(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】射出成形機の制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/50 20060101AFI20240116BHJP
B29C 45/76 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
B29C45/50
B29C45/76
(21)【出願番号】P 2019221328
(22)【出願日】2019-12-06
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】堀内 淳史
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-214611(JP,A)
【文献】特開2008-230164(JP,A)
【文献】特開2018-075816(JP,A)
【文献】特開平11-227016(JP,A)
【文献】特開2005-074828(JP,A)
【文献】特開平07-214617(JP,A)
【文献】特開2012-000929(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を入れるシリンダと、前記シリンダの先端に設けられるノズルと、前記シリンダ内で進退および回転するスクリュと、を備え、前記スクリュを順回転させながら所定の計量圧力を維持するように所定の計量位置まで後退させることで前記シリンダ内の前記樹脂を溶融しつつ計量する射出成形機の制御装置であって、
前記ノズル側から前記シリンダ側に引き込む前記ノズル内の前記樹脂の目標体積に基づいて、前記ノズル内の前記樹脂の前記目標体積分の前記シリンダ側への引き込みを達成するためのサックバック距離またはサックバック時間を算出する算出部と、
前記スクリュが前記所定の計量位置に到達した後、前記サックバック距離または前記サックバック時間に基づいて前記スクリュをサックバックさせるサックバック制御部と、
を備え
、
前記算出部は、前記ノズルの形状と、前記ノズル内の前記樹脂を前記ノズル側から前記シリンダ側へ引き込む目標距離とに応じて前記目標体積を算出する、射出成形機の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の射出成形機の制御装置であって、
前記スクリュが前記所定の計量位置に到達した後、
前記所定の計量圧力から大気圧に減圧される間における前記シリンダ内に計量された前記樹脂の体積の変化量を取得する体積変化取得部をさらに備え、
前記算出部は、前記変化量および前記目標体積に基づいて、前記サックバック距離または前記サックバック時間を算出する、射出成形機の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の射出成形機の制御装置であって、
前記樹脂の圧力を取得する圧力取得部をさらに備え、
前記体積変化取得部は、前記スクリュが計量中に後退する距離と、前記スクリュが前記所定の計量位置に到達したときの前記樹脂の圧力と、に基づいて前記変化量を取得する、射出成形機の制御装置。
【請求項4】
樹脂を入れるシリンダと、前記シリンダの先端に設けられるノズルと、前記シリンダ内で進退および回転するスクリュと、を備え、前記スクリュを順回転させながら所定の計量圧力を維持するように所定の計量位置まで後退させることで前記シリンダ内の前記樹脂を溶融しつつ計量する射出成形機の制御装置であって、
前記スクリュが前記所定の計量位置に到達した後、前記所定の計量圧力から大気圧に減圧される間における前記シリンダ内に計量された前記樹脂の体積の変化量を取得する体積変化取得部と、
前記ノズル側から前記シリンダ側に引き込む前記ノズル内の前記樹脂の目標体積に基づいて、前記ノズル内の前記樹脂の前記目標体積分の前記シリンダ側への引き込みを達成するためのサックバック距離またはサックバック時間を算出する算出部と、
前記スクリュが前記所定の計量位置に到達した後、前記サックバック距離または前記サックバック時間に基づいて前記スクリュをサックバックさせるサックバック制御部と、
前記変化量と
前記樹脂の種類とを対応付けたテーブルを記憶した記憶部
と、
を備え、
前記体積変化取得部は、前記テーブルを参照することにより前記樹脂の種類に基づいて前記変化量を取得する、射出成形機の制御装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の射出成形機の制御装置であって、
前記目標体積をオペレータが指示するための操作部をさらに備える、射出成形機の制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の射出成形機の制御装置であって、
前記ノズルの形状
と、前記目標距離
とに基づいて前記目標体積を算出する関数が前記ノズルの形状に対応付いて複数規定された第1のテーブルを記憶した記憶部をさらに備え、
前記算出部は、前記シリンダに設けられた前記ノズルの形状に対応する前記関数を前記第1のテーブルの中から選択し、選択した前記関数および前記目標距離に基づいて前記サックバック距離または前記サックバック時間を算出する、射出成形機の制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の射出成形機の制御装置であって、
前記スクリュが前記所定の計量位置に到達した後、
前記所定の計量圧力から大気圧に減圧される間における前記シリンダ内に計量された前記樹脂の体積の変化量を取得する体積変化取得部をさらに備え、
前記算出部は、前記変化量および前記目標体積に基づいて、前記サックバック距離または前記サックバック時間を算出する、射出成形機の制御装置。
【請求項8】
請求項7に記載の射出成形機の制御装置であって、
前記樹脂の圧力を取得する圧力取得部をさらに備え、
前記体積変化取得部は、前記スクリュが計量中に後退する距離と、前記スクリュが前記所定の計量位置に到達したときの前記樹脂の圧力と、に基づいて前記変化量を取得する、射出成形機の制御装置。
【請求項9】
請求項7に記載の射出成形機の制御装置であって、
前記記憶部は、前記変化量と、前記樹脂の種類と、を対応付けた第2のテーブルをさらに記憶し、
前記体積変化取得部は、前記第2のテーブルを参照することにより前記樹脂の種類に基づいて前記変化量を取得する、射出成形機の制御装置。
【請求項10】
請求項6~9のいずれか1項に記載の射出成形機の制御装置であって、
前記目標距離をオペレータが指示するための操作部をさらに備える、射出成形機の制御装置。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の射出成形機の制御装置であって、
前記算出部は、前記目標体積が予め決められた制限値を超えている場合に、前記目標体積を前記制限値以下に制限したうえで前記サックバック距離または前記サックバック時間を算出する、射出成形機の制御装置。
【請求項12】
樹脂を入れるシリンダと、前記シリンダの先端に設けられるノズルと、前記シリンダ内で進退および回転するスクリュと、を備え、前記スクリュを順回転させながら所定の計量圧力を維持するように所定の計量位置まで後退させることで前記シリンダ内の前記樹脂を溶融しつつ計量する射出成形機の制御装置であって、
