
【
図8】モータ6の駆動制御における、U相、V相、W相の各ステータコイル6eの通電状態、並びにインバータ回路47のスイッチング素子Q1~Q6のゲートに印加される駆動信号H1~H6のタイムチャート。
【
図9】モータ6のブレーキ制御における、U相、V相、W相の各ステータコイル6eに流れる電流及び通電状態、並びにインバータ回路47のスイッチング素子Q1~Q6のゲートに印加される駆動信号H1~H6のタイムチャート。
【
図10】モータ6の断面図であって、駆動制御におけるロータ回転位置の変化とステータコイル6eに流れる電流との関係を示す説明図。
【
図11】モータ6の断面図であって、ブレーキ制御におけるロータ回転位置の変化とステータコイル6eに流れる電流との関係を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を詳述する。なお、各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は発明を限定するものではなく例示であり、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0016】
図1~
図3を参照し、本実施の形態の電動工具1の機械的な構成を説明する。
図1により、上下及び前後方向を定義する。電動工具1は、ここではグラインダである。電動工具1は、モータハウジング2、ハンドルハウジング(テールカバー)3、及びギヤケース4により、外殻が形成される。モータハウジング2の後端部にハンドルハウジング3が取り付けられ、モータハウジング2の前端部にギヤケース4が取り付けられる。モータハウジング2及びハンドルハウジング3は、例えば樹脂成形体である。ギヤケース4は、例えばアルミ等の金属製である。
【0017】
ハンドルハウジング3の後端部からは、外部の交流電源50(
図4)に接続するための電源コード9が延びる。ハンドルハウジング3内の後部には、フィルタ基板10が設けられる。ハンドルハウジング3内の前部には、補助電源・制御基板20が設けられる。ハンドルハウジング3は、電動工具1のハンドルを構成する。ハンドルハウジング3の下部には、トリガ7が揺動(回動)可能に支持される。ハンドルハウジング3に対するトリガ7の揺動支点7aは、ここではトリガ7の後端部に位置する。
【0018】
トリガ7は、モータ6の電流経路に設けられた第1スイッチ11のオンオフを使用者が切り替えるための操作部である。第1スイッチ11は、好ましくは機械式の接点スイッチであり、ハンドルハウジング3内に収容され、トリガ7の上方に位置する。
図2に示すように、第1スイッチ11は、トリガ7側に臨むボタン11aを有する。また、第1スイッチ11とトリガ7との間には、バネ11bが設けられる。ボタン11aがトリガ7によって押されることで、第1スイッチ11はオンとなる。バネ11bは、トリガ7を、第1スイッチ11がオフとなる方向(
図2の反時計回り方向)に付勢する。使用者がトリガ7を握ると、トリガ7が上方に揺動し、ボタン11aが押されて第1スイッチ11がオンとなる。使用者がトリガ7の握りを緩めると、バネ11bの付勢によりトリガ7が下方に揺動し、ボタン11aの押圧状態が解除されて第1スイッチ11がオフとなる。
【0019】
ハンドルハウジング3内には、トリガ7の反揺動支点7a側(トリガ7の前側)となる位置に、第2スイッチ12が設けられる。第2スイッチ12は、
図4の演算部(制御部)21に電気的に接続された例えば電子スイッチ(マイクロスイッチ等)であり、トリガ7の操作に連動してオンオフが切り替わる。第2スイッチ12は、トリガ7の操作を演算部21に迅速に伝達するために設けられ、自身のオンオフによって異なるレベルの信号を演算部21に送出する。
図2及び
図3に示すように、第2スイッチ12は、トリガ7側に臨んで後方斜め上に延出する板バネ12aを有する。トリガ7の揺動に伴い、板バネ12aがトリガ7の反揺動支点7a側の端部(前端部)と係合し、第2スイッチ12のオンオフが切り替わる。具体的には、
図3に示すように板バネ12aがトリガ7の反揺動支点7a側の端部によって前側に押し込まれる(前側に揺動される)ことで、第2スイッチ12はオンとなる。使用者がトリガ7を握ると、トリガ7が上方に揺動し、板バネ12aが押し込まれて第2スイッチ12がオンとなる。使用者がトリガ7の握りを緩めると、バネ11bの付勢によりトリガ7が下方に揺動し、板バネ12aは自身の弾性により元の状態に戻って(後側に揺動して)第2スイッチ12がオフとなる。
【0020】
