(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】多糖-エラストマーマスターバッチ組成物
(51)【国際特許分類】
C08J 3/22 20060101AFI20240116BHJP
C08L 1/00 20060101ALI20240116BHJP
C08L 21/02 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C08J3/22 CEP
C08J3/22 CEQ
C08L1/00
C08L21/02
(21)【出願番号】P 2019572436
(86)(22)【出願日】2018-06-27
(86)【国際出願番号】 US2018039702
(87)【国際公開番号】W WO2019005927
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-06-21
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520346620
【氏名又は名称】ニュートリション・アンド・バイオサイエンシーズ・ユーエスエー・フォー,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ナットナール・バハブトゥ
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー・エス・ダウニー
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・ピーター・レンジェス
(72)【発明者】
【氏名】ティザズゥ・エイチ・メコーネン
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-208607(JP,A)
【文献】特開2007-277482(JP,A)
【文献】米国特許第03830762(US,A)
【文献】国際公開第2017/074862(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/142316(WO,A1)
【文献】特開2014-227525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J3/00-3/28;99/00
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物の製造方法であって、該方法は、
(a)水性多糖分散系又は塩基性多糖水溶液を、ゴムラテックスと混合して混合物を形成し、ここで、水性多糖分散系又は塩基性多糖水溶液の前記多糖は、
(i)ポリアルファ-1,3-グルカン、ここで、アルファ-1,3であるポリアルファ-1,3-グルカンのグリコシド結合の割合が50%以上である;または
(ii)構造I:
【化1】
[式中、
(A)nが少なくとも6であり、
(B)各Rが、独立して、-H、又は-CO-Cx-COOHを含む第1基であり、ここで、前記第1基の前記-Cx-部分が2~18個の炭素原子の鎖を含み、
(C)ポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物が、約0.001~約3.0の前記第1基による置換度を有し、そして
(D)アルファ-1,3であるポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物のグリコシド結合の割合が50%以上である]で表されるポリアルファ-1,3-グルカンエステ
ル化合物である;
(b)前記混合物を凝固させて凝固塊を生成し;
(c)前記凝固塊を乾燥させる
ことを含む、前記方法。
【請求項2】
工程(a)で、水性多糖分散系がゴムラテックスと混合される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記凝固塊の乾燥が、機械的圧力を前記凝固塊に加えることを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
工程(b)の前記凝固が、無機塩を前記混合物に添加することを含み、前記無機塩が、LiCl、NaCl、KCl、CaCl
2、MgCl
2、Al
2(SO
4)
3、亜鉛塩、硫酸
ナトリウム、硫酸カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、ホウ酸ナトリウム、又はそれらの組み合わせを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程(b)の前記凝固が、酸を前記混合物に添加することを更に含み、前記酸が、酢酸、硫酸、硝酸、ホウ酸、ギ酸、有機酸、又はそれらの組み合わせを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記水性多糖分散系又は前記塩基性多糖水溶液の前記多糖が、ポリアルファ-1,3-グルカンである、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
アルファ-1,3であるポリアルファ-1,3-グルカンのグリコシド結合の割合が90%以上である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記水性多糖分散系の前記多糖が、ウェットケーキ、コロイド分散系、フィブリッド、又はそれらの組み合わせの形態にある、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ゴムラテックスのゴムが、動的機械分析によって測定されるように、-30℃よりも下のTgを有する、少なくとも1種のジエン系の硫黄加硫可能な又は過酸化物加硫可能なエラストマーを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記ゴムが、天然ゴム、合成ポリイソプレン、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエンモノマーゴム、水素化ニトリルブタジエンゴム、ポリブタジエン、又はネオプレンを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
工程(a)の前記混合が、シリカ、カーボンブラック、グラフェン、フラーレン、カーボンナノチューブ、又はそれらの混合物を含む充填剤を添加することを更に含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
工程(a)の前記混合が、シラン、アルケニルコハク酸無水物、アルキルケテン二量体、ポリエーテルアミン、無水マレイン酸、メチレンジフェニルジイソシアネート、又はそれらの混合物を含む少なくとも1種のカップリング剤を添加することを更に含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
工程(a)の前記混合が、凝集剤をラバーラテックスおよび水性多糖分散系と混合することを更に含み、前記凝集剤がカチオン性ポリマーまたはアニオン性ポリマーを含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記凝集剤が、カルボキシメチルポリアルファ-1,3-グルカンを含む、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年6月30日出願の、「Polysaccharide-Elastomer Masterbatch Compositions(多糖-エラストマーマスターバッチ組成物)」という名称の、米国仮特許出願第62/527,369号に対する優先権及び利益を主張するものであり、その開示は、その全体を本明細書に参照により援用される。
【0002】
本開示は、多糖エラストマーマスターバッチ、及びマスターバッチの製造方法を指向する。多糖エラストマーマスターバッチは、ゴム組成物、例えばタイヤ、ベルト、シール、履物、コーティング、フィルム、又は接着剤などの物品を製造するのに有用な組成物を調製するのに有用である。
【背景技術】
【0003】
ゴム組成物は、典型的には、性能特性を改善するために、及びまたコストを下げるために、カーボンブラック及びシリカなどの粒子状物質で強化される。そのようなゴム組成物は、それらの優れた静的及び動的な機械的特性、物理的特性、及び熱的特性のために、タイヤからベルトまで、履物までに及ぶ様々な用途に広く使用されている。
【0004】
ゴム組成物中のカーボンブラックを、セルロース系繊維又は酵素産生多糖などの再生可能な充填剤で置き換えるか又は補完することへの関心が高まっている。再生可能なことに加えて、そのような材料は、石油及びガスからカーボンブラックを製造する方法に関連した環境フットプリントよりも改善された環境フットプリント、並びに充填剤入りゴムの加工におけるエネルギー消費の低減を提供することができる。例えば、タイヤ製造業者は、低い転がり抵抗、高いウェットトラクション、及び長い寿命を提供するゴム組成物に関心を寄せている。性能を損なうことなしに、より良好な加工性によるエネルギー節約、軽量、低コスト、及び再生可能な成分の組み入れを提供することができるゴム組成物への大きな関心もまた存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
転がり抵抗の減少などの、改善された特性を提供しながらゴム組成物中の現在成分を置き換えることができる再生可能な材料に対する需要が高まっている。非常に少ない量の水を含有するか、又は水を本質的に含まないゴム-多糖組成物の調製方法などの、再生可能な材料を含有するゴム組成物の調製方法の必要性が高まっている。ゴム-多糖マスターバッチ組成物の調製方法の必要性が高まっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
多糖-エラストマーマスターバッチ組成物の製造方法が本明細書で開示される。一実施形態において、本方法は、
a)下記
i)水性多糖分散系、又は
ii)塩基性多糖水溶液
を、ゴム成分を含有するゴムラテックス溶液、及び任意選択的に凝集剤と混合して混合物を形成する工程
を含む。一実施形態において、本方法は、
b)工程a)において得られた混合物を凝固させて凝固塊を生成する工程と;
c)工程b)において得られた凝固塊を、任意選択的に機械的圧力を凝固塊に加えながら、乾燥させる工程と
を更に含む。一実施形態において、混合物を凝固させる工程b)は、無機塩を混合物に添加することを含む。別の実施形態において、混合物を凝固させる工程b)は、酸を混合物に添加することを含む。追加の実施形態において、混合工程は、充填剤を添加することを更に含む。いくつかの実施形態において、本方法は、カップリング剤を添加する工程を更に含むことができる。
【0007】
一実施形態において、水性多糖分散系又は塩基性多糖水溶液の多糖は、
i)ポリアルファ-1,3-グルカン;
ii)ポリアルファ-1,3-1,6-グルカン;
iii)90%以上のα-1,3-グリコシド結合、1重量%未満のアルファ-1,3,6-グリコシド分岐点、及び55~10,000の範囲の数平均重合度を有する非水溶性アルファ-(1,3-グルカン)ポリマー;又は
iv)構造I:
【化1】
[式中、
(A)nが少なくとも6であり;
(B)各Rが、独立して、-H、又は-CO-C
x-COOHを含む第1基であり、ここで、前記第1基の-C
x-部分が2~6個の炭素原子の鎖を含み;
(C)この化合物が、約0.001~約3の、第1基による置換度を有する]
で表されるポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物を含む。
水性多糖分散系の多糖は、ウェットケーキ、コロイド分散系、フィブリッド、乾燥粉末、又はそれらの組み合わせの形態にあることができる。
【0008】
一実施形態において、ゴムラテックス溶液のゴム成分は、動的機械分析によって測定されるように、-30℃よりも下のTgを有する、少なくとも1種のジエン系の硫黄加硫可能な又は過酸化物加硫可能なエラストマーを含む。別の実施形態において、エラストマーは、天然ゴム、合成ポリイソプレン、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエンモノマーゴム、水素化ニトリルブタジエンゴム、ポリブタジエン、又はネオプレンを含む。
【0009】
本明細書で開示される方法に従って製造される多糖-エラストマーマスターバッチ組成物、並びに多糖-エラストマーマスターバッチ組成物を使用して製造される物品もまた本明細書で開示される。一実施形態において、多糖-エラストマーマスターバッチ組成物は、本明細書で開示されるような方法に従って製造され、ここで、マスターバッチ組成物は、多糖及びゴム成分の重量を基準として、約20重量パーセント~約80重量パーセントの多糖を含む。いくつかの実施形態において、物品は、タイヤ、ベルト、シール、履物、バルブ、チューブ、マット、ガスケット、コーティング、フィルム、又は接着剤である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で引用される全ての特許、特許出願、及び刊行物は、それらの全体を参照により本明細書に援用される。
【0011】
本明細書で用いるところでは、用語「実施形態」又は「開示」は、限定的であることを意味するものではなく、特許請求の範囲で定義されるか又は本明細書に記載される実施形態のいずれにも一般的に適用される。これらの用語は、本明細書では同じ意味で用いられる。
【0012】
本開示では、多数の用語及び略語が用いられる。特に具体的に明記しない限り、下記の定義が適用される。
【0013】
要素又は構成要素に先行する冠詞「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、要素又は構成要素の事例(すなわち出現)の数に関して非限定的であることを意図する。「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、1つ又は少なくとも1つを含むと解釈されるべきであり、要素又は構成要素の単数形はまた、その数が明らかに単数であることを意味しない限り複数形を含む。
【0014】
用語「含む(comprising)」は、特許請求の範囲で言及されるような規定の特徴、整数、工程、又は構成要素の存在を意味するが、それは、1つ以上の他の特徴、整数、工程、構成要素、又はそれらの群の存在又は追加を排除するものではない。用語「含む」は、用語「から本質的になる」及び「からなる」によって包含される実施形態を含むことを意図する。同様に、用語「から本質的になる」は、用語「からなる」によって包含される実施形態を含むことを意図する。
【0015】
存在する場合、全ての範囲は、包括的であり、且つ、結合可能である。例えば、「1~5」の範囲が列挙されている場合、列挙されている範囲は、「1~4」、「1~3」、「1~2」、「1~2及び4~5」、「1~3及び5」等の範囲を含むと解釈されるべきである。
【0016】
数値と結び付けて本明細書で用いられるところでは、用語「約」は、その用語が文脈において特に具体的に定義されていない限り、数値の±0.5の範囲を言う。例えば、語句「約6のpH値」は、pH値が特に具体的に定義されていない限り、5.5~6.5のpH値を言う。
【0017】
本明細書の全体にわたって示されるあらゆる数値上限は、そのようなより小さい数値限度が本明細書に明確に記載されたかのように、あらゆるより小さい数値限度を含むことを意図する。本明細書の全体にわたって示されるあらゆる数値下限は、そのようなより大きい数値限度が本明細書に明確に記載されているかのように、あらゆるより大きい数値限度を含むであろう。本明細書の全体にわたって示されるあらゆる数値範囲は、そのようなより狭い数値範囲が全て本明細書に明確に記載されているかのように、そのようなより広い数値範囲内に入るあらゆるより狭い数値範囲を含むであろう。
【0018】
本開示の特徴及び利点は、以下の詳細な説明を読むことにより当業者によって、さらに容易に理解されるであろう。明確にするために、別個の実施形態との関連で上に及び下に記載されている、本開示の特定の特徴は、単一要素において組み合わせてまた提供されてもよいことが十分理解されるべきである。反対に、簡潔にするために、単一実施形態との関連で記載されている本開示の様々な特徴は、別個に又は任意の副次的組み合わせでまた提供されてもよい。更に、文脈が特に具体的に記載しない限り、単数形についての言及はまた、複数を含む可能性がある(例えば、「1つの(a)」及び「1つの(an)」は、1つ以上を言う可能性がある)。
【0019】
