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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】MEMSセンサおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10N 30/853 20230101AFI20240116BHJP
   H10N 30/30 20230101ALI20240116BHJP
   H10N 30/076 20230101ALI20240116BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20240116BHJP
   B81C 1/00 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
H10N30/853
H10N30/30
H10N30/076
B81B3/00
B81C1/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022546255
(86)(22)【出願日】2021-08-24
(86)【国際出願番号】 JP2021030997
(87)【国際公開番号】W WO2022050130
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2020146975
(32)【優先日】2020-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】榎本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】勅使河原 明彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 英雄
(72)【発明者】
【氏名】川合 祐輔
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/135178(WO,A1)
【文献】特開2014-236051(JP,A)
【文献】特表2016-528385(JP,A)
【文献】特開2005-171368(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0280181(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0064645(US,A1)
【文献】国際公開第2014/192265(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03007242(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0369390(US,A1)
【文献】国際公開第2015/007466(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/853
H10N 30/30
H10N 30/076
B81B 3/00
B81C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電膜(20)を有するMEMSセンサであって、
ダイヤフラム部(11)が形成された基板(10)と、
前記ダイヤフラム部上に配置された前記圧電膜と、を備え、
前記圧電膜は、スカンジウムアルミニウム窒化物で構成され、組成がSc Al 1-x N(0<x<1)であって、0.3≦xとされ、炭素を含み、炭素濃度が2.5at%以下とされていると共に、酸素を含み、酸素濃度が0.35at%以下とされているMEMSセンサ。
【請求項2】
前記圧電膜は、前記炭素濃度が0.1at%以上とされていると共に前記酸素濃度が0.01at%以上とされている請求項1に記載のMEMSセンサ。
【請求項3】
前記圧電膜は、炭素濃度が2.5at%以下とされていると共に酸素濃度が0.1at%以下とされている請求項1または2に記載のMEMSセンサ。
【請求項4】
前記圧電膜は、炭素濃度が1.0at%以下とされていると共に酸素濃度が0.2at%以下とされている請求項1または2に記載のMEMSセンサ。
【請求項5】
前記圧電膜は、炭素濃度が0.3at%以下とされていると共に酸素濃度が0.35at%以下とされている請求項1または2に記載のMEMSセンサ。
【請求項6】
前記圧電膜は、炭素濃度が0.7at%以下とされていると共に酸素濃度が0.1at%以下とされている請求項1または2に記載のMEMSセンサ。
【請求項7】
ダイヤフラム部(11)が形成された基板(10)と、
前記ダイヤフラム部上に配置された圧電膜(20)と、を備え、
