(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】電力調整方法および電力調整装置
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20240116BHJP
H02J 3/14 20060101ALI20240116BHJP
H02J 3/32 20060101ALI20240116BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20240116BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/00 130
H02J3/14
H02J3/32
H02J3/38 120
H02J13/00 311R
H02J13/00 311T
(21)【出願番号】P 2022547435
(86)(22)【出願日】2021-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2021027924
(87)【国際公開番号】W WO2022054442
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2022-10-31
(31)【優先権主張番号】P 2020152795
(32)【優先日】2020-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100170818
【氏名又は名称】小松 秀輝
(74)【代理人】
【識別番号】100153040
【氏名又は名称】川井 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】▲濱▼口 謙一
(72)【発明者】
【氏名】稲村 彰信
(72)【発明者】
【氏名】小熊 祐司
【審査官】杉田 恵一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-204698(JP,A)
【文献】特開2016-059185(JP,A)
【文献】特開2018-085861(JP,A)
【文献】特開2020-054085(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0012144(US,A1)
【文献】国際公開第2013/115318(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/129034(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/143239(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/121436(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00
H02J 3/14
H02J 3/32
H02J 3/38
H02J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部の電力供給系統に接続されていると共に、電力の貯蔵量を充放電により調整可能な電力貯蔵部と、前記電力の消費電力を調整可能な電力消費部と、を有するマイクログリッドにおける電力調整方法であって、
前記外部の電力供給系統との間において、計画区間毎に定められた計画値に基づいた電力の授受を行うために、前記電力消費部における前記消費電力と、前記電力貯蔵部における充放電電力とを同時に制御することで、前記電力の授受を調整することを含
み、
前記調整することにおいて、前記電力消費部における消費電力の目標値を、前記計画区間またはそれよりも短い周期で決定すると共に、前記計画値を実現するための前記計画区間における前記外部の電力供給系統との間での前記電力の授受の積算値の変動曲線である目標軌道と、前記外部の電力供給系統との間での前記電力の授受の積算実績値の差が小さくなるように前記電力貯蔵部における前記充放電電力を制御する、
電力調整方法。
【請求項2】
前記調整することにおいて、前記マイクログリッドにおける電力需要の予測値または現在値を用いて、将来の少なくともある一点の時刻において、前記外部の電力供給系統との間での前記電力の授受の積算値が、前記目標軌道に一致または漸近させるように、前記電力消費部における消費電力の目標値を決定する、請求項
1に記載の電力調整方法。
【請求項3】
前記マイクログリッドは、前記電力を生成する電力生成部をさらに有し、
前記調整することにおいて、前記電力生成部が生成する電力に係る予測値または現在値を用いて、将来の少なくともある一点の時刻において、前記外部の電力供給系統との間での前記電力の授受の積算値が、前記目標軌道に一致または漸近させるように、前記電力消費部における消費電力の目標値を決定する、請求項
2に記載の電力調整方法。
【請求項4】
前記調整することにおいて、将来の少なくともある一点の時刻において、前記電力貯蔵部の残容量が目標範囲となるように、前記電力消費部における消費電力の目標値を決定する、請求項
2に記載の電力調整方法。
【請求項5】
外部の電力供給系統に接続されていると共に、電力の貯蔵量を充放電により調整可能な電力貯蔵部と、前記電力の消費電力を調整可能な電力消費部と、を有するマイクログリッドにおける電力調整方法であって、
前記外部の電力供給系統との間において、計画区間毎に定められた計画値に基づいた電力の授受を行うために、前記電力消費部における前記消費電力と、前記電力貯蔵部における充放電電力とを同時に制御することで、前記電力の授受を調整することを含み、
前記調整することにおいて、前記電力消費部における消費電力の目標値を、前記計画区間またはそれよりも短い周期で決定すると共に、前記計画値を実現するための前記外部の電力供給系統との間での前記電力の授受の目標値と、前記外部の電力供給系統との間での前記電力の授受の実績値との差が小さくなるように前記電力貯蔵部における前記充放電を制御する、
電力調整方法。
【請求項6】
外部の電力供給系統に接続されていると共に、電力の貯蔵量を充放電により調整可能な電力貯蔵部と、前記電力の消費電力を調整可能な電力消費部と、を有するマイクログリッドにおける電力調整装置であって、
前記外部の電力供給系統との間において、計画区間毎に定められた計画値に基づいた電力の授受を行うために、前記電力消費部における前記消費電力と、前記電力貯蔵部における充放電電力とを同時に制御することで、前記電力の授受を調整する制御部を含
み、
前記制御部は、前記電力消費部における消費電力の目標値を、前記計画区間またはそれよりも短い周期で決定すると共に、前記計画値を実現するための前記計画区間における前記外部の電力供給系統との間での前記電力の授受の積算値の変動曲線である目標軌道と、前記外部の電力供給系統との間での前記電力の授受の積算実績値の差が小さくなるように前記電力貯蔵部における前記充放電電力を制御する、
電力調整装置。
【請求項7】
外部の電力供給系統に接続されていると共に、電力の貯蔵量を充放電により調整可能な電力貯蔵部と、前記電力の消費電力を調整可能な電力消費部と、を有するマイクログリッドにおける電力調整装置であって、
前記外部の電力供給系統との間において、計画区間毎に定められた計画値に基づいた電力の授受を行うために、前記電力消費部における前記消費電力と、前記電力貯蔵部における充放電電力とを同時に制御することで、前記電力の授受を調整する制御部を含み、
前記制御部は、前記電力消費部における消費電力の目標値を、前記計画区間またはそれよりも短い周期で決定すると共に、前記計画値を実現するための前記外部の電力供給系統との間での前記電力の授受の目標値と、前記外部の電力供給系統との間での前記電力の授受の実績値との差が小さくなるように前記電力貯蔵部における前記充放電を制御する、
電力調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力調整方法および電力調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般電気事業者等が構築する外部電力系統に接続されているマイクログリッドを運営する事業者と、一般電気事業者との間では、計画値同時同量制度が導入されている。この制度では、事業者が実需給前に提出する計画と実際の発電・需要実績との差分(インバランス)に基づいて、事業者にはインバランス費用が発生する。そのため、事業者側では、コスト抑制の観点からインバランスを最小とするための電力調整が求められる。
【0003】
