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特許7420176インクジェットインク、錠剤、印刷機および錠剤の製造方法
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  • 特許-インクジェットインク、錠剤、印刷機および錠剤の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】インクジェットインク、錠剤、印刷機および錠剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20240116BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240116BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240116BHJP
   A23L 5/40 20160101ALI20240116BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20240116BHJP
   A61K 9/44 20060101ALI20240116BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20240116BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240116BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C09D11/30
B41M5/00 120
B41J2/01 123
A23L5/40
A23L5/00 F
A61K9/44
A61K47/22
A61K47/34
A61K47/36
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022130271
(22)【出願日】2022-08-17
(62)【分割の表示】P 2021072708の分割
【原出願日】2021-04-22
(65)【公開番号】P2022167941
(43)【公開日】2022-11-04
【審査請求日】2022-09-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 理沙
(72)【発明者】
【氏名】星野 裕一
(72)【発明者】
【氏名】小関 晟弥
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 賢俊
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-004321(JP,A)
【文献】特開2020-019906(JP,A)
【文献】国際公開第2014/203524(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/168733(WO,A1)
【文献】特開2011-241312(JP,A)
【文献】特開2006-169301(JP,A)
【文献】特許第6888728(JP,B2)
【文献】特許第6954488(JP,B2)
【文献】特開2021-098839(JP,A)
【文献】特開2021-187901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-13/00
B41M 5/00
B41J 2/01
A61K 9/44
A61K 47/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水およびアルコール類のいずれにも溶解するコート剤を含むオーバーコートインクであり、
前記アルコール類は、イソプロピルアルコールおよびノルマルプロピルアルコールであり、
前記コート剤は、25℃の前記アルコール類と水との質量比(前記アルコール類:水)が1:1である溶媒に対する溶解度が0.5質量%以上であって、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーLD、メタクリル酸コポリマーS、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロースおよびポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートのうち少なくとも1種を含み、
溶媒として、水と前記アルコール類であるイソプロピルアルコールおよびノルマルプロピルアルコールと、を含み、
前記溶媒と比較して、前記コート剤の含有割合が低く、
前記溶媒は、水の含有量に対する前記アルコール類の含有量の比率が19(前記アルコール類:水=19:1)である
ことを特徴とするインクジェットインク。
【請求項2】
前記コート剤は、イソプロピルアルコールに対する溶解度が1質量%以上であり、ノルマルプロピルアルコールに対する溶解度が1質量%以上である
ことを特徴とする、請求項1に記載のインクジェットインク。
【請求項3】
前記コート剤は、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートである
ことを特徴とする請求項1または2に記載のインクジェットインク。
【請求項4】
前記コート剤の含有量は、インクジェットインク全体に対して1質量%以上25質量%以下の範囲内である
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【請求項5】
前記溶媒として、水と、前記アルコール類とを含み、
水の含有量は、前記溶媒全体の質量に対して3質量%以上10質量%以下の範囲内であり、
前記アルコール類の含有量は、前記溶媒全体の質量に対して90質量%以上97質量%以下の範囲内である
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【請求項6】
前記溶媒に対する溶解度が0.05質量%以上であるリボフラビン類を含む
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のインクジェットインク。
【請求項7】
前記リボフラビン類は、リボフラビン酪酸エステル、リボフラビンリン酸エステルナトリウム、または当該リボフラビン酪酸エステルと当該リボフラビンリン酸エステルナトリウムとの混合物である
ことを特徴とする請求項に記載のインクジェットインク。
【請求項8】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載のインクジェットインクである第一インクジェットインクを用いて印刷した印刷部を備える
ことを特徴とする錠剤。
【請求項9】
前記印刷部は、
水を主溶媒とし少なくとも1種の色材を含有する第二インクジェットインクで形成された印刷画像と、
前記印刷画像の上に、前記第一インクジェットインクを重ねて印刷することにより形成されたオーバーコート層と、を有する
ことを特徴とする請求項に記載の錠剤。
【請求項10】
少なくとも2種類以上のインクジェットインクを印刷用基材に印刷可能な印刷機であって、
2種類以上の前記インクジェットインクには、請求項1から請求項のいずれか1項に記載のインクジェットインクである第一インクジェットインク、および水を主溶媒とし少なくとも1種の色材を含有する第二インクジェットインクが少なくとも含まれ、
前記印刷用基材に対して、前記第二インクジェットインクを印刷した後に前記第一インクジェットインクを重ねて印刷可能である
ことを特徴とする印刷機。
【請求項11】
前記第二インクジェットインクを吐出後に、前記第一インクジェットインクを吐出可能なインクジェットヘッドを備える
ことを特徴とする請求項1記載の印刷機。
【請求項12】
前記第一インクジェットインクを吐出する第一インクジェットヘッドと、
前記第二インクジェットインクを吐出する第二インクジェットヘッドと、を備え、
前記第二インクジェットヘッドにおいて前記第二インクジェットインクを吐出後に、前記第一インクジェットヘッドから前記第一インクジェットインクを吐出する
ことを特徴とする請求項1記載の印刷機。
【請求項13】
水およびアルコール類のいずれにも溶解するコート剤を含むオーバーコートインクである第一インクジェットインクを印刷する印刷工程を少なくとも含み、
前記アルコール類は、イソプロピルアルコールおよびノルマルプロピルアルコールであり、
前記第一インクジェットインクは、
前記コート剤として、25℃の前記アルコール類と水との質量比(前記アルコール類:水)が1:1である溶媒に対する溶解度が、0.5質量%以上であって、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーLD、メタクリル酸コポリマーS、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロースおよびポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートのうち少なくとも1種を含有するコート剤を含み、
溶媒として、水と前記アルコール類であるイソプロピルアルコールおよびノルマルプロピルアルコールと、を含み、
前記溶媒と比較して、前記コート剤の含有割合が低く、
前記溶媒は、水の含有量に対する前記アルコール類の含有量の比率が19(前記アルコール類:水=19:1)である
ことを特徴とする錠剤の製造方法。
【請求項14】
前記印刷工程は、
水を主溶媒とし少なくとも1種の色材を含有する第二インクジェットインクを印刷して所定の印刷画像を形成する先刷り印刷工程と、
前記先刷り印刷工程において形成された前記印刷画像上に、前記第一インクジェットインクを重ねて印刷する後刷り印刷工程と、を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の錠剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク、錠剤、印刷機および錠剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷用インク(以下、単に「インクジェットインク」とも称する。)には、可食性を有するもの(可食性インクジェットインク)がある。錠剤やカプセル剤等の固体製剤を被印刷物とする場合において、可食性インクジェットインクとしては、例えば色材として水溶性の食用染料を使用した水溶性インクが用いられる(例えば、特許文献1)。
