(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】設計支援装置、設計支援方法及び設計支援プログラム
(51)【国際特許分類】
H02P 5/46 20060101AFI20240116BHJP
【FI】
H02P5/46 D
(21)【出願番号】P 2020010167
(22)【出願日】2020-01-24
【審査請求日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2019010593
(32)【優先日】2019-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桐淵 岳
(72)【発明者】
【氏名】財津 俊行
(72)【発明者】
【氏名】蘆田 岳史
(72)【発明者】
【氏名】土井 昌志
(72)【発明者】
【氏名】伊東 淳一
(72)【発明者】
【氏名】日下 佳祐
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-336622(JP,A)
【文献】国際公開第2020/153488(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 5/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インバータ回路と電動機とを含む複数台のサーボ装置に直流電源からDCバスにより電力が供給されるDC給電システムの設計を支援する設計支援装置において、
前記DC給電システムの前記DCバス及び前記複数台のサーボ装置の構成を示すシステム情報と、前記複数台のサーボ装置のそれぞれの動作パターンを示す動作パターン情報とを取得する取得手段と、
前記DC給電システムを前記複数台のサーボ装置を含む負荷側部と前記負荷側部に電力を供給する電源側部とを
前記DCバスで接続した接続システムであると見做した場合における前記電源側部の出力インピーダンスZo(s)(sはラプラス演算子)と、前記負荷側部の入力インピーダンスZin(s)であって、前記DCバスを流れる電流値であるバス電流値及び当該バス電流値の、前記電動機のq軸電流への変換率αとの関数でもあるZin(s)とに基づき、前記DC給電システムの安定性に関する情報を出力する出力手段と、
前記取得手段により取得された前記システム情報と各サーボ装置について取得された前記動作パターン情報とに基づき、前記DCバスを介して前記複数台のサーボ装置へ供給される総電流値の時間変化パターンを示す時系列電流データを生成し、前記DCバスを流れる電流値が、生成した前記時系列電流データの最大値となる場合における前記情報を前記出力手段に出力させ、該情報に基づいて前記動作パターン情報を変更する制御手段と、
を備える設計支援装置。
【請求項2】
前記出力手段は、“Zo(s)/Zin(s)”のナイキスト線図を出力する、
ことを特徴とする請求項1に記載の設計支援装置。
【請求項3】
前記出力手段は、Zo(s)及びZin(s)のボード線図を出力する、
ことを特徴とする請求項1に記載の設計支援装置。
【請求項4】
前記出力手段は、各サーボ装置の入力インピーダンスZin(s)を、以下の(1)~(
4)式から求め、求めたZin(s)を合成することで、前記負荷側部の入力インピーダンスZin(s)を求める、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の設計支援装置。
【数1】
なお、Vb、Ibは、それぞれ、前記DCバスの電圧、電流であり、Rm、Lmは、各サーボ装置内の電動機の抵抗、インダクタンスであり、Kp、Kiは、それぞれ、各サーボ装置内の電動機へのq軸電流を電流指令と一致させるために行われるPI制御の比例ゲイン、積分ゲインである。
【請求項5】
インバータ回路と電動機とを含む複数台のサーボ装置に直流電源からDCバスにより電力が供給されるDC給電システムの設計を支援する設計支援方法において、
前記DC給電システムの前記DCバス及び前記複数台のサーボ装置の構成を示すシステム情報と、前記複数台のサーボ装置のそれぞれの動作パターンを示す動作パターン情報とに基づき、前記DCバスを介して前記複数台のサーボ装置へ供給される総電流の時間変化パターンを示す時系列電流データを生成し、
前記DC給電システムを前記複数台のサーボ装置を含む負荷側部と前記負荷側部に電力を供給する電源側部とを
