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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】インプラントのコーティング方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 8/00 20060101AFI20240116BHJP
【FI】
A61C8/00 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021206904
(22)【出願日】2021-12-21
(65)【公開番号】P2023012410
(43)【公開日】2023-01-25
【審査請求日】2021-12-21
(31)【優先権主張番号】10-2021-0091377
(32)【優先日】2021-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521557584
【氏名又は名称】ユニデンタル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、ソン ジュン
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/002223(WO,A1)
【文献】特開2002-035012(JP,A)
【文献】特開2018-053341(JP,A)
【文献】特開2007-222600(JP,A)
【文献】特開2000-083970(JP,A)
【文献】特開2015-123323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用インプラントの表面をコーティングするインプラントのコーティング方法において、
前記インプラントをSLA(Sandblast Large grit Acid etch)表面処理方法、TPS(Titanium Plasma Sprayed surface)表面処理方法、RBM(Resorbable Blast Media)表面処理方法のいずれかにより前処理する前処理段階と、
前処理した前記インプラントの表面にコーティング物質をコーティングして、ポリマーコーティング層を形成するコーティング段階と、
を含み、
前記インプラントの上部構造物が、カバースクリューと、ヒーリングアバットメントと、テンポラリー・アバットメントと、アバットメントと、を含む構成において、
前記コーティング段階は、
環状パラキシリレンダイマーを気化させる気化段階と、気化した前記環状パラキシリレンダイマーを熱分解して、パラキシリレンモノマーを形成する熱分解段階と、熱分解した前記パラキシリレンモノマーをパリレンに合成して、前記インプラントに薄膜の形態で蒸着させることによって、ポリマーコーティング層を形成する蒸着段階と、を含み、
前記インプラントの前記上部構造物および前記カバースクリューの両方と共に、フィクスチャー、前記上部構造物、クラウンおよび前記カバースクリューが互いに接合される部分に前記コーティング物質をコーティングするものであり、
前記コーティング物質は、ポリパラキシリレン、ポリモノクロロパラキシリレン、ポリジクロロパラキシリレンまたはフッ化ポリパラキシリレンであるのいずれか一つとして用意される、
ことを特徴とするインプラントのコーティング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インプラントのコーティング方法に関し、より詳細には、嫌気性細菌の増殖を効果的に抑制できるように、歯科用インプラントの表面に均一にパリレン薄膜をコーティングできるインプラントのコーティング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用インプラント10は、チタンまたはチタン合金を機械的に加工した後、歯科用インプラント10の骨内適合性を向上させるために、コーティングなど多様な表面処理工程が施されて製作される。
【0003】
このような歯科用インプラント10は、一般的に、図1に示されたように、歯槽骨に植立されるフィクスチャー(fixture)13と、フィクスチャー13の上部に結合される上部構造物12と、人工歯の形状に形成されるクラウン(crown)11と、上部構造物12とフィクスチャー13の内部に挿入されて、上部構造物12とフィクスチャー13を堅固に固定させるスクリュー(screw)14とから構成される。
【0004】
