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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】除草剤組成物
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/02 20060101AFI20240116BHJP
   A01P 13/00 20060101ALI20240116BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
A01N37/02
A01P13/00
A01N25/02
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019200717
(22)【出願日】2019-11-05
(65)【公開番号】P2021075464
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】小堀 富広
(72)【発明者】
【氏名】中村 岳史
(72)【発明者】
【氏名】原田 惠理
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-091739(JP,A)
【文献】特開2016-190832(JP,A)
【文献】特開2011-001337(JP,A)
【文献】特開2013-216643(JP,A)
【文献】特表平06-504060(JP,A)
【文献】米国特許第05919733(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 37/00
A01N 25/00
A01P 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノナン酸カリウム塩ノナン酸アンモニウム塩を有効成分として含有することを特徴とする、茎葉散布用および/または土壌表面散布用の除草剤組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の除草剤組成物を使用することを特徴とする、除草方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除草剤組成物に関する。詳しくは、2種類の脂肪酸塩を有効成分とする除草剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、使用者の安全志向の向上により、天然物由来の除草剤のニーズが高まっている。
このニーズに対する提案として、植物から放出される化学物質が、他の植物に対して阻害的あるいは促進的な影響を及ぼし、植物の生長を促進/阻害する効果(アレロパシー効果)を利用する植物生長調整剤がある(例えば、特許文献1、2等)。しかしながら、有効成分の入手が難しいなどの理由により、一般に普及するまでには未だ至っていない。
また、動植物にも存在する天然物である脂肪酸が、除草活性を有する化合物であることは知られており、ノナン酸を有効成分とする薬剤が、農薬として販売されていた実績もある。しかしながら、これらの除草活性を有する脂肪酸は、接触部位にのみ枯死反応を起こす接触型の作用特性を有し、かつ、植物体中の浸透移行性が小さいため、地上部に処理した場合に付着が不十分となる部位、例えば、地中の根部や種子に対して十分な効果が得られない。そのため、付着が不十分な部位から再生するほか、施用後すぐに地表に望ましくない植物の発芽が見られるなど、満足できる除草効果が得られていない。さらに、これらの除草活性を有する脂肪酸は、独特の臭気を有する化合物群であることから、施用時の臭気という問題もあった。
このような状況から、雑草に対して優れた防除効果を有する、新たな天然成分由来の薬剤の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-089400号公報
【文献】特開2009-274970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、雑草に対して優れた防除効果を有する、新たな天然成分由来の薬剤の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、2種類の特定の脂肪酸塩を組み合わせることにより、地中の種子に対して高い発芽抑制効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
