(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】自己不活性化ウイルスベクター
(51)【国際特許分類】
C12N 15/86 20060101AFI20240116BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20240116BHJP
C07K 14/145 20060101ALI20240116BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20240116BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240116BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240116BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240116BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240116BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240116BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C12N15/86 Z ZNA
C12N15/113 Z
C07K14/145
C12N7/01
C12N5/10
A61K48/00
A61K35/76
A61P25/00
A61P37/04
A61P43/00 105
(21)【出願番号】P 2019560380
(86)(22)【出願日】2018-05-02
(86)【国際出願番号】 GB2018051166
(87)【国際公開番号】W WO2018203049
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2021-05-06
(32)【優先日】2017-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】518160355
【氏名又は名称】ユナイテッド キングダム リサーチ アンド イノベーション
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】トリポディ,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】チャバッティ,エルネスト
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/125364(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/004022(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00-7/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複製モジュレータータンパク質をコードする遺伝子を含む狂犬病ウイルスベクターゲノムであって、
前記複製モジュレータータンパク質が、前記
狂犬病ウイルス
ベクターゲノムの複製に必要な
、N(核タンパク質)タンパク質であるウイルスタンパク質部分を含み、
そして、前記複製モジュレータータンパク質が、デグロンを提示する標的化されている構成と前記デグロンを提示しない標的化されていない構成とをとることができ、
前記複製モジュレータータンパク質が、ウイルスタンパク質部分およびレギュレーター部分を含む抑制モジュレーターであり、
ここにおいて、前記レギュレーター部分が、前記デグロンを含むまたは前記デグロンからなり、そして、コグネート活性化剤と接触すると、標的化されていない構成へと切換え可能である、
前記狂犬病ウイルスベクターゲノム。
【請求項2】
前記コグネート活性化剤が、前記レギュレーター部分を前記ウイルスタンパク質部分から切断するプロテアーゼである、請求項1に記載のベクターゲノム。
【請求項3】
前記レギュレーター部分が、前記ウイルスタンパク質部分と前記デグロンとの間に位置する、前記プロテアーゼの切断部位を含む、請求項2に記載のベクターゲノム。
【請求項4】
複製モジュレータータンパク質をコードする遺伝子を含む狂犬病ウイルスベクターゲノムであって、
前記複製モジュレータータンパク質が、前記
狂犬病ウイルス
ベクターゲノムの複製に必要な
、N(核タンパク質)タンパク質であるウイルスタンパク質部分を含み、
そして、前記複製モジュレータータンパク質が、デグロンを提示する標的化されている構成と前記デグロンを提示しない標的化されていない構成とをとることができ、
前記複製モジュレータータンパク質が、ウイルスタンパク質部分およびレギュレーター部分を含む抑制可能モジュレーターであり、
前記複製モジュレータータンパク質が、コグネート抑制剤と接触すると、デグロンを提示する標的化されている構成へ切換え可能である、抑制可能モジュレータータンパク質である、
前記狂犬病ウイルスベクターゲノム。
【請求項5】
前記コグネート抑制剤が、前記レギュレーター部分を前記モジュレータータンパク質から切断して、前記デグロンを創出するまたは露わにするプロテアーゼである、請求項4に記載のベクターゲノム。
【請求項6】
前記プロテアーゼが、前記ベクターゲノムによってコードされた
前記レギュレーター部分以外には作用しない;および/または
前記プロテアーゼが、ウイルスプロテアーゼ、第Xa因子、エンテロキナーゼ、またはトロンビンである、
請求項
2に記載のベクターゲノム。
【請求項7】
前記プロテアーゼが、前記ベクターゲノムによってコードされた前記レギュレーター部分以外には作用しない;および/または
前記プロテアーゼが、ウイルスプロテアーゼ、第Xa因子、エンテロキナーゼ、またはトロンビンである、
請求項5に記載のベクターゲノム。
【請求項8】
(a)前記デグロンがPEST配列である;ならびに/あるいは
(b)前記モジュレータータンパク質が、第1のN末端残基を含み、前記第1のN末端残基より高い安定性を付与する第2のN末端残基を露出するように前記プロテアーゼによって切断可能である、
請求項
2または3に記載のベクターゲノム。
【請求項9】
前記コグネート活性化剤が前記ベクターゲノムによってコードされ、前記コグネート活性化剤の発現または機能が誘導性である;または、
前記コグネート活性化剤が、前記レギュレーター部分のためのリガンドであり、前記デグロンがDD-FKBP配列であり、前記コグネート活性化剤がそのためのリガンドである、
請求項1に記載のベクターゲノム。
【請求項10】
前記モジュレータータンパク質が、第1のN末端残基を含み、前記第1のN末端残基より低い安定性を付与する第2のN末端残基を露出するように前記プロテアーゼによって切断可能である、請求項5または
7に記載のベクターゲノム。
【請求項11】
前記複製モジュレータータンパク質がウイルスタンパク質部分およびレギュレーター部分を含み、前記コグネート抑制剤が前記レギュレーター部分のためのリガンドであり、前記レギュレーター部分および前記コグネート抑制剤が誘導性デグロンシステムの成分である、
請求項4に記載のベクターゲノム。
【請求項12】
前記レギュレーター部分がHaloTag配列、LID-FKBP配列、またはオーキシン誘導デグロン配列を含み、前記コグネート抑制剤がそのためのリガンドである、
請求項
11に記載のベクターゲノム。
【請求項13】
前記コグネート抑制剤が前記ベクターゲノムによってコードされ、前記コグネート抑制剤の発現または機能が誘導性である、
請求項
4-5、7、10-12のいずれか一項に記載のベクターゲノム。
【請求項14】
(a)前記ゲノムが、Pタンパク質、Mタンパク質、および/またはLタンパク質をコードする遺伝子をさらに含む;
(b)前記ゲノムが、エンベロープタンパク質をコードする遺伝子をさらに含
み、そして、前記エンベロープタンパク質が、モノネガウイルスベクターに天然に存在するものである、または、前記エンベロープタンパク質が、シュードタイプ化エンベロープタンパク質である、
あるいは、
(c)前記ベクターゲノムが、エンベロープタンパク質をコードしていない、
請求項1-
13のいずれか一項に記載のベクターゲノム。
【請求項15】
前記ベクターゲノムが、1つまたは複数の異種遺伝子をさらに含む、
請求項1-
14のいずれか1項に記載のベクターゲノム。
【請求項16】
前記異種遺伝子が、マーカータンパク質、免疫応答を引き起こす対象とすることが望ましいタンパク質、リコンビナーゼ、ヌクレアーゼ、ガイドRNA(gRNA)分子、修復鋳型RNA、または遺伝子発現の核酸モジュレーターをコードする、
請求項
15に記載のベクターゲノム。
【請求項17】
前記ヌクレアーゼが、RNA誘導型エンドヌクレアーゼである、
請求項
16に記載のベクターゲノム。
【請求項18】
前記ベクターゲノムが、ガイドRNA(gRNA)分子および/または修復鋳型RNAをコードする異種遺伝子をさらに含む、
請求項
17に記載のベクターゲノム。
【請求項19】
1つまたは複数のウイルスタンパク質とともに請求項1-
18のいずれか一項に記載のベクターゲノムを含むリボ核タンパク質複合体。
【請求項20】
(a)N、P、およびLタンパク質とともに前記ベクターゲノムを含む;
および/または
(b)標的細胞の細胞質に導入されると転写を開始することができる機能性ウイルスヌクレオカプシドである、
請求項
19に記載のリボ核タンパク質複合体。
【請求項21】
請求項1-
18のいずれか一項に記載のウイルスベクターゲノムを含む狂犬病ウイルスベクタービリオン。
【請求項22】
狂犬病ウイルスエンベロープタンパク質を含む、または、
シュードタイプ化エンベロープタンパク質を含む、
請求項
21に記載のベクタービリオン。
【請求項23】
医学的処置の方法において使用される、請求項1-
18のいずれか一項に記載のベクターゲノム、請求項
19または
20に記載のリボ核タンパク質複合体、あるいは請求項
21または
22のいずれか一項に記載のベクタービリオン。
【請求項24】
免疫賦活剤として使用される、請求項1-
18のいずれか一項に記載のベクターゲノム、請求項
19または
20に記載のリボ核タンパク質複合体、あるいは請求項
21または
22に記載のベクタービリオン。
【請求項25】
請求項1-
18のいずれか一項に記載のウイルスベクターゲノムをコードするプラス鎖核酸分子。
【請求項26】
請求項1-
18のいずれか一項に記載のベクターゲノムをコードする核酸構築物を含み、請求項
21または
22に記載の
ベクタービリオンを産生することができる、パッケージング細胞。
【請求項27】
請求項
19または
20に記載のリボ核タンパク質複合体、あるいは請求項
21または
22に記載の
ベクタービリオンを含み、賦形剤または担体と混合されている
医薬組成物。
【請求項28】
請求項
27に記載の組成物であって、前記組成物中の請求項
19または
20に記載のリボ核タンパク質複合体、あるいは請求項
21または
22に記載の
ベクタービリオンを標的細胞と接触させるステップを含む、標的細胞への遺伝子送達の方法のための
医薬組成物。
【請求項29】
前記標的細胞への遺伝子送達の方法
において、
(a)前記ベクター
ビリオンが抑制モジュレータータンパク質をコードし、
前記方法が、前記
標的細胞を前記コグネート活性化剤と接触させるステップを含
み、前記コグネート活性化剤がタンパク質であ
るか、または、
前記方法が、前記コグネート活性化剤が前記標的細胞において発現されるように、前記コグネート活性化剤をコードする遺伝子を含む核酸を前記標的細胞へ導入するステップを含む;
あるいは、
(b)前記ベクター
ビリオンが抑制可能モジュレータータンパク質をコードし、
前記方法が、前記
標的細胞を前記コグネート抑制剤と接触させるステップを含
み、前記コグネート抑制剤がタンパク質であ
るか、または、
前記方法が、前記コグネート抑制剤が前記標的細胞において発現されるように、前記コグネート抑制剤をコードする遺伝子を含む核酸を前記標的細胞へ導入するステップを含む、
請求項
28に記載の
医薬組成物。
【請求項30】
前記標的細胞への遺伝子送達の方法
において、
前記コグネート活性化剤または前記コグネート抑制剤の発現および/または機能が誘導性であり、
前記方法が、前記標的細胞において前記コグネート活性化剤または前記コグネート抑制剤の発現および/または機能を誘導するステップを含む、
請求項
29に記載の
医薬組成物。
【請求項31】
前記標的細胞への遺伝子送達の方法
において、
(i)前記ベクター
ビリオンが抑制モジュレータータンパク質および前記コグネート活性化剤をコードしており、前記コグネート活性化剤の発現または機能が誘導性であり、前記方法が、前記標的細胞において前記コグネート活性化剤の発現および/または機能を誘導するステップを含み、
あるいは
(ii)前記ベクター
ビリオンが抑制可能モジュレータータンパク質および前記コグネート抑制剤をコードしており、前記コグネート抑制剤の発現または機能が誘導性であり、前記方法が、前記標的細胞において前記コグネート抑制剤の発現および/または機能を誘導するステップを含む、
請求項
28に記載の
医薬組成物。
【請求項32】
前記標的細胞への遺伝子送達の方法が、前記標的細胞を前記コグネート活性化剤または前記コグネート抑制剤と接触させるステップを含む、
請求項
31に記載の
医薬組成物。
【請求項33】
前記ベクターゲノムがエンベロープタンパク質をコードする遺伝子を含んでおらず、前記標的細胞への遺伝子送達の方法が、エンベロープタンパク質をコードする遺伝子を含む核酸構築物を前記標的細胞へ導入するステップを含む;および/または、
前記標的細胞が神経細胞である、
請求項
28-32のいずれか一項に記載の
医薬組成物。
【請求項34】
請求項1-
18のいずれか一項に記載のベクターゲノム、請求項
19もしくは20に記載のリボ核タンパク質複合体、
または、請求項
21もしくは22に記載の
ベクタービリオン、ならびに
(a)コグネート活性化剤もしくはコグネート抑制剤
、または
、コグネート活性化剤
をコードする核酸もしくはコグネート抑制剤をコードする核酸、および/または
(b)エンベロープタンパク質をコードする核酸
を含む、標的細胞への遺伝子送達の方法のためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その内容および要素があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれ、2017年5月2日出願の英国特許出願第1706945.1号からの優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、ラブドウイルスなどのモノネガウイルス目(Mononegavirales)由来ウイルスをベースとするベクター、詳細には、狂犬病ウイルスベクターに関する。さらに詳細には、本発明は、標的細胞をトランスフェクトして、複製可能な形態と複製不可能な形態との間の切換えが可能であるベクターに関する。数ある適用のなかでも、特に、本発明は、狂犬病ウイルスベクターなどのモノネガウイルス目をベースとした現行のベクターに附随する細胞傷害性を回避するものである。
【背景技術】
【0003】
モノネガウイルス目のウイルスをベースとしたベクターは、様々な治療的、診断的、および研究的状況における大きな可能性を秘めている。これらのベクターは、トランスフェクトされた細胞から増殖することができず、または厳密に制御された方法でしか増殖することができないように操作されているにもかかわらず、その適用を制限する、トランスフェクトされた細胞に対する著しい細胞傷害性を依然として示す。
【0004】
例えば、向神経性ウイルス、具体的には、G-欠損狂犬病(ΔG-Rabies)(12、13)は、回路に沿ってニューロンからニューロンへ伝播することにより、形態的に規定されたニューロンに遺伝子を到達させる有望なツールを提供する(13~16)。
【0005】
しかし、ΔG-Rabiesをベースとした手法が神経細胞の回路解剖学的研究に大きな変化をもたらしているにもかかわらず、狂犬病感染からの時間が5~15日後を超えると、ウイルスが誘導する細胞傷害性により、それらを使用したインビボでのネットワーク動態の追跡、または神経ネットワークの機能的特性の操作を妨げる(17~19)。ウイルス細胞傷害性を排除する考えられる解決策の1つは、一次感染後のウイルスの転写を抑制することである。これは、CRE-リコンビナーゼ依存的な方法でウイルスゲノムカセットを反転させることによって伝統的に達成されており、アデノ随伴ウイルス(AAV)などのDNAベースのウイルスを用いてゲノムカセットを反転させることでウイルスをオンまたはオフに効果的に切り換えるものである(20)。そのような手法は、狂犬病ウイルスなどのRNAベースのウイルスについては、信頼性の高いRNAリコンビナーゼが存在しないという理由で、現在は除外されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、細胞傷害性の問題に対処する改良されたモノネガウイルスベクターが依然として必要とされている。
発明者らは、モノネガウイルス目のウイルスの転写と複製の一連の性質を考慮すると、ウイルスタンパク質安定性の条件的調節が、特定の条件が満たされるとウイルスをオンまたはオフにする、感染細胞内におけるウイルスの転写・複製サイクルのスイッチとして作用するのではないかと仮定した。
【0007】
したがって、発明者らは、標的細胞をトランスフェクトすることができ(したがって遺伝子ペイロードを標的細胞へ送達することができ)、ウイルスタンパク質発現が可能な活性状態とウイルスタンパク質発現が抑制される不活性状態との切換えが可能であるウイルスベクターを設計した。不活性状態が持続すると、典型的には、ベクターは宿主細胞から排除されることとなる。
【0008】
具体的には、ベクターは、ベクターゲノムの複製のために必要なモノネガウイルスタンパク質を含み、2種類の構成をとりうる「複製モジュレータータンパク質」をコードする。
【0009】
複製モジュレータータンパク質の一部を形成するモノネガウイルスタンパク質は、ここでは「ウイルスタンパク質部分」と呼ばれる。
「標的化されている」構成と呼ばれる1つめの構成では、複製モジュレータータンパク質は、標的細胞において分解の標的とされる。したがって、「標的化されている」構成は、不安定である。複製モジュレータータンパク質が、この構成を維持している間、ベクターゲノムからの発現および/またはベクターゲノムの複製は、抑制され、または完全に抑圧される。
【0010】
「標的化されていない」構成と呼ばれるモジュレータータンパク質の2つめの構成は、「標的化されている」構成より安定している。その結果、典型的には、ウイルスタンパク質部分は、標的化されている構成より高いレベルまで宿主細胞の細胞質ゾル中に蓄積するため、より高いレベルのベクターからの発現および/またはベクターゲノムの複製を支える。
【0011】
本文脈における「安定性」への言及は、標的細胞における当該のタンパク質の半減期、および標的細胞のタンパク質分解経路によって分解されるそれらの傾向にのみ関する。標的化されている構成は、標的化されていない構成より半減期が短く、したがって、標的化されていない構成より安定性が低いと考えられる。
【0012】
したがって、複製モジュレータータンパク質は、厳密に制御されたベクターからの発現ゲノムおよび/またはベクターゲノムの複製を可能にするスイッチを提供する。
典型的には、モジュレータータンパク質の「標的化されている」構成は、分解標的化シグナルまたは「デグロン」、すなわち、細胞内において分解を受けるタンパク質に印付けをする部分を提示する。「デグロン」および「分解標的化シグナル」という用語は、本明細書において互換的に使用される。
【0013】
モジュレータータンパク質の「標的化されていない」構成は、標的化されている構成の低い安定性に寄与するデグロンを含まないまたは提示しないという点において、標的化されている構成と異なる。結果として、標的化されていない構成は、典型的には、標的化されている構成より細胞内における半減期が長い。
【0014】
本発明の関連において使用可能なデグロンは、下記にてさらに詳しく論じる。
複製モジュレータータンパク質のデフォルト状態は、標的化されている構成であってもよい。すなわち、標的化されている構成は、複製モジュレータータンパク質が、標的化されている構成で合成されるようにベクターゲノムによってコードされていてもよい。ベクター発現および/または複製を活性化するのに十分な機能的なタンパク質の産生を支えることから「活性化剤」または「安定化剤」と呼ばれ得る薬剤との接触によって、標的化されていない構成の適応は刺激される。その結果、標的化されていない構成は、細胞内でのベクターの残存または生存を継続させることができる。
【0015】
デフォルト状態として標的化されている構成を有する複製モジュレータータンパク質は、そのようなモジュレータータンパク質をコードするベクターからの発現(またはそのようなベクターの複製)は、コグネート活性化剤が存在する場合を除いて抑制される傾向があるため、「抑制」複製モジュレータータンパク質と呼んでもよい。したがって、「抑制」モジュレータータンパク質は、構成的に不安定である。
【0016】
デフォルトの標的化されている構成を有する複製モジュレータータンパク質をコードするベクターが最初に標的細胞に感染した時点では、タンパク質合成の開始レベルは、感染性子孫ビリオンの複製の期間および潜在的な産生を維持するのに十分である可能性がある(これは、ベクターのペイロード、および標的細胞によってトランスに供給されたその他のタンパク質に依存する)。その後、複製モジュレータータンパク質の不安定性によって、活性化剤の非存在下では複製は抑制され、または完全に抑圧される。
【0017】
