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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】接着層評価システム及び接着層評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/12 20060101AFI20240116BHJP
   G01N 29/44 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
G01N29/12
G01N29/44
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019222750
(22)【出願日】2019-12-10
(65)【公開番号】P2021039082
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2019159852
(32)【優先日】2019-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本非破壊検査協会 超音波部門 第26回超音波による非破壊評価シンポジウム 開催日 平成31年1月31日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業総合開発機構、次世代構造部材創製・加工技術開発委託事業、「高レート設計・製造技術開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加茂 宗太
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 清嘉
(72)【発明者】
【氏名】松田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】森 直樹
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-005305(JP,A)
【文献】Naoki Mori, 外2名,Effect of interfacial adhesion on the ultrasonic interaction with adhesive joints: A theoretical study using spring-type interfaces,The Journal of the Acoustical Society of America,米国,Acoustical Society of America,2019年06月18日,第145巻第6号,第3541頁~第3550頁,https://pubs.aip.org/asa/jasa/article/145/6/3541/940296/Effect-of-interfacial-adhesion-on-the-ultrasonic?searchresult=1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00ー29/52
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着層を有する評価対象物において弾性波を発生させる弾性波発生装置と、
前記評価対象物からの前記弾性波を検出する弾性波検出装置と、
前記評価対象物の前記接着層に関するパラメータを評価する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記弾性波検出装置により検出した前記弾性波の周波数特性の実測値と、前記評価対象物に関する理論モデルに基づいて算出される前記弾性波の周波数特性の理論値と、を比較し、比較結果に基づいて前記接着層に関するパラメータを評価し、
前記弾性波発生装置は、前記評価対象物において超音波を発生させ、前記評価対象物へ向けて前記超音波を照射する超音波照射装置であり、
前記弾性波検出装置は、前記評価対象物で前記超音波が反射される反射波を検出する超音波検出装置であり、
前記超音波照射装置及び前記超音波検出装置は、前記評価対象物の前記超音波が反射される側に設けられ、
前記制御装置は、前記実測値の前記周波数特性となるノッチ周波数に、前記理論値の前記周波数特性となるノッチ周波数を、前記理論モデルにおける前記接着層に関するパラメータを変化させて合わせ込むことで、前記接着層に関するパラメータを導出し、導出した前記接着層に関するパラメータが、健全な接着を形成している時の前記接着に関するパラメータよりも下回っている場合、前記接着層は弱接着を有すると評価する接着層評価システム。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記評価対象物の代わりに配置された反射体によって反射された前記超音波である参照波と、前記超音波検出装置により検出した前記超音波とに基づいて、前記超音波の周波数特性の実測値を解析する請求項に記載の接着層評価システム。
【請求項3】
接着層を有する評価対象物において弾性波を発生させる弾性波発生装置と、
前記評価対象物からの前記弾性波を検出する弾性波検出装置と、
前記評価対象物の前記接着層に関するパラメータを評価する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記弾性波検出装置により検出した前記弾性波の周波数特性の実測値と、前記評価対象物に関する理論モデルに基づいて算出される前記弾性波の周波数特性の理論値と、を比較し、比較結果に基づいて前記接着層に関するパラメータを評価し、
前記弾性波発生装置は、前記評価対象物において超音波を発生させ、前記評価対象物へ向けて前記超音波を照射する超音波照射装置であり、
前記弾性波検出装置は、前記超音波が前記評価対象物を透過した透過波を検出する超音波検出装置であり、
前記超音波照射装置及び前記超音波検出装置は、前記評価対象物を挟んで両側に設けられ、
前記制御装置は、前記実測値の前記周波数特性となるピーク周波数に、前記理論値の前記周波数特性となるピーク周波数を、前記理論モデルにおける前記接着層に関するパラメータを変化させて合わせ込むことで、前記接着層に関するパラメータを導出し、導出した前記接着層に関するパラメータが、健全な接着を形成している時の前記接着に関するパラメータよりも下回っている場合、前記接着層は弱接着を有すると評価する接着層評価システム。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記評価対象物を配置せずに検出した前記超音波である参照波と、前記超音波検出装置により検出した前記超音波とに基づいて、前記超音波の周波数特性の実測値を解析する請求項に記載の接着層評価システム。
【請求項5】
前記評価対象物は、前記接着層と、前記接着層により接着される被着体と、を有し、
前記超音波照射装置は、前記接着層の界面に対して前記超音波を垂直方向に照射し、
前記評価対象物に関する理論モデルは、前記接着層をスプリング界面で前記被着体に結合した理論モデルであり、
前記スプリング界面は、前記垂直方向における成分の剛性が設定されており、
前記制御装置は、剛性マトリックス法を用いて前記理論モデルに基づく前記超音波の周波数特性の理論値を算出する請求項からのいずれか1項に記載の接着層評価システム。
【請求項6】
前記評価対象物は、前記接着層と、前記接着層により接着される被着体と、を有し、
前記超音波照射装置は、前記接着層の界面に直交する垂直方向に対して傾斜する傾斜方向に前記超音波を照射し、
前記評価対象物に関する理論モデルは、前記接着層をスプリング界面で前記被着体に結合した理論モデルであり、
前記スプリング界面は、前記垂直方向における成分の剛性と、前記界面の面内方向における成分の剛性とが設定されており、
前記制御装置は、剛性マトリックス法を用いて前記理論モデルに基づく前記超音波の周波数特性の理論値を算出する請求項からのいずれか1項に記載の接着層評価システム。
【請求項7】
前記評価対象物は、前記接着層を介して2つの前記被着体が接着され、
前記理論モデルは、一方の前記被着体と前記接着層との間を第1のスプリング界面で結合し、他方の前記被着体と前記接着層との間を第2のスプリング界面で結合し、
前記第1のスプリング界面及び前記第2のスプリング界面の少なくとも一方において設定される剛性は、健全な接着であるとされる剛性として設定される請求項またはに記載の接着層評価システム。
【請求項8】
接着層を有する評価対象物において弾性波を発生させる弾性波発生装置と、
前記評価対象物からの前記弾性波を検出する弾性波検出装置と、
