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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】手術具
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/062 20060101AFI20240116BHJP
   A61B 17/28 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
A61B17/062 100
A61B17/28
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022563313
(86)(22)【出願日】2020-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2020043030
(87)【国際公開番号】W WO2022107251
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2023-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】505227043
【氏名又は名称】野村ユニソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】神澤 広樹
(72)【発明者】
【氏名】和田 健嗣
(72)【発明者】
【氏名】手塚 千加雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 篤
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-188323(JP,A)
【文献】特開2019-25105(JP,A)
【文献】特開2012-45031(JP,A)
【文献】特表2010-503457(JP,A)
【文献】特開平7-275253(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/062
A61B 17/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端が開閉する一対の処置片からなる処置ユニットと、
先端側に前記処置ユニットが接続され、長手方向線に沿って延びる棒状の棒状体と、
前記先端側に開口した穴を有し、当該穴の内壁において前記棒状体の後端側が前記長手方向線を中心に回動可能に係合した略筒状の固定筒部と、
使用者が把持する部位として前記固定筒部と一体に設けられた把持部と、を備えた手術具であって、
前記棒状体の外周面に装着されたスライダハンドルを更に備え、
前記スライダハンドルが前記棒状体に対し前記長手方向線に沿って前後にスライドし、かつ、前記長手方向線の回りに回動するように構成されており、
前記スライダハンドルを前記長手方向線に沿って前後させることで前記処置ユニットの前記一対の処置片が開閉し、かつ、前記スライダハンドルを前記長手方向線の回りに回動させることで前記処置ユニットが前記長手方向線の回りに回動し、かつ、前記処置ユニットの開閉及び回動を同時に行うことが可能に構成され
前記把持部は、
前記長手方向線から前記棒状体の径方向に突出して形成され、
使用者の指を掛けるための面であって当該面の接線が前記長手方向線と交差する方向に設定された指掛面を含み、前記長手方向線から前記径方向にオフセットした位置に配置されている指掛部と、
前記指掛部からみて前記後端側に配設された掌当部と、を有し、
前記指掛部は使用者の少なくとも中指を掛ける部位であり、
前記スライダハンドルは使用者の親指及び人差し指、又は、親指及び人差し指のうちいずれか一方の指によって操作されるものであり、
使用する際、中指を前記指掛部に掛け、かつ、親指及び人差し指、又は、親指及び人差し指のうちいずれか一方の指を使って前記スライダハンドルを前記長手方向線に沿って前後に動かすことにより前記処置ユニットの先端が開閉するよう構成されている、
ことを特徴とする手術具。
【請求項2】
請求項1に記載の手術具において、
前記棒状体には、先端に前記処置ユニットが係合した押し棒が含まれており、
前記スライダハンドル及び前記押し棒を連結し、前記スライダハンドルの前後動を前記押し棒の前後動に変換する第1連結部と、
前記スライダハンドル及び「前記処置ユニットの開閉軸を固定する前記棒状体の固定部」を連結し、前記スライダハンドルの回動を前記処置ユニットの回動に変換する第2連結部と、
前記押し棒の前後動を前記処置ユニットの開閉に変換する開閉変換部と、を備えた、
ことを特徴とする手術具。
【請求項3】
請求項に記載の手術具において、
各処置片には軸穴がそれぞれ形成されており、各処置片は前記軸穴よりも先端側の処置部と前記軸穴よりも後端側の操作部とをそれぞれ有しており、
前記一対の処置片は、それぞれの前記処置片の前記軸穴に共通に嵌挿された前記開閉軸で結合されており、
さらに、各前記操作部には、前記処置ユニットが閉じた状態のとき前記長手方向線に対し所定の角度を有するカム溝がそれぞれ形成されており、
前記押し棒の先端には、第1面に上ボスが設けられ、かつ、前記第1面と反対側の面である第2面には下ボスが設けられた平板が配設されており、
前記上ボスは一方の前記処置片の前記カム溝に係合し、前記下ボスは他方の前記処置片の前記カム溝に係合しており、
前記長手方向線に垂直な面で断面視したときに、前記処置ユニットの前記操作部及び前記平板は、前記押し棒を収容している中空パイプの外径の内側に納まっている、
ことを特徴とする手術具。
【請求項4】
前記スライダハンドルの表面に位置マーカーが設けられていることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の手術具。
【請求項5】
