(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】電気インピーダンストモグラフィを用いた血流力学変数算出方法及び装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0536 20210101AFI20240116BHJP
A61B 5/021 20060101ALI20240116BHJP
A61B 5/0295 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
A61B5/0536
A61B5/021
A61B5/0295
(21)【出願番号】P 2022574273
(86)(22)【出願日】2021-04-09
(86)【国際出願番号】 KR2021004458
(87)【国際公開番号】W WO2021261721
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2022-12-01
(31)【優先権主張番号】10-2020-0077738
(32)【優先日】2020-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】519179372
【氏名又は名称】株式会社バイラップ
【氏名又は名称原語表記】BILAB CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100159547
【氏名又は名称】鶴谷 裕二
(74)【代理人】
【識別番号】100223365
【氏名又は名称】大町 真義
(72)【発明者】
【氏名】チャン・グギョン
(72)【発明者】
【氏名】ウイ・フン
(72)【発明者】
【氏名】チャン・ジュン
【審査官】右▲高▼ 孝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-025338(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0094664(US,A1)
【文献】Martin Proenca,Noninvasive pulmonary artery pressure monitoring by EIT: a model-based feasibility study,Medical & biological engineering & computing,2016年09月17日,vol. 55, no. 6, pp. 949-963
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05
A61B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
EIT(Electrical Impedance Tomography)に基づいて被検者に対する血流力学(hemodynamics)変数を算出する方法であって、
被検者の胸部分を対象として前記被検者の心周期(cardiac cycle)内の離散的時点でのEIT画像を取得するステップと、
前記EIT画像における、心臓に該当する領域での第1画素の値、及び肺に該当する領域での第2画素の値を識別するステップであって、前記第1画素の値は前記離散的時点にそれぞれ関連し、前記第2画素の値は前記離散的時点にそれぞれ関連している、識別するステップと、
前記識別された第1画素の値のうちの最小値に関連した第1時点、及び前記識別された第2画素の値のうちの最大値に関連した第2時点に基づいて、少なくとも一つの血流力学変数を算出するステップと、を含む、血流力学変数算出方法。
【請求項2】
前記被検者の胸部分を対象として前記被検者の心周期(cardiac cycle)内の離散的時点でのEIT画像を取得するステップは、
前記被検者の胸に複数の電極を取り付けて前記被検者の胸部分に対するインピーダンス(impedance)データを取得するステップと、前記インピーダンスデータから前記EIT画像を復元するステップと、を含む、請求項1に記載の血流力学変数算出方法。
【請求項3】
前記EIT画像における、心臓に該当する領域での第1画素の値、及び肺に該当する領域での第2画素の値を識別するステップであって、前記第1画素の値は前記離散的時点にそれぞれ関連し、前記第2画素の値は前記離散的時点にそれぞれ関連している、識別するステップは、前記EIT画像における前記心臓に該当する領域を第1関心領域(ROI:region of interest)として指定し、前記第1関心領域から前記第1画素を選択し、前記EIT画像における前記肺に該当する領域を第2関心領域として指定し、前記第2関心領域から前記第2画素を選択するステップを含む、請求項1に記載の血流力学変数算出方法。
【請求項4】
前記第1時点は心室駆出時間(ventricular ejection time)であり、前記第2時点は肺灌流時間(pulmonary perfusion time)である、請求項1に記載の血流力学変数算出方法。
【請求項5】
前記識別された第1画素の値のうちの最小値に関連した第1時点、及び前記識別された第2画素の値のうちの最大値に関連した第2時点に基づいて、少なくとも一つの血流力学変数を算出するステップは、前記第1時点及び前記第2時点に基づいて肺動脈圧力(PAP:pulmonary artery pressure)を算出するステップを含む、請求項1に記載の血流力学変数算出方法。
【請求項6】
前記第1時点及び前記第2時点に基づいて肺動脈圧力(PAP:pulmonary artery pressure)を算出するステップは、前記第1時点、前記第2時点、前記最小値及び前記最大値に基づいて前記肺動脈圧力を算出するステップを含む、請求項5に記載の血流力学変数算出方法。
【請求項7】
前記第2画素の値は、二つ以上のピークパターンを示し、
前記第1時点及び前記第2時点に基づいて肺動脈圧力(PAP:pulmonary artery pressure)を算出するステップは、前記第1時点、前記第2時点、前記最小値、前記最大値、前記二つ以上のピークパターンのうちの前記最大値に関連したピークパターンを除く残りのピークパターンにおける前記第2画素のピーク値、及び前記ピーク値に関連した時点に基づいて前記肺動脈圧力を算出するステップを含む、請求項5に記載の血流力学変数算出方法。
【請求項8】
前記第1画素の値は、二つ以上のピークパターンを示し、
前記第1時点及び前記第2時点に基づいて肺動脈圧力(PAP:pulmonary artery pressure)を算出するステップは、前記第1時点、前記第2時点、前記最小値、前記最大値、前記二つ以上のピークパターンのうちの前記最小値に関連したピークパターンを除く残りのピークパターンにおける前記第1画素のピーク値、及び前記ピーク値に関連した時点に基づいて前記肺動脈圧力を算出するステップを含む、請求項5に記載の血流力学変数算出方法。
【請求項9】
