(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】オイルレストルク伝達媒体、及びトルク伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16D 37/02 20060101AFI20240116BHJP
F16D 63/00 20060101ALI20240116BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240116BHJP
【FI】
F16D37/02 H
F16D63/00 P
B22F1/00 W
(21)【出願番号】P 2019213154
(22)【出願日】2019-11-26
【審査請求日】2022-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士フイルムビジネスイノベーション株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 裕
(72)【発明者】
【氏名】大森 宏輝
(72)【発明者】
【氏名】野崎 駿介
(72)【発明者】
【氏名】中村 幸晃
(72)【発明者】
【氏名】中野 政身
【審査官】角田 貴章
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-078471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 37/00-37/02
49/00-71/04
B22F 1/00- 8/00
10/00-12/90
C22C 1/04- 1/059
33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
個数平均粒径5μm以上10μm以下の磁性粒子と、
前記磁性粒子に付着し、個数平均粒径5
nm以上20nm以下で、かつ表面を疎水化処理された非磁性粒子からなる無機粒子と、
を有し
前記磁性粒子の密度に対する、前記無機粒子が付着した状態での前記磁性粒子の固めかさ密度の比が、35%以上65%以下であり、
前記磁性粒子の表面に対する前記無機粒子の被覆率が、70%以上99%以下である、
オイルレストルク伝達媒体。
【請求項2】
前記疎水化処理された非磁性粒子が、ケイ素含有有機化合物で処理された非磁性粒子である請求項1に記載のオイルレストルク伝達媒体。
【請求項3】
前記非磁性粒子が、無機酸化物粒子である請求項1又は請求項2に記載のオイルレストルク伝達媒体。
【請求項4】
前記無機酸化物粒子が、シリカ粒子、チタニア粒子、及びアルミナ粒子の少なくとも、である請求項3に記載のオイルレストルク伝達媒体。
【請求項5】
相対的に回転又は移動する第1の部材及び第2の部材と、
前記第1の部材と前記第2の部材との間に封入された、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のオイルレストルク伝達媒体と、
磁場を発生し、前記オイルレストルク伝達媒体に前記磁場を付与する磁場発生部と、
を備えるトルク伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルレストルク伝達媒体、及びトルク伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
駆動側の回転トルクを被駆動側に伝達するトルク伝達装置として、一般的にクラッチやブレーキ等が知られている。クラッチは、例えば、通常、駆動側ロータと、被駆動側ロータと、駆動側ロータと、被駆動側ロータとの間に封入された、磁性粒子を含むトルク伝達媒体と、2つのロータ間に磁気回路を形成するコイルと、を有しているパウダクラッチが知られている。同様に、ブレーキとしてもパウダブレーキが知られている。
