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特許7420365半導体成膜装置及びその成膜方法並びにそれを用いた半導体装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】半導体成膜装置及びその成膜方法並びにそれを用いた半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/28 20060101AFI20240116BHJP
   H01L 21/203 20060101ALI20240116BHJP
   C23C 14/54 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C23C14/28
H01L21/203 S
C23C14/54 B
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019146605
(22)【出願日】2019-08-08
(65)【公開番号】P2021025118
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】519338902
【氏名又は名称】有限会社アルファシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110002295
【氏名又は名称】弁理士法人M&Partners
(72)【発明者】
【氏名】上田 大助
(72)【発明者】
【氏名】児玉 和樹
(72)【発明者】
【氏名】内藤 一樹
(72)【発明者】
【氏名】田渕 俊也
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-285949(JP,A)
【文献】特開平09-234358(JP,A)
【文献】特開2013-249517(JP,A)
【文献】特開2007-288141(JP,A)
【文献】特開2006-054419(JP,A)
【文献】特開2008-235835(JP,A)
【文献】特表2020-507461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/28
H01L 21/203
C23C 14/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル発生装置と、
基板保持台とターゲットステージとを有するチャンバと、
前記チャンバを排気する排気装置と、
前記基板保持台上で挿脱可能な第1のシャッターとを備えた半導体成膜装置において、前記ラジカル発生装置は放電室を備え、前記放電室内には金属微粒子を担持したC12A7エレクトライドが配置され、
前記第1のシャッターを閉じた状態で、
前記ラジカル発生装置から窒素ラジカルを照射するラジカル照射工程と、
前記ラジカル発生装置からの窒素ラジカル照射を停止して排気する排気工程とをこの順に実行する第1のプロセスを1回以上含み、
前記第1のプロセスの後に前記第1のシャッターを開いた状態で、
前記ターゲットステージ上の第1のターゲットホルダーに収容された第1のターゲットを蒸発させ、前記基板保持台に保持された基板に成膜する成膜工程を含むことを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記金属微粒子は、Ru又はReであることを特徴とする請求項1記載の成膜方法。
【請求項3】
前記ラジカル照射工程において、前記ラジカル発生装置は、10%以下の酸素、水素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンうち少なくとも1種を添加した窒素ガスから窒素ラジカルを発生させることを特徴とする請求項1又は2記載の成膜方法。
【請求項4】
前記ラジカル照射工程は、圧力が10[Pa]以下、窒素ラジカル密度と処理時間との積が1×1012[cm-3・min]以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の成膜方法。
【請求項5】
少なくとも前記第1のプロセスの前又は後に、
前記ターゲットステージ上の第2のターゲットホルダーにゲッター材料からなる第2のターゲットを収容し、前記第1のシャッターを閉じた状態で、前記第2のターゲットを蒸発させて主として前記第1のシャッターに堆積する第2のプロセスを実行することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の成膜方法。
【請求項6】
前記半導体成膜装置は、前記第1のターゲットにレーザーを照射するレーザー発生装置をさらに備え、
前記レーザー発生装置から照射されるレーザーは、パルス幅が1ピコ秒以上1000ピコ秒以下であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の成膜方法。
【請求項7】
前記第1のターゲットは、III族元素からなることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の成膜方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項記載の成膜方法を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記成膜工程において、前記ラジカル発生装置から窒素ラジカルを照射することを特徴とする請求項8記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
基板保持台とターゲットステージとを有するチャンバと、
