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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】免疫チェックポイント分子の発現抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20240116BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240116BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240116BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240116BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240116BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240116BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20240116BHJP
   A61K 31/47 20060101ALI20240116BHJP
   C07D 215/12 20060101ALI20240116BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20240116BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P37/04
A61P43/00 105
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K39/395 P
A61K39/395 D
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K31/7088
A61K31/713
A61K31/47
C07D215/12 CSP
G01N33/15
G01N33/50
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021551413
(86)(22)【出願日】2020-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2020037285
(87)【国際公開番号】W WO2021066062
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-06-20
(31)【優先権主張番号】P 2019181014
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503357296
【氏名又は名称】株式会社レナサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 潔
(72)【発明者】
【氏名】八幡 崇
(72)【発明者】
【氏名】宮田 敏男
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/113022(WO,A1)
【文献】VERONICA R Placencio, et al.,Plasminogen Activator Inhibitor-1 in Cancer: Rationale and Insight for Future Therapeutic Testing.,Cancer Res.,2015年,Vol.75 No.15,p.2969-74.,doi: 10.1158/0008-5472.CAN-15-0876.
【文献】段孝, 他,PAI-1阻害剤の新展開 -がん治療への臨床応用-,血栓止血誌,2018年,Vol.29 No.5,p.487-494.
【文献】YADAV, P. et al.,Plasminogen activator inhibitor-1 promotes immunosuppression in cancer by modulating immune componen,Annals of Oncology,Vol.29 Supp.6,2018年,p.vi35-vi36. Abstract Number: 113P.,ISSN: 1569-8041、DOI 10.1093/annonc/mdy319
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00
A61K 31/00-31/80
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター-1(PAI-1)に対して阻害作用を有する化合物を有効成分とする、プログラム細胞死リガンド-1(PD-L1)を発現する細胞に対するPD-L1発現抑制剤であり、
前記化合物が、PAI-1阻害作用を有する、抗PAI-1抗体及びその抗原結合断片、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、並びに低分子化合物からなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記低分子化合物が、下式(I)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、エステル及び溶媒和物からなる群より選択される少なくとも1種であるPD-L1発現抑制剤:
【化1】
(式中、
は、イミノ基が結合したベンゼン環のメタ位に配位し、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、C3~8-シクロアルキル-C1~6-アルキル基、炭素数3~8のシクロアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、C3~8-シクロアルキル-C2~6-アルキニル基、置換基を有するかまたは有しないアリール基、または置換基を有するかまたは有しない5~6員環のヘテロアリールであり;
は、イミノ基が結合したベンゼン環のパラ位に配位し、R と同一または異なって、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、C3~8-シクロアルキル-C1~6-アルキル基、炭素数3~8のシクロアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、C3~8-シクロアルキル-C2~6-アルキニル基、置換基を有するかまたは有しないアリール基、または置換基を有するかまたは有しない5~6員環のヘテロアリールであり;
Lは、シングルボンドであり;
Aは、下式(I-1)で示される基であり;
【化2】
[式中、
は、水素原子、置換基を有するかまたは有しない炭素数1~6のアルキル基、またはCF であり;
Dは、置換基を有するかまたは有しない、アリール基、ベンゾ縮合ヘテロアリール基、またはヘテロアリール基;置換基を有するかまたは有しない、炭素数3~8のシクロアルキル基;置換基を有するかまたは有しない炭素数3~8のシクロアルケニル基;またはアダマンチル基であり、
*は式(I)中のLとの結合部を意味する。]、
Bは、イミノ基が結合したベンゼン環のオルト位に配位し、COOR [R は、水素原子、または生物体内で水素原子に変換される基]である。)。
【請求項2】
前記式(I)で示される化合物が、式(I)および(I-1)中、
Dが、置換基を有するかまたは有しない、アリール基、またはベンゾ縮合ヘテロアリール基である化合物である、請求項1に記載するPD-L1発現抑制剤。
【請求項3】
前記式(I)で示される化合物が、
下式(II):
【化3】
(式中、R は水素原子、R はハロゲン原子、Bはカルボキシ基又はそれと生物学的に同等な基、及びDはキノリル基又はイソキノリル基を意味する)
で示される化合物、その薬学的に許容される塩、エステルまたは溶媒和物である、請求項1又は2に記載するPD-L1発現抑制剤。
【請求項4】
前記細胞が、PD-L1を発現する腫瘍細胞及び/又は腫瘍周辺環境を構成する免疫性抑制性細胞である、請求項1~3のいずれか1項に記載のPD-L1発現抑制剤。
【請求項5】
免疫賦活剤として用いられる、請求項1~4のいずれか1項に記載のPD-L1発現抑制剤。
【請求項6】
PD-L1に対する免疫チェックポイント阻害剤として用いられる、請求項1~4のいずれか1項に記載するPD-L1発現抑制剤。
【請求項7】
PD-L1を発現する腫瘍細胞及び/又は腫瘍周辺環境を構成する免疫性抑制性細胞のPD-L1に起因する増悪の抑制剤として用いられる、請求項1~4のいずれか1項に記載するPD-L1発現抑制剤。
【請求項8】
PD-L1を発現する腫瘍に対する免疫療法の増強剤として用いられる、請求項1~4のいずれか1項に記載するPD-L1発現抑制剤。
【請求項9】
他の抗腫瘍剤、他の免疫賦活剤、および/または他の免疫チェックポイント阻害剤と併用して用いられる、請求項1~のいずれか一項に記載するPD-L1発現抑制剤。
【請求項10】
被験化合物群から、PAI-1阻害作用を指標として、PAI-1に対して阻害作用を有する化合物をインビトロアッセイ系で選抜する工程、及び/又は
PAI-1阻害作用を有する化合物について、PAI-1によるPD-L1の発現誘導を抑制する作用をインビトロアッセイ系又は非ヒト動物を用いて確認する工程、を有する、
腫瘍細胞及び/又は腫瘍周辺環境を構成する免疫性抑制性細胞のPD-L1発現抑制剤、免疫賦活剤、免疫チェックポイント阻害剤、腫瘍細胞及び/又は腫瘍周辺環境を構成する免疫性抑制性細胞のPD-L1に起因する増悪の抑制剤、並びにPD-L1を発現する腫瘍に対する免疫療法増強剤からなる群より選択される少なくとも1つの医薬組成物の有効成分の候補化合物をスクリーニングする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター-1(本発明では、これを「PAI-1」と略称する場合がある)活性に対して阻害作用を有する化合物の新規用途に関する。より詳細には、PAI-1阻害作用を有する化合物が有する、免疫チェックポイント分子の発現誘導を抑制する作用に基づいて、免疫チェックポイント分子の発現抑制剤としての用途、免疫賦活剤としての用途、免疫チェックポイント阻害剤としての用途、または腫瘍細胞の免疫チェックポイント分子に起因する増悪の抑制剤としての用途に関する。
【背景技術】
【0002】
私たちの身体は、体外から侵入した細菌やウイルス等の異物を排除し自己を守る免疫防御機構を有しており、体内で発生したがん細胞の排除にも重要な働きをしている。しかし、がんが進行すると、その免疫機能は低下し、がん細胞に対して免疫が働かなくなることが多い。がんの治療には、従来より外科的治療、化学療法(殺細胞療法、分子標的療法、血管新生阻害療法、免疫療法を含む)、および放射線療法が主な治療法として行われている。しかし、いずれの治療法にも一長一短があり、特に前記のように免疫機能が低下した状態にある進行がんに対しては、これらの治療法に加えて、さらに新たな治療法の確立が求められている。
【0003】
近年、本庶らを始めとする様々な研究者らによって、がんは、PD-1(Programmed cell death protein 1)およびそのリガンドであるPD-L1(Programmed cell death-ligand 1)、並びにCTLA-4(cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4)などの「免疫チェックポイント分子(Immune Checkpoint Molecule)」(以下、単に「ICM」とも称する)と呼ばれる免疫抑制性因子を巧みに利用して、細胞傷害性T細胞等による免疫システム(免疫監視)による排除から逃れて増殖していることが明らかにされてきた。現在では、こうした免疫逃避機構を解除することで、免疫細胞が再活性化(賦活化)し、がん細胞を再び殺傷できるようになることが実験的に証明されており、この概念を応用した「免疫チェックポイント阻害剤(Immune Checkpoint Inhibitor)」(以下、単に「ICI」とも称する)が、肺がん、悪性黒色腫、腎臓がんなどの幅広い種類の腫瘍の治療に臨床応用されている。特に、ICIは、これまでの化学療法ではあまり見られなかった2~3年を超える長期奏功例が、一部の患者で観察されるなど、有効な治療効果を上げている。
【0004】
現在、がんの治療で臨床応用されているICIは、ICMとしてPD-1及びPD-L1を標的とした抗体医薬である。PD-L1は、様々の腫瘍細胞に高発現しているだけでなく、マクロファージや樹状細胞などの抗原提示細胞などを含む、多くの細胞に発現している。一方、その相手であるPD-1は主として細胞傷害性T細胞などの免疫細胞に発現している。腫瘍細胞等に発現するPD-L1が、細胞傷害性T細胞上のPD-1に結合すると、当該T細胞の活性が抑制される。このようなメカニズムにより、腫瘍は細胞障害性T細胞により異物として認識されても、当該T細胞の細胞障害機能が抑制されていることで、本来の免疫監視機構から逃れてしまい(免疫逃避)、その結果、腫瘍は増殖し、増悪してしまう。前述する抗体医薬(抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体)は、免疫系を抑制するPD-1及びPD-L1による免疫チェックポイント機構を阻害するように機能し、実際に、数割のがん患者において腫瘍増殖を抑制する効果が認められている。しかしながら、長期にわたり使用しつづけると、耐性が生じ、腫瘍が再増悪するという臨床例も報告されており、新たなICIまたは免疫賦活剤の開発が求められている。また、経口投与に不向きな抗体医薬に代わるICIまたは免疫賦活剤として低分子化合物の開発も求められている。
【0005】
ところで、プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター-1(PAI-1)は、組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)およびウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(uPA)を特異的に阻害するセリンプロテアーゼインヒビターであり、プラスミンの生成を抑制し、ひいてはフィブリンの分解を阻害する。PAI-1には、立体構造の違いにより、PA阻害活性を示す活性型(active form)と、PA阻害活性を示さない潜在型(latent form)とがある。通常、血漿中には20ng/mLのPAI-1が存在し、主要な産生細胞である血管内皮細胞の他、肝細胞、巨核球(megakaryocyte)、および脂肪細胞で産生されることが知られている。
【0006】
PAI-1及びその遺伝子の構造特性は、十分に確認されている。特にヒト及び動物由来の完全長PAI-1をコードするDNA配列はクローン化され配列決定されている。例えば、ヒトPAI-1のcDNA配列及びそのエンコーディングアミノ酸配列は、GenbankのAccession番号X047444に登録されている。同様に、マウスPAI-1のcDNA配列及びそのエンコーディングアミノ酸配列は、GenbankのAccession番号M33960に登録されている。本発明で特に対象とするPAI-1はヒト由来のPAI-1である。なお、PAI-1の#333(Ser)から#346(Lys)までのアミノ酸残基は、プラスミノーゲン活性化因子に対するPAI-1の阻害効果に関与していることも知られている(非特許文献1)。
【0007】
PAI-1は、急性期タンパク質であり、種々のサイトカインや増殖因子により産生が亢進して、敗血症や播種性血管内凝固症候群(DIC)における虚血性臓器障害を引き起こす原因の一つとして考えられている。また、PAI-1遺伝子プロモーターの一塩基置換による遺伝子多型が知られており、当該遺伝子多型に起因して血漿PAI-1濃度が増加することが明らかにされている。
【0008】
PAI-1は糖尿病性腎症、慢性腎疾患(CKD)、ネフローゼ症候群、腎後性腎障害および腎盂腎炎などの腎疾患に深く関与し作用していることが、従来から広く研究され報告されている(非特許文献2~6)。その他、PAI-1は、種々の疾患、具体的には各種の血栓症、がん、糖尿病、緑内障や網膜症等の眼疾患、多嚢胞性卵巣症候群、放射線障害、脱毛症(禿)、肝脾腫および動脈硬化症等の各種の病態の形成や進展に関与していると考えられている(非特許文献7~12)。またPAI-1は、血管内皮細胞の形成や、脳梗塞や心筋梗塞のイベント発生に関与していると考えられている日周性リズムの制御にも関連しているとの報告がある(非特許文献13~15)。このため、PAI-1の活性を阻害する化合物は、血栓症を始め、がん、糖尿病や糖尿病合併症、各種の腎疾患、緑内障や網膜症などの眼疾患、多嚢胞性卵巣症候群、脱毛症、骨髄再生、髄外造血から生じる脾腫、アミロイドーシス(アミロイド症)および動脈硬化症等の、種々の疾患の予防および治療剤として有用である(非特許文献16~17)。また非特許文献18には、低分子PAI-1阻害剤が、脂肪細胞の分化を抑制し、食餌性肥満の進展を妨げることが記載されている。このことから、PAI-1阻害剤は肥満の予防及び解消にも有効であると考えられる。
【0009】
また、組織の線維化は、肺を始め、心臓、血管、肝臓および腎臓など多くの組織や器官で生じる。以前より、PAまたはPAI-1阻害剤を投与して線溶系を活性化することにより、肺線維症の進展が抑制できることが報告されており(非特許文献19)、組織線維症、特に肺線維症の治療にPAI-1阻害剤が有効であることが知られている(非特許文献20~21)。さらに、PAI-1を阻害すると、Aβの分解が促進されることが報告され、PAI-1阻害剤がアルツハイマー病の治療薬として有用である可能性が示唆されている(非特許文献22)。
【0010】
さらに最近、本出願人は、PAI-1阻害剤が幹細胞またはニッチと呼ばれる微小環境に働いて、幹細胞を活性させることを見出している(特許文献1)。
【0011】
しかしながら、これまでに腫瘍細胞や腫瘍周辺環境を構成する細胞群(例えば、tumor-associated macrophage、cancer-associated fibroblasts等)に発現しているPD-L1と、PAI-1との関係は知られておらず、PD-L1の発現に対するPAI-1阻害剤の作用は予測すらされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開公報WO2014/171464
【非特許文献】
【0013】
【文献】Sancho et al., Conformational studies on plasminogen activator inhibitor (PAI-1) in active, latent, substrate, and cleaved forms, Biochem. 34: 1064-1069 (1995)
【文献】Takashi Oda. et. al., PAI-1 deficiency attenuates the fibrogenic response to ureteral obstruction. Kidney International, Vol. 30 (2001), pp. 587-596
【文献】Shunya Matsuo. et. al., Multifunctionality of PAI-1 in fibrogenesis: Evidence from obstructive nephropathy in PAI-1-overexpressing mice. Kidney International, Vol. 67 (2005), pp. 2221-2238
【文献】Y Huang. et. al., Noninhibitory PAI-1 enhances plasmin-mediated matrix degradation both in vitro and in experimental nephritis. Kidney International (2006) 70, 515-522
【文献】Allison A. et. al., Plasminogen Activator Inhibitor-1 in Chronic Kidney Disease: Evidence and Mechanisms of Action. J Am Soc Nephrol 17: 2999-3012, 2006
【文献】Joris J T H Roelofs. et. al., Plasminogen activator inhibitor-1 regulates neutrophil influx during acute pyelonephritis. Kidney International, Vol. 75 (2009), pp. 52-59
【文献】Michelle K. et. al., Plasminogen activator inhibitor-1 and tumour growth, invasion, and metastasis. Thromb Haemost 2004; 91: 438-49
【文献】Dan J, Belyea D, et. al., Plasminogen activator inhibitor-1 in the aqueous humor of patients with and without glaucoma. Arch Ophthalmol. 2005 Feb;123(2):220-4.