前記DCバスで接続した接続システムであると見做した場合における前記電源側部の出力インピーダンスZo(s)(sはラプラス演算子)と、前記負荷側部の入力インピーダンスZin(s)であって、前記DCバスを流れる電流値であるバス電流値及び当該バス電流値の、前記電動機のq軸電流への変換率αとの関数でもあるZin(s)とに基づき、前記DCバスを流れる電流値が、生成された前記時系列電流データの最大値となる場合における前記DC給電システムの安定性に関する情報を出力し、該情報に基づいて前記動作パターン情報を変更する、
設計支援方法。
【請求項6】
コンピュータを、請求項1から4のいずれか一項に記載の設計支援装置として動作させる設計支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設計支援装置と設計支援方法と設計支援プログラムとに関する。
【背景技術】
【0002】
工場等では、複数の電動機が、離れた場所に配置された複数のサーボドライバにてPWM駆動されるシステム(ロボットとその制御装置とで構成されたシステム等)が使用されている。そのようなシステムには、電動機・サーボドライバ間の長いケーブルからの放射ノイズを低減するために、スイッチングスピードを速くできない、電動機・サーボドライバ間の接続に多数のケーブルが必要とされる、といった問題がある。
【0003】
各電動機の近傍にサーボドライバ内のインバータ回路のみを配置し、1つの直流電源からDCバスにて複数のインバータ回路に電力を供給する構成を採用しておけば、上記問題が発生しないようにすることが出来る。ただし、この構成を採用したシステムでは、DCバス側のLC回路とインバータ回路側とが干渉して、システムの動作が不安定となる場合があることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。そのため、上記構成の採用時には、各インバータ回路に対する制御内容を考慮して安定性を解析することが望まれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】横尾 真志, 近藤 圭一郎,「直流電気鉄道車両におけるベクトル制御された誘導電動機駆動システムのダンピング制御系設計法」、電気学会論文誌D,Vol. 135 No.6 pp.622-631(2015)
【文献】R. D. Middlebrook, "Input Filter Considerations in Design and Application of Switching Regulators", Proc, IEEE Industrial Application Society Annual Meeting pp.363-382 (1976)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みなされたものであり、インバータ回路と電動機とを含む複数台のサーボ装置に直流電源からDCバスにより電力が供給されるDC給電システムの安定性を、各サーボ装置に対する制御内容を考慮して解析(評価)し、それを制御内容に反映する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点に係る設計支援装置は、インバータ回路と電動機とを含む複数台のサーボ装置に直流電源からDCバスにより電力が供給されるDC給電システムの設計を支援する装置であって、前記DC給電システムの前記DCバス及び前記複数台のサーボ装置の構成を示すシステム情報と、前記複数台のサーボ装置のそれぞれの動作パターンを示す動作パターン情報とを取得する取得手段と、前記DC給電システムを前記複数台のサーボ装置を含む負荷側部と前記負荷側部に電力を供給する電源側部とを接続した接続システムであると見做した場合における前記電源側部の出力インピーダンスZo(s)(sはラプラス演算子)と、前記負荷側部の入力インピーダンスZin(s)であって、前記DCバスを流れる電流値であるバス電流値及び当該バス電流値の、前記電動機のq軸電流への変換率αとの関数でもあるZin(s)とに基づき、前記DC給電システムの安定性に関する情報を出力する出力手段と、前記取得手段により取得された前記システム情報と各サーボ装置について取得された前記動作パターン情報とに基づき、前記DCバスを介して前記複数台のサーボ装置へ供給される総電流値の時間変化パターンを示す時系列電流データを生成し、前
