(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/03 20060101AFI20240116BHJP
B60C 11/13 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
B60C11/03 300C
B60C11/03 C
B60C11/13 A
(21)【出願番号】P 2019224642
(22)【出願日】2019-12-12
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】里井 彩
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-194106(JP,A)
【文献】国際公開第2014/084320(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/115770(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/03
B60C 11/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に間隔を置いて複数形成され、トレッド面のタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向外側に向かってタイヤ周方向一方側へ傾斜して延びる傾斜溝と、
前記傾斜溝によって区画された傾斜陸部と、を備え、
前記傾斜陸部は、センターブロック、クオーターブロック及びショルダーブロックに区画され、この順でタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向外側に向かって配置されており、
前記トレッド面のセンターラインからタイヤ幅方向外側に接地半幅の30~70%の領域で、前記傾斜溝の溝深さがタイヤ幅方向内側に向けて大きくなっており、
前記センターブロックのタイヤ周方向の長さが、前記センターブロックのタイヤ幅方向の長さよりも大きく、
前記センターブロックのタイヤ幅方向の長さに対する前記センターブロックのタイヤ周方向の長さの比が1.5以上である
、空気入りタイヤ。
【請求項2】
タイヤ周方向に間隔を置いて複数形成され、トレッド面のタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向外側に向かってタイヤ周方向一方側へ傾斜して延びる傾斜溝と、
前記傾斜溝によって区画された傾斜陸部と、を備え、
前記傾斜陸部は、センターブロック、クオーターブロック及びショルダーブロックに区画され、この順でタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向外側に向かって配置されており、
前記トレッド面のセンターラインからタイヤ幅方向外側に接地半幅の30~70%の領域で、前記傾斜溝の溝深さがタイヤ幅方向内側に向けて大きくなっており、
前記センターブロックのタイヤ周方向の長さが、前記センターブロックのタイヤ幅方向の長さよりも大きく、
前記ショルダーブロックのタイヤ周方向の長さが、前記ショルダーブロックのタイヤ幅方向の長さよりも小さい
、空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記センターブロックと前記クオーターブロックとの間で、及び/または、前記クオーターブロックと前記ショルダーブロックとの間で、ブロック縁の延長線がタイヤ周方向に位置ずれしている、請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記クオーターブロックは、前記センターブロックのタイヤ周方向他方側のブロック縁の延長線に対してタイヤ周方向他方側に突出する突出部を有する、請求項1~3いずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記ショルダーブロックは、前記クオーターブロックのタイヤ周方向他方側のブロック縁の延長線に対してタイヤ周方向他方側に突出する突出部を有する、請求項1~4いずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、それぞれ、トレッド面のタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向外側に向かってタイヤ周方向一方側へ傾斜して延びる傾斜溝と、その傾斜溝などで区画された複数のブロックとを備えた空気入りタイヤが記載されている。かかる傾斜溝が設けられていることにより、タイヤ幅方向外側への排水効率が高められる。