前記評価対象物の前記接着層に関するパラメータを評価する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記弾性波検出装置により検出した前記弾性波の周波数特性の実測値と、前記評価対象物に関する理論モデルに基づいて算出される前記弾性波の周波数特性の理論値と、を比較し、比較結果に基づいて前記接着層に関するパラメータを評価し、
前記弾性波発生装置は、前記評価対象物において超音波を発生させ、前記評価対象物へ向けて前記超音波を照射する超音波照射装置であり、
前記弾性波検出装置は、前記評価対象物で前記超音波が反射される反射波を検出する超音波検出装置であり、
前記超音波照射装置及び前記超音波検出装置は、前記評価対象物の前記超音波が反射される側に設けられ、
前記評価対象物は、前記接着層と、前記接着層により接着される被着体と、を有し、
前記超音波照射装置は、前記接着層の界面に対して前記超音波を垂直方向に照射し、
前記評価対象物に関する理論モデルは、前記接着層をスプリング界面で前記被着体に結合した理論モデルであり、
前記スプリング界面は、前記垂直方向における成分の剛性が設定されており、
前記制御装置は、剛性マトリックス法を用いて前記理論モデルに基づく前記超音波の周波数特性の理論値を算出する接着層評価システム。
【請求項9】
接着層を有する評価対象物において弾性波を発生させる弾性波発生装置と、
前記評価対象物からの前記弾性波を検出する弾性波検出装置と、
前記評価対象物の前記接着層に関するパラメータを評価する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記弾性波検出装置により検出した前記弾性波の周波数特性の実測値と、前記評価対象物に関する理論モデルに基づいて算出される前記弾性波の周波数特性の理論値と、を比較し、比較結果に基づいて前記接着層に関するパラメータを評価し、
前記弾性波発生装置は、前記評価対象物において超音波を発生させ、前記評価対象物へ向けて前記超音波を照射する超音波照射装置であり、
前記弾性波検出装置は、前記超音波が前記評価対象物を透過した透過波を検出する超音波検出装置であり、
前記超音波照射装置及び前記超音波検出装置は、前記評価対象物を挟んで両側に設けられ、
前記評価対象物は、前記接着層と、前記接着層により接着される被着体と、を有し、
前記超音波照射装置は、前記接着層の界面に対して前記超音波を垂直方向に照射し、
前記評価対象物に関する理論モデルは、前記接着層をスプリング界面で前記被着体に結合した理論モデルであり、
前記スプリング界面は、前記垂直方向における成分の剛性が設定されており、
前記制御装置は、剛性マトリックス法を用いて前記理論モデルに基づく前記超音波の周波数特性の理論値を算出する接着層評価システム。
【請求項10】
接着層を有する評価対象物において弾性波を発生させる弾性波発生装置と、
前記評価対象物からの前記弾性波を検出する弾性波検出装置と、
前記評価対象物の前記接着層に関するパラメータを評価する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記弾性波検出装置により検出した前記弾性波の周波数特性の実測値と、前記評価対象物に関する理論モデルに基づいて算出される前記弾性波の周波数特性の理論値と、を比較し、比較結果に基づいて前記接着層に関するパラメータを評価し、
前記弾性波発生装置は、前記評価対象物において超音波を発生させ、前記評価対象物へ向けて前記超音波を照射する超音波照射装置であり、
前記弾性波検出装置は、前記評価対象物で前記超音波が反射される反射波を検出する超音波検出装置であり、
前記超音波照射装置及び前記超音波検出装置は、前記評価対象物の前記超音波が反射される側に設けられ、
前記評価対象物は、前記接着層と、前記接着層により接着される被着体と、を有し、
前記超音波照射装置は、前記接着層の界面に直交する垂直方向に対して傾斜する傾斜方向に前記超音波を照射し、
前記評価対象物に関する理論モデルは、前記接着層をスプリング界面で前記被着体に結合した理論モデルであり、
前記スプリング界面は、前記垂直方向における成分の剛性と、前記界面の面内方向における成分の剛性とが設定されており、
前記制御装置は、剛性マトリックス法を用いて前記理論モデルに基づく前記超音波の周波数特性の理論値を算出する接着層評価システム。
【請求項11】
接着層を有する評価対象物において弾性波を発生させる弾性波発生装置と、
前記評価対象物からの前記弾性波を検出する弾性波検出装置と、
前記評価対象物の前記接着層に関するパラメータを評価する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記弾性波検出装置により検出した前記弾性波の周波数特性の実測値と、前記評価対象物に関する理論モデルに基づいて算出される前記弾性波の周波数特性の理論値と、を比較し、比較結果に基づいて前記接着層に関するパラメータを評価し、
前記弾性波発生装置は、前記評価対象物において超音波を発生させ、前記評価対象物へ向けて前記超音波を照射する超音波照射装置であり、
前記弾性波検出装置は、前記超音波が前記評価対象物を透過した透過波を検出する超音波検出装置であり、
前記超音波照射装置及び前記超音波検出装置は、前記評価対象物を挟んで両側に設けられ、
前記評価対象物は、前記接着層と、前記接着層により接着される被着体と、を有し、
前記超音波照射装置は、前記接着層の界面に直交する垂直方向に対して傾斜する傾斜方向に前記超音波を照射し、
前記評価対象物に関する理論モデルは、前記接着層をスプリング界面で前記被着体に結合した理論モデルであり、
前記スプリング界面は、前記垂直方向における成分の剛性と、前記界面の面内方向における成分の剛性とが設定されており、
前記制御装置は、剛性マトリックス法を用いて前記理論モデルに基づく前記超音波の周波数特性の理論値を算出する接着層評価システム。
【請求項12】
接着層を有する評価対象物からの弾性波を検出するステップと、
検出した前記弾性波の周波数特性の実測値と、前記評価対象物に関する理論モデルに基づいて算出される前記弾性波の周波数特性の理論値と、を比較し、比較結果に基づいて前記接着層に関するパラメータを評価するステップと、を備え
前記パラメータを評価するステップは、
検出した前記弾性波と、前記弾性波を補正するための参照波とをそれぞれ周波数解析して周波数特性を算出するステップと、
前記周波数解析によって得られた前記弾性波と前記参照波とのスペクトルの強度比に基づいて、前記周波数特性である弾性体係数の実測値を算出するステップと、
算出した前記弾性体係数の実測値と、理論モデルに基づいて算出される前記弾性体係数の理論値とを比較して、前記評価対象物の前記接着層に関するパラメータを評価するステップと、を有する接着層評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着層評価システム及び接着層評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
接着層を有する試料に超音波を照射して、照射した超音波が接着層で反射した反射波を検出して、検出した反射波の時間波形に基づいて、接着層における接着不良を検出する技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-125008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術は、試料等の評価対象物を破壊することなく、接着層における接着不良、すなわち、評価対象物における接着層を挟む2枚の被着体の間の空隙を検出することができる。しかしながら、2枚の被着体の間に空隙を有さないものの、その接着強度が弱い弱接着を検出することができないという問題があった。また、従来の弱接着を検出する技術は、いずれも評価対象物の破壊を伴うものであったため、評価対象物を破壊することなく弱接着を検出することができないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、評価対象物を破壊することなく、接着層を適切に評価することができる接着層評価システム及び接着層評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の接着層評価システムは、接着層を有する評価対象物において弾性波を発生させる弾性波発生装置と、前記評価対象物からの前記弾性波を検出する弾性波検出装置と、前記評価対象物の前記接着層に関するパラメータを評価する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記弾性波検出装置により検出した前記弾性波の周波数特性の実測値と、前記評価対象物に関する理論モデルに基づいて算出される前記弾性波の周波数特性の理論値と、を比較し、比較結果に基づいて前記接着層に関するパラメータを評価する。