前記圧電膜は、スカンジウムアルミニウム窒化物で構成され、組成がSc Al 1-x N(0<x<1)であって、0.3≦xとされ、炭素を含み、炭素濃度が2.5at%以下とされていると共に、酸素を含み、酸素濃度が0.35at%以下とされているMEMSセンサの製造方法であって、
チャンバ(40)内に前記基板およびターゲット材(50)を配置することと、
スパッタリングによって前記圧電膜を成膜することと、を行い、
前記配置することの前に、前記基板を加熱処理することを行うMEMSセンサの製造方法。
【請求項8】
前記加熱処理することでは、前記スパッタリングを行う際の温度よりも高い温度で前記基板を加熱処理する請求項に記載のMEMSセンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願への相互参照】
【0001】
本出願は、2020年9月1日に出願された日本特許出願番号2020-146975号に基づくもので、ここにその記載内容が参照により組み入れられる。
【技術分野】
【0002】
本開示は、スカンジウムアルミニウム窒化物(以下では、ScAlNともいう)で構成される圧電膜を有するMEMS(Micro Electro Mechanical Systemsの略)センサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来より、MEMSセンサとして、ScAlNで構成される圧電膜を有する超音波センサが提案されている(例えば、特許文献1参照)。具体的には、このMEMSセンサでは、圧電膜の炭素濃度を2.5at%以下とすることにより、圧電特性を向上できるようにしている。
なお、このMEMSセンサは、圧電膜がターゲット材を用いたスパッタリングで成膜される。この場合、上記MEMSセンサでは、炭素濃度が5at%以下とされたScAl(スカンジウムアルミニウム)で構成されるターゲット材を用いることにより、圧電膜における炭素濃度が2.5at%以下となるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-236051号公報
【発明の概要】
【0005】
ところで、上記のようなMEMSセンサについて本発明者らがさらに検討を行ったところ、圧電膜の酸素濃度が高い場合にも圧電膜の圧電特性が低下することが確認された。
本開示は、圧電特性が低下することを抑制できるMEMSセンサおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【0006】
本開示の1つの観点によれば、MEMSセンサは、ダイヤフラム部が形成された基板と、ダイヤフラム部上に配置された圧電膜と、を備え、圧電膜は、ScAlN窒化物で構成され、組成がSc Al 1-x N(0<x<1)であって、0.3≦xとされ、炭素を含み、炭素濃度が2.5at%以下とされていると共に酸素を含み、酸素濃度が0.35at%以下とされている。
【0007】
これによれば、圧電膜20は、炭素濃度が2.5at%以下とされ、酸素濃度が0.35at%以下とされている。このため、圧電歪定数が低下することを抑制でき、圧電特性が低下することを抑制できる。
【0008】
また、本開示の別の観点によれば、上記MEMSセンサの製造方法では、チャンバ内に基板およびターゲット材を配置することと、スパッタリングによって圧電膜を成膜することと、を行い、配置することの前に、基板を加熱処理することを行う。
【0009】
これによれば、圧電膜を成膜する際、チャンバ内の水蒸気圧が高くなることを抑制でき、圧電膜の酸素濃度が高くなることを抑制できる。このため、圧電特性が低下することを抑制したMEMSセンサを製造できる。
【0010】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態における超音波センサの断面図である。
図2】圧電膜の炭素濃度と圧電歪定数との関係を示す図である。
図3】圧電膜の酸素濃度と圧電歪定数との関係を示す図である。
図4】圧電膜の炭素濃度、酸素濃度、および圧電歪定数の関係を示す図である。
図5】圧電膜を成膜する際の状態を示す模式図である。
図6】圧電膜の酸素濃度、ターゲット材中の酸素濃度、チャンバ内の水蒸気圧、圧電歪定数の関係に関する実験結果を示す図である。
図7図6中のチャンバ内の水蒸気圧、圧電膜の酸素濃度、ターゲット材中の酸素濃度の関係を示した図である。
図8図6中のターゲット材中の酸素濃度、圧電歪定数、チャンバ内の水蒸気圧の関係を示した図である。
図9A】基板を加熱処理せずにチャンバ内に配置してスパッタリングを行った際のチャンバ内の分圧を示す図である。
図9B】基板を加熱処理した後にチャンバ内に配置してスパッタリングを行った際のチャンバ内の分圧を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0013】
