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特許7420361アミロイド線維の形成を抑制するペプチド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】アミロイド線維の形成を抑制するペプチド
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/06 20060101AFI20240116BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20240116BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20240116BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20240116BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240116BHJP
   G01N 33/566 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C07K7/06 ZNA
C07K7/08
A61K8/64
A61Q19/02
A61P43/00 111
G01N33/566
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019031383
(22)【出願日】2019-02-25
(65)【公開番号】P2020132599
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】517018101
【氏名又は名称】公立大学法人山陽小野田市立山口東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100177714
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昌平
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 政俊
(72)【発明者】
【氏名】柴立 郁美
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/189152(WO,A2)
【文献】国際公開第2016/172722(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/036246(WO,A2)
【文献】Giano M et al,Controlled Biodegradation of Self-Assembling β-hairpin Peptide Hydrogels by Proteolysis with Matrix Metalloproteinase-13,Biomaterials,32(27),2011年,6471-6477
【文献】Nagy K et al,Enhanced Mechanical Rigidity of Hydrogels Formed From Enantiomeric Peptide Assemblies,J Am Chem Soc,2011年,133 (38),14975-14977
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/00- 7/66
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)アミノ酸残基数が7又は8であり、かつアミロイド線維の形成を抑制可能であって、次式(I):
AXVXIX(I)
(式(I)中、Aはアラニン、Vはバリン、Iはイソロイシン、X1、2はグルタミン(Q)、グルタミン酸(E)、アスパラギン(N)、アスパラギン酸(D)、又はアルギニン(R)を表し、Xはグルタミン(Q)、アスパラギン(N)、アスパラギン酸(D)、又はアルギニン(R)を表し、Xはトレオニン又はバリンを表す)
で示されるアミノ酸配列を含むペプチド、又は
(ii)AEVNIRVRRATNANQRTN(配列番号5)
で示されるアミノ酸配列からなるペプチド、
の(i)又は(ii)記載のペプチド。
【請求項2】
(i)に示すペプチドが、アミノ酸残基数が8であって、式(I)で示されるアミノ酸配列のC末端には、グルタミン(Q)、グルタミン酸(E)、アスパラギン(N)、アスパラギン酸(D)、又はアルギニン(R)が隣接することを特徴とする、請求項1記載のペプチド。
【請求項3】
