(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20240116BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20240116BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20240116BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
H01L29/78 652K
H01L29/78 652B
H01L29/78 652H
H01L29/78 652N
H01L29/78 652P
H01L29/78 652Q
H01L29/78 652S
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
H01L29/78 658E
H01L29/78 658F
H01L29/06 301D
H01L29/06 301G
H01L29/06 301M
H01L29/06 301V
(21)【出願番号】P 2019096864
(22)【出願日】2019-05-23
【審査請求日】2021-04-20
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】登尾 正人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 武寛
(72)【発明者】
【氏名】山下 侑佑
【合議体】
【審判長】河本 充雄
【審判官】棚田 一也
【審判官】市川 武宜
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-093135(JP,A)
【文献】特開2012-209344(JP,A)
【文献】特開2016-092257(JP,A)
【文献】特開2018-067650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/06
H01L 29/12
H01L 21/336
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セル部(RC)にトレンチゲート構造の反転型の縦型半導体素子を備えた炭化珪素半導体装置であって、
主表面を有する第1または第2導電型の炭化珪素で構成された基板(1)と、
前記基板の主表面側に形成され、前記基板よりも低不純物濃度とされた第1導電型の炭化珪素で構成されたドリフト層(2、2a)と、
前記ドリフト層の上に形成された第2導電型の炭化珪素で構成されたベース領域(3)と、
前記セル部内における前記ベース領域の上に形成され、前記ドリフト層よりも高不純物濃度とされ、少なくとも前記ベース領域と接する部分が炭化珪素のエピタキシャル層で構成された第1導電型のソース領域(4)と、
前記ソース領域の表面から前記ベース領域よりも深く、一方向を長手方向とする直線状部分を有していて前記セル部から該セル部の外側まで形成されたゲートトレンチ(6)内に形成され、該ゲートトレンチの内壁面に形成されたゲート絶縁膜(7)と、前記ゲート絶縁膜の上に形成されたゲート電極(8)と、を有して構成された前記トレンチゲート構造と、
前記ソース領域および前記トレンチゲート構造の上に、前記ソース領域に繋がるコンタクトホールが形成された層間絶縁膜(10)と、
前記層間絶縁膜の上に形成され、前記コンタクトホールを通じて前記ソース領域に電気的に接続された第1電極(9)と、
前記基板の裏面側に電気的に接続された第2電極(11)と、を備え、
前記ゲートトレンチの幅方向の両側の側面および該ゲートトレンチの長手方向の先端部は、前記セル部の外側
における前記ベース領域よりも上側では、前記セル部内における前記ソース領域のうちの前記ベース領域と接している前記エピタキシャル層で構成された部分と比較して、前記基板の主表面に対する法線方向に対して傾斜して
おり、
前記セル部の外側では、前記ゲートトレンチの入口側における該ゲートトレンチの幅方向の両側の側面および該ゲートトレンチの長手方向の先端部がイオン注入層(31)によって構成されており、該ゲートトレンチの幅方向の両側の側面および該ゲートトレンチの長手方向の先端部は前記イオン注入層の部分において前記基板の主表面に対する法線方向に対して傾斜していて、
さらに、前記セル部の外側において、前記ゲート電極のゲートライナー(8b)が備えられており、該ゲートライナーが備えられた位置では、前記ゲートトレンチの入口側における該ゲートトレンチの幅方向の両側の側面および該ゲートトレンチの長手方向の先端部が前記イオン注入層によって構成されていると共に、該イオン注入層と前記ゲートライナーとの間にも前記ゲート絶縁膜が備えられている、炭化珪素半導体装置。
【請求項2】
前記イオン注入層は、第2導電型層によって構成されている、請求項
1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項3】
前記セル部を囲む外周部(RO)を有し、
前記外周部にも、前記ベース領域の上に、第2導電型層で構成された前記イオン注入層と、前記イオン注入層の上に形成された前記層間絶縁膜と、が備えられていると共に、さらに、前記層間絶縁膜の上に形成された引抜パッド(33)が備えられ、
前記層間絶縁膜に形成されたコンタクトホールを通じて前記イオン注入層と前記引抜パッドとが電気的に接続されている、請求項
2に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項4】
前記外周部は、前記セル部の外周を囲むガードリング部(RG)と、前記セル部と前記ガードリング部との間に位置する繋ぎ部(RJ)とを有し、前記ガードリング部において、前記セル部よりも前記ドリフト層が凹んだ凹部(20)が形成されることで、前記基板の厚み方向において、前記セル部および前記繋ぎ部が前記ガードリング部よりも突き出した島状のメサ部(RM)が構成され、
前記繋ぎ部の外縁部には前記イオン注入層が形成され、前記メサ部と前記凹部との境界位置では、前記イオン注入層と前記ベース領域および前記ドリフト層が順に形成された構造となっている、請求項
3に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項5】
前記繋ぎ部の全域に前記イオン注入層が形成されている、請求項
4に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項6】
セル部(RC)にトレンチゲート構造の反転型の縦型半導体素子を備えた炭化珪素半導体装置の製造方法であって、
主表面を有する第1または第2導電型の炭化珪素で構成された基板(1)を用意することと、
前記基板の上に、前記基板よりも低不純物濃度の第1導電型の炭化珪素で構成されたドリフト層(2、2a)を形成することと、