【文献】Anupam Basu et. al., Plasminogen Activator Inhibitor-1 (PAI-1) Facilitates Retinal Angiogenesis in a Model of Oxygen-Induced Retinopathy IOVS, October 2009, Vol. 50, No. 10, 4971-4981
【文献】Fabien Milliat et. al., Essential Role of Plasminogen Activator Inhibitor Type-1 in Radiation Enteropathy. The American Journal of Pathology, Vol. 172, No. 3, March 2008, 691-701
【文献】M. EREN et. al., Reactive site-dependent phenotypic alterations in plasminogen activator inhibitor-1 transgenic mice. Journal of Thrombosis and Haemostasis, 2007, 5: 1500-1508
【文献】Jessica K Devin et. al., Transgenic overexpression of plasminogen activator inhibitor-1 promotes the development of polycystic ovarian changes in female mice. Journal of Molecular Endocrinology (2007) 39, 9-16
【文献】Yuko Suzuki et. al., Unique secretory dynamics of tissue plasminogen activator and its modulation by plasminogen activator inhibitor-1 in vascular endothelial cells. Blood, January 2009, Volume 113, Number 2, 470-478
【文献】Koji Maemura et. al., Circadian Rhythms in the CNS and Peripheral Clock Disorders: Role of the Biological Clock in Cardiovascular Diseases. J Pharmacol Sci 103, 134 - 138 (2007)
【文献】John A. Schoenhard et. al., Plasminogen activator inhibitor-1 has a circadian rhythm in blind individuals. Thromb Haemost 2007; 98: 479-481
【文献】Egelund R,et al.,J. Biol. Chem.,276, 13077-13086, 2001
【文献】Douglas E. Vaughan et. al., PAI-1 Antagonists: Predictable Indications and Unconventional Applications. Current Drug Targets, 2007, 8, 962-970
【文献】David L. Crandall et. al., Modulation of Adipose Tissue Development by Pharmacological Inhibition of PAI-1. Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 2006;26;2209-2215
【文献】D T Eitzman, et al., J. Clin. Invest. 97, 232-237, 1996
【文献】Noboru Hattori et. al., Bleomycin-induced pulmonary fibrosis in fibrinogen-null mice. J. Clin. Invest. 106:1341-1350 (2000)
【文献】Hisashi Kosaka et. al., Interferon-γis a therapeutic target molecule for prevention of postoperative adhesion formation. Nature Medicine, Volume 14, No. 4, APRIL 2008, 437-441
【文献】Jacobsen JS et.al., Proc Natl Acad Sci USA, 105(25), 8754-9, 2008 Jun 16
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、PAI-1阻害作用を有する化合物(以下、これを「PAI-1阻害剤」と総称する)の新たな用途を提供することを課題とする。具体的には、PD-L1などのICMが関与する病態やその増悪に対するPAI-1阻害剤の新たな用途を提供することを課題とする。当該用途には、例えば、抗がん作用とは別に、腫瘍に対する免疫療法の増強というPAI-1阻害剤の新たな用途が含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、体内の免疫システムに対して抑制的に働くPD-L1に着目して鋭意検討を重ねていたところ、マウスの腫瘍細胞にPAI-1を過剰発現させたり、または添加すると、腫瘍細胞におけるPD-L1の発現が上昇することを見出し、これに、さらにPAI-1阻害剤を添加すると、PAI-1によるPD-L1の発現誘導が抑制されることを確認した。この現象は、腫瘍細胞だけでなく、腫瘍周辺環境を構成する細胞(例えば、M2マクロファージ、tumor-associated macrophage[TAM]、cancer-associated fibroblasts [CAF]等)、特に免疫抑制性細胞であるM2マクロファージに発現しているPD-L1に対しても同様に認められることを確認した。特に、PAI-1阻害剤の投与によって腫瘍内の免疫抑制性細胞(M2マクロファージ、TAM、CAF、制御性T細胞)の割合が減少することから、PAI-1阻害剤は、免疫チェックポイント機構(免疫逃避機構)を抑止することで、腫瘍内部を免疫による攻撃を受けやすい環境に誘導するように機能するものと考えられる。
さらに、本発明者らは、マウス由来の腫瘍細胞だけでなく、ヒトに由来する様々な種類の腫瘍細胞(例えば、卵巣明細胞腺癌細胞、急性骨髄性白血病細胞、慢性骨髄性白血病細胞、不死化胎児腎細胞など)についても同様の現象が認められること、特に、PAI-1阻害剤を経口投与することによって、PAI-1によるPD-L1の発現誘導が抑制されることを見出し、前記の現象がin vitroだけでなく、哺乳動物の生体内(in vivo)でも同様に得られることを確認した。
【0016】
従来から、腫瘍組織におけるPAI-1レベルの高さが、乳がんや肺腺がんにおける予後の悪さに相関することが知られている。前述する本発明の知見によれば、腫瘍細胞または腫瘍周辺環境を構成する細胞におけるPAI-1の発現が、PD-L1の発現を誘導し、その結果、免疫チェックポイント機構(免疫逃避機構)が作動し、これが、腫瘍患者の免疫抑制、並びに腫瘍の増悪(腫瘍細胞の増殖、浸潤、転移、または再発など)や予後の悪さに影響していると考えられる。このため、PAI-1阻害作用を有する化合物(PAI-1阻害剤)によれば、上記現象(免疫逃避機構)を抑止することができ、その結果、PD-L1の発現抑制剤、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)、免疫賦活剤、及び/または腫瘍細胞のPD-L1に起因する増悪を抑制する剤などとして機能する。このため、PAI-1阻害剤は、抗がん作用とは別に、特に腫瘍に対する免疫治療を補助し増強するうえでに有用であると考えられる。
【0017】
さらに、本発明者らは、PD-L1を高発現している腫瘍組織を移植したマウスに対して、PAI-1阻害剤を投与しないと移植腫瘍組織が経時的に大きくなるのに対して、PAI-1阻害剤を投与すると移植腫瘍組織が早期に縮小(退縮)することを見出した。こうした効果は、免疫不全マウスでは認められないことから、PAI-1阻害剤は単独で、PD-L1を発現している腫瘍細胞の免疫を賦活化することで、腫瘍の増悪を抑制する作用を発揮するものと考えられる。また、PAI-1阻害剤による腫瘍退縮効果は、抗PD-1抗体等の他のICIを併用することでより一層増強されることも確認した。
【0018】
本発明はこれらの知見に基づいて、さらに研究を重ねて完成したものであり、下記の実施形態を含むものである。
【0019】
(I)PD-L1発現抑制剤、免疫賦活剤、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)、腫瘍細胞のPD-L1に起因する増悪の抑制剤
(I-1)PAI-1阻害作用を有する化合物を有効成分とするPD-L1発現抑制剤。
(I-2)PD-L1に対するICIとして用いられる(I-1)に記載するPD-L1発現抑制剤。
(I-3)免疫賦活剤として用いられる(I-1)記載のPD-L1発現抑制剤。

(I-4)腫瘍細胞のPD-L1に起因する増悪を抑制する剤として用いられる(I-1)に記載するPD-L1発現抑制剤。
(I-5)腫瘍に対する免疫療法の増強剤として用いられる(I-1)~(I-4)のいずれかに記載するPD-L1発現抑制剤。
(I-6)前記PAI-1阻害作用を有する化合物が、PAI-1阻害作用を有する、低分子化合物、PAI-1中和抗体及びその断片、ペプチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、並びにアプタマーからなる群より選択される少なくとも1種である、(I-1)~(I-5)のいずれかに記載するPD-L1発現抑制剤。
(I-7)前記PAI-1阻害作用を有する低分子化合物が、下式(I)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、エステルまたは溶媒和物である、(I-6)に記載するPD-L1発現抑制剤:
【化1】
(式中、
およびRは、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有するかまたは有しない、炭素数1~6のアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、C3~8-シクロアルキル-C1~6-アルキル基、炭素数3~8のシクロアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、C3~8-シクロアルキル-C2~6-アルキニル基、アリール基、または5~6員環のヘテロアリールであり;
Lは、シングルボンド、-[(CH-O-(CH-CONH-(M及びNは同一または異なって、1~6の整数を意味し、Qは0または1を意味する){Qが0の場合「-CONH-」となり、Qが1の場合「アルキレンオキシアルキレン-CONH-」となる}、置換基を有するかまたは有しない炭素数1~6のアルキレン基(当該アルキレン基中の炭素原子の一部がシクロアルキル基を形成していてもよい)、置換基を有するかまたは有しない炭素数1~6のアルキレン-O-(当該アルキレン基中の炭素原子の一部がシクロアルキル基を形成していてもよい)、置換基を有するかまたは有しない炭素数1~6のアルキレン-NHCO-(「アルキレン-NHCO-」中、アルキレン基はその炭素原子の一部がシクロアルキル基を形成していてもよい。)、置換基を有するかまたは有しない炭素数1~6のアルキレン-NH-(「アルキレン-NH-」中、アルキレン基はその炭素原子の一部がシクロアルキル基を形成していてもよい。)、置換基を有するかまたは有しない炭素数2~6のアルケニレン基、置換基を有するか有しない炭素数2~6のアルキニレン基、-CO-、-NH-、1,4-ピペラジジニル基、炭素数1~6のアルキレン-1,4-ピペラジジニル基、またはアダマンチレン基であり;
Aは、下式(I-1)で示される基であり;
【化2】
[式中、
は、同一または異なって、水素原子、置換基を有するかまたは有しない炭素数1~6のアルキル基、またはCFであり;
Dは、置換基を有するかまたは有しない、アリール基、ベンゾ縮合ヘテロアリール基、またはヘテロアリール基;置換基を有するかまたは有しない炭素数3~8のシクロアルキル基若しくは炭素数3~8のヘテロシクロアルキル基;置換基を有するかまたは有しない炭素数3~8のシクロアルケニル基若しくは炭素数3~8のヘテロシクロアルケニル基;置換基を有するかまたは有しない炭素数1~6のアルキル基;またはアダマンチル基であり、
*は式(I)中のL基との結合部を意味する。]、
Bは、COOR[Rは、水素原子、または生物体内で水素原子に変換される基]である。)。
(I-8)前記式(I)で示される化合物が、式(I)及び式(I-1)中、
Bが、イミノ基に結合したベンゼン環のオルト位に配位しており、
Lが、シングルボンドであり、
Dが、置換基を有するかまたは有しないアリール基、またはベンゾ縮合ヘテロアリール基である
化合物である、(I-7)に記載するPD-L1発現抑制剤。
(I-9)前記Dが、フェニル基、キノリル基、またはイソキノリル基である、(I-7)または(I-8)に記載するPD-L1発現抑制剤。
(I-10)前記PAI-1阻害作用を有する化合物が、2-[(ビフェニル-3-イルカルボニル)アミノ]-5-クロロ安息香酸、5-クロロ-2-({[3-(キノリン-8-イル)フェニル]カルボニル}アミノ)安息香酸、それらの薬学的に許容される塩、エステル、及び溶媒和物からなる群から選択される少なくとも一種である、(I-1)~(I-9)のいずれか一に記載するPD-L1発現抑制剤。
(I-11)他の抗腫瘍剤、他の免疫賦活剤および他のICIよりなる群から選択される少なくとも一種と併用して用いられる、(I-1)~(I-10)のいずれか一に記載するPD-L1発現抑制剤。
(I-12)前記抗腫瘍剤が、代謝拮抗薬、微小管阻害薬、抗腫瘍性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害薬、白金製剤、アルキル化薬、ホルモン類似薬、分子標的治療薬(抗体薬、免疫チェックポイント阻害薬を含む)、サイトカイン、および非特異的免疫賦活薬からなる群から選択される少なくとも1種である(I-11)に記載のPD-L1発現抑制剤。
【0020】
(II)腫瘍化学療法剤
(II-1)少なくとも(I-1)~(I-12)のいずれか一に記載するPD-L1発現抑制剤と、他の抗腫瘍剤、他の免疫賦活剤および他のICIよりなる群から選択される少なくとも一種とが組み合わされてなる、腫瘍化学療法剤。
(II-3)前記抗腫瘍剤が、代謝拮抗薬、微小管阻害薬、抗腫瘍性抗生物質、トポイソメラーゼ阻害薬、白金製剤、アルキル化薬、ホルモン類似薬、分子標的治療薬(抗体薬、免疫チェックポイント阻害薬を含む)、サイトカイン、および非特異的免疫賦活薬からなる群から選択される少なくとも1種である、(II-1)に記載の腫瘍化学療法剤。
【0021】
(III)PAI-1阻害作用を有する化合物の使用(#1)
(III-1)PD-L1発現抑制剤、ICI、免疫賦活剤、腫瘍細胞のPD-L1に起因する増悪を抑制する剤、または腫瘍に対する免疫療法増強剤を製造するための、PAI-1阻害作用を有する化合物の使用。
(III-2)前記PAI-1阻害作用を有する化合物が、PAI-1阻害作用を有する、低分子化合物、PAI-1中和抗体及びその断片、ペプチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、並びにアプタマーからなる群より選択される少なくとも1種である、(III-1)に記載する使用。
(III-3)前記PAI-1阻害作用を有する低分子化合物が、下式(I)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、エステルまたは溶媒和物である、(III-2)に記載する使用:
【化3】
(式中、R、R、L、A、及びBは、前記(I-6)の記載と同じである。)。
(III-4)前記式(I)で示される化合物が、式(I)中、
Bが、イミノ基に結合したベンゼン環のオルト位に配位しており、
Lが、シングルボンドである化合物である、(III-3)に記載する使用。
(III-5)前記PAI-1阻害作用を有する化合物が、2-[(ビフェニル-3-イルカルボニル)アミノ]-5-クロロ安息香酸、5-クロロ-2-({[3-(キノリン-8-イル)フェニル]カルボニル}アミノ)安息香酸、それらの薬学的に許容される塩、エステル、及び溶媒和物からなる群から選択される少なくとも一種である、(III-1)~(III-4)のいずれか一に記載する使用。
(III-6)前記PAI-1阻害作用を有する化合物は、他の抗腫瘍剤、他の免疫賦活剤および他のICIよりなる群から選択される少なくとも一種と組み合わされて、PD-L1発現抑制剤、ICI、免疫賦活剤、または腫瘍細胞のPD-L1に起因する増悪を抑制する剤の製造に使用される、(III-1)~(III-5)のいずれか一に記載する使用。
【0022】
(IV)PAI-1阻害作用を有する化合物の使用(#2)
(IV-1)下記(a)~(e)からなる群より選択される少なくとも1つのために使用される、PAI-1阻害作用を有する化合物:
(a)腫瘍細胞、及び免疫抑制性細胞よりなる群から選択される少なくとも1種の細胞のPD-L1発現を抑制する、
(b)PD-L1/PD-1を免疫チェックポイントとする免疫逃避機構を抑制する、
(c)免疫を賦活化する、特にPD-L1に起因する免疫抑制を賦活化する、
(d)腫瘍細胞のPD-L1に起因する増悪を抑制する、
(e)腫瘍に対する免疫療法の効果を増強する。
(IV-2)前記PAI-1阻害作用を有する化合物が、PAI-1阻害作用を有する、低分子化合物、PAI-1中和抗体及びその断片、ペプチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、並びにアプタマーからなる群より選択される少なくとも1種である、(IV-1)に記載する使用のための化合物。
(IV-3)前記PAI-1阻害作用を有する低分子化合物が、下式(I)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、エステルまたは溶媒和物である、(IV-2)に記載する使用のための化合物:
【化4】
(式中、R、R、L、A、及びBは、前記(I-6)の記載と同じである。)。
(IV-4)前記式(I)で示される化合物が、式(I)中、
Bが、イミノ基に結合したベンゼン環のオルト位に配位しており、
Lが、シングルボンドである、(IV-3)に記載する使用のための化合物。
(IV-5)前記PAI-1阻害作用を有する化合物が、2-[(ビフェニル-3-イルカルボニル)アミノ]-5-クロロ安息香酸、5-クロロ-2-({[3-(キノリン-8-イル)フェニル]カルボニル}アミノ)安息香酸、それらの薬学的に許容される塩、エステル、及び溶媒和物からなる群から選択される少なくとも一種である、(IV-1)~(IV-4)のいずれか一に記載する使用のための化合物。
(IV-6)他の抗腫瘍剤、他の免疫賦活剤および他のICIよりなる群から選択される少なくとも一種と組み合せて使用される、(IV-1)~(IV-5)のいずれか一に記載する使用のための化合物。
【0023】
(V)PAI-1阻害作用を有する化合物の使用(#3)
(V-1)PAI-1阻害作用を有する化合物を有効量、患者に投与する工程を有する、当該患者が有する腫瘍細胞及び免疫抑制性細胞よりなる群から選択される少なくとも1種の細胞のPD-L1発現を抑制する方法。
(V-2)前記免疫抑制性細胞が、M2マクロファージ、TAM、CAF、及び制御性T細胞からなる群より選択される少なくとも1種である、(V-1)に記載する方法。
(V-3)前記患者が、PD-L1を発現した、腫瘍細胞及び免疫抑制性細胞よりなる群から選択される少なくとも1種の細胞を有する患者、好ましくはヒト患者である、(V-1)または(V-2)に記載する方法。
(V-4)PD-L1/PD-1を免疫チェックポイントとする免疫逃避機構を抑制する方法である、(V-1)~(V-3)のいずれかに記載する方法。
(V-5)腫瘍患者の抑制された免疫を賦活化する方法、特にPD-L1に起因する免疫抑制を賦活化する方法である、(V-1)~(V-3)のいずれかに記載する方法。
(V-6)腫瘍細胞のPD-L1に起因する増悪を抑制する方法である、(V-1)~(V-3)のいずれかに記載する方法。
