(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】ガス分離材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01D 69/12 20060101AFI20240116BHJP
B01D 69/00 20060101ALI20240116BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20240116BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20240116BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
B01D69/12
B01D69/00
B01D69/02
B01D71/02 500
B01D69/10
(21)【出願番号】P 2019017475
(22)【出願日】2019-02-01
【審査請求日】2022-01-05
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 功二
(72)【発明者】
【氏名】川原 浩一
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-123893(JP,A)
【文献】特開2017-179431(JP,A)
【文献】特開2008-246295(JP,A)
【文献】特開昭64-061307(JP,A)
【文献】特開平03-115573(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 69/00 - 69/14
B01D 71/02 - 71/04
C23C 16/42
C23C 16/455
C01B 32/977
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の細孔を有する無機多孔質部の該細孔の両端側よりそれぞれ対向拡散させた原料ガスと対向ガスとを反応させる化学蒸着によりガス分離層を形成するガス分離材の製造方法において、
前記原料ガスは炭素(C)および珪素(Si)を含む化合物を含み、前記細孔の一端側に該原料ガスを供給する原料ガス供給工程を実施しながら、反応工程を繰り返し実施し、該反応工程は、
前記細孔の他端側に前記化合物と反応して炭化珪素を生成する対向ガスを供給する対向ガス供給工程と、
前記対向ガス供給工程の後に行う、前記対向ガスの供給を停止する対向ガス停止工程と、
前記対向ガス停止工程と同時にまたは該対向ガス停止工程の後に行う、前記原料ガスを前記細孔の一端側から他端側へと引き込む原料ガス導入工程と、
を含むガス分離材の製造方法。
【請求項2】
前記反応工程を3回以上繰り返す請求項1に記載のガス分離材の製造方法。
【請求項3】
前記原料ガス供給工程は、300~650℃で熱分解された前記原料ガスを供給する工程である請求項1または2に記載のガス分離材の製造方法。
【請求項4】
前記原料ガスは、分解温度が150~450℃である化合物を含む請求項1~3のいずれかに記載のガス分離材の製造方法。
【請求項5】
前記原料ガスは、Si-C結合を有する化合物を含む請求項1~4のいずれかに記載のガス分離材の製造方法。
【請求項6】
前記原料ガスは、環状構造を含む化合物を含む請求項1~5のいずれかに記載のガス分離材の製造方法。
【請求項7】
前記原料ガスは、シラシクロブタンを含む請求項6に記載のガス分離材の製造方法。
【請求項8】
前記原料ガス導入工程は、前記原料ガスを前記細孔の一端側から供給したまま他端側から排気する原料ガス排気工程である請求項1~7のいずれかに記載のガス分離材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、混合ガスから特定のガス成分を分離精製するガス分離材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸発した物質を被処理材の表面に付着させて薄膜などを形成する技術として、化学蒸着(CVD)が知られている。化学蒸着は、混合ガスから水素ガスなどの特定のガス成分を分離精製するために用いられるセラミックス系のガス分離材の製造に多用されている。セラミックス系のガス分離材は、材料自体が有するサブナノサイズの細孔によるガス分離が可能であって、なかでも酸化珪素や炭素、炭化珪素などを主成分とする膜が分離活性層として利用されている。ガス透過速度は膜厚に反比例することから、極薄い分離活性層を用いると、ガス分離の際の透過速度が増大して分離処理能力が高まるため有効である。また、ガス分離特性を向上させるためには、欠陥の少ない分離活性層が望まれる。
【0003】
分離活性層として用いられる炭化珪素膜(SiC膜)の製造方法として、非特許文献1には、Si源としてSiH
2Cl
2、C源としてC
2H
2を用いた化学気相含浸法(Chemical Vapor Infiltration:CVI)が開示されている。
図9(A)は、CVIの概念を説明する概略図である。CVIでは、原料ガスと、原料ガスと反応する反応ガスと、が同じ方向から細孔へ供給されるため、多孔質基材の細孔の開口部を塞ぐようにして、多孔質基材の表面近傍に反応生成物が成膜される。非特許文献1では、CVIにより、ポリカルボシランを前駆体として用いて成膜されたSiC膜の未封止の細孔にさらにSiCを蒸着することで、全体として、多孔質基材の表面を覆う130nm程度の膜厚のSiC膜が形成される。このSiC膜は、水素分離膜として水蒸気改質(メタンを水蒸気と共に触媒上で反応させて水素と二酸化炭素に変換する)に利用することができる。このような膜のガス分離特性の指標として用いられるのが、ガス分離係数である。特に、純ガスの透過率の比で表されるガス分離係数は理想分離係数とよばれ、非特許文献1によれば、二酸化炭素ガスの透過率(P
