(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】こんにゃく食品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 19/00 20160101AFI20240116BHJP
【FI】
A23L19/00 102A
(21)【出願番号】P 2019222761
(22)【出願日】2019-12-10
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】391063075
【氏名又は名称】アスザックフーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001726
【氏名又は名称】弁理士法人綿貫国際特許・商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 陽子
(72)【発明者】
【氏名】王 欣雨
(72)【発明者】
【氏名】丸山 圭
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-090687(JP,A)
【文献】特公昭48-015624(JP,B1)
【文献】特開2013-172652(JP,A)
【文献】特開平11-313619(JP,A)
【文献】特開昭51-061653(JP,A)
【文献】特開2017-051170(JP,A)
【文献】特開昭58-060966(JP,A)
【文献】特開平08-089201(JP,A)
【文献】特開平02-255050(JP,A)
【文献】特開昭62-096060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00 - 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
こんにゃくおよび保湿性を有する糖アルコールを混合する工程と、
前記こんにゃくに前記糖アルコールを含浸させる工程と、
前記糖アルコールを含浸させたこんにゃくを
、最終水分活性を0.6以下に乾燥させる工程と、を含
み、
前記糖アルコールには、還元水飴またはグリセリンを用いて、
前記還元水飴を用いる場合、最終水分率を8~15質量%とすること、
前記グリセリンを用いる場合、最終水分率を8~22質量%とすること
を特徴とするこんにゃく食品の製造方法。
【請求項2】
前記糖アルコールには、前記還元水飴を用いて、最終水分率を8~15質量%とすること
を特徴とする請求項1記載のこんにゃく食品の製造方法。
【請求項3】
前記糖アルコールには、前記グリセリンを用いて、最終水分率を8~22質量%とすること
を特徴とする請求項1記載のこんにゃく食品の製造方法。
【請求項4】
前記こんにゃくに対する前記糖アルコールの混合割合を
5~35質量%とすること
を特徴とする請求項1
~3のいずれか一項に記載のこんにゃく食品の製造方法。
【請求項5】
前記こんにゃくには、厚さが1~5mmの板状に形成したこんにゃくを用いること
を特徴とする請求項1~
4のいずれか一項に記載のこんにゃく食品の製造方法。
【請求項6】
前記こんにゃくおよび前記糖アルコールの混合物に、前記糖アルコール以外の糖質、調味成分、ビタミン、ミネラル、および機能性成分の中から選択した一種または二種以上をさらに混合すること
を特徴とする請求項1~
5のいずれか一項に記載のこんにゃく食品の製造方法。
【請求項7】
前記含浸を、前記こんにゃくおよび前記糖アルコールの混合物を真空下で加熱することにより実施すること
を特徴とする請求項1~
6のいずれか一項に記載のこんにゃく食品の製造方法。
【請求項8】
前記乾燥を、熱風乾燥により実施すること
を特徴とする請求項1~
7のいずれか一項に記載のこんにゃく食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、こんにゃく食品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
こんにゃくは、こんにゃく芋(Amorphophallus konjac)を原料として、こんにゃく芋を粉にしたこんにゃく粉、あるいはこんにゃく芋をすり潰したものを水酸化カルシウム等のアルカリを用いて固めた食品である。特有の弾力性を有するが、乾燥すると収縮して弾力性が失われてしまうため、通常はアルカリ水中において流通させ且つ保存しなければならない。