前記ドリフト層の上に、第2導電型の炭化珪素からなるベース領域(3)を形成することと、
前記ベース領域の上に、エピタキシャル成長により、前記ドリフト層よりも第1導電型不純物濃度が高くされた第1導電型の炭化珪素で構成されるソース領域(4)を形成することと、
前記ソース領域の表面から前記ベース領域よりも深く、一方向を長手方向とした直線状部を有すると共に前記セル部から該セル部の外側に至るゲートトレンチ(6)を形成したのち、前記ゲートトレンチの内壁面にゲート絶縁膜(7)を形成すると共に、前記ゲート絶縁膜の上にゲート電極(8)を形成することで前記トレンチゲート構造を形成することと、
前記ソース領域および前記トレンチゲート構造の上に、前記ソース領域に繋がるコンタクトホールを有する層間絶縁膜(10)を形成することと、
前記コンタクトホールを通じて前記ソース領域に電気的に接続される第1電極(9)を形成することと、
前記基板の裏面側に第2電極(11)を形成することと、を含み、
前記トレンチゲート構造を形成することでは、前記ゲートトレンチの幅方向の両側の側面および該ゲートトレンチの長手方向の先端部を、前記セル部の外側
における前記ベース領域よりも上側では前記セル部内における前記ソース領域のうちの前記ベース領域と接している前記エピタキシャル成長で形成された部分と比較して、前記基板の主表面に対する法線方向に対して傾斜させ
ており、
前記ソース領域を形成したのち、
前記セル部の外側に、イオン注入を行うことでイオン注入層(31)を形成することを含み、
前記トレンチゲート構造を形成することでは、前記ゲートトレンチの長手方向の両端において、前記ゲートトレンチの幅方向の両側の側面および該ゲートトレンチの長手方向の先端部が前記イオン注入層によって構成されるようにし、前記ゲートトレンチを形成した後に熱処理を行うことで、前記ゲートトレンチの幅方向の両側の側面および該ゲートトレンチの長手方向の先端部のうちの前記イオン注入層で構成された部分を前記基板の主表面に対する法線方向に対して傾斜させ、
さらに、前記トレンチゲート構造を形成することでは、前記セル部の外側において、前記ゲート電極のゲートライナー(8b)を形成し、該ゲートライナーが備えられた位置では、前記ゲートトレンチの入口側における該ゲートトレンチの幅方向の両側の側面および該ゲートトレンチの長手方向の先端部が前記イオン注入層によって構成されるようにすると共に、該イオン注入層と前記ゲートライナーとの間にも前記ゲート絶縁膜が備えられるようにする、炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記トレンチゲート構造を形成することでは、前記熱処理となる熱酸化を行うことで前記ゲート絶縁膜を形成する、請求項
6に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記イオン注入層を形成することでは、第2導電型不純物をイオン注入することによって前記イオン注入層を形成すると共に、該イオン注入層を第2導電型層とする、請求項
6または7に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記イオン注入層を形成することでは、前記セル部の外周を囲む外周部(RO)にも前記イオン注入層を形成し、
前記層間絶縁膜を形成することでは、前記イオン注入層の上にも前記層間絶縁膜を形成しつつ、前記イオン注入層に繋がるコンタクトホールを形成し、
前記層間絶縁膜を形成することの後に、前記層間絶縁膜の上に、前記コンタクトホールを通じて前記イオン注入層に電気的に接続される引抜パッド(33)を形成することを含む、請求項
8に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記外周部に、前記セル部の外周を囲むガードリング部(RG)を形成すると共に、前記セル部と前記ガードリング部との間に位置する繋ぎ部(RJ)を形成することを含み、
前記ガードリング部を形成すると共に、前記繋ぎ部を形成することは、前記イオン注入層を形成することの後に、前記ガードリング部と対応する位置に、前記セル部よりも前記ドリフト層が凹んだ凹部(20)を形成することで、前記ガードリング部を形成すると共に、前記基板の厚み方向において、前記ガードリング部よりも内側の部分が該ガードリング部よりも突き出した島状のメサ部(RM)を構成し、該メサ部における前記セル部の外周に前記繋ぎ部を形成することであり、
前記イオン注入層を形成することでは、前記繋ぎ部の外縁部にも前記イオン注入層を形成することで、前記メサ部と前記凹部との境界位置を、前記イオン注入層と前記ベース領域および前記ドリフト層が順に形成された構造とする、請求項
9に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素(以下、SiCという)にて構成されるトレンチゲート構造の縦型半導体素子を有したSiC半導体装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、大電流が流せるようにチャネル密度を高くした構造として、トレンチゲート構造を有するSiC半導体装置がある。このSiC半導体装置は、n型ドリフト層の上にp型ベース領域とn+型ソース領域とが順に形成され、n+型ソース領域の表面からp型ベース領域を貫通してn+型ドリフト層に達するようにトレンチゲート構造が形成される。具体的には、n型ドリフト層の上にp型ベース領域をエピタキシャル成長させたのち、p型ベース領域に対してn型不純物をイオン注入で打ち返すことでp型ベース領域の一部をn型に反転させ、n+型ソース領域を形成している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/063644号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、エピタキシャル成長させるときの膜厚バラツキは、成長させる膜厚が厚いほど大きくなるが、イオン注入の飛程のバラツキはあまり大きくない。このため、イオン注入後のp型ベース領域の膜厚バラツキは、エピタキシャル成長させた膜厚に対応するバラツキとなる。これにより、p型ベース領域に対してn+型ソース領域をイオン注入で形成した場合、n+型ソース領域の厚みのバラツキは少なく、チャネル領域が形成されるp型ベース領域の厚みのバラツキが大きくなる。したがって、閾値Vtのバラツキを生じさせるという課題がある。
【0005】
そこで、本発明者らは、p型ベース領域だけでなく、n+型ソース領域についてもエピタキシャル成長によって形成することについて検討を行った。このようにすれば、p型ベース領域とn+型ソース領域それぞれに厚みのバラツキが分配されることから、p型ベース領域の厚みのバラツキを小さくすることが可能となり、閾値Vtのバラツキを抑制できる。また、n+型ソース領域をエピタキシャル成長で形成する場合、トレンチゲート構造における側面をn+型ソース領域の表面に対してほぼ垂直に切り立たせることが可能となる。