本出願に明記された様々な範囲での数値の使用は、特に明確に示さない限り、規定範囲内の最小値及び最大値が両方とも語「約」によって先行されているかのように近似値として記述されている。このようにして、規定範囲の上下のわずかな変動を用いてこの範囲内の値と実質的に同じ結果を達成することができる。また、これらの範囲の開示は、最小値と最大値との間の各値及びあらゆる値を含む連続的な範囲として意図されている。
【0020】
本明細書で用いるところでは:
用語「ゴム」、「ゴム成分」、及び「エラストマー」は、特に明確に示さない限り、同じ意味で用いられ得る。用語「ゴムコンパウンド」、「配合ゴム」及び「ゴム組成物」は、「様々な成分及び材料とブレンドされている又は混合されているゴム」を言うために同じ意味で用いられ得る。
【0021】
用語「硬化する」及び「加硫する」は、特に示さない限り、同じ意味で用いられ得る。ゴムコンパウンドは、典型的には、硫黄又は過酸化物系の硬化剤を使用して硬化される。ゴムコンパウンド用の典型的な硫黄系硬化剤には、元素硫黄、硫黄含有樹脂、硫黄-オレフィン付加体、及び硬化促進剤が含まれる。
【0022】
用語「phr」は、ゴムの100重量部当たりのそれぞれの材料の重量部を言う。
【0023】
用語「体積によるパーセント」、「体積パーセント」、「体積%(vol%)」及び「体積/体積%(v/v%)」は、本明細書では同じ意味で用いられる。溶液中の溶質の体積パーセントは、式:[(溶質の体積)/(溶液の体積)]×100%を用いて求めることができる。
【0024】
用語「重量によるパーセント」、「重量百分率(重量%)」及び「重量-重量百分率(w/w%)」は、本明細書では同じ意味で用いられる。重量パーセントは、それが組成物、混合物又は溶液中に含まれているときの質量基準での物質の百分率を言う。
【0025】
用語「増加(した)」、「上昇(した)」及び「改善(された)」は、本明細書では同じ意味で用いられる。これらの用語は、例えば、増加した量又は活性が、比較される量又は活性よりも、少なくとも1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、125%、150%、175%、若しくは200%(又は1%~200%の間の任意の整数)多い量又は活性を言い得る。
【0026】
語句「非水溶性」は、5グラム未満の物質、例えば、アルファ-(1,3-グルカン)ポリマーが、23℃で100ミリリットルの水に溶解することを意味する。他の実施形態において、非水溶性は、4g未満又は3g未満又は2g未満又は1g未満の物質が23℃で水に溶解することを意味する。
【0027】
本明細書で用いるところでは、用語「多糖」は、グリコシド結合によって一体に結合した単糖単位の長い鎖からなり、加水分解すると構成単糖又はオリゴ糖を与える高分子炭水化物分子を意味する。
【0028】
本明細書で用いるところでは、用語「マスターバッチ組成物」は、所望の成分がキャリア材料中に高濃度で最適に分散している固体生成物を言う。マスターバッチ組成物において、キャリア材料は、主エラストマーと相溶性であり、キャリア材料中で主エラストマーが配合中にブレンドされ、それによって最終エラストマー生成物は、マスターバッチから成分及びその特性を得る。本明細書で開示されるマスターバッチ組成物について、所望の成分は、少なくとも1種の多糖であり、キャリア材料は、ゴムラテックス溶液に由来する少なくとも1種のゴム成分であり;本明細書で開示される多糖-エラストマーマスターバッチ組成物の使用は、多糖の特性便益、例えば強化用充填剤としてのその効果を、マスターバッチ組成物から製造されたゴム組成物を含む最終物品に提供する。
【0029】
本明細書で用いるところでは、「重量平均分子量」又は「Mw」は、
Mw=ΣNiMi
2/ΣNiMiとして計算され;式中、Miは鎖の分子量であり、Niはその分子量の鎖の数である。重量平均分子量は、静的光散乱、ガスクロマトグラフィー(GC)、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)、小角中性子散乱、X線散乱、及び沈降速度などの技術によって測定することができる。
【0030】
本明細書で用いるところでは、「数平均分子量」又は「Mn」は、試料中のポリマー鎖全ての統計的平均分子量を言う。数平均分子量は、Mn=ΣNiMi/ΣNiとして計算され;式中、Miは鎖の分子量であり、Niはその分子量の鎖の数である。ポリマーの数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー、(Mark-Houwink方程式)による粘度測定法、及び蒸気圧オスモメトリー、末端基測定又はプロトンNMRなどの束一的な方法などの技術によって測定することができる。
【0031】
本開示は、多糖及びゴム成分を含む多糖-エラストマーマスターバッチ組成物、及び多糖-エラストマーマスターバッチ組成物の製造方法を指向する。湿った多糖及びラテックス溶液からの本質的に水を含まないマスターバッチ組成物の製造方法が開示される。多糖-エラストマーマスターバッチ組成物は、タイヤ、タイヤトレッド、タイヤサイドウォール、動力伝達ベルト、コンベヤベルト、ホース、履物の靴底、ガスケットなどのゴム含有物品を製造するのに、又は他のゴム複合体における成分として有用であることができる。ゴム組成物はまた、コーティング、フィルム、又は接着剤にも使用することができる。
【0032】
本開示は、多糖-エラストマーマスターバッチ組成物の製造方法であって、本方法が、
a)下記
i)水性多糖分散系、又は
ii)塩基性多糖水溶液
を、ゴム成分、及び任意選択的に凝集剤を含有するゴムラテックスと混合して混合物を形成する工程を含む方法を指向する。一実施形態において、混合は、多糖及びラテックス成分の良好な分散を提供するために高せん断下で行われる。
【0033】
いくつかの実施形態において、混合工程は、充填剤を添加し、それによって多糖、ゴム成分、及び充填剤を含むマスターバッチ組成物が製造されることを更に含む。ゴム組成物の機械的性能へのそれらの影響に応じて、充填剤は、強化用、半強化用、又は非強化用(増量用)として分類することができる。強化用充填剤はゴム組成物の機械的特性を改善するが、非強化用充填剤は単に希釈剤として働き、半強化用充填剤は両方の機能をある程度果たす。ゴム組成物への充填剤の影響は、充填剤の固有の特性、例えば粒径、サイズ分布、形状、及びゴムポリマー/エラストマーと充填剤との間の界面相互作用に関係する。カーボンブラックがその強化効果のためゴム産業で使用される主な充填剤であるけれども、炭酸塩、粘土、シリカ、シリケート、タルク、及び二酸化チタンなどの他の充填剤もまた使用される。いくつかの実施形態において、本明細書で開示されるようなマスターバッチ組成物から製造された多糖-ゴム組成物において、多糖は、非強化用充填剤として機能し、多糖を欠くことを除いては同じゴム組成物の機械的特性と比べて、ゴム組成物の機械的特性にほとんど影響を及ぼさない。非強化用充填剤として、多糖は、ゴム組成物の軽量化を提供し得る。他の実施形態において、本明細書で開示されるようなマスターバッチ組成物から製造された多糖-ゴム組成物で、多糖は、強化用充填剤として機能し、多糖を欠くことを除いては同じゴム組成物の機械的特性と比べて、改善された機械的特性のゴム組成物を提供する。
【0034】
いくつかの実施形態において、混合工程は、凝集剤を添加し、それによって多糖、ゴム成分、及び凝集剤を含むマスターバッチ組成物が製造されることを更に含む。使用することができるタイプの凝集剤には、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルポリアルファ-1,3-グルカン、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、及びポリ(無水マレイン酸-alt-1-オクタデセン)などのカチオン性及びアニオン性ポリマーが含まれる。凝集剤の目的は、マスターバッチにおける多糖ローディングを増加させることである。凝集剤は、典型的には、塩基性条件下に安定であるが、酸性条件又は高い塩濃度において凝集する水溶性ポリマーである。この挙動は、ラテックス凝固中の多糖充填剤の同時凝固を可能にするであろう。
【0035】
本方法は、
b)工程a)において得られた混合物を凝固させて凝固塊を生成する工程と;
c)工程b)において得られた凝固塊を、任意選択的に機械的圧力を凝固塊に加えながら、乾燥させる工程と
を更に含む。
【0036】
本明細書ではマスターバッチ組成物とも言われる、乾燥した凝固塊は、非常に低い含水量を有することができる。いくつかの実施形態において、マスターバッチ組成物は水を本質的に含まない。マスターバッチ組成物は、優れた分散性及び相溶性で、所望の多糖を選択されたゴム成分に組み入れるための便利な方法を提供する。多糖とゴム成分とのブレンド物の相挙動は、多糖とゴム成分とが物理的絡み合い及び化学的相互作用を形成する場合に相溶性を示す。追加のゴム組成物を調製するためのマスターバッチ組成物の使用は、それが、例えばウェットケーキ形態での、多糖中に含有され得る水を処理し、処分する必要性を回避しながらポリアルファ-1,3-グルカンなどの多糖をゴム成分と組み合わせる容易な、便利な方法を提供するという点において有利である。
【0037】
いくつかの実施形態において、本方法は、カップリング剤を添加する工程を更に含むことができる。いくつかの実施形態において、混合工程は、少なくとも1種のカップリング剤を添加し、それによって多糖、ゴム成分、及びカップリング剤を含むマスターバッチ組成物が製造されることを更に含む。いくつかの実施形態において、凝固工程は、少なくとも1種のカップリング剤を添加することを更に含む。いくつかの実施形態において、少なくとも1種のカップリング剤は、配合ゴム-多糖材料を調合するためにそれが使用されるようにマスターバッチ組成物に添加される。
【0038】
混合工程において、多糖は、水性多糖分散系として又は塩基性多糖水溶液として提供することができる。一実施形態において、水性分散系の多糖は、約20nm~約200μm(200,000nm)の範囲の少なくとも1つの次元における平均粒径を有する多糖粒子を含む。例えば、少なくとも1つの次元における平均粒径は、20;30;40;50;60;70;80;90;100;150;200;250;300;350;400;450;500;550;600;700;800;900;1000;1500;2000;2500;5000;7500;10,000;15,000;20,000;30,000;40,000;50,000;60,000;70,000;80,000;90,000;100,000;125,000;150,000;175,000;若しくは200,000(又は20~200,000の任意の値)nmであることができる。更なる実施形態において、多糖は、約20nm~約200μm(200,000nm)の範囲の少なくとも1つの次元における平均粒径と、約1のアスペクト比とを有する粒子を含む。
【0039】
水性多糖分散系を調製するために、多糖は先ず、約1重量パーセント~約90重量パーセントの総固形分の量で水に高せん断混合下で分散させることができる。例えば、多糖は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、又は90重量パーセントの総固形分の量で水に分散させることができる。いくつかの実施形態において、多糖は、約1重量%~約20重量%、又は約5重量%~約20重量%、又は約5重量%~約15重量%の量で水に分散させることができる。典型的にはそのような濃度で、多糖が分散させられ、「スムージー様」稠度を持ったスラリーをもたらすにつれて、非常に注目に値する粘度上昇を観察することができる。
【0040】
水性多糖分散系の多糖は、コロイド分散系、ウェットケーキ、フィブリッド、乾燥粉末、又はそれらの組み合わせの形態にあることができる。乾燥粉末とは、ウェットケーキを真空オーブン中で乾燥させ、引き続き粉砕することによって得ることができる、約5重量%未満の水を含有する多糖を意味する。一実施形態において、水性多糖分散系では、多糖は、コロイド分散系の形態で使用することができる。本明細書で用いるところでは、用語「コロイド分散系」は、分散相と分散媒体とを有する、すなわち、微視的に分散された不溶性粒子が、別の物質、例えば水又は水溶液の全体にわたって懸濁させられている不均一系を言う。水中のコロイド分散系の例はヒドロコロイドである。コロイド分散系は、安定なコロイド分散系又は不安定なコロイド分散系であり得る。安定なコロイド分散系は、室温で及び/又は高温、例えば40~50℃で少なくとも1か月の期間、目に見える沈降なしに安定である。不安定な分散系は、同じ条件下で、分散系から沈降した多糖の少なくとも一部を見る場合がある。沈降した物質の撹拌は、一般に、コロイド分散系を再形成するであろう。いくつかの実施形態において、コロイド分散系は、安定な分散系である。他の実施形態において、コロイド分散系は、不安定な分散系である。ポリアルファ-1,3-グルカン又はポリアルファ-1,3-1,6-グルカンなどの多糖のコロイド分散系は、例えば、その開示がその全体を参照により本明細書に援用される、公開特許出願国際公開第2016/126685号パンフレット開示されているように、ウェットケーキを水に分散させて多糖コロイド分散系を形成することによって調製することができる。
【0041】
別の実施形態において、水性多糖分散系の多糖は、例えば5重量%超の水を含有する、ウェットケーキの形態にあることができる。グルカンウェットケーキは、濾過により水を除去することによってグルカンコロイド分散系から形成される。水は、グルカン固体粒子の表面上に残り、粒子間に捕捉される。グルカンコロイド分散系は流し込み可能な液体であるが、ウェットケーキは軟らかい固体様の稠度を有する。本明細書での用語「ポリアルファ-1,3-グルカンウェットケーキ」は、スラリーから分離され、水又は水溶液で洗浄されたポリアルファ-1,3-グルカンを言う。ポリアルファ-1,3-グルカン又は他の多糖は、ウェットケーキを調製する場合には乾燥させられない。
【0042】
その上別の実施形態において、水性多糖分散系の多糖は、フィブリッドの形態にあることができる。用語「フィブリッド」は、本明細書で用いるところでは、これらの3つの寸法のうちの少なくとも1つが最大寸法に対して小さい大きさである、非顆粒性の、繊維状の又はフィルム様の粒子を意味する。いくつかの実施形態において、多糖は、繊維と比較されるときに比較的大きい表面積を持った繊維様及び/又はシート様の構造を有することができる。表面積は、約10~1000マイクロメートルの最大寸法粒径及び最小寸法サイズ、0.05~0.25マイクロメートルの長さ又は厚さで、材料の1グラム当たり5~50メートル2の範囲にあることができ、40~20,000の最大寸法対最小寸法のアスペクト比をもたらす。用語「フィブリッド」及び「多糖フィブリッド」は、本明細書では同じ意味で用いられる。ポリアルファ-1,3-グルカンフィブリッド及びそれらの製造方法は、その開示がその全体を本明細書に参照により援用される、公開特許出願国際公開第2016/196022号パンフレットに開示されている。
【0043】
これらのフィブリッドは、せん断下、好ましくは、高せん断下で非溶媒を使用するポリアルファ-1,3-グルカン又は他の多糖などのポリマー材料の溶液の沈澱によって調製することができる。用語「非溶媒」は、本明細書で用いるところでは、それがポリマー材料に対して貧溶媒であること、例えば、ポリマー材料が溶媒への5重量%未満の溶解度を有することを意味する。他の実施形態において、ポリマー材料は、溶媒への4、3、2、1又は0.5重量%未満の溶解度を有することができる。ポリアルファ-1,3-グルカン又は他の多糖のための好適な非溶媒の例としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、酸性水溶液、水等が挙げられる。
【0044】
多糖フィブリッドは、
(a)ポリアルファ-1,3-グルカン又は他の多糖を溶媒に溶解させてポリアルファ-1,3-グルカン又は他の多糖溶液を製造する工程と;
(b)ポリアルファ-1,3-グルカンフィブリッド又は他の多糖フィブリッドをせん断下で沈澱させてフィブリッドを含有する懸濁液を生成する工程と
を含む方法によって製造することができる。
【0045】
フィブリッドはまた、ポリアルファ-1,3-グルカン溶液又は他の多糖溶液の液体(「非溶媒」)の沈澱浴中への添加によって製造することもできる。ポリアルファ-1,3-グルカン溶液又は他の多糖溶液の沈澱浴中への添加は、当業者に公知の任意の標準方法を用いて成し遂げることができる。例えば、直接注入を用いることができる。
【0046】