これらパウダクラッチ/ブレーキに利用するトルク伝達媒体としては、磁場が付与されていない状態でのロータの回転トルクが高くなることを抑制するために、オイルレストルク伝達媒体が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、「気体中に含まれる平均粒子径が1μm以上、30μm以下の第1の粒子と、前記第1の粒子の表面に付着した、平均粒子径が3nm以上、200nm以下の第2の粒子とを備え、前記第1の粒子は磁性粒子であり、前記第2の粒子の前記第1の粒子と前記第2の粒子との和に占める割合は、0.4質量%以上、30質量%以下である、トルク伝達機構用のトルク伝達媒体。」が開示されている。
また、特許文献1には、第2の粒子として、シリカ粒子を適用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、磁性粒子と、磁性粒子に付着した無機粒子と、を有し、磁性粒子の密度に対する、無機粒子が付着した状態での前記磁性粒子の固めかさ密度の比が、30%未満であるオイルレストルク伝達媒体に比べて、磁場が付与されていないときの剪断応力と磁場が付与されたときの剪断応力と比(以下、「トルク比」とも称する)が大きく、かつ、70%以上であるオイルレストルク伝達媒体に比べて、前記無機粒子による汚染が起こりにくい、オイルレストルク伝達媒体が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための具体的手段には、下記の態様が含まれる。
<1>
磁性粒子と、
前記磁性粒子に付着した無機粒子と、
を有し
前記磁性粒子の密度に対する、前記無機粒子が付着した状態での前記磁性粒子の固めかさ密度の比が、30%以上70%以下である、
オイルレストルク伝達媒体。
<2>
前記磁性粒子の表面に対する前記無機粒子の被覆率が、70%以上99%以下
である<1>に記載のオイルレストルク伝達媒体。
<3>
前記磁性粒子の個数平均粒径が、1μm以上500μm以下である<1>又は<2>に記載のオイルレストルク伝達媒体。
<4>
前記無機粒子の個数平均粒径が、3nm以上300nm以下である<1>~<3>のいずれか1項に記載のオイルレストルク伝達媒体。
<5>
前記無機粒子が、疎水化処理された無機粒子である<1>~<4>のいずれか1項に記載のオイルレストルク伝達媒体。
<6>
前記疎水化処理された無機粒子が、ケイ素含有有機化合物で処理された無機粒子である<5>に記載のオイルレストルク伝達媒体。
<7>
前記無機粒子が、無機酸化物粒子である<1>~<6>のいずれか1項に記載のオイルレストルク伝達媒体。
<8>
前記無機酸化物粒子が、シリカ粒子、チタニア粒子、及びアルミナ粒子の少なくとも1種である<7>に記載のオイルレストルク伝達媒体。
<9>
相対的に回転又は移動する第1の部材及び第2の部材と、
前記第1の部材と前記第2の部材との間に封入された、<1>~<8>のいずれか1項に記載のオイルレストルク伝達媒体と、
磁場を発生し、前記オイルレストルク伝達媒体に前記磁場を付与する磁場発生部と、
を備えるトルク伝達装置。
【発明の効果】
【0007】
<1>に係る発明によれば、磁性粒子と、磁性粒子に付着した無機粒子と、を有し、磁性粒子の密度に対する、無機粒子が付着した状態での前記磁性粒子の固めかさ密度の比が、30%未満であるオイルレストルク伝達媒体に比べて、トルク比が大く、かつ、70%以上であるオイルレストルク伝達媒体に比べて、前記無機粒子が付着した磁性粒子による汚染が起こりにくい、オイルレストルク伝達媒体が提供される。
【0008】
<2>に係る発明によれば、磁性粒子の表面に対する無機粒子の被覆率が、70%未満であるオイルレストルク伝達媒体に比べて、トルク比が大きいオイルレストルク伝達媒体が提供される。
【0009】
<3>に係る発明によれば、磁性粒子の個数平均粒径が1μm未満又は500μm超えであるオイルレストルク伝達媒体に比べて、トルク比が大きいオイルレストルク伝達媒体が提供される。
【0010】
<4>に係る発明によれば、無機粒子の個数平均粒径が3nm未満又は300nm超えであるオイルレストルク伝達媒体に比べて、トルク比が大きいオイルレストルク伝達媒体が提供される。
【0011】