(第1実施形態)
第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態では、MEMSセンサとしての超音波センサを例に挙げて説明する。また、本実施形態の超音波センサは、例えば、車両のバンパー周辺に搭載され、車両の周囲に位置する物体を検出する物体検出装置を構成するのに適用されると好適である。
【0014】
本実施形態の超音波センサは、図1に示されるように、シリコン等の基板10にダイヤフラム部11が形成され、ダイヤフラム部11上に圧電膜20が形成されることで構成されている。
【0015】
なお、ダイヤフラム部11は、特に限定されるものではないが、本実施形態では、平面形状が円形状とされている。圧電膜20は、ScAlNで構成され、ダイヤフラム部11の平面形状よりも小さくされている。なお、圧電膜20の具体的な構成については、後述する。
【0016】
また、基板10上には、図示しない配線パターン等を介して圧電膜20等と電気的に接続されるパッド部30が形成されている。なお、図1では、基板10と圧電膜20との関係を簡略化して示してあるが、実際には、基板10上には、絶縁膜等も適宜形成されている。
【0017】
以上が本実施形態における超音波センサの基本的な構成である。次に、本実施形態における圧電膜20の構成について具体的に説明する。
【0018】
圧電膜20は、上記のように、ScAlNを用いて構成される。この場合、圧電膜20は、ScAl1-xN(0<x<1)とすると、Scの濃度であるxを大きくする(すなわち、Scを高濃度化する)ほど圧電歪定数を向上させて感度の向上を図ることができる。例えば、非特許文献1等には、ScAl1-xN(0<x<1)は、0.3≦xとされることにより、圧電歪定数d33が急峻に増加することが報告されている。このため、圧電膜20は、ScAl1-xN(0<x<1)とすると、0.3≦xとされることが好ましい(非特許文献1:Keiichi Umeda; H.Kawai; A.Honda; M.Akiyama; T.Kato; T. Fukura 「Piezoelectric properties of ScAlN thin films for piezo-MEMS devices」 2013 IEEE 26th International Conference on Micro Electro Mechanical Systems 2013年3月7日)。
【0019】
そして、本発明者らは、このような圧電膜20において、圧電膜20の炭素濃度と圧電歪定数d33との関係について鋭意検討を行い、図2に示される結果を得た。また、本発明者らは、圧電膜20の酸素濃度と圧電歪定数d33との関係について鋭意検討を行い、図3に示される結果を得た。なお、図2および図3は、圧電膜20を構成するScAl1-xN(0<x<1)において、0.3≦xとした場合の結果を示している。
【0020】
具体的には、図2に示されるように、圧電歪定数d33は、炭素濃度が0.7at%より大きくなると緩やかに低下し、2.5at%より大きくなると急峻に低下することが確認される。また、図3に示されるように、圧電歪定数d33は、酸素濃度が0.1at%より大きくなると緩やかに低下し、0.35at%より大きくなると急峻に低下することが確認される。
【0021】
このため、本実施形態では、圧電膜20は、炭素濃度が2.5at%以下とされ、さらに、酸素濃度が0.35at%以下とされている。この場合、圧電膜20は、炭素濃度が0.7at%以下とされ、酸素濃度が0.1at%以下とされることがさらに好ましい。なお、ここでの炭素濃度としてのat%は、圧電膜20中のSc原子数、Al原子数、N原子数の総量100at%に対する炭素原子の数のことである。同様に、酸素濃度としてのat%は、圧電膜20のSc原子数、Al原子数、N原子数の総量100at%に対する炭素原子の数のことである。
【0022】
また、本発明者らは、上記圧電膜20について、圧電膜20の炭素濃度、圧電膜20の酸素濃度、および圧電歪定数d33の相互関係について鋭意検討を行い、図4に示される結果を得た。図4中の各数値は、圧電歪定数d33[pC/N]を示している。そして、図4では、圧電歪定数d33が19[pC/N]以上である場合を二重丸で示し、圧電歪定数d33が17[pC/N]以上であって19[pC/N]未満である場合を丸で示している。また、図4は、圧電膜20を構成するScAl1-xN(0<x<1)において、0.3≦xとした場合の結果を示している。
【0023】
なお、圧電歪定数d33の17[pC/N]は、図2および図3より圧電歪定数d33が急峻に低下し始める値であり、圧電歪定数d33の19[pC/N]は、図2および図3より圧電歪定数d33が緩やかに低下し始める値である。そして、図4中の領域Aは、炭素濃度が2.5at%以下であると共に酸素濃度が0.35at%以下である場合の領域を示している。また、図4中の領域Bは、炭素濃度が0.7at%以下であると共に酸素濃度が0.1at%以下である場合の領域を示している。