添加の間中、ポリマー溶液の流れは、せん断力及び乱流を受け、非溶媒(すなわち、ポリアルファ-1,3-グルカン又は他の多糖に対して5重量%未満の溶解度を有する液体)、言い換えれば、ポリアルファ-1,3-グルカン又は他の多糖と非混和性のものを使用することによって、懸濁液の形態でフィブリッドを沈澱させる。いくつかの実施形態において、沈澱浴は、酸性若しくはアルカリ性水溶液、又はアルコールを含むことができる。
【0047】
例えば、ドープ濃度、溶媒のタイプ、ミキサーのタイプ、混合速度、沈澱浴のpH、ポリマーを含有する溶液の添加速度、使用される非溶媒の量、混合の継続時間、中和速度、及び中和剤の濃度などの1つ以上のプロセスパラメータを制御することによって、(i)フィブリッドを含有する懸濁液の粘度、(ii)フィブリッドのサイズ及び/又は(iii)フィブリッドの形状を制御することが可能である。用語「ドープ」は、本明細書で用いるところでは、ポリマーを含有する溶液を言う。ドープは、溶媒中にポリマーを混ぜ込むことによって調製することができる。したがって、当業者に周知のように、ドープ濃度は、溶媒中に混ぜ込まれたポリマーの量を言う。
【0048】
フィブリッドは、懸濁液を濾過することによって単離することができる。任意選択的に、単離されたフィブリッドは、水で洗浄する及び/又は乾燥させることができる。カルボキシメチルセルロース等の成分を添加することによってか、又は液体への再懸濁を容易にするであろう特定の基を付加することでフィブリッドを官能化することによって乾燥フィブリッドを再懸濁させることが可能であると考えられる。
【0049】
ポリアルファ-1,3-グルカン又は使用することができる他の多糖用の溶媒のタイプには、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、塩化リチウム/DMAC、又はDMSO/塩化リチウムなどの成分を含有する塩基性水溶液が含まれるが、それらに限定されない。溶媒は、沈澱浴用に使用される液体と混和性であるべきである。混合速度及び混合の継続時間は、所望されるように調節することができる。沈澱浴のpHは、選択された溶媒に応じて酸性から中性まで塩基性まで調整することができる。
【0050】
或いは、混合工程において、多糖は、塩基性多糖水溶液として提供することができる。一実施形態において、多糖は、高いせん断混合下に、塩基性溶液、例えば約4.5重量%のNaOH溶液中に約1~約13重量パーセントの範囲で可溶化され得る。塩基性多糖水溶液を調製するために、所望量の多糖を使って水性多糖分散系を調製することができ、次に計算量のNaOHなどの塩基を添加することができる。塩基性多糖水溶液の調製は、例えば、公開特許出願米国特許出願公開第2015/0191550A1号明細書に開示されている。多糖を溶解させるのに十分な濃度で水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、塩化リチウム/N,N-ジメチルアセトアミド、又は水酸化テトラエチルアンモニウムを含む水溶液を使用することができる。溶媒組成物には、水性NaOH(ここで、NaOH濃度は、典型的には4~6重量%の範囲である)、水性KOH(典型的には水中7.5~10重量%)、及び水性の水酸化テトラエチルアンモニウム(典型的には20重量%)が含まれるが、それらに限定されない。水性塩基を使用する典型的な溶液組成物は、10%のポリマー、6.8%のKOH及び残りの水、又は10%のポリマー、4%のNaOH及び残りの水、又は7%のポリマー、18.5%の水酸化テトラエチルアンモニウム及び残りの水であることができる。多糖ポリマーは、せん断の適用によって溶媒に混ぜ込むことができる。水性溶媒系については、水中の多糖ポリマーのスラリーを製造することができ、これに濃い水性塩基の添加が続く。多糖ポリマーは、使用前に完全に乾燥させることができるか、又は多糖ポリマー中の水分含量を測定し、溶液調製において考慮することができる。
【0051】
水性多糖分散系の、又は塩基性多糖水溶液の多糖は、
i)ポリアルファ-1,3-グルカン;
ii)ポリアルファ-1,3-1,6-グルカン;
iii)90%以上のα-1,3-グリコシド結合、1重量%未満のアルファ-1,3,6-グリコシド分岐点、及び55~10,000の範囲の数平均重合度を有する非水溶性アルファ-(1,3-グルカン)ポリマー;又は
iv)構造I:
【化2】
[式中、
(A)nが少なくとも6であり;
(B)各Rが、独立して、-H、又は-CO-C
x-COOHを含む第1基であり、ここで、前記第1基の-C
x-部分が2~6個の炭素原子の鎖を含み;
(C)この化合物が、約0.001~約3の第1基による置換度を有する]
で表されるポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物を含む。これらの多糖の混合物をまた使用することができる。
【0052】
一実施形態において、多糖は、ポリアルファ-1,3-グルカンを含む。用語「ポリアルファ-1,3-グルカン」、「アルファ-1,3-グルカンポリマー」及び「グルカンポリマー」は、本明細書では同じ意味で用いられる。本明細書での用語「グルカン」は、グリコシド結合によって連結されているD-グルコースモノマーの多糖を言う。ポリアルファ-1,3-グルカンは、グリコシド結合の少なくとも50%がアルファ-1,3-グリコシド結合である、グリコシド結合によって一体に連結したグルコースモノマー単位を含むポリマーである。ポリアルファ-1,3-グルカンは多糖類の1タイプである。ポリアルファ-1,3-グルカンの構造は、構造II:
【化3】
に示されるように図示することができる。
【0053】
ポリアルファ-1,3-グルカンは、化学的方法を用いて調製することができるか、又はそれは、ポリアルファ-1,3-グルカンを産生する、真菌などの、様々な有機体からそれを抽出することによって調製することができる。或いは、ポリアルファ-1,3-グルカンは、例えば米国特許第7,000,000号明細書;同第8,642,757号明細書;及び同第9,080195号明細書に記載されているように、1種以上のグルコシルトランスフェラーゼ(gtf)酵素を用いてスクロースから酵素的に産生することができる。それらの中に示されている手順を用いて、このポリマーは、組み換えグルコシルトランスフェラーゼ酵素、例えばgtfJ酵素を触媒として及びスクロースを基質として使用して、一段階酵素反応で直接産生される。ポリアルファ-1,3-グルカンは、副生成物としてのフルクトースと共に製造される。反応が進行するにつれて、ポリアルファ-1,3-グルカンは、溶液から沈澱する。
【0054】
例えば、グルコシルトランスフェラーゼ酵素を用いてスクロースからポリアルファ-1,3-グルカンを生産するプロセスは、水中のポリアルファ-1,3-グルカンのスラリーをもたらすことができる。スラリーを濾過して水の一部を除去し、30~50重量パーセントの範囲のポリアルファ-1,3-グルカンを含有し、残りが水であるウェットケーキとして、固体のポリアルファ-1,3-グルカンを得ることができる。いくつかの実施形態において、ウェットケーキは、35~45重量パーセントの範囲のポリアルファ-1,3-グルカンを含む。ウェットケーキは、水で洗浄してあらゆる水溶性不純物、例えば、スクロース、フルクトース、又はリン酸緩衝液を除去することができる。いくつかの実施形態において、ポリアルファ-1,3-グルカンを含むウェットケーキは、そのまま使用することができる。他の実施形態において、ウェットケーキは、減圧下に、高温で、凍結乾燥によって、又はそれらの組み合わせによって更に乾燥させて、50重量%以上のポリアルファ-1,3-グルカンを含む粉末を得ることができる。いくつかの実施形態において、ポリアルファ-1,3-グルカンは、20重量%以下の水を含む、粉末であることができる。他の実施形態において、ポリアルファ-1,3-グルカンは、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、又は1重量パーセント以下の水を含む乾燥粉末であることができる。
【0055】
いくつかの実施形態において、アルファ-1,3であるポリアルファ-1,3-グルカンのグルコースモノマー単位間のグリコシド結合の百分率は、50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%以上、若しくは100%(又は50%~100%の間の任意の整数値)である。したがって、そのような実施形態において、ポリアルファ-1,3-グルカンは、50%、40%、30%、20%、10%、5%、4%、3%、2%、1%以下、若しくは0%(又は0%~50%の間の任意の整数値)の、アルファ-1,3でないグリコシド結合を有する。
【0056】
用語「グリコシド結合(glycosidic linkage)」及び「グリコシド結合(glycosidic bond)」は、本明細書では同じ意味で用いられ、炭水化物(糖)分子を別の炭水化物などの別の基に結び合わせるタイプの共有結合を言う。用語「アルファ-1,3-グリコシド結合」は、本明細書で用いるところでは、隣接アルファ-D-グルコース環上の炭素1及び3を介してアルファ-D-グルコース分子を互いに結び合わせるタイプの共有結合を言う。この結合は、上に提供されたポリアルファ-1,3-グルカン構造において例示されている。本明細書では、「アルファ-D-グルコース」が「グルコース」と言われる。本明細書で開示される全てのグリコシド結合は、特に記載する場合を除いて、アルファ-グリコシド結合である。
【0057】
ポリアルファ-1,3-グルカンの「分子量」は、数平均分子量(Mn)として又は重量平均分子量(Mw)として表すことができる。或いは、分子量は、ダルトン、グラム/モル、DPw(重量平均重合度)、又はDPn(数平均重合度)として表すことができる。高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、又はゲル透過クロマトグラフィー(GPC)などの様々な手段が、これらの分子量測定結果を計算するために当技術分野において公知である。
【0058】
ポリアルファ-1,3-グルカンは、少なくとも約400の重量平均重合度(DPw)を有し得る。いくつかの実施形態において、ポリアルファ-1,3-グルカンは、約400~約1400、又は約400~約1000、又は約500~約900のDPwを有する。
【0059】
一実施形態において、多糖は、90%以上のα-1,3-グリコシド結合、1重量%未満のアルファ-1,3,6-グリコシド分岐点、及び55~10,000の範囲の数平均重合度を有する非水溶性アルファ-(1,3-グルカン)ポリマーを含む。
【0060】
一実施形態において、多糖は、ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンである。一実施形態において、多糖は、ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンを含み、ここで、(i)ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンのグリコシド結合の少なくとも30%は、アルファ-1,3-結合であり、(ii)ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンのグリコシド結合の少なくとも30%は、アルファ-1,6結合であり、(iii)ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンは、少なくとも1000の重量平均重合度(DPw)を有し;(iv)ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンのアルファ-1,3結合及びアルファ-1,6結合は互いに連続して交互になっていない。別の実施形態において、ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンのグリコシド結合の少なくとも60%は、アルファ-1,6結合である。用語「アルファ-1,6-グリコシド結合」は、本明細書で用いるところでは、隣接アルファ-D-グルコース環の炭素1及び6を介してアルファ-D-グルコース分子を互いに結び合わせる共有結合を言う。
【0061】
ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンは、その開示がその全体を本明細書に参照により援用される、米国特許出願公開第2015/0232785A1号明細書に開示されているように、グルコシルトランスフェラーゼ酵素の産生物である。
【0062】
グルカン又は置換グルカンのグリコシド結合プロフィルは、当技術分野において公知の任意の方法を用いて決定することができる。例えば、結合プロフィルは、核磁気共鳴(NMR)分光法(例えば、13C NMR又は1H NMR)を使用する方法を用いて決定することができる。用いることができるこれらの方法及び他の方法は、参照により本明細書に援用される、Food Carbohydrates:Chemistry,Physical Properties,and Applications(S.W.Cui,Ed,Chapter 3,S.W.Cui,Structural Analysis of Polysaccharides,Taylor & Francis Group LLC,Boca Raton,FL,2005)に開示されている。
【0063】
用語「ポリアルファ-1,3-1,6-グルカン」、「アルファ-1,3-1,6-グルカンポリマー」、及び「ポリ(アルファ-1,3)(アルファ-1,6)グルカン」は、本明細書では同じ意味で用いられる(これらの用語における結合記号「1,3」及び「1,6」の順序は重要でないことに留意されたい)。本明細書でのポリアルファ-1,3-1,6-グルカンは、グリコシド結合(すなわちグルコシド結合)によって一体に結合したグルコースモノマー単位を含むポリマーであって、グリコシド結合の少なくとも約30%がアルファ-1,3-グリコシド結合であり、グリコシド結合の少なくとも約30%がアルファ-1,6-グリコシド結合である、ポリマーである。ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンは、混合グリコシド結合分を含有するタイプの多糖である。本明細書での特定の実施形態における用語ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンの意味は、互いに連続的に交互になっているアルファ-1,3結合とアルファ-1,6結合とを含有するグルカンである、「アルテルナン」を除外する(米国特許第5,702,942号明細書、米国特許出願公開第2006/0127328号明細書)。互いに「連続的に交互の」アルファ-1,3結合及びアルファ-1,6結合は、例えば、...G-1,3-G-1,6-G-1,3-G-1,6-G-1,3-G-1,6-G-1,3-G-...で視覚的に表すことができ、ここで、Gはグルコースを表す。
【0064】
本明細書でのポリアルファ-1,3-1,6-グルカンの「分子量」は、数平均分子量(Mn)又は重量平均分子量(Mw)として表すことができる。或いは、分子量は、ダルトン、グラム/モル、DPw(重量平均重合度)、又はDPn(数平均重合度)として表すことができる。高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、又はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を使ってなどの様々な手段が、これらの分子量測定値を計算するために当技術分野において公知である。
【0065】
用語「ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンウェットケーキ」は、本明細書では、スラリーから分離され、水又は水溶液で洗浄されたポリアルファ-1,3-1,6-グルカンを言う。ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンは、ウェットケーキを調製する場合、完全には乾燥させられない。
【0066】
用語「水溶液」は、本明細書では、溶媒が水である溶液を言う。ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンは、水溶液に分散させる、混合する及び/又は溶解せせることができる。
【0067】
いくつかの実施形態において:
(i)ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンのグリコシド結合の少なくとも30%は、アルファ-1,3結合であり、
(ii)ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンのグリコシド結合の少なくとも30%は、アルファ-1,6結合であり、