前記第1時点及び前記第2時点に基づいて肺動脈圧力(PAP:pulmonary artery pressure)を算出するステップは、前記第1時点、前記第2時点、前記被検者の心電図(ECG:electrocardiography)、前記被検者の血圧(blood pressure)、前記被検者のフォトプレチスモグラフィ(PPG:photoplethysmography)及び前記被検者の心理心電図(SCG:seismocardiography)に基づいて前記肺動脈圧力を算出するステップを含む、請求項5に記載の血流力学変数算出方法。
【請求項10】
前記識別された第1画素の値のうちの最小値に関連した第1時点、及び前記識別された第2画素の値のうちの最大値に関連した第2時点に基づいて、少なくとも一つの血流力学変数を算出するステップは、前記算出された肺動脈圧力を用いて肺血管抵抗(PVR:pulmonary vascular resistance)を算出するステップをさらに含む、請求項5に記載の血流力学変数算出方法。
【請求項11】
前記識別された第1画素の値のうちの最小値に関連した第1時点、及び前記識別された第2画素の値のうちに最大値に関連した第2時点に基づいて、少なくとも一つの血流力学変数を算出するステップは、前記最小値及び前記第1時点に基づいて心筋収縮度(contractility)を算出するステップを含む、請求項1に記載の血流力学変数算出方法。
【請求項12】
EITに基づいて被検者に対する血流力学変数を算出する方法であって、
被検者の胸部分を対象として前記被検者の複数の心周期内の離散的時点でのEIT画像を取得するステップと、
前記複数の心周期のうちの第1心周期内の離散的時点で取得されたEIT画像における心臓に該当する領域での画素の値のうち第1時点に該当する画素の値、及び前記複数の心周期のうちの第2心周期内の離散的時点で取得されたEIT画像における心臓に該当する領域での画素の値のうち第2時点に該当する画素の値を識別するステップであって、前記第1時点は、前記第2時点よりも前記心周期に該当する時間だけ時間的に先立っている、識別するステップと、
前記第1時点に該当する画素の値及び前記第2時点に該当する画素の値に基づいて少なくとも一つの血流力学変数を算出するステップと、を含む、血流力学変数算出方法。
【請求項13】
前記第1時点及び前記第2時点は、拡張末期(end diastole)時点であり、
前記第1時点に該当する画素の値及び前記第2時点に該当する画素の値に基づいて少なくとも一つの血流力学変数を算出するステップは、前記第1時点に該当する画素の値及び前記第2時点に該当する画素の値に基づいて拡張末期心室容積(EDVV:end-diastolic ventricular volume)の変化量を算出するステップを含む、請求項12に記載の血流力学変数算出方法。
【請求項14】
前記第1時点に該当する画素の値及び前記第2時点に該当する画素の値に基づいて少なくとも一つの血流力学変数を算出するステップは、前記算出された拡張末期心室容積(EDVV:end-diastolic ventricular volume)の変化量及び心周期間の一回拍出量(SV:stroke volume)の変化量を用いて心筋収縮度を算出するステップをさらに含む、請求項13に記載の血流力学変数算出方法。
【請求項15】
前記第1時点及び前記第2時点は、収縮末期(end systole)時点であり、
前記第1時点に該当する画素の値及び前記第2時点に該当する画素の値に基づいて少なくとも一つの血流力学変数を算出するステップは、前記第1時点に該当する画素の値及び前記第2時点に該当する画素の値に基づいて収縮末期心室容積(ESVV:end-systolic ventricular volume)の変化量を算出するステップを含む、請求項12に記載の血流力学変数算出方法。
【請求項16】
前記第1時点に該当する画素の値及び前記第2時点に該当する画素の値に基づいて少なくとも一つの血流力学変数を算出するステップは、前記算出された収縮末期心室容積の変化量及び心周期間の一回拍出量の変化量を用いて駆出率(EF:ejection fraction)を算出するステップをさらに含む、請求項15に記載の血流力学変数算出方法。
【請求項17】
EITに基づいて被検者に対する血流力学変数を算出するための装置であって、
EIT画像を記憶する記憶部であって、前記EIT画像は、被検者の胸部分を対象として前記被検者の心周期内の離散的時点で取得した画像である、記憶部と、
前記EIT画像における心臓に該当する領域での第1画素の値、及び肺に該当する領域での第2画素の値を識別し、前記第1画素の値は前記離散的時点にそれぞれ関連し、第2画素の値は前記離散的時点にそれぞれ関連しており、前記識別された第1画素の値のうちの最小値に関連した第1時点、及び前記識別された第2画素の値のうちの最大値に関連した第2時点に基づいて、少なくとも一つの血流力学変数を算出するように構成された制御部と、を含む、血流力学変数算出装置。
【請求項18】
前記第1時点は心室駆出時間であり、前記第2時点は肺灌流時間である、請求項17に記載の血流力学変数算出装置。
【請求項19】
前記制御部は、前記第1時点及び前記第2時点に基づいて肺動脈圧力を算出するようにさらに構成される、請求項17に記載の血流力学変数算出装置。
【請求項20】
前記制御部は、前記第1時点、前記第2時点、前記最小値及び前記最大値に基づいて前記肺動脈圧力を算出するようにさらに構成される、請求項19に記載の血流力学変数算出装置。
【請求項21】
前記制御部は、前記最小値及び前記第1時点に基づいて心筋収縮度を算出するようにさらに構成される、請求項17に記載の血流力学変数算出装置。
【請求項22】
EITに基づいて被検者に対する血流力学変数を算出するための装置であって、
EIT画像を記憶する記憶部であって、前記EIT画像は、被検者の胸部分を対象として前記被検者の複数の心周期内の離散的時点で取得された画像である、記憶部と、
前記複数の心周期のうちの第1心周期内の離散的時点で取得されたEIT画像における心臓に該当する領域での画素の値のうち第1時点に該当する画素の値、及び前記複数の心周期のうちの第2心周期内の離散的時点で取得されたEIT画像における心臓に該当する領域での画素の値のうち第2時点に該当する画素の値を識別し、前記第1時点は、前記第2時点よりも前記心周期に該当する時間だけ時間的に先立っており、前記第1時点に該当する画素の値及び前記第2時点に該当する画素の値に基づいて少なくとも一つの血流力学変数を算出するように構成された制御部と、を含む、血流力学変数算出装置。
【請求項23】
前記第1時点及び前記第2時点は、拡張末期時点であり、
前記制御部は、前記第1時点に該当する画素の値及び前記第2時点に該当する画素の値に基づいて拡張末期心室容積の変化量を算出するようにさらに構成される、請求項22に記載の血流力学変数算出装置。
【請求項24】
前記第1時点及び前記第2時点は、収縮末期時点であり、
前記制御部は、前記第1時点に該当する画素の値及び前記第2時点に該当する画素の値に基づいて収縮末期心室容積の変化量を算出するようにさらに構成される、請求項22に記載の血流力学変数算出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医用工学分野に係り、さらに具体的には、被検者に対する血流力学変数を非侵襲的にモニタリングする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