また従来、水溶性インクで形成された印刷画像の保護を目的として、印刷画像上にオーバーコート用インクジェットインク(以下、単に「オーバーコートインク」とも称する)を印刷してオーバーコート層を設ける技術が知られている(例えば、特許文献2および3)。ここで、印刷画像の保護とは、例えば印刷画像の乾燥性、耐擦過性等を向上させることで、印刷画像の転写を防止することを示す。
【0003】
例えば引用文献3には、印刷画像の耐擦過性を向上させて印刷画像の滲みや転写を防止するために、水不溶性の材料(例えばセラック樹脂)を含有したコーティング液(オーバーコートインク)によってオーバーコート層を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-169301号公報
【文献】国際公開第2018/168733
【文献】特開2020-19906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
オーバーコート層は、印刷画像を形成するための先刷りインク(例えば、水溶性インク)による印刷画像の形成後に、当該印刷画像上にオーバーコートインクを印刷することで形成される。印刷機においてインクジェットヘッドから吐出されたオーバーコートインクは、先刷りインクを吐出するインクジェットヘッドに付着する場合がある。ここで、先刷りインクが水溶性インクである場合に、オーバーコートインクとして水不溶性の材料によるコーティング液を用いると、先刷りインクのインクジェットヘッドに付着したオーバーコートインクが水溶性の先刷りインクに溶解せずに凝固することや、コート剤の析出が生じ得る。このため、先刷りインクのインクジェットヘッドが閉塞して先刷りインクの吐出安定性が低下するおそれがある。つまり、印刷機においてインクジェットインクの吐出安定性が低下するおそれがある。
またオーバーコートインクとして有機溶剤(例えば、アルコール)に不溶の材料によるコーティング液を用いると、先刷りインクの溶媒に有機溶剤が含まれる場合に、先刷りインクのインクジェットヘッドに付着したオーバーコートインクが水溶性の先刷りインクに溶解せずに凝固やコート剤の析出が生じ得る。さらに、当該コート液は、コート剤を溶解させるために水を主溶媒とするオーバーコートインクとなる。このため、先刷りインクに重ねて印刷を行っても印刷画像上にオーバーコートインクが固着せず、乾燥性が悪化して印刷画像の保護効果が低減するおそれがある。
【0006】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、印刷画像を保護し、且つ水溶性の先刷りインクの吐出安定性を向上することができるインクジェットインク、当該インクジェットインクで印刷した印刷部を備える錠剤、当該インクジェットインクを印刷可能な印刷機、および当該錠剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係るインクジェットインクは、水およびアルコール類のいずれにも溶解するコート剤を含むオーバーコートインクであり、前記アルコール類は、イソプロピルアルコールおよびノルマルプロピルアルコールであり、前記コート剤は、25℃の前記アルコール類と水との質量比(前記アルコール類:水)が1:1である溶媒に対する溶解度が0.5質量%以上であって、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーLD、メタクリル酸コポリマーS、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロースおよびポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートのうち少なくとも1種を含み、溶媒として、水と前記アルコール類であるイソプロピルアルコールおよびノルマルプロピルアルコールと、を含み、前記溶媒と比較して、前記コート剤の含有割合が低く、前記溶媒は、水の含有量に対する前記アルコール類の含有量の比率が19(前記アルコール類:水=19:1)であることを特徴とする。
【0008】
また、上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る錠剤は、上記インクジェットインクを用いて印刷した印刷部を備えることを特徴とする。
【0009】
また、上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る印刷機は、少なくとも2種類以上のインクジェットインクを印刷用基材に印刷可能な印刷機であって、2種類以上の前記インクジェットインクには、上記インクジェットインクである第一インクジェットインク、および水を主溶媒とし少なくとも1種の色材を含有する第二インクジェットインクが少なくとも含まれ、前記印刷用基材に対して、前記第二インクジェットインクを印刷した後に前記第一インクジェットインクを重ねて印刷可能であることを特徴とする。
【0010】
また、上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る錠剤の製造方法は、水およびアルコール類のいずれにも溶解するコート剤を含むオーバーコートインクである第一インクジェットインクを印刷する印刷工程を少なくとも含み、前記アルコール類は、イソプロピルアルコールおよびノルマルプロピルアルコールであり、前記第一インクジェットインクは、前記コート剤として、25℃の前記アルコール類と水との質量比(前記アルコール類:水)が1:1である溶媒に対する溶解度が、0.5質量%以上であって、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーLD、メタクリル酸コポリマーS、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロースおよびポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートのうち少なくとも1種を含有するコート剤を含み、溶媒として、水と前記アルコール類であるイソプロピルアルコールおよびノルマルプロピルアルコールと、を含み、前記溶媒と比較して、前記コート剤の含有割合が低く、前記溶媒は、水の含有量に対する前記アルコール類の含有量の比率が19(前記アルコール類:水=19:1)であることを特徴とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、印刷画像を保護し、且つ印刷画像形成に用いる先刷りインクの吐出安定性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る印刷機の構成例を模式的に示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る錠剤(素錠)の一例を示す概略断面図である。
図3】本発明の実施形態に係る錠剤(フィルムコーティング錠)の一例を示す概略断面図である。
図4】本発明の実施形態に係る錠剤(素錠)の構成例を示す平面図である。
図5】本発明の実施形態に係る錠剤(フィルムコーティング錠)構成例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態に係るインクジェットインクは、例えば、医療用錠剤の表面に印刷された印刷画像(文字や画像等)の保護を目的とするオーバーコート層を形成するためのオーバーコートインク(第一のインクジェットインクの一例)に関するものである。以下、本発明の実施形態に係るオーバーコートインク及び当該オーバーコートインクで印刷した印刷部を備える錠剤、当該インクジェットインクを印刷する印刷機の構成、および当該錠剤の製造方法について、詳細に説明する。
【0014】
〔インクセット〕
本実施形態では、水溶性インクとオーバーコートインクとの組み合わせを少なくとも含むインクセットが用いられる。このインクセットは、インクジェット方式によって基材(例えば固体製剤)に印刷を行うインクジェットプリンタ(印刷機の一例)において用いられる。印刷対象となる印刷用基材(例えば固体製剤)上には、水溶性インクによって印刷画像が形成される。本実施形態では、当該印刷画像上に、オーバーコートインクをさらに印刷することによってオーバーコート層を形成する。これにより、当該印刷画像が保護されて転写等を防止することができ、また印刷画像を基材に定着させることができる。
【0015】
上述のように、本実施形態に係るオーバーコートインクおよび水溶性インク(第二のインクジェットインクの一例)は、いずれもインクジェットインク、すなわちインクジェットプリンタに用いられるインク組成物である。また、本実施形態に係るオーバーコートインクおよび水溶性インクはいずれも可食性を有している。オーバーコートインク及び水溶性インクにおける可食性は、例えば薬事法で定める医薬品添加物、日本薬局方又は食品添加物公定書の基準に適合した材料を用いることで付与される。
【0016】
〔水溶性インクの構成〕
以下、印刷用基材に印刷画像を形成するための水溶性インクの構成を説明する。
本実施形態において、水溶性インクは、水を主溶媒とし少なくとも1種の色材を含有する、水溶性のインクジェットインクである。ここで、水溶性インクは、主溶媒である水に色材が溶解または分散し、安定化しているインクジェットインクを示す。
水溶性インクが含有する色材は可食性のものであれば特に制限はない。本実施形態によるインクジェットインクに添加可能な色素は、例えば、従来公知の合成食用色素、天然食用色素から適宜選択して添加することができる。
【0017】