式(I)で示されるアミノ酸配列が、L体のアミノ酸から構成されることを特徴とする請求項1又は2記載のペプチド。
【請求項4】
式(I)で示されるアミノ酸配列が、配列番号1又は2に示されるアミノ酸配列であることを特徴とする請求項1~3のいずれか記載のペプチド。
AQVNIDT(配列番号1)
AEVNIRV(配列番号2)
【請求項5】
配列番号3~5のいずれかに示されるアミノ酸配列からなることを特徴とする請求項1~4のいずれか記載のペプチド。
AQVNIDTD(配列番号3)
AEVNIRVR(配列番号4)
AEVNIRVRRATNANQRTN(配列番号5)
【請求項6】
請求項1~5のいずれか記載のペプチドを含有する美白用化粧料組成物。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか記載のペプチドを含有するアミロイド線維の形成抑制剤。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか記載のペプチドを含有するアミロイド線維の分解剤。
【請求項9】
(a)標識化された請求項1~5のいずれか記載のペプチドと、採取された生体試料とを接触させる工程;(b)前記標識を検出する工程;の(a)及び(b)を順次含むことを特徴とするアミロイド線維形成性ペプチドの検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアミロイド線維の形成を抑制するペプチドや、前記ペプチドを含有する医薬組成物や、前記ペプチドを含有する美白用化粧料組成物や、前記ペプチドを含有するアミロイド線維の形成抑制剤や、前記ペプチドを含有するアミロイド線維の分解剤や、アミロイド線維形成性ペプチドの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質は、その機能を発揮するために所定の立体構造に折りたたまれる必要があるが、本来とは異なり誤った折りたたみ、すなわちミスフォールディングが生じる場合がある。アルツハイマー病、プリオン病等のアミロイドーシスと総称される疾患は、このタンパク質のミスフォールディングによって形成されたβシート構造の凝集体であるアミロイド線維と密接に関連していることが知られている。
【0003】
上記アミロイド線維の特徴はチオフラビンT(ThT)色素に特異的に結合し480nm付近において強い蛍光強度の増大を示し、コンゴレッド色素で染色され偏光顕微鏡下で緑色偏光を呈する、幅10nm程度で枝分かれのない線維構造である。また、アミロイド線維はプロトフィブリルにより構成されており、さらにそのプロトフィブリルはβシートの積層により構成されている。本発明者らは以前、既知のアミロイド線維形成性ペプチドのアミノ酸配列を10残基程度に小区分し、全領域に対して網羅的な合成変異体を作製し、変異位置とアミロイド線維形成特性の相関から、「プロトフィブリル内で、繊維軸方向に列を形成した疎水性残基同士がプロトフィブリル間で疎水性相互作用する事によりアミロイド線維を形成する」「繊維軸方向に列を形成した疎水性残基はプロトフィブリルを形成しているβシートの両側に存在する」ことを報告した(非特許文献1参照)。これは、アミロイド線維の共通の特徴である。
【0004】
アミロイド線維の形成を抑制するものとして、例えばTyr-Gly-Arg-Lys-Lys-Arg-Arg-Gln-Arg-Arg-Argで示されるアミノ酸配列を含む、アミノ酸残基数9~30のペプチドを含有するアミロイドβ線維化阻害剤が開示されている(特許文献1参照)。
【0005】
一方、アミロイド線維の形成は皮膚のシミの原因となるメラニン色素の形成においても関与している。メラニン色素の形成にはPmel17タンパク質のアミロイド線維化が関与しているため、シミの抑制のためにPmel17タンパク質の線維化抑制が求められている。
【0006】
このように、アミロイドーシス発症の防止や皮膚のシミの形成抑制にむけて、アミロイド線維の形成を抑制するペプチドの開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-116851号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Saiki,M.,et al.,J. Mol. Biol.,348,983-998
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、アミロイド線維の形成を抑制可能なペプチドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
