(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】インクジェットインク及び錠剤
(51)【国際特許分類】
C09D 11/328 20140101AFI20240116BHJP
C09D 11/38 20140101ALI20240116BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20240116BHJP
【FI】
C09D11/328
C09D11/38
C09D7/20
(21)【出願番号】P 2023038061
(22)【出願日】2023-03-10
【審査請求日】2023-03-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】星野 裕一
(72)【発明者】
【氏名】小関 晟弥
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 賢俊
(72)【発明者】
【氏名】橋本 理沙
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 泰久
(72)【発明者】
【氏名】内山 博光
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/171183(WO,A1)
【文献】特開2015-218268(JP,A)
【文献】特開2001-031897(JP,A)
【文献】特開2004-155962(JP,A)
【文献】国際公開第2019/189902(WO,A1)
【文献】特開2002-249696(JP,A)
【文献】特開2021-167370(JP,A)
【文献】国際公開第2022/050129(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
色素と、1価アルコールと、水と、プロピレングリコールとを含むインクジェットインクであって、
前記色素は、銅クロロフィリンNaのみであり、
前記1価アルコールは、エタノールのみ、または1-プロパノールのみであり、
前記銅クロロフィリンNaの濃度は、前記インク全体の質量に対し1質量%以上15質量%以下の範囲内であり、
前記エタノールの濃度は、前記インク全体の質量に対し6.5質量%以上20質量%以下の範囲内であり、
前記1-プロパノールの濃度は、前記インク全体の質量に対し6.5質量%以上15質量%以下の範囲内であり、
前記プロピレングリコールの濃度は、前記インク全体の質量に対し10質量%以上30質量%以下の範囲内であ
ることを特徴とするインクジェットインク。
【請求項2】
色素と、1価アルコールと、水と、プロピレングリコールとを含むインクジェットインクであって、
前記色素は、銅クロロフィリンNaと、前記銅クロロフィリンNaとは異なる他の色材とを含み、
前記1価アルコールは
、1-プロパノールのみであり、
前記銅クロロフィリンNaの濃度は、前記インク全体の質量に対し1質量%以上5.7質量%以下の範囲内であり、
前記他の色材の濃度は、前記銅クロロフィリンNaの質量に対し50質量%以下の範囲内であり、
前記1-プロパノールの濃度は、前記インク全体の質量に対し6.5質量%以上15質量%以下の範囲内であり、
前記銅クロロフィリンNa以外の前記色材として、タートラジン、エリスロシン、及びブリリアントブルーFCFの少なくとも1種を含み、
前記プロピレングリコールの濃度は、前記インク全体の質量に対し10質量%以上30質量%以下の範囲内であ
ることを特徴とするインクジェットインク。
【請求項3】
前記銅クロロフィリンNa以外の前記色材として、タートラジン、及びブリリアントブルーFCFの少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項2に記載のインクジェットインク。
【請求項4】
前記他の色材の濃度は、前記銅クロロフィリンNaの質量に対し25質量%以下の範囲内であることを特徴とする請求項2に記載のインクジェットインク。
【請求項5】
前記プロピレングリコールの濃度は、前記インク全体の質量に対し23質量%以上30質量%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインクジェットインク。
【請求項6】
前記1価アルコールは、1-プロパノールのみであることを特徴とする請求項
1に記載のインクジェットインク。
【請求項7】
錠剤表面への直接印刷、食品への直接印刷、医薬品及び食品に直接触れるパッケージに用いられることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のインクジェットインク。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載のインクジェットインクで印刷した印刷部を備える錠剤。
【請求項9】
医療用錠剤であることを特徴とする請求項8に記載の錠剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク及び錠剤に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷用インク(以下、単に「インクジェットインク」とも称する。)には、可食性を有するものがある。そして、可食性を有するインクジェットインクに関する技術としては、例えば、特許文献1に記載したものがある。