合成食用色素としては、例えば、タール系色素、天然色素誘導体、天然系合成色素等が挙げられる。タール系色素としては、例えば、食用赤色2号(Amaranth, FDA Name: FD & C Red No.2, Color Index Name: Acid Red 27, CAS Number: 915-67-3)、食用赤色40号(Allura Red AC, FDA Name: FD & C Red No.40, Color Index Name: Food Red 40, CAS Number: 25956-17-6)、食用赤色102号(New Coccine, Color Index Name: Acid Red 18, CAS Number: 2611-82-7)、食用赤色104号(Phloxine, FDA Name: D&C Red No.28, Color Index Name: Acid Red 92, CAS Number: 18472-87-2)、食用赤色105号(Rose bengal, Color Index Name: Acid Red 94, CAS Number: 632-69-9)、食用赤色106号(Acid Red, Color Index Name: Acid Red 52, CAS Number: 3520-42-1)、食用黄色4号(Tartrazine, FDA Name: FD & C Yellow No.5, Color Index Name: Acid Yellow 23, CAS Number: 1934-21-0)、食用黄色5号(Sunset Yellow FCF, FDA Name: FD & C Yellow No.6, Color Index Name: Food Yellow 3, CAS Number: 2783-94-0)、食用青色1号(Brilliant Blue FCF, FDA Name: FD & C Blue No.1, Color Index Name: Food Blue 2, CAS Number: 3844-45-9)、食用青色2号(Indigo Carmine, FDA Name: FD & C Blue No.2, Color Index Name: Acid Blue 74, CAS Number: 860-22-0)、食用赤色2号アルミニウムレーキ(FD & C Red No.2 Aluminum Lake)、食用赤色3号アルミニウムレーキ(FD & C Red No.3 Aluminum Lake)、食用赤色40号アルミニウムレーキ(FD & C Red No.40 Aluminum Lake)、食用黄色4号アルミニウムレーキ(FD & C Yellow No.5 Aluminum Lake)、食用5号アルミニウムレーキ(FD & C Yellow No.6 Aluminum Lake)、食用青色1号アルミニウムレーキ(FD & C Blue No.1 Aluminum Lake)、食用青色2号アルミニウムレーキ(FD & C Blue No.2 Aluminum Lake)等が挙げられる。
天然色素誘導体としては、例えば、ノルビキシンカリウム等が挙げられる。天然系合成色素としては、例えば、β-カロテン、リボフラビン等が挙げられる。
【0018】
なお、上述の「Color Index Name」とは、American Association of Textile Chemists and Colorists(米国繊維化学技術・染色技術協会)により制定されたものである。また、上述の「FDA Name」とは、米国FDA(Food and Drug Administration、米国食品医薬品局)にて制定されたものである。なお、本実施形態では、使用可能な各色素(各物質)をCAS Numberを用いて特定したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、本実施形態に記載した色素(物質)と同一の物質名ではあるが、幾何異性体、立体異性体、同位体元素を含む物質、またはそれらの塩などであるため、異なるCAS Numberが付与された色素(物質)についても勿論、本実施形態では使用可能である。また、異性体等が存在しない場合や、使用可能な色素(物質)が特定(限定)されている場合には、本実施形態に記載のCAS Numberの物質(化合物)そのものが使用可能となる。
【0019】
また、天然食用色素としては、例えば、アントシアニン系色素、カロチノイド系色素、キノン系色素、クロロフィル系色素、フラボノイド系色素、ベタイン系色素、モナスカス色素、その他の天然物を起源とする色素が挙げられる。アントシアニン系色素としては、例えば、赤ダイコン色素、赤キャベツ色素、赤米色素、エルダーベリー色素、カウベリー色素、グーズベリー色素、クランベリー色素、サーモンベリー色素、シソ色素、スィムブルーベリー色素、ストロベリー色素、ダークスィートチェリー色素、チェリー色素、ハイビスカス色素、ハクルベリー色素、ブドウ果汁色素、ブドウ果皮色素、ブラックカーラント色素、ブラックベリー色素、ブルーベリー色素、プラム色素、ホワートルベリー色素、ボイセンベリー色素、マルベリー色素、ムラサキイモ色素、ムラサキトウモロコシ色素、ムラサキヤマイモ色素、ラズベリー色素、レッドカーラント色素、ローガンベリー色素、その他のアントシアニン系色素が挙げられる。カロチノイド系色素としては、例えば、アナトー色素、クチナシ黄色素、その他のカロチノイド系色素が挙げられる。キノン系色素としては、例えば、コチニール色素、シコン色素、ラック色素、その他のキノン系色素が挙げられる。フラボノイド系色素としては、例えば、ベニバナ黄色素、コウリャン色素、タマネギ色素、その他のフラボノイド系色素が挙げられる。ベタイン系色素としては、例えば、ビートレッド色素が挙げられる。モナスカス色素としては、例えば、ベニコウジ色素、ベニコウジ黄色素が挙げられる。その他の天然物を起源とする色素としては、例えば、ウコン色素、クサギ色素、クチナシ赤色素、スピルリナ青色素などが挙げられる。
【0020】
(カーボン)
また、本実施形態において、水溶性インクには、カーボンが含まれてもよい。
水溶性インクに含まれるカーボンは、特に限定されるものではなく、例えば、薬用炭や、備長炭、あるいは竹炭等の植物炭末色素、経口摂取可能なカーボン、または工業用の石油由来のカーボンブラックである。これらカーボンの中でも、特に経口摂取可能なものが好ましい。経口摂取可能なカーボンを用いる場合、本実施形態に係るインクジェットインクを錠剤表面への直接印刷、食品への直接印刷、医薬品及び食品に直接触れるパッケージに用いることができる。
【0021】
(溶媒)
本実施形態において、水溶性インクは、前述の色材(食用染料またはカーボン)を分散させるための溶媒を含んでいる。水溶性インクは、主溶媒としての水と、乾燥溶媒としてのアルコール溶媒とを含んでいる。以下、この主溶媒と乾燥溶媒とについて説明する。
本実施形態に係るインクジェットインクに含まれる主溶媒は水であり、例えば、精製水である。なお、上記「主溶媒」とは、溶媒全体における質量比が最も大きい成分を意味する。本実施形態において、水溶性インクに含まれる主溶媒としての水の割合は、例えば、インクジェットインク全体の50質量%以上である。
【0022】
本実施形態において、水溶性インクに含まれる乾燥溶媒はアルコール溶媒である。アルコール溶媒としては、例えば、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)及びノルマルプロピルアルコール(NPA)のうち少なくとも1種を含んだアルコール溶媒を用いることができる。アルコール溶媒の濃度は、インクジェットインク全体に対して35質量部以下であってもよい。なお、アルコール溶媒の濃度がインクジェットインク全体に対して35質量部を超えると、インクの乾燥性が過度になり、間欠再開性が低下する傾向がある。また、アルコール溶媒の濃度の下限値は、特に制限されるものではないが、例えばインクジェットインク全体に対して0.001質量部以上である。上記数値範囲内であれば、間欠再開性の低下を低減することができる。
【0023】
(分散剤)
本実施形態において、水溶性インクには、前述の色材(食用染料、カーボン)や溶媒以外に、分散剤を含有していてもよい。例えば水溶性インクが、色材としてカーボンを含有する場合、カーボンの分散性を高める分散剤を含有していることが好ましい。当該分散剤は、カーボンの分散性を高めることができ、且つ可食性を有するものであればよい。当該分散剤としては、例えばHLB値が11以上20以下の範囲内であるショ糖脂肪酸エステルを用いることができる。ショ糖脂肪酸エステルの含有量は、前述のカーボンに対して48質量%以上100質量%以下の範囲内であればよい。なお、分散剤であるショ糖脂肪酸エステルの含有量が前述のカーボンに対して48質量%未満であると、カーボンの分散安定性が低下する傾向がある。また、分散剤であるショ糖脂肪酸エステルの含有量が前述のカーボンに対して100質量%を超えると、乾燥性が低下する傾向がある。
【0024】
(湿潤剤)
本実施形態において、水溶性インクは、前述の色材や溶媒、分散剤以外に、湿潤剤を含有してもよく、その含有量は、インクジェットインク全体の質量に対して0.001質量部以上40質量部以下の範囲内であってもよい。このような構成であれば、インクジェットヘッドにおけるノズル(インクジェットノズル)での水溶性インクの乾燥を防止して、インクに十分な間欠再開性を付与することができる。なお、湿潤剤の含有量がインクジェットインク全体に対して0.001質量部未満であると、水溶性インクに乾燥が生じて印
刷再開性が低下する傾向がある。また、湿潤剤の含有量が水溶性インク全体の質量に対して40質量部を超えると、インクの乾燥性が低減し得る。このため、印刷画像上に印刷されるオーバーコートインクが湿潤して印刷画像の保護効果が低減し得る。
【0025】
本実施形態に係る湿潤剤の具体例としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ペンタメチレングリコール、トリメチレングリコール、2-ブテン-1、4-ジオール、2-エチル-1、3-ヘキサンジオール、2-メチル-2、4-ペンタンジオール、トリプロピレングリコール、数平均分子量2000以下のポリエチレングリコール、1、3-プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、グリセリン、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、及びN-エチル-2-ピロリドン等が挙げられる。これら湿潤剤の中でも特に好ましくは、プロピレングリコール及びグリセリンの少なくとも一方を含む湿潤剤である。このような構成であれば、本実施形態において、水溶性インクに十分な乾燥性を付与することができ、且つ印刷再開性の低下をさらに低減することができる。
また、本実施形態に係る湿潤剤は、例えば、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
(バインダー)
本実施形態において、水溶性インクは、前述の色材(食用染料、カーボン)や溶媒、分散剤、湿潤剤以外に、バインダーを含有してもよい。本実施形態において、水溶性インクに添加可能なバインダーは、バインダーとして一般にインクジェットインクに添加されるものであれば特に制限されることはなく、例えば、多糖類を含むものである。また、本実施形態に係るバインダーに含まれる多糖類は、その重量平均分子量が1,000以上10,000以下の範囲内にあるものであればより好ましい。このような構成であれば、水溶性インクに十分な乾燥性を付与することができ、且つ印刷再開性の低下をさらに低減することができる。なお、バインダーである多糖類の重量平均分子量が1,000未満であると、水溶性インクに十分な乾燥性を付与することが困難となる傾向がある。また、バインダーである多糖類の重量平均分子量が10,000を超えると、印刷再開性が低下する傾向がある。
【0027】
