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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】レールカバーの装着補助治具
(51)【国際特許分類】
   F16C 29/08 20060101AFI20240116BHJP
【FI】
F16C29/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022055304
(22)【出願日】2022-03-30
(65)【公開番号】P2023147663
(43)【公開日】2023-10-13
【審査請求日】2023-07-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114498
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100222243
【弁理士】
【氏名又は名称】庄野 友彬
(72)【発明者】
【氏名】飯田 勝也
(72)【発明者】
【氏名】宮原 荘志
(72)【発明者】
【氏名】和田 光真
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 正和
(72)【発明者】
【氏名】中村 勇気
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-002561(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112207762(CN,A)
【文献】特開昭60-221131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 29/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運動案内装置の軌道レールに対して当該軌道レールの上面を覆うレールカバーを装着する際に用いる補助治具であって、
前記レールカバーは、軌道レールの上面を覆う平面部と、前記平面部の短手方向の両端に設けられて前記軌道レールの側面を弾性的に把持する一対の側壁部とを備え、
前記補助治具は、前記一対の側壁部の間隔を調整する際に使用され、
上面に操作グリップを有して前記レールカバーの長手方向へ押し引きされる治具本体と、
周面が前記一対の側壁部の内側面にそれぞれ当接して互いに逆方向へ回転するように前記治具本体の底面に配設され、前記レールカバーの長手方向に沿った前記治具本体の移動に伴って前記一対の側壁部を外側に向かって押圧する少なくとも一対の押圧ローラを備えたことを特徴とするレールカバーの装着補助治具。
【請求項2】
側面が前記一対の側壁部の少なくともいずれか一方の内側面に当接するように前記治具本体の底面に設けられた案内部材を備えたことを特徴とする請求項1記載のレールカバーの装着補助治具。
【請求項3】
前記治具本体には、前記レールカバーの短手方向に関する前記少なくとも一対の押圧ローラの配設間隔を任意に変更可能な調節固定機構が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載のレールカバーの装着補助治具。
【請求項4】
前記案内部材は、周面が前記一対の側壁部の内側面にそれぞれ当接して互いに逆方向へ回転するように前記治具本体の底面に配設された少なくとも一対の案内ローラであり、前記少なくとも一対の押圧ローラの配設間隔は、前記一対の案内ローラの間隔よりも広いことを特徴とする請求項2記載のレールカバーの装着補助治具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動案内装置における軌道レールの上面を覆うレールカバーの側壁部を押し広げる際に用いるレールカバーの装着補助治具に関する。
【背景技術】
【0002】
各種工作機械や搬送装置の直線案内部又は曲線案内部には運動案内装置が多用されている。前記運動案内装置は、長手方向に沿ってボールの転走面が形成された軌道レールと前記転走面を転動するボールを介して前記軌道レールに組付けられる移動ブロックとを備えている。また、前記移動ブロックは前記ボールの無限循環路を有しており、かかる無限循環路内をボールが循環することにより、移動ブロックが軌道レールの長手方向に沿って連続的に移動することが可能となっている。
【0003】
