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特許7420431デンプン含有樹脂組成物、成形物、及びデンプン含有樹脂組成物の生分解速度の調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】デンプン含有樹脂組成物、成形物、及びデンプン含有樹脂組成物の生分解速度の調整方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 3/02 20060101AFI20240116BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20240116BHJP
   C08K 5/103 20060101ALI20240116BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240116BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20240116BHJP
【FI】
C08L3/02
C08L67/02 ZBP
C08K5/103
C08L101/00
C08L101/16
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023513395
(86)(22)【出願日】2021-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2021039921
(87)【国際公開番号】W WO2023073895
(87)【国際公開日】2023-05-04
【審査請求日】2023-02-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507249247
【氏名又は名称】株式会社バイオマステクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】神谷 雄仁
(72)【発明者】
【氏名】坂口 和久
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-155531(JP,A)
【文献】国際公開第2020/202813(WO,A1)
【文献】特開2003-073531(JP,A)
【文献】特開2020-050855(JP,A)
【文献】国際公開第2005/087857(WO,A1)
【文献】特開2020-125470(JP,A)
【文献】特表2013-537578(JP,A)
【文献】国際公開第2013/073402(WO,A1)
【文献】特開2016-176044(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00- 101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
精米1重量%~90重量%と、
生分解性の樹脂としてポリブチレンサクシネートのペレットと、
相溶化剤としてグリセリンジアセトモノラウレートと、
を有し、
前記生分解性の樹脂の含有率(重量%)に対する前記精米の含有率(重量%)の比率が、0.05~5であり、
前記相溶化剤が0.1重量%~10重量%であり、
生分解性ではない樹脂を含まず、非生分解性の相溶化剤を含まない、組成物。
【請求項2】
前記精米が、米粉ではない、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記精米が、中白米である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物が加温された状態で水と混練され、デンプン含有樹脂組成物中の精米がアルファ化されている、デンプン含有樹脂組成物。
【請求項5】
請求項に記載のデンプン含有樹脂組成物を成形加工してなる、成形物。
【請求項6】
前記成形物がシート又はフィルムである、請求項に記載の成形物。
【請求項7】
精米1重量%~90重量%と、生分解性の樹脂としてポリブチレンサクシネートのペレットと、相溶化剤としてグリセリンジアセトモノラウレートと、を製造装置内に投入する工程を有し、
前記生分解性の樹脂の含有率(重量%)に対する前記精米の含有率(重量%)の比率が、0.05~5であり、
前記相溶化剤が0.1重量%~10重量%であり、
生分解性ではない樹脂を含まず、非生分解性の相溶化剤を含まない、デンプン含有樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
さらに水を投入する工程を有する、請求項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記デンプン含有樹脂組成物中の精米がアルファ化されている、請求項に記載の製造方法。
【請求項10】
デンプン含有樹脂組成物の生分解速度の調整方法であって、
デンプン1重量%~90重量%と、生分解性の樹脂としてポリブチレンサクシネートと、相溶化剤としてジアセチル脂肪酸モノグリセリドと、を有する組成物混練する工程を有し、前記生分解性の樹脂の含有率(重量%)に対する前記デンプンの含有率(重量%)の比率が、0.05~5であり、前記相溶化剤が0.1重量%~10重量%であり、生分解性ではない樹脂を含まず、非生分解性の相溶化剤を含まない、デンプン含有樹脂組成物を得、当該デンプン含有樹脂組成物と、生分解性の樹脂と、を混練する工程、あるいは、
請求項に記載のデンプン含有樹脂組成物と、生分解性の樹脂とを混練する工程を有する、調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はデンプン含有樹脂組成物、成形物、及びデンプン含有樹脂組成物の生分解速度の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する意識の高まりから、生分解性の機能を有する種々の樹脂製品が上市されている。
【0003】
これらの樹脂は、生分解性樹脂や生分解性プラスチックと呼ばれ、通常の使用状況では一般の樹脂やプラスチックと同様に使用可能である。しかしながら、時間の経過とともに土壌や水中の微生物の働きにより分解され、最終的に水と二酸化炭素に分解されるため、土壌汚染や海洋汚染の解決に資すると期待されている。
【0004】
また、これらの生分解性樹脂や生分解性プラスチックは、バイオマス(植物、細胞・微生物)に由来する材料を用いることが多いため、一般的な樹脂やプラスチックと比べ、石油に由来する材料の使用を削減できる。そのため、生分解性樹脂や生分解性プラスチックが広く活用されることで、石油の使用量の削減や、環境中の二酸化炭素の増加抑制にもつながり、延いては地球温暖化の防止にも寄与する、と注目されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、乳酸系樹脂と、乳酸系樹脂以外の生分解性樹脂とを含有し、インフレーション製膜法で成形される、バイオマス性に優れた生分解性フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許5867406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような生分解性の樹脂やプラスチックは、生分解されるのに要する期間が長すぎるという問題があった。
【0008】
そこで本発明は、生分解に要する期間を短くした生分解性の樹脂組成物、及びその成形物を提供することを目的とする、及び/または、樹脂組成物の生分解に要する期間を調整する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の一態様に係る樹脂組成物は、デンプンと、生分解性の樹脂と、相溶化剤と、を有するデンプン含有樹脂組成物である。また、本発明の一態様は、当該デンプン含有樹脂組成物を成形加工してなる、成形物である。