前記スクリュが前記所定の計量位置に到達した後、前記所定の計量圧力から大気圧に減圧される間における前記シリンダ内に計量された前記樹脂の体積の変化量を取得する体積変化取得部と、
前記ノズル側から前記シリンダ側に引き込む前記ノズル内の前記樹脂の目標体積に基づいて、前記ノズル内の前記樹脂の前記目標体積分の前記シリンダ側への引き込みを達成するためのサックバック距離またはサックバック時間を算出する算出部と、
前記スクリュが前記所定の計量位置に到達した後、前記サックバック距離または前記サックバック時間に基づいて前記スクリュをサックバックさせるサックバック制御部と、
を備え、
前記算出部は、算出した前記サックバック距離または前記サックバック時間が予め決められた上限値を超えている場合に前記サックバック距離または前記サックバック時間を前記上限値に補正する補正部を有する、射出成形機の制御装置。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載の射出成形機の制御装置であって、
算出された前記サックバック距離または前記サックバック時間を報知する報知部をさらに備える、射出成形機の制御装置。
【請求項14】
樹脂を入れるシリンダと、前記シリンダの先端に設けられるノズルと、前記シリンダ内で進退および回転するスクリュと、を備え、前記スクリュを順回転させながら所定の計量圧力を維持するように所定の計量位置まで後退させることで前記シリンダ内の前記樹脂を溶融しつつ計量する射出成形機の制御方法であって、
前記ノズル側から前記シリンダ側に引き込む前記ノズル内の前記樹脂の目標体積
を、前記ノズルの形状と、前記ノズル内の前記樹脂を前記ノズル側から前記シリンダ側へ引き込む目標距離とに応じて算出するとともに、前記目標体積に基づいて、前記ノズル内の前記樹脂の前記目標体積分の前記シリンダ側への引き込みを達成するためのサックバック距離またはサックバック時間を算出する算出ステップと、
前記スクリュが前記所定の計量位置に到達した後、前記サックバック距離または前記サックバック時間に基づいて前記スクリュをサックバックさせるサックバック制御ステップと、
を含む、射出成形機の制御方法。
【請求項15】
樹脂を入れるシリンダと、前記シリンダの先端に設けられるノズルと、前記シリンダ内で進退および回転するスクリュと、を備え、前記スクリュを順回転させながら所定の計量圧力を維持するように所定の計量位置まで後退させることで前記シリンダ内の前記樹脂を溶融しつつ計量する射出成形機の制御方法であって、
前記スクリュが前記所定の計量位置に到達した後、前記所定の計量圧力から大気圧に減圧される間における前記シリンダ内に計量された前記樹脂の体積の変化量を、前記変化量と前記樹脂の種類とを対応付けたテーブルを記憶した記憶部を参照することにより前記樹脂の種類に基づいて取得する体積変化取得ステップと、
前記変化量と、前記ノズル側から前記シリンダ側に引き込む前記ノズル内の前記樹脂の目標体積とに基づいて、前記ノズル内の前記樹脂の前記目標体積分の前記シリンダ側への引き込みを達成するためのサックバック距離またはサックバック時間を算出する算出ステップと、
前記スクリュが前記所定の計量位置に到達した後、前記サックバック距離または前記サックバック時間に基づいて前記スクリュをサックバックさせるサックバック制御ステップと、
を含む、射出成形機の制御方法。
【請求項16】
樹脂を入れるシリンダと、前記シリンダの先端に設けられるノズルと、前記シリンダ内で進退および回転するスクリュと、を備え、前記スクリュを順回転させながら所定の計量圧力を維持するように所定の計量位置まで後退させることで前記シリンダ内の前記樹脂を溶融しつつ計量する射出成形機の制御方法であって、
前記ノズル側から前記シリンダ側に引き込む前記ノズル内の前記樹脂の目標体積に基づいて、前記ノズル内の前記樹脂の前記目標体積分の前記シリンダ側への引き込みを達成するためのサックバック距離またはサックバック時間を算出する算出ステップと、
前記スクリュが前記所定の計量位置に到達した後、前記サックバック距離または前記サックバック時間に基づいて前記スクリュをサックバックさせるサックバック制御ステップと、
を含み、
前記算出ステップは、算出した前記サックバック距離または前記サックバック時間が予め決められた上限値を超えている場合に前記サックバック距離または前記サックバック時間を前記上限値に補正する補正ステップを有する、射出成形機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形機の制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形機の分野では、シリンダ内で樹脂を溶融した後、その樹脂の圧力を下げることによってシリンダから樹脂が漏出する成形不良を防止する技術が知られている。このような技術は、例えば特許文献1に開示されている。なお、シリンダから樹脂が漏出する成形不良は、ドローリングあるいはハナタレとも称される。
【0003】
開示の技術によると、射出成形機は、樹脂を溶融する計量工程に続くサックバック工程(減圧工程)でサックバックを実行する。これにより、樹脂の圧力が、ドローリングを防止し得る設定圧力(目標圧力P0)に到達する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、サックバックの実行にあたっては、サックバック距離またはサックバック時間をオペレータが予め決定しておく必要がある。しかしながら、サックバック距離またはサックバック時間を適切に決定するためには、樹脂の材料特性や射出成形機の仕様を考慮した試行錯誤がオペレータに作業として要求される。オペレータにしてみると、この作業は負担であった。
【0006】
そこで、本発明は、サックバック距離またはサックバック時間を適切且つ容易に決定する射出成形機の制御装置および制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の一つの態様は、樹脂を入れるシリンダと、前記シリンダの先端に設けられるノズルと、前記シリンダ内で進退および回転するスクリュと、を備え、前記スクリュを順回転させながら所定の計量圧力を維持するように所定の計量位置まで後退させることで前記シリンダ内の前記樹脂を溶融しつつ計量する射出成形機の制御装置であって、前記ノズル側から前記シリンダ側に引き込む前記ノズル内の前記樹脂の目標体積に基づいて、前記ノズル内の前記樹脂の前記目標体積分の前記シリンダ側への引き込みを達成するためのサックバック距離またはサックバック時間を算出する算出部と、前記スクリュが前記所定の計量位置に到達した後、前記サックバック距離または前記サックバック時間に基づいて前記スクリュをサックバックさせるサックバック制御部と、を備える。
【0008】