(V-7)腫瘍の免疫療法の効果を増強する方法である、(V-1)~(V-3)のいずれかに記載する方法。
(V-8)前記PAI-1阻害作用を有する化合物が、PAI-1阻害作用を有する、低分子化合物、PAI-1中和抗体及びその断片、ペプチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、並びにアプタマーからなる群より選択される少なくとも1種である、(V-1)~(V-7)のいずれかに記載する方法。
(V-9)前記低分子化合物が、下式(I)で表される化合物、その薬学的に許容される塩、エステルまたは溶媒和物である、(V-7)に記載する方法:
【化5】
(式中、R、R、L、A、及びBは、前記(I-6)の記載と同じである。)。
(V-10)前記式(I)で示される化合物が、式(I)中、
Bが、イミノ基に結合したベンゼン環のオルト位に配位しており、
Lが、シングルボンドである、(V-9)に記載する方法。
(V-11)前記PAI-1阻害作用を有する化合物が、2-[(ビフェニル-3-イルカルボニル)アミノ]-5-クロロ安息香酸、5-クロロ-2-({[3-(キノリン-8-イル)フェニル]カルボニル}アミノ)安息香酸、それらの薬学的に許容される塩、エステル、び溶媒和物からなる群から選択される少なくとも一種である、(V-1)~(V-10)のいずれか一に記載する方法。
(V-12)患者に、PAI-1阻害作用を有する化合物の投与と、同時または並行して、他の抗腫瘍剤、他の免疫賦活剤および他のICIよりなる群から選択される少なくとも一種を投与する工程を有する、(V-1)~(V-11)のいずれか一に記載する方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、PAI-1阻害作用を有する化合物(PAI-1阻害剤)の新たな用途を提供することができる。後述するように、PAI-1阻害剤は、腫瘍細胞及び/又は免疫抑制性細胞におけるPAI-1によるPD-L1の発現誘導を、自身が有するPAI-1阻害作用に基づいて抑制する作用を有する。PAI-1阻害剤は、PAI-1にょるPD-L1発現誘導を抑制することで、PD-L1による免疫システムの機能不全(免疫低下)を回復させることができる。PAI-1阻害剤は、こうした免疫賦活作用を発揮することで、腫瘍の増悪、特にPD-L1に起因する腫瘍の増悪を抑制し、改善するように機能する。このため、本発明は、PAI-1阻害剤について、PD-L1発現抑制剤としての用途、免疫賦活剤としての用途、またはPD-L1に対する免疫チェックポイント阻害剤(ICI)としての用途を提供することができる。さらに、PAI-1阻害剤について、腫瘍細胞のPD-L1に起因する増悪を抑制する剤(以下、単に「腫瘍細胞の増悪抑制剤」とも称する)としての用途、腫瘍に対する免疫療法の増強剤としての用途を提供することができる。
このように、PAI-1阻害剤は、単独で、または他の免疫賦活剤やICI(例えば、抗PD-1抗体など)と併用して、PD-L1による免疫逃避機構を抑止することができる。また、PAI-1阻害剤は、単独で、または他の抗腫瘍剤、他の免疫賦活剤若しくは他のICIと併用して、腫瘍の免疫療法の増強に有効であり、がん治療、特にがんの増悪(がん細胞の増殖、浸潤、転移、再発)の抑制、または予後の改善に有効に利用することができる。
特にPAI-1阻害剤は、経口投与により前記効果を発揮することから、経口に不向きな抗体医薬に代わるICIとして、または抗体医薬と併用されるICI、免疫賦活剤、または免疫療法増強剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実験例1においてフローサイトメーターで解析したPD-L1の発現量を示す。図1には、PAI-1を過剰発現したマウス白血病細胞(32Dp210)(32D PAI-1 OE)は、対照である野生型細胞(32D WT)と比べて、PD-L1の発現量が高いことが示されている。
図2】実験例2においてフローサイトメーターで解析したPD-L1の発現量を示す。図2には、PAI-1を添加した32Dp210(+r-PAI-1、+PAI-1 OE sup)はいずれも、PAI-1を添加しない未処理の同細胞(Control)と比べて、PD-L1の発現量が高いことが示されている。
図3】実験例3においてフローサイトメーターで解析したPD-L1の発現量を示す。(A)はマウス白血病細胞(32Dp210)の結果を、(B)はマウス大腸癌細胞(MC38)の結果を、(C)はマウス悪性黒色腫細胞株(B16F10)の結果をそれぞれ示す。これらの図には、前記のいずれの細胞も、PAI-1を添加することでPD-L1の発現が誘導されること(+r-PAI-1)、及びその誘導はPAI-1阻害剤の添加で完全に抑制されることが示されている(+r-PAI-1+PAI-1 inhibitor)。
図4】実験例4において各細胞におけるPD-L1のmRNAの発現量を測定した結果を示す。(A)には、PAI-1を過剰発現した32Dp210(PAI-1 OE)は、対照の野生型細胞(WT)と比べて、PD-L1のmRNAの発現量が高いことが示されている。(B)には、PAI-1を40nMまたは100nM添加した32Dp210(+40nM rPAI-1、+100nM rPAI-1)は、PAI-1を添加しない未処理の同細胞(Control)と比べて、PD-L1のmRNAの発現量が高いこと、さらにその発現の誘導はPAI-1阻害剤の添加で抑制されることが示されている(+40nM rPAI-1+PAI-1 inhibitor、+100nM rPAI-1+PAI-1 inhibitor)。
図5】実験例5においてフローサイトメーターで解析したPD-L1の発現量のうち、末梢血の結果を示す。図には、マウス白血病細胞(32Dp210)を移植したマウスにおいて、PAI-1阻害剤を経口投与したマウスは、それに代えて生理食塩水(Vehicle)を経口投与したマウスよりも、PD-L1の発現量が低下していることが示されている。
図6】実験例6においてフローサイトメーターで解析したM2マクロファージ(CD11bCD206)におけるPD-L1の発現量を示す。図6には、未処理のM2マクロファージ(Control)と比べて、rPAI-1を添加したM2マクロファージはPD-L1の発現量が増加すること(+rPAI-1)、その増加はPAI-1阻害剤の添加で抑制されることが示されている(+rPAI-1+PAI-1 inhibitor)。
図7】実験例7で実施した結果を示す。(A)は、マウス脾臓細胞について、抗CD11b抗体及び抗CD206抗体を用いて、M2マクロファージ(CD11bCD206)と他のマクロファージ(CD11bCD206)とをゲーティングした結果を示す。(B)は、M2マクロファージ(CD11bCD206)と他のマクロファージ(CD11bCD206)とでPAI-1の発現量を比較した結果を示す。(C)は、同様に両者のマクロファージについてPD-L1の発現量を比較した結果を示す。(D)は、PAI-1阻害剤または生理食塩水(Vehicle)を経口投与したマウスについて、脾臓細胞中のM2マクロファージ(CD11bCD206)におけるPD-L1の発現量を比較した結果を示す。
図8】実験例8において、各種のヒト腫瘍細胞(左上図:293T[不死化胎児腎細胞]、右上図:ES2[卵巣明細胞腺癌細胞]、左下図:MOLM14[急性骨髄性白血病細胞]、右下図:K562[慢性骨髄性白血病細胞])についてフローサイトメーターで解析したPD-L1の発現量を示す。いずれの図にも、PAI-1を過剰発現した細胞(PAI-1 OE)、または/およびPAI-1を添加した細胞(+PAI-1 OE sup)は、野生型の同細胞(WT)と比べて、PD-L1の発現量が高いことが示されている。
図9】実験例9において、ヒト由来卵巣癌細胞を移植し生着を確認したマウスに、PAI-1阻害剤または生理食塩水(Vehicle)を経口投与し、その後、回収した腫瘍塊中の当該癌細胞におけるPD-L1発現量を比較したフローサイトメーターの結果を示す。
図10】実験例10において、マウス白血病細胞を移植したマウスに、PAI-1阻害剤または生理食塩水(Vehicle)を経口投与した後に、移植した腫瘍塊の大きさを測定した結果を示す。図には、生理食塩水(Vehicle)のみを投与したマウス群(n=2)は腫瘍径の増大すること(符号1及び2)、一方、PAI-1阻害剤を投与したマウス群(n=2)では腫瘍塊が消失することが示されている(符号3及び4)。
図11】実験例11において、マウス大腸癌細胞を移植したマウス〔(1)未治療群(Vehicle)、2)抗PD1抗体単独投与群(anti-PD-1 Ab)、3)PAI-1阻害剤単独投与群(PAI-1 inhibitor)、4)抗PD1抗体とPAI-1阻害剤の併用群(anti-PD-1 Ab+PAI-1 inhibitor)〕について、移植した腫瘍塊の大きさを測定した結果を示す。図には、抗PD1抗体単独投与群、及びPAI-1阻害剤単独投与群は腫瘍塊が有意に退縮し、両者併用群は腫瘍塊が完全に消失したことが示されている。
図12】実験例12の結果を示す。免疫不全マウス(Rag2/IL-2R-KO)及び野生型マウス(WT)のそれぞれの皮下に移植し生着した腫瘍塊(マウス大腸癌細胞)の大きさが、PAI-1阻害剤を投与することでどう推移するかを測定した結果を示す。図では、野生型マウスに対してはPAI-1阻害剤の投与で腫瘍の退縮効果が認められたのに対して、免疫不全マウスに対しては当該効果が認められなかったことがを示されている。
図13】実験例13の結果を示す。(A)及び(B)は、実験例11の1)未治療群(Vehicle)、及び3) PAI-1阻害剤単独投与群(PAI-1 inhibitor)の担癌マウスからそれぞれ回収した腫瘍を、抗CD11b抗体、抗F4/80抗体、抗CD206抗体でM2マクロファージを染色し、腫瘍塊中のM2マクロファージの比率をフローサイトメーターで解析した結果を示す。(C)はその結果を纏めたものである。左側は、腫瘍内のマクロファージの割合を未治療群(Vehicle)とPAI-1阻害剤単独投与群(PAI-1 inhibitor)で比較した棒グラフ、右側は、総マクロファージ量に対するM2マクロファージの割合を未治療群(Vehicle)とPAI-1阻害剤単独投与群(PAI-1 inhibitor)で比較した棒グラフである。
図14】実験例14の結果を示す。(A)及び(B)は、実験例11の1)未治療群(Vehicle)、及び3) PAI-1阻害剤単独投与群(PAI-1 inhibitor)の担癌マウスからそれぞれ回収した腫瘍を、抗CD25抗体、及び抗foxp3抗体等で細胞を染色し、腫瘍塊中の制御性T細胞(T reg cell)の比率をフローサイトメーターで解析した結果を示す。(C)はその結果を纏めたものである。腫瘍内の制御性T細胞の割合を未治療群(Vehicle)とPAI-1阻害剤単独投与群(PAI-1 inhibitor)で比較した棒グラフである。
図15】実験例15の結果を示す。実験例11の1)未治療群(Vehicle)、及び3) PAI-1阻害剤単独投与群(PAI-1 inhibitor)の担癌マウスからそれぞれ回収した腫瘍から作製した組織切片を抗SMAα抗体で染色して顕微鏡で観察した画像である。濃く染色されている細胞はがん関連線維芽細胞(CAF)である。PAI-1阻害剤の投与により腫瘍内のCAFの浸潤割合が低下することが示されている。
図16】実験例16の結果を示す。実験例11の1)未治療群(Vehicle)、及び3) PAI-1阻害剤単独投与群(PAI-1 inhibitor)の担癌マウスからそれぞれ回収した腫瘍を、抗CD45抗体、抗CD3抗体、抗CD4抗体、抗CD8抗体、抗perforin抗体でT細胞を染色し、腫瘍塊中の細胞傷害性T細胞の比率をフローサイトメーターで解析した結果を示す。(A)は、腫瘍中のCD8+T細胞(CD8+ effector T cells)の割合(%)を、(B)は、CD8+T細胞中の細胞傷害性T細胞の割合(%)を、未治療群(Vehicle)とPAI-1阻害剤単独投与群(PAI-1 inhibitor)とで比較した結果を示す。
図17】実験例17の結果を示す。(A)は細胞調製の一連の手順を示す。(B)は、調製した細胞(Activated T cell、Resting T cell)を抗CD3抗体、抗CD8抗体、抗CD69抗体、抗Perforin抗体、抗GranzymeB抗体で染色して、フローサイトメーターで解析した結果を示す。Resting T cellは、抗体で刺激していないT細胞である。(C)は、CD69抗原の発現量を指標にしてT細胞の活性化の程度を解析した結果を示す。(D)はPerforinの発現量を、(E)はGranzymeBCD69の発現量を解析した結果を示す。
図18】実験例18の結果を示す。(A)は、がん細胞株(B16F10)の培養液にrPAI-1を添加して、JAK1、JAK2、pTYK2、pSTAT1、pSTST3、及びpSTAT5の発現量を測定した結果を示す。(B)は、rPAI-1によって誘導されるPD-L1の発現上昇は、rPAI-1と同時にSTAT3の阻害剤(BP-1-102, C188-9)を添加することで抑制されることを示す結果である。
図19】実験例19の結果を示す。(A)は、がん細胞株(B16F10)の培養液に、rPAI-1とuPAとuPARの結合を阻害する中和抗体(uPAR blocking Ab)を添加すると、rPAI-1によるPD-L1発現の誘導がキャンセルされることを示している。(B)は、LRP1欠損がん細胞株(B16F10;LRP1-KO)の培養液にrPAI-1を添加すると、野生型がん細胞株(WT)のrPAI-1によるPD-L1発現の誘導がキャンセルされることを示している。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(I)PAI-1阻害作用を有する化合物
本発明が対象とするPAI-1阻害作用を有する化合物は、PAI-1の活性を直接または間接的に阻害する作用を有するものである。ここで「阻害」という用語には、PAI-1の活性そのものを阻害すること、及びPAI-1遺伝子の発現やPAI-1タンパク質の産生を阻害することのいずれもの意味が包含される。つまり、本発明が対象とする化合物は、原因の如何を問わず、PAI-1の活性を阻害するものであればよい。また「阻害」とは、PAI-1の活性や発現を完全に消失するだけでなく、一部消失させる場合(抑制、減弱または低下)、つまりダウンレギュレーションする場合も含まれる。また、本発明において、「化合物」という用語は、最も広い意味で理解されるものであり、例えば、2つ以上の元素からなる物質であり、その元素の原子が結合して一定の割合で存在する物質を意味する。従って、化合物には、低分子の化学合成物、高分子の化学合成物、核酸(オリゴヌクレオチド)、ペプチド、タンパク質、抗体及びその断片、及びこれらの混合物が含まれる。
【0027】
本発明のPAI-1阻害作用を有する化合物には、PAI-1阻害作用を有する、低分子化合物、PAI-1中和抗体及びその断片、ペプチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、並びにアプタマーが含まれる。これらの化合物は、PAI-1活性を阻害する作用を有する化合物であればよく、従来よりPAI-1阻害剤として公知の化合物のみならず、潜在的にPAI-1阻害作用を有する化合物も含まれる。以下、これらをPAI-1阻害剤と総称する場合がある。
【0028】
対象となる化合物(対象化合物)のPAI-1阻害活性は、インビトロアッセイ系で評価することができる。かかるインビトロアッセイ系としては、たとえば、対象化合物の存在下で、t-PAに対するPAI-1の活性変動を測定する方法を挙げることができる。かかるPAI-1の活性変動は、基質に対するt-PAの作用によって生じる反応生成物を指標とすることによって測定することができる。制限されないものの、例えば、後述する参考実験例では、発色性基質(S-2288)に対するt-PAの作用によって生じるp-ニトロアニリン(反応生成物)の量を指標として、PAI-1の活性変動を測定するインビトロアッセイ系を例示している。反応生成物の生成量が少ないほど、tPA活性は強く阻害される。このため、この場合、対象化合物はPAI-1阻害活性が高いと判断することができる。
【0029】
また対象化合物のPAI-1阻害活性は、対象化合物の存在下で、PAI-1とtPAとの複合体(PAI-1/tPA複合体)の形成変動を、例えばウエスタンブロッティング法などで測定することによっても評価することができる。ここでPAI-1/tPA複合体の形成量が少ないほど(PAI-1/tPA複合体形成阻害)、当該対象化合物はPAI-1阻害活性が高いと判断することができる。
【0030】
さらに、対象化合物がPAI-1の発現を抑制するか否かは、フィブリンオーバーレイ検定法、逆フィブリンオーバーレイ検定法、酵素結合イムノソルベント検定法(ELISA)等の公知の方法により測定することができる。
【0031】
このようなPAI-1阻害活性を有する化合物(PAI-1阻害剤)のうち、低分子化合物には、制限されないものの、(I)2010年3月31日に国際出願(PCT/IB2010/000731)され、2010年10月7日に国際公開された国際公開パンフレット(WO2010/113022)において一般式(I)で示された化合物、(II)2008年3月12日に国際出願(PCT/JP2008/054543)され、2009年1月29日に国際公開された国際公開パンフレット(WO2009/013915)において一般式(I)で示された化合物、(III)2009年3月31日に国際出願(PCT/JP2009/056755)され、2009年10月9日に国際公開された国際公開パンフレット(WO2009/123241)において一般式(I)で示された化合物が含まれる。これらのパンフレットに記載されている内容は、援用により、本明細書に組み込まれるものとする。
【0032】
なお、本明細書では、(I)の国際公開パンフレットにおいて一般式(I)で示された化合物、その薬学的に許容される塩若しくはエステル、またはそれらの溶媒和物を「化合物群1」と総称する。また、(II)の国際公開パンフレットにおいて一般式(I)で示された化合物、その薬学的に許容される塩若しくはエステル、またはそれらの溶媒和物を「化合物群2」と総称する。さらに、(III)の国際公開パンフレットにおいて一般式(I)で示された化合物、その薬学的に許容される塩若しくはエステル、またはそれらの溶媒和物を「化合物群3」と総称する。
【0033】
これらの化合物群のうち、化合物群1に属する化合物を以下に例示する。
化合物群1に属する化合物には、下式(I)で示される化合物が含まれる。
【化6】
(式中、
およびRは、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有するかまたは有しない、炭素数1~6のアルキル基、炭素数3~8のシクロアルキル基、C3~8-シクロアルキル-C1~6-アルキル基、炭素数3~8のシクロアルケニル基、炭素数2~6のアルキニル基、C3~8-シクロアルキル-C2~6-アルキニル基、アリール基、またはい5~6員環のヘテロアリールであり;
Lは、シングルボンド、-[(CH-O-(CH-CONH-(M及びNは同一または異なって、1~6の整数を意味し、Qは0または1を意味する){Qが0の場合「-CONH-」となり、Qが1の場合「アルキレンオキシアルキレン-CONH-」となる}、置換基を有するかまたは有しない炭素数1~6のアルキレン基(当該アルキレン基中の炭素原子の一部がシクロアルキル基を形成していてもよい)、置換基を有するかまたは有しない炭素数1~6のアルキレン-O-(当該アルキレン基中の炭素原子の一部がシクロアルキル基を形成していてもよい)、置換基を有するかまたは有しない炭素数1~6のアルキレン-NHCO-(「アルキレン-NHCO-」中、アルキレン基はその炭素原子の一部がシクロアルキル基を形成していてもよい。)、置換基を有するかまたは有しない炭素数1~6のアルキレン-NH-(「アルキレン-NH-」中、アルキレン基はその炭素原子の一部がシクロアルキル基を形成していてもよい。)、置換基を有するかまたは有しない炭素数2~6のアルケニレン基、置換基を有するか有しない炭素数2~6のアルキニレン基、-CO-、-NH-、1,4-ピペラジジニル基、炭素数1~6のアルキレン-1,4-ピペラジジニル基、またはアダマンチレン基であり;
Aは、下式(I-1)で示される基であり;
【化7】
[式中、
は、同一または異なって、水素原子、置換基を有するかまたは有しないC1~6-アルキル基、またはCFであり;