可食性を有するインクジェットインクには、例えば、銅クロロフィリンNa(Chlorophyllin copper complex sodium, CAS Number: 28302-36-5)を少なくとも含んだ食用色素(色材)を、アルコールを含んだ分散媒に分散させたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の銅クロロフィリンNaとアルコールとを含んだインクジェットインクを、長期間保存、例えば9か月程度保存した場合には、インク中に凝集体が発生し、インクジェットヘッド内を閉塞させることによるヘッド故障を引き起こす場合がある。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、銅クロロフィリンNaを少なくとも含んだ食用色素を、アルコール(特に1価アルコール)を含んだ分散媒に分散させたインクジェットインクを長期間保存した場合であっても、凝集体がインクジェットヘッド内を閉塞させることによるヘッド故障を防止することができるインクジェットインク及びそのインクジェットインクで印刷した印刷部を備える錠剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係るインクジェットインクは、色素と1価アルコールとを含むインクであって、前記色素は、銅クロロフィリンNaのみであり、前記1価アルコールは、エタノールのみ、または1-プロパノールのみであり、前記銅クロロフィリンNaの濃度は、前記インク全体の質量に対し1質量%以上15質量%以下の範囲内であり、前記エタノールの濃度は、前記インク全体の質量に対し6.5質量%以上20質量%以下の範囲内であり、前記1-プロパノールの濃度は、前記インク全体の質量に対し6.5質量%以上15質量%以下の範囲内である。
【0006】
また、本発明の他の態様に係るインクジェットインクは、色素と1価アルコールとを含むインクであって、前記色素は、銅クロロフィリンNaと、前記銅クロロフィリンNaとは異なる他の色材を含み、前記1価アルコールは、エタノールのみ、または1-プロパノールのみであり、前記銅クロロフィリンNaの濃度は、前記インク全体の質量に対し1質量%以上15質量%以下の範囲内であり、前記他の色材の濃度は、前記銅クロロフィリンNaの質量に対し50質量%以下の範囲内であり、前記エタノールの濃度は、前記インク全体の質量に対し6.5質量%以上20質量%以下の範囲内であり、前記1-プロパノールの濃度は、前記インク全体の質量に対し6.5質量%以上15質量%以下の範囲内である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様であれば、銅クロロフィリンNaを少なくとも含んだ食用色素を、アルコール(特に1価アルコール)を含んだ分散媒に分散させたインクジェットインクを長期間保存した場合であっても、凝集体がインクジェットヘッド内を閉塞させることによるヘッド故障を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る錠剤(素錠)の一例を示す概略断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る錠剤(フィルムコーティング錠)の一例を示す概略断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る錠剤(素錠)の印刷画像の一例である。
【
図4】本発明の実施形態に係る錠剤(フィルムコーティング錠)の印刷画像の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態に係るインクジェットインクは、例えば、医療用錠剤の表面にインクジェット印刷法で文字や画像等を印刷する際に使用するインクジェットインクに関するものである。以下、本発明の実施形態に係るインクジェットインク及びそのインクジェットインクで印刷した印刷部を備える錠剤の構成について、詳細に説明する。
【0010】
〔インクジェットインクの構成〕
(色素及び分散媒)
本実施形態に係るインクジェットインクは、食用色素と、その食用色素を分散可能な分散媒とを少なくとも含んでいる。本実施形態に係る食用色素は、銅クロロフィリンNaを少なくとも含むものである。また、本実施形態に係る銅クロロフィリンNaの含有量は、インクジェットインク全体の質量に対して1質量%以上15質量%以下の範囲内である。
【0011】
また、本実施形態に係る分散媒は、エタノール及び1-プロパノール(NPA)のいずれか一方の1価アルコールを少なくとも含むものである。また、本実施形態に係るエタノールの含有量は、インクジェットインク全体の6.5質量%以上20質量%以下の範囲内である。また、本実施形態に係る1-プロパノールの含有量は、インクジェットインク全体の6.5質量%以上15質量%以下の範囲内である。
【0012】
このような構成であれば、インクジェットインクを長期間保存した場合であっても、印刷適性の低下を低減することができる。なお、エタノールや1-プロパノールの含有量がインクジェットインク全体の6.5質量%未満であると、インクの乾燥性が低下し、印字面のインクが他錠剤に転写する場合がある。また、エタノールの含有量がインクジェットインク全体の20質量%を超えると、後述する銅クロロフィリンNaに由来する凝集体の形成が促進され、凝集体がインクジェットヘッド内を閉塞させることによりヘッド故障を引き起こす場合がある。また、1-プロパノールの含有量がインクジェットインク全体の15質量%を超えると、後述する銅クロロフィリンNaに由来する凝集体の形成が促進され、凝集体がインクジェットヘッド内を閉塞させることによりヘッド故障を引き起こす場合がある。
【0013】
以下、本実施形態に係るインクジェットインクにより得られる効果について説明する。
本実施形態に係るインクジェットインクが属する技術分野において、インク中に含まれる色素成分等が凝集して形成された沈殿物やインク中に含まれる不純物が印刷適性に悪影響を与える場合、その沈殿物や不純物の発生を抑制する方法としては、従来、インク中に含まれる色素成分等を精製する方法や、インクに亜硝酸塩を添加する方法があった。
【0014】
これに対し、本実施形態に係るインクジェットインクは、インクに分散媒として含まれる1価アルコールの分量を調整することで、上記沈殿発生を抑制し、印刷適性の低下を低減するものである。より詳しくは、例えば、アルコール(特に1価アルコール)を含むインクに添加された銅クロロフィリンNaは、インク中でアルコールに不溶な凝集体を形成し、時間経過と共にその凝集体のサイズが増大する傾向があることを発明者らは見出した。そこで、発明者らは、インク中に含まれるアルコール(特に1価アルコール)の分量を調整することで、インクジェットインクを長期間保存した場合であっても、銅クロロフィリンNaに由来する凝集体の発生を抑制し、凝集体がインクジェットヘッド内を閉塞させることによるヘッド故障などを防止するという効果を実現した。
