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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】玉軸受用冠型保持器、及び玉軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/41 20060101AFI20240116BHJP
   F16C 19/16 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
F16C33/41
F16C19/16
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022548218
(86)(22)【出願日】2022-01-17
(86)【国際出願番号】 JP2022001445
(87)【国際公開番号】W WO2022154124
(87)【国際公開日】2022-07-21
【審査請求日】2022-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2021005913
(32)【優先日】2021-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】吉川 武文
【審査官】糟谷 瑛
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-516967(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-2045291(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56
F16C 33/30-33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状の主部と、
前記主部から周方向に所定の間隔で軸方向に突出する複数の柱部と、
隣り合う前記柱部の間に形成され、玉を保持可能な球面形状の球状凹面を有するポケットと、
を備える、玉軸受用冠型保持器であって、
前記柱部は、先端部が互いに間隔をあけて配置される一対の爪部と、前記一対の爪部を接続する接続部を有し、
前記ポケットを構成する隣り合う二つの前記爪部の先端部同士の間には、前記玉の直径より短い幅を有し、かつ、前記玉を挿入するための、入口部が設けられ、
前記ポケットの前記球状凹面の曲率半径は、前記玉の転動面の曲率半径よりも大きく、
前記爪部の外径D1は、前記主部の外径D2よりも小さく、
前記爪部の径方向幅t1は、前記主部の径方向幅t2の1/2以下であり
記主部には、隣り合う前記ポケットの間に軸方向に開口した開口部が設けられ、前記爪部と前記開口部とは径方向においてオフセットして設けられ、前記開口部が爪部よりも径方向外側に位置し、
前記主部の底面は、隣り合う前記開口部の間において、軸方向に突出する凸部を有し、
前記柱部の前記接続部の上面から前記主部の底面までの軸方向幅H1と、前記玉軸受用冠型保持器の軸方向幅H2と、前記ポケットの底部における前記主部の軸方向幅H3と、前記主部の前記ポケットが形成されない部分の軸方向幅H4とは、H3<H4<H1≦(H2/2)を満たす、
ことを特徴とする玉軸受用冠型保持器。
【請求項2】
前記凸部が設けられる径方向範囲及び周方向範囲は、前記ポケットを構成する前記主部の前記球状凹面が設けられる径方向範囲及び周方向範囲と略同一である
請求項に記載の玉軸受用冠型保持器。
【請求項3】
前記爪部の径方向幅は、前記主部側から前記爪部の先端部側に向かうほど小さくなる、請求項1又は2に記載の玉軸受用冠型保持器。
【請求項4】
前記爪部は、前記ポケットを構成する周方向第一面と、前記周方向第一面とは反対側の周方向第二面と、を有し、
前記ポケットを構成する隣り合う二つの前記爪部において、二つの前記周方向第二面の間の周方向距離は、前記主部側から前記爪部の先端部側に向かうほど小さくなる
請求項1~のいずれか一項に記載の玉軸受用冠型保持器。
【請求項5】
外輪と、
内輪と、
前記外輪と、前記内輪と、の間に配置された複数の前記玉と、
請求項1~のいずれか1項に記載の玉軸受用冠型保持器と、