CO2)に対する水素ガスの透過率(P
H2)の比で表される理想分離係数(P
H2/P
CO2)は、600℃において15程度である。SiC膜を水素分離膜として用いるためには、実用上、分離されるガスの透過量増大の観点から膜厚が薄く、ガス分離特性向上の観点から低欠陥のSiC膜の製造が望まれている。
【0004】
ところで、SiC膜は、通常、多孔質材料からなる多孔質支持基材に成膜されるが、支持基材として多用されるα-アルミナの熱膨張係数は7.2×10-6/℃(40~400℃)であり、SiCの熱膨張係数は3.7×10-6/℃である。そのため、支持基材に成膜されるSiC膜が厚くなるほど熱膨張係数差に起因する残留応力が増大し、SiC膜の剥離が発生しやすい。SiC膜の膜厚を極薄くすることで残留応力を低減して、SiC膜の剥離を抑制することは可能である。しかしながら、極薄膜は、欠陥が生じやすく、高いガス分離特性を得ることができない。
【0005】
一方、対向拡散CVDは、多孔質支持基材の細孔内部を封止するように蒸着することができるため、熱膨張差の影響を受け難く、有利である。特許文献1には、対向拡散CVDを用いた酸化珪素膜(シリカ膜)の製造方法が開示されている。
図9(B)は、対向拡散CVDの概念を説明する概略図である。対向拡散CVDは、原料ガス(たとえば有機珪素化合物ガス)と、原料ガスと反応する対向ガス(たとえば酸素ガス)と、を多孔質基材の細孔の両端よりそれぞれ対向拡散させ、細孔内で反応させてシリカ膜を形成する。反応生成物は、細孔の内壁に蒸着され、反応が進行すると細孔は反応生成物で閉塞されるので、両ガスの接触が妨げられることで反応が終了する。その結果、細孔内に形成された閉塞部Fは、極薄い低欠陥の膜となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Helium-Permselective Amorphous SiC Membrane Modified by Chemical Vapor Infiltration, Soft Materials Volume 4, 2007, Issue 2-4, 109-122
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
対向拡散CVDによりシリカ膜を製膜する場合には、細孔の内壁に付着した珪素が酸化して体積膨張するため細孔が埋まりやすく、原料ガスと対向ガスとの接触が早期に妨げられて閉塞部F(
図9(B))が薄く形成され易い。一方、SiC膜の成膜に対向拡散CVDを用いることは、これまで試みられていなかった。SiCの生成過程では、原料ガスの熱分解物が細孔の内壁に堆積しても体積膨張を伴わないので、対向拡散CVDの反応過程において細孔が埋まりにくい。そのため、反応が終了せずに継続して、CVIで蒸着されるような膜が細孔の開口部やその周辺に形成されると推測される。したがって、低欠陥かつ極薄いSiC膜を対向拡散CVDで形成することは、そもそも困難であると考えられる。
【0009】
また、特許文献1には、原料ガスと対向ガスとを一定時間供給して対向供給させて反応させた後、少なくとも対向ガスの供給を停止して一方向供給に変更して、対向供給と一方向供給とを複数回行う成膜方法が開示されている。一方向供給の方法を変更することで、ガス透過率およびガス分離係数が変化するが、このような現象に関して詳しいメカニズムは分かっていない。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑み、従来よりもガス分離特性が向上した炭化珪素系のガス分離材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、この課題を解決すべく鋭意研究の結果、ガス分離材として実用可能な炭化珪素系のガス分離材を、対向拡散CVDを用いて製造可能とし、ガス分離特性の高い新規のガス分離材を製造するに至った。
【0012】
すなわち本発明のガス分離材の製造方法は、複数の細孔を有する無機多孔質部の該細孔の両端側よりそれぞれ対向拡散させた原料ガスと対向ガスとを反応させる化学蒸着によりガス分離層を形成するガス分離材の製造方法において、
前記原料ガスは炭素(C)および珪素(Si)を含む化合物を含み、前記細孔の一端側に該原料ガスを供給する原料ガス供給工程を実施しながら、反応工程を繰り返し実施し、該反応工程は、
前記細孔の他端側に前記化合物と反応して炭化珪素を生成する対向ガスを供給する対向ガス供給工程と、
前記対向ガス供給工程の後に行う、前記対向ガスの供給を停止する対向ガス停止工程と、
前記対向ガス停止工程と同時にまたは該対向ガス停止工程の後に行う、前記原料ガスを前記細孔の一端側から他端側へと引き込む原料ガス導入工程と、
を含む。
【0013】
前述の通り、対向拡散CVDにおける炭化珪素の反応過程において、炭化珪素系の生成物では細孔が埋まり難い。そのため、対向ガスは、原料ガスと接触して反応し続ける。特に、対向ガスとして分子動力学的直径の小さい水素ガスを用いる場合には、水素ガスは生成物をも透過し易く、透過した水素ガスは、細孔が開口する一端側に高濃度で存在する原料ガスと接触しやすい。こうした炭化珪素の反応過程における現象が、無機多孔質部の表面を覆うような厚膜の形成、ひいては欠陥の発生を助長していることに、本発明者等は着目した。本発明のガス分離材の製造方法によれば、反応工程において、対向ガスの供給後、対向ガスの供給を一旦停止して原料ガスを細孔の一端側から他端側へと引き込む。この反応工程を繰り返し実施することで、反応自体を一時停止させた状態で、細孔の一端側に高濃度で存在する原料ガスを細孔の他端側へと移動させることができる。その結果、炭化珪素系の生成物は、無機多孔質部の細孔の内壁に形成され、細孔の内部を閉塞する極薄い低欠陥の膜になると推測される。このようなガス分離層を有するガス分離材は、ガス分離特性に優れる。