【0015】
本実施形態において「銅クロロフィリンNaに由来する凝集体」とは、その化学構造の一部分に「クロロフィル由来骨格を有する物質」を主成分とする集合体であって、その集合体全体の質量に対して「クロロフィル由来骨格を有する物質」の含有量が凝集体中の液体成分を除く固体成分中において80質量%以上のものを意味し、精製水には不溶なもの(液温20±5℃において、溶質1gを溶かすに要する溶媒量が10000mL以上)であり、且つメタノール(アンモニア塩基性メタノール)には可溶(液温20±5℃において、溶質1gを溶かすに要する溶媒量が10000mL未満)であるものを指す。「クロロフィル由来骨格を有する物質」とは、ポルフィリン(CAS No. 101-60-0)、クロリン(CAS No. 2683-84-3)を代表例とする、クロロフィルに特徴的な複素環式炭化水素骨格を化学構造の一部として持つ化合物単体、ないし混合物を指すものとする。なお、銅クロロフィリンNa自体は、精製水及びメタノールの両方に可溶であるものの、長期間の保存により1価アルコールなどの溶媒との相互作用によりクロロフィル由来骨格の側鎖に置換した周辺の化学構造が変化し、「クロロフィル由来骨格を有する物質」のうち精製水に不溶な特徴を持つ物質(例:銅クロロフィル(CAS No. 15739-09-0))へと徐々に変化する場合があり、これが長期間の保存時における凝集体生成の要因となる。
【0016】
このような凝集体は通常、ろ過を行っていない銅クロロフィリンNa溶液にも不純物として微量含まれるものであるが、通常は溶液化した後のろ過で除去されるため、問題となるのは経時保管後に発生する場合である。
また、「銅クロロフィリンNaに由来する凝集体」は、「クロロフィル由来骨格を有する物質(銅クロロフィリンNa自体を除く)」に特徴的な性質として、波長400nm~410nmの範囲にのみ極大吸収(吸収ピーク)を有する。そのため、「銅クロロフィリンNaに由来する凝集体」の発生の有無は、紫外可視吸収スペクトルを測定することで判断することができる。なお、銅クロロフィリンNa自体は、波長400nm~410nmの範囲及び623nm~633nmの範囲の両方に極大吸収(吸収ピーク)を有することから区別することが可能である。
【0017】
また、本実施形態に係るインクジェットインクは、エタノールや1-プロパノールの含有量がインクジェットインク全体の6.5質量%以上12質量%以下の範囲内であれば好ましく、6.5質量%以上10質量%以下の範囲内であればさらに好ましい。このような構成であれば、インクジェットインクを長期間保存した場合であっても、銅クロロフィリンNaに由来する凝集体の発生を確実に抑制し、印刷適性の低下を確実に低減することができる。
【0018】
また、本実施形態に係るインクジェットインクは、食用色素である銅クロロフィリンNaの含有量がインクジェットインク全体の4質量%以上10質量%以下の範囲内であれば好ましく、4.5質量%以上9質量%以下の範囲内であればさらに好ましい。このような構成であれば、インクジェットインクを長期間保存した場合であっても、銅クロロフィリンNaに由来する凝集体の発生をさらに抑制し、印刷適性の低下をさらに低減することができる。なお、銅クロロフィリンNaの含有量がインクジェットインク全体の1質量%未満であると、印刷した印字等の可読性(視認性)が低下するとともに、耐光性が低下する傾向がある。また、銅クロロフィリンNaの含有量がインクジェットインク全体の15質量%を超えると、銅クロロフィリンNaに由来する凝集体の発生が顕著になり、印刷適性が低下する傾向がある。
【0019】
また、本実施形態に係るインクジェットインクは、銅クロロフィリンNa以外の色素(色材)として、例えば、タートラジン(Tartrazine)、エリスロシン(Erythrosine)、及びブリリアントブルーFCF(Brilliant Blue FCF)の少なくとも1種を含むものであってもよい。ここで、銅クロロフィリンNaは、緑色を呈する食用色素であり、タートラジンは、黄色を呈する食用色素、所謂黄色4号色素(FDA Name: FD & C Yellow No.5, Color Index Name: Acid Yellow 23, CAS Number: 1934-21-0)である。また、エリスロシンは、赤色を呈する食用色素、所謂赤色3号色素(FDA Name: FD & C Red No.3, Color Index Name: Acid Red 51, CAS Number: 16423-68-0)であり、ブリリアントブルーFCFは、青色を呈する食用色素、所謂青色1号色素(FDA Name: FD & C Blue No.1, Color Index Name: Food Blue 2, CAS Number: 3844-45-9)である。このような構成であれば、インクジェットインクの色味を灰色(グレー)にすることができる。また、本実施形態に係るインクジェットインクは、銅クロロフィリンNa以外の色素として、ニューコクシン(New Coccine)を含むものであってもよい。ここで、ニューコクシンは、赤色を呈する食用色素、所謂赤色102号色素(Color Index Name: Acid Red 18, CAS Number: 2611-82-7)である。このような構成であれば、インクジェットインクの色味を灰色(グレー)にすることができる。
【0020】
上述の構成であれば、インクジェットインクを長期間保存した場合であっても、銅クロロフィリンNaに由来する凝集体の発生をさらに抑制し、凝集体がインクジェットヘッド内を閉塞させることによるヘッド故障などを防止できる。