運動案内装置の使用にあたっては、前記移動ブロックに対してその移動方向の両端に一対のシール部材を取り付けるのが一般的である。当該シール部材は、前記軌道レールに密着して、前記移動ブロックと前記軌道レールとの隙間を密閉しており、前記軌道レールに付着するワークの削り屑や塵芥などの異物が移動ブロックの内部に進入してしまうのを防止している。
【0004】
一方、前記軌道レールには当該軌道レールを機械装置などに敷設する際に利用されるボルト取付け孔が設けられている。このため、前記移動ブロックに前記シール部材を装着した場合であっても、前記異物がレール取付け孔を介して移動ブロック内部に進入する可能性があり、また、前記シール部材が前記ボルト取付け孔の開口縁と擦れて、当該シール部材が早期に摩耗、破損してしまう懸念もあった。
【0005】
そこで、このような運動案内装置では、前記軌道レールに装着するレールカバーが用意されており、特許文献1には当該レールカバーを装着する際に用いる治具が開示されている。前記レールカバーは金属製の長尺板材から形成され、軌道レールの上面を覆う平面部と前記平面部の短手方向の両端に設けられた一対の側壁部とを備えている。レールカバーは、軌道レールの長手方向に沿って当該軌道レールに装着されて、軌道レール上に設けられたボルト取付け孔を覆うように構成されている。レールカバーは、軌道レールから移動ブロックを取り外した状態で、特許文献1で開示された治具等を利用して軌道レールに対して取り付けられる。レールカバーは、当該治具によって軌道レールの長手方向に沿って順次押圧されることで、一対の側壁部が強制的に押し広げられ、前記軌道レールに対して装着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-002561
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、移動ブロックを取り外してから軌道レールに対してレールカバーを取り付けるとなると、レールカバーを軌道レールに対して取付けた後に、再度、移動ブロックを軌道レールに対して取付ける必要が生じてしまう。そのため、従来のレールカバー取付け方法では、移動ブロックの取り外し及び再取付けが発生してしまい、煩雑であった。また、移動ブロックの取り外し及び再取付けを起因として運動案内装置に傷や不具合が発生してしまう懸念もあった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はこのような課題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、運動案内装置の軌道レールから移動ブロックを取り外すことなく、レールカバーの装着を容易に行うことを可能とするレールカバーの装着補助治具を提供することにある。
【0009】
すなわち、本発明は、運動案内装置の軌道レールに対して当該軌道レールの上面を覆うレールカバーを装着する際に用いる補助治具であって、前記レールカバーは、軌道レールの上面を覆う平面部と、前記平面部の短手方向の両端に設けられて前記軌道レールの側面を弾性的に把持する一対の側壁部とを備え、前記補助治具は、前記一対の側壁部の間隔を調整する際に使用され、上面に操作グリップを有して前記レールカバーの長手方向へ押し引きされる治具本体と、周面が前記一対の側壁部の内側面にそれぞれ当接して互いに逆方向へ回転するように前記治具本体の底面に配設され、前記レールカバーの長手方向に沿った前記治具本体の移動に伴って前記一対の側壁部を外側に向かって押圧する一対の押圧ローラを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の装着補助治具によれば、この装着補助治具を軌道レール装着前のレールカバーの長手方向へ押し引きすることで、一対の押圧ローラが一対の側壁部を外側に向かって押圧するので、互いに対向する当該一対の側壁部の間隔を容易に押し拡げることができる。これにより、軌道レールにレールカバーを装着した際に、一対の側壁部が軌道レールの側面に対して及ぼす弾性的な把持力が弱まるため、レールカバーをスライドさせて軌道レールと移動ブロックとの隙間に挿入することが可能となる。従って、本発明の装着補助治具をレールカバーに対して用いれば、軌道レールに対するレールカバーの取り付けの際に、当該軌道レールから移動ブロックを取り外す必要がなく、レールカバーの取付けにかかる煩雑さを解消することができる。また、軌道レールに対する移動ブロックの取り外し及び再取付けの際に傷や不具合が発生するトラブルを防止することが可能となる。更に、レールカバーの側壁部を押し拡げ過ぎることがなく、軌道レールに装着したレールカバーが当該軌道レール上を移動する移動ブロックと干渉することがなく、移動ブロックの機能を損なうことがない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】運動案内装置の一例を示す斜視図である。