前記掌当部と前記スライダハンドルとの間の距離が変更可能となっていることを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の手術具。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載の手術具において、
前記処置ユニットの先端が、前記長手方向線から径方向に離れた位置に位置していることを特徴とする手術具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科手術で用いられる手術具に関する。
【背景技術】
【0002】
外科手術の際、微小な対象物を挟持するために用いられる挟持具が知られている。挟持具の一例として吻合針を挟持するための持針器が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載された手術具としての持針器(以下、従来の手術具という)は、図示を省略するが、軸を中心として先端及び後端が開閉する一対の挟持片から成る挟持部を含む処置具と、該一対の挟持片の先端を開閉する開閉機構及び処置具を回動自在に支持する回動機構を有する回動筒部を含むバレルと、該バレルの回動筒部に対して所定角度傾斜して取り付けられると共に、開閉機構を稼働するトリガーを含むグリップとを備える。また、従来の手術具は、トリガーを引いていないときでは挟持部の先端が閉じており、トリガーを引くと該先端が開くいわゆるノーマリ・クローズ構造となっている。
【0004】
従来の手術具によれば、中指を用いてトリガーを引きながら、挟持部を対象物まで近づけ、その後、中指の引き方を徐々に戻してトリガーを徐々に原点位置に戻すことにより対象物を挟持することができる。このように対象物が挟持されている状態で、人差し指と親指により回動筒部を挟み込み、これら2つの指で任意の方向に回動させることで挟持した対象物を回動させることができる。これにより、例えば、吻合針の曲がり方に倣って運針するといった微小操作を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-25105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
形成外科や整形外科においては、人体の表面から比較的浅い部位において上記したような手技を行うことが多いため、例えばリンパ管静脈吻合術のような微小操作を伴う手術においても従来の手術具を有効に活用することができる。
【0007】
一方で脳神経外科等の手術においては、人体の表面から比較的深い部位を術野として手術を行うことも多い。
図9は、脳神経外科等の手術において仮に従来の手術具9(持針器)を用いた場合の様子を示す模式図である。脳神経外科等の手術においては、例えば図9に示すように、人体(患者PA)の頭部HDの一部を開口し、頭部HD内に形成した狭く深い穴CAに対し上方から手術具9を挿入し、手術具9の挿入方向とほぼ同じ方向に顕微鏡900の対物レンズ910の光軸OAを向け、顕微鏡900を覗いて手術具9の先端付近の術野を目視しながら手技を行うことがある。
【0008】
このような脳神経外科等の手術では、顕微鏡900の直下の光軸OAに沿って上方から手術具を挿入することから、医師DRは手首を浮かせた状態で、換言すると手元がブレやすい状態で手術具9を操作することとなる。それに加え、このような脳神経外科等の手術で用いる手術具9の柄の部分(特許文献1に記載された持針器においてはバレルの部分がこれに相当する)は比較的長いものであるため、手元のブレが処置具の先端で増幅され易い。
【0009】
また、従来の手術具9は、上記したように中指を使ってトリガーを操作して処置具の先端の開閉を行うものとなっている。中指は、人差し指や薬指と共用する筋(腱)を用いて指を動かすことから、中指のみを独立して動かすことは薬指と同様に不得意であると言われている。もし、中指のみを独立して且つ微細に動かそうとすると、手の内部に広範に分布する筋(腱)を繊細なタッチで動かすこととなるため全体的に力んだ操作となり、精密な操作を行う指先の土台となっている掌や手首もブレやすい。そうしたことから従来の手術具9で処置具を開閉すると先端がブレやすくなり微細な手技を損なってしまう。
【0010】
参考までに、形成外科や整形外科の場合には上記したように人体の表面から比較的浅い部位で手技を行うことが多いため、従来の手術具9を用いたとしても持針器の長手方向の角度を目視する方向に対し大きく設定することができ、術野付近の視野を確保することが比較的容易となっている。加えて、持針器を持つ角度の関係から、医師は手首を術野の脇付近に固定することもでき、手元の操作もブレづらい環境となっている。
【0011】
そこで、本発明は上記した事情に鑑みてなされたものであり、従来に比べ、より的確に微細な手技を行うことができる手術具を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によれば、先端が開閉する一対の処置片からなる処置ユニットと、先端側に処置ユニットが接続され、長手方向線に沿って延びる棒状の棒状体と、先端側に開口した穴を有し、当該穴の内壁において棒状体の後端側が長手方向線を中心に回動可能に係合した略筒状の固定筒部と、使用者が把持する部位として固定筒部と一体に設けられた把持部と、を備えた手術具が提供される。
かかる手術具は、棒状体の外周面に装着されたスライダハンドルを更に備える。また、かかる手術具は、スライダハンドルが棒状体(ここでは押し棒を除く)に対し長手方向線に沿って前後にスライドし、かつ、長手方向線の回りに回動するように構成されている。さらに、かかる手術具は、スライダハンドルを長手方向線に沿って前後させることで処置ユニットの一対の処置片が開閉し、かつ、スライダハンドルを長手方向線の回りに回動させることで処置ユニットが長手方向線の回りに回動するよう構成されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来に比べ、より的確に微細な手技を行うことができる手術具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態1に係る手術具1の斜視図である。
