(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】醗酵堆肥とその製造方法
(51)【国際特許分類】
C05F 11/08 20060101AFI20240116BHJP
C05D 9/02 20060101ALI20240116BHJP
A01G 7/06 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C05F11/08
C05D9/02
A01G7/06 A
(21)【出願番号】P 2022097520
(22)【出願日】2022-06-16
【審査請求日】2023-09-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522240634
【氏名又は名称】齋藤 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100165135
【氏名又は名称】百武 幸子
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隆
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-201089(JP,A)
【文献】特開2005-289855(JP,A)
【文献】特開平11-314987(JP,A)
【文献】特開2016-044106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05F
C05D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともマンガン、マグネシウム、カルシウム、カリウム、ホウ素を
含ませて緩衝液を製造する工程と、
糠に麹菌を植菌する工程と、
植菌された前記糠に、前記緩衝液を混合する工程と、
そば殻に前記緩衝液を混合する工程と、
籾殻に前記緩衝液を混合する工程と、
前記糠に前記そば殻を混合する工程と、
前記糠と前記そば殻の混合物に、前記籾殻を混合して醗酵させる第1の醗酵工程と、
を含むことを特徴とする醗酵堆肥の製造方法。
【請求項2】
請求項
1に記載の醗酵堆肥の製造方法において、前記第1の醗酵工程の後に更に、
糠に麹菌を植菌する工程と、
植菌された前記糠に、前記緩衝液を混合する工程と、
そば殻に前記緩衝液を混合する工程と、
籾殻に前記緩衝液を混合する工程と、
前記糠に前記そば殻を混合する工程と、
前記糠と前記そば殻の混合物に、前記籾殻を混合し、更に、耐塩性酵母、乳酸菌、酪酸菌液のうち1又は2以上を加え、前記第1の醗酵工程後の醗酵堆肥を混合して醗酵させる第2の醗酵工程と、
を含むことを特徴とする醗酵堆肥の製造方法。
【請求項3】
請求項
2に記載の醗酵堆肥の製造方法において、前記第2の醗酵工程の後に更に、
糠に麹菌を植菌する工程と、
植菌された前記糠に、前記緩衝液を混合する工程と、
そば殻に前記緩衝液を混合する工程と、
籾殻に前記緩衝液を混合する工程と、
前記糠に前記そば殻を混合する工程と、
前記糠と前記そば殻の混合物に、前記籾殻を混合し、更に、耐塩性酵母、乳酸菌、酪酸菌液のうち1又は2以上を加え、前記第2の醗酵工程で製造された醗酵堆肥を混合して醗酵させる第3の醗酵工程と、
を含むことを特徴とする醗酵堆肥の製造方法。
【請求項4】
請求項
1~3のいずれか1項に記載の醗酵堆肥の製造方法において、前記緩衝液には、更に、硫黄、ケイ素、ナトリウム、鉄、亜鉛、銅、アルミニウム、セレン、ヨウ素、モリブデン、ニッケル、クロム、コバルト、塩素、リンのうち1又は2以上を