病原性アミロイドは取り扱いが難しく、分子構造に基づいた抑制ペプチドの分子設計が困難である。そこで、アミロイドーシスには直接関与しないが、アミロイド線維を形成することが知られているバルナーゼというタンパク質に着目した。このバルナーゼはバチルス属の一種のRNA分解酵素で110のアミノ酸残基からなる球状タンパク質である。また、MlからM6の6つのモジュールからなっており、そのうちMlモジュールに相当するN末端24残基(BMl-24)はαヘリックス構造を形成している。しかし、BMl-24フラグメント単独ではβシート構造を経てアミロイド線維を形成してしまう。そこで、Mlモジュールのアミロイド線維形成に関与する1-19残基のアミノ酸配列に着目した。このアミロイド線維形成のβシート領域を基に、アミロイド線維の形成を初期段階で抑制するようにペプチドを設計し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)アミノ酸残基数が7~20であって、次式(I):
AXVXIX(I)
(式I中、Aはアラニン、Vはバリン、Iはイソロイシン、X1、2,は親水性アミノ酸を表し、Xはトレオニン又はバリンを表す)
で示されるアミノ酸配列を含むペプチド。
(2)親水性アミノ酸が、グルタミン(Q)、グルタミン酸(E)、アスパラギン(N)、アスパラギン酸(D)、又はアルギニン(R)であることを特徴とする上記(1)記載のペプチド。
(3)式(I)で示されるアミノ酸配列が、L体のアミノ酸から構成されることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のペプチド。
(4)式(I)で示されるアミノ酸配列が、配列番号1又は2に示されるアミノ酸配列であることを特徴とする上記(1)~(3)のいずれか記載のペプチド。
AQVNIDT(配列番号1)
AEVNIRV(配列番号2)
(5)配列番号3~5のいずれかに示されるアミノ酸配列からなることを特徴とする上記(1)~(4)のいずれか記載のペプチド。
AQVNIDTD(配列番号3)
AEVNIRVR(配列番号4、
AEVNIRVRRaTNANQRTN(配列番号5)
(6)上記(1)~(5)のいずれか記載のペプチドを含有する医薬組成物。
(7)アミロイドーシスの予防又は治療に用いるための、上記(6)記載の医薬組成物。
(8)上記(1)~(5)のいずれか記載のペプチドを含有する美白用化粧料組成物。
(9)上記(1)~(5)のいずれか記載のペプチドを含有するアミロイド線維の形成抑制剤。
(10)上記(1)~(5)のいずれか記載のペプチドを含有するアミロイド線維の分解剤。
(11)(a)標識化された上記(1)~(5)のいずれか記載のペプチドと、採取された生体試料とを接触させる工程;(b)前記標識を検出する工程;の(a)及び(b)を順次含むことを特徴とするアミロイド線維形成性ペプチドの検出方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明のペプチドを用いることにより、アミロイド線維の形成を抑制すると共に、アミロイドーシスの予防及び治療が可能となる。また、本発明のペプチドを用いることにより、アミロイド線維形成性ペプチドの検出が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】アミロイド線維の形成を抑制するためのペプチドの設計における、アミロイド線維の形成抑制のモデルを説明する図である。
図1B】アミロイド線維の形成を抑制するためのペプチドの設計における、βシートに着目して作製したペプチドSBKを説明する図である。
図2】実施例1において、アミロイド線維形成性ペプチドであるBM1-24、Prion178-199、SAA1-27、Aβ1-42、及びAβ1-40に対して、アミロイド線維の形成抑制ペプチドとしてペプチドSBKの添加あり、なしの場合のチオフラビンT結合実験の結果を示す図である。
図3】実施例2において、アミロイド線維形成性ペプチドであるバルナーゼに対して、アミロイド線維の形成抑制ペプチドとしてペプチドSBK、ペプチドpm-strand-V、ペプチドpm2h、ペプチドbm1hを添加した場合のチオフラビンT結合実験の結果を示す図である。
図4】実施例3において、アミロイド線維形成性ペプチドであるPmel17に対して、アミロイド線維の形成抑制ペプチドとしてペプチドSBK、ペプチドpm-strand-V、ペプチドpm-strand-T、ペプチドpm2hを添加した場合のチオフラビンT結合実験の結果を示す図である。
図5】実施例4において、アミロイド線維形成性ペプチドであるプリオンに対して、アミロイド線維の形成抑制ペプチドとしてペプチドSBK、ペプチドpm-strand-V、ペプチドpm2hを添加した場合のチオフラビンT結合実験の結果を示す図である。