図2】実施形態1に係る手術具1の断面図である。
図3】実施形態1の第1連結部に関係する構造を説明するために示す要部説明図である。
図4】実施形態1の第2連結部に関係する構造を説明するために示す図である。
図5】実施形態1の第2連結部に関係する構造を説明するために示す要部斜視図である。
図6】実施形態1の開閉変換部に関係する構造を説明するために示す図である。
図7】実施形態1に係る手術具1の使用例を説明するために示す斜視図である。
図8】実施形態2に係る手術具2の斜視図である。
図9】脳神経外科等の手術において仮に従来の手術具9を用いた場合の様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る手術具の実施形態について図面を参照して説明する。各図面は一例を示した模式図であり必ずしも実際の寸法、比率等を厳密に反映したものではない。図1~7は実施形態1の説明に用いるが本発明の具体的な実施例を示すものでもある。そのため実施形態1の具体例を説明するときに「実施例」というときがある。
【0016】
[実施形態1]
1.実施形態1に係る手術具1の構成
(1)手術具1の概要
【0017】
図1は実施形態1に係る手術具1の斜視図である。図2は実施形態1に係る手術具1の断面図である。なお、処置片11,12が湾曲する方向及び長手方向線LLを含む面と、把持部30及び長手方向線LLを含む面とは、必ずしも一致するものではないが、図2ではそれらが同一の面であると仮定して同一の図面に表している。
【0018】
図1及び図2に示すように、実施形態1に係る手術具1は、大きく捉えると処置ユニット10と、棒状体100と、固定筒部20と、把持部30と、スライダハンドル200とを備える。なお、本明細書において「長手方向線LL」とは、棒状体100の長手方向に沿った線であり、かつ、棒状体100が回動する際の中心軸をなす仮想的な線である。「下」とは、棒状体100の長手方向線LLから把持部30が突出する方向を概略いうものとし、「上」というのは「下」とは反対の方向をいうものとする。「上」及び「下」は便宜上の呼称であり、使用時には必ずしも鉛直方向に沿った上下の方向と一致するものではない。
【0019】
(2)処置ユニット10
処置ユニット10は、先端が開閉する一対の処置片11,12からなる。
処置ユニット10は、少なくとも2片に分かれており、開閉軸19(図2参照)を中心に先端同士が開閉するものであれば如何なるものであってもよい。ここでは吻合針を持つための持針具を例として説明を続ける。
なお、処置ユニット10は持針具に限定されるものではなく、対象物を握る・掴む等を行うための鑷子・鉗子であったり対象物を切断するための剪刀についても処置ユニット10として好ましく適用することができる。つまり、処置ユニット10は持針具、鑷子又は鉗子であってもよい。また処置ユニット10は剪刀であってもよい。
【0020】
実施形態1における処置ユニット10の先端は、長手方向線LLから径方向に離れた位置に位置している。実施例においては、処置片11,12の先端側が開閉軸19から処置片11,12の先端に向かうにつれて長手方向線LLから離れるようにして湾曲している。このような態様に限らず、例えば処置ユニット10の先端が、処置部11a,12a《後述する図6(a)参照》の中途から屈曲し略L字状になるようにしてもよい。
【0021】
(3)棒状体100
棒状体100は、処置ユニット10と固定筒部20(後述)との間を接続し、長手方向線LLに沿って延びる棒状の部材の総体をいうものとする。棒状体100には、後述する中空パイプ130、中空パイプ130の内側に嵌挿された押し棒110、中空パイプ130の外周面に接続されたバレル140等が含まれる。棒状体100の先端側には処置ユニット10が接続され、後端側には後述する固定筒部20、把持部30等が配置されている。詳細は後述するが、押し棒110の先端では平板120、平板120から突出した上ボス123,下ボス124を介して処置ユニット10が係合している。また、バレル140の内側には、長手方向線LLに沿って進退可能でかつ長手方向線LLの回りに回動可能となっている中空部材150が配置されている。中空部材150は、その中心軸が長手方向線LLに一致するように回動可能かつ、長手方向線LLに沿って前後に移動可能になっている。
なお、本明細書において「先端側」とは棒状体100に対して処置ユニット10が配置された側をいうものとし、「後端側」とは棒状体100に対して固定筒部20が配置された側を言うものとする。
【0022】
(4)固定筒部20
固定筒部20は、先端側に開口した穴22を有する略筒状の部位である。かかる穴22の内壁においては円周方向に沿って切られたガイド溝24(図2参照)が形成されている。一方、棒状体100を構成するバレル140の後端側には長手方向線LLから径方向RDに突出したフランジ形状のフランジ部144が形成されており、当該フランジ部144は固定筒部20のガイド溝24に係合している。別言すると、固定筒部20は、穴22の内壁において棒状体100の後端側(より具体的にはバレル140の後端側)が長手方向線LLを中心に回動可能に係合したものである。
なお、実施例では固定筒部20の開口部の形状が略円形になっているが、最終的に固定筒部20と棒状体100とが回動可能となっていれば、特に略円形に限定されるものではない。
【0023】
(5)把持部30
把持部30は、手術具1の使用者が把持する部位として固定筒部20と一体に設けられた部分である。実施形態1において、把持部30は、長手方向線LLから径方向RDに突出して形成されている。固定筒部20と把持部30とは一体的に形成(連成)されていてもよいし、双方別個に形成されたものが互いに連結されていてもよい。
【0024】
実施形態1の把持部30について詳しくみると、把持部30は少なくとも指掛部32及び掌当部34を有している。
指掛部32は、使用者の指を掛けるための面である指掛面32aを含む。指掛面32aの接線L1の方向は長手方向線LLと交差する方向となるように設定されている。逆にいうと、指掛面32aの接線は長手方向線LLと平行にはなっていない。実施例では、指掛面32aの接線が長手方向線LLと直交するものになっている。