【0014】
また、本発明のガス分離材は、複数の細孔を有する無機多孔質部と、炭化珪素を含み前記無機多孔質部の少なくとも前記細孔の内部を閉塞するガス分離層と、を備え、前記ガス分離層は、前記無機多孔質部の前記細孔から外にはみ出る外出部を有し、該無機多孔質部の表面から該外出部の表面までの該外出部における膜厚が100nm以下である。
【0015】
あるいは、本発明のガス分離材は、複数の細孔を有する無機多孔質部と、炭化珪素を含み前記無機多孔質部の少なくとも前記細孔の内部を閉塞するガス分離層と、を備え、二酸化炭素の透過率に対する水素の透過率の比であらわされる理想分離係数が400℃において1000以上であると捉えることもできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のガス分離材は、従来よりもガス分離特性が高い。また、本発明のガス分離材の製造方法によれば、従来よりもガス分離特性が向上した炭化珪素系のガス分離材を対向拡散CVDにより製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のガス分離材の製造方法の一実施形態であって、反応工程において対向ガス供給工程および原料ガス導入工程を同時に行う実施形態を説明するための模式図である。
【
図2】本発明のガス分離材の製造方法の一実施形態であって、反応工程において対向ガス供給工程の後に原料ガス導入工程を行う実施形態を説明するための模式図である。
【
図3】実施例のガス分離材およびその製造方法に用いる蒸着処理装置の模式図である。
【
図4】実施例のガス分離材およびその製造方法で用いられる無機多孔質部を示す模式図である。
【
図5】定容積圧力変化法を用いたガス透過試験装置の概略図である。
【
図6】実施例1のガス分離材の製造方法により得られたガス分離材のガス透過特性を示すグラフである。
【
図7】実施例1のガス分離材の断面の走査型電子顕微鏡像(SEM像)およびエネルギー分散型X線分析(EDS)結果である。
【
図8】実施例1のガス分離材の断面のエネルギー分散型X線分析(EDS)結果である。
【
図9】(A)CVIおよび(B)対向拡散CVDの概念を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明のガス分離材およびその製造方法を実施するための形態を説明する。なお、本明細書に記載された数値範囲の上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。
【0019】
<ガス分離材の製造方法>
本発明のガス分離材の製造方法では、複数の細孔を有する無機多孔質部の該細孔の両端側よりそれぞれ対向拡散させた原料ガスと対向ガスとを反応させる化学蒸着によりガス分離層を形成する。したがって、本発明のガス分離材の製造方法は、基本的には、従来から種々の無機膜の製造に用いられている対向拡散CVD用の製膜装置を用いて実施することが可能である。なお、無機多孔質部については、後に説明する。
【0020】
本発明のガス分離材の製造方法では、無機多孔質部の細孔の一端側に原料ガスを供給する原料ガス供給工程を実施しながら、反応工程を繰り返し実施する。原料ガスは、炭素(C)および珪素(Si)を含む化合物、好ましくはCおよびSiに加えて水素(H)を含む化合物を含む。換言すれば、原料ガスは、炭化珪素系の生成物のSi源としてもC源としても使用可能な化合物を含む。このような化合物として、望ましくはSi-C結合を有する化合物、さらに望ましくはSi-C結合に加えてC-C結合を含む化合物、が挙げられる。また、環状構造を含む化合物が望ましい。具体的には、t-ブチルシラン(tert-C4H9SiH3)、シラシクロブタン(H2Si-(CH2CH2CH2)-)、1,4-ジシラブタン(H3SiC2H4SiH3)、トリス(メチルアミノ)エチルシラン(C2H5Si[NH(CH)3]3)、トリス(ジメチルアミノ)シラン(Si[N(CH3)2]3H)などのオルガノシランが挙げられる。これらのうちの一種以上を気体状態で使用するのが望ましい。上記の化合物は常温で液体のものが多いため、恒温状態に維持されたバブラーに液体を収容し、キャリアガスを作用させることで液体を気化させるバブリング方式を用いてガス化するとよい。すなわち原料ガスは、キャリアガスとして、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、クリプトンガスなどの不活性ガスから選ばれる一種以上をさらに含んでもよい。バブラーの温度に特に限定はないが、望ましくは15~30℃、さらに望ましくは20~25℃である。さらに原料ガスは、希釈ガスとして、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、クリプトンガスなどの不活性ガスから選ばれる一種以上を含んでもよい。キャリアガスおよび希釈ガスは、原料ガスを100体積%としたとき、85~99.5体積%さらには90~99体積%含まれるのが実用的である。また、ガス混合器を用いて複数種類のガスを混合したり、添加元素を含むガスを混合したりしてもよい。たとえば、C源としてCH4、C3H8、C4H10、C2H2などの炭化水素ガス、COガス、Si源としてSiH4、SiH2Cl2などのシラン化合物ガス、が挙げられる。