発明のもう一つの態様は、樹脂を入れるシリンダと、前記シリンダの先端に設けられるノズルと、前記シリンダ内で進退および回転するスクリュと、を備え、前記スクリュを順回転させながら所定の計量圧力を維持するように所定の計量位置まで後退させることで前記シリンダ内の前記樹脂を溶融しつつ計量する射出成形機の制御方法であって、前記ノズル側から前記シリンダ側に引き込む前記ノズル内の前記樹脂の目標体積に基づいて、前記ノズル内の前記樹脂の前記目標体積分の前記シリンダ側への引き込みを達成するためのサックバック距離またはサックバック時間を算出する算出ステップと、前記スクリュが前記所定の計量位置に到達した後、前記サックバック距離または前記サックバック時間に基づいて前記スクリュをサックバックさせるサックバック制御ステップと、を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、サックバック距離またはサックバック時間を適切且つ容易に決定する射出成形機の制御装置および制御方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】実施の形態の射出ユニットの概略構成図である。
【
図4】本実施の形態の記憶部に記憶される第1のテーブルの一例である。
【
図5】本実施の形態の記憶部に記憶される第2のテーブルの一例である。
【
図6】実施の形態の射出成形機の制御方法の一例が示されたフローチャートである。
【
図7】
図7Aは、計量制御ステップまで完了した時点におけるシリンダ内の状態の一例を示した概略断面図である。
図7Bは、サックバック実行後におけるシリンダ内の状態の一例を示した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る射出成形機の制御装置および制御方法について好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に記載する各方向は、各図面に示された矢印に従うものとする。
【0012】
[実施の形態]
図1は、実施の形態の射出成形機10の側面図である。
【0013】
本実施の形態の射出成形機10は、開閉可能な金型12を有する型締めユニット14と、型締めユニット14に前後方向で対向する射出ユニット16と、これらを支持する機台18と、射出成形機10の制御装置20と、を備える。
【0014】
これらのうち、型締めユニット14と機台18とに関しては、既知の技術に基づいて構成して構わない。したがって、以下では、型締めユニット14と機台18とについての説明は適宜割愛する。
【0015】
以下、本実施の形態の制御装置20の説明に先立ち、まずは制御装置20の制御対象である射出ユニット16について説明する。
【0016】
射出ユニット16はベース22に支持される。また、当該ベース22は機台18に設置されたガイドレール24により前後に進退可能に支持される。これにより、射出ユニット16は、機台18上で前後に進退可能となる。また、射出ユニット16は、型締めユニット14に対して離接可能となる。
【0017】
【0018】
射出ユニット16は、筒状の加熱シリンダ(シリンダ)26と、シリンダ26内に設けられたスクリュ28と、スクリュ28に設けられた圧力センサ30と、スクリュ28に接続された第1駆動装置32および第2駆動装置34と、を備える。本実施の形態では、シリンダ26は円筒状であるとする。
【0019】
シリンダ26とスクリュ28との各々の軸線は、本実施の形態では仮想線Lで一致する。このような方式は「インライン(インラインスクリュ)方式」とも称される。また、インライン方式が適用された射出成形機は「インライン式射出成形機」とも称される。
【0020】
インライン式射出成形機の利点はいくつか知られている。その一例として、例えば、他方式の射出成形機と比較して射出ユニット16の構造がシンプルでありメンテナンス性に優れる点が挙げられる。ここで他方式とは、例えばプリプラ方式が知られる。
【0021】
シリンダ26は、
図2のように、後方向側に設けられたホッパ36と、シリンダ26を加熱するヒータ38と、前方向側の先端に設けられたノズル40と、を備える。これらのうち、ホッパ36には、シリンダ26に成形材料の樹脂を供給するための供給口が設けられる。また、ノズル40には、シリンダ26内と連通するノズル流路41が形成される。ノズル流路41の開口は、シリンダ26の内外を連通する。
【0022】
ノズル流路41の形状は、特に限定されないが、本実施の形態では円柱状である。また、ノズル流路41の開口の形状は円形である。
【0023】
スクリュ28は、前後方向に亘って設けられたらせん状のフライト部42を有する。フライト部42は、シリンダ26の内壁とともにらせん状の流路44を構成する。らせん状の流路44は、ホッパ36からシリンダ26に供給される樹脂を前方向側に導く。
【0024】
スクリュ28は、前方向側の先端部であるスクリュヘッド46と、スクリュヘッド46から後方向に距離をおいて設けられるチェックシート48と、スクリュヘッド46とチェックシート48との間で前後に移動可能な逆流防止リング50と、を有する。
【0025】
逆流防止リング50は、自身の後方向側の樹脂から前方向の圧力を受けるとスクリュ28に対して相対的に前方向に移動する。逆流防止リング50の前方向への相対移動は、例えば後述する計量時に行われる。
【0026】
この場合では、逆流防止リング50の相対移動に伴って流路44が徐々に開放される。その結果、チェックシート48を挟んで後方向側から前方向側への流路44に沿った樹脂の流動が容易になる。
【0027】
また、逆流防止リング50は、自身の前方向側の樹脂から後方向の圧力を受けるとスクリュ28に対して相対的に後方向に移動する。逆流防止リング50の後方向への相対移動は、例えば後述する射出時に行われる。
【0028】
この場合では、逆流防止リング50の相対移動に伴って流路44が徐々に閉鎖される。その結果、チェックシート48を挟んで前方向側から後方向側への流路44に沿った樹脂の流動が抑制される。特に、逆流防止リング50がチェックシート48まで後退すると、少なくとも逆流防止リング50の前方向側の樹脂については、チェックシート48よりも後方向に向かう流動が最も抑制された状態となる。
【0029】
スクリュ28には、シリンダ26内の樹脂に掛かる圧力を逐次検出するためのロードセル等の圧力センサ30が取り付けられている。以下、「シリンダ26内の樹脂に掛かる圧力」を、単に「樹脂の圧力」とも称する。
【0030】
第1駆動装置32は、スクリュ28をシリンダ26内において回転させるものである。第1駆動装置32は、サーボモータ52a、駆動プーリ54a、従動プーリ56a、およびベルト部材58aを備える。駆動プーリ54aは、サーボモータ52aの回転軸と一体的に回転する。従動プーリ56aは、スクリュ28と一体的に設けられる。ベルト部材58aは、サーボモータ52aの回転力を駆動プーリ54aから従動プーリ56aに伝達する。
【0031】
上記の第1駆動装置32によれば、サーボモータ52aの回転軸を回転させることにより、その回転力が駆動プーリ54a、ベルト部材58a、および従動プーリ56aを介してスクリュ28に伝達される。これにより、スクリュ28は回転し得る。また、上記の第1駆動装置32によれば、サーボモータ52aの回転軸の回転方向を変えることにより、それに応じてスクリュ28の回転方向を順回転と逆回転とを切り替えることが可能である。
【0032】
サーボモータ52aには、位置速度センサ60aが設けられる。位置速度センサ60aは、サーボモータ52aの回転軸の回転位置および回転速度を検出する。検出結果は制御装置20に出力される。これにより、制御装置20は、位置速度センサ60aが検出する回転位置および回転速度に基づいてスクリュ28の回転量、回転加速度、および回転速度を算出することができる。