【0007】
本発明の接着層評価方法は、接着層を有する評価対象物からの弾性波を検出するステップと、検出した前記弾性波の周波数特性の実測値と、前記評価対象物に関する理論モデルに基づいて算出される前記弾性波の周波数特性の理論値と、を比較し、比較結果に基づいて前記接着層に関するパラメータを評価するステップと、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、評価対象物を破壊することなく、接着層を適切に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施形態1に係る接着層評価システムの具体的な構成例を示す図である。
図2図2は、実施形態1に係る接着層評価方法のフローチャートである。
図3図3は、図2の検出波評価ステップを説明するグラフの一例である。
図4図4は、実施形態1に係る理論モデルの一例を示す説明図である。
図5図5は、理論モデルを用いて算出された係数の理論値の一例を示すグラフである。
図6図6は、実施形態2に係る接着層評価システムの具体的な構成例を示す図である。
図7図7は、実施形態3に係る接着層評価システムの具体的な構成例を示す図である。
図8図8は、実施形態3に係る理論モデルの一例を示す説明図である。
図9図9は、実施形態4に係る接着層評価システムの具体的な構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能であり、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせることも可能である。
【0011】
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る接着層評価システムの具体的な構成例を示す図である。接着層評価システム10は、被着体1Bと被着体1Cとを接着する接着層1Aを有する評価対象物1からの弾性波を検出して、評価対象物1の接着層1Aに関するパラメータを評価する装置である。
【0012】
具体的に、実施形態1の接着層評価システム10は、評価対象物1へ向けて弾性波としての超音波を照射し、評価対象物1から反射された超音波を検出して、接着層1Aに関するパラメータを評価している。接着層1Aに関するパラメータは、接着層1Aの界面に関するパラメータ(以下、界面パラメータともいう)と、接着層1Aの形状に関するパラメータ(以下、形状パラメータともいう)と、接着層1Aの物性に関するパラメータ(以下、物性パラメータともいう)と、を含む。界面パラメータとしては、例えば、接着層1Aの界面剛性であり、接着層評価システム10は、界面パラメータに基づいて、接着層1Aが弱接着(Weak Bond、WB)であるか否かを評価している。また、形状パラメータとしては、例えば、接着層厚であり、接着層評価システム10は、形状パラメータに基づいて、接着層1Aの厚みを評価している。さらに、物性パラメータとしては、例えば、接着層1Aの音速、質量密度及び弾性率等であり、接着層評価システム10は、物性パラメータに基づいて、接着層1Aの物性を評価している。なお、実施形態1では、接着層1Aに関するパラメータとして、界面剛性(弱接着であるか否か)を評価する場合について説明するが、上記のように、接着層1Aに関するパラメータとして、接着層厚を評価してもよいし、界面剛性及び接着層厚の両方を評価してもよいし、界面剛性及び接着層厚以外のパラメータを評価してもよく、特に限定されない。
【0013】
評価対象物1は、接着層1Aと、接着層1Aを介して接着された2つの被着体1B,1Cを含む。実施形態1では、被着体1B及び被着体1Cが共にアルミニウム片であり、接着層1Aが高温耐性に優れた接着フィルムである。なお、接着層1A、被着体1B及び被着体1Cは、特に限定されず、いかなる種類の接着層1A及び被着体1B,1Cによって形成された形態であってもよい。
【0014】
接着層評価システム10は、図1に示すように、超音波照射装置11と、超音波検出装置12と、設置部14と、水槽20と、制御装置30と、を備える。
【0015】
超音波照射装置11は、照射波11Bとして、例えば一般的な超音波探傷で使用される10MHzの超音波を照射しており、超音波を照射する照射面11Aを有する。超音波検出装置12は、超音波である反射波12Bを検出する検出面12Aを有する。本実施形態では、超音波照射装置11と超音波検出装置12とは、一体となって超音波探触子13を構成しており、さらに、超音波探触子13を構成する超音波照射装置11の照射面11Aと超音波検出装置12の検出面12Aとが一体となっていてもよい。また、超音波照射装置11と超音波検出装置12とは、一体となって超音波探触子13を構成する形態に限定されず、別々に設けられていてもよい。
【0016】
設置部14は、評価対象物1を設置する部位であり、評価対象物1を固定する図示しない固定部材や、評価対象物1を嵌め込む図示しない窪み等が適宜設けられている。設置部14は、超音波照射装置11の照射面11Aと対向する位置に設けられている。また、設置部14は、超音波検出装置12の検出面12Aと対向する位置に設けられている。このため、超音波探触子13(超音波照射装置11及び超音波検出装置12)は、評価対象物1の超音波が反射される側に設けられる。また、設置部14は、評価対象物1の接着層1Aの界面に対して、超音波が垂直方向に照射されるように、また、超音波が垂直方向に反射されるように、評価対象物1を設置している。このため、実施形態1では、照射波11Bの入射角度と反射波12Bの射出角度とは、評価対象物1の接着層1Aの接着界面に対して、いずれも0度となっている。
【0017】
水槽20は、超音波を伝達する媒体の一例である水21を貯留する。水槽20は、例えば、矩形状のケースが用いられる。本実施形態では、超音波照射装置11の照射面11Aと、超音波検出装置12の検出面12Aと、設置部14とが、水槽20の内側の水21の貯留領域内に設けられており、超音波照射装置11の照射面11Aとは反対側の一部分と、超音波検出装置12の検出面12Aとは反対側の一部分と、制御装置30とが、水槽20の外側に設けられている。なお、水槽20は、この形態に限定されず、少なくとも超音波照射装置11の照射面11A及び超音波検出装置12の検出面12Aを含む照射波11Bの経路及び反射波12Bの経路を、内側の水21の貯留領域内に設けていれば、どのような形態であってもよい。
【0018】
接着層評価システム10は、超音波照射装置11、超音波検出装置12、設置部14及び水槽20が以上のような配置をしている。このため、超音波照射装置11の照射面11Aから照射波11Bが照射される。すると、照射波11Bは、水槽20に貯留された水21を媒介として、評価対象物1に照射される。照射波11Bは、評価対象物1において一部が反射して反射波12Bとなり、反射波12Bは、超音波検出装置12へ向かって伝播する。このため、超音波検出装置12の検出面12Aは、反射波12Bを検出する。
【0019】
また、接着層評価システム10では、超音波照射装置11の照射面11Aと、超音波検出装置12の検出面12Aと、設置部14に設置される評価対象物1の接着層1Aと、が、互いに平行になるように配設されている。つまり、接着層評価システム10では、評価対象物1の接着層1Aの界面に対して、超音波が垂直方向に照射されるように、また、超音波が垂直方向に反射されるように、評価対象物1が配置されている。このため、接着層評価システム10は、超音波照射装置11の照射面11Aから、接着層1Aに対して垂直方向に照射波11Bを照射する。また、接着層評価システム10は、評価対象物1からの反射波12Bが、照射波11Bと真逆の方向に伝播し、超音波検出装置12の検出面12Aで反射波12Bを検出する。
【0020】
制御装置30は、接着層評価システム10を制御するコンピュータシステムを含む。図1に示すように、制御装置30は、CPU(Central Processing Unit)のようなマイクロプロセッサを含む処理部31と、ROM(Read Only Memory)又はストレージのような不揮発性メモリ及びRAM(Random Access Memory)のような揮発性メモリを含む記憶部32と、信号及びデータを入出力可能な入出力回路を含む入出力インターフェース33と、を有する。
【0021】