前記チャンバを排気する排気装置と、
前記基板保持台に対して開閉可能な第1のシャッターと、
前記チャンバ内にパルスレーザーを照射するレーザー発生装置と、
前記チャンバ内に窒素ラジカルを照射するラジカル発生装置とを備え、前記ラジカル発生装置は放電室を備え、前記放電室内には金属微粒子を担持したC12A7エレクトライドが配置され、
前記ターゲットステージは、蒸着材料を収容する第1のターゲットホルダーとゲッター材料を収容する第2のターゲットホルダーとを少なくとも備え、
前記ターゲットステージは、前記第1のターゲットホルダーと前記第2のターゲットホルダーの位置を変更するターゲットステージ駆動装置を備えたことを特徴とする半導体成膜装置。
【請求項11】
ラジカル発生装置と、
基板保持台とターゲットステージとを有するチャンバと、
前記チャンバを排気する排気装置と、
前記基板保持台上で挿脱可能な第1のシャッターとを備えた半導体成膜装置において、
前記第1のシャッターを閉じた状態で、
前記ラジカル発生装置から窒素ラジカルを照射するラジカル照射工程と、
前記ラジカル発生装置からの窒素ラジカル照射を停止して排気する排気工程とをこの順に実行する第1のプロセスを1回以上含み、
前記第1のプロセスの後に前記第1のシャッターを開いた状態で、
前記ターゲットステージ上の第1のターゲットホルダーに収容された第1のターゲットを蒸発させ、前記基板保持台に保持された基板に成膜する成膜工程を含み、
少なくとも前記第1のプロセスの後、前記成膜工程の前
前記ターゲットステージ上の第2のターゲットホルダーにゲッター材料からなる第2のターゲットを収容し、前記第1のシャッターを閉じた状態で、前記第2のターゲットを蒸発させる第2のプロセスを実行することを特徴とする成膜方法。
【請求項12】
ラジカル発生装置と、
基板保持台とターゲットステージとを有するチャンバと、
前記チャンバを排気する排気装置と、
前記基板保持台上で挿脱可能な第1のシャッターとを備えた半導体成膜装置において、
前記第1のシャッターを閉じた状態で、
前記ラジカル発生装置から窒素ラジカルを照射するラジカル照射工程と、
前記ラジカル発生装置からの窒素ラジカル照射を停止して排気する排気工程とをこの順に実行する第1のプロセスを1回以上含み、
前記第1のプロセスの後に前記第1のシャッターを開いた状態で、
前記ターゲットステージ上の第1のターゲットホルダーに収容されたIII族元素からなる第1のターゲットを蒸発させ、前記基板保持台に保持された基板に成膜する成膜工程を含み、前記成膜工程において前記ラジカル発生装置から窒素ラジカルを照射することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項13】
ラジカル発生装置と、
基板保持台とターゲットステージとを有するチャンバと、
前記チャンバを排気する排気装置と、
前記基板保持台上で挿脱可能な第1のシャッターとを備えた半導体成膜装置において、 前記第1のシャッターを閉じた状態で、
前記ラジカル発生装置から窒素ラジカルを照射するラジカル照射工程と、
前記ラジカル発生装置からの窒素ラジカル照射を停止して排気する排気工程とをこの順に実行する第1のプロセスを1回以上含み、
前記第1のプロセスの後に前記第1のシャッターを開いた状態で、
前記ラジカル発生装置から窒素ラジカルを照射するとともに、
前記ターゲットステージ上の第1のターゲットホルダーに収容された第1のターゲットを蒸発させ、
前記基板保持台に保持された基板に窒化物を成膜する成膜工程を含み、
少なくとも前記第1のプロセスの前に、
前記ターゲットステージ上の第2のターゲットホルダーにゲッター材料からなる第2のターゲットを収容し、前記第1のシャッターを閉じた状態で、前記第2のターゲットを蒸発させる第2のプロセスを実行することを特徴とする成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は半導体成膜装置、特にIII族窒化物薄膜を形成する半導体成膜装置及びその成膜方法並びにそれを用いた半導体装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ワイドバンドギャップ半導体デバイスとしてGaN系の材料を用いた光デバイスや電子デバイスの研究が活発に行われている。このようなGaN系材料の結晶成長にはMOCVDやMBEが多く用いられている。最近では短パルスレーザーで加熱せずにIII族元素を昇華させつつ、プラズマ励起で窒素ラジカルを発生させることでV族を供給するPLD法(Pulse Laser Deposition)による成膜が注目されている。
【0003】
PLD法は、短パルスレーザーをターゲット材料に照射することで材料が瞬間的に蒸発するアブレーションと呼ばれる現象を用いて、ターゲット材料を被成膜物である基板上に堆積する成膜方法であり、MOCVD法と異なり有機ソースガスの供給も除害設備も不要である。(特許文献1-4)
【0004】
MBE法は、ターゲットを高温に加熱して膜を蒸着する成膜方法であり(例えば特許文献5)、有機ソースガスを使用しない。しかし、MBE成膜装置は、装置全体が高温となるため、装置全体を冷却し、温度管理するための複雑な機構が必要となる。
PLD法は、他の成膜方法と比べ、簡単な構成の成膜装置で、GaN系材料の結晶を形成することができる。
【0005】
PLD法で使用するレーザーは、パルス幅(パルス長)が、例えばナノ秒オーダー、ピコ秒オーダー、フェムト秒オーダーのレーザーが使用できる。
ナノ秒オーダー以上の場合は、ターゲットの加熱を伴うことになるが、パルス幅がピコ秒オーダー、フェムト秒オーダーの場合は、ターゲットが加熱されることなく、レーザーが照射された箇所のターゲット材料を瞬間的に蒸発することができる。特にパルス幅がピコ秒オーダーの場合、安定して堆積速度の高い成膜が可能となる。