【0003】
これに対して、こんにゃくを敢えて乾燥させて水分率を低下させた乾燥こんにゃくが知られている。乾燥こんにゃくは、こんにゃく粉にグルコースやスクロース等の少糖類を混合して固めたこんにゃくを乾燥させたり(特許文献1:特開平4-8257号公報)、こんにゃくを凍結して真空乾燥させたり(特許文献2:特開昭62-236463号公報)したもので、乾燥状態で流通させ且つ保存することができ、さらに調理する際に水で戻すことによってこんにゃくの弾力性を復元することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平4-8257号公報
【文献】特開昭62-236463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、乾燥こんにゃくは、水で戻したうえ、通常のこんにゃくと同様に調理して食することを目的としており、そのまま食しても歯応えがなく簡単に千切れてしまって弾力性を有しない。また、通常のこんにゃくが乾燥したものをそのまま食してもパリパリで割れてしまって弾力性を有しない。このように、乾燥こんにゃく、またはこんにゃくをそのまま乾燥させたのでは、貝紐やハードグミのような適度な弾力性を有する食感を得ることができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、乾燥状態で流通させ且つ保存することができ、そのまま食した際に、適度な弾力性を有し、所定の柔らかさと噛応えのある食感を得ることができるこんにゃく食品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
本発明は、一実施形態として以下に記載するような解決手段により、前記課題を解決する。
【0008】
本発明に係るこんにゃく食品の製造方法は、こんにゃくおよび保湿性を有する糖アルコールを混合する工程と、前記こんにゃくに前記糖アルコールを含浸させる工程と、前記糖アルコールを含浸させたこんにゃくを、最終水分活性を0.6以下に乾燥させる工程と、を含み、前記糖アルコールには、還元水飴またはグリセリンを用いて、前記還元水飴を用いる場合、最終水分率を8~15質量%とすること、前記グリセリンを用いる場合、最終水分率を8~22質量%とすることを要件とする。
【0009】
こんにゃくの内部の水分の一部を保湿性を有する糖アルコールに置換し、乾燥させることによって、当該こんにゃくを所定の水分を保持したまま乾燥状態にすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、乾燥状態で流通させ且つ保存することができ、そのまま食した際に、適度な弾力性を有し、所定の柔らかさと噛応えのある食感を持ったこんにゃく食品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】保湿性を有する糖アルコールを含浸させたこんにゃくの水分率を示すグラフである。
【
図2】実施例1~6および比較例1~11の破断強度についてPEAK値(平均値)を示すグラフである。
【
図3】実施例1、2、3、6の破断強度(実測値)を示すグラフである。
【
図4】比較例1、3、7の破断強度(実測値)を示すグラフである。
【
図5】比較例8、11の破断強度(実測値)を示すグラフである。
【
図6】比較例12および貝紐の破断強度(実測値)を示すグラフである。
【
図7】実施例8、9、10および比較例13、14の経時変化を説明する写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態に係るこんにゃく食品およびその製造方法について説明する。本実施形態に係るこんにゃく食品は、本実施形態に係るこんにゃく食品の製造方法により製造される物であることから、本実施形態に係るこんにゃく食品の製造方法について説明すると共に本実施形態に係るこんにゃく食品の特徴についてもあわせて説明する。
【0015】
本実施形態に係るこんにゃく食品の製造方法は、こんにゃくおよび保湿性を有する糖アルコールを混合する工程と、前記こんにゃくに前記糖アルコールを含浸させる工程と、前記糖アルコールを含浸させたこんにゃくを乾燥させる工程と、を含むことを特徴とする。以下、各工程について詳しく説明する。