例えば、特許文献1では、蓄電池充放電を制御することで、需要電力量を目標範囲から外れないように調整する装置が記載されているが、このような構成の場合、蓄電池の容量を大きくすることが必要となるため、コストの増大に直結する可能性がある。
【0004】
一方、近年は、電力を消費する設備を組み合わせる手法が検討されている。例えば、特許文献2では、太陽光発電設備を要する設備において、水素製造設備、燃料電池、蓄電池を組み合わせてインバランスを監視・制御するシステムが開示されている。具体的には、特許文献1では、電力の託送に使用される余剰電力の実際値が予測値を超えていて且つ蓄電池のSOCが設定値を超えている場合には、水素製造設備において電力を消費することで調整を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-204698号公報
【文献】特開2020-54085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2の手法を用いて余剰電力の調整を行う場合、蓄電池の容量が小さいと水素製造設備による調整が主体となると考えられるが、水素製造設備のように電力を消費する装置は蓄電池と比較して応答速度が遅く、実際値と予測値の調整が難しいと考えられる。
【0007】
本開示は上記を鑑みてなされたものであり、コストの増大を防ぎつつ、外部の電力供給系統との間で設定された計画値に基づいて精度よく電力の授受量を調整することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一形態に係る電力調整方法は、外部の電力供給系統に接続されていると共に、電力の貯蔵量を充放電により調整可能な電力貯蔵部と、消費電力を調整可能な電力消費部と、を有するマイクログリッドにおける電力調整方法であって、前記外部の電力供給系統との間において、計画区間毎に定められた計画値に基づいた電力の授受を行うために、前記電力消費部における前記消費電力と、前記電力貯蔵部における充放電電力とを同時に制御することで、前記電力の授受を調整することを含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、コストの増大を防ぎつつ、外部の電力供給系統との間で設定された計画値に基づいて精度よく電力の授受量を調整することが可能な技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態の電力供給システムの概略図である。
【
図2】
図2は、電力供給システムに含まれるエネルギーマネジメントシステムの機能を説明する概略図である。
【
図3】
図3は、EMSの制御部における信号伝達を示すブロック線図である。
【
図4】
図4は、「計画値同時同量」制御の概念を説明する図である。
【
図5】
図5は、
図3における水電解装置負荷決定部の動作を説明する図である。
【
図6】
図6は、シミュレーション条件を説明する図である。
【
図7】
図7は、シミュレーション条件を説明する図である。
【
図8】
図8は、シミュレーション結果を説明する図である。
【
図9】
図9は、シミュレーション結果を説明する図である。
【
図10】
図10は、シミュレーション結果を説明する図である。
【
図11】
図11は、シミュレーション結果を説明する図である。
【
図18】
図18は、エネルギーマネジメントシステムのハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の一形態に係る電力調整方法は、外部の電力供給系統に接続されていると共に、電力の貯蔵量を充放電により調整可能な電力貯蔵部と、消費電力を調整可能な電力消費部と、を有するマイクログリッドにおける電力調整方法であって、前記外部の電力供給系統との間において、計画区間毎に定められた計画値に基づいた電力の授受を行うために、前記電力消費部における前記消費電力と、前記電力貯蔵部における充放電電力とを同時に制御することで、前記電力の授受を調整することを含む。
【0012】
上記の電力調整方法によれば、電力消費部における消費電力と、電力貯蔵部における充放電電力とを同時に制御することで、外部の電力供給系統との間において、計画区間毎に定められた計画値に基づいた電力の授受を行うように調整が行われる。応答速度が遅い電力消費部における消費電力の調整と、応答速度が速い一方でコストが高くなりがちな電力貯蔵部における貯蔵量の調整とを組み合わせることで、コストを抑制しつつ且つ精度よく電力の授受量を調整することが可能となる。
【0013】
前記調整することにおいて、前記電力消費部における消費電力の目標値を、前記計画区間またはそれよりも短い周期で決定すると共に、前記計画値を実現するための前記計画区間における前記外部の電力供給系統との間での前記電力の授受の積算値の変動曲線である目標軌道と、前記外部の電力供給系統との間での前記電力の授受の積算実績値の差が小さくなるように前記電力貯蔵部における前記充放電を制御する態様とすることができる。
【0014】
上記のように、応答速度が電力貯蔵部よりも遅い電力消費部における消費電力の目標値を計画区間またはそれよりも短い周期で決定することによって、電力消費部を利用して計画値に基づいた大凡の調整を行うことができる。一方、計画区間における外部の電力供給系統との間での電力の授受の積算値の変動曲線である目標軌道と、外部の電力供給系統との間での電力の授受の積算実績値の差が小さくなるように、電力貯蔵部における充放電電力を制御する構成とすることで、応答速度が電力消費部よりも速い電力貯蔵部を利用した調整によって、目標軌道と積算実績値との差をより小さく調整することができる。電力貯蔵部による調整は細かい調整となるので、電力貯蔵部の大型化を防ぐこともできる。
【0015】
前記調整することにおいて、前記マイクログリッドにおける電力需要の予測値または現在値を用いて、将来の少なくともある一点の時刻において、前記外部の電力供給系統との間での前記電力の授受の積算値が、前記目標軌道に一致または漸近させるように、前記電力消費部における消費電力の目標値を決定する態様とすることができる。
【0016】
上記のように、マイクログリッドにおける電力需要の予測値または現在値を用いて、電力の授受の積算値が、目標軌道に一致または漸近させるように、電力消費部における消費電力の目標値を決定することで、電力需要を考慮してより精度よく電力の授受量を調整することが可能となる。
【0017】
前記マイクログリッドは、前記電力を生成する電力生成部をさらに有し、前記調整することにおいて、前記電力生成部が生成する電力に係る予測値または現在値を用いて、将来の少なくともある一点の時刻において、前記外部の電力供給系統との間での前記電力の授受の積算値が、前記目標軌道に一致または漸近させるように、前記電力消費部における消費電力の目標値を決定する態様とすることができる。
【0018】
上記のように、電力生成部が生成する電力に係る予測値または現在値を用いて、電力の授受の積算値が、目標軌道に一致または漸近させるように、電力消費部における消費電力の目標値を決定することで、電力生成部の生成量を考慮してより精度よく電力の授受量を調整することが可能となる。
【0019】
前記調整することにおいて、将来の少なくともある一点の時刻において、前記電力貯蔵部の残容量が目標範囲となるように、前記電力消費部における消費電力の目標値を決定する態様とすることができる。
【0020】
上記のように、電力貯蔵部の残容量が目標範囲となるように電力消費部における消費電力の目標値を決定することで、電力貯蔵部の残容量を充放電電力の調整に適した状態を維持することが可能となるため、計画値の変化等にも柔軟に対応して調整を行うことができる。
【0021】
前記調整することにおいて、前記電力消費部における消費電力の目標値を、前記計画区間またはそれよりも短い周期で決定すると共に、前記計画値を実現するための前記外部の電力供給系統との間での前記電力の授受の目標値と、前記外部の電力供給系統との間での前記電力の授受の実績値との差が小さくなるように前記電力貯蔵部における前記充放電を制御する態様とすることができる。
【0022】
上記のように、応答速度が電力貯蔵部よりも遅い電力消費部における消費電力の目標値を計画区間またはそれよりも短い周期で決定することによって、電力消費部を利用して計画値に基づいた大凡の調整を行うことができる。一方、計画区間における外部の電力供給系統との間での電力の授受の目標値と、外部の電力供給系統との間での電力の授受の実績値の差が小さくなるように、電力貯蔵部における充放電電力を制御する構成とすることで、応答速度が電力消費部よりも速い電力貯蔵部を利用した調整によって、目標値と実績値との差をより小さく調整することができる。電力貯蔵部による調整は細かい調整となるので、電力貯蔵部の大型化を防ぐこともできる。