従来、脂肪酸またはその塩は、接触部位にのみ枯死反応を起こす接触型の作用特性を有し、かつ、植物体中の浸透移行性が小さいため、地上部に処理した場合に付着が不十分となる部位、例えば、地中の根部や種子に十分な効果が得られないことが知られていた。しかしながら、2種類の特定の脂肪酸塩を併用することにより、地中の種子に対して、防除作用が発現することを新たに見出し、上記課題を解決するに至ったものである。
【0006】
本発明は、詳しくは以下の事項を要旨とする。
1.炭素数2~10の脂肪酸塩から選択される、第1の脂肪酸塩と第2の脂肪酸塩を含有する除草剤組成物において、
前記第1の脂肪酸塩および第2の脂肪酸塩を形成する、それぞれの塩基の種類が相違することを特徴とする、除草剤組成物。
2.前記第1の脂肪酸塩および第2の脂肪酸塩が、同一の脂肪酸であることを特徴とする、1.に記載の除草剤組成物。
3.前記第1の脂肪酸塩が脂肪酸カリウム塩であることを特徴とする、1.または2.に記載の除草剤組成物。
4.前記第1の脂肪酸塩が脂肪酸カリウム塩であり、第2の脂肪酸塩が脂肪酸アンモニウム塩であることを特徴とする、1.~3.の何れか1項に記載の除草剤組成物。
5.炭素数2~10の脂肪酸塩から選択される、第1の脂肪酸塩と第2の脂肪酸塩を含有する除草剤組成物を使用することを特徴とする、相乗的かつ長期的な雑草防除方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、2種類の特定の脂肪酸塩は、それぞれ単独で接触型除草活性を有するため、地表に繁茂する雑草に対して優れた防除効果を発揮することに加え、2種類の特定の脂肪酸塩の併用効果により、地中に存在する種子に対して、優れた発芽抑制効果を発揮するため、長期間にわたり優れた除草効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
<炭素数2~10の脂肪酸塩について>
本発明における炭素数2~10の脂肪酸には、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸が含まれる。中でも、飽和脂肪酸であることが好ましく、具体的には、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸が挙げられる。これらの中でも、酢酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸が好ましい。
これらの脂肪酸塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、エタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0009】
<第1の脂肪酸塩と第2の脂肪酸塩について>
本発明の除草剤組成物は、炭素数2~10の脂肪酸塩から選択される、第1の脂肪酸塩と第2の脂肪酸塩を含有するものである。
第1の脂肪酸塩を構成する脂肪酸と、第2の脂肪酸塩を構成する脂肪酸は、同一の脂肪酸であっても、異なる脂肪酸であってもよいが、第1の脂肪酸塩を形成する塩基と、第2の脂肪酸塩を形成する塩基は、それぞれ種類が相違するものでなければならない。例えば、第1の脂肪酸塩が脂肪酸カリウム塩の場合には、第2の脂肪酸塩は、脂肪酸カリウム塩以外の脂肪酸ナトリウム塩や脂肪酸アンモニウム塩の組み合わせが、本発明の除草剤組成物の有効成分となる。
本発明の除草剤組成物における第1の脂肪酸塩としては、脂肪酸ナトリウム塩、脂肪酸カリウム塩または脂肪酸アンモニウム塩が好ましく、中でも、脂肪酸カリウム塩がより好ましい。
本発明の除草剤組成物における第1の脂肪酸塩が脂肪酸カリウム塩の場合には、速効性や溶解性の観点から、第2の脂肪酸塩は脂肪酸アンモニウム塩であることが好ましい。
本発明の除草剤組成物は、第1の脂肪酸塩と第2の脂肪酸塩を、それぞれ別々に用意したものを混合してもよいし、使用する脂肪酸と2種類の塩基とを別々に加えて製剤中で塩を形成させてもよい。特に、第1、第2の脂肪酸塩を構成する脂肪酸として同一の脂肪酸を使用する場合には、使用する脂肪酸と2種類の塩基を混合して、製剤中で第1の脂肪酸塩と第2の脂肪酸塩を形成させて、本発明の除草剤組成物とすることが簡便であり好ましい。
【0010】
本発明の除草剤組成物は、施用時において、第1の脂肪酸塩と第2の脂肪酸塩を合計で、除草剤組成物全体の0.1重量%以上20重量%以下含有することが好ましく、中でも、0.1重量%以上18重量%以下含有することがより好ましく、0.1重量%以上15重量%以下含有することがさらに好ましい。
本発明の除草剤組成物は、第1の脂肪酸塩と第2の脂肪酸塩との重量比は、炭素数2~10の脂肪酸と共に配合する塩基の重量比として、1:1~1:100の範囲内であることが好ましく、1:1~1:80の範囲がより好ましく、1:1~1:50の範囲がさらに好ましい。
【0011】