【0016】
先ず、こんにゃくおよび保湿性を有する糖アルコールを混合する工程を実施する。混合の手順は、こんにゃくに対して糖アルコールを添加してもよく、糖アルコールに対してこんにゃくを添加してもよい。
【0017】
こんにゃくには、公知である各種のこんにゃくを用いることができる。具体的には、こんにゃく芋を粉にしたこんにゃく粉を固めた一般的な「こんにゃく」、こんにゃく芋をすり潰したものを固めた「生芋こんにゃく」、生食用に、灰汁の含有量を調整したり、海苔、柚子等を混込んだ「刺身こんにゃく」等の各種のこんにゃくを用いることができる。また、こんにゃくの形状は限定されず、板形、球形、紐形等の各形状のこんにゃくを用いることができるが、厚さが1~5[mm]程度の板状に形成したこんにゃくを用いると、糖アルコールおよび後述する調味成分等がこんにゃくに好適に含浸しやすく、好ましい。また、こんにゃくを板状に形成する場合、三角形、四角形、星形等の多角形、円形、楕円形等の各種の形状に型取りすることにより、食する際に形状を見て楽しむことが可能なこんにゃく食品を簡易に製造することができる。
【0018】
また、糖アルコールには、保湿性を有する糖アルコールを用いる。保湿性を有する糖アルコールには、還元水飴、ソルビトール、グリセリン等が含まれる。これらのうち、一種を用いてもよく、二種以上を用いてもよい。
【0019】
また、こんにゃくおよび糖アルコールの混合物に、適宜調味成分(例えば、醤油、塩、果汁等)、ビタミン、ミネラル、および機能性成分(例えば、食物繊維)等を混合して味や栄養価を調整してもよい。また、適宜水を混合して水分を補充してもよい。水分の補充によって、混合物を攪拌しやすくしたり、成分をこんにゃくに含浸しやすくしたりすることができる。なお、これらの成分を混合するタイミングは限定されず、例えばこんにゃくに糖アルコールと共に添加してもよく、または糖アルコールを添加する前後に添加してもよい。
【0020】
次に、こんにゃくに糖アルコールを含浸させる工程を実施する。これによって、こんにゃくの内部の水分の一部を保湿性を有する糖アルコールに置換することができる。含浸方法は、こんにゃくおよび糖アルコールの混合物をそのまま室温で放置してもよいが、より短時間で含浸させるには、適宜攪拌したり加熱すると好適であり、真空下で加熱するとさらに好適である。
【0021】
ここで、保湿性を有する糖アルコールの作用を次の方法により検証した(検証1)。先ず、市販の板こんにゃく(直方体のこんにゃく)を液切りし、厚さが2[mm]の板状に形成した。次いで当該こんにゃくに保湿性を有する複数種類の糖アルコールをそれぞれ所定の割合で混合した。次いで当該混合物を90[℃]まで加熱して、直後のこんにゃくの水分率を測定した。保湿性を有する糖アルコールには、還元水飴(MU-45(ウエノフードテクノ製)、以下同じ)、ソルビトール(フードル70(「フードル」は登録商標、三菱商事ライフサイエンス製)、以下同じ)、およびグリセリン(グリセリン(阪本薬品工業製)、以下同じ)を用いた。これらの糖アルコールの混合割合は、こんにゃくに対して5[質量%]、15[質量%]または25[質量%]とした。
【0022】
一方、厚さが2[mm]の板状に形成したこんにゃくを、何らの成分も混合せずにそのまま90[℃]まで加熱して、直後の水分率を測定した。当該無添加のこんにゃくの水分率(
図1中における0%の水分率)と、糖アルコールを混合したこんにゃくとの水分率とを比較することにより、こんにゃくに保湿性を有する糖アルコールを含浸させることによる作用を検証した。結果を
図1に示す。
【0023】
図1に示すように、保湿性を有する糖アルコールを混合したこんにゃくはいずれも水分率が低下し、当該糖アルコールの混合割合が増加する程、水分率はより低下した。これによって、こんにゃくに保湿性を有する糖アルコールを含浸させることにより、こんにゃくの内部の水を当該糖アルコールに置換できることが示された。また、糖アルコールの混合割合を増加させることにより、これに応じてより多くの水を当該糖アルコールに置換できることが示された。ただし、検証における含浸方法は一例であり、加熱しないと含浸できない訳ではない。
【0024】
また、糖アルコールのうち、いずれの混合割合においてもグリセリンを混合したこんにゃくで水分率が最も低くなり、次いでソルビトール、還元水飴の順で低かった。したがって、糖アルコールの含浸性すなわちこんにゃくの内部の水との置換性は、グリセリンが最も高いことが示された。