制御装置30の処理部31は、図1に示すように、超音波照射制御部34と、超音波検出制御部35と、検出波評価部36と、を有する。超音波照射制御部34、超音波検出制御部35及び検出波評価部36は、いずれも、処理部31が、接着層1Aを評価するための接着層評価プログラムを実行することにより、実現される機能部である。制御装置30の処理部31の詳細な機能、すなわち、超音波照射制御部34、超音波検出制御部35及び検出波評価部36の詳細な機能は、各部の構成の詳細な説明の箇所に加えて、後述する実施形態に係る接着層評価方法の詳細な説明の箇所でも説明する。
【0022】
超音波照射制御部34は、超音波照射装置11を制御して、超音波照射装置11に照射面11Aから照射波11Bを照射させる。
【0023】
超音波検出制御部35は、超音波検出装置12を制御して、超音波検出装置12に検出面12Aで反射波12Bを検出させる。超音波検出制御部35は、実施形態1では、超音波検出装置12に、設置部14に設置された接着層1Aを有する評価対象物1によって反射された超音波である反射波を検出させる。また、超音波検出制御部35は、実施形態1では、超音波検出装置12に、設置部14に評価対象物1の代わりに設置したリフレクタ(反射体)によって反射された超音波である参照波を検出させてもよい。
【0024】
検出波評価部36は、超音波検出制御部35が超音波検出装置12に検出させた反射波の実測値と、評価対象物1に関する理論モデルに基づいて算出される反射波の理論値とを比較して、評価対象物1の接着層1Aが健全な接着(完璧な接着(Perfect Bond、PB)と考える)を形成しているか否か、すなわち、評価対象物1の接着層1Aが弱接着を有するか否かを評価する。
【0025】
ここで、評価対象物1に関する理論モデルとは、評価対象物1をモデル化した解析モデルのことである。検出波評価部36は、評価対象物1に関する理論モデルとして、接着層1Aをスプリング界面で結合した理論モデルを採用し、剛性マトリックス法を用いて算出処理をすることが好ましい。
【0026】
また、健全な接着とは、例えば、評価対象物1を複数作製して所定の破壊試験を実施して得られた接着強度が上位5%に含まれる場合に接着層1Aが形成している接着を言うこととする。
【0027】
検出波評価部36は、周波数解析部37と、係数算出部38と、係数比較部39と、を有する。周波数解析部37、係数算出部38及び係数比較部39は、いずれも、検出波評価部36と同様に、処理部31が、接着層1Aを評価するための接着層評価プログラムを実行することにより、実現される機能部である。検出波評価部36の詳細な機能、すなわち、周波数解析部37、係数算出部38及び係数比較部39の詳細な機能は、各部の構成の詳細な説明の箇所に加えて、後述する実施形態に係る接着層評価方法の詳細な説明の箇所でも説明する。
【0028】
周波数解析部37は、反射波12Bと、反射体によって反射された超音波である参照波とをそれぞれ周波数解析する。周波数解析部37は、より詳細には、時間関数である反射波12Bと参照波とのそれぞれについて、高速フーリエ変換を施すことで、振幅スペクトルを取得する。
【0029】
係数算出部38は、周波数解析部37によって得られた反射波12Bと参照波との振幅スペクトルから、反射波12Bと参照波との振幅スペクトルの強度比を算出し、この強度比に基づいて、周波数特性としての反射係数Rの実測値を算出する。係数算出部38は、より詳細には、周波数fごとに、反射波12Bの振幅スペクトルの強度から参照波の振幅スペクトルの強度を除すことにより、反射係数Rの実測値の周波数関数を取得する。なお、反射係数Rは、その性質上、超音波が全く透過しない時(超音波が全て反射する時)に1をとり、超音波が完全に透過する時(超音波が全く反射しない時)に0を取り、0以上1以下の値を取る係数である。なお、反射係数Rは、理論上においては、1以下となるが、実測上においては、1以上の値を取り得る。
【0030】
係数比較部39は、係数算出部38が算出した反射係数Rの実測値と、理論モデルに基づいて算出される反射係数Rの理論値とを比較して、接着層1Aが弱接着を有するか否かを評価する。
【0031】
係数比較部39は、具体的に、検出される超音波が反射波12Bであることから、係数算出部38が算出した反射係数Rの実測値が極小となる周波数fと、接着層1Aが弱接着を有さずに健全な接着をしていると仮定をした場合の理論モデルに基づいて算出される反射係数Rの理論値が極小となる周波数fとを比較して、それらが所定の誤差の範囲内で一致する場合に、接着層1Aは弱接着を有さない旨の評価をし、それらが所定の誤差を超えた有意差を有する場合に、接着層1Aは弱接着を有する旨の評価をする。
【0032】
また、以下において、反射係数Rの実測値の周波数関数及び反射係数Rの理論値の周波数関数の双方について、その値が極小となる周波数fのことを、ノッチ周波数と称する。反射係数Rの実測値の周波数関数及び反射係数Rの理論値の周波数関数の双方とも、ノッチ周波数は、一般に複数存在する。
【0033】
ここで、反射係数Rの実測値の周波数関数と反射係数Rの理論値の周波数関数とを比較及び対照する際に、反射係数Rのノッチ周波数を用いる理由は、評価対象物1において実際に起こり得る超音波の吸収及び散乱を完全に考慮しないことで計算容量を低減した理論モデルを用いているため、反射係数Rの絶対値自体には実測値と理論値との間で所定の誤差を超えて差異が生じ得るが、反射係数Rのノッチ周波数については実測値と理論値との間で所定の誤差を超えて差異が生じないことによる。
【0034】
反射係数Rの実測値のノッチ周波数は、その一部が、接着層1Aの界面パラメータに依らず一定であり、その他の一部が、接着層1Aの界面パラメータに依って一対一の関係で変化する傾向を有する。また、反射係数Rの理論値のノッチ周波数は、接着層1Aに関する界面パラメータに対して、反射係数Rの実測値のノッチ周波数が接着層1Aの界面パラメータに対して示す傾向と同様の傾向を有する。これに鑑み、反射係数Rについて生じ得る所定の誤差は、接着層1Aの界面パラメータに依らず一定となるノッチ周波数において生じ得る差異に基づいて、予め適切に設定することができる。ここで、接着層1Aに関する界面パラメータとは、スプリング界面で結合した理論モデルを採用した場合におけるスプリング界面のパラメータであり、接着層1Aの接着強度を定量的に評価するものとなっている。なお、実施形態1では、接着層1Aに関するパラメータとして、界面パラメータを適用したが、接着層1Aの接着層厚を評価する場合、接着層1Aの接着層厚に関する形状パラメータを適用してもよい。この場合、理論モデルにおいて、接着層厚hadに関する形状パラメータを採用する(設定する)。また、接着層1Aに関するパラメータとして、上記した界面パラメータ、形状パラメータ及び物性パラメータの全てを適用してもよい。この場合、物性パラメータとしては、例えば、接着層1Aの音速、接着層1Aの質量密度、接着層1Aの弾性率に関するパラメータを採用し、理論モデルに適用する。
【0035】
また、係数比較部39は、係数算出部38が算出した反射係数Rの実測値におけるノッチ周波数fが、理論モデルに基づいて算出される反射係数Rの理論値におけるノッチ周波数fと所定の誤差の範囲内で一致する時の、理論モデルにおける接着層1Aに関するパラメータのパラメータ値を、評価に供した評価対象物1の接着層1Aに関するパラメータのパラメータ値として算出する。
【0036】
また、係数比較部39は、上記を合わせてより効率的に処理をすることができ、反射係数Rの実測値のノッチ周波数に、理論モデルにおける接着層1Aに関するパラメータを変化させて反射係数Rの理論値のノッチ周波数を合わせ込むことで、接着層1Aに関するパラメータを導出し、接着層1Aに関するパラメータが、健全な接着を形成している時の接着層1Aに関するパラメータよりも下回っている場合、接着層1Aは弱接着を有すると評価することができる。
【0037】
制御装置30の記憶部32は、制御装置30の処理部31で用いられる種々のデータを記憶している。制御装置30の記憶部32は、具体的には、評価対象物1に関するデータである接着層1A、被着体1B及び被着体1Cの材料及び厚み等の形状に関するデータ、超音波照射制御部34によって用いられる超音波照射装置11による照射波11Bの超音波の周波数及び接着層1Aの垂線に対する照射条件に関するデータ、超音波検出制御部35によって用いられる超音波検出装置12による反射波12Bの検出条件に関するデータ、検出波評価部36の周波数解析部37によって用いられる高速フーリエ変換処理に関するデータ、検出波評価部36の係数算出部38によって用いられる反射係数Rの実測値の周波数関数の導出処理に関するデータ、検出波評価部36の係数比較部39によって用いられる理論モデルに関するデータ、及び、検出波評価部36の係数比較部39によって用いられる反射係数Rの実測値と反射係数Rの理論値との比較処理に関するデータ等を記憶している。なお、接着層1A、被着体1B及び被着体1Cの厚み等の形状に関するデータは、接着層1Aに関するパラメータとして算出してもよい。