図2】運動案内装置の軌道レールにレールカバーを装着する前の状態を示す断面図である。
図3】本発明を適用したレールカバーの装着補助治具の第一実施形態を示す斜視図である。
図4】第一実施形態にかかるレールカバーの装着補助治具の底面図である。
図5】案内部材及び一対の押圧ローラの間隔を調整する機構を説明する概略図である。
図6】本発明を適用したレールカバーの装着補助治具の第二実施形態を示す斜視図である。
図7】第二実施形態レールカバーの装着補助治具の底面図である。
図8】本発明を適用したレールカバーの装着補助治具の第三実施形態を説明する概略図である。
図9】第三実施形態にかかるレールカバーの装着補助治具の使用方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を用いて本発明を適用したレールカバーの装着補助治具を詳細に説明する。
【0013】
図1は、運動案内装置100を示す斜視図である。運動案内装置100は、各種工作機械や搬送装置等に使用される。運動案内装置100は、直線状に形成された軌道レール110と、多数の転動体を介して前記軌道レール110に組付けられた移動ブロック120と前記軌道レール110の上面を覆うレールカバー130とを備えている。前記移動ブロック120は、前記多数の転動体の無限循環路を有しており、前記転動体が前記軌道レール110に形成された転走面を転動することにより、前記移動ブロック120が前記軌道レール110の長手方向に沿って自在に往復運動することが可能となっている。
【0014】
図2は軌道レール110及びレールカバー130をそれらの長手方向と直交する方向で切断した断面図であり、軌道レール110とレールカバー130とを分離した状態を示している。軌道レール110は、断面略矩形状に形成されており、当該軌道レール110の両側面には長手方向に沿って溝部210が設けられている。各溝部210の上下には、転動体としてのローラが転走する転走面220が形成されている。また、軌道レール110には長手方向に所定の間隔をおいて複数のボルト取付け孔230が設けられている。これらボルト取付け孔230は固定ボルトを用いて軌道レール110を機械装置等の固定部に敷設する際に利用される。図1において、これら複数のボルト取付け孔230は、レールカバー130によって覆い隠されており、当該ボルト取付け孔230に対するワークの削り屑や塵芥などの異物の侵入が防止されている。
【0015】
レールカバー130は、ステンレス製の板状部材から形成され、長尺に形成された平面部240と、当該平面部240の短手方向の両端に設けられた一対の側壁部250とを備えている。前記一対の側壁部250は、前記平面部240に対して略垂直に曲げ起こされると共に、当該レールカバー130の長手方向に連続して設けられている。
【0016】
前記一対の側壁部250の先端には、前記レールカバー130の内側に対して僅かに折り曲げて形成された一対の係止部260が設けられている。そのため、レールカバー130を軌道レール110に対して装着する際には、前記一対の係止部260を外側に押し広げるようにして、これら係止部260の間に軌道レール110を押し込む必要がある。一方、前記軌道レール110の上角部近傍の両側面には前記一対の係止部260に対応する一対のカバー固定溝270が形成されている。これにより、レールカバー130が軌道レール110に対して完全に装着されると、前記一対の係止部260は前記一対のカバー固定溝270に入り込み、前記一対の係止部260が前記軌道レール110を弾性的に把持することになり。このため、前記レールカバー130が前記軌道レール110に対して強固に固定される。
【0017】
図3は、本発明を適用したレールカバーの装着補助治具300の第一実施形態を示す斜視図である。
【0018】
前記装着補助治具300は、レールカバー130の一対の側壁部250の間隔を調整する際に使用され、当該レールカバー130の一対の側壁部250を外側に向かって押し広げることができる。前記装着補助治具300は、レールカバー130の長手方向へ押し引きされる治具本体310と、治具本体310の上面に設けられた操作グリップ320と、一対の案内ローラから構成された案内部材330と、一対の押圧ローラ340と、治具本体310の底面に設けられた押え部材350とを備えている。