あるいは、複製モジュレータータンパク質のデフォルト状態は、標的化されていない構成であってもよい。すなわち、複製モジュレータータンパク質が、標的化されていない構成において合成されるように、複製モジュレーターの、標的化されていない構成はベクターゲノムによってコードされていてもよい。その存在がベクターからの発現および/またはベクターゲノムの複製が抑制または抑圧する傾向があるため「抑制剤」または「不安定化剤」と呼ばれ得る薬剤との接触によって、標的化されている構成の適応は刺激される。
【0018】
デフォルト状態として標的化されていない構成を有する複製モジュレータータンパク質は、コグネート抑制剤が存在する場合を除いてそのようなモジュレータータンパク質を含むベクターからの発現は続行する傾向となるため、「抑制可能」複製モジュレータータンパク質と呼んでもよい。
【0019】
多くの態様において、複製モジュレータータンパク質は、ウイルスタンパク質部分およびレギュレーター部分を含む。ウイルスタンパク質部分およびレギュレーター部分は、モジュレータータンパク質の、別個に折りたたまれたドメインを形成することもあるが、これは常に必要なわけではない可能性がある。ウイルスタンパク質部分は、典型的には、当該のウイルスタンパク質の天然型の生物学的機能をすべて発揮することができる。
【0020】
レギュレーター部分(存在する場合)の性質および正体は、モジュレータータンパク質が抑制モジュレータータンパク質である(すなわち、ベクター発現または複製がコグネート活性化剤の非存在下で抑制される)か、抑制可能モジュレータータンパク質である(すなわち、ベクター発現または複製がコグネート抑制剤の非存在下で正常に続行する)かを決定する。
【0021】
抑制モジュレータータンパク質の場合、レギュレーター部分はデグロンを含み、またはデグロンからなり、モジュレータータンパク質のデフォルト状態では、このタンパク質が分解の標的とされるようにデグロンが提示される。したがって、コグネート活性化剤は、デグロンを除去し、遮断し、または例えば共有結合的もしくは非共有結合的修飾などの別の方法によって無効化するように作用することとなる。例えば、コグネート活性化剤は、ウイルスタンパク質部分からレギュレーター部分を切断してもよい。したがって、活性化剤は、モジュレータータンパク質に対して作用してレギュレーター部分をウイルスタンパク質部分から切断することができるプロテアーゼであってもよい。この機構は、複製モジュレータータンパク質の(またはウイルスタンパク質部分の)「切断誘導型安定化」と記述され得る。あるいは、活性化剤は、モジュレータータンパク質、例えばレギュレーター部分に結合してデグロンを遮蔽しても、別の方法によって不活性化してもよい。したがって、活性化剤は、モジュレータータンパク質のための、例えばモジュレータータンパク質のレギュレーター部分のためのリガンドであってもよい。この機構は、複製モジュレータータンパク質の(またはウイルスタンパク質部分の)「リガンド誘導型安定化」と記述され得る。
【0022】
抑制可能モジュレータータンパク質の場合、レギュレーター部分は、そのデフォルト状態でデグロンを含まず、または提示しない。むしろ、コグネート抑制剤は、モジュレータータンパク質と相互作用して、典型的には、レギュレーター部分との共有結合的または非共有結合的相互作用によって、デグロンを創出し、または露わにすることとなる。したがって、ウイルスタンパク質部分においてデグロンを露わにし、または創出するために、コグネート抑制剤は、レギュレーター部分をウイルスタンパク質部分から切断してもよい。この機構は、複製モジュレータータンパク質の「切断誘導型不安定化」(または「切断誘導型分解」)と記述され得る。あるいは、抑制剤は、デグロンを露わにし、または創出するために、複製モジュレータータンパク質、例えばレギュレーター部分に結合してもよい。したがって、抑制剤は、モジュレータータンパク質のための、例えばモジュレータータンパク質のレギュレーター部分のためのリガンドであってもよい。この機構は、複製モジュレータータンパク質の「リガンド誘導型不安定化」(または「リガンド誘導型分解」)と記述され得る。したがって、レギュレーター部分および抑制剤は、それぞれ、誘導性デグロンシステムの第1および第2の成分であってもよく、第1および第2の成分は結合してデグロンを生成する。
【課題を解決するための手段】
【0023】
したがって、本発明は、複製モジュレータータンパク質をコードする遺伝子を含むモノネガウイルスベクターゲノムであって、複製モジュレータータンパク質が、ウイルスゲノムの複製のために必要なモノネガウイルスタンパク質部分を含み、複製モジュレータータンパク質が、デグロンを提示する標的化されている構成およびデグロンを提示しない標的化されていない構成をとることができる、モノネガウイルスベクターゲノムを提供する。
【0024】
ベクターゲノムは、典型的には、マイナス鎖の一本鎖RNA分子である。
上述のように、ベクターゲノムによってコードされた複製モジュレータータンパク質は、抑制モジュレーターであってもよい。これは、ウイルスタンパク質部分およびレギュレーター部分を含んでもよく、レギュレーター部分はデグロンを含むまたはデグロンからなる。
【0025】
複製モジュレータータンパク質は、コグネート活性化剤と接触すると、標的化されていない構成へ切換え可能であり得る。幾つかの態様において、活性化剤は、モジュレータータンパク質からレギュレーター部分を切断してもよい。他の態様において、活性化剤は、モジュレータータンパク質のための、例えばレギュレーター部分のためのリガンドである。リガンドは、例えば、立体的にまたは立体構造の変化を介して、遮蔽または別の方法で不活性化してもよい。
【0026】
あるいは、ベクターゲノムによってコードされた複製モジュレータータンパク質は、コグネート抑制剤と接触すると、デグロンを提示する標的化されている構成へと切換えが可能な、抑制可能モジュレーターであってもよい。これは、ウイルスタンパク質部分およびレギュレーター部分を含んでもよい。
【0027】
幾つかの態様において、抑制剤は、モジュレータータンパク質からレギュレーター部分を切断してデグロンを創出し、または露わにすることができる。他の態様において、抑制剤は、レギュレーター部分のためのリガンドであり、レギュレーター部分へ結合してデグロンを創出し、または露わにする。
【0028】
したがって、活性化剤または抑制剤は、それぞれ、適宜、デグロンを除去するまたは露わにするためにウイルスタンパク質部分からレギュレーター部分を切断することによって作用してもよい。そのような態様において、活性化剤または抑制剤は、典型的には、プロテアーゼである。そのような態様において、レギュレーター部分はプロテアーゼの切断部位を含む。
【0029】
プロテアーゼは、標的細胞に対して直交性であってもよい。すなわち、プロテアーゼは、標的細胞のプロテオームにはみられない切断部位を認識するということであり、すなわち、この切断部位は、標的細胞によってコードされ標的細胞において発現される天然のタンパク質にはみられない。したがって、具体的なプロテアーゼは、標的細胞に応じて様々であり得る。好適なプロテアーゼの例としては、ウイルスのプロテアーゼ、特にモノネガウイルスではないウイルス由来のプロテアーゼ(例えば、タバコEtchウイルスプロテアーゼ(TEVp)およびヒトライノウイルス(HRV)3Cプロテアーゼ)、第Xa因子、エンテロキナーゼ、およびトロンビンが含まれる。標的細胞が神経細胞である場合、これらのいずれも好適であり得る。
【0030】
好ましくは、選択されたプロテアーゼは、ベクターゲノムによってコードされたその他のどのタンパク質にも作用しない。例えば、ベクターゲノムによってコードされたタンパク質のうち、複製モジュレーターだけが当該のプロテアーゼによって認識される切断部位を含む。
【0031】
活性化剤または抑制剤は、それ自体がベクターゲノムによってコードされていてもよい。そのような場合、この薬剤の発現または機能は、典型的にはベクターゲノムを含有する細胞を適切なインデューサーと接触させることによって誘導可能となる。例えば、ベクターは、機能的に不活性な形態で発現される1つまたは複数の薬剤をコードする遺伝子を含んでもよく、機能はインデューサーと接触すると、誘導される。
【0032】
したがって、薬剤は、機能性形態へと集合するために機能性インデューサーの存在を必要とする2つ以上の別々のタンパク質部分として発現されてもよい。成分薬剤部分はそれぞれ、パートナータンパク質との融合体として発現されてもよく、ここで、パートナータンパク質は、機能性インデューサーと接触すると、集合する。
【0033】
誘導性薬剤に関する詳細を下記に示す。
任意のモノネガウイルスを、記載したようなベクターのベースとして用いてもよい。非分節型ゲノムを有するモノネガウイルスは特に適切である。多くの適用のために、ウイルスは、哺乳動物細胞に感染し複製できることが望ましい場合がある。例えば、モノネガウイルスは、ラブドウイルス(例えば、狂犬病ウイルスなどのリッサウイルス)またはベジクロウイルス(水疱性口内炎ウイルス(VSV)など)であってもよい。
【0034】
複製モジュレーターのウイルスタンパク質部分は、モノネガウイルスの大多数に共通のタンパク質のいずれか1つを含む、またはモノネガウイルスの大多数に共通のタンパク質のいずれか1つからなっていてもよい。これらには、ラージタンパク質(L)、核タンパク質(NまたはNP)、リンタンパク質(P)、マトリックスタンパク質(M)、または糖タンパク質(G;単に「エンベロープ」タンパク質とも呼ばれる)が含まれる。この専門用語は、一般的にラブドウイルスについて使用され、本明細書では、その他のモノネガウイルスにおける機能または配列相同性によるそれらの等価物を指すためにも使用される。ただし、ウイルス複製の間中適切な制御を行う適切なウイルスタンパク質部分を同定することが必要である。
【0035】
複製モジュレータータンパク質のウイルスタンパク質部分は、ウイルスゲノムからの発現のために(例えば、ウイルスゲノムからのmRNAの転写のために)、かつ/またはウイルスゲノムの複製のために必要なタンパク質である。したがって、ほとんどのモノネガウイルスでは、エンベロープタンパク質の非存在下で他のウイルスタンパク質およびゲノムの複製が進むため、ウイルスタンパク質部分は、典型的には、ウイルスエンベロープタンパク質(例えば、糖タンパク質またはGタンパク質)ではない。
【0036】
したがって、ラージタンパク質(L)、核タンパク質(NまたはNP)、リンタンパク質(P)、またはマトリックスタンパク質(M)、例えば、ラージタンパク質(L)、核タンパク質(NまたはNP)、またはリンタンパク質(P)が好ましい場合がある。
【0037】
特に狂犬病ウイルスベクターなどのラブドウイルスベクターにおいて、核タンパク質(NまたはNPタンパク質)が特に好ましい場合がある。実際に、本発明者らは、Nタンパク質だけが、狂犬病ウイルスベースのベクターにおけるウイルス複製全般に、適切な制御を行うことを明らかにしている。
【0038】
どんなモノネガウイルスタンパク質も複製モジュレータータンパク質のウイルスタンパク質部分を表し、ベクターゲノム中では、複製モジュレータータンパク質は該モノネガウイルスタンパク質の唯一のコピーであることが理解されるであろう。言い換えると、ベクターゲノムは、同じタンパク質の、標的化されていない構成だけに存在するバージョンをコードする遺伝子を含有しない。
【0039】
したがって、ベクターゲノムは、Nタンパク質、Pタンパク質、Mタンパク質、およびLタンパク質のうちの1つ、2つ、3つ、または4つすべてをコードする遺伝子を含んでもよく、これらのタンパク質のうちの1つが複製モジュレータータンパク質のウイルスタンパク質部分として提供される。
【0040】
ベクターゲノムは、ウイルスタンパク質部分としてNタンパク質を含む複製モジュレータータンパク質をコードする遺伝子を含んでもよく、所望により、Pタンパク質、Mタンパク質、およびLタンパク質のうちの1つ、2つ、または3つをさらに含んでもよい。
【0041】
ベクターゲノムは、
(i)ウイルスタンパク質部分としてNタンパク質を含む複製モジュレータータンパク質、
(ii)Pタンパク質、
(iii)Mタンパク質、および
(iv)Lタンパク質
をコードする遺伝子を含んでもよい。
【0042】
ベクターゲノムはまた、エンベロープタンパク質をコードする遺伝子を含んでもよい。エンベロープタンパク質は、モノネガウイルスベクターに天然に存在するものであってもよい。例えば、ベクターが狂犬病ウイルスである場合、エンベロープタンパク質は狂犬病ウイルスGタンパク質であってもよい。あるいは、ベクターによって産生させたビリオンの感染力を調節するために、異なるエンベロープタンパク質を組み入れてもよい。代替のエンベロープタンパク質の組込みは、「シュードタイピング」と呼ばれることもある。そのような場合、エンベロープタンパク質は細胞内ドメインを含んでいてもよく、さらに所望により、ベクターに天然に存在するエンベロープタンパク質の膜貫通型ドメイン、および異種の、すなわち、細胞内ドメインと同じモノネガウイルスエンベロープタンパク質由来ではない、細胞外ドメインも含んでもよい。細胞外ドメインは、異なるウイルスエンベロープタンパク質由来(例えば、異なるモノネガウイルス種、科、もしくは属由来のエンベロープタンパク質由来、または異なるウイルス目由来のエンベロープタンパク質由来)であってもよく、またはエンベロープタンパク質がビリオンによる標的細胞の感染を依然として媒介することができる限りは、標的細胞の表面上に発現される受容体に結合することができるどんなタンパク質ドメインであってもよい。
【0043】
例えば、狂犬病ウイルスベクターは、VSVエンベロープタンパク質、トリ肉腫白血病ウイルス(ASLV)タイプAエンベロープタンパク質、またはASLVタイプBエンベロープタンパク質由来の細胞外ドメインを少なくとも有するエンベロープタンパク質を含んでもよい。狂犬病ウイルスベクターは、VSV、ASLVタイプA、またはASLVタイプB由来の完全なエンベロープタンパク質を含んでもよい。あるいは、狂犬病ウイルスベクターは、細胞内ドメイン、さらに所望により狂犬病ウイルスGタンパク質由来の膜貫通型ドメインもまた含んでもよい。
【0044】
幾つかの態様において、ベクターゲノムは、エンベロープタンパク質をコードしていない。そのようなビリオンは、特に、神経細胞における、いわゆる「単シナプストレーシング」のために有用である。
【0045】
任意のシュードタイプ化エンベロープタンパク質に加えて、ベクターゲノムは、1つまたは複数の異種遺伝子、すなわち、ベクターゲノムに天然に存在しない発現産物(典型的には、タンパク質またはRNA分子)、すなわち、ベクターと同じウイルスタイプの野生型ウイルスによってコードされて存在することがない発現産物をコードする遺伝子を含んでもよい。異種遺伝子は、ベクターによって標的細胞に送達される「ペイロード」とみなされてもよい。したがって、異種遺伝子は、標的細胞において発現することが望まれる任意の発現産物(RNAまたはタンパク質)をコードしてもよい。したがって、異種遺伝子の正体および機能は、ベクターの意図された役割に依存することとなる。多くの態様において、異種遺伝子は、モノネガウイルス発現産物またはウイルス発現産物をコードしない。
【0046】
異種遺伝子は、ベクターゲノム内の任意の好適な部位に位置してもよい。幾つかの態様において、異種遺伝子は、例えば、内因性Gタンパク質をコードする遺伝子を置換して、Mタンパク質をコードする遺伝子とLタンパク質をコードする遺伝子との間に位置する。
【0047】
異種遺伝子は、例えば、以下のうちの1つまたは複数をコードしていてもよい。
- マーカータンパク質、例えば、蛍光タンパク質または抗生物質耐性を付与するタンパク質、
- 免疫応答を引き起こす対象とすることが望ましいタンパク質、
- リコンビナーゼ、例えばCREリコンビナーゼ、例えば、標的細胞のゲノムがリコンビナーゼの認識部位を含有する場合、
- ヌクレアーゼ、例えば、Cas9などのRNA誘導型エンドヌクレアーゼ;
- ガイドRNA(gRNA)分子、例えばRNA誘導型エンドヌクレアーゼとともに使用する、
- 修復鋳型RNA、例えばRNA誘導型エンドヌクレアーゼとともに使用する、
- 遺伝子発現の核酸モジュレーター、siRNA、RNAi、アンチセンスRNA、またはリボザイムなど。
【0048】
異種遺伝子は、転写イニシエーターおよびターミネーターシグナルなどのウイルスの転写制御配列の調節下にあることとなる。
2つ以上の異種遺伝子が含まれる場合、異種遺伝子は、典型的には、各々独自の関連した制御配列を有することとなる。異種遺伝子発現は、異種遺伝子によって用いられる転写開始部位、およびウイルスゲノムですぐ上流に位置する遺伝子の末端からの距離、すなわち、すぐ上流の遺伝子の末端と異種遺伝子の開始との間の遺伝子間領域(IGR)の長さなどの因子による影響を受ける可能性がある。Nタンパク質は、狂犬病ウイルスの中で転写のレベルが最も高いため、異種遺伝子はNタンパク質由来の転写開始部位を使うことが望ましい可能性がある。転写開始部位は、例えば、配列AACACCCCT(例えば、株B19およびN2Cでみられるように)またはAACACCTCTを有してもよい。Finkeら(2000年)は、遺伝子の上流のIGRの長さがその発現に影響を与えること、また、IGR配列の短縮が発現の上昇と相関することを実証している。したがって、異種遺伝子の上流のIGR配列は、5ヌクレオチド以下の長さ、例えば、2ヌクレオチドの長さであることが望ましい場合がある。IGRが2ヌクレオチドの長さである場合、その配列はCTであってもよい。
【0049】
特に、異種遺伝子が相補的な機能を有する場合、2つ以上の異種遺伝子を含むことが望ましい場合がある。例えば、RNA誘導型エンドヌクレアーゼをコードする異種遺伝子、該エンドヌクレアーゼのためのガイドRNA(エンドヌクレアーゼを標的細胞染色体の所望の部位へと導く)、さらに所望により、標的部位で成される特定の修飾を導く修復鋳型RNAも含むことが望ましい場合もある。異種遺伝子は、ウイルスゲノムにおいて互いに隣接していてもよい。異種遺伝子間のIGR配列は、例えば5ヌクレオチド以下の長さ、例えば2ヌクレオチドの長さであってもよい。各異種遺伝子が、Nタンパク質由来のNタンパク質転写開始部位を使用することが望ましい場合もある。
【0050】
エンドヌクレアーゼは、Streptococcus aureus(saCas9)、Streptococcus pyogenes(SpCas9)、Neisseria meningitidis(NM Cas9)、Streptococcus thermophilus(ST Cas9)、Treponema denticola(TD Cas9)、またはSpCas9のD1135E、VRER、EQR、もしくはVQR変異体などそれらの変異体由来のCas9などの、Cas9酵素であってもよい。比較的サイズが小さいことから、saCas9およびその変異体が好ましい場合もある。
【0051】
Cas9という用語は、ここでは、Cas9ニッカーゼおよびヌクレアーゼ・デッド型Cas9(dCas9)などのCas9エンドヌクレアーゼの機能性変異体を含んで使用される。
【0052】
ベクターに組み込むことができる異種遺伝子のサイズは、ベクターのベースとなる具体的なウイルス、ビリオンのパッケージング能力、および(あれば)ベクターから削除された天然のウイルス遺伝子のサイズなど、様々な因子に依存することとなる。
【0053】
例えば、G遺伝子が削除されている狂犬病ウイルスベクター中に、パッケージング効率に実質的な影響を与えることのない異種コード配列を、少なくとも3.7kb、さらに4.0kbまで、4.5kbまで、または5.0kbまでも含むことが可能である。参考文献32を参照されたい。
【0054】
異種遺伝子はまた、標的細胞に対しても異種であってもよく、すなわち、標的細胞はその遺伝子の産物を自然ではコードせず、または発現しない。あるいは、標的細胞における遺伝子産物の発現パターンが異種遺伝子の導入によって調節されるような異なる調節制御下では、標的細胞はその遺伝子産物をコードすることができ、または発現することができる。
【0055】
本発明は、1つまたは複数のウイルスタンパク質、例えば、N、P、およびLタンパク質のうちの1つまたは複数を伴ったベクターゲノムを含む、リボ核タンパク質複合体をさらに提供する。ベクターゲノムは、N、P、およびLタンパク質のすべてを伴ってもよい。リボ核タンパク質複合体は、標的細胞の細胞質へ導入して転写を開始できる機能性ウイルスヌクレオカプシドであってもよい。リボ核タンパク質複合体はMタンパク質をさらに含んでもよい。
【0056】
本発明は、本明細書に記載したようなモノネガウイルスベクターゲノムを含む、モノネガウイルスベクタービリオンをさらに提供する。ビリオンは、典型的には、Lタンパク質、Nタンパク質、Pタンパク質、およびMタンパク質を含み、さらにエンベロープタンパク質も含む。エンベロープタンパク質は、天然のモノネガウイルスエンベロープタンパク質であってもよい。あるいは、ビリオンは、その感染力を調節するために、上述の異なるエンベロープタンパク質でシュードタイプ化されていてもよい。
【0057】
ビリオンは、典型的には、エンベロープタンパク質を含有する膜エンベロープによって囲まれた(ゲノム、L、N、M、およびPタンパク質を含む)リボ核タンパク質複合体の形態をとる。
【0058】
ビリオンは、ゲノムを標的細胞へ送達することができ、ゲノムの転写を開始することができる。
疑義を避けるために明記すれば、ビリオンは、典型的には、複製モジュレータータンパク質を含有しない。すなわち、ビリオン中のタンパク質は、標的化されている構成と標的化されていない構成との間の切換えはできない。
【0059】
本発明は、本明細書に記載したようなウイルスベクターゲノムをコードする、プラス鎖核酸分子をさらに提供する。プラス鎖核酸は、RNA分子であってもDNA分子であってもよい。プラス鎖核酸は、DNA分子である場合、ウイルスゲノム分子の合成を導くことができる転写制御配列を含む発現構築物の一部として提供されてもよい。発現構築物は、エピソーム(例えばプラスミド)の一部として提供されてもよく、または宿主細胞の染色体の中へ組み込まれていてもよい。