【0003】
特許文献2に記載のタイヤは、接地端に向かって傾斜溝の溝深さを小さくすることにより、排水性能とドライ性能(乾燥した路面での操縦安定性能や制動性能)との両立を図っている。しかし、トレッド面のタイヤ幅方向中央部で溝深さが大きいためにブロックの剛性が低下する傾向にあり、ドライ性能が十分に発揮されない恐れがある。かかる傾向は、特にブロックパターンで且つ多数のサイプが形成されている場合に顕著である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-1617号公報
【文献】特開2016-578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の目的は、排水性能とドライ性能とを高次元で両立できる空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に間隔を置いて複数形成され、トレッド面のタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向外側に向かってタイヤ周方向一方側へ傾斜して延びる傾斜溝と、前記傾斜溝によって区画された傾斜陸部と、を備え、前記傾斜陸部は、センターブロック、クオーターブロック及びショルダーブロックに区画され、この順でタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向外側に向かって配置されており、前記トレッド面のセンターラインからタイヤ幅方向外側に接地半幅の30~70%の領域で、前記傾斜溝の溝深さがタイヤ幅方向内側に向けて大きくなっており、前記センターブロックのタイヤ周方向の長さが、前記センターブロックのタイヤ幅方向の長さよりも大きい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本開示の空気入りタイヤのトレッド面の一例を示す平面展開図
【
図3】
図1のトレッドパターンの一部を抽出して示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0009】
図1は、本実施形態の空気入りタイヤPT(以下、単に「タイヤPT」ともいう)が備えるトレッド面Trの平面展開図である。
図1の上下方向がタイヤ周方向に相当し、
図1の左右方向がタイヤ幅方向に相当する。
図1に示すように、トレッド面Trに形成されているトレッドパターンは、ブロックパターンである。
【0010】
本実施形態の空気入りタイヤPTは、回転方向が指定された回転方向指定型タイヤである。図面では、回転方向を矢印RDで示している。回転方向の指定は、例えば、タイヤPTのサイドウォール部の外表面に、回転方向を示す表示(例えば、矢印)を付すことにより行われる。
【0011】
空気入りタイヤPTは、タイヤ周方向に間隔を置いて複数形成された傾斜溝1と、その傾斜溝1によって区画された傾斜陸部2とを備える。傾斜溝1は、トレッド面Trのタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向外側に向かってタイヤ周方向一方側CD1へ傾斜して延びる。タイヤ周方向一方側CD1は、回転方向RDの後方側に相当する。傾斜陸部2は、センターブロック3、クオーターブロック4及びショルダーブロック5に区画され、この順でタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向外側に向かって配置されている。センターブロック3、クオーターブロック4及びショルダーブロック5は、それぞれ平面視で四角形(四辺形)をなすが、これに限られない。
【0012】
傾斜陸部2を構成するブロックのうち、センターブロック3が最もタイヤ幅方向内側に位置し、ショルダーブロック5が最もタイヤ幅方向外側に位置する。傾斜陸部2は、一対の接続溝6,7によって三つのブロックに区画されている。接続溝6は、センターブロック3とクオーターブロック4とを区画し、接続溝7は、クオーターブロック4とショルダーブロック5とを区画する。接続溝6,7は、それぞれタイヤ周方向に延びて傾斜溝1同士を接続している。接続溝6,7は、それぞれタイヤ周方向他方側CD2に向かってタイヤ幅方向外側に傾斜している。タイヤ周方向他方側CD2は、回転方向RDの前方側に相当する。
【0013】