【0021】
原料ガスに含まれる化合物として特に望ましいのは、Si-C結合および環状構造を有する化合物であって、具体的には、シラシクロブタンである。シラシクロブタンが有するSiおよびCからなるネットワーク構造が分離活性層としての炭化珪素構造中に存在することで、ガス分離材のガス分離係数の向上に寄与すると推測される。
【0022】
対向ガスは、前述の原料ガスと反応して炭化珪素を生成可能なガスであれば特に限定はないが、還元性のガスが望ましい。上記の原料ガスを還元雰囲気でエネルギー付与により分解することで、無機多孔質部に炭化珪素系の反応生成物が堆積する。具体的には、水素ガス(H2)が望ましく、水素ガスと共に不活性ガスを含んでもよい。水素ガスを必須で含む対向ガスを使用することで、炭化珪素系の生成物が非晶質構造を含む場合、非晶質構造中に存在する欠陥に繋がる非結合終端が水素終端されることで、非晶質構造が安定化するため有効である。
【0023】
原料ガスは分解され、後述の反応工程にて、対向ガスとの圧力バランスで細孔内に堆積する。原料ガスを分解する方法に特に限定はなく、無機多孔質部の細孔内に供給される原料ガスを加熱するのが望ましい。すなわち、原料ガス供給工程は、熱分解された原料ガスが供給される工程であるのが望ましい。熱分解の温度としては、望ましくは300~650℃、より望ましくは400~550℃、特に望ましくは460~530℃である。そのため、原料ガスに含まれる化合物は、化合物自体の分解温度が650℃以下であるのが望ましく、より望ましくは150~450℃、特に望ましくは180~400℃である。650℃以下の比較的低温で反応させることで、非晶質の炭化珪素が生成されやすい。熱分解の方法としては、たとえば、ヒーターなどを用いて無機多孔質部ごと外部から加熱する方法が簡便である。その他の方法としては、高周波、マイクロ波などの電波照射、紫外線などの光照射、レーザ照射などの電磁波を用いる他、プラズマ照射などが挙げられる。
【0024】
本発明のガス分離材の製造方法では、無機多孔質部の細孔の一端側に原料ガスを供給する原料ガス供給工程を実施しながら、反応工程を繰り返し実施する。反応工程は、対向ガス供給工程、対向ガス停止工程および原料ガス導入工程を含む。以下に、反応工程を詳説する。
【0025】
<対向ガス供給工程>
対向ガス供給工程は、無機多孔質部の細孔の他端側に化合物と反応して炭化珪素を生成する対向ガスを供給する工程である。対向ガス供給工程は、原料ガス供給工程を実施しながら行うため、原料ガスと対向ガスの流量バランスを調整することでより望ましい炭化珪素系ガス分離層が形成される。原料ガスおよび対向ガスの流量は、無機多孔質部の体積あるいはガス分離層が形成される面積や処理空間の容積に応じて適宜決定されるが、原料ガスと対向ガスとの流量(単位:mL/分)の比を1:9~9:1とするのが望ましく、2:8~6:4とするのがより望ましい。
【0026】
<対向ガス停止工程>
対向ガス停止工程は、対向ガス供給工程の後に行う、対向ガスの供給を停止する工程である。細孔への対向ガスの供給が停止されさえすればよいため、ガス供給源から無機多孔質部へ連通するガス流路を遮断するといった通常の方法を用いればよい。対向ガス停止工程は、原料ガス供給工程を実施しながら行うが、このとき無機多孔質部の周囲に存在するのは、ほとんどが原料ガスであるため、実質的に反応が停止する方向へ作用する。
【0027】
反応工程において、対向ガス供給工程から対向ガス停止工程へ変更するタイミングについては、後述する。
【0028】
<原料ガス導入工程>
原料ガス導入工程は、対向ガス停止工程と同時にまたは対向ガス停止工程の後に行う、原料ガスを無機多孔質部の細孔の一端側から他端側へと引き込む工程である。原料ガス導入工程も、原料ガス供給工程を実施しながら行うため、たとえば、細孔の一端側と他端側との間に差圧を作用させることで、原料ガスは容易に細孔の一端側から他端側へと引き込まれる。原料ガス導入工程は、原料ガスを無機多孔質部の細孔の一端側に供給したまま他端側から排気する原料ガス排気工程であるのが望ましく、一般的な対向拡散CVD装置に付属の真空ポンプを流用したり、別の真空ポンプを増設したり、などの簡便な構成で、原料ガスを細孔の一端側から他端側へと引き込むことができる。
【0029】
実質的に反応が停止している状態で原料ガスを細孔の一端側から他端側へと引き込むことで、反応自体を一時停止させた状態で、細孔の一端側に高濃度で存在する原料ガスを細孔の他端側へと移動させることができる。この状態で対向ガスの供給を再開、さらには反応工程を繰り返し実施すれば、前回の対向ガス供給工程の反応において生成した炭化珪素系の生成物の近傍、具体的には無機多孔質部の細孔の内部で反応を再開させることができるため、厚膜化の抑制および欠陥の低減が可能となると考えられる。とりわけ、原料ガス導入工程により、無機多孔質部の表面に存在する原料ガスの濃度が低下するため、無機多孔質部の表面を覆うような炭化珪素系の生成物の生成が抑制される。そして、反応工程を望ましくは3回以上、さらに望ましくは5回以上繰り返すことが望ましい。無機多孔質部の細孔の内部で確実に繰り返し反応させることにより、ガス分離層の厚膜化を抑制できると考えられる。なお、反応工程は、望ましくは5回以下、さらに望ましくは10回以下とするのが実用的である。
【0030】
図1および