なお、本明細書において、簡単のためレーザー光を単にレーザーと称し、PLD法による成膜装置を単にPLD成膜装置又はPLD装置と称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-206867号公報
【文献】特開2018-170437号公報
【文献】特開2017-157694号公報
【文献】特開2007-288141号公報
【文献】特開2015-62255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
PLD成膜装置では真空チャンバ内雰囲気の水分やハイドロカーボンが成膜中のGaN半導体層内に取り込まれ易いという問題がある。水から供給される酸素は、半導体中でドナーとなる場合があり、キャリア濃度の再現性を低下させる場合がある。またハイドロカーボンなどが残れば、カーボンはGaN結晶の中で複雑な深い準位を形成することが知られている。このように真空チャンバ内雰囲気の不純物を低減することはGaN層の高品質化のために重要である。
【0008】
上記課題を鑑み、本発明は、残留水分や残留ガスなどを効果的に排除した状態で成膜することを可能にする半導体成膜装置及びその成膜方法並びに半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る成膜方法は、
ラジカル発生装置と、
基板保持台とターゲットステージとを有するチャンバと、
前記チャンバを排気する排気装置と、
記基板保持台上で挿脱可能な第1のシャッターとを備えた半導体成膜装置において、
前記第1のシャッターを閉じた状態で、
前記ラジカル発生装置から窒素ラジカルを照射するラジカル照射工程と、
前記ラジカル発生装置からの窒素ラジカル照射を停止して排気する排気工程とをこの順に実行する第1のプロセスを1回以上含み、
前記第1のプロセスの後に前記第1のシャッターを開いた状態で、
前記ターゲットステージ上の第1のターゲットホルダーに収容された第1のターゲットを蒸発させ、前記基板保持台に保持された基板に成膜する成膜工程を含むことを特徴とする。
【0010】
このような成膜方法とすることにより、従来排気が困難であった水やハイドロカーボンを窒素ラジカルとの反応により排気を促進し、到達真空の圧力を低減することができる。その結果、半導体成膜装置により成膜された膜の純度を向上させることができる。
【0011】
また、本発明に係る成膜方法は、
前記ラジカル発生装置は、周囲にコイルを有する放電室を備え、
前記放電室内には、触媒が配置されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る成膜方法は、
前記触媒は、Ru又はReを担持したC12A7エレクトライドであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る成膜方法は、
前記ラジカル照射工程において、前記ラジカル発生装置は、10%以下の酸素、水素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンうち少なくとも1種を添加した窒素ガスから窒素ラジカルを発生させることを特徴とする。
【0014】
このような成膜方法とすることにより、さらに窒素ラジカルを効率的に発生させる効果を高めることができる。
【0015】
また、本発明に係る成膜方法は、
前記ラジカル照射工程は、圧力が10[Pa]以下、窒素ラジカル密度と処理時間との積が1×1012[cm-3・min]以上であることを特徴とする。
【0016】
このような成膜方法とすることにより、チャンバ内の残存する水やハイドロカーボンと効果的に窒素ラジカルが反応し、これらの残留ガス分圧を低下させることができる。
【0017】
また、本発明に係る成膜方法は、
少なくとも前記第1のプロセスの前又は後に、
前記ターゲットステージ上の第2のターゲットホルダーにゲッター材料からなる第2のターゲットを収容し、前記第2のシャッターを閉じた状態で、前記第2のターゲットを蒸発させる第2のプロセスを実行する
【0018】
このような成膜方法においては、蒸発させたゲッター材料をチャンバ内、特に第1のシャッターに形成することにより、チャンバの雰囲気内に残存する不純物をさらに除去することができる。
【0019】
また、本発明に係る成膜方法は、
前記半導体成膜装置は、前記第1のターゲットにレーザーを照射するレーザー発生装置をさらに備え、
前記レーザー発生装置から照射されるレーザーは、パルス幅が1ピコ秒以上1000ピコ秒以下であることを特徴とする。
【0020】
このような構成の半導体成膜装置において、上記レーザーパルス幅とすることで、安定してゲッター材料からなるターゲットを蒸発させることができる。
【0021】
また、本発明に係る成膜方法は、
前記第1のターゲットは、III族元素からなることを特徴とする。
【0022】
チャンバ内雰囲気の残存する水、ハイドロカーボンを効果的に排出することで、純度の高い膜、特にIII族元素及びその窒化物を得ることができる。
【0023】
本発明に係る半導体装置の製造方法は、
上記成膜方法を含むことを特徴とする。
【0024】
また、本発明に係る半導体装置の製造方法は、
前記成膜工程において、前記ラジカル発生装置から窒素ラジカルを照射することを特徴とする。
【0025】
このような半導体装置の製造方法とすることにより、高純度な膜を形成でき、特にIII族窒化物半導体の製造が可能となり、ワイドバンドギャップ半導体装置等の半導体装置を製造することができる。
【0026】
本発明に係る半導体成膜装置は、
基板保持台とターゲットステージとを有するチャンバと、