【0060】
本発明は、ベクターゲノムをコードする核酸構築物を含み、本明細書に記載されたようなビリオンを産生できる、パッケージング細胞をさらに提供する。
したがって、パッケージング細胞は、L、N、M、およびPタンパク質、ならびにエンベロープタンパク質を発現する。これらのタンパク質は、ベクターゲノムも含む感染性ビリオンを形成することができる。
【0061】
ベクターゲノム自体の構造およびコードする内容に応じて、これらのタンパク質はベクターゲノムによってコードされてもよく、または細胞内の他の核酸構築物によってトランスに供給されてもよい。
【0062】
ビリオン粒子自体のタンパク質は、典型的には、デグロンに連結してない。典型的には、パッケージング細胞は、デグロンを有せず、すべてのビリオンタンパク質の機能型をコードする(かつ発現することができる)ことになる。しかし、ビリオンタンパク質のうちの1つがここで記載したような抑制複製モジュレーターの関連においてのみ発現されるのであれば、次いで、パッケージング細胞は、ウイルス複製が続行できるようにコグネート活性化剤もまた含有(例えば発現)しなければならない。
【0063】
トランスに供給される任意のタンパク質をコードする構築物は、典型的には、DNA構築物であり、独立して染色体に組み込まれていても、プラスミドなどのエピソームとして存在していてもよい。
【0064】
パッケージング細胞の性質は、具体的なウイルスベクターに依存するものであるが、霊長類またはげっ歯類の細胞などの哺乳動物細胞であってもよい。それは、線維芽細胞、またはHEK(ヒト胎児腎臓)293細胞もしくはBHK(ベビーハムスター腎臓)細胞などのその他の好適な細胞タイプであってもよい。
【0065】
狂犬病ウイルスベクターのためのパッケージング細胞の構築、およびウイルスベクター設計のその他の側面は、OsakadaおよびCallaway(2013年)のDesign and generation of rabies virus vectors、Nature Protocols 8(8):1583~1601頁に記載されている。Wickershamら(2010年)のProduction of glycoprotein-deleted rabies viruses for monosynaptic tracing and high level gene expression in neurons、Nature Protocols 5(3):595~606頁もまた参照されたい。
【0066】
本発明は、標的細胞を本発明のリボ核タンパク質複合体またはビリオンと接触させることを含む、標的細胞への遺伝子送達の方法をさらに提供する。
リボ核タンパク質複合体が用いられる場合、例えば、マイクロインジェクションによって、または細胞中への移行を促進するポリマーもしくは脂質などの担体とともに、リボ核タンパク質複合体を細胞細胞質ゾル中へ直接送達することが望ましい場合がある。
【0067】
多くの態様において、標的細胞は、モジュレータータンパク質の、標的化されている構成と標的化されていない構成との間の切換えに寄与する薬剤を自然には発現しない。ベクターが抑制可能レプリケータータンパク質をコードする場合、最初の一次感染の後、ベクターの複製および増殖を継続するためには、活性化剤が必要である。したがって、さらなる複製および増殖が望ましい場合、ベクターは、大抵は活性化剤の送達システムまたは活性化剤自体と一緒に用いられることとなる。
【0068】
ベクターが、抑制可能モジュレータータンパク質をコードする場合、抑制剤を供給することは必ずしも必要ではない。しかし、ベクターを抑制剤の送達システムまたは抑制剤自体と一緒に用いてもよい場合は、ベクター発現および複製を直ちに続行すべきでないことが望ましいこともある。
【0069】
したがって、方法は、適宜、標的細胞をコグネート活性化剤または抑制剤と接触させるステップを含んでもよい。標的細胞は、無期限で、周期的に、例えば1日~1カ月の間隔で、例えば1日~14日の間隔で、例えば5~10日の間隔で繰り返し、コグネート活性化剤と接触させてもよい。そのような周期的投与は、細胞に損傷を与えるのに十分な転写およびウイルス複製を許すことなく、標的細胞内で生存可能なベクターを維持するのに有用であり得る。
【0070】
薬剤がタンパク質である場合、方法は、コグネート活性化剤または抑制剤が標的細胞において発現されるように、該薬剤をコードする遺伝子を含む核酸を標的細胞へ導入することをさらに含んでもよい。
【0071】
薬剤は、ベクターの前に、ベクターと実質的に同時に、またはベクターの後に、標的細胞中へ導入されてもよい。薬剤は、ベクターの後に導入される場合、典型的には、ベクターの1カ月以内に、例えば、2週間以内に、1週間以内に、1日以内に、12時間以内に、または1時間以内に導入されることとなる。無期限で、周期的に、例えば1日~1カ月の間隔で、例えば1日~14日の間隔で、例えば5~10日の間隔で、繰り返して導入されてもよい。
【0072】
薬剤の発現は、誘導性であってもよい。例えば、薬剤をコードする遺伝子は、薬剤の転写には細胞を転写インデューサーと接触させることが必要であるように誘導性プロモーターを含んでもよい。インデューサーは、例えば、ドキシサイクリンまたはテトラサイクリンなどの抗生物質であってもよい。そのような抗生物質に対して反応性である誘導性プロモーターは、当業者に公知である。
【0073】
あるいは、薬剤は、機能を回復させるために細胞を機能性インデューサーと接触させることが必要である、機能的に不活性な形態で発現されてもよい。例えば、薬剤は、機能性形態へと集合するために機能性インデューサーの存在を必要とする2つ以上の別々のタンパク質部分として発現されてもよい。各々の成分薬剤部分は、パートナータンパク質との融合体として発現されてもよく、パートナータンパク質は、機能性インデューサーと接触すると、集合する。例えば、TEVプロテアーゼ(TEVp)は、それぞれ、ラパマイシンの存在下のみで集合する異種のタンパク質部分に融合した2つの別々のサブユニット(FRBおよびFKBP)として発現され得る(いわゆる「SPLIT-TEV」システム)(Grayら(2010年)Activation of Specific Apoptotic Caspases with an Engineered Small-Molecule-Activated Protease、Cell 142(4):637~646頁を参照されたい.)。融合パートナーのこの他の組合せもまた使用されてもよく、集合のための必要条件は様々である。
【0074】
幾つかの態様において、薬剤は、ベクターゲノム自身によってまたは標的細胞のゲノム中にコードされていてもよい。したがって、ベクターゲノムと標的細胞のどちらかが、1つまたは複数の活性化剤または抑制剤をコードする遺伝子を含んでいてもよく、薬剤の発現または機能は、誘導性である。そのような環境では、方法は、標的細胞を活性化剤または抑制剤と接触させることは必要ではなく、単に標的細胞を(発現または機能の)インデューサーと接触させることを必要とする。
【0075】
したがって、方法は、典型的には、標的細胞をインデューサーと接触させることによって、標的細胞中での薬剤の発現および/または機能を誘導するステップを含んでもよい。
標的細胞は、無期限で、周期的に、例えば1日~1カ月の間隔で、例えば1日~14日の間隔で、例えば5~10日の間隔で繰り返して、インデューサーと接触させてもよい。
【0076】
幾つかの態様において、ベクターゲノムは、エンベロープタンパク質をコードする遺伝子を含んでいない。したがって、方法は、エンベロープタンパク質が標的細胞中で発現され原形質膜に組み込まれるように、エンベロープタンパク質をコードする遺伝子を含む核酸構築物を標的細胞へ導入するステップを(追加的にまたは代替的に)含んでもよい。エンベロープタンパク質は、ベクターの前に、ベクターと実質的に同時に、またはベクターの後に、標的細胞中へ導入されてもよい。エンベロープタンパク質は、ベクターの後に導入される場合、典型的には、ベクターの1カ月以内に、例えば、14日以内に、7日以内に、1日以内に、12時間以内に、または1時間以内に導入されることとなる。
【0077】
エンベロープタンパク質の発現は、誘導性であってもよい。例えば、エンベロープタンパク質をコードする遺伝子は、エンベロープタンパク質の転写には細胞を転写インデューサーと接触させることが必要であるように誘導性プロモーターを含んでもよい。
【0078】
抑制もしくは活性化剤および/またはエンベロープタンパク質をコードする遺伝子を含有する核酸は、任意の適切な手段によって標的細胞に送達されてもよい。例えば、各核酸は、裸の核酸としてDNAもしくはRNAとして、ポリマーもしくは脂質などの担体とともに(例えば、担体との複合体として)、封入された形態で(例えばリポソーム中に封入されて)、またはウイルスベクターを介して、独立して導入されてもよい。好適なウイルスベクターには、レトロウイルスベクター(レンチウイルスベクターを含む)、アデノウイルスベクター、およびアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターが含まれる。AAVベクターは特に好適であり得る。
【0079】
薬剤およびエンベロープタンパク質をコードする遺伝子は、別々にまたは一緒に、例えば同じ核酸構築物の一部として、送達されてもよい。
抑制モジュレータータンパク質を有するウイルスベクターは、免疫賦活剤として、例えば、同じウイルスの天然型に対するワクチンとして特定の用途を提供してもよい。ベクターを受容体へ送達することによって、ウイルスは、活性化剤もまた投与された細胞中でのみ複製することになる。そのような感染細胞から、子孫ビリオンが形成され、放出され得る。しかし、ウイルスは、活性化剤を投与されてない細胞中ではさらに複製することはできなくなる。したがって、特定の選択された細胞へのベクターおよび活性化剤の同時投与は、ウイルスの複製と放出とのサイクルを短く調節し、免疫系を刺激し、免疫系にウイルスを認識する準備をさせる可能性がある。
【0080】
ウイルスベクターは、レシピエントへのあらゆるリスクを低減するために、別の方法で弱毒化されてもよい。したがって、ウイルスベクターは、感染力または毒性を低減または排除する1つまたは複数のさらなる変異を含んでもよい。
【0081】
子孫ビリオンの放出は、天然のウイルスに対する抗体反応をシミュレーションするのに有用であり得る。
子孫ビリオンを産生し、放出するためには、ウイルスベクターがエンベロープタンパク質をコードしなければならないか、ベクターがエンベロープタンパク質を欠いていれば、エンベロープタンパク質は感染細胞にトランスに個々に供給されなければならない。エンベロープタンパク質を欠くベクターの使用は、有用な安全性指標であり得る。
【0082】
ベクターがエンベロープタンパク質を欠き、エンベロープタンパク質がトランスに供給されていなくても、活性化剤の存在下で、レシピエント細胞のMHC分子(特にMHC I)を介してウイルス抗原が提示され、その結果、ウイルスに対するT細胞応答(特にCTL応答)が刺激されるのに十分に、タンパク質が発現される可能性がある。
【0083】
それにもかかわらず、多くの環境において、エンベロープタンパク質をコードするベクターの使用が依然として望ましい場合がある。
本発明のベクターは、特に狂犬病ウイルスまたは水疱性口内炎ウイルスベースである場合、神経細胞への遺伝子送達における特定の用途を提供する。G欠損狂犬病ウイルスの使用は、中枢および末梢神経系の両方の単シナプス回路トレーシングに関してよく知られている。しかし、細胞内にウイルスタンパク質が蓄積するために標識された細胞の生存が典型的には1~2週間にとどまることから、単シナプス回路トレーシングの現行方法では使用が限定されている。本ベクターは、生存率に影響を与えることなく、神経細胞を遺伝学的に標識する能力を示すものである。
【0084】
本発明は、本発明のベクターゲノム、ならびに(a)コグネート活性化もしくは抑制剤またはコグネート活性化もしくは抑制剤をコードする核酸、および/または(b)エンベロープタンパク質をコードする核酸、を含むキットをさらに提供する。
【0085】
キットは、他の箇所で記載したようなベクターなどの、核酸の送達のためのシステムを含んでもよい。同じシステムを用いて、上記のようなコグネート生存因子およびエンベロープタンパク質の両方を送達してもよい。
【0086】
本発明は、本発明のベクタービリオンを含み、所望により賦形剤または担体を混合した組成物をさらに提供する。組成物は医薬組成物であってもよく、担体は薬学的に許容される担体であってもよい。
【0087】
モノネガウイルス目は、植物、昆虫、魚、および哺乳動物細胞を含む多様な種類の細胞に感染する。原理的には、モノネガウイルス目は、ゲノム構成が類似のパターンに適合し、類似する一連の転写および複製のシステムに依存しているため、本発明は、あらゆるタイプのモノネガウイルスに適用できると考えられる。ラブドウイルスは特に適切であり得る。
【0088】
本発明のベクターは、哺乳動物細胞に感染するラブドウイルス属および種、特に、狂犬病ウイルス(Rabies lyssavirus;RABV)などのリッサウイルス、および水疱性口内炎ウイルス(VSV)などのベジクロウイルスにおいて特定の用途を提供してもよい。狂犬病ウイルスは、ニューロンに対する特別な指向性を有するため、神経組織への遺伝子送達のための有益な候補物質となる。
【0089】
ベクターが狂犬病ウイルスをベースとする場合、CVS(曝露用ウイルス標準株)およびCVS-N2cなどのそれらの変異体、PV4(パスツールウイルス)、PM(ピットマン・ムーア)、Flury-LEP(低鶏卵継代数(low egg passage))、Flury-HEP(高鶏卵継代数(high egg passage))、ERA、ならびにSAD(ストリート・アラバマダファリン(Street-Alabama Dufferin))を含む任意の適切な株が使用可能である。CVS-N2c株は、参考文献25に記載されており、完全なゲノム配列は、GenBank登録番号HM535790、バージョンHM535790.1、2010年12月29日で得られる。
【0090】
したがって、標的細胞タイプは、霊長類(例えば、旧世界ザル、新世界ザル、類人猿、またはヒト)、げっ歯類(例えば、マウスまたはラット)、イヌ科(例えば、飼い犬)、ネコ科(例えば、飼い猫)、ウマ類(例えば、ウマ)、ウシ類(例えば、雌ウシ)、ヤギ類(例えば、ヤギ)、ヒツジ類(例えば、ヒツジ)またはウサギ目(例えば、ウサギ)由来であってもよい。
【0091】
標的細胞タイプは、任意の所望の細胞タイプであってもよい。幾つかの例において、それは、神経細胞、例えば、ニューロンまたはグリア細胞であってもよい。神経細胞は、末梢または中枢神経系の一部であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【
図1】ウイルスタンパク質を体系的にプロテアソームで標的化した後の、ウイルス増幅効率のスクリーニングを示す図である。(A)PESTドメイン標的化プロテアソームの媒介によるウイルスタンパク質の可逆的不安定化。(B)HEKGGおよびHEKTGGにおけるTEV
P依存性ウイルスの増幅。スケールバー:100μm。(C~H)すべての組換えRabies構築物(マゼンタ)および対照Rabies(シアン)増幅効率の定量化(平均±SD;破線は閾値レベルを示す)。(I~K)HEKTGG(シアン、+TEV)およびHEGG(マゼンタ、-TEV)における増幅効率の定量化。x軸 トランスフェクション後(p.t.)の日数、y軸 増幅効率。
【
図2】インビボでの細胞傷害性がないことを示す図である。(A)SiRの生活環。(B)SiR発現カセットおよび実験手順。(C~E”)SiR
CRE-mCherryを感染させ、p.i.1-3-8週間にイメージングしたRosa-LoxP-STOP-LoxP-YFPマウスの海馬切片の共焦点画像。スケールバー:25μm。(F)1週間時点に対して正規化した、1-2-3および8週間でのYFPおよびmCherry陽性ニューロンの数(平均±SEM)。(G)1週間のRNAレベルに対して正規化した、ウイルスRNA(マゼンタ)および内因性YFP発現(シアン)のレベル(平均±SEM)。
【
図3】SiRの経シナプス性および逆行性伝播を示す図である。(A)AAV-TVAmCherry-GLYをRosa-LoxSTOPLox-YFPマウスのCA1に注入し、2週間後、TVA発現ニューロンをEnVAシュードタイプ化SiR
CREで特異的に標的化した。YFP発現により、(A’)YFP
ON/mCherry
ON注入部位において起点ニューロン(矢印)が検出され、(A’’~A’’’)CA3および外側嗅内皮質(LEC)においてニューロンを持続的に標識したSiRウイルスの経シナプス性ジャンプが検出される。スケールバー:25μm。(B~B’’)AAV-TVAmCherry-GLYおよびSiR
CREを感染させたCA1錐体ニューロンのp.i.3週間の共焦点画像。スケールバー:10μm。(C~C’’)海馬のCA1へのSiR
mCherry注入による、CA3およびLECからCA1へ投射するニューロンの逆行性トレーシング。(D)上丘(SC)の浅葉へのSiR注入によって感染したV1皮質ニューロン。スケールバー:25μm。
【
図4】SiR感染が神経細胞の生理学に対して長期的な影響を与えないことを示す図である。(A~B)感染後(p.i.)1週間およびp.i.8週間の、CA1錐体ニューロンの正および負電流ステップ処理に対する膜電位応答。(C)入力抵抗。(D)静止膜電位および活動電位(AP)閾値。(E)AP振幅および幅。(F)正電流を段階的に上昇させたニューロンにおける、p.i.1週間(n=10、マゼンタ)およびp.i.8週間(n=8、シアン)の発火周波数(平均±SEM)。(G)(スパイク発生までの各掃引で1%;0% 明灰色、~9% 黒色)強度を上昇した0.2ms青色光パルスに対する、SiR
CRE-mCherryを感染させたChR2発現CA1ニューロンの(p.i.1週間)の膜電位応答。挿入図、各掃引に対するLED出力。(H、I)同じニューロンから記録された、20Hzにて800msの光パルス(2.17mW)および40回の1.5msの長い光パルスに対する膜電位応答。(J)周波数を上げながら40回光刺激した後の、p.i.1週間(マゼンタ)および8週間(シアン)の活動電位成功率。(K)DNQX(20μM)によって遮断された非ChR2発現ニューロンにおいて記録された光誘発EPSP。両条件のトレースの平均を黒色で示す。*P<0.05。
【
図5】SiRでトレーシングしたV1ニューロンの方向チューニング応答に変化がないことを示す図である。(A)SiR
CREおよびAAV-GCaMP6sを、それぞれRosa-LoxP-STOP-LoxP-tdTomatoマウスのV2およびV1に注入した概略図。(B~B’’)二光子による、SiR
CRE注入後のV1ニューロンの最大投射。灰色はGCaMP6s発現ニューロン(B)、マゼンタはtdTomato発現ニューロン(B’)、およびマージ色は両者を発現するニューロン(B’’、マージ)。スケールバー:50μm。(C)視覚刺激セットアップの概略図。(D)パネルBに示した同じ撮像視野から得た、活動中のROIの略図。(E)GCaMP6s(シアン)およびGCaMP6s-tdTomato(マゼンタ)ニューロンの代表的なCa
2+トレーシング。スケールバー:200秒、20%dF/F
0。(F)SiR注入から4週間後の活性ニューロンの割合の平均(n=122 GCaMP6ニューロン(シアン)、n=59 GCaMP6sおよびGCaMP6s-tdTomatoニューロン(マゼンタ))。(好適な方位の運動格子に対するG9各ニューロンの視覚応答を反映している、経時的な蛍光の変化。(H)V1感染ニューロンのチューニング曲線の例。スケールバー:5秒、10%dF/F
0。
【
図6】インビトロおよびインビボでのΔG-N
PESTRabies
SPLIT-TEV-mCherryの細胞傷害性試験を示す図である。(A)hESC由来ニューロンにΔG-N
PESTRabies
SPLIT-TEV-mCherryを感染させ、16日間にわたり長期的にイメージングした。感染後(p.i.)4~10および16日にイメージングした。(B~B”)ΔG-N
PESTRabies
SPLIT-TEV-mCherry感染hESC由来ニューロン、および(C~C”)B19ΔG-Rabies対照感染hESC由来ニューロン。(D)4日時点に対して正規化した、ラパマイシンの存在下または非存在下でのCTRΔG-RabiesまたはΔG-N
PESTRabies
SPLIT-TEV-mCherryの投与から4~10、および16日後の感染細胞の割合(平均±SEM)。(E)4日時点に対して正規化した、ΔG-N
PESTRabies
SPLIT-TEV-mCherryおよびΔG-Rabies感染ニューロンのmCherryシグナル強度(平均±SEM.、スケールはDと同じ)。スケールバー:50μm。(F~G”)p.i.1、2、または3週間の、インビボでΔG Rabies(シアン)またはΔG-N
PESTRabies
SPLIT-TEV-CRE(マゼンタ、G~G’)を感染させた海馬の切片。スケールバー:50μm。(H)7日時点に対して正規化した、海馬におけるΔGRabies(黒色)またはΔG-N
PESTRabies
SPLIT-TEV-CRE(灰色)の、p.i.1、2、または3週間の感染ニューロンの割合(平均±SEM)。
【
図7】HEK細胞における、ラパマイシンで誘導されるSplit TEV再構成、およびPESTドメインの切断を示す図である。(A)タグ付けしたウイルスタンパク質の薬理学的安定化のための戦略。ラパマイシンは、デグロンドメインを切断するSplit TEVタンパク質の二量体化を誘導し、ウイルスタンパク質をレスキューする。(B)HEKにおけるSplit TEVのラパマイシン用量反応性。TEVレポーターのTEV依存性切断は、ラパマイシンの濃度の漸増(0~10~50nM)に伴って増加する。(C)Split TEVカセットを、Rabiesゲノム中の糖タンパク質座位にクローニングした。Spit TEV発現Rabiesを感染させ、TEVレポーターをトランスフェクトしたHEK293Tでは、明瞭なラパマイシン依存性TEV活性が観察された。
