(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】位置保持システム
(51)【国際特許分類】
B63C 11/48 20060101AFI20240116BHJP
B63C 11/00 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
B63C11/48 D
B63C11/00 B
(21)【出願番号】P 2023125638
(22)【出願日】2023-08-01
【審査請求日】2023-08-01
(31)【優先権主張番号】P 2023041108
(32)【優先日】2023-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518291682
【氏名又は名称】株式会社テラサン
(74)【代理人】
【識別番号】100190414
【氏名又は名称】芹澤 友之
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 英樹
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】仏国特許出願公開第3014834(FR,A1)
【文献】特開2001-247085(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113697068(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0042394(KR,A)
【文献】米国特許第4624318(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0086299(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63C 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船(14)から水中に降ろされた線状物体(1)の
先端の位置を
目標位置に保持するための位置保持システム(100)であって、
前記線状物体(1)に固定的に取り付けられた本体部(20)と、
前記本体部(20)に取り付けられ、推力を発生するように構成された複数の推進器(15)と、
前記本体部(20)に取り付けられたトランスポンダ(3)と、
を備えた、
第一推進装置(2a)及び第二推進装置(2b)と、
前記複数の推進器(15)に動力を供給するように構成された動力装置(8)と、
前記複数の推進器(15)の推力を制御するように構成された制御装置(9)と、
前記
第一推進装置(2a)のトランスポンダ(3)からの音波に基づいて、前記船(14)に対する前記
第一推進装置(2
a)の相対位置を検出する
と共に、前記第二推進装置(2b)のトランスポンダ(3)からの音波に基づいて、前記船(14)に対する前記第二推進装置(2b)の相対位置を検出するように構成された位置検出装置(11)と、
前記船(14)の現在位置を検出するように構成された衛星測位システム(12)と、
を備え、
前記第一推進装置(2a)は、前記線状物体(1)の先端又は先端付近に固定的に取り付けられると共に、前記線状物体(1)の先端の位置を前記目標位置に保持するように構成され、
前記第二推進装置(2b)は、前記線状物体(1)の長手方向に沿って前記第一推進装置(2a)から所定距離だけ離れた位置において前記線状物体(1)に固定的に取り付けられると共に、前記線状物体(1)の水中姿勢を理想的な姿勢に保持するように構成され、
前記第二推進装置(2b)は、前記線状物体(1)の長手方向において、前記第一推進装置(2a)と前記船(14)との間に配置され、
前記制御装置(9)は、
前記線状物体(1)の先端の前記目標位置を設定し、
前記衛星測位システム(12)を介して前記船(14)の現在位置を取得し、
前記線状物体(1)の先端の前記目標位置と、前記第一推進装置(2a)と前記線状物体(1)の先端との間の位置関係と、前記船(14)の現在位置とに基づいて、前記第一推進装置(2a)の目標位置を設定し、
前記位置検出装置(11)を介して前記船(14)に対する前記第一推進装置(2a)の相対位置を取得し、
前記船(14)に対する前記第一推進装置(2a)の相対位置と、前記船(14)の現在位置とに基づいて、前記第一推進装置(2a)の現在位置を取得し、
前記第一推進装置(2a)の現在位置と前記第一推進装置(2a)の目標位置との間の差に基づいて、前記第一推進装置(2a)の現在位置が前記第一推進装置(2a)の目標位置に近づくように前記第一推進装置(2a)の複数の推進器(15)の推力を制御することで、前記線状物体(1)の先端の位置を前記目標位置に保持し、
前記線状物体(1)の先端の前記目標位置と、前記第二推進装置(2b)と前記線状物体(1)の先端との間の位置関係と、前記船(14)の現在位置とに基づいて、前記第二推進装置(2b)の目標位置を設定し、
前記位置検出装置(11)を介して前記船(14)に対する前記第二推進装置(2b)の相対位置を取得し、
前記船(14)に対する前記第二推進装置(2b)の相対位置と、前記船(14)の現在位置とに基づいて、前記第二推進装置(2b)の現在位置を取得し、
前記第二推進装置(2b)の現在位置と前記第二推進装置(2b)の目標位置との間の差に基づいて、前記第二推進装置(2b)の現在位置が前記第二推進装置(2b)の目標位置に近づくように前記第二推進装置(2b)の複数の推進器(15)の推力を制御することで、前記線状物体(1)の水中姿勢を前記理想的な姿勢に保持する、
ように構成される、
位置保持システム(100)。
【請求項2】
前記第一推進装置(2a)及び前記第二推進装置(2b)の各々は、
前記本体部(20)に取り付けられ、前記推進装置(2)の方位を計測するように構成された方位計(16)をさらに備え、
前記位置保持システム(100)は、
前記船(14)の方位を計測するように構成された方位計(13)をさらに備え、
前記制御装置(9)は、
前記船(14)の方位と前記
第一推進装置(2
a)の方位との間の差と、
前記第一推進装置(2a)の現在位置と前記第一推進装置(2a)の目標位置との間の差に基づいて、前記第一推進装置(2a)の現在位置が前記第一推進装置(2a)の目標位置に近づくように前記第一推進装置(2a)の複数の推進器(15)の推力を制御し、