【0010】
また、本発明の一態様に係る樹脂組成物の生分解速度の調整方法は、デンプンと、生分解性の樹脂と、相溶化剤と、を混練する工程を有する、デンプン含有樹脂組成物の生分解速度の調整方法である。
【0011】
また、本発明の一態様に係る樹脂組成物の生分解速度の調整方法は、デンプン含有樹脂組成物と、生分解性の樹脂とを混練する工程を有する、デンプン含有樹脂組成物の生分解速度の調整方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のデンプン含有樹脂組成物、及びその成形物によれば、生分解に要する期間を短くした生分解性の樹脂組成物、及び成形物を提供することができる。また、本発明の、デンプン含有樹脂組成物の生分解速度の調整方法によれば、生分解性の樹脂組成物の生分解に要する期間を調整する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係るデンプン含有樹脂組成物の製造装置を示す斜視図である。
図2図1の正面図である。
図3図1の平面図である。
図4】デンプン含有樹脂組成物の製造装置を構成する第1収容部の第1収容空間を示す図である。
図5図1のデンプン含有樹脂組成物の製造装置を構成する第1収容部の第1収容空間に配置された複数の回転部材について示す図である。
図6】本発明の一実施形態に係るデンプン含有樹脂組成物の製造方法を示すフローチャートである。
図7】実施例1及び比較例1の柔軟性(靱性)の評価について示す画像である。
図8】実施例1、実施例2及び比較例1のデンプン凝集の評価について示す画像である。
図9】生分解性試験における実施例9~11及び比較例3の重量減少率を示すグラフである。
図10】生分解性試験における実施例9及び比較例3の目視試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。ここで示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するために例示するものであって、本発明を限定するものではない。よって、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者などにより考え得る実施可能な他の形態、使用方法及び運用技術などは全て本発明の範囲、要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作及び物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
【0015】
また、本明細書に添付する図面は、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺、縦横の寸法比、形状などについて、実物から変更し模式的に表現される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0016】
(デンプン含有樹脂組成物)
本実施形態に係るデンプン含有樹脂組成物は、デンプンと、生分解性の樹脂と、相溶化剤と、を含む。
【0017】
(デンプン)
本実施形態に係るデンプン含有樹脂組成物は、デンプンを含む。デンプン含有樹脂組成物は、デンプンを含むことにより、生分解性の樹脂のみからなる樹脂組成物と比べ、生分解の速度を向上させることができる。
【0018】
デンプン含有樹脂組成物におけるデンプンの含有率の上限は、デンプン含有樹脂組成物の強度の観点から、デンプン含有樹脂組成物全質量に対して90重量%以下であることが好ましく、70重量%以下であることがより好ましく、60重量%以下であることが特に好ましい。デンプン含有樹脂組成物におけるデンプンの含有率の下限は、生分解の速度を高める観点から、デンプン含有樹脂組成物全質量に対して1%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましく、40重量%以上であることが特に好ましい。
【0019】
また、デンプン含有樹脂組成物が、袋や農業用マルチシートなどのインフレーション加工による成形物や食品トレーなどの押出シート加工による成形物に用いられる場合は、デンプンの含有率は、デンプン含有樹脂組成物全質量に対して5~40重量%であることが好ましく、6~30重量%であることがより好ましく、10~20重量%であることが特に好ましい。
【0020】
デンプンの種類は、特に制限されないが、市場価格や安定供給の観点から、米、じゃがいも、タロイモ、トウモロコシ、小麦、ライ麦、豆類、及び、サツマイモからなる群より選択される1つ以上であることが好ましい。
【0021】
一実施形態において、デンプンとして米を用いる場合は、精米、古米、吟醸米、米ぬか(中白粉)等を用いることができる。中でも、成形物の成形に用いられる樹脂のペレットの一般的なサイズと精米のサイズとが類似しているため、ハンドリングが容易であるという観点から、米は精米であることが好ましい。なお、ペレットの一般的なサイズは、例えば直径2~5mmのものをいう。
【0022】
また、デンプンとして米を用いる場合、米粉を用いることもできる。米粉の原料としては、β構造(結晶構造)である、精米、古米、吟醸米、米ぬか(中白粉)等が好適である。特に米ぬかは、精米される過程で廃棄されることが多いため、米粉として米ぬかを使用することは、環境負荷が低くエコロジーであり、ライフサイクルアセスメントの観点からも好適である。
【0023】
デンプンが米である場合、デンプン含有樹脂組成物における米の含有率の上限は、デンプン含有樹脂組成物の強度の観点から、90重量%以下であることが好ましく、70重量%以下であることがより好ましく、60重量%以下であることが特に好ましい。デンプン含有樹脂組成物におけるデンプンの含有率の下限は、生分解の速度を高める観点から、1%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましく、40重量%以上であることが特に好ましい。このように、本明細書においてデンプンを米(精米)と読み替えてもよい。
【0024】
(生分解性の樹脂)
本実施形態に係るデンプン含有樹脂組成物は、生分解性の樹脂を含む。生分解性の樹脂を含むことにより、デンプン含有樹脂組成物が微生物の生産する酵素によって分解されることを可能とする。本明細書において、「生分解性の樹脂」を単に「樹脂」と称する場合もある。
【0025】
生分解性の樹脂は、生分解性を有していれば特に制限されず、任意の樹脂を用いることができる。
【0026】
本発明の一実施形態によれば、生分解性の樹脂は、2価のカルボン酸と、2価のアルコールとの重縮合反応によって得られるものである。2価のカルボン酸としては、例えば、炭素数1~4あるいは2~3の脂肪族炭化水素における2つの水素がカルボキシ基に置換されたもの、あるいは、芳香族炭化水素における2つの水素がカルボキシ基に置換されたものがある。より詳しくは、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸等が好適である。2種以上のものが適宜組み合わされてもよい。2価のアルコールとしては、炭素数2~6あるいは3~5の脂肪族炭化水素における2つの水素が水酸基に置換されたものがある。より詳しくは、例えば、エタンジオール、プロパンジオール、ブタンジオール、ヘキサンジオール等が好適である。
【0027】
換言すれば、生分解性の樹脂は、2価のカルボン酸由来の構成単位と、2価のアルコールの構成単位とを含む。このような生分解性の樹脂として、例えば、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)等が好適である。
【0028】