含ませること、及び/又は海洋性の粘土を混合した水を含ませること、を特徴とする醗酵堆肥の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物の醗酵作用を使用した醗酵堆肥とその製造方法に関する。特に、植物の光合成を促進させる効果が期待でき、植物が必要なミネラルを取り込むことができる醗酵堆肥とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不要となった有機資材が、微生物の醗酵作用を使用して、飼育資材や農作肥料、堆肥として再生利用されている。有機資材としては、農産物破棄資材や食品加工過程で生じた破棄資材、水産食肉加工の破棄資材、飼育動物の排泄物、皮革工場の廃棄材、下水処理場の残さ等がある。例えば、米ぬかや油かす等の有機資材に土や籾殻を加えて醗酵させた肥料、いわゆるぼかし肥料が知られている。また、飼育される動物の栄養強化を目的として、有機資材に栄養添加剤(ビタミン類やアミノ酸類等)を添加して醗酵させた飼料が知られている。
【0003】
上記のような有機資材から農作肥料や堆肥を製造する方法には様々な方法がある。例えば、特許文献1には、生ゴミを中心とする食品系廃棄物のような有機性廃棄物を原料とした有機肥料が開示されている。この発明によると、土壌の物理・化学・生物性の改善といった土づくり資材としての効果と、基肥効果等があるとされている。また、特許文献2には、畜産糞尿等を使用した堆肥の短期製造方法が開示されている。この発明によると、堆肥の熟成期間が極めて短く、リン成分が高いため、栽培作物の病害虫に対する抵抗性が高く、作物品質も高いとされている。特許文献3には、おが粉を主原料とする茸廃培地と、籾殻と、麹菌とが少なくとも含まれている混合体を醗酵させて製造した堆肥が開示されている。この発明によると、大量に排出される茸廃培地と籾殻の有効利用が可能になる。
【0004】
また、近年、植物の光合成の機能は解明されてきている。葉の構成物質である葉緑素と、生理現象としてのアミノ酸等蛋白質と、糖類と、それらを関連させる酵素などの生理作用で、太陽光の刺激で電子エネルギーを生み出して、光合成が行なわれている(例えば、非特許文献1)。また、植物の光合成における水分解反応の機構の核が解明されてきており、水分子を分解する触媒の立体構造のクラスターには、マンガン原子、カルシウム原子が含まれていることが判明している(非特許文献2参照)。植物の光合成を促進させるために、ミネラル資材を含んだ植物活性剤等の化学肥料が販売されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-241637号公報
【文献】特開2016-44088号公報
【文献】特開2016-44106号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】監修 三室守、協力 笹岡晃征/野口 巧/横田明穂、雑誌「ニュートン」(ニュートンプレス出版)、2008年4月号「光合成」、p28~43
【文献】“光合成における水分解反応の機構の核心に迫る成果 光化学系II複合体が酸素分子を発生する直前の立体構造を解明 ―人工光合成触媒開発の糸口に―”[online]岡山大学、2017年2月21日、[令和4年5月25日検索]、インターネット[https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id448.html]
【文献】渡辺和彦、“ミネラル管理の重要性、作物と人の健康”[online]、日本土壌肥料学会2008年度愛知大会公開シンポジウム、[令和4年5月25日検索]インターネット[https://www.hifa.or.jp/wp-content/uploads/2016/12/pdf1.pdf]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1~3に示すような、有機資材から農作肥料又は堆肥は、微生物の醗酵作用を使用して製造されたものであるが、更にミネラル資材を添加してミネラルを充分に補ったものではない。従来の醗酵作用による堆肥は、有機資材に含まれるミネラルを利用し、不足する分は他の有機資材を選別して利用し、更に不足すれば化学肥料で補う方法しかなかった。植物と人間のミネラルの重要性は、例えば非特許文献3で指摘されているが、土壌にミネラルが不足することにより、土壌中の細菌類が偏り或いは死滅してしまい、その結果、作物のミネラルが不足して、人間の健康にも影響を与えている。そのため、農作物育成の生理的機能の強化を図るために、ミネラル資材を添加して醗酵させた強化堆肥が望まれる。
【0008】