ここで、上部構造物12は、歯科用インプラント10の施術の最後段階で最終的にフィクスチャー13に締結された後、クラウン11の下部に締結されて、クラウン11を支持するアバットメント(abutment)と、最終アバットメント締結施術前に、フィクスチャー13の内部に異物浸透を防止するために使用されるカバースクリュー(cover screw)と、植立されたフィクスチャー13の上部に歯肉組織が再生されて覆わないように(すなわち、抜歯前の歯肉の形を維持するように)使用されるヒーリングアバットメント(healing abutment)と、アバットメントとクラウン11の最終締結前に使用されるテンポラリー・アバットメント(temporary abutment)とを全部含む概念である。
【0005】
なお、歯根膜(periodontal membrane)は、歯槽骨(歯肉骨)とセメント質との間に存在する線維組織であり、歯の咀嚼時に緩衝する作用をし、歯を保護する機能をする組織である。特に、歯根膜は、歯槽骨とセメント質に栄養を供給し、これを再生させ、歯槽骨とセメント質に発生する各種嫌気性細菌を除去する重要な機能を担当する。
【0006】
図2に示されたように、歯科用インプラント10のフィクスチャー13と上部構造物12が互いに接合される部分(特に、フィクスチャー13とアバットメントが接合される部分をフィクスチャー-アバットメント接合(fixture-abutment connection)またはIAJ(implant-abutment junction)という)またはクラウン11と上部構造物12が互いに接合される部分には、必然的に微細な空間sが存在する。
【0007】
従来の歯科用インプラント10の場合、上述した歯根膜の機能を行う構成が存在しないので、当該空間sに各種嫌気性細菌が増殖することになり、これは、インプラント周囲炎に発展して、骨組織の損傷、骨喪失などを誘発することによって、結果的に、インプラントの失敗を招くことになる問題点が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】韓国特許登録第10-1737358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上述した従来の問題点を解決するためのものであって、嫌気性細菌の増殖を効果的に抑制できるように、歯科用インプラントの表面に均一にパリレン薄膜をコーティングできるインプラントのコーティング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、本発明によって、歯科用インプラントの表面をコーティングするインプラントのコーティング方法において、前記インプラントを前処理する前処理段階と、前処理した前記インプラントの表面にコーティング物質をコーティングして、ポリマーコーティング層を形成するコーティング段階と、を含み、前記コーティング物質は、パリレンとして用意されることを特徴とするインプラントのコーティング方法により達成される。
【0011】
また、前記コーティング段階は、環状パラキシリレンダイマーを気化させる気化段階と、気化した前記環状パラキシリレンダイマーを熱分解して、パラキシリレンモノマーを形成する熱分解段階と、熱分解した前記パラキシリレンモノマーを前記パリレンに合成して、前記インプラントに薄膜の形態で蒸着させることによって、ポリマーコーティング層を形成する蒸着段階と、を含んでもよい。
【0012】
また、前記パリレンは、パリレンN、パリレンC、パリレンDおよびパリレンHTのうちいずれか一つとして用意されてもよい。
【0013】
また、前記コーティング段階は、前記インプラントのフィクスチャー、上部構造物、クラウンおよびスクリューが互いに接合される部分に前記コーティング物質をコーティングすることができる。
【0014】
また、前記コーティング段階は、前記インプラントの前記上部構造物および前記スクリューのうち少なくともいずれか一つに前記コーティング物質をコーティングすることができる。
【0015】
また、前記上部構造物は、カバースクリューと、ヒーリングアバットメントと、テンポラリー・アバットメントと、アバットメントと、を含んでもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、歯科用インプラントの表面にパリレン薄膜を均一にコーティングすることができ、このような薄膜によれば、歯科用インプラントのフィクスチャーおよび上部構造物、そして、上部構造物とクラウンが接合される部分の空間に嫌気性細菌が増殖することを効果的に抑制することができる。