【0006】
ところが、このような構造とする場合、トレンチ入口側の角部においてゲート絶縁膜が薄くなり、大きな電界が加わったときに薄くなった部分でゲート絶縁膜が破壊され、ゲート寿命が低下することがあることが確認された。
【0007】
トレンチゲート構造では、長手方向の両端の少なくとも一方にゲート電極をゲートトレンチの外部まで引き出したゲートライナーが備えられ、ゲートライナーがゲート絶縁膜のうち薄くなった部分の上にも形成された構造となる。このため、ゲート絶縁膜のうちゲートライナーが備えられた部分において大きな電界が加わり、ゲート絶縁膜が破壊されると考えられる。
【0008】
本発明は上記点に鑑みて、閾値Vtのバラツキの抑制が図れると共に、ゲート寿命の低下を抑制できる構造のSiC半導体装置およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1に記載のSiC半導体装置は、主表面を有する第1または第2導電型の炭化珪素で構成された基板(1)と、基板の主表面側に形成され、基板よりも低不純物濃度とされた第1導電型の炭化珪素で構成されたドリフト層(2、2a)と、ドリフト層の上に形成された第2導電型の炭化珪素で構成されたベース領域(3)と、セル部内におけるベース領域の上に形成され、ドリフト層よりも高不純物濃度とされ、少なくともベース領域と接する部分が炭化珪素のエピタキシャル層で構成された第1導電型のソース領域(4)と、ソース領域の表面からベース領域よりも深く、一方向を長手方向とする直線状部分を有していてセル部から該セル部の外側まで形成されたゲートトレンチ(6)内に形成され、該ゲートトレンチの内壁面に形成されたゲート絶縁膜(7)と、ゲート絶縁膜の上に形成されたゲート電極(8)と、を有して構成されたトレンチゲート構造と、ソース領域およびトレンチゲート構造の上に、ソース領域に繋がるコンタクトホールが形成された層間絶縁膜(10)と、層間絶縁膜の上に形成され、コンタクトホールを通じてソース領域に電気的に接続された第1電極(9)と、基板の裏面側に電気的に接続された第2電極(11)と、を備えている。そして、ゲートトレンチの幅方向の両側の側面および該ゲートトレンチの長手方向の先端部は、セル部の外側におけるベース領域よりも上側では、セル部内におけるソース領域のうちのベース領域と接しているエピタキシャル層で構成された部分と比較して、基板の主表面に対する法線方向に対して傾斜している。
また、セル部の外側では、ゲートトレンチの入口側における該ゲートトレンチの幅方向の両側の側面および該ゲートトレンチの長手方向の先端部がイオン注入層(31)によって構成されており、該ゲートトレンチの幅方向の両側の側面および該ゲートトレンチの長手方向の先端部は前記イオン注入層の部分において前記基板の主表面に対する法線方向に対して傾斜している。
さらに、セル部の外側において、ゲート電極のゲートライナー(8b)が備えられており、該ゲートライナーが備えられた位置では、ゲートトレンチの入口側における該ゲートトレンチの幅方向の両側の側面および該ゲートトレンチの長手方向の先端部がイオン注入層によって構成されていると共に、該イオン注入層と前記ゲートライナーとの間にも前記ゲート絶縁膜が備えられている。
【0010】
このように、ソース領域のうち少なくともベース領域と接する部分がエピタキシャル成長層で構成されるようにしていることから、ベース領域の厚みのバラツキを小さくすることが可能となり、閾値Vtのバラツキを抑制できる。また、ゲートトレンチの幅方向の両側の側面および該ゲートトレンチの長手方向の先端部について、セル部の外側におけるベース領域よりも上側ではセル部内におけるソース領域のうちのベース領域と接しているエピタキシャル層で構成された部分と比較して、基板の主表面に対する法線方向に対して傾斜させている。このため、ゲート絶縁膜が、セル部内では厚みの薄い薄膜部となっていても、セル部の外部においては厚みの厚い厚膜部にできる。したがって、トレンチゲート構造の長手方向の両端位置で大きな電界が加わることでゲート絶縁膜が破壊されることを抑制でき、ゲート絶縁膜の寿命低下を抑制することが可能となる。
【0011】
また、請求項6に記載のSiC半導体装置の製造方法は、主表面を有する第1または第2導電型の炭化珪素で構成された基板(1)を用意することと、基板の上に、基板よりも低不純物濃度の第1導電型の炭化珪素で構成されたドリフト層(2、2a)を形成することと、ドリフト層の上に、第2導電型の炭化珪素からなるベース領域(3)を形成することと、ベース領域の上に、エピタキシャル成長により、ドリフト層よりも第1導電型不純物濃度が高くされた第1導電型の炭化珪素で構成されるソース領域(4)を形成することと、ソース領域の表面からベース領域よりも深く、一方向を長手方向とした直線状部を有すると共にセル部から該セル部の外側に至るゲートトレンチ(6)を形成したのち、ゲートトレンチの内壁面にゲート絶縁膜(7)を形成すると共に、ゲート絶縁膜の上にゲート電極(8)を形成することでトレンチゲート構造を形成することと、ソース領域およびトレンチゲート構造の上に、ソース領域に繋がるコンタクトホールを有する層間絶縁膜(10)を形成することと、コンタクトホールを通じてソース領域に電気的に接続される第1電極(9)を形成することと、基板の裏面側に第2電極(11)を形成することと、を含んでいる。そして、トレンチゲート構造を形成することでは、ゲートトレンチの幅方向の両側の側面および該ゲートトレンチの長手方向の先端部を、セル部の外側におけるベース領域よりも上側ではセル部内におけるソース領域のうちのベース領域と接しているエピタキシャル層で構成された部分と比較して、基板の主表面に対する法線方向に対して傾斜させる。
また、ソース領域を形成したのち、セル部の外側に、イオン注入を行うことでイオン注入層(31)を形成することを含み、トレンチゲート構造を形成することでは、ゲートトレンチの長手方向の両端において、ゲートトレンチの幅方向の両側の側面および該ゲートトレンチの長手方向の先端部がイオン注入層によって構成されるようにし、ゲートトレンチを形成した後に熱処理を行うことで、ゲートトレンチの幅方向の両側の側面および該ゲートトレンチの長手方向の先端部のうちのイオン注入層で構成された部分を基板の主表面に対する法線方向に対して傾斜させる。
さらに、トレンチゲート構造を形成することでは、セル部の外側において、ゲート電極のゲートライナー(8b)を形成し、該ゲートライナーが備えられた位置では、ゲートトレンチの入口側における該ゲートトレンチの幅方向の両側の側面および該ゲートトレンチの長手方向の先端部がイオン注入層によって構成されるようにすると共に、該イオン注入層とゲートライナーとの間にもゲート絶縁膜が備えられるようにする。