を備える、玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉軸受用冠型保持器、及び玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、各種回転機械の回転部分を支持するために、図14に示すような玉軸受1が使用されている。玉軸受1は、外周面に内輪軌道2を有する内輪3と、内輪3と同心に配置され、内周面に外輪軌道4を有する外輪5と、内輪軌道2と外輪軌道4との間に転動自在に配置される複数の玉6と、を備える。
【0003】
各玉6は、保持器100により転動自在に保持される。また、外輪5の内周面の軸方向両端部には、それぞれ円輪状の一対のシールド板7、7の外周縁が係止される。一対のシールド板7,7は、軸受空間に存在するグリース等の潤滑剤が外部に漏洩したり、外部に浮遊する塵埃が軸受空間に侵入したりことを防止している。なお、密封装置として、非接触型のシールド板7,7に代えて、接触型のシールを使用してもよい。
【0004】
保持器100は、図15および図16に示すように、樹脂製の冠型保持器である。保持器100は、円環状の主部109と、主部109から周方向に所定の間隔で軸方向に突出する複数の柱部110と、隣り合う柱部110の間に形成され、玉6を保持可能な球面形状のポケット111と、を備える。
【0005】
柱部110は、先端部が互いに間隔をあけて配置される一対の爪部112,112を有する。ポケット111を構成する隣り合う二つの爪部112,112が玉6を保持することで、保持器100が外輪5と内輪3の間から軸方向に脱落するのを防止している。
【0006】
ところで、最近の自動車の電動化により、モータの回転軸を支持する転がり軸受(特に玉軸受)には高速回転化が要求されている。高速回転化のためには、(i)保持器の遠心力膨張を抑制し、ポケットの底部に発生する応力を下げることで、疲労破壊を防ぐこと、および、(ii)保持器の変形を抑制することで、外輪やシールに対する保持器の接触を避けて、保持器の摩耗、振動、発熱を抑制すること、が求められる。
【0007】
図14~16に示すような従来型の保持器100においては、高速回転時に遠心力によって応力が保持器100に作用し、保持器100が外径側に変形してしまう可能性がある。図14には、保持器100が変形した様子が破線で示されている。この場合、保持器100が外輪5に接触したり(図14中のA部分を参照)、保持器100がシールド板7と接触したりしてしまい(図14中のB部分を参照)、保持器100が摩耗、振動、発熱することが懸念される。
【0008】
特許文献1や特許文献2には、保持器を軽量化するための技術が開示されている。
【0009】
具体的には、特許文献1には、冠型保持器のポケット形成部側の端面とは反対側の端面に、肉ぬすみ部が形成されることが開示されている。この肉ぬすみ部によって、冠型保持器の軸方向左右質量バランスを向上させて背面側部分の軽量化を図っている。
【0010】
また、特許文献2に記載の保持器は、環状の基部と、基部から軸方向に延びるアキシャル部と、を有する。アキシャル部の外径は、基部の外径よりも小さい。基部には、アキシャル部の凹部域と連通し、軸方向に貫通する孔が形成されている。これにより、材料の量を減少させ、高速回転時に誘発される半径方向での変形を抑制することを図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】日本国特開2008-274977号公報
【文献】日本国特許第5436204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、軸受を更なる高速回転化に対応させるためには、保持器の更なる軽量化が必要である。
【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、軽量化により高速回転時の遠心力を小さくして変形を抑制可能な玉軸受用冠型保持器及び玉軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 円環状の主部と、
前記主部から周方向に所定の間隔で軸方向に突出する複数の柱部と、
隣り合う前記柱部の間に形成され、玉を保持可能な球面形状の球状凹面を有するポケットと、