【0023】
本開示の一形態に係る電力調整装置は、外部の電力供給系統に接続されていると共に、電力の貯蔵量を充放電により調整可能な電力貯蔵部と、前記電力の消費電力を調整可能な電力消費部と、を有するマイクログリッドにおける電力調整装置であって、前記外部の電力供給系統との間において、計画区間毎に定められた計画値に基づいた電力の授受を行うために、前記電力消費部における前記消費電力と、前記電力貯蔵部における充放電電力とを同時に制御することで、前記電力の授受を調整する制御部を含む。
【0024】
上記の電力調整装置によれば、制御部によって、電力消費部における消費電力と、電力貯蔵部における充放電電力とを同時に制御することで、外部の電力供給系統との間において、計画区間毎に定められた計画値に基づいた電力の授受を行うように調整が行われる。応答速度が遅い電力消費部における消費電力の調整と、応答速度が速い一方でコストが高くなりがちな電力貯蔵部における充放電電力の調整とを組み合わせることで、コストを抑制しつつ且つ精度よく電力の授受量を調整することが可能となる。
【0025】
以下、添付図面を参照して、本開示を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0026】
[電力供給システム]
まず、
図1および
図2を参照して、電力供給システム1の概略構成について説明する。
図1は、一実施形態に係る電力供給システムの概略図である。また、
図2は、電力供給システムに含まれるエネルギーマネジメントシステムの機能を説明する概略図である。電力供給システム1は、マイクログリッド2と、エネルギーマネジメントシステム3(電力調整装置)とを備えている。以下、「エネルギーマネジメントシステム」を「EMS」という。マイクログリッド2は、管理部21と、RE発電部22と、水素製造部23(電力消費部)と、水素貯蔵部24と、電力負荷部25と、エネルギー貯蔵部26(電力貯蔵部)と、受電電力測定部27と、送電電力測定部28と、を含む。
【0027】
マイクログリッド2は、外部電力系統90(外部の電力供給系統)に接続されている。マイクログリッド2は、不足する電力を外部電力系統90から受けることができる。すなわち、マイクログリッド2において要求される電力の一部が、外部電力系統90から供給され得る。外部電力系統90から供給される電力が受電電力測定部27において測定される。
【0028】
また、マイクログリッド2は、余剰する電力を外部電力系統90に対して供給することができる。すなわち、マイクログリッド2のRE発電部22が出力する電力の一部を外部電力系統90へ流出することができる。外部電力系統90に対して供給される電力が送電電力測定部28において測定される。
【0029】
管理部21は、外部電力系統90に接続されている。管理部21は、外部電力系統90と、RE発電部22と、水素製造部23と、電力負荷部25と、エネルギー貯蔵部26と、との間における電力の流れを管理する。管理部21は、EMS3からの出力に応じて、例えば、RE発電部22、水素製造部23、およびエネルギー貯蔵部26を制御する。
【0030】
RE発電部22は、再生可能エネルギー(Renewable Energy)により発電を行う。本実施形態において、RE発電部22は、一例として太陽光発電システム、風力発電システム、地熱発電システムでもよいし、バイオマス発電システム、ごみ発電システムでもよい。
【0031】
RE発電部22は、管理部21からの制御指令に応じて、水素製造部23、電力負荷部25およびエネルギー貯蔵部26に発電した電力を供給する。なお、RE発電部22は、天候等の外部環境に応じて発電電力量が変動し得る。
【0032】
マイクログリッド2は、RE発電部22のような発電機能を含んで構成されていなくてもよい。ただし、以下の実施形態で説明する構成は、受電電力あるいは送電電力に対する外乱要素(例えば、RE発電部22による発電量の変動要素)を抑制するという効果がある(詳細は後述する)。したがって、以下の実施形態で説明する制御は、RE発電部22のように、マイクログリッド2が発電量の変動の予想が容易ではない(換言すると、計画値通りの発電が困難である)発電機を含んでいる場合に適している。上記で例示したRE発電部22は、このように発電量の変動が予想できないという特性を有している。例えば、RE発電部22が太陽光発電を行う場合には、気象条件(日射、温度、降雪)に影響を受けて発電量が激しく変動する。また、風力発電の場合は、風速の影響を受けて発電量が変動する。また、バイオマス発電やごみ発電についても、原料となるバイオマスやごみ(廃棄物や汚泥等)の性状が一般には安定ではなく、さらに、一時的な焼却不適物の混入等によって発電量が安定しない場合が起こり得る。
【0033】
水素製造部23は、水電解によって水素を製造する機能を有する。一般に、水電解の方法には、PEM(固体高分子)型水電解法とアルカリ水電解法が存在するが、水素製造部23はどちらの方法も採用し得る。水素製造部23は、管理部21からの制御指令に応じて、所定量の電力を使用し、水素を製造する。すなわち、水素製造部23は、管理部21からの制御指令に応じて消費電力量を調整する。このように、水素製造部23は、電力の消費電力が調整可能である。
【0034】
水素貯蔵部24は、水素製造部23で製造した水素を貯蔵する機能を有する。水素貯蔵部24で貯蔵された水素は、例えば、水素圧縮機によってガードルや水素トレーラに充填され、水素需要地に輸送されてもよいし、燃料電池車(FCV)に対してディスペンサーを経由して現地で水素供給してもよい(後者はオンサイト水素ステーションとよばれる)。また、パイプラインを通じて、水素貯蔵部24から別の水素需要地に水素供給を行う構成としてもよい。いずれにしても、水素は適宜輸送等によってマイクログリッド2から外部へ排出されるものとする。
【0035】
上記の水素製造部23および水素貯蔵部24は複数設けられていてもよく、それぞれが独立して動作してもよい。
【0036】
また、上述のように水素製造部23は、マイクログリッド2における電力の送電・受電(以下、送電・受電を電力の「授受」という場合がある)を調整するための消費電力設備として用いられ、水素貯蔵部24は、水素製造部23により電力を消費して製造された水素を貯蔵するために用いられる。マイクログリッド2における消費電力設備としては、上記の水素製造部23に限定するものではなく、別の電力消費設備を採用してもよい。例えば、水素製造部23の代替として電気ボイラを用い、水素貯蔵部24の代替としてスチームアキュムレータを用いてもよい。
【0037】
電力負荷部25(負荷部)は、電力を消費する。電力負荷部25は、例えば、電力需要家であり、受けた電力を所望の用途に使用する。電力負荷部25は、電力を消費する設備群の集合として実現され得る。電力負荷部25の具体的な構成としては、例えば、マイクログリッド2を制御するエネルギーマネジメントシステム3を構成するサーバまたは空調が挙げられる。また、電力負荷部25(電力需要家)は、水素製造部23および水素貯蔵部24の関連設備(例えば、水素圧縮機、空気圧縮機、冷却塔など)などであってもよい。さらに、電力負荷部25(電力需要家)は、一般家庭をはじめとする低圧需要家を含んでいてもよい。
【0038】
エネルギー貯蔵部26は、マイクログリッド2内において電力を貯蔵および放出する。すなわち、エネルギー貯蔵部26は、充放電によって電力の貯蔵量が調整可能である。本実施形態においてエネルギー貯蔵部26は、例えば定置型の蓄電池である。エネルギー貯蔵部26は、例えば、リチウムイオン電池(LiB)である。エネルギー貯蔵部26は、鉛蓄電池、レドックスフロー等の他の2次電池であってもよいし、フライホイール・バッテリなどの他の種類のエネルギー貯蔵装置であってもよい。また、エネルギー貯蔵部26は、上記の電池およびエネルギー貯蔵装置等を組み合わせて構成されていてもよい。一般に、エネルギー貯蔵部26としての蓄電池は、水素製造部23としての水電解装置、または電気ボイラと比べて応答速度が速い(20マイクロ秒以下)。なお、エネルギー貯蔵部26が蓄電池である場合、蓄電池の直流を交流に変換する蓄電池PCSや、蓄電池残量の監視装置も、エネルギー貯蔵部26に含まれるとする。
【0039】
以下、本実施形態において、エネルギー貯蔵部26における電力の貯蔵を「充電」といい、エネルギー貯蔵部26における電力の放出を「放電」という。エネルギー貯蔵部26は、管理部21からの制御指令に応じて、マイクログリッド2内における電力を充放電する。エネルギー貯蔵部26は、管理部21からの制御指令に応じて、充電電力、又は、放電電力を調整する。