【0033】
第2駆動装置34は、シリンダ26内のスクリュ28を進退させるものである。なお、本実施の形態においては、特に断らない限り、スクリュ28の進退とは、該スクリュ28が内側に設けられたシリンダ26に対する相対的な進退のことを指す。
【0034】
第2駆動装置34は、サーボモータ52b、駆動プーリ54b、従動プーリ56b、ベルト部材58b、ボールネジ62、およびナット64を備える。駆動プーリ54bは、サーボモータ52bの回転軸と一体的に回転する。ベルト部材58bは、駆動プーリ54bから従動プーリ56bにサーボモータ52bの回転力を伝達する。ボールネジ62の軸線とスクリュ28の軸線とは、仮想線Lにおいて一致する。ナット64は、ボールネジ62に螺合する。
【0035】
上記の第2駆動装置34によれば、サーボモータ52bの回転軸を回転させることにより、その回転力が駆動プーリ54b、ベルト部材58b、および従動プーリ56bを介してボールネジ62に伝達される。ボールネジ62は、伝達された回転力を直動運動に変換してスクリュ28に伝達する。これにより、スクリュ28は進退し得る。また、上記の第2駆動装置34によれば、サーボモータ52bの回転軸の回転方向を変えることにより、それに応じてスクリュ28の進退方向を前進と後退とに切り替えることが可能である。
【0036】
サーボモータ52bには、位置速度センサ60bが設けられる。位置速度センサ60bは、サーボモータ52bの回転軸の回転位置および回転速度を検出するものであって、それは例えば位置速度センサ60aと同様のセンサである。検出結果は制御装置20に出力される。これにより、制御装置20は、位置速度センサ60bが検出する回転位置および回転速度に基づいてスクリュ28の前後方向における前進位置ならびに後退位置(後退距離)、およびスクリュ28の後退速度(進退速度)を算出することができる。
【0037】
以下、成形品を得るために射出成形機10において行われる複数の工程を説明する。特に、上記の射出ユニット16が実行し得る動作に注目して説明する。
【0038】
射出ユニット16は、シリンダ26に供給された樹脂を、スクリュ28の順回転により流路44に沿って前方向に圧送しつつ、ヒータ38による加熱とスクリュ28の回転力とにより溶融(可塑化)する。スクリュ28の順回転は、スクリュ28がシリンダ26内を前進しきった状態(計量領域の容積が最小の状態)で開始される。また、スクリュ28は、所定の回転速度で順回転する。
【0039】
スクリュ28は、樹脂を前方向に圧送することに伴い、シリンダ26に対して相対的に、徐々に後退する。後退するスクリュ28の後退速度は、樹脂の圧力が所定値(計量圧力)P1の近傍に維持されるように、制御装置20によって制御される。なお、制御装置20の構成については後述する。
【0040】
圧送されながら溶融した樹脂は、シリンダ26内のチェックシート48の前方向側の領域(ノズル流路41も含む)に到達し、当該領域に溜められる。以下、シリンダ26内のチェックシート48の前方向側の領域を「計量領域」とも称する。
【0041】
スクリュ28の順回転および後退は、スクリュ28が後退により所定の位置(計量位置)に到達するまで行われる。すなわち、スクリュ28が計量位置に到達するまでは、シリンダ26内の樹脂が溶融しながら計量領域に向かって圧送され続ける。
【0042】
スクリュ28が計量位置に到達するまで順回転および後退を行って計量領域に溶融した樹脂を溜める工程は、「計量工程」あるいは単に「計量」とも称される。計量を行うことにより、ある程度決まった量の樹脂を計量領域に溜めることができる。
【0043】
なお、計量を行う際には、計量圧力P1と、順回転するスクリュ28の所定の回転速度と、を予め指定しておく必要がある。計量に関して指定される計量圧力P1および所定の回転速度は、「計量条件」とも称される。
【0044】
スクリュ28が計量位置に到達した後は、スクリュ28を計量位置からさらに後退させることにより、計量領域の樹脂の圧力を計量圧力P1から目標圧力P0まで減少させる工程が行われる。この工程は「減圧工程」あるいは単に「減圧」とも称される。
【0045】
また、計量位置に到達したスクリュ28をさらに後退させる動作は「サックバック」とも称される。サックバックを行うと、スクリュ28の後退した距離に応じて計量領域の容積が拡大する。これにより、計量領域の樹脂の体積の膨張、すなわち当該樹脂の密度の減少が引き起こされ、結果として計量領域の樹脂の圧力が減少する。
【0046】
サックバックは、サックバックに関して予め決められる所定の条件に基づいて行われる。以下、この所定の条件を「サックバック条件」とも称する。サックバック条件は、サックバック距離Lsbの指定またはサックバック時間Tsbの指定を含み得る。
【0047】
サックバック距離Lsbは、サックバックによりスクリュ28がシリンダ26に対して相対的に後退する距離のことである。サックバック時間Tsbは、サックバックを継続する時間のことである。
【0048】
目標圧力P0としては、計量圧力P1よりも小さい圧力が指定される(P0<P1)。その大きさは、具体的には特に限定されないが、例えば大気圧(ゼロ)が指定され得る。
【0049】
計量領域の樹脂の圧力は、スクリュ28が計量位置に到達した直後、即ち計量直後では計量圧力P1の近傍である。樹脂の圧力を計量圧力P1の近傍から目標圧力P0まで減少させることにより、計量工程において前方向に向かう圧力を受けていた計量領域の樹脂の、前方向に流動しようとする勢いを弱めることができる。これにより、計量領域の樹脂が前方向に流動することが抑制され、延いてはドローリング(ハナタレ)の発生が抑制される。
【0050】
なお、計量領域の樹脂の圧力を減少させることは、サックバックのほか、スクリュ28を計量時とは逆方向に回転(逆回転)させることでもなし得る。ただし、逆回転による減圧についての説明は、本実施の形態では割愛する。
【0051】
計量とその後の減圧とを行った後は、シリンダ26内の計量領域に溜められた樹脂を金型12のキャビティに充填する。これは「射出工程」あるいは単に「射出」とも称される。
【0052】
射出は、型締めユニット14の金型12と射出ユニット16のノズル40とを互いに圧接して金型12のキャビティとノズル流路41とを連通させた状態で行われる。金型12とノズル40とを互いに圧接させることは、「ノズルタッチ」とも称される。射出が行われるとき、金型12は、例えば型締めユニット14に備わる既知のトグル機構により閉状態とされており、型締力が印加されている。射出ユニット16は、スクリュ28を前進させることにより、型締力が印加された金型12のキャビティに対して、ノズル40を介して計量領域の樹脂を押し出す。これにより、当該キャビティに樹脂が充填される。
【0053】
射出直後のスクリュ28は、シリンダ26内を前進しきった状態である。したがって、射出の後には、射出ユニット16は再び計量を行い得る。このように、射出ユニット16は、計量、減圧、射出をこの順序で効率的に繰り返し実行することができる。
【0054】