肺動脈(pulmonary artery)は、心臓の右心室と肺とを繋ぐ動脈であって、人体表面からの接近が難しい。したがって、肺動脈圧力(pulmonary artery pressure:PAP)を測定するためには、中心静脈を経て心臓の右心房(right atrium)と右心室(right ventricle)を通って肺動脈にカテーテル(catheter)を挿入する侵襲的(invasive)方法を使用する。この場合は、Swan-Ganzカテーテルを一番多く使用するが、右心房と右心室を通り過ぎるSwan-Ganzカテーテル手術には熟練した臨床医が必要であり、成功的にカテーテルを挿入しても、心臓に負担を与えて様々な副作用が発生することが知られている。
【0003】
非侵襲的方法でPAPを測定すれば、このような問題を解決することができるので、これについての多くの研究が行われた。特に、心超音波(echocardiography)を用いた多様な方法が提案された。しかし、心超音波は、ユーザが手動で超音波プローブを皮膚に接触させて測定するので、ユーザの熟練度に応じて結果が変動し、同じユーザが繰り返し測定するときの変動も大きい。そして、連続測定が難しいため、モニタリング用途への使用は非常に不便である。
【0004】
かかる問題点を解決するために、電気インピーダンストモグラフィ(electrical impedance tomography:EIT)技術を用いて、PAPを含む血流力学モニタリング方法についての多くの研究が行われた。人体の胸からEITデータを測定すると、このデータには、肺の呼吸に対する信号と心臓の血流に対する信号とが混合されている。通常、呼吸信号の大きさは血流信号のl0倍以上なので、血流信号を抽出することが非常に難しい。また、血流は呼吸に比べて速く変わるので、EITデータの収集速度を上げなければならない。
【0005】
血流力学モニタリングの難題の一つは、非侵襲的にPAPを測定することである。非侵襲的にPAPを測定する幾つかの既存の技術が知られているが、これらの技術はいずれも、PAP測定において誤差を発生させると評価されている。血流力学分野で知られている知識によると、PAPは、心臓の右心室が収縮して血液を肺動脈へ送るのにかかる時間である右心室駆出時間(right ventricular ejection time:RVET)、肺に血液が供給される肺灌流時間(pulmonary perfusion time:PPT)、心室の一回拍出量(stroke volume:SV)、一回拍出量の変化量(DSV)などによって決定されるが、既存の技術は、これを考慮していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、電気インピーダンストモグラフィを用いて血流力学変数を非侵襲的にモニタリングする、改善された方法及び装置を提供することである。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は上述した課題に制限されず、上述していない別の課題は以降の記載から当業者に明確に理解できるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一態様において、EIT(Electrical Impedance Tomography)に基づいて被検者に対する血流力学(hemodynamics)変数を算出する方法が提供される。本方法は、被検者の胸部分を対象として前記被検者の心周期(cardiac cycle)内の離散的時点でのEIT画像を取得するステップと、前記EIT画像における、心臓に該当する領域での第1画素の値、及び肺に該当する領域での第2画素の値を識別するステップであって、前記第1画素の値は前記離散的時点にそれぞれ関連し、前記第2画素の値は前記離散的時点にそれぞれ関連している、識別するステップと、前記識別された第1画素の値のうちの最小値に関連した第1時点、及び前記識別された第2画素の値のうちの最大値に関連した第2時点に基づいて、少なくとも一つの血流力学変数を算出するステップと、を含むことができる。
【0009】
一実施例において、前記被検者の胸部分を対象として前記被検者の心周期(cardiac cycle)内の離散的時点でのEIT画像を取得するステップは、前記被検者の胸に複数の電極を取り付けて前記被検者の胸部分に対するインピーダンス(impedance)データを取得するステップと、前記インピーダンスデータから前記EIT画像を復元するステップと、を含む。
【0010】
一実施例において、前記EIT画像における、心臓に該当する領域での第1画素の値、及び肺に該当する領域での第2画素の値を識別するステップであって、前記第1画素の値は前記離散的時点にそれぞれ関連し、前記第2画素の値は前記離散的時点にそれぞれ関連している、識別するステップは、前記EIT画像における前記心臓に該当する領域を第1関心領域(ROI:region of interest)として指定し、前記第1関心領域から前記第1画素を選択し、前記EIT画像における前記肺に該当する領域を第2関心領域として指定し、前記第2関心領域から前記第2画素を選択するステップと、を含む。
【0011】
一実施例において、前記第1時点は心室駆出時間(ventricular ejection time)であり、前記第2時点は肺灌流時間(pulmonary perfusion time)である。
【0012】
一実施例において、前記識別された第1画素の値のうちの最小値に関連した第1時点、及び前記識別された第2画素の値のうちの最大値に関連した第2時点に基づいて、少なくとも一つの血流力学変数を算出するステップは、前記第1時点及び前記第2時点に基づいて肺動脈圧力(PAP:pulmonary artery pressure)を算出するステップを含む。
【0013】
一実施例において、前記第1時点及び前記第2時点に基づいて肺動脈圧力(PAP:pulmonary artery pressure)を算出するステップは、前記第1時点、前記第2時点、前記最小値及び前記最大値に基づいて前記肺動脈圧力を算出するステップを含む。
【0014】
一実施例において、前記第2画素の値は、二つ以上のピークパターンを示し、前記第1時点及び前記第2時点に基づいて肺動脈圧力(PAP:pulmonary artery pressure)を算出するステップは、前記第1時点、前記第2時点、前記最小値、前記最大値、前記二つ以上のピークパターンのうちの前記最大値に関連したピークパターンを除く残りのピークパターンにおける前記第2画素のピーク値、及び前記ピーク値に関連した時点に基づいて前記肺動脈圧力を算出するステップを含む。
【0015】
一実施例において、前記第1画素の値は、二つ以上のピークパターンを示し、前記第1時点及び前記第2時点に基づいて肺動脈圧力(PAP:pulmonary artery pressure)を算出するステップは、前記第1時点、前記第2時点、前記最小値、前記最大値、前記二つ以上のピークパターンのうちの前記最小値に関連したピークパターンを除く残りのピークパターンにおける前記第1画素のピーク値、及び前記ピーク値に関連した時点に基づいて前記肺動脈圧力を算出するステップを含む。
【0016】