Dは、置換基を有するかまたは有しない、アリール基、ベンゾ縮合ヘテロアリール基、またはヘテロアリール基;置換基を有するかまたは有しない炭素数3~8のシクロアルキル基若しくは炭素数3~8のヘテロシクロアルキル基;置換基を有するかまたは有しない炭素数3~8のシクロアルケニル基若しくは炭素数3~8のヘテロシクロアルケニル基;炭素数1~6のアルキル基;またはアダマンチル基であり、
*は式(I)中のL基との結合部を意味する。]、
Bは、COOR[Rは、水素原子、または生物体内で水素原子に変換される基]である。)。
【0034】
以下、これらの符号で示す各基の意味およびその具体例を説明する。
~R、及びDで示される「アルキル基」としては、特に言及しないかぎり、通常炭素数1~6の直鎖または分枝鎖状のアルキル基を挙げることができる。好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、およびイソブチル基などの炭素数1~4の低級アルキル基であり、より好ましくはメチル基およびエチル基、特に好ましくはメチル基である。
【0035】
いずれの「アルキル基」も、特にRまたはDで示される「アルキル基」は置換基を有していてもよい。かかる置換基としてはハロゲン原子、炭素数1~6のアルコキシ基、ハロゲンで置換された炭素数1~6のアルコキシ基、水酸基、CF、CFO、CHFO、CFCHO、シアノ基、カルボキシ基、および炭素数1~6のアルコキシカルボニル基などを挙げることができる。ここで「アルコキシ基」および「アルコキシカルボニル基」の「アルコキシ基」としては、好ましくはメトキシ基、エトキシ基、1-プロポキシ基、および2-プロポキシ基であり、より好ましくはメトキシ基である。
また当該Rで示される「アルキル基」には、上記で説明する「アルキル基」のうち、炭素数3~6の分枝鎖状のアルキル基が含まれる。かかる分枝鎖状のアルキル基として、好ましくはt-ブチル基を挙げることができる。
【0036】
~R、R、またはDで示される「シクロアルキル基」、またはLのアルキレン基の炭素原子の一部によって形成される「シクロアルキル環」としては、通常炭素数3~8、好ましくは炭素数3~6の環状アルキル基を挙げることができる。なかでもDで示される「シクロアルキル基」、及びLのアルキレン基の炭素原子によって形成される「シクロアルキル環」は、適宜な位置に1または2の置換基を有していてよい。かかる置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のハロゲン置換アルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~4のハロゲン置換アルコキシ基、水酸基、CF、CFO、CHFO、CFCHO、シアノ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基を挙げることができる。ここで「アルコキシ基」および「アルコキシカルボニル基」の「アルコキシ基」の意味は前述の通りである。
【0037】
Dで示される「ヘテロシクロアルキル基」としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群から選択される、同一または異なった1または複数のヘテロ原子を有する3~8員環のシクロアルキル基を挙げることができる。好ましくは窒素原子を有する5~6員環のシクロアルキル基、より好ましくはピロリジニル基を挙げることができる。
当該シクロヘテロアルキル基は、上記シクロアルキル基と同様に、適宜な位置に1または2の置換基を有していてよい。かかる置換基としては、上記シクロアルキル基の置換基を同様に挙げることができる。
【0038】
~Rで示される「C3~8-シクロアルキル-C1~6-アルキル基」としては、炭素数3~8、好ましくは炭素数3~6のシクロアルキル基を置換基として有する炭素数1~6のアルキル基を挙げることができる。アルキル基の炭素数として好ましくは1~4である。
【0039】
~R及びDで示される「シクロアルケニル基」とは、前記したシクロアルキル基に1個以上の二重結合を有するもの、言い換えると、二重結合を1~2個有する炭素数3~8の環状アルケニル基である。好ましくは炭素数3~6,より好ましくは炭素数5または6(5または6員環)の環状アルケニル基である。好ましくは二重結合を1個有する炭素数5または6の環状アルケニル基、より好ましくはシクロヘキセニル基を挙げることができる。
【0040】
Dで示される「ヘテロシクロアルケニル基」としては、前記したシクロアルケニル基の炭素原子の1または2が、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群から選択される、同一または異なったヘテロ原子で置換されてなる基を挙げることができる。好ましくは二重結合を1個有する炭素数5または6の環状アルケニル基、より好ましくはシクロヘキセニル基において、炭素原子の1つが酸素原子で置換されてなる基である。
【0041】
Dで示される「シクロアルケニル基」および「ヘテロシクロアルケニル基」は適宜な位置に1または2の置換基を有していてよい。かかる置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のハロゲン置換アルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~4のハロゲン置換アルコキシ基、水酸基、CF、CFO、CHFO、CFCHO、シアノ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基を挙げることができる。
【0042】
~Rで示される「アルキニル基」としては、三重結合を有する炭素数2~6の直鎖又は分枝鎖状アルキニル基を挙げることができる。好ましくはエチニルである。
【0043】
~Rで示される「C3~8-シクロアルキル-C2~6-アルキニル基」としては、炭素数3~8、好ましくは炭素数3~6のシクロアルキル基を置換基として有する炭素数2~6のアルキニル基を挙げることができる。アルキニル基の炭素数として好ましくは2~3である。
【0044】
~R、R、およびDで示される「アリール基」としては、好ましくは炭素数6~14の芳香族炭化水素基を挙げることができる。好ましくはフェニル基およびナフチル基であり、より好ましくはフェニル基である。これらの基は、任意の位置に置換基を有していてもよい。但し、Lが置換基を有していてもよいアルキレン-NHCO-である場合、Dで示されるアリール基は、「無置換のフェニル基」以外のアリール基であることが好ましい。かかるアリール基としては例えば、置換基を有するフェニル基を例示することができる。
~R、およびDで示されるアリール基が有する置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基(好ましくは炭素数1~4のアルキル基)、炭素数1~6のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基(好ましくは炭素数1~4のアルコキシ基)、炭素数1~6のシクロアルコキシ基、炭素数1~6のハロゲン置換アルコキシ基、水酸基、CF、CFO、CHFO、CFCHO、シアノ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、ベンゾイル基、およびフェニル基を挙げることができる。「シクロアルコキシ基」としては、炭素数3~8、好ましくは炭素数3~6の環状アルコキシ基を挙げることができる。
【0045】
~R、およびDで示される「ヘテロアリール基」としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群から選択される同一または異なった1または複数のヘテロ原子を有する3~6員環、好ましくは5~6員環のアリール基を挙げることができる。
これらの基は任意の位置に1または2の置換基を有していてよい。ヘテロアリール基が有する置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基(好ましくは炭素数1~4のアルキル基)、炭素数3~8のシクロアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基(好ましくは炭素数1~4のアルコキシ基)、炭素数3~8のシクロアルコキシ基、炭素数1~6のハロゲン置換アルコキシ基、水酸基、CF、CFO、CHFO、CFCHO、シアノ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、ベンゾイル基、フェニル基、およびホスホノオキシメチル基を挙げることができる。ここで、ホスホノオキシメチル基は、ヘテロアリール基がピラゾリル基あるいはピロリル基である場合、その1位に置換する「ヘテロアリール基」の置換基であり、生体内で脱離し1位無置換のピラゾリルあるいはピロリル基に変換されて、PAI-1活性を示すようになる、いわゆるプロドラッグの働きをする置換基である。
なお、Dの置換基がシクロアルキル基またはシクロアルコキシ基である場合、当該置換基はさらに置換基を有していてもよい。かかる置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数1~6のハロゲン置換アルコキシ基、水酸基、CF、CFO、CHFO、CFCHO、シアノ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、ベンゾイル基、およびフェニル基を挙げることができる。
【0046】
Dで示される「ベンゾ縮合ヘテロアリール基」としては、ベンゼン環と上記のヘテロアリール基とが縮合してなる基を挙げることができる。なお、上記ベンゾ縮合へテロアリールは、適宜な位置に1~3個の置換基を有していてもよい。かかる置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のハロゲン化アルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~4のハロゲン化アルコキシ基、水酸基、CF、CFO、CHFO、CFCHO、アリール基(好ましくはフェニル基)、ハロゲン化アリール基、シアノ基、カルボキシ基、炭素数1~4のアルコキシ基を有するアルコキシカルボニル基などを挙げることができる。
【0047】
Lで示される「アルキレン基」、並びに「アルキレン-O-」、「アルキレン-NH-」、「アルキレン-NHCO-」、「アルキレンオキシアルキレン-NHCO-」、および「アルキレン-ピペラジジニル基」において「アルキレン」としては、通常炭素数1~6、特に好ましくは1~4の直鎖または分枝鎖状のアルキレン基を挙げることができる。好ましくはメチレン基、およびエチレン基である。なお、「アルキレン基」、並びに「アルキレン-O-」、「アルキレン-NH-」、「アルキレン-NHCO-」、及び「アルキレンオキシアルキレン-NHCO-」における「アルキレン基」には、アルキレン基中の炭素原子の一部が結合して炭素数3~8のシクロアルキル環(シクロアルカン)を形成している場合も含まれる。
【0048】
Lで示される「アルケニレン基」としては、二重結合を1~3個有する炭素数2~6の直鎖または分枝鎖状のアルケニレン基を挙げることができる。好ましくはビニレン基である。
【0049】
Lで示される「アルキニレン基」としては、三重結合を1個有する炭素数2~6の直鎖または分枝鎖状のアルキニレン基を挙げることができる。
【0050】
これらの「アルキレン基」、「アルキレン-O-」、「アルキレン-NH-」、「アルキレン-NHCO-」、「アルキレンオキシアルキレン-NHCO-」、「アルケニレン基」および「アルキニレン基」は、いずれも1または2の置換基を有していてもよい。かかる置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~4のハロゲン置換アルコキシ基、水酸基、CF、CFO、CHFO、CFCHO、シアノ基、カルボキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、アシルアミノ基、ベンジルオキシカルボニルアミノ基(Cbz-NH-)、アルコキシカルボニルアミノ基(例えば、t-ブトキシカルボニルアミノ基(tBoc-NH-)、メトキシカルボニルアミノ基、エトキシカルボニルアミノ基、プロポキシカルボニルアミノ基、イソプロポキシカルボニルアミノ基、ブトキシプロポキシカルボニルアミノ基など)、およびアシル基などを挙げることができる。
【0051】
~Rで示される「ハロゲン原子」としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができる。好ましくは塩素原子、臭素原子、及びフッ素原子、より好ましくは塩素原子である。
【0052】
また、式(I)中、Bで示される基には、カルボキシ基(COOH)に加えて、(1)生体内で吸収されるとカルボキシ基に変換され得るアルコキシカルボニル基,アリールオキシカルボニル基,またはアラルキルオキシカルボニル基、(2)生体内で吸収されて容易にカルボキシ基に変換され得る基、および(3) カルボキシ基と生物学的同等な基として認識されている基を挙げることができる。
【0053】
ここで、(1)アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、およびアラルキルオキシカルボニル基としては、COORで示される基であって、当該Rが、それぞれ炭素数1~6のアルキル基である基、アリール基(好ましくはフェニル基)である基、およびアラルキル基(好ましくはベンジル基)である基を挙げることができる。
【0054】
また(2)の基として、具体的には、COORで示される基であって、当該Rが、下式で示される(5-アルキル-2-オキソ-1,3-ジオキソレン-4-イル)メチル基である基:
【化8】
(Rは炭素数1~6のアルキル基を示す)
および、-CH(R)-O-COR若しくは-CH(R)-O-CO-ORで示される基(Rは水素原子または炭素数1~6のアルキル基、Rは炭素数1~6のアルキル基または炭素数3~8のシクロアルキル基)である基を挙げることができる。
【0055】
さらに、(3)の基としては、下式に左から順に示す、1H-テトラゾール-5-イル基、4,5-ジヒドロ-5-オキソ-4H-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル基、4,5-ジヒドロ-5-オキソ-1,2,4-チアジアゾール-3-イル基、および4,5-ジヒドロ-5-チオキソ-4H-1,2,4-オキサジアゾール-3-イル基といった複素環基が含まれる(例えば、KoharaらJ. Med. Chem., 1996, 39, 5228-5235参照)。
【化9】
【0056】
本発明においては、前記式で示される基を、総括して「カルボキシ基と生物学的同等な基」と称する。また、本明細書において、式(I)で示される化合物の塩、および上記の基(カルボキシ基と生物学的同等な基)を有する化合物を、カルボン酸の生物学的等価体と総称する場合がある。
【0057】
式(I)中、B(Bが-COORであって、Rがアルキル基である場合)で示される「アルコキシカルボニル基」としては、具体的にはt-ブトキシカルボニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基などを例示することができる。
【0058】
前述する式で示される化合物(I)は、Lの種類に応じて、下記(I-a)~(I-e)に分類することができる。
(I-a)Lがシングルボンドである化合物、
(I-b)Lが-NH-、-CO-、-CONH-、アルキレンオキシアルキレン-CONH-、アルキレン-NH-、またはアルキレン-NHCO-である化合物、
(I-c)Lがアルキレン-O-である化合物
(I-d)Lがアルキレン基、アルケニレン基、またはアルキニレン基である化合物
(I-e)Lがアダマンチレン基、1,4-ピペラジジニル基、またはアルキレン-1,4-ピペラジジニル基である化合物。
【0059】
(I-a)Lがシングルボンドである化合物(ベンゼンカルボン酸またはその生物学的等価体)
【化10】
(式中、R~R、B、およびDは前記の通り。)
【0060】
式(I-a)中、B、RおよびRは、イミノ基が結合したベンゼン環のオルト位、メタ位およびパラ位の任意の位置に配位することができる。上記ベンゼン環のオルト位にBが配位し、メタ位およびパラ位にそれぞれRおよびRが配位していることが好ましい。またXが硫黄原子である場合、上記チオフェン環の3位に、Bが配位し、4位および5位にそれぞれRおよびRが配位していることが好ましい。
【0061】
式(I-a)において、RおよびRは、前記の通りであるが、好ましくは、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、C3~8-シクロアルキル基、C3~8-シクロアルキル-C1~6-アルキル基、C3~8-シクロアルキル-C2~6-アルキニル基、C3~8-シクロアルケニル基、及びC2~6-アルキニル基を挙げることができる。より好ましくは、メタ位に位置するRが水素原子であり、パラ位に位置するRがハロゲン原子、C3~8-シクロアルキル基、C3~8-シクロアルキル-C1~6-アルキル基、C3~8-シクロアルキル-C2~6-アルキニル基、C3~8-シクロアルケニル基、またはC2~6-アルキニル基のいずれかである。パラ位に位置するRとして好ましくはハロゲン原子である。
ここでハロゲン原子として、好ましくは塩素原子および臭素原子、より好ましくは塩素原子である。炭素数3~8のシクロアルキル基として、好ましくはシクロヘキシル基である。C3~8-シクロアルキル-C1~6-アルキル基として、好ましくはシクロヘキシル基を置換基として有する炭素数1~6のアルキル基、より好ましくはシクロヘキシル基を置換基として有する炭素数1~4のアルキル基である。C3~8-シクロアルキル-C2~6-アルキニル基として、好ましくはシクロヘキシル基を置換基として有する炭素数2~6のアルキニル基、より好ましくはシクロヘキシル基を置換基として有する炭素数2~3のアルキニル基である。C3~8-シクロアルケニル基として、好ましくはシクロヘキセニル基であり、より好ましくはシクロヘキサ-1-エン-1-イル基またはシクロヘキサ-6-エン-1-イル基である。C2~6-アルキニル基としては、好ましくは炭素数2~4のアルキニル基、より好ましくは炭素数2~3のアルキニル基である。
【0062】
は、前記の通りであるが、好ましくは水素原子である。
【0063】
Dは、前記の通りであるが、好ましくは、1または2の置換基を有するかまたは有しないアリール基、1または2の置換基を有するかまたは有しないベンゾ縮合ヘテロアリール基、1または2の置換基を有するかまたは有しないヘテロアリール基、置換基を有するかまたは有しない炭素数3~8のシクロアルキル基、1または2の置換基を有するかまたは有しない炭素数3~8のヘテロシクロアルキル基、1または2の置換基を有するかまたは有しない炭素数3~8のシクロアルケニル基、1または2の置換基を有するかまたは有しない炭素数3~8のヘテロシクロアルケニル基、及びアダマンチル基を挙げることができる。
アリール基として、好ましくは1の置換基を有するかまたは有しないフェニル基、及びナフチル基であり、より好ましくはフェニル基である。置換基としては、前述の通りであるが、好ましくはアルキル基およびアルコキシ基である。
ベンゾ縮合ヘテロアリール基として、好ましくは1の置換基を有するかまたは有しないキノリル基、及びイソキノリル基を挙げることができる。置換基としては前述の通りであるが、より好ましくは置換基を有しないキノリル基、及びイソキノリル基である。キノリル基及びイソキノリル基の結合位置は、制限されないが、キノリル基の場合は、2位(キノリン-2-イル基)、3位(キノリン-3-イル基)、6位(キノリン-6-イル基)及び8位(キノリン-8-イル基)を、またイソキノリル基の場合は、4位(イソキノリン-4-イル基)及び5位(イソキノリン-5-イル基)を例示することができる。
ヘテロアリール基として、好ましくは1の置換基を有するかまたは有しない、ピリジル基,チエニル基,及びフリル基を挙げることができる。置換基としては前述の通りであるが、より好ましくは置換基を有しないピリジル基,チエニル基,及びフリル基である。ピリジル基として具体的には、ピリジン-2-イル基、ピリジン-3-イル基、およびピリジン-4-イル基を挙げることができるが、好ましくはピリジン-4-イル基である。チエニル基として具体的にはチオフェン-2-イル基、およびチオフェン-3-イル基を挙げることができるが、好ましくはチオフェン-2-イル基である。フリル基として具体的にはフラン-2-イル基、およびフラン-3-イル基を挙げることができるが、好ましくはフラン-3-イル基である。