【0017】
なお、本発明の効果は、以上で言及した効果に制限されず、以下で説明する内容から通常の技術者にとって自明な範囲内で多様な効果が含まれ得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】歯科用インプラントの構成を示す図である。
図2】歯科用インプラントの構成が結合したことを示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係るインプラントのコーティング方法の全体段階を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係るインプラントのコーティング方法のコーティング段階の細部段階を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係るインプラントのコーティング方法のコーティング段階を通じてインプラントの上部構造物およびスクリューがコーティングされる過程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一部の実施形態を例示的な図面を参照して詳細に説明する。各図面の構成要素に参照符号を付加するに際して、同じ構成要素については、たとえ他の図面上に表示されても、できるだけ同じ符号を有するようにしていることに留意しなければならない。
【0020】
また、本発明の実施形態を説明するに際して、関連した公知の構成または機能に関する具体的な説明が本発明の実施形態に対する理解を妨害すると判断される場合には、その詳細な説明は省略する。
【0021】
また、本発明の実施形態の構成要素を説明するに際して、第1、第2、A、B、(a)、(b)などの用語を使用できる。このような用語は、当該構成要素を他の構成要素と区別するためのものだけであり、その用語により当該構成要素の本質や順序または手順などが限定されない。
【0022】
以下では、添付の図面を参照して、本発明の一実施形態に係るインプラントのコーティング方法S100について詳細に説明する。
【0023】
図3は、本発明の一実施形態に係るインプラントのコーティング方法の全体段階を示す図であり、図4は、本発明の一実施形態に係るインプラントのコーティング方法のコーティング段階の細部段階を示す図であり、図5は、本発明の一実施形態に係るインプラントのコーティング方法のコーティング段階を通じてインプラントの上部構造物およびスクリューがコーティングされる過程を示す図である。
【0024】
本発明においてインプラントは、チタンまたはチタン合金材質の歯科用インプラント10を意味し、本発明は、インプラントの表面をコーティングするインプラントのコーティング方法に関するものであり、図3図5に示されたように、本発明の一実施形態に係るインプラントのコーティング方法S100は、前処理段階S110と、コーティング段階S120と、を含んでもよい。
【0025】
前処理段階S110は、母材を準備し、洗浄し、前処理する段階であり、インプラントの上部構造物12またはスクリュー14の表面にコーティング物質をコーティングする前に洗浄し、前処理する段階である。
【0026】
ここで、上部構造物12は、歯科用インプラント10の施術の最後段階で最終的にフィクスチャー13に締結された後、クラウン11の下部に締結されて、クラウン11を支持するアバットメント(abutment)と、最終アバットメント締結施術前に、フィクスチャー13の内部に異物浸透を防止するために使用されるカバースクリュー(cover screw)と、植立したフィクスチャー13の上部に歯肉組織が再生されて覆わないように(すなわち、抜歯前の歯肉の形を維持するように)使用されるヒーリングアバットメント(healing abutment)と、アバットメントとクラウン11の最終締結前に使用されるテンポラリー・アバットメント(temporary abutment)と、を含む。
【0027】
一方、前処理段階S110は、フィクスチャー13の生体適合性を向上させるために、表面を粗面化させて前処理することができ、この際、当該技術分野において公知となった多様な前処理方法を使用できる。例えば、前処理段階S110は、アルミニウムなどの金属粒子をブラスティングして、フィクスチャー13の胴体を切削した後、酸エッチング処理するSLA(Sandblast Large grit Acid etch)表面処理方法、高温溶射法とも呼ばれ、フィクスチャー13の胴体は、機械で切削して製作した後、他のチタンを高温で溶かしてスプレーで噴射してインプラント表面に付着するように処理するTPS(Titanium Plasma Sprayed surface)表面処理方法、カルシウムホスフェート(calcium phosphate)のような吸水性粒子を使って表面処理するRBM(Resorbable Blast Media)表面処理方法などを使用できる。
