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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】セラミックス回路基板
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/18 20060101AFI20240116BHJP
   H01L 21/52 20060101ALI20240116BHJP
   H01L 23/13 20060101ALI20240116BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
H05K3/18 J
H01L21/52 B
H01L23/12 C
H01L23/12 D
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019523959
(86)(22)【出願日】2018-06-07
(86)【国際出願番号】 JP2018021810
(87)【国際公開番号】W WO2018225809
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-02-24
【審判番号】
【審判請求日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2017113946
(32)【優先日】2017-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】青野 良太
(72)【発明者】
【氏名】中原 史博
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩二
(72)【発明者】
【氏名】津川 優太
【合議体】
【審判長】山田 正文
【審判官】須原 宏光
【審判官】岩間 直純
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/114987(WO,A1)
【文献】特開2015-053414(JP,A)
【文献】特開2015-216314(JP,A)
【文献】特開2002-301737(JP,A)
【文献】特開2011-040668(JP,A)
【文献】特開2009-010360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/18
H05K 3/32
H01L 23/13
H01L 23/26
H01L 25/07
H01L 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウムまたは窒化珪素を用いてなるセラミックス基板の両主面に、銅板がろう材を介して接合され、少なくとも一方の主面の銅板上に銀めっきが施されたセラミックス回路基板であって、銅板側面は銀めっきが施されておらず、銀めっきの厚みが0.1μmから1.5μmであり、銀めっき後の回路基板の表面粗さの算術平均粗さRaが0.1μmから1.5μmであり、銅板の厚みが0.8mm以上であることを特徴とするセラミックス回路基板。
【請求項2】
無電解の銀めっきを行うことを含む、請求項1に記載のセラミックス回路基板の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のセラミックス回路基板の銀めっき上に銀ナノ粒子を用いて半導体素子が接合されたパワーモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール等に利用される回路用基板として、熱伝導率やコスト、安全性等の点から、アルミナ、ベリリア、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等のセラミックス基板が利用されている。これらのセラミックス基板は、銅やアルミニウム等の金属回路板や放熱板を接合し回路基板として用いられる。これらは、樹脂基板や樹脂層を絶縁材とする金属基板に対し、優れた絶縁性および放熱性等を有することから、高放熱性電子部品を搭載するための基板として使用されている。
【0003】
エレベーター、車両、ハイブリッドカー等といったパワーモジュール用途には、セラミックス基板の表面に、金属回路板をろう材で接合し、更に金属回路板の所定の位置に半導体素子を搭載したセラミック回路基板が用いられている。近年では、半導体素子の高集積化、高周波化、高出力化等に伴う半導体素子からの発熱量の増加に対し、高い熱伝導率を有する窒化アルミニウム焼結体や窒化ケイ素焼結体のセラミックス基板が使用されている。
【0004】
また、セラミックス回路基板と半導体素子は従来Sn系はんだを用いた接合法で接合されているため、高出力化等の発熱量増大に伴い、はんだの再溶融による信頼性低下が問題となることが予想される。更に、将来の高効率デバイスとして期待されているSiCは駆動温度が250℃以上とSiよりもさらに高温化が予想されており、更なる高温対応実装技術の適用が必要とされている。
【0005】
これらの技術課題を解決するため、銀等のナノ粒子による接合技術の検討がなされてきた。金属粒子を数nmサイズとすると、見かけ上の融点がバルク材のそれより低くなることが知られており、融点以下で接合でき、さらに接合後は粒子材の融点まで溶融することは不可逆的な現象となり得ると考えられる(特許文献1)。