図6】実施例5において、アミロイド線維の形成抑制効果を有するペプチドSBKがアミロイド線維の分解能力を有するかどうかをチオフラビンT結合実験に記載の方法で調べた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のペプチドは、アミノ酸残基数が7~20であって、次式(I):
AXVXIX(I)
(式I中、Aはアラニン、Vはバリン、Iはイソロイシン、X1、2,は親水性アミノ酸を表し、Xはトレオニン又はバリンを表す)
で示されるアミノ酸配列を含むペプチド(以下、「本件ペプチド」ともいう)であればよいが、アミノ酸残基数としては8~18、好ましくは8、16又は18、より好ましくは8を挙げることができる。式(I)で示されるアミノ酸配列のN末端側及び/又はC末端側には、任意のアミノ酸残基が配置されてもよいが、式(I)のC末端には親水性アミノ酸残基が隣接することが好ましく、アスパラギン酸(D)、又はアルギニン(R)が隣接することがより好ましい。また、本件ポリペプチドのアミノ酸残基数が8を超える場合には、式IにおけるXからC末端側の2番目又は3番目に位置するアミノ酸残基において、D体アラニンを配置することが好ましい。D体のアラニンを配置することで、D体のアラニンの位置で本件ペプチドを折りたたみ構造とすることが可能となる。
【0015】
式(I)で示されるアミノ酸配列を構成する親水性アミノ酸残基としては、グルタミン(Q)、グルタミン酸(E)、アスパラギン(N)、アスパラギン酸(D)、アルギニン(R)、リジン(K)、ヒスチジン(H)、セリン(S)、トレオニン(T)を挙げることができ、グルタミン(Q)、グルタミン酸(E)、アスパラギン(N)、アスパラギン酸(D)、アルギニン(R)を好適に挙げることができる。
【0016】
式(I)で示されるアミノ酸配列が、配列番号1に示されるアミノ酸配列(AQVNIDT)又は配列番号2に示されるアミノ酸配列(AEVNIRV)であることが好ましい。また、本件ペプチドとしては、配列番号3に示されるアミノ酸配列(AQVNIDTD:以下、「ペプチドSBK」ともいう)、配列番号4に示されるアミノ酸配列(AEVNIRVR:以下、「ペプチドpm-strand-V」ともいう)、配列番号5に示されるアミノ酸配列(AEVNIRVRRaTNANQRTN:以下「ペプチドpm2h」ともいう)を挙げることができる。なお、配列番号5において、10番目のアラニン(a)はD体アミノ酸で、他は全てL体アミノ酸であることが好ましい。10番目のアラニンがD体アミノ酸であることで、10番目のアラニンの位置でペプチドを折りたたみ構造とすることが可能となる。
【0017】
本件ペプチドは、化学合成法や、酵素法、遺伝子工学的手法等によって人工合成することができる。化学合成法によって人工合成することにより取得する方法としては、通常のFmoc(9-fluorenylmethoxycarbonyl)法やBoc(t-butyloxycarbonyl)法等の固相法や液相法を挙げることができる。
【0018】
本件ペプチドを、酵素法によって人工合成することにより取得する方法としては、ペプチドを合成可能な微生物由来酵素であるL-アミノ酸リガーゼを用いるペプチド合成法(特開2011-239707号公報)を挙げることができる。
【0019】
上記方法等によって得られた本件ペプチドは、必要に応じてイオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、アフィニティークロマトグラフィー等のペプチド化学の分野で汎用されている方法を適宜組み合わせて精製することができる。
【0020】
本件ペプチドは、種々の塩の形で得ることもできる。かかる塩としては、塩酸、硫酸等の無機酸や、蟻酸、酢酸、酒石酸、クエン酸等の有機酸との塩、若しくはナトリウムやアンモニア等の無機塩基や、トリエチルアミン、エチルアミン、メチルアミン等の有機塩基との塩を挙げることができる。
【0021】
本発明の医薬組成物は、本件ペプチドと薬学的に許容される添加剤を含有している医薬組成物(以下、「本件医薬組成物」ともいう)であればよく、前記添加剤としては、生理食塩水、緩衝生理食塩水、細胞培養培地、デキストロース、注射用水、グリセロール、エタノール及びこれらの組合せ、安定剤、可溶化剤及び界面活性剤、緩衝剤及び防腐剤、等張化剤、充填剤、並びに潤滑剤を挙げることができる。
【0022】