【0012】
このように、ベース領域の上にエピタキシャル成長によってソース領域を形成することで、ベース領域の厚みのバラツキを小さくすることが可能となり、閾値Vtのバラツキを抑制できる。また、トレンチゲート構造を形成する際に、ゲートトレンチの幅方向の両側の側面および該ゲートトレンチの長手方向の先端部を、セル部の外側におけるベース領域よりも上側ではセル部内におけるソース領域のうちのベース領域と接しているエピタキシャル層で構成された部分と比較して、基板の主表面に対する法線方向に対して傾斜させている。このため、ゲート絶縁膜が、セル部内では厚みの薄い薄膜部となっていても、セル部の外部においては厚みの厚い厚膜部にできる。したがって、トレンチゲート構造の長手方向の両端位置で大きな電界が加わることでゲート絶縁膜が破壊されることを抑制でき、ゲート絶縁膜の寿命低下を抑制することが可能となる。
【0013】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態にかかるSiC半導体装置の上面レイアウトを模式的に示した図である。
【
図3】
図1のIII-III断面において層間絶縁膜よりも上部を省略して記載した断面斜視図である。
【
図6A】第1実施形態にかかるSiC半導体装置の製造工程を示した断面図である。
【
図6B】
図6Aに続くSiC半導体装置の製造工程を示した断面図である。
【
図6C】
図6Bに続くSiC半導体装置の製造工程を示した断面図である。
【
図6D】
図6Cに続くSiC半導体装置の製造工程を示した断面図である。
【
図6E】
図6Dに続くSiC半導体装置の製造工程を示した断面図である。
【
図6F】
図6Eに続くSiC半導体装置の製造工程を示した断面図である。
【
図6G】
図6Fに続くSiC半導体装置の製造工程を示した断面図である。
【
図6H】
図6Gに続くSiC半導体装置の製造工程を示した断面図である。
【
図7】第2実施形態にかかるSiC半導体装置におけるトレンチゲート構造の先端部の上面レイアウトを模式的に示した図である。
【0015】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0016】
(第1実施形態)
第1実施形態について説明する。ここではトレンチゲート構造の縦型半導体素子として反転型のMOSFETが形成されたSiC半導体装置を例に挙げて説明する。
【0017】
図1に示すSiC半導体装置は、トレンチゲート構造のMOSFETが形成されるセル部と、このセル部を囲む外周部ROとを有した構成とされている。外周部ROは、ガードリング部RGと、ガードリング部RGよりも内側、つまりセル部RCとガードリング部RGとの間に配置される繋ぎ部RJとを有した構成とされている。なお、
図1は断面図ではないが、図を見やすくするために部分的にハッチングを示してある。
【0018】
図2に示すように、SiC半導体装置は、SiCからなるn
+型基板1を用いて形成される。n
+型基板1の主表面上にSiCからなるn
-型不純物層2とn型電流分散層2aとp型ベース領域3、および、n
+型ソース領域4が順にエピタキシャル成長させられている。
【0019】
n+型基板1は、例えばn型不純物濃度が1.0×1019/cm3とされ、表面が(0001)Si面とされている。n-型不純物層2は、例えばn型不純物濃度が0.5~2.0×1016/cm3とされている。n型電流分散層2aは、n-型不純物層2よりもn型不純物濃度が高濃度、つまり低抵抗とされており、より広範囲に電流を分散して流すことで、JFET抵抗を低減する役割を果たす。例えば、n型電流分散層2aは、例えば8×1016/cm3とされ、厚みが0.5μmとされている。なお、ここでは便宜上、n-型不純物層2とn型電流分散層2aという異なる層として説明しているが、これらはいずれもドリフト層を構成するものである。
【0020】
また、p型ベース領域3は、チャネル領域が形成される部分で、p型不純物濃度が例えば2.0×1017/cm3程度とされ、厚みが300nmで構成されている。n+型ソース領域4は、n-型不純物層2よりも高不純物濃度とされ、表層部におけるn型不純物濃度が例えば2.5×1018~1.0×1019/cm3、厚さ0.5μm程度で構成されている。
【0021】
セル部RCでは、n+型基板1の表面側においてp型ベース領域3およびn+型ソース領域4が残されており、繋ぎ部RJでは、n+型ソース領域4が後述するイオン注入層31に変えられている。また、ガードリング部RGでは、これらn+型ソース領域4もしくはイオン注入層31およびp型ベース領域3を貫通してn型電流分散層2aに達するように凹部20が形成されている。
【0022】
また、セル部RCでは、n+型ソース領域4やp型ベース領域3を貫通してn型電流分散層2aに達するようにp型ディープ層5が形成されている。p型ディープ層5は、p型ベース領域3よりもp型不純物濃度が高くされている。具体的には、p型ディープ層5は、n型電流分散層2aに複数本が等間隔に配置され、互いに交点なく離れて配置されたストライプ状のトレンチ5a内に備えられ、エピタキシャル成長によるp型のエピタキシャル膜によって構成されている。なお、このトレンチ5aは、例えば幅が1μm以下、アスペクト比が2以上の深さとされている。
【0023】
例えば、各p型ディープ層5は、p型不純物濃度が例えば1.0×10
17~1.0×10
19cm
3、幅0.7μm、深さ2.0μm程度で構成されている。各p型ディープ層5は、最も深い底部の位置がn型電流分散層2aとn
-型不純物層2との境界位置と同じ位置、もしくはそれよりもp型ベース領域3側に位置している。すなわち、p型ディープ層5とn型電流分散層2aとが同じ深さ、もしくはp型ディープ層5よりもn型電流分散層2aの方が深い位置まで形成されている。p型ディープ層5は、
図1に示すようにセル部RCの一端から他端に渡って形成されている。そして、p型ディープ層5は、後述するトレンチゲート構造と同方向を長手方向として延設され、トレンチゲート構造の両端から更にセル部RCの外側に延設された後述するp型繋ぎ層30とつながっている。
【0024】
また、p型ベース領域3およびn
+型ソース領域4を貫通してn
-型不純物層2に達するように、例えば幅が0.8μm、深さが1.0μmのゲートトレンチ6が形成されている。ゲートトレンチ6は、セル部RC内のみでなく、セル部RCから繋ぎ部RJに突き出して形成されている。このゲートトレンチ6の側面と接するように上述したp型ベース領域3やn
+型ソース領域4およびイオン注入層31が配置されている。より詳しくは、セル部RCでは、ゲートトレンチ6の入口側の側面がn
+型ソース領域4で構成され、繋ぎ部RJでは、ゲートトレンチ6の入口側の側面がイオン注入層31で構成されている。ゲートトレンチ6は、