なお、上述の「Color Index Name」とは、American Association of Textile Chemists and Colorists(米国繊維化学技術・染色技術協会)により制定されたものである。また、上述の「FDA Name」とは、米国FDA(Food and Drug Administration、米国食品医薬品局)にて制定されたものである。なお、本実施形態では、使用可能な各色素(各物質)をCAS Numberを用いて特定したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、本実施形態に記載した色素(物質)と同一の物質名ではあるが、幾何異性体、立体異性体、同位体元素を含む物質、またはそれらの塩などであるため、異なるCAS Numberが付与された色素(物質)についても勿論、本実施形態では使用可能である。また、異性体等が存在しない場合や、使用可能な色素(物質)が特定(限定)されている場合には、本実施形態に記載のCAS Numberの物質(化合物)そのものが使用可能となる。
【0021】
また、本実施形態に係るインクジェットインクは、食用色素における銅クロロフィリンNa以外の色素(色材)の含有量が銅クロロフィリンNaの質量に対して50質量%以下であってもよい。このような構成であれば、インクジェットインクを長期間保存した場合であっても、銅クロロフィリンNaに由来する凝集体の発生をさらに抑制し、印刷適性の低下をさらに低減することができる。なお、食用色素における銅クロロフィリンNa以外の色素(色材)の含有量が銅クロロフィリンNaの質量に対して50質量%を超えると、印刷部の彩度が高く曝光後の変褪色の色調が大きく見えるため、耐光性が低いと認識されることがある。
【0022】
また、本実施形態に係るインクジェットインクは、分散媒として、プロピレングリコールをさらに含み、プロピレングリコールの含有量は、インクジェットインク全体の質量に対し10質量%以上30質量%以下の範囲内であれば好ましく、23質量%以上30質量%以下の範囲内であればさらに好ましい。このような構成であれば、印刷時におけるインクジェットヘッドのノズル部における乾燥速度を抑えられ、印刷適性の低下をさらに低減することができる。
(その他の色素)
本実施形態に係るインクジェットインクに含まれる食用色素は、上述のように銅クロロフィリンNaを必ず含むが、銅クロロフィリンNa以外の色素については、可食性のものであれば特に制限はない。本実施形態に係るインクジェットインクに添加可能な色素は、例えば、従来公知の合成食用色素、天然食用色素から適宜選択して添加することができる。
【0023】
合成食用色素としては、例えば、タール系色素、天然色素誘導体、天然系合成色素等が挙げられる。タール系色素としては、例えば、食用赤色2号(Amaranth, FDA Name: FD & C Red No.2, Color Index Name: Acid Red 27, CAS Number: 915-67-3)、食用赤色40号(Allura Red AC, FDA Name: FD & C Red No.40, Color Index Name: Food Red 17, CAS Number: 25956-17-6)、食用赤色102号(New Coccine, Color Index Name: Acid Red 18, CAS Number: 2611-82-7)、食用赤色104号(Phloxine, FDA Name: D & C Red No.28, Color Index Name: Acid Red 92, CAS Number: 18472-87-7)、食用赤色105号(Rose Bengal, Color Index Name: Acid Red 94, CAS Number: 632-69-9)、食用赤色106号(Acid Red, Color Index Name: Acid Red 52, CAS Number: 3520-42-1)、食用黄色4号(Tartrazine, FDA Name: FD & C Yellow No.5, Color Index Name: Acid Yellow 23, CAS Number: 1934-21-0)、食用黄色5号(Sunset Yellow FCF, FDA Name: FD & C Yellow No.6, Color Index Name: Food Yellow 3, CAS Number: 2783-94-0)、食用青色1号(Brilliant Blue FCF, FDA Name: FD & C Blue No.1, Color Index Name: Food Blue 2, CAS Number: 3844-45-9)、食用青色2号(Indigo Carmine, FDA Name: FD & C Blue No.2, Color Index Name: Acid Blue 74, CAS Number: 860-22-0)、食用赤色2号アルミニウムレーキ(FD & C Red No.2 Aluminum Lake)、食用赤色3号アルミニウムレーキ(FD & C Red No.3 Aluminum Lake)、食用赤色40号アルミニウムレーキ(FD & C Red No.40 Aluminum Lake)、食用黄色4号アルミニウムレーキ(FD & C Yellow No.5 Aluminum Lake)、食用黄色5号アルミニウムレーキ(FD & C Yellow No.6 Aluminum Lake)、食用青色1号アルミニウムレーキ(FD & C Blue No.1 Aluminum Lake)、食用青色2号アルミニウムレーキ(FD & C Blue No.2 Aluminum Lake)等が挙げられる。天然色素誘導体としては、例えば、ノルビキシンカリウム等が挙げられる。天然系合成色素としては、例えば、β-カロテン、リボフラビン等が挙げられる。
【0024】