【0024】
図4に示されるように、圧電歪定数d33は、炭素濃度が2.5at%以下とされると共に酸素濃度が0.1at%以下である領域Cの場合にも17[pC/N]以上となる。また、圧電歪定数d33は、炭素濃度が1.0at%以下とされると共に酸素濃度が0.2at%以下である領域Dの場合にも17[pC/N]以上となる。さらに、圧電歪定数d33は、炭素濃度が0.3at%以下とされると共に酸素濃度が0.35at%以下である領域Eの場合にも17[pC/N]以上となる。以上より、本実施形態では、炭素濃度および酸素濃度が上記の範囲とされることが好ましく、炭素濃度および酸素濃度が上記の範囲とされることで圧電歪定数d33が低下することを十分に抑制できる。
【0025】
次に、上記超音波センサにおける圧電膜20の製造方法について説明する。
【0026】
本実施形態では、圧電膜20を成膜する際には、図5に示されるように、チャンバ40内に、基板10とターゲット材50とを対向して配置すると共に基板10およびターゲット材50を高周波電源60に接続する。なお、ターゲット材50は、ScAl合金であり、ScとAlとの元素組成比が0.45:0.55程度とされたものが用いられる。このようなターゲット材50は、例えば、溶融、周辺の酸素濃度を薄くした状態での低酸素焼結、または周辺の酸素濃度が大気と同様とされている通常焼結によって構成される。
【0027】
そして、圧電膜20を成膜する際には、ターゲット材50から基板10に原子を付着させて圧電膜20を成膜するスパッタリングを行う。スパッタリングを行う際には、例えば、スパッタリング圧力を0.16Pa、窒素濃度を43体積%、ターゲット電力密度を10W/cm、基板温度を300℃、スパッタリング時間を200分等として行う。また、スパッタリングを行う際には、チャンバ40内を5×10-5Pa以下に減圧し、チャンバ40内に99.999体積%のアルゴンガス、および99.999体積%の窒素ガスを導入して行う。
【0028】
そして、スパッタリングを行う際には、高周波電源60に高周波電圧を印加することにより、ターゲット材50の表面に高周波プラズマが形成されるようにし、自己バイアス効果によってプラズマ中の正イオンをターゲット材50に衝突させる。なお、プラズマ中の正イオンは、窒素イオンおよびアルゴンイオンである。そして、正イオンをターゲット材50に衝突させることにより、ターゲット材50からSc原子71やAl原子72を弾き飛ばして基板10上にスパッタリングする。本実施形態では、このようにして、基板10上に、ScAlNで構成される圧電膜20を成膜する。
【0029】
ここで、ターゲット材50中のSc原子数とAl原子数との総量100at%に対する炭素原子の数をターゲット材50の炭素濃度とする。この場合、ターゲット材50として炭素濃度が5at%以下であるものを用いることにより、スパッタリングで圧電膜20を成膜した際、圧電膜の炭素濃度を2.5at%以下とすることができる。そして、圧電膜20は、ターゲット材50の炭素濃度が低くなるほど、当該圧電膜20の炭素濃度が低くなる。
【0030】
また、本発明者らは、スパッタリングと圧電膜20の酸素濃度との関係について鋭意検討を行った。具体的には、圧電膜20の酸素濃度は、チャンバ40内の酸素に関する圧力、ターゲット材50の酸素濃度、基板10に付着している水分に依存する。このため、本発明者らは、チャンバ40内の酸素に関する圧力、ターゲット材50の酸素濃度、基板10に付着している水分の影響について調査し、図6図7図8図9A、および図9Bに示される結果を得た。
【0031】
なお、チャンバ40内の酸素に関する成分としては酸素と水蒸気とが存在するが、チャンバ40内では、酸素圧に対して水蒸気圧が1桁以上大きくなる。つまり、チャンバ40内の酸素に関する成分としては、チャンバ40内の水蒸気圧の方が支配的となる。このため、図6ではチャンバ内の水蒸気圧(以下では、単に水蒸気圧ともいう)と圧電膜の酸素濃度との関係についての結果を示している。また、図8中の各プロットの値は、図6中のチャンバ内の水蒸気圧を示している。さらに、図6図8は、後述する図9Bのように基板10を加熱処理した際の結果を示す図であり、より詳しくは、スパッタリングを行う際の温度よりも高い温度で基板10を加熱処理した際の結果を示す図である。また、図6中のターゲット材の酸素濃度としてのat%は、ターゲット材50中のSc原子数とAl原子数との総量100at%に対する酸素原子の数のことである。そして、図6中のターゲット材の酸素濃度における各数値横の溶融、低酸素焼結、通常焼結は、ターゲット材50の製造方法を示している。
【0032】