図2の紙面左右方向を幅方向、紙面垂直方向を長手方向、紙面上下方向を深さ方向とする直線状部分を有したレイアウトで形成されている。また、
図1に示すように、ゲートトレンチ6は、セル部RC内においては直線状部分のみで構成されるが、本実施形態では繋ぎ部RJにおいても直線状部分のみで構成されている。ゲートトレンチ6は複数本備えられており、それぞれがp型ディープ層5の間に挟まれるように配置されていると共に平行に等間隔で並べられることでストライプ状とされている。
【0025】
さらに、本実施形態では、
図2、
図3および
図5に示すように、セル部RC内と繋ぎ部RJ内とにおいて、ゲートトレンチ6の側面の形状が異なっている。具体的には、ゲートトレンチ6の側面は、セル部RC内ではn
+型基板1の主表面に対して垂直になっており、繋ぎ部RJ内ではトレンチ入口側が底部側よりも幅広となっていて、n
+型基板1の主表面に対する法線方向に対して傾斜している。ゲートトレンチ6の先端部は、
図4に示すように、繋ぎ部RJにおける側面の形状と同様、トレンチ入口側がn
+型基板1の主表面に対する法線方向に対して傾斜している。以下、これらゲートトレンチ6の側面や先端部のうち傾斜した部分を傾斜部という。
【0026】
p型ベース領域3のうちゲートトレンチ6の側面に位置している部分を、縦型MOSFETの作動時にn+型ソース領域4とn-型不純物層2との間を繋ぐチャネル領域として、チャネル領域を含むゲートトレンチ6の内壁面にはゲート絶縁膜7が形成されている。ゲート絶縁膜7は、熱酸化膜によって構成されている。そして、ゲート絶縁膜7の表面にはドープドPoly-Siにて構成されたゲート電極8が形成されており、これらゲート絶縁膜7およびゲート電極8によってゲートトレンチ6内が埋め尽くされている。これにより、トレンチゲート構造が構成されている。
【0027】
ゲート絶縁膜7は、ゲートトレンチ6の内壁面の全面に形成されているが、厚みが場所によって異なっている。具体的には、ゲートトレンチ6のうちセル部RC内に位置している部分、つまり側面にn+型ソース領域4が形成されていて、側面がn+型基板1の主表面に対して垂直になっている部分では、トレンチ入口の角部においてゲート絶縁膜7が薄くなっている。以下、この部分で薄くなったゲート絶縁膜7を薄膜部7aという。そして、ゲートトレンチ6のうちセル部RCの外側の繋ぎ部RJに位置している部分、つまり側面に後述するイオン注入層31が形成されていて、側面が傾斜部となっている部分では、薄膜部7aよりもゲート絶縁膜7の厚みが厚くなっている。以下、この部分のゲート絶縁膜7を厚膜部7bという。
【0028】
また、n+型ソース領域4およびp型ディープ層5の表面やゲート電極8の上には、層間絶縁膜10を介して第1電極に相当するソース電極9が形成されている。ソース電極9は、複数の金属、例えばNi/Al等にて構成されている。そして、複数の金属のうち少なくともn型SiC、具体的にはn+型ソース領域4と接触する部分はn型SiCとオーミック接触可能な金属で構成されている。また、複数の金属のうち少なくともp型SiC、具体的にはp型ディープ層5と接触する部分はp型SiCとオーミック接触可能な金属で構成されている。なお、これらソース電極9は、層間絶縁膜10上に形成されることで電気的に絶縁されている。そして、層間絶縁膜10に形成されたコンタクトホールを通じて、ソース電極9はn+型ソース領域4およびp型ディープ層5と電気的に接触させられている。
【0029】
さらに、n+型基板1の裏面側にはn+型基板1と電気的に接続された第2電極に相当するドレイン電極11が形成されている。このような構造により、nチャネルタイプの反転型のトレンチゲート構造のMOSFETが構成されている。そして、このようなMOSFETが複数セル配置されることでセル部RCが構成されている。
【0030】
一方、ガードリング部RGでは、上記したように、後述するイオン注入層31およびp型ベース領域3を貫通してn型電流分散層2aに達するように凹部20が形成されている。このため、セル部RCから離れた位置ではイオン注入層31およびp型ベース領域3が除去されて、n型電流分散層2aが露出させられている。そして、n+型基板1の厚み方向において、凹部20よりも内側に位置するセル部RCや繋ぎ部RJが島状に突き出したメサ部RMとなっている。この凹部20の側面、つまりメサ部RMと凹部20との境界位置では、メサ部RMの角部が傾斜している。そして、凹部20内にも、ゲート絶縁膜7が形成されており、その上に層間絶縁膜10が形成された状態となっているが、凹部20とメサ部RMとの境界位置にゲート電極8の形成に用いたPoly-Siの残渣8aが残っている場合がある。
【0031】
また、凹部20の下方に位置するn型電流分散層2aの表層部には、セル部RCを囲むように、複数本のp型ガードリング21が備えられている。本実施形態の場合、p型ガードリング21を四隅が丸められた四角形状としているが、円形状など他の枠形状で構成されていても良い。p型ガードリング21は、n型電流分散層2aに形成されたトレンチ21a内に配置され、エピタキシャル成長によるp型のエピタキシャル膜によって構成されている。なお、このトレンチ21aは、例えば幅が1μm以下、アスペクト比が2以上の深さとされている。
【0032】
p型ガードリング21を構成する各部は、上記したp型ディープ層5と同様の構成とされている。p型ガードリング21は、上面形状がセル部RCおよび繋ぎ部RJを囲む枠形状のライン状とされている点において、直線状に形成されたp型ディープ層5と異なっているが、他は同様である。すなわち、p型ガードリング21はp型ディープ層5と同様の幅、同様の厚さ、つまり同様の深さとされている。また、各p型ガードリング21の間隔については等間隔でも良いが、より内周側、つまりセル部RC側において電界集中を緩和して等電位線がより外周側に向かうように、p型ガードリング21の間隔がセル部RC側で狭く外周側に向かうほど大きくされている。
【0033】
なお、図示していないが、必要に応じてp型ガードリング21よりも外周にEQR構造が備えられることにより、セル部RCを囲む外周耐圧構造が備えられたガードリング部RGが構成されている。
【0034】
さらに、セル部RCからガードリング部RGに至るまでの間を繋ぎ部RJとして、繋ぎ部RJにおいて、n
-型不純物層2の表層部に複数本のp型繋ぎ層30が形成されている。本実施形態の場合、
図1中の破線ハッチングに示すように、セル部RCの外周に位置し、セル部RCを囲むように繋ぎ部RJが形成されており、さらに繋ぎ部RJの外側を囲むように、四隅が丸められた四角形状のp型ガードリング21が複数本形成されている。p型繋ぎ層30は、セル部RCに形成されるp型ディープ層5と平行に複数本並べて配置されており、本実施形態では、隣り合うp型ディープ層5同士の間の間隔と等間隔に配置されている。また、セル部RCからp型ガードリング21までの距離が離れている場所では、p型ディープ層5からp型繋ぎ層30を延設しており、p型繋ぎ層30の先端からp型ガードリング21までの距離が短くなるようにしている。