また、植物の光合成を促進させるミネラル資材を含んだ植物活性剤等の化学肥料が販売されているが、植物の光合成を促進させ、麹菌、乳酸菌、酵母、酪酸菌、枯草菌、納豆菌類等による、錯塩、錯体、キレート化されたミネラル群を効率的に生産する堆肥はなかった。土壌に化成肥料や配合肥料ばかり施してしまうと、野菜の収穫が短期間で済む、見た目のよい作物ができる等の利点はあるが、土壌の状態が徐々に悪化していき、収穫量も品質も落ちる恐れがある。そのため、土壌自体の改良が必要であり、そのための堆肥が望まれている。特に、土壌中に生存する微生物の醗酵作用を使用し、不足している必須ミネラルを補い、光合成を促進させる堆肥が望まれる。
【0009】
本発明は上記課題に鑑み、微生物の醗酵作用を使用し、植物の光合成を促進させる効果が期待でき、ミネラル成分が豊富な醗酵堆肥とその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、少なくともマンガン、マグネシウム、カルシウム、カリウム、ホウ素を含ませて緩衝液を製造する工程と、糠に麹菌を植菌する工程と、植菌された前記糠に、前記緩衝液を混合する工程と、そば殻に前記緩衝液を混合する工程と、籾殻に前記緩衝液を混合する工程と、前記糠に前記そば殻を混合する工程と、前記糠と前記そば殻の混合物に、前記籾殻を混合して醗酵させる第1の醗酵工程と、を含むことを特徴とする醗酵堆肥の製造方法である。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の醗酵堆肥の製造方法において、前記第1の醗酵工程の後に更に、糠に麹菌を植菌する工程と、植菌された前記糠に、前記緩衝液を混合する工程と、そば殻に前記緩衝液を混合する工程と、籾殻に前記緩衝液を混合する工程と、前記糠に前記そば殻を混合する工程と、前記糠と前記そば殻の混合物に、前記籾殻を混合し、更に、耐塩性酵母、乳酸菌、酪酸菌液のうち1又は2以上を加え、前記第1の醗酵工程後の醗酵堆肥を混合して醗酵させる第2の醗酵工程と、を含むことを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の醗酵堆肥の製造方法において、前記第2の醗酵工程の後に更に、糠に麹菌を植菌する工程と、植菌された前記糠に、前記緩衝液を混合する工程と、そば殻に前記緩衝液を混合する工程と、籾殻に前記緩衝液を混合する工程と、前記糠に前記そば殻を混合する工程と、前記糠と前記そば殻の混合物に、前記籾殻を混合し、更に、耐塩性酵母、乳酸菌、酪酸菌液のうち1又は2以上を加え、前記第2の醗酵工程で製造された醗酵堆肥を混合して醗酵させる第3の醗酵工程と、を含むことを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項1~3のいずれか1項に記載の醗酵堆肥の製造方法において、前記緩衝液には、更に、硫黄、ケイ素、ナトリウム、鉄、亜鉛、銅、アルミニウム、セレン、ヨウ素、モリブデン、ニッケル、クロム、コバルト、塩素、リンのうち1又は2以上を含ませること、及び/又は海洋性の粘土を混合した水を含ませること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の醗酵堆肥によると、植物の光合成を促進させる効果が期待でき、植物が必要なミネラル成分を効率的に吸収することができる。また、本発明の醗酵堆肥の製造方法によると、醗酵管理をほとんど無手入れで行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】一次醗酵、二次醗酵、三次醗酵で製造する醗酵堆肥の配合例を示す表である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る醗酵堆肥の製造フロー図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係る醗酵堆肥の製造フロー図である。
【
