(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】植物ベース発酵乳の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23C 11/10 20210101AFI20240116BHJP
A23L 11/60 20210101ALI20240116BHJP
A23L 11/65 20210101ALI20240116BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20240116BHJP
A23L 2/38 20210101ALI20240116BHJP
A23G 9/32 20060101ALI20240116BHJP
A23C 20/02 20210101ALI20240116BHJP
A23D 7/00 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
A23C11/10
A23D9/00 518
A23L2/38 D
A23G9/32
A23C20/02
A23D7/00 500
(21)【出願番号】P 2022155055
(22)【出願日】2022-09-28
【審査請求日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2021158142
(32)【優先日】2021-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 昌伸
(72)【発明者】
【氏名】武田 真梨子
(72)【発明者】
【氏名】永渕 詢大
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-236348(JP,A)
【文献】特開2008-161106(JP,A)
【文献】特開昭59-135839(JP,A)
【文献】特開昭59-132856(JP,A)
【文献】特開2012-050392(JP,A)
【文献】特開2014-233261(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 9/00-23/00
A23D 7/00-7/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物ベース乳を含む発酵原料に、下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油を、植物ベース乳の脂質含量に対し30重量部以上添加し、微生物にて発酵させることを特徴とする、植物ベース発酵乳の製造方法。
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~30質量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が45~80質量%
【請求項2】
植物ベース乳を含む発酵原料を、微生物にて発酵し、得られた植物ベース発酵乳に、下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油を、植物ベース発酵乳の脂質含量に対し30重量部以上添加することを特徴とする、植物ベース発酵乳の製造方法。
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~30質量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が45~80質量%
【請求項3】
ランダムエステル交換油がさらに下記(C)を満たす、請求項1又は2記載の植物ベース発酵乳の製造方法。
(C)構成脂肪酸組成中、オレイン酸の含有量が10質量%以下
【請求項4】
微生物が乳酸菌、酵母、麹から選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載の植物ベース発酵乳の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の製造方法で得られた、植物ベース発酵乳を含有させる、飲食品の製造方法。
【請求項6】
飲食品が植物ベースのヨーグルト、乳酸菌飲料、クリーム類、アイスクリーム類、チーズ、バター又はマーガリンである、請求項1又は2に記載の飲食品の製造方法。
【請求項7】
下記(1)、及び植物ベース乳の脂質含量に対し30重量部以上の下記(2)を含み、微生物にて発酵された、植物ベース発酵乳。
(1)植物ベース乳を含む発酵原料
(2)下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40重量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が40~80重量%
【請求項8】
下記(1)、及び植物ベース乳の脂質含量に対し30重量部以上の下記(2)を含む、植物ベース発酵乳。
(1)植物ベース乳を含む発酵原料が微生物にて発酵された、植物ベース発酵乳
(2)下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40重量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が40~80重量%
【請求項9】
請求項7又は8に記載の植物ベース発酵乳を含む、飲食品。
【請求項10】
植物ベース乳を含む発酵原料に、下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油を、植物ベース乳の脂質含量に対し30重量部以上添加し、微生物にて発酵させることを特徴とする、植物ベース発酵乳における、異風味を抑制させる方法。