前記船(14)の方位と前記第二推進装置(2b)の方位との間の差と、前記第二推進装置(2b)の現在位置と前記第二推進装置(2b)の目標位置との間の差に基づいて、前記第二推進装置(2b)の現在位置が前記第二推進装置(2b)の目標位置に近づくように前記第二推進装置(2b)の複数の推進器(15)の推力を制御する、
ように構成される、
請求項1に記載の位置保持システム(100)。
【請求項3】
前記複数の推進器(15)の各々は、前記複数の推進器(15)の各々の推力の方向が前記線状物体(1)を中心とする正多角形の複数の辺のうちの対応する一つに略平行となるように、配置されている、
請求項1に記載の位置保持システム(100)。
【請求項4】
前記位置保持システム(100)は、
前記線状物体(1)の先端又は先端付近に取り付けられ、前記線状物体(1)の先端の周辺環境を示す映像データを取得するように構成されたカメラ(7)をさらに備える、
請求項1に記載の位置保持システム(100)。
【請求項5】
前記位置保持システム(100)は、
前記動力装置(8)及び前記推進装置(2)に接続されると共に、前記動力装置(8)から供給される動力を前記推進装置(2)に伝送するように構成された動力伝送部材(4)をさらに備える、
請求項1に記載の位置保持システム(100)。
【請求項6】
前記複数の推進器(15)の各々は、プロペラ付き電動モータ又は水ジェット推進器である、請求項1に記載の位置保持システム(100)。
【請求項7】
前記第一推進装置(2a)及び前記第二推進装置(2b)の各々のトランスポンダ(3)からの音波を受信する受信器(10)をさらに備え、
前記位置検出装置(11)は、前記受信器(10)から出力された信号に基づいて、前記船(14)に対する前記
第一推進装置(2
a)の相対位置
と前記船(14)に対する前記第二推進装置(2b)の相対位置を検出するように構成されている、
請求項1に記載の位置保持システム(100)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置保持システムに関する。特に、本発明は、水中の線状物体の位置を保持する位置保持システムに関し、より具体的には、船から水中に降ろしたホース、パイプ、ケーブルいずれかの線状物体を、海流などの流れの有る中で目標の位置に保持する位置保持システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば海底油田の開発においては、船からライザパイプを海中に降ろして、海底に設けられている噴出防止装置に接続するオペレーションがしばしば行われる。この場合に従来は、パイプの先端の位置をカメラ等で監視しながら船の位置や水面位置でのパイプの角度などを操作して、パイプ先端の位置を制御することが行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】小寺山 亘、中村 昌彦 他4名 著、「ライザー管の動特性を考慮したDPS及びリエントリ制御の実証実験」日本船舶海洋工学会講演会論文集 第4号 2007年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、波と風と海流の影響を受ける中で、長いパイプの先端を前記の方法で位置合わせするのは極めて困難な作業であり、高い操船の技量と高価な自動船位保持装置を要するばかりでなく、天候の影響を受けて作業ができない場合が多いという問題が有った。特に水深が深くなるほど位置保持は困難と成る。例えば非特許文献1の例では、長さ2500メートルの線状物体の先端の位置を、船の位置や水面における傾きを調整することで制御する手法がとられていた。
【0005】
本発明は、波や風によって動揺する船から水中に降ろした線状物体が海流等によって流される状況であっても、線状物体の位置を保持することを可能とする位置保持システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る位置保持システムは、船(14)から水中に降ろされた線状物体(1)の位置を保持するための位置保持システム(100)であって、前記線状物体(1)に固定的に取り付けられた本体部(20)と、前記本体部(20)に取り付けられ、推力を発生するように構成された複数の推進器(15)と、前記本体部(20)に取り付けられたトランスポンダ(3)と、を備えた、一以上の推進装置(2)と、前記複数の推進器(15)に動力を供給するように構成された動力装置(8)と、前記複数の推進器(15)の推力を制御するように構成された制御装置(9)と、前記トランスポンダ(3)からの音波に基づいて、前記船(14)に対する前記推進装置(2)の相対位置を検出するように構成された位置検出装置(11)と、前記船(14)の現在位置を検出するように構成された衛星測位システム(12)と、を備える。前記制御装置(9)は、前記船(14)に対する前記推進装置(2)の相対位置と、前記船(14)の現在位置とに基づいて、前記推進装置(2)の現在位置を取得し、前記推進装置(2)の現在位置に基づいて、前記複数の推進器(15)の推力を制御する、ように構成される。
【0007】
また、前記制御装置(9)は、前記推進装置(2)の目標位置を設定し、前記推進装置(2)の現在位置を取得し、前記現在位置と前記目標位置との間の差に基づいて、前記現在位置が前記目標位置に近づくように前記複数の推進器(15)の推力を制御する、ように構成されてもよい。
【0008】
また、前記推進装置(2)は、前記線状物体(1)の先端又は先端付近に固定的に取り付けられた第一推進装置と、前記第一推進装置から所定距離だけ離れた位置において前記線状物体(1)に固定的に取り付けられた第二推進装置と、を有しもよい。前記制御装置(9)は、前記第一推進装置の第一目標位置を設定し、前記第一推進装置の第一現在位置を取得し、前記第一現在位置と前記第一目標位置との間の差に基づいて、前記第一現在位置が前記第一目標位置に近づくように前記第一推進装置の複数の推進器(15)の推力を制御し、前記第二推進装置の第二目標位置を設定し、前記第二推進装置の第二現在位置を取得し、前記第二現在位置と前記第二目標位置との間の差に基づいて、前記第二現在位置が前記第二目標位置に近づくように前記第二推進装置の複数の推進器(15)の推力を制御する、ように構成されてもよい。