図5】本発明の第3の実施形態に係る醗酵堆肥の製造フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態(以下実施例と略称する)を、図面に基づいて説明する。なお、実施例では、糠の一例として米糠を使用する場合を説明するが、本発明はこれに限らず、そば糠や小麦の糠、大麦の糠等、あらゆる糠を使用することができる。
【実施例1】
【0014】
[準備工程]
本実施例では、一次醗酵を行って製造する醗酵堆肥について説明する。醗酵堆肥の製造には、少なくともマンガン、マグネシウム、カルシウム、カリウム、ホウ素
を含ませた緩衝液と、麹菌が植菌された米糠と、そば殻と、籾殻を準備する。醗酵繁殖の主材料の米糠は、高い貴重な核酸物質を含んだ蛋白、炭水化物、油脂質の原料である。
図1に米糠(1kg)に含まれる成分を示す。米糠は優れた栄養効果がある一方、米糠単体で醗酵管理するには薄く培地を造り醗酵させなければならないため、生産性に問題が生じる。また、醗酵管理上、米麹菌の生育増殖が進むと、培地に菌糸が繁茂して通気性が悪くなる。培地の通気性が悪くなると、高温で雑菌の繁殖が活発になり良質の管理ができないため、手入れをして培地をほぐす必要がある。培地をほぐす作業は、かなり負担がかかる。
【0015】
そば殻と籾殻を使用する理由は、そば殻と籾殻の空気層で酸素を確保し、通気性を保ち発熱し易い培地を積層でき、温度管理がし易くなり、大量に製造できる量産効果を得るためである。また、そば殻と籾殻を入れることで、培地をほぐす手入作業が軽減される。また、そば殻は特に外皮条件が滑り易く固まりにくい物性を持っているため扱い易い材料であることに加え、そば殻の持つポリフェノール効果も大きい。
【0016】
そば殻と籾殻は難分解性の穀類外皮であるが、圃場中の土壌を調べると10ヶ月程度経っている時期は略分解終了時期の様な分解外皮が残っているのが認められる。外皮に定着した枯草菌類は難解性のペントサン、リグニン、セルロースを効率的に分解し続けるので長期に土壌菌類に効果をもたらす。さらに光合成を補完するケイ酸も取り入れられる。
【0017】
植物外皮はとても重要な有機質である。籾殻のミネラル成分(%)は、以下に示す通りである(農研機構の付属データ:https://www.naro.affrc.go.jp/org/nkk/soshiki/soshiki07-shigen/01shigen/pdf/sekkeitohyouka/huzoku-1.pdf)。
籾殻(含水率9.4%)のミネラル成分(%)
リン(P) 0.03
リン酸(P2O5) 0.058
カリウム(K) 0.31
酸化カリウム(K2O) 0.37
カルシウム(Ca) 0.0080
マグネシウム(Mg) 0.071
ナトリウム(Na) 0.13
【0018】
また、そば殻の原料に含まれるミネラル成分(%)は以下の通りである(「平成20年度 普及に移す農業技術特殊肥料(蕎麦殻発酵)長野県(蕎麦殻堆肥の原料成分)https://www.pref.nagano.lg.jp/nogi/sangyo/nogyo/gijutsu/fukyugijutsu/200802/documents/082h20.pdf」より)。
リン酸(P2O5) 0.46
酸化カリウム(K2O) 0.72
酸化カルシウム(CaO) 1.69
酸化マンガン(Mg) 0.31
【0019】
製造工程前に、米糠とそば殻と籾殻を重量比で1:1:1の割合で配合するように準備する。本実施例では、米糠3.3L/kg、そば殻5L/kg、籾殻8L/kgを使用し、それぞれの加水される水分量は略50%である。一次醗酵では、米糠とそば殻と籾殻を、それぞれ30kg準備する。米糠とそば殻と籾殻は、上記のものに限定されず、使用する量も適宜変更することができる。
【0020】
図2は、一次醗酵、二次醗酵、三次醗酵で製造する醗酵堆肥の配合例を示す表である。仕込み概算総重量で本実施例の少量型(仕込み量約950l/270kg 内糠60kg)、中間量型(1600l/460kg内糠100kg)と大量型(2400l/650kg内糠150kg)の3種類の配合例を作成した。醗酵堆肥をどの容量で製造するかは、
図2の表を基にして決定する。
【0021】
[緩衝液]
植物の光合成促進と育成に必要な成分を