本発明の除草剤組成物は、本発明の第1の脂肪酸塩と第2の脂肪酸塩を含有し、各種製剤として用いることができる。
製剤としては、例えば、油剤、乳剤、水和剤、フロアブル剤(水中懸濁剤、水中乳濁剤等)、マイクロカプセル剤、粉剤、粒剤、錠剤、液剤、スプレー剤、エアゾール剤等が挙げられる。これらの中でも、スプレー剤やエアゾール剤等の噴霧用製剤や、液剤をジョウロヘッド付き容器に充填した散布剤等が、本発明の除草剤組成物の製剤として適している。
上記製剤の1つの製造例としては、本発明の第1の脂肪酸塩と第2の脂肪酸塩と、必要に応じて界面活性剤を用いて溶剤に溶かして溶液(A液)を調製し、このA液を適量の水に混合、撹拌して製剤とすることにより、使用時に希釈する必要がない除草剤組成物とする方法を挙げることができる。
水としては、水道水、イオン交換水、蒸留水、濾過処理した水、滅菌処理した水、地下水などを用いることができる。
【0012】
製剤時に用いられる液体担体としては、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール等)、エーテル類(ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、乳酸エチル等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、芳香族または脂肪族炭化水素類(キシレン、トルエン、アルキルナフタレン、フェニルキシリルエタン、ケロシン、軽油、ヘキサン、シクロヘキサン等)、ハロゲン化炭化水素類(クロロベンゼン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン等)、ニトリル類(アセトニトリル、イソブチロニトリル等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、ヘテロ環系溶剤(スルホラン、γ-ブチロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-オクチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン)、酸アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等)、炭酸アルキリデン類(炭酸プロピレン等)、植物油(大豆油、綿実油等)、植物精油(オレンジ油、ヒソップ油、レモン油等)、及び水が挙げられる。
【0013】
製剤時に用いられる界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤を挙げることができる。非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルホルムアルデヒド縮合物、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマーアルキルフェニルエーテル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル(例、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンラウレート)、ポリオキシエチレン脂肪酸エーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール脂肪酸エーテルなどが挙げられる。陰イオン性界面活性剤としては、例えば、硫酸アルキル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンベンジル(またはスチリル)フェニルエーテル硫酸またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー硫酸のナトリウム、カルシウムまたはアンモニウムの各塩;スルホン酸アルキル、ジアルキルスルホサクシネート、アルキルベンゼンスルホン酸(例、ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウムなど)、モノ-またはジ-アルキルナフタレン酸スルホン酸、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物、リグニンスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルスルホン酸またはポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホサクシネートのナトリウム、カルシウム、アンモニウムまたはアルカノールアミン塩の各塩;ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート、ポリオキシエチレン、モノ-またはジ-アルキルフェニルエーテルホスフェート、ポリオキシエチレンベンジル(またはスチリル)化フェニルエーテルホスフェート、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマーホスフェートのナトリウムまたはカルシウム塩などの各塩が挙げられる。