上記本発明の医薬組成物に含まれる本件ペプチドには、アミロイド線維の形成抑制効果を備えていることから、本発明の医薬組成物はアミロイドーシスの予防又は治療に用いるための医薬組成物としてもよい。かかるアミロイドーシスの予防又は治療に用いるための医薬組成物には、アミロイドーシスの予防又は治療に用いるための使用方法等を記載した添付文書、ラベル、パッケージ等を包含してもよい。
【0023】
上記アミロイドーシスは、身体の種々の器官や組織においてアミロイド線維が沈着することによって引き起こされる疾患を意味する。上記「アミロイド線維」とは、タンパク質のミスフォールディングによるフィブリル状集合体、すなわち誤った立体構造を形成したタンパク質であるアミロイドタンパク質がβシートにより規則的に積層したクロスβシート構造により凝集して形成された線維状の超分子重合体を意味する。上記アミロイドタンパク質としては、アミロイドβ、プリオン、アミリン、血清アミロイドA (SAA;serum amyloid A)、β2ミクログロブリン、αシヌクレイン、カルシトニン、リゾチーム、スーパーオキサイドジスムターゼ1(SOD1)、タウ、免疫グロブリン軽鎖、トランスサイレチン、BriL、シスタチンC、スクレイピー、アポリポプロテインA1、ゲルゾリン、ランゲルハンス島アミロイド、フィブリノーゲン、プロラクチン、インシュリン、ケラチン、心房ナトリウム利尿ペプチド、ハンチンチン、ニューロセルピン、α1-アンチキモトリプシン等のタンパク質を挙げることができる。
【0024】
上記アミロイドーシスとしては、具体的には、厚生労働省特定疾患調査研究班新分類による全身性アミロイドーシス、限定性アミロイドーシスのいずれでもよく、反応性AAアミロイドーシス、免疫細胞性アミロイドーシス、家族性アミロイドーシス、透析アミロイドーシス、老人性TTRアミロイドーシス、脳アミロイドーシス、内分泌アミロイドーシス、皮膚アミロイドーシス、限局性結節性アミロイドーシスを挙げることができる。具体的には、プリオン病、アルツハイマー病、II型糖尿病、関節リウマチ、透析アミロイド病、パーキンソン病、甲状腺髄様がん、家族性アミロイドーシス、筋委縮性側索硬化症(ALS)、ダウン症候群、クロイツフェルト・ヤコブ病、レヴィー小体型認知症、ピック病、摩擦黒皮症、苔癬(皮膚アミロイド苔癬)、斑状(皮膚斑状アミロイドーシス)、肛門仙骨部皮膚(肛門仙骨部皮膚アミロイドーシス)を挙げることができる。
【0025】
本件医薬組成物の投与量や投与回数や投与濃度は、投与対象の体重等に応じて、適宜調節することができるが、例えば成人1日あたりの投与量は本件ペプチドに換算して0.001~1000mg/kg、好ましくは0.01~100mg/kgとすることができ、1日1回又は数回に分けて、あるいは数日ごとに投与することができる。なお、アミロイドーシスの予防又は治療に用いるための医薬組成物として用いる場合には、より優れたアミロイドーシスの予防又は治療効果を得る観点から、本件医薬組成物を他のアミロイドーシスの予防又は治療剤と併用してもよい。
【0026】
本発明の美白用化粧料組成物は、本件ペプチドと、通常化粧料で許容される添加剤を含有している美白用化粧料組成物(以下、「美白用化粧料組成物」ともいう)であればよい。皮膚等に存在するメラノサイト中の細胞小器官であるメラノソームは、アミロイド線維の形成により生じる。本件化粧料組成物に含有する本件ペプチドは、このメラノソームの成熟過程で、メラニンの形成に関与しているといわれているPmel17タンパク質由来のアミロイド線維の形成を抑制する効果及びPmel17タンパク質由来のアミロイド線維を分解する効果を備えていることから、メラニン生成を阻害することで美白効果を有する。
【0027】
前記添加剤としては、生理食塩水、緩衝生理食塩水、多価アルコール、界面活性剤、水溶性高分子化合物、油溶性成分、防腐剤、色剤、酸化防止剤、抗炎症剤、pH調整剤、香料を挙げることができる。なお、「美白用」とは、メラニン生成を阻害し、いわゆるシミといわれる色素斑を減らして肌を美しく白くするために使用することを意味する。美白用化粧料組成物には、色素斑を減らして肌を美しく白くするための使用方法等を記載した添付文書、ラベル、パッケージ等を包含してもよい。
【0028】
本発明のアミロイド線維の形成抑制剤は、本件ペプチドを含有するアミロイド線維の形成抑制剤(以下、「本件アミロイド線維の形成抑制剤」ともいう)であればよく、上記薬学的に許容される添加剤又は上記通常化粧料で許容される添加剤を含有させてもよい。ここで、「アミロイド線維の形成抑制」とは、アミロイドタンパク質におけるクロスβシート構造による凝集を防ぎ、線維状の超分子重合体の形成を抑制することを意味する。
【0029】