【0038】
また、制御装置30の記憶部32は、制御装置30の処理部31で取得される種々のデータを記憶することができる。制御装置30の記憶部32は、具体的には、超音波検出制御部35によって取得される超音波検出装置12による反射波12Bの検出データ及び参照波の測定データ、検出波評価部36の周波数解析部37によって取得される反射波12Bの周波数関数のデータ及び参照波の周波数関数のデータ、検出波評価部36の係数算出部38によって取得される反射係数Rの実測値の周波数関数のデータ、検出波評価部36の係数比較部39によって算出される反射係数Rの理論値の周波数関数のデータ、及び、検出波評価部36の係数比較部39によって算出される評価対象物1の接着層1Aに関するパラメータ等を記憶することができる。
【0039】
制御装置30の入出力インターフェース33には、超音波照射装置11及び超音波検出装置12によって構成される超音波探触子13が接続される。制御装置30は、入出力インターフェース33を介して、超音波照射装置11及び超音波検出装置12を含む超音波探触子13を制御するとともに、超音波検出装置12による反射波12Bの検出データを取得する。また、制御装置30の入出力インターフェース33には、不図示の入力装置が接続されていてもよい。制御装置30は、入出力インターフェース33を介して、処理部31の処理に使用する種々の情報の入力を当該入力装置から受け付けることができる。また、制御装置30の入出力インターフェース33には、不図示の表示装置が接続されていてもよい。処理部31の処理によって得られた種々の情報を出力して、文字、画像、動画等により、当該表示装置に表示させることができる。
【0040】
次に、図2を参照して、接着層評価システム10による接着層評価方法について説明する。図2は、実施形態1に係る接着層評価方法のフローチャートである。接着層評価システム10によって実行される実施形態に係る接着層評価方法について、接着層評価システム10の処理部31における超音波照射制御部34と、超音波検出制御部35と、検出波評価部36の詳細な機能、並びに、検出波評価部36における周波数解析部37、係数算出部38及び係数比較部39の詳細な機能と併せて、以下に説明する。
【0041】
実施形態1に係る接着層評価方法は、図2に示すように、反射波検出ステップS11と、参照波検出ステップS12と、検出波評価ステップS13と、を有する。
【0042】
反射波検出ステップS11は、接着層1Aを有する評価対象物1に超音波を照射し、評価対象物1において反射した超音波である反射波12Bの実測値を検出するステップである。
【0043】
反射波検出ステップS11では、具体的には、まず、図1に示すように、接着層1Aを有する評価対象物1を設置部14に設置した状態を形成する。反射波検出ステップS11では、次に、この状態下で、超音波照射制御部34が超音波照射装置11を制御して、超音波照射装置11に照射面11Aから、設置部14に設置した評価対象物1に向けて、照射波11Bを照射させる。そして、反射波検出ステップS11では、超音波検出制御部35が超音波検出装置12を制御して、超音波検出装置12に検出面12Aで反射波12Bを検出させる。これにより、反射波検出ステップS11では、超音波検出制御部35が、超音波検出装置12に、接着層1Aを有する評価対象物1の反射波12Bの実測値を検出させる。
【0044】
参照波検出ステップS12は、評価対象物1の代わりに設置した反射体から反射される超音波である参照波の実測値を検出するステップである。
【0045】
参照波検出ステップS12では、具体的には、まず、評価対象物1の代わりに反射体を設置部14に設置した状態を形成する。参照波検出ステップS12では、参照波検出ステップS12では、次に、この状態下で、超音波照射制御部34が超音波照射装置11を制御して、超音波照射装置11に照射面11Aから、設置部14に設置した反射体に向けて、照射波11Bを照射させる。そして、参照波検出ステップS12では、超音波検出制御部35が超音波検出装置12を制御して、超音波検出装置12に検出面12Aで反射波12Bを検出させる。これにより、参照波検出ステップS12では、超音波検出制御部35が、超音波検出装置12に、反射体から反射される超音波である参照波の実測値を検出させる。
【0046】
なお、参照波検出ステップS12は、以前に、超音波照射装置11及び超音波検出装置12の位置関係並びに水槽20に貯留された水21等が等しい条件下で、参照波の実測値を検出している場合、実施を省略して、以前に検出した参照波の実測値を再び使用に供してもよい。
【0047】
検出波評価ステップS13は、反射波検出ステップS11で検出した反射波12Bの実測値と評価対象物1に関する理論モデルに基づいて算出される反射波12Bの理論値とを比較して、接着層1Aが弱接着を有するか否かを評価するステップである。検出波評価ステップS13は、より詳細には、図2に示すように、周波数解析ステップS21と、反射係数算出ステップS22と、反射係数比較ステップS23と、弱接着有無判定ステップS24と、弱接着パラメータ算出ステップS25と、を有する。
【0048】
周波数解析ステップS21は、反射波検出ステップS11で得られた反射波12Bと、今回または以前の参照波検出ステップS12で得られた参照波とをそれぞれ周波数解析するステップである。
【0049】
周波数解析ステップS21では、具体的には、周波数解析部37が、時間関数である反射波12Bと参照波とのそれぞれについて、高速フーリエ変換を施すことで、振幅スペクトルの強度の周波数関数を取得するステップである。
【0050】
反射係数算出ステップS22は、周波数解析ステップS21で得られた反射波12Bと参照波との振幅スペクトルの強度比に基づいて、評価対象物1から反射された反射波12Bに関するパラメータである反射係数Rの実測値を算出するステップである。
【0051】
反射係数算出ステップS22では、具体的には、係数算出部38が、周波数fごとに、反射波12Bの振幅スペクトルの強度から参照波の振幅スペクトルの強度を除すことにより、反射係数Rの実測値の周波数関数を取得する。
【0052】
図3は、図2の検出波評価ステップを説明するグラフの一例である。図3のグラフは、横軸が周波数f[単位;MHz]、縦軸が反射係数Rの2次元グラフである。図3のグラフは、参照波の振幅スペクトルの強度を除したときの反射波12Bの反射係数Rの実測値である。反射係数算出ステップS22では、係数算出部38が、例えば、図3において実線で示す反射係数Rの実測値の周波数関数曲線41を取得する。
【0053】
反射係数比較ステップS23は、反射係数算出ステップS22で算出した反射係数Rの実測値と、理論モデルに基づいて算出される反射係数Rの理論値とを比較して、接着層1Aが弱接着を有するか否かを評価するステップである。
【0054】
図4は、実施形態1に係る理論モデルの一例を示す説明図である。反射係数比較ステップS23で使用する反射係数Rの理論値を算出する際に用いる理論モデルについて、図4を用いて、以下に説明する。
【0055】
反射係数比較ステップS23で係数比較部39が用いる理論モデルでは、評価対象物1は、図4に示すように、被着体1Bと接着層1Aとの界面にスプリング界面(第1のスプリング界面)1Dが設けられ、接着層1Aと被着体1Cとの界面にスプリング界面(第2のスプリング界面)1Eが設けられ、接着層1Aを2箇所のスプリング界面1D,1Eで結合したものとしている。この理論モデルでは、スプリング界面1Dにおける接着界面剛性をバネ定数KN1[単位;MPa/nm]によって設定し、スプリング界面1Eにおける接着界面剛性をバネ定数KN2[単位;MPa/nm]によって設定している。なお、これらのバネ定数KN1,KN2は、その値が接着界面剛性そのものを表すという性質を持つパラメータである。また、バネ定数KN1,KN2は、スプリング界面1D,1Eにおける接着界面剛性が、垂直方向における成分の剛性となるように設定されている。実施形態1では、このような理論モデルを採用しているので、超音波の反射波12Bについて、実際に弱接着の要因が発生しやすい接着層1Aの両面に界面応力を設定して剛性解析する実施形態1にとって妥当性の高い計算手法を用いて、接着層1Aが弱接着を有するか否かを評価することができるため、現実に即した理論モデル及び計算手法に裏付けがなされた弱接着の検出を実行することができる。
【0056】