また、天然食用色素としては、例えば、アントシアニン系色素、カロチノイド系色素、キノン系色素、フラボノイド系色素、ベタイン系色素、モナスカス色素、その他の天然物を起源とする色素が挙げられる。アントシアニン系色素としては、例えば、赤ダイコン色素、赤キャベツ色素、赤米色素、エルダーベリー色素、カウベリー色素、グーズベリー色素、クランベリー色素、サーモンベリー色素、シソ色素、スィムブルーベリー色素、ストロベリー色素、ダークスィートチェリー色素、チェリー色素、ハイビスカス色素、ハクルベリー色素、ブドウ果汁色素、ブドウ果皮色素、ブラックカーラント色素、ブラックベリー色素、ブルーベリー色素、プラム色素、ホワートルベリー色素、ボイセンベリー色素、マルベリー色素、ムラサキイモ色素、ムラサキトウモロコシ色素、ムラサキヤマイモ色素、ラズベリー色素、レッドカーラント色素、ローガンベリー色素、その他のアントシアニン系色素が挙げられる。カロチノイド系色素としては、例えば、アナトー色素、クチナシ黄色素、その他のカロチノイド系色素が挙げられる。キノン系色素としては、例えば、コチニール色素、シコン色素、ラック色素、その他のキノン系色素が挙げられる。フラボノイド系色素としては、例えば、ベニバナ黄色素、コウリャン色素、タマネギ色素、その他のフラボノイド系色素が挙げられる。ベタイン系色素としては、例えば、ビートレッド色素が挙げられる。モナスカス色素としては、例えば、ベニコウジ色素、ベニコウジ黄色素が挙げられる。その他の天然物を起源とする色素としては、例えば、ウコン色素、クサギ色素、クチナシ赤色素、スピルリナ青色素などが挙げられる。
【0025】
なお、インクジェットインクの色味は、上記色素の組み合わせ、及びその含有量の組み合わせによって調製可能である。例えば、インクジェットインクの色味をグレーにしたい場合には、食用色素として、緑色素である銅クロロフィリンNaと、赤色素であるニューコクシン(赤色102号色素)または赤色素であるエリスロシン(赤色3号色素)と、青色素であるブリリアントブルーFCF(青色1号色素)とを選択してもよい。また、例えば、インクジェットインクの色味を黄緑色にしたい場合には、食用色素として、緑色素である銅クロロフィリンNaと、黄色素であるタートラジン(黄色4号色素)とを選択してもよい。
【0026】
(その他の分散媒)
上述のように、本実施形態に係るインクジェットインクは、上述の色素を分散させるために分散媒を含有している。本実施形態に係るインクジェットインクに添加可能な分散媒としては、上述したエタノールや1-プロパノール以外に、例えば、精製水、プロピレングリコールなどが挙げられる。なお、インクのノズルでの乾燥を防止するために、プロピレングリコールを、インク中に1質量%以上30質量%以下の範囲内で含有させることが好ましい。含有量が1質量%より少ないと、インクの乾燥が起こりやすくなりノズルの目詰まりの原因となり、30質量%を超えると医療用錠剤表面における印字表面の乾燥が遅くなりすぎ、印刷した錠剤同士が接触したときに未乾燥のインクがもう一方の錠剤に付着して汚れとなるといった不具合の原因となることがある。
【0027】
本実施形態における医療用錠剤は特に制限はないが、特に、表面にフィルムコート層を被覆したフィルムコート錠剤において効果が高い傾向がある。これは印刷が行われた錠剤表面において、素錠に比べフィルムコート錠では空隙が少ないことにより色素成分が錠剤表面に残りやすく、外部から印字面に光や湿度の影響を与えた場合に色素自体にこれらの影響が素錠よりフィルムコート錠の場合において強く出るためと考えられる。素錠の場合には空隙が多く、色素が錠剤内部まで時間をかけて浸透し続けることによっても印字面の変褪色が起こるため、相対的に影響が小さくなる傾向がある。
【0028】
(内添樹脂)
本実施形態に係るインクジェットインクは、上述の色素や分散媒以外に、内添樹脂を含有してもよい。本実施形態に係るインクジェットインクに添加可能な内添樹脂は、可食性を有し、且つ水溶性粉末、ペースト、フレーク状の樹脂様物質であって、印字後の乾燥により錠剤表面に皮膜を形成可能な物質であればよい。上記内添樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール4000/ポリエチレングリコール1540等の高分子量ポリエチレングリコール(PEG)、セラック樹脂、メタクリル酸コポリマー(製品名:オイドラギットS100)、マルトデキストリン、エリスリトール等が挙げられる。
【0029】
(レベリング剤)
本実施形態に係るインクジェットインクは、上述の色素や分散媒、或いは内添樹脂以外に、レベリング剤を含有してもよい。本実施形態に係るインクジェットインクに添加可能なレベリング剤は、可食性を有し、且つ水溶性の界面活性剤であればよい。上記レベリング剤としては、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル(例:太陽化学社製ジステアリン酸デカグリセリンQ-182S、同社製モノラウリン酸デカグリセリンQ-12S)、ソルビタン脂肪酸エステル(例:日光ケミカルズ社製NIKKOLSL-10)、シュガーエステル(例:第一工業製薬社製 DKエステルF-110)、ポリソルベート(花王社製 エマゾールS-120シリーズ)等が挙げられる。
【0030】
〔印刷方法〕
本実施形態に係るインクジェットインクは、印刷方法について特に限定されず、市販のインクジェットプリンタ等のインクジェット装置を用いた印刷が可能である。このため、本実施形態に係るインクジェットインクは、応用範囲が広く、非常に有用である。例えば、本実施形態に係るインクジェットインクは、ピエゾ素子(圧電セラミックス)をアクチュエータとする、所謂ドロップオンデマンド方式のインクジェット装置で印刷し得るし、他の方式のインクジェット装置でも印刷し得る。
【0031】
ドロップオンデマンド方式のインクジェット装置としては、例えば、微小発熱素子を瞬間的に高温(200~300℃)にすることで発生する水蒸気圧力でインクジェットインクを吐出するサーマルインクジェット方式を採用した装置や、アクチュエータを静電気振動させることでインクジェットインクを吐出する静電タイプの装置、超音波のキャビテーション現象を利用する超音波方式を採用した装置等が挙げられる。また、本実施形態に係るインクジェットインクが荷電性能を備えていれば、連続噴射式(コンティニュアス方式)を採用した装置を利用することも可能である。