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40重量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が40~80重量%
【請求項11】
植物ベース乳を含む発酵原料を、微生物にて発酵し、得られた植物ベース発酵乳に、下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油を、植物ベース発酵乳の脂質含量に対し30重量部以上添加することを特徴とする、植物ベース発酵乳における、異風味を抑制させる方法。
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40重量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が40~80重量%
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物ベース発酵乳の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SDGs(持続可能な開発目標)の達成を目指す取組が世界的に進んでいる。とりわけ、世界的な人口増加により、動物性資源および水資源が将来不足すると予測されており、「食資源不足」や「環境」といったグローバルな課題に対する、社会的な危機感が高まっている。この、人口増加と共に起こる「食資源不足」や「環境」といったグローバルな社会課題に対し、植物性の食の素材を通じた解決が試みられている。
【0003】
例えば、牛乳や生クリーム、脱脂粉乳などの動物性乳原料は、独特の乳風味を有しており、嗜好されている。一方、地球温暖化に代表される気候変動、環境意識の高いミレニアル世代以降の購買に与える影響力の拡大、動物愛護の意識、植物性蛋白質を使用した場合コレステロールが低下する等の健康上の特性、そして感染症予防の観点から、乳代替として豆乳などに代表される植物ベース乳を取り入れる動きがミレニアル世代以降を中心に拡大している。
【0004】
そのような流れはヨーグルトやチーズ等の動物乳発酵食品の代替にも広がっており、豆乳、アーモンドミルク、オーツミルク等の植物ベース乳を原料とする発酵製品が世界各地で販売され始めている。
【0005】
しかしながら、豆乳やアーモンドミルクのような植物性油脂を含む植物ベース乳を原料として乳酸発酵等を行うと、動物ベース乳を原料とする発酵食品に比べ、独特の不快な劣化臭が経時的に発生することがあり、たとえ動物性乳原料の一部置換であっても劣化した風味が製品全体の品質に大きな影響を与える場合がある。植物ベース乳を発酵させた直後は、ヨーグルトやチーズ様の新鮮で良好な発酵風味を有していることもあるが、その風味が維持されず、経時的に風味が劣化したり、発酵後の加熱殺菌処理によって風味が劣化してしまう場合がある。
【0006】
このような問題に対処すべく、従来は例えば特許文献1~4などに記載されるように、特定の乳酸菌を組合せて発酵したり、無酸素条件下で発酵したり、発酵後は酸素透過性の極めて低い容器に充填するなど、高度な製造技術が必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第3307255号公報
【文献】特許第3327155号公報
【文献】特許第3498551号公報
【文献】特開平11-75688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1~4の技術により、不快な劣化臭の生成はある程度抑えられるが、例えば好ましい生理機能を有する特定の乳酸菌の菌株には適用できない、新たな発酵設備の投資が必要になるなど、様々な制約が多く汎用性に欠ける問題があった。
【0009】
本発明は、斯かる実情に鑑み、微生物の種類や製造設備の状況に左右されることがなく、汎用性が高く、発酵後の風味劣化の少ない植物ベース発酵乳の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、植物ベース乳を含む発酵原料に、乳酸菌や酵母等の微生物を接種し、乳酸発酵等させて植物ベース発酵乳を製造する方法において、特定の脂肪酸組成に調製したランダムエステル交換油を添加することにより、良好な発酵風味を付与しつつ、不快な劣化臭の発生を抑制することができ、上記課題を解決できるという知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち本発明は、下記の発明を包含するものである。
(1)植物ベース乳を含む発酵原料に、下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油を、植物ベース乳の脂質含量に対し30重量部以上添加し、微生物にて発酵させることを特徴とする、植物ベース発酵乳の製造方法、
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40重量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が40~80重量%
(2)該ランダムエステル交換油脂が(A)及び(B)、さらに下記(C)を満たす、(1)に記載の植物ベース発酵乳の製造方法、
(C)構成脂肪酸組成中、オレイン酸の含有量が10重量%以下
(3)該ランダムエステル交換油脂が(A)及び(B)、さらに下記(D)を満たす、(1)に記載の植物ベース発酵乳の製造方法、
(D)(炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量)/(炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量)の比が1.0~6.0
(4)該ランダムエステル交換油脂が(A)及び(B)及び(C)、さらに下記(D)を満たす、(2)に記載の植物ベース発酵乳の製造方法、