本発明の一実施形態によれば、生分解性の樹脂は、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリブチレンサクシネート-co-アジペート(PBSA)、ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT)、ポリエチレンテレフタレートサクシネート(PETS)、PBAT・PLAコンパウンド、澱粉ポリエステル樹脂、酢酸セルロース、ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)、及び3-ヒドロキシブチレート-co-3-ヒドロキシヘキサノエート重合体(PHBH)からなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。粘性等の力学特性の観点から、生分解性の樹脂は、ポリブチレンサクシネート及びポリブチレンアジペートテレフタレートの少なくとも一方であることが好ましく、米との複合材料化の容易性という観点から、ポリブチレンサクシネートが最もよい。
【0029】
また、デンプン含有樹脂組成物が、袋や農業用マルチシートなどのインフレーション加工による成形物に用いられる場合は、生分解性の樹脂は、ポリブチレンサクシネート又はポリブチレンアジペートテレフタレートであることが好ましい。
【0030】
生分解性樹脂の融点の上限は、混練時にデンプン等が焦げ付かないために、190℃以下であることが好ましく、180℃以下であることがより好ましく、170℃以下であることが特に好ましい。また、生分解性樹脂の融点の下限は、デンプン等との混練を容易に行うことができる観点から、120℃以上であることが好ましく、130℃以上であることがより好ましく、140℃以上であることが特に好ましい。
【0031】
デンプン含有樹脂組成物における生分解性の樹脂の含有率の上限は、デンプン含有樹脂組成物の強度の観点から、デンプン含有樹脂組成物全質量に対して99重量%以下であることが好ましく、70重量%以下であることがより好ましく、60重量%以下であることが特に好ましい。デンプン含有樹脂組成物における生分解性の樹脂の含有率の下限は、生分解の速度を高める観点から、デンプン含有樹脂組成物全質量に対して10%以上であることが好ましく、20重量%以上であることがより好ましく、30重量%以上であることが特に好ましい。
【0032】
また、デンプン含有樹脂組成物は、生分解性ではない樹脂が含まれていてもよい。デンプン含有樹脂組成物における生分解性ではない樹脂の含有量は、デンプン含有樹脂組成物の生分解性を維持する観点から、50重量%未満、40重量%以下、30重量%以下、20重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、1重量%以下、あるいは0.5重量%以下であり得るが、デンプン含有樹脂組成物が生分解性ではない樹脂を含まないことが好ましい。
【0033】
デンプン含有樹脂組成物におけるデンプンの含有率(重量%)と、生分解性の樹脂の含有率(重量%)との比率(デンプンの含有率/生分解性の樹脂の含有率)は、デンプン含有樹脂組成物の強度や生分解の速度の観点から、0.01~10であることが好ましく、0.05~5であることがより好ましく、0.5~2.5であることが特に好ましい。
【0034】
(相溶化剤)
本実施形態に係るデンプン含有樹脂組成物は、相溶化剤を含む。相溶化剤を含むことにより、デンプンと生分解性の樹脂を均一に混練することを促進できる。相溶化剤は、デンプンと生分解性の樹脂に対する相溶性を有していれば、特に制限されず、種々の相溶化剤を用いることができる。
【0035】
相溶化剤は、生分解性を有していることが好ましい。相溶化剤が生分解性を有することにより、相溶化剤が自然界に残存することを防ぐことができる。また、非生分解性の相溶化剤を用いた場合、組成物全体の生分解を阻害する可能性もあるが、生分解性の相溶化剤を用いる場合は組成物全体の生分解を阻害する可能性は極めて低い。なお、日本バイオプラスチック協会(JBPA)の生分解性プラポジティブリスト(PL)(分類番号B-3(滑剤))に列挙されている物質は、参照により全体として引用され、本明細書に組み込まれ、補正の適法な根拠となる。
【0036】
本実施形態に係るデンプン含有樹脂組成物に用いることができる相溶化剤は、特に制限されないが、米との相溶性の観点から、グリセロール、ポリグリセロール、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及び、グリセリン脂肪酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0037】
上記のグリセリン脂肪酸エステルとしては、モノエステル、ジエステル、トリエステルの3種が挙げられ、より具体的には、例えば、酢酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリド、グリセリンジアセトモノラウレート等のアセチル化グリセライド(ジアセチル脂肪酸モノグリセリド)、コハク酸モノグリセリド、ポリグリセリン縮合リノシール酸エステル、グリセリンジアセトモノラウレートが挙げられる。一実施形態によれば、ジアセチル脂肪酸モノグリセリドは、炭素数が8~15、9~14、あるいは、10~13のアルキル基を有する。
【0038】
一実施形態によれば、ポリグリセリン脂肪酸エステルは、以下の構造を有し、nは、例えば、2~6、あるいは、2~5であり、Rは、炭素数が11~20、13~19、あるいは、15~18のアルキル基である。
【0039】
【化1】
【0040】
デンプン含有樹脂組成物における相溶化剤の含有率における上限は、複合材料化の観点から、10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることがより好ましく、3重量%以下であることが特に好ましい。相溶化剤の含有率における下限は、相溶性の観点から、0.1重量%以上であることが好ましく、0.5重量%以上であることがより好ましく、1重量%以上であることが特に好ましい。
【0041】
(メルトフローレイト)
本実施形態に係るデンプン含有樹脂組成物のメルトフローレイト(JIS K7210:1999、温度190℃、荷重10.0kgf;MFRともいう)は、加工性の観点から1g/10min~10g/10minであることが好ましい。
【0042】
本実施形態に係るデンプン含有樹脂組成物が袋や農業用マルチシートなどのインフレーション加工による成形物に用いられる場合、メルトフローレイトは、加工性の観点から、1g/10min~4g/10minであることが好ましい。また、本実施形態に係るデンプン含有樹脂組成物が、食品トレーなどの押出シート加工による成形物に用いられる場合は、メルトフローレイトは、4g/10min超え8g/10min以下であることが好ましい。
【0043】
(融点)
本実施形態に係るデンプン含有樹脂組成物の融点の上限は、デンプンの分解温度域の観点から、200℃以下であることが好ましく、190℃以下であることがより好ましい。また、デンプン含有樹脂組成物の融点の下限は、デンプン含有樹脂組成物の水の共存を防ぐ観点から、100℃以上であることが好ましい。
【0044】
本実施形態に係るデンプン含有樹脂組成物が袋や農業用マルチシートなどのインフレーション加工による成形物や食品トレーなどの押出シート加工による成形物に用いられる場合、デンプン含有樹脂組成物の融点は、120~200℃であることが好ましく、140~190℃であることがより好ましく、150~180℃であることが特に好ましい。
【0045】
(生分解性)
一実施形態によれば、生分解とは、土中・水中の微生物が生産する酵素によって、物質の分子結合が切断され、最終的に水と二酸化炭素とに分解されることを指す。一実施形態によれば、生分解性とは、ISO 9408、ISO 9439、ISO 10707、JIS K 6950、JIS K 6951、JIS K 6953又は、JIS K 6955の少なくとも1つを満たすものである。
【0046】