【0006】
半導体素子の銀ナノ粒子接合により高耐熱性や高放熱性をターゲットとしたデバイスへの適用が期待できる。
【0007】
銀ナノ粒子接合の被接合物は銅無垢の表面より銀めっきされた表面が容易に接合でき接合強度が高いことが知られている。
【0008】
セラミックス回路基板の銅部全面に銀めっきを行うことは容易に可能だが、銀は硫黄との反応性が非常に高い。
【0009】
更に、銀めっき面はEMC等のパワーモジュール封止樹脂との密着性に優れないため、パワーモジュールの性能、信頼性低下に繋がる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2011-80147
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、耐マイグレーション性およびモジュール用封止樹脂との密着性向上を具備した回路基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、導体側面に銀めっきが施されている場合、銀のマイグレーションによる導体間ショートが発生する可能性があること、また導体側面は傾斜形状となるため、樹脂に気孔が生じやすいことを見出し、側面から銀めっきが除去された構造とすることで、耐マイグレーション性およびモジュール用封止樹脂との密着性を向上させる技術を確立した。
即ち、本発明は、窒化アルミニウムまたは窒化珪素を用いてなるセラミックス基板の両主面に、銅板がろう材を介して接合され、少なくとも一方の主面の銅板上に銀めっきが施されたセラミックス回路基板であって、銅板側面は銀めっきが施されておらず、銀めっきの厚みが0.1μmから1.5μmであり、銀めっき後の回路基板の表面粗さの算術平均粗さRaが0.1μmから1.5μmであることを特徴とするセラミックス回路基板である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、半導体素子の銀ナノ粒子接合が容易でかつ耐マイグレーション性およびモジュール用封止樹脂との高密着性を持つセラミックス回路基板を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】セラミックス回路基板の断面図の一例
図2】セラミックス回路基板の断面図の一例
図3】セラミックス回路基板の平面図(図1の平面図)
【発明を実施するための形態】
【0015】
[セラミックス回路基板]
本発明は、窒化アルミニウムまたは窒化珪素を用いてなるセラミックス基板の両主面に、銅板がろう材を介して接合され、少なくとも一方の主面の銅板上に銀めっきが施されたセラミックス回路基板であって、銅板側面は銀めっきが施されておらず、銀めっきの厚みが0.1μmから1.5μmであり、銀めっき後の回路基板の表面粗さの算術平均粗さRaが0.1μmから1.5μmであることを特徴とするセラミックス回路基板である。
本発明のセラミックス回路基板に使用されるセラミックス基板としては、特に限定されるものではなく、窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどの窒化物系セラミックス、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムなどの酸化物系セラミックス、炭化ケイ素等の炭化物系セラミックス、ほう化ランタン等のほう化物系セラミックス等で使用できる。但し、金属板を活性金属法でセラミックス基板に接合するため、窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の非酸化物系セラミックスが好適であり、更に、優れた機械強度、破壊靱性の観点より、窒化ケイ素基板が好ましい。
【0016】
本発明の一実施形態において、セラミックス基板の厚みは特に限定されないが、0.1~3.0mm程度のものが一般的であり、特に、回路基板全体の熱抵抗率低減を考慮すると、1.0mm以下が好ましい。
【0017】
本発明の一実施形態において、金属板に使用する金属は、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル、クロム、銀、モリブテン、コバルトの単体またはその合金など、活性金属法を適用できる金属であれば特に限定は無いが、特に導電性、放熱性の観点から銅が好ましい。
【0018】
本発明の一実施形態において、銅板の純度は、90%以上であることが好ましい。純度を90%以上とすることで、セラミックス基板と銅板を接合する際、銅板とろう材の反応が不十分となったり、銅板が硬くなり回路基板の信頼性が低下するのを抑制することができる。
【0019】
本発明の一実施形態において、銅板の厚みは特に限定されないが、0.1~1.5mmのもの一般的であり、特に、放熱性の観点から、0.3mm以上が好ましく、より好ましくは0.5mm以上であり、さらに好ましくは0.8mm以上である。
【0020】
銀めっきの厚みは0.1μmから1.5μmが好ましく、より好ましくは0.3μmから1.0μmである。0.1μmより薄いと部分的に銀がめっきされていない部分が発生し、半導体素子接合時に半導体と銅体の間に空隙ができ、熱抵抗が低下する。また、1.5μm以上では銀めっきの密着性が低下する可能性がある。
【0021】