また、本実施形態に係るバインダーの含有量は、水溶性インク全体の質量の0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましい。バインダーの含有量が上記範囲内であると、インクの粘度は、インクジェット印刷を好適に行える程度の粘度となる。
本実施形態に係るバインダーとしては、例えば、マルトデキストリン、エリスリトール、PVP(ポリビニルピロリドン)、デキストラン、ポリデキストロース、あるいはトウモロコシ及び小麦等のデンプン物質、カルボキシメチルセルロース及びヒドロキシメチルセルロース等のセルロース系物質、アルギン酸ナトリウム、アラビヤゴム、ローカストビーンガム、トラントガム、グアーガム、及びタマリンド種子等の多糖類が挙げられる。
【0028】
(レベリング剤)
本実施形態において、水溶性インクは、上述の色素や溶媒、或いはバインダー以外に、レベリング剤を含有してもよい。本実施形態において、水溶性インクに添加可能なレベリング剤は、可食性を有し、且つ水溶性の界面活性剤であればよい。上記レベリング剤としては、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル(例:太陽化学社製ジステアリン酸デカグリセリンQ-182S、同社製モノラウリン酸デカグリセリンQ-12S)、ソルビタン脂肪酸エステル(例:日光ケミカルズ社NIKKOLSL-10)、ショ糖脂肪酸エステル(例:第一工業製薬社製 DKエステルF-110)、ポリソルベート(花王社製 エマゾールS-120シリーズ)等が挙げられる。
【0029】
〔オーバーコートインクの構成〕
次に、印刷用基材(例えば固体製剤)において印刷画像上にオーバーコート層を形成するためのオーバーコートインクの構成を説明する。
本実施形態に係るオーバーコートインクは、水およびアルコールのいずれにも溶解するコート剤を含んでいる。コート剤は、オーバーコートインクによるオーバーコート層の形成時において、印刷画像の乾燥性を向上させる。これにより、水溶性インクで形成された印刷画像の転写が防止され、当該印刷画像を保護することができる。
【0030】
また、本実施形態に係るオーバーコートインクは、水およびアルコールのいずれにも溶解するコート剤を含むことにより、水溶性インクの吐出安定性を向上することができる。 水溶性インクには、上述のように乾燥溶媒としてアルコール溶媒を含有する場合がある。本実施形態に係るオーバーコートインクであれば、コート剤が水およびアルコールのいずれにも溶解する構成であることから、アルコール溶媒を含む水溶性インクにも溶解する。このため、例えばオーバーコート層の形成時において、オーバーコートインクが水溶性インクを吐出するインクジェットヘッドに付着したオーバーコートインクは、水溶性インクに溶解することとなる。このため、インクジェットヘッドに付着したオーバーコートインクの凝固を抑制することが可能となり、印刷再開性(間欠再開性)および連続印刷性といった水溶性インクの吐出安定性を向上することができる。間欠再開性は、インクジェットヘッド内に長時間保持されたインクジェットインクを吐出する場合の吐出安定性を示し、連続印刷性はインクジェットインクを連続でインクジェットヘッドから吐出する場合の吐出安定性を示す。
このように、本実施形態に係るオーバーコートインクは、印刷画像の保護と、水溶性インクの吐出安定性の向上とを両立することができる。
【0031】
(コート剤)
本実施形態に係るオーバーコートインクは、バインダーとしてコート剤を含有している。本実施形態に係るオーバーコートインクが含有するコート剤は、上述のように、「水およびアルコールのいずれにも溶解する」という性質を有する。具体的には、本実施形態に係るオーバーコートインクに用いるコート剤は、25℃のエタノールに対する溶解度が1質量%以上であり、25℃のイソプロピルアルコールに対する溶解度が1質量%以上であり、25℃のノルマルプロピルアルコールに対する溶解度が1質量%以上であることが好ましい。
詳しくは後述するが、これらのアルコール類(エタノール、イソプロピルアルコールおよびノルマルプロピルアルコール)は、本実施形態に係るオーバーコートインクの溶媒に用いられる。したがって、本実施形態において、コート剤が上述のアルコール類に対して上述の溶解度の条件を満たすように構成されていることで、オーバーコートインクの製造時におけるコート剤の溶け残り(不溶物)の発生を抑制してコート剤の溶解性を確保することができる。また、上述のアルコール類に対するコート剤の溶解度は、25%以下であればよい。これにより、コート剤の溶け残り(不溶物)の発生をより確実に抑制することができる。
【0032】
また、オーバーコートインクにおけるコート剤は、25℃のアルコール溶媒(エタノール、イソプロピルアルコールおよびノルマルプロピルアルコールのうち少なくとも1種)と水との質量比(アルコール溶媒:水)が1:1である混合溶媒に対する溶解度が、0.5質量%以上であることが好ましい。これにより、アルコール溶媒と水とを混液した混合溶媒にコート剤を添加した場合に溶け残り(不溶物)が発生せず、混合溶媒を使用したオーバーコートインクの製造時におけるコート剤の溶け残りを抑制して、コート剤の溶解性を確保することができる。また、上述の混合溶媒に対するコート剤の溶解度は、25%以下であればよい。
【0033】
また、水、エタノール、イソプロピルアルコールおよびノルマルプロピルアルコールは、上述のとおり、水溶性インクにおいて溶媒に用いられる材料である。つまり、本実施形態において、コート剤がアルコール類、または水とアルコール類とを混液した混合溶媒において上述の溶解度の条件を満たすように構成されていることによって、オーバーコートインクが水溶性インクの溶媒に溶解する。したがって、オーバーコートインクが飛散した場合に、水溶性インクを吐出するインクジェットヘッドにおいてオーバーコートインクが凝固することやコート剤の溶け残り(析出)が抑制され、水溶性インクの吐出安定性をより向上することができる。
【0034】
また、本実施形態に係るオーバーコートインクが含有するコート剤としては、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーLD、メタクリル酸コポリマーS、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロースおよびポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートのうち少なくとも1種が挙げられる。
これらのコート剤であれば、水およびアルコール溶媒(エタノール、イソプロピルアルコールおよびノルマルプロピルアルコール)のそれぞれに対する溶解度の条件を満たし、水溶性インクの吐出安定性を向上させることができる。
本実施形態に係るオーバーコートインクには、コート剤としてこれらのうち少なくとも1種を用いればよく、また2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
また、本実施形態に係るオーバーコートインクにおけるコート剤としては、メタクリル酸コポリマーLまたはアンモニオアルキルメタクリレートコポリマーのうち少なくとも一方を用いることが好ましい。また、水溶性インクで形成された印刷画像の保護の観点からは、乾燥性に優れたアンモニオアルキルメタクリレートコポリマーを用いることがさらに好ましい。これにより、印刷画像の乾燥性がさらに向上して、印刷画像の転写をより確実に防止することができる。
【0036】
また、上述のコート剤の含有量は、本実施形態に係るオーバーコートインク全体に対して、1質量%以上25質量%以下の範囲内であることが好ましい。
コート剤の含有量を1質量%以上25質量%以下の範囲内とすることで、印刷画像の乾燥性向上による印刷画像の保護と、オーバーコートインクおよび水溶性インクの吐出安定性の向上とをより確実に両立することができる。
ここで、吐出安定性の向上の観点からは、コート剤の含有量が10%以下であると好ましく、2.5質量%以下がより好ましい。コート剤の含有量を10%以下とすることで、オーバーコートインクの乾燥によるコート剤の析出を抑制し、間欠再開性および連続印刷性といった吐出安定性をより向上させることができる。また、コート剤の含有量を2.5質量%以下とすることで、吐出安定性をさらに向上させることができる。
また、印刷時におけるオーバーコートインクの使用量の低減の観点からは、コート剤の含有量が10質量%を超えることが好ましい。この場合、コート剤の含有量が10質量%以下の場合と比較して印刷性(吐出安定性)が若干低減する傾向があるものの、印刷時のオーバーコートインクの使用量を少量に抑えることができるため、印刷に係るコストの低減や印刷速度の向上を図ることができる。さらに、乾燥性も向上することができる。
【0037】
(溶媒)
本実施形態に係るオーバーコートインクは、上述のコート剤に加え、当該コート剤を溶解(分散)させるための溶媒(分散媒)を含有している。本実施形態に係るオーバーコートインクには、溶媒として、水(例えば精製水)、エタノール、イソプロピルアルコールおよびノルマルプロピルアルコールのうち少なくとも1種のアルコール類が含まれていればよい。例えば、本実施形態に係るオーバーコートインクの溶媒は、水(例えば精製水)、エタノール、イソプロピルアルコールおよびノルマルプロピルアルコールのうちいずれか1種を単体で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
また本実施形態に係るオーバーコートインクは、溶媒として、水と、エタノール、イソプロピルアルコールおよびノルマルプロピルアルコールのうちいずれか1種のアルコール類とを含んでいてもよい。この場合、当該溶媒における水の含有量は、溶媒全体の質量に対して3質量%以上10質量%以下の範囲内であり、当該溶媒におけるエタノール、イソプロピルアルコールおよびノルマルプロピルアルコールのうち少なくとも1種の含有量は、溶媒全体の質量に対して90質量%以上97質量%以下の範囲内であってもよい。当該溶媒における水の含有量およびアルコール溶媒の含有量が上述の範囲であれば、オーバーコートインクに対し、乾燥性と吐出安定性とが良好なバランスで付与される。その結果として、水溶性インクで形成された印刷画像をより確実に保護し、且つ水溶性インクの吐出安定性をより確実に向上させることができる。
【0039】
また、本実施形態に係るオーバーコートインクにおける溶媒において、水の含有量に対するアルコール溶媒の含有量の比率が、1.2以上19以下(アルコール溶媒:水=1.2:1以上19:1以下)の範囲内であることが好ましい。これにより、オーバーコートインクに対して乾燥性と吐出安定性とがさらに良好なバランスで付与され、その結果として、水溶性インクで形成された印刷画像をさらに確実に保護し、且つ水溶性インクの吐出安定性をさらに確実に向上させることができる。