指掛部32は、長手方向線LLから棒状体100の径方向に所定の寸法だけオフセットした位置に配置されている(図2参照)。オフセット量は、使用者の掌の寸法等に応じて設定され、概ね5mm~50mmの範囲内で設定されていることが好ましい。
【0025】
指掛部32は、使用者の少なくとも中指を掛ける部位である。しかしながら中指に限定されるものではなく、指掛部32は中指に加えて薬指も掛ける部位として構成してもよい。そうすれば、使用する際、中指及び薬指の2本の指と掌とで挟み込むようにして把持することとなり、手術具1を操作する際の基礎となる把持部30及び固定筒部20をより安定させることができ更に的確な手技を行うことができる(使用方法は後述)。
【0026】
掌当部34は、使用者が手術具1を把持する際に、使用者の掌に当てる部位である。掌当部34は指掛部32からみて後端側に配設されている。掌当部34の形状は適宜の形状とすることができるが、実施例ではラグビーボールを半球状にしたような形状(PC用マウスに類似した形状)になっており、その長軸と略平行な長い方の曲面部が掌当面34aとして掌に当たるように配置されている。
【0027】
掌当部34は指掛部32に対して固定的に構成してもよいが、掌当部34とスライダハンドル200との間の(長手方向線LLに沿った方向における)距離が変更可能となっていることが好ましい。
実施例では、一方で掌当部34の掌当面34aと反対の側にステー35を連成しておき、他方で指掛部32から長手方向線LLの後端側に把持部中間部36を突設した上で、当該把持部中間部36の後端側に開口するステー穴36aを設け、ステー35をステー穴36aに進退自在に嵌挿している。このような構成とすることで掌当部34と指掛面32aとの間の距離が変更可能となり、その結果、掌当部34とスライダハンドル200との間の距離が変更可能となっている。なお、実施例では距離を設定した段階で止めねじ37を締結することにより、掌当部34の位置を固定できるようになっている。
【0028】
このように掌当部34とスライダハンドル200との間の距離が変更可能となっているため、使用者の掌の形状・大きさ等に応じて把持し易いように調整することができ、さらに的確な微細な手技を行うことができる。
【0029】
掌当部34の形状は、鶏の卵を半球状にしたような形状であってもよいし、真球を割った半円球の形状であってもよいし、略板状の例えば野球の1~3塁ベースのような形状であってもよい。掌当部34が鶏の卵を半球状にしたような形状のときには(図示を省略)、後端側に偏って突出した偏突部の裏側からステー35を突設してもよく、その場合、ステー穴36aの中でステー35を適宜の角度で回転させて固定することにより、使用者の掌の領域内における掌当面34aが当たる部分を変更することができる。これにより使用者の掌の形状・大きさ等に応じてより的確に手術具1を把持することができる。
【0030】
(6)スライダハンドル200
スライダハンドル200は、処置ユニット10の先端の回動や先端の開閉を行うために使用者によって操作される部分である。
スライダハンドル200は棒状体100の外周面100aに装着されている。スライダハンドル200は、棒状体100の外周面100aに接触するように装着されていてもよいし、外周面100aに接触しないようにしてやや浮いた状態で外周面100aの径方向外側に配置されていてもよく、このような態様についても「装着」に含まれるものとする。スライダハンドル200は棒状体100の外周面100aを、周の半分程度巻き付けるように構成されていてよいし(実施例)、単に市販のスライドスイッチのように一部にのみ被さるように構成されていてもよいし、ほぼ全周/又は完全に全周に渡って巻き付けるように構成されていてもよい。ほぼ全周/又は完全に全周に渡って巻き付けた態様の場合には、大きな角度で回動させたとしても指がスライダハンドル200から外れづらい手術具とすることができる。
【0031】
スライダハンドル200は、後述する第1連結部101、第2連結部102等の構造により、棒状体100《ここでは押し棒110(後述)を除く》に対し長手方向線LLに沿って前後にスライドし、かつ、長手方向線LLの回りに回動するようになっている。
なお、スライダハンドル200の回動の中心軸と、棒状体100(少なくともスライダハンドル200が装着された付近の棒状体100の一部は)の中心軸とは同軸の関係になっている。また、スライダハンドル200の前後動の方向は長手方向線LLの方向と同じ方向になっている。
【0032】
スライダハンドル200は使用者の親指81及び人差し指82によって操作されるものである《後述する図7(b)も併せて参照》。具体的には、スライダハンドル200は親指81の腹と人差し指82の腹とで挟み込んで摘まむようにして接触しこの両指で操作される部位であるが、親指81及び人差し指82のうちいずれか一方を主として操作のために用い他方を単にハンドルに添えるだけの使い方もこれに含まれる。また使用者によってはいずれか一方の指のみを触れて操作する使い方についてもこれに含まれる。
【0033】
スライダハンドル200の表面には滑り止めとなる波状の凹凸が設けられている。さらに、スライダハンドル200の表面200aには位置マーカー205が設けられていることが好ましい。位置マーカー205は使用者が触れたときに位置・姿勢の目印となるものであればどのように構成してもよい。実施例では、位置マーカー205は上記した波状の凹凸よりも一段高く突起した基準突起で構成されている(後述する図3も併せて参照)。しかしこれに限定されるものではなく、逆に窪みで構成してもよいし穴等で構成してもよい。
【0034】
スライダハンドル200に位置マーカー205を設けることにより、位置マーカー205を手掛かりに、使用者がスライダハンドルの相対的な位置関係等を認識しながら操作することができ、更に的確に手技を行うことが出来る。
【0035】