前記チャンバを排気する排気装置と、
前記基板保持台に対して開閉可能な第1のシャッターと、
前記チャンバ内にパルスレーザーを照射するレーザー発生装置と、
前記チャンバ内に窒素ラジカルを照射するラジカル発生装置とを備え、
前記ターゲットステージは、蒸着材料を収容する第1のターゲットホルダーとゲッター材料を収容する第2のターゲットホルダーとを少なくとも備え、
前記ターゲットステージは、前記第1のターゲットホルダーと前記第2のターゲットホルダーの位置を変更するターゲットステージ駆動装置を備えたことを特徴とする。
【0027】
また、本発明に係る半導体成膜装置は、
前記ラジカル発生装置は、プラズマを発生させる放電室と、前記放電室の周囲を巻くコイルとを有し、
前記放電室内には、触媒が配置されていることを特徴とする。
【0028】
このような構成の半導体成膜装置とすることで、チャンバ内の到達真空の圧力を大幅に低減できる。その結果、純度の高い膜の形成が可能となる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、従来困難であった残留水分や残留ガスなどを効果的に除去することが可能となる。
その結果、純度の高い膜、特にIII-窒化物系半導体を提供することが可能となる。
なお、一例であるが、膜中のカーボン及び酸素含有量が、それぞれ1桁及び2桁低減することを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明に係るPLD装置の主要構成図。
図2】ターゲットステージとレーザーとの関係を示す上面図。
図3】ラジカル発生装置の構成を示す断面図。
図4】ラジカル発生装置の触媒設置部の断面図。
図5】チャンバ圧力のラジカル照射時間依存性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は、いずれも本発明の要旨の認定において限定的な解釈を与えるものではない。また、同一又は同種の部材については同じ参照符号を付して、説明を省略することがある。
【0032】
<PLD装置>
図1は第1の実施形態における半導体成膜装置であるPLD装置1の構成図を示したものである。
排気ポート(排気配管口)2を介して排気装置40(真空ポンプ)により排気され、内部を真空に保持可能なチャンバ(筐体)3の内部には、回転軸4の回りに回転可能なターゲットステージ5、成膜する対象(被成膜物)である基板6(ウェハ)を保持するサセプタ(基板保持台)7が設置されている。
サセプタ7は、加熱ヒータ8を備え、基板6を、例えば500~1000[℃]に加熱することも可能である。
【0033】
ターゲットステージ5には、複数のターゲットホルダー51を保持することができ、この場合、回転軸4の回りに、ステッピングモータやサーボモータ等を用いたターゲットステージ駆動装置により回転可能である。
ターゲットホルダー51は、一般的には基板6上に堆積するための蒸着材料からなるターゲット、例えばIII族元素であるB、Ga、Al、Inを収容するが、さらには、チャンバ3内に残留する物質(例えば酸素、水)をゲッタリング(捕獲)する特性を有するゲッター材料からなるターゲット、例えばBa、Ti、B等を収容するよう構成されている。従って、ターゲットステージ5は、少なくとも1つの蒸着材料を収容するターゲットホルダー51(第1のターゲットホルダー)と、少なくとも1つのゲッター材料を収容するターゲットホルダー51(第2のターゲットホルダー)とを備える。
後述するように、ターゲットホルダー51の位置、すなわち蒸着材料とゲッター材料の位置は、回転軸4の回りにターゲットステージ5を回転することで、変更することができる。
なお、Tiはゲッター材料としてだけでなく、蒸着材料としても利用することができる。
【0034】
チャンバ3には、ビューポート(レーザー導入部)9が設けられており、ビューポート9を介してレーザー発生装置10から放射されたレーザーをチャンバ3内に導入することができる。
なお、レーザー発生装置10とビューポート9との間にレンズ等の光学素子を設置してもよい。
【0035】
チャンバ3に導入されたレーザーは、ターゲットステージ5上の特定の位置を照射するよう光軸が調整されている。そのため、複数のターゲットホルダー51のうちの1つに収容されたターゲットの表面を照射することができる。
図2は、4つのターゲットホルダー51a、51b、51c、51dを備えたターゲットステージ5の例の上面図である。例えば、ターゲットホルダー51aはゲッター材料からなるターゲットを保持し、第2、3、4のターゲットホルダー51b、51c、51dは蒸着材料からなるターゲットを保持する。図2に示すように、ターゲットステージ5を回転することで、レーザーLの照射位置Pに、所望のターゲットホルダー51(例えばターゲットホルダー51a)を配置し、レーザーにより蒸発させるターゲット材料を選択(変更)することができる。
【0036】
レーザー発生装置10から照射されるレーザーのパルス幅は、好適には、1ピコ秒以上1000ピコ秒以下とすることで、特に安定してターゲット材料の蒸発(プルームの発生)が可能である。具体的には、例えば波長1064[nm]、パルス幅10~20[ps]、繰り返し周波数100[kHz]、平均パワー5[W])が放射されるが、この条件に限定されない。
【0037】
さらにPLD装置1は、ターゲットステージ5(又はターゲットホルダ51)とサセプタ7(基板6)との間に第1のシャッター(遮蔽板)11を備える。
第1のシャッター11は、第1の開閉軸12の回りに回転可能に設置されている。