【0040】
オーバーコートインクに用いる上述のコート剤は、水よりもアルコール溶媒に対して溶解し易い傾向がある。このため、オーバーコートインクの溶媒には、水よりもアルコール溶媒を多く含むことにより、オーバーコートインクにおけるコート剤の溶け残り(析出)を抑制することができる。また、印刷画像の保護の観点から、オーバーコートインクは水溶性インクよりも早く乾燥することが求められる。このため、本実施形態に係るオーバーコートインクにおける溶媒は、水の含有量に対するアルコール溶媒の含有量の比率を上述の範囲内とし、乾燥性に優れたアルコール溶媒を多く含む構成とすることが好ましい。
また、上述のコート剤は水への相溶性を有することから、コート剤を溶解させる溶媒は、アルコール溶媒単独の場合に比べ、アルコール溶媒に加えて若干量の水を含有する混合溶媒とする方が好ましい。したがって、本実施形態に係るオーバーコートインクにおける溶媒は、水の含有量に対するアルコール溶媒の含有量の比率が9以上19以下(アルコール溶媒:水=9:1以上19:1以下)となる混合溶媒とすることがさらに好ましい。これにより、オーバーコートインクに対して乾燥性と吐出安定性とをさらに良好なバランスで確実に付与することができ、水溶性インクを吐出するインクジェットヘッドにおけるオーバーコートインクの凝固やコート剤の析出をより確実に抑制することができる。
【0041】
また、オーバーコートインクに用いるアルコール溶媒であるエタノール、イソプロピルアルコール及びノルマルプロピルアルコールは、単独で用いた場合に白濁が生じ得るため、オーバーコートインクにおける溶媒は、水との混合溶媒とすることが好ましい。
【0042】
本実施形態に係るオーバーコートインクは、無色であって光透過性を有していることが好ましい。これにより、オーバーコート層を介して印刷画像を観察した場合における視認性が低下することを抑制できる。なお、本発明はこれに限られず、印刷画像の視認性に悪影響を及ぼさない範囲において、オーバーコートインクが有色で光透過性を有することを妨げるものではない。
【0043】
(紫外線発光剤)
本実施形態に係るオーバーコートインクは、上述のコート剤及び溶媒に加え、紫外線発光剤(以下、「UV発光剤」とも記載する)を含有してもよい。
上述のように、本実施形態に係るオーバーコートインクは、無色であって光透過性を有していることが好ましい。したがって、可視光領域に感度をもつ可視光カメラでは、印刷基材(例えば、固体製剤)上に形成されたオーバーコート層の認識が困難である。
オーバーコートインクにUV発光剤を添加することにより、紫外線照明と紫外線に感度をもつセンサを備える紫外線カメラとを用いてオーバーコート層を認識することができる。これにより、印刷基材上におけるオーバーコート層の形成状態(例えば、オーバーコート層が印刷画像をコーティングできているか等)確認するための検査(UV検査)を行い、印刷画像が形成された固体製剤(例えば、錠剤)の印刷部に係る品質評価を行うことができる。
【0044】
本実施形態に係るオーバーコートインクは、UV発光剤として、上述の溶媒(水、エタノール、イソプロピルアルコールおよびノルマルプロピルアルコールのうち少なくとも1種)に対する溶解度(温度25℃)が0.05%以上のリボフラビン類を含むことが好ましい。
これにより、オーバーコートインクの製造時におけるUV発光剤の溶け残りを抑制し、溶媒におけるUV発光剤の溶解性を確保することができる。
【0045】
また、本実施形態に係るオーバーコートインクにおいてUV発光剤(本例では、リボフラビン類)の含有量は、オーバーコートインク全体の質量の0.001質量%以上1.0質量%以下の範囲内であることが好ましい。
UV発光剤の含有量が、上記範囲内であることにより、UV検査時においてUVカメラによるオーバーコート層の認識が可能となり、且つオーバーコートインクの吐出安定性を向上することができる。
また、本実施形態に係るオーバーコートインクにおいて、UV発光剤に用いるリボフラビン類は、リボフラビン酪酸エステルまたはリボフラビンリン酸エステルナトリウム、あるいはその混合物であることが好ましい。
上述のリボフラビン類であれば、紫外線照明の照射時において発光が強く、ごく少量の添加でもUVカメラによって発光を確認することができる。また、上述のリボフラビン類を用いることにより、オーバーコートインクの乾燥性および透明性を維持することができる。
【0046】
また、本実施形態に係るオーバーコートインクは、上述のコート剤、溶媒、UV発光剤以外に、上述の水溶性インクと同様のバインダーおよびレベリング剤を含有してもよい。
【0047】
〔印刷機〕
次に、図1を用いて、本実施形態に係る印刷機について説明する。図1は、本実施形態に係る印刷機50の一部を模式的に示す図である。
本実施形態に係る印刷機50は、少なくとも、2種類以上のインクジェットインクを印刷可能な印刷機である。印刷機50において印刷可能な2種類以上のインクジェットインクには、水およびアルコールのいずれにも溶解するコート剤を含むオーバーコートインク、および水を主溶媒とし少なくとも1種の色材を含有する水溶性インクが少なくとも含まれていればよい。つまり、印刷機50は、上述の水溶性インクおよびオーバーコートインクの組合せを少なくとも含むインクセットを用いて印刷を行うことができる。
【0048】
また、本実施形態に係る印刷機50は、印刷用基材15に対して、水溶性インクを印刷した後に、本実施形態に係るオーバーコートインクを重ねて印刷可能である。これにより、本実施形態に係る印刷機50は、水溶性インクによる印刷画像を保護することができ、かつ、水溶性インクの吐出安定性を向上することができる。以下、水溶性インクの印刷を「先刷り」、水溶性インクの印刷後におけるオーバーコートインクの印刷を「後刷り」と称する場合がある。
【0049】
図1に示すように、本実施形態に係る印刷機50は、インクジェットヘッド51を備えている。インクジェットヘッド51は、水溶性インクを吐出後に、オーバーコートインクを吐出可能に構成されている。具体的には、インクジェットヘッド51は、水溶性インクを吐出する先刷りインクジェットヘッド(第二インクジェットヘッドの一例)51aと、オーバーコートインクを吐出する後刷りインクジェットヘッド(第一インクジェットヘッドの一例)51bとで構成される。
【0050】
印刷機50は、コンベア52上を搬送される印刷用基材15が、後刷りインクジェットヘッド51bよりも早く、先刷りインクジェットヘッド51aの下方を通過するように構成されている。つまり、本実施形態に係る印刷機50は、先刷りインクジェットヘッド51aにおいて水溶性インクを吐出後に、後刷りインクジェットヘッド51bからオーバーコートインクを吐出するように構成されている。
これにより、印刷機50は、印刷用基材15に対して水溶性インクを先刷りし、先刷りで形成された印刷画像上に、本実施形態に係るオーバーコートインクを後刷りすることができる。このように、本実施形態に係る印刷機50は、先刷り処理及び後刷り処理を一の印刷機内で行うインラインプロセスを実行可能に構成されている。
【0051】
図1に示すように、本実施形態に係る印刷機50では、インラインプロセスによる後刷先刷り処理の終了から後刷り処理の開始までの時間(後刷り開始時間)は、0.1秒以上1.0秒以下の期間内であることが好ましい。このとき、印刷速度は、200mm/s以上2000mm/sの範囲内であればよい。これにより、水溶性インクで形成された印刷画像に滲みが生じることを抑制しつつ、印刷画像上に速やかにオーバーコート層を形成して、印刷画像を保護することができる。また、後刷り開始時間を上記範囲内とするため、先刷りインクジェットヘッド51aと後刷りインクジェットヘッド51bとは、近接した距離に設けられている。例えば、先刷りインクジェットヘッド51aと後刷りインクジェットヘッド51bとの間は、インクジェットヘッドの中心間距離で40mm以上200mm以下の範囲内であればよい。
【0052】
このように、本実施形態に係る印刷機50では、先刷りインクジェットヘッド51aと後刷りインクジェットヘッド51bとが近接しているため、後刷り印刷時、すなわちオーバーコート層の形成時において、後刷りインクジェットヘッド51bから吐出されたオーバーコートインクが霧状に飛散して、先刷りインクジェットヘッド51aに付着する場合がある。この場合であっても、本実施形態に係るオーバーコートインクは、上述のように水およびアルコールのいずれにも溶解するコート剤を含む構成により、水溶性インクに対して溶解可能である。したがって、インクジェットヘッド51aに付着したオーバーコートインクの凝固やコート剤の析出が抑制され、インクジェットヘッド51aからの水溶性インクの吐出安定性を向上することができる。
【0053】
なお、本発明において、印刷機50の構成はこれに限られない。例えば、印刷機50において、インクジェットヘッドは1つであってもよい。この場合、一のインクジェット内において2系統のノズルを配置し、一のノズルから先刷り用の水溶性インクを吐出し、他のノズルから後刷り用のオーバーコートインクを吐出する構成とすればよい。つまり、印刷機50は、一のノズルから水溶性インクを吐出して印刷用基材15に対して先刷りを行い、次いで、他のノズルからオーバーコートインクを吐出して印刷用基材15に対して後刷りを行えばよい。
このように、印刷機50は、インクジェットヘッドが2系統のノズルを有する場合、1つ以上のインクジェットヘッドを備えていればよい。これにより、一のインクジェットヘッドから2種類のインクジェットインク(本例では、水溶性インクおよびオーバーコートインク)を吐出して、2種類のインクジェットインクによる印刷を行うことができる。
【0054】
また、本実施形態に係る印刷機50は、インクジェットヘッド51のノズルメンテナンス等により印刷用基材が無い状態で吐出されたインクジェットインクを回収する機構である廃液機構53を備えている。廃液機構53は、吐出されたインクジェットインクを貯留する受け皿として構成されてもよいし、吐出されたインクジェットインクを印刷機50の所定位置に設けられた廃液貯留部や印刷機50の外部に排出するための配管として構成されてもよい。また、廃液機構53として用いる受け皿や配管は、インクジェットインクが流入する流入口は水性インク用とオーバーコートインク用との2系統に分かれており、内部で、1系統に統合される構成であってもよい。
【0055】