本発明に係るデンプン含有樹脂組成物は、デンプンを含有しない樹脂組成物(例えば、下記に示す比較例1及び2。以下、デンプン非含有樹脂組成物とも呼ぶ)や生分解性の樹脂自体よりも、生分解される速度が速い。デンプン含有樹脂組成物の生分解の速度が、デンプン非含有樹脂組成物や生分解性の樹脂自体の生分解の速度よりも速いことは、JIS6955;2017年に規定する生分解性試験によって証明することができる。
【0047】
(成形物)
本発明の一実施形態は、上述したデンプン含有樹脂組成物を成形加工してなる成形物に関するものである。なお、本発明において、成形物には、最終成形物の他に、デンプン含有樹脂組成物を成形加工してなり、さらなる成形加工に供される前駆成形体も含まれている。このような前駆成形体をさらに成形加工することにより、湾曲部や凹凸部を有する複雑な形状の最終成形物を成形することが容易となる。
【0048】
(成形物の成形方法)
本発明のデンプン含有樹脂組成物を用いた成形物の成形方法としては、成形物の用途によって種々の方法を採用することが可能であり、例えば、インフレーション加工や押出しシート成形を含む押出し成形、ブロー成形、射出成形などの種々の方法が挙げられる。具体的には、成形物がレジ袋等の包装用袋や農業用シートである場合は、インフレーション加工を採用することが好ましく、成形物が食品トレーなどである場合には、押出しシート成形を採用することが好ましい。
【0049】
一実施形態において、当該成形物は、フィルム又はシートである。本発明のデンプン含有樹脂組成物はフィルム成形物にできるため、ごみ袋やレジ袋などの袋に用いることができる。また、本発明のデンプン含有樹脂組成物はシート形成物にできるため、食品トレーやブリスターパック等の容器に用いることができる。成形物をフィルムとする場合、その厚さは10μm~100μmであることが好ましく、成形物をシートとする場合その厚さは100μmを超え1mm以下であることが好ましい。なお、成形物の厚みはJIS B7503:2017に従って測定することができる。
【0050】
成形を行う際のデンプン含有樹脂組成物の温度は、得られる成形物の退色抑制と強度を両立する観点から、120~190℃であることが好ましく140~180℃であることがより好ましい。
【0051】
(成形物の用途)
本発明の一実施形態に係る成形体の用途としては、例えば、レジ袋等の包装用袋などの包袋資材、農業用のマルチシートなどの農業用資材、電子機器や家電製品などの筐体、補強材、建材用部品、自動車部品、二輪車用部品、航空機用部品、鉄道車両用部品、日用雑貨品、等が挙げられる。本発明の成形物は自然環境中に仮に流出しても、自然環境中で分解されるため環境への負荷を減らすことができる。
【0052】
(生分解速度の調整方法)
本発明の一実施形態は、上述したデンプン含有樹脂組成物の生分解速度の調整方法である。当該調整方法は、デンプンと、生分解性の樹脂と、相溶化剤とを、混練する工程を有する。当該工程にて、単位質量あたりの生分解性の樹脂に添加するデンプンの質量を変えることにより、生分解速度の調整が可能となる。言い換えると、デンプン含有樹脂組成物におけるデンプンの含有率と生分解性の樹脂の含有率との比率を変化させることにより、生分解速度の調整が可能となる。例えば、デンプンの含有率を上げ、生分解性の樹脂の含有率を下げることにより、生分解の速度は上がる。一方で、デンプンの含有率を下げ、生分解性の樹脂の含有率を上げることにより、生分解の速度は下がる。
【0053】
また、当該調整方法では、デンプン含有樹脂組成物が使用される外部環境に合わせて、デンプン含有樹脂組成物の生分解速度の調整をすることも可能である。例えば、外部環境が高温かつ多湿である場合には、デンプン含有樹脂組成物を生分解する微生物の数も多く、またその活性も高いため、生分解の速度は速いと考えられる。一方で、外的環境が低温である場合には、微生物の数も少なくその活性も低いため、生分解の速度は遅いとことが考えられる。このような外部環境による生分解速度の変化を勘案し、デンプン含有樹脂組成物中のデンプンの含有率と生分解性の樹脂の含有率との比率を変化させることにより、所望の生分解速度を有するデンプン含有樹脂組成物とすることができる。
【0054】
デンプン含有樹脂組成物の生分解速度の調整方法は、デンプン含有樹脂組成物と、生分解性の樹脂と、をさらに混練する工程を有していてもよい。また、デンプン含有樹脂組成物の生分解速度の調整方法は、デンプン含有樹脂組成物と、デンプンと、をさらに混練する工程を有していてもよい。上述の通り、デンプンの含有率と生分解性の樹脂の含有率との比率を変化させることにより、デンプン含有樹脂組成物の生分解速度を調整できるが、デンプンと生分解性の樹脂とを所定の比率で含有するデンプン含有樹脂組成物に対し、生分解性の樹脂又はデンプンを添加し、混練することにより、デンプンの含有率と生分解性の樹脂の含有率の比率を再び調整することができる。すなわち、デンプン含有樹脂組成物に対し、生分解性の樹脂又はデンプンをさらに混練する工程により、デンプン含有樹脂組成物の生分解速度を調整することが可能となる。当該工程を有することにより、デンプン含有樹脂組成物の汎用性がさらに向上する。なお、当該工程の際に、相溶化剤も併せて混練してもよい。
【0055】
(デンプン含有樹脂組成物の製造方法)
次に、本発明の一実施形態である、デンプン含有樹脂組成物の製造方法について説明する。当該デンプン含有樹脂組成物の製造方法は、デンプンと、生分解性の樹脂と、相溶化剤と、を製造装置内に投入する工程を有する。当該製造装置は、デンプンと、生分解性の樹脂と、相溶化剤を混練できれば特に制限されず、種々の装置を用いることができる。しかしながら、当該製造方法において製造装置内に投入されるデンプンが気乾状態である場合には、製造装置内に水を投入する工程を有することが好ましい。デンプンが気乾状態であり、製造装置内に水を投入する工程を有することにより、デンプンは製造工程においてアルファ化する。これにより、デンプンと、生分解性樹脂とが混練時にアモルファスの状態となるため、混練を容易にすることができる。
【0056】
(デンプン含有樹脂組成物の製造装置)
以下では、デンプン含有樹脂組成物の製造方法において、装置に投入されるデンプンが気乾状態であり、且つ、製造装置内に水を投入する工程を有する場合に用いられる二軸混練装置100について説明する。当該二軸混練装置100によってデンプンと、生分解性の樹脂と、相溶化剤とが混練され、デンプン含有樹脂組成物となる。
【0057】
二軸混練装置100は、図1図5に示すように第1収容部10と、投入部20と、回転部30と、脱水部50と、第1脱気部60と、第2脱気部70と、排出部80と、冷却部90と、切断部110と、を有する。
【0058】
なお、二軸混練装置100の説明にあたり、図面には直交座標系を表記している。Xは後述する回転部30の回転軸の延在する方向であり、長手方向Xとする。Yは長手方向Xと交差する第1収容部10の幅方向に相当し、幅方向Yとする。Zは長手方向X及び幅方向Yと交差する方向であり、高さ方向Zとする。以下、詳述する。
【0059】
(第1収容部10)
第1収容部10は、デンプンと、生分解性の樹脂と、相溶化剤と、を含む材料を、水とともに収容する第1収容空間S1を形成する。第1収容部10は、二軸混練装置100を設置する空間の長手方向Xに延在するように長尺に構成している。
【0060】
第1収容部10は、回転部30を構成する複数の回転部材31、32、33、34、35、36、37、38、39、41、42を収容する第1収容空間S1を形成するように構成している。第1収容部10によって形成される第1収容空間S1は投入部20の直下から第2脱気部70と接続される部位まで一続きになるように構成している。第1収容空間S1は、本実施形態において回転部30の回転部材の回転軸を二軸設けるように、図4に示すように断面の内周部分を、2つの円弧を合わせたような形状に構成している。第1収容部10には第1収容空間S1の温度を調整するためのヒーター等の加熱装置(図示省略)を設けることができる。上述したヒーターは第1収容部10の第1収容空間S1の長手方向Xにおいて後述する回転部材の特定の区間毎に温度を調整できるように例えば長手方向Xに複数配置することができる。