一実施例において、前記第1時点及び前記第2時点に基づいて肺動脈圧力(PAP:pulmonary artery pressure)を算出するステップは、前記第1時点、前記第2時点、前記被検者の心電図(ECG:electrocardiography)、前記被検者の血圧(blood pressure)、前記被検者のフォトプレチスモグラフィ(PPG:photoplethysmography)及び前記被検者の心理心電図(SCG:seismocardiography)に基づいて前記肺動脈圧力を算出するステップを含む。
【0017】
一実施例において、前記識別された第1画素の値のうちの最小値に関連した第1時点、及び前記識別された第2画素の値のうちの最大値に関連した第2時点に基づいて、少なくとも一つの血流力学変数を算出するステップは、前記算出された肺動脈圧力を用いて肺血管抵抗(PVR:pulmonary vascular resistance)を算出するステップをさらに含む。
【0018】
一実施例において、前記識別された第1画素の値のうちの最小値に関連した第1時点、及び前記識別された第2画素の値のうちの最大値に関連した第2時点に基づいて、少なくとも一つの血流力学変数を算出するステップは、前記最小値及び前記第1時点に基づいて心筋収縮度(contractility)を算出するステップを含む。
【0019】
他の態様において、EITに基づいて被検者に対する血流力学変数を算出する方法が提供される。本方法は、被検者の胸部分を対象として前記被検者の複数の心周期内の離散的時点でのEIT画像を取得するステップと、前記複数の心周期のうちの第1心周期内の離散的時点で取得されたEIT画像における心臓に該当する領域での画素の値のうち第1時点に該当する画素の値、及び前記複数の心周期のうちの第2心周期内の離散的時点で取得されたEIT画像における心臓に該当する領域での画素の値のうち第2時点に該当する画素の値を識別するステップであって、前記第1時点は、前記第2時点よりも前記心周期に該当する時間だけ時間的に先立っている、識別するステップと、前記第1時点に該当する画素の値及び前記第2時点に該当する画素の値に基づいて少なくとも一つの血流力学変数を算出するステップと、を含むことができる。
【0020】
一実施例において、前記第1時点及び前記第2時点は拡張末期(end diastole)時点であり、前記第1時点に該当する画素の値及び前記第2時点に該当する画素の値に基づいて少なくとも一つの血流力学変数を算出するステップは、前記第1時点に該当する画素の値及び前記第2時点に該当する画素の値に基づいて拡張末期心室容積(EDVV:end-diastolic ventricular volume)の変化量を算出するステップを含む。
【0021】
【0022】
一実施例において、前記第1時点に該当する画素の値及び前記第2時点に該当する画素の値に基づいて少なくとも一つの血流力学変数を算出するステップは、前記算出された拡張末期心室容積の変化量及び心周期間の一回拍出量(SV:strokevolume)の変化量を用いて心筋収縮度を算出するステップをさらに含む。
【0023】
一実施例において、前記第1時点及び前記第2時点は、収縮末期(end systole)時点であり、前記第1時点に該当する画素の値及び前記第2時点に該当する画素の値に基づいて少なくとも一つの血流力学変数を算出するステップは、前記第1時点に該当する画素の値及び前記第2時点に該当する画素の値に基づいて収縮末期心室容積(ESVV:end-systolic ventricular volume)の変化量を算出するステップを含む。
【0024】
一実施例において、前記第1時点に該当する画素の値及び前記第2時点に該当する画素の値に基づいて少なくとも一つの血流力学変数を算出するステップは、前記算出された収縮末期心室容積の変化量及び心周期間の一回拍出量の変化量を用いて駆出率(EF:ejection fraction)を算出するステップをさらに含む。
【0025】
他の態様において、EITに基づいて被検者に対する血流力学変数を算出するための装置が提供される。本装置は、EIT画像を記憶する記憶部であって、前記EIT画像は、被検者の胸部分を対象として前記被検者の心周期内の離散的時点で取得された画像であるである、記憶部と、前記EIT画像における、心臓に該当する領域での第1画素の値、及び肺に該当する領域での第2画素の値を識別し、前記第1画素の値は前記離散的時点にそれぞれ関連し、前記第2画素の値は前記離散的時点にそれぞれ関連しており、前記識別された第1画素の値のうちの最小値に関連した第1時点、及び前記識別された第2画素の値のうちの最大値に関連した第2時点に基づいて、少なくとも一つの血流力学変数を算出するように構成された制御部と、を含むことができる。
【0026】
一実施例において、前記第1時点は心室駆出時間であり、前記第2時点は肺灌流時間である。
【0027】
一実施例において、前記制御部は、前記第1時点及び前記第2時点に基づいて肺動脈圧力を算出するようにさらに構成される。
【0028】
一実施例において、前記制御部は、前記第1時点、前記第2時点、前記最小値及び前記最大値に基づいて前記肺動脈圧力を算出するようにさらに構成される。
【0029】
一実施例において、前記制御部は、前記最小値及び前記第1時点に基づいて心筋収縮度を算出するようにさらに構成される。
【0030】
別の態様において、EITに基づいて被検者に対する血流力学変数を算出するための装置が提供される。本装置は、EIT画像を記憶する記憶部であって、前記EIT画像は、被検者の胸部分を対象として前記被検者の複数の心周期内の離散的時点で取得された画像である、記憶部と、前記複数の心周期のうちの第1心周期内の離散的時点で取得されたEIT画像における心臓に該当する領域での画素の値のうち第1時点に該当する画素の値、及び前記複数の心周期のうちの第2心周期内の離散的時点で取得されたEIT画像における心臓に該当する領域での画素の値のうち第2時点に該当する画素の値を識別し、前記第1時点は、前記第2時点よりも前記心周期に該当する時間だけ時間的に先立っており、前記第1時点に該当する画素の値、及び前記第2時点に該当する画素の値に基づいて少なくとも一つの血流力学変数を算出するように構成された制御部と、を含むことができる。
【0031】
一実施例において、前記第1時点及び前記第2時点は、拡張末期時点であり、前記制御部は、前記第1時点に該当する画素の値及び前記第2時点に該当する画素の値に基づいて拡張末期心室容積の変化量を算出するようにさらに構成される。
【0032】
一実施例において、前記第1時点及び前記第2時点は、収縮末期時点であり、前記制御部は、前記第1時点に該当する画素の値及び前記第2時点に該当する画素の値に基づいて収縮末期心室容積の変化量を算出するようにさらに構成される。
【発明の効果】
【0033】
本発明の実施例によれば、電気インピーダンストモグラフィを用いて血流力学変数を非侵襲的にモニタリングすることができる技術的効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】EIT(Electrical Impedance Tomography)に基づいて被検者に対する血流力学(hemodynamics)変数を算出するための装置のブロック図の一実施例を示す図である。