【0035】
各p型繋ぎ層30は、n+型ソース領域4およびp型ベース領域3を貫通してn-型不純物層2に達するトレンチ30a内に配置され、エピタキシャル成長によるp型のエピタキシャル膜によって構成されている。p型ディープ層5の長手方向におけるセル部RCとガードリング部RGとの間では、p型繋ぎ層30がp型ディープ層5の先端に繋げられて形成されている。なお、このトレンチ30aは、例えば幅が1μm以下、アスペクト比が2以上の深さとされている。p型繋ぎ層30は、p型ベース領域3に接触させられていることから、ソース電位に固定される。
【0036】
p型繋ぎ層30を構成する各部は、上記したp型ディープ層5やp型ガードリング21と同様の構成とされており、p型繋ぎ層30の上面形状が直線状とされている点において、枠形状に形成されたp型ガードリング21と異なっているが、他は同様である。すなわち、p型繋ぎ層30は、p型ディープ層5やp型ガードリング21と同様の幅、同様の厚さ、つまり同様の深さとされている。また、各p型繋ぎ層30の間隔については、本実施形態ではセル部RCにおけるp型ディープ層5同士の間隔と等間隔とされているが、異なる間隔であっても良い。
【0037】
このようなp型繋ぎ層30を形成し、かつ、p型繋ぎ層30同士の間を所定間隔、例えばp型ディープ層5と等間隔もしくはそれ以下に設定することで、p型繋ぎ層30の間において等電位線が過剰にせり上がることを抑制できる。これにより、p型繋ぎ層30の間において電界集中が発生する部位が形成されることを抑制でき、耐圧低下を抑制することが可能となる。
【0038】
さらに、繋ぎ部RJにおいては、セル部RCでn+型ソース領域4とされていた部分にイオン注入がなされることでイオン注入層31が構成されている。本実施形態では、p型ベース領域3の上部の全域がイオン注入層31とされている。イオン注入層31のうちのゲートトレンチ6の側面に位置する部分の導電型は任意であるが、ここでは、エピタキシャル成長させたn+型ソース領域4に対してp型不純物をイオン注入することで導電型を反転させてp型としている。
【0039】
また、
図3および
図4に示すように、繋ぎ部RJに延設されたトレンチゲート構造の先端部において、ゲート電極8からゲートライナー8bが引き出されている。そして、ゲートライナー8bやイオン注入層31の表面にも層間絶縁膜10が形成されており、繋ぎ部RJにおけるセル部RCから離れた位置の層間絶縁膜10の上に、ゲートパッド32やホール引き抜き用の引抜パッド33が形成されている。ゲートパッド32は、層間絶縁膜10に形成された図示しないコンタクトホールを通じて、ゲートライナー8bに電気的に接続されている。引抜パッド33も、層間絶縁膜10に形成された図示しないコンタクトホールを通じてp型繋ぎ層30やイオン注入層31と電気的に接続されている。
【0040】
上記したように、繋ぎ部RJ内において、ゲートトレンチ6の側面および先端部には傾斜部が構成されている。具体的には、ゲートトレンチ6のうちイオン注入層31と対応する位置が傾斜部とされており、概ねイオン注入層31とp型ベース領域3との境界位置の深さまで傾斜部となっている。本実施形態の場合、繋ぎ部RJ内の全域にイオン注入層31を形成しているが、少なくともセル部RCの外側において、ゲートトレンチ6の側面や先端部を構成している部分にイオン注入層31が形成されていれば良い。このようにすれば、ゲートトレンチ6の側面および先端部のうちゲートライナー8bと重なる位置にすべて傾斜部が形成された状態にできる。
【0041】
また、イオン注入層31は、繋ぎ部RJの外縁部の全周に設けられていることから、
図2に示すようにメサ部RMのうちの外縁部、つまり凹部20との境界位置は、上から順にイオン注入層31、p型ベース領域3、n型電流分散層2aで構成されることになる。このため、イオン注入層31がn
+型ソース領域4のままとされていた場合のような、上から順にn
+型ソース領域4、p型ベース領域3、n型電流分散層2aで構成されるnpn構造にはならないようにできる。
【0042】
以上のようにして、本実施形態にかかるSiC半導体装置が構成されている。このように構成されるSiC半導体装置は、MOSFETをオンするときには、ゲート電極8への印加電圧を制御することでゲートトレンチ6の側面に位置するp型ベース領域3の表面部にチャネル領域を形成する。これにより、n+型ソース領域4およびn-型不純物層2を介して、ソース電極9およびドレイン電極11の間に電流を流す。
【0043】
また、MOSFETのオフ時には、高電圧が印加されたとしても、トレンチゲート構造よりも深い位置まで形成されたp型ディープ層5によってゲートトレンチ底部への電界の入り込みが抑制されて、ゲートトレンチ底部での電界集中が緩和される。これにより、ゲート絶縁膜7の破壊が防止される。
【0044】
さらに、繋ぎ部RJでは、等電位線のせり上がりが抑制され、ガードリング部RG側に向かうようにされる。また、ガードリング部RGにおいて、p型ガードリング21によって等電位線をその間隔が外周方向に向かって広がるようにしながら終端させられるようになり、ガードリング部RGでも所望の耐圧を得ることができる。
【0045】
そして、このような構造のSiC半導体装置において、トレンチゲート構造を構成するゲートトレンチ6の入口側の側面が、セル部RC内ではn+型基板1の主表面に対して垂直に切り立っているが、繋ぎ部RJ内では傾斜部となっている。これにより、ゲート絶縁膜7が、セル部RC内では厚みの薄い薄膜部7aとなっていても、繋ぎ部RJにおいては厚みの厚い厚膜部7bにできる。したがって、トレンチゲート構造の長手方向の両端位置で大きな電界が加わることでゲート絶縁膜7が破壊されることを抑制でき、ゲート絶縁膜7の寿命低下を抑制することが可能となる。
【0046】
また、縦型MOSFETのアバランシェブレークダウン時にセル部RCの外周からのホールの引き抜きが良好に行われないと、SiC半導体装置の耐量を低下させてしまう。仮に、繋ぎ部RJに、イオン注入層31を備えておらず、半導体のうちの最も上層の部分がセル部RCと同様にn+型ソース領域4が形成された構造になっていると、p型ベース領域3との間にPN接合が形成された構造になるため、ホールの引き抜きが行えない。
【0047】
これに対して、本実施形態では、半導体のうちの最も上層の部分がp型層で構成されたイオン注入層31となっている。このため、層間絶縁膜10の上に形成した引抜パッド33とイオン注入層31とを電気的に接続することで、p型ベース領域3からイオン注入層31を抜け、引抜パッド33を通じてホールを引き抜くことが可能となる。よって、縦型MOSFETのアバランシェブレークダウン時にセル部RCの外周からのホールの引き抜きが良好に行われ、SiC半導体装置の耐量の低下を抑制することが可能となる。