モータハウジング2は、モータ6を収容すると共に、モータ6の後部にブリッジ・インバータ基板(駆動基板)30を収容する。モータ6は、インナーロータ型のブラシレスモータである。ギヤケース4内には、回転伝達機構としての減速機構5が収容される。減速機構5は、一対のベベルギアを組み合わせたものであり、モータ6の回転を減速すると共に90度変換してスピンドル8に伝達する。スピンドル8の下端部には回転具(先端工具)としての砥石8aが一体回転可能に設けられる。モータ6の回転から砥石8aの回転に至るまでの機械的な構成及び動作は周知なので、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0021】
図4により、電動工具1の回路構成を説明する。
図4において、交流電源50は、商用電源等の外部交流電源である。交流電源50には、フィルタ基板10に設けられたフィルタ回路が接続される。フィルタ回路は、フィルタ基板10に搭載された、ヒューズFin、バリスタZ1、パターンヒューズF1、コンデンサC1、抵抗R1、及びチョークコイルL1を含む。ヒューズFinは、スイッチング素子Q1~Q6が短絡した場合の保護用である。バリスタZ1は、サージ電圧吸収用である。パターンヒューズF1は、バリスタZ1が働いた場合に線間がショートするのを防止する役割を持つ。コンデンサC1及びチョークコイルL1は、線間のノイズ除去用である。抵抗R1は、コンデンサC1の放電抵抗である。
【0022】
前述のフィルタ回路の出力側と第1ダイオードブリッジ15の入力側と間に、第1スイッチ11が設けられる。第1スイッチ11は、2極スイッチであり、フィルタ回路の一方の出力端子と第1ダイオードブリッジ15の一方の入力端子との間、及びフィルタ回路の他方の出力端子と第1ダイオードブリッジ15の他方の入力端子との間、の双方の導通及び遮断を、オン状態とオフ状態に応じて切り替える。すなわち、第1スイッチ11は、オフ状態になると交流電源50から第1ダイオードブリッジ15への電流経路を全て遮断する。第1スイッチ11がオフ状態になると、第1ダイオードブリッジ15と電解コンデンサC2と、インバータ回路47を含む閉回路(閉ループ)が形成される。第1整流回路としての第1ダイオードブリッジ15は、第1スイッチ11を介して入力される前述のフィルタ回路の出力電圧を、全波整流して直流に変換し、インバータ回路47に供給する。電解コンデンサC2は、サージ吸収用であり、第1ダイオードブリッジ15の出力端子間に設けられる。電解コンデンサC2は第1ダイオードブリッジ15からの電流を平滑する平滑コンデンサである。なお、電動工具1では本体の小型化を優先するため、完全に電流を平滑する容量を有する電解コンデンサを搭載することが困難であり、電解コンデンサC2は第1ダイオードブリッジ15からの電流を完全に平滑することはできない。換言すれば、電動工具1の小型化を優先するため、電解コンデンサC2の容量は、作業時に無通電状態(モータ6への印加電圧が、誘起電圧を下回っている状態)が生じる程度の容量となっている。抵抗Rsは、モータ6に流れる電流を検出するための検出抵抗であり、モータ6の電流経路に設けられる。電動工具1は、第1グランドGND1及び第2グランドGND2を有し、第1グランドGND1及び第2グランドGND2は、抵抗Rsを介して互いに接続される。第1ダイオードブリッジ15、電解コンデンサC2、インバータ回路47、及び抵抗Rsは、
図1のブリッジ・インバータ基板30に設けられる。
【0023】
インバータ回路47は、三相ブリッジ接続されたIGBTやFET等のスイッチング素子Q1~Q6を含み、制御部としての演算部21の制御に従ってスイッチング動作し、モータ6のステータコイル6e(U,V,Wの各巻線)に駆動電流を供給する。スイッチング素子Q1~Q3は、上アーム側スイッチング素子であり、スイッチング素子Q4~Q6は、下アーム側スイッチング素子である。スイッチング素子Q1~Q3は、モータ6側がソースであり、電源側(第1ダイオードブリッジ15のプラス端子側)がドレインである。スイッチング素子Q4~Q6は、モータ6側がドレインであり、グランド側(第1ダイオードブリッジ15のマイナス端子側)がソースである。スイッチング素子Q1~Q6の各ドレインソース間には、ソース側がアノードである図示しないダイオード(寄生ダイオード及び別付けのダイオードのいずれか又は両方)が設けられる。
【0024】
演算部21は、抵抗Rsの両端間の電圧により、モータ6の電流を検出する。また、演算部21は、複数のホール素子(磁気センサ)42の出力電圧により、モータ6の回転位置(ロータ回転位置)を検出する。演算部21は、トリガ7の操作に連動する第2スイッチ12の状態(オンオフ)に応じて、モータ6の駆動及び制動を制御する。具体的には、演算部21は、トリガ7の操作により第2スイッチ12がオンされると、スイッチング素子Q1~Q6をスイッチング制御(例えばPWM制御)し、モータ6の駆動を制御する。演算部21は、トリガ7の操作により第2スイッチ12がオフされると、モータ6に制動力を与える制御(ブレーキ制御)を行う。ブレーキ制御の詳細は後述する。