【0040】
EMS3は、マイクログリッド2と外部電力系統90との間で送受電する電力を調整するための計画を作成する機能を有する。
図2に示されるように、EMS3は、外部通信部31、制御部32、電力需要予測部33、およびRE発電電力予測部34を備える。
【0041】
マイクログリッド2が外部電力系統90との間での送受する電力量は、計画値に基づいて調整され得る。一般的な財物と異なり、容易に貯蔵できない電力の瞬時の需給バランスを確保するための仕組みとして、2016年4月の小売前面自由化を機に、従来の実同時同量制度に代わり、計画値同時同量制度が導入されている。この制度の下では、発電事業者や小売事業者が実需給前に提出する計画と実際の発電・需要実績との差分(インバランス)を、一般送電事業者が調整力電源を用いて調整する。一方、インバランスの調整に要する費用については、卸電力取引所における市場価格をベースとしたインバランス料金を通じて回収される。この仕組みの中では、マイクログリッド2は、例えば、電力事業者95が作成して提出する計画値において設定された電力量の送電・受電を外部電力系統90との間で行うことが求められる。また、計画値との差分がインバランスとなるため、マイクログリッド2は、計画値との差分が小さくなるように、外部電力系統90との間での電力の送受電を行うことが求められる。そこで、EMS3は、マイクログリッド2を構成する各部の動作を制御する信号を各部へ送ることで、外部電力系統90との間で送受する電力が計画値に沿ったものになるように、各部を制御する。
【0042】
なお、
図2に示す各部は、EMS3における各種の機能のうち、上述のように外部電力系統90への送電電力ないし受電電力(以下、これらをまとめて「系統電力」という場合がある)を計画値に維持するための機能のみ記載している。そのほかのEMS3の機能、例えば、ユーザーインターフェース、データベース機能、監視機能等については記載を省略している。
【0043】
EMS3の外部通信部31は、例えば、電力事業者95等と通信を行い、マイクログリッド2からの外部電力系統90への送電電力ないし受電電力(以下、これらをまとめて「系統電力」という場合がある)に係る計画値を電力事業者95へ通知すると共に、当該計画値を制御部32へ渡す。
【0044】
制御部32は、計画値に基づいて、電力需要予測部33による電力需要予測値と、RE発電電力予測部34による再生エネルギー発電に係る予測値と、受電電力測定部27からの受電電力に係る測定値と、送電電力測定部28からの送電電力に係る測定値とに基づいて、水素製造部23およびエネルギー貯蔵部26を制御する機能を有する。
【0045】
制御部32は、水素製造部23に対して消費電力指令を送信することで、水電解による水素の製造を指示する。また、制御部32は、エネルギー貯蔵部26に対して充放電指令を送信することで、エネルギー貯蔵部26における充放電電力を制御する。また、制御部32からは、エネルギー貯蔵部26の残容量(例えば、蓄電池の残容量)に係る情報を取得する。この情報は、制御部32からの水素製造部23およびエネルギー貯蔵部26への指令の内容の決定に利用される。
【0046】
上記のように、制御部32は、少なくとも、現在の系統電力(電力測定部の測定値)およびエネルギー貯蔵部26(蓄電池)の残容量を取得可能であり、エネルギー貯蔵部26に対する充放電指令が可能であり、水素製造部23に対して消費電力の指令が可能であるとする。また、系統電力の計画値は、外部通信部31を介して計画期間前にすでに制御部32が取得済みであるとする。なお、計画値はEMS3の内部で決定し、事前に外部通信によって電力事業者95(または電力市場)に対して通知済みとしてもよい。このように、系統電力の計画値の作成主体はEMS3であってもよいし、外部装置であってもよい。
【0047】
電力需要予測部33は、将来一定期間におけるマイクログリッド2における電力需要を予測する。また、RE発電電力予測部34は、将来一定期間における再生エネルギーの発電電力(再エネ発電電力)を予測する。これらの情報は、制御部32からの水素製造部23およびエネルギー貯蔵部26への指令の内容の決定に利用される。
【0048】
電力需要予測部33およびRE発電電力予測部34による予測の方法は特に限定されず、公知の手法を適宜用いることができる。最も簡単な予測の方法としては、例えば、計測あるいは計算によって得られた、現在時刻における電力需要・再エネ発電電力が、将来において、一定値で続くと予測するものである(0次ホールド)。電力需要が安定している場合は、このような簡潔な方法でも有効である。より高度な方法としては、過去の電力需要データ、再エネ発電の電力データ、およびその他のデータ(例えば気象データ、交通データ、曜日・祝日情報、休業日情報、工場などの生産計画など)に対して機械学習を適用することによって予測する方法が挙げられる。機械学習の手法としては、線形多重回帰モデル、サポートベクター回帰モデル、JIT(just-in-time)モデル、ニューラルネットワークモデルなどがあげられる。このように、電力需要予測部33およびRE発電電力予測部34による予測の方法は特に限定されない。
【0049】
[制御部による演算内容:電力調整方法]
次に、EMS3の制御部32による演算内容(電力調整方法)について説明する。なお、以下の説明では、RE発電部22による発電を「再エネ発電」、水素製造部23を「水素製造装置」、電力負荷部25を「電力需要家」、エネルギー貯蔵部26を「蓄電池」として説明する。
【0050】
図3は、制御部32における信号伝達を示すブロック線図である。
図3には、制御部32による演算部分に加えて、制御部32外での信号伝達に係る線図も含まれている。
図3における記号1/sは積分器を示す。また、
図3に含まれる各記号の説明を以下の表1に示す。
【0051】
【0052】
EMS3の制御部32における演算の詳細を説明する前に、マイクログリッド2が求められている「計画値同時同量」について説明する。
【0053】
図4は、「計画値同時同量」制御の概念図を示している。
図4では、横軸は時間であり、縦軸は系統電力量(受電を正、送電を負)である。マイクログリッド2は、自己の調整力(ここでは水電解装置および蓄電池)を用いて、計画区間(計画値を算出する単位となる区間)の終期において、系統電力の積算値(送電電力量ないし受電電力量)を計画値に一致または漸近させる。そのために、系統電力の実績値が、予め設定した目標軌道に従うように、フィードバック制御を行う。系統電力に係る目標軌道とは、系統電力が計画時間の終期に計画値と一致させるために、計画区間内での系統電力の積算値の変動曲線を予め定めたものである。したがって、目標軌道は、計画区間の始期において0であり、計画区間の終期において計画値に一致している必要がある。なお、本実施形態では一例として、計画区間を30分として説明するが、時間長は電力事業者や電力市場との契約形態に依存する。
【0054】
以下、マイクログリッドがどのように計画値同時同量を実現するか、その動作を説明する。
【0055】
まず、計画区間の始期の時点で、計画値が所与であるとする。制御部32では、計画値に基づいて、目標軌道Prefと系統電力目標値yrefを算出する。具体的には、計画値をA[kWh]、計画時間長をT時間(30分であれば、T=0.5h)とすると、系統電力目標値yrefは、A/T[kW]で与えられる。目標軌道Prefはyref×tで与えられる(ただし、tは計画始期からの経過時間である)。計画区間の始期の時点で、系統電力量PNETはゼロであるとする。
【0056】
図5は、
図3に示すブロック線図における「水電解装置負荷決定部」の動作を説明する図である。本動作はh[秒]ごとに動作する。ただし、動作周期h[sec]は計画時間長T[sec]を自然数で除算したものとする。つまり、ある自然数Nが存在し、T=Nhが成り立つものとする。例えばTを30分=30*60秒、Nを6とすると、hは5分=5*60秒である。動作周期hは水電解装置の時定数よりも長いことが望ましい。Nは1でもよい。
【0057】
ここで、計画始期からの経過時間がt(t=0,h,2h,…,(N-1)h)である場合を考える。ここで、時刻tからt+hの区間における水電解装置の目標値rECを以下の方針で決定する。
【0058】
方針1:蓄電池と水電解装置とを使って、将来時刻t+hにおける系統電力量を目標軌道に一致させる。ただし、水電解装置の出力は区間t~t+hにおいて一定であるとする。
【0059】
方針2:将来時刻t+hにおける蓄電池残量を目標値vrefになるべく漸近させる。
【0060】
まず、方針1を数式化する。時刻t+hにおける系統電力量PNET(t+h)は、マイクログリッド2内の系統電力の関係式である数式(1)および蓄電池の関係式である数式(2)に着目すると、下記の数式(3)として記述することができる。