陽イオン性界面活性剤としては、例えば第4級アンモニウム塩、アルキルアミン塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルオキサイドなどが挙げられる。両性界面活性剤としては、例えばアルキルベタイン、アミンオキシドなどが挙げられる。
【0014】
製剤時に用いられる噴射剤としては、例えば、ブタンガス、フロンガス、代替フロン(HFO、HFC等)、液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテル、炭酸ガス、窒素ガスが挙げられる。
また固体担体としては、例えば、粘土類(カオリン、珪藻土、ベントナイト、クレー、酸性白土、ゼオライト等)、合成含水酸化珪素、タルク、セラミック、その他の無機鉱物(セリサイト、石英、硫黄、活性炭、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、水和シリカ等)、多孔質体等が挙げられる。
【0015】
本発明の除草剤組成物は、製剤調製時に必要に応じて、消泡剤、防腐剤、酸化防止剤及び増粘剤等を添加することができる。
消泡剤としては、例えば、シリコーン系消泡剤、フッ素系消泡剤等が挙げられる。
防腐剤としては、例えば、有機窒素硫黄系複合物、有機臭素系化合物、イソチアゾリン系化合物、ベンジルアルコールモノ(ポリ)ヘミホルマル、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジオール、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム等が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)、没食子酸プロピル、及びビタミンE、混合トコフェロール、α-トコフェロール、エトキシキン及びアスコルビン酸等が挙げられる。
増粘剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、キサンタンガム、ポリビニルアルコール、グアーガム、カルボキシビニルポリマー等が挙げられる。
【0016】
本発明の除草剤組成物は、例えば、除草したい場所1平方メートル当たり、本発明の第1の脂肪酸塩と第2の脂肪酸塩の合計量を、好ましくは0.05~40g、より好ましくは0.05~36g、さらに好ましくは0.05~30gとなる量で散布すればよく、施用する時期は、雑草の発生状況に応じて適宜選択すればよい。特に、本発明の除草剤組成物は、雑草の茎葉に直接散布するとともに、土壌表面にも散布することが好ましい。雑草の茎葉への散布時に土壌表面にも同時に散布される場合は、特に、土壌表面のみに散布する必要はない。
本発明の除草剤組成物は、第1の脂肪酸塩と第2の脂肪酸塩を含有することにより、それぞれ単独での接触型除草活性を発揮して、地表に繁茂する雑草に対して優れた防除効果を得ることができる。さらに、第1の脂肪酸塩と第2の脂肪酸塩の併用効果により、地中に存在する種子に対して、優れた発芽抑制効果を発揮する。この接触型除草活性と優れた発芽抑制効果により、地表に繁茂する雑草を枯死させて、さらには、地中からの新たな雑草の発芽をも抑制するため、本発明の除草剤組成物は、長期間にわたり優れた除草効果を得ることができる。
このため、本発明の除草剤組成物の施用頻度は、雑草の発生を確認したら、1~2ヶ月に1回程度の頻度で施用する程度でよい。施用手段は特に制限されない。
また、本発明の第1の脂肪酸塩と第2の脂肪酸塩との組み合わせが、単に第1、第2の脂肪酸塩を単独で施用したときには得ることができない、すなわち、予想される効果を遥かに超える相乗的な発芽抑制効果が得られることを後述する実験により確認している。
このような相乗的な発芽抑制効果が得られる作用機構についての詳細は不明であるが、第1の脂肪酸塩と第2の脂肪酸塩を組み合わせることにより、作用点レベルにおける相互共力作用が発現した結果、このような顕著な効果が得られるものと推測される。
【0017】