炭素数3~8のシクロアルキル基として、好ましくは1の置換基を有するかまたは有しないシクロヘキシル基を;炭素数3~8のヘテロシクロアルキル基として、ヘテロ原子として窒素原子を有する5員環、好ましくは1の置換基を有するか有しないピロリジニル基を挙げることができる。ピロリジニル基として具体的にはピロリジン-1-イル基、ピロリジン-2-イル基、ピロリジン-3-イル基、ピロリジン-4-イル基、ピロリジン-5-イル基、ピロリジン-6-イル基を挙げることができるが、好ましくはピロリジン-1-イル基である。置換基としては前述の通りであるが、好ましくは置換基を有しないシクロアルキル基およびヘテロシクロアルキル基である。
炭素数3~8のシクロアルケニル基として、好ましくは1の置換基を有するかまたは有しないシクロヘキサニル基を挙げることができる。シクロヘキサニル基として具体的にはシクロヘキサ-1-エン-1-イル基、シクロヘキサ-2-エン-1-イル基、シクロヘキサ-3-エン-1-イル基、シクロヘキサ-4-エン-1-イル基、シクロヘキサ-5-エン-1-イル基、シクロヘキサ-6-エン-1-イル基を挙げることができるが、好ましくはシクロヘキサ-1-エン-1-イル基である。
炭素数3~8のヘテロシクロアルケニル基として、ヘテロ原子として酸素原子を有する6員環の1の置換基を有するかまたは有しないヘテロシクロヘキサニル基を挙げることができる。かかる基として、ジヒドロ-2H-ピラニル基を挙げることができるが、好ましくは3,6-ジヒドロ-2H-ピラン-4-イル基である。置換基としては前述の通りであるが、好ましくは置換基を有しないシクロアルケニル基およびヘテロシクロアルケニル基である。
アダマンチル基として、好ましくは1の置換基を有するかまたは有しないアダマンチル基を挙げることができる。アダマンチル基として、好ましくはアダマンタン-1-イル基である。
【0064】
上記式(I-a)で示される本発明の芳香族カルボン酸(ベンゼンカルボン酸)、または当該カルボン酸の生物学的等価体として具体的には、後述する表1~6に記載される下記の化合物を挙げることができる。
例2、例4、例6、例7、例8及びその脱塩体、例32、例33、例34、例40、例42、例43、例52、例56、例58、例62、例63及びその脱塩体、例64及びその脱塩体、例65及びその脱塩体、例66及びその脱塩体、例67及びその脱塩体、例68及びその脱塩体、例69、例79、例80、例81、例82、例83、例87、例88、例92、例93、例95、例96、例97、例98、例99及びその脱塩体、例100及びその脱塩体、及び例102。
【0065】
(I-b)Lが-NH-、-CO-、-CONH-、アルキレンオキシアルキレン-CONH-、アルキレン-NH-、またはアルキレン-NHCO-である化合物
【化11】
(式中、R~R、B、及びDは前記の通り。Lは、-NH-、-CO-、-CONH-、置換基を有していてもよいC1~6アルキレンオキシC1~6アルキレン-CONH-、C1~6-アルキレン-NH-、置換基を有していてもよいC1~6-アルキレン-NHCO-で示される基を意味する。)
【0066】
ここで「C1~6アルキレンオキシC1~6アルキレン-CONH-」、「C1~6-アルキレン-NH-」及び「C1~6-アルキレン-NHCO-」で示されるアルキレン基としては、炭素数1~6のアルキレン基、好ましくは炭素数1~4である。当該アルキレン基は、直鎖状および分枝鎖状のいずれであってもよく、またアルキレン基中の炭素原子の一部が炭素数3~8のシクロアルキル環を形成していてもよい。かかるシクロアルキル環(シクロアルカン)として好ましくはシクロプロパンである。好ましくは直鎖状のアルキレン基である。
当該「C1~6アルキレンオキシC1~6アルキレン-CONH-」、「C1~6-アルキレン-NH-」及び「C1~6-アルキレン-NHCO-」は、アルキレン基に1または2の置換基を有するものであってもよい。かかる置換基は前記の通りであるが、好ましくは無置換のアルキレン基である。
【0067】
式(I-b)中、B、RおよびRは、イミノ基が結合したベンゼン環のオルト位、メタ位およびパラ位の任意の位置に配位することができる。好ましくは、上記ベンゼン環のオルト位にBが配位し、メタ位およびパラ位にそれぞれRおよびRが配位している化合物を挙げることができる。RおよびRは、前記の通りであるが、好ましくは、同一または異なって、水素原子、またはハロゲン原子を挙げることができる。より好ましくは、メタ位に位置するRは水素原子であり、パラ位に位置するRはハロゲン原子である。ここでハロゲン原子として、好ましくは塩素原子、臭素原子およびフッ素原子であり、より好ましくは塩素原子である。
【0068】
化合物(I-b)において、Rは、前記の通りであるが、好ましくは水素原子である。
【0069】
化合物(I-b)において、Dは、前記の通りであるが、好ましくは1または2の置換基を有するかまたは有しないアリール基、1または2の置換基を有するかまたは有しないヘテロアリール基、及び置換基を有するかまたは有しないアダマンチル基を挙げることができる。
ここでアリール基としては、好ましくはフェニル基を挙げることができる。置換基としては、前述の通りであるが、好ましくは、ハロゲン原子、炭素数1~6(好適には1~4)のアルキル基、および炭素数1~6(好適には1~4)のアルコキシ基を挙げることができる。好ましいアリール基としては、無置換のフェニル基、および置換基としてハロゲン原子を有するフェニル基である。ここでハロゲン原子として、好ましくは塩素原子およびフッ素原子、より好ましくはフッ素原子である。
ヘテロアリール基としては、好ましくはフリル基、より好ましくはフラン-2-イル基及びフラン-3-イル基を挙げることができる。またアダマンチル基として、好ましくはアダマンタン-1-イル基を挙げることができる。ヘテロアリール基およびアダマンチル基の置換基としては、前述の通りであるが、好ましくは無置換のヘテロアリール基およびアダマンチル基である。
【0070】
上記式(I-b)で示される本発明の芳香族カルボン酸(ベンゼンカルボン酸)またはその生物学的等価体として具体的には、表1~6に記載する下記の化合物を挙げることができる:
例71、例72、例14、例106及びその脱塩体、例1、例9、例10、例11及びその脱塩体、及び例12。
【0071】
(I-c)Lがアルキレン-O-である化合物
【化12】
(式中、R~R、B、及びDは前記の通り。Lは、置換基を有していてもよいC1~6アルキレン-O-で示される基を意味する。)
【0072】
上記式(I-c)において、Lcは炭素数1~6のアルキレン-O-であり、好ましくは炭素数1~4のアルキレン-O-、より好ましくは炭素数1~3のアルキレン-O-である。当該アルキレン基は直鎖状でも分枝鎖状であってもよい。かかるアルキレン基は、1または2の置換基を有することもできるが、好ましくは無置換のアルキレン基である。
【0073】
上記式(I-c)において、B、RおよびRは、イミノ基が結合したベンゼン環のオルト位、メタ位およびパラ位の任意の位置に配位することができる。好ましくは、上記ベンゼン環のオルト位にBが配位し、メタ位およびパラ位にそれぞれRおよびRが配位している化合物を挙げることができる。RおよびRは、前記の通りであるが、好ましくは、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、1または2の置換基を有するかまたは有しないアリール基、または1または2の置換基を有するかまたは有しない5~6員環のヘテロアリール基を挙げることができる。より好ましくは、メタ位に位置するRは水素原子であり、パラ位に位置するRはハロゲン原子、1の置換基を有するかまたは有しないアリール基、または1の置換基を有するかまたは有しない5~6員環のヘテロアリール基である。Rとして好ましくはハロゲン原子である。
ここでハロゲン原子として、好ましくは塩素原子、臭素原子およびフッ素原子を挙げることができるが、より好ましくは塩素原子である。
アリール基として好ましくはフェニル基を、5~6員環のヘテロアリール基としては、酸素原子、硫黄原子または窒素原子のいずれかを同一または異なって、1または2つ有するアリール基を挙げることができる。好ましくは酸素原子をヘテロ原子として1つ有する5~6員環のアリール基である。好ましくはフリルであり、具体的にはフラン-1-イル基、フラン-2-イル基、フラン-3-イル基、フラン-4-イル基、及びフラン-5-イル基を挙げることができる。より好ましくはフラン-3-イル基である。ここでアリール基及びヘテロアリール基の置換基としては、前述の通りであるが、好ましくはハロゲン原子、炭素数1~6(好適には1~4)のアルキル基、炭素数1~6(好適には1~4)のアルコキシ基を挙げることができる。好ましくは炭素数1~4のアルキル基、より好ましくはメチル基およびエチル基である。
【0074】
は、前記の通りであるが、好ましくは水素原子である。
【0075】
Dは、前記の通りであるが、好ましくは1または2の置換基を有するかまたは有しないアリール基、1または2の置換基を有するかまたは有しないヘテロアリール基、1または2の置換基を有するかまたは有しない炭素数3~8のシクロアルキル基、1または2の置換基を有するかまたは有しない炭素数3~8のシクロアルケニル基、及びアダマンチル基を挙げることができる。ここでアリール基としては、好ましくはフェニル基を;ヘテロアリール基としては、好ましくはフリル基、より好ましくはフラン-2-イル基及びフラン-3-イル基を;シクロアルキル基としては、好ましくはシクロヘキシル基を;シクロアルケニル基としては、好ましくはシクロヘキサニル基、より好ましくはシクロヘキサ-1-エン-1-イル基を;アダマンチル基として、好ましくはアダマンタン-1-イル基を挙げることができる。
ここで置換基としては、前述の通りであるが、好ましくは炭素数1~6(好適には1~4)のアルキル基、および炭素数1~6(好適には1~4)のアルコキシ基を挙げることができる。
【0076】
上記式(I-c)で示される本発明の芳香族カルボン酸(ベンゼンカルボン酸)、または当該カルボン酸の生物学的等価体として具体的には、表1~6に記載する下記の化合物を挙げることができる:
例13、例15、例16、例17、例18、例19、例20、例21、例22、例25、例26、例27、例28、例29、例30、例44、例45、例46、例47、例49、例50、例53、例54、例55、例59、及び例61。
【0077】
(I-d)Lがアルキレン基、アルケニレン基、またはアルキニレン基である化合物
【化13】
(式中、R~R、B、及びDは前記の通り。Lは、置換基を有していてもよいC1~6-アルキレン基、C2~6-アルケニレン基、またはC2~6-アルキニレン基を意味する。)
【0078】
アルキレン基として好ましくは炭素数1~4のアルキレン基であり、より好ましくは炭素数1~3のアルキレン基である。当該アルキレン基は、直鎖状および分枝鎖状のいずれであってもよく、またアルキレン基中の炭素原子の一部が炭素数3~8のシクロアルキル環を形成していてもよい。かかるシクロアルキル環(シクロアルカン)として好ましくはシクロプロパンである。
【0079】
アルケニレン基として好ましくは炭素数2~3のアルケニレン基であり、より好ましくはビニレン基である。アルキニレン基として好ましくは炭素数2~3のアルキニレン基、より好ましくは炭素数2のアルキニレン基である。これらの基は、1または2の置換基を有することもできる。かかる置換基は前述の通りであるが、好ましくは無置換のアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基である。
【0080】
式(I-d)中、B、RおよびRは、イミノ基が結合したベンゼン環のオルト位、メタ位およびパラ位の任意の位置に配位することができる。好ましくは、上記ベンゼン環のオルト位にBが配位し、メタ位およびパラ位にそれぞれRおよびRが配位している化合物を挙げることができる。RおよびRは、前記の通りであるが、好ましくは、同一または異なって、水素原子、またはハロゲン原子を挙げることができる。より好ましくは、メタ位に位置するRは水素原子であり、パラ位に位置するRはハロゲン原子である。ここでハロゲン原子として、好ましくは塩素原子、臭素原子およびフッ素原子であり、より好ましくは塩素原子である。
【0081】
は、前記の通りであるが、好ましくは水素原子である。
【0082】
Dは、前記の通りであるが、好ましくは1または2の置換基を有するかまたは有しないアリール基、1または2の置換基を有するかまたは有しないヘテロアリール基、1または2の置換基を有するかまたは有しないベンゾ縮合ヘテロアリール基、1または2の置換基を有するかまたは有しない炭素数3~8のシクロアルケニル基、及び1または2の置換基を有するかまたは有しないアダマンチル基を挙げることができる。
ここでアリール基としては、好ましくはフェニル基を挙げることができる。ヘテロアリール基としては、ヘテロ原子として酸素原子または窒素原子を有する5または6員環のアリール基、好ましくはフリル基及びピリジル基、より好ましくはフラン-2-イル基、フラン-3-イル基、及びピリジン-3-イル基を挙げることができる。ベンゾ縮合ヘテロアリール基として、好ましくはキノリル基またはイソキノリル基を、より好ましくはキノリン-8-イル基、キノリン-3-イル基、キノリン-5-イル基を挙げることができる。シクロアルケニル基としては、好ましくはシクロヘキサニル基、より好ましくはシクロヘキサ-1-エン-1-イル基を挙げることができる。アダマンチル基として、好ましくはアダマンタン-1-イル基を挙げることができる。ここで置換基としては、前述の通りであるが、好ましくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、ベンゾ縮合ヘテロアリール基、シクロアルケニル基、及びアダマンチル基である。
【0083】
上記式(I-d)で示される本発明の芳香族カルボン酸(ベンゼンカルボン酸)またはその生物学的等価体(I-a-3)として具体的には、表1~6に記載する下記の化合物を挙げることができる:
例3、例35、例36、例37、例70、例78、例89、例90、例101及びその脱塩体、例103及びその脱塩体、及び例94。
【0084】
(I-e)Lがアダマンチレン基、1,4-ピペラジジニル基、またはアルキレン-1,4-ピペラジジニル基である化合物
これらの化合物のうち、好ましくは下式(I-e)で示されるLがアダマンチレン基である化合物である。
【化14】
(式中、R~R、B、及びDは前記の通り。)
【0085】
式中、B、RおよびRは、イミノ基が結合したベンゼン環のオルト位、メタ位およびパラ位の任意の位置に配位することができる。好ましくは、上記ベンゼン環のオルト位にBが配位し、メタ位およびパラ位にそれぞれRおよびRが配位している化合物を挙げることができる。RおよびRは、前記の通りであるが、好ましくは、同一または異なって、水素原子、またはハロゲン原子を挙げることができる。より好ましくは、メタ位に位置するRは水素原子であり、パラ位に位置するRはハロゲン原子である。ここでハロゲン原子として、好ましくは塩素原子、臭素原子およびフッ素原子であり、より好ましくは塩素原子である。
【0086】
は、前記の通りであるが、好ましくは水素原子である。
【0087】
Dは、前記の通りであるが、好ましくは炭素数1~6のアルキル基を挙げることができる。好ましくは炭素数1~4のアルキル基、より好ましくは炭素数1~2のアルキル基である。
【0088】
上記式(I-e)で示される本発明の芳香族カルボン酸(ベンゼンカルボン酸)またはその生物学的等価体として具体的には、表5に記載する例86の化合物を挙げることができる。
【0089】
これらの一般式(I)で示される化合物群1の製造方法は、当該国際公開パンフレット(WO2010/113022)に記載されている通りであり、当該方法に従って製造することができる。
以下、表1~表7に、一般式(I)で示される化合物、及びPAI-1阻害作用を有する公知の化合物(既存化合物1~4)のヒトPAI-1に対する阻害活性を示す。表1は、後述する参考実験例1に示す方法で測定した結果であり、表2~7は、後述する参考実験例2に示す方法で測定した結果である。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
【表3】
【0093】
【表4】
【0094】
【表5】
【0095】
【表6】
【0096】
【表7】
【0097】
本発明が対象とする化合物(I)はいずれもフリーの形態でもよく、また塩やエステルの形態でもよい。
ここで塩としては、通常、医薬上許容される塩、たとえば無機塩基または有機塩基との塩、または塩基性アミノ酸との塩などを挙げることができる。無機塩基としては、たとえば、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属;カルシウムやマグネシウム等のアルカリ土類金属;アルミニウムやアンモニウム等を挙げることができる。有機塩基としては、たとえば、エタノールアミン、トロメタミン、エチレンジアミン等の第一級アミン;ジエチルアミン、ジエタノールアミン、メグルミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N'-ジベンジルエチレンジアミン等の第二級アミン;トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、トリエタノールアミン等の第三級アミン等を挙げることができる。塩基性アミノ酸としては、たとえば、アルギニン、リジン、オルニチン、ヒスチジン等を挙げることができる。また無機酸や有機酸と塩を形成していてもよく、かかる無機酸としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸を;また有機酸としてはギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、マレイン酸、酒石酸、フマル酸、クエン酸、乳酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸等を例示することができる。
【0098】
ここでエステルとしては、通常、医薬上許容されるエステルであり、たとえば、生体内で吸収されるとカルボキシ基に変換され得るアルコキシカルボニル基,アリールオキシカルボニル基,またはアラルキルオキシカルボニル基、特に一般式(1)~(3)中、Bで示される「アルコキシカルボニル基」としては、具体的にはt-ブトキシカルボニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基などを例示することができる。
【0099】
また、一般式(I)で示されるカルボン酸、そのカルボン酸の生物学的等価体、およびその塩若しくはエステルが、溶媒和物(例えば水和物、アルコール和物)を形成する場合には、これらの溶媒和物もすべて本発明が対象とする化合物に含まれる。さらに、生体内において代謝されて上記一般式(I)のいずれかで示されるカルボン酸またはその生物学的等価体、およびその薬理学的に許容される塩若しくはエステルに変換される化合物(いわゆるプロドラッグ)もすべて本発明に含まれる。
【0100】
また、本発明が対象とするPAI-1阻害活性を有する化合物(PAI-1阻害剤)には、前述する化合物(I)を含む化合物群1、化合物群2及び化合物群3の他に、PAI-1阻害作用が知られている公知の化合物(PAI-1阻害剤)が含まれる。
PAI-1阻害剤には、直接的にPAI-1と相互作用するか、またはそれに結合することにより、PAI-1の活性を低減化する直接PAI-1阻害剤、及び間接的にPAI-1の活性を阻害(抑制またはダウンレギュウレーション)する間接PAI-1阻害剤が含まれる。
直接PAI-1阻害剤には、制限されないものの、例えば、特表2006-507297号公報の段落[0042]~[0043]に記載されている各種の化合物が含まれる。当該公報の記載は、援用により、本明細書に組み込まれる。また、直接PAI-1阻害剤には、当該公報にも記載されているように、各種の低分子化合物に加えて、PAI-1中和抗体、及び反応性中心ループ(PAI-1のSer333-Lys346)に対するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体等の抗体、及びそのフラグメントや誘導体(例えば、Fab断片、scFv、ミニボディー、ダイアボディ)が含まれる。なお、抗PAI-1抗体としては、その他、国際公開公報WO2015/125904記載のヒト抗PAI-1抗体、および特表2016-529255号公報記載の抗PAI-1抗体を挙げることもできる(これらの公報の記載も、援用により、本明細書に組み込まれる。)。さらに、PAI-1の374位のグリシン残基及びその近傍領域の分子内相互作用を阻害することでPAI-1活性を失活させることも知られていることから(特開2015-147744号公報)、当該分子内相互作用を阻害することができる化合物も、直接PAI-1阻害剤として使用することが可能である(この公報の記載も、援用により、本明細書に組み込まれる。)。