一方、型締めユニット14においては、射出の実行により金型12内に充填された樹脂を冷却して固化することと、金型12を開くことと、固化した樹脂(成形品)を取り出すことと、が行われる。金型12内に充填された樹脂を冷却する工程は「冷却工程」あるいは単に「冷却」とも称される。また、金型12を開く工程は「型開き工程」あるいは単に「型開き」とも称される。また、成形品を取り出す工程は「取り出し工程」あるいは単に「取り出し」とも称される。
【0055】
型開きと取り出しとの間においては、型締めユニット14に備わる既知のエジェクタ(突き出しピン)による成形品の金型12からの突き出しが行われ得る。これは「突き出し工程」あるいは単に「突き出し」とも称される。成形品を突き出すことで、その後の取り出しが容易に達成され得る。
【0056】
また、金型12は、取り出しの後に閉じることで、再び樹脂が充填され得る状態になることができる。金型12を閉じる工程は「型閉じ工程」あるいは単に「型閉じ」とも称される。このように、型締めユニット14は、冷却、型開き、突き出し、取り出し、型閉じをこの順序で繰り返し実行することができる。
【0057】
以上で説明した複数の工程は、「成形サイクル」としてルーティーン化され得る。射出成形機10は、成形サイクルを繰り返し行うことにより、成形品を効率的に量産し得る。
【0058】
ここで、良質な成形品を得るために検討され得る事項について説明する。良質な成形品を得るためには、成形サイクルの実行中における不良の発生をできるだけ低減することが望ましい。成形サイクルの実行中における不良は成形不良とも称される。成形不良の代表例としては上記したドローリングがある。また、計量した樹脂への空気(異物)の混入も成形不良の一例として挙げられる。
【0059】
ドローリングの発生のおそれを低減するためには、サックバック距離Lsbまたはサックバック時間Tsbを適切に指定することで、減圧工程においてサックバックを適切に実行する必要がある。例えば、ノズル流路41内に充填された樹脂がある程度の体積分あるいは距離分だけノズル40側からシリンダ26側に引き込まれるようにサックバック距離Lsbまたはサックバック時間Tsbを指定することができれば、ドローリングの発生のおそれは低減され得る。
【0060】
しかしながら、ノズル流路41内の樹脂を決まった距離分だけ、または決まった体積分だけノズル40側からシリンダ26側に樹脂を引き込むようなサックバック距離Lsbまたはサックバック時間Tsbというのは、オペレータにしてみると一見して不明である。しかも、仮に、指定したサックバック距離Lsbまたはサックバック時間Tsbが過大であると、サックバックを行ったときにノズル40の先端よりノズル流路41内への空気の過大な引き込みが発生する。その場合は、樹脂への空気(異物)の混入が発生してしまう。
【0061】
以上のことから、サックバック距離Lsbまたはサックバック時間Tsbをオペレータが適切に指定するためには、樹脂の材料特性や射出成形機10の仕様を考慮した試行錯誤が、該オペレータに作業として要求される。オペレータにしてみると、この作業は負担である。
【0062】
そこで、本実施の形態では、ノズル40内の樹脂の目標距離Ltar分または目標体積Vtar分のシリンダ26側への引き込みを達成するための適切なサックバック距離Lsbまたはサックバック時間Tsbを射出成形機10の制御装置20に算出させる。以下、本実施の形態の制御装置20について、詳しく説明する。
【0063】
【0064】
本実施の形態の制御装置20は、射出成形機10が備える型締めユニット14と射出ユニット16とのうちの少なくとも射出ユニット16を制御するものである。制御装置20は、記憶部66と、表示部68と、操作部70と、演算部72と、を備える。
【0065】
これらのうち、記憶部66は、不図示の揮発性メモリと、不図示の不揮発性メモリとを含み得る。揮発性メモリは、例えばRAM(Random Access Memory)等のハードウェアにより構成され得る。不揮発性メモリは、例えばROM(Read Only Memory)あるいはフラッシュメモリ等のハードウェアにより構成され得る。
【0066】
記憶部66には、射出ユニット16を制御するための所定の制御プログラム74が予め記憶される。また、記憶部66には、射出ユニット16の制御に関して必要な情報が適宜記憶される。そのような情報のうち、本実施の形態において特に説明すべきものについては、以下において都度説明する。
【0067】
表示部68は、限定されないが、例えば液晶画面を備えたディスプレイ装置である。表示部68は、制御装置20が行う制御に関する情報を適宜表示する。
【0068】
操作部70は、限定されないが、例えばキーボード、マウス、あるいは表示部68の画面(液晶画面)に取り付けられるタッチパネルを備える。操作部70は、オペレータが制御装置20に指示を送るために使用され得る。
【0069】
演算部72は、例えばCPU(Central Processing Unit)等のハードウェアにより構成され得る。演算部72は、圧力取得部76と、計量制御部78と、算出部80と、体積変化取得部82と、サックバック制御部84と、を有する。これらの各部は、演算部72が記憶部66と協働して制御プログラム74を実行することにより実現され得る。以下、これらの各部について説明する。
【0070】
圧力取得部76は、圧力センサ30が検出する樹脂の圧力を逐次取得する。取得された樹脂の圧力は、限定されないが、例えば時系列データの形式で記憶部66に記憶される。記憶された樹脂の圧力に関するデータは、計量制御部78が参照可能である。また、当該データを表示部68に表示することで、オペレータが監視できるようにしてもよい。
【0071】
計量制御部78は、射出ユニット16の制御のうち、特に計量に関する制御を行うものである。より具体的に、まず、計量制御部78は、計量条件が記憶部66に記憶されている場合には、記憶部66を参照することで計量圧力P1および所定の回転速度を取得する。なお、計量制御部78は、操作部70を介してオペレータが指示する値を計量圧力P1あるいは所定の回転速度として取得してもよい。
【0072】
計量制御部78は、計量条件を取得すると、第1駆動装置32のサーボモータ52aに駆動電流を供給することで、スクリュ28を所定の回転速度で順回転させる。また、計量制御部78は、圧力取得部76が取得する樹脂の圧力を参照しながら第2駆動装置34のサーボモータ52bに供給する駆動電流を調整することで、樹脂の圧力を計量圧力P1の近傍に維持しつつスクリュ28を計量位置まで後退させる。
【0073】
算出部80は、ノズル流路41内の樹脂の目標距離Ltar分または目標体積Vtar分のシリンダ26側への引き込みを達成するサックバック距離Lsbまたはサックバック時間Tsbを算出するものである。サックバック距離Lsbとサックバック時間Tsbとのどちらを算出するのかはオペレータが選択してよい。本実施の形態では例として、算出部80はサックバック距離Lsbを算出するものであるとして説明する。なお、サックバック時間Tsbを算出する場合については、後述の変形例に記載する。
【0074】
算出部80は、サックバック距離Lsbの算出を、ノズル40側からシリンダ26側に引き込むノズル40内の樹脂の目標体積Vtarに基づいて行う。より具体的に、本実施の形態の算出部80は、以下の式(1)に基づいてサックバック距離Lsbを算出する。式(1)は、目標体積Vtarを入力とし、サックバック距離Lsbを出力とするものである。