【0025】
第2整流回路としての第2ダイオードブリッジ16は、第1スイッチ11を介さずに入力される前述のフィルタ回路の出力電圧を、全波整流して直流に変換する。電解コンデンサC3は、サージ吸収用であり、第2ダイオードブリッジ16の出力端子間に設けられる。第2ダイオードブリッジ16の出力側には、IPD回路22が設けられる。IPD回路22は、インテリジェント・パワー・デバイス(Intelligent Power Device)であるIPD素子やコンデンサ等により構成された回路であり、第2ダイオードブリッジ16及びサージ吸収用の電解コンデンサC3によって整流、平滑された電圧を例えば約18Vに降圧するDC-DCスイッチング電源回路である。IPD回路22は、集積回路であり、消費電力が小さく省エネルギーであるというメリットがある。IPD回路22の出力電圧は、レギュレータ26によって例えば約5Vに更に降圧され、演算部21に動作電圧(電源電圧Vcc)として供給される。第2ダイオードブリッジ16、電解コンデンサC3、演算部21、IPD回路22、及びレギュレータ26等は、補助電源・制御基板20に設けられる。
【0026】
図5により、電動工具1の起動から停止までの動作の流れを簡単に説明する。使用者がトリガ7を引くと(S1)、第2スイッチ12がオンし(S2)、続いて第1スイッチ11がオンする(S3)。トリガ7の上方への揺動による第1スイッチ11及び第2スイッチ12のターンオンは、ほぼ同時に起こる。演算部21は、第2スイッチ12のターンオンにより(第2スイッチ12からの信号がハイレベルになることにより)、スイッチング素子Q1~Q6のスイッチング制御を開始し、モータ6を回転駆動する(S4)。その後、使用者がトリガ7から手を離す(トリガ7の握りを緩める)と(S5)、第1スイッチ11がオフし(S6)、続いて第2スイッチ12がオフする(S7)。トリガ7の下方への揺動による第1スイッチ11及び第2スイッチ12のターンオフは、ほぼ同時に起こる。演算部21は、第2スイッチ12のターンオフにより(第2スイッチ12からの信号がローレベルになることにより)、前述のブレーキ制御を開始してモータ6の回転を減速する(S8)。これによりモータ6が停止する(S9)。
【0027】
図6は、電動工具1の制御フローチャートである。このフローチャートは、第1スイッチ11及び第2スイッチ12がターンオンすることによってスタートする(S11)。演算部21は、インバータ回路47のスイッチング素子Q1~Q6を機械進角17.5度でスイッチング制御することにより、モータ6を回転駆動する(S12)。演算部21は、第1スイッチ11及び第2スイッチ12がオンであればモータ6の駆動を継続する(S13のNO、S12)。演算部21は、第1スイッチ11及び第2スイッチ12がオフになると(S13のYES)、モータ6に制動力を与えるブレーキ制御を行う。具体的には、演算部21は、機械進角を23度に設定し(S14)、モータ6の回転数が18000rpm以上であればスイッチング素子Q1~Q6をデューティ95%でスイッチング制御し(S15のYES、S16)、モータ6の回転数が12000-18000rpmであればスイッチング素子Q1~Q6をデューティ93%でスイッチング制御し(S15のNO、S17のYES、S18)、モータ6の回転数が12000rpm未満であればスイッチング素子Q1~Q6をデューティ92%でスイッチング制御し(S15のNO、S17のNO、S19)、モータ6に制動力を与え、モータ6を停止させる(S20)。
【0028】
図7は、電動工具1のモータ6の断面図である。モータ6は、出力軸6aの周囲に設けられて出力軸6aと一体に回転するロータコア6bと、ロータコア6bに挿入保持されたロータマグネット6cと、ロータコア6bの外周を囲むように設けられたステータコア6dと、ステータコア6dに設けられたステータコイル6eと、を含む。ロータマグネット6cは、軸周り方向に等間隔(90度間隔)で4つ設けられる。ステータコア6dは、ステータコイル6eの巻軸となるティース部を軸周り方向に等間隔(60度間隔)で6つ有する。
図7では、各ティース部を、U1、U2、V1、V2、W1、W2としている。ティース部U1、U2にはU相のステータコイル6e(以下「U相ステータコイル」とも表記)が巻かれ、ティース部V1、V2にはV相のステータコイル6e(以下「V相ステータコイル」とも表記)が巻かれ、ティース部W1、W2にはW相のステータコイル6e(以下「W相ステータコイル」とも表記)が巻かれる。
【0029】
ティース部V1、W1間、ティース部W1、U2間、ティース部U2、V2間には、それぞれホール素子42が配置される。ホール素子42は、ロータコア6bの外周面に近接する配置であり、モータ6の軸周り方向に60度間隔で3つ設けられる。