記DCバスを流れる電流値が、生成した前記時系列電流データの最大値となる場合における前記情報を前記出力手段に出力させ、該情報に基づいて前記動作パターン情報を変更する制御手段と、を備える。
【0007】
すなわち、インバータ回路と電動機とを含む複数台のサーボ装置に直流電源からDCバスにより電力が供給されるDC給電システムが不安定になるのは、DCバスに大きな電流が流れるときである。上記したように、設計支援装置は、各サーボ装置について取得された動作パターン情報に基づき、DCバスを介して前記複数台のサーボ装置へ供給される総電流値の時間変化パターンを示す時系列電流データを生成し、DCバスを流れる電流が、生成した前記時系列電流データの最大値となる場合におけるDC給電システムの安定性に関する情報を出力する構成を有する。従って、設計支援装置によれば、インバータ回路と電動機とを含む複数台のサーボ装置に直流電源からDCバスにより電力が供給されるDC給電システムの安定性を、各サーボ装置に対する制御内容を考慮して、解析(評価)し、その解析結果を考慮して、DC給電システムが不安定とならない、実際にサーボ装置を駆動するための動作パターンを得ることが出来る。
【0008】
設計支援装置の出力手段は、DC給電システムの安定性に関する情報をどのような形で出力するものであっても良い。具体的には、出力手段は、前記DC給電システムの安定性に関する情報(ナイキスト線図やボード線図)をディスプレイの画面上に表示するものであっても、ナイキスト線図等を表すデータ(数値群)を出力するものであっても良い。
【0009】
また、出力手段は、各サーボ装置の入力インピーダンスZin(s)を、以下の(1)~(4)式から求め、求めたZin(s)を合成することで、前記負荷側部の入力インピーダンスZin(s)を求めても良い。
【0010】
【0011】
なお、Vb、Ibは、それぞれ、前記DCバスの電圧、電流であり、Rm、Lmは、各サーボ装置の電動機の抵抗、インダクタンスであり、Kp、Kiは、それぞれ、各サーボ装置の電動機へのq軸電流を電流指令と一致させるために行われるPI制御の比例ゲイン、積分ゲインである。
【0012】
また、本発明の一観点に係る、インバータ回路と電動機とを含む複数台のサーボ装置に直流電源からDCバスにより電力が供給されるDC給電システムの設計を支援する設計支援方法は、前記DC給電システムの前記DCバス及び前記複数台のサーボ装置の構成を示
すシステム情報と、前記複数台のサーボ装置のそれぞれの動作パターンを示す動作パターン情報とに基づき、前記DCバスを介して前記複数台のサーボ装置へ供給される総電流の時間変化パターンを示す時系列電流データを生成し、前記DC給電システムを前記複数台のサーボ装置を含む負荷側部と前記負荷側部に電力を供給する電源側部とを接続した接続システムであると見做した場合における前記電源側部の出力インピーダンスZo(s)(sはラプラス演算子)と、前記負荷側部の入力インピーダンスZin(s)であって、前記DCバスを流れる電流値であるバス電流値及び当該バス電流値の、前記電動機のq軸電流への変換率αとの関数でもあるZin(s)とに基づき、前記DCバスを流れる電流値が、生成された前記時系列電流データの最大値となる場合における前記DC給電システムの安定性に関する情報を出力し、該情報に基づいて前記動作パターン情報を変更する。また、本発明の一観点に係る設計支援プログラムは、 コンピュータを、上記したいずれかの構成
の設計支援装置として動作させる。従って、これらの技術によっても、DC給電システムの安定性を、各サーボ装置に対する制御内容を考慮して解析(評価)し、DC給電システムが不安定とならない、実際にサーボ装置を駆動するための動作パターンを得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、インバータ回路と電動機とを含む複数台のサーボ装置に直流電源からDCバスにより電力が供給されるDC給電システムの安定性を、各サーボ装置に対する制御内容を考慮して、解析(評価)し、それを制御内容に反映することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る設計支援装置のブロック図である。
【
図2】
図2は、設計支援装置により安定性が解析さるDC給電システムの構成例の説明図である。