を備える、玉軸受用冠型保持器であって、
前記柱部は、先端部が互いに間隔をあけて配置される一対の爪部と、前記一対の爪部を接続する接続部を有し、
前記ポケットを構成する隣り合う二つの前記爪部の先端部同士の間には、前記玉の直径より短い幅を有し、かつ、前記玉を挿入するための、入口部が設けられ、
前記ポケットの前記球状凹面の曲率半径は、前記玉の転動面の曲率半径よりも大きく、 前記爪部の外径D1は、前記主部の外径D2よりも小さく、
前記爪部の径方向幅t1は、前記主部の径方向幅t2の1/2以下であり、
前記柱部の前記接続部の上面から前記主部の底面までの軸方向幅H1は、前記玉軸受用冠型保持器の軸方向幅H2の1/2以下であり、
前記主部には、隣り合う前記ポケットの間に軸方向に開口した開口部が設けられ、前記爪部と前記開口部とは径方向においてオフセットして設けられ、前記開口部が爪部よりも径方向外側に位置する
ことを特徴とする玉軸受用冠型保持器。
(2) 前記柱部の前記接続部の上面から前記主部の底面までの軸方向幅H1は、前記ポケットの底部における前記主部の軸方向幅H3よりも大きい
(1)に記載の玉軸受用冠型保持器。
(3) 前記主部の底面は、隣り合う前記開口部の間において、軸方向に突出する凸部を有する
(1)または(2)に記載の玉軸受用冠型保持器。
(4) 前記凸部が設けられる径方向範囲及び周方向範囲は、前記ポケットを構成する前記主部の前記球状凹面が設けられる径方向範囲及び周方向範囲と略同一である
(3)に記載の玉軸受用冠型保持器。
(5) 前記爪部の径方向幅は、前記主部側から前記爪部の先端部側に向かうほど小さくなる、
(1)~(4)のいずれか一項に記載の玉軸受用冠型保持器。
(6) 前記爪部は、前記ポケットを構成する周方向第一面と、前記周方向第一面とは反対側の周方向第二面と、を有し、
【0015】
前記ポケットを構成する隣り合う二つの前記爪部において、二つの前記周方向第二面の間の周方向距離は、前記主部側から前記爪部の先端部側に向かうほど小さくなる
(1)~(5)のいずれか一項に記載の玉軸受用冠型保持器。
(7) 外輪と、
内輪と、
前記外輪の軌道輪と、前記内輪の軌道面と、の間に配置された複数の玉と、
(1)~(6)のいずれか1項に記載の玉軸受用冠型保持器と、
を備える、玉軸受。
【発明の効果】
【0016】
本発明の玉軸受用冠型保持器及び玉軸受によれば、軽量化により高速回転時の遠心力を小さくして変形を抑制可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第一実施形態に係る保持器の斜視図である。
図2】第一実施形態に係る保持器の一部を径方向外側から見た図である。
図3】第一実施形態に係る保持器の一部を底面側から見た図である。
図4】第一実施形態に係る保持器の一部の部分断面斜視図である。
図5】第二実施形態に係る保持器の一部を径方向外側から見た図である。
図6】第二実施形態に係る保持器の一部を底面側から見た図である。
図7】第二実施形態に係る保持器の一部の部分断面斜視図である。
図8】第三実施形態に係る保持器の一部の部分断面斜視図である。
図9】第四実施形態に係る保持器の一部を径方向外側から見た図である。
図10】(a)~(c)は玉を保持器に組み込む際のひずみ発生領域を示す図であり、(a)は従来例の保持器を示し、(b)は実施例1の保持器を示し、(c)は実施例2の保持器を示す。
図11】保持器に玉を組み込む様子を示す図である。
図12】(a)~(c)は遠心力により保持器に発生する最大主応力分布を示す図であり、(a)は従来例の保持器を示し、(b)は実施例1の保持器を示し、(c)は実施例2の保持器を示す。
図13】(i)保持器のポケット底に発生する最大主応力の最大値と、(ii)保持器の外周面と外輪5が接触すると考えられる位置における径方向変位量と、(iii)基部の外周面の最下部の軸方向変位量と、(iv)爪部に発生する最大主ひずみの最大値と、を示す図である。
図14】従来例に係る玉軸受の断面図である。
図15】従来例に係る保持器の一部を径方向外側から見た図である。
図16】従来例に係る保持器の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係る玉軸受用冠型保持器及び玉軸受について、図面を用いて説明する。