図2は、本発明のガス分離材の製造方法における反応工程の一実施形態を模式的に示した図である。横軸は時間経過を示し、各ガスの供給(実線で示す)または導入(点線で示す)を実施するか否かを「ON」および「OFF」で示している。反応工程において連続的に行われる原料ガス供給工程と共に対向ガス供給工程Aが行われる間は、原料ガスと対向ガスとが反応して、反応生成物である炭化珪素系の生成物が細孔内に堆積する。
図1に示す実施形態では、対向ガス供給工程Aに続いて、対向ガス停止工程Bおよび原料ガス導入工程Bが同時に行われる。この工程Aおよび工程Bが1サイクルとなる。あるいは、
図2に示す実施形態では、対向ガス供給工程Aに続いて対向ガス停止工程C、対向ガス停止工程Cに続いて原料ガス導入工程Dが行われる。この工程A、工程Cおよび工程Dが1サイクルとなる。工程B、CおよびDでは、基本的に原料ガスと対向ガスとの接触はなく、反応は実質的に停止する。つまり、炭化珪素系の反応生成物が生成される工程と生成が停止する工程とで、1サイクルが構成されると言うこともできる。
【0031】
1サイクルの実施時間に特に限定はなく、ガス分離層が形成される面積や細孔径に応じて適宜決定されるが、1サイクルあたりの実施時間は、望ましくは25~180秒、より望ましくは50~100秒である。1サイクルあたりの実施時間を25秒以上とすることで、対向ガスの流量が安定して成膜の再現性が向上する。1サイクルあたりの実施時間が180秒以下であれば、原料ガスの過剰な消費を抑制し、原料ガスと対向ガスとのバランスを保つことができる。また、1サイクルあたりの工程Aおよび工程Bの実施時間は、工程Aの実施時間と工程Bの実施時間の比で、望ましくは1:2~2:1、より望ましくは2:3~3:2である。なお、1サイクルあたりの工程Bの実施時間は、1サイクルあたりの工程Cと工程Dの実施時間の和と捉えることができる。さらに、工程Cおよび工程Dの実施時間は、工程Cの実施時間と工程Dの実施時間の比で、望ましくは1:2~1:10、より望ましくは1:3~1:9である。
図1および
図2では、サイクル毎の実施時間を等しく示しているが、サイクル毎に実施時間を変更してもよい。
【0032】
<その他の工程>
本発明のガス分離材の製造方法は、製造するガス分離材の用途に応じて他の工程をさらに実施してもよい。たとえば、先に説明した反応工程の後に、さらに対向ガス供給工程のみを行ってもよい。また、無機多孔質部の材質によっては、反応工程の前に、無機多孔質部を還元する還元工程を行ってもよい。還元工程は、無機多孔質部を構成する材料が、添加金属を含む場合に有効である。
【0033】
<ガス分離材>
本発明のガス分離材は、複数の細孔を有する無機多孔質部と、炭化珪素を含み無機多孔質部の少なくとも細孔の内部を閉塞するガス分離層と、を備える。なお、本発明のガス分離材は、先に詳説した本発明のガス分離材の製造方法により製造可能である。
【0034】
無機多孔質部は、複数の細孔を有するものであれば、特に限定はない。無機多孔質部は、原料ガスと対向ガスとを対向拡散させるため、線状または網目状に貫通する細孔、換言すれば連通孔を有する多孔質体が好ましい。ただし、化学蒸着では原料ガスと対向ガスとを反応させる際に無機多孔質部の周辺も高温になることがあることから、熱的に安定な材料で構成されるのが好ましい。具体的には、α-アルミナ、ムライト、コージェライト、炭化珪素などが挙げられる。ただし、これらの無機多孔質材料は、通常、連通孔の平均細孔径が150~1000nmであるため、対向拡散CVDを用いて細孔を反応生成物で閉塞させて細孔内部にガス分離層を形成するには不向きである。細孔内部にガス分離層を形成する場合には、前述の無機多孔質材料からなる無機多孔質部材に形成された、1~10nm程度の平均細孔径をもつ無機多孔質中間層を無機多孔質部として用いるのが好ましい。特に、炭化珪素を主成分とするガス分離層に対しては、好ましくは10nm以下、より好ましくは9nm以下、特に好ましくは8nm以下の平均細孔径の細孔を有するγ-アルミナからなる中間層を用いるのがよい。なかでも、添加金属元素としてニッケル(Ni)元素を含むγ-アルミナ中間層は、ガス分離材に必要とされる耐湿性の観点から好適である。つまり、無機多孔質部は、アルミニウム(Al)、酸素(O)およびニッケル(Ni)を含むアルミナ系材料から構成されるのが好ましい。γ-アルミナ中間層における細孔の平均細孔径の下限を規定するのであれば、好ましくは2nm、より好ましくは3nm、特に好ましくは4nmである。このようなγ-アルミナ中間層は、好ましくは40~200nm、より好ましくは60~150nmの平均細孔径の細孔を有する無機多孔質部材の表面に形成されるのが好ましい。中間層の膜厚に限定はないが、1~6μmが好ましく、2~5μmがより好ましい。γ-アルミナ中間層は、公知の方法で成膜可能である。
【0035】
なお、本明細書において、無機多孔質部材の平均細孔径は、市販の細孔分布測定装置を用いてバブルポイント法およびハーフドライ法により測定された細孔分布における50%透過流束径である。また、中間層の平均細孔径は、西華産業株式会社製細孔径分布測定装置「ナノパームポロメーター」により測定された細孔分布における50%透過流束径である。
【0036】
無機多孔質部材の形状は、目的や用途に応じて選択されるが、板状、柱状、筒状、半筒状、棒状、塊状などのいずれであってもよい。無機多孔質部材の大きさも、目的や用途に応じて選択され、角筒や円筒などの筒状、曲板や平板などの板状、などが挙げられる。無機多孔質部材の形状が、ガス分離材に好適な円筒形状である場合は、その外径をφ2~16mmとするのが好ましく、φ5~13mmとするのがより好ましい。
【0037】