実施形態1に係る手術具1は、処置ユニット10と、棒状体100と、固定筒部20と、把持部30とを備え、更に、棒状体100の外周面100aに装着され、棒状体100に対し長手方向線LLに沿ってスライドし、かつ、長手方向線LLの回りに回動するよう構成されたスライダハンドル200とを備える。かかる手術具1は、スライダハンドル200を長手方向線LLに沿って進退させることで処置ユニット10の一対の処置片11,12が開閉し、かつ、スライダハンドル200を長手方向線LLの回りに回動させることで処置ユニット10が長手方向線LLの回りに回動するよう構成されている。実施例では、スライダハンドル200を太矢印Fの方向に前進させるとこれに連動して一対の処置片11,12が太矢印Oの方向に開き、スライダハンドル200を太矢印Bの方向に後退させるとこれに連動して一対の処置片11,12が太矢印Cの方向に閉じるように構成されている。また、スライダハンドル200をRの方向に回動するとこれに連動して処置ユニット10全体が太矢印Rの方向に回動し、スライダハンドル200をLの方向に回動するとこれに連動して処置ユニット10全体が太矢印Lの方向に回動するように構成されている(図1参照)。
以下、これを実現するための具体的な構成を中心に説明を続ける。
【0036】
(7)第1連結部101
上記したように棒状体100には、先端に処置ユニット10が係合した押し棒110が含まれている。なお、「押し棒110」は平板120(後述)を先端側に押す機能を有するだけでなく後端側に引く機能も有する。
手術具1は、第1連結部101を備える。第1連結部101は、スライダハンドル200と押し棒110とを連結し、スライダハンドル200の前後動を押し棒110の前後動に変換するものである。
【0037】
図3は、実施形態1の第1連結部101に関係する構造を説明するために示す要部説明図である。図3(a)は手術具1の一部を斜め下方から見たときの要部分解図である。図においてスライダハンドル200をバレル140から取り外した状態を示しており、スライダハンドル200を止めるためのねじ194は図示を省略している。図3(b)は図3(a)の破線Aで囲まれた領域に対応する押し棒110の断面を示した図である。
【0038】
図3に示すように、スライダハンドル200は、円筒を軸方向に沿って凡そ半分に切った略半円筒の形状を成しており、その内側には爪210が設けられている。爪210は、スライダハンドル200の先端側の縁の位置から、スライダハンドル200が回動する際の回転軸(実装状態では長手方向線LL)の方向に向かって突出している。爪210の先端部212は、ガイド溝105(後述)の周囲の形状に倣った円弧状の形状になっており、スライダハンドル200が回動した際には先端部212がガイド溝105(後述)の周囲に沿ってガイドされながら摺動するようになっている。
爪210が設けられるスラスト方向(長手方向線LLに沿った方向)の位置は先端側の縁に限られず、スライダハンドル200の先端側と後端側との間の中間位置に配置されていてもよい。
【0039】
一方、棒状体100の内部には、押し棒110が中空パイプ130、バレル140等の内部空間に収容されている。図3(a)では、押し棒110をバレル140のスリット142越しに僅かに確認することができる。押し棒110には、図3(b)の断面図で示すように、押し棒110の後端側にガイド溝105が形成されている(図2も併せて参照)。押し棒のガイド溝105は、他の部分に比して径が小さくなった溝で周方向に沿って形成されており、スライダハンドルの爪210の先端部212がかかるガイド溝105に落とし込まれて係合するようになっている。
【0040】
バレル140にはスリット142が形成されており、スリット142越しにスライダハンドル200が押し棒110に組み合わされると、スライダハンドルの爪210の先端部212が押し棒110のガイド溝105に係合して連結する。このような状態でスライダハンドル200をスラスト方向に沿って前後に移動させると、爪210の先端部212付近がガイド溝105の内壁105a,105bを押すことになり《図3(b)参照》、これによって押し棒110全体もスラスト方向に沿って前後に移動する。
【0041】
以上のことから、スライダハンドルの爪210の先端部212と、押し棒110のガイド溝105と、によって第1連結部101が構成されていることが理解できる。
【0042】
(8)第2連結部102
図4は、実施形態1の第2連結部102に関係する構造を説明するために示す図である。図4(a)は開閉軸19を固定する棒状体100の固定部107を説明するための断面図である。図4(b)は図4(a)のB-B断面図である。図5は、実施形態1の第2連結部102に関係する構造を説明するために示す要部斜視図である。図5において棒状体100の中間部より先端側、固定筒部20、把持部30等の表示は省略している。また中空部材150及びスライダハンドル200はバレル140から取り外した状態を示している。
【0043】
図4及び図5に示すように、手術具1は第2連結部102を備える(符号102は図5を参照)。
第2連結部102は、スライダハンドル200と「処置ユニット10の開閉軸19を固定する棒状体100の固定部107」とを連結し、スライダハンドル200の回動を処置ユニット10の回動に変換するものである。
ここでの処置ユニット10の開閉軸19を固定する棒状体100の固定部107は、開閉軸19を固定するものであればいかなる部材によって構成されていてもよい。実施形態1では、図4(a)に示すように、「開閉軸19を固定する棒状体100の固定部107」は、先端側から開閉軸19を支える処置ユニットベース135と、先端に処置ユニットベース135が結合された中空パイプ130と、内側に中空パイプ130が嵌挿され、ねじ192によって当該中空パイプ130と結合されたバレル140と、によって構成されている。
【0044】
