(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】車両用ドア
(51)【国際特許分類】
B60J 5/00 20060101AFI20240116BHJP
E05B 77/06 20140101ALI20240116BHJP
【FI】
B60J5/00 P
B60J5/00 H
E05B77/06 Z
(21)【出願番号】P 2022572179
(86)(22)【出願日】2021-12-13
(86)【国際出願番号】 JP2021045875
(87)【国際公開番号】W WO2022138294
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2020215585
(32)【優先日】2020-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177460
【氏名又は名称】山崎 智子
(72)【発明者】
【氏名】井口 正晴
(72)【発明者】
【氏名】安田 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】大島 航輝
(72)【発明者】
【氏名】安河内 辰弥
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-163023(JP,A)
【文献】特開2018-079845(JP,A)
【文献】特開2014-156748(JP,A)
【文献】特開2009-191591(JP,A)
【文献】特開平10-046890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 5/00
E05B 77/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のボデーの側部に取り付けられる車両用ドアであって、
前記車両の室内側に配置されるインナーパネルと、
前記インナーパネルに対して前記車両の外側に接合されるアウターパネルと、
前記インナーパネルに固定され、前記ボデーに設けられたストライカに係合する係合部を有するラッチ装置と、
前記ラッチ装置と前記インナーパネルとの間に配置され、前記インナーパネルに形成され前記ストライカが侵入するラッチ開口の周囲を補強するラッチリンフォースと、
を備え、
前記ラッチリンフォースは、車幅方向に延び、前記インナーパネルと前記アウターパネルとの接合されるヘム部近傍で前記インナーパネルに接合される延在部を有
し、
前記インナーパネルは前記車両の車幅方向に延び、前記ボデーの前記ストライカが取り付けられる面と対向する対向面を有し、
前記対向面は、前記ラッチ開口が形成され、前記ラッチリンフォースが配置される内側面よりも車幅方向外側で前記アウターパネルに接合される外側面が車両前後方向後方に位置するように形成され、
前記延在部は、前記内側面に沿って接合される第1面と、前記外側面に沿って接合される第2面と、前記第1面から前記第2面まで前後方向に傾斜して直線的に延びる傾斜面と、を有して形成される、
車両用ドア。
【請求項2】
前記延在部は、前記係合部の上側よりも下側の方が、面積が大きくなるように延びる、請求項1に記載の車両用ドア。
【請求項3】
前記延在部は、前記第2面から前記第1面まで延びるビードを有する
請求項
1に記載の車両用ドア。
【請求項4】
前記アウターパネルに沿って延び、前記アウターパネルを補強する補強部材をさらに備え、
前記延在部と、前記補強部材とが接合する、
請求項1から
3のいずれか1項に記載の車両用ドア。
【請求項5】
前記ラッチ装置は、前記車両が衝突した場合、前記係合部が前記ストライカに係合した状態が維持するように作動する慣性レバーを有する、
請求項1から
4のいずれか1項に記載の車両用ドア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ドアに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、慣性レバーを有するラッチ装置を備えた車両用ドアが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1のラッチ装置は、車両の側面に衝突が発生した場合(以下明細書において車両側突時と記す)、慣性レバーが作動することで、車両のドアが開放することを抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような慣性レバーを有する車両用ドアでは、車両側突時にラッチ装置に衝突エネルギーを伝達し、慣性レバーを作動しやすくする必要がある。