【0075】
以下において、dVcylは、計量領域の樹脂(計量した樹脂)の圧力がサックバックによって計量圧力P1から大気圧へと減少した場合における樹脂の体積の変化(膨張)量である。Dcylは、既知の数値であって、シリンダ26の内径である。πは円周率である。
【0076】
【0077】
目標体積Vtarは、ノズル40の形状すなわちノズル流路41の形状と、ノズル40内の樹脂をノズル40側からシリンダ26側へ引き込む目標距離Ltarと、に基づいて、間接的に求めることもできる。例えば、本実施の形態の場合であれば、ノズル流路41の形状は円柱状である。この場合、ノズル40内の樹脂の目標距離Ltar分のシリンダ26側への引き込みを達成する目標体積Vtarは、以下の式(2)の通りに求まる。式(2)には、目標距離Ltarを入力とし、目標体積Vtarを出力とする関数f(Ltar)が示される。以下において、Dnozは、既知の数値であって、ノズル流路41の内径である。
【0078】
【0079】
円柱以外のノズル流路41の形状としては、例えば、テーパー形状がある。また、ノズル流路41の開口の形状が円ではなく楕円形になっているノズル40も、射出成形機10のシリンダ26には設けられ得る。そのようなノズル40に本実施の形態を適用する場合は、対象のノズル40の形状に対応する関数f(Ltar)を、幾何学的に求めればよい。
【0080】
図4は、本実施の形態の記憶部66に記憶される第1のテーブル86の一例である。
【0081】
ノズル40の形状と、ノズル40の形状に応じて特定される関数f(L
tar)との互いの対応関係は、第1のテーブル86に規定され得る。第1のテーブル86は、記憶部66に記憶され得る。
図4のように、ノズル40の形状がm通り以上ある場合は、関数f(L
tar)の態様もm通り以上が規定され得る(m:1以上の自然数)。
【0082】
算出部80は、ノズル40の形状に基づいて第1のテーブル86を参照することにより、目標距離Ltarから目標体積Vtarを算出するための適切な関数f(Ltar)の態様を容易に特定し得る。参照時のキーとなるノズル40の形状に関する情報は、例えばオペレータが操作部70を介して入力し得る。
【0083】
式(1)に含まれる変化量dVcylは、体積変化取得部82により取得される。体積変化取得部82は、例えば以下の式(3)に基づく演算により、変化量dVcylを取得する。以下において、Lmetは、計量工程においてスクリュ28が後退する距離の長さである。ρ0は既知の数値であって、目標圧力P0下における樹脂の密度である。ρ1は計量圧力P1下における樹脂の密度である。
【0084】
【0085】
体積変化取得部82は、スクリュ28が計量位置に到達したときのスクリュ28の位置と、樹脂の圧力に基づいて算出したρ1を式(3)に適用する。計量のたびにρ1を算出することで、体積変化取得部82は、より信頼性の高い変化量dVcylを取得し得る。体積変化取得部82が変化量dVcylをできるだけ精度よく取得することにより、算出部80は式(2)より取得した目標体積Vtarと式(3)より取得した変化量dVcylを式(1)に用いてサックバック距離Lsbを精度よく算出し得る。
【0086】
なお、本実施の形態は、ρ1を計量のたびに算出することを必須とするわけではない。すなわち、予め実験的に求めたρ1が式(3)に適用されてもよい。
【0087】
図5は、本実施の形態の記憶部66に記憶される第2のテーブル88の一例である。
【0088】
樹脂の種類毎にρ
0およびρ
1を予め実験的に求めた場合は、樹脂の種類毎の変化量dV
cylを予め用意し得る。この場合では、
図5の通りに、樹脂の種類と、樹脂の種類に応じた変化量dV
cylと、を互いに対応付けた第2のテーブル88を用意し、記憶部66に記憶させ得る。これにより、体積変化取得部82は、樹脂の種類に基づいて第2のテーブル88を参照することで、変化量dV
cylを容易に取得し得る。例えば、樹脂の種類が「PA(polyamide)」の場合、体積変化取得部82は、第2のテーブル88を参照することで、PAに応じた変化量dV
cylの値(dV
cyl1)を容易に取得し得る。参照時のキーとなる樹脂の種類に関する情報は、例えばオペレータが操作部70を介して入力し得る。
【0089】
なお、第2のテーブル88は、上記した第1のテーブル86とマージし得る。すなわち、本実施の形態においては、ノズル40の形状と、ノズル40の形状に応じた関数f(Ltar)と、樹脂の種類と、樹脂の種類に応じた変化量dVcylと、が対応付けられたテーブルが作成されてもよい。
【0090】
サックバック制御部84は、射出ユニット16の制御のうち、特にサックバックによる減圧に関する制御を行うものである。サックバック制御部84は、スクリュ28が所定の計量位置に到達した後、サーボモータ52bに駆動電流を供給することにより、算出部80が算出したサックバック距離Lsbまたはサックバック時間Tsbに基づいてスクリュ28をサックバックさせる。
【0091】
なお、本実施の形態では、サックバック中のスクリュ28の後退速度(サックバック速度)Usbは予め決められているものとする。
【0092】
以上が制御装置20の構成の一例である。なお、制御装置20の構成は上記に限定されない。例えば、制御装置20は、型締めユニット14を制御するための構成をさらに備えてもよい。また、制御装置20が制御し得る射出成形機10は、インライン式に限定されない。
【0093】
次に、本実施の形態の射出成形機10の制御方法について説明する。
【0094】
図6は、実施の形態の射出成形機10の制御方法の一例が示されたフローチャートである。
【0095】
本実施の形態の射出成形機10の制御方法(以下、単に「制御方法」と称する)は、上記の制御装置20により実行される。この制御方法は、
図6に示すように、算出ステップと、サックバック制御ステップと、を少なくとも含むものである。以下、そのような制御方法について説明する。
【0096】
前提として、以下では、サックバック距離Lsbとサックバック時間Tsbとのうちのサックバック距離Lsbを算出する場合を説明する。
【0097】
本実施の形態の制御方法は、計量制御ステップ(計量工程)から開始することとする。本ステップは、本実施の形態では計量制御部78により実行される。
【0098】
図7Aは、計量制御ステップまで完了した時点におけるシリンダ26内の状態の一例を示した概略断面図である。
【0099】
計量制御ステップは、スクリュ28が計量位置に到達するまで、すなわちスクリュ28の後退距離が所定の距離L
metに到達するまで継続される。計量制御ステップを行うことにより、
図7Aのように、ノズル流路41も含めた逆流防止リング50よりも前方向側の計量領域に、溶融した樹脂が充填される。
【0100】
スクリュ28が計量位置に到達すると、体積変化取得ステップが開始される。本ステップは、本実施の形態では体積変化取得部82により実行される。本ステップでは、まず、計量位置に到達した時点のスクリュ28の位置(後退距離)と樹脂の圧力とに基づいて、計量領域の樹脂の、所定の計量圧力P1下における密度ρ1が算出される。そして、既に説明した式(3)に基づいて変化量dVcylが取得される。なお、第2のテーブル88が記憶部66に予め記憶している場合は、第2のテーブル88を参照することで変化量dVcylを取得してもよい。