含ませて緩衝液を作成する。醗酵培地になる有機質材(米糠とそば殻と籾殻)を構成しているミネラル成分(ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、鉄、亜鉛、銅)の数値や有機質(蛋白質、脂肪、脂肪酸、炭水化物、繊維質、ビタミン類)の数値が栄養成分表(
図1等)で明らかになっている。この栄養成分表を参考にして、足りないミネラル成分を補うよう、また、光合成を促進させるように配合設計する。植物の光合成促進と、植物の育成に必要なミネラル成分を配合設計した結果、本実施例の緩衝液で必ず使用する成分は、マンガン、マグネシウム、カルシウム、カリウム、ホウ素である。それぞれの成分が必要な理由について説明する。
【0022】
(1)マグネシウムと(2)マンガン
植物の光合成の機能は大まかには解明されており、前述のように、葉の構成物質である葉緑素と、生理現象としてのアミノ酸等蛋白質と、糖類と、それらを関連させる酵素などの生理作用で、太陽光の刺激で電子エネルギーを生み出し光合成が行なわれている。関連する組織や仕組みに内在するミネラルが今回の添加するミネラル成分緩衝液であり、葉緑素のマグネシウムとマンガンクラスター、アミノ酸とリン酸である。
(3)カルシウム
前述のように、植物の光合成の水分解において水分子を分解する触媒の立体構造のクラスターには、マンガンとカルシウムが含まれていることから、緩衝液には、マンガンとカルシウムは必須である。
(4)カリウム
穀類の胚芽成分を見ると多いのはリン、カリウム、マグネシウム,カルシウムと、ナトリウム、鉄、亜鉛、銅の微量成分である。これら全てを加えるべきだが、手に入りやすい材料を優先した試作施肥で実験した結果、確かめられたミネラル成分としてカリウムがあり、満足のいく農作物を収穫することができたことから必須と考える。
(5)ホウ素
農作物が風や雨でダメージを受けるとか、昆虫の食害で傷を受けると植物は免疫力、復元回復などの作用で皮膚補修をするが、ホウ素はその作用を支える成分である。農作物の風力での擦り合わせや食害に対する抗体性を支えるために、ホウ素は必須と考える。
【0023】
配合設計した緩衝液の最少の配合比は、マンガン100(mg)、マグネシウム300(mg)、カルシウム500(mg)、カリウム300(mg)、ホウ酸50(mg)で
ある。この配合の成分を含ませて緩衝液を作成し、醗酵堆肥を製造したところ、収穫量も多く、味覚的にも満足のいく農作物を収穫することができた。
【0024】
農作物の光合成機能に直接関連するミネラルはマンガン、マグネシウム、カルシウム、
リンであり、葉緑素の生成には鉄が、光合成、代謝、生合成の生理作用と電子伝達には銅と様々なミネラルが関与している。そのため、緩衝液には上記の5つの成分以外にも更に、硫黄、ケイ素、ナトリウム、鉄、亜鉛、銅、アルミニウム、セレン、ヨウ素、モリブデン、ニッケル、クロム、コバルト、塩素、リンのうち1又は2以上を入れることが好ましい。これらの成分は、有機質材の成分に応じて適宜、調整して加える。一例として、二酸化マンガン、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、塩化カリウム、ホウ酸、ケイ酸カルシウム、塩化ナトリウムを含ませて緩衝液を作成することができる。
【0025】
上記の追加の成分に加え、天然資源のクレイ(海洋性の粘土)を混合した水を含ませることもできる。追加の成分を加えずに、天然資源のクレイ(海洋性の粘土)のみを混合した水を含ませることもできる。天然資源のクレイは、例えば、八幡砿業株式会社の商品であり、海洋性の粘土であるタナクラクレイ(登録商標)を使用する。このクレイ資材には、ケイ酸を主成分に、アルミニウム、カルシウム、鉄、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、チタンなど、59種類ものミネラルが確認されている。緩衝液にクレイを混合した水を含ませることは、本発明の必須構成ではないが、クレイを入れることで、ミネラル成分が豊富になり、醗酵堆肥の熟成を促進させる効果等が期待される。クレイを緩衝液に入れる場合には、例えば米糠50kgに、その10分の1の5kg以下の量を入れる。
【0026】