【0009】
また、前記推進装置(2)は、前記本体部(20)に取り付けられ、前記推進装置(2)の方位を計測するように構成された方位計(16)をさらに備えてもよい。前記位置保持システム(100)は、前記船(14)の方位を計測するように構成された方位計(13)をさらに備えてもよい。前記制御装置(9)は、前記船(14)の方位と前記推進装置(2)の方位との間の差と、前記推進装置(2)の現在位置とに基づいて、前記複数の推進器(15)の推力を制御する、ように構成されてもよい。
【0010】
また、前記複数の推進器(15)の各々は、前記複数の推進器(15)の各々の推力の方向が前記線状物体(1)を中心とする正多角形の複数の辺のうちの対応する一つに略平行となるように、配置されてもよい。
【0011】
また、前記一以上の推進装置(2)は、複数の推進装置(2)を有してもよい。前記複数の推進装置(2)は、前記線状物体(1)の長手方向に沿って、互いに離間した状態で、前記線状物体(1)に固定的に取り付けられ、前記複数の推進装置(2)の一つは、前記線状物体(1)の先端又は先端付近に固定的に取り付けられてもよい。
【0012】
また、前記位置保持システム(100)は、前記線状物体(1)の先端又は先端付近に取り付けられ、前記線状物体(1)の先端の周辺環境を示す映像データを取得するように構成されたカメラ(7)をさらに備えてもよい。
【0013】
また、前記位置保持システム(100)は、前記動力装置(8)及び前記推進装置(2)に接続されると共に、前記動力装置(8)から供給される動力を前記推進装置(2)に伝送するように構成された動力伝送部材(4)をさらに備えてもよい。
【0014】
また、前記複数の推進器(15)の各々は、プロペラ付き電動モータ又は水ジェット推進器であってもよい。
【0015】
また、前記位置保持システム(1)は、トランスポンダ(3)からの音波を受信する受信器(10)をさらに備えてもよい。前記位置検出装置(11)は、前記受信器(10)から出力された信号に基づいて、前記船(14)に対する前記推進装置(2)の相対位置を検出するように構成されてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、波や風によって動揺する船から水中に降ろした線状物体が海流等によって流される状況であっても、線状物体の位置を保持することを可能とする位置保持システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る位置保持システムの全体配置図である。
【
図2】三台の水ジェット推進器が搭載された推進装置を示す平面図である。
【
図3】三台のプロペラ付き電動モータが搭載された推進装置を示す平面図である。
【
図4】四台の水ジェット推進器が搭載された推進装置を示す平面図である。
【
図5】四台のプロペラ付き電動モータが搭載された推進装置を示す平面図である。
【
図6】(a)は、三台の水ジェット推進器の各々の推力と、推進装置全体での合力との関係を示し、(b)は、三台のプロペラ付き電動モータの各々の推力と、推進装置全体での合力との関係を示す。
【
図7】(a)は、四台の水ジェット推進器の各々の推力と、推進装置全体での合力との関係を示し、(b)は、四台のプロペラ付き電動モータの各々の推力と、推進装置全体での合力との関係を示す。
【
図8】制御装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図9】線状物体の先端の位置を目標位置に保持するための一連の処理を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る位置保持システム100の全体配置図である。
【0019】
(全体構成)
図1に示すように、船14から水中に降ろされた線状物体1の位置を保持する位置保持システム100は、複数の推進装置2と、受信器10と、位置検出装置11と、衛星測位システム12と、方位計13と、動力装置8と、制御装置9と、カメラ7と、照明装置6とを備える。線状物体1は、例えば、ホース、パイプ、ケーブル等である。
【0020】
水中には、船14から降ろした線状物体1の水中における先端近くと(必要に応じて)先端から船14までの間の複数個所に推進装置2が設けられている。各推進装置2は、線状物体1に固定的に取り付けられている。
図1に示すように、本例では、3つの推進装置2a~2cが線状物体1の先端と船14との間に設けられている。特に、推進装置2a~2cは、線状物体1の長手方向に沿って、互いに離間した状態で、線状物体1に固定的に取り付けられている。以下の説明では、推進装置2a~2cを単に推進装置2と総称する場合がある。
【0021】
推進装置2aは、線状物体1の先端若しくは先端付近に固定的に取り付けられている。推進装置2bは、推進装置2aから距離d1だけ離れた位置において線状物体1に固定的に取り付けられている。推進装置2cは、推進装置2bから距離d2だけ離れた位置において線状物体1に固定的に取り付けられている。距離d1は、推進装置2aと推進装置2bとの間における線状物体1の長手方向における長さに相当し、予め設定された値である。同様に、距離d2は、推進装置2bと推進装置2cとの間における線状物体1の長手方向における長さに相当し、予め設定された値である。
【0022】
各推進装置2にはトランスポンダ3が搭載されている。推進装置2aには、トランスポンダ3aが搭載されている。推進装置2bには、トランスポンダ3bが搭載されている。推進装置2cには、トランスポンダ3cが搭載されている。トランスポンダ3a~3cは、信号ケーブル5に電気的に接続されている。トランスポンダ3a~3cは、制御装置9から信号ケーブル5を介して送信された発信指令信号に基づいて、音波を水中に向けて出力するように構成されている。船14には、受信器10と、位置検出装置11と、衛星測位システム12と、方位計13と、動力装置8と、制御装置9とが設けられている。受信器10は、各トランスポンダ3a~3cから出力されて、水中を伝播する音波を受信するように構成されている。
【0023】