本発明のアミロイド線維の分解剤は、本件ペプチドを含有するアミロイド線維の分解剤(以下、「本件アミロイド線維の分解剤」ともいう)であればよく、上記薬学的に許容される添加剤又は上記通常化粧料で許容される添加剤を含有させてもよい。ここで、「アミロイド線維の分解」とは、上記アミロイドタンパク質におけるクロスβシート構造における規則的なβシートの積層状態が壊れる状態をいう。
【0030】
アミロイドーシスの形成抑制効果や、アミロイド線維の分解効果は、例えばチオフラビンT法により調べることができる。チオフラビンT(ThT)色素を用いた結合試験は、アミロイド線維に特異的に結合し強い蛍光を発することで、アミロイド線維の形成の有無を評価できるアッセイである。
【0031】
本発明のアミロイド線維形成性タンパク質の検出方法は、(a)標識化された本件ペプチドと、採取された生体試料とを接触させる工程;(b)前記標識を検出する工程;の(a)及び(b)を順次含むアミロイド線維形成性タンパク質の検出方法(以下、「本件アミロイド線維形成性タンパク質の検出方法」ともいう)であればよい。アミロイド線維を形成するミスフォールディングを有するアミロイド線維形成性タンパク質のβシートの積層間に本件ペプチドが疎水性相互作用又は水素結合により結合することから、標識化された本件ペプチドにおける標識を検出することで、アミロイド線維形成性タンパク質を検出することが可能となる。
【0032】
本件アミロイド線維形成性タンパク質の検出方法における標識としては、フルオロセイン、フルオレセインイソチオシアナート(FITC)、ローダミン、テキサスレッド、クマリン等の蛍光物質、ビオチン、GFP等の蛍光タンパク質、3H、11C、14C、18F、35S、123I、125I等の放射性同位体を挙げることができる。
【0033】
上記(a)の工程において、標識化された本件ペプチドと採取された生体試料とを接触させる時間としては1分~5日、好ましくは30分~1日、より好ましくは1時間~5時間を挙げることができ、
【0034】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの
例示に限定されるものではない。
【0035】
<アミロイド線維形成の法則に基づいたアミロイド線維の形成抑制ペプチドの設計>
アミロイド線維が形成されるためには、図1Aに示すようにアミロイド性βシートの両側に疎水性残基の列が必須である。そこで、疎水性相互作用の促進を遮断するペプチドを設計すれば、アミロイド線維の形成が抑制できるという仮説を立てた。
【0036】
アミロイド線維の形成抑制ペプチドの設計にあたって、プリオン等のタンパク質は病原性が懸念されるため、バチルス属の一種のRNA分解酵素であるバルナーゼ(Barnase)タンパク質に着目した。バルナーゼはアミロイド線維を形成することが知られており、かかるアミロイド線維形成にはバルナーゼタンパク質の18残基のアミノ酸が関与している。βシートを形成した時、図1Bの手前側において、Ala(A)-Thr(T), Val(V)-Leu(L),Phe(F)-Val(V)、奥側においてThr(T)-Ala(A)、Ile(I)-Tyr(Y)が疎水性残基の縦の列を形成する。そこで、アミロイド線維の形成を抑制するためのペプチドの分子設計として、列の形成に関与している疎水性残基を親水性残基に置換したβストランド1個からなるペプチド(ペプチドSBK)を用いて仮説を検証した。
【0037】
図1A、Bのアミロイド線維の形成抑制ペプチドの作業仮説から、バルナーゼのアミロイド線維形成モデルを基に、疎水性残基側を、アミロイド線維に対して認識の強い、A,V,I,Tに、阻害する親水性残基側を、バルナーゼのアミノ酸配列に含まれている親水性残基Q,D,Nとして、疎水性残基側と親水性残基側に分けたアミロイド線維の形成抑制ペプチドを考案した。これにより、疎水性残基側はβシート領域を認識する側、親水性残基側はβシート領域を防止する側になり、新たに疎水性相互作用しようとするβシート領域との相互作用を遮断することでアミロイド線維化を抑制する設計である。
【0038】
(1)ペプチドの合成
後述の実施例で用いるアミロイド線維の形成抑制ペプチドとしてペプチドSBK(配列番号3)、ペプチドpm-strand-V(配列番号4)、ペプチドpm2h(配列番号5)、ペプチドbm1h(配列番号6)、ペプチドpm-strand-T(配列番号7)、及びアミロイド線維形成性ペプチドとしてペプチドBM1-24(配列番号8)、ペプチドPrion178-199(配列番号9)、ペプチドSAA1-27(配列番号10)、ペプチドPmel17(配列番号13)をFmoc固相合成法により合成した。反応に用いた樹脂はFmoc-NHCH2C6H2(OCH3)2-O-resinを用いた。