【0005】
本開示は、ラッチ装置に衝突エネルギーを伝達しやすい車両用ドアを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る車両用ドアは、車両のボデーに取り付けられる車両用ドアである。車両用ドアは、インナーパネルと、アウターパネルと、ラッチ装置と、ラッチリンフォースと、延在部と、を備える。インナーパネルは、車両の室内側に配置される。アウターパネルは、インナーパネルに対して車両の外側に接合される。ラッチ装置は、ボデーに設けられたストライカに係合する係合部を有する。ラッチリンフォースは、ラッチ装置とインナーパネルとの間に配置され、インナーパネルに形成されストライカが侵入するラッチ開口の周囲を補強する。延在部は、ラッチリンフォースからインナーパネルとアウターパネルとの接合されるヘム部近傍まで延びる。延在部は、ヘム部近傍でインナーパネルに接合される接合部を有する。
【0007】
この車両用ドアでは、ラッチリンフォースがアウターパネルとインナーパネルのヘム部近傍まで延びるため、車両側突時にアウターパネルが受けた衝突エネルギーがラッチリンフォースを介してラッチ装置に伝達しやすい。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、ラッチ装置に衝突エネルギーを伝達しやすい車両用ドアを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一実施形態にかかる車両用ドアを備えた車両の一部斜視図。
【
図2】本開示の一実施形態にかかる車両用ドアのラッチリンフォース近傍の拡大図。
【
図3】本開示の一実施形態にかかる車両用ドアのラッチリンフォース近傍のアウターパネルを取り外した状態の拡大図。
【
図4】本開示の一実施形態にかかる車両用ドアのラッチリンフォース近傍の側面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下明細書において、車両の前後方向をQと図面に記し、前側をFと記す。また、車両の左右方向(車幅方向)をPと図面に記し、右側(車室内側)をRと記す。さらに、車両の上下方向をGと図面に記し、上方をUと記す。
【0011】
図1に示すように、車両用ドア1は、車両CのボデーBに図示しないヒンジなどを介して取り付けられる。本実施形態では、車両用ドア1は、左前部に配置された左フロントドアを例に説明する。
図1および
図2に示すように、車両用ドア1は、インナーパネル2と、アウターパネル4と、ラッチ装置6と、ラッチリンフォース8と、スティフナー(補強部材の一例)10と、アウタードアハンドル12と、を備える。
【0012】
インナーパネル2は、車両Cの外側に開口した凹形状にプレス成型された板金部材であり、前面2aと、側面2bと、後面(対向面の一例)2cとを有する。インナーパネル2は、車両Cの車室内側に配置され、車両用ドア1の骨格として機能する。インナーパネル2の前面2aは、車幅方向Pに延び、図示しないヒンジが取り付く。車両用ドア1は、このヒンジを介してボデーBに対して開閉可能に取り付く。
【0013】
インナーパネル2の側面2bは、前後方向Qに延び、ラッチ装置6などの車両用ドア1に取り付く機器にアクセスするためのサービスホールが設けられる。また、側面2bの車両Cの室内側には、トリムなどの内装部材が取り付く。
【0014】
インナーパネル2の後面2cは、車幅方向Pに延び、ボデーBに設けられたストライカS(
図4参照)が取り付けられるセンターピラーの前面に対向する。
図3に示すように、インナーパネル2は、ラッチ開口2dを有する。ラッチ開口2dは、側面2bと後面2cとによって形成される角部に形成される。ラッチリンフォース8は、このラッチ開口2dを補強するために設けられる。
図4に示すように、車両用ドア1が閉じられた場合、ストライカSがラッチ開口2dに侵入し、ラッチ装置6の係合部6aに係合する。
【0015】
図5に示すように、後面2cは、内側面2eと、段差面2fと、外側面2gと、を有する。後面2cは、ラッチリンフォース8の後述する第1面8cが配置される内側面2eよりも車幅方向P外側の外側面2gが車両Cの前後方向Q後方に位置するように形成される。内側面2eは、車幅方向Pに延び、ラッチ開口2dが形成される。段差面2fは、内側面2eから車両Cの前後方向Qに延び、外側面2gにつながることによって、段差を形成する。段差面2fは、車両用ドア1が閉じた状態において、ストライカSの前後方向を覆うように形成される。外側面2gは、段差面2fから車幅方向Pに延び、アウターパネル4に接合される。