【0019】
前記一対の案内ローラ330は、前記治具本体310の底面に設けられている。前記一対の案内ローラ330は、支軸が前記治具本体310に対して直交するように設けられている。一対の案内ローラ330は、前記レールカバー130の短手方向に沿って一定の間隔で配設されている。当該一対の案内ローラ330は、この装着補助治具300をレールカバー130に対して用いる際に、治具本体310をレールカバー130の長手方向に沿って案内する役割を担う。尚、前記案内部材330は必ずしも一対の案内ローラで構成されている必要はなく、治具本体310をレールカバー130の長手方向に沿って安定的に案内することができれば、その形状や配置などを適宜設計の変更可能である。また、前記案内部材は当該装着補助治具の使い易さを考慮して設けられたものであって、本発明の必須の構成ではない。
【0020】
一対の押圧ローラ340は、前記治具本体310の底面に設けられている。各押圧ローラ340は、支軸が前記治具本体310に対して直交するように設けられている。前記一対の押圧ローラ340は、前記レールカバー130の短手方向に沿って一定の間隔で配設されている。一対の押圧ローラ340は、装着補助治具300をレールカバー130に対して用いる際に、一対の側壁部250を外側に向かって押圧する役割を担う。
【0021】
押え部材350は、治具本体310の底面から下方に向かって突出して設けられている。押え部材350は、レールカバー130の平面部240に対して当接するように設けられており、本実施形態では、一対の案内ローラ330の間及び一対の押圧ローラ340の間に挟まれるように設けられている。押え部材350は、異なる大きさのものを装着することができる交換式であってもよい。なお、本実施形態では、装着補助治具300に押え部材350を設けているが、押え部材350は、必ず設けなければならないものではない。
【0022】
図4は、前記装着補助治具300の底面図である。図中の破線は、レールカバー130の一部を示す。治具本体310の底面を示す図4において、紙面上側に設けられた2つローラが一対の案内ローラ330である。装着補助治具300をレールカバー130に対して重ねると、案内ローラ330aは、紙面左の側壁部250aの内側面に当接する一方、案内ローラ330bは、紙面右の側壁部250の内側面に当接する。すなわち、前記一対の案内ローラ330は、周面が前記一対の側壁部250の内側面のそれぞれに対応して当接する。本実施形態では、案内部材330が一対の案内ローラ330として構成され、それぞれが一対の側壁部250の内側面に当接しているが、案内部材330は、側面が一対の側壁部250の少なくともいずれか一方の内側面に当接するように設けられていればよい。以下では前記一対の案内ローラ330が一対の側壁部250と当接する部分を一対の第一当接部331と呼ぶことにする。
【0023】
図4に示すように、案内ローラ330aと側壁部250aとが当接する第一当接部331aと案内ローラ330bと側壁部250bとが当接する第一当接部331bとの間隔は、一対の側壁部250の対向する内側面の距離Xと略同一の長さである。言い換えると、案内ローラ330aの支軸と案内ローラ330bの支軸との間隔と前記案内ローラ330の直径の和は、前記距離Xと略同一である。
【0024】
治具本体310の底面を示す図4において、紙面下側に設けられた2つのローラは一対の押圧ローラ340である。装着補助治具300をレールカバー130に対して重ねると、押圧ローラ340aは、紙面左の側壁部250aの内側面に当接する一方、押圧ローラ340bは、紙面右の側壁部250bの内側面に当接する。すなわち、前記押圧ローラ340は、周面が前記一対の側壁部250の内側面のそれぞれに対応して当接する。以下では前記一対の押圧ローラ340が前記一対の側壁部250と当接する部分を一対の第二当接部341と呼ぶことにする。
【0025】
押圧ローラ340aと側壁部250aとが当接する第二当接部341aと押圧ローラ340bと側壁部250bとが当接する第二当接部341bとの間隔は、前記距離Xよりも僅かに大きく設定されている。言い換えると、押圧ローラ340aの支軸と押圧ローラ340bの支軸との間隔と前記押圧ローラ340の直径の和は、前記距離Xよりも僅かに大きく設定されている。一対の案内ローラ330の配設間隔と比較すると、一対の押圧ローラ340の配設間隔は、一対の案内ローラ330の配設間隔よりも広く設定されている。そのため、一対の押圧ローラ340は、当該一対の押圧ローラ340を一対の側壁部250の間に挿入し、治具本体310をレールカバー130の長手方向に沿ってスライドさせると、周面が前記一対の側壁部250の内側面にそれぞれ当接して互いに逆方向へ回転するように治具本体310の底面に配設されている。