図7におけるロータ回転位置は、真ん中のホール素子42の軸周り方向位置と、隣り合うロータマグネット6c間の中央の軸周り方向位置と、が互いに一致する回転位置であり、機械進角の基準位置であると共に、
図8~
図13におけるロータ回転角0度に相当する。
図7における反時計回りをロータ回転方向(正転方向)とした場合、機械進角は、
図7に示す基準位置と、U相ステータコイルへの通電を開始するロータ回転位置と、の間のロータ回転角の差である。
図7に示す基準位置においてU相ステータコイルに通電を開始する場合、機械進角は0度である。
【0030】
図8は、モータ6の駆動制御における、U相、V相、W相の各ステータコイル6eの通電状態、並びにインバータ回路47のスイッチング素子Q1~Q6のゲートに印加される駆動信号H1~H6のタイムチャートである。演算部21は、モータ6の駆動制御では、機械進角を17.5度に設定する。そのため、ロータ回転角が0度になる17.5度手前からU相ステータコイルに通電を開始する。
【0031】
具体的には、演算部21は、ロータ回転角-17.5度において駆動信号H1をローレベルからハイレベルにする(スイッチング素子Q1をターンオンする)。このとき、演算部21は、駆動信号H5をハイレベル(スイッチング素子Q5をオン)に維持しているから、スイッチング素子Q1、U相ステータコイル、V相ステータコイル、スイッチング素子Q5という経路で電流が流れ始める。なお、駆動信号H2~H4、H6はローレベル(スイッチング素子Q2~Q4、Q6はオフ)である。以降、各区間においてローレベルに維持される駆動信号、及びオフに維持されるスイッチング素子については、説明を省略する。
【0032】
ロータ回転角-17.5度から12.5度までの30度の区間において、演算部21は、駆動信号H1、H5をハイレベル(スイッチング素子Q1、Q5をオン)にする。ここで、駆動信号H1はPWM信号であり、スイッチング素子Q1は所定デューティ比でオンオフが切り替えられる(PWM制御される)。これにより、スイッチング素子Q1、U相ステータコイル、V相ステータコイル、スイッチング素子Q5を含む経路に電流が流れる。
【0033】
ロータ回転角12.5度から42.5度までの30度の区間において、演算部21は、駆動信号H1、H6をハイレベル(スイッチング素子Q1、Q6をオン)にする。ここで、当該区間の前半においては駆動信号H6はPWM信号であり、スイッチング素子Q6は所定デューティ比でオンオフが切り替えられる(PWM制御される)。また、当該区間の後半においては駆動信号H1はPWM信号であり、スイッチング素子Q1は所定デューティ比でオンオフが切り替えられる(PWM制御される)。これにより、スイッチング素子Q1、U相ステータコイル、W相ステータコイル、スイッチング素子Q6を含む経路に電流が流れる。
【0034】
ロータ回転角42.5度から72.5度までの30度の区間において、演算部21は、駆動信号H2、H6をハイレベル(スイッチング素子Q2、Q6をオン)にする。ここで、駆動信号H2はPWM信号であり、スイッチング素子Q2は所定デューティ比でオンオフが切り替えられる(PWM制御される)。これにより、スイッチング素子Q2、V相ステータコイル、W相ステータコイル、スイッチング素子Q6を含む経路に電流が流れる。
【0035】
ロータ回転角72.5度から102.5度までの30度の区間において、演算部21は、駆動信号H2、H4をハイレベル(スイッチング素子Q2、Q4をオン)にする。ここで、当該区間の前半においては駆動信号H4はPWM信号であり、スイッチング素子Q4は所定デューティ比でオンオフが切り替えられる(PWM制御される)。また、当該区間の後半においては駆動信号H2はPWM信号であり、スイッチング素子Q2は所定デューティ比でオンオフが切り替えられる(PWM制御される)。これにより、スイッチング素子Q2、V相ステータコイル、U相ステータコイル、スイッチング素子Q4を含む経路に電流が流れる。
【0036】
ロータ回転角102.5度から132.5度までの30度の区間において、演算部21は、駆動信号H3、H4をハイレベル(スイッチング素子Q3、Q4をオン)にする。ここで、駆動信号H3はPWM信号であり、スイッチング素子Q3は所定デューティ比でオンオフが切り替えられる(PWM制御される)。これにより、スイッチング素子Q3、W相ステータコイル、U相ステータコイル、スイッチング素子Q4を含む経路に電流が流れる。
【0037】