【0048】
さらに、本実施形態のSiC半導体装置では、メサ部RMと凹部20との境界位置が、上から順にイオン注入層31、p型ベース領域3、n型電流分散層2aで構成されるようにしている。つまり、イオン注入層31がn+型ソース領域4のままとされていた場合のような、上から順にn+型ソース領域4、p型ベース領域3、n型電流分散層2aで構成されるnpn構造にはならないようにしている。
【0049】
後述するように、凹部20やゲートトレンチ6が形成されてからゲート絶縁膜7やゲート電極8を形成しているため、ゲートトレンチ6内だけでなく凹部20内にも同様のトレンチゲート構造が形成されることになる。このため、凹部20内に残ったゲート電極8の材料となるPoly-Siについては後で除去している。しかしながら、
図2に示したように、Poly-Siの残渣8aが凹部20とメサ部RMの境界位置に残ることがある。
【0050】
このような構造となった場合、メサ部RMと凹部20との境界部がnpn構造になっていると、フローティング電位となっている残渣8aが外来電荷等の原因によって電位が上がると、p型ベース領域3に反転型チャネルが形成されてしまう。このため、n+型ソース領域4と電気的に接続されたソース電極9などを通じてリーク電流が流れてしまうという課題を発生させ得る。
【0051】
しかしながら、本実施形態のようにp型層で構成されたイオン注入層31を備えることで、npn構造が構成されないようにできるため残渣8aがあってもリーク電流が流れることを抑制することが可能となる。
【0052】
続いて、本実施形態に係るSiC半導体装置の製造方法について
図6A~
図6Hを参照して説明する。
【0053】
〔
図6Aに示す工程〕
まず、半導体基板として、n
+型基板1を用意する。そして、このn
+型基板1の主表面上にSiCからなるn
-型不純物層2をエピタキシャル成長させる。
【0054】
〔
図6Bに示す工程〕
続いて、マスクを除去したのち、n
-型不純物層2の上に、n型電流分散層2a、p型ベース領域3およびn
+型ソース領域4を順にエピタキシャル成長させる。このように、n
+型ソース領域4をエピタキシャル成長によって形成しているため、p型ベース領域3とn
+型ソース領域4それぞれに厚みのバラツキが分配されることから、p型ベース領域3の厚みのバラツキを小さくでき、閾値Vtのバラツキを抑制できる。
【0055】
そして、n+型ソース領域4の上に図示しないマスクを配置したのち、マスクのうちのイオン注入層31の形成予定領域を開口させる。そして、そのマスクを用いてp型不純物、例えばアルミニウムをイオン注入することで、イオン注入層31を形成する。このとき、イオン注入された部分の結晶構造に歪みがはいるなどのダメージが生じた状態になる。
【0056】
〔
図6Cに示す工程〕
次に、n
+型ソース領域4やイオン注入層31の表面に図示しないマスクを配置し、マスクのうちのp型ディープ層5、p型ガードリング21およびp型繋ぎ層30の形成予定領域を開口させる。そして、マスクを用いてRIE(Reactive Ion Etching)などの異方性エッチングを行うことにより、トレンチ5a、21a、30aを形成する。
【0057】
〔
図6Dに示す工程〕
マスクを除去してp型層を成膜したのち、p型層のうちn
+型ソース領域4の表面より上に形成された部分が取り除かれるようにエッチバックし、p型ディープ層5、p型ガードリング21およびp型繋ぎ層30を形成する。
【0058】
このとき、埋込エピにより、トレンチ5a、21a、30a内にp型層が埋め込まれることになるが、トレンチ5a、21a、30aを同じ幅で形成していることから、p型層の表面に形状異常が発生したり凹凸が発生することを抑制できる。したがって、各トレンチ5a、21a、30a内にp型層を確実に埋め込むことが可能になると共に、p型層の表面は凹凸が少ない平坦な形状となる。
【0059】
なお、上記したように、
図6Bに示す工程において、イオン注入層31を形成するようにしているが、これらp型ディープ層5、p型ガードリング21およびp型繋ぎ層30を形成した後にイオン注入層31を形成するようにしても良い。このようにすれば、エピタキシャル成長時の高温によってダメージ修復が行われたり、エッチバック時にダメージが生じているイオン注入層31が過剰にエッチングされたりすることを抑制できる。
【0060】
〔
図6Eに示す工程〕
n
+型ソース領域4などの上に図示しないマスクを形成したのち、マスクのうちのゲートトレンチ6の形成予定領域を開口させる。そして、マスクを用いてRIEなどの異方性エッチングを行うことで、ゲートトレンチ6を形成する。
【0061】
さらに、マスクを除去したのち、再び図示しないマスクを形成し、マスクのうちの凹部20の形成予定領域を開口させる。そして、マスクを用いてRIEなどの異方性エッチングを行うことで凹部20を形成する。これにより、凹部20が形成された位置において、n+型ソース領域4およびp型ベース領域3を貫通してn型電流分散層2aが露出させられ、n型電流分散層2aの表面から複数本のp型ガードリング21が配置された構造が構成される。
【0062】
なお、ここではゲートトレンチ6と凹部20を別々のマスクを用いた別工程として形成したが、同じマスクを用いて同時に形成することもできる。
【0063】
〔
図6Fに示す工程〕
マスクを除去した後、熱酸化を行うことによって、ゲート絶縁膜7を形成し、ゲート絶縁膜7によってゲートトレンチ6の内壁面上およびn
+型ソース領域4の表面上を覆う。このとき、イオン注入のダメージを受けていないn
+型ソース領域4についてはp型ベース領域3と同程度熱酸化されることになるが、ダメージが生じているイオン注入層31についてはp型ベース領域3よりも熱酸化されやすくなる。このため、セル部RCではゲートトレンチ6の入口側がn
+型基板1の主表面に対してほぼ垂直に切り立ったままの状態となり、繋ぎ部RJでは、ゲートトレンチ6の入口側が傾斜部となる。したがって、ゲートトレンチ6の入口側の角部においてゲート絶縁膜7は、セル部RCでは薄くなった薄膜部7aとなるが、繋ぎ部RJではそれよりも厚い厚膜部7bとなる。
【0064】
なお、ここでは、熱酸化を行うことで、繋ぎ部RJにおいてゲートトレンチ6の入口側が傾斜部となるようにしたが、熱処理を行えばその形状とすることができる。例えば、犠牲酸化などを行っても、繋ぎ部RJにおけるイオン注入層31の方がセル部RCにおけるn+型ソース領域4よりも酸化が促進されるため、繋ぎ部RJにおいてゲートトレンチ6の入口側が傾斜部となる。したがって、熱酸化によってゲート絶縁膜7を形成しない場合、例えばCVD(chemical vapor deposition)などで形成したとしても、ゲート絶縁膜7について、セル部RCでは薄くなった薄膜部7aとなり、繋ぎ部RJではそれよりも厚い厚膜部7bとなるようにできる。