ステッピングモータやサーボモータ等を用いた図示しない第1のシャッター駆動装置(シャッター開閉装置)により、第1のシャッター11を第1の開閉軸12の回りに回転させることで、ターゲットステージ5とサセプタ7との間に挿入(介在させ)たり(閉じた状態)、ターゲットステージ5とサセプタ7との間の位置から脱したり(開いた状態)することができる。すなわち、第1のシャッター11は第1のシャッター駆動装置によって、ターゲットステージ5とサセプタ7との間に挿脱可能(開閉可能)に設置されている。
【0038】
第1のシャッター11を閉じると、ターゲットから蒸発したターゲット材料は、第1のシャッター11により遮られ基板6に到達せず、第1のシャッター11上に堆積される。
第1のシャッター11を開くと、ターゲットホルダ51(ターゲット)とサセプタ7(基板6)との間から外れ、ターゲットから蒸発したターゲット材料は基板6に到達し、基板6上にターゲット材料を堆積できるようになる。
【0039】
PLD装置1は、ターゲットステージ5上に第2のシャッター(遮蔽板)13を備え、第2のシャッター13は、第2の開閉軸14の回りに回転可能に設置されている。図示しない第2のシャッター駆動装置(シャッター開閉装置)により、第2の開閉軸14の回りに回転させることで、ターゲットステージ5とサセプタ7(基板6)との間に挿脱可能に設置されている。
【0040】
PLD装置1は、チャンバ3の内部にガス供給ポート15を備え、ガス供給ポート15にはラジカル発生装置(ラジカル源)16が接続されている。
例えば、窒化物等の化合物を形成する場合、ターゲット材料(蒸着材料)と反応し化合物を形成するガス(例えば窒素)を所定の流量に制御し、基板6表面に導入する。反応性ガスは、ターゲットから蒸発した蒸着材料と反応し、化合物(例えばGaNといったIII族窒化物等)が基板6表面に堆積される。
反応性ガスをラジカル発生装置16によって、活性なラジカルに変換することにより、蒸着材料との反応が促進し、安定して化合物を得ることができる。
ラジカル発生装置16は、例えばMBE装置に適用した実施形態について文献5に開示されているように、コイル状の電極に高周波電力を印加し、プラズマを生成してラジカルを放出する装置であり、上記のようにIII族窒化物を形成する場合に使用することがある。
【0041】
ラジカル発生装置16のガス放出口には、第3のシャッター(遮蔽板)18が設置されている。第3のシャッター18は、第3の開閉軸19の回りに回転可能に設置されている。
図示しない第3のシャッター駆動装置(シャッター開閉装置)により、第3の開閉軸19の回りに回転させることで、第3のシャッター18をラジカル発生装置16とサセプタ7(基板6)との間に挿脱可能に設置されている。第3のシャッター18の挿脱により、サセプタ7(基板6)へのラジカルの供給、停止を行うことが可能である。
【0042】
なお、PLD装置1は、大気を導入することができるリークポート20を備え、ターゲットの交換やPLD装置1の定期洗浄等のメンテナンス作業を行うために、チャンバ3を大気開放することが可能である。
この場合、真空ポンプに通じる排気ポート2のバルブを閉じることは言うまでもない。
【0043】
なお、第1のシャッター11、第2のシャッター13、第3のシャッター18は、それぞれ第1の開閉軸12、第2の開閉軸14、第3の開閉軸19の回りに回転することで移動する例を示したが、平行に並進させて移動してもよい。
また、第1のシャッター11、第2のシャッター13、第3のシャッター18の形状は円板形状であっても、矩形形状であっても他の形状でもよい。
【0044】
<ラジカル発生装置>
図3は、ラジカル発生装置16の主要構成を示す断面図である。
マスフローコントローラ17により流量制御された気体、例えば窒素を、気体導入口21から導入し、供給管22を介して、PBN(熱分解窒化ホウ素)や石英からなる放電室23に供給する。
高周波電源24(RF電源)によって発生した高周波(交流)電力(例えば13.56[MHz])は、整合器25によりインピーダンス整合され、伝送線26を介してコイル27に供給される。コイル27は、放電室23の回りに巻回されており、放電室23内の気体を励起し、ラジカルが生成される。
なお、伝送線26の一方はグランド接続されている。
【0045】
生成されたラジカルは、放電室23の先端に設けられたオリフィス28(第1のオリフィス)を経由し、筐体29に設けられた開口部30から放出される。
また、図においてオリフィス28は、1つの孔で構成しているが、複数の孔を配列して構成してもよい。
また、放出されるラジカルの分布を、オリフィス28の形状により制御してもよい。例えば、オリフィス28(開孔部)を円筒形状とし、その半径及び高さ(長さ)を調整する、又は、円錐台形状とし、その底面、上面の半径及び高さを調整することができる。
オリフィス28は、複数種類準備しておき、蒸着材料及び成膜条件に合わせて適宜変更することができる。例えば、図3に示されている開口部30の前面に設置するシャッター18の一部にさらに第2のオリフィス33を設け、シャッター18を回転させることで、ラジカルの放出を停止したり、第2のオリフィス33からラジカルを放出してもよい。
この場合、第2のオリフィス33として、シャッター18に複数種類の形状の第2のオリフィス33設け、シャッター18を回転させて、第2のオリフィス33を適宜選択することができる。
【0046】
コイル27は、中空状の管で構成され、その内部に冷却水を流すことができる。冷却水は、給排水口31から供給及び排出される。給排水口31は、整合器25に設けられているが、それに限定されるものではない。
【0047】
放電室23内に触媒32を設けてもよい。図3は、コイル27により巻回された箇所とオリフィス28との間に設けた例を示す。図4は、放電室23及び触媒32の断面拡大図を示す。