ガス分離層は、炭化珪素を含み、無機多孔質部の少なくとも細孔の内部を閉塞する。ガス分離材は、無機多孔質部の細孔の内壁に形成され該細孔の内部を閉塞するのが好ましく、基本的には、細孔の内部のみに存在するのが好ましい。換言すれば、ガス分離層は、無機多孔質部の細孔から外にはみ出る外出部を含まないのが好ましい。しかし、外出部を敢えて規定するのであれば、無機多孔質部の表面から外出部の表面までの外出部における膜厚が好ましくは100nm以下、さらに好ましくは10nm以上60nm以下である。ガス外出部を確認するには、表面を白金蒸着したガス分離材の断面に対して、走査型電子顕微鏡に付属のエネルギー分散形X線分析装置を用いたSEM/EDS分析を行い、白金蒸着層付近の最表面を観察することで可能となる。外出部の膜厚が厚いと、ガス透過量が低減して処理能力が低下すると共に、クラックが入りやすいなど欠陥発生の原因となりガス分離特性の低下につながるため好ましくない。
【0038】
ガス分離層に含まれる炭化珪素は、非晶質炭化珪素を含むのが好ましい。非晶質は、結晶粒界が無いため欠陥が入り難く、ガス分離特性に優れる。なお、非晶質を含むガス分離層を製造するには、前述の通り、分解温度の低い原料ガスを選定し、低い温度で反応させるのが望ましい。
【0039】
本発明のガス分離材は、二酸化炭素の透過率に対する水素の透過率の比であらわされる理想分離係数(H2/CO2)が400℃において1000以上さらには2000以上であるのが好ましい。なお、理想分離係数の上限を敢えて規定するならば、20000以下さらには10000以下であるのが好ましい。水素ガスおよび二酸化炭素ガスの透過率は、「定容積圧力変化法」による透過量の測定値から算出される。
【0040】
以上、本発明のガス分離材およびその製造方法の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。いずれの実施形態が最良であるかは、要求性能、利用対象などによって異なるが、本発明の要旨を逸脱しない範囲において当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明のガス分離材およびその製造方法の実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
図3に実施例1に用いた蒸着処理装置を、
図4に実施例1に用いた無機多孔質部材を、模式的に示す。
【0042】
<実施例1>
(1)蒸着処理装置
蒸着処理装置は、処理室10と、原料ガス供給手段20と、対向ガス供給手段30と、原料ガス導入手段40と、エネルギー付与手段50と、を備える。
【0043】
処理室10は、円筒形状で軸方向の両端部を真空継手16および17を介して配管と接続可能なステンレス鋼製の反応器11からなる。反応器11は、内径がφ28mm、全長が476mmであり、外周面には2個の開口18、19が形成されている。
【0044】
原料ガス供給手段20は、原料ガス供給管218、原料ガス配管21、バブラー22、マスフローコントローラ(これ以下「MFC」と略記)23、23dおよびガスボンベ24、24dから構成され、さらにガス放出手段として原料ガス放出管219、原料ガス放出配管29およびコールドトラップ28を備える。原料ガス供給管218は、ステンレス鋼製で、開口18から反応器11の径方向外周側へ延出するように開口18に溶接されている。原料ガス配管21は、ステンレス鋼製配管であって、原料ガス供給管218とバブラー22とを接続する。ガスボンベ24はバブラー22に接続され、ガスボンベ24からバブラー22に供給されるガスの流速制御を行うMFC23および開閉バルブ25がガスボンベ24とバフラー22との間に取り付けられている。また、原料ガス供給管218とバブラー22との間には、開閉バルブ25bが取り付けられている。ガスボンベ24dは、原料ガス配管21から分岐した先に接続され、流速制御を行うMFC23dおよび開閉バルブ25dがガスボンベ24dと原料ガス供給管218との間に取り付けられている。また、原料ガス放出管219は、ステンレス鋼製で、開口19から反応器11の径方向外周側へ延出するように開口19に溶接されている。原料ガス放出配管29は、ステンレス鋼製配管であって、原料ガス放出管219とコールドトラップ28とを接続する。圧力計27と開閉バルブ26は、原料ガス放出管219とコールドトラップ28との間に取り付けられている。
【0045】
対向ガス供給手段30は、対向ガス配管31、MFC32およびガスボンベ33から構成される。対向ガス配管31は、ステンレス鋼製配管であって、対向ガス配管31の一端部が真空継手17を介して反応器11の一端部に接続され、対向ガス配管31の他端部がガスボンベ33に接続されている。対向ガス配管31には開閉バルブ36とMFC32が取り付けられている。MFC32は、開閉バルブ36の開放時に、ガスボンベ33から反応器11へ流出するガスの流速制御を行う。
【0046】
原料ガス導入手段40は、主として、二方向に分岐する排気配管49および分岐の一方に接続されたロータリーポンプ48から構成される。排気配管49は、ステンレス鋼製配管であって、排気配管49の一端部が真空継手16を介して反応器11の他端部に接続され、排気配管49の分岐した他端部が開閉バルブ44および流量調整バルブ46を介してロータリーポンプ48に接続されている。また、排気配管49の分岐した他方には、開閉バルブ45が取り付けられており、開閉バルブ44および45を交互に開閉することで、ロータリーポンプ48による原料ガスの導入と対向ガスの放出とを切り替える。圧力計47は、排気配管49が分岐する手前に位置し、反応器11内の圧力変化を計測する。
【0047】