(iii)ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンは、少なくとも1000の重量平均重合度(DPw)を有し;
(iv)ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンのアルファ-1,3結合及びアルファ-1,6結合は、互いに連続的に交互になっていない。
【0068】
ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンのグリコシド結合の少なくとも30%は、アルファ-1,3結合であり、ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンのグリコシド結合の少なくとも30%は、アルファ-1,6結合である。或いは、本明細書でのポリアルファ-1,3-1,6-グルカン中のアルファ-1,3結合の百分率は、少なくとも31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、又は64%であることができる。或いは更に、本明細書でのポリアルファ-1,3-1,6-グルカン中のアルファ-1,6結合の百分率は、少なくとも31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、又は69%であることができる。
【0069】
ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンは、単に百分率の合計が100%以下である限り、アルファ-1,3結合の前述の百分率のいずれか1つと、アルファ-1,6結合の前述の百分率のいずれか1つとを有することができる。例えば、本明細書でのポリアルファ-1,3-1,6-グルカンは、単に百分率の合計が100%以下である限り、(i)30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、又は40%(30%~40%)のいずれか1つのアルファ-1,3結合と、(ii)60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、又は69%(60%~69%)のいずれか1つのアルファ-1,6結合とを有することができる。非限定的な例としては、31%のアルファ-1,3結合と67%のアルファ-1,6結合とを持ったポリアルファ-1,3-1,6-グルカンが挙げられる。特定の実施形態において、ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンのグリコシド結合の少なくとも60%は、アルファ-1,6結合である。
【0070】
ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンは、例えば、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、又は1%未満の、アルファ-1,3及びアルファ-1,6以外のグリコシド結合を有することができる。別の実施形態において、ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンは、アルファ-1,3結合及びアルファ-1,6結合のみを有する。
【0071】
アルファ-1,3及びアルファ-1,6結合プロフィルの他の例及びそれらの生成物のための方法は、米国特許出願公開第2015/0232785号明細書に開示されている。
【0072】
ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンの主鎖は、線状/非分岐であることができる。或いは、ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンに分岐が存在することができる。特定の実施形態におけるポリアルファ-1,3-1,6-グルカンは、したがって、分岐点を有さないか、又は約30%、29%、28%、27%、26%、25%、24%、23%、22%、21%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、又は1%未満の分岐点をポリマー中のグリコシド結合のパーセントとして有することができる。
【0073】
ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンのアルファ-1,3結合及びアルファ-1,6結合は、連続して互いに交互になっていない。以下の議論に関して、...G-1,3-G-1,6-G-1,3-G-1,6-G-1,3-G-...(ここで、Gはグルコースを表す)は、連続的に交互のアルファ-1,3結合及びアルファ-1,6結合によって結合した一筋の6個のグルコースモノマー単位を表すことを考慮されたい。本明細書での特定の実施形態におけるポリアルファ-1,3-1,6-グルカンは、交互のアルファ-1,3結合及びアルファ-1,6結合で連続的に結合している2、3、4、5、6、7、8、9、10個、又はそれ以上未満のグルコースモノマー単位を含む。
【0074】
ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンの分子量は、DPw(重量平均重合度)又はDPn(数平均重合度)として測定することができる。或いは、分子量は、ダルトン又はグラム/モル単位で測定することができる。ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンの数平均分子量(Mn)又は重量平均分子量(Mw)を参照することもまた有用であり得る。
【0075】
本明細書でのポリアルファ-1,3-1,6-グルカンは、少なくとも約1000のDPwを有することができる。例えば、ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンのDPwは、少なくとも約10000であることができる。或いは、DPwは、少なくとも約1000~約15000であることができる。或いは更に、DPwは、例えば、少なくとも約1000、2000、3000、4000、5000、6000、7000、8000、9000、10000、11000、12000、13000、14000、若しくは15000(又は1000~15000の任意の整数)であることができる。本明細書でのポリアルファ-1,3-1,6-グルカンが少なくとも約1000のDPwを有することができることを考慮すると、そのようなグルカンポリマーは、典型的には非水溶性である。
【0076】
本明細書でのポリアルファ-1,3-1,6-グルカンは、例えば、少なくとも約50000、100000、200000、300000、400000、500000、600000、700000、800000、900000、1000000、1100000、1200000、1300000、1400000、1500000、若しくは1600000(又は50000~1600000の任意の整数)のMwを有することができる。特定の実施形態におけるMwは、少なくとも約1000000である。或いは、ポリアルファ-1,3-1,6-グルカンは、例えば、少なくとも約4000、5000、10000、20000、30000、又は40000のMwを有することができる。
【0077】
本明細書でのポリアルファ-1,3-1,6-グルカンは、例えば、少なくとも20個のグルコースモノマー単位を含むことができる。或いは、グルコースモノマー単位の数は、例えば、少なくとも25、50、100、500、1000、2000、3000、4000、5000、6000、7000、8000、若しくは9000(又は10~9000の任意の整数)であることができる。
【0078】
本明細書でのポリアルファ-1,3-1,6-グルカンは、例えば、乾燥時に粉末の形態で、又は湿潤時にペースト、コロイド若しくは他の分散系の形態で提供することができる。
【0079】
別の実施形態において、多糖は、構造I:
【化4】
[式中、
(i)nが少なくとも6であり;
(ii)各Rが、独立して、-H、又は-CO-C
x-COOHを含む第1基であり、ここで、前記第1基の-C
x-部分が2~6個の炭素原子の鎖を含み;
(iii)この化合物が、約0.001~約3の第1基による置換度を有する]
で表されるポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物を含む組成物を構成する。
【0080】
そのような組成物及びそれらの調製は、その開示がその全体を参照により本明細書に援用される、公開特許出願国際公開第2017/003808号パンフレットに開示されている。用語「ポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物」、「ポリアルファ-1,3-グルカンエステル」、「ポリアルファ-1,3-グルカンエステル誘導体」、「グルカンエステル」等は、本明細書では同じ意味で用いられる。構造Iのポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物は、部分構造-CG-O-CO-Cx-を含むという理由で本明細書では「エステル」と称され、ここで、「-CG-」は、ポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物のグルコースモノマー単位の炭素2、4、又は6を表し、「-CO-Cx-」は、第1基に含まれる。ポリアルファ-1,3-グルカンモノエステルは、1つのタイプの第1基を含有する。ポリアルファ-1,3-グルカン混合エステルは、2つ以上のタイプの第1基を含有する。
【0081】
本明細書で開示されるようなマスターバッチ組成物を調製するのに有用なポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物は、約0.001~約3の1種以上の第1基による置換度(DoS)を有する。或いは、ポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物のDoSは、例えば、約0.001~約0.02、0.025、0.03、0.035、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、又は0.1であることができる。DoSは、任意選択的に、これらの値の任意の2つの間の範囲として表すことができる。本明細書でのポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物は約0.001~約0.1の置換度を有するので、化合物のR基は水素のみであり得ないことは、当業者によって理解されるであろう。用語「置換度」(DoS)は、本明細書で用いるところでは、ポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物の各モノマー単位(グルコース)中の置換されたヒドロキシル基の平均数を言う。ポリアルファ-1,3-グルカンエステル生成物の構造、分子量及びDoSは、NMR分光法及びサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)などの当技術分野において公知の様々な生理化学的分析を用いて確認することができる。
【0082】
一般に、第1基の-Cx-部分の鎖中の各炭素は、鎖中の隣接炭素原子又は隣接するC=O及びCOOH基の炭素原子と共有結合していることは別にして、水素にも、有機基などの置換基にも結合することができ、及び/又は炭素-炭素二重結合にも関与することができる。例えば、-Cx-鎖中の炭素原子は、飽和であることができ(すなわち、-CH2-)、-Cx-鎖中の隣接炭素原子と二重結合していることができ(例えば、-CH=CH-)、並びに/又は水素及び有機基に結合していることができる(すなわち、1個の水素が有機基で置換されている)。当業者は、炭素が4の原子価を有することを考慮すると、-CO-Cx-COOHを含む第1基の-Cx-部分の炭素原子が、典型的には、どのように結合できるかを理解するであろう。
【0083】
公開特許出願国際公開第2017/003808号パンフレットに開示されているように、構造Iで表されるポリアルファ-1,3-グルカンエステルは、下に示される構造III:
【化5】
で表される式を有する環状有機酸無水物によって提供される第1基でのグルカンのグルコース単位の1個以上のヒドロキシル基のエステル化によって調製することができる。構造IIIの-C
x-部分は、典型的には、2~6個の炭素原子の鎖を含み;この鎖中の各炭素原子は、好ましくは、4つの共有結合を有する。いくつかの実施形態において、-C
x-部分は2~16、2~17、又は2~18個の炭素原子の鎖を含むことができると考えられる。本明細書でのエステル化反応中に、環状有機酸無水物の無水物基(-CO-O-CO-)が壊れ、その結果、壊れた無水物の一方の端が-COOH基になり、他方の端が、ポリアルファ-1,3-グルカンのヒドロキシル基にエステル化され、それによってエステル化された第1基(-CO-C
x-COOH)をもたらす。使用される環状有機酸無水物に応じて、典型的には、そのようなエステル化反応の1種又は2種の可能な生成物が存在することができる。
【0084】
特定の実施形態において、第1基(-CO-Cx-COOH)の-Cx-部分は、CH2基のみを含む。-Cx-部分がCH2基のみを含む第1基の例は、-CO-CH2-CH2-COOH、-CO-CH2-CH2-CH2-COOH、-CO-CH2-CH2-CH2-CH2-COOH、-CO-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-COOH、及び-CO-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-COOHである。これらの第1基は、それぞれ、コハク酸無水物、グルタル酸無水物、アジピン酸無水物、ピメリン酸無水物、又はスベリン酸無水物を、ポリアルファ-1,3-グルカンと反応させることによって誘導することができる。
【0085】
いくつかの態様における第1基(-CO-Cx-COOH)の-Cx-部分は、(i)炭素原子鎖中に少なくとも1個の二重結合、及び/又は(ii)有機基を含む少なくとも1つの分岐を含むことができる。例えば、第1基の-Cx-部分は、炭素原子鎖中に少なくとも1個の二重結合を有することができる。-Cx-部分が炭素-炭素二重結合を含む第1基の例としては、-CO-CH=CH-COOH、-CO-CH=CH-CH2-COOH、-CO-CH=CH-CH2-CH2-COOH、-CO-CH=CH-CH2-CH2-CH2-COOH、-CO-CH=CH-CH2-CH2-CH2-CH2-COOH、-CO-CH2-CH=CH-COOH、-CO-CH2-CH=CH-CH2-COOH、-CO-CH2-CH=CH-CH2-CH2-COOH、-CO-CH2-CH=CH-CH2-CH2-CH2-COOH、-CO-CH2-CH2-CH=CH-COOH、-CO-CH2-CH2-CH=CH-CH2-COOH、-CO-CH2-CH2-CH=CH-CH2-CH2-COOH、-CO-CH2-CH2-CH2-CH=CH-COOH、-CO-CH2-CH2-CH2-CH=CH-CH2-COOH、及び-CO-CH2-CH2-CH2-CH2-CH=CH-COOHが挙げられる。これらの第1基のそれぞれは、適切な環状有機酸無水物をポリアルファ-1,3-グルカンと反応させることによって誘導することができる。例えば、-CO-CH=CH-COOHを含む第1基を生成するために、無水マレイン酸をポリアルファ-1,3-グルカンと反応させることができる。このように、上にリストアップされた第1基のいずれかにおいて表される-Cx-部分を含む環状有機酸無水物(ここで、環状有機酸無水物の対応する-Cx-部分は、酸無水物基[-CO-O-CO-]の各側に共に結合して環を形成するその部分である)は、ポリアルファ-1,3-グルカンと反応して対応する第1基(-CO-Cx-COOH)を有するそれのエステルを生成することができる。
【0086】
本明細書でのいくつかの態様における第1基(-CO-C
x-COOH)の-C
x-部分は、有機基を含む少なくとも1つの分岐を含むことができる。-C
x-部分が少なくとも1つの有機基分岐を含む第1基の例としては:
【化6】
が挙げられる。これらの2つの第1基のそれぞれは、2-ノネン-1-イルコハク酸無水物をポリアルファ-1,3-グルカンと反応させることによって誘導することができる。両方のこれらの例における有機基分岐(本明細書では「R
b」と総称される)は、-CH
2-CH=CH-CH
2-CH
2-CH
2-CH
2-CH
2-CH