(D)(炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量)/(炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量)の比が1.0~6.0
(5)上記(A)が1~35重量%である、(1)又は(2)に記載の植物ベース発酵乳の製造方法、
(6)上記(A)が1~35重量%である、(3)又は(4)に記載の植物ベース発酵乳の製造方法、
(7)植物ベース乳を含む発酵原料を、微生物にて発酵し、得られた植物ベース発酵乳に、下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油を、植物ベース発酵乳の脂質含量に対し30重量部以上添加することを特徴とする、植物ベース発酵乳の製造方法、
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40重量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が40~80重量%
(8)該ランダムエステル交換油脂が(A)及び(B)、さらに下記(C)を満たす、(7)に記載の植物ベース発酵乳の製造方法、
(C)構成脂肪酸組成中、オレイン酸の含有量が10重量%以下
(9)該ランダムエステル交換油脂が(A)及び(B)、さらに下記(D)を満たす、(7)に記載の植物ベース発酵乳の製造方法、
(D)(炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量)/(炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量)の比が1.0~6.0
(10)該ランダムエステル交換油脂が(A)及び(B)及び(C)、さらに下記(D)を満たす、(8)に記載の植物ベース発酵乳の製造方法、
(D)(炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量)/(炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量)の比が1.0~6.0
(11)上記(A)が1~35重量%である、(7)又は(8)に記載の植物ベース発酵乳の製造方法、
(12)上記(A)が1~35重量%である、(9)又は(10)に記載の植物ベース発酵乳の製造方法、
(13)微生物が乳酸菌、酵母、麹から選ばれる1種以上である、(1)又は(7)に記載の植物ベース発酵乳の製造方法、
(14)微生物が乳酸菌、酵母、麹から選ばれる1種以上である、(2)又は(8)に記載の植物ベース発酵乳の製造方法、
(15)微生物が乳酸菌、酵母、麹から選ばれる1種以上である、(3)又は(9)に記載の植物ベース発酵乳の製造方法、
(16)微生物が乳酸菌、酵母、麹から選ばれる1種以上である、(4)又は(10)に記載の植物ベース発酵乳の製造方法、
(17)微生物が乳酸菌、酵母、麹から選ばれる1種以上である、(5)又は(11)に記載の植物ベース発酵乳の製造方法、
(18)微生物が乳酸菌、酵母、麹から選ばれる1種以上である、(6)又は(12)に記載の植物ベース発酵乳の製造方法、
(19)植物ベース乳を含む発酵原料に、下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油を、植物ベース乳の脂質含量に対し30重量部以上添加し、微生物にて発酵させることで得られた植物ベース発酵乳を含有させる、飲食品の製造方法、
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40重量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が40~80重量%
(20)植物ベース乳を含む発酵原料を、微生物にて発酵し、得られた植物ベース発酵乳に、下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油を、植物ベース発酵乳の脂質含量に対し30重量部以上添加して得られた植物ベース発酵乳を含有させる、飲食品の製造方法、
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40重量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が40~80重量%
(21)飲食品が植物ベースのヨーグルト、乳酸菌飲料、クリーム類、アイスクリーム類、チーズ、バター又はマーガリンである、(19)に記載の飲食品の製造方法、
(22)飲食品が植物ベースのヨーグルト、乳酸菌飲料、クリーム類、アイスクリーム類、チーズ、バター又はマーガリンである、(20)に記載の飲食品の製造方法、
(23)下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油を、植物ベース乳の脂質含量に対し30重量部以上含む植物ベース発酵乳、
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40重量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が40~80重量%
(24)(23)に記載の植物ベース発酵乳を含む、飲食品、
(25)飲食品が植物ベースのヨーグルト、乳酸菌飲料、クリーム類、アイスクリーム類、チーズ、バター又はマーガリンである、(24)に記載の飲食品、
(26)植物ベース乳を含む発酵原料に、下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油を、植物ベース乳の脂質含量に対し30重量部以上添加し、微生物にて発酵させることを特徴とする、植物ベース発酵乳における、異風味を抑制させる方法、