【0019】
(第一実施形態)
図1~4に示すように、本実施形態の玉軸受用冠型保持器(以下、「冠型保持器」、又は単に「保持器」とも称す)10は、図15~16に示す従来の保持器100と同様に、図14に示す玉軸受1に適用される。
【0020】
冠型保持器10は、例えば、ナイロン46(ポリアミド46、PA46)、ナイロン66(ポリアミド66,PA66)、ポリアミド9T(PA9T)、ポリアミド10T(PA10T)、L-PPS、PEEK、等の樹脂材料、または、他の樹脂材料からなる。また、保持器10の強度を向上させるために、繊維状強化材(炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維等)を数10%(例えば10~50wt%)添加した樹脂組成物でもよい。保持器10の製造方法としては、金型を利用して射出成形する方法や、3Dプリンターで製造する方法が例示される。
【0021】
冠型保持器10は、円環状の主部20と、主部20の上面21から周方向に所定の間隔で軸方向に突出する複数の柱部30と、隣り合う柱部30,30の間に形成され、玉6(図14参照)を保持可能な球面形状のポケット40と、を備える。
【0022】
主部20の上面21には、周方向に所定の間隔で、複数の球面形状の球状凹面23が形成されている。この球状凹面23は、主部20の径方向全幅にわたって形成されており、ポケット40を構成する。
【0023】
柱部30は、主部20の上面21のうち径方向内側部から軸方向に突出する。したがって、柱部30の径方向外側には、主部20の上面21が露出する。従来の冠型保持器100(図16参照)においては、柱部110は主部109の上面の径方向全幅から軸方向に突出するので、本願の柱部30はこの点で相違する。すなわち、本願では、柱部30(爪部31)の径方向外側の領域(図4で破線で示された領域S1)が削られた構成が採用される。
【0024】
柱部30は、一対の爪部31,31と、一対の爪部31,31を接続する接続部33と、を有する。
【0025】
一対の爪部31,31の先端部31A,31Aは、互いに周方向に間隔をあけて配置されている。また、ポケット40を構成する隣り合う二つの爪部31,31の先端部31A,31A同士の間には、玉6(図14参照)の直径よりも短い幅を有し、かつ、玉6を挿入するための、入口部41が設けられる。
【0026】
爪部31は、ポケット40を構成する球面形状の周方向第一面31Bと、周方向第一面31Bとは反対側の周方向第二面31Cと、を有する。
【0027】
一対の爪部31,31の周方向第二面31C,31Cは、それぞれ湾曲形状であり、接続部33の上面33Aで滑らかに接続する。この接続部33の上面33Aは、一対の周方向第二面31C,31Cによって形成される略U字状の底部に相当する。接続部33の上面33A(一対の周方向第二面31C,31Cの底部)は主部20の上面21よりも僅かに上方(軸方向一方側)に位置している(図1,4参照)。したがって、一対の周方向第二面31C,31Cは、底部(接続部33の上面33A)が比較的下方(軸方向他方側)に位置し、略U字状の凹部を構成する。従来の冠型保持器100(図15参照)においては、接続部の上面(一対の周方向第二面の底部)は主部109の上面よりも、かなり上方に位置する。すなわち、本願では、一対の爪部31,31の周方向第二面31C,31Cに挟まれた領域(図2では破線で示された領域S2)が削られた構成が採用される。
【0028】
隣り合う二つの爪部31,31の周方向第一面31B,31Bと、主部20の球状凹面23と、はポケット40を構成する。これら、二つの周方向第一面31B,31Bおよび球状凹面23は、互いに滑らかに接続し、ポケット40の球状凹面を構成する。ポケット40の球状凹面の曲率半径は、玉6(図14参照)の転動面の曲率半径よりも大きく設定される。
【0029】
このように、複数のポケット40が主部20によって接続されているため、高速回転時などに保持器10に遠心力が負荷されると、保持器10は主部20を中心に径方向外側に倒れようとする。この倒れを抑制するため、本願では、上述したように領域S1,S2が削られた構成とされる。
【0030】