【0061】
(投入部)
投入部20は、図1に示すように第1収容空間S1に上述した材料と水を投入可能なホッパーを備える。投入部20のホッパーは、上述したデンプン、生分解性の樹脂、相溶化剤及び水を投入できるように漏斗状に形成している。
【0062】
(回転部)
回転部30は、第1収容空間S1において回転可能に配置される。回転部30は、複数の回転部材31~39、41、42を長手方向Xに平行な方向を回転軸として回転軸に沿って並べて配置するように構成している。回転部材31~39、41、42は、図5に示すように幅方向Yに沿って2軸並べて設けている。回転部材31は、本明細書において第1スクリュー、回転部材32は第1パドル、回転部材33は第2スクリュー、回転部材34は第2パドル、回転部材35は第4スクリュー、回転部材41は第6スクリュー、回転部材42は第7スクリューに相当する。以下に各々の回転部材について詳述する。
【0063】
(回転部材31)
回転部材31は、第1収容部10の第1収容空間S1において投入部20のホッパーの直下に配置している。回転部材31は、スクリューを形成するように構成している。本明細書において回転部材31が配置される第1収容空間S1の部位は材料と水が投入される材料投入部と称する。
【0064】
(回転部材32、33)
回転部材32は、図5に示すように第1収容空間S1の回転部材31よりも下流側において回転部材31に隣接して設けている。回転部材32は、板状部材を回転軸に沿って並べて配置するように構成している。回転部材32は、回転部材31と回転部材33との間に配置している。
【0065】
回転部材33は、第1収容空間S1の回転部材32よりも下流側において回転部材32に隣接して設けている。回転部材33は、回転部材31と同様にスクリューを形成するように構成している。回転部材33は、回転部材31よりも螺旋の溝を浅く形成している。回転部材33は、回転部材31よりも螺旋の径方向における最外周と最内周の差が大きくなるように構成している。回転部材33は、回転部材31と最外周の大きさが同等で、最内周が回転部材31よりも小さくなるように構成している。回転部材32、33が配置される第1収容空間S1の部位は、投入部20から投入された樹脂を溶解させる樹脂溶解部と称することができる。
【0066】
(回転部材34)
回転部材34は、回転部材32と同様に板状部材を回転軸に沿って複数並べるように配置しており、第1収容空間S1において回転部材33よりも回転軸の下流側に配置するように構成している。回転部材34は、図5において板状部材の板厚が一種類となるように図示しているが、一種類でなくてもよい。回転部材34は、回転部材32よりも薄く形成することによってせん断応力をより発揮させて材料を分散させるとともに均一な撹拌を行うように構成している。回転部材34が配置される第1収容空間S1の部位は、投入部20から投入された材料を混練する混練部と称することができる。回転部材33と回転部材34との境界近傍には、上述した材料に加えられた水等の気液成分を排出するために脱水部50を接続するように構成している。詳細は後述する。
【0067】
(回転部材35)
回転部材35は、第1収容空間S1において回転部材34よりも下流側において回転部材34に隣接して設けている。回転部材35は、回転部材33と同様にスクリューを形成するように構成している。回転部材35は、螺旋の溝の深さが回転部材33と同等になるように構成している。回転部材35は、第1収容空間S1において混練された材料を脱気する第1脱気部60と接続される。詳しくは後述する。
【0068】
(回転部材36~39)
回転部材36、37は、第1収容空間S1の回転部材35の下流側において回転部材35に隣接して設けている。回転部材36、37は、回転部材32と同様に板状部材を並べるように構成している。回転部材36、37には起伏の小さい螺旋を形成しており、回転部材36と回転部材37の螺旋の回転方向は異なるように構成している。
【0069】
回転部材38、39は、第1収容空間S1の回転部材37よりも下流側において回転部材37に隣接して設けている。回転部材38、39は、回転部材33と同様にスクリューを形成するように構成している。回転部材38、39のスクリューは螺旋の溝の深さを回転部材33と同様に構成している。回転部材38と回転部材39は螺旋の回転方向が逆転するように構成している。
【0070】
このように回転部材36、38と回転部材37、39の螺旋の回転方向を逆転させることによって、回転部材35から送られる材料は回転部材37、39で回転軸の上流側に一時的に押し返されるようにしたうえで下流側に移動する。これにより、材料が回転部材36~39に比較的長く滞留し、材料の密度が向上するように圧縮が行われる。回転部材36~39が配置される第1収容空間S1の部位は材料の圧縮を行う圧縮部と称することができる。
【0071】
(回転部材41、42)
回転部材41は、第1収容空間S1の回転部材35、39よりも下流側において回転部材39に隣接して設けている。回転部材42は、第1収容空間S1の回転部材41よりも下流側において回転部材41に隣接して設けている。回転部材41、42は、回転部材33と同様にスクリューを形成するように構成しており、回転部材42は回転部材41よりも螺旋のピッチが短くなるように構成している。回転部材41、42は第1収容空間S1に収容された材料の脱気を行う第2脱気部70と接続される。
【0072】
(脱水部50)
脱水部50は、第1収容部10で混練される材料から発生する水分等の気液成分を排出(脱水)するように構成している。脱水部50は、図5に示すように回転部材33と回転部材34との境界近傍において回転部材33、34の回転軸と交差する方向から第1収容部10に接続している。第1収容空間S1における回転部材33と回転部材34の境界付近では、少なくとも混練の際の第1収容空間S1における内部圧力が飽和蒸気圧となるように構成できる。
【0073】
脱水部50は、図5に示すようにスクリュー51(第3スクリューに相当)と、第2収容部52と、駆動部53と、を備える。スクリュー51は、回転部材31~39、41、42と交差する方向に回転し、対になるように構成している。駆動部53は、スクリュー51を回転させるモーターを備えるように構成している。第2収容部52は、図5に示すように第1収容部10と接続され、スクリュー51を収容する第2収容空間S2を設けた筐体などを備える。第2収容部52は、第2収容空間S2から第1収容空間S1で発生した水分を排出する。第2収容部52には第1収容空間S1で発生した水分を排出可能な開口部(図示省略)を設けている。開口部は、第2収容部52の上部等に設けることができる。
【0074】
(第1脱気部60)
第1脱気部60は、第1収容部10において回転部材35が配置される近傍に接続するように構成している。第1脱気部60は、図5に示すようにスクリュー61(第5スクリューに相当)と、第3収容部62と、駆動部63と、を備える。スクリュー61は、回転部材31~39、41、42の回転軸と交差する方向に回転し、対になるように構成している。駆動部63は、脱水部50と同様にスクリュー61を回転駆動させるモーターなどを備えるように構成している。第3収容部62は、回転部材35の近傍で第1収容部10と接続され、スクリュー61を収容する第3収容空間S3を設けた筐体などを備える。第3収容部62は、第3収容空間S3を介して第1収容空間S1で発生した気液成分を吸引可能な真空ポンプなどと接続している。
【0075】
(第2脱気部70)