尚、受信器10は、水中を伝播する音波を受信すると共に、水中に向けて音波を送信するように構成されてもよい。この場合、受信器10は、音波を送受信する機器として機能する。例えば、トランスポンダ3a~3cは、信号ケーブル5から発信指令信号を受信する代わりに、受信器10から水中を介して発信指令信号を示す音波を受信してもよい。トランスポンダ3a~3cは、当該発信指令信号を示す音波の受信に応じて、音波を水中に向けて出力してもよい。
【0024】
位置検出装置11は、受信器10及び制御装置9に接続されている。位置検出装置11は、受信器10から出力された当該音波に関する出力信号に基づいて、船14(より具体的には、受信器10)に対する各推進装置2a~2c(より具体的には、各トランスポンダ3a~3c)の相対位置を検出するように構成されている。衛星測位システム12は、制御装置9に接続されており、船14の現在位置を検出するように構成されている。方位計13は、制御装置9に接続されており、船14の方位を計測するように構成されている。
【0025】
動力装置8は、後述するように、ポンプ又は発電機若しくは電池によって構成されている。動力装置8は、各推進装置2a~2cに動力を供給するように構成されている。特に、動力装置8は、動力伝送部材4を介して、各推進装置2a~2cに設けられた複数の推進器15(本例では、3つ又は4つの推進器15、
図2等参照)に動力を供給するように構成されている。
【0026】
制御装置9は、位置検出装置11と、衛星測位システム12と、方位計13とに通信可能に接続されている。制御装置9は、信号ケーブル5を介して各推進装置2a~2cと、カメラ7と、照明装置6とに通信可能に接続されている。制御装置9は、位置検出装置11から各推進装置2a~2cの相対位置を示す信号を受信する。制御装置9は、衛星測位システム12から船14の現在位置を示す信号を受信する。制御装置9は、方位計13から船14の方位を示す信号を受信する。
【0027】
制御装置9は、複数の推進装置2a~2c(特に、各推進装置2a~2cに搭載された複数の推進器15)の推力を制御するように構成されている。制御装置9は、船14に対する推進装置2の相対位置と、船14の現在位置とに基づいて、推進装置2の現在位置を取得する。さらに、制御装置9は、推進装置2の現在位置に基づいて、複数の推進器15の推力を制御する。より具体的には、制御装置9は、船14に対する各推進装置2a~2cの相対位置と、船14の現在位置とに基づいて、各推進装置2a~2cの現在位置を取得する。さらに、制御装置9は、各推進装置2a~2cの現在位置と、各推進装置2a~2cの目標位置との間の差に基づいて、各推進装置2a~2cに設けられた複数の推進器15に必要な噴射強度を算出した上で、当該噴射強度に関する指令信号を各推進装置2a~2cに送信する。
【0028】
また、制御装置9は、方位計13から船14の方位を示す信号を受信すると共に、推進装置2a~2cの方位計16から推進装置2a~2cの方位を示す信号を受信する。制御装置9は、船14の方位と各推進装置2a~2cの方位との差と、各推進装置2a~2cの現在位置と目標位置との差に基づいて、各推進装置2a~2cの推力を制御する。
【0029】
次に、
図8を参照することで、制御装置9のハードウェア構成の一例について以下に説明する。
図8は、制御装置9のハードウェア構成の一例を示す図である。
図8に示すように、制御装置9は、コントローラ90と、入力操作部91と、コンピュータ装置92と、モニター93と、制御電源装置94と、撮影用電源装置95と、端子台97とを備える。
【0030】
コントローラ90は、制御装置9の全体を制御するように構成されており、プロセッサと、メモリとを少なくとも備える。メモリは、コンピュータ可読命令(プログラム)を記憶するように構成されている。例えば、メモリは、各種プログラム等が格納されたROM(Read Only Memory)やプロセッサにより実行される各種プログラム等が格納される複数ワークエリアを有するRAM(Random Access Memory)等から構成される。プロセッサは、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)及びGPU(Graphics Processing Unit)のうちの少なくとも一つにより構成される。CPUは、複数のCPUコアによって構成されてもよい。GPUは、複数のGPUコアによって構成されてもよい。プロセッサは、ROMに組み込まれた各種プログラムから指定されたプログラムをRAM上に展開し、RAMとの協働で各種処理を実行するように構成されてもよい。
【0031】
入力操作部91は、操作者の入力操作を受け付けると共に、当該入力操作に応じた操作信号を生成するように構成されている。入力操作部91は、例えば、ジョイスティック等である。コンピュータ装置92は、例えば、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット等である。モニター93は、カメラ7によって撮影された映像を表示するように構成されている。カメラ7によって取得された映像信号は、信号ケーブル5及び端子台97を介してモニター93に入力される。
【0032】
制御電源装置94は、信号ケーブル5を介して推進装置2(特に、推進装置2に搭載された各構成要素)に電力を供給するように構成されている。撮影用電源装置95は、信号ケーブル5を介してカメラ7及び照明装置6に電力を供給するように構成されている。端子台97は、制御装置9の入出力インターフェースとして機能としており、衛星測位システム12、方位計13、位置検出装置11、信号ケーブル5のそれぞれに接続されている。
【0033】
図1に戻ると、カメラ7は、線状物体1の先端又は先端付近に取り付けられており、線状物体1の先端の周辺環境を示す映像データを取得するように構成されている。カメラ7は、信号ケーブル5を介して制御装置9に接続されている。照明装置6は、線状物体1の先端又は先端付近に取り付けられており、カメラ7の周辺に設けられている。照明装置6は、カメラ7の視野(撮影領域)に向けて光を照射するように構成されており、信号ケーブル5を介して制御装置9に接続されている。
【0034】
(推進装置2の構成)
図2,3,4,5は推進装置2の構成例である。
図2から