ロータ回転角132.5度から162.5度までの30度の区間において、演算部21は、駆動信号H3、H5をハイレベル(スイッチング素子Q3、Q5をオン)にする。ここで、当該区間の前半においては駆動信号H5はPWM信号であり、スイッチング素子Q5は所定デューティ比でオンオフが切り替えられる(PWM制御される)。また、当該区間の後半においては駆動信号H3はPWM信号であり、スイッチング素子Q3は所定デューティ比でオンオフが切り替えられる(PWM制御される)。これにより、スイッチング素子Q3、W相ステータコイル、V相ステータコイル、スイッチング素子Q5を含む経路に電流が流れる。
【0038】
ロータ回転角162.5度から342.5度(-17.5度)までの180度の区間における制御は、上述のロータ回転角-17.5度から162.5度までの180度の区間における制御と同様である。
【0039】
図9は、モータ6のブレーキ制御における、U相、V相、W相の各ステータコイル6eの通電状態、並びにインバータ回路47のスイッチング素子Q1~Q6のゲートに印加される駆動信号H1~H6のタイムチャートである。演算部21は、モータ6のブレーキ制御では、機械進角を23度に設定する。そのため、ロータ回転角が0度になる23度手前からU相ステータコイルに通電を開始する。なお、本実施形態では、ブレーキ制御時におけるロータ回転角が0度の状態とは、モータ6の駆動時におけるロータ回転角0度の状態から90度回転した状態である。すなわち、ブレーキ制御時におけるロータ回転角0度の状態は、
図7におけるロータ6aの回転位置から90度回転した位置である。従って、ブレーキ制御における機械進角23度の状態とは、
図7の基準位置から67度だけロータ6aが回転した状態である。
【0040】
ブレーキ制御における機械進角23度からのブレーキ制御について具体的に説明する。演算部21は、ロータ回転角67度において駆動信号H1をローレベルからハイレベルにする(スイッチング素子Q1をターンオンする)。このとき、演算部21は、駆動信号H5をハイレベル(スイッチング素子Q5をオン)に維持しているから、スイッチング素子Q1、V相ステータコイル、U相ステータコイル、スイッチング素子Q5という経路で電流が流れ始める。
【0041】
ロータ回転角67度から97度までの30度の区間において、演算部21は、駆動信号H1、H5をハイレベル(スイッチング素子Q1、Q5をオン)にする。ここで、駆動信号H1はPWM信号であり、スイッチング素子Q1は所定デューティ比でオンオフが切り替えられる(PWM制御される)。これにより、スイッチング素子Q1、V相ステータコイル、U相ステータコイル、スイッチング素子Q5を含む経路に電流が流れる。
【0042】
ロータ回転角97度から127度までの30度の区間において、演算部21は、駆動信号H2、H6をハイレベル(スイッチング素子Q1、Q6をオン)にする。ここで、当該区間の前半においては駆動信号H6はPWM信号であり、スイッチング素子Q6は所定デューティ比でオンオフが切り替えられる(PWM制御される)。また、当該区間の後半においては駆動信号H1はPWM信号であり、スイッチング素子Q1は所定デューティ比でオンオフが切り替えられる(PWM制御される)。これにより、スイッチング素子Q1、W相ステータコイル、U相ステータコイル、スイッチング素子Q6を含む経路に電流が流れる。
【0043】
ロータ回転角127度から157度までの30度の区間において、演算部21は、駆動信号H2、H6をハイレベル(スイッチング素子Q2、Q6をオン)にする。ここで、駆動信号H2はPWM信号であり、スイッチング素子Q2は所定デューティ比でオンオフが切り替えられる(PWM制御される)。これにより、スイッチング素子Q2、W相ステータコイル、V相ステータコイル、スイッチング素子Q6を含む経路に電流が流れる。
【0044】
ロータ回転角157度から187度までの30度の区間において、演算部21は、駆動信号H2、H4をハイレベル(スイッチング素子Q2、Q4をオン)にする。ここで、当該区間の前半においては駆動信号H4はPWM信号であり、スイッチング素子Q4は所定デューティ比でオンオフが切り替えられる(PWM制御される)。また、当該区間の後半においては駆動信号H2はPWM信号であり、スイッチング素子Q2は所定デューティ比でオンオフが切り替えられる(PWM制御される)。これにより、スイッチング素子Q2、U相ステータコイル、V相ステータコイル、スイッチング素子Q4を含む経路に電流が流れる。
【0045】
ロータ回転角187度から217度までの30度の区間において、演算部21は、駆動信号H3、H4をハイレベル(スイッチング素子Q3、Q4をオン)にする。ここで、駆動信号H3はPWM信号であり、スイッチング素子Q3は所定デューティ比でオンオフが切り替えられる(PWM制御される)。これにより、スイッチング素子Q3、U相ステータコイル、W相ステータコイル、スイッチング素子Q4を含む経路に電流が流れる。
【0046】