【0028】
コーティング段階S120は、前処理したインプラントの表面にコーティング物質をコーティングして、コーティング層を形成する段階であり、本発明においてコーティング物質は、パリレン(poly(para-xylylene)、parylene)として用意されてもよい。
【0029】
インプラントの耐食性および耐摩耗性などの改善および細菌増殖の抑制のために、表面に多様な物質をコーティングする技術が研究開発されているが、従来の物質は、インプラントの表面に均一に蒸着されないため、コーティング層にピンホール(pin-hole)、空隙(voids)などが発生して、コーティング層の厚さも均一でなく、目標とする耐食性および耐摩耗性を達成せず、細菌増殖抑制の効果が不十分であるという問題点があった。
【0030】
パリレンは、気相蒸着が可能な高分子群から構成され、置換基によってその名称が付与されるが、いずれの母材にもその形態に関係なく均一にコーティングが可能であり、深い穴やクラックなどの中に緻密にコーティングできる特徴がある。特に、パリレンは、コーティング工程中に母材に熱的ストレスを与えることなく、コーティング厚さの調節が容易であるという利点がある。このようなパリレンは、気相蒸着方式で数百ナノメートルから100マイクロメートルまでの薄い構造の連続的な薄膜で形成されて、母材に蒸着されうる。
【0031】
また、パリレンは、生体適合性に優れ、生化学的に安定していて、人体に無害であり、パリレンコーティング層は、嫌気性細菌の抑制にも効果的であることが知られている。
これによって、本発明のコーティング段階S120は、前処理したインプラントの表面に上述したパリレンをコーティングすることによって、インプラントの生体適合性、耐食性および耐摩耗性の増大とともに、嫌気性細菌の増殖を効果的に抑制することができる。
【0032】
この際、本発明においてパリレンは、パリレンN(parylene N)(ポリパラキシリレン(poly(para-xylylene)))、パリレンC(parylene-C)(ポリモノクロロパラキシリレン(poly(monochloro-para-xylylene)))、パリレンD(parylene-D)(ポリジクロロパラキシリレン(poly(dichloro-para-xylylene)))およびパリレンHT(parylene-HT)(フッ素化ポリパラキシリレン(fluorinated poly(para-xylylene)))のうちいずれか一つとして用意されてもよい。
【0033】
パリレンNの化式は、下記の化式1の通りであり、パリレンNの形成過程は、下記の化式2のように、環状パラキシリレンダイマー(cyclic para-xylylene dimer)が熱分解されて、パラキシリレンモノマー(para-xylylene monomer)に分解された後、母材の表面に蒸着されるとき、ポリパラキシリレン(poly(para-xylylene))、すなわち、パリレンNに合成されて、母材の表面に薄膜の形態で均一に蒸着される。このようなパリレンNは、最も汎用的に使用されるパリレンであり、上述したパリレンの基本特徴と共に、相対的に分子のサイズが小さくて軽くて、優れた透過力を有しており、低い誘電率および高い抵抗値を有していることが知られている。
【0034】
【化1】
【0035】
【化2】
【0036】
パリレンCは、アリール環(aryl ring)のいずれか一つの水素が塩素(chlorine,Cl)で置換された塩素化パリレン(chlorinated parylenes)の一種であり、パリレンCの化式は、下記の化式3の通りであり、パリレンCの形成過程は、下記の化式4のように、パリレンNの形成過程と同一である。このようなパリレンCは、上述したパリレンの基本特徴と共に、優れた防湿性、相対的に高い誘電力および高い蒸着力を保有することが知られている。
【0037】
【化3】
【0038】
【化4】
【0039】