【
図8】インビボでの短期間のSiR
mCherry動態を示す図である。(A)SiR
mCherryカセット設計。(B)Rosa-LoxSTOPLox-YFPマウスのCA1でのSiR mCherry-CRE注入。(C~E”)SiR
mCherry-CREを感染させたCA1錐体ニューロンの、p.i.3-6および9日の共焦点画像。スケールバー:25μm。(F~F’’)p.i.3-6および9日の、YFP
ON、mCherry
ONおよびYFP
ONmCherry
ONニューロンの割合。
【
図9】SiRの薬理学的再活性化を示す図である。(A)ドキシサイクリン誘導性AAVの設計。rTTAトランス活性化因子は、ウイルスによって構成的に発現され、ドキシサイクリンの存在下でTEVプロテアーゼ発現を促進する。(B)Rosa-LoxP-STOP-LoxP-YFPマウスの海馬への、AAV-TRE-TEV注入して1週間後の、同じ領域へのSiR
CRE-mCherry、およびドキシサイクリン投与の概略図。(C~F)SiRおよびAAV-TRE-TEVを感染させドキシサイクリンで再活性化させた、p.i.2または3週間の海馬錐体ニューロン。スケールバー:50μm。(G)YFP
ON感染ニューロン全体のmCherry
ONニューロンの定量化。
【
図10】皮質および海馬における、ΔG-Rabiesが誘導した細胞死を示す図である。(A~A’’)ΔG-Rabies
GFPを感染させた皮質ニューロンの、p.i.1、2および3週間の共焦点画像。(B~B’’)ΔG-Rabies
GFPを感染させたCA1錐体ニューロンの、p.i.1、2および3週間の共焦点画像。スケールバー:50μm。(C)1週間時点に対して正規化した、p.i.1、2または3週間の、皮質(黒色)または海馬(灰色)におけるΔG Rabiesの感染ニューロンの割合(平均±SEM)(海馬、2週間で92±3%細胞死、1時点当たりn=3、一元配置分散分析、F=101、P=2.4×10
-5;皮質、3週間で85±2%細胞死、1時点当たりn=3、一元配置分散分析、F=17、P=3.2×10
-3)。
【
図11-1】(A)SiR CRE-mCherryPESTベクターゲノムをコードするプラスミドの地図である。(B)(A)に示すプラスミドの配列である。T7プロモーター配列は二重下線で示す。オープンリーディングフレームは一本下線で示し、N-TEV-PEST、P、M、iCRE-2A-mCherryPES、およびLタンパク質を順に表している。
【
図11-2】(A)SiR CRE-mCherryPESTベクターゲノムをコードするプラスミドの地図である。(B)(A)に示すプラスミドの配列である。T7プロモーター配列は二重下線で示す。オープンリーディングフレームは一本下線で示し、N-TEV-PEST、P、M、iCRE-2A-mCherryPES、およびLタンパク質を順に表している。
【
図11-3】(A)SiR CRE-mCherryPESTベクターゲノムをコードするプラスミドの地図である。(B)(A)に示すプラスミドの配列である。T7プロモーター配列は二重下線で示す。オープンリーディングフレームは一本下線で示し、N-TEV-PEST、P、M、iCRE-2A-mCherryPES、およびLタンパク質を順に表している。
【
図11-4】(A)SiR CRE-mCherryPESTベクターゲノムをコードするプラスミドの地図である。(B)(A)に示すプラスミドの配列である。T7プロモーター配列は二重下線で示す。オープンリーディングフレームは一本下線で示し、N-TEV-PEST、P、M、iCRE-2A-mCherryPES、およびLタンパク質を順に表している。
【
図11-5】(A)SiR CRE-mCherryPESTベクターゲノムをコードするプラスミドの地図である。(B)(A)に示すプラスミドの配列である。T7プロモーター配列は二重下線で示す。オープンリーディングフレームは一本下線で示し、N-TEV-PEST、P、M、iCRE-2A-mCherryPES、およびLタンパク質を順に表している。
【
図11-6】(A)SiR CRE-mCherryPESTベクターゲノムをコードするプラスミドの地図である。(B)(A)に示すプラスミドの配列である。T7プロモーター配列は二重下線で示す。オープンリーディングフレームは一本下線で示し、N-TEV-PEST、P、M、iCRE-2A-mCherryPES、およびLタンパク質を順に表している。
【
図11-7】(A)SiR CRE-mCherryPESTベクターゲノムをコードするプラスミドの地図である。(B)(A)に示すプラスミドの配列である。T7プロモーター配列は二重下線で示す。オープンリーディングフレームは一本下線で示し、N-TEV-PEST、P、M、iCRE-2A-mCherryPES、およびLタンパク質を順に表している。
【
図12】エンベロープ(G)タンパク質の遺伝子に代わってマルチクローニングサイトを有するSiRベクターをコードするプラスミドの地図である。
【
図13-1】
図12に例示したプラスミドの全長配列である。骨格プラスミド(すなわち、非SiR)配列は陰影付けした大文字で示す。ベクターのオープンリーディングフレームは、N-TEV-PESTタンパク質、Pタンパク質、Mタンパク質、Lタンパク質の順に(5’から3’へ)下線を引いている。マルチクローニングサイト(SbfI、NheI、およびPacI-AscI)は、イタリック体の大文字で示す。N-TEV-PESTタンパク質内では、N配列は小文字の標準書体で、TEV切断部位は大文字のイタリック体で、PEST配列は二重下線を引いた大文字で、リンカーペプチド配列は小文字のイタリック体で示す。
【
図13-2】
図12に例示したプラスミドの全長配列である。骨格プラスミド(すなわち、非SiR)配列は陰影付けした大文字で示す。ベクターのオープンリーディングフレームは、N-TEV-PESTタンパク質、Pタンパク質、Mタンパク質、Lタンパク質の順に(5’から3’へ)下線を引いている。マルチクローニングサイト(SbfI、NheI、およびPacI-AscI)は、イタリック体の大文字で示す。N-TEV-PESTタンパク質内では、N配列は小文字の標準書体で、TEV切断部位は大文字のイタリック体で、PEST配列は二重下線を引いた大文字で、リンカーペプチド配列は小文字のイタリック体で示す。
【
図13-3】
図12に例示したプラスミドの全長配列である。骨格プラスミド(すなわち、非SiR)配列は陰影付けした大文字で示す。ベクターのオープンリーディングフレームは、N-TEV-PESTタンパク質、Pタンパク質、Mタンパク質、Lタンパク質の順に(5’から3’へ)下線を引いている。マルチクローニングサイト(SbfI、NheI、およびPacI-AscI)は、イタリック体の大文字で示す。N-TEV-PESTタンパク質内では、N配列は小文字の標準書体で、TEV切断部位は大文字のイタリック体で、PEST配列は二重下線を引いた大文字で、リンカーペプチド配列は小文字のイタリック体で示す。
【
図13-4】
図12に例示したプラスミドの全長配列である。骨格プラスミド(すなわち、非SiR)配列は陰影付けした大文字で示す。ベクターのオープンリーディングフレームは、N-TEV-PESTタンパク質、Pタンパク質、Mタンパク質、Lタンパク質の順に(5’から3’へ)下線を引いている。マルチクローニングサイト(SbfI、NheI、およびPacI-AscI)は、イタリック体の大文字で示す。N-TEV-PESTタンパク質内では、N配列は小文字の標準書体で、TEV切断部位は大文字のイタリック体で、PEST配列は二重下線を引いた大文字で、リンカーペプチド配列は小文字のイタリック体で示す。
【
図13-5】
図12に例示したプラスミドの全長配列である。骨格プラスミド(すなわち、非SiR)配列は陰影付けした大文字で示す。ベクターのオープンリーディングフレームは、N-TEV-PESTタンパク質、Pタンパク質、Mタンパク質、Lタンパク質の順に(5’から3’へ)下線を引いている。マルチクローニングサイト(SbfI、NheI、およびPacI-AscI)は、イタリック体の大文字で示す。N-TEV-PESTタンパク質内では、N配列は小文字の標準書体で、TEV切断部位は大文字のイタリック体で、PEST配列は二重下線を引いた大文字で、リンカーペプチド配列は小文字のイタリック体で示す。
【
図14-1】
図12および13に例示したプラスミドからの転写によって得られたマイナス鎖ベクターRNAゲノムの配列である。
【
図14-2】
図12および13に例示したプラスミドからの転写によって得られたマイナス鎖ベクターRNAゲノムの配列である。
【
図14-3】
図12および13に例示したプラスミドからの転写によって得られたマイナス鎖ベクターRNAゲノムの配列である。
【発明を実施するための形態】
【0093】
モノネガウイルス目
モノネガウイルス目には、ボルナウイルス科(Bornaviridae)、フィロウイルス科(Filoviridae)、ミモナウイルス科(Mymonaviridae)、ニヤミウイルス科(Nyamiviridae)、パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)、ニューモウイルス科(Pneumoviridae)、ラブドウイルス科(Rhabdoviridae)、およびスンウイルス科(Sunviridae)、ならびに未分類の5つの属、アンフェウイルス(Anphevirus)、アルリウイルス(Arlivirus)、チェンチウイルス(Chengtivirus)、クルスタウイルス(Crustavirus)、およびワストリウイルス(Wastrivirus)が含まれる。これらの科の属および種を、下記の表に示す。下記表中のアスタリスク「*」は、基準種を意味する。
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
詳述については、「Taxonomy of the order Mononegavirales:update 2016」、Afonsoら、Arch.Virol.(2016年)161:2351~2360頁を参照されたい。
【0107】
モノネガウイルス目のウイルス(ここでは「モノネガウイルス」と呼ばれる)は、非感染性の直鎖状一本鎖マイナス鎖RNAのゲノムを保有するエンベロープウイルスである。
モノネガウイルスの大多数は、非分節型ゲノムを有する。いかなる理論にも拘泥するものではないが、本明細書に記載した方法および組成物は、分節型ウイルスより非分節型ウイルスに適用性があると考えられる。
【0108】
ゲノムは、逆相補的な3’および5’末端を有し、どのタンパク質とも共有結合していない。
ゲノムは、一般的に、3’UTR(非翻訳領域)-コアタンパク質コード遺伝子-エンベロープタンパク質コード遺伝子-ポリメラーゼコード遺伝子-5’UTRの順で、コードおよび非コードエレメントの配置を保存する。
【0109】
ゲノムによってコードされるコアタンパク質には、核タンパク質(「N」または「NP」と表わされることが多い)、リン酸化されていることが多いためリンタンパク質と呼ばれるタンパク質(「P」と表わされる)、およびマトリックスタンパク質(「M」)が含まれる。
【0110】
ポリメラーゼは、RNA依存性RNAポリメラーゼであり、多くの場合、ウイルスによってコードされた最も大きなタンパク質であり、そのため、ラージ(または「L」)タンパク質と呼ばれることもある。ポリメラーゼは、モノネガウイルス目の中では比較的高度に保存されている。Pタンパク質は、Lタンパク質の共因子である可能性があり、すなわち、Lタンパク質とPタンパク質は、ポリメラーゼ活性のために一緒に存在することが必要である可能性がある。
【0111】
N(またはNP)、P、M、およびLタンパク質という用語は、それらの正規の名称にかかわらず、本明細書では、モノネガウイルスでの類似の役割を果たすあらゆるタンパク質を指すのに使用される。
【0112】
エンベロープタンパク質は、グリコシル化されていることがある膜貫通型タンパク質である。したがって、一部のモノネガウイルスでは、エンベロープタンパク質は、糖タンパク質(または「G」タンパク質)と呼ばれる。
【0113】
ビリオンは、ゲノムがN、P、およびLタンパク質と結合しているらせん状のリボ核タンパク質ヌクレオカプシドを含む。このヌクレオカプシドは、基質および膜エンベロープ層によって取り囲まれている。
【0114】
宿主細胞に感染すると、ウイルスヌクレオカプシドは細胞質ゾル中へ放出され、そこで、転写および複製されるがRNA依存性RNAポリメラーゼを媒介して行われる。
転写はすべて、ゲノムの3’末端の1つのプロモーターから開始する。ポリメラーゼは、各遺伝子の転写の後、転写を終結し、または下流の隣の遺伝子へと継続し、これらの遺伝子がゲノムの3’末端の最も近くで最大コピー数で転写され、5’末端に向かうにしたがって遺伝子の転写物の産生が減少するmRNA産生の勾配を生み出す。典型的には、各ウイルスは5~10個の様々なmRNAを産生する。核タンパク質(「N」または「NP」と表わされることが多い)のレベルは、mRNA生成とゲノム複製との間の切換えのタイミングを決定する。複製には、ポリメラーゼによる全長プラス鎖アンチゲノムの産生が必要であり、全長プラス鎖アンチゲノムは、ビリオンへのパッケージングのために、続いて全長マイナス鎖ゲノムコピーへと転写される。
【0115】
本明細書における「遺伝子」という用語は、発現産物をコードするベクターゲノム中の配列、および典型的にはベクターのプロモーターの調節下で自身の発現産物の発現を導くベクターゲノム中の配列を指すのに使用される。最終的な発現産物は、RNA(発現がベクターゲノムからの転写だけでよい場合)であっても、タンパク質(発現が、ウイルスタンパク質によるmRNAへの転写に続き、タンパク質への翻訳を必要とする場合)であってもよい。
【0116】
ラブドウイルス、具体的には狂犬病ウイルスの特徴を、モノネガウイルスの生物学の例示として下記にて詳述する。
ラブドウイルスは、典型的には、約11~15kbの長さのゲノムを有する。それらは、脊椎動物(哺乳動物および魚を含む)、昆虫、および植物体に様々に感染する。
【0117】
狂犬病ゲノムは、その末端に、3’リーダー(le)および5’トレーラー(tr)と呼ばれる短い非コード領域を有し、これらは、それぞれゲノムの転写および複製を、開始し、終結する。3’および5’最末端は逆相補的である。これらの末端にはまた、転写および複製のためのプロモーター配列、ならびにゲノムRNAのカプシド形成のためのプロモーター配列も含有されている。
【0118】
5つの構造遺伝子は、(3’から5’へ)N(核タンパク質)、P(リンタンパク質)、M(マトリックス)、G(糖タンパク質)、およびL(ラージ)の順序で、短い非コード遺伝子間領域(IGR)を含んで配置されている。各構造遺伝子は、3’転写開始シグナル(TIS)(コンセンサス配列3’-U-U-G-U-R-R-n-G-A-5’と5’転写終結ポリアデニル化(TTP)シグナル(コンセンサス配列3’A/U-C-U-U-U-U-U-U-U-G-5’)とにはさまれたコード領域を含む。
【0119】
感染は、Gタンパク質が標的細胞の表面のその受容体へ結合することによって媒介される。次いで、ウイルスは、細胞のエンドソーム輸送経路を経て内在化する。エンドソームの低いpHによって、またGタンパク質も媒介して、(エンドソーム膜とウイルスエンベロープとの)膜融合が誘導され、リボ核タンパク質複合体が細胞質中へと放出される。
【0120】
次いで、ウイルスのポリメラーゼ(PおよびLタンパク質を含む)の媒介によって、ウイルスタンパク質をコードするmRNAの転写が開始する。転写は、ゲノムの3’末端から開始し、5’末端に向かって進行し、リーダーRNAから順次、N、P、M、G、およびL遺伝子の6個の連続的な転写物をそれぞれ産生する、ストップ・スタート機構によって続行されると考えられる。ポリメラーゼは、各停止シグナルで鋳型から解離し、次の開始シグナルではほとんど再開しないと考えられる。その結果、mRNA産生の勾配は、リーダー転写物の量が最大で、N、P、M、G、およびL転写物と続く。
【0121】
感染の後期に、ポリメラーゼは、mRNA産生からウイルスゲノムの複製へと切り換わるが、これは、全長プラス鎖RNA中間生成物を経て進む。プラス鎖中間生成物と子孫マイナス鎖ウイルスゲノムの両者は、タンパク質Nによりパッケージングされて、核タンパク質複合体を形成する。Mタンパク質は、RNPヌクレオカプシドの宿主細胞原形質膜への動員、糖タンパク質Gとの結合、および細胞からの子孫ビリオン粒子の出芽に関与するだけでなく、転写と複製との間の切換えのタイミングの決定において調節的役割も果たす。
【0122】
個々のタンパク質の役割および機能にも関する詳細を含む総説として、Albertiniら、Rabies Virus Transcription and Replication、Advances in Virus Research 79、2011年12月(ISSN 0065-3527;DOI:10.1016/B978-0-12-387040-7.00001-9)を参照されたい。
【0123】
狂犬病Nタンパク質の例示的配列は、以下の通りである。
【0124】
【0125】
狂犬病Pタンパク質の例示的配列は、以下の通りである。
【0126】
【0127】
狂犬病Mタンパク質の例示的配列は、以下の通りである。
【0128】
【0129】
狂犬病Lタンパク質の例示的配列は、以下の通りである。
【0130】
【0131】
したがって、本発明のベクターにおいて使用される場合、狂犬病Nタンパク質は、上記に示した配列を有してもよく、またはそれに対して少なくとも70%同一性、例えば、それ対して少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一性を有してもよい。
【0132】
狂犬病Pタンパク質は、上記に示した配列を有してもよく、またはそれに対して少なくとも70%同一性、例えば、それに対して少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一性を有してもよい。
【0133】
狂犬病Mタンパク質は、上記に示した配列を有してもよく、またはそれに対して少なくとも70%同一性、例えば、それ対して少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一性を有してもよい。
【0134】
狂犬病Lタンパク質は、上記に示した配列を有してもよく、またはそれに対して少なくとも70%同一性、例えば、それ対して少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一性を有してもよい。
【0135】
狂犬病Gタンパク質(株B19G)の例示的配列は、以下の通りである。
【0136】
【0137】
細胞外ドメインは標準書体で、膜貫通ドメインは下線で、細胞内ドメインはイタリック体で示されている。
B19株の細胞内ドメインを有するが、それと異なる株由来の細胞外ドメインを有する、代替の、いわゆる「最適化された」Gタンパク質は、次の配列を有する。
【0138】
【0139】
細胞外ドメインは標準書体で、膜貫通ドメインは下線で、細胞内ドメインはイタリック体で示されている。
狂犬病Gタンパク質は、上記に示した配列のいずれかを有してもよく、またはそれに対して少なくとも70%同一性、例えば、それに対して少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一性を有してもよい。
【0140】
狂犬病ウイルスベースのベクターとともに使用するシュードタイプ化エンベロープタンパク質は、細胞内ドメインと、所望により上記のGタンパク質配列のいずれかに由来する膜貫通ドメインとを有してもよく、またはそれらに対して少なくとも70%同一性、例えば、それに対して少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一性を有してもよい。細胞外ドメインは、上記の細胞外ドメイン配列のうちの1つに対して少なくとも70%同一性、例えば、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%同一性を有してもよく、またはベクターの標的とされる細胞に応じて選択されてもよい。
【0141】
ベクターによってコードされた各遺伝子(またはオープンリーディングフレーム)は、典型的には、発現(すなわち転写および翻訳)を確実にする適切な調節シグナルと結合している。このことは、ベクターによって運ばれるあらゆる異種遺伝子、ならびに複製モジュレータータンパク質および他のウイルスタンパク質をコードする遺伝子についても当てはまることである。したがって、各遺伝子は、転写開始シグナルおよび転写停止シグナルを含んでいてもよい。転写開始シグナルは、典型的には、ACATCCCTおよびACACCCCTなどの約8塩基の長さのCリッチ配列である。停止シグナルは、典型的には、AAAAAAAなどのポリ(A)のひと続きである。各遺伝子はまた、適切な転写開始を確実にするコザック配列を含んでいてもよい。特に任意の1つまたは複数の異種遺伝子について、所望のレベル遺伝子発現を確実にするために、内部リボソーム進入部位(IRES)などの非モノネガウイルスのエレメントを含む追加的な制御配列も存在してもよい。
【0142】