エネルギー付与手段50は、円筒形状の発熱体51と断熱材52とがアルミニウム製の筐体53に収容されてなる、セラミックス電気管状炉を用いる。セラミックス電気管状炉は、軸方向に二分割開閉可能に構成されており、断面には、閉状態にて原料ガス供給管218および原料ガス放出管219を挟持可能な半円形状溝を有する。また、発熱体51の両端部には、リング型の耐熱性スペーサ54および55が載置され、発熱体51の中空部分に反応管11が互いに同軸的になるように収容される。発熱体51の全長が、反応器11の全長よりも短いため、反応器11の両端部は、セラミックス電気管状炉から突出する。エネルギー付与手段50の両端部外側には、真空継手16および17に用いられるゴム製Oリング14および15近傍を冷却することを目的として、それぞれ冷却ファン(図示せず)が取り付けられている。
【0048】
(2)無機多孔質部材
無機多孔質部材Sは、α-アルミナ製の管状基材S0の外表面にγ-アルミナ中間層S1およびガラスシールS2を形成してなる。無機多孔質部材Sの長手方向中央部に形成されたγ-アルミナ中間層S1が、炭化珪素系の生成物が蒸着される無機多孔質部Psである。
【0049】
基材S0として、外径φ3mm、厚さ300μm、長さ400mmで150nmの平均細孔径の連通孔を有し、両端からそれぞれ175mmをガラスシールされたNOK(株)製α-アルミナチューブを使用した。基材S0のうちシールされていない幅(長手方向の長さ。以下、同様)50mmの中央部には、無機多孔質部Psとして、Niを添加したベーマイト系混合液を塗布後、800℃にて焼成することで、添加金属元素としてNiを含有するγ-アルミナ中間層S1を形成した。塗布および焼成を二回行うことで、厚さ2.4μm(
図7のSEM像にて確認)、平均細孔径が8nm(50%透過流束径)の中間層S1が得られた。
【0050】
(3)ガス分離材の作製
図3に示した蒸着処理装置を用いて、無機多孔質部Psに炭化珪素系のガス分離層を形成した。無機多孔質部材Sを、処理室10の一端部から他端部へ挿入した。その両端部を2つ一組のOリング14および15を介して真空継手16および17で固定し、反応器11の内部が気密になるようにした。反応器11の内部は、無機多孔質部材Sにより、外周面側に位置する原料ガス供給側12と、内周面側に位置する対向ガス供給側13と、に区画された。
【0051】
次に、反応器11をセラミックス電気管状炉の発熱体51内に収容した。この状態で、真空継手16と排気配管49、真空継手17と対向ガス配管31、原料ガス供給管218と原料ガス配管21および原料ガス放出管219と原料ガス放出配管29、をそれぞれ接続した。
【0052】
ガスボンベ24および24dにはアルゴンガス、ガスボンベ33には水素ガス、をそれぞれ準備した。バブラー22には、シラシクロブタン(SCB:分解温度200℃)を準備した。つまり、原料ガスとして、SCBおよびアルゴンガスの混合ガスを用い、対向ガスとして水素ガスを用いた。初期状態で、各バルブ25、25b、25d、26、36、44、45および46は、全て閉じた。
【0053】
はじめに、ロータリーポンプ48を作動させてバルブ44および46を開き、反応器11内を減圧した。反応器11内の圧力が20Paに到達したら、発熱体51を作動させて、反応器11内の温度を515℃まで昇温させた。このとき、反応器11の両端部は、冷却ファン(図示せず)により冷却した。次に、バルブ44を閉じバルブ26および25dを開け、ガスボンベ24dより反応器11内をアルゴンガスパージした後、バルブ45および36を開けて反応器11内にガスボンベ33から水素ガスを導入し、無機多孔質部Psの水素還元処理を2時間行った。水素還元処理後、バルブ36を閉じて、ガスボンベ24dより反応器11内をアルゴンガスパージした。
【0054】
[原料ガス供給工程]
水素還元処理に引き続き、反応器11内の温度は、515℃に維持した。バブラー22の温度は、25℃とした。原料濃度を下げるため、MFC23dによりガスボンベ24dからアルゴンガスを64.3mL/分、希釈ガスとして流した。次に、バルブ25を開けてMFC23によりアルゴンガスを7.2mL/分流してバブラー22内のSCBをバブリングさせた。バルブ25bを開けて、反応器11の原料ガス供給側12に原料ガスを導入した。余剰の原料ガスが反応器11外に放出されるように、バルブ26を開放した。
【0055】
[反応工程]
[対向ガス供給工程]
バルブ36を開け、反応器11の対向ガス供給側13(無機多孔質部材Sの内周側)に水素ガスを275mL/分にて導入した。余剰の対向ガスが反応器11外に放出されるように、バルブ45を開放した。この状態で90秒間、SCBガスと水素ガスとを対向拡散させた。
【0056】
[対向ガス停止工程および原料ガス導入工程]
対向ガス停止工程および原料ガス導入工程は、
図1に示したように同時に行った。バルブ36を閉じて水素ガスの供給を停止し、同時にバルブ45を閉じてからバルブ44および46を開けて、圧力計47の表示で差圧が98kPaとなるようにし、反応器11内を90秒間吸引した。
【0057】
上記の反応工程を、合計で5サイクル繰り返し、最後に対向ガス供給工程のみを90秒間行い、実施例1のガス分離材を得た。
【0058】
<ガス分離性能評価>
実施例1のガス分離材について、純ガスを用いた減圧式透過率測定を行った。減圧式透過率測定とは、分離膜を透過したガスを容積一定の容器に溜めた際に生じる圧力変化に要する時間から透過量を測定し、分離膜のガス透過率を算出する方法である。測定には、