第2脱気部70は、第1収容部10において回転部材41が配置される近傍において接続するように構成している。第2脱気部70は、図5に示すようにスクリュー71(第8スクリューに相当)と、第4収容部72と、駆動部73と、を、備える。スクリュー71は、回転部材31~39、41、42の回転軸と交差する方向に回転し、対になるように構成している。駆動部73は、第1脱気部60と同様にスクリュー71を回転駆動させるモーターなどを備えるように構成している。第4収容部72は、回転部材41の近傍で第1収容部10と接続され、スクリュー71を収容する第4収容空間S4を設けた筐体などを備える。第4収容部72は、第4収容空間S4を介して第1収容空間S1で発生した気液成分を吸引可能な真空ポンプなどと接続している。なお、第2収容部52、第3収容部62、第4収容部72は、図5において便宜上、簡略化して図示している。
【0076】
(排出部80)
排出部80は、図1等に示すように第1収容部10の下流側における外側に隣接して設けている。排出部80は、第1収容部10の第1収容空間S1において脱気された材料を紐状に形成するために設けられる。排出部80は、本実施形態において第1収容部10の長手方向Xにおける端部であって第1収容部10の第1収容空間S1と外部とを繋ぐ部位に設けた複数の穴形状を設けた部材を備えるように構成している。排出部80は、第1収容部10に配置された回転部材31~39、41、42などと同様にヒーターなどの加熱装置を設けることによって加温することができる。
【0077】
(冷却部90)
冷却部90は、第1収容部10から排出された紐状の材料を冷却するために設けられる。冷却部90は、図1に示すようにコンベヤー91と、液体供給部92と、気体供給部93と、を備える。
【0078】
コンベヤー91は、排出部80に隣接して設けている。コンベヤー91は、図2に示すように排出部80から排出された材料を切断部110まで搬送するように構成している。コンベヤー91は、本実施形態において図2に示すように長手方向Xから高さ方向Zの正の方向に向かって傾斜した斜め方向に沿って延在するように構成している。ただし、コンベヤー91の延在方向は一例であって材料を切断部110に搬送できれば、コンベヤーの具体的な搬送方向は図2等に限定されない。
【0079】
液体供給部92は、コンベヤー91上で搬送される材料に比較的温度の低い冷却水を供給するように構成している。液体供給部92は、ホース等によって冷却水の供給源と接続された噴射ノズルをコンベヤー91の搬送方向に複数配置することによって構成している。
【0080】
気体供給部93は、所定の温度に調整された空気等の気体をコンベヤー91上で搬送される材料に供給するように構成している。気体供給部93は、不図示のダクトと、ダクトに接続され、気体をコンベヤー91上の材料に向けて噴射可能なブロワーを備えるように構成している。
【0081】
(切断部110)
切断部110は、排出部80から排出され、冷却部90において冷却された材料を所定の長さにて切断するように構成している。切断部110は、図1に示すように材料を送る送りローラー111と、送られた材料を切断する刃物を備えた切断ローラー112と、を備えることができる。また、冷却された材料は、乾燥を行うチャンバー等の設備(乾燥部と呼ぶことができる)において乾燥工程を実施することができる。
【0082】
(二軸混練装置100を用いたデンプン含有樹脂組成物の製造方法)
図6のフローチャートを参照しながら、二軸混練装置100を用いた場合のデンプン含有樹脂組成物の製造方法について具体的に説明する。
【0083】
まず、デンプンと、生分解性の樹脂と、相溶化剤と、を製造装置内に投入する(ST1)。ここで投入されるデンプンは気乾状態であるため、これらの材料に加えて製造装置内に水も投入する。この場合、投入される水の量は、デンプンの質量部(100重量部)に対して0.1~20重量部とすることができる。この時点で第1収容部10の第1収容空間S1に配置された回転部材31~39、41、42は所定の温度に加温した状態に設定することができる。
【0084】
次に、投入部20のホッパーから投入されたデンプン、樹脂、相溶化剤及び水は回転部材31に送られて樹脂溶解部に相当する回転部材32、33に搬送される。第1収容空間S1の樹脂溶解部の近傍は約200℃に加温された状態において回転部材32、33によって上述した材料が水分と混練され、溶解する(ST2)。この際に材料に含まれるデンプンは加温された状態で水と混練されることにより、アルファ化が開始される。
【0085】
そして、材料は混練部に相当する回転部材34へと送られ、混練が行われる(ST3)。混練部に相当する回転部材34では、上述のように回転部材34が樹脂溶解部に相当する回転部材32よりも薄く構成されることによって材料の分散と撹拌が促進される。回転部材34を通過した材料はさらに回転部材35に送られる。
【0086】
また、材料が回転部材33から回転部材34へ送られる際に材料に含まれる水分は脱水部50によって脱水される。このとき、スクリュー51が脱水部50の入り口付近で回転することによって材料の固形成分は第1収容空間S1に残ったまま下流側に送られ、水分等の気液成分が第2収容部52の開口部からある程度排出される。
【0087】
回転部材35では、材料が回転部材35によって下流側に送られつつ、第1脱気部60によって材料の気液成分がさらに排出される(ST4)。第1脱気部60は、ポンプ等に接続されて材料の気液成分が吸引される一方で、スクリュー61によって材料の固形成分は第1収容空間S1に残り、圧縮部に相当する回転部材36~39に送られる。
【0088】
圧縮部に相当する回転部材36~39では回転部材37、39の位置において材料が上流側に送り戻されたうえで下流側に送られることによって、材料の密度が高くなるように圧縮の工程が行われる(ST5)。
【0089】
回転部材36~39を通過した材料は、回転部材41、42において排出部80に向けてさらに送られる。第2脱気部70では、ピッチの異なる回転部材41、42のうち、回転部材41の位置においてポンプ等によって材料の気液成分がさらに吸引されて脱気される(ST6)。材料は、回転部材42によって回転部材41よりも送り速度が上昇しつつ、排出部80において複数の紐形状になって第1収容空間S1の外部に排出される。
【0090】
冷却部90では、紐状の材料がコンベヤー91によって切断部110に向けて搬送される。この間に材料は、液体供給部92によって冷却水を吹きかけられて冷却され、その後、気体供給部93において冷却風に曝されることによって冷却される(ST7)。
【0091】
冷却部90を経た紐状の材料は、送りローラー111によって搬送され、切断ローラー112によって所定の長さに切断される(ST8)。切断部110によって切断された材料は平面状に引き延ばし、乾燥工程(ST9)を経ることによって、デンプン含有樹脂組成物を上述したレジ袋や農業用マルチシート、食品トレー等に好適に成形可能な形状に形成することができる。
【0092】
以上、説明したように本実施形態に係るデンプン含有樹脂組成物の製造方法はデンプンと、生分解性の樹脂と、相溶化剤と、を含む材料を混練するように構成している。これにより、生分解に要する期間が短く、さらにバイオマス性の高い、環境に優しいデンプン含有樹脂組成物を製造することができる。
【0093】
また、上述した製造方法において投入される水の量は、材料100重量部に対して0.1~20重量部となるように構成している。このように構成することによって、気乾状態のデンプンを生分解性の樹脂及び相溶化剤と混練してデンプン含有樹脂組成物を生成(製造)することができる。
【0094】
また、混練は二軸混練装置100を用いることによって、デンプンと、生分解性の樹脂と、相溶化剤を混練して樹脂組成物を生成(製造)することができる。
【0095】
また、二軸混練装置100は脱水を行う脱水部50を備える。これにより、デンプン含有樹脂組成物を生成(製造)する場合に不要な水分などの気液成分を取り除くことができる。
【0096】
また、脱水部50では飽和蒸気圧下において脱水を行うように構成している。そのため、装置内に大量の水分を投入しても不要な水分等の気液成分を取り除くことができる。