遠心力をF、質量をm、回転軸から回転する物体(保持器10)までの距離をr、角速度をωとすると、F=mrω2で表される。保持器10(特にポケット40の底部)に発生する応力σと、保持器10の変形量δは、遠心力Fにほぼ比例する。したがって、玉軸受1の軸方向幅、内輪3の内径、および外輪5の外径が一定の場合、応力σおよび変形量δを低減するためには保持器10の質量mを小さくする必要がある。また、保持器10の変形量δは、保持器10の剛性にほぼ反比例するので、保持器10の形状が変わらない場合、保持器10の剛性すなわちヤング率を大きくしてもよい。
【0031】
図4に示すように、爪部31の外径D1は、主部20の外径D2よりも小さく設定される。すなわち、爪部31(柱部30)の外周面31Dは、主部20の外周面25から径方向に(D2-D1)だけ内側に位置している。なお、爪部31(柱部30)の内周面31Eは、主部20の内周面24と滑らかに接続し、段差の無い保持器10の内周面を構成する。さらに、爪部31の径方向幅t1は、主部20の径方向幅t2の1/2以下に設定される。このように、D1<D2、t1≦(t2/2)と設定されることで、爪部31(柱部30)の径方向外側の領域S1が削られた構成が採用される。
【0032】
また、柱部30の接続部33の上面33Aから主部20の底面26までの軸方向幅H1(図4中の上下方向幅)は、保持器10の軸方向幅H2の1/2以下に設定される。このようにH1≦(H2/2)と設定されることで、爪部31の背面側(ポケット40の反対側、周方向第二面31C側)の領域S2(図2参照)が削られた構成が採用される。
【0033】
なお、軸方向幅H1を小さくしすぎると、保持器10の強度が低下する可能性があるため、軸方向幅H1は、ポケット40の底部における主部20の軸方向幅H3(図2参照)よりも大きくすることが好ましく(H1>H3)、主部20のポケット40(球状凹面23)が形成されない部分の軸方向幅H4(図4参照)よりも大きくすることがさらに好ましい(H1>H4)。このように、軸方向の寸法関係は、H3<H4<H1≦(H2/2)を満たすことが好ましい。
【0034】
また、主部20には、隣り合うポケット40,40の間に、軸方向に開口した開口部27が設けられている。開口部27は、主部20の上面21から底面26を軸方向に貫通している。開口部27は、柱部30(一対の爪部31、31)の径方向外側に位置する。すなわち、開口部27は、その少なくとも一部が、柱部30(一対の爪部31、31)と周方向において重なる。また、爪部31と開口部27とは径方向においてオフセットして設けられ、開口部27は爪部31よりも径方向外側に位置する。図示された開口部27の周壁部は、段付き面(図4参照)やテーパー面等から構成されているが、その形状は特に限定されない。なお、開口部27の周壁部が段付き面やテーパー面等から構成されている場合、単なる平面から構成されている場合と比べて、射出成形時に金型から保持器10が抜きやすくなるため好ましい。
【0035】
開口部27の径方向幅t3(図3参照)が大きくなりすぎると、保持器10の他の部分の径方向幅が小さくなり、強度が低下する可能性や、保持器10を射出成形で製造する場合に樹脂が流動せずに空隙が生じる可能性がある。したがって、保持器10の各部分の幅は、1mm以上であることが好ましい。そこで、開口部27の径方向幅t3は、主部20の径方向幅t2に対して、(t2/3)≦t3≦(t2/2)程度とすることが好ましい。
【0036】
以上説明したように、本実施形態の保持器10によれば、D1<D2、t1≦(t2/2)、H1≦(H2/2)を満たすとともに、開口部27が形成されているので、保持器10が軽量化され、高速回転時の遠心力による変形を抑制することができる。したがって、保持器10が、外輪5やシールド板7等に接触することが防止でき、保持器10の摩耗や振動、発熱を抑制できる。また、爪部31と開口部27とを径方向においてオフセットして設けられ、開口部27が爪部31よりも径方向外側に位置する。これにより保持器10を軽量化できるとともに、爪部31と外輪5との距離を確保できるので爪部31が変形しても外輪5との接触を抑制できる。また、爪部31は玉6を径方向内側から抱える格好になるので、遠心力作用時に爪部31が変形するには玉6を乗り越える必要があり、爪部31の変形抑制効果もある。