【0025】
次に、糖アルコールを含浸させたこんにゃくを乾燥させる工程を実施する。これによって、本実施形態に係るこんにゃく食品を製造することができる。
【0026】
乾燥方法は、こんにゃくをそのまま放置して(乾して)もよいが、より短時間で乾燥させるには、適宜送風すると好適であり、特に70~80[℃]程度の熱風を送風する熱風乾燥が好適である。なお、乾燥に際しては、こんにゃくが液中に浸されている場合には、適宜液体を分離したうえで乾燥させるとよい。
【0027】
ここで、保湿性を有する糖アルコールを含浸させたこんにゃくを乾燥させることによる作用を次の方法により検証した(検証2)。すなわち、検証1で90[℃]まで加熱したこんにゃくを75[℃]の熱風で120分乾燥させて水分活性(Aw)0.6以下のこんにゃく食品を製造し、当該こんにゃく食品の水分率を測定した。一方、検証1で何らの成分も混合せずにそのまま90[℃]まで加熱した無添加のこんにゃくを上記の熱風により水分活性0.6以下に乾燥させ、その水分率を測定した。結果を表1に示す。
【0028】
なお、水分活性とは、食品(ここでは、こんにゃく食品)中の自由水の割合を表す。水分活性は食品の保存性の指標であって、低くなる程当該食品の保存性が高くなる。本検証において水分活性を0.6以下に乾燥させたのは、本実施形態に係るこんにゃく食品の水分活性基準値を0.6以下に設定していることによる。
【0029】
【0030】
表1に示すように、保湿性を有する糖アルコールを混合したこんにゃく食品について、ソルビトールを5[質量%]で混合したものでは無添加のもの(5.10[質量%])と比較してやや水分率が低くなったものの(4.29[質量%])、それ以外ではいずれも水分率が高くなった(5.74~21.67[質量%])。なお、平均でみると、いずれの糖アルコールを混合したこんにゃく食品も、無添加のものと比較して水分率が高くなった(還元水飴7.87、ソルビトール5.79、グリセリン18.36[質量%])。これによって、糖アルコールの保湿性により、こんにゃくを水分活性0.6以下にまで乾燥させてもこんにゃくの内部に所定程度(5~22[質量%]程度)の水分を保持することができることが示された。したがって、本実施形態に係る方法によれば、乾燥状態で流通させ且つ保存することができると共に、後述の実施例で示すように、そのまま食した際に、適度な弾力性を有し、所定の柔らかさと噛応えのある食感を得られるこんにゃく食品が製造できることが示された。
【0031】
また、いずれのこんにゃく食品も同程度の水分活性であるにも関わらず、グリセリンを混合したこんにゃく食品では水分率が顕著に高くなった。したがって、保湿性は、グリセリンが最も高いことが示された。
【0032】
以上の検証1および検証2の結果から、グリセリンは含浸性および保湿性が共に優れていることから、他の糖アルコールと比較してやや混合割合を少なくしても本発明の目的を達することができる。したがって、グリセリンを例えば他の糖アルコールと共に用いて当該他の糖アルコールの含浸性および保湿性をより高めたり、あるいはグルコース、オリゴ糖等の糖アルコール以外の糖質と共に用いてグリセリンの苦味を緩和するといった用い方をすることができる。
【0033】
以上の工程により製造された本実施形態に係るこんにゃく食品は、こんにゃくの内部に糖アルコールが含浸され、水分活性(最終水分活性)が0.6以下にまで乾燥されて表面がベタつくことのない乾燥状態でありながら、水分率(最終水分率)が5~22[質量%]程度の範囲にあって所定の水分が保持されている。これによって、乾燥状態で流通させ且つ保存することができ、そのまま食した際に、適度な弾力性を有し、所定の柔らかさと噛応えのある食感を得ることができる。なお、水分率の範囲については実施例で詳しく説明する。
【0034】
続いて、最適な糖アルコールの混合割合について、次の方法により検証した(検証3)。先ず、市販の板こんにゃく(直方体のこんにゃく)を液切りし、厚さが2[mm]の板状に形成した。次いで当該こんにゃくに保湿性を有する糖アルコールとして還元水飴を、当該こんにゃくに対して3[質量%]、5[質量%]、15[質量%]、25[質量%]、30[質量%]または40[質量%]の混合割合で混合した。次いで当該混合物を90[℃]まで加熱して60分放置・浸漬した。次いで当該こんにゃくを75[℃]の熱風で120分乾燥させて水分活性0.6以下のこんにゃく食品を製造した。そして、当該こんにゃく食品の乾燥状態および弾力性について官能検査を実施した。先ず当該こんにゃく食品に触れて表面のベタつき(乾燥状態)を検査し、次にこれを食して弾力性の有無を検査した。さらにこれらの検査結果に基づいて流通性、保存性および食感を考慮した製品としての許容性を評価した。結果を表2に示す。