また、反射係数比較ステップS23では、実際の接着層1Aを有する評価対象物1が剥離破壊をする際に、接着層1Aと被着体1Bとの界面または接着層1Aと被着体1Cとの界面で破壊する場合が多いことを考慮して、係数比較部39が、バネ定数KN1,KN2のうち一方のバネ定数KN1は健全な接着を形成しており、他方のバネ定数KN2は健全な接着または弱接着を形成しているものとして、この理論モデルを用いている。つまり、一方のバネ定数KN1は、健全な接着であるとされるバネ定数として設定され、固定された値となる一方で、他方のバネ定数KN2は、健全な接着または弱接着であるとされるバネ定数として設定され、可変する値となる。なお、本発明では、理論モデルにおけるバネ定数KN1,KN2の扱い方はこの方法に限定されず、例えば、バネ定数KN1,KN2のうち他方のバネ定数KN2は健全な接着を形成しており、一方のバネ定数KN1は健全な接着または弱接着を形成しているものとして取り扱ってもよいし、バネ定数KN1,KN2とが共に同じ値であり、かつ、共に健全な接着または弱接着を形成しているものとして取り扱ってもよい。
【0057】
また、理論モデルにおけるバネ定数KN1,KN2等の設け方は上記した方法に限定されず、評価対象物1の性質に応じて適宜扱い方を変更してもよい。例えば、被着体1Bと接着層1Aとの界面、及び、接着層1Aと被着体1Cとの界面のいずれか一方のみにスプリング界面を設け、接着層1Aを1箇所のスプリング界面で結合した理論モデルを用いてもよい。
【0058】
反射係数比較ステップS23では、まず、係数比較部39が、上記した理論モデルに入力するための接着層1A、被着体1B及び被着体1Cの密度及び厚みの情報、超音波照射装置11による照射波11Bの超音波の周波数の情報を、記憶部32より取得する。
【0059】
次に、反射係数比較ステップS23では、係数比較部39が、接着層1A、被着体1B及び被着体1Cの密度及び厚みの情報と、照射波11Bの超音波の周波数の情報を上記した理論モデルに入力して、剛性マトリックス法を用いて、バネ定数KN1,KN2と周波数fと反射係数Rとの間で成立する関係式を導出する。
【0060】
そして、反射係数比較ステップS23では、係数比較部39が、理論モデルを用いて導出したバネ定数KN1,KN2と周波数fと反射係数Rとの間で成立する関係式を用いて、バネ定数KN1に健全な接着を形成している場合の値を入力して固定し、予め設定した範囲内で周波数fを逐次代入し、0以上バネ定数KN1の設定値以下の範囲内でバネ定数KN2を逐次代入することで、予め設定した範囲内の周波数fごと、かつ、0以上バネ定数KN1の設定値以下の範囲内のバネ定数KN2ごとの反射係数Rの理論値を算出する。
【0061】
ここで、健全な接着を形成している場合のバネ定数KN1の値は、バネ定数KN1,KN2が等しいとして、別の強度試験等から健全な接着を形成していると考えられる評価対象物1についての反射係数Rの実測値の周波数関数と、反射係数Rのノッチ周波数が一致する反射係数Rの理論値の周波数関数を算出する際のバネ定数KN1,KN2の値を採用することが好ましい。
【0062】
図5は、理論モデルを用いて算出された反射係数Rの理論値の一例を示すグラフである。図5のグラフは、横軸が周波数f[単位;MHz]、縦軸がバネ定数KN2、濃淡が反射係数R[単位;MPa/nm]の3次元グラフである。図5において、任意のバネ定数KN2を選択して横軸に平行に切断して現れる断面が、反射係数Rの実測値の周波数関数曲線41と比較可能な横軸が周波数f[単位;Hz]であり縦軸が反射係数Rである2次元グラフとなる。反射係数比較ステップS23では、係数比較部39が、図5の3次元グラフに示すような各バネ定数KN2における反射係数Rの理論値の周波数関数の束を取得する。
【0063】
反射係数比較ステップS23では、係数比較部39が、反射係数算出ステップS22で取得した反射係数Rの実測値の周波数関数と、反射係数比較ステップS23におけるここまでの処理の中で取得した各バネ定数KN2における反射係数Rの理論値の周波数関数の束のうち、健全な接着を形成しておりバネ定数KN2がバネ定数KN1と等しいとした場合の反射係数Rの理論値の周波数関数とを比較する。反射係数比較ステップS23では、そして、係数比較部39が、これらの2つの周波数関数の反射係数Rの複数のノッチ周波数がいずれも所定の誤差の範囲内で一致する場合に、接着層1Aが弱接着を有さない旨の評価をし、これらの2つの周波数関数の反射係数Rのノッチ周波数が所定の誤差を超えた有意差を有する場合に、接着層1Aが弱接着を有する旨の評価をする。
【0064】
反射係数比較ステップS23では、係数比較部39が、例えば、反射係数算出ステップS22で係数算出部38が図3の反射係数Rの実測値の周波数関数曲線41を取得した場合、図3の反射係数Rの実測値の周波数関数曲線41と、健全な接着を形成しておりバネ定数KN2がバネ定数KN1と等しいとした場合の図3において破線で示す反射係数Rの理論値の周波数関数曲線42との間で複数のノッチ周波数がいずれも所定の誤差の範囲内で一致するので、図3で反射波12Bを検出する際に使用した評価対象物1の接着層1Aが弱接着を有さない旨の評価をする。
【0065】
弱接着有無判定ステップS24は、係数比較部39が、反射係数比較ステップS23において接着層1Aが弱接着を有さない旨の評価をした図3の場合、弱接着で無いと判定して(弱接着有無判定ステップS24でNo)、弱接着パラメータ算出ステップS25を実行せずに実施形態1に係る接着層評価方法を終了させる。一方で、弱接着有無判定ステップS24は、係数比較部39が、反射係数比較ステップS23において接着層1Aが弱接着を有する旨の評価をした場合、弱接着で有ると判定して(弱接着有無判定ステップS24でYes)、弱接着パラメータ算出ステップS25へ処理を進めるステップである。
【0066】
弱接着パラメータ算出ステップS25は、接着層1Aが有する弱接着に関するパラメータを算出するステップである。弱接着パラメータ算出ステップS25では、具体的には、係数比較部39が、反射係数算出ステップS22で取得した反射係数Rの実測値の周波数関数におけるノッチ周波数と、反射係数比較ステップS23で取得した反射係数Rの理論値の周波数関数における複数のノッチ周波数とがいずれも所定の誤算の範囲内で一致する際のバネ定数KN2の値を、評価に供した評価対象物1の接着層1Aに関するパラメータとして算出する。
【0067】
反射係数算出ステップS22で取得した反射係数Rの実測値の周波数関数におけるノッチ周波数は、図5に示すように、実施形態1で説明している理論モデルを使用する場合、その一部が、バネ定数KN2の値に依存して変化している。また、バネ定数KN2の値に依存してノッチ周波数が変化するピークについて、図5に示すように、バネ定数KN2の値とノッチ周波数とは一対一の関係にあることがわかる。このため、弱接着パラメータ算出ステップS25では、係数比較部39が、反射係数Rの実測値の周波数関数におけるノッチ周波数に基づいて、反射係数算出ステップS22で取得した反射係数Rの実測値の周波数関数を用いて、バネ定数KN2の値を一意に算出することができる。
【0068】
弱接着パラメータ算出ステップS25では、係数比較部39が、弱接着と評価された反射係数Rの実測値における周波数関数曲線のノッチ周波数に、反射係数Rの理論値における周波数関数曲線のノッチ周波数を、バネ定数KN2を変化させて合わせ込む。これにより、弱接着パラメータ算出ステップS25では、弱接着と評価された反射係数Rの実測値における周波数関数曲線のノッチ周波数と、反射係数Rの理論値における周波数関数曲線のノッチ周波数とが、バネ定数KN2のバネ定数KN1に対する比が所定の比率となったときに、複数のノッチ周波数がいずれも所定の誤差の範囲内で一致する。弱接着パラメータ算出ステップS25では、反射係数Rの実測値における周波数関数曲線のノッチ周波数と、反射係数Rの理論値における周波数関数曲線のノッチ周波数とが、所定の誤差の範囲内で一致したときのバネ定数KN2のバネ定数KN1に対する所定の比率を、健全な接着を基準としたときの弱接着の接着強度であるとして算出する。
【0069】
なお、実施形態1では、上記のように、接着層1Aの弱接着を評価した後に、弱接着である場合に、接着層1Aに関するパラメータを取得したが、この構成に限定されない。反射係数比較ステップS23について、実質的に、上記した弱接着有無判定ステップS24及び弱接着パラメータ算出ステップS25の処理を含む形で、効率的な処理を実行することができる。この場合、反射係数比較ステップS23では、係数比較部39が、具体的には、反射係数Rの実測値のノッチ周波数に、理論モデルにおける接着層1Aに関するパラメータであるバネ定数KN2を変化させることで反射係数Rの理論値のノッチ周波数を合わせ込むことで、接着層1Aに関するパラメータであるバネ定数KN2を導出し、接着層1Aに関するパラメータであるバネ定数KN2が、健全な接着を形成している時の接着に関するパラメータであるバネ定数KN1よりも下回っている場合、接着層1Aは弱接着を有すると評価することができる。