【0026】
次に、装着補助治具300を用いたレールカバー130の軌道レール110に対する装着方法の一例を説明する。
【0027】
最初に、前記レールカバーの装着に先立ち、前記装着補助治具を用いてレールカバー130の前処理を行う。当該前処理では、レールカバー130の一端部から前記一対の側壁部250の間に装着補助治具300を挿入し、当該装着補助治具300をレールカバー130の長手方向へ強制的に移動させる。
【0028】
前記一対の側壁部250の間に装着補助治具300を挿入する際には、前記一対の案内ローラ330を先頭として装着補助治具300を推し進める。前述のように、前記一対の案内ローラ330は前記一対の側壁部250の内側面の距離Xに対応して配置されているので、装着補助治具を推し進めると、前記各案内ローラ330はレールカバー130の側壁部250に当接しながら互いに逆方向へ回転し、装着補助治具を一対の側壁部の間に容易に導入することができる。
【0029】
装着補助治具300を更に推し進めると、前記一対の押圧ローラ340が一対の側壁部250の間に進入する。前記一対の押圧ローラ340の間隔は前記第二当接部341同士の間隔が距離Xよりも僅かに大きくなるように設定されているため、これら一対の押圧ローラ340が一対の側壁部250の間に進入する際には、当該一対の押圧ローラ340が各側壁部250を前記レールカバー130の幅方向外側に向けて強制的に押し拡げながら進入することになる。また、一対の押圧ローラ340が一対の側壁部250に対して強く当接するので、装着補助治具300をレールカバー130の長手方向へ推し進める際には、操作グリップ320を推進する力に対して抵抗が作用するが、各押圧ローラ340が回転しながら側壁部250と当接するので、当該装着補助治具300を円滑に推し進めることが可能となる。更に、前記一対の押圧ローラ340を前記一対の側壁部250の間に強制的に進入させる際には、既に前記案内ローラ330が各側壁部250と当接した状態にあるので、前記レールカバー130に対する装着補助治具300の姿勢を安定させることができ、この点においても装着補助治具300をレールカバー130に対して容易に推し進めることが可能となる。
【0030】
このようにしてレールカバー130の一対の側壁部250の間に導入した装着補助治具300を当該レールカバー130の長手方向へ押し進めると、前記一対の押圧ローラ340が通過した範囲においては、一対の側壁部250がレールカバー130の幅方向の外側に向けて押圧され、各側壁部250はレールカバー130の平面部240に対して塑性変形を生じて、前記一対の側壁部250の間隔が押圧ローラ340の通過前に比べて拡がった状態となる。
【0031】
また、一対の側壁部250がレールカバーの幅方向の外側に向かって押圧されると、当該レールカバー130の剛性に起因して前記平面部240の中央が装着補助治具300の方向へ持ち上がる現象を生じる。この点に関し、本実施形態では、治具本体310の底面に押え部材350を設けて、当該抑え部材350をレールカバー130の平面部240に当接させているので、当該現象の発生を抑えながら一対の側壁部250をレールカバー130の幅方向の外側に向けて拡開させることが可能となる。
【0032】
前記装着補助治具300は、レールカバー130の長手方向の全域に対してスライドさせるのではなく、前記軌道レール110上における移動ブロック120の長さと略同一の長さ分だけスライドさせたら、前記レールカバー130から取り外す。装着補助治具300を取り外した後のレールカバー130は、前記一対の押圧ローラ340が移動した範囲において、互いに対向する一対の側壁部250の間の距離が装着補助治具300による処理前の距離Xよりも拡がったものとなっている。そのため、前記一対の押圧ローラ340の移動範囲においては、レールカバー130を軌道レール110に装着した際に、各側壁部250の先端の係止部260が軌道レール110の側面に形成されたカバー固定溝270に入り込む力が弱まったものとなっている。
【0033】