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40重量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が40~80重量%
(27)植物ベース乳を含む発酵原料を、微生物にて発酵し、得られた植物ベース発酵乳に、下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油を、植物ベース発酵乳の脂質含量に対し30重量部以上添加することを特徴とする、植物ベース発酵乳における、異風味を抑制させる方法、
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40重量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が40~80重量%
また、換言すれば、下記の発明を包含するものである。
(31)植物ベース乳を含む発酵原料に、下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油を、植物ベース乳の脂質含量に対し30重量部以上添加し、微生物にて発酵させることを特徴とする、植物ベース発酵乳の製造方法、
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40重量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が45~80重量%
(32)植物ベース乳を含む発酵原料を、微生物にて発酵し、得られた植物ベース発酵乳に、下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油を、植物ベース発酵乳の脂質含量に対し30重量部以上添加することを特徴とする、植物ベース発酵乳の製造方法、
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40重量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が45~80重量%
(33)ランダムエステル交換油がさらに下記(C)を満たす、(31)又は(32)記載の植物ベース発酵乳の製造方法、
(C)構成脂肪酸組成中、オレイン酸の含有量が10重量%以下
(34)微生物が乳酸菌、酵母、麹から選ばれる1種以上である、(31)~(33)いずれか記載の植物ベース発酵乳の製造方法、
(35)(31)~(34)いずれか記載の製造方法で得られた、植物ベース発酵乳を含有させる、飲食品の製造方法、
(36)飲食品が植物ベースのヨーグルト、乳酸菌飲料、クリーム類、アイスクリーム類、チーズ、バター又はマーガリンである、(35)記載の飲食品の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明に用いられる植物ベース乳を含む発酵原料に、特定の脂肪酸組成に調製したランダムエステル交換油を添加し、微生物発酵させること、または発酵した植物ベース乳に特定の脂肪酸組成に調製したランダムエステル交換油を添加することにより、発酵により生じる劣化臭の発生が抑制され、良好な発酵風味を付与することができる。これに伴い、上記公知技術に記載されるような特殊な技術を用いなくとも、本発明に用いられる植物ベース発酵乳は風味に優れており、一般のヨーグルトや乳酸菌飲料やチーズ等の発酵乳製品の製造に使用されている乳酸菌の種類や製造設備であっても、発酵直後の風味とその経時的な安定性に優れた、植物ベース発酵乳を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(植物ベース発酵乳)
本発明における植物ベース発酵乳とは、植物性原料を基本原料として得られた植物ベース乳(乳濁状の液体)を、乳酸発酵等の微生物による発酵を行って得られるものをいう。製品形態としては、固形状、ペースト状もしくは液状のヨーグルト様又はチーズ様の製品である。ここで、本明細書における「植物ベース」の意味は、動物性原料が全く含まれないことを意味せず、具体的には、動物由来原料が全原料中50重量%未満であることを意味する。より好ましい態様としては動物由来原料が全原料中40重量%以下、30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下又は0重量%であり得る。
【0014】
(植物ベース乳)
植物ベース乳(plant-besed milk)の植物原料の種類は限定されないが、大豆、エンドウ、えんどう豆、ソラマメに代表される豆類、アーモンド、へーゼルナッツ、カシューナッツ、クルミ、落花生、ピスタチオなどに代表される種子類、米、オーツ麦に代表される穀物類などが挙げられる。また、これらを適当な割合で混合して使用することも可能である。
また、植物ベース乳の製造方法は特に限定されず、例えば、原材料の粉砕、浸水/溶解、混合/攪拌、ろ過、均質化、殺菌等の工程によって得られるものが挙げられる。原材料の粉砕したペースト状のもの、原材料を粉末化したものを水等に溶かして得られる液体、原料由来の不溶性画分を含むものも、植物ベース乳として使用することができる。また、植物ベース乳として、原料メーカーが提供する、あるいは市販の植物ベース乳を購入し、本発明に用いても良い。また、他の例示として、大豆粉を水に溶かして得られる大豆乳も使用できる。
植物ベース乳中の脂質含量は限定されないが、脂質含量がより高い方が本発明の効果が奏しやすく、植物ベース乳の固形分中3重量%以上が好ましく、10重量%以上がより好ましい。
【0015】
(ランダムエステル交換油)