図5に示すように、スライダハンドル200の内側には、内壁から回動の中心軸の方向向かって長尺状に突出した係合凸条部230が設けられている。係合凸条部230の中央付近には内溝230aも設けられている。一方で、中空部材150の外側には係合溝154が設けられいる。また、係合溝154の中央付近には上記した内溝230aの形状に倣った内突起154aも設けられている。したがって、手術具1として組み上げたときには、スライダハンドル200の係合凸条部230は、バレル140のスリット142越しに、中空部材150の係合溝154と係合するようになっている《図4(b)も併せて参照》。
また、スライダハンドル200は、バレル140のスリット142越しに、ねじ194(図5では図示を省略)によって中空部材150のねじ穴156に締結されている。
以上のような構成により、スライダハンドル200は棒状体100から脱落することなく結合されている。
参考までに、スライダハンドルの爪210は、中空部材150の切り欠き152の部分を通過するため、中空部材150と干渉しないようになっている。
【0045】
上記した構成となっているため、スライダハンドル200を回動させると、スライダハンドル200の係合凸条部230の側面230bが、バレル140のスリット142の内壁142aに当たって、これを押すような形でバレル140全体も回動することとなる《図4(b)及び図5参照》。バレル140は上記したように「開閉軸19を固定する棒状体100の固定部107」の一部をなしており、開閉軸19と間接的に結合して一体となっている。このため、バレル140が回動することにより開閉軸19が回動し、ひいては開閉軸19を中心に先端が開閉する処置ユニット10も回動するようになっている。
【0046】
以上のことから、スライダハンドルの係合凸条部230(より詳しくは側面230b)と、スリット142(より詳しくはスリットの内壁142a)とによって第2連結部102が構成されていることが理解できる。
【0047】
(9)開閉変換部103
手術具1は、開閉変換部103を備える。開閉変換部103は、押し棒110の前後動を処置ユニット10の開閉に変換するものである。
【0048】
図6は、実施形態1の開閉変換部103に関係する構造を説明するために示す図である。図6(a)は開閉変換部103の分解図であり、図6(b)は開閉変換部103において処置ユニット10が開いたときの様子を示す平面図であり、図6(c)は処置ユニット10が閉じたときの様子を示す平面図である。
【0049】
図6(a)に示すように、処置ユニット10は、処置片11及び処置片12でなる一対の処置片によって構成されている。
各処置片11,12には軸穴11c,12cがそれぞれ形成されている。各処置片11,12は、軸穴11c,12cよりも先端側に処置部11a,12aをそれぞれ有しており、軸穴11c,12cよりも後端側に操作部11b,12bをそれぞれ有している。これら一対の処置片11,12は、それぞれの処置片11,12の軸穴11c,12cに共通に嵌挿された開閉軸19で結合されている。実施形態1では開閉軸19はピン18及びピンキャップ18aによって構成されている。
【0050】
また、各操作部11b,12bには、処置ユニット10が閉じた状態のとき長手方向線LLに対し所定の角度θ1,θ2《図6(c)参照》を有するカム溝11d,12dがそれぞれ形成されている。ここでの所定の角度θ1,θ2は、それぞれ、概ね1~5°の範囲内であることが好ましい。例えば2~3°の範囲内とすることがより好ましい。
一方、押し棒110の先端には平板120が配設されている。平板120は、第1面121に上ボス123が設けられ、かつ、第1面121と反対側の面である第2面122には下ボス124が設けられている。なお、上ボス123と下ボス124は平面視したときに同じ位置に配置されている。しかし、それに限定されるものではない。
そうして、上ボス123は一方の処置片11のカム溝11dに係合し、下ボス124は他方の処置片12のカム溝12dに係合している。
【0051】
こうした構成の下、図6(b)に示すように押し棒110が前進した状態のときには、平板120の上ボス123及び下ボス124は、それぞれ所定の角度を有しているカム溝11d,12dの交点であって、カム溝11d,12dの先端側に位置することとなる。このとき操作部11b,12bは開閉軸19を中心として先端側が開いている。
【0052】
次に図6(c)に示すように押し棒110を後退させると、上ボス123及び下ボス124は、それぞれ所定の角度を有しているカム溝11d,12dの交点であって、カム溝11d,12dの後端側に位置することとなる。このとき操作部11b,12bは開閉軸19を中心として先端側が閉じる。動的に説明すると、スライダハンドル200を後退させることで、上ボス123及び下ボス124の位置がカム溝11d,12dに沿って移動し、これに伴い処置部11a,12aの先端が開いた状態から閉じた状態に移行するようになっている。
【0053】
以上のことから、平板120と、平板120に形成された上ボス123及び下ボス124と、これらのボスと係合したカム溝11d,12dと、操作部にかかるカム溝11d,12dを有する一対の処置片と、によって開閉変換部103が構成されていることが理解できる。
【0054】
手術具1は、これまで述べてきたような構成を採っているため、スライダハンドル200を長手方向線LLに沿って前後させることで処置ユニット10の一対の処置片11,12が開閉し、かつ、スライダハンドル200を長手方向線LLの回りに回動させることで処置ユニット10が長手方向線LLの回りに回動するようになっている。
【0055】
なお、実施形態1においてはカム溝11d,12dの所定の角度θ1,θ2及び長さを適宜に設定しているため、長手方向線LLに垂直な面で断面視したときに、処置ユニット10の操作部11b,12b及び平板120が《図6(b)において幅W1で示す)、押し棒110を収容している中空パイプ130の外径ODの内側に納まっている。
【0056】
また、実施形態1においては、固定筒部20の後端には長手方向線LLを中心とした穴が開口し(図示を省略)、かつ、先端側に開口した穴22と通じるようになっていてもよい。このような構成とすることにより、特許文献1に記載されたものと同様に内部の洗浄を容易にすることができる。