【0035】
【
図2a】被検者の胸部分を対象として取得されたEIT画像の一実施例を示す図である。
【0036】
【
図2b】被検者の胸部分を対象として取得されたEIT画像の一実施例を示す面である。
【0037】
【
図3】被検者の1心周期の間に第1画素の値及び第2画素の値が離散的時点に応じて変わるパターンを例示するための図である。
【0038】
【
図4】複数の心周期の間における、心室駆出時間(TD
H)、肺灌流時間(TD
L)、平均通過時間(MTT)及び肺動脈圧力(PAP)の時間による変化を示す図である。
【0039】
【
図5】被検者の2心周期の間に第1画素の値及び第2画素の値が離散的時点に応じて変わるパターンを例示するための図である。
【0040】
【
図6】EITに基づいて被検者に対する血流力学変数を算出する方法を説明するためのフローチャートの第1実施例を示す面である。
【0041】
【
図7】EITに基づいて被検者に対する血流力学変数を算出する方法を説明するためのフローチャートの第2実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明の利点、特徴、及びそれらを達成する方法は、添付図面と共に詳細に後述されている実施例を参照すると明確になるだろう。しかし、本発明は、以下で開示する実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で実現される。本実施例は、単に本発明の開示を完全たるものにし、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に発明の範疇を完全に知らせるために提供されるものである。本発明は、請求項の範疇によってのみ定められる。
【0043】
本明細書で使用される用語は、単に特定の実施例を説明するために使用されたもので、本発明を限定するものではない。例えば、単数で表現された構成要素は、文脈上明白に単数のみを意味しない限り、複数の構成要素を含む概念と理解されるべきである。また、本発明の明細書において、「含む」又は「有する」などの用語は、明細書上に記載された特徴、数字、ステップ、動作、構成要素、部分品又はこれらの組み合わせが存在することを指定しようとするものであり、このような用語の使用によって一つ又はそれ以上の他の特徴、数字、ステップ、動作、構成要素、部分品又はこれらの組み合わせの存在又は付加可能性が予め排除されるものではない。また、本明細書に記載された実施例において、「モジュール」或いは「部」は、少なくとも一つの機能や動作を行う機能的部分を意味することができる。
【0044】
なお、別に定義しない限り、技術的或いは科学的用語を含めて、ここで使用される全ての用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者によって一般的に理解されるのと同一の意味を有する。一般に使用される辞典に定義されているような用語は、関連技術の文脈上において有する意味と一致する意味であると解釈されるべきであり、本発明の明細書において明白に定義しない限りは、理想的又は過度に形式的な意味で解釈されない。
【0045】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施例をより詳細に説明する。但し、以下の説明では、本発明の要旨を不要に不明確にするおそれがある場合、広く知られている機能や構成についての具体的な説明は省略する。
【0046】
図1は、EIT(Electrical Impedance Tomograhy)に基づいて被検者に対する血流力学(hemodynamics)変数を算出するための装置のブロック図の一実施例を示す図である。
【0047】
図1に示すように、装置100は、入力インターフェース110、制御部120、記憶部130、及びディスプレイ部140を含むことができる。記憶部130は、被検者の胸部分を対象として取得されたEIT画像を記憶することができる。一実施例において、記憶されたEIT画像は、被検者の胸部分を対象として被検者の1心周期(Cardiac Cycle)内の離散的時点(discrete points in time)で取得された画像であり得る。一実施例において、記憶されたEIT画像は、被検者の胸部分を対象として被検者の複数の心周期における離散的時点で取得された画像であり得る。記憶されたEIT画像は、被検者の胸に複数の電極を取り付けて被検者の胸部分に対するインピーダンス(impedance)データを取得し、取得されたインピーダンスデータを復元することにより得られる。被検者の胸部分を対象として取得されたEIT画像の実施例を示す
図2a及び
図2bを参照すると、記憶されたEIT画像は、肺(lung)を示す画像領域210、及び画像(heart)を示す画像領域220を含むことができる。被検者の心周期は、被検者に対して取得された心電図(ECG:electrocardiography)波形におけるR波(R waves)間の周期を測定することにより決定される。EIT画像が取得される離散的時点間の周期は、システム解像度によって決定される。例えば、秒あたり100枚のEIT画像が取得されるシステムの場合、システム解像度は10msであって、10msごとに1枚のEIT画像が取得されるので、EIT画像が取得される離散的時点間の周期は10msになり得る。
【0048】
記憶部130は、開示された技術の様々な実施例による画像処理を行うことにより得られた中間結果の画像データ、開示された技術の様々な実施例による画像処理を行うことにより得られた結果画像データ、開示された技術の様々な実施例による画像処理及び/又は演算処理を行うのに必要な変数値、開示された技術の様々な実施例によってEIT画像から選択された画素データ、及び開示された技術の様々な実施例による演算処理を行うことにより得られた演算処理結果値を記憶するために使用できる。様々な実施例において、記憶部130は、EIT画像をDICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine)形式又は一般的なイメージファイル形式(BMP、JPEG、TIFFなど)で記憶することができる。記憶部130は、制御部120の実現に必要なソフトウェア/ファームウェアなどをさらに記憶することができる。記憶部130は、フラッシュメモリタイプ(flash memory type)、ハードディスクタイプ(hard disk type)、マルチメディアカード(MultiMedia Card:MMC)、カードタイプのメモリ(例えば、SD(Secure Digital)カード又はXD(eXtream Digital)カードなど)、RAM(Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)、ROM(Read-Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)、PROM(Programmable Read-Only Memory)、磁気メモリ、磁気ディスク、及び光ディスクのうちのいずれか一つの記憶媒体で実現できるが、当業者であれば、記憶部130の実現形態がこれに限定されないことが分かる。