本発明に用いるランダムエステル交換油脂は、下記(A)及び(B)を満たすランダムエステル交換油脂であることを特徴とするが、好ましくは下記(A)、(B)及び(C)、または下記(A)、(B)及び(D)を満たすランダムエステル交換油脂、さらに好ましくは下記(A)、(B)、(C)、(D)を全て満たすランダムエステル交換油脂が良い。
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40重量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が40~80 重量%
(C)構成脂肪酸組成中、オレイン酸の含有量が10重量%以下
(D)(炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量)/(炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量)の比が1.0~6.0
【0016】
本発明のランダムエステル交換油脂は、好ましくは(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が1~35重量%、より好ましくは3~35重量%、さらに好ましくは5~25重量%、さらにより好ましくは5~20重量%である。
【0017】
本発明のランダムエステル交換油脂は、好ましくは(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が50~80重量%、より好ましくは60~75重量%である。
【0018】
本発明のランダムエステル交換油脂は、好ましくは(C)構成脂肪酸組成中、オレイン酸の含有量が10重量%以下、より好ましくは9重量%以下、さらに好ましくは8重量%以下、さらにより好ましくは6重量%以下である。
【0019】
本発明のランダムエステル交換油脂は、好ましくは(D)(炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量)/(炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量)の比が1.0~6.0、より好ましくは1.0~5.0、さらに好ましくは1.3~4.5、さらにより好ましくは1.5~4.0である。
【0020】
上記ランダムエステル交換油の原料としては、前記構成を満たせば、種々の油脂類の配合量を調整して使用することができる。使用することができる油脂類として、ナタネ油、大豆油、ひまわり油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、胡麻油、月見草油、パーム油、シア脂、サル脂、カカオ脂、ヤシ油、パーム核油、中鎖脂肪酸結合油脂(MCT)等の植物性油脂及び乳脂、牛脂、豚脂、魚油、鯨油等の動物性油脂、藻類油、微生物発酵により生産された油脂が例示でき、上記油脂類の単独または混合油あるいはそれらの硬化、分別、エステル交換等を施した加工油脂が例示できる。
【0021】
上記ランダムエステル交換油の原材料として、好ましくはヤシ油、パーム核油、中鎖脂肪酸結合油脂(MCT)、乳脂等が例示でき、上記油脂類の単独または混合油あるいはそれらの硬化、分別、エステル交換等を施した加工油脂が例示できる。また、動物性原料を含有しない植物ベース乳の場合、油脂は植物性油脂が好ましい。
【0022】
本発明のランダムエステル交換油脂の原材料に、ラウリン酸を含む油脂を必須成分として使用するのが好ましい。その際、好ましくは該ラウリン酸を含む油脂のヨウ素価(IV)が10以下、より好ましくは5以下、さらに好ましくは1以下のラウリン酸を含む油脂を使用することが好ましい。
【0023】
上記ランダムエステル交換油は、植物ベース発酵乳に含まれていればよく、微生物発酵前の植物ベース乳に上記ランダムエステル交換油を添加し微生物発酵を行う、微生物発酵した植物ベース発酵乳に、該ランダムエステル交換油を添加する、または微生物発酵前の植物ベース乳に記ランダムエステル交換油の一部を添加し微生物発酵を行い、残りの上記ランダムエステル交換油を微生物発酵後に添加することもできる。
植物ベース乳への上記ランダムエステル交換油添加量は、植物ベース乳由来の脂質あたり30重量部以上であり、好ましくは50~200重量部、より好ましくは50~180重量部、更に好ましくは50~150重量部である。これにより、効果的に発酵により生じる劣化臭を抑制することができる。
ここで、植物ベース発酵乳に含まれる油脂は必ずしも上記ランダムエステル交換油のみである必要はなく、上記ランダムエステル交換油を少なくとも植物ベース乳由来の脂質あたり30重量部以上含まれていれば他の油脂を併用してもよい。
【0024】
(発酵)
■資化性糖類
本発明の発酵原料として、少なくとも植物ベース乳を含み、乳酸菌や酵母等の微生物の栄養源としての資化性糖類を添加することは必須ではないが、発酵が進みにくい場合は添加するのが好ましい。例えばグルコース、フラクトース、ショ糖、マルトース、ガラクトース、ラクトース、ラフィノース、トレハロース、大豆オリゴ糖、フラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖等を用いることができる。これら糖原料は単独でも良いし、2種類以上を組み合わせてもよい。資化性糖類を添加するときの配合量は、0.1~5重量%が適当であり、0.5~3重量%が好ましい。
【0025】
(発酵)
■他の発酵原料
本発明の発酵原料としては、その他必要により澱粉、増粘多糖類、ゲル化剤、乳化剤、香料、酸味料、酸化防止剤、キレート剤等を適宜添加することができる。
【0026】
(微生物による発酵)
本発明の発酵に使用する微生物としては、一般的に発酵食品の製造に利用されている微生物であれば特に限定されることはなく、例えば乳酸菌、ビフィズス菌、酵母、麹菌、納豆菌、テンペ菌などを単独あるいは適宜組み合わせて使用することができる。ある態様では、乳酸菌を用いることが好ましい。またある態様では乳酸菌と酵母を用いることが好ましい。