【0037】
(第二実施形態)
図5~7には、第二実施形態に係る保持器50が開示されている。本実施形態の保持器50は、主部20の底面26に凸部28が設けられる構成が、第一実施形態の保持器50と異なる。その他の構成は、上記実施形態と同一であるので、図面に符号を付すことでその説明を省略する。
【0038】
凸部28は、隣り合う開口部27,27の間において、主部20の底面26から軸方向(図5中の上下方向において爪部31が延びる方向とは反対方向)に突出する。すなわち、主部20の底面26は、複数のポケット40の下方に、周方向に所定間隔で形成された複数の凸部28を有している。
【0039】
凸部28は、ポケット40と、周方向および径方向において重なることが好ましい。すなわち、凸部28が設けられる周方向範囲および径方向範囲が、ポケット40を構成する主部20の球状凹面23が設けられる周方向範囲および径方向範囲と略同一であることが好ましい。本実施形態の凸部28の径方向幅および周方向幅は、ポケット40の径方向幅(主部20の径方向幅t2)および周方向幅と略同一である。
【0040】
第二実施形態の保持器50によれば、第一実施形態と比較して遠心力により発生する応力や変形を抑制する効果についてはそれほど変わりはないが、保持器50を内輪3、外輪5、玉6からなる軸受1に組み込む際に効果を発揮する。すなわち、後述するように、保持器50の爪部31に発生するひずみが低減される。
【0041】
(第三実施形態)
図8には、第三実施形態に係る保持器60が開示されている。本実施形態の保持器60は、爪部31の径方向寸法が、上記実施形態の保持器60と異なる。その他の構成は、上記実施形態と同一であるので、図面に符号を付すことでその説明を省略する。
【0042】
本実施形態の保持器60においては、爪部31の径方向幅が、主部20側から爪部31の先端部31Aに向かうほど小さくなっている。すなわち、図8中の爪部31の径方向幅a1,a2,a3の関係は、a1<a2<a3を満たす。
【0043】
このような構成によれば、爪部31に発生する応力やひずみを軽減させることができる。特に、爪部31の先端部31Aが玉6から力を受けるときに、効果的である。また、保持器60を射出成形する場合、保持器60を金型から抜きやすくなるので、効果的である。
【0044】
(第四実施形態)
図9には、第四実施形態に係る保持器70が開示されている。本実施形態の保持器70は、ポケット40を構成する隣り合う二つの爪部31,31の周方向第二面31C,31Cの間の周方向距離が、第一実施形態の保持器70と異なる。その他の構成は、上記実施形態と同一であるので、図面に符号を付すことでその説明を省略する。
【0045】
本実施形態の保持器70においては、ポケット40を構成する隣り合う二つの爪部31,31において、二つの周方向第二面31C,31Cの間の周方向距離が、主部20側から爪部31の先端部31Aに向かうほど小さくなっている。すなわち、図9中の隣り合う二つの爪部31,31の周方向第二面31C,31Cの間の周方向距離b1,b2,b3の関係は、b1<b2<b3を満たす。
【0046】
このような構成によれば、爪部31に発生する応力やひずみを軽減させることができる。特に、爪部31の先端部31Aが玉6から力を受けるときに、効果的である。また、保持器70を射出成形する場合、保持器70を金型から抜きやすくなるので、効果的である。
【0047】
(実施例)
本発明の効果を確かめるために、有限要素法による解析を実施した。解析対象の保持器10,50は、内径:35mmの軸受に使用される冠型樹脂保持器である。従来の冠型樹脂保持器を基準に、本発明の実施形態に基づき、形状を設定した。すなわち、図10(a)~(c)に示すように、(a)従来品としては図15~16に示した保持器100を採用し、(b)実施例1としては図1~4に示した第一実施形態の保持器10を採用し、(c)実施例2としては図5~7に示した第二実施形態の保持器50を採用した。
【0048】