参照配列に対するパーセント(%)アミノ酸配列相同性は、配列をアラインメントし、必要に応じて、最大パーセント配列同一性を得るためにギャップを導入し、保存的置換はすべて配列同一性の一部とみなさないとした後の、参照配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基の割合と定義される。%同一性の値は、WU-BLAST-2によって決定してもよい(Altschulら、Methods in Enzymology、266:460~480頁(1996年))。WU-BLAST-2では、幾つかの検索パラメーターを使用するが、そのほとんどは初期値に設定される。調整可能なパラメーターは、以下の値で設定される:重複範囲=1、重複率=0.125、ワード閾値(T)=11。A%アミノ酸配列相同性の値は、WU-BLAST-2によって決定されたマッチする同一残基数を、参照配列の残基の総数(無視されるアラインメントスコアを最大化するために、WU-BLAST-2によって参照配列にギャップを導入)で割り、100を掛けることによって決定される。
単シナプス回路トレーシング
機能性糖タンパク質Gを欠くRabiesウイルスベクターは、ニューロン間のシナプス接続の地図作成に関してよく知られている。例えば、米国特許第8,334,095号を参照されたい。
【0143】
Rabiesウイルスは、選択的にシナプスで連結したニューロン間を(一部の感覚ニューロンを除き)もっぱら逆行方向に伝播する。G糖タンパク質を欠くRabiesウイルスは、感染細胞の表面から出芽することができない。したがって、G遺伝子が削除されたまたは不活性化された狂犬病ウイルスをベースとしたベクター(ΔG-RabiesまたはRVdG)は、G糖タンパク質をコードする遺伝子(または別のシュードタイプ化エンベロープタンパク質)が、例えばアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターなどのヘルパーウイルスによって、トランスに供給されれば、隣接する細胞に対してのみ増殖することができる。ΔG-Rabiesベクターとヘルパーウイルスとが同じ細胞へと慎重に標的化されれば、狂犬病ウイルスは、シナプスに隣接する細胞まで増殖できるが、(隣接細胞は、さらなる増殖に必要なエンベロープタンパク質を発現しないため)それ以上は増殖できない。したがって、これによって、例えばΔG-Rabiesベクターによって運ばれる蛍光マーカータンパク質を介して、シナプス接続を可視化し、地図にすることが可能となる。
【0144】
基本の標識方法の変形は数多く知られている。哺乳動物を使用する一部の例において、ΔG-Rabiesは、それぞれ受容体TVAおよびTVBに特異的である、トリ肉腫白血病ウイルス(ASLV)タイプAまたはB(EnvA、EnvB)由来のエンベロープタンパク質でシュードタイプ化されている。これらのタンパク質は、哺乳動物では天然に発現されないため、当該のシュードタイプ化ベクターによる形質導入は、TVAまたはTVBを発現するように特別に操作された細胞に限定され得る。
【0145】
シナプスの地図作成のための幾つかの手法は、狂犬病ベクターまたはヘルパーウイルスゲノム中の認識部位を標的とすることができるウイルスリコンビナーゼを発現するように操作された動物モデルを使用する。レシピエント動物中のリコンビナーゼ遺伝子を誘導性プロモーターの転写制御下に置くことによって、さらなるレベルの制御が得られる。あるいは、レシピエント動物は、リコンビナーゼタンパク質をコードするベクターによる形質導入の後、細胞ゲノムの組換え事象が起こるように、そのようなリコンビナーゼのためのゲノムの認識部位を保有するように操作されてもよい。
【0146】
一般的に、リコンビナーゼおよび認識部位の組合せは、CREリコンビナーゼがLox認識部位に作用するCre-Loxが使用される。
しかし、G糖タンパク質の欠失または不活性化は、レシピエント細胞内におけるウイルスによるコアの転写、タンパク質合成、および複製の通常のプロセスを妨害しない。細胞内のウイルスRNAおよびタンパク質の蓄積は、細胞生存率がウイルスタンパク質、感染細胞に対する免疫応答、または他の機構によって直接損なわれ、その結果として、標識細胞は典型的には1~2週間しか生存できないという影響を及ぼす。
切換え可能ベクター
本発明のベクターは、モノネガウイルスの転写と複製との一連の性質を利用して、感染細胞内でのウイルスの転写・複製サイクルの切換えを提供し、特定の活性化剤または抑制剤の存在(および活性)に応じてウイルスをオンまたはオフにする。
【0147】
既に説明したように、このベクターは複製モジュレータータンパク質をコードしており、複製モジュレータータンパク質は、複製モジュレータータンパク質を(例えば、プロテアソームによる)分解の標的とさせるデグロンを提示する構成と該デグロンを提示しないためより安定である構成との間の切換えが可能である。複製モジュレータータンパク質のこれらの構成は、デグロンの有無を反映するために「標的化されている」および「標的化されていない」と表される。
【0148】
したがって、複製モジュレータータンパク質が主として標的化されている構成で存在する間、ウイルスは、有意な量の機能性形態の当該のタンパク質を蓄積することができない。一次感染直後に、ウイルスの転写および複製は短期間起こり得るものの、その後、ウイルスの転写および複製は失速することとなる。この構成が十分な時間維持されれば、その他のウイルスタンパク質およびRNAゲノム自体も細胞の通常の機構によって分解されるため、ウイルスは最終的に細胞から除去されることとなる。
【0149】
標的化されている構成の感染細胞中でウイルスが残存する時間の長さは、具体的な当該細胞およびウイルスに応じて異なることとなる。しかし、一般的には、狂犬病ウイルスをベースとしたこの種のベクターは、約2週間~1カ月の期間内に神経細胞から除去されることになりそうである。
【0150】
一般的に、構成間の切換えは、必要に応じて、レギュレーター部分と活性化剤または抑制剤とが相互作用することによって起こる。相互作用は、レギュレーター部分の共有結合的または非共有結合的修飾を含んでもよい。
【0151】
共有結合的修飾は、酵素作用によってなされてもよく、すなわち、活性化剤または抑制剤は酵素であり、レギュレーター部分は該酵素のための基質である。共有結合的修飾の一例は、タンパク質切断である。
【0152】
非共有結合的修飾は、活性化剤または抑制剤のレギュレーター部分への結合によってなされてもよく、すなわち、活性化剤または抑制剤は、レギュレーター部分のためのリガンドであってもよい。
【0153】
したがって、活性化剤は、「切断誘導型安定化」または「リガンド誘導型安定化」によって複製モジュレータータンパク質を安定化させてもよい。逆に、抑制剤は、「切断誘導型不安定化」または「リガンド誘導型不安定化」によって複製モジュレータータンパク質を不安定化させてもよい。(これらはまた、「切断誘導型分解」または「リガンド誘導型分解」と呼んでもよい。)他の機構が可能な場合もある。
【0154】
標的化されている構成と標的化されていない構成との間の切換えは、複製モジュレータータンパク質および活性化剤または抑制剤の性質に応じて可逆的または不可逆的であり得ることが明らかとなろう。例えば、活性化剤または抑制剤がモジュレータータンパク質のためのリガンドである場合、2つの構成間の切換えは可逆的であり得る。構成間の切換えがタンパク質分解などの共有結合的修飾によって媒介される場合、切換えは不可逆的となりそうである。
【0155】
本発明の関連において、デグロンは、例えば、分解を受けるタンパク質に印付けをすることによって、タンパク質に特に短い半減期を付与する性質であれば何であってもよい。多様な種類のデグロンが既知である。ユビキチン化を受けるタンパク質に印付けをすることによって作用するものもあれば(ユビキチン依存性デグロン)、ユビキチン非依存性のものもある。
【0156】
デグロンは、PEST配列であってもよい。PEST配列はペプチド配列モチーフであり、典型的には、少なくとも12アミノ酸の長さで、親水性であり、プロリン、グルタミン酸、セリン、およびスレオニンに富んでいる。Liら(Generation of Destabilized Green Fluorescent Protein as a Transcription Reporter、J.Biol.Chem.1998年;273(52):34970~5頁)が、不安定化活性も有する、マウスオルニチンデカルボキシラーゼの配列HGFPPEVEEQDDGTLPMSCAQESGMDRHを有する残基423~450のPEST配列およびそれらの変異体について記述している。このタンパク質の残基422から461までの領域(「mODC(422~461)」)は、下記の実施例で用いられており、配列SHGFPPEVEEQDDGTLPMSCAQESGMDRHPAACASARINVを有する。
【0157】
NPDC-1(神経増殖分化制御タンパク質-1(Neural proliferation and differentiation control protein-1))のC末端領域もまた、配列KELDTASSDEENEDGDFTVYECPGLAPTGEMEVRを有するPESTモチーフを有する。(NPDC-1,a Novel Regulator of Neuronal Proliferation,Is Degraded by the Ubiquitin/Proteasome System through a PEST Degradation Motif、Spencerら、J.Biol.Chem.2004年;279、37069~37078頁)を参照されたい
したがって、複製モジュレータータンパク質は、PEST配列を含んでいてもよい。PEST配列を含む複製モジュレータータンパク質は、PEST配列が除去されるまで分解されることとなるため、典型的には、抑制モジュレータータンパク質となる。
【0158】
PEST配列は、多くの場合、ウイルスタンパク質部分のC末端、例えば、モジュレータータンパク質のC末端に位置することとなる。
したがって、複製モジュレータータンパク質は、典型的には、ウイルスタンパク質部分のC末端に位置するウイルスタンパク質部分およびレギュレーター部分を含むこととなり、レギュレーター部分は、プロテアーゼ切断部位およびPEST配列を含む。
【0159】
下記のアミノ酸配列は、ウイルスタンパク質部分として狂犬病ウイルスNタンパク質を含む複製モジュレータータンパク質、ならびにTEVプロテアーゼ切断部位およびPEST配列(「N-TEV-PEST」)を含むレギュレーター部分の一例である。
【0160】
【0161】
Nタンパク質ウイルスタンパク質部分は標準書体で、レギュレーター部分はイタリック体で、TEV配列は一本下線で、PEST配列は二重下線で示されている。
デグロンは、N末端アミノ酸または短いN末端配列モチーフであってもよい。それらのN末端にMet、Gly、またはVal以外の残基を有するタンパク質がMet、Gly、またはValを有するタンパク質より安定性が低い傾向をもつことは、十分に証明されている。これはN末端則と呼ばれる。例えば、Varshavsky、A.(2011年)「The N-end rule pathway and regulation by proteolysis」;Protein Science 20:1298~1345頁を参照されたい。
【0162】
様々な機構が、N末端を介してタンパク質の安定性の決定付けに関与しており、いわゆるArg/N末端則経路(タンパク質基質のN末端アルギニル化を伴う)およびAc/N末端則経路(Met、Ala、Val、Ser、Thr、またはCysを有する一部のタンパク質の同時翻訳的なN末端アセチル化を伴う)が含まれる。場合によって、タンパク質の本来のN末端は、内因性の細胞酵素(例えばMet-アミノペプチダーゼ)によってプロセシングを受けることとなる。そのような場合、プロセシング後に存在するN末端残基がデグロンとなってもよい。
【0163】
ガイドラインによると、哺乳動物細胞における安定性の順序(最も安定性が低い/最短半減期から、最も安定性が高い/最長半減期へ)は、概ねGln(Q)、Arg(R)、Glu(E)、Phe(F)、Asp(D)、Cys(C)、Lys(K)、Asn(N)、Ser(S)、Tyr(Y)、Trp(W)、His(H)、Ala(A)、Leu(L)、Thr(T)、Ile(I)、Pro(P)、Gly(G)、Met(M)、Val(V)である。
【0164】
様々な選択肢を任意の所与のタンパク質について試験して、切断前後にN末端で提示される残基の好適な組合せを特定し、タンパク質安定性に必要な差異を得てもよい。
したがって、モジュレータータンパク質は、N末端レギュレーター部分、およびレギュレーター部分下流のウイルスタンパク質部分を含んでもよく、レギュレーター部分は、そのN末端の第1の残基とコグネートプロテアーゼのための切断部位とを含み、ウイルスタンパク質部分は、コグネートプロテアーゼによる切断後、そのN末端に第1の残基とは異なる半減期を付与する第2の残基を有する。
【0165】
したがって、抑制モジュレータータンパク質は、第1のN末端残基を含み、第1のN末端残基より高い安定性を付与する第2のN末端残基を露出するために(例えばプロテアーゼによって)切断可能であってもよい。例えば、第1のN末端残基はArgまたはLys(または配列Arg-Lys)であってもよく、第2のN末端残基はValであってもよい。
【0166】
反対に、抑制可能モジュレータータンパク質は、第1のN末端残基を含んで発現され、第1のN末端残基より低い安定性を付与する第2のN末端残基を露出させるために(例えばプロテアーゼによって)切断可能であってもよい。例えば、第1のN末端残基はMetもしくはValまたは配列Met-Valであってもよく、第2のN末端残基はArgまたはLys(または配列Arg-Lysであってもよい。
【0167】
いずれの場合も、レギュレーター部分は、分子のN末端に位置することとなり、選択された第2のN末端残基のすぐ上流にコグネートプロテアーゼのための切断部位を含んでもよい。
【0168】
典型的には、モジュレータータンパク質は、ユビキチン化のための部位として働く、表面に露出した1つまたは複数のLys残基を含むこととなる。
上記のデグロン技術は、切断誘導型安定化および切断誘導型不安定化の例を示すものである。
【0169】
その他の条件的デグロン技術は、Kanemakiら、Eur.J.Physiol.(2013年)465:419~425頁およびそこで引用された参考文献中に記載されており、これらの技術の幾つかの詳細を下記に示す。
【0170】
リガンド誘導型不安定化の一例は、オーキシン誘導デグロン法である。これは、分解のための標的化を誘導するのにオーキシンを利用する。植物タンパク質TIR1(SCFと表されるユビキチンリガーゼの成分)へのオーキシン(インドール-3-酢酸(IAA)または1-ナフタレン酢酸(NAA)など)の結合によって、TIR1がAUX/IAAファミリーのタンパク質と相互作用することが可能になり、AUX/IAAタンパク質のユビキチン化と、それに続くプロテアソームによる分解とがもたらされる。SCFユビキチンリガーゼのその他の成分は、ほとんどの真核生物でよく保存されている。したがって、IAA17などのAUX/IAAタンパク質を、TIR1を発現する細胞(例えば、TIR1を発現するように操作された真核生物の非植物細胞)中でレギュレーター部分として用いてもよい。細胞へオーキシンを加えると、次いで、AUX/IAA部分を含むタンパク質がすべて分解される。したがって、抑制可能なレギュレーター部分は、AUX/IAAタンパク質を含んでもよい。
【0171】
DD-FKBPおよびLID-FKBPデグロンシステムは、FK506結合タンパク質12(FKBP12)に基づいており、それぞれ、リガンド誘導型安定化およびリガンド誘導型不安定化の例を示すものである。
【0172】
FKBP12の不安定化ドメイン(「DD-FKBP」)は絶えず分解されるが、ラパマイシンの細胞透過型類似体である「Shield-1」と呼ばれるリガンドの存在によって安定化される。(Banaszynskiら、Cell.2006年9月8;126(5):995~1004頁を参照されたい。)したがって、DD-FKBPは、抑制レギュレーター部分として使用することができ、Shield-1の導入によって安定化させることができる。DD-FKBP部分は、モジュレータータンパク質のウイルスタンパク質部分のN末端またはC末端のいずれかに配置することができる。
【0173】
LID-FKBPシステムは、配列TRGVEEVAEGVVLLRRRGNを有する合成された19アミノ酸デグロンがFKBP12タンパク質(またはFKBP12F36Vと表されるそれらのPhe36Val変異体)のC末端に融合されている、リガンド誘導型不安定化(または分解)システムである。このペプチドは、FKBP12のリガンド結合ポケットに結合してFKBP12を封鎖する。Shield-1などの、同じ結合部位に対する別のリガンドの添加によって、デグロンペプチドの解放および曝露が誘導され、その結果、分解を受けるタンパク質全体が印付けされる。したがって、レギュレーター部分は、LID-FKBP部分を含んでもよい。LID-FKBP部分を含むレギュレーター部分は、典型的には、複製モジュレータータンパク質のウイルスタンパク質部分のC末端に、理論的には、モジュレータータンパク質のC末端に、位置するはずである。
【0174】
またレギュレーター部分への疎水性リガンドの結合を使用して、分解を受けるタンパク質を印付けてもよい。例えば、いわゆる「HaloTag」システムは、改変型ハロアルカンデヒドロゲナーゼ(HaloTag)と、改変型ハロアルカンデヒドロゲナーゼの活性部位に共有結合で結合する低分子疎水性リガンド(例えばHyT13)とを使用するものである。タンパク質へのリガンドの結合が、プロテアソームによって分解を受けるタンパク質を印付けるようである。したがって、抑制可能レギュレーター部分は、HaloTagを含んでもよく、ウイルスタンパク質部分のN末端とC末端のどちらに位置してもよい。
【0175】
複製モジュレータータンパク質の、標的化されている構成から標的化されていない構成への切換え(または逆も同様)が、ウイルスタンパク質部分からのレギュレーター部分の切断によって実施され得ることは、上記の考察から明らかとなるであろう。これは、典型的には、プロテアーゼによって成し遂げられる。そのような場合、レギュレーター部分は、典型的には、デグロンとプロテアーゼの切断部位とを含み、このプロテアーゼ切断部位は、ウイルスタンパク質部分とデグロンとの間に位置する。複製モジュレータータンパク質は、ウイルスタンパク質部分とレギュレーター部分との間に位置するリンカーペプチドを含んでもよい。追加的にまたは代替的に、レギュレーター部分は、プロテアーゼ切断部位とデグロンとの間にリンカーペプチドを含んでもよい。
【0176】
タンパク質の成分のうちの1つが何らかの特異的な機能的必要条件をもたない限り、複製モジュレーターの部分は任意の適切な配向にあってよい。例えば、間にリンカー(存在する場合)をはさんで、ウイルスタンパク質はレギュレーター部分のN末端に位置してもよく、またはレギュレーター部分はウイルスタンパク質のN末端に位置してもよい。ただし、一部のデグロン配列は、タンパク質のN末端またはC末端に位置することがやはり必要条件である。
【0177】
ペプチドリンカーは、典型的には、分子の水溶解度を損なうことなく必要な柔軟性を示す、小さな親水性のアミノ酸残基(例えば、グリシンおよびセリン)の割合が高い3個から30個の間の長さのアミノ酸である。ペプチドリンカーはまた、プロテアーゼが作用する切断部位を含有してもよい。切断部位以外の残基(およびプロテアーゼによる認識に必要な他の配列)は、少なくとも50%グリシンおよびセリン残基、少なくとも60%グリシンおよびセリン残基、少なくとも70%グリシンおよびセリン残基、少なくとも80%グリシンおよびセリン残基、または少なくとも90%グリシンおよびセリン残基を含んでもよい。
プロテアーゼ
プロテアーゼは、標的細胞に対して直交であってもよく、すなわち、プロテアーゼは、標的細胞によってコードされ、標的細胞において(すなわち、標的細胞のプロテオームで)発現される天然のタンパク質にみられない切断部位を認識する。
【0178】
したがって、具体的なプロテアーゼは、ベクターが送達されようとする所期の標的細胞に応じて様々であってもよい。標的細胞は、典型的にはニューロンとされ、この場合、プロテアーゼは、ニューロン内で発現されるどの天然の細胞タンパク質にも作用すべきではない。
【0179】
選択されたプロテアーゼは、ベクターによってコードされたその他のタンパク質にも作用するべきではないことも、また明らかとなるであろう。
好適なプロテアーゼの例としては、
- ウイルスプロテアーゼ、例えば、タバコEtchウイルスプロテアーゼ(TEVp)およびヒトライノウイルス(HRV)3Cプロテアーゼ、
- 第Xa因子、
- エンテロキナーゼ、
- グランザイムB、
- トロンビン
が挙げられる。
【0180】
これらのプロテアーゼのコンセンサスな切断部位は以下の通りであり、「\」は切断されるペプチド結合の位置を示す。
【0181】
【0182】
医薬組成物および処置の方法
本明細書に記載の薬剤は、医薬組成物中で配合され得る。これらの組成物は、上記物質のうちの1つに加えて、薬学的に許容される賦形剤、担体、緩衝液、安定剤、またはその他の当業者に周知の物質を含んでもよい。そのような物質は、非毒性であるべきであり、活性成分の有効性を妨げるべきではない。担体またはその他の物質の詳細な性質は、投与経路に依存してもよく、投与経路は、任意の好適な経路によるものであってもよく、経口または非経口であってもよい。ペプチド剤は、経口送達では苦痛を感じるため、非経口投与が最も好適であると示すこともある。好適な非経口経路には、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮膚、皮下、経皮的経路、ならびに頬側、直腸、および膣経路などのその他の粘膜経路が含まれるが、これらだけに限定されない。好適な組成物および投与の方法の例が、EssekuおよびAdeyeye(2011年)ならびにVan den Mooter G.(2006年)に示されている。
【0183】