この他、目的に応じて、例えば、殺菌剤、防カビ剤、殺虫殺ダニ剤、忌避剤、香料等を併用してもよい。例えば、ビテルタノール、ブロムコナゾール、シプロコナゾール、ジフェノコナゾール、ヘキサコナゾール、イマザリル、ミクロブタニル、シメコナゾール、テトラコナゾール、チアベンダゾール、ペンチオピラド、マンゼブ等の殺菌剤;塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、ヒノキチオール、フェノキシエタノール、イソプロピルメチルフェノール等の防カビ剤;除虫菊エキス、天然ピレトリン、プラレトリン、イミプロトリン、フタルスリン、アレスリン、ビフェントリン、レスメトリン、フェノトリン、シフェノトリン、ペルメトリン、サイパーメスリン、エトフェンプロックス、シフルトリン、デルタメトリン、ビフェントリン、フェンバレレート、フェンプロパトリン、エムペントリン、シラフルオフェン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン等のピレスロイド系化合物、カルバリル、プロポクスル、メソミル、チオジカルブ等のカーバメート系化合物、メトキサジアゾン等のオキサジアゾール系化合物、フィプロニル等のフェニルピラゾール系化合物、アミドフルメト等のスルホンアミド系化合物、ジノテフラン、イミダクロプリド等のネオニコチノイド系化合物、クロルフェナピル等のピロール系化合物等、フェニトロチオン、ダイアジノン、マラソン、ピリダフェンチオン、プロチオホス、ホキシム、クロルピリホス、ジクロルボス等の有機リン系化合物等の殺虫殺ダニ剤;ディート、ジ-n-ブチルサクシネート、ヒドロキシアニソール、ロテノン、エチル-ブチルアセチルアミノプロピオネート、イカリジン(ピカリジン)、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル(IR3535)等の忌避剤の1種または2種以上を用いることができる。香料としては、用途に応じて天然香料及び合成香料等からなる群から適宜選択される1種または2種以上の組み合わせを用いることができる。
【0018】
本発明の除草剤組成物の適用対象は、家庭菜園や花壇等の周辺に生育し、育成作物に害を与える植物として認識される、または、家屋周辺、空き地、芝生地、庭園、駐車場、墓地などに自然に生育し、その土地の美観を損ない、防災上の問題を発生させたりする植物として認識される、雑草である。これらの雑草としては、具体的に、広範囲の1年生および多年生の広葉雑草およびイネ科雑草を好適なものとして挙げることができる。
本発明の除草対象として代表的な雑草を以下に例示するが、これらに限定されるものではない。
広葉雑草としては、例えばアサガオ、ベルベットリーフ、ヒルガオ、シロツメクサ、タンポポ、ツボスミレ、チドメグサ、メドハギ、ヤブガラシ、セイタカアワダチソウ、アレチノギク、アメリカセンダングサ、イタドリ、イヌガラシ、イヌタデ、イヌビユ、オオイヌノフグリ、オオバコ、オナモミ、カキドオシ、カタバミ、カナムグラ、カヤツリグサ、カラスノエンドウ、ギシギシ、コニシキソウ、ジシバリ、シロザ、スカシタゴボウ、スギナ、スベリヒユ、セイヨウタンポポ、タケニグサ、ツユクサ、ドクダミ、ナズナ、ノゲシ、ノボロギク、ノミノフスマ、ハコベ、ハハコグサ、ハマスゲ、ハルジオン、ヒメジョオン、ヒメムカシヨモギ、ブタクサ、ホトケノザ、ヤエムグラ、ヨモギ、ワルナスビ等が挙げられる。
イネ科雑草としては、例えばイヌビエ、エノコログサ、キンエノコロ、ムラサキエノコロ、スズメノカタビラ、スズメノテッポウ、ニワホコリ、アキメヒシバ、メヒシバ、カゼクサ、カモガヤ(オーチャードグラス)、ススキ、スズメノヒエ、チガヤ、チカラシバ、ヨシ、ササ類が挙げられる。
本発明の除草剤組成物を適用または使用する場所としては、家庭菜園、花壇、家屋周辺、空き地、芝生地、庭園、駐車場、墓地、樹木地、潅木地、ゴルフ場などが例示できるが、これらに制限されるものではなく、目的に応じて適宜使用することが可能である。
【実施例
【0019】
以下、処方例及び試験例等により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの例に限定されるものではない。
まず、本発明の除草剤組成物の試験検体例と発芽抑制効果について説明する。なお、実施例において、特に明記しない限り、部は重量部を意味する。
【0020】
<発芽抑制効果確認試験>
(1)試験検体
実施例1
ノナン酸(東京化成工業(株)製)2.5重量部、第1塩基として水酸化カリウムを0.178重量部、第2塩基として25%アンモニア水を1.1重量部、および精製水を使用して、全体量を100重量部として除草剤組成物を調製した。
実施例2~5および比較例1、2は下記表1に示した配合で、実施例1と同様にして除草剤組成物を調製し、それぞれの試験検体を得た。
【0021】
(2)発芽抑制効果の確認試験方法
上記試験検体を精製水で20倍希釈した溶液を調製し、試験検体aとした。