【
図3】
図3は、サーボ装置が備える制御部のq軸電流の制御内容を示す制御ブロック図である。
【
図5A】
図5Aは、動作パターン情報通りの制御により各サーボ装置が安定して動作する場合に表示されるナイキスト線図の形状例の説明図である。
【
図5B】
図5Bは、動作パターン情報通りの制御では各サーボ装置が安定して動作しない場合に表示されるナイキスト線図の形状例の説明図である。
【
図6】
図6は、Z
D(s)、T(s)を特定するために設計支援装置が使用する、q軸電流の制御内容を示す制御ブロック図である。
【
図7】
図7は、設計支援装置により安定性が解析できることを確認するために行った実験結果の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
図1に、本発明の一実施形態に係る設計支援装置10のブロック図を示し、
図2に、設計支援装置10によりその安定性が解析されるDC給電システムの構成例を示す。
【0017】
本実施形態に係る設計支援装置10(
図1)は、
図2に示したような構成のDC給電システムの安定性を解析することで、当該DC給電システムの設計を支援するために開発した装置である。
【0018】
具体的には、
図2に示してあるように、設計支援装置10が安定性を解析するDC給電システム(以下、解析対象システムとも表記する)は、インバータ回路41、電動機42及び制御部43により構成された複数台のサーボ装置に、DCバス35を介して、直流電
源31からの電力が供給されるシステムである。
【0019】
解析対象システム内の各サーボ装置の電動機42は、永久磁石同期電動機である。また、各サーボ装置の制御部43は、電動機42に取り付けられたエンコーダ(図示略)及び電動機42の駆動電流を検知するセンサ(図示略)からの情報(図では、θ、iu、iv)に基づき、非干渉化補償を伴うベクトル制御を、d軸電流Id=0として行うユニットである。
【0020】
より詳細には、制御部43は、
図3に示したように、q軸電流を制御するユニットとなっている。なお、この
図3は、制御部43のq軸電流の制御内容を示す制御ブロック図である。また、
図3において、Ktは、電動機42のトルク定数であり、K
eは、電動機42の誘起電圧定数である。J、Dr、Kは、それぞれ、機械系(電動機42と電動機42にて駆動される機械)のイナーシャ、粘性、ばね定数である。I
q_refは、基準電流(電流指令)であり、I
qは、d
q変換した電動機42の電流(q軸電流)である。電流補償器45は、IqをI
q_refと一致させるためのPI補償器である。
【0021】
図1に戻って、設計支援装置10の構成及び機能を説明する。
図示してあるように、設計支援装置10は、キーボード、マウス等の入力装置11と、ディスプレイ12と、本体部13とを備える。
【0022】
本体部13は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory
)、不揮発性記憶装置16(ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ等)等で構成されたユニットである。この本体部13の不揮発性記憶装置16には、設計支援プログラム18がインストールされており、CPUが設計支援プログラム18をRAM上に読み出して実行することで、本体部13は、UI処理部14及び安定性解析処理部15として動作する。
【0023】
UI処理部14は、ディスプレイ12の画面上に各種画像情報を表示しながら、入力装置11に対する操作を通じて、ユーザから、システム情報とサーボ装置毎の動作パターン情報とを取得するユニットである。
【0024】
UI処理部14がユーザから取得するシステム情報は、解析対象システムの構成を示す情報である。UI処理部14は、このシステム情報として、ユーザから、以下の情報を取得する。
・解析対象システムの電源側部30を、
図4に示した構成のLC並列回路として取り扱うためのLC並列回路指定情報
・直流電源31(系統電圧を直流化するコンバータ等)の出力電圧V
b(以下、DCバス電圧V
bとも表記する)
・各サーボ装置の電動機42のインダクタンスL
m、電機子抵抗R
m
・各サーボ装置の電流補償器45(
図3)の比例ゲインK
p及び積分ゲインK
i
【0025】
UI処理部14がユーザから取得するLC並列回路指定情報は、