パリレンDは、アリール環(aryl ring)のいずれか二つの水素が塩素(chlorine,Cl)で置換された塩素化パリレン(chlorinated parylenes)の一種であり、パリレンDの化式は、下記の化式5の通りであり、パリレンDの形成過程は、下記の化式6のように、パリレンNの形成過程と同一である。このようなパリレンDは、上述したパリレンの基本特徴の他に、他のパリレンに比べて分子サイズが大きいため、活動性、隙間浸透力に劣るが、コーティング層に物理的な丈夫さを付与し、優れた耐熱性および耐化学性を有する特徴がある。また、パリレンDは、他のパリレンに比べて収率が良い特徴がある。
【0040】
【化5】
【0041】
【化6】
【0042】
パリレンHTは、脂肪族鎖(aliphatic chain)の4個の水素がフッ素(fluorine,F)で置換されたフッ素化パリレン(fluorinated parylenes)の一種であり、パリレンHTの化式は、下記の化式7の通りであり、パリレンHTの形成過程は、下記の化式8のように、パリレンNの形成過程と同一である。このようなパリレンHTは、耐熱性、UV安定性および隙間浸透力がパリレンのうち最も優れていて、摩擦係数と誘電定数がパリレンのうち最も低いことが知られている。
【0043】
【化7】
【0044】
【化8】
【0045】
また、図4および図5に示されたように、コーティング段階S120は、より詳細には、気化段階S121と、熱分解段階S122と、蒸着段階S123と、を含む。
【0046】
気化段階S121は、環状パラキシリレンダイマーを高温で気化(vaporization)させる段階であり、粉末形態の原料、すなわち、環状パラキシリレンダイマー(cyclic para-xylylene dimer)を気化チャンバーに装入した後、加熱して、ダイマーガス(dimer gas)を形成する段階である。このような気化段階S121における気化は、120℃~300℃の温度、100torrの圧力条件下で実施することが好ましいが、前記温度より低い温度である場合、ダイマーの気化が良好に行われない問題点があり、前記温度より高い温度である場合、後述する蒸着段階S123で、インプラントに蒸着される前にモノマーを形成した後、パリレンに合成されて、インプラントのコーティングが適切に行われない問題点がある。
【0047】
熱分解段階S122は、気化した環状パラキシリレンダイマーを高温で熱分解(pyrolysis)して、パラキシリレンモノマーを形成する段階であり(すなわち、二量体から単量体を形成)、気化段階S121で形成されて熱分解チャンバーに移動したダイマーガスが高温で加熱されて、環状パラキシリレンダイマーが、反応性の高いパラキシリレンモノマーに熱分解した後、モノマーガス(monomer gas)を形成する段階である。このような熱分解段階S122における熱分解は、600℃~850℃の温度と、適正の真空圧力条件下で実施することが好ましいが、前記温度より低い温度である場合、環状パラキシリレンダイマーが十分に熱分解されない問題点があり、前記温度より高い温度である場合、ダイマーまたはモノマーが変性される問題点がある。
【0048】
蒸着段階S123は、熱分解したパラキシリレンモノマーを低温でパリレンに合成して、インプラントに薄膜の形態で蒸着(deposition)させることによって、コーティング層を形成する段階であり、熱分解段階S122で形成されて蒸着チャンバーに移動したモノマーガスが、常温の蒸着チャンバー内のすべての表面に薄くて透明なパリレン薄膜を形成する段階である。このような蒸着段階S123では、常温(RT)、好ましくは、25℃の温度と、100MT以下の圧力条件下で実施することが好ましいが、前記温度と圧力から外れる場合、インプラントの表面にパリレン薄膜が適切に形成されない問題点がある。
【0049】
一方、蒸着段階S123でインプラントにコーティングされるパリレンは、100nm~50μmの厚さでコーティングされることが好ましい。
【0050】
コーティングされるパリレンの厚さが100nm未満である場合、すなわち、非常に薄い場合、コーティングしようとするインプラントの当該部分にパリレンが十分にコーティングされず、嫌気性細菌の抑制機能が良好に発揮されにくく、コーティングされるパリレンの厚さが50μm以上である場合、すなわち、非常に厚い場合、過度に厚いコーティング層が形成されるので、インプラントの各構成間の結合が難しくなり、各構成を結合するとき、コーティング層が脱落することがある問題点がある。
【0051】