次に、このように装着補助治具300を用いて前処理を施したレールカバー130を軌道レール110に対して装着する。装着にあたっては移動ブロック120を軌道レール110の一端に移動させ、当該移動ブロックが軌道レール上に存在する状態でレールカバーの装着を行う。先ずは、前記装着補助治具300を適用したレールカバー130の長手方向の一端を軌道レール110に上方から押し付け、前記押圧ローラ340によって一対の側壁部250を押し拡げたレールカバー130の部位を順次軌道レール110に対して装着する。前記装着補助治具300によって前記一対の側壁部250を塑性変形させ、これら側壁部250の先端に設けられた一対の係止部260の間隔を拡開していることから、前記レールカバー130を軌道レール110に対して上方から押し付けたとしても、前記一対の係止部260を軌道レール110に形成されたカバー固定溝270に対して軽い力で適合させることが可能であり、前記装着補助治具300による前処理済みの部位に関しては、レールカバー130を軌道レール110に対して容易に装着することができる。
【0034】
このとき、前記一対の側壁部を塑性変形させる程度については、治具本体に対する一対の押圧ローラの配設間隔によって決定される。前記係止部260が前記カバー固定溝270に対して遊嵌する程度に前記一対の側壁部を塑性変形させても良いし、前記係止部260が前記カバー固定溝270に入り込まない程度にまで前記一対の側壁部250を塑性変形させても良い。前者の場合は、レールカバー130の長手方向の端部を軌道レール110の上方から装着する際に軽い抵抗感が生じるが、後者の場合は抵抗感なくレールカバー130の長手方向の端部を軌道レール110に装着することができる。
【0035】
前処理が施された前記レールカバー130の一部を軌道レール110に装着したら、そのままの装着状態を保ったまま当該レールカバー130を軌道レール110の長手方向へスライドさせ、前記軌道レール110に装着済みのレールカバー130の部位を移動ブロック120の下側に挿入する。既に軌道レール110に装着済みのレールカバー130の部位は前記装着補助治具300によって一対の側壁部250を拡開させた部位であり、各側壁部250の先端の係止部260は軌道レールのカバー固定溝270に対して緩く嵌合しているので、当該部位は軌道レール110の長手方向へ容易にスライドさせることが可能である。
【0036】
前記移動ブロック120の下側に潜り込ませたレールカバー130の端部が軌道レール110の長手方向の一端に到達したら、前記軌道レール110に対する前記レールカバー130のスライドを停止させる。前記装着補助治具300によって前処理を施したレールカバー130の範囲は軌道レール110上における移動ブロック120の長さに対応しているので、この状態では移動ブロック120の下側に潜り込んでいるレールカバー130の部位は総て軌道レール110に装着された状態にある。
【0037】
この後、未だ軌道レール110に装着されていないレールカバー130の部位、すなわち前記装着補助治具300によって前処理の施されていない部位を軌道レール110に対して上方から押圧し、当該軌道レール110に対して装着する。装着補助治具300による前処理が施されていないレールカバー130の部位においては、前記一対の側壁部250が拡開していないので、レールカバー130を装着する際には大きな力で当該レールカバー130を軌道レール110に対して上方から押圧する必要がある。その一方、当該部位は各側壁部250の先端に設けられた係止部260が軌道レール110のカバー固定溝270に対して大きな力で押し込まれて嵌合するので、当該部位を軌道レール110に装着した後はレールカバー130を当該軌道レール110の長手方向へスライドさせることが不能となる。
【0038】
以上説明してきたように、前記装着補助治具300を用いてレールカバー130に前処理を施せば、軌道レール110に対してレールカバー130を取り付ける際に、移動ブロック120を取り外すことなく当該レールカバー130の装着を完了させることが可能となる。したがって、この装着補助治具300を用いれば、軌道レール110に対するレールカバー130の取付けにかかる煩雑さを解消することができる。また、軌道レール110に対する移動ブロック120の取り外しが不要となるので、移動ブロック120の再取付けに起因して運動案内装置に傷や不具合が発生するのを回避することが可能となる。
【0039】
また、前記レールカバー130はステンレス製の板状部材を折り曲げて製作されるため、曲げ加工の際の加工硬化によって前記一対の側壁部250は前記平面部240に対して堅固に立設されており、当該一対の側壁部250を拡開させることは容易ではないが、この装着補助治具300を用いれば、一対の押圧ローラ340を回転させながら前記一対の側壁部250の間に導入し、これら一対の側壁部250を外側に向けて容易に押し拡げることができる。また、案内部材としての前記一対の案内ローラ330がレールカバー130に対する装着補助治具300の姿勢を安定化させるので、この点においても軌道レール110への装着に先だったレールカバー130の前処理を容易に実施することが可能となる。