触媒32は、図4(a)に示すように、放電室23内壁に沿って設けることができるが、図4(b)に示すように、網目状の円板形状であってもよく、また、図4(c)に示すように、粒状をなし、気体が通過できる程度の間隔を設けて充填してもよい。
触媒32は、金属表面の触媒作用を利用することができ、金属表面に吸着した窒素分子の乖離を促進する。すなわち、金属表面の触媒作用によって、窒素分子の結合を弱め、活性な窒素ラジカルの生成を促進し、窒素ラジカルの密度を高めることができる。
なお、金属の他に、例えばWN(窒化タングステン)やTiN(窒化チタン)等の窒化金属も触媒作用があり、触媒32として金属や窒化金属を使用することができる。
【0048】
さらに、触媒32として、担体(例えば、ゼオライト等の多孔質な物質)上に金属のナノ粒子(ナノメートルオーダーの微粒子)を担持したものを用いることができるが、好適には金属としてRuのナノ粒子を担持させたC12A7エレクトライド(12CaO・7Al)が使用できる。Ruの他、Reを使用してもよい。特にC12A7エレクトライドは、導電性が高く、担持した金属微粒子へ電子を供与する機能に優れ、金属微粒子の触媒特性を助長するとともに、非常に安定な材料であるため、このような放電室23内に設置しても、耐久性が高く好適である。
なお、触媒32は、放電室23内において、周囲がコイル27により巻回された箇所に設置してもよい。電磁誘導により、触媒32の金属微粒子の温度が上昇し、窒素分解を促進する。また、触媒32は、接地してもよいが、生成されたプラズマにより電子の供給が可能であるため、必ずしも接地は不要である。
【0049】
<成膜装置の処理方法>
以下、本PLD装置1を用いて成膜するために、チャンバ3を排気する(高真空とする)方法について説明する。
PLD装置1のチャンバ3の内壁に付着した水やハイドロカーボンに起因して、チャンバ3内の雰囲気に水やハイドロカーボンが残存すると、排出が困難である。雰囲気中に残存する水やハイドロカーボンは、基板6上に堆積する膜中に不純物として取り込まれ、堆積膜の純度(品質)を低下させてしまうことがある。
【0050】
本発明にかかる排気及び成膜方法においては、排出が特に困難な水やハイドロカーボンを窒素ラジカル照射を用い効果的に排出することができる。その結果、ベースプレッシャー(到達真空圧)を大幅に低減し、PLD法により形成される膜の品質を向上することが可能である。
なお、以下に説明する各プロセスでは、排気ポート2を介し、真空ポンプ(例えばターボポンプ)でチャンバ3を排気している。
【0051】
まず、成膜対象物である基板6をサセプタ7に載置させる。その後、レーザー照射により蒸着材料を基板6上に成膜する前に、チャンバ3を高真空状態にする排気処理(工程)として、以下のプロセスを実行する。
なお、基板6をサセプタ7に載置させる過程において、チャンバ3を大気開放した場合、通常通り、排気装置40のみを使用して、チャンバ3を排気する。以下のプロセス1、2は、排気装置40のみを使用した従来の排気工程の後に実行する。例えば、排気装置40のみを使用して、所定の圧力に到達した後に実行する。所定の圧力は、事前に設定した圧力値とするか、又は圧力低下が飽和したときの圧力としてもよい。
【0052】
プロセス1(第1のプロセス):
第1のシャッター11及び第2のシャッター13を閉じ、第3のシャッター18を開きラジカル発生装置16から窒素ラジカルをチャンバ3内に照射しながら、排気装置40により排気する。この処理を、簡単のため、ラジカル照射工程と称す。
この場合、レーザー発生装置10からレーザーは照射しない。
【0053】
窒素ラジカルを生成するため、マスフローコントローラ17により流量制御された窒素ガスをラジカル発生装置16に供給する。このとき、窒素ガスに、少量の添加物、具体的には10%以下の酸素、水素や、希ガスであるヘリウム、ネオン、アルゴン、ネオン、クリプトン、キセノンから選択された1種以上のガスを混合してもよい。
このようなガスを窒素ガスに添加することで、プラズマの生成が助長され、窒素ラジカルの密度を向上させることができる。
特に、窒素ガスに水素を添加し窒素ラジカルを発生させる場合、C12A7エレクトライドに金属微粒子を担持した触媒32を使用すると、(添加した水素はC12A7エレクトライドに捕獲されるため)金属微粒子表面上で、水素が窒素の乖離を阻害することを防止する。
【0054】
窒素ラジカル処理は、具体的には(限定するものではないが)、チャンバ3の圧力10[Pa]以下の条件で、窒素ラジカル密度が1×1012[cm-3]以上の高密度で、処理時間1分以上、或いは窒素ラジカル密度と処理時間の積が1×1012[cm-3・min]以上の条件で実行する。このとき、特にPLD装置1の加熱は必要ではないが、その後の成膜に備え、基板6を保持しているサセプタ7をヒーター8により加熱していてもよい。
なお、チャンバ3内の圧力制御は、排気ポート2に設けたバルブ開度の調整、マスフローコントローラ17による窒素ガスの流量制御により可能である。
【0055】
窒素ラジカルを照射した場合、窒素ラジカルを照射しない場合に比べ、水の分圧を低減できることを四重極型質量分析計(QMASS)により確認した。
水の分圧を低減できた原因としては、以下の反応式によると考えられる。
O+N → NH+NO+H (式1)
すなわち、残存する水が、蒸気圧が高く沸点の低い物質に変換されることにより、効果的に排出されるため、水の分圧を低減できる。
また、ハイドロカーボンについても、例えば以下に示すように、窒素ラジカルによって排気が容易な物質に変換されて効果的に排出が可能である。
CxOyHz+N → CO+NH+NO (式2)
その結果、水及びハイドロカーボンが排出され、ベースプレッシャーが低下し、一層の高真空が実現される。
【0056】
本プロセスの効果を確認した結果を図5に示す。
