(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/36 20100101AFI20240116BHJP
H01M 50/409 20210101ALI20240116BHJP
【FI】
H01M10/36 Z
H01M50/409
H01M10/36 A
(21)【出願番号】P 2022547426
(86)(22)【出願日】2021-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2021027136
(87)【国際公開番号】W WO2022054416
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2022-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2020151933
(32)【優先日】2020-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日浅 巧
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-33075(JP,A)
【文献】特開2018-156837(JP,A)
【文献】特開2017-123222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/36
H01M 50/409
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極空間と負極空間との間に配置され、金属イオンを透過させる隔壁と、
前記正極空間の内部に配置され、前記金属イオンを吸蔵放出する正極と、
前記負極空間の内部に配置され、前記金属イオンを吸蔵放出する負極と、
前記正極空間の内部に収容され、水性溶媒を含む正極電解液と、
前記負極空間の内部に収容され、水性溶媒を含むと共に前記正極電解液のpHよりも大きいpHを有する負極電解液と
を備え、
前記隔壁は、前記金属イオンによりイオン交換されているカチオン交換膜を含む、
二次電池。
【請求項2】
前記隔壁は、
前記正極空間と前記負極空間とにより挟まれており、前記正極電解液および前記負極電解液のそれぞれに接触している接触部と、
前記正極空間と前記負極空間とにより挟まれておらず、前記正極電解液および前記負極電解液のそれぞれに接触していない非接触部と
を含み、
前記非接触部は、前記カチオン交換膜を含む、
請求項1記載の二次電池。
【請求項3】
前記正極電解液のpHは、3以上8以下であり、
前記負極電解液のpHは、11以上である、
請求項1または請求項2に記載の二次電池。
【請求項4】
前記正極電解液および前記負極電解液のそれぞれは、前記金属イオンをカチオンとする金属塩を含み、
前記正極電解液および前記負極電解液のうちの少なくとも一方は、前記金属塩の飽和溶液である、
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の二次電池。
【請求項5】
前記金属イオンは、アルカリ金属イオンである、
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機などの多様な電子機器が普及しているため、小型かつ軽量であると共に高エネルギー密度を得ることが可能である電源として二次電池の開発が進められている。この二次電池としては、水性溶媒を含む電解液(いわゆる水系電解液)を用いた二次電池が開発されており、その二次電池の構成に関しては、様々な検討がなされている。
【0003】
具体的には、有機溶媒を含む電解液を用いたリチウムイオン二次電池の容量劣化を抑制するために、セパレータがイオン交換樹脂層を含む多層構造を有しており、そのイオン交換樹脂層が予めリチウムイオンとイオン交換されたカチオン交換樹脂を含んでいる(例えば、特許文献1参照。)。また、水酸化物イオンを用いて酸化還元反応が進行する水溶液系蓄電池において高電圧および大容量を実現するために、隔壁としてイオン選択性のカチオン交換膜が用いられており、負極電解液が正極電解液のpHよりも大きいpHを有している(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-029112号公報
【文献】特開2017-123222号公報
【発明の概要】
【0005】
水系電解液を用いた二次電池の電池特性に関する様々な検討がなされているが、その二次電池のサイクル特性は未だ十分でないため、改善の余地がある。
【0006】
よって、優れたサイクル特性を得ることが可能である二次電池が望まれている。
【0007】
本技術の一実施形態の二次電池は、正極空間と負極空間との間に配置され、金属イオンを透過させる隔壁と、その正極空間の内部に配置され、金属イオンを吸蔵放出する正極と、その負極空間の内部に配置され、金属イオンを吸蔵放出する負極と、その正極空間の内部に収容され、水性溶媒を含む正極電解液と、その負極空間の内部に収容され、水性溶媒を含むと共に正極電解液のpHよりも大きいpHを有する負極電解液とを備え、その隔壁が金属イオンによりイオン交換されているカチオン交換膜を含むものである。
【0008】
本技術の一実施形態の二次電池によれば、正極空間の内部に金属イオンを吸蔵放出する正極が配置されていると共に水性溶媒を含む正極電解液が収容されており、負極空間の内部に金属イオンを吸蔵放出する負極が配置されていると共に水性溶媒を含む負極電解液が収容されており、その正極空間と負極空間との間に金属イオンを透過させる隔壁が配置されている。また、負極電解液が正極電解液のpHよりも大きいpHを有しており、隔壁が金属イオンによりイオン交換されているカチオン交換膜を含んでいる。よって、優れたサイクル特性を得ることができる。
【0009】
なお、本技術の効果は、必ずしもここで説明された効果に限定されるわけではなく、後述する本技術に関連する一連の効果のうちのいずれの効果でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本技術の一実施形態の二次電池の構成を表す断面図である。
【
図2】変形例1の二次電池の構成を表す断面図である。
【
図3】変形例2の二次電池の構成を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本技術の一実施形態に関して、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。
1.二次電池
1-1.構成
1-2.動作
1-3.製造方法
1-4.作用および効果
2.変形例
3.二次電池の用途
【0012】
<1.二次電池>
まず、本技術の一実施形態の二次電池に関して説明する。
【0013】
ここで説明する二次電池は、金属イオンの吸蔵放出を利用する二次電池であり、正極および負極と共に、水性溶媒を含む液状の電解質である電解液(水系電解液)を備えている。この二次電池では、金属イオンの吸蔵放出を利用して充放電反応が進行するため、電池容量が得られる。
【0014】
二次電池において吸蔵放出される金属イオンの種類は、特に限定されないが、具体的には、アルカリ金属イオンおよびアルカリ土類金属イオンなどの軽金属イオンである。アルカリ金属イオンの具体例は、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびカリウムイオンなどである。アルカリ土類金属イオンの具体例は、カルシウムイオン、ストロンチウムイオンおよびバリウムイオンなどである。中でも、金属イオンは、アルカリ金属イオンであることが好ましい。高い電圧が得られながら、充放電反応が安定に進行するからである。
【0015】
<1-1.構成>
図1は、二次電池の断面構成を表している。この二次電池は、
図1に示したように、外装部材11と、隔壁12と、正極13と、負極14と、正極電解液15と、負極電解液16とを備えている。
図1では、正極電解液15に淡い網掛けを施していると共に、負極電解液16に濃い網掛けを施している。
【0016】
正極電解液15および負極電解液16のそれぞれは、上記した水性溶媒を含む水系電解液である。この水系電解液は、水性溶媒中において電離可能であるイオン性物質が溶解または分散されている溶液である。
【0017】
以下では、正極13および負極14のそれぞれにおいて吸蔵放出される金属イオンがアルカリ金属イオンである場合を例に挙げる。また、以下の説明では、便宜上、
図1中の上側を二次電池の上側とすると共に、
図1中の下側を二次電池の下側とする。
【0018】
[外装部材]
外装部材11は、隔壁12、正極13、負極14、正極電解液15および負極電解液16などを収納するための内部空間を有している。ここでは、外装部材11は、内部空間を形成する2個の部材(外装部11X,11Y)を含んでおり、その外装部11X,11Yのそれぞれは、一端部において開放されていると共に他端部において閉塞されている器状の部材である。外装部11X,11Yは、開放されている一端部同士が隔壁12を介して互いに対向するように配置されていると共に、その隔壁12を介して互いに連結されている。これにより、上記した外装部材11の内部空間は、外装部11X,11Yにより囲まれている空間である。