ロータ回転角217度から247度までの30度の区間において、演算部21は、駆動信号H3、H5をハイレベル(スイッチング素子Q3、Q5をオン)にする。ここで、当該区間の前半においては駆動信号H5はPWM信号であり、スイッチング素子Q5は所定デューティ比でオンオフが切り替えられる(PWM制御される)。また、当該区間の後半においては駆動信号H3はPWM信号であり、スイッチング素子Q3は所定デューティ比でオンオフが切り替えられる(PWM制御される)。これにより、スイッチング素子Q3、V相ステータコイル、W相ステータコイル、スイッチング素子Q5を含む経路に電流が流れる。
【0047】
ロータ回転角247度から67度(ブレーキ制御時の機械進角-23度)までの180度の区間における制御は、上述のロータ回転角67度から247度までの180度の区間における制御と同様である。
【0048】
図10は、モータ6の断面図であって、駆動制御におけるロータ回転位置の変化とステータコイル6eに流れる電流との関係を示す説明図である。ロータ回転角-17.5度は、W相ステータコイルからU相ステータコイルに通電が切り替わるタイミングであり、図示は切り替わった直後を示している。ロータ回転角-17.5度から42.5度までの60度の区間において、U相ステータコイルに流れる電流により、ティース部U1、U2のロータ側端面はN極となる。同区間の前半(12.5度まで)において、V相ステータコイルに流れる電流により、ティース部V1、V2のロータ側端面はS極となる。同区間の後半(12.5度以降)において、W相ステータコイルに流れる電流により、ティース部W1、W2のロータ側端面はS極となる。
【0049】
図10において、ロータ側がN極となっているU相ステータコイルは、ステータ側がN極である対向するロータマグネット6cに斥力を与え、ロータ(ロータコア6b及びロータマグネット6c)を回転させる。なお、ロータ回転角-17.5度では、U相ステータコイルによる斥力はロータの回転を妨げるように作用するが、U相ステータコイルのインダクタンスによりU相ステータコイルの立ち上がりの電流が小さいことから、実際にはロータの回転に影響は無い。
図10の12.5度の直前までにおいてロータ側がS極となっているV相ステータコイルは、ステータ側がS極である対向するロータマグネット6cに斥力を与え、ロータを回転させる。
図10の12.5度から42.5度の直前までにおいてロータ側がS極となっているW相ステータコイルは、ステータ側がS極である対向するロータマグネット6cに斥力を与え、ロータを回転させる。なお、前述のロータ回転角-17.5度におけるU相ステータコイルの斥力と同様、ロータ回転角12.5度では、W相ステータコイルによる斥力はロータの回転を妨げるように作用するが、W相ステータコイルのインダクタンスによりW相ステータコイルの立ち上がりの電流が小さいことから、実際にはロータの回転に影響は無い。
【0050】
以上、ロータ回転角-17.5度から42.5度までの60度の区間について説明したが、以降60度ごとに、相が一つシフトしながら同様のことが起こる。
【0051】
図11は、モータ6の断面図であって、ブレーキ制御におけるロータ回転位置の変化とステータコイル6eに流れる電流との関係を示す説明図である。ロータ回転角67度は、W相ステータコイルからU相ステータコイルに通電が切り替わるタイミングであり、図示は切り替わった直後を示している。ロータ回転角67度から127度までの60度の区間において、ロータの回転による磁束変化によってU相ステータコイルに流れる電流により、ティース部U1、U2のロータ側端面はN極となる。同区間の前半(97度まで)において、ロータの回転による磁束変化によってV相ステータコイルに流れる電流により、ティース部V1、V2のロータ側端面はS極となる。同区間の後半(97度以降)において、ロータの回転による磁束変化によってW相ステータコイルに流れる電流により、ティース部W1、W2のロータ側端面はS極となる。
【0052】
図11のロータ回転角67度から97度において、ロータ側がN極になっているU相ステータコイルは、ステータ側がS極である対向するロータマグネット6cに引力を与え、ロータの回転を減速するブレーキ力を発生させる。なお、ロータ回転角67度において、U相ステータコイルに流れる電流は、モータ駆動時と同方向の電流が流れる。こうして、ロータ回転角67度から127度の区間において、ロータ側がN極となっているU相ステータコイルが、ステータ側がS極である対向するロータマグネット6cに与える引力は、ロータを逆転させるように作用するので、ロータ6aに制動力が発生する。127度以降は、ステータ側がS極となっている磁石がU相ステータコイルから遠ざかるので、ブレーキ制御におけるU相ステータコイルの使用を中止する。
【0053】