3であることを理解することができる。R
b基が-C
x-炭素鎖中の水素と置き換わっていることをまた理解することができる。
【0087】
したがって、例えば、本明細書での第1基(-CO-Cx-COOH)は、-CO-CH2-CH2-COOH、-CO-CH2-CH2-CH2-COOH、-CO-CH2-CH2-CH2-CH2-COOH、-CO-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-COOH、又は-CO-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-CH2-COOHのいずれかであることができるが、それらにおいてそれらの少なくとも1個、2個、3個又はそれ以上の水素がRb基で置換されている。同様に例えば、本明細書での第1基(-CO-Cx-COOH)は、-CO-CH=CH-CH2-COOH、-CO-CH=CH-CH2-CH2-COOH、-CO-CH=CH-CH2-CH2-CH2-COOH、-CO-CH=CH-CH2-CH2-CH2-CH2-COOH、-CO-CH2-CH=CH-COOH、-CO-CH2-CH=CH-CH2-COOH、-CO-CH2-CH=CH-CH2-CH2-COOH、-CO-CH2-CH=CH-CH2-CH2-CH2-COOH、-CO-CH2-CH2-CH=CH-COOH、-CO-CH2-CH2-CH=CH-CH2-COOH、-CO-CH2-CH2-CH=CH-CH2-CH2-COOH、-CO-CH2-CH2-CH2-CH=CH-COOH、-CO-CH2-CH2-CH2-CH=CH-CH2-COOH、又は-CO-CH2-CH2-CH2-CH2-CH=CH-COOHのいずれかであることができるが、それらにおいて、それらの少なくとも1個、2個、3個、又はそれ以上の水素がRb基で置換されている(そのような第1基は、-Cx-部分が炭素原子鎖に少なくとも1個の二重結合と、有機基を含む少なくとも1つの分岐とを含む例である)。本明細書でのRb基の好適な例としては、アルキル基及びアルケニル基が挙げられる。本明細書でのアルキル基は、例えば、1~18個の炭素(線状又は分岐)(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、へキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、又はデシル基)を含むことができる。本明細書でのアルケニル基は、例えば、1~18個の炭素(線状又は分岐)(例えば、メチレン、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル[例えば、2-オクテニル]、ノネニル[例えば、2-ノネニル]、又はデセニル基)を含むことができる。当業者は、構造IIIで表される環状有機酸無水物の式及び国際公開第2017/003808号パンフレットに開示されているように本明細書での構造Iのポリアルファ-1,3-グルカンエステルを調製するためのエステル化プロセスにおけるその関与に基づいて、どの特定の環状有機酸無水物がこれらの第1基のいずれかを誘導するために好適であるかを理解するであろう。
【0088】
構造Iで表されるポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物を形成するためのポリアルファ-1,3-グルカンとの反応に含まれることができる名称による環状有機酸無水物の例としては、無水マレイン酸、メチルコハク酸無水物、メチルマレイン酸無水物、ジメチルマレイン酸無水物、2-エチル-3-メチルマレイン酸無水物、2-ヘキシル-3-メチルマレイン酸無水物、2-エチル-3-メチル-2-ペンテン二酸無水物、イタコン酸無水物(2-メチレンコハク酸無水物)、2-ノネン-1-イルコハク酸無水物、及び2-オクテン-1-イルコハク酸無水物が挙げられる。アルケニルコハク酸無水物、及びアルキルケテン二量体、例えばパルミチン酸又は他の長鎖カルボン酸から誘導されたものをまた使用することができる。特に、例えば、無水マレイン酸を使用して第1基としての-CO-CH=CH-COOHをポリアルファ-1,3-グルカンにエステル化することができ;メチルコハク酸無水物を使用して第1基としての-CO-CH2-CH(CH3)-COOH及び/又は-CO-CH(CH3)-CH2-COOHをポリアルファ-1,3-グルカンにエステル化することができ;メチルマレイン酸無水物を使用して第1基としての-CO-CH=C(CH3)-COOH及び/又は-CO-C(CH3)=CH-COOHをポリアルファ-1,3-グルカンにエステル化することができ;ジメチルマレイン酸無水物を使用して第1基としての-CO-C(CH3)=C(CH3)-COOHをポリアルファ-1,3-グルカンにエステル化することができ;2-エチル-3-メチルマレイン酸無水物を使用して第1基としての-CO-C(CH2CH3)=C(CH3)-COOH及び/又は-CO-C(CH3)=C(CH2CH3)-COOHをポリアルファ-1,3-グルカンにエステル化することができ;2-へキシル-3-メチルマレイン酸無水物を使用して第1基としての-CO-C(CH2CH2CH2CH2CH2CH3)=C(CH3)-COOH及び/又は-CO-C(CH3)=C(CH2CH2CH2CH2CH2CH3)-COOHをポリアルファ-1,3-グルカンにエステル化することができ;イタコン酸無水物を使用して第1基としての-CO-CH2-C(CH2)-COOH及び/又は-CO-C(CH2)-CH2-COOHをポリアルファ-1,3-グルカンにエステル化することができ;2-ノネン-1-イルコハク酸無水物を使用して第1基としての-CO-CH2-CH(CH2CH=CHCH2CH2CH2CH2CH2CH3)-COOH及び/又は-CO-CH(CH2CH=CHCH2CH2CH2CH2CH2CH3)-CH2-COOHをポリアルファ-1,3-グルカンにエステル化することができる。
【0089】
国際公開第2017/003808号パンフレットに開示されているように、少なくとも1つの有機基分岐を持った-Cx-部分を含むこれらの第1基のそれぞれは、適切な環状有機酸無水物をポリアルファ-1,3-グルカンと反応させることによって誘導することができる。2-ノネン-1-イルコハク酸無水物を使用する例は、上に記載されている。別の説明に役立つ例としては、メチルコハク酸無水物を使用してポリアルファ-1,3-グルカンをエステル誘導体化することが挙げられ、その場合に、結果として得られる第1基は、-CO-CH2-CH(CH3)-COOH又は-CO-CH(CH3)-CH2-COOHである。更に別の説明に役立つ例としては、メチルマレイン酸無水物を使用してポリアルファ-1,3-グルカンをエステル誘導体化することが挙げられ、その場合に、結果として得られる第1基は、-CO-CH=C(CH3)-COOH又は-CO-C(CH3)=CH-COOHである。更に別の説明に役立つ例としては、イタコン酸無水物(2-メチレンコハク酸無水物)を使用してポリアルファ-1,3-グルカンをエステル誘導体化することが挙げられ、その場合に、結果として得られる第1基は、-CO-CH2-C(CH2)-COOH又は-CO-C(CH2)-CH2-COOHである。このように、上にリストアップされた第1基のいずれかにおいて表される-Cx-部分を含む環状有機酸無水物(ここで、環状有機酸無水物の対応する-Cx-部分は、酸無水物基[-CO-O-CO-]の各側に共に結合して環を形成するその部分である)は、ポリアルファ-1,3-グルカンと反応して、対応する第1基(-CO-Cx-COOH)を有するそれのエステルを生成することができる。
【0090】
特定の実施形態におけるポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物は、-CO-Cx-COOHを含む1タイプの第1基を含有することができる。例えば、上式においてグルコース基にエステル結合した1種以上のR基は、-CO-CH2-CH2-COOHであってもよく;この特定の例におけるR基は、したがって独立して、水素及び-CO-CH2-CH2-COOH基であろう(そのようなエステル化合物は、ポリアルファ-1,3-グルカンサクシネートと言うことができる)。別の例として、上式においてグルコース基にエステル結合した1種以上のR基は、-CO-CH=CH-COOHであってよく;この特定の例におけるR基は、したがって独立して、水素及び-CO-CH=CH-COOH基であろう(そのようなエステル化合物は、ポリアルファ-1,3-グルカンマレエートと言うことができる)。
【0091】
当業者は、本明細書での特定の実施形態において、ポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物が水性条件下にアニオン形態にあり得ることを理解するであろう。このアニオン挙動は、エステル化された第1基(-CO-Cx-COOH)にカルボキシル基(COOH)が存在するためである。本明細書でのポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物のカルボキシル(COOH)基は、水性条件においてカルボキシレート(COO-)基に変換することができる。これらのアニオン基は、存在する場合、カリウムカチオン、ナトリウムカチオン、又はリチウムカチオンなどの塩カチオンと相互作用することができる。
【0092】
一実施形態において、本明細書で開示されるような構造Iで表されるポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物は、ポリアルファ-1,3-グルカンサクシネート、ポリアルファ-1,3-グルカンメチルサクシネート、ポリアルファ-1,3-グルカン2-メチレンサクシネート、ポリアルファ-1,3-グルカンマレエート、ポリアルファ-1,3-グルカンメチルマレエート、ポリアルファ-1,3-グルカンジメチルマレエート、ポリアルファ-1,3-グルカン2-エチル-3-メチルマレエート、ポリアルファ-1,3-グルカン2-ヘキシル-3-メチルマレエート、ポリアルファ-1,3-グルカン2-エチル-3-メチルグルタコネート、ポリアルファ-1,3-グルカン2-ノネン-1-イル-サクシネート、ポリアルファ-1,3-グルカン2-オクテン-1-イルサクシネート、又はそれらの混合物を含む。別の実施形態において、構造Iで表されるポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物は、ポリアルファ-1,3-グルカンサクシネートを含む。
【0093】
本明細書でのポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物は、少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%(又は50%~100%の任意の整数)の、アルファ-1,3であるグリコシド結合を有することができる。したがって、そのような実施形態において、ポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物は、約50%、40%、30%、20%、10%、5%、4%、3%、2%、1%未満、又は0%(又は0%~50%の任意の整数値)の、アルファ-1,3ではないグリコシド結合を有する。ポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物は、好ましくは、少なくとも約98%、99%、又は100%の、アルファ-1,3であるグリコシド結合を有する。
【0094】
本明細書でのポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物の主鎖は、好ましくは線状/非分岐である。特定の実施形態において、化合物は、分岐点を全く有さないか、又はポリマー中のグリコシド結合のパーセントとして約10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、又は1%未満の分岐点を有する。分岐点の例としては、アルファ-1,6分岐点が挙げられる。
【0095】
特定の実施形態におけるポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物の式は、少なくとも6のn値を有することができる。或いは、nは、例えば、少なくとも10、50、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、2000、2100、2200、2300、2400、2500、2600、2700、2800、2900、3000、3100、3200、3300、3400、3500、3600、3700、3800、3900、若しくは4000(又は10~4000の任意の整数)の値を有することができる。更に他の例におけるnの値は、25~250、50~250、75~250、100~250、150~250、200~250、25~200、50~200、75~200、100~200、150~200、25~150、50~150、75~150、100~150、25~100、50~100、75~100、25~75、50~75、又は25~50の範囲にあることができる。
【0096】
本明細書で開示されるポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物の分子量は、数平均分子量(Mn)として、又は重量平均分子量(Mw)として測定することができる。或いは、分子量は、ダルトン又はグラム/モル単位で測定することができる。それはまた、化合物のポリアルファ-1,3-グルカンポリマー成分のDPw(重量平均重合度)又はDPn(数平均重合度)に言及することがまた有用であり得る。本明細書でのポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物のMn又はMwは、例えば、少なくとも約1000であることができる。或いは、Mn又はMwは、少なくとも約1000~約600000であることができる。或いは更に、Mn又はMwは、例えば、少なくとも約10000、25000、50000、75000、100000、125000、150000、175000、200000、225000、250000、275000、若しくは300000(又は10000~300000の任意の整数)であることができる。
【0097】
水性多糖分散系又は塩基性多糖水溶液は、ゴム成分を含有するゴムラテックス溶液と混合されて混合物を形成する。一実施形態において、ゴムラテックス溶液は、動的機械分析によって測定されるように、-30℃よりも下のTgを有する、少なくとも1種のジエン系の硫黄加硫可能な又は過酸化物加硫可能なエラストマーを含むゴム成分を含有する。別の実施形態において、ゴムラテックス溶液のゴム成分は、例えば、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ポリブタジエンゴム、スチレン/ブタジエンゴム(水性エマルジョン又は有機溶媒重合により調製される)、エチレンプロピレンジエンモノマーゴム、水素化ニトリルブタジエンゴム、ネオプレン、スチレン/イソプレン/ブタジエンターポリマーゴム、ブタジエン/アクリロニトリルゴム、ポリイソプレンゴム、イソプレン/ブタジエンゴム、ニトリルゴム、エチレン-アクリルゴム、ブチル及びハロブチルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、フルオロエラストマー、炭化水素ゴム、ポリブタジエン、シリコーンゴム、及びそれらの組み合わせなどの任意の好適なエラストマー又はエラストマーの組み合わせであることができる。本明細書で用いるところでは、用語「ネオプレン」はポリクロロプレンと同意語であり、硫黄変性クロロプレンなどの、クロロプレンの重合によって製造される合成ゴムを言う。一実施形態において、ゴムラテックス溶液のゴム成分は、天然ゴム、合成ポリイソプレン、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエンモノマーゴム、水素化ニトリルゴム、ポリブタジエン、又はネオプレンを含む。一実施形態において、ゴムラテックス溶液のゴム成分は天然ゴムを含む。一実施形態において、ゴムラテックス溶液のゴム成分はスチレンブタジエンゴムを含む。一実施形態において、ゴムラテックス溶液のゴム成分はエチレンプロピレンジエンモノマーゴムを含む。一実施形態において、ゴムラテックス溶液のゴム成分は水素化ニトリルブタジエンゴムを含む。一実施形態において、ゴムラテックス溶液のゴム成分はネオプレンを含む。一実施形態において、ゴムラテックス溶液のゴム成分はシリコーンゴムを含む。そのような材料のゴムラテックス溶液は、商業的に入手することができるか、又は当技術分野において公知の方法によって調製することができる。