本実施形態の空気入りタイヤPTは、タイヤ周方向に連続して延びたセンター主溝8を備える。これにより排水効率が高められるので、排水性能を確保するうえで都合がよい。センター主溝8は、トレッド面Trのタイヤ幅方向中央部に配置される。本実施形態では、センター主溝8が、トレッド面TrのセンターラインCL(タイヤ赤道)を通っている。傾斜溝1は、センター主溝8からタイヤ幅方向外側に延びて接地端TEに達している。センター主溝8の形状は、本実施形態のようなストレート状に限られず、ジグザグ状であってもよい。また、センター主溝8が設けられていなくてもよい。
【0014】
センターラインCL(及びセンター主溝8)は、トレッド面Trをタイヤ幅方向に二分し、一対のトレッド半領域を形成している。その一方側(
図1の右側)のトレッド半領域は、複数のセンターブロック3がタイヤ周方向に配列されたセンター領域3a、複数のクオーターブロック4がタイヤ周方向に配列されたクオーター領域4a、及び、複数のショルダーブロック5がタイヤ周方向に配列されたショルダー領域5aを有し、この順でタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向外側に向かって設けられている。
【0015】
接地端TEは、タイヤPTを正規リムにリム組みし、正規内圧を充填した状態でタイヤPTを平坦な路面に垂直に置き、正規荷重を加えたときの接地面のタイヤ幅方向の最外位置である。接地幅Wは、その接地面の幅であり、一対の接地端TE間のタイヤ幅方向の距離である。接地幅Wの半分が接地半幅HWである。
【0016】
正規リムは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤごとに定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRA及びETRTOであれば「Measuring Rim」となる。正規内圧は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤごとに定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、ETRTOであれば「INFLATION PRESSURE」である。なお、タイヤが乗用車用である場合には180kPaとし、さらに、Extra LoadまたはReinforcedと記載されたタイヤである場合には220kPaとする。正規荷重は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤごとに定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば上記の表に記載の最大値、ETRTOであれば「LOAD CAPACITY」であるが、タイヤが乗用車用である場合には内圧の対応荷重の88%とする。
【0017】
図2は、タイヤ回転軸を含む平面で切断したタイヤPTを示すタイヤ子午線半断面図である。
図2の右側がタイヤ幅方向外側、左側がタイヤ幅方向内側に相当する。接続溝6,7を省略し、傾斜陸部2を概略的に示している。このタイヤPTでは、センターラインCLからタイヤ幅方向外側に接地半幅HWの30~70%の領域Arで、傾斜溝1の溝深さD1がタイヤ幅方向内側に向けて大きくなっている。傾斜溝1の溝深さD1は、接地幅Wなどを定める際の上記条件で接地させたタイヤに対し、トレッド面Trに対して垂直な方向における、傾斜陸部2の表面から傾斜溝1の溝底1Bまでの距離として求められる。
【0018】
領域Arでは、溝深さD1がタイヤ幅方向内側に向けて徐々に大きくなるように、溝底1Bがトレッド面Trに対して傾斜している。溝深さD1が変化する部分は、領域Arの外側にはみ出していてもよい。センターラインCLからタイヤ幅方向外側に接地半幅HWの30%での溝深さD1aは、同じく接地半幅HWの70%での溝深さD1bよりも大きい。よって、溝深さD1aは、溝深さD1bの100%を超えており、例えば溝深さD1bの110~160%である。
【0019】
ショルダー領域5aでは溝深さD1が相対的に小さいため、ドライ性能に対する寄与が大きいショルダーブロック5の剛性が確保される。また、センター領域3aでは溝深さD1が相対的に大きいため、傾斜溝1を備えることと相俟って、排水性能が向上する。これにより、濡れた路面でのハイドロプレーニング現象の発生が抑えられる。一方で、センター領域3aでは溝深さD1が相対的に大きいためにセンターブロック3の剛性が低下する傾向にあり、ドライ性能が十分に発揮されない恐れがある。そこで、このタイヤPTでは、後述するような縦長形状をセンターブロック3に採用し、それによってドライ性能の悪化を抑制している。