【0040】
更に、この装着補助治具300を用いれば、レールカバーの側壁部を外側に向かって押し拡げる量を最適化することができるので、当該側壁部を押し拡げ過ぎてしまうといった作業ミスを防止することができる。このため、軌道レールに装着したレールカバーが当該軌道レール上を移動する移動ブロックと干渉してしまうといったトラブルを未然に防止することができ、軌道レール上における移動ブロックの円滑な移動を確保することが可能となる。
【0041】
前記装着補助治具300は、一対の案内ローラ330及び一対の押圧ローラ340の配設間隔をレールカバー130の短手方向に対して任意に変更可能な調節固定機構(図示せず)を有していてもよい。これにより、装着補助治具300は、レールカバー130の距離Xに応じて、一対の第一当接部331の各当接部331における間隔及び一対の第二当接部341の各当接部341における間隔を調節することができるため、様々な大きさのレールカバー130に対して対応することが可能となる。例えば、幅が狭いレールカバーに対して用いる場合は、図5に示すように、治具本体310の底面に設けられた押え部材350を取り外し、一対の案内ローラ330及び一対の押圧ローラ340を中央付近にスライドさせた後に固定するとよい。この場合、一対の案内ローラ330及び一対の押圧ローラ340が押え部材350として機能する。
【0042】
また、前述した実施形態では前記治具本体310に対して一対の案内ローラ330を設けていたが、当該案内ローラ330は必ずしも設ける必要はなく、前記治具本体310に対しては前記レールカバー130の側壁部250を押圧する押圧ローラ340のみを設けても良い。
【0043】
更に、前述した実施形態では前記押圧ローラ340が治具本体310に対して一対のみ設けられていたが、前記一対の押圧ローラ340は複数組配置してもよい。このとき、前記レールカバー130の側壁部250を徐々に塑性変形させるという観点からすれば、各組における一対の押圧ローラの配置間隔に僅かずつ差を持たせてもよい。
【0044】
図6及び図7は本発明を適用したレールカバーの装着補助治具の第二実施形態を示すものである。
【0045】
この装着補助治具400は、前述の第一実施形態の装着補助治具と同様に、レールカバー130の長手方向へ押し引きされる治具本体410と、治具本体410の上面に設けられた操作グリップ420と、レールカバー130の一対の側壁部250に当接して当該レールカバー130に対する前記治具本体410の姿勢を安定させる案内部材430と、前記一対の側壁部250を内側から押圧する一対の押圧ローラ440と、前記治具本体410の底面に設けられた押え部材450とを備えている。
【0046】
図3に示した第一実施形態の装着補助治具300が略矩形状に形成されていたのとは異なり、前記治具本体410は円板状に形成されている。前記治具本体410の底面には前記レールカバー130の一対の側壁部250に対応した一対の案内溝460が当該治具本体410の中心を挟んで二条平行に形成されている。前記装着補助治具400は、レールカバー130の側壁部250を前記案内溝460に導入し、且つ、前記押え部材450をレールカバー130の平面部240に当接させた状態で当該レールカバー130の長手方向へ押し引きして使用される。
【0047】
この実施形態においては、前記案内溝460に面した前記押さえ部材450の一側面が前記案内部材430として機能しており、前記案内溝460に前記レールカバー130の側壁部250を導入すると、当該側壁部250が前記案内部材430に摺接して、前記レールカバー130に対する前記治具本体410の姿勢の安定化が図られるようになっている。
【0048】
また、前記治具本体410の底面には前記一対の押圧ローラ450の収容部が設けられている。これら収容部470は各案内溝460の長手方向の一端に設けられており、各押圧ローラ440は各収容部470に配置されている。前記収容部内における前記押圧ローラの配置は、当該押圧ローラの外周面が前記案内溝460に導入されたレールカバー130の側壁部250と僅かに干渉する位置である。このため、前記レールカバーが案内溝460に導入されると、前記押圧ローラ440が当該レールカバー130の側壁部250に対して内側から当接し、レールカバー130の長手方向へ装着補助治具400を移動させた際に当該側壁部250をレールカバー130の幅方向の外側へ向けて押圧する。各押圧ローラ440はその周面が前記治具本体410の外周面から外側にはみ出さないように配置されている。