【0057】
2.実施形態1に係る手術具1の使用例及び効果
実施形態1に係る手術具1は、外科手術、例えば脳外科手術で好適に用いることができる。
【0058】
(1)手術具1の使用例
図7は、実施形態1に係る手術具1の使用例を説明するために示す斜視図である。図7(a)は手術具1の把持を始める第1ステップの様子を示す図であり、図7(b)はスライダハンドル200の前後動や回動を行う第2ステップの様子を示す図である。なお、図7においては右手に手術具1を持つ例を示しているが、左手で持つ場合にはこれと逆の関係となる。
【0059】
先ず、図7(a)に示すように、手術具1の後端側に配置された掌当部34を使用者の右手の掌86に当てる。そうしたうえで、中指83を指掛部32(指掛面32a)に掛ける。例えば、掌当面34aを指尖球88及び母指球87の間の掌の中央付近に当接させると、掌当部34が指尖球88及び母指球87に挟まるようにして安定して手術具1を把持することが出来る(第1ステップ)。
【0060】
次いで、使用者の親指81及び人差し指82をスライダハンドル200に接触させて、親指81及び人差し指82で挟み込むようにしてスライダハンドル200を掴む。このとき、親指81又は/及び人差し指82は、位置マーカー205(図示を省略)にも触れて位置関係を把握できるようにしておくのが望ましい。
そうしたうえで、親指81及び人差し指82を使ってスライダハンドル200を長手方向線LLに沿って前後に動かすことにより処置ユニット10の先端を開閉したり、スライダハンドル200を長手方向線LLの回りに回動することにより処置ユニット10全体を回動したりする。これにより、親指81及び人差し指82による操作のみによって使用者(医師)が意図した手技を先端側の処置ユニット10で実現することができる。
【0061】
(2)手術具1の効果
(2-1)[発明が解決しようとする課題]の欄でも触れた通り、中指83は精密な操作に不向きな指である。従来の手術具9を用いて処置ユニットの開閉を行うべく中指83で精密な操作を行おうとすると力んでしまい、その結果、操作の土台となっている掌86や手首89もブレてしまう。特に棒状体の寸法が大きい長尺な手術具を用いた場合には、手元のブレが処置ユニットの先端で増幅され微細な手技を損なってしまう。
【0062】
実施形態1に係る手術具1は、スライダハンドル200が棒状体100の外周面100aに装着されており、当該スライダハンドル200は棒状体100に対し長手方向線LLに沿って前後にスライドし、かつ、長手方向線LLの回りに回動できるように構成されている。そして、スライダハンドル200を長手方向線LLに沿って前後させることで処置ユニット10の一対の処置片11,12が開閉し、かつ、スライダハンドル200を長手方向線LLの回りに回動させることで処置ユニット10が長手方向線LLの回りに回動するよう構成されている。
このため、図7(b)に示すように、使用者は親指81と人差し指82でスライダハンドル200を挟み込むように摘まみ、親指81と人差し指82を回動させることで、処置ユニット10を回動させることだけでなく、親指81と人差し指82を前後(進退)させることで処置ユニット10を開閉させることもできる。
つまり、中指83を何ら使うことなく処置ユニット10の開閉を実現できるため、上記した中指83を動かすことによる掌86や手首89のブレが生じることがない。
【0063】
参考までに、親指81と人差し指82は、筋(腱)の付き方に起因して、中指83に比べ力まずとも精密動作ができる指となっている。実施形態1に係る手術具1は、力まずとも精密動作ができる親指81と人差し指82のみで処置ユニット10の開閉/回動を行うことができることから、使用者はスライダハンドル200の操作を介して処置ユニット10の操作を的確に微細に行うことができる。
【0064】
以上のことから、実施形態1に係る手術具1によれば、処置ユニット10が手元から比較的遠い位置に位置していたとしても、対象物を的確にかつ精密に挟んだり摘まんだり回動させたりすることができる。その結果、従来に比べより的確に微細な手技(手術)を行うことができる。
【0065】
(2-2)実施形態1に係る手術具1は、把持部30として、長手方向線LLから棒状体100の径方向にオフセットした位置に指掛部32を配置し、指掛部32からみて後端側に掌当部34を配設した構成となっている。このような構成となっているため、使用者(医師)は、掌86を掌当部34に当てつつ中指83を指掛部32に掛けることができ、手術具1を安定して把持することができる。手術具1を安定的に把持することにより、よりブレの少ない操作を行うことができる。
【0066】
(2-3)例えば吻合針を掴みながら、吻合針の曲線に沿って針を被縫合対象に刺し回すなど、大変微細な手技も容易となる。さらに手術具1によれば、使用者の操作対象がスライダハンドル200のみに絞られるため、処置ユニット10の開閉及び回動を同時に行うことも容易となっており、例えば、捩じりながら処置ユニット10の先端を閉じる/開くことも容易になる。
また、従来の手術具9においてはトリガーの角度に応じて開閉度合いが定まるものとなっており、一般的にトリガーの角度の制御はしづらいものとなっている。これに対し、実施形態1に係る手術具1は、一軸(長手方向線)上の位置によって処置ユニット10の開閉度合いが定まるため、開閉の微調整を行いやすく、対象物を挟んだ感覚が直感的に分かり易いものとなっている。
【0067】
(2-4)従来の手術具9においては、板バネ等を収容するため、棒状体100(中空パイプ130など)の外径寸法を板バネの分だけ余分に確保する必要がある。一方で実施形態1に係る手術具1は上記したようなカム溝11d,12dにボスを係合させる態様の開閉変換部103を備え、かつ、処置ユニット10の操作部11b,12b及び平板120が、押し棒110を収容している中空パイプ130の外径の内側に納まるように構成している《図6(b)参照》。