[一次醗酵堆肥の製造工程]
前述の米糠、籾殻、そば殻と緩衝液を使用した醗酵堆肥の製造方法について、
図3を参照して説明する。
図3は、本実施例の醗酵堆肥の製造フロー図である。
【0027】
[ステップS11:米糠に麹菌(麹カビ)を植菌]
まず、本実施例では、良質の醗酵管理、育成ができる日本麹カビ(醸造用に純粋培養された酵素強化カビ)を種菌とする。培地を殺菌する事無く麹菌を繁殖させるには、大量の菌を植菌する必要がある。また、野生種の糸状菌にはアフラトキシン、マイコトキシン等の毒物が生産されるものも多いため、安全で酵素力価が3~5倍有る菌株である日本麹カビを使う。麹菌体は二次、三次醗酵時の酵母菌、乳酸菌酪酸菌、枯草菌類の餌となる。使用する米糠、籾殻、そば殻には、もともと野生種微生物が付着しているが、それら野生種の微生物に対抗し数の力で醗酵増殖させるには醗酵初段階で勢いを獲得する為、米糠10kg当たり2kgの量(100億個以上の菌数)の多量種麹を混合撹拌する。種麹の強い発芽力で初期段階でのコンタミ現象は起きない。使用する麹菌は、5×106~7/1gの菌数を持つ純粋麹菌である。このような麹菌を使うことで、雑菌に負けない安定した醗酵管理ができる。
【0028】
[ステップS12:そば殻に緩衝液を混合]
そば殻に前述の緩衝液を撹拌混合させる。この工程は、米糠に麹菌する工程(S11)の前に行ってもよいし、同時に行ってもよい。そば殻30kgに、その重量の半分の重量の緩衝液を撹拌混合させる。混合撹拌後(夏場で2時間、冬場で1日)養生して置く。そば殻に緩衝液を混合する事で、硬い空気層を包含するそば殻がミネラル分でコーテングされ、醗酵中に枯草菌、酪酸菌等の菌類が繁殖定着し、堆肥施肥された後に土壌細菌長期間にわたり生育増殖し続け、土壌菌類に良い繁殖環境が作られると考えられる。施肥効果は即効性と持続性が必要で長期(6ヶ月~1年程)にわたり菌の効果が持続していると考えられる。
【0029】
[ステップS13:籾殻に緩衝液を混合]
同様に、籾殻に前述の緩衝液を撹拌混合させる。この工程は、米糠に麹菌する工程(S11)や、そば殻に緩衝液を混合する工程(S12)の前に行ってもよいし、同時に行ってもよい。籾殻30kgにその重量の半分の重量の緩衝液を撹拌混合させる。混合撹拌後(夏場で2時間、冬場で1日)養生して置く。そば殻と同様に、籾殻に緩衝液を混合する事で、硬い空気層を包含するもみ殻がミネラル分でコーテングされ、前述と同様な効果が得られる。
【0030】
[ステップS14:米糠とそば殻を混合、緩衝液を追加し、更に混合]
次に緩衝液を混合処理されたそば殻を米糠と混合し、殼の内外に充分、植菌糠が行き渡るよう混合攪拌する。その上で不足している緩衝液(米糠の重量の50%の緩衝液)を混合攪拌する。米糠とそば殻のみを最初に混合させることが重要である。この順序を違えると塊化してコンタミ現象で培地が高熱化して菌体溶融などを起こす原因となる。米糠とそば殻を混合攪拌し、そば殻の内壁面と外壁面に米糠が付着するのを確認する。
【0031】
[ステップS15:籾殻を混合]
そば殻に充分、米糠が付着するのを確認した後、籾殻を混合攪拌する。籾殻を混合攪拌した後、醗酵(一次醗酵)が始まる。好気性麹糸状菌の増殖培養は、糸状菌の醗酵発熱と菌糸の繁茂で培地が塊化し通気性の悪化で高温と酸欠で麹菌が溶解死滅やバクテリア繁殖、腐敗状態になる。それらを防ぐため、そば殻の表皮が持つ界面物性が塊化を防ぎ、籾殻の内包する空気利用で酸欠を防ぐ。例えば、農家のビニールハウスの土間床にブルーシートを敷き、その上に通気性を確保するため、すのこを置く。すのこ上に防虫目的で建築防塵用の養生ネットを敷き、その上に籾殻を混合攪拌した培地を夏場は20~30cmの厚さに堆積層が平均になるよう均してネットで覆う。冬場は40~60cmの厚さに均してネットで覆い、好気性培養を行う。通常は好気性糸状菌の麹カビを培養させ、20時間程で切り返して培地を揉みほぐさなければ、糸状菌の繁茂は強烈で適正品温を維持できないが、そば殻、籾殻の十分空気量を含んだ混合培地は無手入れで醗酵を続ける事ができる。
【0032】
[醗酵堆肥]