図11の97度の直前までにおいてロータ側がS極となっているV相ステータコイルは、ステータ側がN極である対向するロータマグネット6cに引力を与え、ロータの回転を減速するブレーキ力を発生させる。
図11の97度から127度の直前までにおいてロータ側がS極となっているW相ステータコイルは、ステータ側がN極である対向するロータマグネット6cに引力を与え、ロータの回転を減速するブレーキ力を発生させる。
【0054】
以上、
図11により、ロータ回転角67度から127度までの60度の区間について説明したが、以降60度ごとに、相が一つシフトしながら同様のことが起こる。
【0055】
本実施の形態によれば、下記の効果を奏することができる。
【0056】
(1) 演算部21はブレーキ制御において、第1ダイオードブリッジ15に電流が流れるようにした。具体的には、上アーム側スイッチング素子Q1~Q3のいずれかと、下アーム側スイッチング素子Q4~Q6のいずれかとの組合せを、順次切り替えながらスイッチング制御し、上アーム側スイッチング素子Q1~Q3のいずれか、ステータコイル6e、下アーム側スイッチング素子Q4~Q6のいずれか、及び第1ダイオードブリッジ15、を順に通る閉ループ(駆動時と同じ向きの閉ループ)に電流を流すようにした。これによって、当該閉ループをPWM制御により繰返し開閉しても、回生エネルギーによる大電圧が電解コンデンサC2に印加されることを抑制できる。すなわち、ブレーキ制御時に流れる電流を、モータ駆動時と同方向としながらブレーキをかけることができるので、ブレーキ制御時の電流が第1ダイオードブリッジ15にも流れ、コンデンサC2に集中するのを抑制することができる。このため、回生エネルギーによる回路上の素子の劣化や破損等のリスクを抑制しながら適切な強度のブレーキをかけることができる。この点、上アーム側スイッチング素子Q1~Q3はオフにして下アーム側スイッチング素子Q4~Q6をPWM制御するブレーキ制御の場合、下アーム側スイッチング素子Q4~Q6のオフ期間に、下アーム側スイッチング素子Q4~Q6のいずれか、ステータコイル、上アーム側スイッチング素子Q1~Q3のいずれか、という順の電流(駆動時と逆向きの電流)を流そうとする回生エネルギーが発生し、この回生エネルギーはスイッチング素子Q1~Q6で遮断できない(スイッチング素子Q1~Q6の寄生ダイオードを介して電解コンデンサC2や第1ダイオードブリッジ15に印加される)ため、電解コンデンサC2等の劣化や破損に繋がる。特に、電解コンデンサC2は小型化を優先するために容量を可能な限り小さめに抑えているため、劣化や破損の可能性が高い。本実施の形態では、こうした素子の劣化や破損等のリスクを好適に避けながら適切な強度のブレーキをかけることができる。ひいては、本実施の形態におけるブレーキ制御によれば、平滑コンデンサ等の回路素子を小さくできるので、電動工具を小型にすることができる。上記効果は、円形の先端工具を高速回転させて作業を行う電動工具のような、先端工具の慣性によってブレーキ時の回生エネルギーが大きくなりやすい電動工具において特に顕著である。
【0057】
(2) 演算部21は、ブレーキ制御における機械進角を、モータ6の駆動制御における機械進角と比較して変更調整可能となっている。このため、発明の適用対象の仕様(モータ仕様や出力の大きさ等)に合わせ、機械進角を調整することで適切なブレーキ力を得ることができる。
【0058】
(3) 演算部21は、ブレーキ制御開始時のモータ6の回転数に応じてブレーキ制御におけるPWM制御のデューティ比を設定するため、モータ6の回転数に応じた適切なブレーキ力を発生させることができる。ここで、ブレーキ制御開始時のモータ6の回転数が低いほどデューティ比を小さくすることで、トリガ7を瞬間的に引いて戻す操作をした場合のブレーキ力を弱くすることができ、使い勝手が良い。また、進角の調整ではブレーキ力を弱めきれないときにブレーキ力を弱めることができるので、ブレーキ力の調整可能範囲を広げることができる。
【0059】
(4) 第1スイッチ11は2極スイッチのため、一方が溶着等によりオンに固定されても他方により電流を遮断できる。このため、第2スイッチ12又は演算部21に誤動作が発生してもモータ6が意図せず回転することを抑制できる。
【0060】