【0101】
続いて、算出ステップが実行される。本ステップでは、目標体積Vtarに基づいてサックバック距離Lsbを算出する。算出は既に説明した式(1)に基づいて行われる。
【0102】
サックバック距離Lsbの算出に必要な目標体積Vtarの指定は、オペレータが操作部70を介して行うものとする。以下では例として、目標距離Ltarがオペレータにより指定され、該目標距離Ltarを式(2)に入力して目標体積Vtarが算出されたものとして説明する。ただし、本実施の形態はこれに限定されない。例えば、目標体積Vtarとしては、射出成形機10のメーカーが指定したデフォルト値が自動的に指定されてもよい。
【0103】
図7Bは、サックバック実行後におけるシリンダ26内の状態の一例を示した概略断面図である。
【0104】
算出ステップの後は、算出したサックバック距離Lsbに基づいてスクリュ28をサックバックさせるサックバック制御ステップが実行される。本ステップは、本実施の形態ではサックバック制御部84により実行される。サックバック制御部84は、スクリュ28を所定のサックバック速度Usbで、サックバック距離Lsb分だけ後退するまで、サックバックを継続する。
【0105】
以上の制御方法によれば、ノズル40内の樹脂の目標体積Vtar(目標距離Ltar)分のシリンダ26側への引き込みを達成するための適切なサックバック距離Lsbが容易に算出される。
【0106】
すなわち、本実施の形態によれば、サックバック距離Lsbを適切且つ容易に決定する射出成形機10の制御装置20および制御方法が提供される。オペレータは、本実施の形態の制御装置20を備える射出成形機10を使用することにより、良質な成形品を容易に生産し得る。
【0107】
[変形例]
以上、本発明の一例として実施の形態が説明されたが、上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることはもちろんである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0108】
(変形例1)
本変形例では、実施の形態の補足として、サックバック時間Tsbを求める場合の例を開示する。
【0109】
目標距離Ltarに応じたサックバック時間Tsbは、以下の式(4)により求まる。以下において、Usbはサックバック速度である。なお、この場合においても、目標体積Vtarは、式(2)に基づくことで目標距離Ltarから間接的に算出し得る。
【0110】
【0111】
算出部80は、上記の式(4)を用いることにより、ノズル40内の樹脂のシリンダ26側への目標体積Vtar分(目標距離Ltar分)の引き込みを達成するサックバック時間Tsbを容易且つ適切に算出し得る。
【0112】
このように、本変形例によれば、サックバック時間Tsbを適切且つ容易に決定する射出成形機10の制御装置20および制御方法が提供される。
【0113】
(変形例2)
算出部80は、目標体積Vtarが予め決められた体積の制限値Vmaxを超えている場合に、目標体積Vtarを制限値Vmax以下に制限したうえでサックバック距離Lsbまたはサックバック時間Tsbを算出してもよい。この制限は、オペレータが指定した目標体積Vtarのみならず、目標距離Ltarから特定される目標体積Vtarに対しても行われ得る。
【0114】
制限値Vmaxは、それは例えば、射出成形機10のメーカーが指定する値である。オペレータが操作部70を介して制限値Vmaxを指定してもよい。
【0115】
これにより、目標体積Vtarが制限値Vmaxを超えていた場合に、過大な目標体積Vtarに基づいて過大なサックバック距離Lsbが算出されるおそれが低減され得る。同様に、過大な目標体積Vtarに基づいて過大なサックバック時間Tsbが算出されるおそれが低減され得る。
【0116】
(変形例3)
図8は、変形例3の制御装置20の概略構成図である。
【0117】
算出部80は、算出したサックバック距離Lsbが予め決められた距離の上限値Lmaxを超えている場合に、サックバック距離Lsbを上限値Lmaxに補正する補正部90を有してもよい。上限値Lmaxは、それは例えば、射出成形機10のメーカーが指定する値である。オペレータが操作部70を介して上限値Lmaxを指定してもよい。
【0118】
これにより、過大なサックバック距離Lsbに基づいてサックバックが行われるおそれが低減され得る。
【0119】
また、本変形例は、算出部80がサックバック時間Tsbを算出する場合にも適用され得る。すなわち、補正部90は、算出したサックバック時間Tsbが予め決められた時間の上限値Tmaxを超えている場合に、サックバック時間Tsbを上限値Tmaxに補正してもよい。上限値Tmaxは、上限値Lmaxと同様に、例えば射出成形機10のメーカーが指定する値である。オペレータが操作部70を介して上限値Tmaxを指定してもよい。
【0120】
これにより、過大なサックバック時間Tsbに基づいてサックバックが行われるおそれが低減され得る。
【0121】
(変形例4)
図9は、変形例4の制御装置20の概略構成図である。
【0122】
制御装置20は、算出されたサックバック距離Lsbまたはサックバック時間Tsbを報知する報知部92をさらに備えてもよい。報知は、例えば表示部68にサックバック距離Lsbまたはサックバック時間Tsb表示させることで行われ得る。
【0123】
これにより、オペレータは、制御装置20が算出したサックバック距離Lsbまたはサックバック時間Tsbを容易に把握し得る。
【0124】
(変形例5)
変化量dVcylは、取得されなくてもよい。すなわち、変化量dVcylは、式(1)を用いた演算において、常にゼロとして扱われてもよい。この場合であっても、制御装置20により、ノズル40内の樹脂の目標体積Vtar(目標距離Ltar)分の引き込みを達成するために最低限必要なサックバック距離Lsbまたはサックバック時間Tsbが算出される。
【0125】
本変形例によれば、オペレータは、サックバック条件として指定すべきサックバック距離Lsbまたはサックバック時間Tsbの最低限の値を知ることができる。オペレータは、本変形例により算出されたサックバック距離Lsbまたはサックバック時間Tsbを参考に、自分で改めてサックバック距離Lsbまたはサックバック時間Tsbを指定してもよい。
【0126】
本変形例によれば、指定すべきサックバック距離Lsbまたはサックバック時間Tsbの最低限の値を容易に把握できるという点で、オペレータの負担が少なからず低減され得る。また、本変形例によれば、体積変化取得部82を制御装置20の構成から省略することができる。したがって、制御装置20の構成を実施の形態よりもシンプルにし得る。
【0127】
(変形例6)
上記の実施の形態および各変形例は、矛盾の生じない範囲で適宜組み合わされてもよい。
【0128】
[実施の形態から得られる発明]
上記実施の形態および変形例から把握しうる発明について、以下に記載する。
【0129】
<第1の発明>