また、間接PAI-1阻害剤としては、制限されないものの、例えば、特表2006-507297号公報の段落[0044]~[0046]に記載されている各種の化合物が含まれる。当該公報の記載は、援用により、本明細書に組み込まれる。具体的には、細胞及び分子レベルにおいて、PAI-1遺伝子の転写または発現を特異的に阻害する化合物、PAI-1遺伝子の発現を遮断するアンチセンス(例えば、PAI-1配列に相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチド)、PAI-1のmRNAを分解するsiRNA、当該siRNAを産生するダイサー、プラスミノーゲン活性化因子との酵素反応においてPAI-1と競合する化合物が含まれる。
なお、PAI-1の発現が、例えば内毒素、トロンビン、TNF-α、TGF-β、インターロイキン-1、インシュリン、アンギオテンシンII、デキサメタゾン、PDGF、及びEGFなどにより高められることが知られている。このため、例えば、アンギオテンシン変換酵素阻害剤(例えば、フォシノプリル、イミダプリル、カプトプリル、エナラプリル等)やアンギオテンシンII受容体アンタゴニスト(例えば、L158809、エプロサルタン等)等は、PAI-1の発現を抑制または弱化する間接的PAI-1阻害剤として利用することができる。
【0101】
なお、以下に説明する「PD-L1発現抑制剤」、「免疫賦活剤」、「免疫チェックポイント阻害剤(ICI)」、「腫瘍細胞のPD-L1に起因する増悪の抑制剤(腫瘍細胞の増悪抑制剤)」、「腫瘍化学療法剤」、「腫瘍に対する免疫療法増強剤」及び「医薬組成物」は、いずれも前記で説明するPAI-1阻害剤を唯一または主要な有効成分として含むものである。従って、当該I欄の記載は、下記II欄~IV欄のそれぞれにおいて援用される。
【0102】
II.PD-L1発現抑制剤、免疫賦活剤、免疫チェックポイント阻害剤(ICI)、腫瘍細胞の増悪抑制剤、免疫療法増強剤
本発明のPD-L1発現抑制剤、免疫賦活剤、ICI、腫瘍細胞の増悪抑制剤、及び免疫療法増強剤はいずれも、PAI-1阻害作用を有する化合物(PAI-1阻害剤)を唯一または主要な有効成分とするものである。
【0103】
PAI-1阻害剤は、PAI-1の活性を抑制することで、特に腫瘍細胞および/または腫瘍周辺環境を構成する免疫抑制性細胞におけるPD-L1の、PAI-1による発現誘導を抑制することで、PD-L1/PD-1を免疫チェックポイントとする免疫逃避機構を抑制するように作用する。このことから、PAI-1阻害剤は、PD-L1発現抑制剤として利用することができる。なお、本発明において対象とする「PD-L1発現」には、細胞膜上におけるPD-L1の恒常的な発現に限られず、一時的な発現、および変動的な発現も含まれる。好ましい発現の態様には、腫瘍が発生または増悪する過程で生じる、一時的、恒常的または変動的な発現が含まれる。またここで「抑制」には、前記細胞におけるPD-L1の発現を完全に消失させることを意味するだけでなく、一部消失させる意味も含まれる。
また、PAI-1阻害剤は、前記の免疫逃避機構に起因する免疫低下を抑止する作用を発揮し、免疫賦活剤として利用することができる。
【0104】
さらに、上記の作用機序から、PAI-1阻害剤は、PD-L1を標的としたICIとしても利用することができる。
前記PD-L1を標的としたICIとは、ICMのうち、少なくともPD-L1の機能を直接または間接的に阻害することで、当該PD-L1による細胞傷害性T細胞の機能抑制状態を解除し、免疫を活性化(賦活化)する作用を有する薬剤を意味する。当該ICIによる免疫賦活化作用により、生体本来の免疫システムが機能し、当該ICI単独で、または、他の抗腫瘍剤、他の免疫賦活剤および他のICIの少なくとも一つと組み合わせて使用することにより、腫瘍細胞の増殖、浸潤、転移、または再発を抑制し、がんの増悪を阻止することが可能になる。
ここで、「PD-L1の機能」には、PD-L1の活性及び発現が含まれるが、好ましくは腫瘍細胞および/または腫瘍周辺環境を構成する免疫抑制性細胞におけるPD-L1の発現である。またここで「阻害」には、PD-L1の活性及び発現を完全に消失することを意味するだけでなく、一部消失する意味も含まれる。
PAI-1阻害剤を有効成分とするICIには、好ましくは、PAI-1によるPD-L1の発現誘導を阻害し、細胞傷害性T細胞の抑制状態を解除し、免疫を活性化(賦活化)する作用を有する薬剤が含まれる。
【0105】
さらに、上記の作用機序から、PAI-1阻害剤は、単独で、または、他の抗腫瘍剤、他の免疫賦活剤および他のICIの少なくとも一つと組み合わせて使用することにより、腫瘍に対する免疫療法の増強剤として、また、腫瘍細胞のPD-L1に起因する増悪の抑制剤としても利用することができる。ここで、腫瘍細胞の「増悪」とは、PD-L1に起因して生じる腫瘍細胞の増殖、浸潤、転移、および/または再発が含まれる。好ましくは、PAI-1によって誘導されるPD-L1に起因して生じる腫瘍細胞の増悪である。また「増悪抑制」には、腫瘍細胞の増殖、浸潤、転移、および再発のいずれか少なくとも1つの増悪現象を完全に阻止することに限られず、増悪現象の一部をに阻止すること、増悪現象を遅延させること、および増悪現象の発生の確率を減らすことなども含まれる。その結果として、抗腫瘍療法後の予後改善にも有用に使用することができる。
【0106】
以下、「PD-L1発現抑制剤」という用語には、免疫賦活剤としての意味、ICIとしての意味、腫瘍細胞のPD-L1に起因する増悪の抑制剤、及び腫瘍に対する免疫療法の増強剤としての意味も含まれるものとして、説明する。
【0107】
PAI-1阻害剤を有効成分とする本発明の「PD-L1発現抑制剤」は、PD-L1を発現した細胞及び組織、並びにそれらを有するヒトを含む哺乳動物を対象に使用することができる。特にPD-L1を発現した細胞が、腫瘍細胞(造血器腫瘍、及び固形腫瘍の細胞いずれもが含まれる)である場合、本発明のPD-L1発現抑制剤は、それ単独で、または他の抗腫瘍剤、他の免疫賦活剤、及び他のICIからなる群より選択される少なくとも1種と組み合わせて「腫瘍化学療法剤」として利用することができる。これについてはIII欄においてより詳細に説明する。
【0108】
本発明のPD-L1発現抑制剤の投与量は、次項で述べる腫瘍化学療法剤の投与量に準じて設定することができる。
【0109】
III.腫瘍化学療法剤、及び腫瘍の治療のための組成物
本発明の腫瘍化学療法剤、及び腫瘍の治療のための組成物は、少なくとも前述するPAI-1阻害作用を有する化合物(PAI-1阻害剤)を唯一または主要な有効成分として含むものである。また本発明の腫瘍化学療法剤、及び腫瘍の治療のための組成物は、PAI-1阻害剤と、他の抗腫瘍剤、他の免疫賦活剤、及び他のICIからなる群より選択される少なくとも1つとを組み合わせてなるものであってもよい。ここでいうPAI-1阻害剤には、前述する「PD-L1発現抑制剤」、「免疫賦活剤」、「ICI」、「腫瘍細胞のPD-L1に起因する増悪の抑制剤」、または「腫瘍に対する免疫療法の増強剤」として使用されるものが含まれる。従って、以下でいう「PAI-1阻害剤」は、「PD-L1発現抑制剤」、「免疫賦活剤」、「ICI」、「腫瘍細胞の増悪抑制剤」、または「腫瘍に対する免疫療法の増強剤」と言い換えることができる。
【0110】
本発明が対象とする腫瘍には、腫瘍が発生、進展または増悪する過程で、一時的または恒常的、あるいは変動的に、細胞膜上にPD-L1を発現し得る腫瘍を挙げることができる。この限りにおいて、造血器腫瘍、並びに非上皮性及び上皮性の悪性固形腫瘍のいずれもが含まれる。制限されないが、これらの悪性腫瘍には、頭頸部の腫瘍;膠芽腫(多形性膠芽細胞腫を含む);気管支または肺等から発生する呼吸器系悪性腫瘍(例えば、進行期非小細胞肺癌が含まれる);上咽頭、食道、胃、十二指腸、空腸、回腸、盲腸、虫垂、上行結腸、横行結腸、S状結腸、大腸、直腸または肛門部等から発生する消化管系悪性腫瘍;肝臓癌、肝細胞癌;膵臓癌;膀胱、尿管又は腎臓から発生する泌尿器系悪性腫瘍(例えば膀胱癌、腎細胞癌等);卵巣、卵管、及び子宮(子宮頸部、子宮体)等から発生する女性生殖器系悪性腫瘍;乳癌:前立腺癌;皮膚癌(メラノーマを含む);視床下部、下垂体、甲状腺、副甲状腺、副腎等の内分泌系悪性腫瘍;中枢神経系悪性腫瘍;骨軟部組織から発生する悪性腫瘍、肉腫(以上、固形腫瘍);並びに骨髄異形成症候群;急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、急性骨髄単球性白血病、慢性骨髄単球性白血病、急性単球性白血病、慢性単球性白血病、急性全骨髄性白血病、急性巨核球性白血病、赤白血病、好酸球性白血病、慢性好酸球性白血病、慢性好中球性白血病、成人T細胞白血病、ヘアリー細胞白血病、形質細胞性白血病等の各種白血病;胸腺癌、多発性骨髄腫、B細胞リンパ腫、悪性リンパ腫等の造血系悪性腫瘍;リンパ系悪性腫瘍(以上、造血器腫瘍)が含まれる。少なくとも下線を引いた悪性腫瘍にはPD-L1が発現していることが知られている(Sandip Pravin Patel et al.,Moleculara Cancer Therapeutics,2015;14(4);847-856、Table 1参照)。ちなみに、例えば抗PD-1抗体などの従来公知のICIが奏効することが知られている腫瘍細胞としては、造血器腫瘍(例えば、慢性骨髄性白血病、急性骨髄性白血病、慢性好酸球性白血病、急性リンパ性白血病が含まれる。)、卵巣癌、子宮頸癌、子宮体癌、軟部肉腫、乳癌、食道癌、胃癌、胃食道接合部癌、肺癌(非小細胞肺癌、小細胞肺癌)、肝細胞癌、腎細胞癌、悪性黒色腫、ホジキンリンパ腫、頭頸部癌、悪性胸膜中皮腫、膠芽腫、尿路上皮癌、膀胱癌、膵癌、前立腺癌、メルケル細胞癌、中枢神経系原発リンパ腫、精巣原発リンパ腫、胆道癌、上行結腸、横行結腸、S状結腸、及び直腸を原発とする大腸癌等を挙げることができる。
【0111】
本発明の腫瘍化学療法剤は、PAI-1阻害剤を単独で投与するか、またはPAI-1阻害剤と、他の抗腫瘍剤、他の免疫賦活剤、及び他のICIからなる群より選択される少なくとも1つ(以下、これを「他抗腫瘍剤等」と総称する)とが同時または別々に投与される形態を有する。
【0112】
PAI-1阻害剤と組み合わせる対象の他抗腫瘍剤等は、一般に抗がん剤と使用されるものを挙げることができ、アルキル化薬、代謝拮抗薬、抗腫瘍性抗生物質、微小血管阻害薬、ホルモンまたはホルモン類似薬、白金製剤、トポイソメラーゼ阻害薬、サイトカイン、ホルモン療法薬、放射免疫療法薬、分子標的薬(抗体薬、及びICIも含まれる)、非特異的免疫賦活薬、及びその他の抗腫瘍剤のなかから、対象とする腫瘍に応じて適宜選択することができる。
【0113】
ここで制限はされないものの、アルキル化薬としては、例えば、シクロホスファミド、イホスファミド、ブスルファン、メルファラン、ベンダムスチン塩酸塩、ニムスチン塩酸塩、ラニムスチン、ダガルバジン、プロカルバジン塩酸塩テモゾロミド等;代謝拮抗薬としては、メトトレキサート、ペメトレキセドナトリウム、フルオロウラシル、ドキシフルリジン、カペシタビン、テガフール、シタラビン、シタラビンオクホスファート水和物、エノシタビン、ゲムシタビン塩酸塩、メルカプトプリン水和物、フルダラビンリン酸エステル、ネララビン、ペントスタチン、クラドリビン、レボホリナートカルシウム、ホリナートカルシウム、ヒドロキシカルバミド、L-アスパラギナーゼ、アザシチジン等;抗腫瘍性抗生物質としては、ドキソルビシン塩酸塩、ダウノルビシン塩酸塩、ピラルビシン、エピルビシン塩酸塩、イダルビシン塩酸塩、アクラルビシン塩酸塩、アムルビシン塩酸塩、ミトキサントロン塩酸塩、マイトマイシンC、アクチノマイシンD、ブレオマイシン、ペプロマイシン硫酸塩、ジノスタチンスチラマー等;微小血管阻害薬としては、ビンクリスチン硫酸塩、ビンブラスチン硫酸塩、ビンデシン硫酸塩、ビノレルビン酒石酸塩、パクリタキセル、ドセタキセル水和物、エリブリンメシル酸塩等;ホルモンまたはホルモン類似薬(ホルモン剤)としては、アナストロゾール、エキセメスタン、レトロゾール、タモキシフェンクエン酸塩、トレミフェンクエン酸塩、フルベストラント、フルタミド、ビカルタミド、メドロキシプロゲステロン酢酸エステル、エストラムスチンリン酸エステルナトリウム水和物、ゴセレリン酢酸塩、リュープロレリン酢酸塩等;白金製剤としては、シスプラチン、ミリプラチン水和物、カルボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン等;トポイソメラーゼ阻害薬としては、イリノテカン塩酸塩水和物、及びノギテカン塩酸塩等のトポイソメラーゼI阻害薬、並びにエトポシド、及びソブゾキサン等のトポイソメラーゼII阻害薬;サイトカインとしては、インターフェロンガンマ-1a、テセロイキン、セルモロイキン等;放射免疫療法薬としては、イブリツモマブ、チウキセタン配合剤等;分子標的薬としては、ゲフィチニブ、イマチニブメシル酸塩、ボルテゾミブ、エルロチニブ塩酸塩、ソラフェニブトシル酸塩、スニチニブリンゴ酸塩、サリドマイド、ニロチニブ塩酸塩水和物、ダサチニブ水和物、ラパチニブトシル酸塩水和物、エベロリムス、レナリドミド水和物、デキサメタゾン、テムシロリムス、ボリノスタット、トレチノイン、及びタミバロテン等;そのうち、抗体薬としては、トラスツズマブ(抗HER2抗体)、リツキシマブ(抗CD20抗体)、ベバシズマブ(抗VEGFR抗体)、パニツムマブ、セツキシマブ(以上、抗EGFR抗体)、ラムシルマブ(抗VEGFR抗体)、モガムリズマブ(抗CCR4抗体)、ブレンツキシマブベドチン(抗CD30抗体)、アレムツズマブ(抗CD52抗体)、ゲムツズマブオゾガマイシン(抗CD33抗体)等;免疫チェックポイント阻害薬としては、ニボルマブ(抗PD-1抗体);非特異的免疫賦活薬としては、OK-432、乾燥BCG、かわらたけ多糖体製剤、レンチナン、ウベニメクス等;その他、アセグラトン、ポルフィマーナトリウム、タラポルフィンナトリウム、エタノール、三酸化ヒ素等を例示することができる。
【0114】
なお、分子標的薬としては、造血器腫瘍を対象とする場合には、イマチニブメシル酸塩、ニロチニブ塩酸塩水和物、ダサチニブ水和物が好ましく、固形腫瘍を対象とする場合には、ゲフィチニブ、エルロチニブ塩酸塩、ラパチニブトシル酸塩水和物が好ましい。特に好ましくは、イマチニブメシル酸塩である。
【0115】
また、上記以外のICIとしては、CTLA-4、PD-1、またはPD-L1を免疫チェックポイント分子として標的にする抗CTLA-4抗体(例えば、イピリムマブ、トレメリムマブ)、抗PD-1抗体(例えば、ペムブロリズマブ、PDR001(開発コード)、cemiplimab)、または抗PD-L1抗体(例えば、アベルマブ、アテゾリズマブ、デュルバルマブ、MPDL3280A、MEDI4736)等を挙げることができる。これらのICIは、腫瘍の治療薬として、現在開発が進んでいる薬剤である。
【0116】
これらの他抗腫瘍剤等とPAI-1阻害剤とが同時に投与される形態を有するものとして、他抗腫瘍剤等とPAI-1阻害剤が単一の医薬組成物(配合剤)の形態に製剤化されてなるものを挙げることができる。当該医薬組成物は、具体的には前述する他抗腫瘍剤等、PAI-1阻害剤、及び必要に応じて薬学的に許容される担体または添加剤を含有する、所望の剤型を有する配合剤である。PAI-1阻害剤として、制限されないものの、好ましくはI欄に記載する式(I)で示される化合物群1から選択される少なくとも1種である。ここで用いられる担体または添加剤は、本発明の腫瘍化学療法剤の作用効果を妨げないものであればよく、その詳細は、後述するIV欄で説明する。配合剤の形態は、その投与経路(投与形態)に応じて適宜設定することができるが、好ましくは経口投与に適した形態である、
【0117】
投与経路(投与方法)としては、特に制限されず、製剤の形態に応じて、経口投与;静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、経粘膜投与、経皮投与、および直腸内投与等の非経口投与を挙げることができる。好ましくは経口投与および静脈内投与であり、より好ましくは経口投与である。各投与経路(投与方法)に応じた配合剤の形態並びにその調製方法については、後述する「IV.医薬組成物」の欄で説明する。
【0118】
他抗腫瘍剤等とPAI-1阻害剤とが同時に投与される他の形態としては、それぞれ別個の包装形態からなる他抗腫瘍剤等及びPAI-1阻害剤を、腫瘍患者に適用する直前に混合する形態、具体的には、例えば液剤の形態(例えば、点滴または経口用液剤)を有する抗腫瘍剤等に、腫瘍患者への投与直前に(用時に)、PAI-1阻害剤を添加混合して用いられる形態の腫瘍化学療法剤を挙げることができる。
【0119】
この場合の他抗腫瘍剤等とPAI-1阻害剤との組み合わせの割合は、本発明の作用効果を奏する限り制限されず、治療対象とする腫瘍の種類や場所、腫瘍のステージ(重篤度、進行度)、腫瘍患者の病態、年齢、性別、体重、併用する抗腫瘍剤等の種類などに応じて、適宜設定することができる。
【0120】
具体的には、例えば、腫瘍化学療法剤が経口投与剤である場合、その投与量は、有効成分であるPAI-1阻害剤の量に換算して0.01~300mg/kg/日の範囲から適宜設定することができる。より好ましくは、0.03~30mg/kg/日であり、さらに好ましくは、0.1~10mg/kg/日である。当該範囲には0.5~5mg/kg/日が含まれる。
【0121】
またPAI-1阻害剤に他抗腫瘍剤等を組み合わせる場合、組み合わせる他抗腫瘍剤等の投与量も0.1~5000mg/kg/日、0~5000mg/kg/回、0.1~5000mg/kg/回、0.1~5000mg/m2/回または10万~500万JRU/回から適宜設定することができるき、該薬剤で推奨されている用量の0.2~5倍の範囲から適宜設定できる。より、好ましくは、該薬剤で推奨されている用量の0.5~2倍の範囲である。
【0122】
投薬回数は1~8日間投与し、5日~9週間の休薬期間を設けることができる。
【0123】
本発明の腫瘍化学療法剤が静脈内投与剤である場合、PAI-1阻害剤の有効血中濃度が0.2~50μg/mL、より好ましくは0.5~20μg/mLの範囲となるような投与量で、1日当たりを0.03~300mg/kgの範囲になるように投与することができる。また他抗腫瘍剤等を組み合わせる場合、その投与量は、通常投与する量の10~100%、好ましくは10~95%の範囲において適宜設定することができる。
【0124】
さらに、本発明の腫瘍化学療法剤の投与にあたって、前記の方法で抗腫瘍治療を行った後に、さらにPAI-1阻害剤を単独で投与して、腫瘍の増悪(再発や転移を含む)を抑制することもできる。
【0125】
この場合、PAI-1阻害剤の投与量は、0.003~3000mg/kg/日の範囲から適宜設定することができる。また、この場合の投与は、少なくとも1年以上、より好ましくは5年以上さらに好ましくは、生涯にわたって継続することが好ましい。
【0126】
他抗腫瘍剤等とPAI-1阻害剤とが別々に投与される形態を有するものとして、それぞれ別個の包装形態からなる他抗腫瘍剤等及びPAI-1阻害剤を、同時または時間をずらして、腫瘍患者に投与する形態のものを挙げることができる。同時に投与する形態としては、経口投与形態を有する他抗腫瘍剤等とPAI-1阻害剤とを同時に経口投与する形態;一方が経口投与形態で、他方が非経口投与形態である場合に、両者を同時にまた並行して投与する形態を挙げることができる。両者を時間ずらして投与する形態としては、経口投与形態を有する他抗腫瘍剤等とPAI-1阻害剤とをそれぞれ時間をずらして経口投与する形態;一方が経口投与形態で、他方が非経口投与形態である場合に、それぞれ時間をずらして投与する形態を挙げることができ、後者の場合、他抗腫瘍剤等の投与に先立ってPAI-1阻害剤を投与しても、また他抗腫瘍剤等の投与後にPAI-1阻害剤を投与しても、いずれの順番でもよい。なお、この場合に用いられるPAI-1阻害剤及び他抗腫瘍剤等は、投与経路(投与形態)に応じて、薬学的に許容される担体または添加剤とともに、所望の医薬組成物の形態に調製されたものであり、薬学的に許容される担体または添加剤の種類や調製方法については、後述するIV欄で説明する。
【0127】