図5に示すように、推進装置2は、本体部20と、複数の推進器15と、トランスポンダ3とを備える。本体部20は、線状物体1に固定的に取り付けられている。本体部20は、その略中心部に貫通孔21を有する。線状物体1は、貫通孔21に挿入されている。線状物体1が貫通孔21に挿入された状態で、本体部20は、図示しないコネクタを介して線状物体1に固定的に取り付けられる。本体部20は、平面視において、複数の辺を有する多角形状に形成されている。本体部20は、動力伝送部材4を本体部20に接続するための図示しない連結金具と、信号ケーブル5を本体部20に接続するための図示しないケーブルコネクタをさらに有する。複数の推進器15、トランスポンダ3および方位計16は、本体部20に取り付けられている。
【0035】
尚、線状物体1は、先端から基端に亘って一体的に形成された線状物体であってもよいし、複数の線状部によって構成されてもよい。線状物体1が複数の線状部によって構成される場合、線状物体1は、線状物体1の先端と推進装置2aとの間を延出する第一の線状部と、推進装置2aと推進装置2bとの間を延出する第二の線状部と、推進装置2bと推進装置2cとの間を延出する第三の線状部と、推進装置2cと船14との間を延出する第四の線状部とによって構成される。この場合、本体部20には貫通孔21が設けられていなくてもよい。第一の線状部は、推進装置2aに設けられたコネクタに接続される。第二の線状部は、推進装置2aに設けられたコネクタと推進装置2bに設けられたコネクタに接続される。第三の線状部は、推進装置2bに設けられたコネクタと推進装置2cに設けられたコネクタに接続される。第四の線状部は、推進装置2cに設けられたコネクタに接続される。
【0036】
線状物体1がパイプである場合、コネクタは管継ぎ手であってもよい。線状物体1が電線である場合、コネクタは延長コネクタであってもよい。
【0037】
推進装置2には、本体部20の多角形の各辺に沿って推力を発生するように構成された推進器15が複数配置されている。複数の推進器15の各々は、複数の推進器15の各々の推力の方向が線状物体1を中心とする正多角形の複数の辺のうちの対応する一つに略平行となるように、配置されている。さらに、複数の推進器15の各々は、複数の推進器15の各々の推力の方向が本体部20の複数の辺のうちの対応する一つに略平行となるように配置されてもよい。
【0038】
推進装置2の位置を特定するための1個のトランスポンダ3が設けられている。推進器15としては、水ジェットにより推力を得る方式と、電動モータを用いてプロペラにより推力を得る方式が可能である。即ち、推進器15は、水ジェット推進器であってもよいし、プロペラ付き電動モータであってもよい。なお、線状物体1の捻れが無視できない場合には、各推進装置2の方位を計測するために1個の方位計16が設けられている。また、各推進装置2には推進器15とトランスポンダ3および方位計16を取付け、線状物体1に固定し、動力伝送部材4を接続するための連結金具や信号ケーブル5を接続するためのケーブルコネクタが設けられてもよい。
【0039】
(推進装置:推進器の個数)
線状物体1の曲げ剛性によって、推進装置2は線状物体1の軸にほぼ直角に取り付けられるため、推進装置2は並進方向に2つと軸周りの回転方向に1つの合計3つの自由度を持っている。したがって、推進装置2には最低3つの推進器15が必要となる。また、4台以上の推進器15を設けた場合には、一部の推進器15が故障した時でも3台以上の推進器15が機能すれば任意の方向の推力を得ることが可能になる。
【0040】
(推進装置に対して線状物体とパイプとケーブルを通す方法)
図2,3,4,5に示す推進装置2の構成例から明らかなように、線状物体1と動力伝送部材4と信号ケーブル5は推進装置2を貫通してもよい。線状物体1と動力伝送部材4と信号ケーブル5を、線状物体を船から水中に下ろす前に予め貫通させておくことも可能である。また、推進装置2の本体部20に接続用の金物や水密のコネクタを設けることで、線状物体1と動力伝送部材4と信号ケーブル5を、互いに隣接する推進装置2の間および推進装置2と船14の間毎に区切った形で用意しておき、線状物体1を船から水中に下ろす時に推進装置2と接続しながら下ろしてゆくことも可能である。
【0041】
(推進装置:方位計)
前記の推進装置2に設置した複数の推進器15の推力の割合を調整することで任意の方向に推進力を得るためには、推進装置2の向きを把握する必要がある。線状物体1が十分な捻り剛性を有する場合には、すべての推進装置2が同じ方向を向いており、その向きを船14の向きと同じと仮定することが可能であるが、捻り剛性が不十分な場合には全ての推進装置2に方位計16を取付けて、前記推進装置2の向きを船上の方位計13の信号と併せて制御装置9に入力し、制御装置9が発生するべき推進力の方向を決定する過程で利用する。
【0042】
(ラインの形状を維持する方法)
線状物体1をそのまま水中に下ろすと、自重と海流等による漂流力とのバランスに応じてやや傾斜した姿勢で安定する。線状物体1の先端を目標の位置に近づけるために、先ずは船14の位置を調整することになる。しかし、船14のいる水面近くは、波と風と海流が時々刻々と変化する外乱の多い環境であるため、長い線状物体1の先端を正確に目標位置に誘導することは容易ではない。そのため、船14を移動して凡その位置合わせをした後に、全ての推進装置2で推力を発生させて位置を調整することが有効である。鉛直に垂れた線状物体1は、その先端を推力によって水平方向に移動した場合には、外乱が無ければ数学的に懸垂線(カテナリー曲線)と呼ばれる形状になる。線状物体1の先端における位置の補正量を、船上から目標の位置までの懸垂線に沿って分布させることにより、各推進装置2の位置での補正量を定めることが出来る。この補正量は、線状物体1の軸に対して直角なベクトルであり、2つの直交する成分に分解できる。ラインの形状を修正して維持するための推進力もこのベクトルの方向に発生させればよい。
【0043】
(計算装置を推進装置2に内蔵して船側の制御装置9の負荷を軽減する方法)
推進装置2が発生させるべき推進力から推進装置2が内蔵する各推進器15の推力を求める計算は、各推進装置2について個別に実施可能である。このため、推進装置2の内部に小型の計算装置を設けて、その計算装置内で推進装置2が内蔵する各々の推進器15の推力を計算することによって、船上の制御装置9の負荷を軽減することも可能である。
【0044】
(カメラと照明装置)
トランスポンダ3を用いた位置の解析精度が十分でない場合には、線状物体1の先端近くにカメラ7と照明装置6を設置することにより、船上のモニターで目標物を目視しながら推進力を調整して目標の位置に高い精度で誘導することもできる。