経口投与のための医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、散剤、または液剤であってもよい。錠剤は、ゼラチンまたはアジュバントなどの固体担体を含んでもよい。液体医薬組成物は、一般的に、水、石油、動物性もしくは植物性油、鉱油、または合成油などの液体担体を含む。生理的食塩水、デキストロースもしくはその他のサッカライド溶液、またはエチレングリコール、プロピレングリコール、もしくはポリエチレングリコールなどのグリコール類を含んでもよい。
【0184】
静脈内、皮膚、または皮下注射のためには、活性成分は、パイロジェンフリーであり、好適なpH、等張性、および安定性を有する非経口的に許容される水溶液の形態とする。当業者であれば、例えば、塩化ナトリウム注射剤、リンゲル注射剤、乳酸加リンゲル液注射剤などの等張ビヒクルを使用して好適な溶液を調製することは十分に可能である。必要に応じて、防腐剤、安定剤、緩衝液、酸化防止剤、および/またはその他の添加剤を含んでもよい。
【0185】
個人に与えられる活性剤の性質が何であれ(例えば、本発明による、ビリオン、封入された核酸分子、またはその他の薬学的に有用な薬剤)、投与は、好ましくは、個人に治療上の効果を与えるのに十分な「予防的有効量」または「治療的有効量」(この場合、予防的処置が治療とみなされてもよいが)で行われる。実際の投与量、ならびに投与の速度およびタイムコースは、処置されているものの性質および重症度に依存することとなる。処置の処方、例えば、用量などに関する判断は、一般開業医および他の医師の責任の範囲にあり、典型的には、処置されようとする疾患、個々の患者の条件、送達の部位、投与の方法、および開業医が知るその他の因子を考慮に入れる。上記の技術およびプロトコールの例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第20版、2000年、Lippincott、Williams & Wilkins出版の中でみつけることができる。
【実施例】
【0186】
Rabiesウイルスをプロテアソームへと標的化するために、プロテアソーム標的化ドメインをRabiesウイルスの各タンパク質と(別々にまたは組み合わせて)融合させた(
図1A~B、表1の構築物の全リスト)。ウイルスタンパク質安定性に対するレベル条件的制御を実施するために、タバコEtchウイルス切断部位(TEVs)を、ウイルスタンパク質とプロテアソーム標的化ドメインとの間に挿入した。タバコEtchウイルスプロテアーゼ(TEVp)は、選択的にTEVsリンカーを切断し、プロテアソーム標的化ドメインを形成するウイルスタンパク質を分断し、ウイルスタンパク質を分解から免れさせる(
図1A)。TEVpおよびTEVsによって構成されるこの二成分系は、ウイルス産生の間、またインビボにおいて、薬ウイルスタンパク質分解の程度および時間的ウインドウを調節するために理学的に制御することができる。すなわち、ウイルスは、TEVpが存在する場合にのみ転写し、複製することができ、これによって、TEVpが供給されなければウイルスの転写および複製が構成的にオフである系が生じる。
【0187】
生成したウイルス構築物すべてについて、ウイルス産生に対する適合性およびTEV依存度をスクリーニングした(
図1)。スクリーニングの結果は、条件的不安定化がTEVp依存的にウイルスの転写・複製サイクルを可逆的に抑制するのに十分であるウイルスタンパク質は、Nタンパク質だけであることを指し示している(
図1F、K)。その他のすべてのウイルスタンパク質の不安定化は、単独でまたは組合せで、インビトロで増幅できないウイルスまたはTEVp存在下でも非存在下でも増幅するウイルスを生じる(
図1)。ウイルスカセット設計をさらに改良した後(補足文、
図6、7)、所望のTEV依存性オン・オフ動態を有するNタンパク質不安定化Rabiesカセットをベースとした自己不活性化Rabies(SiR)を産生することができた。
【0188】
次いで、CREリコンビナーゼおよびmCherry
PESTをコードするSiRを生成した(SiR
CRE-mCherry、
図2B)。Rosa-LoxP-STOP-LoxP-YFPマウスのCA1錐体層にSiR
CRE-mCherryを注入することによって、インビボでのSiR転写・複製動態および細胞傷害性を試験した(
図2B)。SiRによって促進されるCREリコンビナーゼの一過的発現は、Rosa座位の永続的な組換えおよびYFP発現を、ウイルスが完全に転写を停止した後もなお確実にするはずである(
図2A)。実際に、感染後(p.i.)3日では、ウイルスによってコードされたmCherryだけが検出できたのに対し(
図8C~C”)、感染後6日までに既に、ウイルスにコードされたCREリコンビナーゼは、すべての感染ニューロンで条件的マウスレポーターカセットの組換えおよびYFPの発現を誘導している(
図8D~D”)。mCherry
PESTが不安定化されているので、高い時間分解能で(半減期が約2時間)活性ウイルスの存在が印付けされる(21)。
【0189】
次いで、SiR
CRE-mCherry感染CA1錐体ニューロン(その後、8週間にわたりYFP
ONニューロンとなる)の生存を評価し、ウイルスの転写・複製サイクルの代わりとして、感染ニューロンにおいてmCherryがオフに切り換わるのをモニタリングする。感染後1週間で、SiR
CRE-mCherryは、感染ニューロンの画分においてオフの切換えを開始する(29±3%mCherry
OFFYFP
ON、
図2C~C”’、F)。感染後3週間までに、事実上、すべてのYFP
ONニューロンがウイルスにコードされたmCherryを発現してないことを示しているため、移行は完了している(98±2%YFP
ONmCherry
OFF、
図2E~E”’、F、N=3)。さらに重要なことには、8週間の観察期間の間、SiR感染後のニューロンの有意な損失を検出しなかった(8週間にわたりYFP
ONニューロンの有意な減少はない、一元配置分散分析、F=0.19、P=0.90、1時点当たりN=3、
図2E~E”、F)。反対に、ΔG-Rabies感染では、海馬の感染ニューロンの大多数は、一次感染から2週間以内に死んでいる(海馬、2週間での細胞死 92±3%、1時点当たりn=3、一元配置分散分析、F=101、P=2.4×10
-5、
図92±3%)。mCherry
PESTタンパク質半減期に注意を払うことなく、ウイルスの転写・複製サイクルのより高い時間分解能を獲得するために、感染後1、2、3、および8週間に、感染動物の脳抽出物に対して、リアルタイムPCRによってウイルスRNA力価を測定した。mCherry発現の結果に一致して、ウイルス力価は、感染後2週間までにほぼバックグラウンドレベルまで低下する(
図2G)。全般的に、これらの結果は、SiR
CRE-mCherry転写・複製動態は、ウイルスが消失する前に早期にCRE組換え事象を起こすために、十分に時間があることを示しており(
図8D~D’’’)(
図2G)、これは、ニューロンの生存に影響を与えることなく感染ニューロンへの永続的な遺伝学的アクセスを確実にするものである(
図2F)。
【0190】
インビトロでの実験は、条件的プロテアソーム分解によるウイルス安定性の調節が、ウイルスの転写・複製サイクルを調節するのに十分であることを示している。ウイルスタンパク質分解の間、インビボで条件的制御を達成することができるかどうかを評価するために、ドキシサイクリン誘導性プロモーター下でTEVpを発現するAAVウイルス(AAV
TRE::TEVp、
図7A)を設計した(22)。これは、インビボでのTEVp発現に対する薬理学的制御の手段を提供し、したがって、ウイルスの転写・複製サイクルに対する薬理学的制御の手段を提供する。
【0191】
ドキシサイクリン投与によってSiRが再活性化され得るのかどうか、また、感染後、どの段階までドキシサイクリン投与によってSiRが再活性化され得るのかを検討するために、海馬のCA1ニューロンに、AAV
TRE::TEVpを注入した後、1週間後にSiR
CRE-mCherry感染させた。1週間後または2週間後の2時点で2日間、ドキシサイクリン(100mg/Kg)を胃管栄養によって投与した(
図9B)。RNA解析に一致して、SiR感染の1週間後にウイルスが転写的に活性である時点でドキシ投与した場合、YFP
ONmCherry
ONニューロンの割合が倍増したのに対し(mCherry
ONYFP
ON -ドキシ 22±3%、+ドキシ 38±2、P=0.02、
図9G)、感染後2週間でのドキシ投与では、影響は認められなかった(mCherry
ONYFP
ON -ドキシ 1±1%、+ドキシ 1±1%、
図9G)。
【0192】
SiR
CRE-mCherry生活環が短いことを考慮して、ウイルスが、オフに切り換わる前に、一次感染したニューロンから経シナプス的に伝播する能力を保持するかどうかを検討した。これを試験するために、まずRosa-LoxP-STOP-LoxP-YFPマウスのCA1錐体層にTVAおよびB19-Gを発現するAAVを注入し、続いてEnvAシュードタイプ化SiRウイルスを感染させた。CA1とCA3との間の既知の解剖学的結合性から予想された通り、CA3の錐体層においてSiRで標識されたニューロンが確認され(
図3A~A’’)、これは、特異的な経シナプス性伝播を示すものである。シナプス前ニューロンもまた、嗅内皮質で確認された(
図3A’’’)。さらに重要なことには、SiR感染したTVAおよびG発現起点細胞は、感染期間を通して生存可能であった(
図3B~B’’)。さらに、SiRは、最近開発された最適化Rabies糖タンパク質(oG)でシュードタイプ化した場合(17)、非常に効果的な逆行性(非経シナプス性)トレーサーとしても機能する(
図3C、D)。
【0193】
SiRがニューロン生理学に対して長期的影響を及ぼさないことを確認するために、Rosa-LoxP-STOP-LoxP-ChR2YFPのCA1の錐体層にSiR
CRE-mCherryを注入した。次いで、感染後1週間および2カ月に、感染ニューロンの電気生理学的特性を比較した。CA1のYFP
ONニューロンを、海馬急性スライスにおいてホールセルパッチクランプ法で記録した。記録された錐体CA1ニューロンはすべて、規則的なスパイク発生プロファイルを示し(
図4A、B)、入力抵抗に有意差はなかった(p.i.1週間での226±13MΩ、n=10に対して、2カ月では251±18MΩ、n=8;
図4C)、静止膜電位(-57.0±1.9mVに対して56.7±1.9mV;
図4D)、活動電位振幅(96.4±3.6mVに対して94.2±2.9mV)、および活動電位半値幅(2.4±0.1msに対して2.4±0.1ms;
図4E)。注入閾値では軽微な差のみ認められた(-46.0±1.0mVに対して-41.3±2.0mV、P=0.0394;両側2標本スチューデントのt検定、
図4D)。ただし、この差は瞬間発火周波数に影響を与えていない(
図4F)。ChR2は、SiR
CRE-mCherryで形質導入されたニューロンでうまく発現されている(
図4G~I)。ニューロンは、感染後1週間でも2カ月間にわたっても、同じ信頼性を有して多様な周波数で活性化され得る(
図4J)。重要な知見は、感染後2カ月に、SiR
CRE-mCherry感染ニューロンの光活性化が、それらのシナプス後パートナーにおいてDNQX感受性興奮性シナプス後電位(EPSP)を誘発するということであり(
図4K)、これは、機能的結合性が持続されており、シナプス機能に対して有害な影響を及ぼさなかったことを示している。
【0194】
細胞傷害性がなく、電気生理学的応答に変化がないことは、SiRが長期の回路操作のために使用できることを裏付けている。SiR感染ニューロン間の機能的結合性があり、シナプス機能に対する有害な影響がないこともまた、SiR感染中、ネットワーク機能が保存されている可能性を示している。ネットワーク依存性計算がSiR地図回路の中で実際に影響を受けないかどうかを直接試験するために、ネットワーク依存性計算のプロトタイプ例として、SiRを用いてV2へと投射するV1ニューロンを追跡し、それらの方向チューニング優先性の特徴付けを行った(18)。まず、Rosa-LoxP-STOP-LoxP-tdTomatoマウスにoGシュードタイプ化SiR
CREを注入して、V2投射ニューロンを標的化した。同時に、AAV::GcAMP6を同側のV1に注入した。SiR
CREの逆行性伝播は、V2へと投射するV1ニューロン(V1
>V2)を持続的に標識する、Rosa座位の組換えを誘導する(
図5B-B’’)。次いで、インビボでのSiR感染V1
>V2ニューロンのCa
2+動態を、二光子顕微鏡下で、p.i.4週間、モニタリングし、一方で、麻酔をかけた動物に視野を横断する様々な方向に動く格子を見せた(
図5C)(19)。感染V1ニューロンは、特定の格子方向で蛍光の有意な増加を示し、方位または方向選択性を示すチューニング曲線が得られた(
図5G、H)。特に、記録されたCa
2+応答、および活性ニューロンの割合は、SiRでトレーシングしたニューロン(GCaMP6s
ON-tdTomato
ON)と隣接した非SiR V1ニューロン(GCaMP6s
ON-tdTomato
OFF)との間で同様であった(
図5E、F)。これらのデータは、SiRでトレーシングしたネットワークは不変の計算特性を維持すること、また、SiRをGCaMP6sと組み合わせて使用して、光学的試験に関する時間的ウインドウの上限なくCa
2+動態のモニタリングができることを示している。
【0195】
単シナプスに制限されるRabiesウイルスの開発は、神経回路の研究に大きな変化をもたらす役割を担ってきた。しかし、現在まで、Rabiesウイルス感染に附随する細胞の細胞傷害性が、事実上、神経回路の解剖学的地図の作成に対するその使用を概して制限してきた。誘導される細胞傷害性は、ウイルス複製を維持するために、細胞の転写装置の転写活動を乗っ取るウイルスの転写活動に関連する(24)。したがって、複製可能なRabiesウイルスはすべて、最終的に細胞の生理学を損なわせることとなる。この制限を克服し、形態的に規定されたネットワーク要素への一生続く遺伝学的および機能的アクセスを獲得するために、ヒト胚性幹細胞(hESC)由来ニューロンでも(補足的結果、
図6)マウスにおけるインビボでも、TEVp依存的に、一次感染の後に転写をオフに切り換える自己不活性化Rabiesウイルスを開発した。ウイルスの完全な転写サイレンシングと同調して、感染後数カ月間、感染ニューロンの電気生理学的サインに変化がないこと、またシナプス機能および回路完全性が維持していることを観察しており、これは、生理学的研究および行動研究のために重要なことである。さらに重要なことには、移動刺激に対する方向チューニングなどの、感染ニューロンのより高いレベルの回路依存的計算が、ウイルス感染後数カ月間、インビボで影響を受けないままであることも示されている。
【0196】
これはまた、同様に、SiRを用いて、カルシウムイメージングを使用してインビボでのネットワーク活性をモニタリングできることも示している。古典的なB19ΔG-Rabiesを用いた場合、ニューロンの光学イメージングのための最適な時間的ウインドウは、典型的には、Rabies感染から5~7日後である(17)。最近紹介されたΔG-Rabies株変異体CVS-N2cΔGを使用した場合、イメージングのために有用な時間的ウインドウはさらに感染から17日後まで延長することができる(25)。SiRを用いた場合、ネットワーク要素の光学的研究のための時間的ウインドウに対する上限はない。これらの属性によって、SiRは、神経回路の機能的および遺伝学的操作のためだけでなく、神経ネットワーク活性の長期モニタリングのためにも最も有益な解決策となる(26~29)。さらに、SiRのユニークな一過的複製の性質は、例えば神経変性状態の間または外傷性脳損傷に伴う学習に関する、生理学的または病理学的な構造的可塑性に伴う回路再構築を追跡することの実現性を提供し、これによって、そのような場合におけるネットワークレベルでの機能的介入が可能となり得る。
【0197】
概して、自己不活性化ΔG-Rabiesの開発は、初めて、ニューロンの生理機能および回路機能への有害な影響がない、形態的に規定されたネットワーク要素への永続的な遺伝学的アクセスを提供する。
補足文
第一世代ΔG-N
PESTRabies。細胞傷害性のインビトロおよびインビボ試験
ウイルスタンパク質安定性の条件的調節を獲得するために、SPLIT-TEVカセット(30)を各ウイルスタンパク質のC末端に付加した(ΔG-VP
PESTRabies
SPLIT-TEV-mCherry)。さらに、タンパク質発現レベルをモニタリングするために、タグ(myc、FLAG、またはV5)を各ウイルスタンパク質のN末端に融合させた。このSPLIT-TEV二量体プロテアーゼは、ラパマイシンの存在下でのみ活性があり、インビボでウイルスタンパク質が産生される間の安定性を外因的に調節するツールを提供できる可能性がある。まず、プラスミドによって発現されたSPLIT-TEVがHEK細胞中でTEV活性レポーターを切断する能力を試験し(
図6B)、次いで、ウイルスによって発現されたカセットがTEV活性レポーターを切断する能力を試験した(
図6C)。
【0198】
タンパク質の不安定化がニューロンの生存に及ぼす影響を厳密に調べるために、ヒト胚性幹細胞(hESC)由来ニューロンにΔG-N
PESTRabies
SPLIT-TEV-mCherryを感染させた。感染ニューロンの生存を長期間的に追った研究を実施し、対照ΔG Rabiesと生存率を比較した。ニューロンを感染させ、長期的に追って4-10-16日にイメージングして細胞死を評価した(
図7A、B~C”)。操作が長期化し、イメージングセッションが夜通し繰り返されるため、細胞死を説明するために、GFP発現レンチウイルスを使用して感染率を正規化した。感染後16日に依然として検出できた対照ΔG-Rabies感染ニューロンは、26±4%に過ぎなかった(各条件について、N=3、n=781;
図7C-C’’、D)。これに反して、ΔG-N
PESTRabies
SPLIT-TEV-mCherryウイルスは、16日後では有意な細胞損失はみられず94±6%であり(各条件についてN=3、n=917、
図4B~B”、C)、ΔG-Rabies対照と比較して細胞生存は有意な増加を示した(P=3.2×10
-5;対応のある両側スチューデントのt検定)。
【0199】
ΔG-N
PESTRabies
SPLIT-TEV-mCherryの細胞傷害性の低減がウイルス転写の低減と関連するかどうかを理解するために、同じ発現カセットを共有する、対照ΔG-RabiesおよびΔG-N
PESTRabies
SPLIT-TEV-mCherryウイルスを感染させたニューロンで発現したレポーターの強度をモニタリングした(
図7E)。経時的には、ΔG-N
PESTRabies
SPLIT-TEV-mCherry感染細胞のmCherryシグナルの平均は、対照より有意に低いという結果であった(10日のmCherry強度、ΔG-Rabies 138±3%、ΔG-N
PESTRabies
SPLIT-TEV-mCherry 87±7%、各条件についてP=0.01;N=3、n=584;対応のある両側スチューデントのt検定)。
【0200】
次いで、インビボでΔG-N
PESTRabies
SPLIT-TEV-mCherryウイルスの性能を試験した。
ΔG-N
PESTRabies
SPLIT-TEV-mCherryウイルス中のmCherry遺伝子を、CREリコンビナーゼ(ΔG-N
PESTRabies
SPLIT-TEV-CRE)で置換した。これによって、ウイルスの転写活動が完全に停止した後も、確実に感染ニューロンを持続的に標識できるようになり、ウイルスのサイレンシングと細胞死とを識別が可能となる。ΔG-N
PESTRabies
SPLIT-TEV-CREを、海馬のCA1に、Rosa-LoxP-STOP-LoxP-tdtomatoレポーターマウス系統のCA1に注入した。ΔG-N
PESTRabies
SPLIT-TEV-CRE感染に対するニューロンの生存は、対照ΔG Rabiesによる感染で観察されたニューロンの生存と比較して有意な増加が観察された(ΔG-N
PESTRabies
SPLIT-TEV-CREでは2週間で25±2%、ΔG Rabiesでは2週間では8±3%、P=7×10
-3、
図7H)。しかし、ΔG-N
PESTRabies
SPLIT-TEV-CRE感染では、顕著なニューロンの損失が依然として認められた(3週間で76±3%、P=9×10
-4)。
【0201】
ΔG-N
PESTRabies
SPLIT-TEV-CREで残存する細胞傷害性は、SPLIT-TEVカセットの二量体化および活性の基礎量が構成的に低いことに関連していると考えられ、転写的に活性なウイルス粒子を生じ得る。この仮説と整合することに、ラパマイシンの存在または非存在下で、ニューロンの生存およびmCherry発現レベルへの有意な影響がないことが観察されており(p.i.10日のmCherry発現、ΔG-N
PESTRabies
SPLIT-TEV-RAP 87±7%、ΔG-N
PESTRabies
SPLIT-TEV+RAP 85±6%、P=0.21;各条件についてN=3、n=793;対応のある両側スチューデントのt検定;
図7E)、hESC由来ニューロンでは、細胞生存への有意な影響がないことはラパマイシン投与と関連していた(16日;ΔG-Rabies
+RAP 26±4%、ΔG-Rabies
-RAP 30±7%、P=0.69;ΔG-N
PESTRabies
SPLIT-TEV+RAP 88%±11%、ΔG-N
PESTRabies
SPLIT-TEV-RAP 94%±6%、各条件についてP=0.79;N=3、n=833;対応のある両側スチューデントのt検定、
図7D)。さらに、ラパマイシン非存在下のHEK細胞では、構成的に低いレベルのTEV活性が観察され、これは、ラパマイシン非依存性SPLIT-TEV二量体化の基礎レベルを示すものである(
図6B、ライン2)。全体として、これらの結果は、N
PESTRabies