【0098】
ゴムラテックス溶液のゴム粒子は、約10~1000nmの範囲の平均粒径を有することができる。一実施形態において、ラテック溶液中のポリマー平均粒径は、約40nm~約700nmの範囲にある。別の実施形態において、ポリマー平均粒径範囲は、約80nm~約400nmである。
【0099】
混合工程において、多糖は、任意の有用な量で、例えばゴム成分につき100部の多糖当たり約1~約800部の量でゴムラテックス溶液のゴム成分と組み合わせることができる。本明細書で用いるところでは、ゴム成分は、本明細書で開示される方法を用いて製造されたマスターバッチ組成物の100部当たり100部(phr)であるとして定義され、多糖の量は、ゴム組成物の成分を列挙する場合に当技術分野において典型的に行われているように、ゴム成分の重量分率を基準として、100部当たりの部(phr)として簡便に列挙される。一実施形態において、マスターバッチ組成物は、全ゴム固体成分の重量分率を基準として、百部当たり約5~約800部の多類を含む。別の実施形態において、マスターバッチ組成物は、百部当たり少なくとも10部(phr)の多糖を含む。その上別の実施形態において、マスターバッチ組成物は、ゴム成分の重量分率を基準として、百部当たり5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、若しくは100(又は5~100の任意の値)部である量の多糖を含む。
【0100】
水性多糖分散系又は塩基性多糖水溶液は、当技術分野において公知の方法によってゴムラテックス溶液と混合することができる。一実施形態において、水性多糖分散系、又は塩基性多糖水溶液は、ミキサー、例えばホモ-ミキサーへ装入することができ、ゴムラテックス溶液が次に、多糖分散系又は溶液中でのゴムラテックス溶液の良好な分散を提供するのに十分な混合を使って、多糖分散系又は多糖溶液にゆっくり添加される。別の実施形態において、ゴムラテックス溶液をミキサーへ装入することができ、ゴムラテックス溶液を十分に混合しながら、多糖分散系又は溶液をゆっくり添加することができる。追加の実施形態において、多糖分散系又は多糖溶液とゴムラテックス溶液とは、それぞれ、所定の速度で流され、多糖流れとゴムラテックス流れとが激しい水圧撹拌(hydraulic agitation)によって混ぜ合わせられる。混合は、多糖とゴム成分のエラストマー鎖との間の密接な相互作用を提供する。
【0101】
別の実施形態において、ゴムマスターバッチ組成物は、少なくとも1種のカップリング剤を更に含むことができる。有用なカップリング剤には、シラン、アルケニルコハク酸無水物、アルキルケテン二量体、ポリエーテルアミン、無水マレイン酸、及びイソシアネートが含まれる。カップリング剤は、調合物配合プロセスにおける混合工程、凝固工程、又は後凝固中にマスターバッチに組み込まれてもよい。有用なポリエーテルアミンカップリング剤には、約200g/モル~約5000g/モルの範囲の、又はそれ以上の分子量のポリエーテル主鎖を有するモノアミン、ジアミン、及びトリアミンが含まれる。無水マレイン酸は、ジクミルペルオキシドなどの過酸化物開始剤を使用する又は使用しない配合プロセス中に添加されてもよい。カップリング剤として有用な、及びマスターバッチ組成物の乾燥後に通常添加され得るイソシアネートには、メチレンジフェニルジイソシアネート、トルエンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、及びイソホロンジイソシアネートが含まれる。一実施形態において、ゴムマスターバッチ組成物は、0~25phrの量で少なくとも1種のカップリング剤を含む。別の実施形態において、ゴム組成物は、1phr、2phr、3phr、4phr、5phr、6phr、7phr、8phr、9phr、10phr、11phr、12phr、13phr、14phr、15phr、16phr、17phr、18phr、19phr、20phr、21、22、23、24又は25phrの少なくとも1種のカップリング剤を含む。本方法の一実施形態において、混合する工程a)は、少なくとも1種のカップリング剤を添加することを更に含み、カップリング剤は、シラン、アルケニルコハク酸無水物、アルキルケテン二量体、ポリエーテルアミン、無水マレイン酸、メチレンジフェニルジイソシアネート、又はそれらの混合物を含む。
【0102】
一実施形態において、混合工程は、充填剤を添加することを更に含む。充填剤は、固体形態で又は水性分散系として使用することができる。一実施形態において、充填剤は、強化用充填剤であり得る。充填剤は、先ずゴムラテックス溶液と混合し、次に水性多糖分散系又は塩基性多糖水溶液と混合することができる。或いは、充填剤は、先ず多糖分散系又は多糖溶液と混合し、次にゴムラテックス溶液と混合することができる。別の実施形態において、充填剤を含む流れを、多糖分散系又は多糖溶液を含む流れ及びゴムラテックス溶液を含む流れと混ぜ合わせることができ、3つの流れは、激しい水圧撹拌によって混ぜ合わせることができる。
【0103】
一実施形態において、充填剤は、シリカ、カーボンブラック、グラフェン、フラーレン、カーボンナノチューブ、又はそれらの混合物を含む。二酸化チタン、ケイ酸アルミニウム、粘土、タルク、又はそれらの組み合わせもまた、充填剤として有用であることができる。一実施形態において、充填剤はシリカを含む。別の実施形態において、充填剤はカーボンブラックを含む。追加の実施形態において、充填剤はグラフェンを含む。その上追加の実施形態において、充填剤はフラーレンを含む。更なる実施形態において、充填剤はカーボンナノチューブを含む。本方法の一実施形態において、混合する工程a)は、充填剤を添加することを更に含み、ここで、充填剤は、シリカ、カーボンブラック、グラフェン、フラーレン、カーボンナノチューブ、又はそれらの混合物を含む。マスターバッチ組成物に使用される充填剤及び量の選択は、マスターバッチ組成物から調製される最終エラストマー組成物に、及び最終使用用途に応じて変わることができる。
【0104】
シリカは、例えば、合成シリカ、沈澱シリカ及びヒュームド・シリカなどの任意の好適なシリカであることができる。そのようなシリカの代表は、Hi-Sil商標でのPPG Industries製のシリカ;Zeosil商標でのRhodia製のシリカ;呼称VN2及びVN3のDegussa AG製のシリカ、並びにAKZO Chemie製のシリカである。一実施形態において、マスターバッチ組成物は、0~100phr(ゴム成分の100重量部当たりの重量部)の量でシリカを含む。別の実施形態において、ゴム組成物は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20phrの量でシリカを含む。
【0105】
シリカがマスターバッチ組成物中のたった1つの充填剤として使用されてもよいし、又は、任意選択的に、1種以上の他の充填剤がシリカと組み合わせて使用されてもよい。一実施形態において、カーボンブラック及びシリカがマスターバッチ組成物中の充填剤として使用される。別の実施形態において、マスターバッチ組成物は、0~100phrの量でカーボンブラックを含む。別の実施形態において、マスターバッチ組成物は、1phr、2phr、3phr、4phr、5phr、10phr、15phr、20phr、25phr、30phr、35phr、40phr、45phr、50phr、55phr、60phr、65phr、70phr、75phr、80phr、85phr、90phr、95phr、又は100phrのカーボンブラックを含む。追加の実施形態において、マスターバッチ組成物は、50phr~150phr、例えば50phr~75phr、又は50phr~100phr、又は50phr~125phr、又は75phr~100phr、又は75phr~125phr、又は75phr~150phr、又は125phr~150phrの範囲の総量のシリカ及びカーボンブラックを含む。
【0106】
別の実施形態において、グラフェン、フラーレン、及びカーボンナノチューブを、マスターバッチ組成物中の充填剤として別々に又は組み合わせて使用することができる。グラフェンは、その中で1個の原子が各頭頂点を形成する、二次元、原子スケール、六方晶系格子の形態での炭素の同素体を言う。本明細書で用いるところでは、「フラーレン」は、中空球、楕円体、チューブ、又は他の形状の形態での炭素の分子を意味する。円筒フラーレンはまた、カーボンナノチューブとしても知られる。カーボンナノチューブは、単層ナノチューブ、多層ナノチューブ、又はそれらの混合物を含むことができる。本明細書で用いるところでは、単層カーボンナノチューブは、炭素原子の単層から本質的になる壁を有する中空炭素繊維を言う。単層カーボンナノチューブは、Iijima et al.,Nature,vol 363,p.603(1993);D.S.Bethune et al.,Chem.Phys.Letters,vol 243(1995)49-54及びScience vol.273(1996)483-487に開示されているプロセスによって製造することができる。本明細書で用いるところでは、多層ナノチューブは、中空炭素繊維の多数の同心シートを言う。典型的には、多層ナノチューブは、単層カーボンナノチューブ合成の副生成物として形成される。一実施形態において、マスターバッチ組成物は、0~20phr(ゴム成分の100重量部当たりの重量部)の量でグラフェン、フラーレン、及び/又はカーボンナノチューブを含む。グラフェン、フラーレン、及びカーボンナノチューブは、商業的に入手することができる。
【0107】
水性多糖分散系、又は塩基性多糖水溶液を、ゴム成分を含有するゴムラテックス溶液と混合して混合物を形成する工程a)の後に、本方法は、工程a)において得られた混合物を凝固させて凝固塊を生成する工程b)を更に含む。混合物の凝固は、無機塩及び/又は希酸を多糖とゴムラテックス溶液との混合物に添加することによって達成される。凝固工程は、一般に、多糖とゴムラテックス成分とを混ぜ合わせる工程a)におけるそれよりも激しくない混合又は撹拌を提供しながら行われる。無機塩及び/又は希酸の添加が進行するにつれて、混合物のpHは低下し、上澄み水溶液と一緒に、固体の凝固したブラブ(本明細書では凝固塊とも言われる)が形成される。一実施形態において、上澄み水溶液のpHは、約5~約6、例えば約5.5であることができる。上澄み水溶液は、無色透明であるか又は濁っていることができる。一実施形態において、工程a)において得られた混合物を凝固させて凝固塊を生成する工程b)は、無機塩を工程a)の混合物に添加することを含む。無機塩は、例えば、LiCl、NaCl、KCl、CaCl2、MgCl2、Al2(SO4)3、ZnCl若しくはZnCl2などの亜鉛塩、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、又はホウ酸ナトリウムを含むことができる。これらの塩の混合物をまた使用することができる。一実施形態において、無機塩はCaCl2を含む。一実施形態において、無機塩はMgCl2を含む。一実施形態において、無機塩はLiClを含む。一実施形態において、無機塩はNaClを含む。一実施形態において、無機塩はKClを含む。無機塩は、工程a)において得られた混合物に固体として添加することができるし、又は無機塩は、水溶液若しくは水性分散系として添加することができる。水溶液は、溶液の総重量を基準として、約5重量パーセント~約25重量パーセントの無機塩を含有することができる。一実施形態において、工程a)において得られた混合物に添加される無機塩の量は、多糖及びゴムラテックス混合物の全固形分を基準として、約0.2重量%~約20重量%の範囲にある。例えば、添加される無機塩の量は、多糖及びゴムラテックス混合物の全固形分を基準として、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20重量%の範囲にあることができる。無機塩は、工程a)において得られた混合物にゆっくり添加することができるし、又は無機塩は、一度に若しくは数回に分けて添加することができる。混合物の凝固は、典型的には、混合物を撹拌しながら行われる。本方法の一実施形態において、混合物を凝固させる工程b)は、無機塩を混合物に添加することを更に含み、ここで、無機塩は、LiCl、NaCl、KCl、CaCl2、MgCl2、Al2(SO4)3、亜鉛塩、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、ホウ酸ナトリウム、又はそれらの組み合わせを含む。
【0108】
別の実施形態において、工程a)において得られた混合物を凝固させて凝固塊を生成する工程b)は、酸を工程a)の混合物に添加することを含む。酸は、例えば、酢酸、硫酸、硝酸、ホウ酸、ギ酸、有機酸、又はそれらの組み合わせを含むことができる。一実施形態において、酸は酢酸を含む。一実施形態において、酸は硫酸を含む。一実施形態において、酸は硝酸を含む。一実施形態において、酸はホウ酸を含む。一実施形態において、酸はギ酸を含む。一実施形態において、酸は有機酸を含む。典型的には、酸は、酸溶液の総重量を基準して例えば、約2重量パーセント~約10重量パーセントの範囲の、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、又は10重量パーセントの濃度で、水溶液として使用される。酸は、工程a)において得られた混合物にゆっくり添加することができるし、又は酸は、一度に若しくは数回に分けて添加することができる。一実施形態において、工程b)において得られた混合物に添加される酸の量は、多糖及びゴムラテックス混合物の全固形分を基準として、約0.2重量%~約30重量%の範囲にある。例えば、混合物に添加される酸の量は、多糖及びゴムラテックス混合物の全固形分を基準として、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30重量%であることができる。混合物の凝固は、典型的には撹拌を使って行われる。本方法の一実施形態において、混合物を凝固させる工程b)は、酸を混合物に添加することを更に含み、ここで、酸は、酢酸、硫酸、硝酸、ホウ酸、ギ酸、有機酸、又はそれらの組み合わせを含む。
【0109】
追加の実施形態において、工程a)において得られた混合物を凝固させて凝固塊を生成する工程b)は、無機塩及び酸を工程a)の混合物に添加することを含む。一実施形態において、塩化カルシウム及び酢酸が、工程a)において得られた混合物を凝固させるために添加される。別の実施形態において、塩化マグネシウム及び酢酸が、混合物を凝固させるために添加される。追加の実施形態において、塩化ナトリウム及び酢酸が、混合物を凝固させるために添加される。更なる実施形態において、塩化カリウム及び酢酸が、混合物を凝固させるために添加される。
【0110】
凝固塊は、濾過、デカンテーション、又は当技術分野において公知の任意の他の手段によって上澄み水溶液から分離し、任意選択的に、乾燥前に、例えば水で洗浄することができる。洗浄工程は、残存上澄み水溶液並びに上澄み液中に含有された無機塩及び/又は酸を除去する。一実施形態において、凝固塊を乾燥させる工程は、機械的圧力を凝固塊に加えながら行われる。一実施形態において、凝固塊は、封入された上澄み液の放出を助けるために、フィルタープレスにおいてプレスすることができる。一実施形態において、凝固塊を乾燥させる工程は、空気又は不活性ガスの流れを凝固塊に適用することによって行われる。別の実施形態において、凝固塊を乾燥させる工程は、真空下で行われる。一実施形態において、凝固塊を乾燥させる工程は、周囲温度で行われる。別の実施形態において、凝固塊を乾燥させる工程は、選択された期間、周囲温度よりも上の温度に、例えば50~60℃で48時間凝固塊を加熱することによって行われる。更なる実施形態において、凝固塊は、上澄み液の封入された部分を有する凝固塊の部分をこじ開けるのに有用であり得る、より小さいサイズの凝固塊片を生成するためにカットするか又は別のやり方で処理することができる。
【0111】
本明細書で開示される方法に従って製造される多糖-エラストマーマスターバッチ組成物は、マスターバッチ組成物中の多糖及びゴム成分の重量を基準として、約20重量パーセント~約80重量パーセントの多糖を含むことができる。例えば、マスターバッチ組成物中の多糖の量は、マスターバッチ組成物中の多糖及びゴム成分の重量を基準として、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、又は80重量パーセントの範囲にあることができる。任意選択的に、マスターバッチ組成物は、充填剤を更に含む。いくつかの実施形態において、本明細書で開示される方法によって製造されるマスターバッチ組成物は、少なくとも1種のカップリング剤を含む。一実施形態において、本明細書で開示される方法によって製造されるマスターバッチ組成物は、天然ゴム、合成ポリイソプレン、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエンモノマーゴム、水素化ニトリルブタジエンゴム、ポリブタジエン、又はネオプレンを含むエラストマーを含むゴム成分を含む。