【0070】
また、反射波検出ステップS11、参照波検出ステップS12及び検出波評価ステップS13を有する実施形態に係る接着層評価方法を、評価対象物1の接着層1Aの面内方向の複数の位置で実施することで、接着層1Aにおける弱接着の有無の面内方向の分布、並びに、接着層1Aにおける接着強度の面内方向の分布を算出することができる。
【0071】
以上のように、実施形態1によれば、超音波の反射波12Bを使用して、接着層1Aが弱接着を有するか否かを評価することができるので、評価対象物1を破壊することなく弱接着を検出することができる。つまり、評価対象物1の片側から超音波探触子13を用いて、反射波12Bとなる超音波を検出することで、弱接着を検出することができる。
【0072】
また、実施形態1によれば、反射波12Bと参照波とをそれぞれ周波数解析して得られた反射波12Bと参照波との振幅スペクトルの強度比に基づいて反射係数Rの実測値を算出し、この反射係数Rの実測値を理論モデルに基づいて算出される反射係数Rの理論値とを比較して、接着層1Aが弱接着を有するか否かを評価する。このため、超音波の反射波12Bについて、接着層1Aの接着性を顕著に表す係数を用いるので、接着層1Aが弱接着を有するか否かを高い精度で評価することができる。
【0073】
また、実施形態1によれば、検出波評価部36が、反射係数Rの実測値のノッチ周波数に、理論モデルにおける接着層1Aに関するパラメータであるバネ定数KN2を変化させることで、反射係数Rの理論値のノッチ周波数を合わせ込む。これにより、接着層1Aに関するパラメータであるバネ定数KN2を導出し、バネ定数KN2が、健全な接着を形成している時の接着に関するパラメータであるバネ定数KN1よりも下回っている場合、接着層1Aは弱接着を有すると評価することができる。このため、接着層1Aが弱接着を有するか否かをより高い精度で効率よく評価することができる。
【0074】
また、実施形態1によれば、評価対象物1に関する理論モデルとして、接着層1Aを2箇所のスプリング界面1D,1Eで結合した理論モデルを採用して、剛性マトリックス法を用いて、反射係数Rの理論値等を算出処理する。このため、超音波の反射波12Bについて、実際に弱接着の要因が発生しやすい界面に界面応力を設定して剛性解析する妥当性の高い理論モデル及び計算手法を用いて、接着層1Aが弱接着を有するか否かを評価することができるので、現実に即した理論モデル及び計算手法に裏付けがなされた弱接着の検出を実行することができる。
【0075】
なお、実施形態1では、超音波照射装置11及び超音波検出装置12として、超音波を評価対象物1へ向けて照射すると共に、評価対象物1から反射された超音波を検出する超音波探触子13を用いたが、これに限定されない。例えば、評価対象物1を励起させ、評価対象物から発生した弾性波を検出するものであってもよい。評価対象物1を励起させる装置として、例えば、超音波トランスデューサ、レーザーまたはEMAT等を用いた音場・弾性波動場、電磁波または電場・磁場等による電磁場により、評価対象物1を励起させる装置であってもよい。
【0076】
また、実施形態1では、接着層1Aに関するパラメータとして、バネ定数KN1,KN2に基づく接着界面剛性を算出したが、理論モデルにおいて接着層の厚さhadも接着層1Aに関するパラメータとして組み込むことで、同様の方法を用いて、接着層厚hadを算出することも可能である。同様に、接着層1Aに関するパラメータとして、上記した界面剛性の界面パラメータ、接着層厚hadの形状パラメータの他、物性パラメータを組み込むことで、同様の方法を用いて、物性パラメータを算出することも可能である。
【0077】
また、実施形態1では、周波数特性として、ノッチ周波数の振幅スペクトルを適用したが、特に限定されない。超音波検出装置12により検出された反射波12Bの周波数特性の実測値と、理論モデルを用いて算出された反射波12Bの周波数特性の理論値と合わせ込んで、接着層1Aに関するパラメータの評価が可能であれば、何れの周波数特性を適用してもよい。
【0078】
[実施形態2]
次に、図6を参照して、実施形態2に係る接着層評価システム50及び接着層評価方法について説明する。なお、実施形態2では、重複した記載を避けるべく、実施形態1と異なる部分について説明し、実施形態1と同様の構成である部分については、同じ符号を付して説明する。図6は、実施形態2に係る接着層評価システムの具体的な構成例を示す図である。
【0079】
実施形態2の接着層評価システム50は、実施形態1の超音波照射装置11及び超音波検出装置12をそれぞれ別体とし、評価対象物1を挟んで、評価対象物1の両側に配置されている。つまり、超音波照射装置11と超音波検出装置12との間には、評価対象物1を設置する設置部14が位置している。
【0080】
接着層評価システム50は、超音波照射装置11、超音波検出装置12、設置部14及び水槽20が以上のような配置をしている。このため、超音波照射装置11の照射面11Aから照射波11Bが照射される。すると、照射波11Bは、水槽20に貯留された水21を媒介として、評価対象物1に照射される。照射波11Bは、評価対象物1を透過して透過波12Cとなり、透過波12Cは、超音波検出装置12へ向かって伝播する。このため、超音波検出装置12の検出面12Aは、透過波12Cを検出する。
【0081】
また、接着層評価システム50では、超音波照射装置11の照射面11Aと、超音波検出装置12の検出面12Aと、設置部14に設置される評価対象物1の接着層1Aと、が、互いに平行になるように配設されている。つまり、接着層評価システム50では、評価対象物1の接着層1Aの界面に対して、超音波が垂直方向に照射されるように、また、超音波が垂直方向に透過されるように、評価対象物1が配置されている。このため、接着層評価システム50は、超音波照射装置11の照射面11Aから、接着層1Aに対して垂直方向に照射波11Bを照射する。また、接着層評価システム50は、評価対象物1を透過する透過波12Cが、照射波11Bと同じ方向に伝播し、超音波検出装置12の検出面12Aで透過波12Cを検出する。つまり、照射波11Bの入射角度と透過波12Cの出射角度とは、評価対象物1の接着層1Aの接着界面に対して、いずれも0度となっている。
【0082】
制御装置30の係数算出部38は、検出される超音波が透過波12Cであることから、透過波12Cの周波数特性としての透過係数Tの実測値を算出する。係数算出部38は、より詳細には、周波数fごとに、透過波12Cの振幅スペクトルの強度から参照波の振幅スペクトルの強度を除すことにより、透過係数Tの実測値の周波数関数を取得する。なお、透過係数Tは、その性質上、超音波が全く透過しない時に0をとり、超音波が完全に透過する時に1を取り、0以上1以下の値を取る係数である。なお、透過係数Tは、理論上においては、1以下となるが、実測上においては、1以上の値を取り得る。
【0083】
制御装置30の係数比較部39は、係数算出部38が算出した透過係数Tの実測値が極大となる周波数fと、接着層1Aが弱接着を有さずに健全な接着をしていると仮定をした場合の理論モデルに基づいて算出される透過係数Tの理論値が極大となる周波数fとを比較して、それらが所定の誤差の範囲内で一致する場合に、接着層1Aは弱接着を有さない旨の評価をし、それらが所定の誤差を超えた有意差を有する場合に、接着層1Aは弱接着を有する旨の評価をする。つまり、透過係数Tの実測値の周波数関数及び透過係数Tの理論値の周波数関数の双方について、その値が極大となる周波数fのことを、ピーク周波数としている。
【0084】
なお、実施形態2の接着層評価システム50を用いた接着層評価方法では、実施形態1の接着層評価方法における反射係数Rのノッチ周波数を、透過係数Tのピーク周波数に読み替えても成立する。つまり、透過係数Tの実測値の周波数関数におけるピーク周波数と、バネ定数KN2がバネ定数KN1と等しいとした場合の透過係数Tの理論値の周波数関数における複数のピーク周波数とがいずれも所定の誤算の範囲内で一致する場合に、接着層1Aが弱接着を有さない旨の評価をする。一方で、透過係数Tの実測値の周波数関数におけるピーク周波数と、バネ定数KN2がバネ定数KN1と等しいとした場合の透過係数Tの理論値の周波数関数における複数のピーク周波数とが所定の誤差を超えた有意差を有する場合に、接着層1Aが弱接着を有する旨の評価をする。
【0085】
以上のように、実施形態2によれば、超音波の透過波12Cを使用して、接着層1Aが弱接着を有するか否かを評価することができるので、評価対象物1を破壊することなく弱接着を検出することができる。