【0020】
図3のように、このタイヤPTでは、センターブロック3のタイヤ周方向の長さL3が、そのセンターブロック3のタイヤ幅方向の長さ(即ち、幅W3)よりも大きい。これにより、タイヤ周方向におけるセンターブロック3の剛性低下が抑えられ、ドライ性能の悪化を抑制できる。幅W3に対する長さL3の比L3/W3は、1.5以上であることが好ましい。これにより、タイヤ周方向におけるセンターブロック3の剛性を高めて、ドライ性能を効果的に向上できる。長さL3及び幅W3は、それぞれセンターブロック3の頂面の形状に基づいて求められる。長さL4,L5及び幅W4,W5も同様である。
【0021】
ショルダーブロック5のタイヤ周方向の長さL5は、そのショルダーブロック5のタイヤ幅方向の長さ(即ち、幅W5)と同じか、それよりも小さいことが好ましい。本実施形態では、長さL5が幅W5よりも小さい。これにより、タイヤ幅方向におけるショルダーブロック5の剛性を高めて、ドライ性能(特には乾燥した路面での操縦安定性能)を効果的に向上できる。加えて、ショルダーサイプ5sによるエッジ成分が増えることで、スノートラクション性能(雪上駆動性能)の向上に資する。幅W5に対する長さL5の比L5/W5は、例えば0.4~1.0(更に言えば0.4以上1.0未満)である。長さL5及び幅W5は、いずれも接地面内で求められる。
【0022】
クオーターブロック4のタイヤ周方向の長さL4は、そのクオーターブロック4のタイヤ幅方向の長さ(即ち、幅W4)と同じか、それよりも大きいことが好ましい。本実施形態では、長さL4が幅W4よりも大きい。幅W4に対する長さL4の比L4/W4は、例えば1.0~1.5である。これにより、タイヤ周方向におけるクオーターブロック4の剛性低下が抑えられ、ドライ性能に寄与できる。また、比L4/W4を1.5以下にすることにより、排水性能を確保するのに有利な傾斜角度θ4を採用しつつ、操縦安定性にも有利に作用する。
【0023】
センターブロック3が設けられた領域(即ち、センター領域3a)における傾斜溝1のタイヤ幅方向に対する傾斜角度θ3は、例えば40~60度である。これにより、排水性能とスノートラクション性能を両立するうえで都合がよい。傾斜角度θ3は、センターブロック3の踏込側となるタイヤ周方向他方側CD2の先端からタイヤ幅方向外側に延びるブロック縁のタイヤ幅方向に対する角度として求めることができる。傾斜角度θ3は、後述する傾斜角度θ4及び傾斜角度θ5よりも大きいことが好ましい。
【0024】
クオーターブロック4が設けられた領域(即ち、クオーター領域4a)における傾斜溝1のタイヤ幅方向に対する傾斜角度θ4は、例えば30~50度である。これにより、排水性能とスノートラクション性能を両立するうえで都合がよい。傾斜角度θ4は、クオーターブロック4の踏込側となるタイヤ周方向他方側CD2の先端からタイヤ幅方向外側に延びるブロック縁のタイヤ幅方向に対する角度として求めることができる。傾斜角度θ4は、後述する傾斜角度θ5よりも大きいことが好ましい。
【0025】
ショルダーブロック5が設けられた領域(即ち、ショルダー領域5a)における傾斜溝1のタイヤ幅方向に対する傾斜角度θ5は、例えば0~20度である。これにより、ドライ制動性能とスノートラクション性能を両立するうえで都合がよい。傾斜角度θ5は、ショルダーブロック5の踏込側となるタイヤ周方向他方側CD2の先端からタイヤ幅方向外側に延びるブロック縁のタイヤ幅方向に対する角度として求めることができる。
【0026】
図4Aは、
図3のX部を示す拡大図であり、サイプの図示は省略している。センターブロック3のタイヤ周方向他方側CD2のブロック縁の延長線EL3と、クオーターブロック4のタイヤ周方向他方側CD2のブロック縁の延長線EL4とが破線で示されている。接続溝6を挟んで互いに隣接するセンターブロック3とクオーターブロック4との間で、ブロック縁の延長線EL3,EL4はタイヤ周方向に位置ずれしており、互いに交差しない位置関係にある。延長線EL4は延長線EL3よりもタイヤ周方向他方側CD2に位置するが、これらは反対でもよい。
【0027】
図4Bは、
図3のY部を示す拡大図であり、サイプの図示は省略している。クオーターブロック4のタイヤ周方向他方側CD2のブロック縁の延長線EL4と、ショルダーブロック5のタイヤ周方向他方側CD2のブロック縁の延長線EL5とが破線で示されている。接続溝7を挟んで互いに隣接するクオーターブロック4とショルダーブロック5との間で、ブロック縁の延長線EL4,EL5はタイヤ周方向に位置ずれしており、互いに交差しない位置関係にある。延長線EL5は延長線EL4よりもタイヤ周方向他方側CD2に位置するが、これらは反対でもよい。