【0112】
一実施形態において、マスターバッチ組成物は、
i)ポリアルファ-1,3-グルカン;
ii)ポリアルファ-1,3-1,6-グルカン;
iii)90%以上のα-1,3-グリコシド結合、1重量%未満のアルファ-1,3,6-グリコシド分岐点、及び55~10,000の範囲の数平均重合度を有する非水溶性アルファ-(1,3-グルカン)ポリマー;又は
iv)構造I:
【化7】
[式中、
(A)nが少なくとも6であり;
(B)各Rが、独立して、-H、又は-CO-C
x-COOHを含む第1基であり、ここで、前記第1基のC
x-部分が2~6個の炭素原子の鎖を含み;
(C)この化合物が、約0.001~約3の、第1基による置換度を有する]
で表されるポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物を含み、及び
ゴム成分は、天然ゴム、合成ポリイソプレン、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエンモノマーゴム、水素化ニトリルブタジエンゴム、ポリブタジエン、又はネオプレンを含むエラストマーを含む。
【0113】
一実施形態において、本明細書で開示される方法に従って製造される多糖-エラストマーマスターバッチ組成物は、天然ゴム及びポリアルファ-1,3-グルカンを含む。別の実施形態において、マスターバッチ組成物は、天然ゴム及びポリアルファ-1,3-1,6-グルカンを含む。その上別の実施形態において、マスターバッチ組成物は、天然ゴム及び本明細書で開示されるようなポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物を含む。
【0114】
一実施形態において、本明細書で開示される方法に従って製造される多糖-エラストマーマスターバッチ組成物は、スチレンブタジエンゴム及びポリアルファ-1,3-グルカンを含む。別の実施形態において、マスターバッチ組成物は、スチレンブタジエンゴム及びポリアルファ-1,3-1,6-グルカンを含む。その上別の実施形態において、マスターバッチ組成物は、スチレンブタジエンゴム及び本明細書で開示されるようなポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物を含む。
【0115】
一実施形態において、本明細書で開示される方法に従って製造される多糖-エラストマーマスターバッチ組成物は、合成ポリイソプレン及びポリアルファ-1,3-グルカンを含む。別の実施形態において、マスターバッチ組成物は、合成ポリイソプレン及びポリアルファ-1,3-1,6-グルカンを含む。その上別の実施形態において、マスターバッチ組成物は、合成ポリイソプレン及び本明細書で開示されるようなポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物を含む。
【0116】
一実施形態において、本明細書で開示される方法に従って製造される多糖-エラストマーマスターバッチ組成物は、エチレンプロピレンジエンモノマーゴム及びポリアルファ-1,3-グルカンを含む。別の実施形態において、マスターバッチ組成物は、エチレンプロピレンジエンモノマーゴム及びポリアルファ-1,3-1,6-グルカンを含む。その上別の実施形態において、マスターバッチ組成物は、エチレンプロピレンジエンモノマーゴム及び本明細書で開示されるようなポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物を含む。
【0117】
一実施形態において、本明細書で開示される方法に従って製造される多糖-エラストマーマスターバッチ組成物は、水素化ニトリルブタジエンゴム及びポリアルファ-1,3-グルカンを含む。別の実施形態において、マスターバッチ組成物は、水素化ニトリルブタジエンゴム及びポリアルファ-1,3-1,6-グルカンを含む。その上別の実施形態において、マスターバッチ組成物は、水素化ニトリルブタジエンゴム及び本明細書で開示されるようなポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物を含む。
【0118】
一実施形態において、本明細書で開示される方法に従って製造される多糖-エラストマーマスターバッチ組成物は、ポリブタジエン及びポリアルファ-1,3-グルカンを含む。別の実施形態において、マスターバッチ組成物は、ポリブタジエン及びポリアルファ-1,3-1,6-グルカンを含む。その上別の実施形態において、マスターバッチ組成物は、ポリブタジエン及び本明細書で開示されるようなポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物を含む。
【0119】
一実施形態において、本明細書で開示される方法に従って製造される多糖-エラストマーマスターバッチ組成物は、ネオプレン及びポリアルファ-1,3-グルカンを含む。別の実施形態において、マスターバッチ組成物は、ネオプレン及びポリアルファ-1,3-1,6-グルカンを含む。その上別の実施形態において、マスターバッチ組成物は、ネオプレン及び本明細書で開示されるようなポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物を含む。
【0120】
追加の実施形態において、多糖-エラストマーマスターバッチ組成物の代わりの製造方法であって、この方法が、多糖をゴム成分と物理的に混合して固体混合物を形成する工程と、混合物を乾燥させてマスターバッチ組成物を得る工程とを含む方法が開示される。多糖は、ウェットケーキ又は乾燥粉末として使用することができ、ゴム成分は、固体形態で使用することができる。混合は、当技術分野において公知の方法を用いて、例えばミリング及び押出によって行うことができる。本方法の一実施形態において、混合物の乾燥は、水分含量が3%よりも下になるまで行われる。物理的混合プロセスは、室温で行うことができ、その後、マスターバッチはオーブン中で乾燥させられる。或いは、マスターバッチは、高温で調製することができ、水は、混合プロセス中に除去される。多糖及びゴム成分は、それぞれ、上に本明細書で開示される通りであることができ、相対量は、マスターバッチの所望の最終使用用途に基づいて選択される。
【0121】
本明細書で開示される方法に従って製造される多糖-エラストマーマスターバッチ組成物は、ゴム配合技術分野において一般に公知の配合方法によって多糖-エラストマー組成物を調製するのに有用である。マスターバッチ組成物は、従来の方法に従って加硫成形することによって形成することができる、空気入りタイヤなどの用途向けの多糖-ゴム組成物を調製するために使用することができる。タイヤは、そのような技術分野の当業者に自明であろう様々な方法によって、作り上げる、造形する、成形する、及び硬化させることができる。マスターバッチ組成物はまた、タイヤトレッド、タイヤサイドウォール、コンベヤベルト、動力伝達ベルト、ホース、ガスケット、及び履物などの、しかしそれらに限定されない、また一般に加硫させられる他の物品を形成するためにも使用することもできる。本明細書で開示されるマスターバッチ組成物はまた、コーティング、フィルム、又は接着剤としても使用することができる。一実施形態において、物品は、本明細書で開示されるような多糖-エラストマーマスターバッチ組成物を使用して製造される。別の実施形態において、物品は、タイヤ、ベルト、シール、履物、バルブ、チューブ、マット、ガスケット、コーティング、フィルム、又は接着剤である。ゴム中多糖組成物の使用は、低コスト、低密度、加工中の低エネルギー消費、及びより良好な性能などの利点を提供することができる。
【0122】
本明細書で開示される実施形態の非限定的な例としては、下記が挙げられる。
【0123】
1. 多糖-エラストマーマスターバッチ組成物の製造方法であって、
a)下記
i)水性多糖分散系、又は
ii)塩基性多糖水溶液
を、ゴム成分を含有するゴムラテックス溶液と混合して混合物を形成する工程を含む方法。
【0124】
2.
b)工程a)において得られた混合物を凝固させて凝固塊を生成する工程と;
c)工程b)において得られた凝固塊を乾燥させる工程と
を更に含む、実施形態1に記載の方法。
【0125】
3. 混合物を凝固させる工程b)が、無機塩を混合物に添加することを含む実施形態2に記載の方法。
【0126】
4. 無機塩が、LiCl、NaCl、KCl、CaCl2、MgCl2、Al2(SO4)3、亜鉛塩、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、ホウ酸ナトリウム、又はそれらの組み合わせを含む、実施形態2又は3に記載の方法。
【0127】
5. 混合物を凝固させる工程b)が、酸を混合物に添加することを含む、実施形態2、3、又は4のいずれか一つに記載の方法。
【0128】
6. 酸が、酢酸、硫酸、硝酸、ホウ酸、ギ酸、有機酸、又はそれらの組み合わせを含む、実施形態5に記載の方法。
【0129】
7. 凝固塊を乾燥させる工程c)が、機械的圧力を加えながら行われる、実施形態2、3、4、5、又は6のいずれか一つに記載の方法。
【0130】
8. 多糖をゴム成分と混合して固体混合物を形成する工程と、混合物を乾燥させてマスターバッチ組成物を得る工程とを含む、多糖-エラストマーマスターバッチ組成物の製造方法。
【0131】
9. 混合物が、多糖及びゴム成分の重量を基準として、約20重量パーセント~約80重量パーセントの多糖を含む、実施形態1、2、3、4、5、6、7、又は8のいずれか一つに記載の方法。
【0132】
10. 多糖が、
i)ポリアルファ-1,3-グルカン;
ii)ポリアルファ-1,3-1,6-グルカン;
iii)90%以上のα-1,3-グリコシド結合、1重量%未満のアルファ-1,3,6-グリコシド分岐点、及び55~10,000の範囲の数平均重合度を有する非水溶性アルファ-(1,3-グルカン)ポリマー;
iv)構造I:
【化8】
[式中、
(A)nが少なくとも6であり;
(B)各Rが、独立して、-H、又は-CO-C
x-COOHを含む第1基であり、ここで、前記第1基の-C
x-部分が2~6個の炭素原子の鎖を含み;
(C)この化合物が、約0.001~約3の、第1基による置換度を有する]
で表されるポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物を含む、実施形態1、2、3、4、5、6、7、8、又は9のいずれか一つに記載の方法。
【0133】
11. 水性多糖分散系の多糖が、ウェットケーキ、コロイド分散系、フィブリッド、乾燥粉末、又はそれらの組み合わせの形態にある、実施形態1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10のいずれか一つに記載の方法。
【0134】
12. 多糖が、約20nm~約200μmの範囲の少なくとも1つの次元における平均粒径を有する粒子を含む、実施形態1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又は11のいずれか一つに記載の方法。
【0135】
13. 塩基性多糖水溶液が、NaOH、KOH、又はそれらの組み合わせを含む、実施形態1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12のいずれか一つに記載の方法。
【0136】
14. ゴム成分が、動的機械分析によって測定されるように、-30℃よりも下のTgを有する、少なくとも1種のジエン系の硫黄加硫可能な又は過酸化物加硫可能なエラストマーを含む、実施形態1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、又は13のいずれか一つに記載の方法。
【0137】
15. エラストマーが、天然ゴム、合成ポリイソプレン、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエンモノマーゴム、水素化ニトリルブタジエンゴム、ポリブタジエン、又はネオプレンを含む、実施形態1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、又は14のいずれか一つに記載の方法。
【0138】
16. 混合する工程a)が、充填剤を添加することを更に含む、実施形態1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、又は15のいずれか一つに記載の方法。
【0139】
17. 充填剤が、シリカ、カーボンブラック、グラフェン、フラーレン、カーボンナノチューブ、又はそれらの混合物を含む、実施形態1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、又は16のいずれか一つに記載の方法。
【0140】
18. 少なくとも1種のカップリング剤を添加する工程を更に含む、実施形態1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、又は17のいずれか一つに記載の方法。
【0141】
19. 少なくとも1種のカップリング剤が、シラン、アルキニルコハク酸無水物、アルキルケテン二量体、ポリエーテルアミン、無水マレイン酸、又はイソシアネートを含む、実施形態1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、又は18のいずれか一つに記載の方法。
【0142】
20. 凝集剤を添加する工程を更に含む、実施形態1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、又は19のいずれか一つに記載の方法。
【0143】
21. 実施形態1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20のいずれか一つに記載の方法に従って製造される多糖-エラストマーマスターバッチ組成物。
【0144】
22. マスターバッチ組成物が、多糖及びゴム成分の重量を基準として、約20重量パーセント~約80重量パーセントの多糖を含む、実施形態21に記載のマスターバッチ組成物。
【0145】
23. マスターバッチ組成物が充填剤を更に含む、実施形態21又は22に記載のマスターバッチ組成物。
【0146】
24. 多糖が、
i)ポリアルファ-1,3-グルカン;
ii)ポリアルファ-1,3-1,6-グルカン;
iii)90%以上のα-1,3-グリコシド結合、1重量%未満のアルファ-1,3,6-グリコシド分岐点、及び55~10,000の範囲の数平均重合度を有する非水溶性アルファ-(1,3-グルカン)ポリマー;
iv)構造I:
【化9】
[式中、
(A)nが少なくとも6であり;
(B)各Rが、独立して、-H、又は-CO-C
x-COOHを含む第1基であり、ここで、前記第1基の-C
x-部分が2~6個の炭素原子の鎖を含み;
(C)この化合物が、約0.001~約3の、第1基による置換度を有する]
で表されるポリアルファ-1,3-グルカンエステル化合物を含む、実施形態21、22、又は23のいずれか一つに記載のマスターバッチ組成物。
【0147】
25. ゴム成分が、天然ゴム、合成ポリイソプレン、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンジエンモノマーゴム、水素化ニトリルブタジエンゴム、ポリブタジエン、又はネオプレンを含むエラストマーを含む、実施形態21、22、23、又は24のいずれか一つに記載のマスターバッチ組成物。
【0148】
26. 実施形態21、22、23,24、又は25のいずれか一つに記載の多糖-エラストマーマスターバッチ組成物を使用して製造される物品。
【0149】
27. 物品が、タイヤ、ベルト、シール、履物、バルブ、チューブ、マット、ガスケット、コーティング、フィルム、又は接着剤である、実施形態26に記載の物品。
【実施例】
【0150】
特に記載しない限り、全ての材料は受け取ったままの状態で使用した。
【0151】
本明細書で用いるところでは、「Comp.Ex.」は比較例を意味し、「Ex.」は実施例を意味する。
【0152】