本発明のPD-L1発現抑制剤、免疫賦活剤、ICI、腫瘍細胞の増悪抑制剤、または免疫療増強剤を他抗腫瘍剤等と組み合わせてなる本発明の腫瘍化学療法剤によれば、前記各種用途で使用するPAI-1阻害剤が有する前述の作用メカニズムに基づいて、併用する他抗腫瘍剤等の作用を補助し増強することができる。その結果、腫瘍細胞の増殖、浸潤、転移、および/または抗腫瘍治療(化学療法、放射線療法、切除手術などの外科的療法)後の腫瘍再発を抑制して、より有効な抗腫瘍治療を発揮するとともに、抗腫瘍治療後の予後を良好若しくは改善することが可能になる。このため、本発明の腫瘍化学療法剤は、特にPD-L1を高発現した腫瘍細胞を有する患者、好ましくは悪性度が高いか、または進行性の腫瘍患者に有効に適用することができる。
【0128】
なお、ここで「抗腫瘍治療後の予後」は、抗腫瘍治療後の腫瘍患者の腫瘍再発率、転移率、5年生存率、または10年生存率等によって評価することができる。
【0129】
IV.医薬組成物
前述する本発明の「PD-L1発現抑制剤」、「免疫賦活剤」、「ICI」、「腫瘍細胞の増悪抑制剤」、「腫瘍に対する免疫療法の増強剤」および「腫瘍化学療法剤」は、所定の形態(剤型)を有する医薬組成物として調製され、対象とする患者に投与される。従って、上記各製剤をここでは「本発明の医薬組成物」と総称する。
【0130】
なお、本発明の医薬組成物は、その有効成分であるPAI-1阻害剤100重量%からなるものであってもよいが、通常はPAI-1阻害剤に加えて、薬学的に許容される担体または添加剤を含有するものである。後者の場合の医薬組成物中のPAI-1阻害作用を有する化合物の割合は、制限はされないものの、通常5~95重量%の範囲から選択することができる。好ましくは30~80重量%の割合である。
【0131】
本発明の医薬組成物の投与形態としては、経口投与;ならびに静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、経粘膜投与、経皮投与、および直腸内投与等の非経口投与を挙げることができる。好ましくは経口投与および静脈内投与であり、より好ましくは経口投与である。本発明の医薬組成物は、かかる投与方法に応じて、種々の形態の製剤(剤型)に調製することができる。
【0132】
以下に、各剤型について説明するが、本発明において用いられる剤型はこれらに限定されるものではなく、医薬製剤分野において通常用いられる各種剤型を用いることができる。
【0133】
経口投与を行う場合の剤型として、散剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤およびシロップ剤を挙げることができ、これらの中から適宜選択することができる。また、それらの製剤について徐放化、安定化、易崩壊化、難崩壊化、腸溶性化、易吸収化等の修飾を施すことができる。
【0134】
また、静脈内投与、筋肉内投与、または皮下投与を行う場合の剤型として、注射剤または点滴剤(用時調製の乾燥品を含む)等があり、適宜選択することができる。
【0135】
また、経粘膜投与、経皮投与、または直腸内投与を行う場合の剤型として、咀嚼剤、舌下剤、パッカル剤、トローチ剤、軟膏剤、貼布剤、液剤等があり、適応場所に応じて適宜選択するここができる。また、それらの製剤について徐放化、安定化、易崩壊化、難崩壊化、易吸収化等の修飾を施すことができる。
【0136】
本発明の医薬組成物にはその剤形(経口投与または各種の非経口投与の剤形)に応じて、薬学的に許容される担体および添加剤を配合することができる。薬学的に許容される担体及び添加剤としては、溶剤、賦形剤、コーティング剤、基剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、溶解補助剤、懸濁化剤、粘稠剤、乳化剤、安定剤、緩衝剤、等張化剤、無痛化剤、保存剤、矯味剤、芳香剤、着色剤が挙げられる。以下に、医薬上許容される担体および添加剤の具体例を列挙するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0137】
溶剤としては、精製水、滅菌精製水、注射用水、生理食塩液、ラッカセイ油、エタノール、グリセリン等を挙げることができる。賦形剤としては、デンプン類(例えばバレイショデンプン、コムギデンプン、トウモロコシデンプン)、乳糖、ブドウ糖、白糖、結晶セルロース、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、タルク、酸化チタン、トレハロース、キシリトール等を挙げることができる。
【0138】
結合剤としては、デンプンおよびその誘導体、セルロースおよびその誘導体(たとえばメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース)、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、トラガント、アラビアゴム等の天然高分子化合物、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の合成高分子化合物、デキストリン、ヒドロキシプロピルスターチ等を挙げることができる。
【0139】
滑沢剤としては、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸およびその塩類(たとえばステアリン酸マグネシウム)、タルク、ワックス類、コムギデンブン、マクロゴール、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、シリコン油等を挙げることができる。
【0140】
崩壊剤としては、デンプンおよびその誘導体、寒天、ゼラチン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、セルロースおよびその誘導体、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースおよびその塩類ならびにその架橋体、低置換型ヒドロキシプロピルセルロース等を挙げることができる。
【0141】
溶解補助剤としては、シクロデキストリン、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。懸濁化剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリピニルピロリドン、アラビアゴム、トラガント、アルギン酸ナトリウム、モノステアリン酸アルミニウム、クエン酸、各種界面活性剤等を挙げることができる。
【0142】
粘稠剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリピニルピロリドン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、トラガント、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0143】
乳化剤は、アラビアゴム、コレステロール、トラガント、メチルセルロース、レシチン、各種界面活性剤(たとえば、ステアリン酸ポリオキシル40、セスキオレイン酸ソルビタン、ポリソルベート80、ラウリル硫酸ナトリウム)等を挙げることができる。
【0144】
安定剤としては、トコフェロール、キレート剤(たとえばEDTA、チオグリコール酸)、不活性ガス(たとえば窒素、二酸化炭素)、還元性物質(たとえば亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、ロンガリット)等を挙げることができる。
【0145】
緩衝剤としては、リン酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ホウ酸等を挙げることができる。
【0146】
等張化剤としては、塩化ナトリウム、ブドウ糖等を挙げることができる。無痛化剤こしては、局所麻酔剤(塩酸プロカイン、リドカイン)、ペンジルアルコール、ブドウ糖、ソルビトール、アミノ酸等を挙げることができる。
【0147】
矯味剤としては、白糖、サッカリン、カンゾウエキス、ソルビトール、キシリトール、グリセリン等を挙げることができる。芳香剤としては、トウヒチンキ、ローズ油等を挙げることができる。着色剤としては、水溶性食用色素、レーキ色素等を挙げることができる。
【0148】
保存剤としては、安息香酸およびその塩類、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、逆性石けん、ベンジルアルコール、フェノール、チロメサール、デヒドロ酢酸、ホウ酸、等を挙げることができる。
【0149】
コーティング剤としては、白糖、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、セラック、ゼラチン、グリセリン、ソルビトール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン(PVP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、セルロースアセテートフタレート(CAP)、メチルメタアクリレート-メタアクリル酸共重合体および上記記載した高分子等を挙げることができる。
【0150】
基剤としては、ワセリン、流動パラフィン、カルナウバロウ、牛脂、硬化油、パラフィン、ミツロウ、植物油、マクロゴール、マクロゴール脂肪酸エステル、ステアリン酸、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ベントナイト、カカオ脂、ウイテップゾール、ゼラチン、ステアリルアルコール、加水ラノリン、セタノール、軽質流動パラフィン、親水ワセリン、単軟膏、白色軟膏、親水軟膏、マクロゴール軟膏、ハードファット、水中油型乳剤性基剤、油中水型乳剤性碁剤等を挙げることができる。
【0151】
なお、上記の各剤型について、公知のドラッグデリバリーシステム(DDS)の技術を採用することができる。本明細書にいうDDS製剤とは、徐放化製剤、局所適用製剤(トローチ、バッカル錠、舌下錠等)、薬物放出制御製剤、腸溶性製剤および胃溶性製剤等、投与経路、バイオアベイラビリティー、副作用等を勘案した上で、最適の製剤形態にした製剤である。
【実施例
【0152】
以下、本発明を参考実験例及び実験例などによりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例に制限されるものではない。
【0153】
[参考実験例]
参考実験例1 化合物1のPAI-1阻害活性の測定
一般式(I)で示される化合物群1に属する表1記載の化合物〔例1~例7、例9~例14〕、並びにPAI-1阻害剤として公知の既存化合物1および2について、ヒトPAI-1(Molecular Innovation Inc.製(米国)、以下同じ)に対する阻害作用を測定し評価した。
【0154】
具体的には上記各化合物を各種の濃度(0.29mM、0.12mM)で含む、0.1% Tween80含有100mM Tris-HCl(pH8)溶液にヒト由来のPAI-1をいれて、37℃で15分間インキュベートした。次いでこれに0.35pmol/μLに調整したヒト由来tPA(American Diagonostica, Inc. 製(米国)、以下同じ)を入れて、引き続き37℃で15分間インキュベートした。続いて、これに発色性基質である1.25mMのS-2288合成基質(Chromogenixs社製(イタリア)、以下同じ)を添加した。最終混合液は、100mM Tris-HCl(pH8)、30mM NaCl、1% DMSO、0.1% Tween80、67nM PAI-1、9.8nMtPA、1mM S-2288合成基質および各化合物(50μMまたは20μM)を含んでいる。
【0155】
tPAの作用によって発色基質(S-2288)から切断されて遊離したp-ニトロアニリンを、分光光度計を用いて吸光度405nmで5分毎、30分間測定した。例1~例7及び例9~例14の化合物を配合しない系についても同様に試験し、この系の30分後のPAI-1活性を100%として、各被験化合物を添加した場合のPAI-1活性を評価した。その結果を前述の表1に示す。
【0156】
参考実験例2 化合物1のPAI-1阻害活性の測定
一般式(I)で示される化合物群1に属する表2記載の化合物、並びにPAI-1阻害剤として公知の既存化合物1~4を被験化合物として、ヒトPAI-1(Molecular Innovation Inc.製(米国)、以下同じ)に対する阻害作用を測定し評価した。
【0157】
具体的には上記各化合物を各種の濃度(62.5μM、15.6μM)で含む、0.1% PEG-6000及び0.2mM CHAPS含有50mM Tris-HCl(pH8)溶液にヒト由来のPAI-1をいれて、37℃で15分間インキュベートした。次いでこれに0.05pmol/μLに調整したヒト由来tPA(American Diagonostica, Inc. 製(米国)、以下同じ)を入れて、引き続き37℃で60分間インキュベートした。続いて、これに発色性基質である0.25mMのSpectrozyme tPA合成基質(American diagnostic社製(米国)、以下同じ)を添加した。最終混合液は、50mM Tris-HCl(pH8)、150mM NaCl、1% DMSO、0.1% PEG-6000、0.2mM CHAPS、5nM PAI-1、2nM tPA、0.2mMSpectrozyme tPA合成基質および各化合物(10μMまたは2.5μM)を含んでいる。
【0158】
tPAの作用によって発色基質(Spectrozyme tPA)から切断されて遊離したp-ニトロアニリンを、分光光度計を用いて吸光度405nmで20分毎、120分間測定した。上記被験化合物を配合しない系についても同様に試験し、この系の120分後のPAI-1活性を100%として、各被験化合物を添加した場合のPAI-1活性を評価した。その結果を前述の表2に示す。
【0159】
[実験例]
以下、被験化合物として下記の被験化合物(例68)を使用して実験を行った。但し、この被験化合物は本発明が対象とするPAI-1阻害剤の一例にすぎず、下記の実験結果は、同様にPAI-1阻害作用を有する化合物(PAI-1阻害剤)についても同様に得られるものであることは、下記の実験結果からも明らかである。
【0160】
<被験化合物>
5-クロロ-2-({[3-(キノリン-8-イル)フェニル]カルボニル}アミノ)安息香酸ナトリウム
当該化合物は、一般式(I)で示される化合物群1に属する化合物であり、当該化合物は、WO2010/113022の記載に従って製造した。また、当該化合物の生物学的等価体は、WO2010/113022の記載に従って(または準じて)製造することができる。当該化合物は、非臨床及び臨床試験での経口投与により、哺乳類、特にヒトに対する安全性に問題がないことが確認されている化合物である(特願2020-088416)。
【0161】
実験動物は東海大学医学部動物実験施設で飼育した。また動物実験は東海大学動物実験委員会の承認の下、当委員会の倫理指針に従って行った。
また、下記の実験において、フリーサイトメトリーによる解析は、LSRFortessa(BD Bioscience)で行った。それぞれの解析は、1,000,000細胞に対して行い、FlowJoで解析した。
【0162】
実験例1
PAI-1高発現がん細胞の性状を解析するために、マウス白血病細胞株(骨髄球系前駆細胞の32D細胞株にBCR/ABLを遺伝子導入したもの、以下「32Dp210」と称する)に、PAI-1を遺伝子導入し過剰発現させた細胞(32D PAI-1 OE)を作製した。次いで、当該細胞におけるICMの一つであるPD-L1の発現量を解析するために、蛍光色素であるAllophycocyanin(APC)で標識された抗PD-L1抗体(クローン名:10F.G92)で染色し、フローサイトメーターにより測定した。比較対照実験として、PAI-1を遺伝子導入していない32Dp210細胞株(野生型細胞:32D WT)についても同様にPD-L1の発現量を解析した。
フローサイトメーターの結果を図1に示す。図1に示すように、PAI-1を過剰発現させた32Dp210(32D PAI-1 OE)は、対照である未処置の野生型細胞(32D WT)と比べて、PD-L1の発現量が高いことが明らかとなった。
PAI-1を高発現する腫瘍細胞の悪性度は高い。このことから、PAI-1高発現腫瘍細胞は、PD-L1を高発現することにより、免疫細胞による監視機構(免疫監視機構)から逃れることにより、転移等を起こしやすくなり、悪性度が高まることが示唆された。
【0163】
実験例2
PAI-1は細胞内外で機能するタンパク質であり、細胞外に分泌された場合は、自分自身や周辺の細胞群に様々な反応を誘導する。そこで、腫瘍細胞から分泌されたPAI-1のPD-L1発現に及ぼす影響を調べた。
具体的には、5×104個のマウス白血病細胞株(32Dp210)に、人為的に作製したリコンビナントPAI-1(以下「rPAI-1」と称する; 40nM)、あるいは、前記実験例1で調製したPAI-1の過剰発現細胞(32D PAI-1 OE)の培養上清(PAI-1 OE sup;PAI-1を高濃度に含んでいる)を添加し、96穴プレート上で5% CO2、37℃で2日間培養した。次いで、実験例1と同様にして、PD-L1の発現量をフローサイトメーターで測定した。比較対照実験として、未処理のマウス白血病細胞(Control)についても同様にPD-L1の発現量を測定した。
フローサイトメーターの結果を図2に示す。図2に示すように、未処理の細胞(Control)と比べて、PAI-1を添加した細胞(+r-PAI-1、+r-PAI-1 OE sup)はいずれもPD-L1の発現が高く誘導されていることが明らかとなった。
以上の結果から、腫瘍細胞から分泌されたPAI-1は、腫瘍細胞のPD-L1発現を誘導することが明らかとなった。また、腫瘍細胞から分泌されたPAI-1は、腫瘍周辺環境を構成する細胞群(tumor-associated macrophage[TAM]やcancer-associated fibroblasts[CAF])のPD-L1発現も誘導し、免疫細胞からの攻撃を回避している可能性が示唆された。
【0164】
実験例3
実験例2の結果を踏まえ、マウス白血病細胞株(32Dp210)に、rPAI-1(40nM)とともに、PAI-1阻害作用を有する被験化合物(以下、「PAI-1阻害剤」と称する)を50μM濃度となるように添加し、96穴プレート上で5% CO2、37℃で2日間培養した。次いで、実験例1と同様にして、PD-L1の発現量をフローサイトメーターで測定した。
結果を図3の(A)に示す。(A)に示すように、実験例2でみられたrPAI-1の添加によるPD-L1発現の誘導は、PAI-1阻害剤の添加で完全に抑制された。この結果から、PAI-1阻害剤は、PAI-1によるPD-L1発現誘導を抑制することで、PD-L1による免疫システムの機能不全(免疫低下)を回復し、免疫賦活作用を発揮するものと考えられる。
【0165】
同様に、マウス白血病細胞株(32Dp210)に代えて、マウス大腸癌細胞株(MC38)及びマウス悪性黒色腫細胞株(B16F10)についても、同様の試験を行った。図3の(B)及び(C)に示すように、大腸癌細胞及び悪性黒色腫細胞についても、白血病細胞と同様の結果が得られた。
以上のことから、PAI-1のPD-L1誘導による悪性化は、造血器腫瘍及び固形腫瘍の別に拘わらず、多くの腫瘍種に共通して認められる原理である可能性が高い。PAI-1阻害剤によれば、このように幅広い腫瘍種で生じるPAI-1に起因するPD-L1誘導を抑制し、当該PD-L1誘導による免疫低下、並びにそれによる腫瘍の増悪を抑止(免疫賦活化による腫瘍の増悪の抑止)することができるものと期待される。
【0166】
実験例4
マウス白血病細胞株(32Dp210)に、前記実験例1で調製したPAI-1の過剰発現細胞(32D PAI-1 OE)の培養上清(PAI-1 OE)を添加した。また、rPAI-1(40nMあるいは100nM)とともに、PAI-1阻害剤を50μM濃度となるように添加したものも用意し、96穴プレート上で5% CO2、37℃で一晩培養した。細胞を回収し、ISOGEN2 (Nippon Genes社)にてRNAを抽出後、100ngのRNAをPrimeScript RT-PCR kit (TaKaRa社)で逆転写反応を行い、cDNAを得た。TaqMan Fast Advanced Master Mix (Thermo Fisher Scientific社)を用いたreal-time PCR法にてPD-L1遺伝子の発現量を調べた。用いたプライマーはPD-L1 (Mm00452054_m1,Thermo Fisher Scientific社)である。また、RNA量の標準化のために18S rRNA (Hs99999901_s1,Thermo Fisher Scientific社) の発現量も同時に測定した。PD-L1遺伝子の発現量は比較Ct法で求め、対照群との相対比としてグラフに示した。
【0167】