図6および図7に示されるように、圧電膜20の酸素濃度は、チャンバ40内の水蒸気圧が大きくなるほど高くなることが確認される。また、図6図8に示されるように、圧電歪定数d33は、ターゲット材50中の酸素濃度が高くなるほど圧電膜20の酸素濃度が高くなるため、低くなることが確認される。このため、酸素濃度が低い圧電膜20を形成するためには、チャンバ40内の水蒸気圧を低くするか、ターゲット材50中の酸素濃度を低くすればよい。
【0033】
また、図9Aに示されるように、基板10を加熱処理せずに基板10に水分が付着している状態でスパッタリングを行った場合には、基板10に付着している水分が蒸発するため、チャンバ40内の水蒸気圧が高くなることが確認される。一方、図9Bに示されるように、基板10を加熱処理して基板10から水分を除去した後にスパッタリングを行った場合には、チャンバ内の水蒸気圧がほぼ一定となることが確認される。
【0034】
すなわち、圧電膜20をスパッタリングで成膜する際には、基板10に水分が付着していない状態とすることにより、チャンバ40内の水蒸気圧が高くなることを抑制でき、酸素濃度が低い圧電膜20を形成することができる。この場合、基板10の加熱処理は、スパッタリングを行う際の温度よりも高い温度で加熱処理を行うことにより、スパッタリングを行う際に基板10から水蒸気が発生することを十分に抑制できるために好ましい。なお、図9Bは、スパッタリングを行う際の温度よりも高い温度で加熱処理を行った基板10を用いた結果を示している。
【0035】
以上より、例えば、圧電膜20の酸素濃度を0.7at%以下にする場合には、ターゲット材50の酸素濃度を0.0387at%以下とし、チャンバ40内の水蒸気圧を14.8μPa以下とし、加熱処理した基板10を用いて圧電膜20を成膜すればよい。この場合、ターゲット材50の酸素濃度をさらに低くすることにより、圧電膜20の酸素濃度をさらに低くできる。このため、ターゲット材50の酸素濃度をさらに低くしたい場合には、チャンバ40内の水蒸気圧が14.8μPa以上であっても、圧電膜20の酸素濃度を0.7at%以下にすることができる場合もある。すなわち、チャンバ40内の水蒸気圧およびターゲット材50の酸素濃度は、圧電膜20の酸素濃度が所望の値となるのであれば、適宜変更可能である。但し、上記のように基板10を加熱処理することにより、チャンバ40内の水蒸気圧を低くでき、圧電膜20の酸素濃度が高くなることを抑制できる。
【0036】
以上説明した本実施形態では、圧電膜20は、炭素濃度が2.5at%以下とされ、さらに、酸素濃度が0.35at%以下とされている。このため、圧電歪定数d33が低下することを抑制できる。この場合、圧電膜20は、炭素濃度が0.7at%以下とされ、酸素濃度が0.1at%以下とされることにより、さらに圧電歪定数d33が低下することを抑制できる。
【0037】
また、圧電膜20は、炭素濃度が2.5at%以下とされると共に酸素濃度が0.1at%以下とされることにより、圧電歪定数d33が低下することを十分に抑制できる。圧電膜20は、炭素濃度が1.0at%以下とされると共に酸素濃度が0.2at%以下とされることにより、圧電歪定数d33が低下することを十分に抑制できる。圧電膜20は、炭素濃度が0.3at%以下とされると共に酸素濃度が0.35at%以下とされることにより、圧電歪定数d33が低下することを十分に抑制できる。
【0038】
そして、圧電膜20をスパッタリングで成膜する際には、加熱処理した基板10を用いている。このため、圧電膜20を成膜する際、チャンバ40内の水蒸気圧が高くなることを抑制でき、圧電膜20の酸素濃度が高くなることを抑制できる。この場合、スパッタリングを行う際の温度よりも高い温度で基板10を加熱処理することにより、スパッタリングを行う際に基板10から水蒸気が発生し難くなるため、チャンバ40内の水蒸気圧が高くなることをさらに抑制できる。
【0039】
(他の実施形態)
本開示は、実施形態に準拠して記述されたが、本開示は当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0040】
例えば、上記第1実施形態では、スパッタリングを行う際の温度よりも低い温度で基板10を加熱処理するようにしてもよい。このように加熱処理を行っても、加熱処理を行うことによって基板10に付着している水分を除去できるため、スパッタリングを行う際にチャンバ40内の水蒸気圧が高くなることを抑制できる。つまり、圧電膜20の酸素濃度が高くなることを抑制できる。
【0041】
さらに、上記第1実施形態のMEMSセンサは、超音波センサ以外のセンサに適用することも可能であり、例えば、ダイヤフラム部11上に圧電膜20を備えて構成される圧力センサに適用することも可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B