【0016】
車両用ドア1には、開閉しやすいように、内側面2eとボデーBとの間に隙間を設ける必要がある。また、車両用ドア1は、閉じられた状態でボデーBの開口を密閉する必要がある。このため、車両用ドア1は、このような段差を設けて、ボデーBとの間のクリアランスを確保しつつ、密閉性を高めている。
【0017】
アウターパネル4は、インナーパネル2に対して車両Cの車幅方向Pの外側に接合される。アウターパネル4は、車両Cの外側の意匠面として機能するプレス成型された板金部材である。本実施形態では、アウターパネル4は、少なくとも、インナーパネル2の前面2aおよび後面2cに、溶接される。より具体的には、
図3に示すように、前面2aおよび後面2cには、アウターパネル4に沿ったフランジ面2hが形成される。アウターパネル4は、端部がこのフランジ面2hを包むように、車幅方向Pの外側から内側にヘミング加工によって折り曲げられ、この折り曲げられた部分がフランジ面2hに溶接される。本明細書において、このように形成された部分をヘム部4aと記す。ヘム部4aは、インナーパネル2との接合部分であるため、アウターパネル4において剛性が高い部分である。アウターパネル4は、この他、下部がインナーパネル2と接合されてもよい。また、アウターパネル4は、アウタードアハンドル12を保持してもよい。
【0018】
ラッチ装置6は、係合部6aを有し、ストライカSが係合部6aに係合された状態と開放された状態を切り替える装置である。
図7に示すように、ラッチ装置6は、アウタードアハンドル12が車幅方向Pの外側に引かれると、ロッド12aが押し下げられレバー12bの車室内側端部を押し上げ、ラッチ装置6のラッチポール6bを押し上げる。これによって、係合部6aがストライカSを開放する。ラッチ装置6は、係合部6aがラッチ開口2dに隣接するように、インナーパネル2に固定される。
【0019】
ラッチ装置6は、慣性レバー6cを有する。慣性レバー6cは、車両Cが側突した場合、係合部6aがストライカSに係合した状態が維持するように作動する。本実施形態では、慣性レバー6cは、レバー12bとラッチポール6bの間に、車幅方向Pの内側に向けて付勢するコイルバネ(付勢手段の一例)を介して設けられる。慣性レバー6cは、車両側突時に慣性力によって車幅方向Pの外側に傾き、ガイド6dにガイドされることで、ラッチポール6bに対して上下方向の位置がずれる。これによって、車両側突時にラッチポール6bを押し上げないようにする。ラッチ装置6は、車両側突時の慣性力を利用して、係合部6aがストライカSに係合した状態が維持するものであれば、本実施形態の構造に限定されない。
【0020】
図5に示すように、ラッチリンフォース8は、ラッチ装置6とインナーパネル2との間に配置され、係合部6aの周囲を補強する。本実施形態では、ラッチリンフォース8は、延在部8aを有し、延在部8aがラッチリンフォース8に一体で形成される。延在部8aは、インナーパネル2とアウターパネル4の接合されるヘム部4a近傍まで延びる。ヘム部4aはアウターパネル4の中でも剛性が高いため、車両側突時に衝突エネルギーを伝達しやすい部位である。このように、ラッチリンフォース8が、ヘム部4aの近傍まで延びることによって、車両側突時の衝突エネルギーがラッチリンフォース8を介してラッチ装置6に伝達されやすい。
【0021】
本実施形態では、延在部8aは、上下方向に複数並んで設けられたビード8b(
図3参照)を有する板金部材である。ビード8bは、後述する第2面8eから第1面8cまで延びる。さらに上下方向に複数並んで設けられているビード8bの一番下方に位置するビードは最も車両内側まで延びるように設けられている。本実施形態では、ビード8bは、前後方向Qに凸形状となるよう延在部8aに設けられる。このように、延在部8aにビード8bを設けることによって、延在部8aの剛性が高くなる。これによって、車両側突時に衝突エネルギーがラッチ装置6に伝達しやすい。
【0022】
延在部8aは、ラッチリンフォース8と同一面の第1面8cと、傾斜面8dと、外側面2gとの接合部として機能する第2面8eと、を有する。延在部8aは、第1面8cと第2面8eと、傾斜面8dによって直線で結んで形成される。より具体的には、第1面8cは、内側面2eに沿って車幅方向Pに延び、内側面2eに溶接される。傾斜面8dは、第1面8cから段差面2fを跨いで第2面8eまで前後方向に傾斜して直線的に延びる。第2面8eは、外側面2gに沿って車幅方向Pに延び、外側面2gに溶接されることによって接合される。ビード8bは、第1面8cから第2面8eまで延びる。言い換えると、傾斜面8dと段差面2fとの間に空間がある。このように、傾斜面8dによって延在部8aの段差の前後が直線的に結ばれることにより、車両側突時の衝突エネルギーが吸収されることなくラッチ装置6に伝達しやすい。