カップリングはアミノ酸50 mmolをo-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、N-メチルモルホリン(NMM)(各1:1:2当量)をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶液に溶かした液339 ml(カップリングあたり)を用い、30分反応させた。脱FmocはPIP-HOBt(30 %、2 %)のDMF溶液を用い7分間を2回行った。合成終了後、ペプチドが伸長生成しているレジン(resin)をDMF溶液で洗浄し、次にCH2Cl2で洗浄して減圧乾燥させた。解列反応はトリフルオロ酢酸(TFA) 86 %、エタンジオール(EDT) 6 %、トリイソプロピルシラン(TIPS) 6 %、H2O 2 %の割合で混合した液1500 mlを用いた。なお、後述の実施例1で用いるアルツハイマー型認知症原因ペプチドAβ1-40、アルツハイマー型認知症原因ペプチドAβ1-42は市販品(株式会社ペプチド研究所製)を用いた。
【0039】
(2)精製
上記で合成したそれぞれのペプチドの分離精製はHPLCを用いて行った。装置は液体クロマトグラフィーシステム(SCL-10Avpコントローラ、SPD-10Avp UVモニター、LC-10Aiポンプ:日立ハイテクサイエンス社)を用いた。カラムは分取用としてShimPack-PREP-C8 (20.0x250 mm:島津ジーエルシー社製)を用いた。回収フラクションを凍結乾燥させて白色粉末状の目的ペプチドを得た。
【0040】
(3)ペプチド溶液の調製
上記で得られた白色粉末状のペプチドを0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)水溶液に溶解した。この溶液をペプチド一次試料溶液(stock solution)とする。それぞれのペプチドのstock solutionから0.2mMとなるように一定量をとり出し、減圧乾燥後、50mMのCH3COONa-CH3COOH緩衝溶液(pH4.5)に溶解濃度0.2mMとなるように溶解させた。
【0041】
(4)アミロイド線維の形成抑制実験のための溶液の調製
0.1%TFA水溶液中のアミロイド線維形成性ペプチド(配列番号8記載のバルナーゼモジュール1のN末端1-24アミン酸残基:BM1-24、配列番号9記載のプリオン病原因タンパク質の178-199アミノ酸残基:Prion178-199、配列番号10記載の続発性アミロイドーシス原因タンパク質の1-27アミノ酸残基:SAA1-27、配列番号11記載のアルツハイマー型認知症原因ペプチド Aβ1-40、配列番号12記載のアルツハイマー型認知症原因ペプチドAβ1-42、配列番号13記載のPmel17)のstock solutionから溶解濃度0.2mMとなるように一定量をとり出し、減圧乾燥後、それぞれのアミロイド線維の形成抑制ペプチド添加ありの場合は、上記(3)で調製した水溶液を、添加なしの場合は緩衝液のみをそれぞれに250 μl加えた。すなわちモル比でアミロイド線維形成性ペプチド:アミロイド線維の形成抑制ペプチド=1:1になる。
【0042】
(5)チオフラビンT結合実験(アミロイド線維形成性ペプチド添加によるアミロイド線維形成抑制)
チオフラビンT(ThT)色素を用いた結合試験は、アミロイド線維に特異的に結合し強い蛍光を発することで、アミロイド線維の形成の有無を評価できるアッセイである。ThT結合実験は蛍光分光光度計RF-5000の装置で測定を行った。上記(4)で調製したペプチド溶液から18 mlほどサンプリング後、測定濃度が2 mMになるように5 mM ThT水溶液を1782 ml すなわち1000倍希釈して蛍光スペクトルの測定を行った。
【0043】
励起波長450 nm、観測波長483 nmで測定した。483nmはThT色素が強い蛍光を発する波長である。ThTのみでも蛍光を発するため、ThTアッセイの結果の蛍光強度は、

ThTの蛍光強度を1とした時の増大率 = ペプチド溶液の蛍光強度 / ThTのみの蛍光強度

で表した。ThTの蛍光強度を1とした時の増大率が2以上の増大が見られるとアミロイド線維を形成していると判断した。反対に2未満、好ましくは1.8未満の場合は、ThTのみの蛍光強度しか観測されていないため、アミロイド線維を形成していないと判断することができる。
【0044】
(6)チオフラビンT結合実験(アミロイド線維(凝集体)へのペプチドSBK添加による分解)
上記(4)におけるペプチドSBK添加なしペプチドでアミロイド凝集体を確認後、この溶液9μlに、上記(3)のペプチドSBK溶液9μlを添加した。この混合液を測定濃度が2μMになるように5μM ThT水溶液を1782μl すなわち1000倍希釈し蛍光スペクトルの測定を行った。蛍光測定の条件は上記(5)と同じである。