銀めっき表面の算術平均粗さRaは、0.1μmから1.5μmが好ましく、より好ましくは、0.1μmから1.0μm以下である。0.1μmより小さいと銅表面の加工が必要となり、製造コストが高額となる。1.5μm超えるとなると、半導体素子と銀めっきとの密着性が低下する可能性がある。
また、本発明の一実施形態のセラミックス回路基板の、パターン間距離0.5mmから成るくし型電極付き基板を使用し、恒温恒湿槽にて85℃、93%RHの雰囲気下でDC1kVを500Hr印加した後のパターン間の絶縁抵抗値は、1×10Ω以下が好ましい。
さらに、本発明の一実施形態のセラミックス回路基板の、2枚の回路基板の間にEMC樹脂を挟みこみ硬化させた後の引張り試験器でせん断応力を測定した値は、20kg/cm以上であることが好ましい。
【0022】
[セラミックス回路基板の製造方法]
本発明のセラミックス回路基板の製造方法は、無電解の銀めっきを行うことを含む、製造方法である。
銀めっきは薄膜成形が可能であるが、さらに表面内の膜厚ばらつきを低減できる無電解めっきであることが好ましい。
【0023】
導体表面の銀めっきが施される箇所は、図1に示す部分的な銀めっきでも図2に示す全面銀めっきでも良いが、めっき費用の観点から部分的であることが好ましい。
【0024】
導体側面に銀めっきが施されていない構造とする手法は、銀めっき処理後に回路形成を行う手法や回路形成後に脱銀処理する手法を採用することができる。
【0025】
EMC樹脂は金属の表面酸化膜との密着性に優れるため、酸化膜が形成されにくい銀等の貴金属より銅表面の方が密着し易い。
【実施例
【0026】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。しかし、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例]
厚み0.32mm、外形サイズ50mm×50mmの窒化珪素基板の両主面に銀と銅を主成分とする接合材を塗布後、無酸素銅C1020の板で挟み積層した。この積層体を加圧しながら、真空中で加熱し、銅-セラミックス接合体を製造した。
【0027】
得られた接合体の表裏銅板の銀めっきを施さない部分に紫外線硬化型のめっきレジストを塗付した。銅露出部に銀めっきの前処理を行うことで、銀めっき後の表面粗さを調整した。その後、無電解の銀めっきを所定の時間処理することにより、0.1μm~1.5μmの厚みの銀めっきを施した。めっきレジストはアルカリ溶液により除去することで、銀が部分的に配置された銅-セラミックス接合体を製造した。
【0028】
得られた接合体の表側銅板上に紫外線硬化型のエッチングレジストをスクリーン印刷にて回路パターンに塗布した。また、裏側銅板については、エッチングされないように、スクリーン印刷にて、全面をマスキングするようにエッチングレジストを塗布した。エッチングは、CuCl液を用いてエッチング処理を行って不要部分を溶解除去し、銅回路パターンを形成した。
【0029】
得られた銅回路基板をアルカリ溶液に浸漬し、エッチングレジストを除去することで、導体表面に銀めっきが施され且つその側面は銀めっきが施されていない構造を有する回路基板を製造した。
【0030】
得られたセラミックス回路基板の銀めっき上に、Siチップを銀ナノ粒子で接合した後、基板裏面側に銅ベース板をはんだ付けしてモジュール化した。
【0031】
[比較例]
実施例の無電解銀めっきの処理時間を短くすることにより、薄膜銀めっきを作製し、処理時間を長くすることにより厚膜銀めっきの回路基板を作製した。
【0032】
実施例のめっきレジストを塗付せず、銀めっきを銅表面全体に施した回路基板を作製した。
【0033】
回路形成後に銀めっき処理し、導体側面に銀めっきが施された回路基板を作製した。
【0034】
<銀めっき厚みの測定>
銀めっき厚みは、5000倍から10000倍の倍率での断面SEM観察により長さ50μmの範囲で厚みを複数枚測定し、その平均値とした。
【0035】
<表面粗さの算術平均粗さの測定>
表面粗さの算術平均粗さは、装置SJ-301(株式会社ミツトヨ製)を使用し、基準長さ0.8mmで銀めっき表面について複数箇所測定し、その平均値とした。
【0036】
<金メッキ密着性の評価>
銀めっき密着性は鋭利な刃物でめっき面に2mmの正方形ができるように素地まで達する切込みを入れて、粘着力のあるテープを貼り付け、これを急速に、且つ、強く引き剥がすことによって剥離の有無を調べた。
【0037】
<マイグレーション評価>
マイグレーション評価はパターン間距離0.5mmから成るくし型電極付き基板を使用し、恒温恒湿槽にて85℃、93%RHの雰囲気下でDC1kVを500Hr印加した。その後、パターン間の絶縁抵抗値を測定し、以下の2つにランク分けした。
○:≧1×10Ω、×:<1×10Ω
【0038】
<EMC樹脂との密着性評価>
EMC樹脂との密着性評価は、2枚の回路基板の間にEMC樹脂を挟みこみ硬化させた後、引張り試験器でせん断応力を測定し、以下の2つにランク分けした。
○:≧20kg/cm、×:<20kg/cm
【0039】
評価結果を表1にまとめた。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示す通り、導体表面に銀めっきが施され且つその側面は銀めっきが施されていない構造とすることで、耐マイグレーション性およびモジュール用封止樹脂との高密着性を有することを確認した。
【符号の説明】
【0042】
1 セラミックス基板
2 銅板
3 銀めっき
図1
図2
図3