一方、コーティング段階S120は、インプラントに嫌気性細菌が増殖しないように、特に、インプラントのフィクスチャー13と上部構造物12が接合される部分、例えば、フィクスチャー-アバットメント接合(fixture-abutment connection)またはIAJ(implant-abutment junction)部に上述したパリレンをコーティングするが、このために、コーティング段階S120は、上部構造物12の内周面と外周面、スクリュー14の外周面のうち少なくともいずれか一つの部分にパリレンをコーティングすることができる。ここで、上部構造物12は、アバットメントと、カバースクリューと、ヒーリングアバットメントと、テンポラリー・アバットメントと、を含む概念であることは前述した通りである。
【0052】
一方、蒸着段階S123で形成されるコーティング層には、クエン酸(citric acid、シトリックアシッド)が含まれてもよい。すなわち、蒸着段階S123は、インプラントの表面にクエン酸をさらにコーティングすることができるが、蒸着段階S123では、熱分解したパラキシリレンモノマーをパリレンに合成した後、インプラントに薄膜の形態で蒸着させてコーティング層を形成する過程で、クエン酸がコーティング層に含まれるように、蒸着チャンバー内でクエン酸を分散させることができる。クエン酸の化式は、下記の化式9の通りであり、クエン酸は、口腔内嫌気性細菌の増殖を効果的に抑制して、口腔内口臭要素を効果的に除去できることが知られている。
【0053】
【化9】
【0054】
この際、蒸着段階S123でインプラントにコーティングされるクエン酸は、単位面積(mm)当たり10~100μgの量でコーティングされることが好ましい。コーティングされる量が10μg/mm未満である場合、コーティングしようとするインプラントの当該部分にクエン酸が十分にコーティングされず、嫌気性細菌の抑制機能が良好に発揮されにくく、コーティングされる量が100μg/mm以上である場合、過度なクエン酸によって口腔内エナメル腐食が起こることがある問題点がある。
【0055】
上述したような前処理段階S110と、コーティング段階S120と、を含む本発明の一実施形態に係るインプラントのコーティング方法S100によれば、歯科用インプラント10の表面にパリレン薄膜を均一にコーティングすることができ、このような薄膜によれば、歯科用インプラント10のフィクスチャー13および上部構造物12、そして、上部構造物12とクラウン11が接合される部分の空間に嫌気性細菌が増殖することを効果的に抑制することができる。
【0056】
以下、発明の具体的な実施例に基づいて本発明の作用、効果をより具体的に説明することとする。ただし、これは、発明の例示として提示されたものであり、これによって発明の権利範囲がいかなる意味でも限定されるわけではない。
【0057】
実施例1:前処理後にパリレンコーティング層が形成された歯科用インプラント
SLA表面処理方法を用いて歯科用インプラント10のフィクスチャー13を前処理した後、用意し、歯科用インプラント10の上部構造物12およびスクリュー14をそれぞれ洗浄し、前処理した後、前処理した上部構造物12およびスクリュー14をパリレンコーティング装置の蒸着チャンバーに移動させて、それぞれパリレンCコーティング層を形成させた。パリレンコーティングは、SCS(specialty coating systems)社のPDS 2060PC機器を用いて行われ、上部構造物12およびスクリュー14にコーティングされたパリレンCは、それぞれ100nm程度の厚さでコーティングできるように設定した。この後、フィクスチャー13、上部構造物12およびスクリュー14を互いにそれぞれ結合した。
【0058】
実施例2:前処理後にパリレンおよびクエン酸コーティング層が形成された歯科用インプラント
SLA表面処理方法を用いて歯科用インプラント10のフィクスチャー13を前処理した後、用意し、歯科用インプラント10の上部構造物12およびスクリュー14をそれぞれ洗浄し、前処理した後、前処理した上部構造物12およびスクリュー14をパリレンコーティング装置の蒸着チャンバーに移動させて、それぞれクエン酸が含まれたパリレンCコーティング層を形成させた。パリレンコーティングは、SCS(specialty coating systems)社のPDS 2060PC機器を用いて行われ、上部構造物12およびスクリュー14にコーティングされたパリレンCは、それぞれ100nm程度の厚さでコーティングできるように設定し、クエン酸は、それぞれ30μg/mm程度の量でコーティングできるように設定した。その後、フィクスチャー13と、上部構造物12およびスクリュー14を互いにそれぞれ結合した。
【0059】
比較例:前処理した歯科用インプラント