シャーレー(直径:90mm)に濾紙(直径:70mm)を置き、その上にシロツメクサの種子(約50個)を均等に並べて、濾紙上に各試験検体aを2mL滴下した。5日後の発芽数を確認し、下記算出式により発芽率を算出した。また、無処理は、試験検体aの代わりに精製水を使用し、脂肪酸塩を含有しない試験とした。
算出式:発芽率(%)=(発芽数÷試験使用種子数)×100
試験は3回行い、比較例2の試験検体aの発芽率(%)を100と換算した。実施例1~5と比較例1の発芽率の平均値を、上記試験検体の組成とまとめて、表1に示した。
表1中の「KOH」は水酸化カリウムを、「25%NHaq.」は25%アンモニア水を、「配合比、第1塩基/第2塩基」は第1の脂肪酸塩を形成する塩基である水酸化カリウムの重量に対する、第2の脂肪酸塩を形成する塩基であるアンモニア(NH)の重量の比率を意味する。
【0022】
【表1】
【0023】
表1の結果より、ノナン酸カリウム塩のみを含有する比較例1とノナン酸アンモニウム塩のみを含有する比較例2は、無処理区に比べると、種子の発芽が抑制されているが、その抑制程度は低いことが理解できる。
これに対して、ノナン酸カリウム塩とノナン酸アンモニウム塩とを併用する実施例1~5の試験検体aの発芽率は、比較例1、2の発芽率に比べて大きく低下することが明らかとなった。特に、比較例1の結果から、種子発芽抑制効果の低いことが理解できるノナン酸カリウム塩も、実施例1~5の結果が示すように、ノナン酸アンモニウム塩と併用することにより、種子発芽を抑制することが確認された。
上記試験結果より、ノナン酸カリウム塩やノナン酸アンモニウム塩単独に比べて、ノナン酸カリウム塩とノナン酸アンモニウム塩とを併用することにより、種子の発芽を大きく抑制すること、しかも、その発芽抑制効果は、単なる併用による相加効果以上の、相乗効果を奏するものであることが明らかとなった。しかも、第1塩基と第2塩基は、非常に広いその配合比の範囲において、相加効果以上の、相乗的な発芽抑制効果が得られることも確認された。
【0024】
<除草効果確認試験>
(1)試験検体
上記「発芽抑制効果確認試験」で使用した、実施例2と比較例2の試験検体(未希釈)を使用した。
(2)除草効果の確認試験方法
目視で95%以上の植被率(雑草が土壌表面を覆う比率)を示す区画(1m×1m)を2区画選び、地上部の雑草茎葉部を草刈機で刈り取った。土壌表面に何も無い状態にしてから、耕運機で地表から約20cmまでの土壌を掘り起こし、地下部に存在する雑草根部を取り除いた。この手法により、地上部と地下部には雑草の茎葉部と根部が存在せず、雑草の種子のみが存在する区画を2区画準備した。
実施例2、比較例2の試験検体(未希釈)を100mL/mとなるように、各区画にそれぞれ散布した。
上記散布から1.5ヶ月後、各区画を上方から撮影した画像について、植被土壌(植物が存在する土壌)と無植被土壌(植物が存在しない土壌)を画像解析ソフトImageJにより数値化して、土壌表面の植被率を確認した。
比較例2の試験検体aの植被率(%)を100と換算した実施例2の植被率(%)を、表2に示した。
【0025】
【表2】
【0026】
表2の結果より、ノナン酸カリウム塩とノナン酸アンモニウム塩とを併用する実施例2の試験検体は、ノナン酸アンモニウム塩のみを含有する比較例2の試験検体に比べて、屋外試験においても、優れた発芽抑制効果を発揮することが確認された。
この結果より、本発明の除草剤組成物は、実際の使用場面において、優れた除草効果を奏することが明らかとなった。
【0027】
<除草剤組成物の臭気確認試験>
上述の「発芽抑制効果確認試験」の実施例1、実施例2、実施例5、比較例2の試験検体(未希釈)を使用して、臭気確認試験を行った。
ビニールハウス内で実施例1、実施例2、実施例5、比較例2の試験検体を100mL/mの散布量で人工芝に散布し、散布終了時のノナン酸の臭気を専門パネラー5人により、比較例2を基準として各試験検体の臭気の強弱を評価した。
各パネラーによる評価の結果、3~5人のパネラーが、実施例1、実施例2、実施例5の試験検体は、比較例2の試験検体に比べて臭気が弱いと評価した。
この結果より、本発明の除草剤組成物は、相乗効果によりノナン酸アンモニウム塩の配合量を低減しても、目的とする除草効果を得ることができることに加えて、除草剤組成物としての臭気が低減することが明らかとなった。
脂肪酸は独特の臭気を有する化合物群であることが知られているが、2種類の特定の脂肪酸塩を併用することにより、中でも、脂肪酸アンモニウム塩を含有する除草剤組成物は、組成物中に脂肪酸アンモニウム塩以外の脂肪酸塩を加えることにより、脂肪酸またはその塩単独の場合に比べて、独特の臭気が大きく低減するため、施用者の負担も大きく改善されるという効果を発揮する。