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
上述の方針1から、PNET(t+h)=Pref(t+h)であるので、上記の数式(3)をv(t+h)について整理すると次の数式(4)となる。
【0065】
【0066】
上式の数式(4)において、水電解装置の消費電力yECと将来の蓄電池残容量v(t+h)以外はすべて既知である。Pref(t+h)は将来の時刻における目標軌道の値であり、v(t)は現在の蓄電池の残容量であり、PNET(t)は現在の系統電力であり,積分記号を用いて記述される項は再エネ発電電力と電力需要の予測値を積分することによって得られるからである。
【0067】
次に、方針2を数式化する。水電解装置の消費電力目標値の取りうる集合をRECとすると、方針2は次の数式(5)と表すことができる。
【0068】
【0069】
上記数式(4)の制約のもと、数式(5)の目的関数(評価関数)を最小化する最適化問題をとくことによって、水電解装置の消費電力目標値rEC=yECを得る。なお、水電解装置の消費電力目標値の取りうる集合RECは、実用上は有限の集合REC={r1,r2,…,rM}(Mは自然数)で表現される。たとえば、水電解装置の消費電力の最大値が1000kWとすると、REC={0,100,200,…1000}という場合がある。このような場合は、riを数式(4)のyECに代入して、riにおける|v(t+h)-vref|を求めることができる。すべてのi=1,2,…,Mに対して計算して、|v(t+h)-vref|が最小となるiを求めることで、rEC=riが最適な値となる。このように、所謂総当たり計算によって、最適値を求めてもよい。なお、ここで求めた将来の蓄電池残容量v(t+h)は蓄電池に特に使用されない。
【0070】
制御部32は、上記の手順によって消費電力目標値を算出した後に、系統電力のフィードバック制御によって蓄電池の充放電電力を調整する。
【0071】
図3に従って、以下説明する。制御部32は、系統電力目標値y
refと系統電力計測値y
NETの差分を時間積分することで、積算誤差e
sumを得る。なお、積算誤差e
sumは、
図4における目標軌道と系統電力の積算値の差に相当する。積分器1/sの存在によって、一時的に系統電力積算値が目標軌道から外れても、フィードバック制御によって復元することができる。なお、積分器がない場合は、系統電力計測値y
NETは目標値y
refに追従するが、系統電力計測値y
NETの積算値が計画値に近づくような機構がないため、一度外乱等によって積算値が大きく目標軌道から外れた場合はインバランス量が大きくなる場合もある。
【0072】
上述した手順は、水電解装置の消費電力は予測値に基づいて決定しているものの、予測値に対して生じ得る予測ズレに対する補償を蓄電池が行っていることになる。蓄電池の応答性は電力消費装置よりも早いため、このようなことが実現できる。
【0073】
積算誤差e
sumに対応する偏差信号は蓄電池の制御器(
図3における蓄電池の制御ブロックK
BT)に接続される。制御器としては、例えばPI制御器を用いたものが採用できる。制御器において蓄電池への充放電電力の指令値u
BTが決定される。
【0074】
上記の手順で算出された水素製造装置の消費電力yECおよび蓄電池の充放電電力yBTは、電力需要家の消費電力yLDおよび再エネ発電電力yREと合算され、マイクログリッドの系統電力yNET(計測値)が定まる。
【0075】
最後に、計画区間の終期において、誤差を積算している積分器をリセットする(つまり、次の始期において、積算誤差esumをゼロとする)。なお、終期における積算誤差esumが該当する計画区間のインバランス量(kWs)に相当する。適当な単位変換(kWsをkWhに変換する等)を行った後に、終期における積算誤差esumを保存・通信してもよい。
【0076】
EMS3では、上記の一連の手順を所定の単位時間であるh[秒]毎に行うことによって、インバランス量がより少なくなるように、系統電力を調整することができる。
【0077】
[シミュレーション]
【0078】
上記の制御部による演算内容を行うことで、系統電力のインバランス量を抑制することができることを、シミュレーションによって確認した。
図6~
図11を参照しながら、シミュレーション結果について説明する。
【0079】
まず、マイクログリッド2に含まれる各装置の性能を以下のように設定した。
・水素製造装置消費電力:定格1000kW
・蓄電池:容量500kWh、充放電電力400kW
【0080】
ここで、マイクログリッド2におけるRE発電部22における再エネ発電電力y
REを
図6に示す。シミュレーションの対象の区間を0時~24時の24時間とし、この区間での発電能力を
図6に示すように設定した。この設定では、発電電力が600kWから650kWで揺らいでいて一定ではないことがわかる。このような波形は、例えば、RE発電部22が地熱発電またはごみ発電である場合に、得られることがある。
【0081】
また、マイクログリッド2の各部における電力需要家の消費電力yLDは100kWとし、蓄電池残容量の目標値vrefは250kWhとした。再エネ発電予測と電力需要予測として、0次ホールド手法を用いた。また、蓄電池の制御装置はPI制御器とした。水電解装置の消費電力目標値の取りうる集合として、REC={0,10,20,…1000}とした(0kWから1000kWまで10kW刻みで最適化)。最適化は上記で説明したように100パターンの総当たりとした。また、計画区間の単位長さTは30分とし、水電解装置負荷決定部の動作周期は5分=300秒とした。
【0082】
シミュレーション対象の区間の24時間における系統電力の計画値(48点分)の設定を
図7に示す。なお、現在時刻より前に該当する区間の計画値が定まっていればよく、シミュレーション開始時刻の0時0分に48点すべてにおける計画値がわかっている必要はない。なお、1時半~2時半および21時~22時の間において、隣接する区間の値と比較して不連続な値が設定されている。これは、デマンドレスポンスなどによりマイクログリッド2外との間で電力を融通していることを想定して設定されている。特に、1時半~2時半は、1時間で700kWhの送電が計画されている。この値は、RE発電部22による再エネ発電電力(
図6参照)以上の電力量である。
【0083】
上記の条件で、
図3に示すブロック線図および上述の演算内容に沿ったシミュレーションを行った。
図8~
図11は、その結果を示す図である。
【0084】
図8は、マイクログリッドの系統電力の積算値(
図4に示す実績値に相当)である。なお、単位はkWhである。各計画区間(30分単位)のすべての終期において、系統電力量が計画値(
図7参照)と高い精度で一致していることがわかる。すなわち、計画値同時同量を達成できていることが確認できる。
【0085】
図9は、各時刻での積算誤差e
sumを示したものである。なお、単位はkWsである。誤差は最も大きいところでも600kWs=0.16kWh程度であることが確認された。このように、再エネ発電電力が変動するにも関わらず、目標軌道に対して高精度に追従できていることが確認できる。
【0086】
図10は、各時刻での水電解装置の消費電力y
ECと、蓄電池の充放電電力y
BTを示したものである。
図10に示す結果から、再エネ発電電力の変動に対する電力消費を主に水電解装置で行い、細かい調整を蓄電池が行っていることが確認できる。
【0087】
図11は、蓄電池の残容量vとその目標値v
refを示したものである。
図11に示す結果から、目標値v
refから大きく逸脱することなく蓄電池が運用されているため、蓄電池が満充電・過放電になり調整力を失う事態を回避できていることが確認できる。
【0088】
上記のシミュレーション結果を参照すると、1時半~2時半は、計画値が発電量よりも大きいため、水電解装置を完全に停止させることでマイクログリッド2内での電力消費を抑制し、蓄電池の放電をRE発電部22により発電された電力に追加して送電することで、計画値同時同量を達成していることがわかる。また、2時半以降は水電解装置をすぐに再稼働させず、RE発電部22により発電された電力によって蓄電池の充電を行うことで、蓄電池残容量を目標値まで回復させている。このように、蓄電池残容量をある程度確保することで、インバランスの調整能力を速やかに回復させていることが確認される。
【0089】
[変形例]
上記実施形態は、本開示に係る一形態である。本開示は必ずしも上述した形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。以下、変形例について説明する。