【0019】
この外装部材11は、金属材料、ガラス材料および高分子化合物などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。具体的には、外装部材11は、剛性を有する金属缶、ガラスケースおよびプラスチックケースなどでもよいし、柔軟性(または可撓性)を有する金属箔および高分子フィルムなどでもよい。なお、外装部11Xの形成材料と外装部11Yの形成材料とは、互いに同じでもよいし、互いに異なってもよい。
【0020】
[隔壁]
隔壁12は、正極13と負極14との間に配置されており、外装部材11の内部空間を2個の空間(正極空間である正極室S1および負極空間である負極室S2)に分離している。すなわち、隔壁12は、正極室S1と負極室S2との間に位置しているため、その正極室S1および負極室S2を互いに離隔させている。これにより、正極13および負極14は、隔壁12を介して互いに対向しながら、その隔壁12を介して互いに離隔されている。
【0021】
この隔壁12は、正極室S1と負極室S2との間において、アニオンを透過させずに、正極13および負極14のそれぞれにおいて吸蔵放出されるアルカリ金属イオン(カチオン)などの物質(アニオンを除く。)を透過させる。正極電解液15と負極電解液16との混合が防止されるからである。これにより、隔壁12は、正極室S1から負極室S2に向けてアルカリ金属イオンを透過させると共に、負極室S2から正極室S1に向けてアルカリ金属イオンを透過させる。
【0022】
ここでは、隔壁12は、外装部材11よりも上方に突出していると共に、その外装部材11よりも下方に突出している。これにより、隔壁12は、外装部11X,11Yにより両側から挟まれているため、その外装部11X,11Yにより保持されている。また、隔壁12は、上端部12A、中間部12Bおよび下端部12Cを含んでおり、その上端部12A、中間部12Bおよび下端部12Cは、互いに連結(一体化)されている。
図1では、隔壁12の構成を分かりやすくするために、上端部12Aと中間部12Bとの境界に破線を付していると共に、下端部12Cと中間部12Bとの境界に破線を付している。
【0023】
上端部12Aは、外装部材11よりも上方に突出しているため、その外装部材11の外部に露出している部分である。これにより、上端部12Aは、正極室S1と負極室S2とにより挟まれていないため、正極電解液15および負極電解液16のそれぞれに接触していない部分(非接触部)である。
【0024】
下端部12Cは、外装部材11よりも下方に突出しているため、その外装部材11の外部に露出している部分である。これにより、下端部12Cは、上端部12Aと同様に、正極室S1と負極室S2とにより挟まれていないため、正極電解液15および負極電解液16のそれぞれに接触していない部分(非接触部)である。
【0025】
中間部12Bは、上端部12Aと下端部12Cとの間に配置されているため、外装部材の内部に位置している部分である。これにより、中間部12Bは、正極室S1と負極室S2とにより挟まれているため、正極電解液15および負極電解液16のそれぞれに接触している部分(接触部)である。
【0026】
特に、隔壁12は、イオン交換膜、より具体的には正極13および負極14のそれぞれにおいて吸蔵放出されるアルカリ金属イオン(カチオン)を透過させる多孔質膜(カチオン交換膜)を含んでいる。このカチオン交換膜は、正極13および負極14のそれぞれにおいて吸蔵放出されるアルカリ金属イオンにより、あらかじめイオン交換されている。
【0027】
すなわち、隔壁12であるカチオン交換膜は、本来、複数の陰イオン基(-X- )を有しており、その複数の陰イオン基は、複数の水素イオン(H+ )により中和されている。このため、カチオン交換膜は、複数のイオン交換基(-X- H+ )を有している。この陰イオン基の種類は、特に限定されないが、具体的には、スルホン酸基(-S(=O)2 -O-)およびカルボン酸基(-C(=O)-O- )などである。
【0028】
しかしながら、隔壁12であるカチオン交換膜は、正極13および負極14のそれぞれに吸蔵放出されるアルカリ金属イオン(M+ :Mはアルカリ金属元素である。)により、あらかじめイオン交換されている。これにより、複数の水素イオンのうちの全部または大部分は、複数のアルカリ金属イオンにより置換されている。よって、イオン交換済みのカチオン交換膜は、複数のイオン交換基(-X- M+ )を有しており、すなわち複数のアルカリ金属錯体(塩)を有している。
【0029】
隔壁12がカチオン交換膜を含んでいるのは、正極電解液15中の水性溶媒および負極電解液16中の水性溶媒のそれぞれが隔壁12の内部に浸透しやすくなるため、その隔壁12の内部においてイオン伝導性が向上するからである。
【0030】
また、正極13および負極14のそれぞれにおいて吸蔵放出されるアルカリ金属イオンによりカチオン交換膜があらかじめイオン交換されているのは、そのアルカリ金属イオンによりカチオン交換膜があらかじめイオン交換されていない場合と比較して、隔壁12から正極電解液15および負極電解液16のそれぞれに、水素イオンが溶出されにくくなると共に、正極13および負極14のそれぞれにおいて吸蔵放出されない他の金属イオンも溶出されにくくなるからである。これにより、正極電解液15および負極電解液16のそれぞれのpHが変動しにくくなるため、後述する正極電解液15のpHと負極電解液16のpHとの大小関係が維持されやすくなる。よって、後述する正極活物質および負極活物質などの電極構成材料が劣化しにくくなると共に、後述する正極集電体13Aおよび負極集電体14Aなどの電極構成部材が腐食されにくくなる。ここで説明した理由の詳細に関しては、後述する。
【0031】
ここでは、上記したように、隔壁12が上端部12A、中間部12Bおよび下端部12Cを含んでいる。これにより、中間部12Bにおいて、カチオン交換膜があらかじめアルカリ金属イオンによりイオン交換されているだけでなく、上端部12Aおよび下端部12Cのそれぞれにおいても、カチオン交換膜があらかじめアルカリ金属イオンによりイオン交換されている。
【0032】
なお、カチオン交換膜において、複数のイオン交換基が結合されている骨格の種類は、その複数のイオン交換基が結合可能である高分子化合物であれば、特に限定されない。この高分子化合物の具体例は、パーフルオロ炭化水素などである。
【0033】
ここで、隔壁12であるカチオン交換膜があらかじめアルカリ金属イオンによりイオン交換されているか否かを確認するためには、二次電池を解体することにより、隔壁12を回収したのち、中間部12Bではなく上端部12Aおよび下端部12Cのうちの一方または双方の状態(イオン交換の有無)を調べればよい。
【0034】
具体的には、中間部12Bは、上記したように、正極室S1と負極室S2とにより挟まれているため、正極電解液15および負極電解液16のそれぞれに接触している。
【0035】
この場合には、隔壁12であるカチオン交換膜が本来(二次電池の作製前)は複数のイオン交換基(-X- H+ )を有していても、二次電池を使用するとアルカリ金属イオンが中間部12Bを透過する。これにより、使用済みの二次電池から回収されたカチオン交換膜では、複数のイオン交換基のうちの水素イオンなどはアルカリ金属イオンにより置換されている場合がある。すなわち、中間部12Bでは、複数のイオン交換基の状態(水素イオンが当初のまま残存しているか否か)は二次電池の使用後において変化している場合がある。
【0036】
よって、中間部12Bを用いる場合には、二次電池の使用に応じてカチオン交換膜(複数のイオン交換基)の状態は変化している場合があるため、そのカチオン交換膜があらかじめアルカリ金属イオンによりイオン交換されているか否かを事後的に確認することが困難である。
【0037】
これに対して、上端部12Aは、上記したように、正極室S1と負極室S2とにより挟まれていないため、正極電解液15および負極電解液16のそれぞれに接触していない。
【0038】
この場合には、隔壁12であるカチオン交換膜が本来は複数のイオン交換基(-X- H+ )を有していると、二次電池を使用してもアルカリ金属イオンが上端部12Aを透過しない。これにより、使用済みの二次電池から回収されたカチオン交換膜では、複数のイオン交換基のうちの水素イオンがアルカリ金属イオンにより置換されていない。すなわち、上端部12Aでは、複数のイオン交換基の状態(水素イオンが当初のまま残存しているか否か)が二次電池の使用後においても変化せずに維持されている。
【0039】
言い替えれば、隔壁12であるカチオン交換膜があらかじめアルカリ金属イオンによりイオン交換されているため、そのカチオン交換膜が複数のイオン交換基(-X- M+ )を有している場合には、二次電池の使用の有無に依存せずに、複数のイオン交換基の状態(あらかじめアルカリ金属イオンによりイオン交換されているか否か)が維持されている。
【0040】