図4におけるC
bに、各インバータ回路41の入力コンデンサの容量及びDCバスの容量を含めたものである。
【0026】
また、UI処理部14は、ユーザから表示対象指定情報を取得する。表示対象指定情報は、安定性解析処理部15にナイキスト線図を表示させる1つ以上のDCバス電流Ibを指定する情報である。この表示対象指定情報は、1つ以上のDCバス電流Ibを、直接的に指定する情報であっても、間接的に指定する情報であっても良い。
【0027】
UI処理部14がユーザから取得するサーボ装置毎の動作パターン情報は、各サーボ装
置を動作させるために、各制御部43に入力される指令値群(位置指令の時系列データ等)である。
【0028】
UI処理部14は、通常は、システム情報と各(全)サーボ装置の動作パターン情報がユーザにより入力されるのを待機している。そして、UI処理部14は、それらの情報の入力完了後に、ユーザから安定解析処理の実行指示が入力された場合には、安定性解析処理の開始を安定性解析処理部15に指示する。
【0029】
安定性解析処理部15が実行する安定性解析処理は、総電流算出処理とナイキスト線図表示処理とを含む。
総電流算出処理は、システム情報中の各サーボ装置に関する情報(インダクタンスLm比例ゲインKp等)と、各サーボ装置の動作パターン情報とに基づき、各サーボ装置に直流電源31から供給される電流の時系列データを生成し、生成した時系列データにおける同時刻の電流値を加算し、加算結果から、DCバス35を流れる電流の最大値(以下、最大電流値と表記する)を算出する処理である。
【0030】
ナイキスト線図表示処理は、基本的には、システム情報に基づき、解析対象システム(
図2)の電源側部30の出力インピーダンスZ
o(s)(sは、ラプラス演算子)と解析対象システムの負荷側部40の入力インピーダンスZ
in(s)とを特定し、特定したZ
o(
s)及びZ
in(s)から“Z
o(s)/Z
in(s)”のナイキスト線図をディスプレイ12
の画面上に表示する処理である。ただし、ナイキスト線図表示処理は、負荷側部40の入力インピーダンスZ
in(s)として、s及びDCバス電流I
bと相関する電流指定値(後述するD値)の関数を用いる処理であると共に、DCバス電流I
bが、総電流算出処理により算出された最大電流値である場合のナイキスト線図を表示する処理となっている。
【0031】
そのため、安定性解析処理が行われると、ディスプレイ12の画面上に、例えば、
図5Aや
図5Bに示したようなナイキスト線図が表示される。なお、
図5Aに示したナイキスト線図は、動作パターン情報通りの制御により各サーボ装置が安定して動作する場合に表示されるナイキスト線図の形状例の説明図であり、
図5Bに示したナイキスト線図は、動作パターン情報通りの制御では各サーボ装置が安定して動作しない場合に表示されるナイキスト線図の形状例の説明図である。
【0032】
以下、ナイキスト線図表示処理についてさらに具体的に説明する。
【0033】
ナイキスト線図表示処理時、安定性解析処理部15は、システム情報(LC並列回路情報)に基づき、解析対象システムの電源側部30の出力インピーダンスZo(s)として、以下の(A1)式で表される関数を用意する。
【0034】
【数2】
また、安定性解析処理部15は、負荷側部40の入力インピーダンスZ
in(s)(以下、Z
inall(s)とも表記する)を求めるために、各サーボ装置に関するシステム情報(LC並列回路情報以外の情報)に基づき、各サーボ装置の入力インピーダンスZ
in(
s)として、以下の(A2)式を満たす関数を用意する。
【0035】
【数3】
この(A2)式において、Z
N(s)は、理想フィードバック時におけるサーボ装置の入力インピーダンスである。また、Z
D(s)は、無帰還時(フィードバックがない場合)におけるサーボ装置の入力インピーダンスであり、T(s)は、サーボ装置の一巡伝達関数である。
【0036】
そして、安定性解析処理部15は、(A2)式により用意した各サーボ装置のZin(
s)を合成することで、負荷側部40(複数台のサーボ装置全体)の入力インピーダンス
Zinall(s)を用意する。すなわち、安定性解析処理部15は、各サーボ装置が単軸でDCバス35に接続されていると仮定した場合の、その各サーボ装置のZin(s)をZi(s)(i=1~imax)と表記すると、以下の式を満たすZinall(s)を用意する。