図中黒丸(●)は、流量20[sccm]([ml/min(標準状態)])の窒素ガス(N2)をラジカル発生装置16に導入し、窒素ラジカルをチャンバ3内へ照射した場合の圧力変化を示す。実線は、窒素ラジカルを発生させることなく流量20[sccm]の窒素ガス(N2)をチャンバ3に導入した場合の圧力を示す。
【0057】
図中黒丸で示されるように、窒素ラジカルをチャンバ3内へ照射すると、窒素ラジカルがチャンバ3内(チャンバ3内壁を含む)の水やハイドロカーボンと反応し脱ガスが発生するため、実線と比較して、圧力は一旦上昇する。しかし、窒素ラジカル照射時間とともに圧力は減少傾向となる。窒素ラジカルの照射時間が約50分以降では、圧力は一定の値になり、実線と比較して低くなることが理解できる。
すなわち、窒素ラジカルを照射しない場合、チャンバ3の水やハイドロカーボンが残存しているが、窒素ラジカルを照射した場合、チャンバ3の水やハイドロカーボンが窒素ラジカルによって除去されていく。そのため、最終的には、水やハイドロカーボンが寄与する分圧に相当する圧力だけ、チャンバ3内の圧力を低下させることができる。
【0058】
その後、窒素ラジカル照射を停止する。排気ポート2を介した排気装置40によりチャンバ3内を排気し、減圧する。チャンバ3内の雰囲気又はチャンバ3の内壁等に付着していた水やハイドロカーボンが除去されることにより、この排気工程において、到達真空の圧力が一層低下する。
【0059】
窒素ラジカル照射時の圧力と、到達真空圧力との相関データを予め取得しておけば、窒素ラジカル照射工程の圧力をモニターすることで、所望の到達真空圧力を実現できる。
【0060】
なお、ラジカル照射工程の間も、排気装置40による排気を行っているが、窒素ラジカルの供給を停止した状態を、簡単のため、排気工程と称し、上記ラジカル照射工程と排気工程とをこの順に実行する処理を、プロセス1と称す。
このプロセス1を少なくとも1回、又は所望の到達真空が得られるまで複数回繰り返してもよい。
【0061】
プロセス2(第2のプロセス):
ゲッター材料をターゲットとして収容するターゲットホルダー51にレーザーが照射されるようにターゲットステージ5の回転角を調整する。
第1のシャッター11を閉じ、第2のシャッター13を開き、ゲッター材料(例えば、Ti、B、Ba)からなるターゲットに、レーザー発生装置10からレーザーを照射する。
なお、この場合、ラジカル発生装置16からのラジカル照射は行わない。
【0062】
レーザーが照射された箇所から、ゲッター材料が蒸発する。蒸発したゲッター材料は、主として第1のシャッター11に堆積(蒸着)されるが、基板6には堆積されない。
なお、第1のシャッター11以外のチャンバ3内壁に、一部のゲッター材料が堆積されてもよい。
【0063】
第1のシャッター11等に堆積されたゲッター材料の表面は活性であり、水、酸素、窒素等の反応性ガスを捕獲(ゲッタリング)する。
ゲッター材料を蒸発させることなく真空ポンプのみにより真空排気した場合、ベースプレッシャは10-6[Pa]であったが、ゲッター材料としてB(ボロン)を用いてPLD法により蒸発させ第1のシャッター11等に堆積した場合、ベースプレッシャが10-8[Pa]となり2桁の圧力の低下(改善)を確認できた。
このような2桁の圧力の低下は、チャンバ3内の水、ハイドロカーボン、その他活性な残存ガスをゲッター材料が捕獲するためである。
第1のシャッター11は、基板6へのゲッター材料の形成を防止するとともに、ゲッター面として作用する。また、第1のシャッター11が開いた状態でも、第1のシャッター11は基板6近傍に存在する構成であるため、成膜対象の基板6近傍においてゲッタリング効果を高める効果がある。
【0064】
このプロセス2において、第3のシャッター18を閉じてもよい。殆どのゲッター材料は、第1のシャッター11及びその周囲のチャンバ3内壁に堆積されるため、ラジカル発生装置16への付着は少ないため、第3のシャッター18を閉じることは必須ではない。しかし、第3のシャッター18を閉じることにより、ラジカル発生装置16に、不必要にゲッター材料が堆積され、ラジカル発生装置16から照射される窒素ラジカルが捕獲され、チャンバ3内に供給する窒素ラジカルが減少するリスクを防止できる。
【0065】
なお、上記プロセス1及びプロセス2において、チャンバ3は排気ポート2を介して排気装置40により排気されていることは言うまでもない。
【0066】
以上のプロセス1及びプロセス2により、チャンバ3の雰囲気中の水やハイドロカーボンが効果的に除去(又はそれぞれの分圧を低下)することができる。
【0067】
成膜時の雰囲気中のカーボンや酸素の分圧を低減することで、成膜されたGaNに取り込まれるカーボンや酸素の濃度を低減できる。窒素ラジカル処理の有無のサンプルに対して、SIMS分析により膜中のカーボン及び酸素の濃度を比較調査した。その結果、窒素ラジカル処理無しのサンプルでは、カーボン(C)濃度が3×1019[cm-3]、酸素(O)濃度が4×1020[cm-3]であるのに対し、窒素ラジカル処理有りのサンプルでは、カーボン(C)濃度が2×1018[cm-3]、酸素(O)濃度が2×1018[cm-3]であり、カーボン濃度が1桁低下し、酸素濃度は2桁低下しており、大幅に膜の純度が向上することが確認された。
【0068】
これらの2つのプロセスの順番は限定するものではないが、プロセス1、プロセス2の順に実行する場合、プロセス1で窒素ラジカルと反応して発生した副生成物をプロセス2でさらに効果的に排除できる。
【0069】
なお、成膜プロセスにおいて、蒸着した膜を窒化する場合、例えばGaNを成膜する場合、好適にはプロセス2、プロセス1の順に実行することができる。チャンバ3内雰囲気に窒素ラジカルにより予め満たすことができる。