籾殻を混合して仕込み後、約20時間の発芽時期を乗り切れば麹培養で、完成時には培地がカステラ状に麹菌糸が繁茂して、醗酵堆肥が仕上がる。植菌温度の設定は外気条件で左右される。冬場は気温が低く夏場は高くなるため、スタート品温設定は大事な管理技術になる。麹菌にとって種付け最適温度は32~35℃程が望ましいが、冬場は品温を保持すのが難しく、夏場は麹菌の発熱で40℃以内に保つのが難しくなる。従って、冬場は20℃を保つように保温で品温の低温化を防ぎ、外気が高い夏場は30℃以下に設定する。本実施例では、夏場はスタート品温を30℃内に設定し5日程度、冬場はスタート品温20℃に設定し10日程度、培養すれば、問題なく培養育成できる。
【0033】
本発明の特徴の一つは機械化装置(強制通風や手入れ機械装置)を使わず無手入れで、麹菌醗酵終了時まで管理できることである。その理由は、そば殻の持つ殻表面の界面物性の不付着性と不塊性の特徴があり、籾殻は逆に殻表面が荒肌で絡み易いが籾殻の内包空気量が多いため、醗酵期間中、無手入れで麹菌の好気性を保持するために必要な空気が供給される。一次醗酵の終了時には、繁茂した麹菌糸で培地が絡み合い有機分解の香ばしい麹臭で包まれ一部アルコール臭が発生する。以上のように、一次醗酵が終了し、醗酵堆肥が完成する。
【0034】
本発明は、例えば、作付け4~5反歩程の農家で米糠60kgを使用し、年間2~6回仕込み規模で、1人の管理により、光合成促進の効果が期待できる醗酵堆肥の製造方法である。それにより、いわゆるオーガニック農業が実現できる。工業規模での生産を考慮すれば、機械化された混合装置、醗酵培養槽、コンベアー、充填装置などの装置が必要になる。培地の高堆積での醗酵育成管理を品温自動制御し、強制通風など送風機、コンプレサー等が必要になる。
【実施例2】
【0035】
本実施例では、一次醗酵後、二次醗酵を行って製造する醗酵堆肥の製造方法について説明する。二次醗酵からは、別途培養した菌類と原料素材に付着している野生種の細菌類を利用する多種多様、多層多重醗酵を繰り返す事で、より多くのキレート構造の錯塩体を作り出すことができる。本実施例においても、準備工程と、植物の光合成促進と育成に必要な成分を
含ませて緩衝液を作成する工程は、実施例1と同様である。緩衝液に含まれる成分は、一次醗酵で使用した成分と同じでもよいし、変えてもよい。米糠とそば殻と籾殻を重量比で1:1:1の割合で配合されること、それぞれの水分量は略50%である米糠3.3L/kg、そば殻5L/kg、籾殻8L/kgを使用することも実施例1と同じである。二次醗酵においても
図2の配合例を基にして、米糠とそば殻と籾殻を、それぞれ20kg準備する(実施例1の3分の2の重量)。
【0036】
[二次醗酵堆肥の製造工程]
前述の米糠、籾殻、そば殻と緩衝液を使用した醗酵堆肥の製造方法について、
図4を参照して説明する。
図4は、本実施例の醗酵堆肥の製造フロー図である。
【0037】
[ステップS21~S25]
ステップS21の米糠に麹菌(麹カビ)を植菌する工程と、ステップS22のそば殻に緩衝液を混合する工程と、ステップS23の籾殻に緩衝液を混合する工程と、ステップS24の米糠とそば殻を混合、緩衝液を追加し、更に混合する工程と、ステップS25の籾殻を混合する工程は、実施例1と同様であるため、説明を省略する。S22~S24で混合する緩衝液の量は、それぞれそば殻と籾殻と米糠の重量の半分の重量を使用する。
【0038】
[ステップS26:耐塩性酵母、乳酸菌、酪酸菌液を混合]
[ステップS27:一次醗酵堆肥を混合、醗酵管理]
ステップS25の籾殻を混合した後に、二次醗酵では、前述の醸造用種麹菌と培養強化した耐塩性酵母、乳酸菌、酪酸菌液を併用し、混合菌で醗酵を継続醗酵させる(S26)。それに加え、一次醗酵堆肥を混合する(S27)。それにより、自然界の多種多様性の微生物菌類の繁殖で変成効果が得られる。本実施例でも実施例1と同様に、無手入れ醗酵管理を行う。夏場で5日間、冬場で10日程度は無手入れで継続して醗酵管理ができる。醗酵を管理する上で2段階或は3段階に設定するのは、醗酵開始時に大量の麹菌を使うことで、初期段階の麹菌の強力な生育増殖力で野外に生息する野生菌の影響を防ぐことと、初期段階で麹菌の繁殖力で大量菌糸にキレートミネラルを確保することと、後段の微生物(乳酸菌、酵母菌、酪酸菌、枯草菌、納豆菌類)の繁殖に必要な良質の栄養源を作り出すためである。