よって、上端部12Aを調べる場合には、二次電池が使用されてもカチオン交換膜(複数のイオン交換基)の状態が維持されているため、そのカチオン交換膜があらかじめアルカリ金属イオンによりイオン交換されているか否かを事後的に確認することができる。
【0041】
ここで上端部12Aに関して説明したことは、正極電解液15および負極電解液16のそれぞれに接触していない下端部12Cに関しても同様である。すなわち、下端部12Cを調べる場合においても、上端部12Aを調べる場合と同様に、カチオン交換膜があらかじめアルカリ金属イオンによりイオン交換されているか否かを事後的に確認することができる。
【0042】
なお、隔壁12(上端部12Aおよび下端部12Cのうちの一方または双方)であるカチオン交換膜があらかじめアルカリ金属イオンによりイオン交換されているか否かを調べるための具体的な手順は、以下で説明する通りである。
【0043】
最初に、二次電池から隔壁12を回収したのち、その隔壁12から上端部12Aおよび下端部12Cのうちの一方または双方(カチオン交換膜)を採取する。続いて、塩酸(濃度=1mol/l(=1mol/dm3 ))中にカチオン交換膜を浸漬させたのち、その塩酸中からカチオン交換膜を取り出すことにより、そのカチオン交換膜が浸漬されていた塩酸(浸漬液)を得る。最後に、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法などの分析法を用いて浸漬液を分析することにより、その浸漬液中に含まれているアルカリ金属イオンを定量する。これにより、カチオン交換膜中において複数のイオン交換基がアルカリ金属イオンによりイオン交換されているか否かを確認することができるため、そのカチオン交換膜があらかじめアルカリ金属イオンによりイオン交換されているか否かを調べることができる。
【0044】
[正極]
正極13は、正極室S1の内部に配置されており、アルカリ金属イオンを吸蔵放出する。ここでは、正極13は、一対の面を有する正極集電体13Aと、その正極集電体13Aの両面に形成された正極活物質層13Bとを含んでいる。ただし、正極活物質層13Bは、正極集電体13Aの片面だけに形成されていてもよい。
【0045】
なお、正極集電体13Aは、省略されてもよい。このため、正極13は、正極活物質層13Bだけでもよい。
【0046】
正極集電体13Aは、金属材料、炭素材料および導電性セラミックス材料などの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。金属材料の具体例は、チタン、アルミニウムおよびそれらの合金などである。導電性セラミックス材料の具体例は、酸化インジウムスズ(ITO)などである。
【0047】
ここでは、正極集電体13Aの一部(接続端子部13AT)に正極活物質層13Bが形成されておらずに、その接続端子部13ATが外装部材11の外部に導出されている。
【0048】
中でも、正極集電体13Aの形成材料は、正極電解液15に対して不溶性、難溶性および耐食性を有していると共に、正極活物質に対して低反応性を有していることが好ましい。このため、正極集電体13Aは、上記した金属材料を含んでいることが好ましく、すなわちチタン、アルミニウムおよびそれらの合金などを含んでいることが好ましい。二次電池を使用しても正極集電体13Aが劣化しにくくなるからである。
【0049】
なお、正極集電体13Aは、上記した金属材料、炭素材料および導電性セラミックス材料のうちのいずれか1種類または2種類以上が表面を被覆するように鍍金された導電体でもよい。導電体の材質は、導電性を有していれば、特に限定されない。
【0050】
正極活物質層13Bは、アルカリ金属イオンを吸蔵放出する正極活物質のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、正極活物質層13Bは、さらに、正極結着剤および正極導電剤などを含んでいてもよい。
【0051】
アルカリ金属イオンとしてリチウムイオンを吸蔵放出する正極活物質は、リチウム含有化合物などを含んでいる。リチウム含有化合物の種類は、特に限定されないが、具体的には、リチウム複合酸化物およびリチウムリン酸化合物などである。リチウム複合酸化物は、リチウムと1種類または2種類以上の遷移金属元素とを構成元素として含む酸化物であると共に、リチウムリン酸化合物は、リチウムと1種類または2種類以上の遷移金属元素とを構成元素として含むリン酸化合物である。遷移金属元素の種類は、特に限定されないが、具体的には、ニッケル、コバルト、マンガンおよび鉄などである。
【0052】
層状岩塩型の結晶構造を有するリチウム複合酸化物の具体例は、LiNiO2 、LiCoO2 、LiCo0.98Al0.01Mg0.01O2 、LiNi0.5 Co0.2 Mn0.3 O2 、LiNi0.8 Co0.15Al0.05O2 、LiNi0.33Co0.33Mn0.33O2 、Li1.2 Mn0.52Co0.175 Ni0.1 O2 およびLi1.15(Mn0.65Ni0.22Co0.13)O2 などである。スピネル型の結晶構造を有するリチウム複合酸化物の具体例は、LiMn2 O4 などである。オリビン型の結晶構造を有するリチウムリン酸化合物の具体例は、LiFePO4 、LiMnPO4 、LiMn0.5 Fe0.5 PO4 、LiMn0.7 Fe0.3 PO4 およびLiMn0.75Fe0.25PO4 などである。
【0053】
アルカリ金属イオンとしてナトリウムイオンを吸蔵放出する正極活物質は、ナトリウム含有化合物などを含んでいる。ナトリウム含有化合物の種類は、特に限定されないが、具体的には、式(1)で表されるプルシアンブルー類似体などである。
【0054】
Nax Ky M1z Fe(CN)6 ・aH2 O ・・・(1)
(M1は、MnおよびZnのうちの少なくとも一方である。x、yおよびzは、0.5<x≦2、0≦y≦0.5および0≦z≦2を満たす。aは、任意の値である。ただし、yは、0.05≦y≦0.2を満たしていてもよい。)
【0055】
プルシアンブルー類似体の具体例は、Na2 MnFe(CN6 )、Na1.42K0.09Mn1.13Fe(CN)6 ・3H2 OおよびNa0.83K0.12Zn1.49Fe(CN)6 ・3.2H2 Oなどである。
【0056】
アルカリ金属イオンとしてカリウムイオンを吸蔵放出する正極活物質は、カリウム含有化合物などを含んでいる。カリウム含有化合物の具体例は、K0.7 Fe0.6 Mn0.6 O2 、K0.6 MnO2 、K0.3 MnO2 、K0.31CoO2 、KCrO2 、K0.6 CoO2 、K2/3 Mn2/3 Co1/3 Ni1/3 O2 、K2/3 Ni2/3 Te1/3 O2 、K2/3 Ni1/6 Co1/2 Te1/3 O2 、K2/3 Ni1/2 Mn1/6 Te1/3 O2 、K2/3 Ni1/2 Cu1/6 Te1/3 O2 、K2/3 Ni1/3 Zn1/3 Te1/3 O2 、K2/3 Ni1/6 Mg1/2 Te1/3 O2 、K2/3 Ni1/2 Co1/6 Te1/3 O2 、K2/3 Ni1/3 Mg1/3 Te1/3 O2 およびK2/3 Ni1/3 Co1/3 Te1/3 O2 などである。
【0057】
正極結着剤は、合成ゴムおよび高分子化合物などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。合成ゴムの具体例は、スチレンブタジエン系ゴムなどである。高分子化合物の具体例は、ポリフッ化ビニリデンおよびポリイミドなどである。
【0058】
正極導電剤は、炭素材料などの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、その炭素材料の具体例は、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックおよびケッチェンブラックなどである。ただし、導電性材料は、金属材料、導電性セラミックス材料および導電性高分子などでもよい。
【0059】
[負極]
負極14は、負極室S2の内部に配置されており、アルカリ金属イオンを吸蔵放出する。ここでは、負極14は、一対の面を有する負極集電体14Aと、その負極集電体14Aの両面に形成された負極活物質層14Bとを含んでいる。ただし、負極活物質層14Bは、負極集電体14Aの片面だけに形成されていてもよい。
【0060】
なお、負極集電体14Aは、省略されてもよい。このため、負極14は、負極活物質層14Bだけでもよい。
【0061】
負極集電体14Aは、金属材料、炭素材料および導電性セラミックス材料などの導電性材料のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。金属材料の具体例は、ステンレス鋼(SUS)、チタン、亜鉛、錫、鉛およびそれらの合金などである。このステンレス鋼は、ニオブおよびモリブデンなどの添加元素のうちのいずれか1種類または2種類以上が添加された高耐食性のステンレス鋼でもよい。具体的には、ステンレス鋼は、添加元素としてモリブデンが添加されたSUS444などでもよい。導電性セラミックス材料に関する詳細は、上記した通りである。