【0032】
〔錠剤〕
本実施形態では、本実施形態に係るインクジェットインクを、上述の印刷方法を用いて、例えば錠剤の表面に印字、印画してもよい。以下、実施形態に係るインクジェットインクで印刷した印刷画像を備える錠剤の構成について説明する。
【0033】
本実施形態に係る錠剤は、例えば、医療用錠剤である。ここで、「医療用錠剤」とは、例えば、素錠(裸錠)、糖衣錠、腸溶錠、口腔内崩壊錠などのほか、錠剤の最表面に水溶性表面層が形成されているフィルムコーティング錠などを含むものである。
図1は、印刷(印字、印画)がなされた医療用錠剤(素錠)の一例を示す概略断面図である。
図1には、断面視で、錠剤1の上面に文字などの印刷画像3が印刷された素錠印刷物5が示されている。
【0034】
図2は、印刷(印字、印画)がなされた医療用錠剤(フィルムコーティング錠)の一例を示す概略断面図である。
図2には、断面視で、表面にフィルムコート層7が形成された錠剤1の上面に文字などの印刷画像3が印刷されたフィルムコート錠印刷物9が示されている。
なお、本実施形態では、
図3に示すように、素錠印刷画像11としてベタ画像を印刷してもよく、
図4に示すように、フィルムコート錠印刷画像13として二次元バーコードを印刷してもよい。
【0035】
医療用錠剤中に含有される活性成分は特に限定されない。例えば、種々の疾患の予防・治療に有効な物質(例えば、睡眠誘発作用、トランキライザー活性、抗菌活性、降圧作用、抗アンギナ活性、鎮痛作用、抗炎症活性、精神安定作用、糖尿病治療活性、利尿作用、抗コリン活性、抗胃酸過多作用、抗てんかん作用、ACE阻害活性、β-レセプターアンタゴニストまたはアゴニスト活性、麻酔作用、食欲抑制作用、抗不整脈作用、抗うつ作用、抗血液凝固活性、抗下痢症作用、抗ヒスタミン活性、抗マラリア作用、抗腫瘍活性、免疫抑制活性、抗パーキンソン病作用、抗精神病作用、抗血小板活性、抗高脂血症作用等を有する物質など)、洗浄作用を有する物質、香料、消臭作用を有する物質等を含むが、それらに限定されない。
【0036】
本実施形態に係る錠剤は、必要に応じて、活性成分とともにその用途上許容される担体を配合することができる。例えば、医療用錠剤であれば、医薬上許容される担体を配合することができる。医薬上許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、増粘剤等が適宜適量配合される。また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等の添加物を用いることもできる。
【0037】
本実施形態では、錠剤として医療用錠剤を例に挙げて説明したが、本発明のこれに限定されるものではない。本実施形態に係るインクジェットインクの印刷対象は特に制限されず、例えば、ヒト以外の動物(ペット、家畜、家禽等)に投与する錠剤、飼料、肥料、洗浄剤、ラムネ菓子などの食品といった各種錠剤の表面に印刷してもよい。また、本実施形態に係るインクジェットインクは、印刷対象のサイズについても特に制限されず、種々のサイズの錠剤について適用可能である。
【0038】
(本実施形態の効果)
(1)本実施形態に係るインクジェットインクは、色素と1価アルコールとを含むインクであって、色素は銅クロロフィリンNaのみであり、1価アルコールはエタノール及び1-プロパノールのいずれか一方のみであり、銅クロロフィリンNaの濃度はインク全体の質量に対し1質量%以上15質量%以下の範囲内であり、エタノールの濃度はインク全体の質量に対し6.5質量%以上20質量%以下の範囲内であり、1-プロパノールの濃度はインク全体の質量に対し6.5質量%以上15質量%以下の範囲内である。
このような構成であれば、銅クロロフィリンNaを少なくとも含んだ食用色素を、1価アルコールを含んだ分散媒に分散させたインクジェットインクを長期間保存した場合であっても、従来技術と比較して、銅クロロフィリンNaに由来する凝集体の発生を低減することができるため、凝集体がインクジェットヘッド内を閉塞させることによるヘッド故障などを防止することができる。
【0039】
(2)また、本実施形態に係るインクジェットインクは、色素と1価アルコールとを含むインクであって、色素は銅クロロフィリンNaと、銅クロロフィリンNaとは異なる他の色材とを含み、1価アルコールはエタノール及び1-プロパノールのいずれか一方のみであり、銅クロロフィリンNaの濃度はインク全体の質量に対し1質量%以上15質量%以下の範囲内であり、他の色材の濃度は銅クロロフィリンNaの質量に対し50質量%以下の範囲内であり、エタノールの濃度はインク全体の質量に対し6.5質量%以上20質量%以下の範囲内であり、1-プロパノールの濃度はインク全体の質量に対し6.5質量%以上15質量%以下の範囲内である。
このような構成であれば、従来技術と比較して、銅クロロフィリンNaに由来する凝集体の発生を確実に抑制し、凝集体がインクジェットヘッド内を閉塞させることによるヘッド故障などを防止することができる。
【0040】
(3)また、本実施形態に係るインクジェットインクは、銅クロロフィリンNa以外の色材として、タートラジン、エリスロシン、及びブリリアントブルーFCFの少なくとも1種を含んでいてもよい。
このような構成であれば、従来技術と比較して、銅クロロフィリンNaに由来する凝集体の発生をさらに抑制し、凝集体がインクジェットヘッド内を閉塞させることによるヘッド故障などを防止することができる。さらに、このような構成であれば、インクの色味をグレーにすることができる。なお、グレーを呈するインクであれば、使用範囲が広いため、その汎用性を高めることができる。
【0041】
(4)また、本実施形態に係るインクジェットインクは、分散媒として、プロピレングリコールをさらに含み、プロピレングリコールの含有量は、前記インク全体の質量に対し10質量%以上30質量%以下の範囲内であってもよい。
このような構成であれば、印刷時におけるインクジェットヘッドのノズル部における乾燥速度を抑えられ、印刷適性の低下をさらに低減することができる。
【0042】