<5>、<6>、<7>、又は<8>に係る発明に比べ、無機粒子が疎水化処理されていない未処理の無機粒子であるオイルレストルク伝達媒体に比べて、トルク比が大きいオイルレストルク伝達媒体が提供される。
【0012】
<9>に係る発明によれば、磁性粒子と、磁性粒子に付着した無機粒子と、を有し、前記磁性粒子の密度に対する、無機粒子が付着した状態での磁性粒子の固めかさ密度の比が、30%未満であるオイルレストルク伝達媒体に比べて、トルク比が大きく、かつ、70%以上であるオイルレストルク伝達媒体に比べて、前記無機粒子が付着した磁性粒子による汚染が起こりにくい、オイルレストルク伝達媒体を備えるトルク伝達装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係るトルク伝達装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。
【0015】
本実施形態に係るオイルレストルク伝達媒体は、磁性粒子と、磁性粒子に付着した無機粒子と、を有する。
そして、磁性粒子の密度に対する、前記無機粒子が付着した状態での前記磁性粒子の固めかさ密度の比(以下、単に「固めかさ密度比」とも称する)は、30%以上70%以下である。
なお、オイルレストルク伝達媒体とは、磁性粒子を分散する分散媒が気体であったり、真空であったりするトルク伝達媒体を示す。つまり、オイルレストルク伝達媒体とは、液状の分散媒(シリコーンオイル等のオイル等)を含まないトルク伝達媒体である。
【0016】
ここで、従来のオイルレストルク伝達媒体において、磁性粒子のみから構成されていることから、流動性が悪く、十分な量の磁性粒子をオイルレストルク伝達媒体に充填することが非常に困難であるため、磁性粒子のクラスター構造が粗な状態となり、磁場が付与されたときの剪断応力が低い。また、磁場が付与されないときの剪断応力も高い。
一方で、流動性を高めるために、磁性粒子に無機粒子を付着したオイルレストルク伝達媒体も知られているが、流動性が十分ではなく、磁場が付与されないときの剪断応力が十分に低いとは言えない。また、十分な量の磁性粒子をオイルレストルク伝達媒体に充填することはやはり困難であり、磁場が付与されたときの剪断応力が高まり難い。
【0017】
それに対して、本実施形態に係るオイルレストルク伝達媒体は、トルク伝達媒体の容積に対する、無機粒子が付着した磁性粒子の固めかさ密度比が30%以上70%以下と高い。つまり、何らかの充填対象に充填したときに、固めかさ密度比が30%未満のものに比べ、単位体積当たりの磁性粒子の体積量が多い状態での充填を容易に達成できる。それにより、磁場を付与したときの磁性粒子のクラスター構造が密な状態となり、磁場が付与されたときの剪断応力が高まり易い。また、磁性粒子の固めかさ密度比が高められたオイルレストルク伝達媒体は、流動性も良く、磁場が付与されないときの剪断応力が低下し易い。
【0018】
そのため、本実施形態に係るオイルレストルク伝達媒体は、上記構成により、トルク比(磁場が付与されていないときの剪断応力と磁場が付与されたときの剪断応力と比)が大きい。
なお、無機粒子が付着した磁性粒子の固めかさ密度比が70%以上になると、磁性粒子がトルク伝達媒体から溢れ、装置を汚染する可能性がある。特に、磁性粒子が疎水化処理されている無機粒子で被覆されている場合、磁性粒子の流動性が高くなるため、汚染の可能性も高まると考えられる。
【0019】
以下、本実施形態に係るオイルレストルク伝達媒体の詳細について説明する。
【0020】
(磁性粒子の固めかさ密度比)
無機粒子が付着した磁性粒子の固めかさ密度比(密度に対する固めかさ密度の比)は、30%以上70%以下である。
磁性粒子の固めかさ密度比の下限は、磁場未付与時の剪断力低下、および磁場付与時の剪断応力向上の観点(つまり、トルク比向上の観点)から、35%以上65%が好ましく、45%以上65%がより好ましく、50%以上62%以下がさらに好ましい。
【0021】
磁性粒子の固めかさ密度比は、次の通り測定される。