【0045】
(推進装置2の構成例1)
推進装置2の構成例1として、3台の水ジェット推進器が搭載された推進装置2について以下に説明する。本例では、推進器15は、水ジェット推進器となる。船14に設けられた動力装置8は、ポンプとなる。動力伝送部材4は、ポンプから供給された水を水ジェット推進器に伝えるパイプとなる。
【0046】
(推進装置の構造)
図2は、3台の水ジェット推進器が搭載された推進装置2の平面図を示す。水ジェットの噴射によって推力を発生する水ジェット推進器は、開度調節可能な3方弁を有する。バルブの開度調節装置は水圧に耐えうる水密構造のものにする必要がある。なお、推力を多段階に調節するため、バルブの開度を多段階に調節できる開度調節装置が必要である。推進装置2の本体部20の中に動力伝送部材4から分岐する枝管が設けられ、3方弁に推力発生用の水が水ジェット推進器に供給される。
【0047】
(各推進器15の推力の計算式)
図6(a)は、三台の水ジェット推進器の各々から発生する推力(T1、T2、T3)と、推進装置2全体での合力(並進方向ベクトルF、回転モーメントM)との関係図である。必要な推力の並進方向ベクトルFおよび回転モーメントMと、3台の水ジェット推進器から発生する推力(T1、T2、T3)との関係を表す計算式を以下に示される。
【0048】
【0049】
(各推進器15の推力の算出方法)
この数式(1)において、並進方向ベクトルFのx軸方向成分をFxとし、y軸方向成分をFyとしている。数式(1)の右辺の行列の逆行列を左辺のベクトルにかけることにより3台の水ジェット推進器の各々の推力(T1、T2、T3)を求めることができる。なお、線状物体1の捻じれを無視できる場合は、回転モーメントMをゼロとして解けば、並進方向ベクトルFのみを発生させる推力(T1、T2、T3)を求めることができる。
【0050】
(推進装置2の構成例2)
推進装置2の構成例2として、3台のプロペラ付き電動モータが搭載された推進装置2について以下に説明する。本例では、推進器15は、電動モータと、当該電動モータに取り付けられたプロペラとを有するプロペラ付き電動モータである。船14に設けられた動力装置8は、発電機または電池である。動力伝送部材4は、電源ケーブルである。
【0051】
(推進装置2の構造)
図3は、3台のプロペラ付き電動モータが搭載された推進装置2の平面図を示す。プロペラ付き電動モータは、電動モータでプロペラを回転することで推力を発生するように構成されている。プロペラはコルトノズルにより覆われている。このプロペラを電動の水中モータで駆動する方式が有効である。なお、プロペラ付き電動モータでは、複数のプロペラの推力のバランスを調整して任意の方向の推進力を得ることが可能なため、プロペラ自体の方向を変える機構をプロペラ付き電動モータに設けなくてもよい。
【0052】
(各推進器15の推力の計算式)
図6(b)は、三台のプロペラ付き電動モータの各々から発生する推力(T1、T2、T3)と、推進装置2全体での合力(並進方向ベクトルF、回転モーメントM)との関係図である。必要な推力の並進方向ベクトルFおよび回転モーメントMと、3台のプロペラ付き電動モータから発生する推力(T1、T2、T3)との関係は前記の数式(1)で表すことができる。
【0053】
(各推進器15の推力の算出方法)
この数式(1)において、並進方向ベクトルFのx軸方向成分をFxとし、y軸方向成分をFyとしている。数式(1)の右辺の行列の逆行列を左辺のベクトルにかけることにより三台のプロペラ付き電動モータの各々の推力(T1、T2、T3)を求めることができる。なお、線状物体1の捻じれを無視できる場合は、回転モーメントMをゼロとして解けば、並進方向ベクトルFのみを発生させる推力(T1、T2、T3)を求めることができる。
【0054】
(推進装置2の構成例3)
推進装置2の構成例3として、4台の水ジェット推進器が搭載された推進装置2について以下に説明する。本例では、推進器15は、水ジェット推進器である。動力装置8は、ポンプである。動力伝送部材4は、ポンプから供給された水を水ジェット推進器に伝えるパイプである。
【0055】
(推進装置の構造)
図4は、4台の水ジェット推進器が搭載された推進装置2の平面図を示す。水ジェットの噴射によって推力を発生する水ジェット推進器は、開度調節可能な3方弁を有する。バルブの開度調節装置は水圧に耐えうる水密構造のものにする必要がある。なお、推力を多段階に調節するため、バルブの開度を多段階に調節できる開度調節装置が必要である。推進装置2の中に動力伝送部材4から分岐する枝管が設けられ、前記の開度調節可能な3方弁に推力発生用の水が水ジェット推進器に供給する。
【0056】
(各推進器15の推力の計算式)
図7(a)は、4台の水ジェット推進器の各々から発生する推力(T1、T2、T3、T4)と、推進装置2全体での合力(並進方向ベクトルF、回転モーメントM)との関係図である。必要な推力の並進方向ベクトルFおよび回転モーメントMと、4台の水ジェット推進器から発生する推力(T1、T2、T3、T4)との関係を表す計算式が以下に示される。
【0057】
【0058】
(各推進器15の推力の算出方法)
この数式(2-1)においても数式(1)と同様に、並進方向ベクトルFのx軸方向成分をFxとし、y軸方向成分をFyとしている。数式(2-1)は未知数である推力が4個に対して、関係式の本数が数式(1)と同様に3本であり、条件が足りない。このことは、推進器15が4台の場合には冗長性が有り、別途条件を追加する必要が有ることを示している。数式(2-2)は、必要な並進方向ベクトルFと回転モーメントMを生み出す上で最もエネルギー効率の良い推力(T1、T2、T3、T4)の配分を実現するための条件である。なお、数式(2-1)と数式(2-2)を連立して解く手法としては、例えば、ラグランジュの未定乗数法が古くから知られている。
【0059】
(一部の推進器が故障した場合の推力の算出方法)
推進装置2が4台以上の推進器15を有する場合には、最低3台の推進器15が正常であれば、その他の推進器15が故障して推力を出せなくなっても、故障した推進器15に対応する推力の値をゼロとしてラグランジュの未定乗数法を適用することで、残った正常な推進器の推力を決定することが出来る。