【0062】
ここでは、負極集電体14Aの一部(接続端子部14AT)に負極活物質層14Bが形成されていないため、その接続端子部14ATが外装部材11の外部に導出されている。この接続端子部14ATの導出方向は、接続端子部13ATの導出方向と同様である。
【0063】
中でも、負極集電体14Aの形成材料は、負極電解液16に対して不溶性、難溶性および耐食性を有していると共に、負極活物質に対して低反応性を有していることが好ましい。このため、負極集電体14Aは、上記した金属材料を含んでいることが好ましく、すなわちステンレス鋼、チタン、亜鉛、スズ、鉛およびそれらの合金などを含んでいることが好ましい。二次電池を使用しても負極集電体14Aが劣化しにくくなるからである。
【0064】
なお、負極集電体14Aは、上記した金属材料、炭素材料および導電性セラミックス材料のうちのいずれか1種類または2種類以上が表面を被覆するように鍍金された導電体でもよい。この導電体の材質は、導電性を有していれば、特に限定されない。
【0065】
負極活物質層14Bは、アルカリ金属イオンを吸蔵放出する負極活物質のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。ただし、負極活物質層14Bは、さらに、負極結着剤および負極導電剤などを含んでいてもよい。負極結着剤に関する詳細は、正極結着剤に関する詳細と同様であると共に、負極導電剤に関する詳細は、正極導電剤に関する詳細と同様である。
【0066】
負極活物質は、チタン含有化合物、ニオブ含有化合物、バナジウム含有化合物、鉄含有化合物およびモリブデン含有化合物などである。正極電解液15および負極電解液16を用いた場合においても、充放電反応が円滑かつ安定に進行するからである。
【0067】
チタン含有化合物は、チタン酸化物、アルカリ金属チタン複合酸化物、チタンリン酸化物、アルカリ金属チタンリン酸化合物および水素チタン化合物などである。
【0068】
チタン酸化物は、式(2)で表される化合物であり、すなわちブロンズ型酸化チタンなどである。
【0069】
TiOw ・・・(2)
(wは、1.85≦w≦2.15を満たす。)
【0070】
このチタン酸化物は、アナターゼ型、ルチル型およびブルッカイト型の酸化チタン(TiO2 )のうちのいずれか1種類または2種類以上である。ただし、チタン酸化物は、チタンと共にリン、バナジウム、スズ、銅、ニッケル、鉄およびコバルトなどのうちのいずれか1種類または2種類以上を構成元素として含む複合酸化物でもよい。この複合酸化物の具体例は、TiO2 -P2 O5 、TiO2 -V2 O5 、TiO2 -P2 O5 -SnO2 およびTiO2 -P2 O5 -MeOなどである。ただし、Meは、Cu、Ni、FeおよびCoなどのうちのいずれか1種類または2種類以上である。
【0071】
アルカリ金属チタン複合酸化物のうちのリチウムチタン複合酸化物は、式(3)~式(5)のそれぞれで表される化合物などであり、すなわちラムスデライト型チタン酸リチウムなどである。式(3)に示したM3は、2価イオンになり得る金属元素である。式(4)に示したM4は、3価イオンになり得る金属元素である。式(5)に示したM5は、4価イオンになり得る金属元素である。
【0072】
Li[Lix M3(1-3x)/2Ti(3+x)/2 ]O4 ・・・(3)
(M3は、Mg、Ca、Cu、ZnおよびSrのうちの少なくとも1種である。xは、0≦x≦1/3を満たす。)
【0073】
Li[Liy M41-3yTi1+2y]O4 ・・・(4)
(M4は、Al、Sc、Cr、Mn、Fe、GeおよびYのうちの少なくとも1種である。yは、0≦y≦1/3を満たす。)
【0074】
Li[Li1/3 M5z Ti(5/3)-z ]O4 ・・・(5)
(M5は、V、ZrおよびNbのうちの少なくとも1種である。zは、0≦z≦2/3を満たす。)
【0075】
式(3)に示したリチウムチタン複合酸化物の具体例は、Li3.75Ti4.875 Mg0.375 O12などである。式(4)に示したリチウムチタン複合酸化物の具体例は、LiCrTiO4 などである。式(5)に示したリチウムチタン複合酸化物の具体例は、Li4 Ti5 O12およびLi4 Ti4.95Nb0.05O12などである。
【0076】
アルカリ金属チタン複合酸化物のうちのカリウムチタン複合酸化物の具体例は、K2 Ti3 O7 およびK4 Ti5 O12などである。
【0077】
チタンリン酸化物の具体例は、リン酸チタン(TiP2 O7 )などである。アルカリ金属チタンリン酸化合物のうちのリチウムチタンリン酸化合物の具体例は、LiTi2 (PO4 )3 などである。アルカリ金属チタンリン酸化合物のうちのナトリウムチタンリン酸化合物の具体例は、NaTi2 (PO4 )3 などである。水素チタン化合物の具体例は、H2 Ti3 O7 (3TiO2 ・1H2 O)、H6 Ti12O27(3TiO2 ・0.75H2 O)、H2 Ti6 O13(3TiO2 ・0.5H2 O)、H2 Ti7 O15(3TiO2 ・0.43H2 O)およびH2 Ti12O25(3TiO2 ・0.25H2 O)などである。
【0078】
ニオブ含有化合物は、アルカリ金属ニオブ複合酸化物、水素ニオブ化合物およびチタンニオブ複合酸化物などである。ただし、ニオブ含有化合物に該当する材料は、チタン含有化合物から除かれる。
【0079】
アルカリ金属ニオブ複合酸化物の具体例は、LiNbO2 などである。水素ニオブ化合物の具体例は、H4 Nb6 O17などである。チタンニオブ複合酸化物の具体例は、TiNb2 O7 およびTi2 Nb10O29などである。ただし、チタンニオブ複合酸化物には、アルカリ金属がインターカレートされていてもよい。
【0080】
バナジウム含有化合物は、バナジウム酸化物およびアルカリ金属バナジウム複合酸化物などである。ただし、バナジウム含有化合物に該当する材料は、チタン含有化合物およびニオブ含有化合物のそれぞれから除かれる。
【0081】
バナジウム酸化物の具体例は、二酸化バナジウム(VO2 )などである。アルカリ金属バナジウム複合酸化物の具体例は、LiV2 O4 およびLiV3 O8 などである。
【0082】
鉄含有化合物は、鉄水酸化物などである。ただし、鉄含有化合物に該当する材料は、チタン含有化合物、ニオブ含有化合物およびバナジウム含有化合物のそれぞれから除かれる。
【0083】
鉄水酸化物の具体例は、オキシ水酸化鉄(FeOOH)などである。ただし、オキシ水酸化鉄は、α-オキシ水酸化鉄でもよいし、β-オキシ水酸化鉄でもよいし、γ-オキシ水酸化鉄でもよいし、δ-オキシ水酸化鉄でもよいし、それらのうちの任意の2種類以上でもよい。
【0084】
モリブデン含有化合物は、モリブデン酸化物およびコバルトモリブデン複合酸化物などである。ただし、モリブデン含有化合物に該当する材料は、チタン含有化合物、ニオブ含有化合物、バナジウム含有化合物および鉄含有化合物のそれぞれから除かれる。
【0085】
モリブデン酸化物の具体例は、二酸化モリブデン(MoO2 )などである。コバルトモリブデン複合酸化物の具体例は、CoMoO4 などである。
【0086】
[正極電解液および負極電解液]
正極電解液15は、正極室S1の内部に収容されていると共に、負極電解液16は、負極室S2の内部に収容されている。このため、正極電解液15および負極電解液16は、互いに混合されないように隔壁12を介して互いに分離されている。
【0087】
具体的には、正極電解液15および負極電解液16のそれぞれは、水性溶媒と共に、その水性溶媒中において電離可能であるイオン性物質のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいる。また、正極電解液15および負極電解液16のそれぞれは、正極13および負極14のそれぞれにおいて吸蔵放出されるアルカリ金属イオンを含んでいる。
【0088】
水性溶媒の種類は、特に限定されないが、具体的には、純水などである。イオン性物質の種類は、特に限定されないが、具体的には、酸、塩基および電解質塩などのうちのいずれか1種類または2種類以上である。酸の具体例は、炭酸、シュウ酸、硝酸、硫酸、塩酸、酢酸およびクエン酸などである。
【0089】
電解質塩は、カチオンおよびアニオンを含む塩であり、より具体的には、金属塩のうちのいずれか1種類または2種類以上である。金属塩の種類は、特に限定されないが、具体的には、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩および遷移金属塩などである。
【0090】
アルカリ金属塩は、リチウム塩、ナトリウム塩およびカリウム塩などである。リチウム塩の具体例は、炭酸リチウム、シュウ酸リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム、塩化リチウム、酢酸リチウム、クエン酸リチウム、水酸化リチウムおよびイミド塩などである。このイミド塩は、ビス(フルオロスルホニル)イミドリチウムおよびビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウムなどである。ナトリウム塩の具体例は、上記したリチウム塩の具体例のうちのリチウムがナトリウムに置換された化合物などである。カリウム塩の具体例は、上記したリチウム塩の具体例のうちのリチウムがカリウムに置換された化合物などである。