(5)また、本実施形態に係るインクジェットインクは、錠剤表面への直接印刷、食品への直接印刷、医薬品及び食品に直接触れるパッケージに用いられるものであってもよい。
このような構成であれば、錠剤表面への直接印刷、食品への直接印刷が可能となり、また医薬品及び食品に直接触れるパッケージにも使用可能となる。
【0043】
(6)本実施形態に係る錠剤は、上述したインクジェットインクで印刷した印刷画像3を備えている。
このような構成であれば、錠剤の表面に印刷された印刷画像部分に対しても可食性を付与することができる。
【0044】
(7)また、本実施形態に係る錠剤は、医療用錠剤であってもよい。
このような構成であれば、医療用錠剤の表面に印刷された印刷画像部分に対しても可食性を付与することができる。
【0045】
[実施例]
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明は、実施例により何ら限定されるものではない。
【0046】
(インクジェットインクの製造)
以下、インクジェットインクの調製手順を説明する。
インクジェットインクは、色素(染料)、1価アルコール、水、プロピレングリコールの各成分を含んでいる。調製の順序としては、最初に、水と1価アルコールとを混合して混合溶媒を得た。次に、その混合溶媒に、プロピレングリコールを添加して透明ベース液を得た。最後に、その透明ベース液に、色素(染料)を添加した。こうして、本実施例に係るインクを調製した。以下、具体的に各種成分について説明する。
【0047】
インクを構成する色素(染料)には銅クロロフィリンNa(緑色素)、食用赤色3号、食用青色1号、食用黄色4号を用いた。
インクを構成する水には精製水(イオン交換水)を用いた。
インクを構成する1価アルコールにはエタノール、1-プロパノール(NPA)、2-プロパノール(IPA)を用いた。
【0048】
本実施例では、上記成分を攪拌混合し、透明ベース液を作製した。その後、各種色素を混合させて、実施例1~23、及び比較例1~19のインクジェットインクを得た。こうして得た各インクジェットインクの組成を表1~4に示す。なお、表1~4中で「-」で示した部分は、当該物質を使用していないことを示す。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
(フィルタ通液)
上記各インクから、インク調整に用いた材料または製造中に混入した異物、不純物、また元々材料に含まれていた「銅クロロフィリンNaに由来する凝集体」を取り除く目的で、製造したインク全量について、フィルタ通液を実施した。具体的には、各インク全量を口径5.0μmのメンブレンフィルター(酢酸セルロース膜、ザルトリウス社製 ミニザルト 5.0μm)を1回透過させ、続いて口径0.8μmのメンブレンフィルター(酢酸セルロース膜、ザルトリウス社製 ミニザルト 0.8μm)を1回透過(通過)させ、この時点で通液が滞りなく終了したことを確認した。
【0054】
通液したインクについて、そこから200g分取し口径1.2μmのメンブレンフィルター(メルク社製 MF-ミリポア(MF-Millipore)メンブレン,セルロース混合エステル,1.2μm、47mm径)を1回透過(通過)させた。透過完了後、使用したフィルタにはインクが染みこんだ状態で残るため、インクが染みこんだフィルタを精製水200gでさらに洗浄し、フィルタ上から精製水に溶解するものを取り除く作業を行った。このとき、フィルタ上のインクがすべて精製水に溶解したことを確認した。これにより、後に実施する保存安定性試験(1.2μmろ過法)を開始する前に、このインク中に「銅クロロフィリンNaに由来する凝集体」が含まれていないことを確認した。
【0055】
(間欠再開性試験)
印刷解像度が主走査方向600dpi、副走査方向(錠剤等記録媒体の搬送方向)600dpi、トータルノズル数2,656の圧電セラミック駆動のドロップオンデマンド型インクジェットヘッドを用い、規定時間(15分間~60分間)フラッシング無く放置した後、1ドロップ6plの印刷ドロップ量にて、テストパターンを印刷し、全ノズルから不吐出量なく吐出できていることを確認した。なお、以下表1~4では、間欠再開性の評価結果として、インクの吐出が可能な放置時間を測定した。評価基準は以下の通りである。
〇:30分間以上
△:15分間以上30分間未満
×:15分間未満
【0056】
(錠剤乾燥性(耐転写性)試験)
下記錠剤に、印刷解像度が主走査方向600dpi、副走査方向(錠剤等記録媒体の搬送方向)600dpi、トータルノズル数2,656の圧電セラミック駆動のドロップオンデマンド型インクジェットヘッドを用い、1ドロップ10plの印刷ドロップ量にて実施例および各比較例のインクジェットインクにより画像をそれぞれ印刷した。
印刷10秒後、印刷された錠剤に、デジタルフォースゲージに貼り付けた白色コピー用紙を4~5Nの圧力で、0.4~0.5秒間接触させ、印刷したインクが転写しないことを確認した。なお、表1~4では、耐転写性(乾燥性)の評価結果として、転写したインクの濃度を目視した。評価基準は以下の通りである。
◎:インクの転写がない場合
○:インクの転写がごく僅かであり、目視確認が難しい場合
×:インクが色濃く転写した場合
【0057】
(印字濃度(光学濃度)測定方法及び測定装置)
次に、X-rite社製分光濃度計「X-rite530」を、その印刷したベタ画像の上面に置き、反射光の色調(L*a*b*表色系)および反射光より推定される各色の光学濃度を測定する。なお、設定条件は、視野角が2°、光源がD50である。
また、今回は光学濃度の評価として、黒色の光学濃度(ビジュアル値、V値)を用いた。印字色の色調に関係なく、このV値が0.4以上であれば、視認十分な光学濃度を持つものとしている。その他の評価基準は以下の通りである。
〇:V値が0.4以上
△:V値が0.2以上0.4未満
×:V値が0.2未満
【0058】
(保存安定性試験)