SPLIT-TEVは、hESC由来ニューロンおよびインビボにおいて、ΔG-ΔG-Rabiesと比較して細胞傷害性を低減したことを示している。しかし、ΔG-N
PESTRabies
SPLIT-TEVは、感染後、完全にオフに切り換えることができず、これによって著しい遅延が生じ、ニューロンの細胞傷害性およびニューロンの損失を依然として呈する。これらの理由により、漏出するSPLIT-TEVを除去し、mCherry-CREカセットで置換することによって、ΔG-N
PESTRabiesの第二世代を生成し、SPLIT-TEVを所望のオン・オフおよびTEV依存性動態を有する自己不活性化Rabiesウイルス(SiR)を得た(本文)。
材料および方法
【0202】
【0203】
動物系統
C57BL/6野生型(WT)マウスおよび以下のトランスジェニック系統を使用した:Rosa-LoxP-STOP-LoxP-tdtomato(Jackson:Gt(ROSA)26Sortm14(CAG tdTomato、Rosa-LoxP-STOP-LoxP-YFP(Jackson:Gt(ROSA)26Sor<tm1(EYFP)Cos>)。すべての手順は、UK Animals(Scientific procedures)Act 1986およびEuropean Community Council Directive on Animal Careに従って実施した。動物は、食物と水を自由摂取させ、12時間光/暗周期で収容した。
ΔG Rabiesおよびレンチウイルスプラスミドの設計および生成
表1に列記した弱毒化Rabiesプラスミドはすべて、出発物質としてpSAD-ΔG-F3プラスミド(21)を使用して、ギブソンクローニングによって生成した。簡潔に述べると、Rabiesゲノムは、タグ付けされる予定のタンパク質から開始して、2つの断片でPCR増幅した。次いで、これらの断片を、アニーリングするオリゴヌクレオチドによって得られたタグおよび/またはPESTドメインと混合し、ギブソンマスターミックス(NEB)を使用して連結した。
【0204】
パッケージング細胞を生成するのに使用したレンチウイルスベクターは、第三世代レンチウイルス遺伝子導入用ベクターから得た(pCCL-SIN-18PPT.Pgk.EGFP-WPRE由来「361ポリリンカー」、Michael Hastingsから寄贈)。レンチウイルスベクターはすべてギブソンアセンブリーによって生成し、XbaIおよびKpnIによる消化によって主鎖を開き、CMVプロモーターおよび様々な挿入断片をPCR増幅した。
細胞株
HEK293T細胞およびBHKは、ATTCから購入した。Rabies糖タンパク質を発現するHEK293Tパッケージング細胞(HEK-GG)は、Lenti-H2BGFP-2A-GlySAD(表1)を用いてレンチウイルス感染させ、3回継代した後、GFP発現細胞の蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)を行うことによって生成した。Rabies糖タンパク質およびTEVプロテアーゼを発現するHEK293Tパッケージング細胞(HEK-TGG)は、HEK-GGを、Lenti-puro-2A-TEVを用いてレンチウイルス感染させ、3回継代した後、1μg/mLのピューロマイシンを付加した培地にて1週間培養して選択して生成した。
【0205】
最適化Gを有するシュードタイプ化Rabiesウイルス用のBHKパッケージング細胞(BHK-TGoG)は、まず、pLenti-H2BGFP-2A-oGを感染させ、次いでpLenti-puro-2A-TEVを感染させる、同じ手順で生成した。EnVA受容体を有するシュードタイプ化Rabiesウイルス用のBHKパッケージング細胞(BHK-T-EnVA)は、BHK-EnVAにLenti-puro-2A-TEVを感染させ、ピューロマイシンで選択することによって得た。
ウイルススクリーニング
弱毒化ΔG-Rabiesウイルスのスクリーニングのために、HEK-GGまたはHEK-TGG細胞に、狂犬病ゲノムベクター、pcDNA-T7、pcDNA-SADB19N、pcDNA-SADB19P、pcDNA-SADB19L、およびpcDNA-SADB19Gを同時導入し(21)、10%FBS(Gibco)および100u/mlペニシリン・ストレプトマイシンを補充したDMEM中で、加湿雰囲気下5%CO2中、37℃で維持した。トランスフェクションから1日後、さらにそれ以降は3日毎に、細胞をPBSで洗浄し、0.05%トリプシンで処理し、新しいディッシュに1:3比で再播種した。細胞は、分割した後、5%CO2中37℃で1日、次いで3%CO2中35℃で2日間、維持した。3日毎に細胞を固定し、mCherry発現について細胞をFACSで選別することによって、ウイルス伝播を評価した。
ウイルス産生
高力価のΔG-Rabiesを回収するために、HEK-GGまたはHEK-TGGに、それぞれ対照または弱毒化Rabiesについて、ウイルススクリーニングの節に記載したようにして得たウイルスの上清1mlを、70~80%コンフルエントの10cmディッシュ中で感染させた。感染して1日後、細胞を分割し、5%CO2中37℃で、1日または2日間維持し、毎日ウイルスの伝播を確認した。細胞の70~80%がウイルスマーカーを発現した時点で、培地を2%FBS DMEMと交換し、35℃、3%CO2で、2日間維持した。次いで、2500rpmで10分間遠心分離した後、0.45μmフィルターを用いたろ過によってウイルス上清を収集し、細胞破片を除去し、次いで、前述のようにショ糖クッションを用いる超遠心分離法によってウイルスを濃縮した(22)。
【0206】
oGでシュードタイプ化したRabiesウイルスは、ウイルス上清1mlを含む10cmディッシュ中でBHK-T-oG細胞を感染させることにより産生させた。感染して1日後、細胞を分割し、5%中37℃で、1日または2日間維持し、毎日ウイルスの伝播を確認した。細胞の70~80%がウイルスマーカーを発現した時点で、培地を2%FBS DMEMと交換し、3%CO2中35℃で、2~3日間維持した。次いで、既述されているように、上清を収集し、処理した(20)。
【0207】
EnVAでシュードタイプ化したRabiesウイルスは、BHK-EnVA細胞の代わりにBHK-T-EnVA細胞を使用して、既述されているように産生させた(22)。
インビトロでの細胞傷害性分析
ヒト胚性幹細胞(hESC)由来ニューロンは、Rick Livesey博士のご厚意により提供いただいた。細胞を24ウェルガラス底プレートに播種し、同等のMOIの弱毒化または対照ΔG-Rabiesウイルス上清を一晩感染させて、約5%の感染細胞を得た。細胞は、Hibernate(登録商標)-A Medium(Invitrogen)中で、37℃に加温されたLeica SP8共焦点顕鏡の下で、一晩感染させた後4日毎に、各ウェルにつき無作為に5領域をイメージングした。細胞生存は、各条件について、同じ条件でイメージングし処理した対照レンチウイルス-GFP感染hESC由来ニューロンの致死率に対して正規化して算出した。
ウイルス注入
生きた動物を使用するすべての手順は、Home OfficeおよびLMB Biosafety委員会によって承認された。すべての実験で、6~12週齢のマウスを使用した。マウスは、イソフルランを、初期導入では流量2L/分の酸素中3%で送達し、次いで、2L/分の酸素中1~2%で維持して麻酔した。麻酔下の動物を定位固定装置(David Kopf Instruments)に置き、リマダイル(2mg/kg体重)を抗炎症剤として皮下(s.c.)投与した。小さい孔(直径500μm)を開け、ハミルトンニューロシリンジを使用してウイルスを注入した。シリンジは、脳内に5分間放置した後、引き抜いた。ウイルスは、以下の力価で注入した:Rabiesウイルスは3×108感染単位/ml、AAVは2×1012ゲノムコピー/ml、レンチウイルスは3×108感染単位/ml。最大400nl体積までのウイルスを以下の脳領域に注入した:CA1(ブレグマから、AP:2.3mm、ML:1.65mm、およびDV:1.45mm)、V1(ブレグマから、AP:2.3mm、ML:1.65mm、およびDV:1.45mm)、V2(ブレグマから、AP:3.6mm、ML:1.2mm、DV:0.6mm)。
インビボでの細胞傷害性分析
インビボでウイルスの細胞傷害性を試験するために、400nlの同じ力価(3×108感染単位/ml)の弱毒化および対照ΔG-Rabiesを、2つの半球の対側の海馬CA1に注入した。p.i.1-2-3、または8週間に、クリオスタットで脳を切片化した(35μm)。感染ニューロンを、10倍率(0.45NA)ドライタイプ対物レンズを備えたロボット支援Nikon HCA顕微鏡を使用して、海馬全体をサンプリング(4切片毎に1つ取得)して、イメージングし、蛍光の海馬ニューロンを、Nikon HCA解析ソフトウエアを使用してカウントした。弱毒化および対照ΔG-Rabiesの細胞生存は、同じ注入プロトコールを使用した対照レンチウイルス-GFP感染海馬の致死率に対して各時点を正規化して算出した。
インビボでの薬物に誘導されるSiRウイルスの再活性化
Rosa-LoxP-STOP-LoxP-YFP動物の海馬のCA1に、ドキシサイクリン誘導性プロモーターの調節下でrTTAおよびTEVプロテアーゼを構成的に発現するAAVを注入した(表1)。p.i.1週間、同じ領域にSiRmCherry-CREを再注入し、SiR注入の1または2週間後に、ドキシサイクリン(Santa Cruz Biotechnology、100mg/Kg)を投与した。薬物投与して1週間後、脳を採取し、クリオスタット(35μm)で切片化した。感染ニューロンを、ロボット支援Nikon HCA顕微鏡を使用して、海馬全体をサンプリング(4切片毎に1つ取得)して、イメージング、カウントした。
インビボでのSiRゲノムコピーの解析
経時的に感染動物中のSiRウイルスのゲノムコピー数を求めるために、SiRmCherry-CREを、Rosa-LoxP-STOP-LoxP-YFP動物の海馬のCA1領域に注入した。1、2、3、または8週間後、マウスを選別した後、直ちに、注入された海馬を手作業で切除した。Tissuelyser II(Qiagen)を使用して海馬をホモジナイズし、RNeasyキット(Qiagen)を使ってメーカーの使用説明書に従って処理して全RNAを抽出した。海馬当たり500ngのRNAを、superscript IVキット(Invitrogen)を使用して逆転写(retrotrascribe)させ、定量的PCR(rotorgene sybr-グリーン)によってGADPH、YFP、およびmCherry発現を解析した。定量化にはLivak法を適用した。YFPおよびmCherryの発現は、GADPHハウスキーピング遺伝子の発現(DCT=CTgene-CTGADPH)に対して正規化した。また、1週間時点に対する変化倍率(2-DDCT)としての経時的変動(DDCT=DCTTimepoint-DCT1week)。
電気生理学
電気生理学的記録のために、1カ月齢のRosa-LoxP-STOP-LoxP-ChR2YFPマウスのCA1の両側に、SiRmCherry-CREを注入した。記録は、p.i.1週間または2~3カ月間行った。
【0208】
海馬冠状スライス(350μm)は、氷冷した、以下の組成物(mM):KCl 3、NaH2PO4 1.25、MgSO4 2、MgCl2 1、CaCl2 1、NaHCO3 26.4、グルコース 10、ショ糖 206、アスコルビン酸 0.40、キヌレン酸 1を含む、カルボゲンガス(95%O2、5%CO2)で酸素化したショ糖ベースの切削溶液中で、振動ミクロトーム(7000smz-2、Campden Instruments LTD、Loughborough、UK)を使用して調製した。スライスは、モル浸透圧濃度を280~300mOsm/Lに調整した酸素化人工脳脊髄液(aCSF;mM:NaCl 126、KCl 3、NaH2PO4 1.25、MgSO4 2、CaCl2 2、NaHCO3 26.4、グルコース 10)が入った水浸式保持チャンバー内で、37℃で30分間インキュベートし、その後、同じ保持チャンバー内で、室温で少なくとも1時間保管した。次いで、スライスを個別に記録チャンバーに移し、酸素化aCSFを室温で約2ml/分の流速で灌流した。
【0209】
ホールセルの電流クランプ記録は、ホウケイ酸ガラスキャピラリー(1.5mm OD×0.86mm ID)を引き延ばした6~9MΩピペットを使用して、CA1ニューロンから得た。ピペットには、(mMで)K-グルコン酸 150、HEPES 10、NaCl 4、ATP-Mg 4、GTP-Na 0.3、およびEGTA 0.2を含有し、pH7.2およびモル浸透圧濃度270~290mOsm/Lに調整された人工細胞内液を満たした。データは、Axon Multiclamp 700B増幅器(Molecular Devices、Union City、CA、USA)を使用して記録し、シグナルは、pClampを実行するPC上でデジタイザー(Axon Digidata 1550A、Molecular Devices、Union City、CA、USA)を使用して、2kHのローパスフィルターでカットし、5kHzで獲得した。SiRウイルス感染ニューロンからの光誘発反応は、40倍率水浸対物レンズ(0.8NA)を通して、450~490nmのLED光(pE-300 coolLED system、Scientifica Ltd、Uckfield、UK)を使用して誘発した。
薬理学
SiRウイルス感染ニューロンと近傍ニューロンとの間のシナプス結合性を徹底的に調べるために、電気生理学的記録の一部において、AMPA受容体拮抗剤DNQX(20μM;Sigma-Aldrich、Dorset、UK)を使用した。
インビボ二光子イメージング
ウイルス注入済みRosa-LoxP-STOP-LoxP-tdTomatoマウス(ウイルス注入の節を参照されたい)に、2%イソフルランで麻酔をかけた。動物にピンチ刺激を与えて引っ込み反射および眼瞼反射を試験して、麻酔深度をアッセイした。抗炎症剤としてリマダイル(2mg/kg体重)を皮下に注入した。実験中、角膜の乾燥防止のために、両眼を眼軟膏で覆った。動物は、頭部を固定し、メタルヘッドポストを頭蓋骨にセメント接着した。V1皮質の上部に直径4mmの穴を開けて開頭した。頭蓋骨を除去した後、皮質表面を、25mM NaCl、5mM KCl、10mMグルコース、10mM HEPES、2mM MgSO4、および2mM CaCl2を含有しpH7.3に調整された皮質緩衝液で湿った状態に保った。次いで、皮質を特注のプラグカバーガラスで覆い(23)、Super Glueおよび歯科用セメントでシールした。マウスに2%イソフルランで麻酔をかけ、920nmに同調させたTi:モード同期サファイアレーザー(Mai Tai-Series、Spectra Physics)を備えた二光子レーザースキャニング顕微鏡(Multiphoton Imaging System、Scientifica Ltd.、Uckfield、United Kingdom)の下に載せた。イメージングは、それぞれ390×390μmおよび195×195μmの撮像視野が得られるズームレンズ2または4と共に、256×256画ピクセルの解像度で水浸レンズ(Nikon、16×、0.8NA)によって実施した。データは3.5Hzで取得した。対物レンズは、ヘッドプレート上に固定したプラスチック製oリングで取り付けた円錐形の黒布で遮蔽した(24)。視覚刺激は、(PsychoPyツールボックスをベースとした)Pythonで特注のGUIを使用して調節し、マウスの左眼から15cmに配置したLEDスクリーンを用いて実施した。1ステップ30度で12方位に移動する矩形波格子を呈示し、フォトダイオードを使用して各刺激の開始および終了時間を検出した。各格子方位は、ブランク条件と交互に、無作為の順序で5回呈示した。格子の空間周波数は視角1度当たりの周期数(cpd)が0.04であり、時間周波数は1Hzであった。イメージングおよび視覚刺激は、Arduinoマイクロコントローラーボードを使用して一緒に起動させた。イメージングセッションは2時間まで継続し、試料での出力は30~40mWの範囲に調節した。データ解析はImageJおよびMatlabで実施し、細胞体に限定した。対象領域(ROI)の検出は、Suite2pを用いて実施した。蛍光の相対的変化は、dF/F0=(F(t)-F0)/(F0)として算出した。方向チューニング曲線は、刺激期間全般の各方向への応答の平均をとって作成した。応答振幅は、刺激前のベースラインと比較した刺激期間中の蛍光の相対的変化として示す(dF/F)。データはすべて、平均±SEMとして示す。
***
本発明は、上述の典型的な態様に関連して説明してきたが、本開示を考慮すると、多くの等価の改変および変形が当業者に明らかとなるであろう。したがって、記載の本発明の典型的な態様は、例示的であって限定的なものではないとみなされる。本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、記載した態様に対する様々な変更を行ってもよい。本明細書に引用されたすべての文書は、明らかに参照により組み込まれる。
【0210】
特許出願および登録特許を含む、本出願におけるすべての参考文献の教示は、参照により本明細書に完全に組み込まれる。本出願が優先権を主張する特許出願はいずれも、刊行物および参考文献について本明細書で説明したように、全体として本明細書に参照により組み込まれる。
【0211】
疑義を避けるために明記すれば、本明細書において「含む(comprising)」、「含む(comprise)」、および「含む(comprises)」という用語は、発明者らによって、あらゆる場合において、それぞれ、「からなる(consisting of)」、「からなる(consist of)」、および「からなる(consists of)」という用語と所望により代替可能であるものとされる。すべての数値の「約」(または「およそ」)という用語は、5%の変動を見込み、すなわち、約1.25%の値は、1.19%~1.31%の間を意味することになる。
【0212】
本明細書に記載の特定の態様は、例示として示されており、本発明を限定するものではないことが理解されよう。本発明の主要な特徴は、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な態様において用いることができる。当業者であれば、本明細書に記載された具体的な手順に対する数多くの均等物を、通常の試験の使用程度で認識または確認することができるであろう。そのような均等物は、本発明の範囲内にあるとみなされ、特許請求の範囲に包含される。本明細書で言及したすべての刊行物および特許出願は、本発明が属する分野の当業者の技術レベルを示すものである。すべての刊行物および特許出願は、それぞれ個々の刊行物または特許出願が具体的かつ個別に参照により組み込まれることが指摘された場合と同程度まで、参照により本明細書に組み込まれる。
【0213】
「a」または「an」という単語の使用は、特許請求の範囲および/または本明細書において「含む」という用語に関連して使用される場合、「1つの」を意味し得るが、「1つ以上の」、「少なくとも1つの」、および「1つまたは複数の」の意味とも一致する。特許請求の範囲における「または」という用語の使用は、代替物のみを指すことが明確に指摘されていない限り、または代替物が相互に排他的でない限り、「および/または」を意味するために使用されるが、本開示は、代替物のみ、および「および/または」を指す定義を支持する。本出願を通して、「約」という用語は、値が、測定、その値を決定するために用いられる方法の誤差の固有変動または研究対象間に存在するばらつきを含むことを示すために使用される。
【0214】
本明細書および特許請求の範囲において使用される場合、「含む(comprising)」(ならびに「含む(comprise)」および「含む(comprises)」などの含む(comprising)の任意の形態),「有する(having)」(ならびに「有する(have)」および「有する(has)」などの有する(having)の任意の形態)、「含む(including)」(ならびに「含む(includes)」および「含む(include)」などの含む(including)の任意の形態)、または「含有する(containing)」(ならびに「含有する(contains)」および「含有する(contain)」などの含有する(containing)の任意の形態)という単語は、包括的または非制限的であり、引用されていない要素または方法工程の追加を除外するものではない。
【0215】
本明細書で使用される「またはそれらの組合せ」という用語は、その用語に先行して列挙された項目のすべての順列および組合せを指す。例えば、「A、B、C、またはそれらの組合せは、A、B、C、AB、AC、BC、またはABCの少なくとも1つを含むことが意図され、特定の状況において順序が重要であれば、BA、CA、CB、CBA、BCA、ACB、BAC、またはCABもまた含むことが意図される。この例を続けると、1つまたは複数の項目または用語の反復を含有する組合せ、例えばBB、AAA、BBC、AAABCCCC、CBBAAA、CABABBなどが明らかに含まれる。特に文脈から明白でない限り、当業者は、典型的には、任意の組合せのなかで、項目または用語の数に関し制限がないことを理解するであろう。
【0216】
本明細書において開示され主張された組成物および/または方法のすべては、本開示に照らして、必要以上の実験をすることなく作製し、実行することができる。本発明の組成物および方法は、好ましい態様に関して説明されているが、当業者には、本発明の概念、趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載の組成物および/または方法ならびに工程または方法の工程の順序に変更を加えてもよいことは明らかとなろう。当業者に明らかなそのような同様の置換および改変はすべて、添付の特許請求の範囲によって定義されているような本発明の趣旨、範囲、および概念のうちであるとみなされる。