【0091】
アルカリ土類金属塩の種類は、特に限定されないが、具体的には、上記したリチウム塩のうちのリチウムがアルカリ土類金属元素に置換された化合物などである。このアルカリ土類金属塩は、カルシウム塩などである。遷移金属塩の種類は、特に限定されないが、具体的には、上記したリチウム塩のうちのリチウムが遷移金属元素に置換された化合物などである。
【0092】
イオン性物質の含有量、すなわち正極電解液15および負極電解液16のそれぞれの濃度(mol/kg)は、任意に設定可能である。
【0093】
正極電解液15の組成(水性溶媒の種類および電解質塩の種類)と負極電解液16の組成(水性溶媒の種類および電解質塩の種類)とは、互いに同じでもよいし、互いに異なってもよい。ただし、負極電解液16は、正極電解液15のpHよりも大きいpHを有している。
【0094】
負極電解液16のpHが正極電解液15のpHよりも大きいのは、その負極電解液16のpHが正極電解液15のpHに等しい場合などと比較して、両者のpHの差異に起因して水性溶媒の分解電位がシフトするからである。これにより、充放電時において水性溶媒の分解反応が熱力学的に抑制されながら、その水性溶媒の電位窓が拡大する。よって、高い電圧が得られながら、アルカリ金属イオンの吸蔵放出を利用した充放電反応が十分かつ安定に進行する。
【0095】
中でも、正極電解液15の組成(電解質塩の種類)と負極電解液16の組成(電解質塩の種類)とは、互いに異なっていることが好ましい。負極電解液16のpHが正極電解液15のpHよりも大きくなるように制御されやすくなるからである。
【0096】
負極電解液16のpHが正極電解液15のpHよりも大きくなっていれば、両者のpHの値は特に限定されない。
【0097】
中でも、負極電解液16のpHは、11以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましく、13以上であることがさらに好ましい。負極電解液16のpHが十分に大きくなるため、その負極電解液16のpHが正極電解液15のpHよりも大きくなりやすいからである。また、正極電解液15のpHと負極電解液16のpHとの差異が十分に大きくなるため、両者のpHの大小関係が維持されやすくなるからである。
【0098】
また、正極電解液15のpHは、3~8であることが好ましく、4~8であることがより好ましく、4~6であることがさらに好ましい。正極電解液15のpHと負極電解液16のpHとの差異が十分に大きくなるため、両者のpHの大小関係が維持されやすくなるからである。また、外装部材11が腐食されにくくなると共に、正極集電体13Aおよび負極集電体14Aなどの電池構成部材が腐食されにくくなるため、二次電池の電気化学的耐久性(安定性)が向上するからである。
【0099】
なお、電解質塩は、正極13および負極14のそれぞれにおいて吸蔵放出されるアルカリ金属イオンをカチオンとするアルカリ金属塩を含んでいる。この場合において、電解質塩は、さらに、任意の電解質塩(正極13および負極14のそれぞれにおいて吸蔵放出されるアルカリ金属イオンをカチオンとするアルカリ金属塩を除く。)および非電解質のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。この任意の電解質塩の種類(カチオンの種類およびアニオンの種類)は、特に限定されないため、任意に選択可能である。
【0100】
ここで、正極電解液15および負極電解液16のうちの一方または双方は、上記したように、正極13および負極14のそれぞれにおいて吸蔵放出されるアルカリ金属イオンをカチオンとするアルカリ金属塩を含んでいる。アルカリ金属塩の種類は、特に限定されないため、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。
【0101】
この場合において、正極電解液15および負極電解液16のうちの一方または双方は、さらに、正極13および負極14のそれぞれにおいて吸蔵放出されるアルカリ金属イオンとは異なる他の金属イオンをカチオンとする他の金属塩のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。この他の金属イオンは、正極13および負極14のそれぞれにおいて吸蔵放出される金属イオンでもよいし、正極13および負極14のそれぞれにおいて吸蔵放出されない金属イオンでもよいし、双方でもよい。
【0102】
正極13および負極14のそれぞれにおいて吸蔵放出される金属イオンである他の金属イオンの種類は、特に限定されないため、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。この他の金属イオンは、正極13および負極14のそれぞれにおいて吸蔵放出されるアルカリ金属イオン以外の他のアルカリ金属イオンなどである。
【0103】
正極13および負極14のそれぞれにおいて吸蔵放出されない金属イオンである他の金属イオンの種類は、特に限定されないため、1種類だけでもよいし、2種類以上でもよい。この他の金属イオンは、正極13および負極14のそれぞれにおいて吸蔵放出されるアルカリ金属イオン以外の他のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオンおよびその他の金属イオンなどの任意の金属イオンのうちのいずれか1種類または2種類以上である。
【0104】
より具体的には、正極電解液15および負極電解液16のうちの一方または双方は、正極13および負極14のそれぞれにおいて吸蔵放出されるアルカリ金属イオンをカチオンとするアルカリ金属塩として、リチウムイオンをカチオンとするリチウム塩を含んでいる。
【0105】
この場合において、正極電解液15および負極電解液16のうちの一方または双方は、さらに、上記した他の金属イオンをカチオンとする他の金属塩のうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいることが好ましい。2種類以上の金属塩(アルカリ金属塩および他の金属塩)を併用することにより、1種類の金属塩(アルカリ金属塩)だけを用いる場合と比較して、正極電解液15のpHおよび負極電解液16のpHのそれぞれが制御されやすくなるからである。
【0106】
中でも、正極電解液15および負極電解液16のうちの一方または双方は、アルカリ金属塩であるリチウム塩(リチウムイオン)と共に、他の金属塩であるナトリウム塩(ナトリウムイオン)およびカリウム塩(カリウムイオン)のうちの一方または双方を含んでいることが好ましい。負極電解液16のpHが正極電解液15のpHよりも十分に大きくなるように制御されやすくなるため、両者のpHの大小関係が維持されやすくなるからである。
【0107】
なお、正極電解液15および負極電解液16のうちの一方または双方は、正極13および負極14のそれぞれにおいて吸蔵放出されるアルカリ金属イオンをカチオンとするアルカリ金属塩の飽和溶液であることが好ましい。中でも、正極電解液15および負極電解液16の双方は、上記したアルカリ金属塩の飽和溶液であることがより好ましい。充放電時において充放電反応、すなわちアルカリ金属イオンの吸蔵放出反応が安定に進行するからである。
【0108】
正極電解液15が電解質塩(アルカリ金属塩)の飽和溶液であるか否かを確認するためには、二次電池を解体したのち、正極室S1の内部において電解質塩が析出しているか否かを調べればよい。この正極室S1の内部とは、具体的には、正極電解液15の液中、隔壁12の表面、正極13の表面および外装部材11の内壁面などである。電解質塩が析出しているため、正極室S1の内部において正極電解液15(液体)と電解質塩の析出物(固体)とが共存している場合には、その正極電解液15が電解質塩の飽和溶液であると考えられる。なお、析出物の組成を調べるためには、X線光電子分光法(XPS)などの表面分析法を用いることができると共に、ICP発光分光分析法などの組成分析法を用いることができる。
【0109】
負極電解液16が電解質塩(アルカリ金属塩)の飽和溶液であるか否かを確認する方法は、正極室S1の代わりに負極室S2を調べることを除いて、上記した正極電解液15が電解質塩(アルカリ金属塩)の飽和溶液であるか否かを確認する方法と同様である。
【0110】
また、正極電解液15および負極電解液16のそれぞれは、pH緩衝液でもよい。このpH緩衝液は、例えば、弱酸とその共役塩基とが混合された水溶液でもよいし、弱塩基とその共役酸とが混合された水溶液でもよい。pHの変動が十分に抑制されるため、上記した正極電解液15のpHおよび負極電解液16のpHのそれぞれが維持されやすくなるからである。
【0111】