【0037】
【0038】
具体的には、理想フィードバック時におけるサーボ装置の入力インピーダンスは、-Vb/Ibである。すなわち、ZN(s)を、以下の(B0)式で表すことが出来る。
【0039】
【0040】
また、サーボ装置においてフィードバックされているのは、I
qである(
図4参照)。そのため、Z
D(s)、T(s)として、それぞれ、I
qがフィードバックされていない場合におけるサーボ装置の入力インピーダンス、一巡伝達関数を使用すれば良いことになる。
【0041】
I
qがフィードバックされていない場合におけるサーボ装置の入力インピーダンス、一巡伝達関数は、
図3から求めることが出来る。ただし、Z
D(s)、T(s)として、
図3から求めた関数を用いると、ナイキスト線図表示時の計算負荷が大きくなってしまう。
【0042】
ここで、サーボ装置の機械系の応答性(通常、数百Hz)が、電源側部30の共振周波数よりもかなり低いことを考えると、H(s)を無視した制御ブロック図、すなわち、
図6に示した制御ブロック図から、I
qがフィードバックされていない場合におけるサーボ装
置の入力インピーダンス、一巡伝達関数を求めて、Z
D(s)、T(s)として使用しても、安定性を良好に評価できることになる。
【0043】
そして、PI(s)、G(s)は、それぞれ、以下の(A3)式、(A4)式で表すことが出来るため、T(s)を、(A5)式で表せる。
【0044】
【0045】
また、I
qがフィードバックされていない場合におけるサーボ装置の入力インピーダンスZ
D(s)は、電動機42の電気的時定数部分となる。ただし、
図6から求められる入力インピーダンスZ
D(s)は、V
q,I
q側の値となる。そのため、安定性解析処理部15は、変換率αについて成立する以下の(A6)式(詳細は後述)を用いて、
図6から求められる入力インピーダンスZ
D(s)を、V
q,I
q側の値に換算することにより、以下の(A7)式で表されるZ
D(s)を用意する。なお、本実施形態に係る安定性解析処理部15は、Z
D(s)を用意する際、各サーボ装置の動作パターン情報が設定されている場合には、サーボ装置に関するイナーシャ等の機械情報を用い、設定されている動作パターン情報に基づき、速度、電流指令値の変化パターンを特定し、特定結果から変換率αを算出する。また、安定性解析処理部15は、各サーボ装置の動作パターン情報が設定されていない場合には、予め用意されている動作パターン情報に基づき、上記手順で、変換率αを算出する。
【0046】
【0047】
以上のようにしてZo(s)、ZN,ZD(s)、T(s)を用意した安定性解析処理部15は、ZN,ZD(s)及びT(s)と(A2)式とから、負荷側部40(1台のサーボ装置)の入力インピーダンスZin(s)を用意する。そして、安定性解析処理部15は、用意したZin(s)及びZo(s)に基づき、表示対象指定情報が直接的/間接的に指定するDCバス電流Ib毎(本実施形態では、DCバス電流IbからD値毎)に、“Zo(s)/Zin(s)”のナイキスト線図をディスプレイ12の画面上に表示する。
【0048】
以下、幾つかの事項について補足する。
図5A、
図5Bに示したナイキスト線図は、それぞれ、最大電流値をImax1、Imax2(Imax1<Imax2)とした条件でナイキスト線図表示処理を行うことにより得られたものである。
【0049】
なお、(A5)式のKp値及びKi値としては、T(s)のボード線図における0dBを横切る周波数が所定の周波数となるように定めた値を採用した。
【0050】
図7に、ナイキスト線図表示処理を行った条件と同じ条件でDC給電システムを実際に制御した実験結果を示す。
【0051】
図7から明らかなように、速度が上昇するにつれ、DCバス電流I
bが増加していき、DCバス電流I
bがImax2に近づくまで上昇すると、
図5Bに示したナイキスト線図から判定される安定性通りに、DCバス電流I
b及びDCバス電圧V
bが発振し始めることが確認できた。
【0052】
このように、設計支援装置10(安定性解析処理部15)は、DC給電システムの実際の動作と対応するナイキスト線図(
図5A、
図5B)を表示することが出来る。従って、設計支援装置10によれば、サーボ装置(インバータ回路41)に対する制御内容を考慮してDC給電システムの安定性を解析(判定)することが出来る。
【0053】