容量が100cm3の容器に無機粒子が付着した磁性粒子を充填し、ストローク長18mm、タッピング速度50回/分でタッピングを180回繰り返し、容器からあふれ出た分を摺り切り、容器内に密に充填された重量を測定し、下記式(1)により、無機粒子が付着した磁性粒子の固めかさ密度を算出する。固めかさ密度は、密充填密度とも呼ばれるもので、最も密に充填した時の空間率又は空隙率が小さい方のかさ密度である。
式(1):固めかさ密度(g/cm3)=容器内に充填された、無機粒子が付着した磁性粒子重量(g)/100(cm3)
この測定は、例えば、粉体特性装置パウダーテスター(ホソカワミクロン社製)を用いて実施することができる。
一方、この固めかさ密度および磁性粒子そのものの物性値である密度(g/cm3)を用いて、下記式(2)により磁性粒子の固めかさ密度比が求められる。
式(2):磁性粒子の固めかさ密度比(%)=磁性粒子の固めかさ密度(g/cm3)/磁性粒子の密度(g/cm3)×100
【0022】
(無機粒子の被覆率)
磁性粒子の表面に対する無機粒子の被覆率は、70%以上99%以下が好ましく、75%以上99%以下がより好ましく、80%以上99%以下がさらに好ましい。
無機粒子の被覆率を70%以上99%以下とすると、磁性粒子の固めかさ密度比を上記範囲となり易くなる。それにより、磁場が付与されたときの剪断応力が高くなる。また、磁性粒子の流動性が高まり、磁場が付与されないときの剪断応力が低くなる。その結果、トルク比が大きくなり易い。
なお、無機粒子の被覆率を上記範囲にする方法としては、疎水化処理された無機粒子を被覆率に応じて適量に調整する方法が挙げられる。疎水化処理することで、無機粒子同士の付着力が低減し、分散性が向上することで、被覆率も向上する。
【0023】
無機粒子の被覆率は、次の通り測定する。
FE-SEM(超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡 SU8040((株)日立ハイテクノロジーズ社製))を用いて、磁性粒子の表面画像10万倍の画像を取得し、画像解析ソフト(Win roof(三谷商事(株)製))により二値化して磁性粒子表面と無機粒子とを色分けする。
そして、無機粒子の被覆率=観察される無機粒子の面積/観察される磁性粒子全体の面積×100により算出する。
この操作を、少なくとも磁性粒子200個に対して実施し、得られた各値の算術平均値を「無機粒子の被覆率」とする。
【0024】
(磁性粒子)
磁性粒子としては、例えば、鉄、カルボニル鉄、炭化鉄、窒化鉄、低炭素鋼、ニッケル、コバルト等、二酸化クロム、鉄合金(アルミニウム含有鉄合金、ケイ素含有鉄合金、コバルト含有鉄合金、ニッケル含有鉄合金、バナジウム含有鉄合金、モリブデン含有鉄合金、クロム含有鉄合金、タングステン含有鉄合金、マンガン含有鉄合金、銅含有鉄合金等)、ガドリニウム、ガドリニウム有機誘導体等の粒子、又は、これらの混合粒子が挙げられる。
磁性粒子は、常磁性粒子、超常磁性粒子、強磁性化合物粒子のいずれであってもよい。
これらの中でも、適した粒径の粒子が得られ易い観点から、磁性粒子としては、カルボニル鉄の粒子が好ましい。
【0025】
なお、磁性粒子は、磁場が付与されると、粒子自身が磁性を帯びて、磁場の付与が解除すると粒子自身の磁性が消失する性質を有する粒子がよい。ただし、磁性粒子は、磁場の付与が解除した場合、磁性を示す粒子でもよい
【0026】
磁性粒子の個数平均粒径は、磁場未付与時の剪断力低下、および磁場付与時の剪断応力向上の観点から、1μm以上500μm以下がよい。
特に、磁場付与時の剪断応力向上の観点から、磁性粒子の個数平均粒径の下限は、3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましい。
一方、磁場未付与時の剪断力低下の観点から、磁性粒子の個数平均粒径の上限は、15μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。
【0027】