【0027】
(乳酸菌)
本発明において、乳酸発酵に用いられる乳酸菌(ビフィズス菌も含む。)は、特に限定されず、通常のヨーグルトや乳酸菌飲料やチーズ等の発酵乳製品に使用されるものなら特に限定されない。
乳酸菌の種類としては、例えばラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・プランタラム、ラクトバチルス・ヘルベティカス、ラクトバチルス・ブルガリカス等のラクトバチルス属、ストレプトコッカス・サーモフィルス、ストレプトコッカス・ラクチス、ストレプトコッカス・ジアセチラクチス等のストレプトコッカス属、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・ラクチス、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・ラクチス・ビオバー・ジアセチラクチス、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス等のラクトコッカス属、ロイコノストック・メセンテロイデス・サブスピーシーズ・クレモリス、ロイコノストック・ラクチス等のロイコノストック属、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ロンガム、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・ブレーベ等のビフィドバクテリウム属等が挙げられる。また、ケフィア菌など、乳酸菌以外の酵母等の微生物が混合されたスターターを用いることも可能である。また、これらの乳酸菌は2種類以上の組み合わせでも任意に使用することができる。
【0028】
また、市販のヨーグルトや乳酸菌飲料で使用され、あるいは公知になっている特定の菌株、例えばラクトバチルス・カゼイ(YIT 9029株(シロタ株)、YIT10003株、NY1301株、SBR1202株)、ラクトバチルス・マリYIT0243株、ラクトバチルス・アシドフィラス(SBT-2062株、CK92株) 、ラクトバチルス・ヘルベティカスCK60株、ラクトバチルス・ガセリ(SP株(SBT2055SR)、LG21株、LC1株、OLL 2716株、FERMP-17399など)、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリカス(OLL 1023株、OLL 1029株、OLL 1030株、OLL 1043株、OLL 1057株、OLL 1073R-1株、OLL 1075株、OLL 1083株、OLL 1097株、OLL 1104株、OLL 1162株、2038株)、ラクトバチルス・ジョンソニーLa1株(LC1株)、ラクトバチルスGG株、ストレプトコッカス・サーモフィラス(1131株、OLS 3059株)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(ヤクルト株、YIT4065株)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(ヤクルト株)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(SP株(SBT2928)、BB536株、BE80株、FERM BP-7787株)、ビフィドバクテリウム・ラクチス(FK120株、LKM512株、Bb-12株)なども好適に使用することができる。
【0029】
(酵母)
酵母としては、パンの発酵などに使用されるイースト菌(サッカロミセス・セレビシエ)の他、例えばパン種として使用されるサワー種(サンフランシスコサワー種、ライサワー種、パネトーネ種など)、ホップス種、ビール種、酒種、果実種(ブドウ果実種、リンゴ果実種など)由来の酵母を使用することができる。ある態様では、クリベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)を用いることができる。
【0030】
(麹菌)
麹菌としては、アスペルギルス・オリゼー、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・ソーヤ、アスペルギルス・カワチ、アスペルギルス・アワモリ等のアスペルギルス属、モナスカス・アンカ、モナスカス・パーパレウス等のモナスカス属、ノイロスポア属、リゾプス・ジャパニカス等のリゾプス属、ムコール・ルキシー等のムコール属等を限定なく用いることができる。
【0031】
(テンペ菌)
テンペ菌としては、リゾプス・オリゴスポラス、リゾプス・オリゼー等のリゾプス属を用いることができる。
【0032】
(発酵条件)
発酵条件は、用いる微生物が増殖できる条件であれば特に限定されない。
乳酸菌を用いる場合、乳酸発酵の条件は使用する乳酸菌の種類によって適宜変更することができる。乳酸菌の発酵温度は、例えば20~50℃、好ましくは25~45℃で行うことができる。またチーズの場合は10~50℃、好ましくは15~45℃の、やや低温側で発酵させることもできる。発酵時間は例えば4~72時間、好ましくは5~60時間で行うことができる。乳酸発酵は発酵原料のpHが3~6、必要により3~5に低下するまで行うことができ、発酵終了後にアルカリ又は有機酸や無機酸等により適宜目的のpHに微調整することもできる。発酵装置は、乳のヨーグルトやチーズを製造するときに用いるものと同様の装置で行うことができる。
【0033】
酵母を用いる場合、発酵温度は例えば8~40℃、好ましくは15~35℃、さらに好ましくは20~28℃で行うことができる。発酵時間は、例えば12時間~10日間、好ましくは16時間~5日間、さらに好ましくは3日間(72時間程度)~5日間で行うことができる。また、エタノール濃度を低く抑えるために発酵は好気条件下で行うことができ、必要に応じ、酵母発酵上十分な通気および/または攪拌を行うことができる。