図5に模式図を示すガス透過試験装置を用い、定容積圧力変化法に基づき、50℃、200℃または400℃における単成分ガス透過試験を行った。単成分ガスは、ヘリウム、水素、二酸化炭素、アルゴン、酸素および窒素を用いた。水素ガスで測定する場合には、まず、ガス分離材を保持した透過セル内に大気圧の供給ガスを500mL/分にて流し、バッファタンク内を真空ポンプにより6kPa(開始設定)に減圧した。次に、真空ポンプとバッファタンクとの間に設置したストップバルブを閉じ、圧力計P2によってバッファタンク内が10kPa(終了設定)に昇圧するまでの時間を計測した。なお、用いるガスの種類によって、バッファタンク内ガス圧の開始設定および終了設定を変更した。ヘリウムでは、6kPaで開始して12kPaで終了した。二酸化炭素、アルゴン、酸素および窒素では、4kPaで開始して4.01kPaで終了した。圧力変化量および計測した変化時間から透過量[mol・s
-1・Pa
-1]を、さらに、単位面積あたりの透過率[mol・m
-2・s
-1・Pa
-1]を、それぞれ算出した。結果を
図6に示した。
【0059】
また、二酸化炭素ガスおよび水素ガスの透過率の値を用い、理想分離係数を求めた。結果を表1に示した。理想分離係数は、測定温度が高くなる程、値が大きくなる傾向にあったが、50℃の低温域でも300を超える値を示し、400℃では、平均値で2500を超え、最大値は3503であった。
【0060】
<SEM/EDX分析>
さらに、実施例1のガス分離材について、SEM/EDX分析(加速電圧:5kV)を行った。SEM像および炭素(C)と白金(Pt)のEDS線分析結果を
図7に、珪素(Si)および炭素(C)のEDS線分析結果を
図8(a)および
図8(b)に、それぞれ示した。分析は、実施例1のガス分離材を切断後、その表面に60nmの白金(Pt)コートさらにタングステン(W)コートを施して無機多孔質部側の最表面を保護した状態で、その断面を収束イオンビーム(FIB)加工して500nmの厚さとしたサンプルを用いた。
【0061】
図7は、SEM像およびSEM像上に白線で示した位置をEDS線分析した結果であって、EDS線分析結果はCおよびPtを重ねて示した。SEM像に見られる基材S0と中間層S1(無機多孔質部Ps)との境界で、Cの検出強度が急激に増大しており、Cは中間層S1の細孔の内部に存在した。また、Ptの検出位置から中間層S1の最表面の位置が判るため、
図8に示したEDS線分析結果において最表面の位置を点線で示した。
図8(a)では、最表面付近にSiの検出強度が高くあらわれているが、最表面よりも内側に存在した。外出部は、多く見積もっても50nm程度の範囲内であった。つまり、AlおよびOを含む中間層S1の細孔から外にはみ出る外出部の存在を示すようなCおよびSiはほとんど確認できないと言える。なお、
図8(a)にて5μm以上で検出されているのは、Wのオーバーラップピークである。したがって、実施例1のガス分離材において、炭化珪素系の生成物は、中間層S1の細孔の内壁に形成されてガス分離層として細孔の内部を閉塞しており、ガス分離機能は細孔内部に存在する層によるものであると推測された。
【0062】
<比較例1>
原料ガスとしてt-ブチルシラン(TBS:分解温度340℃)および窒素ガスの混合ガスを用い、反応工程を対向ガス供給工程のみ(10分)とし、無機多孔質部材Sの寸法を変更した他は、実施例1と同様にして比較例1のガス分離材を作製した。原料ガスの変更に伴い、バブリングのための窒素ガス流量を10mL/分、希釈ガスとしての窒素ガス流量を90mL/分とし、水素ガス流量を150mL/分とした。また、無機多孔質部材Sの寸法変更に伴い、反応器11の内径をφ17mm、全長を389mmとした。本比較例に用いた無機多孔質部材を、
図4を用いて以下に説明する。
【0063】
無機多孔質部材Sは、α-アルミナ製の管状基材S0の外表面にγ-アルミナ中間層S1およびガラスシールS2を形成してなる。基材S0として、外径φ6mm、厚さ880μm、長さ400mmで150nmの平均細孔径の連通孔を有する(株)ノリタケカンパニーリミテド製α-アルミナチューブを使用した。基材S0の両端からそれぞれ225mmの幅でガラス粉末を塗布後、溶融させて凝固させることで基材S0の両端部表面を完全にガラスで被覆し、蒸着処理が不要な連通孔をガラスにより閉塞させた。基材S0のうちシールされていない幅50mmの中央部には、無機多孔質部Psとして、Niを添加したベーマイト系混合液を塗布後、800℃にて焼成することで、添加金属元素としてNiを含有するγ-アルミナ中間層S1を形成した。塗布および焼成を二回行うことで、厚さ2μm、平均細孔径が8nm(50%透過流束径)の中間層S1が得られた。
【0064】
<ガス分離性能評価>
比較例1のガス分離材について、実施例1のガス分離材と同様、定容積圧力変化法に基づき、50℃における減圧式透過率測定を行って、ガス分離性能を評価した。その結果を表1に示した。50℃で測定した理想分離係数は7であったため、400℃で測定しても1000以上の理想分離係数を示すことは期待できない。
【0065】
<実施例2>
原料ガスとして1,4-ジシラブタン(DSB:分解温度350℃)および窒素ガスの混合ガスを用い、バブラー温度を20℃、反応器内の温度を490℃、反応工程を10サイクル(対向ガス供給工程:30秒、対向ガス停止工程および原料ガス導入工程:30秒)、反応工程後の対向ガス供給工程を30秒とした他は、実施例1と同様にして実施例2のガス分離材を作製した。なお、原料ガスの変更に伴い、バブリングのための窒素ガス流量を12mL/分、希釈ガスとしての窒素ガス流量を100mL/分とした。
【0066】
<ガス分離性能評価>
実施例2のガス分離材について、実施例1のガス分離材と同様、定容積圧力変化法に基づき、400℃における減圧式透過率測定を行って、ガス分離性能を評価した。その結果を表1に示した。400℃で測定した理想分離係数は、1020で、高いガス分離特性を示した。
【0067】