【0060】
(推進装置2の構成例4)
推進装置2の構成例4として、4台のプロペラ付き電動モータが搭載された推進装置2について以下に説明する。本例では、推進器15は、電動モータと、当該電動モータに取り付けられたプロペラとを有するプロペラ付き電動モータである。船14に設けられた動力装置8は、発電機または電池である。動力伝送部材4は、電源ケーブルである。
【0061】
(推進装置の構造)
図5は、4台のプロペラ付き電動モータが搭載された推進装置2の平面図を示す。プロペラ付き電動モータは、電動モータでプロペラを回転することで推力を発生するように構成されている。プロペラはコルトノズルにより覆われている。このプロペラを電動の水中モータで駆動する方式が有効である。なお、前記の推進装置2では、複数のプロペラの推力のバランスを調整して任意の方向の推進力を得ることが可能なため、プロペラ自体の方向を変える機構をプロペラ付き電動モータに設けなくてもよい。
【0062】
(各推進器15の推力の計算式)
図7(b)は、4台のプロペラ付き電動モータの各々から発生する推力(T1、T2、T3、T4)と、推進装置2全体での合力(並進方向ベクトルF、回転モーメントM)との関係図である。必要な推力の並進方向ベクトルFおよび回転モーメントMと、4台のプロペラ付き電動モータの各々から発生する推力(T1、T2、T3、T4)との関係は前記の数式(2-1)で表すことができる。
【0063】
(各推進器15の推力の算出方法)
この数式(2-1)においても数式(1)と同様に、並進方向ベクトルFのx軸方向成分をFxとし、y軸方向成分をFyとしている。数式(2-1)は未知数である推力が4個に対して、関係式の本数が数式(1)と同様に3本であり、条件が足りない。このことは、推進器15が4台の場合には冗長性が有り、別途条件を追加する必要が有ることを示している。数式(2-2)は、必要な並進方向ベクトルFと回転モーメントMを生み出す上で最もエネルギー効率の良い推力(T1、T2、T3、T4)の配分を実現するための条件である。なお、数式(2-1)と数式(2-2)を連立して解く手法としては、例えば、ラグランジュの未定乗数法を用いてもよい。
【0064】
(一部の推進器が故障した場合の推力の算出方法)
推進装置2が4台以上の推進器15を有する場合には、最低3台の推進器15が正常であれば、その他の推進器15が故障して推力を出せなくなっても、故障した推進器15に対応する推力の値をゼロとしてラグランジュの未定乗数法を適用することで、残った正常な推進器15の推力を決定することが出来る。
【0065】
(推進装置2の構成例5)
推進装置2が5台以上の推進器15を有する場合であっても、推進装置2の平面形状において正多角形の辺の数が増えること以外に構造の変化はない。推進器15の数が増えるに従って冗長性が増して推進器15の故障に対する耐性が増す。各推進器15で発生する推力に関する算式としては、未知数である推力が推進器15の数だけ増えることと、推進器15の向きが多角形の各辺の向きに沿うことに起因して行列の中の値が変更となる点以外は、数式(2-1)及び数式(2-2)と基本的に同じ式によって各推進器15の推力を決定することができる。ラグランジュの未定乗数法が適用できることも構成例4と同様である。
【0066】
以上説明したように、本発明に係る線状物体の水中での位置保持システム100は、線状物体に対して1組または複数組の推進装置を間隔を空けて設置することにより、海流などの外乱を受ける中でも、線状物体を水中で目標とする位置に正確に保持することが可能となる。
【0067】
次に、
図9を参照して、線状物体1の先端の位置を目標位置に保持するための一連の処理について以下に説明する。
図9は、線状物体1の先端の位置を目標位置に保持するための一連の処理を説明するためのフローチャートである。尚、本例では、線状物体1の先端又は先端付近に取り付けられた推進装置2a(
図1参照)の位置が制御装置9によって制御される。
【0068】
図9に示すように、ステップS1において、制御装置9(具体的には、コントローラ90)は、線状物体1の先端の目標位置を設定する。特に、制御装置9は、操作者の制御装置9に対する入力操作を通じて、線状物体1の先端の目標位置(三次元空間上の位置)を設定する。ステップS2において、制御装置9は、衛星測位システム12から船14の現在位置を取得する。ステップS3において、制御装置9は、線状物体1の先端の目標位置と、推進装置2aと線状物体1の先端との間の位置関係(具体的には、線状物体1の先端から推進装置2aの取付位置までの距離)と、船14の現在位置とに基づいて、推進装置2aの目標位置を設定する。例えば、線状物体1の先端の目標位置が設定されている場合には、線状物体1の先端の目標位置と船14の現在位置とを通る線状物体1の理想な水中での姿勢(例えば、両者を結ぶ線分)と、推進装置2aと線状物体1の先端との間の相対的な位置関係より、推進装置2aの目標位置を一義的に決定することができる。尚、推進装置2aの取付位置(固定位置)が線状物体1の先端と十分に近接している場合には、推進装置2aの目標位置は線状物体1の先端の目標位置と同一とみなしてもよい。
【0069】
ステップS4において、制御装置9は、位置検出装置11から船14に対する推進装置2aの相対位置を取得する。上記したように、位置検出装置11は、推進装置2aに搭載されたトランスポンダ3aから出力された音波の信号を解析することで船14に対する推進装置2aの相対位置を検出することができる。
【0070】
ステップS5において、船14に対する推進装置2aの相対位置と、船14の現在位置とに基づいて、推進装置2aの現在位置(三次元空間上の位置)を取得する。ステップS6において、制御装置9は、推進装置2aの現在位置と目標位置との差に基づいて、推進装置2aの現在位置が目標位置に近づくように推進装置2aの推力を制御する。より具体的には、制御装置9は、推進装置2aに搭載された各推進器15に必要な噴射強度を算出した上で、当該噴射強度に関する指令信号を推進装置2aに送信する。
【0071】
このように、ステップS2からS6が所定の周期で繰り返し実行されることで、線状物体1の先端の位置を目標位置に保持することが可能となる。
【0072】
また、制御装置9は、
図9に示す一連の処理と同様の手法で、推進装置2b及び推進装置2cの位置を制御することができる。この点において、