【0034】
麹を用いる場合は、発酵の条件は使用する麹の種類によって適宜変更することができる。麹の発酵温度は、例えば20~60℃、好ましくは30~50℃で行うことができる。発酵時間は、例えば4~72時間、好ましくは5~24時間で行うことができる。
【0035】
(発酵後の工程)
乳酸発酵等の発酵工程の後は、必要により濾過工程、均質化工程や加熱殺菌工程を経て、常法により、固形状、ペースト状又は液状のヨーグルト様の製品に調製することができる。また、常法により、固形状又はペースト状のチーズ様の製品に調製することもできる。
【0036】
本発明は、植物ベース乳を含む発酵原料に、前記ランダムエステル交換油を、植物ベース乳の脂質含量に対し30重量部以上添加し、微生物にて発酵させた植物ベース発酵乳の発明でもある。前記ランダムエステル交換油を使用すれば、良好な発酵風味を付与しつつ、不快な劣化臭の発生が抑制された植物ベース発酵乳となる。なお、前記ランダムエステル交換油、植物ベース乳、発酵方法等は、他項に記載の通りである。
【0037】
また、前記ランダムエステル交換油を使用した別の方法で得られた植物ベース発酵乳も、本発明の範囲内である。すなわち、植物ベース乳を含む発酵原料を微生物にて発酵して得られた植物ベース発酵乳に、前記ランダムエステル交換油を、植物ベース発酵乳の脂質含量に対し30重量部以上添加した、植物ベース発酵乳である。これも良好な発酵風味を付与しつつ、不快な劣化臭の発生が抑制された植物ベース発酵乳である。なお、前記ランダムエステル交換油、植物ベース乳、発酵方法等は、他項に記載の通りである。
【0038】
(飲食品)
本発明の飲食品の製造方法は、前記本発明の植物ベース発酵乳を原料とすることを特徴とする。上記ランダムエステル交換油を含む植物ベース発酵乳は、不快な劣化臭の発生が抑制されており風味良好なため、各種飲食品の製造原料として利用することができる。
上記の飲食品の形態は特に限定されず、例えば、豆乳等の植物ミルクや清涼飲料等の飲料、プリン、ババロア、ゼリー、ホイップクリーム及びフィリング等の生菓、ヨーグルト、チーズ及び発酵飲料等の発酵食品、団子や饅頭等の和菓子、スナック等の膨化菓子、ビスケット、クッキー、パン類及びケーキ等のベーカリー製品、チョコレート、マーガリン、バター、スプレッドやマヨネーズ等の調味料、ソース、スープ、フライ食品、水産練製品、鳥獣魚肉製品等の製品形態に使用できる。ある態様では、上記の飲食品は植物ベースの原料で構成することが好ましい。
また、上記ランダムエステル交換油を含まない、または植物ベース乳由来の脂質あたり30重量部を満たさない植物ベース発酵乳は上記飲食品の製造に合わせて上記ランダムエステル交換油を少なくとも植物ベース乳由来の脂質あたり30重量部以上まで添加することもできる。
【0039】
各種製品の製造に際しては植物ベース発酵乳の他に必要な食品原料(果汁、果肉、野菜、糖類、油脂、乳製品、穀粉類、澱粉類、カカオマス、鳥獣魚肉製品等)や食品添加物(ミネラル、ビタミン、乳化剤、増粘安定剤、酸味料、香料等)を適宜使用することができる。
【0040】
なお、本発明の植物ベース発酵乳は、上記飲食品以外にも、石鹸やシャンプー等の化成品、ローション等の化粧品などの非食品の原料としても使用できる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を示し、本発明の詳細をより具体的に説明する。なお、例中、「部」あるいは「%」はいずれも重量基準を表すものとする。
【0042】
(分析方法)
(脂肪酸組成)
日本油化学協会基準油脂分析試験法(1996年版)2.4.1. 2メチルエステル化法(三フッ化ホウ素メタノール法)に規定の方法に準じて測定した。
【0043】
表1に記載の配合割合にて調合した原料油脂1.0kgに、触媒としてナトリウムメチラートを1.5g添加し、80℃にて30分ランダムエステル交換反応を行った後、常法に従い水洗/脱色/脱臭を行いエステル交換油脂を得た。前記脂肪酸組成分析方法に従い脂肪酸組成を分析した結果を表2に示す。なお表1に原料油脂のヨウ素価(IV)を表記した。
中鎖脂肪酸結合油脂として、n-オクタン酸(炭素数8)、n-デカン酸(炭素数10)を構成脂肪酸とし、これらの重量比が60:40であるMCT-64(不二製油株式会社製)を使用した。また、原料油脂のヨウ素価(IV)を表1に記載した。
【0044】
【0045】
【0046】
脂肪酸組成の比較結果を表3に記載した。
(表3)単位:重量%
【0047】
(表3の考察)
・エステル交換油E1~E7は、下記(A)、(B)を全て満たすランダムエステル交換油脂であった。
(A)構成脂肪酸組成中、炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量が0.3~40重量%
(B)構成脂肪酸組成中、炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量が40~80重量%
・エステル交換油E1~E3、E5~E7は、さらに下記(C)を満たすランダムエステル交換油脂であった。
(C)構成脂肪酸組成中、オレイン酸の含有量が10重量%以下
・エステル交換油E1~E2、E5、E7は、(A)、(B)に加えて(D)を満たすランダムエステル交換油脂であった。
(D)(炭素数12~14の飽和脂肪酸の含有量)/(炭素数6~10の飽和脂肪酸の含有量)の比が1.0~6.0
【0048】
(比較例1)基本配合
植物ベース乳として「豆乳クリーム」(不二製油(株)製、全固形分19.0%、蛋白質含量5.6%、脂質含量12.3%)を80部、ブドウ糖1部、水18.9部を混合して99.9部とし、30分間ホモミキサーで調合後、50kg/cm2の均質化圧力で均質化した。これに乳酸菌を0.1部加えて、43℃でpHが4.6に低下するまで乳酸発酵させた。