「銅クロロフィリンNaに由来する凝集体」が含まれていないことを確認した実施例、比較例の各インクを室温25度、相対湿度65%の暗所にて保管した。その後、保管しているインクから決まった日時に200gを分取し、それぞれメンブレンフィルターを通過させたときに、途中で止まることなく通液できるか否かで沈殿発生の有無を評価した。メンブレンフィルターとしては、口径1.2μmのメンブレンフィルター(メルク社製 MF-ミリポア(MF-Millipore)メンブレン,セルロース混合エステル,1.2μm、47mm径)を使用し1回透過(通過)させた。透過完了後、使用したフィルタにはインクが染みこんだ状態で残るため、インクが染みこんだフィルタを精製水200gでさらに洗浄し、フィルタ上から精製水に溶解するものを取り除く作業を行った。この作業ののちに、フィルタ上に残滓が残存したかを確認した。残滓が認められた場合、残滓をメタノール(アンモニア塩基性メタノール)に溶解させたものについて紫外可視吸収スペクトルを測定することで「銅クロロフィリンNaに由来する凝集体」であるかを確認した。「銅クロロフィリンNaに由来する凝集体」であった場合、このインク中に「銅クロロフィリンNaに由来する凝集体」が保管期間中に新たに発生したとみなした。分取のタイミングは、保管開始後30日・60日・120日・150日・180日・270日・365日とし、各インクが合格であるかは、保管開始後270日時点において前記凝集体が発生したかにより判断し、凝集体が含まれない場合を「合格」とした。なお、合格基準の期間を保管開始後270日としている理由は、発明者らが各医療関係者も交えて実施したオピニオンテストの結果、インクに凝集体が発生していない状態を維持する必要のある期間として保管開始後270日を求められたことに由来している。試験自体は保管開始後365日まで実施し、365日時点でも凝集体が発生しなかったインクは、特に優れたものとみなした。
【0059】
なお、保存安定性試験において「合格」となったインクであれば、凝集体の発生が抑制されているため、凝集体がインクジェットヘッド内を閉塞させることによるヘッド故障を防止することができる。
上記結果から、色素が銅クロロフィリンNaのみであり、1価アルコールが、エタノールのみ、または1-プロパノールのみであり、銅クロロフィリンNaの濃度がインク全体の質量に対し1質量%以上15質量%以下の範囲内であり、エタノールの濃度がインク全体の質量に対し6.5質量%以上20質量%以下の範囲内であり、1-プロパノールの濃度がインク全体の質量に対し6.5質量%以上15質量%以下の範囲内であるインクジェットインクであれば、長期間保存した場合であっても、凝集体がインクジェットヘッド内を閉塞させることによるヘッド故障を防止することができることがわかる。
【0060】
また、例えば、本発明は以下のような構成を取ることができる。
(1)
色素と1価アルコールとを含むインクジェットインクであって、
前記色素は、銅クロロフィリンNaのみであり、
前記1価アルコールは、エタノールのみ、または1-プロパノールのみであり、
前記銅クロロフィリンNaの濃度は、前記インク全体の質量に対し1質量%以上15質量%以下の範囲内であり、
前記エタノールの濃度は、前記インク全体の質量に対し6.5質量%以上20質量%以下の範囲内であり、
前記1-プロパノールの濃度は、前記インク全体の質量に対し6.5質量%以上15質量%以下の範囲内であることを特徴とするインクジェットインク。
(2)
色素と1価アルコールとを含むインクジェットインクであって、
前記色素は、銅クロロフィリンNaと、前記銅クロロフィリンNaとは異なる他の色材とを含み、
前記1価アルコールは、エタノールのみ、または1-プロパノールのみであり、
前記銅クロロフィリンNaの濃度は、前記インク全体の質量に対し1質量%以上15質量%以下の範囲内であり、
前記他の色材の濃度は、前記銅クロロフィリンNaの質量に対し50質量%以下の範囲内であり、
前記エタノールの濃度は、前記インク全体の質量に対し6.5質量%以上20質量%以下の範囲内であり、
前記1-プロパノールの濃度は、前記インク全体の質量に対し6.5質量%以上15質量%以下の範囲内であることを特徴とするインクジェットインク。
(3)
前記銅クロロフィリンNa以外の前記色材として、タートラジン、エリスロシン、及びブリリアントブルーFCFの少なくとも1種を含むことを特徴とする上記(2)に記載のインクジェットインク。
(4)
前記分散媒として、プロピレングリコールをさらに含み、
前記プロピレングリコールの含有量は、前記インク全体の質量に対し10質量%以上30質量%以下の範囲内であることを特徴とする上記(1)から(3)のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
(5)
錠剤表面への直接印刷、食品への直接印刷、医薬品及び食品に直接触れるパッケージに用いられることを特徴とする上記(1)から(4)のいずれか1項に記載のインクジェットインク。
(6)
上記(1)から(5)のいずれか1項に記載のインクジェットインクで印刷した印刷部を備える錠剤。
(7)
医療用錠剤であることを特徴とする上記(6)に記載の錠剤。
【符号の説明】
【0061】
1:錠剤
3:印刷画像
5:素錠印刷物
7:フィルムコート層
9:フィルムコート錠印刷物
11:素錠印刷画像(ベタ画像)
13:フィルムコート錠印刷画像(二次元バーコード)
【要約】
【課題】銅クロロフィリンNaを少なくとも含んだ食用色素を、アルコールを含んだ分散媒に分散させたインクジェットインクを長期間保存した場合であっても、ヘッド故障を引き起こす凝集体の発生を防止することができるインクジェットインク及びそのインクジェットインクで印刷した印刷部を備える錠剤を提供する。
【解決手段】本実施形態に係るインクジェットインクは、色素と1価アルコールとを含むインクであって、前記色素は銅クロロフィリンNaのみであり、前記1価アルコールは、エタノールのみ、または1-プロパノールのみであり、前記銅クロロフィリンNaの濃度は前記インク全体の質量に対し1質量%以上15質量%以下であり、前記エタノールの濃度は前記インク全体の質量に対し6.5質量%以上20質量%以下であり、前記1-プロパノールの濃度は前記インク全体の質量に対し6.5質量%以上15質量%以下である。
【選択図】なし