【0049】
入力インターフェース110は、開示された技術の様々な実施例による画像処理及び/又は演算処理を行うためにユーザ命令を入力するためのハードウェア及びソフトウェアモジュールで構成できる。入力インターフェース110は、必要な各種命令を制御部120に入力するか、或いはEIT画像取得装置によって取得されたEIT画像データなどの様々な画像データを記憶部130に入力するか、或いはディスプレイされた画像の一部又は全部を指示してこれによる様々な画像処理を行うために有利に使用できる。また、入力インターフェース110は、EIT画像における特定の領域を関心領域(ROI:region of interest)として指定し、指定された関心領域内の任意の箇所を選択するために有利に使用できる。一実施例において、入力インターフェース110は、コンピュータのキーボード(keyboard)、キーパッド(keypad)、タッチパッド(touchpad)、マウス(mouse)などを含むことができるが、入力インターフェースの種類は、これに制限されない。例えば、入力インターフェース110は、前述した入力装置を用いて制御可能なグラフィックユーザインターフェース(Graphic User Interface)を含むこともできる。ディスプレイ部140は、開示された技術の様々な実施例によって様々な画像及び/又は多様なデータを視覚的に表示するためのものであって、LCDディスプレイ、LEDディスプレイ、AMOLEDディスプレイ、CRTディスプレイなどの様々なディスプレイ装置を含むことができる。
【0050】
制御部120は、複数の離散的時点でそれぞれ取得されたEIT画像における、心臓に該当する領域での第1画素の値、肺に該当する領域での第2画素の値を識別するように構成できる。一実施例において、制御部120は、EIT画像における心臓を示す領域220を第1関心領域225として指定し、第1関心領域225から第2画素227を選択するように構成できる。一実施例において、制御部120は、EIT画像における肺を示す領域210を第2関心領域215として指定し、第2関心領域215から第2画素217を選択するように構成できる。一実施例において、エッジ検出アルゴリズム(edge detection algorithm)、画像分割アルゴリズム(image segmentation algorithm)などのアルゴリズムを用いて制御部120が第1関心領域225及び第2関心領域215を指定することができるが、第1関心領域225及び第2関心領域215を指定する方式がこれに制限されないことを認識しなければならない。例えば、ユーザが入力インターフェース110を用いて第1関心領域225及び第2関心領域215を手動で指定することも可能である。ここで、第1画素の値及び第2画素の値はいずれも、EIT画像が取得された離散的時点に関連している。このような関連関係によって、例えば、第1画素227の1番目の値は、15msで取得されたEIT画像から選択された第1画素227の値であり、第1画素227の二番目の値は、25msで取得されたEIT画像から選択された第1画素227の値であるなど、第1画素の値が取得された時点を知ることができる。同様に、同じ関連関係によって、第2画素217の値が取得された時点も知ることができる。
【0051】
図3は、被検者の1心周期の間に第1画素の値及び第2画素の値が離散的時点に応じて変わるパターンを例示するための図である。
【0052】
図3において、縦軸は画素値を示し、横軸は時間、すなわち離散的時点を示す。
図3において、下側の画素値の変化は第1画素227の値の変化を示し、上側の画素値の変化は第2画素217の値の変化を示す。
図3では、図示の便宜上、画素値を連続的な波形で表したが、この画素値は、離散的時点における離散的値であると理解されるべきである。図示の実施例では、豚を被検体として取得したEIT画像における第1画素227の値の変化と第2画素217の値の変化を、豚の心周期である800msの間に示している。
図3において、画素の値は、0~1の間の値としてスケーリングされた値である。また、
図3では、0msでの画素値を0と表したが、これは、ECG波形でR波が発生する時点(心周期の開始時点又は心臓が収縮を始める時点)を0msと仮定し、このときの第1画素227の値と第2画素217の値がいずれも基準値0であると仮定した状態で、時間経過に伴って第1画素227の値と第2画素217の値が基準値に比べてどれほど変化したかを判別するためである。
【0053】
図3の波形を定性的に分析すると、下側の第1画素227の変化は、心臓の容積(volme)、すなわち心臓に残っている血液の量の変化を示すものであるが、第1画素227の値がマイナス側に増加することにより心臓が収縮して血液が心臓から肺動脈を経て肺へ流れることを示す。このような過程を心室駆出(ventricular ejection)と呼び、第1画素227の値が最小値となる時点を心室駆出時間(ventricular ejection time、TD
H)又は収縮末期(end systole)時点と呼ぶ。この時点を基準として、それ以後には心臓がそれ以上収縮するのを止め、心臓に再び血液が増える。図示の如く、この時点以後に、第1画素227の値は再び0に近づいてプラス値をとる。一方、上側の第2画素217の変化は、肺の容積、すなわち肺に残っている血液の量の変化を示すものであるが、第2画素217の値がプラス側に増加することにより、血液が心臓から拍出されて肺へ流入することを示す。このような過程を肺灌流(pulmonary perfusion)と呼び、第2画素217の値が最大値となる時点、すなわち心臓が収縮して血液が肺動脈を経由して肺へ供給されることにより、肺にある血液の量が最大となる時点を肺灌流時間(TD
L)と呼ぶ。図示されている実施例では、第2画素217の値が単調関数で増加するが、他の実施例では、第2画素217の値が増加してから減少し、再び増加してから減少し、さらに増加してついに最大値に達する方式で複数のピークパターンを示すことができる。第2画素217の値が増加してから減少するのは、心臓が収縮して血液が肺動脈を経由して肺に流入する途中で、さらに血液が逆流して再び心臓へ入る現象によって説明できる。
図3において、肺灌流時間TD
Lと心室駆出時間TD
Hとの差異を平均通過時間(MTT:mean transit time)と呼ぶが、この時間は、心臓から血液が出てくることは中断したが、既に出てきた血液が肺に流れ込む時間を意味する。
【0054】
再び
図1の制御部120の説明に戻り、制御部120は、識別された第1画素227の値のうちの最小値に関連した第1時点、及び識別された第2画素の値のうちの最大値に関連した第2時点に基づいて、少なくとも一つの血流力学(hemodynamic)変数を算出するようにさらに構成できる。ここで、最小値と最大値は、絶対的な基準における最小値と最大値だけでなく、最小値と最大値からある程度の誤差範囲に入ってくる値を全て包括するものと理解及び解釈されるべきである。
図3に示すように、第1時点は心室駆出時間(TD
H)であり、第2時点は肺灌流時間(TD