樹脂を入れるシリンダ(26)と、前記シリンダ(26)の先端に設けられるノズル(40)と、前記シリンダ(26)内で進退および回転するスクリュ(28)と、を備え、前記スクリュ(28)を順回転させながら所定の計量圧力(P1)を維持するように所定の計量位置まで後退させることで前記シリンダ(26)内の前記樹脂を溶融しつつ計量する射出成形機(10)の制御装置(20)であって、前記ノズル(40)側から前記シリンダ(26)側に引き込む前記ノズル(40)内の前記樹脂の目標体積(Vtar)に基づいて、前記ノズル(40)内の前記樹脂の前記目標体積(Vtar)分の前記シリンダ(26)側への引き込みを達成するためのサックバック距離(Lsb)またはサックバック時間(Tsb)を算出する算出部(80)と、前記スクリュ(28)が前記所定の計量位置に到達した後、前記サックバック距離(Lsb)または前記サックバック時間(Tsb)に基づいて前記スクリュ(28)をサックバックさせるサックバック制御部(84)と、を備える。
【0130】
これにより、サックバック距離(Lsb)またはサックバック時間(Tsb)を適切且つ容易に決定する射出成形機(10)の制御装置(20)が提供される。
【0131】
前記スクリュ(28)が前記所定の計量位置に到達した後、前記所定の計量圧力(P1)から大気圧(P0)に減圧される間における前記シリンダ(26)内に計量された前記樹脂の体積の変化量(dVcyl)を取得する体積変化取得部(82)をさらに備え、前記算出部(80)は、前記変化量(dVcyl)および前記目標体積(Vtar)に基づいて、前記サックバック距離(Lsb)または前記サックバック時間(Tsb)を算出してもよい。これにより、算出部(80)は、サックバック距離(Lsb)またはサックバック時間(Tsb)を精度よく算出し得る。
【0132】
前記樹脂の圧力を取得する圧力取得部(76)をさらに備え、前記体積変化取得部(82)は、前記スクリュ(28)が計量中に後退する距離(Lmet)と、前記スクリュ(28)が前記所定の計量位置に到達したときの前記樹脂の圧力(P1)と、に基づいて前記変化量(dVcyl)を取得してもよい。これにより、体積変化取得部(82)は、より信頼性の高い変化量(dVcyl)を取得し得る。
【0133】
前記目標体積(Vtar)をオペレータが指示するための操作部(70)をさらに備えてもよい。これにより、ノズル(40)内の樹脂の、オペレータが指定する目標体積(Vtar)分のシリンダ(26)側への引き込みを達成するサックバック距離(Lsb)またはサックバック時間(Tsb)が算出され得る。
【0134】
前記ノズル(40)の形状および前記ノズル(40)内の前記樹脂を前記ノズル(40)側から前記シリンダ(26)側へ引き込む目標距離(Ltar)に基づいて前記目標体積(Vtar)を算出する関数が前記ノズル(40)の形状に対応付いて複数規定された第1のテーブル(86)を記憶した記憶部(66)をさらに備え、前記算出部(80)は、前記シリンダ(26)に設けられた前記ノズル(40)の形状に対応する前記関数を前記第1のテーブル(86)の中から選択し、選択した前記関数および前記目標距離(Ltar)に基づいて前記サックバック距離(Lsb)または前記サックバック時間(Tsb)を算出してもよい。これにより、算出部(80)は、目標距離(Ltar)から目標体積(Vtar)を算出するための適切な関数を容易に特定し得る。
【0135】
前記記憶部(66)は、前記変化量(dVcyl)と、前記樹脂の種類と、を対応付けた第2のテーブル(88)をさらに記憶し、前記体積変化取得部(82)は、前記第2のテーブル(88)を参照することにより前記樹脂の種類に基づいて前記変化量(dVcyl)を取得してもよい。これにより、体積変化取得部(82)は、変化量(dVcyl)を容易に取得し得る。
【0136】
第1の発明は、目標距離(Ltar)から目標体積(Vtar)を算出しない場合であって体積変化取得部(82)を備えるとき、前記変化量(dVcyl)と、前記樹脂の種類と、を対応付けたテーブル(88)を記憶した前記記憶部(66)をさらに備えてよい。これにより、体積変化取得部(82)は、目標距離(Ltar)から目標体積(Vtar)を算出しない場合においても、変化量(dVcyl)を容易に取得し得る。
【0137】
前記目標距離(Ltar)をオペレータが指示するための操作部(70)をさらに備えてもよい。これにより、ノズル(40)内の樹脂の、オペレータが指定する目標距離(Ltar)分のシリンダ(26)側への引き込みを達成するサックバック距離(Lsb)またはサックバック時間(Tsb)が算出され得る。
【0138】
前記算出部(80)は、前記目標体積(Vtar)が予め決められた制限値(Vmax)を超えている場合に、前記目標体積(Vtar)を前記制限値(Vmax)以下に制限したうえで前記サックバック距離(Lsb)または前記サックバック時間(Tsb)を算出してもよい。これにより、過大な目標体積(Vtar)に基づいて過大なサックバック距離(Lsb)が算出されるおそれが低減され得る。
【0139】
前記算出部(80)は、算出した前記サックバック距離(Lsb)または前記サックバック時間(Tsb)が予め決められた上限値(Lmax、Tmax)を超えている場合に前記サックバック距離(Lsb)または前記サックバック時間(Tsb)を前記上限値(Lmax、Tmax)に補正する補正部(90)を有してもよい。これにより、過大なサックバック距離(Lsb)またはサックバック時間(Tsb)に基づいてサックバックが行われるおそれが低減され得る。
【0140】
算出された前記サックバック距離(Lsb)または前記サックバック時間(Tsb)を報知する報知部(92)をさらに備えてもよい。これにより、オペレータは、制御装置(20)が算出したサックバック距離(Lsb)またはサックバック時間(Tsb)を容易に把握し得る。
【0141】
<第2の発明>
樹脂を入れるシリンダ(26)と、前記シリンダ(26)の先端に設けられるノズル(40)と、前記シリンダ(26)内で進退および回転するスクリュ(28)と、を備え、前記スクリュ(28)を順回転させながら所定の計量圧力(P1)を維持するように所定の計量位置まで後退させることで前記シリンダ(26)内の前記樹脂を溶融しつつ計量する射出成形機(10)の制御方法であって、前記ノズル(40)側から前記シリンダ(26)側に引き込む前記ノズル(40)内の前記樹脂の目標体積(Vtar)に基づいて、前記ノズル(40)内の前記樹脂の前記目標体積(Vtar)分の前記シリンダ(26)側への引き込みを達成するためのサックバック距離(Lsb)またはサックバック時間(Tsb)を算出する算出ステップと、前記スクリュ(28)が前記所定の計量位置に到達した後、前記サックバック距離(Lsb)または前記サックバック時間(Tsb)に基づいて前記スクリュ(28)をサックバックさせるサックバック制御ステップと、を含む。
【0142】
これにより、サックバック距離(Lsb)またはサックバック時間(Tsb)を適切且つ容易に決定する射出成形機(10)の制御方法が提供される。
【符号の説明】
【0143】
10…射出成形機 20…制御装置
26…シリンダ 28…スクリュ
40…ノズル 66…記憶部
70…操作部 76…圧力取得部
80…算出部 82…体積変化取得部
84…サックバック制御部 86…第1のテーブル
88…第2のテーブル 90…補正部
92…報知部