【0028】
本実施形態のように、センターブロック3とクオーターブロック4との間で、及び/または、クオーターブロック4とショルダーブロック5との間で、ブロック縁の延長線がタイヤ周方向に位置ずれしていることが好ましい。それにより、エッジ成分を増やして雪上での走行性能を高めることができる。また、回転方向RDの前方側となるタイヤ周方向他方側CD2のブロック縁が位置ずれしていることにより、雪上での駆動性能や操縦安定性能に資する。
【0029】
本実施形態では、
図4Aのように、クオーターブロック4が、延長線EL3に対してタイヤ周方向他方側CD2に突出する突出部40を有する。これにより、踏込側に突出した突出部40がエッジ効果を奏して、スノートラクション性能を向上できる。かかる構成でも、上述した溝深さD1の変化により排水性能は確保される。突出部40は、傾斜溝1に向けて先細りとなるV字状に形成されている。突出部40の突出量P40は、好ましくは0.5mm以上であり、より好ましくは1.0mm以上である。突出量P40は、クオーターブロック4のタイヤ周方向他方側CD2のブロック縁のタイヤ幅方向内側端と、延長線EL3がクオーターブロック4に交わる点との距離として求められる。
【0030】
本実施形態では、
図4Bのように、ショルダーブロック5が、延長線EL4に対してタイヤ周方向他方側CD2に突出する突出部50を有する。これにより、踏込側に突出した突出部50がエッジ効果を奏して、スノートラクション性能を向上できる。かかる構成でも、上述した溝深さD1の変化により排水性能は確保される。突出部50は、傾斜溝1に向けて先細りとなるV字状に形成されている。突出部50の突出量P50は、好ましくは0.5mm以上であり、より好ましくは1.0mm以上である。突出量P50は、ショルダーブロック5のタイヤ周方向他方側CD2のブロック縁のタイヤ幅方向内側端と、延長線EL4がショルダーブロック5に交わる点との距離として求められる。
【0031】
図3のように、センターブロック3には、複数のセンターサイプ3sが形成されている。センターサイプ3sの両端は溝に接続されているが、片端または両端がブロック内で終端してもよい。センターサイプ3sは、タイヤ幅方向と交差するように延び、且つ、傾斜溝1に接するセンターブロック3のブロック縁と交差するように延びている。センターサイプ3sは、直線状に延びる直線サイプ3s1と、屈曲部を有する屈曲サイプ3s2とを含む。直線サイプ3s1は、センターブロック3のタイヤ周方向の端部に配置され、屈曲サイプ3s2は、センターブロック3のタイヤ周方向の中央部に配置されている。
【0032】
クオーターブロック4には、複数のクオーターサイプ4sが形成されている。クオーターサイプ4sの両端は溝に接続されているが、これに限られない。クオーターサイプ4sは、タイヤ幅方向と交差するように延び、且つ、傾斜溝1に接するクオーターブロック4のブロック縁と交差するように延びている。クオーターサイプ4sは、直線状に延びる直線サイプ4s1と、屈曲部を有する屈曲サイプ4s2とを含む。直線サイプ4s1は、クオーターブロック4のタイヤ周方向の端部に配置され、屈曲サイプ4s2は、クオーターブロック4のタイヤ周方向の中央部に配置されている。クオーターサイプ4sがタイヤ幅方向と交差する角度θ4sは、センターサイプ3sがタイヤ幅方向と交差する角度θ3sよりも大きい。
【0033】
ショルダーブロック5には、複数のショルダーサイプ5sが形成されている。ショルダーサイプ5sの一端は溝に接続され、他端は接地端TEに達しているが、これに限られない。ショルダーサイプ5sは、直線状に延びる直線サイプ5s1と、屈曲部を有する屈曲サイプ5s2とを含む。屈曲サイプ5s2の屈曲部は波形状を有するが、これに限られず、このことは屈曲サイプ3s2や屈曲サイプ4s2でも同様である。ショルダーサイプ5sがタイヤ幅方向と交差する角度θ5sは、クオーターサイプ4sがタイヤ幅方向と交差する角度θ4sよりも小さい。サイプ3s,4s,5sは、幅1.6mm未満の切り込みにより形成されている。
【0034】
本実施形態では、トレッド面Trのタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向の両外側に向かってタイヤ周方向一方側CD1へ傾斜して延びる、一対の傾斜溝1,11が設けられている。傾斜溝1,11及びセンター主溝8が、トレッド面Trの主溝である。他方側(