【0035】
【0036】
表2に示すように、還元水飴を5~35[質量%]の割合で混合したこんにゃく食品では、表面がベタつかず、且つ弾力性を有していた(総合評価〇)。一方、混合割合を3[質量%]まで低下させるとパリパリで弾力がなく割れてしまい(総合評価×)、混合割合を40[質量%]まで上昇させると表面がベタついてしまった(総合評価×)。このことから、こんにゃくおよび糖アルコールを混合する工程では、当該こんにゃくに対する当該糖アルコールの混合割合を3[質量%]より大きく、40[質量%]より小さくすることが好ましく、さらに好適には5~35[質量%]とすることが好ましい。これによって、乾燥状態で流通させ且つ保存することができ、そのまま食した際に、適度な弾力性を有するこんにゃく食品を製造することができる。
【実施例】
【0037】
<試験1>
以下の方法により本実施形態に係るこんにゃく食品を製造した。先ず、市販の板こんにゃく(直方体のこんにゃく)を液切りし、厚さが2[mm]の板状に形成した。次いで当該こんにゃくに保湿性を有する糖アルコールとして還元水飴を、当該こんにゃくに対して15[質量%]の混合割合で混合した。次いで当該混合物を90[℃]まで加熱して60分放置・浸漬した。次いで当該こんにゃくを75[℃]の熱風で所定時間乾燥させて水分活性0.6以下のこんにゃく食品を製造した。このとき、乾燥時間をずらすことによってそれぞれ水分率の異なるこんにゃく食品を7種類の製造し、これらを実施例1~7とした。水分率はできるだけ均等且つ広範囲に分布するように努めた。
【0038】
一方、還元水飴に代えてグルコース(単糖類)およびオリゴ糖(少糖類)を用いて上記と同様の方法によりそれぞれ水分率の異なるこんにゃく食品を製造した。グルコースでは7種類のこんにゃく食品を製造してこれらを比較例1~7とした。一方、オリゴ糖では4種類のこんにゃく食品を製造してこれらを比較例8~11とした。水分率はできるだけ均等且つ広範囲に分布するように努めた。
【0039】
また、厚さが2[mm]の板状に形成したこんにゃくを何らの成分も混合せずにそのまま上記の熱風により水分活性0.6以下に乾燥させたものを比較例12とした。
【0040】
(官能検査に基づく食感)
以上の実施例および比較例の食感についての官能検査を行った。検査は実施例および比較例に係るこんにゃく食品を食してその弾力性および噛応えを検査し、表3に示す7段階からなる評価基準で評価した。当該評価基準では、2、3回噛んで馴染む貝紐の食感を最も高い5点としている。そこで、検査者は、検査に際し、市販の貝紐を食してその食感を基準(5点)として考慮した。結果を表4に示す。当該結果は、5人の検査者による平均点である。なお、評価基準における「馴染む」とは噛応えに関する評価であって、馴染むまでの噛む回数と、柔らかさあるいは硬さとは必ずしも相関するものではない。同じく、評価基準における「弾性」と、柔らかさあるいは硬さとについても必ずしも相関するものではない。
【0041】
【0042】
【0043】
表4に示すように、こんにゃくをそのまま乾燥させたもの(表4中の無添加)は、パリパリで割れてしまってそのまま食するのに適した食感が得られなかった。これに対して、還元水飴では、実施例1で最も優れた食感(評価5)を有し、実施例2および3でも比較的優れた食感(評価3または4)を有していた。また、比較例についても、グルコースでは比較例3~6で比較的優れた食感(評価3または4)を有し、オリゴ糖では比較例8で比較歴優れた食感(評価3)を有していた。これによって、還元水飴だけでなく、グルコースやオリゴ糖であっても所定の水分率に調整することにより比較的優れた食感を有するこんにゃく食品が得られることが示された。
【0044】