L)であり得る。一実施例において、制御部は、第1時点及び第2時点に基づいて、肺動脈圧力(PAP:pulmonary artery pressure)を算出するようにさらに構成される。制御部120は、第1時点及び第2時点を変数とする関数であって、肺動脈圧力を算出することができる。一実施例において、制御部120は、第1時点及び第2時点の線型結合(linear combination)で肺動脈圧力を算出することができる。このような実施例において、線型結合のための第1時点及び第2時点に対する係数は、キャリブレーション(calibration)手順を経て決定される。EIT画像を取得するとき、これと同時に侵襲的方法で肺動脈圧力を測定し、最小二乗法(Least Square Method)を適用して、線型結合で表現された肺動脈圧力と侵襲的方法で測定された肺動脈圧力との誤差の二乗を最小化する方向に、第1時点及び第2時点に対する係数を算出することができる。一実施例において、制御部120は、第2時点から第1時点を差し引いた値(この場合、第2時点に対する係数は1であり、第1時点に対する係数は-1である)、すなわち、平均通過時間(MTT)に基づいて肺動脈圧力を算出するように構成できる。複数の心周期の間に心室駆出時間(TD
H)、肺灌流時間(TD
L)、平均通過時間(MTT)及び肺動脈圧力(PAP)の時間による変化を示す
図4を参照すると、平均通過時間(MTT:TD
L-TD
H)の波形が肺動脈圧力(PAP)の波形に近接して追従することを確認することができる。
【0055】
一実施例において、制御部120は、第1時点、第2時点、第1画素227の値のうちの最小値及び第2画素217の値のうちの最大値に基づいて肺動脈圧力を算出するようにさらに構成できる。前述した実施例と同様に、制御部120は、第1時点、第2時点、前記最小値及び前記最大値の線型結合で肺動脈圧力を算出することができる。このような実施例においても、最小二乗法を適用して、線型結合で表現された肺動脈圧力と侵襲的方法で測定された肺動脈圧力との誤差の二乗を最小化する方向に、第1時点、第2時点、前記最小値及び前記最大値に対する係数を算出することができる。制御部120は、第2画素217の値が二つ以上のピークパターンを示す場合、第1時点、第2時点、前記最小値、前記最大値、前記2つ以上のピークパターンのうちの最大値に関連したピークパターンを除く残りのピークパターンにおける第2画素217のピーク値、及びこれらのピーク値に関連した時点に基づいて肺動脈圧力を算出するようにさらに構成できる。この場合も、制御部120は、前述した実施例と同様に、最小二乗法を適用して、線型結合で表現された肺動脈圧力と侵襲的方法で測定された肺動脈圧力との誤差の二乗を最小化する方向に、第1時点、第2時点、前記最小値、前記最大値、第2画素217のピーク値、及びこれらのピーク値に関連した時点に対する係数を算出することができる。制御部120は、第1画素227の値が二つ以上のピークパターンを示す場合、第1時点、第2時点、前記最小値、前記最大値、前記二つ以上のピークパターンのうちの前記最小値に関連したピークパターンを除く残りのピークパターンにおける第1画素227のピーク値、及びこれらのピーク値に関連した時点に基づいて肺動脈圧力を算出するようにさらに構成できる。この場合も、制御部120は、前述した実施例と同様に、最小二乗法を適用して、線型結合で表現された肺動脈圧力と侵襲的方法で測定された肺動脈圧力との誤差の二乗を最小化する方向に、第1時点、第2時点、前記最小値、前記最大値、第1画素217のピーク値、及びこれらのピーク値に関連した時点に対する係数を算出することができる。制御部120は、第1時点、第2時点、被検者の心電図、被検者の血圧(blood pressure)、被検者のフォトプレチスモグラフィ(PPG:photoplethysmography)及び被検者の心理心電図(SCG:seismocardiography)に基づいて肺動脈圧力を算出するようにさらに構成できる。肺動脈圧力を算出するにあたり、複数の種類のデータを複合的に反映するほどより正確な肺動脈圧力算出値を得ることが可能となる。 制御部120は、算出された肺動脈圧力を用いて肺血管抵抗(PVR:pulmonary vascular resistance)を算出するようにさらに構成できる。制御部120は、前記最小値及び第1時点、すなわち心室駆出時間(TDH)に基づいて心臓がどれほど収縮することができるかを示す尺度である心筋収縮度(contractility)を算出するようにさらに構成できる。一実施例において、制御部120は、前記最小値を第1時点の値で割った値に基づいて心筋収縮度を算出するように構成される。
【0056】
制御部120は、複数の心周期のうちの第1心周期内の離散的時点で取得されたEIT画像における心臓に該当する領域での画素の値のうち第1時点に該当する画素の値、及び複数の心周期のうちの第2心周期内の離散的時点で取得されたEIT画像における心臓に該当する領域での画素の値のうち第2時点に該当する画素の値を識別するようにさらに構成できる。ここで、第1時点は、第2時点よりも心周期に該当する時間だけ時間的に先立っている。制御部120は、第1時点に該当する画素の値及び第2時点に該当する画素の値に基づいて少なくとも一つの血流力学変数を算出するようにさらに構成できる。被検者の二心周期の間に第1画素の値及び第2画素の値が離散的時点に応じて変わるパターンを例示する
図5に示されているように、一実施例において第1時点及び第2時点は、記号(T1_1及びT2_1)で表した拡張末期(end diastole)時点である。周知の如く、拡張末期時点は、心臓に血液が一番多く充填されたときの時点であって、ECG波形においてR波が発生する時点から約100ms以前の時点又はP波が終わる時点である。このような実施例において、制御部120は、第1時点に該当する画素の値及び第2時点に該当する画素の値に基づいて拡張末期心室容積(EDVV:end-diastolic ventricular volume)の変化量を算出するようにさらに構成される。一実施例において、制御部120は、算出された拡張末期心室容積の変化量及び心周期間の一回拍出量(SV:stroke volume)の変化量を用いて心筋収縮度を算出するようにさらに構成される。また、
図5に示されているように、一実施例において、第1時点及び第2時点は、記号(T1_2及びT2_2)で表した収縮末期(end systole)時点である。前述したように、収縮末期時点は、心室駆出時間(TD
H)に該当する時点であって、心臓から血液が一番多く抜け出したときの時間、すなわち心室の収縮が止まる時間を意味する。このような実施例において、制御部120は、第1時点に該当する画素の値及び第2時点に該当する画素の値に基づいて収縮末期心室容積(ESVV:end-systolic ventricular volume)の変化量を算出するようにさらに構成される。一実施例において、制御部120は、算出された収縮末期心室容積の変化量及び心周期間の一回拍出量の変化量を用いて駆出率(EF:ejection fraction)を算出するようにさらに構成される。
【0057】