【0049】
また、図7に示すように、前記押圧ローラ440の外周面は前記治具本体410の外周面に対する前記収容部470の開口端471,472を結ぶ線(図7中に破線で表示)、すなわち前記治具本体410の外周面に対して前記収容部470が形成する弦よりもよりも、治具本体410の中心寄りに配置されている。
【0050】
この第二実施形態の装着補助治具400も前記第一実施形態の装着補助治具300と同様に使用される。すなわち、前記レールカバー130の軌道レール110に対する装着に先立ち、前記装着補助治具400をレールカバー130の一端部から前記一対の側壁部250の間に挿入し、当該装着補助治具400をレールカバー130の長手方向へ強制的に移動させる。その際、前記側壁部250は前記装置本体410の案内溝460に導入され、当該案内溝460を通過した後に前記押圧ローラ440に当接する。
【0051】
そして、この装着補助治具400を用いることにより、当該装着補助治具400をレールカバー130に対して移動させた領域、すなわちレールカバー130の側壁部250に対して押圧ローラ440が移動した領域では、レールカバー130の互いに対向する一対の側壁部250の間の距離が装着補助治具400による処理前よりも僅かに拡がったものとなる。その結果、前記レールカバー130を軌道レール110に対して上方から押し付けたとしても、前記装着補助治具300による前処理済みの部位に関しては、レールカバー130を軌道レール110に対して容易に装着することが可能となる。
【0052】
また、この第二実施形態の装着補助治具400では、前記治具本体410が角部を含まない円板状に形成されているので、前記装着補助治具400を用いて前記軌道レール110に対するレールカバー130の装着作業を実施する際に、意図せずして前記治具本体410がレールカバー130に接触して、当該レールカバー130に打痕が生じてしまうのを未然に防止することが可能となる。また、前記押圧ローラ440の外周面は前記治具本体410の外周面に対して前記収容部470が形成する弦よりも当該治具本体の中心寄りに位置しているため、意図せずして前記治具本体410を床などに落下させてしまったとしても、押圧ローラ440に対して床などが接触するのを回避することができ、当該押圧ローラ440の破損を防止することが可能となる。
【0053】
図8は本発明を適用した装着補助治具の第三実施形態を示すものであり、前記第一実施形態の治具本体310の底面における案内部材330と押圧ローラ340の配置に関する変形例を示している。
【0054】
この第三実施形態の装着補助治具では、案内部材330が前記レールカバー130の一対の側壁部250a,250bのうちの一方の内側に摺接する1つの部材で構成されている。図8に示す例では、前記案内部材330が側壁部250bの内側面に対して当接するように前記治具本体の底面に配置されている。前記一対の押圧ローラ340a,340bについては第一実施形態の装着補助治具と同じである。
【0055】
この場合、押圧ローラ340aの軸心と押圧ローラ340bの軸心とを結ぶ直線に対して、前記案内部材330の中心と押圧ローラ340bの軸心とを結ぶ直線は直角に交わっている。これにより、図9に示すように装着補助治具300を傾けると、前記案内部材330及び前記一対の押圧ローラ340a,340bをレールカバー130の側壁部と干渉させることなく、前記治具本体310をレールカバー130の平面部240上に載置することができる。この図9に示す状態から、前記装着補助治具300を図中の矢線Y方向へ回転させると、図8に示したように前記案内部材330及び一対の押圧ローラ340a,340bをレールカバー130の側壁部250に内側から当接させることができる。すなわち、装着補助治具300をレールカバー130の端部からではなく、レールカバー130の中央付近からであっても使用することが可能となる。
【符号の説明】
【0056】
100…運動案内装置、110…軌道レール、120…移動ブロック、130レールカバー、250…一対の側壁部、300,400…装着補助治具、310,410…治具本体、330,430…案内部材、340,440…押圧ローラ、350,450…押え部材

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9