しかしながら、比較的優れた食感(評価3または4)が得られた比較例の水分率をみると、グルコースの場合、5.79[質量%](比較例6)~7.69[質量%](比較例3)で、オリゴ糖の場合、10.48[質量%](比較例8)であった。したがって、比較的優れた食感を得るには、グルコースの場合、最終水分率を5~8[質量%]程度に調整しなければならず、オリゴ糖の場合、最終水分率を9~11[質量%]程度に調整しなければならない。このように、グルコースやオリゴ糖では水分率の許容範囲が顕著に狭く、製造上の管理が比較的困難であることが示された。
【0045】
これに対して、還元水飴では、優れた食感(評価3~5)が得られた水分率は、8.68[質量%](実施例3)~14.93[質量%](実施例1)で、優れた食感を得るには、最終水分率を8~15[質量%]程度に調整すればよい。このことから、還元水飴では水分率を幅広く設定可能で、優れた食感を有するこんにゃく食品を簡易に製造できることが示された。
【0046】
このように、保湿性を有する糖アルコールによれば、水分活性が0.6以下になるまで乾燥させた場合でも、その保水性により相対的に広い範囲の水分率のもとで適度な弾力性を有し、且つ噛応えのある貝紐のような食感を得ることができる。
【0047】
なお、前述の検証2によれば、糖アルコールのうち、グリセリンは還元水飴と比較して保湿性が高く、こんにゃくの内部により多くの水分を保持することができる。したがって、グリセリンを混合したこんにゃく食品では、最終水分率を還元水飴の場合(8~15[質量%])よりも高めに調整するとよい。本発明者らによる追加試験によれば、グリセリンを混合し、最終水分率を22[質量%]程度に調整した場合において、表面がベタつかず、且つ弾力性を有するこんにゃく食品を製造することができた。
【0048】
(圧縮試験に基づく食感)
続いて、各実施例および比較例ならびに貝紐について、食感試験機(日本計測システム製)を用いて圧縮試験を行い、破断強度を測定した(実施例7は不実施)。圧縮試験は、各例で5検体ずつ(比較例7は3検体)行った。方法は、検体(こんにゃく食品)に圧子を押圧していき、圧子の走査距離(長さ)[mm]および圧子の荷重[N]を測定した。
【0049】
表5に、各例の破断強度としてPEAK値を水分率と共に示す。PEAK値とは、圧子の押圧により最終的に検体が破断した際の荷重[N]であり、表5に示すPEAK値は、各検体の平均値である。また、
図2に、表5に示すPEAK値および水分率を混合材料別にグラフで示す。このうち、
図2(a)には還元水飴を、
図2(b)にはグルコースを、
図2(c)にはオリゴ糖を示す。
【0050】
また、
図3~
図6に、各例の破断強度をPEAK値が平均値に最も近い値を示した検体の実測値で示す。
図3には還元水飴を示し、
図3(a)に実施例1、
図3(b)に実施例2、
図3(c)には実施例3、
図3(d)に実施例6を示す。また、
図4にはグルコースを示し、
図4(a)に比較例1、
図4(b)に比較例3、
図4(c)に比較例7を示す。また、
図5にはオリゴ糖を示し、
図5(a)に比較例8、
図5(b)に比較例11を示す。また、
図6には無添加および貝紐を示し、
図6(a)に比較例12、
図6(b)に貝紐を示す。
【0051】
【0052】
表5および
図2に示すように、還元水飴、グルコースおよびオリゴ糖のいずれにおいても、全体として水分率の低下に伴ってPEAK値が上昇する傾向がみられた。PEAK値が高い程破断に要する荷重が大きくなるため、当該検体が硬いことを示す。したがって、全体として水分率が低くなる程こんにゃく食品は硬くなることが示された。しかしながら、グルコースでは、
図2(b)に示すように、水分率が4~5[質量%]程度に低下すると、PEAK値が顕著に低下した。これは、グルコースが結晶化して弾力性が低下し、簡単に破断しやすくなったことによる。このように、グルコースでは、水分率の変化により硬さ(食感)が急激に変化する場合があり、食感が不安手になりやすい。これに対して、還元水飴すなわち保湿性を有する糖アルコール、またはオリゴ糖では、水分率が変化しても硬さ(食感)は相対的に安定して推移するため、グルコースと比較して食感を簡易に管理できることが示された。
【0053】
また、
図3~
図6に示す破断強度は、グラフの傾きが急である程押圧した荷重が大きくなるため、当該検体が硬いことを示す。また、グラフの長さが長い程破断するまでの走査距離が長くなるため、噛応えが強くなる(馴染むまでの噛む回数が多くなる)ことを示す。
【0054】
ここで、各例のグラフのうち、実施例1(