【0090】
上記では、蓄電池の制御器(
図3に示す制御ブロックK
BT)として、PI制御器を例示したが、制御器の種類は限定されず、例えば、P制御器、I制御器、PID制御器、PD制御器、I-PD制御器、2自由度PID制御器等を用いることができる。また、H2制御理論、H∞制御理論などの理論を用いて制御器を設計してもよい。
【0091】
また、上記では、連続時間でフィードバック制御を行う場合について説明したが、同様の考えで離散時間での制御系設計を行ってもよい。また、制御器も制御設計に応じて変更することができ、例えば、PID制御器として速度型PID制御器(ベロシティフォームと呼ばれる)を用いてもよい。速度型PID制御器は、離散時間でのPID設計において、積分器ワインドアップを防ぐ手法としてよく利用される。
【0092】
上記の演算で使用した各種のパラメータ等は適宜変更することができる。以下、パラメータの設定等に関する変形例を説明する。
【0093】
上記では、蓄電池残量の目標値vrefを24時間固定としたが、目標値を変化させることもできる。蓄電池残量の目標値はオペレータが手動設定してもよいし、EMS3の内部が作成してもよいし、EMS3の外部から固定時間ごとに目標値が配信される形式でもよい。例えば、天気予報で快晴であれば、蓄電池残量の目標値を日中に上昇(充電)、日没後に低下(放電)する軌道に設定し、雨天であれば上記実施例のように常時中間値に設定してもよい。このような設定をすることで、快晴時において日中の再エネ電源を夜間にまわすことができる(電力シフト)。
【0094】
上記では系統電力目標値y
refとして、電力量の計画値に対して時間長で除算した平均値を採用した。しかし、目標軌道P
ref(
図4参照)あるいはその微分である系統電力目標値y
refの設計には自由度がある。例えば、
図12に示す例のように、ある計画区間の始期における目標軌道の傾きが前回の計画区間における平均目標軌道L1の傾きに等しく、かつ、終期における傾きが自区間における平均目標軌道L2の傾きに等しい目標軌道としてもよい。この場合、系統電力目標値y
refは異なる区間の変更点で連続となるため、制御内容が変更されたときのスムーズな移行が実現されやすくなり、制御性能の向上が期待できる。
【0095】
上記では、30分ごとに計画区間の計画値が事前に与えられることを想定して説明したが、区間中に計画値が変更になってもよい。このような場合の軌道修正の例を
図13に示す。
図13では、時刻tに計画値がAからBへ変更したことに応じて、時刻t(またはそれ以降の演算の単位時間の開始タイミング)を境として、目標軌道L1から目標軌道L2に変更される。デマンドレスポンスの仕組みにおいては、計画値は計画区間内に変更され得る。このような条件に対しても、本実施形態で説明した演算は容易に対応可能である。
【0096】
図3では、系統電力目標値y
refを使用して、系統電力の積算値と目標軌道の偏差を表現した。ただし、
図3に示すブロック線図は変更することが可能であり、変更に応じて各制御に使用する値を変更することができる。例えば、
図3のブロック線図から積分器1/sの配置を変えることで、目標軌道P
refを直接フィードバック制御に使用する構成に変更してもよい。
【0097】
また
図3において、積算誤差e
sumの前段にある積分器1/sを省略してもよい。この場合、蓄電池制御器は、系統電力y
NETが系統電力目標値y
refに漸近するように蓄電池を充放電制御する。積分器がないため、蓄電池自体は、系統電力の積算値と目標軌道の偏差が小さくなる動作はしない。しかしながら、水電解装置は目標軌道に漸近するように消費電力を制御しているため、終期においてそこまで大きなインバランスが発生しないことが期待できる。また、積分器なしで直接、系統電力y
NETをフィードバック制御を行ったほうが安定した系統電力になることが期待できるため、インバランス回避と同時に系統電力自体が大きく変動することを避けたい場合などにおいては、積分器なしでもよい。
【0098】
上記実施形態では、電力消費装置(水素製造装置)および蓄電池がそれぞれ1つである場合について説明したが、これらの装置は複数存在してもよい。各装置が複数存在している場合には、装置の数や機能等を考慮して、上述の数式等の記述の変更または制約条件の追加等を行うことで、対応することができる。
【0099】
上記の数式(4)で示したように、時刻t~t+hにおける再エネ発電電力と電力需要との積分値(つまり電力kWの予測値ではなく、電力量kWhの予測値)がわかっていれば、上記の実施形態と同様の演算を実施することができる。
【0100】
上記実施形態では、
方針1:蓄電池と水電解装置を使って、将来時刻t+hにおける系統電力量を目標軌道に一致させる。ただし、水電解装置の出力は区間t~t+hにおいて一定であるとする。
方針2:将来時刻t+hにおける蓄電池残量を目標値vrefになるべく漸近させる。
として説明したが、方針1において系統電力量を目標軌道に一致させる時刻をt+hではなく、終期Tとしてもよい。また、方針2の漸近させる時刻についても終期Tとしてもよい。その場合、再エネ発電電力と電力需要の予測値は、tからTまで必要となる。この点は、上記実施形態で説明したようにtからt+hまでの予測値があればよいという条件とは異なる。予測精度が高く、再エネ発電電力の変動が大きい場合は、一致させる時刻を終期にすることで終期におけるインバランス量をより削減できる場合がある。このように、マイクログリッド2の特性等を考慮して、方針1,2における設定を変更してもよい。
【0101】
水電解装置の消費電力の目標値rECの最適化は、上記では、総当たり計算としたが、解析的に最適解を求めてもよいし、線形計画法などで定式化して、最適化ソルバーを用いて求めてもよい。また、数式(5)で示した評価関数はこれに限らず、例えば、下記の数式(6)に示すように、二乗を用いてもよい。なお、v(t+h)はスカラーであるため、数式(6)に示すように二乗とした場合と数式(5)に示すように絶対値とした場合とは実質的に同じであり、同じ解が得られる。
【0102】
【0103】
さらには、
図14に定義される関数Fを使用して、下記の数式(7)に示すように定義してもよい。この場合、残容量vがある一定の幅をもつ範囲内で維持されるように水電解装置の消費電力の目標値が決定される。
【0104】
【0105】
このほか、数式(5)で説明した評価関数は、v(t+h)-vrefの符号に応じて異なる係数を付してもよい。具体的には評価関数を下記の数式(8)に示すものに変更してよい。なお、数式(8)において、w+、w-≧0は、適当な重み係数である。
【0106】
【0107】
さらに、上記で説明した方針1で一致させる目標軌道の時刻は、将来一点ではなく、複数点としてもよい。例えば、現在時刻がtとして、一致させる時刻をTと2Tの2点とすることが考えられる(Tは計画区間の長さとする)。
【0108】
一致させる時刻をより将来に伸ばすことによるメリットについて、
図15を参照しながら説明する。
図15では、蓄電池残容量(
図15(a))、水電解装置の消費電力(
図15(b))、系統電力積算値(
図15(c))のそれぞれの時間推移を2区間(0~2T)において表したものである。また、
図15では、一致させる時刻を1周期分のみ(Tのみ)とした場合と、2周期分(T,2T)とした場合のシミュレーション結果を示している。なお、最初の区間(0分~30分後;1周期目)の系統電力積算値の計画値をA
1とし、2つ目の区間(30分後~60分後;2周期目)の系統電力積算値の計画値をA
2とする。
【0109】
1周期分のみの演算を行った場合、最初の区間(0分~30分後)では蓄電池残容量vを目標値vrefに漸近させたままインバランスを回避できているが、2つ目の区間(30分後~60分後)では、計画値が再エネ発電電力量を超えているため、水電解装置を停止させさらに蓄電池を放電させているが、蓄電池残容量の不足によってインバランスが回避できない状態が書かれている。
【0110】
一方、2周期分(T,2T)とした場合は、一致させる時刻をTと2Tの二点とし、yEC1、yEC2をそれぞれ最初と2つめの計画区間における水電解装置の消費電力とする(ただし指令値として水電解装置に実際に配信されるのは最適解のyEC1のみであり、yEC2は使用されない)。このとき、最適化の評価関数を下記数式(9)のようにする。
【0111】
【0112】
なお、数式(9)における関数Gは
図16に示す関数である。
図16において、v
min、v
maxは、それぞれ蓄電池残量の運用下限および運用上限である。関数Gはv