【0049】
(実施例1~10、比較例2、3)油脂の種類と油脂の添加量
比較例1の配合をベースとし、発酵原料として表3に記載したランダムエステル交換油を添加して、比較例1と同様の方法で発酵豆乳を調製し、各油脂の添加効果を確認した。更に、油脂の添加量の増減を水の添加量にて調整し、油脂の添加量の効果も確認した。
添加効果は、得られた発酵豆乳を5℃にて1日間および7日間冷蔵保存したタイミングにて、発酵乳の分野に熟練した嗜好パネラー5名に依頼し、官能評価を行うことにより確認した。官能評価の点数は、下記の評価基準に従って、パネラーの合議により1点から5点を付け、4以上を合格とした。
(発酵由来の不快味の評価基準)
5点:不快味を感じない。
4点:不快味を殆ど感じない。
3点:不快味を少し感じる。
2点:不快味をより感じる。
1点:不快味を最も感じる。
(原料由来の不快味の評価基準)
5点:不快味を感じない。
4点:不快味を殆ど感じない。
3点:不快味を少し感じる。
2点:不快味をより感じる。
1点:不快味を最も感じる。
【0050】
【0051】
【0052】
(考察)
表4、表5の結果より、特定の脂肪酸組成に調製したランダムエステル交換油を少なくとも植物ベース乳由来の脂質あたり30重量部以上添加することで、全て発酵時と発酵後の保管中における風味劣化を抑制する効果があった。
【0053】
(実施例11~13)その他の植物ベース乳の使用と油脂の添加
(オーツミルクの製造方法)
ロールドオーツ1部に温水(70℃)7部を加え「コミトロール」プロセッサー(URSCHEL社製)を用いて湿式粉砕した。粉砕後、α-アミラーゼを0.1部加え、30分間酵素処理し、連続遠心分離機に供給し、3000×g,3分で遠心分離を行い、オーツミルクとおからに分離した。オーツミルクは蛋白質含量0.6%、脂質含量0.8%であった。
【0054】
比較例1の配合をベースとし、発酵原料としてその他の植物ベース乳を使用して、比較例1と同様の方法で発酵豆乳を調製し、ランダムエステル交換油の添加効果を確認した。各配合量は表6に示した通りである。添加効果に関しても、表4、5と同様に評価した。
【0055】
(表6)
※無調整豆乳(キッコーマンソイフーズ(株)製、蛋白質含量4.1%、脂質含量3.7%)
※アーモンドミルク(筑波乳業(株)製、蛋白質含量2.9%、脂質含量5.6%)
【0056】
(考察)
表6の結果より、特定の脂肪酸組成に調製したランダムエステル交換油を特定量添加することで、他の植物ベース乳の発酵原料に対しても、発酵時と発酵後の保管中における風味劣化を抑制することができる方法であると判断した。
【0057】
(実施例14、比較例4)酵母による発酵
実施例1と比較例1の配合をベースとし、乳酸菌の代わりに酵母としてサッカロマイシス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)とクリベロマイセス・マルキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)を加え、25℃、72時間、好気発酵(振とう培養)を行った。発酵終了後、80℃で2分間殺菌し、酵母発酵豆乳を得た。添加効果に関して、表4、5と同様に評価した。
【0058】
【0059】
(考察)
表7の結果より、微生物として酵母を用い、好気発酵を行った場合でも、特定の脂肪酸組成に調製したランダムエステル交換油を特定量添加することで、発酵時と発酵後の保管中における植物ベース発酵乳の風味劣化を抑制することができた。
【0060】
(実施例15、16、比較例5、6)植物ベース発酵乳への添加
比較例1に対し、表8に則りランダムエステル交換油を添加し、植物ベース発酵乳へのランダムエステル交換油の添加効果を確認した。添加効果に関して、表4、5と同様に評価した。
【0061】
【0062】
表8より、植物ベース発酵乳に対し特定の脂肪酸組成に調製したランダムエステル交換油を特定量添加することで、発酵後油脂添加直後と発酵後の保管中における植物ベース発酵乳の風味劣化を抑制することができた。
【0063】
(実施例17)植物ベース発酵乳のクリーム類への応用
パーム分別油脂(上昇融点26℃)20部、ラウリン系油脂(パーム核油/上昇融点28℃)9部に乳化剤0.4部を添加混合溶解し油相を調製した。
水25.7部、無調整豆乳40部に、ホモミキサーにより攪拌しながら、実施例1にて得られた植物ベース発酵乳(液温40℃)5部を添加混合溶解し水相を調製した。
調製した油相と水相を65℃で30分間ホモミキサーで攪拌し予備乳化した後、超高温滅菌装置(岩井機械工業(株)製)によって、144℃において4秒間の直接加熱方式による滅菌処理を行った後、45kg/cm2の均質化圧力で均質化して、直ちに5℃に冷却した。冷却後約24時間エージングして、植物ベースのクリーム類を得た。
得られた起泡性水中油型乳化物1kgをホバードミキサー(HOBART CORPORATION製MODEL N-5)3速(300rpm)にて最高起泡状態に達するまでホイップし、風味を確認した。
得られた起泡状態の植物ベースのクリーム類は、劣化臭を感じず、非常に良好な風味を有するものであった。
【0064】
(実施例18)植物ベース発酵乳のバターへの応用
比較例1にて得られた植物ベース発酵乳(液温40℃)300部に対し、岩塩を2.4部添加したものを水相とした。該水相をハンドミキサーで撹拌しつつ、ランダムエステル交換油E1を15部と上昇融点が約25℃であるヤシ油435部を40℃に加温して融解させ、これを徐々に加えて、乳化液を調製した。
得られた乳化液を4℃の冷蔵庫にて1晩冷却し、植物ベースのバターを得た。得られた植物ベースのバターは、劣化臭を感じず、非常に良好な風味を有するものであった。