廃液機構53内では、吐出された水溶性インクおよびオーバーコートインクが混合されることとなる。水不溶性のコート剤を用いる従来のオーバーコートインクは、水溶性インクと混合された場合に、廃液機構内において凝固し得ることから、従来の印刷機では、水溶性インク用の廃液機構とオーバーコートインク用の廃液機構とを設ける必要があった。このため、印刷機の構造の複雑化や製造コスト増加、印刷機のサイズの増大といった問題が生じていた。
これに対し、本実施形態に係るオーバーコートインクでは、上述のように水溶性インクに対して溶解するため、水溶性インクと混合された場合においても凝固やコート剤の析出が生じない。このため、廃液機構を統合して、水溶性インクとオーバーコートインクとで共通の廃液機構53を用いることができる。これにより、本実施形態に係る印刷機50は、印刷機の構造を簡略化して製造コストを低減することができ、さらに印刷機のサイズの増大を抑制することができる。
【0056】
また、本実施形態に係る印刷機50は、インクジェットインクであるオーバーコートインクおよび水溶性インクを印刷可能であればよく、例えばインクジェットプリンタ等のインクジェット装置を用いることができる。このため、本実施形態に係るオーバーコートインクおよび水溶性インクは、応用範囲が広く、非常に有用である。また例えば、本実施形態に係る印刷機50としては、ピエゾ素子(圧電セラミックス)をアクチュエータとする、所謂ドロップオンデマンド方式のインクジェット装置でもよいし、他の方式のインクジェット装置を用いてもよい。
【0057】
ドロップオンデマンド方式のインクジェット装置としては、例えば、微小発熱素子を瞬間的に高温(200~300℃)にすることで発生する水蒸気圧力でインクジェットインクを吐出するサーマルインクジェット方式を採用した装置や、アクチュエータを静電気振動させることでインクジェットインクを吐出する静電タイプの装置、超音波のキャビテーション現象を利用する超音波方式を採用した装置等が挙げられる。また、本実施形態に係る印刷機50において用いるインクジェットインク(本例では、水溶性インクおよびオーバーコートインク)が荷電性能を備えていれば、連続噴射式(コンティニュアス方式)を採用した装置を利用することも可能である。
【0058】
〔錠剤〕
本実施形態では、印刷用基材として、錠剤を用いてもよい。具体的には、本実施形態に係るオーバーコートインクを、印刷機50を用いて、例えば錠剤の表面に印字、印画してもよい。つまり、本実施形態に係る錠剤は、本実施形態に係るオーバーコートインクを用いて印刷した印刷部、すなわちオーバーコート層(例えば、オーバーコート層23)を少なくとも含む印刷部を備えていればよい。また、オーバーコート層は、本実施形態に係るオーバーコートインクであれば、例えば、医療用錠剤の表面にインクジェット印刷法を用いて施された印刷画像(例えば、印刷画像3)を保護し、かつインクジェットヘッド51aに付着したオーバーコートインクの凝固やコート剤の析出を抑制して水溶性インクの吐出安定性を向上させることができる。以下、本実施形態に係るオーバーコートインクで印刷したオーバーコート層および水溶性インクで形成した印刷画像を備える錠剤の構成について説明する。
本実施形態に係る錠剤は、例えば、医療用錠剤である。ここで、「医療用錠剤」とは、例えば、素錠(裸錠)、糖衣錠、腸溶錠、口腔内崩壊錠などのほか、錠剤の最表面に水溶性表面層が形成されているフィルムコーティング錠などを含むものである。
【0059】
図2は、印刷(印字、印画)がなされた医療用錠剤の一例を示す概略断面図である。図2には、断面視で、素錠である錠剤100の基材1の上面に文字などの印刷画像3が印刷され、さらに印刷画像3上にオーバーコート層23を設けた素錠印刷物5が示されている。
図3は、印刷(印字、印画)がなされた医療用錠剤の一例を示す概略断面図である。図3には、断面視で、フィルムコーティング錠である錠剤200表面にフィルムコート層7が形成された錠剤の基材1の上面に文字などの印刷画像3が印刷され、さらに印刷画像3上にオーバーコート層23を設けた印刷部30を備えるフィルムコート錠印刷物9が示されている。
【0060】
上述のように、印刷画像3は水溶性インクで形成され、オーバーコート層23は本実施形態に係るオーバーコートインクで形成される。つまり、本実施形態に係る錠剤100,200は、水を主溶媒とし少なくとも1種の色材を含有する水溶性インクで形成された印刷画像3と、印刷画像3の上にオーバーコートインクを重ねて印刷することにより形成されたオーバーコート層23とを有する印刷部30を備えている。
これにより、本実施形態に係る錠剤100,200は印刷画像3を保護可能であり、かつインクジェットヘッド51aに付着したオーバーコートインクの凝固やコート剤の析出を抑制して、水溶性インクの吐出安定性を向上させることができる。
【0061】
また、図4は、錠剤100の構成例を示す平面図であり、図5は、錠剤200の構成例を示す平面図である。図4および図5に示すように、本実施形態に係る錠剤100,200において、オーバーコート層23は、水溶性インクで形成された印刷画像3を覆うようにして形成される。これにより、オーバーコート層23は、印刷画像3の乾燥性、耐擦過性等を向上させて印刷画像3の転写を防止し、印刷画像3を保護することができる。
なお図2から図5では、理解を容易にするため、オーバーコート層23を斜線網掛けによって図示しているが、上述のように、本実施形態に係るオーバーコートインクは光透過性を有しているため、実際は、可視光下においてオーバーコート層23は視認されない。このため、オーバーコート層23を介して印刷画像3を観察した場合の視認性の低下を抑制することができる。
なお本発明において、印刷画像3は文字に限られず、ベタ画像を印刷してもよい。また、例えばフィルムコーティング錠である錠剤200には印刷画像3として、二次元バーコードを印刷してもよい。
【0062】
医療用錠剤中に含有される活性成分は特に限定されない。例えば、種々の疾患の予防・治療に有効な物質(例えば、睡眠誘発作用、トランキライザー活性、抗菌活性、降圧作用、抗アンギナ活性、鎮痛作用、抗炎症活性、精神安定作用、糖尿病治療活性、利尿作用、抗コリン活性、抗胃酸過多作用、抗てんかん作用、ACE阻害活性、β-レセプターアンタゴニストまたはアゴニスト活性、麻酔作用、食欲抑制作用、抗不整脈作用、抗うつ作用、抗血液凝固活性、抗下痢症作用、抗ヒスタミン活性、抗マラリア作用、抗腫瘍活性、免疫抑制活性、抗パーキンソン病作用、抗精神病作用、抗血小板活性、抗高脂血症作用等を有する物質など)、洗浄作用を有する物質、香料、消臭作用を有する物質等を含むが、それらに限定されない。
【0063】
本実施形態に係る錠剤は、必要に応じて、活性成分とともにその用途上許容される担体を配合することができる。例えば、医療用錠剤であれば、医薬上許容される担体を配合することができる。医薬上許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、増粘剤等が適宜適量配合される。また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等の添加物を用いることもできる。
【0064】
本実施形態では、錠剤として医療用錠剤を例に挙げて説明したが、本発明のこれに限定されるものではない。本実施形態に係るオーバーコートインクおよび水溶性インクの印刷対象は特に制限されず、例えば、ヒト以外の動物(ペット、家畜、家禽等)に投与する錠剤、飼料、肥料、洗浄剤、ラムネ菓子などの錠菓やサプリメント等の食品といった各種錠剤の表面に印刷してもよい。また、本実施形態に係るオーバーコートインクおよび水溶性インクは、印刷対象のサイズについても特に制限されず、種々のサイズの錠剤について適用可能である。
【0065】
(錠剤の製造方法)
本実施形態に係る錠剤(例えば、錠剤100,200)の製造方法は、水およびアルコールのいずれにも溶解するコート剤を含む本実施形態に係るオーバーコートインクを印刷する印刷工程を少なくとも含んでいればよい。また、当該印刷工程は、水を主溶媒とし少なくとも1種の色材を含有する水溶性インクを印刷して印刷画像3を形成する先刷り印刷工程と、当該先刷り印刷工程において形成された印刷画像3上に、オーバーコートインクを重ねて印刷する後刷り印刷工程と、を含んでいることが好ましい。
本実施形態に係る錠剤の製造方法によれば、オーバーコート層23の形成により、錠剤に印刷された印刷画像3を保護し、かつインクジェットヘッド51aに付着したオーバーコートインクの凝固やコート剤の析出を抑制して水溶性インクの吐出安定を向上させることができる。
また、錠剤100,200の製造方法における印刷工程は、上述した本実施形態に係る印刷機50を用いて行えばよい。
【0066】
(本実施形態の効果)
(1)本実施形態に係るインクジェットインクであるオーバーコートインクは、水およびアルコールのいずれにも溶解するコート剤を含んでいる。
このような構成であれば、印刷画像を保護することができ、且つ、従来技術と比較して、先刷りインクとして用いる水溶性インクの吐出安定性を向上することができる。
【0067】
(2)また、本実施形態に係るインクジェットインクであるオーバーコートインクが含有するコート剤は、エタノールに対する溶解度が1質量%であり、イソプロピルアルコールに対する溶解度が1%であり、ノルマルプロピルアルコールに対する溶解度が1%である。
このような構成であれば、本実施形態に係るオーバーコートインクにおける溶媒が、水及びアルコールで構成された混合溶媒である場合にも、コート剤の溶け残りの発生(析出)が抑制されるとともに、先刷りインクとして用いる水溶性インクの吐出安定性を向上することができる。
【0068】
(3)また、本実施形態に係るインクジェットインクに含まれるコート剤は、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーLD、メタクリル酸コポリマーS、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロースおよびポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートのうち少なくとも1種を含んでいればよい。
このような構成であれば、水およびアルコール溶媒(エタノール、イソプロピルアルコールおよびノルマルプロピルアルコール)のそれぞれに対するコート剤の溶解度条件を満たし、且つ、従来技術と比較して、先刷りインクである水溶性インクの吐出安定性を向上させることができる。
【0069】
(4)また、本実施形態に係るインクジェットインクであるオーバーコートインクにおけるコート剤の含有量は、インクジェットインク(オーバーコートインク)全体に対して1質量%以上25質量%以下の範囲内であってもよい。
このような構成であれば、印刷画像の乾燥性向上による印刷画像の保護と、オーバーコートインクおよび先刷りインクである水溶性インクの吐出安定性の向上と確実に両立することができる。