図1の左側)のトレッド半領域には、タイヤ周方向に間隔を置いて複数形成された傾斜溝11と、その傾斜溝11によって区画された傾斜陸部12とが設けられている。傾斜溝11は、トレッド面Trのタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向外側に向かってタイヤ周方向一方側CD1へ傾斜して延びている。傾斜陸部12は、接続溝16及び接続溝17によって、センターブロック13、クオーターブロック14及びショルダーブロック15に区画され、この順でタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向外側に向かって配置されている。
【0035】
他方側のトレッド半領域のパターンは、一方側のトレッド半領域のパターンをセンターラインCLに関して反転させた形状であるため、重複した説明を省略する。一方側のトレッド半領域について説明した事項は、他方側のトレッド半領域にも当て嵌まる。したがって、上述した領域Arで溝深さD1が変化する形状と、センターブロック3の縦長形状は、一方側のトレッド半領域と同様に、他方側のトレッド半領域でも成立する。これらの形状は、少なくとも片側のトレッド半領域で成立していればよいが、本実施形態のように両側のトレッド半領域で成立することが好ましい。
【0036】
本実施形態では、一方側のトレッド半領域のパターンに対して、他方側のトレッド半領域のパターンがタイヤ周方向にシフト(位置ずれ)している。これにより、排水性能とドライ性能を両立しながら、ヒールアンドトウ摩耗などの偏摩耗の発生を抑制できる。この位置ずれ量となるシフト長さSL(
図3参照)は、例えばピッチ長P(
図1参照)の10~50%である。但し、これに限られず、両側のトレッド半領域のパターンのタイヤ周方向位置が互いに一致していてもよい。
【0037】
本実施形態の空気入りタイヤPTは、上記の如きブロックパターンのトレッド面Trを有し且つ多数のサイプ3s,4s,5sが形成されており、排水性能とドライ性能に優れているとともに、スノートラクション性能に優れるため、雪用タイヤまたはオールシーズンタイヤとして有用である。雪用タイヤである場合において、トレッド面Trを形成するトレッドゴムのゴム硬度は、例えば55~73°である。このゴム硬度は、JISK6253のデュロメータ硬さ試験(タイプA)に準じて25℃で測定した硬度である。
【0038】
以上のように、本実施形態の空気入りタイヤPTは、タイヤ周方向に間隔を置いて複数形成され、トレッド面Trのタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向外側に向かってタイヤ周方向一方側CD1へ傾斜して延びる傾斜溝1と、傾斜溝1によって区画された傾斜陸部2と、を備える。傾斜陸部2は、センターブロック3、クオーターブロック4及びショルダーブロック5に区画され、この順でタイヤ幅方向中央部からタイヤ幅方向外側に向かって配置されている。トレッド面TrのセンターラインCLからタイヤ幅方向外側に接地半幅HWの30~70%の領域Arで、傾斜溝1の溝深さD1はタイヤ幅方向内側に向けて大きくなっている。センターブロック3のタイヤ周方向の長さL3は、センターブロック3のタイヤ幅方向の長さとしての幅W3よりも大きい。
【0039】
このタイヤPTによれば、傾斜溝1を備えていることにより、タイヤ幅方向外側への排水効率が高められる。また、傾斜溝1の溝深さD1がタイヤ幅方向内側に向かって大きくなっているため、ドライ性能に対する寄与が大きいショルダーブロック5の剛性を確保しながら、排水性能を向上できる。更に、長さL3が幅W3よりも大きいことにより、タイヤ周方向におけるセンターブロック3の剛性低下が抑えられ、ドライ性能の悪化が抑制される。その結果、排水性能とドライ性能とを高次元で両立できる。
【0040】
本実施形態の空気入りタイヤPTでは、センターブロック3のタイヤ幅方向の長さとしての幅W3に対するセンターブロック3のタイヤ周方向の長さL3の比L3/W3が1.5以上である。これにより、タイヤ周方向におけるセンターブロック3の剛性を高めて、ドライ性能を効果的に向上できる。
【0041】
本実施形態の空気入りタイヤPTでは、センターブロック3とクオーターブロック4との間で、及び/または、クオーターブロック4とショルダーブロック5との間で、ブロック縁の延長線がタイヤ周方向に位置ずれしている。これにより、エッジ成分を増やして雪上での走行性能を高めることができる。
【0042】