【0086】
[実施形態3]
次に、図7及び図8を参照して、実施形態3に係る接着層評価システム60及び接着層評価方法について説明する。なお、実施形態3でも、重複した記載を避けるべく、実施形態1及び2と異なる部分について説明し、実施形態1及び2と同様の構成である部分については、同じ符号を付して説明する。図7は、実施形態3に係る接着層評価システムの具体的な構成例を示す図である。図8は、実施形態3に係る理論モデルの一例を示す説明図である。
【0087】
実施形態3の接着層評価システム60は、実施形態1の超音波照射装置11及び超音波検出装置12をそれぞれ別体とし、評価対象物1の接着層1Aの接着界面に対して、所定の傾斜角度をもって超音波を照射する斜角入射を行っている。つまり、超音波照射装置11及び超音波検出装置12は、評価対象物1の超音波が反射される側に設けられる。また、超音波照射装置11は、評価対象物1の接着層1Aの接着界面に対して、所定の入射角度で照射波11Bを照射する。超音波検出装置12は、所定の反射角度で反射した反射波12Bを検出する。
【0088】
接着層評価システム60は、超音波照射装置11、超音波検出装置12、設置部14及び水槽20が以上のような配置をしている。このため、超音波照射装置11の照射面11Aから照射波11Bが照射される。すると、照射波11Bは、水槽20に貯留された水21を媒介として、評価対象物1に照射される。照射波11Bは、評価対象物1において一部が反射して反射波12Bとなり、反射波12Bは、超音波検出装置12へ向かって伝播する。このため、超音波検出装置12の検出面12Aは、反射波12Bを検出する。
【0089】
また、接着層評価システム60では、超音波照射装置11の照射面11Aが、設置部14に設置される評価対象物1の接着層1Aの界面に対して、傾斜するように配設され、超音波検出装置12の検出面12Aが、設置部14に設置される評価対象物1の接着層1Aの界面に対して、傾斜するように配設されている。つまり、接着層評価システム60では、評価対象物1の接着層1Aの接着界面に対して、超音波が垂直方向に対して傾斜する傾斜方向に照射されるように、また、超音波が傾斜方向に反射されるように、評価対象物1が配置されている。このため、接着層評価システム60は、超音波照射装置11の照射面11Aから、接着層1Aに対して傾斜方向に照射波11Bを照射する。また、接着層評価システム60は、評価対象物1から反射した反射波12Bが、垂直方向に対して照射波11Bと対称となる傾斜方向に伝播し、超音波検出装置12の検出面12Aで反射波12Bを検出する。
【0090】
制御装置30の係数比較部39は、検出される超音波が傾斜方向となる反射波12Bであることから、反射係数比較ステップS23で使用する反射係数Rの理論値を算出する際に用いる理論モデルは、図8に示すものが用いられる。
【0091】
図8に示す理論モデルでは、評価対象物1は、被着体1Bと接着層1Aとの界面にスプリング界面1Dが設けられ、接着層1Aと被着体1Cとの界面にスプリング界面1Eが設けられ、接着層1Aを2箇所のスプリング界面1D,1Eで結合したものとしている。この理論モデルでは、スプリング界面1Dにおける接着界面剛性をバネ定数KN1[単位;MPa/nm]及びバネ定数KT1[単位;MPa/nm]によって設定し、スプリング界面1Eにおける接着界面剛性をバネ定数KN2[単位;MPa/nm]及びバネ定数KT2[単位;MPa/nm]によって設定している。バネ定数KN1,KN2は、スプリング界面1D,1Eにおける接着界面剛性が、垂直方向における成分の剛性となるように設定されている。バネ定数KT1,KT2は、スプリング界面1D,1Eにおける接着界面剛性が、垂直方向に直交する接着界面の面内方向における成分の剛性となるように設定されている。
【0092】
なお、実施形態3の接着層評価システム60を用いた接着層評価方法では、実施形態1の理論モデルに代えて、実施形態3の理論モデルを用いることで成立する。つまり、実施形態3の理論モデルを用いて算出される反射係数Rは、垂直方向における成分の剛性のバネ定数KN2と、面内方向における成分の剛性のバネ定数KT2とを考慮できる。このため、接着層1Aの垂直方向における接着界面剛性だけでなく、面内方向(せん断方向)における接着界面剛性を評価することができる。
【0093】
以上のように、実施形態3によれば、接着層1Aの界面における垂直方向と面内方向とにおいて弱接着を有するか否かを評価することができるので、評価対象物1を破壊することなく弱接着を検出することができる。
【0094】
[実施形態4]
次に、図9を参照して、実施形態4に係る接着層評価システム70及び接着層評価方法について説明する。なお、実施形態4では、重複した記載を避けるべく、実施形態2と異なる部分について説明し、実施形態2と同様の構成である部分については、同じ符号を付して説明する。図9は、実施形態4に係る接着層評価システムの具体的な構成例を示す図である。
【0095】
実施形態4の接着層評価システム70は、実施形態2の超音波照射装置11と超音波検出装置12との間に配置された評価対象物1の接着層1Aの接着界面に対して、所定の傾斜角度をもって超音波を照射する斜角入射を行っている。つまり、設置部14に設置された評価対象物1は、照射波11Bの照射方向に対して、傾斜するように配置されている。このため、超音波照射装置11は、評価対象物1の接着層1Aの接着界面に対して、所定の入射角度で照射波11Bを照射する。超音波検出装置12は、所定の出射角度で透過した透過波12Cを検出する。
【0096】
また、接着層評価システム70では、設置部14に設置される評価対象物1の接着層1Aの界面が、超音波照射装置11の照射面11Aに対して、傾斜するように配置されるとともに、超音波検出装置12の検出面12Aに対して、傾斜するように配置される。なお、超音波照射装置11の照射面11Aと、超音波検出装置12の検出面12Aとは、互いに平行になるように配設されている。このとき、超音波は評価対象物1中において屈折することから、屈折する分だけ、超音波照射装置11の照射面11Aと、超音波検出装置12の検出面12Aとの位置が異なるものとなっている。つまり、接着層評価システム70では、評価対象物1の接着層1Aの界面に対して、超音波が垂直方向に対して傾斜する傾斜方向に照射されるように、また、超音波が傾斜方向に透過するように、評価対象物1が配置されている。このため、接着層評価システム70は、超音波照射装置11の照射面11Aから、接着層1Aに対して傾斜方向に照射波11Bを照射する。また、接着層評価システム70は、評価対象物1を透過した透過波12Cが、垂直方向に対して傾斜する傾斜方向に出射し、超音波検出装置12の検出面12Aで透過波12Cを検出する。
【0097】
制御装置30の係数比較部39は、検出される超音波が傾斜方向となる透過波12Cであることから、実施形態2と同様に、透過係数Tの実測値が極大となるピーク周波数が用いられ、また、反射係数比較ステップS23で使用する透過係数Tの理論値を算出する際に用いる理論モデルは、実施形態3と同様に、図8に示すものが用いられる。
【0098】
なお、実施形態4の接着層評価システム70を用いた接着層評価方法では、実施形態2のピーク周波数と、実施形態3の図8の理論モデルとを用いて、実施形態1と同様のステップを実行することで、接着層1Aに関するパラメータを評価することができる。
【0099】
以上のように、実施形態4によれば、超音波の透過波12Cを使用して、接着層1Aの界面における垂直方向と面内方向とにおいて弱接着を有するか否かを評価することができるので、評価対象物1を破壊することなく弱接着を検出することができる。
【0100】
なお、実施形態1から4では、超音波として、反射波12Bまたは透過波12Cを用いたが、評価対象物1から発生する散乱波を用いてもよい。
【符号の説明】
【0101】
1 評価対象物
1A 接着層
1B,1C 被着体
1D,1E スプリング界面
10 接着層評価システム
11 超音波照射装置
11A 照射面
11B 照射波
12 超音波検出装置
12A 検出面
12B 反射波
12C 透過波
13 超音波探触子
14 設置部
20 水槽
21 水
30 制御装置
31 処理部
32 記憶部
33 入出力インターフェース
34 超音波照射制御部
35 超音波検出制御部
36 検出波評価部
37 周波数解析部
38 係数算出部
39 係数比較部
41 実測値の周波数関数曲線
42 理論値の周波数関数曲線
50 接着層評価システム
60 接着層評価システム
70 接着層評価システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9