磁性粒子の個数平均粒径、磁性粒子を走査型顕微鏡で観察し、磁性粒子の画像解析を行うことで測定する。具体的には、磁性粒子を走査型顕微鏡により観察し、磁性粒子の画像解析によって、磁性粒子の円相当径を測定する。球相当径の測定を磁性粒子100個分について行う。そして、得られた球相当径の個数基準の累積頻度における50%径(D50p)を「磁性粒子の個数平均粒径」とする。
【0028】
(無機粒子)
無機粒子としては、非磁性粒子が挙げられる。非磁性粒子としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、酸化銅、酸化亜鉛、酸化スズ、ケイ砂、クレー、雲母、ケイ灰石、ケイソウ土、酸化クロム、酸化セリウム、ベンガラ、三酸化アンチモン、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素等の粒子、又は、これらの混合粒子若しくは複合粒子が挙げられる。
無機粒子としては、磁性粒子又は軟磁性粒子も挙げられる。磁性粒子又は軟磁性粒子としては、鉄、ニッケル、コバルト、それらの合金又は酸化物(マグネタイト、ヘマタイト等)等の粒子が挙げられる。
ここで、軟磁性粒子とは、保磁力が100Oe以上200Oe以下で、磁場が印加されていない状態では磁石とならない粒子である。
【0029】
これらの中でも、磁場未付与時の剪断力低下、および磁場付与時の剪断応力向上の観点から、無機粒子としては、非磁性粒子が好ましく、酸化物粒子がより好ましく、シリカ粒子、チタニア粒子、及びアルミナ粒子の少なくとも1種であることがさらに好ましい。
【0030】
無機粒子は、磁場未付与時の剪断力低下、および磁場付与時の剪断応力向上の観点から、疎水化処理された無機粒子であることが好ましい。
疎水化処理に使用する疎水化処理剤としては、ケイ素含有有機化合物が挙げられる。疎水化処理剤は、チタン系カップリング剤、アル系カップリング剤等も挙げられる。
これらの中でも、疎水化処理剤としては、ケイ素含有有機化合物が好ましい。
【0031】
ケイ素含有有機化合物としては、シラン化合物、ジシラザン化合物、シリコーンオイル等が挙げられる。
シラン化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルクロロシラン、トリメチルメトキシシラン等が挙げられる。
ジシラザン化合物としては、例えば、ジメチルジシラザン、トリメチルジシラザン、テトラメチルジシラザン、ペンタメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン等)等が挙げられる。
シリコーンオイルとしては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、クロルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アルコール変性シリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、エポキシ・ポリエーテル変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、アクリル、メタクリル変性シリコーンオイル、αメチルスチレン変性シリコーンオイル等が挙げられる。
【0032】
無機粒子の個数平均粒径は、磁場未付与時の剪断力低下、および磁場付与時の剪断応力向上の観点から、3nm以上300nm以下であることがよい。
磁無機粒子の個数平均粒径の下限は、5nm以上が好ましい。
磁無機粒子の個数平均粒径の上限は、200nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、50nm以下がさらに好ましく、20nm以下がさらに好ましく、10nm以下が最も好ましい。
【0033】
無機粒子の個数平均粒径と磁性粒子の個数平均粒径との比(無機粒子の個数平均粒径/磁性粒子の個数平均粒径)は、磁場未付与時の剪断力低下、および磁場付与時の剪断応力向上の観点から、0.00005以上0.1以下が好ましく、0.0001以上0.08以下がより好ましい。
【0034】