中でも、正極電解液15は、アニオンとして、硫酸イオン、硫酸水素イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、リン酸イオン、リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオンおよびカルボン酸イオンなどのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいることが好ましい。正極電解液15のpHの変動が十分に抑制されるため、上記した正極電解液15のpHおよび負極電解液16のpHのそれぞれが十分に維持されやすくなるからである。カルボン酸イオンは、例えば、ギ酸イオン、酢酸イオン、プロピオン酸イオン、酒石酸イオンおよびクエン酸イオンなどである。
【0112】
なお、正極電解液15および負極電解液16のそれぞれは、緩衝剤として、トリスヒドロキシメチルアミノメタンおよびエチレンジアミン四酢酸などのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいてもよい。
【0113】
より具体的には、正極電解液15は、アニオンとして、硫酸イオン、硫酸水素イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、リン酸イオン、リン酸一水素イオンおよびリン酸二水素イオンのうちのいずれか1種類または2種類以上を含んでいると共に、負極電解液16は、アニオンとして水酸化物イオンを含んでいることが好ましい。正極電解液15のpHが十分に小さくなるように制御されやすくなると共に、負極電解液16のpHが十分に大きくなるように制御されやすくなるからである。
【0114】
ここで、正極電解液15および負極電解液16のそれぞれは、互いに等張な関係を有する等張液であることが好ましい。正極電解液15および負極電解液16のそれぞれの浸透圧が適正化されるため、両者のpHの大小関係が維持されやすくなるからである。
【0115】
なお、正極電解液15のpHは、正極集電体13Aおよび正極活物質層13Bのそれぞれが腐食されにくくなるように設定されていることが好ましい。同様に、負極電解液16のpHは、負極集電体14Aおよび負極活物質層14Bのそれぞれが腐食されにくくなるように設定されていることが好ましい。正極13および負極14を用いた充放電反応が安定かつ継続的に進行しやすくなるからである。
【0116】
<1-2.動作>
二次電池の充電時には、正極13からアルカリ金属イオンが放出されると、そのアルカリ金属イオンが正極電解液15、隔壁12および負極電解液16をこの順に経由して負極14に移動する。これにより、負極14においてアルカリ金属イオンが吸蔵される。
【0117】
一方、二次電池の放電時には、負極14からアルカリ金属イオンが放出されると、そのアルカリ金属イオンが負極電解液16、隔壁12および正極電解液15をこの順に経由して正極13に移動する。これにより、正極13においてアルカリ金属イオンが吸蔵される。
【0118】
<1-3.製造方法>
二次電池を製造する場合には、以下で説明するように、正極13および負極14のそれぞれを作製すると共に、正極電解液15および負極電解液16のそれぞれを調製したのち、二次電池を作製する。
【0119】
[正極の作製]
最初に、正極活物質、正極結着剤および正極導電剤を互いに混合させることにより、正極合剤とする。続いて、溶媒に正極合剤を投入することにより、ペースト状の正極合剤スラリーを調製する。溶媒の種類は、水性溶媒でもよいし、有機溶剤でもよい。最後に、正極集電体13A(接続端子部13ATを除く。)の両面に正極合剤スラリーを塗布することにより、正極活物質層13Bを形成する。こののち、ロールプレス機などを用いて正極活物質層13Bを圧縮成型してもよい。この場合には、正極活物質層13Bを加熱してもよいし、圧縮成型を複数回繰り返してもよい。これにより、正極集電体13Aの両面に正極活物質層13Bが形成されるため、正極13が作製される。
【0120】
[負極の作製]
上記した正極13の作製手順と同様の手順により、負極集電体14Aの両面に負極活物質層14Bを形成する。具体的には、負極活物質、負極結着剤および負極導電剤を互いに混合させることにより、負極合剤としたのち、溶媒に負極合剤を投入することにより、ペースト状の負極合剤スラリーを調製する。続いて、負極集電体14A(接続端子部14ATを除く。)の両面に負極合剤スラリーを塗布することにより、負極活物質層14Bを形成する。こののち、負極活物質層14Bを圧縮成型してもよい。これにより、負極集電体14Aの両面に負極活物質層14Bが形成されるため、負極14が作製される。
【0121】
[隔壁の作製]
最初に、水性溶媒中にアルカリ金属塩を投入することにより、その水性溶媒によりアルカリ金属塩が溶解された水溶液を調製する。水性溶媒の種類は、特に限定されないが、具体的には、純水などである。アルカリ金属塩は、正極13および負極14のそれぞれにおいて吸蔵放出されるアルカリ金属イオンをカチオンとして含む塩である。アルカリ金属塩の種類は、特に限定されないが、具体的には、水酸化物塩および炭酸塩などのうちのいずれか1種類または2種類以上である。一例を挙げると、アルカリ金属イオンがリチウムイオンである場合のアルカリ金属塩は、水酸化リチウムおよび炭酸リチウムなどである。
【0122】
続いて、水溶液中にイオン交換膜(カチオン交換膜)を浸漬させることにより、そのカチオン交換膜の前処理を行う。ここで用いるカチオン交換膜は、複数のイオン交換基(-X- H+ )を有しているため、いわゆる未処理のカチオン交換膜である。この「未処理のカチオン交換膜」とは、複数のイオン交換基のうちの水素イオンがアルカリ金属イオンにより置換されていないため、そのアルカリ金属イオンによりイオン交換されていないカチオン交換膜である。
【0123】
この前処理により、カチオン交換膜において複数のイオン交換基のうちの水素イオンがアルカリ金属イオンにより置換される。よって、カチオン交換膜がアルカリ金属イオンによりイオン交換されるため、複数のイオン交換基(-X- M+ )を有するカチオン交換膜が得られる。
【0124】
最後に、水溶液中から前処理後のカチオン交換膜を取り出したのち、そのカチオン交換膜を乾燥させる。これにより、あらかじめアルカリ金属イオンによりイオン交換されているカチオン交換膜である隔壁12が作製される。
【0125】
[正極電解液および負極電解液のそれぞれ調製]
水性溶媒にイオン性物質を添加することにより、正極電解液15および負極電解液16のそれぞれを調製する。この場合には、イオン性物質の種類および濃度(mol/kg)などの条件を調整することにより、負極電解液16のpHが正極電解液15のpHよりも大きくなるようにする。
【0126】
[二次電池の組み立て]
最初に、外装部11Xに正極13を取り付けると共に、外装部11Yに負極14を取り付ける。この場合には、外装部11Xの内部に正極13を収納すると共に、その外装部11Xの外部に接続端子部13ATを導出させる。また、外装部11Yの内部に負極14を収納すると共に、その外装部11Yの外部に接続端子部14ATを導出させる。
【0127】
続いて、隔壁12を介して外装部11X,11Yを互いに対向させたのち、接着剤などを用いて隔壁12を介して外装部11X,11Yを互いに連結させることにより、外装部材11を組み立てる。これにより、外装部材11の内部空間が隔壁12を介して2個に分離されるため、正極室S1および負極室S2が形成される。
【0128】
最後に、正極室S1に連通された正極注入孔(図示せず)から、その正極室S1の内部に正極電解液15を供給すると共に、負極室S2に連通された負極注入孔(図示せず)から、その負極室S2の内部に負極電解液16を供給する。こののち、正極注入孔および負極注入孔のそれぞれを封止する。
【0129】
これにより、正極13が配置されている正極室S1の内部に正極電解液15が収容されると共に、負極14が配置されている負極室S2の内部に負極電解液16が収容される。よって、2種類の水系電解液(正極電解液15および負極電解液16)を用いた二次電池が完成する。
【0130】
<1-4.作用および効果>
この二次電池によれば、正極室S1の内部に正極13が配置されていると共に水系電解液である正極電解液15が収容されており、負極室S2の内部に負極14が配置されていると共に水系電解液である負極電解液16が収容されており、その正極室S1と負極室S2との間にアルカリ金属イオンを透過させる隔壁12が配置されている。また、負極電解液16が正極電解液15のpHよりも大きいpHを有しており、隔壁12がアルカリ金属イオンによりイオン交換されているカチオン交換膜を含んでいる。
【0131】
この場合には、隔壁12がカチオン交換膜を含んでいるため、上記したように、正極電解液15中の水性溶媒および負極電解液16中の水性溶媒のそれぞれが隔壁12の内部に浸透しやすくなる。これにより、隔壁12の内部においてイオン伝導性が向上するため、正極13と負極14との間においてアルカリ金属イオンが隔壁12を介して移動しやすくなる。
【0132】