このため、実施形態1に係る手術具1は、従来の手術具9に比べて棒状体100の外径が細い設計にしやすい。棒状体100の外径を細くすることにより、例えば図9に示す脳神経外科等の手術において顕微鏡900で処置ユニット10の先端を見ようとしたとき、棒状体100が視野の邪魔にならないようにできる。つまり、狭く深い部位においても術野が確保しやすい構造とすることができる。
【0068】
(2-5)処置ユニット10の先端は、長手方向線LLから径方向に離れた位置に位置している。例えば処置片11,12の先端側が、処置片11,12の先端に向かうにつれて長手方向線LLから離れるように湾曲している。このため、例えば図9に示す脳神経外科等の手術のような場合に、使用者(医師)が、手術具1(棒状体100)の長手方向線LLに対して角度が浅い方向から見た場合であっても、先端側に位置する狭く深い部分についても視野に入り易くなる。したがって、より的確に手技を行うことができる。
【0069】
[実施形態2]
図8は実施形態2に係る手術具2の斜視図である。基本的な構成及び特徴が実施形態1と同じ構成要素については、実施形態1における符号を援用しここでの説明は省略する。
【0070】
実施形態2に係る手術具2は基本的には実施形態1に係る手術具1と同様の構成を有するが、把持部の構成において実施形態1に係る手術具1とは異なる。すなわち手術具2の把持部30’は、固定筒部20’の後端側に掌当部34’が設けられている構成となっており、実施形態1の把持部30のような指掛部32は有していない(図8参照)。なお、掌当部34’は固定筒部20’に対して直接的に連成されていてもよいし、実施形態1の掌当部34と同様にステーを介して固定筒部20’に接続されていてもよい。
【0071】
いうまでもないが、手術具2においても、実施形態1に係る手術具1と同様に、スライダハンドル200を回動させることで処置ユニット10を回動し、スライダハンドル200を前後させることで処置ユニット10の先端(一対の処置片11,12)が開閉するように構成されている。
【0072】
実施形態2に係る手術具2は把持部の構成以外の点においては、実施形態1に係る手術具1と基本的に同様の構成を有する。そのため、実施形態1に係る手術具1が有する効果のうち該当する効果を同様に有する。
【0073】
以上、本発明を上記の各実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の各実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0074】
(1)上記実施例では処置片11,12の先端側が湾曲したものをとり上げて説明した。しかしながら本発明はこれに限定されるものではない。例えば、処置片11,12の処置部11a,12a全体に渡って長手方向線LLに沿って延びる、いわゆるストレート形の処置片であってもよい。この場合、処置片11,12の先端がスライダハンドル200を操作する軸と同じ軸上に位置することとなるため、例えば処置を行う部位への位置合わせを行い易いものとなる。
【0075】
(2)上記各実施形態では開閉変換部103はカム溝及びボスを用いた方式によるものを説明した。しかしながら本発明はこれに限定されるものではない。例えば、従来の手術具9(特許文献1に記載された持針器)のように、一対の処置片の操作部の合わさり目に押し棒を当接したうえで、操作部の外側から板バネで復元力を与えるという方式によって開閉変換部103を構成してもよい。
【0076】
(3)上記各実施形態ではスライダハンドル200の前後の動きを止めると処置ユニット10の開閉の度合いもその状態で維持されるという、いわば完全なる手動操作を行うことができる手術具を例に説明を行った。しかしながら本発明はこれに限定されるものではなく半手動・半自動操作を行うことができる手術具としてもよい。例えば、中空パイプ130の内側に押し棒110を係合した所定のばね(例えばコイルばねなど)を配置し、当該ばねの弾性力により、使用者がスライダハンドル200から指を放したら、押し棒110、スライダハンドル200、平板120等が自動的に先端側に前進し、これにより処置ユニット10の先端が自動的に閉じるように構成してもよい。逆に、同様に指を放したら押し棒110等が自動的に後端側に後退し、これにより処置ユニット10の先端が自動的に開くように構成してもよい。
【符号の説明】
【0077】
1,2,9…手術具、10…処置ユニット、11,12…処置片、11a,12a…処置部、11b,12b…操作部、11c,12c…軸穴、11d,12d…カム溝、18…ピン、18a…ピンキャップ、19…開閉軸、20,20’…固定筒部、22…(固定筒部の)穴、24…(固定筒部の)ガイド溝、30,30’…把持部、32…指掛部、32a…指掛面、34,34’…掌当部、34a…掌当面、35…ステー、36…把持部中間部、36a…ステー穴、37…止めねじ、81…親指、82…人差し指、83…中指、86…掌、87…母指球、88…指尖球、89…手首、100…棒状体、100a…(棒状体の)外周面、101…第1連結部、102…第2連結部、103…開閉変換部、105…(押し棒に形成された)ガイド溝、105a,105b…(ガイド溝の)内壁、107…開閉軸を固定する棒状体の固定部、110…押し棒、120…平板、121…第1面、122…第2面、123…上ボス、124…下ボス、130…中空パイプ、135…処置ユニットベース、140…バレル、142…(バレルの)スリット、142a…(スリットの)内壁、144…(バレルの)フランジ部、150…中空部材、152…(中空部材の)切り欠き、152a…(切り欠きの)内壁、154…(中空部材の)係合溝、154a…内突起、156…(中空部材の)ねじ穴、192,194…ねじ、200…スライダハンドル、200a…スライダハンドルの表面、205…位置マーカー、210…爪、212…(爪の)先端部、213…(爪の)側部、230…係合凸条部、230a…内溝、230b…(係合凸条部の)側面、254…係合溝、900…顕微鏡、910…対物レンズ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9