refで最小値を取るほか、運用上下限v
min、v
maxを超えた領域で大きく値が増加している。これは、運用上下限を超えたv(T)、v(2T)に対して大きなペナルティを与えることを意味している。このような関数をバリア関数とよぶことがある。
【0113】
上記の数式(9)を用いて水電解装置の負荷を決定し、蓄電池残量を決定した結果は、
図15(a)~
図15(c)に示されている。一致させる時刻を2周期分とした場合、1周期分の場合と比べて、最初の計画区間で水電解装置の消費電力を低めにして、その分を蓄電池に充電させながら、一つ目の計画区間における計画値同時同量を達成していることがわかる。また、2つ目の計画区間においては、水電解装置を同様に停止させて、蓄電池を放電させているが、2つ目の計画区間の始期において蓄電池残容量が1周期分の場合よりも高いため、蓄電池残量が不足することなく、2つめの区間でも計画値同時同量を達成していることがわかる。
【0114】
2周期分の場合の最適解が、
図15に示す結果になるかについては、
図17を見ると分かりやすい。1周期分のみを考慮した場合をパターン1とし、2周期分を考慮した場合をパターン2として示している。パターン1では、G(v(T))はゼロとなるが、v(2T)が運用領域を超えているために、G(v(2T))は非常に大きな値になる。一方、パターン2の場合には、G(v(T))およびG(v(2T))の両方が小さくなり、総和も小さくなる。このように予測区間をより長くとることで、将来のインバランスを回避するためにより効果的に蓄電池残量を運用することができる。なお、一致させる時刻を3点(例えば、T,2T,3T)、4点(例えば、T,2T,3T,4T)とした場合も、同様の議論で演算することができる。
【0115】
上記では再エネ発電電力yREの変動を予測したが、RE発電部22が太陽光による発電を行う場合、蓄電池などを使って発電電力の平滑化が行われることがある。そのような場合、平滑化した信号を予測するほうが難易度は低いため、上述のyREの代わりに、平滑化したyREの予測値を使用してもよい。
【0116】
なお、蓄電池残容量v[kWh]を蓄電池容量H[kWh]で正規化したSOC[%](100*(v/H))を用いて上記の議論を行ってもよい。この場合、蓄電池残量の目標値vref[kWh]は、SOCの目標値[%]になる。議論の本質は、上記実施形態で説明したものと変化しない。
【0117】
上記実施形態では、時刻t~t+hにおいて水電解装置の消費電力は一定としたが、これは、hが水電解装置の時定数と同程度かそれよりも短い場合は、水電解装置の消費電力の動特性(ダイナミクス)が問題となる場合がある。その場合は、水電解装置のダイナミクスを考慮して(例えばyECからrECを一時遅れ系とみなす)計算することで、上記実施形態と同様に時刻t+hにおいて一致するように計算を実施することができる。このような工夫をすると、hをより短い周期にすることができる。
【0118】
上記の最適化問題において、蓄電池の充放電電力yBTの上下限値を考慮してもよい。また、系統電力yNETの上下限制約を考慮することもできる。前者は蓄電池のハードウェア性能によって決定される。後者は商用系統を管理する電力事業者との契約内容によって決定される。
【0119】
系統電力の積算値を目標軌道と一致させる点数が増えた場合、蓄電池の充放電電力の上下限制約などにより、全ての点で一致させることができない場合がある。そのような場合は、最適化の目的関数に、蓄電池残量に関する項に加えて、各点における系統電力の積算値と目標軌道の絶対値差分の和を加えればよい。一致はさせられないが、漸近する効果が期待できる。
【0120】
上述のように、上記実施形態で具体的に説明した演算内容には各種条件が含まれているが、それらの条件は適宜変更することができる。各種条件を変更する場合、変更内容に応じて、演算に使用する数式を変更することで対応することができる。また、変更した条件に応じて、最適化問題における制約条件を変更すること等によって対応が可能となる場合もある。このように、上記実施形態で説明した演算内容はあくまで一例であり、マイクログリッド2の条件に応じて変更することができる。
【0121】
[ハードウェア構成]
図18を参照して、EMS3のハードウェア構成について説明する。
図18は、EMS3のハードウェア構成の一例を示す図である。EMS3は、1又は複数のコンピュータ100を含む。コンピュータ100は、CPU(Central Processing Unit)101と、主記憶部102と、補助記憶部103と、通信制御部104と、入力装置105と、出力装置106とを有する。EMS3は、これらのハードウェアと、プログラム等のソフトウェアとにより構成された1又は複数のコンピュータ100によって構成される。
【0122】
EMS3が複数のコンピュータ100によって構成される場合には、これらのコンピュータ100はローカルで接続されてもよいし、インターネット又はイントラネットなどの通信ネットワークを介して接続されてもよい。この接続によって、論理的に1つのEMS3が構築される。
【0123】
CPU101は、オペレーティングシステムやアプリケーション・プログラムなどを実行する。主記憶部102は、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)により構成される。補助記憶部103は、ハードディスクおよびフラッシュメモリなどにより構成される記憶媒体である。補助記憶部103は、一般的に主記憶部102よりも大量のデータを記憶する。通信制御部104は、ネットワークカード又は無線通信モジュールにより構成される。外部通信部31の少なくとも一部は、通信制御部104によって実現されてもよい。入力装置105は、キーボード、マウス、タッチパネル、および、音声入力用マイクなどにより構成される。出力装置106は、ディスプレイおよびプリンタなどにより構成される。
【0124】
補助記憶部103は、予め、プログラム110および処理に必要なデータを格納している。プログラム110は、EMS3の各機能要素をコンピュータ100に実行させる。プログラム110によって、例えば、上述した電力調整方法に係る処理がコンピュータ100において実行される。例えば、プログラム110は、CPU101又は主記憶部102によって読み込まれ、CPU101、主記憶部102、補助記憶部103、通信制御部104、入力装置105、および出力装置106の少なくとも1つを動作させる。例えば、プログラム110は、主記憶部102および補助記憶部103におけるデータの読み出しおよび書き込みを行う。
【0125】
プログラム110は、例えば、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどの有形の記録媒体に記録された上で提供されてもよい。プログラム110は、データ信号として通信ネットワークを介して提供されてもよい。
【0126】
[作用]
上記の電力調整装置および電力調整方法によれば、電力消費部としての水素製造部23における消費電力と、電力貯蔵部としてのエネルギー貯蔵部26における充放電電力とを同時に制御することで、外部の電力供給系統(外部電力系統90)との間において、計画区間毎に定められた計画値に基づいた電力の授受を行うように調整が行われる。応答速度が遅い電力消費部(水素製造部23)における消費電力の調整と、応答速度が速い一方でコストが高くなりがちな電力貯蔵部(例えば、蓄電池)における充放電電力の調整とを組み合わせることで、コストを抑制しつつ且つ精度よく電力の授受量を調整することが可能となる。
【0127】
従来から、外部の電力供給系統との間で計画値に基づく電力の授受を行うことができるための手法は種々検討されている。一般的に、例えば、蓄電池などの電力貯蔵部だけでインバランスを回避しながら電力の授受を行うことを実現する場合、容量が大きな蓄電池が必要となる。そのため、電力消費部と電力貯蔵部とを組み合わせて調整を行うことについては検討されていた。しかしながら、具体的に電力消費部と電力貯蔵部とをどのように組み合わせるかについては十分な検討が行われていなかった。そのため、例えば、電力貯蔵部の残容量が閾値を超えた場合に電力消費部を動作させる、というように、一方の状態に応じて他方の動作を決めるというような制御が検討されていたものの、それよりも詳細な検討は行われていなかった。
【0128】
より具体的には、例えば、蓄電池は容量があるため、電池容量をある範囲内で適切に維持する必要がある。仮に蓄電池が満充電になってしまうと、これ以上充電できないため、調整力を失うことになる。一方、水電解装置のような電力消費部は一般的に応答速度が蓄電池より遅く、水電解装置に依存した制御を行うと、発電量の変動が大きい場合の追随が困難になると考えられる。特にマイクログリッド内に太陽光発電や風力発電などの変動が激しい発電機が存在する場合は、上記の二種類の装置(電力消費部および電力貯蔵部)の応答速度等や特性を考慮しないと、変動への対応が不十分となる可能性がある。