結果を図4に示す。
図4の(A)及び(B)に示すように、PAI-1遺伝子過剰発現(PAI-1 OE)やrPAI-1(40nMあるいは100nM)の添加によって、実験例1及び2で確認されたマウス白血病細胞表面上のPD-L1タンパク質の発現だけでなく、PD-L1のmRNAの発現も上昇することが確認された。また、図4の(B)に示すように、そのmRNA発現の上昇はPAI-1阻害剤(50μM)の添加で抑制された。
この結果から、本実験で使用したような低分子化合物のみならず、中和抗体や核酸医薬によるPAI-1阻害も、PA-L1に依存する腫瘍に対する抗腫瘍療法として有効である可能性が高い。
【0168】
実験例5
PAI-1阻害剤の生体内での有効性を検討した。
具体的には、5×105個のマウス白血病細胞株(32Dp210細胞)をマウス(C3H/HEJ)に移植し、1週間後に生着を確認した。その後、PAI-1阻害剤を1日1回、10mg/kgの割合で計7日間経口投与した。最終投与の翌日に、マウスから末梢血あるいは脾臓を回収した。脾臓はナイロンメッシュ上ですり潰すことによって機械的に分散した。末梢血と脾臓細胞のそれぞれを塩化アンモニウム溶液で溶血した後に、Allophycocyanin(APC)で標識された抗PD-L1抗体(クローン名:10F.G92)で染色し、白血病細胞におけるPD-L1の発現量をフローサイトメーターで測定した。比較対照実験として、マウス白血病細胞株を移植したマウスに、PAI-1阻害剤に代えて、生理食塩水(Vehicle)のみを投与して、前記と同様にして白血病細胞におけるPD-L1の発現量をフローサイトメーターで測定した。
【0169】
末梢血の結果を図5に示す(なお、脾臓も同様の結果である)。
図5に示すように、PAI-1阻害剤を投与したマウスは、生理食塩水(Vehicle)のみを投与したマウスに比べて、白血病細胞のPD-L1発現量が低下していることが確認された。 この結果から、実験例3及び4の結果で示されたPAI-1阻害剤の免疫賦活作用は、試験管内だけでなく、腫瘍患者の病態を反映したより生理的条件に近い担癌状態の生体内でも発揮されることが示唆された。
【0170】
実験例6
TAM(M2マクロファージ)におけるPAI-1の影響を解析した。
具体的には、5×106個のマウス脾臓細胞を24穴プレート上で5%CO2、37℃で一晩培養し、浮遊性の細胞を除去した後に、rPAI-1(100nM)を添加し、5% CO2、37℃で4日間培養した。培養後、付着性の細胞をトリプシン処理により回収し、抗PD-L1抗体に加えて、抗CD11b抗体、及び抗CD206抗体で染色し、CD11b及びCD206共陽性(CD11b+CD206+)のM2マクロファージにゲーティングして、そのPD-L1の発現量をフローサイトメーターで測定した。比較対照実験として、未処理のマウス脾臓細胞(Control)についても同様にPD-L1の発現量を測定した。また、同マウス脾臓細胞に、rPAI-1(100nM))とともに、PAI-1阻害剤50μMを添加し、前記と同じ条件で培養した後、付着性の細胞を回収し、同様にして、そのPD-L1の発現量をフローサイトメーターで測定した。
【0171】
結果を図6に示す。
図6に示すように、未処理の細胞(Control)と比べて、rPAI-1を添加したM2マクロファージではPD-L1の発現が高く誘導されることが明らかとなった。また、rPAI-1を添加した培養系に、PAI-1阻害剤を加えると、PAI-1によるPD-L1の発現増強は完全に抑制された。この結果から、腫瘍細胞はPAI-1を分泌することにより、腫瘍周辺環境を構成するM2マクロファージ(TAM)などの免疫抑制性細胞のPD-L1発現をも誘導し、免疫からの攻撃を回避していることが確認された。そして、その免疫抑制作用は、PAI-1阻害剤により阻止することが可能であることが確認された。
【0172】
実験例7
M2マクロファージ(TAM)におけるPAI-1とPD-L1の関連性、及びそれに対するPAI-1阻害剤の作用を明らかにするために、以下の実験を行った。
(1)M2マクロファージ(TAM)におけるPAI-1とPD-L1の関連性
実験例6と同様に、マウス脾臓細胞について、抗CD11b抗体、及び抗CD206抗体を用いてM2マクロファージ(CD11b+CD206+)を染色し、さらにPD-L1あるいはPAI-1に対する抗体で染色した後、フローサイトメーターで解析を行った。
結果を図7に示す。
図7の(B)及び(C)に示すように、M2マクロファージ(CD11b+CD206+)は他のマクロファージ(CD11b+CD206)と比べてPAI-1の発現量が高く(図7(B))、それと相関してPD-L1の発現量も高い(図7(C))ことが明らかとなった。
【0173】
(2)PAI-1阻害剤の作用
マウス(C57BL6)にPAI-1阻害剤を1日1回、10mg/kgの割合で計7日間経口投与し、最終投与の翌日に、マウスから末梢血あるいは脾臓を回収し、脾臓はナイロンメッシュ上で機械的に分散し、それぞれを塩化アンモニウム溶液で溶血した後に、M2マクロファージ(CD11b+CD206+)におけるPD-L1の発現量をフローサイトメーターで測定した。比較対照実験として、生理食塩水(Vehicle)のみを投与したマウス群についても、同様に末梢血あるいは脾臓を回収し、M2マクロファージ(CD11b+CD206+)におけるPD-L1の発現量を測定した。
末梢血の結果を図7の(D)に示す(脾臓も同様の結果である)。
(D)に示すように、PAI-1阻害剤を経口投与したマウス群では、M2マクロファージ(CD11b+CD206+)のPD-L1発現量の低下が認められた。この結果から、免疫抑制性のM2マクロファージは、PAI-1とPD-L1を高発現しており、そのPD-L1発現はPAI-1阻害剤により低減することが明らかとなった。すなわち、PD-L1発現はPAI-1によって制御されており、そのPAI-1活性をPAI-1阻害剤で抑制することにより、PD-L1発現を低減させることが可能であることが明確になった。
【0174】
実験例8
実験例1~7で示したマウス細胞と同様の現象が、ヒト細胞でも再現することを検証した。
具体的には、ヒトの細胞である293T(不死化胎児腎細胞)、ES2(卵巣明細胞腺癌細胞)、MOLM14(急性骨髄性白血病細胞)、 及びK562(慢性骨髄性白血病細胞)の各々について、PAI-1遺伝子を過剰発現させた細胞(PAI-1 OE)を作製するか、またはこれらの細胞に、前記で作製した細胞(PAI-1 OE)の培養上清(PAI-1 OE sup:PAI-1を高濃度で含んでいる)を添加し、96穴プレート上で5%CO2、37℃で2日間培養した。培養後、各細胞についてPD-L1の発現量をフローサイトメーターで測定した。比較対照実験として、各細胞について、未処置の野生型細胞(WT)についても、同様に培養して、培養後のPD-L1の発現量をフローサイトメーターで測定した。
結果を図8に示す。
図8に示すように、すべてのヒト細胞において、PAI-1遺伝子を過剰発現させた細胞(PAI-1 OE)及びPAI-1を添加した細胞(+PAI-1 OE sup)のいずれも、対照である未処置の野生型細胞(WT)と比べて、PD-L1の発現量が上昇していることが確認された。この結果から、PAI-1によるPD-L1発現の誘導は、マウスだけでなくヒトにおいても認められる現象であり、PAI-1阻害剤は、ヒト細胞においても、PAI-1を阻害することで、PD-L1による免疫チェックポイント機構を阻止することができ、液性腫瘍及び固形腫瘍の別に拘わらず、ヒトの多種多様な腫瘍種における免疫賦活剤として有用であると考えられる。
【0175】
実験例9
PAI-1阻害剤のヒト由来癌細胞(卵巣癌細胞)に対する生体内での有効性を検討した。 具体的には、5×105個のヒト卵巣明細胞腺癌細胞株(ES2)をヌードマウスの皮下に移植し、1週間後に腫瘍塊の長径が5mmを超えて生着したことを確認した後、PAI-1阻害剤を1日1回、10mg/kgの割合で計7日間経口投与した。最終投与の翌日に、マウスから腫瘍塊を回収し、はさみで細切した後に0.025%のコラゲナーゼ溶液(WAKO社)中に浮遊し37℃で2時間処理することにより細胞間の結合を切断した。酵素処理により得られた細胞をAllophycocyanin(APC)で標識された抗PD-L1抗体(クローン名:10F.G92)で染色して、腫瘍細胞におけるPD-L1の発現量をフローサイトメーターで測定した。比較対照実験として、PAI-1阻害剤に代えて生理食塩水(Vehicle)のみを投与したマウス群についても、同様に腫瘍塊から細胞を回収して、腫瘍細胞におけるPD-L1の発現量をフローサイトメーターで測定した。
結果を図9に示す。
図9に示すように、PAI-1阻害剤を経口投与した群(+PAI-1 inhibitor)では、生理食塩水(Vehicle)のみを投与した群に比べて、腫瘍細胞におけるPD-L1発現量が低下していた。この結果から、PAI-1阻害剤は、ヒト腫瘍細胞に対しても生体内で効果を発揮するということが明らかとなった。
【0176】
実験例10
PAI-1阻害剤の抗腫瘍効果を検討した。
具体的には、5×105個のマウス白血病細胞株(32Dp210)をマウス(C3H/HEJ)の皮下に移植し、1週間後に腫瘍塊の長径が5mmを超えて生着したことを確認後、PAI-1阻害剤を1日1回、10mg/kgの割合で計7日間経口投与した。最終投与の翌日に、腫瘍塊の大きさ(腫瘍径mm3)を測定した。比較対照実験として、PAI-1阻害剤に代えて生理食塩水(Vehicle)のみを経口投与したマウス群についても、同様に腫瘍塊の大きさを測定した。
結果を図10に示す。
図10に示すように、生理食塩水(Vehicle)のみを投与したマウス群(n=2)(符号1及び2)は腫瘍径の増大が認められたのに対し、PAI-1阻害剤を投与したマウス群(n=2)(符号3及び4)では腫瘍塊の消失が認められた。この結果は、PAI-1阻害剤そのものが生体内で抗腫瘍効果を発揮することを示す。
【0177】
以上の実験結果から、PAI-1阻害剤は、PAI-1を阻害することで、PAI-1に起因するPD-L1の発現誘導を抑制する作用を有する。このため、PAI-1阻害剤は、単剤で、PD-L1発現抑制剤、免疫賦活剤、PD-L1を標的とする免疫チェックポイント阻害剤(ICI)、腫瘍細胞のPD-L1に起因する増悪の抑制剤、または腫瘍に対する免疫療法の増強剤として有用である。並びに、PAI-1阻害剤は、単剤、あるいは、抗腫瘍剤、他の免疫賦活剤、または他のICIと併用することにより、腫瘍に罹患した哺乳動物、特にPAI-1に起因して悪性度の高い進行癌に罹患したヒトを含む哺乳動物に対して高い治療効果を発揮する可能性が示された。
【0178】
実験例11
実験例10のマウス白血病細胞株に代えて、マウス大腸癌細胞株(MC38)を用いて、同様の試験を行い、PAI-1阻害剤の抗腫瘍効果を検討した。
マウス(C57BL6)を、1)未治療群(Vehicle)(n=15)、2)抗PD1抗体単独投与群(anti-PD-1 Ab)、3)PAI-1阻害剤単独投与群(PAI-1 inhibitor)、4)抗PD1抗体とPAI-1阻害剤の併用群(anti-PD-1 Ab+PAI-1 inhibitor)〔2)~4)はいずれもn=18〕にわけて、各マウスの皮下に、5×105個のマウス大腸癌細胞株(MC38)を移植した。移植から1週間後に腫瘍塊の長径が5mmを超えて生着したことを確認した後、前記3)と4)には、PAI-1阻害剤(10mg/kg)を1日1回、計14日間連続で経口投与した。また2)と4)には、PAI-1阻害剤投与と同日から抗PD1抗体15μgを腹腔内に3日おきに計3回投与した。なお、未治療群には、生理食塩水を経口投与した。移植(0day)から2週間目(14days)及び3週間目(21days)に腫瘍塊の大きさを測定した。
結果を図11に示す。
図11に示すように、1)未治療群(-●-)では腫瘍径の増大が認められたのに対し、2)の抗PD-1抗体単独投与群(-▲-)及び3)PAI-1阻害剤単独投与群(-■-)では腫瘍の退縮が認められた。さらに4)抗PD-1抗体とPAI-1阻害剤との併用群(-◆-)で、腫瘍塊の完全な消失が認められた。この結果は、PAI-1阻害剤及び抗PD-1抗体はいずれも単独で抗腫瘍効果を奏すること、並びに両者を併用することでお互いの抗腫瘍効果が増強されることを示す。
【0179】
実験例12
前記実験例11において、PAI-1阻害剤の単独投与で抗腫瘍効果が認められた。これは、PAI-1阻害剤によって腫瘍免疫が活性化されたためであると推測される。
これを確認するために、以下の実験を行った。具体的には、5×105個のマウス大腸癌細胞株(MC38)を、免疫不全マウス(Rag2/IL-2R-KO)及び野生型マウス(WT、コントロール用)のそれぞれの皮下に移植した。免疫不全マウスは、RAG2遺伝子とIL-2受容体γ鎖遺伝子を欠損しており、先天的に免疫細胞(T細胞、B細胞、NK細胞)が体内に存在しないマウスである。1週間後に腫瘍塊の長径が5mmを超えて生着したことを確認後、各マウスにPAI-1阻害剤(10mg/kg)または生理食塩水(Vehicle)を1日1回、計14日間連続で経口投与した。
結果を図12に示す。図12に示すように、野生型マウスに認められていたPAI-1阻害剤による腫瘍の退縮効果が、免疫不全マウスに対しては認められなくなった。この結果から、PAI-1阻害剤は免疫を活性化することで腫瘍を退縮させていることが明らかとなった。
【0180】
実験例13
実験例11の1)未治療群、及び3) PAI-1阻害剤単独投与群(担癌マウス)について、それぞれ腫瘍生着後に、生理食塩水(Vehicle)及びPAI-1阻害剤を1週間経口投与した後に、腫瘍を回収し、抗CD45抗体、抗CD11b抗体、抗F4/80抗体、抗CD206抗体でM2マクロファージを染色し、腫瘍塊中のM2マクロファージの比率をフローサイトメーターで解析した。
結果を図13に示す。図13の(C)に示すように、PAI-1阻害剤の投与によって、腫瘍内のマクロファージが減少し(左側の棒グラフ)、マクロファージの中でも免疫抑制性細胞であるM2マクロファージの割合が減少していることが確認された(右側の棒グラフ)。つまり、PAI-1阻害剤の投与により、免疫抑制性細胞(M2マクロファージ)の腫瘍内浸潤の低下が認められた。実験例11とこの結果から、PAI-1阻害剤は、腫瘍細胞(がん細胞)やM2マクロファージなどの免疫抑制性細胞におけるPD-L1発現を抑制し、腫瘍内部を免疫による攻撃を受けやすい環境に誘導することが示された。
【0181】
実験例14
実験例11の1)未治療群、及び3) PAI-1阻害剤単独投与群(担癌マウス)について、それぞれ腫瘍生着後に、生理食塩水(Vehicle)及びPAI-1阻害剤を1週間経口投与した後に、腫瘍を回収し、抗CD45抗体、抗CD4抗体、抗CD25抗体、抗foxp3抗体で細胞を染色し、腫瘍塊中の制御性T細胞(regulatory T cell,Treg)の比率をフローサイトメーターで解析した。
結果を図14に示す。図14の(C)に示すように、PAI-1阻害剤の投与によって、腫瘍内の制御性T細胞の割合が減少していることが確認された。つまり、PAI-1阻害剤の投与により、制御性T細胞の腫瘍内浸潤の割合が低下することが認められた。このことから、PAI-1阻害剤は、PD-L1を発現する代表的な免疫抑制性細胞である制御性T細胞の腫瘍内浸潤を抑制し、腫瘍内部を免疫による攻撃を受けやすい環境に誘導することが示された。
【0182】
実験例15
実験例11の1)未治療群、及び3) PAI-1阻害剤単独投与群(担癌マウス)について、それぞれ腫瘍生着後に、生理食塩水(Vehicle)及びPAI-1阻害剤を1週間経口投与した後に、腫瘍を回収し、パラホルムアルデヒドで固定後、パラフィンに包埋し、組織切片を作製した。組織切片を抗SMAα抗体で染色し、がん関連線維芽細胞(Cancer-Associated Fibroblast, CAF)の割合を顕微鏡で観察した。
結果を図15に示す。図15に示すように、PAI-1阻害剤の投与によってがん関連線維芽細胞(濃く染色されている細胞。原図では茶色に染色されている。)の腫瘍内浸潤の割合が低下していた。この結果から、PAI-1阻害剤はPD-L1を発現する代表的な免疫抑制性細胞であるがん関連線維芽細胞の腫瘍内浸潤を抑制し、腫瘍内部を免疫による攻撃を受けやすい環境に誘導することが示された。
【0183】
実験例16
実験例11の1)未治療群、及び3) PAI-1阻害剤単独投与群(担癌マウス)について、それぞれ腫瘍生着後に、生理食塩水(Vehicle)及びPAI-1阻害剤を1週間経口投与した後に、腫瘍を回収し、抗CD45抗体、抗CD3抗体、抗CD4抗体、抗CD8抗体、抗perforin抗体でT細胞を染色し、腫瘍塊中の細胞傷害性T細胞の比率をフローサイトメーターで解析した。
結果を図16に示す。図16の(A)に示すように、PAI-1阻害剤の投与によってCD8+T細胞(effector T cell)の腫瘍内浸潤の割合が増加した。また、図16の(B)に示すように、そのCD8+T細胞は、perforinを発現する細胞傷害性T細胞(cytotoxic T cell)であった。この結果から、PAI-1阻害剤の投与により、免疫抑制効果が解消され、免疫による腫瘍排除の効率が上がることが示された。
【0184】
実験例17
実験例1及び2並びに実験例6及び7で、PAI-1は、がん細胞、及び腫瘍周囲環境を構成する細胞群(免疫抑制性細胞:TAM,CAF)のPD-L1の発現を誘導することを示した。ここでは、PAI-1が発現誘導するPD-L1が、がん免疫を抑制することを確認するために、以下の実験を行った。
図17の(A)に示すように、マウス(C57BL/6)の脾臓から単離したT細胞を、抗CD3抗体と抗CD28抗体で一晩刺激した(activated T cell)。並行して、がん細胞株(マウス悪性黒色腫細胞:B16F10)の培養液にrPAI-1を添加し、一晩培養してPD-L1の発現を誘導した。これらからT細胞とがん細胞(B16F10)を回収し、混合してさらに一晩共培養した。
培養後に細胞を回収し、抗CD3抗体、抗CD8抗体、抗CD69抗体、抗Perforin抗体、抗GranzymeB抗体で染色して、フローサイトメーターで解析した(B)。
CD69抗原の発現量を指標にしてT細胞の活性化の程度を解析したところ、(C)に示すように、がん細胞と共培養したCD8+T細胞はCD69の発現上昇を伴って活性化したが、PAI-1を添加したがん細胞との共培養ではCD69の発現の上昇は認められなかった。また、(D)及び(E)に示すように、Perforin及びGranzymeBの発現量も、CD69と同じ傾向を示した。なお、Perforin及びGranzymeBは、がん細胞をCD8+T細胞が傷害する際に放出される分子である。
これらのことから、がん細胞や免疫抑制性細胞において、PAI-1が発現誘導するPD-L1によってがん免疫が抑制されることが明らかになった。
【0185】
実験例18
PAI-1がPD-L1の発現を誘導するメカニズムを明らかにするために、がん細胞株(B16F10)の培養液にrPAI-1を添加し、6時間培養後、細胞を回収し、JAK/STAT分子のリン酸化の程度を解析した。
結果を図18に示す。図18の(A)に示すように、rPAI-1の添加によってJAK1, TYK2, 及びSTAT3の発現量が上昇するか、またはリン酸化が誘導されることが明らかとなった。また(B)に示すように、rPAI-1によって誘導されるPD-L1の発現上昇は、rPAI-1と同時にSTAT3の阻害剤(BP-1-102, C188-9)を添加することで抑制されることが確認された。この結果から、PAI-1によるPD-L1発現の誘導は、JAK/STAT経路の活性化により生じることが明らかとなった。
【0186】
実験例19
PAI-1がPD-L1の発現を誘導するメカニズムを明らかにするために、PAI-1の受容体であるLRP1と、uPAの受容体であるuPARについて解析した。具体的には、LRP1を欠損させたがん細胞株(B16F10; LRP1-KO)と、uPAとuPARの結合を阻害する中和抗体(uPAR blocking Ab)を用意した。
図19の(A)に示すように、がん細胞株(B16F10)の培養液にrPAI-1とuPAR中和抗体を添加し、PD-L1発現誘導を行ったが、PD-L1の誘導は生じなかった。図19の(B)に示すように、LRP1欠損がん細胞株(LRP1-KO)の培養液にrPAI-1を添加し、PD-L1発現誘導を行ったが、PD-L1の誘導は生じなかった。このことから、PAI-1は、PAI-1/LRP1/uPA/uPARの複合体を形成してPD-L1発現誘導シグナルを伝達していることが明らかとなった。
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