図9を参照することで、推進装置2bの位置制御について以下に説明する。
【0073】
図9に示すように、ステップS1において、制御装置9は、線状物体1の先端の目標位置を設定する。ステップS2において、制御装置9は、衛星測位システム12から船14の現在位置を取得する。ステップS3において、制御装置9は、線状物体1の先端の目標位置と、推進装置2bと線状物体1の先端との間の位置関係(具体的には、線状物体1の先端から推進装置2bの取付位置までの距離)と、船14の現在位置とに基づいて、推進装置2bの目標位置を設定する。例えば、線状物体1の先端の目標位置が設定されている場合には、線状物体1の先端の目標位置と船14の現在位置とを通る線状物体1の理想な姿勢(例えば、両者を結ぶ線分)と、推進装置2bと線状物体1の先端との間の相対的な位置関係より、推進装置2bの目標位置を一義的に決定することができる。
【0074】
ステップS4において、制御装置9は、位置検出装置11から船14に対する推進装置2bの相対位置を取得する。上記したように、位置検出装置11は、推進装置2bに搭載されたトランスポンダ3bから出力された音波の信号を解析することで船14に対する推進装置2bの相対位置を検出することができる。
【0075】
ステップS5において、船14に対する推進装置2bの相対位置と、船14の現在位置とに基づいて、推進装置2bの現在位置を取得する。ステップS6において、制御装置9は、推進装置2bの現在位置と目標位置との差に基づいて、推進装置2bの現在位置が目標位置に近づくように推進装置2bの推力を制御する。より具体的には、制御装置9は、推進装置2bに搭載された各推進器15に必要な噴射強度を算出した上で、当該噴射強度に関する指令信号を推進装置2bに送信する。
【0076】
このように、ステップS2からS6の処理が所定の周期で繰り返し実行されることで、推進装置2bの位置を目標位置に保持することが可能となる。同様の手法により推進装置2cを目標位置に保持することが可能となる。したがって、推進装置2b,2cの位置を目標位置に保持することで、船14から水中に降下される線状物体1の理想的な姿勢を維持することが可能となる。
【0077】
尚、線状物体1の捻り剛性が十分でない場合には、各推進装置2の方位と船14の方位が一致しない場合がある。推進装置2の方位と船14の方位との間にズレが生じている場合には、ステップS6において、各推進器15に必要な噴射強度を方位のズレに応じて補正する必要がある。このように、ステップS6において、制御装置9は、推進装置2の現在位置と目標位置との差と、船14の方位と推進装置2の方位との間の差に基づいて、推進装置2の現在位置が目標位置に近づくように推進装置2の推力を制御してもよい。より具体的には、制御装置9は、推進装置2の現在位置と目標位置との差と、船14の方位と推進装置2の方位との間の差に基づいて、推進装置2に搭載された各推進器15に必要な噴射強度を算出した上で、当該噴射強度に関する指令信号を推進装置2に送信する。
【0078】
本発明によれば、波や風によって動揺する船から水中に降ろした線状物体が海流等によって流される状況においても、線状物体の先端の位置を所定の位置に保持することを可能とする位置保持システムを提供することができる。特に、水深が深い場所に線状物体の先端が存在する場合であっても、目標とする位置の近くで推力を発生できることと、推進装置の台数を増やして線状物体を理想的な形状に維持するとともに、全体での推力の合計を増すことで、海流などの影響を受ける中での線状物体の位置保持の困難さを大幅に低減できる。
【0079】
また、各々の前記推進装置に、複数の推進器を線状物体を中心とする多角形の各辺に沿って配置して推力が辺の方向と平行に出力されるようにすることで、線状物体の軸に直角な面内において任意の方向への推力と同時に軸周りのモーメントを得ることが可能となる。線状物体が捻れ易い物の場合には、各々の前記推進装置に方位計を設けて、各推進装置が、線状物体の軸に直角な方向の推力だけでなく軸周りのモーメントも同時に発生させることにより捻じれを解消することができる。また、水中に有る目標物の近くに線状物体の先端を高い精度で誘導する場合には、線状物体の先端部分にカメラと照明装置を設けて、対象物との位置関係を目視で正確に把握することができる。
【0080】
以上、本発明の実施形態について説明をしたが、本発明の技術的範囲が本実施形態の説明によって限定的に解釈されるべきではない。本実施形態は一例であって、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内において、様々な実施形態の変更が可能であることが当業者によって理解されるところである。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲に記載された発明の範囲及びその均等の範囲に基づいて定められるべきである。
【符号の説明】
【0081】
1 線状物体
2 推進装置
3 トランスポンダ
4 動力伝送部材
5 信号ケーブル
6 照明装置
7 カメラ
8 動力装置
9 制御装置
10 受信器
11 位置検出装置
12 衛星測位システム
13 方位計
14 船
15 推進器
16 方位計
20 本体部
21 貫通孔
90 コントローラ
91 入力操作部
92 コンピュータ装置
93 モニター
94 制御電源装置
95 撮影用電源装置
97 端子台
100 位置保持システム
【要約】
【課題】線状物体の位置を保持することを可能とする位置保持システムを提供する。
【解決手段】船(14)から水中に降ろされた線状物体(1)の位置を保持するための位置保持システム(100)は、線状物体(1)に固定的に取り付けられた本体部(20)と、推力を発生する複数の推進器(15)と、トランスポンダ(3)と、を備えた、一以上の推進装置(2)と、複数の推進器(15)に動力を供給する動力装置(8)と、複数の推進器(15)の推力を制御する制御装置(9)と、トランスポンダ(3)からの音波を受信する受信器(10)と、船(14)に対する推進装置(2)の相対位置を検出する位置検出装置(11)と、船(14)の現在位置を検出する衛星測位システム(12)と、を備える。制御装置(9)は、推進装置(2)の現在位置に基づいて、複数の推進器(15)の推力を制御する。
【選択図】
図1