【0023】
また、ビード8bは、第1面8cから第2面8eまで延びる。これによって、第1面8cと傾斜面8dと間の曲げ部分、または、傾斜面8dと第2面8eとの間の曲げ部分がビード8bによって補強される。この結果、車両側突時に延在部8aがこの曲げ部分から座屈し、衝突エネルギーが吸収されることを抑制できる。このためラッチ装置6に衝突エネルギーを伝達しやすい。
【0024】
図3に示すように、延在部8aは、係合部6aの上側よりも下側の方が、面積が大きくなるように延びる。本実施形態では、延在部8aは、延在部8aの下端がラッチ装置6の下端よりも下まで延びる。
図6に示すように、車高の高い車両Cは、車両側突時に車両用ドア1の下に衝突部がぶつかりやすい。この場合、衝突箇所からラッチ装置6までの距離が遠くなり、衝突エネルギーが伝わりにくい場合もある。このように、延在部8aが下方向に延びることによって、延在部8aが下方から伝わる衝突エネルギーをラッチ装置6まで伝達しやすい。
【0025】
図4および
図5に示すように、スティフナー10は、アウターパネル4に沿って延び、アウターパネル4を補強するために設けられる。スティフナー10は、車幅方向Pの車室内側に向けて凸形状に形成された板金部材である。スティフナー10は、アウターパネル4の車幅方向Pの車室内側に溶接される。
【0026】
スティフナー10は、ラッチリンフォース8と接合される。より具体的には、スティフナー10の前後方向Qの後方端部が車幅方向Pの外側に向けて折り曲げられ、延在部8aの外側面2gの前方側に溶接される。これによって、車両側突時にアウターパネル4が受けた衝突エネルギーが延在部8aに伝わる。この結果、ラッチ装置6に衝突エネルギーが伝達しやすい。
【0027】
図6に示すように、このように構成された車両用ドア1は、車両側突時に車両用ドア1の車幅方向外側から衝突物Wが侵入する。
図7に示すように、衝突物Wが侵入すると、アウタードアハンドル12は慣性力によって引かれた状態になりやすい。アウタードアハンドル12が引かれると、ロッド12aが押し下げられレバー12bの車室内側端部を押し上げる。このとき、慣性レバー6cは、慣性力によって車幅方向Pの外側に傾き、ガイド6dにガイドされることで、ラッチポール6bに対して上下方向の位置がずれる。これによって、慣性レバー6cがラッチポール6bを押し上げることがなく、ラッチ装置6の係合部6aがストライカSを係合した状態が維持される。
【0028】
しかし、車両Cがスポーツ用多目的車両や、ピックアップトラックの場合、衝突物Wは車両用ドア1のラッチ装置6よりも下方に衝突しやすい。本実施形態の車両用ドア1によれば、このような場合であっても、スティフナー10および延在部8aを介して、ラッチ装置6に衝突エネルギーが伝達されやすい。これによって慣性レバー6cが作動しやすく、ラッチ装置6の係合部6aがストライカSを係合した状態が維持しやすい。この結果、車両側突時に車両用ドア1が開放することを防止しやすい。
【0029】
以上説明したとおり、本開示によれば、ラッチ装置6に衝突エネルギーを伝達しやすい車両用ドア1を提供できる。
【0030】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の変形例は必要に応じて任意に組合せ可能である。
【0031】
(a)上記実施形態では、車両用ドア1は、左前部に配置された左フロントドアを例に説明したが、本開示はこれに限定されない。車両用ドア1は、車両Cの側部に取り付くドアであれば、どのような場所に取り付けられてもよい。
【0032】
(b)上記実施形態では、延在部8aがラッチリンフォース8に一体で形成される例を用いて説明したが、本開示はこれに限定されない。延在部8aはラッチリンフォース8と別部材で形成され、ラッチリンフォース8に接合されてもよい。
【0033】
本出願は、2020年12月24日出願の日本特許出願2020-215585に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【符号の説明】
【0034】
1:車両用ドア
2:インナーパネル
2c:後面(対向面)
2d:ラッチ開口
4:アウターパネル
4a:ヘム部
6:ラッチ装置
6a:係合部
6c:慣性レバー
8:ラッチリンフォース
8a:延在部
8b:ビード
10:スティフナー(補強部材)
12:アウタードアハンドル
B:ボデー
C:車両
S:ストライカ