SLA表面処理方法を用いて歯科用インプラント10のフィクスチャー13を前処理した後、用意し、上部構造物12およびスクリュー14をそれぞれ洗浄し、前処理した後、上部構造物12とスクリュー14に別のコーティング処理は行われなかった。その後、フィクスチャー13と、上部構造物12およびスクリュー14を互いに結合した。
【0060】
実験例:細菌増殖抑制力実験1
パリレンおよびクエン酸コーティング層が形成された歯科用インプラントの細菌増殖抑制力を確認するために、下記のように実験を進めた。蒸留水に栄養培地を入れて作成した液体培地に白金チップで代表的な歯周病原菌であり、嫌気性細菌であるプレボテラインターメディア(Prevotella intermedia)を少し入れ、24時間培養した。その後、菌株液を10万分の1で希釈して、実施例1の歯科用インプラント、実施例2の歯科用インプラントおよび比較例の歯科用インプラントがそれぞれ入っているバイアルに入れ、24時間培養させた。バイアルの液を少量取って、培養皿の固体培地の上に塗抹して、24時間静置した後、プレボテラインターメディアの増殖程度を確認した。
【0061】
【表1】
【0062】
前記表1に示されたように、実施例1の歯科用インプラントは、比較例の歯科用インプラントと比べて、嫌気性細菌の増殖抑制にある程度効果があることが示され、実施例2の歯科用インプラントは、嫌気性細菌の増殖抑制に相当な効果があることを確認できた。
【0063】
実験例:細菌増殖抑制力実験2
他の実験として、プレボテラインターメディア菌株を実施例1の歯科用インプラント、実施例2の歯科用インプラントおよび比較例の歯科用インプラントそれぞれに2×10の細胞数で接種し、38℃で12時間の間培養後、クリスタルバイオレットで染色して、菌株により形成されたバイオフィルムの有無および程度を評価した。
【0064】
【表2】
【0065】
前記表2に示されたように、比較例の歯科用インプラントの場合、バイオフィルムが多数発生し、実施例1の歯科用インプラントの場合には、バイオフィルムが多少発生したが、比較例と比べて、プレボテラインターメディアが有意的に減少したことを確認できた。実施例2の歯科用インプラントの場合には、実施例1および比較例と比べて、バイオフィルムが顕著に少ない量で発生したことを確認できた。
【0066】
以上、本発明の実施形態を構成するすべての構成要素が一つに結合するか、結合して動作すると説明されたといって、本発明が必ずこのような実施形態に限定されるわけではない。すなわち、本発明の目的範囲内で、すべての構成要素が一つ以上で選択的に結合して動作することもできる。
【0067】
また、以上に記載された「含む」、「構成する」または「有する」などの用語は、特に反対になる記載がない限り、当該構成要素が内在することができることを意味するのであるから、他の構成要素を除外するものではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいと解すべきである。技術的または科学的な用語を含むすべての用語は、別途定義しない限り、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者により一般的に理解されるのと同じ意味がある。辞書に定義された用語のように、一般的に使用される用語は、関連技術の文脈上の意味と一致するものと解すべきであり、本発明において明白に定義しない限り、理想的または過度に形式的な意味と解されない。
【0068】
また、以上の説明は、本発明の技術思想を例示的に説明したものに過ぎないのであり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者なら、本発明の本質的な特性を逸脱しない範囲で多様な修正および変形が可能である。
【0069】
したがって、本発明に開示された実施形態は、本発明の技術思想を限定するためのものではなく、説明するためのものであり、このような実施形態により本発明の技術思想の範囲が限定されるわけではない。本発明の保護範囲は、請求範囲により解されるべきであり、それと同等な範囲内にあるすべての技術思想は、本発明の権利範囲に含まれると解すべきであると言える。
【符号の説明】
【0070】
10 歯科用インプラント
11 クラウン
12 上部構造物
13 フィクスチャー
14 スクリュー
S100 本発明の一実施形態に係るインプラントのコーティング方法
S110 前処理段階
S120 コーティング段階
S121 気化段階
S122 熱分解段階
S123 蒸着段階
図1
図2
図3
図4
図5