【0097】
また、二軸混練装置100は2つの脱気部として第1脱気部60と第2脱気部70を備えるように構成している。そのため、比較的量の多い水を用いてデンプンと樹脂の混練を行った際に、第1脱気部60と第2脱気部70を用いることによってデンプン含有樹脂組成物に不要な水分等の気液成分を取り除くことができる。
【0098】
また、二軸混練装置100は第1収容部10と、投入部20と、回転部30と、を有する。第1収容部10は材料と水を収容可能な第1収容空間S1を形成する。投入部20は第1収容空間S1において材料及び水を投入可能に構成している。回転部30は、第1収容空間S1において回転可能に配置され、複数の回転部材31~39、41、42を回転部材31~39、41、42の回転軸に沿って並べて配置している。回転部30は、回転部材31~39、41、42が回転する回転軸を2軸設けている。回転部材31~39、41、42は、螺旋形状を備え、投入部20の直下に配置された回転部材31と、回転部材31よりも回転軸の下流側に配置され、回転部材31よりも螺旋の溝が浅く形成された回転部材33を備える。このように構成することによって、デンプンが通常、二軸混練装置ではスクリューによって下流側に送り難くても、回転部材31によってデンプンを下流側に送るようにして混練を行うことによってデンプン含有樹脂組成物を生成(製造)することができる。
【0099】
また、回転部材31~39、41、42は、回転部材31と回転部材33の間に配置され、板状部材を回転軸に並べて配置した回転部材32と、回転部材33よりも回転軸の下流側に配置される板状の回転部材34と、を備える。回転部材33と回転部材34の近傍には、脱水部50を接続している。脱水部50は、スクリュー51と、第2収容部52と、を備える。スクリュー51は、回転軸と交差する幅方向Yに平行な方向を回転軸として回転し、対となるように構成している。第2収容部52は、スクリュー51を収容する第2収容空間S2を備えるとともに第1収容部10と接続され第1収容空間S1で発生した水分を排出可能な開口部を設けている。このように構成することによって、材料に含まれる固形成分を第1収容部10の第1収容空間S1に残しつつ、材料に含まれる不要な水分等の気液成分を取り除くことができる。
【0100】
また、回転部材31~39、41、42は、第1収容空間S1において回転部材34よりも下流側に設けられる回転部材35を備える。回転部材35の近傍には、第1脱気部60を接続している。第1脱気部60は、スクリュー61と、第3収容部62と、を備える。スクリュー61は、回転部材31~39、41、42の回転軸と交差する方向に平行な方向を回転軸として回転し、対になるように構成している。第3収容部62は、スクリュー61を収容する第3収容空間S3を備えるとともに第1収容部10と接続され、第1収容空間S1で発生した気体を吸引により排出可能なポンプなどと接続される。このように構成することによって、脱水部50と同様に材料の固形成分を第1収容空間S1に残しつつ、材料に含まれる不要な気液成分をさらに排出するようにできる。
【0101】
また、回転部材31~39、41、42は、第1収容空間S1において回転部材35よりも下流側に設けられる回転部材41と、回転部材41に隣接して設けられる回転部材42と、を備える。回転部材41の近傍には、第2脱気部70を接続している。第2脱気部70は、スクリュー71と、第4収容部72と、を備える。スクリュー71は、回転部材41の回転軸と交差する方向に平行な方向を回転軸として回転し、対になるように構成している。第4収容部72は、スクリュー71を収容する第4収容空間S4を備えるとともに第1収容部10と接続され、第1収容空間S1で発生した気体を吸引により排出可能なポンプと接続される。このように構成することによって、第1脱気部60と同様に材料の固形成分を第1収容空間S1に残しつつ、材料の不要な気液成分をさらに排出することができる。また、第2脱気部70を回転部材42ではなく、螺旋のピッチが比較的大きい回転部材41の近傍で接続することによって、不要な気液成分を第1収容空間S1から排出し易くすることができる。
【実施例
【0102】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0103】
<実験1:MFR、柔軟性(靱性)及びデンプン凝集の評価>
《デンプン含有樹脂組成物の作製》
以下の手法により、実施例1~8のデンプン含有樹脂組成物サンプルを作製した。
【0104】
(実施例1)
材料として、
A:生分解性の樹脂としてポリブチレンサクシネート(三菱ケミカル社製、フォゼアス(登録商標)、ZA9005)を47重量部、
B:相溶化剤としてグリセリン脂肪酸エステル(アセチル化モノグリセライド;グリセリンジアセトモノラウレート、理研ビタミン社製、バイオサイザー、日本バイオプラスチック協会(JBPA)のポジティブリストに掲載済み)を3重量部、
C:デンプンとして精米(新潟ケンベイ社製、中白米、含水率12%)を56.8重量部、を用いた。
【0105】
上記のA~Cの材料を、同方向に回転する二軸混練装置100を使用して混練することにより実施例1のデンプン含有樹脂組成物サンプルを作製した。
【0106】
二軸混練装置100の回転部材のL/Dは50とした。回転部30の回転部材は上述した回転部材31~39、41、42を用いた。回転部材31~39、41、42の長手方向Xの全体長さに対する回転部材32、34の比率(ニーディングブロック比率)は25%とした。上記のA~Cの材料は投入部20から第1収容空間S1に供給した。なお、材料が固体である場合は、ホッパーから供給し、材料が液体である場合はホッパーからチューブポンプを用いて供給した。また、蒸留水 3重量部も、ホッパーからチューブポンプを用いて第1収容空間S1に供給した。
【0107】
回転部材31~39、41、42の回転数は、280rpmとした。そして、第1収容空間S1における投入部に相当する部位を80℃、樹脂溶解部に相当する部位を160℃、混練部に相当する部位を180℃に加温した。また、第1収容空間S1における第1脱気部60と第2脱気部70との接続部を160℃、圧縮部に相当する部位を170℃、排出部80を180℃に加温した。
【0108】
(実施例2~8及び比較例1~2)
材料A及び材料Bを表1に示したものに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2~8のデンプン含有樹脂組成物サンプルを作成した。比較例1は、材料Cをセルロース(KCフロック(登録商用)、W-200G、日本製紙社製)とした以外は、実施例1と同様の方法で作製した。比較例2は、材料Cをリグノセルロース(LIGNOCEL(登録商標)、C200、独国レッテンマイヤー社製)とした以外は、実施例1と同様の方法で作製した。なお、表1中に示す各材料は、以下のものである。
【0109】
PBS:ポリブチレンサクシネート(三菱ケミカル社製、フォゼアス(登録商標)、ZA9005)
PLA:ポリ乳酸(Total Corbion PLA社製、LX175)
PBAT:ポリブチレンアジペートテレフタレート(MINIMA TECHNOLOGY社製、GP1003)
グリセリン脂肪酸エステル(アセチル化モノグリセライド;グリセリンジアセトモノラウレート、理研ビタミン社製、バイオサイザー、日本バイオプラスチック協会(JBPA)のポジティブリストに掲載済み)
グリセロール(和光純薬社製、試験等級グレード、日本バイオプラスチック協会(JBPA)のポジティブリストに掲載済み)
脂肪酸エステル系界面活性剤(太陽化学社製、チラバゾール、VR-07)
ポリグリセリン脂肪酸エステル(テトラグリセリンステアレート 理研ビタミン社製、ポエム、J-4081V)
《樹脂組成物の評価》
次に、上記で作製した実施例1~8のデンプン含有樹脂組成物サンプル及び比較例1、2の性能について検証した。