【0065】
この後、p型不純物もしくはn型不純物がドープされたPoly-Siをデポジションした後、これをエッチバックし、少なくともゲートトレンチ6内にPoly-Siを残すことでゲート電極8を形成する。これにより、トレンチゲート構造が構成される。
【0066】
なお、トレンチゲート構造については、ゲートトレンチ6内にのみ形成すれば良いが、メサ部RMを構成するために凹部20を形成しているため、この凹部20内にも同様の構造が形成される。この部分については、Poly-Siをエッチバックすることで除去するようにしているが、メサ部RMと凹部20との境界位置において残渣8aが残ることがある。
【0067】
〔
図6Gに示す工程〕
ゲート電極8およびゲート絶縁膜7の表面を覆うように、例えば酸化膜などによって構成される層間絶縁膜10を形成する。そして、層間絶縁膜10の表面上に図示しないマスクを形成したのち、マスクのうち各ゲート電極8の間に位置する部分、つまりp型ディープ層5と対応する部分およびその近傍を開口させる。この後、マスクを用いて層間絶縁膜10をパターニングすることでp型ディープ層5、n
+型ソース領域4を露出させるコンタクトホールを形成する。また、本図とは異なる断面において、ゲート電極8およびイオン注入層31を部分的に露出させるコンタクトホールも形成する。
【0068】
〔
図4(d)に示す工程〕
層間絶縁膜10の表面上に例えば複数の金属の積層構造により構成される電極材料を形成する。そして、電極材料をパターニングすることで、ソース電極9や引抜パッド33を形成する。また、本図とは異なる断面においてゲートパッド32も形成する。なお、本図とは異なる断面において各セルのゲート電極8に繋がるゲートライナー8bが設けられている。そのゲートライナー8bが延設された位置において層間絶縁膜10にコンタクトホールが開けられることで、ゲートパッド32とゲート電極8との電気的接続が行われるようになっている。同様に、本図とは異なる断面においてイオン注入層31に繋がるコンタクトホールが形成されており、そのコンタクトホールを通じて引抜パッド33とイオン注入層31との電気的接続が行われるようになっている。
【0069】
この後の工程については図示しないが、n+型基板1の裏面側にドレイン電極11を形成するなどの工程を行うことで、本実施形態にかかるSiC半導体装置が完成する。
【0070】
以上説明したように、本実施形態では、トレンチゲート構造を構成するゲートトレンチ6の入口側の側面が、セル部RC内ではn+型基板1の主表面に対して垂直に切り立っているが、繋ぎ部RJ内では傾斜部となっている。これにより、ゲート絶縁膜7が、セル部RC内では厚みの薄い薄膜部7aとなっていても、繋ぎ部RJにおいては厚みの厚い厚膜部7bにできる。したがって、トレンチゲート構造の長手方向の両端位置で大きな電界が加わることでゲート絶縁膜7が破壊されないようにでき、ゲート絶縁膜7の寿命低下を抑制することが可能となる。そして、n+型ソース領域4をエピタキシャル成長によって形成しているため、p型ベース領域3とn+型ソース領域4それぞれに厚みのバラツキが分配されることから、p型ベース領域3の厚みのバラツキを小さくでき、閾値Vtのバラツキを抑制できる。よって、閾値Vtのバラツキの抑制が図れると共に、ゲート寿命の低下を抑制できる構造のSiC半導体装置にできる。
【0071】
(他の実施形態)
本開示は、上記した実施形態に準拠して記述されたが、当該実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0072】
(1)上記実施形態では、n+型ソース領域4をエピタキシャル成長層のみで構成したが、n+型ソース領域4をエピタキシャル成長層で構成しつつも、表層部にn型不純物濃度を濃くするためにイオン注入した領域を備えていても良い。この場合でも、n+型ソース領域4とp型ベース領域3との境界位置やこれらの厚みは、エピタキシャル成長によって規定されるため、閾値Vtのバラツキ抑制効果は得られる。また、このような構造とする場合、n+型ソース領域4の表層部においては、ゲートトレンチ6の側面が傾斜した状態になり得る。しかし、n+型ソース領域4の表層部にしかイオン注入がなされていないため、ゲートトレンチ6の側面がn+型ソース領域4で構成されている部分よりもイオン注入層31で構成されている部分の方がより深い位置まで傾斜部となる。そして、n+型ソース領域4の下方位置、つまりp型ベース領域3と接している部分では、ゲートトレンチ6の側面がn+型基板1の主表面に対して垂直に切り立った構造になる。
【0073】
(2)上記実施形態では、縦型のパワー素子としてnチャネルタイプの反転型のトレンチゲート構造のMOSFETを例に挙げて説明した。しかしながら、上記各実施形態はトレンチゲート構造の縦型半導体素子の一例を示したに過ぎず、半導体基板の表面側に設けられる第1電極と裏面側に設けられる第2電極との間に電流を流す縦型半導体素子であれば、他の構造もしくは導電型のものであっても良い。
【0074】
例えば、上記第1実施形態等では、第1導電型をn型、第2導電型をp型としたnチャネルタイプのMOSFETを例に挙げて説明したが、各構成要素の導電型を反転させたpチャネルタイプのMOSFETとしても良い。また、上記説明では、半導体素子としてMOSFETを例に挙げて説明したが、同様の構造のIGBTに対しても本発明を適用することができる。IGBTは、上記各実施形態に対してn+型基板1の導電型をn型からp型に変更するだけであり、その他の構造や製造方法に関しては上記各実施形態と同様である。
【0075】
(3)また、上記実施形態では、トレンチゲート構造を単なる直線状部分のみで形成している。これに対して、
図7に示すように、セル部RCよりも外側、つまり繋ぎ部RJ内において、隣り合うゲートトレンチ6の両端が半円状に繋げられ、上面からゲートトレンチ6を見た形状が長円形状となるようにしても良い。その場合でも、ゲートトレンチ6のうち直線状部分よりも先端に位置する半円状の部分の周囲の全域がイオン注入層31とされ、ゲートトレンチ6の側面が傾斜させられるようにすることになるようにすればよい。
【0076】
(5)また、上記実施形態では、イオン注入層31をp型層としているが、ゲートトレンチ6の側面を傾斜させることを目的とするのであれば、必ずしもp型層となっていなくても良くn型層であっても良い。また、イオン注入のドープ源としてアルミニウムを例に挙げたが、窒素などのn型不純物を用いても良いし、不純物にならない炭素、シリコン、アルゴンなどの不活性元素を用いても良い。
【符号の説明】
【0077】
1 n+型基板
2a n型電流分散層
3 p型ベース領域
4 n+型ソース領域
5 p型ディープ層
7 ゲート絶縁膜
8 ゲート電極
9 ソース電極
11 ドレイン電極