参考文献
【0217】
【0218】
【0219】
【0220】
【0221】
本発明の側面
以下の番号付けされた条項は、本明細書において開示した創意に富む技術的特徴の広範囲の組合せについての記述を含む。
1.複製モジュレータータンパク質をコードする遺伝子を含むモノネガウイルスベクターゲノムであって、複製モジュレータータンパク質が、ウイルスゲノムの複製のために必要なモノネガウイルスタンパク質部分を含み、複製モジュレータータンパク質が、デグロンを提示する標的化されている構成とデグロンを提示しない標的化されていない構成とをとることができる、モノネガウイルスベクターゲノム。
2.ベクターゲノムによってコードされた複製モジュレータータンパク質が、ウイルスタンパク質部分およびレギュレーター部分を含む抑制モジュレーターであり、レギュレーター部分が、デグロンを含むまたはデグロンからなる、条項1に記載のベクターゲノム。
3.レギュレーター部分が、コグネート活性化剤と接触すると、標的化されていない構成へと切換え可能である、条項2に記載のベクターゲノム。
4.活性化剤が、レギュレーター部分をウイルスタンパク質部分から切断する、条項3に記載のベクターゲノム。
5.活性化剤がプロテアーゼである、条項4に記載のベクターゲノム。
6.レギュレーター部分が、ウイルスタンパク質部分とデグロンとの間に位置する、プロテアーゼの切断部位を含む、条項5に記載のベクターゲノム。
7.プロテアーゼが、ベクターゲノムによってコードされたその他のどのタンパク質にも作用しない、条項5または条項6に記載のベクターゲノム。
8.プロテアーゼが、ウイルスプロテアーゼ、第Xa因子、エンテロキナーゼ、またはトロンビンである、条項5から7のいずれか一項に記載のベクターゲノム。
9.デグロンがPEST配列である、条項2から8のいずれか一項に記載のベクターゲノム。
10.モジュレータータンパク質が、第1のN末端残基を含み、第1のN末端残基より高い安定性を付与する第2のN末端残基を露出するようにコグネートプロテアーゼによって切断可能である、条項2から9のいずれか一項に記載のベクターゲノム。
11.活性化剤がベクターゲノムによってコードされ、薬剤の発現または機能が誘導性である、条項3から10のいずれか一項に記載のベクターゲノム。
12.活性化剤が、レギュレーター部分のためのリガンドである、条項3に記載のベクターゲノム。
13.デグロンがDD-FKBP配列であり、活性化剤がそのためのリガンドである、条項12に記載のベクターゲノム。
14.ベクターゲノムによってコードされた複製モジュレータータンパク質が、コグネート抑制剤と接触すると、デグロンを提示する標的化されている構成へ切換え可能である、抑制可能モジュレータータンパク質である、条項1に記載のベクターゲノム。
15.複製モジュレータータンパク質が、ウイルスタンパク質部分およびレギュレーター部分を含み、抑制剤が、レギュレーター部分をモジュレータータンパク質から切断して、デグロンを創出するまたは露わにする、条項14に記載のベクターゲノム。
16.活性化剤がプロテアーゼである、条項15に記載のベクターゲノム。
17.レギュレーター部分が、ウイルスタンパク質部分とデグロンとの間に位置する、プロテアーゼのための切断部位を含む、条項14に記載のベクターゲノム。
18.プロテアーゼが、ベクターゲノムによってコードされたその他のどのタンパク質にも作用しない、条項14または条項15に記載のベクターゲノム。
19.プロテアーゼが、ウイルスプロテアーゼ、第Xa因子、エンテロキナーゼ、またはトロンビンである、条項16から18のいずれか一項に記載のベクターゲノム。
20.モジュレータータンパク質が、第1のN末端残基を含み、第1のN末端残基より低い安定性を付与する第2のN末端残基を露出するようにプロテアーゼによって切断可能である、条項16から19のいずれか一項に記載のベクターゲノム。
21.複製モジュレータータンパク質がウイルスタンパク質部分およびレギュレーター部分を含み、抑制剤がレギュレーター部分のためのリガンドであり、レギュレーター部分および抑制剤が誘導性デグロンシステムの成分である、条項14に記載のベクターゲノム。
22.レギュレーター部分がHaloTag配列を含み、抑制剤がそのためのリガンドである、条項21に記載のベクターゲノム。
23.レギュレーター部分がLID-FKBP配列を含み、抑制剤がそのためのリガンドである、条項21に記載のベクターゲノム。
24.レギュレーター部分がオーキシン誘導デグロン配列を含み、抑制剤がそのためのリガンドである、条項21に記載のベクターゲノム。
25.抑制剤がベクターゲノムによってコードされ、該薬剤の発現または機能が誘導性である、条項14から24のいずれか一項に記載のベクターゲノム。
26.ラブドウイルスベクターゲノムである、条項1から25のいずれか一項に記載のベクターゲノム。
27.ベクターゲノムが、リッサウイルスベクターゲノムまたはベジクロウイルスベクターゲノムである、条項26に記載のベクターゲノム。
28.リッサウイルスベクターゲノムが狂犬病ウイルスベクターゲノムであり、またはベジクロウイルスベクターゲノムが水疱性口内炎ウイルスベクターゲノムである、条項27に記載のベクターゲノム。
29.複製モジュレーターのウイルスタンパク質部分が、モノネガウイルスN(核タンパク質)タンパク質を含むまたはモノネガウイルスN(核タンパク質)タンパク質からなる、条項1から28のいずれか一項に記載のベクターゲノム。
30.ゲノムが、Pタンパク質、Mタンパク質、および/またはLタンパク質をコードする遺伝子をさらに含む、条項29に記載のベクターゲノム。
31.ゲノムが、エンベロープタンパク質をコードする遺伝子をさらに含む、条項1から30のいずれか一項に記載のベクターゲノム。
32.エンベロープタンパク質が、モノネガウイルスベクターに天然に存在するものである、条項31に記載のベクターゲノム。
33.エンベロープタンパク質が、シュードタイプ化エンベロープタンパク質である、条項31に記載のベクターゲノム。
34.ベクターゲノムが、エンベロープタンパク質をコードしていない、条項1から30のいずれか一項に記載のベクターゲノム。
35.ベクターゲノムが、1つまたは複数の異種遺伝子をさらに含む、条項1から34のいずれか一項に記載のベクターゲノム。
36.異種遺伝子が、マーカータンパク質、免疫応答を引き起こす対象とすることが望ましいタンパク質、リコンビナーゼ、ヌクレアーゼ、ガイドRNA(gRNA)分子、修復鋳型RNA、または遺伝子発現の核酸モジュレーターをコードする、条項35に記載のベクターゲノム。
37.ヌクレアーゼが、RNA誘導型エンドヌクレアーゼである、条項36に記載のベクターゲノム。
38.RNA誘導型エンドヌクレアーゼとガイドRNA(gRNA)分子および/または修復鋳型RNAとをコードする異種遺伝子を含む、条項37に記載のベクターゲノム。
39.1つまたは複数のウイルスタンパク質とともに条項1から38のいずれか一項に記載のベクターゲノムを含むリボ核タンパク質複合体。
40.N、P、およびLタンパク質とともにベクターゲノムを含む、条項39に記載のリボ核タンパク質複合体。
41.標的細胞の細胞質に導入されると転写を開始することができる機能性ウイルスヌクレオカプシドである、条項39または条項40に記載のリボ核タンパク質複合体。
42.条項1から38のいずれか一項に記載のモノネガウイルスベクターゲノムを含む、モノネガウイルスベクタービリオン。
43.天然のモノネガウイルスエンベロープタンパク質を含む、条項42に記載のベクターゲノム。
44.シュードタイプ化エンベロープタンパク質を含む、条項42に記載のベクタービリオン。
45.医学的処置の方法において使用される、条項1から38のいずれか一項に記載のベクターゲノム、条項39から41のいずれか一項に記載のリボ核タンパク質複合体、または条項42から44のいずれか一項に記載のベクタービリオン。
46.免疫賦活剤として使用される、条項1から38のいずれか一項に記載のベクターゲノム、条項39から41のいずれか一項に記載のリボ核タンパク質複合体、または条項42から44のいずれか一項に記載のベクタービリオン。
47.条項1から38のいずれか一項に記載のウイルスベクターゲノムをコードするプラス鎖核酸分子。
48.条項1から38のいずれか一項に記載のベクターゲノムをコードする核酸構築物を含み、条項42から44のいずれか一項に記載のビリオン産生することができる、パッケージング細胞。
49.標的細胞を、条項39から41のいずれか一項に記載のリボ核タンパク質複合体または条項42から44のいずれか一項に記載のビリオンと接触させるステップを含む、標的細胞への遺伝子送達の方法。
50.ベクターが抑制モジュレータータンパク質をコードし、方法が、細胞をコグネート活性化剤と接触させるステップを含む、条項49に記載の方法。
51.活性化剤がタンパク質であり、方法が、活性化剤が標的細胞において発現されるように、活性化剤をコードする遺伝子を含む核酸を標的細胞へ導入するステップを含む、条項50に記載の方法。
52.ベクターが抑制可能モジュレータータンパク質をコードし、方法が、細胞をコグネート抑制剤と接触させるステップを含む、条項49に記載の方法。
53.抑制剤がタンパク質であり、方法が、抑制剤が標的細胞において発現されるように、抑制剤をコードする遺伝子を含む核酸を標的細胞へ導入するステップを含む、条項52に記載の方法。
54.薬剤の発現および/または機能が誘導性であり、方法が、標的細胞において薬剤の発現および/または機能を誘導するステップを含む、条項50から53のいずれか一項に記載の方法。
55.(i)ベクターが抑制可能モジュレータータンパク質および活性化剤をコードしており、活性化剤の発現または機能が誘導性であり、方法が、標的細胞において活性化剤の発現および/または機能を誘導するステップを含む、または
(ii)ベクターが抑制可能モジュレータータンパク質および抑制剤をコードしており、抑制剤の発現または機能が誘導性であり、方法が、標的細胞において抑制剤の発現および/または機能を誘導するステップを含む、
条項49に記載の方法。
56.標的細胞をコグネートインデューサーと接触させるステップを含む、条項55に記載の方法。
57.ベクターゲノムがエンベロープタンパク質をコードする遺伝子を含んでおらず、方法が、エンベロープタンパク質をコードする遺伝子を含む核酸構築物を標的細胞へ導入するステップを含む、条項49から56のいずれか一項に記載の方法。
58.標的細胞が神経細胞である、条項49から57のいずれか一項に記載の方法。
59.条項1から38のいずれか一項に記載のベクターゲノム、条項39から41のいずれか一項に記載のリボ核タンパク質複合体、または条項42から44のいずれか一項に記載のビリオン、ならびに(a)コグネート活性化もしくは抑制剤またはコグネート活性化もしくは抑制剤をコードする核酸、および/または(b)エンベロープタンパク質をコードする核酸を含むキット。
60.条項39から41のいずれか一項に記載のリボ核タンパク質複合体または条項42から44のいずれか一項に記載のビリオンを含み、所望により賦形剤または担体と混合されている組成物。
61.組成物が医薬組成物であり、担体が薬学的に許容される担体である、条項60に記載の組成物。
非限定的に本発明は以下の態様を含む。
[態様1]
複製モジュレータータンパク質をコードする遺伝子を含む狂犬病ウイルスベクターゲノムであって、複製モジュレータータンパク質が、ウイルスゲノムの複製に必要なウイルスタンパク質部分を含み、複製モジュレータータンパク質が、デグロンを提示する標的化されている構成とデグロンを提示しない標的化されていない構成とをとることができ、ウイルスタンパク質部分が、N(核タンパク質)タンパク質である、狂犬病ウイルスベクターゲノム。
[態様2]
ベクターゲノムによってコードされた複製モジュレータータンパク質が、ウイルスタンパク質部分およびレギュレーター部分を含む抑制モジュレーターであり、レギュレーター部分が、デグロンを含むまたはデグロンからなる、態様1に記載のベクターゲノム。
[態様3]
レギュレーター部分が、コグネート活性化剤と接触すると、標的化されていない構成へと切換え可能である、態様2に記載のベクターゲノム。
[態様4]
活性化剤が、レギュレーター部分をウイルスタンパク質部分から切断する、態様3に記載のベクターゲノム。
[態様5]
活性化剤がプロテアーゼである、態様4に記載のベクターゲノム。
[態様6]
レギュレーター部分が、ウイルスタンパク質部分とデグロンとの間に位置する、プロテアーゼの切断部位を含む、態様5に記載のベクターゲノム。
[態様7]
プロテアーゼが、ベクターゲノムによってコードされたその他のどのタンパク質にも作用しない、態様5または態様6に記載のベクターゲノム。
[態様8]
プロテアーゼが、ウイルスプロテアーゼ、第Xa因子、エンテロキナーゼ、またはトロンビンである、態様5から7のいずれか一項に記載のベクターゲノム。
[態様9]
デグロンがPEST配列である、態様2から8のいずれか一項に記載のベクターゲノム。
[態様10]
モジュレータータンパク質が、第1のN末端残基を含み、第1のN末端残基より高い安定性を付与する第2のN末端残基を露出するようにコグネートプロテアーゼによって切断可能である、態様2から9のいずれか一項に記載のベクターゲノム。
[態様11]
活性化剤がベクターゲノムによってコードされ、薬剤の発現または機能が誘導性である、態様3から10のいずれか一項に記載のベクターゲノム。
[態様12]
活性化剤が、レギュレーター部分のためのリガンドである、態様3に記載のベクターゲノム。
[態様13]
デグロンがDD-FKBP配列であり、活性化剤がそのためのリガンドである、態様12に記載のベクターゲノム。
[態様14]
ベクターゲノムによってコードされた複製モジュレータータンパク質が、コグネート抑制剤と接触すると、デグロンを提示する標的化されている構成へ切換え可能である、抑制可能モジュレータータンパク質である、態様1に記載のベクターゲノム。
[態様15]
複製モジュレータータンパク質が、ウイルスタンパク質部分およびレギュレーター部分を含み、抑制剤が、レギュレーター部分をモジュレータータンパク質から切断して、デグロンを創出するまたは露わにする、態様14に記載のベクターゲノム。
[態様16]
活性化剤がプロテアーゼである、態様15に記載のベクターゲノム。
[態様17]
レギュレーター部分が、ウイルスタンパク質部分とデグロンとの間に位置する、プロテアーゼのための切断部位を含む、態様14に記載のベクターゲノム。
[態様18]
プロテアーゼが、ベクターゲノムによってコードされたその他のどのタンパク質にも作用しない、態様14または態様15に記載のベクターゲノム。
[態様19]
プロテアーゼが、ウイルスプロテアーゼ、第Xa因子、エンテロキナーゼ、またはトロンビンである、態様16から18のいずれか一項に記載のベクターゲノム。
[態様20]
モジュレータータンパク質が、第1のN末端残基を含み、第1のN末端残基より低い安定性を付与する第2のN末端残基を露出するようにプロテアーゼによって切断可能である、態様16から19のいずれか一項に記載のベクターゲノム。
[態様21]
複製モジュレータータンパク質がウイルスタンパク質部分およびレギュレーター部分を含み、抑制剤がレギュレーター部分のためのリガンドであり、レギュレーター部分および抑制剤が誘導性デグロンシステムの成分である、態様14に記載のベクターゲノム。
[態様22]
レギュレーター部分がHaloTag配列を含み、抑制剤がそのためのリガンドである、態様21に記載のベクターゲノム。
[態様23]
レギュレーター部分がLID-FKBP配列を含み、抑制剤がそのためのリガンドである、態様21に記載のベクターゲノム。
[態様24]
レギュレーター部分がオーキシン誘導デグロン配列を含み、抑制剤がそのためのリガンドである、態様21に記載のベクターゲノム。
[態様25]
抑制剤がベクターゲノムによってコードされ、該薬剤の発現または機能が誘導性である、態様14から24のいずれか一項に記載のベクターゲノム。
[態様26]
ゲノムが、Pタンパク質、Mタンパク質、および/またはLタンパク質をコードする遺伝子をさらに含む、態様1から25のいずれか一項に記載のベクターゲノム。
[態様27]
ゲノムが、エンベロープタンパク質をコードする遺伝子をさらに含む、態様1から26のいずれか一項に記載のベクターゲノム。
[態様28]
エンベロープタンパク質が、モノネガウイルスベクターに天然に存在するものである、態様27に記載のベクターゲノム。
[態様29]
エンベロープタンパク質が、シュードタイプ化エンベロープタンパク質である、態様27に記載のベクターゲノム。
[態様30]
ベクターゲノムが、エンベロープタンパク質をコードしていない、態様1から26のいずれか一項に記載のベクターゲノム。
[態様31]
ベクターゲノムが、1つまたは複数の異種遺伝子をさらに含む、態様1から30のいずれか一項に記載のベクターゲノム。
[態様32]
異種遺伝子が、マーカータンパク質、免疫応答を引き起こす対象とすることが望ましいタンパク質、リコンビナーゼ、ヌクレアーゼ、ガイドRNA(gRNA)分子、修復鋳型RNA、または遺伝子発現の核酸モジュレーターをコードする、態様35に記載のベクターゲノム。
[態様33]
ヌクレアーゼが、RNA誘導型エンドヌクレアーゼである、態様32に記載のベクターゲノム。
[態様34]
ガイドRNA(gRNA)分子および/または修復鋳型RNAをコードする異種遺伝子をさらに含む、態様33に記載のベクターゲノム。
[態様35]
1つまたは複数のウイルスタンパク質とともに態様1から34のいずれか一項に記載のベクターゲノムを含むリボ核タンパク質複合体。
[態様36]
N、P、およびLタンパク質とともにベクターゲノムを含む、態様35に記載のリボ核タンパク質複合体。
[態様37]
標的細胞の細胞質に導入されると転写を開始することができる機能性ウイルスヌクレオカプシドである、態様35または態様36に記載のリボ核タンパク質複合体。
[態様38]
態様1から38のいずれか一項に記載のウイルスベクターゲノムを含む狂犬病ウイルスベクタービリオン。
[態様39]
狂犬病ウイルスエンベロープタンパク質を含む、態様38に記載のベクタービリオン。
[態様40]
シュードタイプ化エンベロープタンパク質を含む、態様38に記載のベクタービリオン。
[態様41]
医学的処置の方法において使用される、態様1から34のいずれか一項に記載のベクターゲノム、態様35から37のいずれか一項に記載のリボ核タンパク質複合体、または態様38から40のいずれか一項に記載のベクタービリオン。
[態様42]
免疫賦活剤として使用される、態様1から34のいずれか一項に記載のベクターゲノム、態様35から37のいずれか一項に記載のリボ核タンパク質複合体、または態様38から40のいずれか一項に記載のベクタービリオン。
[態様43]
態様1から34のいずれか一項に記載のウイルスベクターゲノムをコードするプラス鎖核酸分子。
[態様44]
態様1から34のいずれか一項に記載のベクターゲノムをコードする核酸構築物を含み、態様38から40のいずれか一項に記載のビリオンを産生することができる、パッケージング細胞。
[態様45]
標的細胞を、態様35から37のいずれか一項に記載のリボ核タンパク質複合体または態様38から40のいずれか一項に記載のビリオンと接触させるステップを含む、標的細胞への遺伝子送達の方法。
[態様46]
ベクターが抑制モジュレータータンパク質をコードし、方法が、細胞をコグネート活性化剤と接触させるステップを含む、態様45に記載の方法。
[態様47]
活性化剤がタンパク質であり、方法が、活性化剤が標的細胞において発現されるように、活性化剤をコードする遺伝子を含む核酸を標的細胞へ導入するステップを含む、態様46に記載の方法。
[態様48]
ベクターが抑制可能モジュレータータンパク質をコードし、方法が、細胞をコグネート抑制剤と接触させるステップを含む、態様45に記載の方法。
[態様49]
抑制剤がタンパク質であり、方法が、抑制剤が標的細胞において発現されるように、抑制剤をコードする遺伝子を含む核酸を標的細胞へ導入するステップを含む、態様48に記載の方法。
[態様50]
薬剤の発現および/または機能が誘導性であり、方法が、標的細胞において薬剤の発現および/または機能を誘導するステップを含む、態様46から49のいずれか一項に記載の方法。
[態様51]
(i)ベクターが抑制可能モジュレータータンパク質および活性化剤をコードしており、活性化剤の発現または機能が誘導性であり、方法が、標的細胞において活性化剤の発現および/または機能を誘導するステップを含む、または
(ii)ベクターが抑制可能モジュレータータンパク質および抑制剤をコードしており、抑制剤の発現または機能が誘導性であり、方法が、標的細胞において抑制剤の発現および/または機能を誘導するステップを含む、
態様45に記載の方法。
[態様52]
標的細胞をコグネートインデューサーと接触させるステップを含む、態様51に記載の方法。
[態様53]
ベクターゲノムがエンベロープタンパク質をコードする遺伝子を含んでおらず、方法が、エンベロープタンパク質をコードする遺伝子を含む核酸構築物を標的細胞へ導入するステップを含む、態様45から52のいずれか一項に記載の方法。
[態様54]
標的細胞が神経細胞である、態様45から53のいずれか一項に記載の方法。
[態様55]
態様1から34のいずれか一項に記載のベクターゲノム、態様35から37のいずれか一項に記載のリボ核タンパク質複合体、または態様38から40のいずれか一項に記載のビリオン、ならびに(a)コグネート活性化もしくは抑制剤またはコグネート活性化もしくは抑制剤をコードする核酸、および/または(b)エンベロープタンパク質をコードする核酸を含むキット。
[態様56]
態様35から37のいずれか一項に記載のリボ核タンパク質複合体または態様38から40のいずれか一項に記載のビリオンを含み、所望により賦形剤または担体と混合されている組成物。
[態様57]
組成物が医薬組成物であり、担体が薬学的に許容される担体である、態様56に記載の組成物。