また、負極電解液16のpHが正極電解液15のpHよりも大きいため、上記したように、水性溶媒の分解電位がシフトする。これにより、充放電時において水性溶媒の分解反応が熱力学的に抑制されながら、その水性溶媒の電位窓が拡大するため、高い電圧が得られながら、アルカリ金属イオンの吸蔵放出を利用した充放電反応が十分かつ安定に進行する。
【0133】
さらに、カチオン交換膜があらかじめアルカリ金属イオンによりイオン交換されているため、正極電解液15および負極電解液16のそれぞれのpHが変動しにくくなる。これにより、正極電解液15のpHと負極電解液16のpHとの大小関係が維持されやすくなるため、正極活物質および負極活物質などの電極構成材料が劣化しにくくなると共に、正極集電体13Aおよび負極集電体14Aなどの電極構成部材が腐食されにくくなる。
【0134】
これらのことから、2種類の水系電解液(正極電解液15および負極電解液16)を用いても、電極構成材料の劣化および電極構成部材の腐食のそれぞれが抑制されながら、高い電圧が得られると共に充放電反応が十分かつ安定に進行する。よって、充放電を繰り返しても放電容量が減少しにくくなるため、優れたサイクル特性を得ることができる。
【0135】
特に、隔壁12が正極電解液15および負極電解液16のそれぞれに接触していない上端部12Aを含んでおり、その上端部12Aがアルカリ金属によりイオン交換されているカチオン交換膜を含んでいれば、使用済みの二次電池を用いても、カチオン交換膜があらかじめアルカリ金属イオンによりイオン交換されていることを事後的に特定可能である。よって、隔壁12としてあらかじめアルカリ金属イオンによりイオン交換されているカチオン交換膜を用いることにより、優れたサイクル特性を有する二次電池を容易かつ安定に実現可能であるため、より高い効果を得ることができる。
【0136】
ここで説明した隔壁12が上端部12Aを含んでいる場合に関する利点は、その隔壁12が下端部12Cを含んでいる場合に関しても同様に得られる。
【0137】
また、正極電解液15のpHが3~8であると共に、負極電解液16のpHが11以上であれば、その正極電解液15のpHと負極電解液16のpHとの大小関係が維持されやすくなるため、より高い効果を得ることができる。
【0138】
また、正極電解液15および負極電解液16のうちの一方または双方がアルカリ金属塩の飽和溶液であれば、充放電時において充放電反応(アルカリ金属イオンの吸蔵放出反応)が安定に進行するため、より高い効果を得ることができる。
【0139】
また、正極13および負極14のそれぞれにおいて吸蔵放出される金属イオンがアルカリ金属イオンであれば、そのアルカリ金属イオンの移動性が担保されるため、より高い効果を得ることができる。
【0140】
<2.変形例>
二次電池の構成は、以下で説明するように、適宜、変更可能である。ただし、以下で説明する一連の変形例のうちの任意の2種類以上は、互いに組み合わされてもよい。
【0141】
[変形例1]
図1では、外装部材11が外装部11X,11Yを含んでおり、その外装部11X,11Yが隔壁12を介して互いに連結されているため、上端部12Aおよび下端部12Cのそれぞれが外装部材11の外部に露出している。しかしながら、外装部材11の構成は、隔壁12を保持可能であれば、特に限定されない。
【0142】
具体的には、
図1に対応する
図2に示したように、上端部12Aおよび下端部12Cのそれぞれは、外装部材11の外部に露出していなくてもよい。
図2に示した二次電池の構成は、以下で説明することを除いて、
図1に示した二次電池の構成と同様である。
【0143】
ここでは、外装部材11は、内部空間を有する1個の部材であり、その外装部材11の内壁面には、一対の窪み11M,11Nが設けられている。この窪み11M,11Nは、内部空間を介して互いに対向する位置に配置されており、その窪み11Mの内部に上端部12Aが挿入されていると共に、その窪み11Nの内部に下端部12Cが挿入されている。これにより、隔壁12が外装部材11により保持されていると共に、その隔壁12を介して正極室S1および負極室S2が互いに分離されている。
【0144】
この場合においても、外装部材11により隔壁12が保持されると共に、アルカリ金属イオンが隔壁12を透過可能であるため、
図1に示した場合と同様の効果を得ることができる。もちろん、隔壁12が上端部12Aおよび下端部12Cを含んでいるため、上記した理由により、その隔壁12であるカチオン交換膜があらかじめアルカリ金属イオンによりイオン交換されているか否かを事後的に確認することもできる。
【0145】
なお、ここでは具体的に図示しないが、
図2では、外装部材11が窪み11M,11Nのうちのいずれか一方だけを有しているため、隔壁12が上端部12Aおよび下端部12Cのうちのいずれか一方だけを含んでいてもよい。この場合においても、外装部材11が隔壁12を保持可能であると共に、その隔壁12が正極電解液15および負極電解液16を分離可能であれば、同様の効果を得ることができる。
【0146】
[変形例2]
図1では、液状の電解質である電解液(正極電解液15および負極電解液16)を用いた。
【0147】
しかしながら、
図1に対応する
図3に示したように、電解液の代わりに、ゲル状の電解質である電解質層17,18を用いてもよい。
図3に示した二次電池の構成は、以下で説明することを除いて、
図1に示した二次電池の構成と同様である。
【0148】
ここでは、電解質層17は、隔壁12と正極13との間に介在していると共に、電解質層18は、隔壁12と負極14との間に介在している。すなわち、電解質層17は、隔壁12および正極13のそれぞれに隣接されていると共に、電解質層18は、隔壁12および負極14のそれぞれに隣接されている。
【0149】
具体的には、電解質層17は、正極電解液15と共に高分子化合物を含んでおり、その正極電解液15は、高分子化合物により保持されている。電解質層18は、負極電解液16と共に高分子化合物を含んでおり、その負極電解液16は、高分子化合物により保持されている。高分子化合物の種類は、特に限定されないが、具体的には、ポリフッ化ビニリデンおよびポリエチレンオキサイドなどのうちのいずれか1種類または2種類以上である。
図3では、正極電解液15を含んでいる電解質層17に淡い網掛けを施していると共に、負極電解液16を含んでいる電解質層18に濃い網掛けを施している。
【0150】
電解質層17を形成する場合には、正極電解液15および高分子化合物と共に溶媒を互いに混合させることにより、ゾル状の前駆溶液を調製したのち、正極13の表面に前駆溶液を塗布する。電解質層18を形成する場合には、負極電解液16および高分子化合物と共に溶媒を互いに混合することにより、ゾル状の前駆溶液を調製したのち、負極14の表面に前駆溶液を塗布する。
【0151】
この場合においても、正極13と負極14との間において電解質層17,18を介してアルカリ金属イオンが移動可能になるため、
図1に示した場合と同様の効果を得ることができる。
【0152】
なお、ここでは具体的に図示しないが、
図3では、二次電池が電解質層17,18のうちのいずれか一方だけを備えていてもよい。すなわち、正極電解液15と共に電解質層18を用いてもよいし、電解質層17と共に負極電解液16を用いてもよい。この場合においても、同様の効果を得ることができる。
【0153】
<3.二次電池の用途>
二次電池の用途(適用例)は、特に限定されない。電源として用いられる二次電池は、電子機器および電動車両などの主電源でもよいし、補助電源でもよい。主電源とは、他の電源の有無に関係なく、優先的に用いられる電源である。補助電源は、主電源の代わりに用いられる電源、または主電源から切り替えられる電源である。
【0154】
二次電池の用途の具体例は、以下の通りである。ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、ノート型パソコン、ヘッドホンステレオ、携帯用ラジオおよび携帯用情報端末などの電子機器である。バックアップ電源およびメモリーカードなどの記憶用装置である。電動ドリルおよび電動鋸などの電動工具である。電子機器などに搭載される電池パックである。ペースメーカおよび補聴器などの医療用電子機器である。電気自動車(ハイブリッド自動車を含む。)などの電動車両である。非常時などに備えて電力を蓄積しておく家庭用または産業用のバッテリシステムなどの電力貯蔵システムである。これらの用途では、1個の二次電池が用いられてもよいし、複数個の二次電池が用いられてもよい。
【0155】
電池パックは、単電池を用いてもよいし、組電池を用いてもよい。電動車両は、二次電池を駆動用電源として作動(走行)する車両であり、その二次電池以外の駆動源を併せて備えたハイブリッド自動車でもよい。家庭用の電力貯蔵システムでは、電力貯蔵源である二次電池に蓄積された電力を利用して家庭用の電気製品などを使用可能である。
【0156】
もちろん、二次電池の用途は、ここで例示した一連の用途以外の他の用途でもよい。
【実施例】
【0157】
本技術の実施例に関して説明する。
【0158】
<実施例1~3>
以下で説明するように、吸蔵放出用の金属イオンとしてアルカリ金属イオンであるリチウムイオンを用いた二次電池を製造したのち、その二次電池の電池特性を評価した。