保持器サイズは、比較例および実施例1~2のいずれも、保持器10,50(100)の内径:49mm、主部20(109)の最大外径:58mm、保持器10,50(100)の軸方向高さ:10mmとした。柱部30(110)の接続部33の上面33Aから主部20(109)の底面26までの軸方向幅H1は、比較例では7mmとし、実施例1と2では3mmとした。また、爪部31(112)の先端部31Aの径方向厚みは、比較例において4.7mmとし、実施例1および2において1.2mmとした。主部20の開口部27の径方向厚みは、実施例1および2において2mmとした。実施例2における凸部28の軸方向厚みは0.9mmとした。
【0049】
保持器10,50(100)の物性値としては、軸受が高速回転で使用されることを想定して、高温でのナイロン46(PA46)に相当する値を用いた。具体的には、ヤング率:3500MPa、ポアソン比:0.4、密度:1.38g/cm3とした。内輪回転数は3万rpmとした。
【0050】
遠心力により保持器10,50(100)に発生する最大主応力分布を図12(a)~(c)に示す。図12(a)の従来例には大きな応力が発生しているのがわかる。変形倍率を1倍で表示しているため、変形、すなわち、爪部112の先端の倒れが大きいこともわかる。これに対して図12(b),(c)の実施例1,2においては、従来例と比較して応力の発生が抑制されていることがわかる。
【0051】
図13には、(i)保持器10,50(100)のポケット底に発生する最大主応力の最大値と、(ii)保持器10,50(100)の外周面と外輪5とが接触すると考えられる位置(図14中のB部分)における径方向変位量と、(iii)主部20(109)の外周面の最下部の軸方向変位量と、(iv)爪部31(112)に発生する最大主ひずみの最大値と、が示されている。なお、(iv)爪部31(112)に発生する最大主ひずみの最大値は、保持器10,50(100)を内輪3、外輪5、玉6からなる軸受1に保持器を挿入することを想定し、図11に示すように保持器10の一部をモデル化して、玉6を荷重Fで押し込む解析を行うことで、得られたものである。
【0052】
実施例1と2ともに、従来例と比べると、(i)~(iv)の値が大きく下がり、効果があることが確認された。(i)ポケット底の応力、(ii)径方向変位量、(iii)軸方向変位量については、実施例1と実施例2とではほとんど差はなかったが、(iv)玉組み込み時のひずみについては、実施例2は実施例1と比べて、約20%下がった。
【0053】
この理由として、図10(a)~(c)に示すように、保持器10,50のポケット40に玉6が押し込まれると、爪部31は剛性の低い部分を支点Pとして円周方向に広がろうとするためであると考えられる。すなわち、支点Pが爪部31の先端部31Aから遠い位置にあるほど、発生するひずみは分散するために最大値が下がるためであると考えられる。
【0054】
従来例では、爪部112はその先端部に近い部分を支点Pに広がろうとするので、爪部112に発生するひずみの領域(ひずみ発生領域D)は狭くなり、ひずみは大きくなる。一方、実施例1では、爪部31の先端部31Aから支点Pまでの距離が長くなるため、ひずみ発生領域Dが広がり、従来例よりもひずみは下がる。さらに、実施例2では、爪部31の先端部31Aから支点までの距離が長くなるので、ひずみ発生領域Dがさらに広がり、実施例1よりもひずみはさらに下がる。
【0055】
なお、上記のような実施例1および2の保持器10,50は、ナイロン46やナイロン66よりもひずみ強度の低い樹脂材料を使用した保持器に適用すると、ひずみを減少させることができ好適である。
【0056】
本出願は、2021年1月18日出願の日本特許出願特願2021-005913に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0057】
1 玉軸受
2 内輪軌道
3 内輪
4 外輪軌道
5 外輪
6 玉
7 シールド板
10 玉軸受用冠型保持器
20 主部
21 上面
23 球状凹面
24 内周面
25 外周面
26 底面
28 凸部
27 開口部
30 柱部
31 爪部
31A 先端部
31B 周方向第一面
31C 周方向第二面
31D 外周面
31E 内周面
33 接続部
33A 上面
40 ポケット
41 入口部
50,60,70 保持器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16