【0129】
これに対して、上記の電力調整装置および電力調整方法では、応答速度が遅い電力消費部(水素製造部23)における消費電力の調整と、応答速度が速い一方でコストが高くなりがちな電力貯蔵部(例えば、蓄電池)における充放電電力の調整とを同時に行うことで、電力消費部および電力貯蔵部の互いに異なる特性を考慮した制御が可能となる。そのため、コストを抑制しつつ且つ精度よく電力の授受量を調整することが可能となる。
【0130】
また、調整することにおいて、電力消費部(水素製造部23)における消費電力の目標値を、計画区間またはそれよりも短い周期で決定すると共に、計画値を実現するための計画区間における外部の電力供給系統との間での電力の授受の積算値の変動曲線である目標軌道と、外部の電力供給系統との間での電力の授受の積算実績値の差が小さくなるように、エネルギー貯蔵部26における充放電電力を制御する。この場合、応答速度が電力貯蔵部よりも遅い電力消費部における消費電力の目標値を計画区間またはそれよりも短い周期で決定することによって、電力消費部を利用して計画値に基づいた大凡の調整を行うことができる。一方、目標軌道と、外部の電力供給系統との間での電力の授受の積算実績値の差が小さくなるようエネルギー貯蔵部26における充放電電力を制御する。すなわち、応答速度が電力消費部よりも速いエネルギー貯蔵部26を利用した調整によって、目標軌道と積算実績値との差をより小さく調整することができる。また、エネルギー貯蔵部26による調整幅を小さくすることができるので、エネルギー貯蔵部26の大型化を防ぐこともできる。
【0131】
また、調整することにおいて、マイクログリッド2における電力需要の予測値または現在値を用いて、将来の少なくともある一点の時刻において、外部の電力供給系統との間での前記電力の授受の積算値が、目標軌道に一致または漸近させるように、電力消費部(水素製造部23)における消費電力の目標値を決定してもよい。マイクログリッド2における電力需要の予測値または現在値を用いて、電力の授受の積算値が、目標軌道に一致または漸近させるように、電力消費部における消費電力の目標値を決定することで、電力需要を考慮してより精度よく電力の授受量を調整することが可能となる。
【0132】
マイクログリッド2は、電力を生成する電力生成部(RE発電部22)をさらに有し、調整することにおいて、前記電力生成部が生成する電力に係る予測値または現在値を用いて、将来の少なくともある一点の時刻において、外部の電力供給系統との間での電力の授受の積算値が、目標軌道に一致または漸近させるように、電力消費部(水素製造部23)における消費電力の目標値を決定してもよい。電力生成部が生成する電力に係る予測値または現在値を用いて、電力の授受の積算値が、目標軌道に一致または漸近させるように、電力消費部における消費電力の目標値を決定することで、電力生成部の生成量を考慮してより精度よく電力の授受量を調整することが可能となる。
【0133】
調整することにおいて、将来の少なくともある一点の時刻において、エネルギー貯蔵部26の残容量が目標範囲となるように、電力消費部における消費電力の目標値を決定してもよい。この場合、エネルギー貯蔵部26の残容量が目標範囲となるように電力消費部における消費電力の目標値を決定することで、電力貯蔵部の残容量を適切な状態で維持することができるため、蓄電池を用いたフィードバック制御を継続することができる。消費電力の目標値の決定において蓄電池残容量を考慮しない場合、過放電・満充電になり、フィードバック制御を行えない状態になり、制御性能が低下する恐れがあるが、それを回避することができる。
【0134】
さらに、調整することにおいて、電力消費部(水素製造部23)における消費電力の目標値を、計画区間またはそれよりも短い周期で決定すると共に、計画値を実現するための外部の電力供給系統との間での前記電力の授受の目標値と、外部の電力供給系統との間での電力の授受の実績値との差が小さくなるように電力貯蔵部における前記充放電を制御してもよい。この場合、電力消費部を利用して計画値に基づいた大凡の調整を行うことができる。一方、計画区間における外部の電力供給系統との間での電力の授受の目標値と、外部の電力供給系統との間での電力の授受の実績値の差が小さくなるように、電力貯蔵部における充放電電力を制御する構成とすることで、応答速度が電力消費部よりも速い電力貯蔵部を利用した調整によって、目標値と実績値との差をより小さく調整することができる。電力貯蔵部による調整は細かい調整となるので、電力貯蔵部の大型化を防ぐこともできる。
【0135】
以上、本開示は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0136】
[付記]
インバランス解消のための調整力電源はおもに火力発電である。インバランス解消のため、複数基を起動状態としつつ、かつ上げ・下げ両方に余裕を持たせた部分出力運転とする必要がある。これは発電効率の観点からは望ましい運転ではなく、発電単価の上昇、CO2排出量増加などを招きうる。したがって、インバランス抑制・解消は特定のマイクログリッドの経済性や事業収益のみに係るものではなく、社会全体としての経済的なエネルギー供給や環境負荷低減にも関わるものである。よって、本技術は、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標7「すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する」および目標13「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」に貢献するものである。
【0137】
水素は次世代のエネルギー源として注目されているが、特にCO2の排出量を大幅に低減させた方法で製造された水素は「CO2フリー水素」とよばれている。本技術は,再エネの余剰電力を使用して水素製造を行うことができるため、CO2フリー水素の製造に貢献するものである。また、本技術は、再エネ電源で問題となっている変動性を抑制する制御方法を示しており、再エネ電源自体の普及・拡大にも貢献する。そのため、本技術は、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の以下のターゲットにも貢献するものである。
・ターゲット7.2「2030年までに、世界のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を大幅に拡大させる。」
・ターゲット9.3「2030年までに、資源利用効率の向上とクリーン技術及び環境に配慮した技術・産業プロセスの導入拡大を通じたインフラ改良や産業改善により、持続可能性を向上させる。全ての国々は各国の能力に応じた取組を行う。」
【0138】
本技術は電力市場を介した計画値同時同量制度に対して好適であるが、計画値同時同量制御はその他の制度においても必要な技術である。例えば、企業等が一般電気事業者の送配電ネットワークを利用した自己託送においても、送電側と受電側は計画値同時同量の制約を受けることがある。自己託送の場合でも、本技術を用いて、定められたある区間の系統電力量を目標値に制御することができる。ところで、近年、RE100とよばれる、企業が自らの事業の使用電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的なイニシアティブが注目を集めている。一般に、企業等の本社が存在する都市部の高層ビルには,ビル全体の消費量を補うほどの太陽光発電設備や風力発電設備を設置するスペースは存在しない。そのため、RE100の一つの実現方策として、各地に存在する再エネ発電設備から本社等の高層ビルに自己託送することが考えられる。前述のように、自己託送制度では,送電・受電側ともに計画値同時同量を順守しなくてはならないため、本技術の適用が期待される。そのため、本技術はRE100の推進にも貢献する。
【符号の説明】
【0139】
1 電力供給システム
2 マイクログリッド
3 エネルギーマネジメントシステム(電力調整装置)
21 管理部
22 RE発電部(電力生成部)
23 水素製造部(電力消費部)
24 水素貯蔵部
25 電力負荷部
26 エネルギー貯蔵部(電力貯蔵部)
27 受電電力測定部
28 送電電力測定部
31 外部通信部
32 制御部
33 電力需要予測部
34 RE発電電力予測部
90 外部電力系統
95 電力事業者