無機粒子の個数平均粒径、磁性粒子に付着した無機粒子を走査型顕微鏡で観察し、無機粒子の画像解析を行うことで測定する。具体的には、無機粒子を走査型顕微鏡により観察し、無機粒子の画像解析によって、無機粒子の円相当径を測定する。球相当径の測定を無機粒子100個分について行う。そして、得られた球相当径の個数基準の累積頻度における50%径(D50p)を「無機粒子の個数平均粒径」とする。
【0035】
(その他特性)
本実施形態に係るオイルレストルク伝達媒体において、磁性粒子を分散する分散媒となる気体は、例えば、空気、不活性気体(窒素、ヘリウム、アルゴン等)が挙げられる。また真空あるいは真空に近い状態(少量の気体が存在する状態)であってもよい。
コストの観点から、気体としては、空気が好ましい。
一方、気体は、密閉された空間(例えば、トルク伝達装置の、相対的に回転又は移動する第1の部材と第2の部材との間の空間)に封入される場合、不活性気体が好ましい。
【0036】
(用途)
本実施形態に係るオイルレストルク伝達媒体は、トルク伝達装置(クラッチ、ブレーキ等)に利用できる。
【0037】
(トルク伝達装置)
本実施形態に係るトルク伝達装置は、
相対的に回転又は移動する第1の部材及び第2の部材と、
前記第1の部材と前記第2の部材との間に封入されたオイルレストルク伝達媒体と、
磁場を発生し、前記オイルレストルク伝達媒体に前記磁場を付与する磁場発生部と、
を備える
そして、オイルレストルク伝達媒体として、上記本実施形態に係るオイルレストルク伝達媒体が適用される。
【0038】
以下、本実施形態に係るトルク伝達装置の一例を、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係るトルク伝達装置の一例を示す概略構成図である。
【0039】
本実施形態に係るトルク伝達装置10は、
図1に示すように、例えば、入力軸11(第1の部材の一例)と出力軸12(第2の部材)とを有している。
入力軸11は、軸11Aと、軸方向に、互いに間隔をもって設けられた複数の回転板11Bとを有している。
出力軸12は、軸11A及び複数の回転板11Bを収容する収容空間12Aが設けられている。
収容空間12Aの軸方向両端部には、気密シール13が設けられ、収容空間12Aを密閉している。密閉された収容空間12A内にはオイルレストルク伝達媒体14が封入されている。
収容空間12Aの側方にはコイル15(磁場発生部の一例)が設けられている。収容空間12Aを囲む部分はヨーク12Aが設けられている。
【0040】
トルク伝達装置10では、コイル15に通電すると、回転板11Bと交差する磁気回路16が形成される。それにより、磁束の方向に、オイルレストルク伝達媒体14の磁性粒子がクラスタを形成し、磁性粒子のクラスタを介して回転板11Bから収容空間12Aの壁面へトルクが伝達される。つまり、入力軸11Aの回転トルクが出力軸12に伝達される。
【0041】
なお、トルク伝達装置10は、相対的に回転する回転体として、入力軸11(第1の部材の一例)と出力軸12(第2の部材)とを有する構成に限られず、相対的に移動する一対の部材(第1及び第2の部材の一例)を有する構成であってもよい。
また、トルク伝達装置10は、クラッチ、ブレーキ等の構成に応じて、周知の構成とすることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、これら各実施例は、本発明を制限するものではない。なお、文中、特に断りがない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0043】
(無機粒子の作製)
-チタニア粒子(1)-
チタニア粒子(テイカ社製MT-150A)に、オクチルシランで疎水化処理を施した。
具体的には、次の通りである。
エバポレーターに、チタニア粒子(MT-150A)およびエタノールを添加し(チタニア粒子35部に対してエタノール100部)、温度を40℃に維持したまま15分攪拌した。次に、チタニア粒子35部に対しオクチルシランを7部添加し、150℃で2時間反応させ、最後に90℃で減圧乾燥させた。その後、処理物を取り出して更に120℃で30分間真空乾燥を行い、粒子表面が疎水処理されたチタニア粒子(1)を作製した。