(5)また、本実施形態に係るインクジェットインクであるオーバーコートインクは、溶媒として、水、エタノール、イソプロピルアルコールおよびノルマルプロピルアルコールのうち少なくとも1種のアルコール類を含んでいてもよい。
このような構成であれば、従来技術と比較して、先刷りインクとして用いる水溶性インクの吐出安定性を向上するとともに、オーバーコートインクの吐出安定性を向上することができる。
(6)また、本実施形態に係るインクジェットインクであるオーバーコートインクは、溶媒として、水と、アルコール類(エタノール、イソプロピルアルコールおよびノルマルプロピルアルコールのうち少なくとも1種)とを含み、溶媒において、水の含有量に対するアルコール類の含有量の比率が9以上19以下(アルコール類:水=9:1以上19:1以下)の範囲内であってもよい。
このような構成であれば、オーバーコートインクに対して乾燥性と吐出安定性とが良好なバランスで付与され、且つ水溶性インクを吐出するインクジェットヘッドにおけるオーバーコートインクの凝固やコート剤の析出をより確実に抑制することができる。
(7)また、本実施形態に係るインクジェットインクであるオーバーコートインクは、溶媒として、水と、アルコール類(エタノール、イソプロピルアルコールおよびノルマルプロピルアルコールのうち少なくとも1種)とを含み、水の含有量は、溶媒全体の質量に対して3質量%以上10質量%以下の範囲内であり、当該アルコール類の含有量は、溶媒全体の質量に対して90質量%以上97質量%以下の範囲内であってもよい。
このような構成であれば、水溶性インクで形成された印刷画像をより確実に保護し、且つ先刷りインクである水溶性インクの吐出安定性をより確実に向上させることができる。
【0070】
(8)また、本実施形態に係るインクジェットインクであるオーバーコートインクは、溶媒に対する溶解度が0.05質量%以上であるリボフラビン類を含んでいてもよい。
このような構成であれば、UV検査を行うことで、本実施形態に係る錠剤の印刷部に係る品質評価を行うことができる。
(9)また、本実施形態に係るインクジェットインクであるオーバーコートインクが含有するリボフラビン類は、リボフラビン酪酸エステル、リボフラビンリン酸エステルナトリウム、または当該リボフラビン酪酸エステルと当該リボフラビンリン酸エステルナトリウムとの混合物であってもよい。
このような構成であれば、紫外線照明の照射時において発光が強く、ごく少量の添加でもUVカメラによって発光を確認することができる。また、上述のリボフラビン類を用いることにより、オーバーコートインクの乾燥性および透明性を維持することができる。
【0071】
(10)また、本実施形態に係る錠剤100,200は、上述した(1)から(9)のインクジェットインクであるオーバーコートインクで印刷した印刷部30を備えている。
このような構成であれば、印刷部30における印刷画像3を保護し、且つ、従来技術と比較して、先刷りインクである水溶性インクの吐出安定性を向上させることができる。
(11)また、本実施形態に係る錠剤100,200における印刷部30は、水を主溶媒とし少なくとも1種の色材を含有するインクジェットインクである水溶性インクで形成された印刷画像3と、印刷画像3の上に、インクジェットインクであるオーバーコートインクを重ねて印刷することにより形成されたオーバーコート層23と、を有していてもよい。
本実施形態による錠剤によれば、オーバーコート層23により印刷画像3が確実に保護される。
【0072】
(12)また、本実施形態に係る印刷機50は、少なくとも2種類以上のインクジェットインクを印刷用基材15に印刷可能な印刷機であって、2種類以上の当該インクジェットインクには、上述した(1)から(9)のインクジェットインクであるオーバーコートインク、および水を主溶媒とし少なくとも1種の色材を含有するインクジェットインクである水溶性インクが少なくとも含まれ、印刷用基材15に対して、水溶性インクを印刷した後にオーバーコートインクを重ねて印刷可能である。
このような構成であれば、印刷画像を保護することができ、且つ、従来技術と比較して、先刷りインクとして用いる水溶性インクの吐出安定性を向上することができる。
(13)また、本実施形態に係る印刷機50は、水溶性インクを吐出後に、オーバーコートインクを吐出可能なインクジェットヘッド51を備える。
このような構成であれば、印刷画像を確実に保護することができ、且つ、従来技術と比較して、先刷りインクとして用いる水溶性インクの吐出安定性をより向上することができる。
(14)また、本実施形態に係る印刷機50は、オーバーコートインクを吐出する後刷りインクジェットヘッド51bと、水溶性インクを吐出する先刷りインクジェットヘッド51aと、を備え、先刷りインクジェットヘッド51aにおいて水溶性インクを吐出後に、後刷りインクジェットヘッド51bからオーバーコートインクを吐出してもよい。
このような構成であれば、印刷画像3を確実に保護することができ、且つ、従来技術と比較して、先刷りインクとして用いる水溶性インクの吐出安定性をより確実に向上することができる。
【0073】
(15)また、本実施形態に係る錠剤100,200の製造方法は、水およびアルコールのいずれにも溶解するコート剤を含むインクジェットインクであるオーバーコートを印刷する印刷工程を少なくとも含んでいる。
このような構成であれば、印刷画像を保護することができ、且つ、従来技術と比較して、先刷りインクとして用いる水溶性インクの吐出安定性を向上することができる。
(16)また、本実施形態に係る錠剤100,200の製造方法における印刷工程は、水を主溶媒とし少なくとも1種の色材を含有する水溶性インクを印刷して印刷画像3を形成する先刷り印刷工程と、先刷り印刷工程において形成された印刷画像3上に、オーバーコートインクを重ねて印刷する後刷り印刷工程と、を含んでいてもよい。
このような構成であれば、印刷画像3を確実に保護することができ、且つ、従来技術と比較して、先刷りインクとして用いる水溶性インクの吐出安定性をより確実に向上することができる。
【0074】
[実施例]
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明は、実施例により何ら限定されるものではない。
(水溶性インクの製造)
以下、実施例および比較例において先刷りインクとして用いる、水溶性インクの調製手順を説明する。
下記表1に示すように、水溶性インクとして染料インク2種類(染料インク1,2)と顔料インク2種類(顔料インク1,2)の4種類を用意した。各水溶性インクは、色材、有機溶媒、水、添加剤(分散剤、バインダー)の各成分を含んでいる。調製の順序としては、最初に、水と有機溶媒とを混合して混合溶媒を得た。次に、その混合溶媒に、色材を添加し、その後に必要に応じて添加剤を添加した。最後に、この混合液をペイントシェーカー等の分散機に入れ、規定時間微細化して分散させた。こうして、本実施例に係る先刷りインクとして水溶性のインクジェットインクを調製した。以下、具体的に各種成分について説明する。
【0075】
水溶性インクを構成する水には、精製水(イオン交換水)を用いた。
色材は、染料インクでは青色1号を用い、顔料インクでは竹炭(カーボン)を用いた。 有機溶媒には、エタノール、プロピレングリコール、およびグリセリンをそれぞれ用いた。
また、添加剤には、分散剤としてショ糖脂肪酸エステル(第一工業製薬株式会社、DKエステル SS)、バインダーとして還元イソマルツロースを用いた。
なお、前述の水溶性インクを、それぞれメンブレンフィルターを通過させることによって液中の固体異物を除去した。具体的には、口径5.0μmのメンブレンフィルター(酢酸セルロース膜)を1回透過させ、続いて口径0.8μmのメンブレンフィルター(酢酸セルロース膜)を1回透過させることで精製インクを得た。
各水溶性インク(染料インク1,2および顔料インク1,2)の組成は、表1に示すとおりとした。なお、表1中の「-」は、当該物質を使用していないことを示す。
【0076】
【表1】
【0077】
以下、実施例および比較例におけるオーバーコートインクの調製手順を説明する。
(オーバーコートインクの製造)
オーバーコートインクは、コート剤、乾燥溶媒、水、UV発光剤の各成分を含んでいる。調製の順序としては、最初に、溶媒を得た。溶媒は、水、乾燥溶媒(エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、ノルマルプロピルアルコール(NPA))をそれぞれ単体、または混合して用いた。次に、その溶媒に、コート剤を添加し、さらに必要に応じてUV発光剤を添加した。最後に、この混合液をペイントシェーカー等の分散機に入れ、規定時間微細化して分散させた。こうして、本実施例に係るインクジェットインクであるオーバーコートインクを調製した。
【0078】
なお、前述のオーバーコートインクを、それぞれメンブレンフィルターを通過させることによって液中の固体異物を除去した。具体的には、口径5.0μmのメンブレンフィルター(酢酸セルロース膜)を1回透過させ、続いて口径0.8μmのメンブレンフィルター(酢酸セルロース膜)を1回透過させることで精製インクを得た。
実施例1~143および比較例1及び2の組成は、以下の表2から表8に示すとおりである。なお、表2から表8中の「オーバーコートインク組成」欄における「-」は、当該物質を使用していないことを示す。
【0079】
<評価>
上記各実施例及び各比較例のオーバーコートインクによる上記精製インクについて、以下の方法で吐出安定性、印刷画像耐転写性評価、およびUV発光性能を評価した。評価結果を上記各実施例及び各比較例のインク組成と併せて表2から表8に示している。なお、表2から表8中の「評価」欄における「-」は、当該インクを使用していない、または当該評価を実施していないことを示す。
【0080】
<吐出安定性評価>
表2から表8に示すように、当該評価では水溶性インクとして、染料1,2および顔料1,2をそれぞれ先刷りインクとして用いた。例えば、実施例9から52では、各評価時において、染料1,2および顔料1,2の4種類の水溶性インクのそれぞれによる先刷り印刷と、オーバーコートインクによる後刷り印刷とを行った。つまり、4種類の水溶性インクのそれぞれについて、オーバーコートインクとの組み合わせ印刷を実施した。
(1)連続印刷性評価