【0159】
[二次電池の製造]
以下の手順により、
図1に示した二次電池を製造した。
【0160】
(隔壁の作製)
最初に、容器中の水性溶媒(純水)にアルカリ金属塩(水酸化リチウム)を投入したのち、その水性溶媒を撹拌することにより、水溶液(濃度=1mol/kg)を調製した。
【0161】
続いて、容器(水溶液)中にイオン交換膜(カチオン交換膜)を浸漬(浸漬時間=1時間)させることにより、そのイオン交換膜の前処理を行った。このカチオン交換膜としては、シグマ-アルドリッチ製のパーフルオロカーボン材料(テトラフルオロエチレンとパーフルオロ[2-(フルオロスルフォニルエトキシ)プロピルビニル エーテル]との共重合体)である2種類のナフィオン膜(登録商標)を用いた。この2種類のナフィオン膜は、Nafion 115(タイプA)およびNafion NRE-212(タイプB)であり、いずれも複数のイオン交換基(-S(=O)2 -O- H+ )を有している。
【0162】
最後に、容器(水溶液)中からカチオン交換膜を取り出したのち、そのカチオン交換膜の表面に乾燥空気を吹き付けることにより、そのカチオン交換を乾燥させた。これにより、カチオン交換膜がリチウムイオンによりイオン交換されたため、隔壁12(上端部12A、中間部12Bおよび下端部12C)が作製された。
【0163】
隔壁12の作製後、ICP発光分光分析法を用いて上端部12Aおよび下端部12Cのそれぞれを分析したところ、その上端部12Aおよび下端部12Cのそれぞれにおいてカチオン交換膜が複数のイオン交換基(-S(=O)2 -O- Li+ )を有していることが確認された。すなわち、カチオン交換膜があらかじめリチウムイオンによりイオン交換されていることが確認された。
【0164】
(正極の作製)
最初に、正極活物質(リチウムリン酸化合物であるLiFePO4 (LFP))91質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)3質量部と、正極導電剤(黒鉛)6質量部とを互いに混合させることにより、正極合剤とした。続いて、溶媒(有機溶剤であるN-メチル-2-ピロリドン)に正極合剤を投入したのち、その有機溶剤を撹拌することにより、ペースト状の正極合剤スラリーを調製した。最後に、コーティング装置を用いて、接続端子部13ATを除いた正極集電体13A(厚さ=10μmであるチタン(Ti)箔)の両面に正極合剤スラリーを塗布したのち、その正極合剤スラリーを乾燥させることにより、正極活物質層13Bを形成した。これにより、正極13が作製された。
【0165】
(負極の作製)
最初に、負極活物質(チタン含有化合物であるTiO2 )89質量部と、負極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)10質量部と、負極導電剤(黒鉛)1質量部とを互いに混合させることにより、負極合剤とした。続いて、溶媒(有機溶剤であるN-メチル-2-ピロリドン)に負極合剤を投入したのち、その有機溶剤を撹拌することにより、ペースト状の負極合剤スラリーを調製した。最後に、コーティング装置を用いて、接続端子部14ATを除いた負極集電体14A(厚さ=10μmであるチタン箔)の両面に負極合剤スラリーを塗布したのち、その負極合剤スラリーを乾燥させることにより、負極活物質層14Bを形成した。これにより、負極14が作製された。
【0166】
(正極電解液の調製)
水性溶媒(純水)にイオン性物質を投入したのち、その水性溶媒を撹拌した。これにより、水性溶媒中においてイオン性物質が分散または溶解されたため、水系電解液である正極電解液15が調製された。イオン性物質の種類と、正極電解液15の濃度(mol/kg)およびpHとは、表1に示した通りである。表1において「濃度」の欄に示した括弧書き(sat)は、正極電解液15が飽和溶液であることを意味している。このイオン性物質としては、電解質塩(リチウム塩)である硫酸リチウム(Li2 SO4 )および硝酸リチウム(LiNO3 )を用いた。
【0167】
(負極電解液の調製)
正極電解液15の調製手順と同様の手順により、水系電解液である負極電解液16を調製した。イオン性物質の種類と、負極電解液16の濃度(mol/kg)およびpHとは、表1に示した通りである。このイオン性物質としては、電解質塩(リチウム塩)である水酸化リチウム(LiOH)を用いた。
【0168】
(二次電池の組み立て)
最初に、隔壁12を介して外装部11X,11Y(ガラス容器)を互いに対向させたのち、接着剤を用いて隔壁12を介して外装部11X,11Yを互いに接着させることにより、正極室S1および負極室S2を内部に有する外装部材11(ガラスケース)を形成した。
【0169】
続いて、正極室S1の内部に正極13を収納すると共に、負極室S2の内部に負極14を収納した。この場合には、外装部材11の外部に接続端子部13AT,14ATのそれぞれを導出させた。
【0170】
最後に、正極室S1の内部に正極電解液15を供給すると共に、負極室S2の内部に負極電解液16を供給した。これにより、正極13が配置されている正極室S1の内部に正極電解液15が収容されると共に、負極14が配置されている負極室S2の内部に負極電解液16が収容された。よって、2種類の水系電解液(正極電解液15および負極電解液16)を用いた二次電池が完成した。
【0171】
<比較例1~5>
前処理を行わなかったため、複数のイオン交換基(-S(=O)2 -O- H+ )を有するカチオン交換膜をそのまま隔壁12として用いたことを除いて同様の手順により、二次電池を製造したのち、その二次電池の電池特性を評価した。
【0172】
また、正極電解液15の組成を変更したことを除いて同様の手順により、二次電池を製造したのち、その二次電池の電池特性を評価した。イオン性物質の種類と、正極電解液15の濃度(mol/kg)およびpHとは、表1に示した通りである。
【0173】
[電池特性の評価]
二次電池の電池特性としてサイクル特性を評価したところ、表1に示した結果が得られた。
【0174】
サイクル特性を調べる場合には、最初に、常温環境中(温度=25℃)において二次電池を充放電させることにより、放電容量(1サイクル目の放電容量)を測定した。続いて、サイクル数(充放電回数)が20サイクルに到達するまで二次電池を繰り返して充放電させることにより、放電容量(20サイクル目の放電容量)を測定した。最後に、容量維持率(%)=(20サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100という計算式に基づいて、サイクル特性を評価するための指標である容量維持率を算出した。
【0175】
充電時には、2Cの電流で電圧が1.7Vに到達するまで定電流充電したのち、2Cの電流で電圧が1.2Vに到達するまで定電流放電した。2Cとは、電池容量(理論容量)を0.5時間で放電しきる電流値である。
【0176】
【0177】
[考察]
表1に示したように、容量維持率は、隔壁12の構成と、正極電解液15および負極電解液16のそれぞれの物性(pH)とに応じて変動した。
【0178】
具体的には、負極電解液16のpHは正極電解液15のpHよりも大きいが、隔壁12がイオン交換(前処理)されていないカチオン交換膜である場合(比較例1~3)には、容量維持率が減少した。また、隔壁12はイオン交換されているカチオン交換膜であるが、負極電解液16のpHが正極電解液15のpHと同じである場合(比較例4)には、容量維持率が著しく減少した。なお、負極電解液16のpHが正極電解液15のpHと同じであると共に、隔壁12がイオン交換されていないカチオン交換膜である場合(比較例5)には、やはり容量維持率が著しく減少した。
【0179】
これに対して、隔壁12がイオン交換されているカチオン交換膜であると共に、負極電解液16のpHが正極電解液15のpHよりも大きい場合(実施例1~3)には、容量維持率が著しく増加した。
【0180】
この場合には、特に、正極電解液15のPHが3~8であると共に、負極電解液16のpHが11以上であると、十分に高い容量維持率が得られた。また、正極電解液15および負極電解液16の双方が飽和溶液であると、十分に高い容量維持率が得られた。
【0181】
[まとめ]
表1に示した結果から、2種類の水系電解液(正極電解液15および負極電解液16)を用いた二次電池において、隔壁12がアルカリ金属イオンによりイオン交換されているカチオン交換膜を含んでいると共に、負極電解液16が正極電解液15のpHよりも大きいpHを有していると、容量維持率が増加した。よって、二次電池において優れたサイクル特性が得られた。
【0182】
以上、一実施形態および実施例を挙げながら、本技術の二次電池の構成に関して説明した。しかしながら、本技術の二次電池の構成は、一実施形態および実施例において説明された構成に限られず、種々に変形可能である。
【0183】
本明細書中に記載された効果は、あくまで例示であるため、本技術の効果は、本明細書中に記載された効果に限定されない。よって、本技術に関して他の効果が得られてもよい。