なお、プロセス2の後にプロセス1を実行すると、窒素ラジカル照射直後において活性な窒素ラジカルが、第1のシャッター11等に堆積されたゲッター材料により捕獲されてしまうため、窒素ラジカル照射時間を長くする等の時間調整が必要となることがある。
なお、プロセス1及びプロセス2の一方のみを実行してもよい。
【0070】
以後、第1のシャッター11及び第2のシャッター13を開放し、PLD法により成膜プロセスを実行する。
例えばIII族元素であるGa(ただし、限定するものではない)をターゲットにパルスレーザーを照射するとともに、第3のシャッター18を開き、ラジカル発生装置16から窒素ラジカルを照射することにより、III族窒化物(Ga窒化物)を形成することができる。
チャンバ3内部雰囲気の不純物が低減されているため、高純度なGa窒化物を形成できる。得られたIII族窒化物である半導体を用いることにより、良好な特性を有するワイドバンドギャップ半導体装置を提供することが可能となる。
なお、III族元素の窒化物だけでなく、他の金属窒化物(WN、TiN等)の高純度な成膜も可能である。
また、窒素ラジカル照射を行わずにPLD法により成膜することで、窒化物以外の高純度な金属や半導体を形成できることは言うまでもない。
さらに、窒素以外の他の元素(例えば酸素)のラジカルを照射し、他の化合物(又は化合物半導体)を形成できることは言うまでもない。
【0071】
PLD装置1の成膜方法において、上記プロセス1及び/又はプロセス2と成膜との組合わせフローは、予めPLD装置1のメモリに登録しておき、演算処理部によりPLD装置1を制御することで自動的に処理を行うことができる。
【0072】
具体的には、プロセス1は以下のフローに従って排気することができる。
(1)予め判定値として第1の圧力をメモリに登録しておき、上記プロセス1を実行し、その後チャンバ3の圧力を測定する。
(2)チャンバ3の圧力が第1の圧力以下であれば、次の工程、例えば成膜処理、又はプロセス2を実行する。
(3)チャンバ3の圧力が第1の圧力より高ければ、プロセス1を再度実行する。
(4)プロセス1を、所定の回数(例えば5回)実行しても、チャンバ3の圧力が第1の圧力以下とならない場合、PLD装置1は、エラーメッセージを表示する。
【0073】
また同様に、プロセス2は以下のフローに従って排気することができる。
(1)予め判定値として第2の圧力をメモリに登録しておき、プロセス2の工程を実行し、その後チャンバ3の圧力を測定する。
(2)チャンバ3の圧力が第2の圧力以下であれば、次の工程、例えば成膜処理、又はプロセス1を実行する。
(3)チャンバ3の圧力が第2の圧力より高ければ、プロセス2を再度実行する。
(4)プロセス2が、所定の回数(例えば5回)実行しても、チャンバ3の圧力が第2の圧力以下とならない場合、PLD装置1は、エラーメッセージを表示する。
【0074】
例えば、プロセス1の後にプロセス2を実行する場合、第1の圧力を第2の圧力より高く設定してもよい。逆に、プロセス2の後にプロセス1を実行する場合、第2の圧力を第1の圧力より高く設定してもよい
【0075】
なお、成膜処理の場合、PLD法により、レーザーをターゲットホルダ51に収容された蒸着材料からなるターゲットに照射し成膜処理を行うが、窒化物を形成する場合、レーザーによりターゲット材料を蒸発させながら窒素ラジカルを照射してもよい。
【0076】
なお、上記の成膜方法は、従来到達真空の向上(圧力の低減)が困難であったPLD法による半導体成膜装置において特に有効であるが、MBE法による半導体成膜装置についても適用可能である。
すなわち、MBE装置においては、レーザー照射によりターゲット材料及びゲッタリング材料を蒸発させる替わりに、ヒーターや電子線等の公知の加熱装置を設け、ターゲットホルダー(るつぼ)に収容したターゲット材料及びゲッタリング材料を加熱して蒸発させればよく、さらにMBE装置に対してラジカル発生装置16を設置し、MBE装置のチャンバ内にラジカルを導入可能な構成とすればよい。
この場合、MBE法による基板6への成膜(ターゲット材料の蒸着)の前に、プロセス1若しくはプロセス2又はプロセス1とプロセス2の組合わせを実行すればよい。これにより、MBE装置においても、一層の到達真空の向上(圧力の低減)が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、半導体成膜装置において、到達真空の一層の向上(低い圧力)を実現することが可能となり、その結果、純度の高いIII窒化物を含む膜を提供することができる。
また、得られた高純度のIII窒化物は、例えばパワーデバイスや発光デバイス等の様々な半導体装置を用いた製品への適用が期待でき、産業上の利用可能性は高い。
【符号の説明】
【0078】
1 PLD装置
2 排気ポート(排気配管)
3 チャンバ(筐体)
4 回転軸
5 ターゲットステージ
51、51a、51b、51c、51d ターゲットホルダー
6 基板
7 サセプタ(基板保持台)
8 加熱ヒータ
9 ビューポート(レーザー導入部)
10 レーザー発生装置
11 第1のシャッター(遮蔽板)
12 第1の開閉軸
13 第2のシャッター(遮蔽板)
14 第2の開閉軸
15 ガス供給ポート
16 ラジカル発生装置
17 マスフローコントローラ
18 第3のシャッター(遮蔽板)
19 第3の開閉軸
20 リークポート
21 気体導入口
22 供給管
23 放電室
24 高周波電源
25 整合器
26 伝送線
27 コイル
28 オリフィス(第1のオリフィス)
29 筐体
30 開口部
31 給排水口
32 触媒
33 第2のオリフィス
40 排気装置(真空ポンプ)
図1
図2
図3
図4
図5