(5) 第1スイッチ11が第1ダイオードブリッジ15の入力側に設けられるため、第1スイッチ11がオフになった後のブレーキ制御において、第1ダイオードブリッジ15を含むブレーキ電流の経路を好適に構成できる。本実施の形態では、ブレーキ時にはモータ駆動時と同様にインバータ回路47を制御するため、ブレーキ制御時において交流電源からインバータ回路47に電力が供給されるような状況になった場合には、モータを駆動させるような制御が実行されてしまう恐れがある。しかし上記のように、2極スイッチである第1スイッチ11を第1ダイオードブリッジ15の入力側に設けた本実施の形態では、インバータ回路47への電力供給をより好適に遮断することができる。特に、第1ダイオードブリッジ15をブレーキ時に生成する閉路に含ませるように制御する本実施の形態では、第1スイッチ11を第1ダイオードブリッジ15の入力側に設けているため、第1ダイオードブリッジ15によって整流される前の交流が第1スイッチ11に入力されるが、第1スイッチ11を正側と負側の電流経路を遮断するような2極スイッチとしたので、正成分と負成分を含む交流をより好適に遮断することができる。従って、素子の劣化や破損等のリスクを抑制したブレーキ制御を、より好適に実現可能である。なお、何らかの異常によってブレーキ制御時(第2スイッチがオフの状態)において第1ダイオードブリッジ15に電源からの交流が入力される場合、モータ6の回転数が低下しない、または増加する可能性があるが、この状態を検出した場合には、上記ブレーキ制御とは別の制御によってモータ6を停止させるのがよい。別の制御とは、例えばインバータ回路47のスイッチングを行わずに自然に回転数を低下させる制御や、または砥石8aの慣性エネルギーが十分小さくなるような所定の回転数まで自然に低下させたあと、下アーム側スイッチング素子Q4~Q6のいずれかをデューティ比100%でオンさせるような制御を含む。これら別の制御によれば、本実施の形態のブレーキ制御に比べてモータ6が停止するまでの時間が長くなってしまうが、砥石8aの固定力低下を抑えつつ、回生エネルギーによる回路素子の劣化・破損を抑制することができる。
【0061】
(6) 第1スイッチ11が第1ダイオードブリッジ15の入力側に設けられるため、
図12及び
図13に示す比較例1及び2のように第1スイッチ11が第1ダイオードブリッジ15の出力側に設けられる場合と異なり、第1スイッチ11がオフになった場合に、第1グランドGND1に対して第2グランドGND2が浮いたり、第1グランドGND1及び第2グランドGND2が共に浮いたりすることが抑制され、ブレーキ制御における制御不能や制御不良を抑制できる。すなわち、
図12に示す比較例1では、演算部21のグランドとなる第2グランドGND2が第1グランドGND1から浮いてしまい、
図13に示す比較例2では、第1グランドGND1及び第2グランドGND2が共に浮いてしまうが、本実施の形態ではそのような問題を好適に解決できる。
【0062】
(7)
図12及び
図13に示す比較例1及び2では、第1スイッチ11のうち上側(プラス側)の一方が先にオンになると、回路全体に高電圧がかかり、下側(グランド側)の他方が後でオンになった瞬間に、電位差が生じているため大電流が流れ、素子破損の恐れがあるが、本実施の形態では、第1スイッチ11が第1ダイオードブリッジ15の入力側に設けられるため、そのような問題を好適に解決できる。
【0063】
(8) 第1スイッチ11が第1ダイオードブリッジ15の入力側に設けられるため、第1ダイオードブリッジ15が故障によりショートしても、第1スイッチ11がオフであれば電流を遮断できる。なお、第2ダイオードブリッジ16は、制御系電源用であって電流が小さいため、故障によるショートの発生率は第1ダイオードブリッジ15と比較して遥に小さい。
【0064】
以上、実施の形態を例に本発明を説明したが、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスには請求項に記載の範囲で種々の変形が可能であることは当業者に理解されるところである。以下、変形例について触れる。
【0065】
本発明は、グラインダ以外の他の種類の電動工具、例えば丸のこ等にも適用できる。実施の形態で例示した機械進角やデューティ比の具体的数値は一例に過ぎず、要求される仕様に応じて適宜設定すればよい。第2スイッチ12は、第1スイッチ11の内部に一体的に設けられてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1…電動工具、2…モータハウジング、3…ハンドルハウジング(テールカバー)、4…ギヤケース、5…減速機構(回転伝達機構)、6…モータ、6a…出力軸、6b…ロータコア、6c…ロータマグネット、6d…ステータコア、6e…ステータコイル、7…トリガ、7a…揺動支点(回動支点)、8…スピンドル、8a…砥石、9…電源コード、10…フィルタ基板、11…第1スイッチ(接点スイッチ)、11a…ボタン、11b…バネ、12…第2スイッチ(電子スイッチ)、12a…板バネ、15…第1ダイオードブリッジ、16…第2ダイオードブリッジ、20…補助電源・制御基板、21…演算部(制御部)、22…IPD回路、26…レギュレータ、30…ブリッジ・インバータ基板(駆動基板)、42…ホール素子(磁気センサ)、50…交流電源