更に、上記のディスプレイ12の画面上へのナイキスト線図の表示とともに、設計支援装置10は、上記のDC給電システムの安定性の解析(判定)結果に基づいて、当初ユーザにより入力された各サーボ装置の動作パターン情報、すなわち当該安定性解析のために使用された動作パターン情報を、DC給電システムを安定に動作させることが出来る動作パターン情報に変更する。そのような機能は、例えば、安定であることを示すナイキスト線図が得られるDCバス電流Ibを求め、求めたDCバス電流Ibと総電流算出処理で算出された最大電流値の比(Ib/最大電流値)に応じた割合で電動機42の加速度が減少するように、各サーボ装置の当初の動作パターン情報を変更することにより実現できる。これにより、DC給電システムが不安定とならない、実際にサーボ装置を駆動するための動作パターンを得ることができる。これにより、安定解析処理を終了する。
【0054】
最後に、上記した(A6)式が成立する理由を説明しておくことにする。
DCバス電圧VbとDCバス電流Ibとd軸電圧Vdとd軸電流Idとq軸電圧Vqと
q軸電流Iqとの間には、以下の(B1)式が成立する。そして、Id=0であるため、
(B1)式を以下の(B2)式に変形することが出来る。
【0055】
【0056】
(B2)式から、DCバス電流Ibとq軸電流Iqの比である変換率αについて、以下の(B3)式が成立する。従って、以下の(B4)式、すなわち、上記した(A6)式が成立することになる。
【0057】
【0058】
《変形形態》
上記した設計支援装置10は、各種の変形が可能なものである。例えば,安定性解析処理を、Zo(s)/Zin(s)のナイキスト線図ではなく、Zo(s)及びZin(s)のボード線図を表示する処理に変形しても良い。なお、ボード線図を用いる場合には、Zo(s)/Zin(s)の大きさが1以下または位相が180度以下の位相差であるときに安定とな
ると判定することが出来る。また、安定性解析処理を、ナイキスト線図やボード線図を表示する処理ではなく、ナイキスト線図やボード線図を表すデータ(数値群)を出力する処理に変形しても良い。安定性解析処理を、そのような処理に変形する場合には、安定性解析処理に、安定であるか否かを判定して判定結果を出力する機能を付与しておいても良い。また、設計支援装置10から幾つかの機能を取り除いておいても良いことや、設計支援装置10を、ネットワークを介して情報を入出力する装置(換言すれば、入力装置11、ディスプレイ12を備えない装置)に変形しても良いことは、当然のことである。
【0059】
《付記1》
インバータ回路(41)と電動機(42)とを含む複数台のサーボ装置にDCバス(35)を介して直流電源(31)から電力が供給されるDC給電システムの設計を支援する設計支援装置(10)において、
前記DC給電システムの前記DCバス(35)及び前記複数台のサーボ装置の構成を示すシステム情報と、前記複数台のサーボ装置のそれぞれの動作パターンを示す動作パターン情報とを取得する取得手段(14)と、
前記DC給電システムを前記複数台のサーボ装置を含む負荷側部(40)と前記負荷側部(40)に電力を供給する電源側部(30)とを接続した接続システムであると見做した場合における前記電源側部(30)の出力インピーダンスZo(s)(sはラプラス演算子)と、前記負荷側部(40)の入力インピーダンスZin(s)であって、前記DCバスを流れる電流値であるバス電流値及び当該バス電流値の、前記電動機のq軸電流への変換率αとの関数でもあるZin(s)とに基づき、前記DC給電システムの安定性に関する情報を出力する出力手段(15)と、
前記取得手段により取得された前記システム情報と各サーボ装置について取得された前記動作パターン情報とに基づき、前記DCバスを介して前記複数台のサーボ装置へ供給される総電流の時間変化パターンを示す時系列電流データを生成し、前記DCバスを流れる電流が、生成した前記時系列電流データの最大値となる場合における前記情報を前記出力手段に出力させ、該情報に基づいて前記動作パターン情報を変更する制御手段(15)と、
を備える設計支援装置(10)。
【符号の説明】
【0060】
10 設計支援装置
11 入力装置
12 ディスプレイ
13 本体部
14 UI処理部
15 安定性解析処理部
16 不揮発性記憶部
18 設計支援プログラム
30 電源側部
31 直流電源
40 負荷側部
41 インバータ
42 電動機
43 制御部