【0039】
[二次醗酵堆肥]
一次醗酵堆肥と同様に、完成時には培地がカステラ状に麹菌糸が繁茂して、醗酵堆肥が仕上がる。以上のように、二次醗酵が終了し、二次醗酵堆肥が完成する。
【実施例3】
【0040】
本実施例では、一次醗酵、二次醗酵後に三次醗酵を行って製造する醗酵堆肥について説明する。本実施例においても、準備工程と、植物の光合成促進と育成に必要な成分を
含ませて緩衝液を作成する工程は、実施例1、2と同様である。緩衝液に含まれる成分は、一次醗酵、二次醗酵で使用した成分と同じでもよいし、変えてもよい。三次醗酵においても
図2の配合例を基にして、米糠とそば殻と籾殻を、それぞれ10kg準備する(実施例1の3分の1の重量)。
【0041】
[三次醗酵堆肥の製造工程]
前述の米糠、籾殻、そば殻と緩衝液を使用した醗酵堆肥の製造方法について、
図5を参照して説明する。
図5は、本実施例の醗酵堆肥の製造フロー図であり、一次醗酵堆肥から三次醗酵堆肥までの製造フロー図である。三次醗酵堆肥の製造工程は、二次醗酵堆肥の製造工程と同様である。
【0042】
[ステップS31]
前述のステップS11~S15の一次醗酵堆肥の製造工程により、一次醗酵管理(夏場で5日間、冬場で10日程度)を行う。前述のように、米糠とそば殻と籾殻の分量はそれぞれ30kgである。
【0043】
[ステップS32]
次にステップS21~S27の二次醗酵堆肥の製造工程により、二次醗酵管理(夏場で5日間、冬場で10日程度)を行う。米糠とそば殻と籾殻の分量はそれぞれ20kgである。
【0044】
[ステップS33]
最後にステップS21~S26の製造工程を、米糠とそば殻と籾殻の分量をそれぞれ10kgにして行う。その後、二次醗酵堆肥を混合し、三次醗酵管理(夏場で5日間、冬場で10日程度)をする。以上のようにして三次醗酵堆肥が完成する。
【0045】
出来上がった醗酵培地には、糠成分の核酸系物質、菌類の酵素によって分解されたアミノ酸類、炭水化物分解質の糖類、油脂分解質の脂肪酸類それらの分解質に取り込まれたミネラル成分は作物の毛根から吸収され易くなり、毛根部周辺の根圏微生物の栄養源にも寄与され作物の育成環境の活力増進になる。ミネラル成分を作物に吸収させるには自然サイクルでは木の落ち葉が積り腐敗し可溶性になり地中に浸透する、あるいは有機物が糸状菌や黴や菌類の餌になり分解し細分化されミネラル群も植物の根圏での分解変性過程で有機酸やアミノ酸、脂肪酸等と麹菌繁殖で分泌された酵素、分解された生成物質の配糖体等に取り込まれ混在する事で吸収できる。安定した状態でミネラル成分が吸収し易いのはキレート構造の中に取り込まれる形態のミネラル成分であると考えられる。
【0046】
以上説明した様に、本発明の醗酵堆肥及びその製造方法によって、植物の光合成を促進させる効果が期待でき、麹菌と後発の乳酸菌、酵母、酪酸菌、枯草菌、納豆菌類による、錯塩、錯体、キレート化されたミネラル群を効率的に生産させることができる。光合成の機能に関連したミネラルだけで無く、土壌中の細菌まで視野に入れた多種多様性のある醗酵堆肥である。また、好気性糸状菌の個体醗酵は必ず切り返し,手入れが必要であるが、本発明の醗酵堆肥は、無手入れで醗酵管理できる。更に、二次醗酵、三次醗酵まで行うことで、いく層もの菌株により多収穫の錯体が得られる。
【0047】
現在、販売されている肥料は、作物の育成上、窒素、リン酸、カリウムが主体でその配合比を組み合わせた化成肥料が主体であり、その結果、土壌中の細菌類が偏り或いは死滅してしまうという事態があったが、本発明の醗酵堆肥により、作物育成圃場に健全な微生物環境改善が期待できる。
【0048】
なお、上述した実施例の醗酵堆肥及びその製造方法は一例であり、その構成と方法は発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更可能である。例えば、上述した実施例では、一次醗酵から三次醗酵までの醗酵堆肥の例を説明したが、それ以上に醗酵(四次醗酵等)させる堆肥でもよい。