本実施形態の空気入りタイヤPTでは、クオーターブロック4が、センターブロック3のタイヤ周方向他方側CD2のブロック縁の延長線EL3に対してタイヤ周方向他方側CD2に突出する突出部40を有する。突出部40がエッジ効果を奏することにより、スノートラクション性能が向上する。
【0043】
本実施形態の空気入りタイヤPTでは、ショルダーブロック5が、クオーターブロック4のタイヤ周方向他方側CD2のブロック縁の延長線EL4に対してタイヤ周方向他方側CD2に突出する突出部50を有する。突出部50がエッジ効果を奏することにより、スノートラクション性能が向上する。
【0044】
本実施形態の空気入りタイヤPTでは、ショルダーブロック5のタイヤ周方向の長さL5が、ショルダーブロック5のタイヤ幅方向の長さとしての幅W5よりも小さい。これにより、タイヤ幅方向におけるショルダーブロック5の剛性を高めて、ドライ性能(特には乾燥した路面での操縦安定性能)を効果的に向上できる。加えて、ショルダーサイプ5sによるエッジ成分が増えることで、スノートラクション性能の向上に資する。
【0045】
空気入りタイヤPTは、トレッド面Trを上記の如く構成すること以外は、通常の空気入りタイヤと同等に構成でき、従来公知の材料、形状、構造、製法などは何れも採用することができる。
図2に概略的に示すように、空気入りタイヤPTは、一対のビード部91と、そのビード部91の各々からタイヤ径方向外側(
図2の上側)に延びる一対のサイドウォール部92と、その一対のサイドウォール部92の各々のタイヤ径方向外側端に連なるトレッド部93とを備えており、そのトレッド部93の外周面がトレッド面Trによって形成されている。
【0046】
本開示の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、この実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、更に、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれる。
【0047】
本開示の空気入りタイヤは、上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、また、上記した作用効果に限定されるものではない。本開示の空気入りタイヤは、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。
【実施例】
【0048】
本開示の空気入りタイヤの構成と効果を具体的に示すため、下記(1)~(3)の評価試験を行ったので説明する。これらの評価試験では、
図1の如きトレッドパターンを有するテストタイヤ(タイヤサイズ:205/55R16 91H)を使用し、これをJATMAに規定されるサイズの標準リムに装着して、車両指定の空気圧を充填した。表1に示した構成を除いて、各例におけるタイヤ構造やゴム配合は共通している。
【0049】
(1)排水性能(耐ハイドロプレーニング性能)
テストタイヤを装着した実車(2名乗車)で、一方の片輪が水深10mmの水路、他方の片輪が乾燥路となる直進路を走行し、左右輪のスリップ率差10%に到達した速度を計測した。参考例の結果を100とした指数で評価し、数値が大きいほど排水性能に優れることを示す。
【0050】
(2)ドライ性能(ドライ操縦安定性能)
テストタイヤを装着した実車(2名乗車)で走行し、乾燥した路面で加速や制動、旋回などを実施して、ドライバーによる操縦安定性の官能評価を行った。参考例の結果を100とした指数で評価し、数値が大きいほど耐偏摩耗性能に優れることを示す。
【0051】
(3)スノートラクション性能
テストタイヤを装着した実車(2名乗車)で雪道を走行し、停止状態から20m地点到達までの時間を測定して、その逆数を算出した。参考例の結果を100とした指数で評価し、数値が大きいほどスノートラクション性能に優れることを示す。
【0052】
【0053】
表1に示すように、実施例1~5では、参考例よりも高い次元で、排水性能とドライ性能(ドライ操縦安定性能)とを両立できている。ドライ性能については、実施例2~5の評価結果が比較的良好である。更に、実施例3~5では、スノートラクション性能を向上できている。
【符号の説明】
【0054】
1・・・傾斜溝、2・・・傾斜陸部、3・・・センターブロック、4・・・クオーターブロック、5・・・ショルダーブロック、6・・・接続溝、7・・・接続溝、8・・・センター主溝、40・・・突出部、50・・・突出部、CD1・・・タイヤ周方向一方側、CD2・・・タイヤ周方向他方側、CL・・・センターライン、TL・・・接線、Tr・・・トレッド面、