【0110】
本検証では上述した実施例1~8のデンプン含有樹脂組成物サンプル及び比較例1、2において、メルトフローレイト(MFR:g/10min)と、柔軟性(靱性)と、デンプンの凝集の程度と、を確認した。
【0111】
(MFR)
実施例1~8のデンプン含有樹脂組成物サンプル及び比較例1、2のMFRは、JIS K7210:1999 (温度=190℃、荷重=10.0kgf)に準拠し、測定した。MFRが4g/10min超8g/10min以下である場合、押出シート加工に好適に用いることができ、MFRが1g/10min~4g/10minである場合にはインフレーション加工に好適に用いることができる。結果を表1に示す。
【0112】
(柔軟性(靱性))
柔軟性(靱性)は、切断部110から送られたデンプン含有樹脂組成物を170℃でホットプレスによる熱圧成形にて平面状に引き延ばしたものを折り曲げることで評価を行った。評価は以下の基準に沿って行った。結果を表1に示す。また、実施例1及び比較例1の結果の写真を図7に示す。なお、実施例1~8及び比較例1、2で、下記の評価基準における不良(×)に該当するものはなかった。
【0113】
柔軟性の評価基準
○:折り曲げた際に、破断しない(良好)
△:折り曲げた際に、破断はしないがひびが入る(やや脆いが、実用上問題ない)
×:折り曲げた際に、破断する(脆く、実用上問題があるため、不良)。
【0114】
(デンプンの凝集)
デンプンの凝集は、同じく切断部110から送られた柔軟性(靱性)を170℃でホットプレスによる熱圧成形にて平面状に引き延ばしたものを目視で観察し、デンプンの凝集が観察されるか確認した。評価は以下の基準に沿って行った。また、実施例1、実施例2及び比較例1のデンプン含有樹脂組成物サンプルにおけるデンプンの凝集を評価した写真を図8に示す。
【0115】
デンプン凝集の評価基準
○:ほとんど観察されない(良好)。
【0116】
△:多くはないが観察される(実用上問題ない)。
【0117】
×:多く観察される(実用上問題があり、不良)。
【0118】
上述した実施例1~8のデンプン含有樹脂組成物サンプル及び比較例1~2のMFR、柔軟性(靱性)及びデンプン凝集の程度の評価結果を表1に示す。
【0119】
【表1】
【0120】
<結果及び考察>
実施例1で示されるPBSとグリセリン脂肪酸エステルとの組み合わせが、MFRも適切な範囲に収まり、柔軟性(靱性)も良好で、且つ、凝集も視認できず、特に良い組み合わせであることが示唆された。また、実施例2~4で示される、PBSと;グリセロール、脂肪酸エステル系界面活性剤又はポリグリセリン脂肪酸エステルと;の組み合わせも、凝集が若干視認されたものの、MFRも適切な範囲に収まり、柔軟性(靱性)も良好であり、良い組み合わせであることが示唆された。
【0121】
実施例6、7に示される、PBAT及びグリセリン脂肪酸エステル、ならびに、PBAT及び脂肪酸エステル系界面活性剤の組み合わせは、凝集が若干視認されたものの、MFRも適切な範囲に収まり、柔軟性(靱性)も良好であり、これらも良い組み合わせであることが示唆された。また、実施例8に示される、PBATと、ポリグリセリン脂肪酸エステルとの組み合わせは、MFRの好ましい範囲は若干逸脱し、凝集が若干視認されたものの、柔軟性(靱性)は良好であり、射出成形用途であれば実用上問題なく使用することできると考えられる。一方、PBATと、グリセロールとの組み合わせは、MFRの好ましい範囲が逸脱し、凝集も増える傾向がある可能性がある。つまり、樹脂としてPBATを使用する場合は、グリセリン脂肪酸エステル又は脂肪酸エステル系界面活性剤と組み合わせて使用することが好適であり、ポリグリセリン脂肪酸エステルと組み合わせても実用上問題なく使用することができると推測される。
【0122】
一方で、実施例5に示される、PLAと、脂肪酸エステル系界面活性剤との組み合わせは、柔軟性(靱性)及びデンプンの凝集の観点では実用上問題ないことが示唆されるものの、MFRの好ましい範囲を大きく逸脱するため、押出シート加工やインフレーション加工には適さないが、射出成形用途であれば実用上問題なく使用することできると考えられる。一方で、PLAと、グリセリン脂肪酸エステル、グリセロール又はポリグリセリン脂肪酸エステルとの組み合わせは、MFRの観点のみならず、柔軟性(靱性)及びデンプン凝集の評価の観点からも、良い組み合わせではない恐れがある。
【0123】
なお、比較例1は、実施例1のデンプンの代わりにセルロースを使用した例であるが、凝集があり、実使用には適さない虞がある。また、比較例2は、実施例1のデンプンの代わりにリグノセルロースを使用した例であるが、凝集があり、実使用には適さない虞がある。
【0124】
<実験2:生分解性試験>
《デンプン含有樹脂組成物の作製》
以下の手法により、実施例9のデンプン含有樹脂組成物サンプルを作製した。
【0125】
(実施例9)
材料として、
A:生分解性の樹脂としてポリブチレンサクシネート(三菱ケミカル社製、フォゼアス(登録商標)、ZA9005)を48重量部、
B:相溶化剤としてアセチル化モノグリセライド(理研ビタミン社製、バイオサイザー)を2重量部、
C:デンプンとして精米(新潟ケンベイ社製、中白米、含水率12%)を56.8重量部(50重量%)、を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、実施例9のデンプン含有樹脂組成物サンプルを作成した。
【0126】
(実施例10)
材料Cであるデンプンとしての精米を30重量%とした以外は、実施例9と同様の方法で実施例10のデンプン含有樹脂組成物サンプルを作成した。
【0127】
(実施例11)
材料Cであるデンプンとしての精米を10重量%とした以外は、実施例9と同様の方法で実施例11のデンプン含有樹脂組成物サンプルを作成した。
【0128】
《生分解性試験》
実施例9~11の生分解の速度を、時間経過に伴う重量減少率を求めることにより評価した。重量減少率は、温度58℃、コンポスト中にて、JIS K6953-1:2011に準拠して行った。実施例9の重量は、試験開始から7日後、14日後、24日後、及び31日後に測定した。実施例10及び11の重量は、試験開始から7日後及び14日後に測定した。なお、コントロールとして、材料Cを含まない以外は実施例9と同様の方法で作製した比較例3を用いた。比較例3の重量は、実施例9と同様に、試験開始から7日後、14日後、24日後、及び31日後に測定した。結果を図9に示す。
【0129】
また、実施例9と比較例3の生分解性試験における目視観察も併せて行った。結果を図10に示す。目視観察は、それぞれ試験開始から7日後、14日後、24日後、31日後に行った。なお、実施例9のデンプン含有樹脂組成物サンプルは31日後には完全に分解されていたため、写真は掲載しない。
【0130】
<結果及び考察>
図9に示すように、デンプンを含む実施例9~11は、デンプンを含まない比較例3に対して重量減少のスピードが速いことから、生分解の速度が速いことが示された。また、実施例9~11を比較すると、デンプンの含有率が高いデンプン含有樹脂組成物サンプルのほうが、デンプンの含有率が低いものよりも重量減少のスピードが速いという結果となった。当該結果から、デンプン含有樹脂組成物サンプルのデンプンの含有率が高いほうが生分解の速度が速いことが示された。
【0131】
加えて、図10の目視観察の結果からも、実施例9のデンプン含有樹脂組成物サンプルは、比較例3よりも生分解の速度が速いことが示された。図10に示した通り、実施例9のデンプン含有樹脂組成物サンプルは、24日目から31日目にかけて完全に分解されたのに対し、比較例3の生分解性樹脂は、31日目の時点でまだ残存していた。
【0132】
なお、本発明は上述した実施形態にのみ限定されず、特許請求の範囲において種々の変更が可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10