【0044】
-シリカ粒子(2)-
シリカ粒子(アエロジル社製A300)に、ヘキサメチルジシラザンで疎水化処理を施した。
具体的には、次の通りである。
エバポレーターに、シリカ粒子(A300)およびエタノールを添加し(シリカ粒子35部に対しエタノール100部)、温度を40℃に維持したまま15分攪拌した。次にシリカ35部に対しヘキサメチルジシラザンを3.5部添加し、150℃で2時間反応させ、最後に90℃で減圧乾燥させた。その後、処理物を取り出して更に120℃で30分間真空乾燥を行い、粒子表面が疎水処理されたシリカ粒子(2)を作製した。
【0045】
-シリカ粒子(C1)-
シリカ粒子(アエロジル社製A300)をシリカ粒子(C1)とした。
【0046】
(実施例1)
磁性粒子として個数平均粒径6.4μmのカーボニル鉄粉(BASF社製CIP-CS)100部に対し、チタニア粒子(1)(オクチルシランで表面処理したチタニア粒子)0.5部を添加し、ヘンシェルミキサーで、回転数2500rpm、撹拌時間3分で混合し、チタニア粒子(1)で表面を被覆した磁性粒子を含むトルク伝達媒体を得た。
【0047】
(実施例2)
チタニア粒子(1)の添加量を1.0部に変更した以外は、実施例1と同様にして、トルク伝達媒体を得た。
【0048】
(実施例3)
チタニア粒子(1)に代えて、シリカ粒子(2)(ヘキサメチルジシラザンで処理したシリカ粒子)を使用した以外は、実施例1と同様にして、トルク伝達媒体を得た。
【0049】
(実施例4)
シリカ粒子(2)の添加量を0.75部に変更した以外は、実施例3と同様にして、トルク伝達媒体を得た。
【0050】
(実施例5)
シリカ粒子(2)の添加量を2.0部に変更した以外は、実施例3と同様にして、トルク伝達媒体を得た。
【0051】
(比較例1)
磁性粒子として個数平均粒径6.4μmのカーボニル鉄粉(BASF社製CIP-CS)を、トルク伝達媒体とした。
【0052】
(比較例2)
チタニア粒子(1)に代えて、シリカ粒子(C1)(アエロジル社製A300)を使用した以外は、実施例1と同様にして、トルク伝達媒体を得た。
【0053】
(比較例3)
オイル100部に、個数平均粒径6.4μmのカーボニル鉄粉(BASF社製CIP-CS)85部を分散したトルク伝達媒体(MRF-140CG (Lord社))を準備した。
【0054】
(評価)
磁場未付与時及び磁場付与時の、各例のトルク伝達媒体の剪断応力を、磁場印加装置(英弘精機製:MR-101N)を組み込んだ高精度レオメータ(HAAKE社製:レオストレス6000)により測定した。なお、トルク伝達媒体を充填する平板間隔を500μmとした。
【0055】
-磁場未付与時(B=0T)の剪断応力-
磁場未付与時(B=0T)の剪断応力を次の基準で評価した。
A(◎):≦10Pa
B(○):≦15Pa
C(×):>15Pa
【0056】
-磁場付与時(B=0.9T)の剪断応力-
磁場付与時(B=0.9T)の剪断応力を次の基準で評価した。
A(◎):>55kPa
B(○):≧50kPa
C(×):<50kPa
【0057】
各例の詳細及び評価結果を表1に示す。なお、固めかさ密度比を算出する際には、磁性粒子の密度として、鉄の密度7.85g/cm3を採用した。
【0058】
【0059】
上記結果から、本実施例のオイルレストルク伝達媒体は、比較例1~2のオイルレストルク伝達媒体に比べ、磁場未付与時の剪断応力が低く、磁場付与時の剪断応力が高いため、トルク比が大きいことがわかる。
また、本実施例のオイルレストルク伝達媒体は、分散媒としてオイルを含む比較例3のトルク伝達媒体に比べ、磁場未付与時の剪断応力が低く、かつ比較例3のトルク伝達媒体と同等の磁場付与時の高い剪断応力が得られるため、トルク比が大きいことがわかる。
【符号の説明】
【0060】
10 トルク伝達装置
11 入力軸(第1の部材の一例)
11A 軸
11B 回転板
12 出力軸(第2の部材の一例)
12A 収容空間
13 気密シール
14 オイルレストルク伝達媒体
15 コイル
15A ヨーク
16 磁気回路