制御部120は、ハードウェア的な面で、特定用途向け集積回路(Applcation Specific Integrated Circuits:ASICs)、デジタルシグナルプロセッサ(Digital Signal Processors:DSP)、デジタルシグナルプロセッサデバイス(Digital Signal Processing Devices:DSPDs)、プログラマブルロジックデバイス(Programmable Logic Devices:PLD)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(Field-Programmable Gate Arrays:FPGAs)、プロセッサ(processors)、制御器(controllers)、マイクロコントローラ(micro-controllers)及びマイクロプロセッサ(microprocessors)のうちの少なくとも一つを用いて実現できる。また、制御部120は、前述したハードウェアプラットフォーム(platform)上で実行可能なファームウェア(firmware)/ソフトウェアモジュールで実現できる。この場合、ファームウェア/ソフトウェアモジュールは、適切なプログラム(program)言語で書かれた一つ又はそれ以上のソフトウェアアプリケーション(software applications)によって実現できる。
【0058】
図6は、EITに基づいて被検者へ対する血流力学変数を算出する方法を説明するためのフローチャートの第1実施例を示す図である。
【0059】
図6に示されているように、本方法は、被検者の胸部分を対象として被検者の心周期内の離散的時点でのEIT画像を取得するステップ(S605)から始まる。一実施例において、EIT画像は、被検者の胸に複数の電極を取り付けて被検者の胸部分に対するインピーダンスデータを取得し、取得されたインピーダンスデータを復元することにより得られる。ステップ(S610)では、複数の離散的時点でそれぞれ取得されたEIT画像における心臓に該当する領域での第1画素の値、及び肺に該当する領域での第2画素の値を識別する。本ステップでは、EIT画像における心臓を示す領域220を第1関心領域225として指定し、第1関心領域225から第1画素227を選択し、EIT画像における肺を示す領域210を第2関心領域215として指定し、第2関心領域215から第2画素217を選択することができる。ここで、第1画素の値及び第2画素の値はいずれも、EIT画像が取得された離散的時点に関連している。ステップ(S615)では、識別された第1画素の値のうちの最小値に関連した第1時点、及び識別された第2画素の値のうちの最大値に関連した第2時点に基づいて、少なくとも一つの血流力学変数を算出する。一実施例において、第1時点は心室駆出時間であり、第2時点は肺灌流時間である。本ステップでは、第1時点及び前記第2時点に基づいて肺動脈圧力を算出することができる。本ステップでは、第1時点、第2時点、前記最小値及び前記最大値に基づいて肺動脈圧力を算出することができる。本ステップでは、第2画素の値が二つ以上のピークパターンを示す場合、第1時点、第2時点、前記最小値、前記最大値、前記二つ以上のピークパターンのうちの前記最大値に関連したピークパターンを除く残りのピークパターンにおける第2画素のピーク値、及びこれらのピーク値に関連した時点に基づいて肺動脈圧力を算出することができる。本ステップでは、第1画素の値が二つ以上のピークパターンを示す場合、第1時点、第2時点、前記最小値、前記最大値、前記二つ以上のピークパターンのうちの前記最小値に関連したピークパターンを除く残りのピークパターンにおける第1画素のピーク値、及びこれらのピーク値に関連した時点に基づいて肺動脈圧力を算出することができる。本ステップでは、第1時点、第2時点、被検者の心電図、被検者の血圧、被検者のフォトプレチスモグラフィ及び被検者の心理心電図(SCG)に基づいて肺動脈圧力を算出することができる。本ステップでは、算出された肺動脈圧力を用いて肺血管抵抗を算出することができる。また、本ステップでは、前記最小値及び第1時点に基づいて心筋収縮度を算出することができる。
【0060】
図7は、EITに基づいて被検者に対する血流力学変数を算出する方法を説明するためのフローチャートの第2実施例を示す図である。
【0061】
図7に示されているように、本方法は、被検者の胸部分を対象として被検者の複数の心周期内の離散的時点でのEIT画像を取得するステップ(S705)から始まる。ステップ(S710)では、複数の心周期のうちの第1心周期内の離散的時点で取得されたEIT画像における心臓に該当する領域での画素の値のうち第1時点に該当する画素の値、及び複数の心周期のうちの第2心周期内の離散的時点で取得されたEIT画像における心臓に該当する領域での画素の値のうち第2時点に該当する画素の値を識別する。ここで、第1時点は、第2時点よりも心周期に該当する時間だけ時間的に先立っている。ステップ(S715)では、第1時点に該当する画素の値、及び第2時点に該当する画素の値に基づいて少なくとも一つの血流力学変数を算出する。一実施例において、第1時点及び第2時点は拡張末期時点であり、このような実施例において、本ステップでは、第1時点に該当する画素の値及び第2時点に該当する画素の値に基づいて拡張末期心室容積の変化量を算出することができる。本ステップでは、算出された拡張末期心室容積の変化量及び心周期間の一回拍出量の変化量を用いて心筋収縮度を算出することができる。一実施例において、第1時点及び第2時点は収縮末期時点であり、このような実施例において、本ステップでは、第1時点に該当する画素の値及び第2時点に該当する画素の値に基づいて収縮末期心室容積の変化量を算出することができる。また、本ステップでは、算出された収縮末期心室容積の変化量及び心周期間の一回拍出量の変化量を用いて駆出率を算出することができる。
【0062】
以上の説明において、ある構成要素が他の構成要素に接続又は結合されるという記載の意味は、当該構成要素が他の構成要素に直接接続又は結合されるという意味だけでなく、それらがその間に介在した一つ又はそれ以上の別の構成要素を介して接続又は結合されることができるという意味を含むと理解されるべきである。その他にも、構成要素間の関係を記述するための用語(例えば、「の間に」など)も類似な意味で解釈されるべきである。
【0063】
本明細書に開示された実施例において、図示されている構成要素の配置は、発明が実現される環境又は要求事項によって変わり得る。例えば、一部の構成要素が省略されるか、或いは幾つかの構成要素が一つに統合されて実施され得る。また、幾つかの構成要素の配置順序及び連結が変更できる。
【0064】
以上では、本発明の様々な実施例について図示及び説明したが、本発明は、上述した特定の実施例に限定されず、上述した実施例は、添付する特許請求の範囲で請求する本発明の要旨から外れることなく、当該発明の属する技術分野における通常の知識を有する者によって様々に変形実施できるのはもとより、それらの変形実施例が本発明の技術的思想や範囲とは別個に理解されてはならない。よって、本発明の技術的範囲は、添付する特許請求の範囲のみによって定められるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は、電気インピーダンストモグラフィを用いて血流力学変数を非侵襲的にモニタリングすることができる。