図3(a))および実施例2(
図3(b))では、グラフの形が特に貝紐(
図6(b))に類似していた。このことから、還元水飴では、最終水分率を10~15[質量%]程度に調整することによって、グルコースおよびオリゴ糖では得られないきわめて貝紐に近い適度な柔らかさおよび噛応えを有する食感が得られることが示された。また、実施例3(
図3(c))、比較例1(
図4(a))および比較例8(
図5(a))も、グラフの形が比較的貝紐に類似していた。このうち、実施例3および比較例8では官能検査の評価が比較的高く(評価3)、官能検査に基づく食感と傾向が一致した。
【0055】
一方、グルコースでは、官能検査の評価が比較的高かった(評価4)比較例3(
図4(b))は、貝紐と比較してグラフの長さが長く、比較的噛応えが強くなることが示された。このように、グルコースでは、官能検査に基づく食感と圧縮試験に基づく食感とのずれが見られ、安定した食感が得にくいことが示された。
【0056】
その他、無添加の比較例12(
図6(a))の破断強度は還元水飴(
図3)とは顕著に異なっており、還元水飴すなわち保湿性を有する糖アルコールを添加(混合)することにより、そのまま乾燥させたこんにゃくとは全く異なる食感が得られることが確認された。
【0057】
<試験2>
以下の方法により本実施形態に係るこんにゃく食品を製造した。先ず、市販の板こんにゃく(直方体のこんにゃく)を液切りし、厚さが2[mm]の板状に形成した。次いで当該こんにゃくに保湿性を有する糖アルコールとして還元水飴、ソルビトールまたはグリセリンを、当該こんにゃくに対して15[質量%]の混合割合で混合した。次いで当該混合物を90[℃]まで加熱して60分放置・浸漬した。次いで当該こんにゃくを75[℃]の熱風で所定時間乾燥させて水分活性0.6以下のこんにゃく食品を製造した。このうち、還元水飴を混合したものを実施例8、ソルビトール混合したものを実施例9、グリセリンを混合したものを実施例10とした。
【0058】
一方、糖アルコールに代えてグルコース(単糖類)およびオリゴ糖(少糖類)を用いて上記と同様の方法によりそれぞれ水分率の異なるこんにゃく食品を製造した。このうち、グルコースを混合したものを比較例13、オリゴ糖を混合したものを比較例14とした。
【0059】
以上の実施例および比較例を室温下で4カ月放置した後、目視および食して、外観および食感を検査した。
結果を表6に示す。また、
図7に放置後の実施例および比較例の写真を示す。このうち、
図7(a)には実施例8、
図7(b)には実施例9、
図7(c)には実施例10、
図7(d)には比較例13、
図7(e)には比較例14を示す。
【0060】
【0061】
表6および
図7に示すように、糖アルコールを混合した実施例8~10(
図7(a)~(c))では、いずれも外観および食感に変化なく、適度な弾力性を有していた。一方、オリゴ糖を混合した比較例14(
図7(e))では、メイラード反応によるものと思われる濃茶色に変色していた。また、グルコースを混合した比較例13(
図7(d))では、外観は白濁し、表面に結晶のような物が見られ、さらに食感はパリパリで弾力性を失っていた。このように、グルコースやオリゴ糖を混合したこんにゃく食品は経時変化しやすく、変色したり弾力性が失われてしまうことが示された。これに対して、糖アルコールを混合したこんにゃく食品では、その保湿性によりこんにゃくの内部に水分が保持されて所定期間経過後も弾力性および外観を維持することができ、優れた保存性を有することが示された。
【0062】
以上説明した通り、本発明に係るこんにゃく食品の製造方法によれば、こんにゃくの内部に糖アルコールを含浸させることにより、水分活性0.6以下に乾燥させた場合でも、こんにゃくの内部に所定の水分を保持することができる。これによって、本発明に係るこんにゃく食品は、乾燥状態で流通させ且つ保存することができると共に、水分率が5~22[質量%]程度の広範囲にわたって、適度な弾力性を有し、所定の柔らかさと噛応えのある貝紐のような食感を得ることができる。さらに、経時変化しにくく、所定期間経過後も弾力性および外観を維持できる優れた保存性を発揮することができる。
【0063】
なお、本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、本発明を逸脱しない範囲において種々変更可能である。