先刷り用のインクジェットヘッドとして、印刷解像度が主走査方向600dpi、副走査方向(錠剤等の記録媒体の搬送方向)600dpi、トータルノズル数2,656の圧電セラミック駆動のドロップオンデマンド型インクジェットヘッドを用いた。また、後刷り用のインクジェットもヘッドも同様の構成とした。そして、規定時間(5分から30分間)フラッシングした後、インクジェットヘッドを用いて、1ドロップ6plの印刷ドロップ量にて、テストパターンを連続印刷し、全ノズルから不吐出量なく吐出できているか否かを確認した。このとき、2つのインクジェットヘッドの中心間距離を100mmとした。また、印刷速度は、300mm/sとし、先刷り処理の終了から後刷り処理の開始までの時間は、0.5秒とした。
なお、表2から表8では、連続印刷性の評価結果として、インクの吐出が可能であった連続印刷時間を測定した。評価基準は以下の通りである。
◎ :連続印刷時間が30分以上
〇+:連続印刷時間が20分以上30分未満
〇 :連続印刷時間が10分以上20分未満
△ :連続印刷時間が5分以上10分未満
× :連続印刷時間が5分未満
【0081】
(2)間欠再開性の評価
先刷り用のインクジェットヘッドには、印刷解像度が主走査方向600dpi、副走査方向(錠剤等の記録媒体の搬送方向)600dpi、トータルノズル数2,656の圧電セラミック駆動のドロップオンデマンド型インクジェットヘッドを用いた。また、後刷り用のインクジェットもヘッドも同様の構成とした。規定時間(5分~30分間)フラッシングなく上記インクを上記インクジェットヘッド内にて放置した後、上記インクジェットヘッドを用いて、1ドロップ6plの印刷ドロップ量にてテストパターンを印刷した。そして、テストパターンの印刷状況から、全ノズルから不吐出量なく吐出できているか否かを確認した。このとき、2つのインクジェットヘッドの中心間距離を100mmとした。また、印刷速度は、300mm/sとし、先刷り処理の終了から後刷り処理の開始までの時間は、0.5秒とした。
なお、表2から表8では、間欠再開性の評価結果として、インクの吐出が可能な放置時間を測定した。評価基準は以下の通りである。
◎ :インクの吐出が可能な放置時間が30分以上
〇+:インクの吐出が可能な放置時間が20分以上30分未満
〇 :インクの吐出が可能な放置時間が10分以上20分未満
△ :インクの吐出が可能な放置時間が5分以上10分未満
× :インクの吐出が可能な放置時間が5分未満
【0082】
<印刷画像耐転写性評価>
(1)転写試験による乾燥性の評価
以下の2種類の錠剤1、2に、印刷解像度が主走査方向600dpi、副走査方向(錠剤等の記録媒体の搬送方向)600dpi、トータルノズル数2,656の圧電セラミック駆動のドロップオンデマンド型インクジェットヘッドを用い、1ドロップ10plの印刷ドロップ量にて、水溶性インク(表1の染料インク1)により画像をそれぞれ印刷(先刷り)した。さらに、水溶性インクの印刷に用いたものと同様のロップオンデマンド型インクジェットヘッドを用い、画像上に各実施例及び各比較例によるオーバーコートインクを、錠剤1、2のそれぞれに印刷(後刷り)した。このとき、2つのインクジェットヘッドの中心間距離を100mmとした。また、印刷速度は、300mm/sとし、先刷り処理の終了から後刷り処理の開始までの時間は、0.5秒とした。
また、比較用のサンプルとして、別途、水溶性インク(染料インク1)のみを印刷した錠剤1、2を用意した。
・錠剤1(フィルムコーティング錠)
錠剤の表面に、ヒドロキシプロピルセルロースやヒドロキシプロピルメチルセルロース等にポリエチレングリコールや酸化チタン顔料等を含有させて被覆層を形成した錠剤種
・錠剤2(難印刷錠)
錠剤の表面に、ポリビニルアルコールにポリエチレングリコールや酸化チタン顔料等を含有させて被覆層を形成した錠剤種
【0083】
印刷10秒後、水溶性インク(染料インク1)および各実施例及び各比較例によるオーバーコートインクが印刷された錠剤に、デジタルフォースゲージに貼り付けた錠剤を2~3Nの圧力で、0.4~0.5秒間接触させ、印刷したインクが転写しないか否かを確認した。また同様に、水溶性インクのみを印刷した錠剤に、デジタルフォースゲージに貼り付けた錠剤を2~3Nの圧力で、0.4~0.5秒間接触させ、印刷したインクが転写しないか否かを確認した。
なお、表2から表8では、乾燥性の評価結果として、転写したインクの濃度を目視した。評価基準は以下の通りである。
◎ :水溶性インクの転写がない場合
○+:水溶性インクの転写がごく僅かであり、目視確認が難しい場合
〇 :転写された水溶性インクの色は薄いが、容易に目視確認できる場合
△ :水溶性インクのみと比較すると転写された水溶性インクの色は薄いが、水溶性インクが色濃く転写された場合
× :水溶性インクのみと比べて、水溶性インクが色濃く転写した場合
【0084】
<UV発光性能評価>
UV発光剤を添加した実施例39~52、実施例83~96、実施例127~140によるオーバーコートインクについて、以下のとおりUV発光性能の評価を行った。
(1)溶解性評価
UV発光剤を添加した上述の各実施例によるオーバーコートインクの製造時において、分散機による分散処理後に、溶媒中にUV発光剤の溶け残りが生じているか否かを目視で判断した。評価基準は以下の通りである。
〇:目視で溶け残りが確認されない
×:目視で溶け残りが確認された
【0085】
(2)発光量評価
UV発光剤を添加した上述の各実施例によるオーバーコートインクを33倍希釈し、蛍光光度計「(株)島津製作所製 RF5300-PC」を用いて、以下の条件下で蛍光光度測定を行い、紫外線照射時における発光量の数値を確認した。
励起波長を445nmとし、400nm~700nmの蛍光波長を測定した。
また、スキャン速度はFast、サンプリング間隔1.0nmとした。
バンド幅は励起、蛍光共に1.5nm、感度High、レスポンスはAutoに設定し、発光量の測定を行った。
評価基準は以下の通りである。
◎:発光量50以上
〇:発光量20以上50未満
△:発光量10以上20未満
×:発光量10未満
なお、UV発光性能評価の結果が不合格であっても、錠剤の品質上には何ら問題はない。
【0086】
各実施例及び比較例のオーバーコートインクの組成および評価結果を表2から表8に示す。
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
【表4】
【0090】
【表5】
【0091】
【表6】
【0092】
【表7】
【0093】
【表8】
【0094】
(吐出安定性の評価結果)
表2から表8に示すように、実施例1~143のオーバーコートインクおよび水溶性インクは、吐出安定性評価(連続印刷性評価、間欠印刷性評価)および印刷画像耐転写性(乾燥性)評価の結果がいずれも「△」以上(合格)であった。
具体的には、実施例1~143において、先刷りインク(水溶性インク)の連続印刷性評価、間欠印刷性評価がすべて合格であることから、水溶性インクによる先刷り印刷および、オーバーコートインクによる後刷り印刷を行った場合に、水溶性インクのインクジェットヘッドに付着したオーバーコートインクの凝固やコート剤の析出の発生が抑制され、水溶性インクの吐出性安定性が向上されていることが分かった。つまり、実施例1~143のオーバーコートインクは、水溶性インクの吐出性安定性を向上できることが分かった。また、同様に、実施例1~143の後刷りインク(オーバーコートインク)は、連続印刷性評価、間欠印刷性評価がすべて合格であり、実施例1~140のオーバーコートインク自体の吐出性安定性が向上されていることが分かった。
さらに、印刷画像耐転写性評価(乾燥性)の結果がすべて合格であることから、実施例1~143のオーバーコートインクは、優れた乾燥性を有し、水溶性インクによって形成した印刷画像を保護できることが分かった。
つまり、実施例1~143のオーバーコートインクは、印刷画像を保護し、且つ水溶性の先刷りインクの吐出安定性を向上することができることが分かった。
【0095】
これに対し、表8に示すように、比較例1、2のオーバーコートインクおよび水溶性インクは、吐出安定性評価(連続印刷性評価、間欠印刷性評価)または印刷画像耐転写性評価の結果に「×」(不合格)が含まれていた。
具体的には、比較例1のオーバーコートインクおよび水溶性インクは、吐出安定性評価および印刷画像耐転写性(乾燥性)評価のいずれも「×」であり、水溶性インクおよびオーバーコートインクの吐出安定性が不足しており、また印刷画像も十分に保護されなかった。また、比較例2のオーバーコートインクおよび水溶性インクは、印刷画像耐転写性評価が「×」であり乾燥性が不足していることから、水溶性インクによる印刷画像がオーバーコートインクによって十分に保護されなかった。
【0096】
上記吐出安定性評価および印刷画像耐転写性評価の結果から、水およびアルコールのいずれにも溶解するコート剤を含むオーバーコートインクであれば、印刷画像を保護し、且つ水溶性インクの吐出安定性を十分に向上されることがわかった。
【0097】
(UV発光性能の評価結果)
また表4、表6、表8に示すように、実施例39~50、実施例83~94、実施例127~138における上記UV発光性能評価の結果から、UV発光剤として、水、エタノール、イソプロピルアルコールおよびノルマルプロピルアルコールのうち少なくとも1種対する溶解度が0.001%以上であるリボフラビン類(リボフラビン酪酸エステルまたはリボフラビンリン酸エステルナトリウム)を含有するオーバーコートインクは、溶解性がすべて「△」(合格)以上であった。特に、当該リボフラビン類の添加量がオーバーコートインク全体の質量に対して0.01質量%以上となる実施例41~44、実施例47~50、実施例85~88、実施例91~94、実施例129~132および実施例135~138によるオーバーコートインクでは、発光量が50以上(◎)となり、特に高いUV発光性能を有することが分かった。
これに対し、上述の溶解度の条件を満たさないUV発光剤(リボフラビン)を含有する実施例51、52、95、96、139、140によるオーバーコートインクでは、溶解性および発光量の評価がいずれも「×」となり、上述の溶解度を満たすリボフラビン類を0.001%以上含有する上述の実施例によるオーバーコートインクに比べて、UV発光性能が低いことが分かった。
【0098】
本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらす全ての実施形態をも含む。さらに、本発明の範囲は、請求項により画される発明の特徴の組み合わせに限定されるものではなく、全ての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画され得る。
【符号の説明】
【0099】
1 基材
3 印刷画像
5 素錠印刷物
7 フィルムコート層
9 フィルムコート錠印刷物
15 印刷用基材
23 オーバーコート層
30 印刷部
50 印刷機
51、51a、51b インクジェットヘッド
52 コンベア
53 廃液機構
100、200 錠剤
図1
図2
図3
図4
図5