【実施例1】
【0045】
アミロイド線維形成性ペプチドであるBM1-24、Prion178-199、SAA1-27、Aβ1-42、及びAβ1-40に対して、アミロイド線維の形成抑制ペプチドとしてペプチドSBKの添加あり、なしの場合のチオフラビンT結合実験の結果を図2に示す。いずれのアミロイド線維形成性ペプチドに対しても、ペプチドSBK添加ありの場合には蛍光強度が低下しており、ペプチドSBK添加によりそれぞれのアミロイド線維形成性ペプチドによるアミロイド線維形成を抑制可能であることが明らかとなった。
【実施例2】
【0046】
ペプチドSBKと同様にN末端側から1番目にアラニン、3番目にバリン、5番目にイソロイシン、7番目にトレオニン又はバリンを有するペプチドを用いて、アミロイド線維の形成抑制を調べた。アミロイド線維形成性ペプチドであるバルナーゼに対して、アミロイド線維の形成抑制ペプチドとしてペプチドSBK、ペプチドpm-strand-V、ペプチドpm2h、ペプチドbm1hを添加した場合のチオフラビンT結合実験の結果を図3に示す。ペプチドSBK、ペプチドpm-strand-V、ペプチドpm2hを添加した場合には蛍光強度が低下しており、ペプチドSBKだけでなく、ペプチドpm-strand-V、ペプチドpm2hでも同様にアミロイド線維形成性ペプチドによるアミロイド線維形成を抑制可能であることが明らかとなった。一方、ペプチドbm1hではアミロイド線維形成の抑制効果は見られず、N末端側から1番目にアラニン、3番目にバリン、5番目にイソロイシン、7番目にトレオニン又はバリンであり、N末端側から2番目、4番目、6番目、8番目が親水性アミノ酸で構成されたペプチドであることがアミロイド線維形成の抑制効果において重要であることが明らかとなった。
【実施例3】
【0047】
皮膚におけるメラノサイト(色素細胞)内の袋状の構造物であるメラノソームには、タンパク質Pmel17が豊富に存在している。このPmel17由来のアミロイド線維がシミの原因となるメラニンの形成に関与しているといわれている。言い換えれば、Pmel17由来のアミロイド線維の形成を抑制すれば、メラニンの形成を抑制することが可能となる。そこで、アミロイド線維形成性ペプチドを用いて、Pmel17由来のアミロイド線維の形成の抑制効果を調べた。
【0048】
アミロイド線維形成性ペプチドであるPmel17に対して、アミロイド線維の形成抑制ペプチドとしてペプチドSBK、ペプチドpm-strand-V、ペプチドpm-strand-T、ペプチドpm2hを添加した場合のチオフラビンT結合実験の結果を図4に示す。ペプチドSBK、ペプチドpm-strand-V、ペプチドpm2hを添加した場合には蛍光強度が低下しており、ペプチドSBK、ペプチドpm-strand-V、ペプチドpm2hの添加によりバルナーゼによるアミロイド線維形成だけでなくPmel17によるアミロイド線維形成も抑制可能であることが明らかとなった。一方、ペプチドpm-strand-Tでは蛍光強度が低下しておらず、N末端から5番目が疎水性アミノ酸であるイソロイシンで構成されたペプチドであることがアミロイド線維形成の抑制効果において重要であることが明らかとなった。
【実施例4】
【0049】
アミロイド線維形成性ペプチドであるプリオンに対して、アミロイド線維の形成抑制ペプチドとしてペプチドSBK、ペプチドpm-strand-V、ペプチドpm2hを添加した場合のチオフラビンT結合実験の結果を図5に示す。アミロイド線維形成性ペプチドであるプリオンに対しても、ペプチドSBK、ペプチドpm-strand-V、ペプチドpm2h添加ありの場合には蛍光強度が低下しており、ペプチドSBK、ペプチドpm-strand-V、ペプチドpm2hの添加によりアミロイド線維形成性ペプチドによるアミロイド線維形成を抑制可能であることが明らかとなった。
【実施例5】
【0050】
アミロイドーシスの治療においては、形成されたアミロイド線維を分解することも効果的である。そこで、アミロイド線維の形成抑制効果を有するペプチドSBKがアミロイド線維の分解能力を有するかどうかを上記(6)チオフラビンT結合実験に記載の方法で調べた。結果を図6に示す。いずれのアミロイド線維形成性ペプチドに対しても、ペプチドSBK添加ありの場合には蛍光強度が低下しており、ペプチドSBK添加によりそれぞれのアミロイド線維を分解可能であることが明らかとなった。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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