実施例は、以下の材料を使用して調製した:Amax(登録商標)OBTS硬化促進剤(N-オキシジエチレン-2-ベンゾチアゾール-スルフェンアミド)及びAgeRite(登録商標)Resin D酸化防止剤(重合した1,2-ジヒドロ-2,2,4-トリメチルキノリン)(R.T.Vanderbilt Co.,Norwalk,Conn);ジフェニルグアニジン(DPG)硬化促進剤(Akrochem Corp.,Akron,Ohio);BUNA VSL 4526-2 HMスチレン-ブタジエンゴム(溶液重合された、27.3%TDAE油増量された)(Lanxess,Orange,Tex.);Budene(登録商標)1207(高-シス-ポリブタジエン)(Goodyear Chemical,Akron,Ohio);Vulcan(登録商標)7H N234カーボンブラック(Cabot,Alpharetta,Ga.);酸化亜鉛(US Zinc Corp.)、ゴムメーカーの硫黄(Western Reserve Chemical)、ステアリン酸(Harwick);HyPrene L2000ナフテン系プロセスオイル(Ergon Refining Inc.,Jackson,Miss.);N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルホンアミド(CBS)硬化促進剤(Solutia,Kingsport,Tenn.)。
【0153】
ポリアルファ-1,3-グルカンの代表的な調製
ポリアルファ-1,3-グルカンは、米国特許第7,000,000号明細書;米国特許出願公開第2013/0244288号明細書、現在米国特許第9,080,195号明細書;及び米国特許出願公開第2013/0244287号明細書、現在米国特許第8,642,757号明細書(それらの全ては、それらの全体を参照により本明細書に援用される)に記載されているようなgtfJ酵素調製を用いて調製することができる。
【0154】
ポリアルファ-1,3-グルカンポリマーは、それらの両方がそれらの全体を参照により本明細書に援用される、米国特許出願公開第2014/0179913号明細書、現在米国特許第9,139,718号明細書(例えば、その中の実施例12を参照されたい)に開示されている手順に従って、合成することができ、そのウェットケーキを調製することができる。
【0155】
カルボキシメチルポリアルファ-1,3-グルカンの代表的な調製
カルボキシメチルポリアルファ-1,3-グルカンは、その全体を参照により本明細書に援用される、米国特許第9,139,718号明細書に開示されているように調製することができる。
【0156】
ゴム組成物の調製及び試験のための手順
以下の実施例及び比較例において、ゴム組成物は、密閉式ゴム配合機中で約160℃の温度まで幾つかの逐次的な非生産段階(一緒に硫黄及び関連硬化促進剤硬化剤なしの)において示された成分を混合することによって調製した。次にこれに、硬化剤及び劣化防止剤の添加を含む約95℃のより低い温度での最終混合段階が続いた。次に、配合材料を2本ロールミルで更に均質化して分散を更に改善し、ゴム複合体中の多糖の凝集を減少させた。
【0157】
上に記載されたように調製した材料を、動的機械的特性、及び硬化挙動などの加工性試験のために使用した。均質化した材料を、約160℃の温度及び25,000ポンドのプレス圧で、カーバープレス圧縮モールド中で更に加硫し/硬化させた。硬化時間は、23℃~230℃の温度範囲、0.005度~90度のアークの振動振幅、及び0.1~2000の振動周波数のRPA-2000(Alpha technologies)振動ディスクレオメーターを用いてASTM 6204に従って評価した。この手順で得られた硬化時間を用いて、新しい組成物試料をRPA中にロードし、取り出すことなしにレオメーター中で硬化させ、冷却した。次に、貯蔵弾性率(G’)及びTan Deltaを測定するために、1Hzの周波数で低から高まで、及び高から低まで、歪み範囲0.3~100において60℃で硬化ゴムを使って歪み掃引を行った。ゴム試料を、引張特性及び硬度測定のためにt98+5分に等しい時間、500psiの圧力下に160℃で圧縮成形した。引張特性は、ASTM D412 06a、方法Aに従って測定し、Die C及びショアA硬度は、それぞれ、ASTM D624及びASTM D2240-05に従って測定した。表1は、用いられた試験プロトコルをまとめる。
【0158】
【0159】
典型的には、水性多糖分散系又は溶液を使用してマスターバッチ組成物を調製する場合、多糖の一部は、凝固プロセス中にゴム成分と共に組み入れられ、一部は、水相に残っている。マスターバッチ組成物中に含有されるポリアルファ-1,3-グルカンの量は、例えば、TA InstrumentsによってThermal Applications Note TN40: Optimizing Stepwise Isothermal Experiments in Hi-ResTM TGAに開示されているような、段階的な等温手順を使った熱重量分析を用いて測定することができる。
【0160】
実施例1A
水性多糖分散系を使用する多糖-天然ゴムマスターバッチ組成物の調製
多糖-天然ゴムマスターバッチ組成物を次の通り調製した:ウェットケーキのポリアルファ-1,3-グルカン(250g、40%固形分)を、実験室ブレンダーを用いて水(1000g)に分散させて均質なスラリーを得た。天然ゴムラテックス(Centrotrade Minerals & Metals Inc.)(166.7g、60%固形分)を一度にブレンダーに添加し、グルカンスラリーとよく混ぜ合わせた。多糖スラリーと天然ゴムラテックスとの混合物を、pHが5.7~5.3になるまで穏やかに撹拌しながら、塩化カルシウム(25重量%)及び酢酸(5重量%)を含有する水溶液を添加することによって凝固させた。凝固塊を集め、水でリンスして残存酸及び塩を除去した。洗浄塊を次にプレスしてできるだけ多くの水相を除去した。プレスした試料を小片へと切り刻み、窒素パージ下の真空オーブン中で55℃で乾燥させて50%多糖(100phr)を含有するマスターバッチ組成物を得た。
【0161】
実施例1B
塩基性多糖水溶液を使用する多糖-天然ゴムマスターバッチ組成物の調製
多糖-天然ゴムマスターバッチ組成物を次の通り調製した:ウェットケーキのポリアルファ-1,3-グルカン(250g、40%固形分)を、実験室ブレンダーを用いて水(1000g)に分散させて均質なスラリーを得た。水酸化ナトリウム溶液(50重量%)をスラリーに添加して4.5%のNaOH濃度を得て、十分に混合した。NaOHの添加は、グルカンを完全に可溶化した。天然ゴムラテックス(166.7g、60%固形分)をブレンダーに添加し、グルカン溶液とよく混ぜ合わせた。グルカン溶液と天然ゴムラテックス溶液との混合物のpHを先ず、濃酢酸を添加することによってpH8.5に調整した。凝固を次に、pHが5.7~5.3になるまで穏やかに撹拌しながら、塩化カルシウム(25重量%)及び酢酸(5重量%)を含有する水溶液を添加することによって行った。凝固塊を集め、水でリンスして残存酸及び塩を除去した。洗浄塊を次にプレスしてできるだけ多くの水相を除去した。プレスした試料を小片へと切り刻み、窒素パージ下の真空オーブン中で55℃で乾燥させて50%多糖(100phr)を含有するマスターバッチ組成物を得た。
【0162】
比較例A
天然ゴムマスターバッチ組成物の調製
いかなる多糖をも含有しない凝固天然ゴムマスターバッチ組成物を、天然ゴムラテックス(500g、60%固形分)から調製した。塩化カルシウム(25重量%)及び酢酸(5重量%)を含有する凝固水溶液を、pHが5.7~5.3になるまで穏やかに撹拌しながら天然ゴムラテックスに添加した。凝固天然ゴムマスターバッチ組成物を次に、実施例1A及び実施例1Bにおいて調製されたマスターバッチ組成物のそれに似たやり方で洗浄し、乾燥させた。
【0163】
実施例1A、実施例1B、及び比較例Aのマスターバッチ組成物を、以下の手順に従ってそれぞれ使用して配合天然ゴム組成物を調製した。
【0164】
表2にリストアップされる成分を、密閉式ミキサー(C.W.Brabender Prep-Mixer)へ正確に量り入れた。材料を次に、85~100rpmで5~10分間120~160℃で混合し、次に密閉式ミキサー内容物を80℃よりも下に冷却して密閉式ミキサー中での加硫のリスクなしに硬化剤の組み入れを可能にした。これは、密閉式ミキサーの回転子を止め、試料を集めることによって行った。集めた試料を次に薄切りにし、ミキサー中へロードし戻し、硬化剤パッケージ(硫黄、CBS、及びDPG)を振りかけ、1~4分間、80~95℃、45~55rpmで混合した。材料を、6インチ×12インチ幅のロールを持ったEMCO2本ロール実験室ミルを用いて更に混合し、均質化した。最終材料を、2.0~2.2mmの厚さのシートにした。プラークをシートからカットし、160℃で圧縮成形してゴム組成物を硬化させた。試験検体を次に、硬化ゴム組成物の特性試験のために硬化プラークからカットした。
【0165】
実施例1A及び1Bのマスターバッチ組成物は、乾燥形態での、1:1重量比のゴムエラストマー対多糖を含有する。従って、実施例1A及び1Bのマスターバッチ組成物は、それぞれ、100phrの総ゴム、及び100phrの多糖分散系又は多糖溶液からなる。実施例1A又は実施例1Bのマスターバッチを使用して製造された配合天然ゴム調合物は、比較例Aにおいて使用されたカーボンブラックの同等フラクションに取って代わるための多糖充填剤として20phrのポリアルファ-1,3-グルカンを含有した。比較例Aのマスターバッチから製造された配合天然ゴム組成物には多糖は全く含有されなかった。比較例Aの配合天然ゴム組成物は、75phrのカーボンブラックからなった。実施例1A及び1Bの配合調合物は、100phrのゴム及び75phrの充填剤--それぞれ、実施例1Aについては55phrのカーボンブラック及び20phrの多糖分散系、並びに実施例1Bについては55phrのカーボンブラック及び20phrの多糖溶液からなった。
【0166】
【0167】
配合が完了した後、多糖ベースの調合物(実施例1A及び1B)は、エラストマーで十分に被覆されており、結果として、硬化コンパウンドは、表面平滑性、均質性、及び色/輝かしさの形で優れた外観を示したことを観察した。ラテックスとの混合物中の多糖の高いローディングにもかかわらず、多糖分散系(実施例1A)か、又は塩基性多糖水溶液(実施例1B)から誘導された混合物の凝固は、影響を受けなかった。凝固後に、非常に少ないから全くなしの固形分の無色透明の上澄み液が観察された。配合組成物の調製において、ゴム-多糖マスターバッチは、密閉式ミキサーにおいて優れた加工性を示した。表3は、比較例A、実施例1A、及び実施例1Bのマスターバッチ組成物から調製されたゴム組成物の性能特性をまとめる。
【0168】
【0169】
表3の結果から、以下の結論が導かれる:
・多糖がマスターバッチに分散系(実施例1A)として組み入れられた場合に、引張及び伸びの改善が観察された。これは、配合調合物の、応力歪み曲線下の面積として計算される、現在カーボンブラック充填調合物(比較例A)からの靱性の明らかな改善(>50%)をもたらした。これは、マスターバッチプロセスの調製中の強化充填剤としての多糖のより良好な分散、及び天然ゴムと多糖との間の緊密相互作用の結果としてで有り得よう。
・引裂特性の評価もまた、マスターバッチプロセスによる天然ゴムへの多糖の組み入れ(実施例1A)が現在調合物(比較例A)から約70%だけDie Cを改善していることを示した。マスターバッチでの可溶化多糖の使用(実施例1B)は、比較例Aについて観察されるそれから引裂強さを僅かに低下させた。
・天然ゴム調合物において、多糖分散系をベースとするマスターバッチ調合物(実施例1A)は、比較例Aのtan δと比べて約26%だけ60℃でのtan δを低減させた。塩基性多糖水溶液-マスターバッチ調合物(実施例1B)は、約34%だけtan δ 60℃を低減させた。これは、ゴム調合物での多糖の使用が、ゴムコンパウンドのヒステリシスを改善していることを示す。
・多糖分散系マスターバッチベースの調合物について観察された室温での反発弾性の改善はまた、より低いヒステリシスに関係している。
・比較例Aの現在調合物と比べてより低い密度が、多糖が調合された実施例1A及び1Bにおいて達成された。より軽い最終製品及び構成部品が最終使用者のためのエネルギー節約につながるので、これは、様々なアプリケーション・プラットフォームにおいて望ましい。
・より低いトルク(最小S’)は、比較例Aのカーボンブラック調合物の粘度と比べて多糖調合ゴム組成物の粘度の減少があることを示唆する。調合物のより低い粘度は加工性の改善を示す。
【0170】
実施例2A
水性多糖分散系を使用する多糖-スチレンブタジエンゴムマスターバッチ組成物の調製
多糖-スチレンブタジエンゴムマスターバッチ組成物を次の通り調製した:ウェットケーキのポリアルファ-1,3-グルカン(250g、40%固形分)を、実験室ブレンダーを用いて水(1000g)に分散させて均質なスラリーを得た。スチレンブタジエンゴムラテックス(142.9g、70%固形分)をブレンダーに添加し、グルカンスラリーとよく混ぜ合わせた。多糖-ラテックス混合物を、pHが5.7~5.3になるまで穏やかに撹拌しながら、塩化カルシウム(25重量%)及び酢酸(5重量%)を含有する水溶液を添加することによって凝固させた。凝固塊を集め、水でリンスして残存酸及び塩を除去した。洗浄塊を次にプレスしてできるだけ多くの水を除去した。プレスした試料を小片へと切り刻み、窒素パージ下の真空オーブン中で48時間55℃で乾燥させて50%多糖(100phr)を含有するマスターバッチ組成物を得た。
【0171】
実施例2B
塩基性多糖水溶液を使用する多糖-スチレンブタジエンゴムマスターバッチ組成物の調製
多糖-スチレンブタジエンゴムマスターバッチ組成物を次の通り調製した:ポリアルファ-1,3-グルカン(250g、40%固形分)を、実験室ブレンダーを用いて水(1000g)に分散させて均質なスラリーを得た。水酸化ナトリウム溶液(50重量%)をスラリーに添加して4.5%のNaOH濃度を得て、十分に混合した。NaOHの添加は、グルカンを完全に可溶化した。スチレンブタジエンラテックス(142.9g、60%固形分)を一度にブレンダーに添加し、グルカン溶液とよく混ぜ合わせた。グルカン溶液とスチレンブタジエンゴムラテックスとの混合物のpHを先ず、濃酢酸を添加することによって14からpH8.5に調整した。凝固を次に、pHが5.7~5.3になるまで穏やかに撹拌しながら、塩化カルシウム(25重量%)及び酢酸(5重量%)を含有する水溶液を添加することによって行った。凝固塊を集め、水でリンスして残存酸及び塩を除去した。洗浄塊を次にプレスしてできるだけ多くの水相を除去した。プレスした試料を小片へと切り刻み、窒素パージ下の真空オーブン中で48時間55℃で乾燥させて50%多糖(100phr)を含有するマスターバッチ組成物を得た。
【0172】
比較例B
スチレンブタジエンゴムマスターバッチ組成物の調製
いかなる多糖をも含有しない凝固スチレンブタジエンゴムマスターバッチ組成物を、スチレンブタジエンゴムラテックス(500g、60%固形分)から調製した。塩化カルシウム(25重量%)及び酢酸(5重量%)を含有する凝固水溶液を、pHが5.7~5.3になるまで穏やかに撹拌しながらスチレンブタジエンゴムラテックスに添加した。凝固スチレンブタジエンゴムマスターバッチ組成物を次に、実施例2A及び実施例2Bにおいて調製されたマスターバッチ組成物のそれに似たやり方で洗浄し、乾燥させた。
【0173】
実施例2A、実施例2B、及び比較例Bのマスターバッチ組成物を、以下の手順に従ってそれぞれ使用して配合スチレンブタジエンゴム組成物を調製した。
【0174】
表4にリストアップされる成分を、密閉式ミキサー(C.W.Brabender Prep-Mixer)へ正確に量り入れた。材料を次に、85~100rpmで5~10分間120~160℃で混合し、次に密閉式ミキサー内容物を80℃よりも下に冷却して密閉式ミキサー中での加硫のリスクなしに硬化剤の組み入れを可能にした。これは、密閉式ミキサーの回転子を止め、試料を集めることによって行った。集めた試料を次に薄切りにし、ミキサー中へロードし戻し、硬化剤パッケージ(硫黄、CBS、及びDPG)を振りかけ、1~4分間、80~95℃、45~55rpmで混合した。材料を、6インチ×12インチ幅のロールを持ったEEMCO2本ロール実験室ミルを用いて更に混合し、均質化した。最終材料を、2.0~2.2mmの厚さのシートにした。プラークをシートからカットし、160℃で圧縮成形してゴム組成物を硬化させた。試験検体を次に、硬化ゴム組成物の特性試験のために硬化プラークからカットした。
【0175】
実施例2A及び2Bのマスターバッチ組成物は、乾燥形態での1:1重量比のゴムエラストマー対多糖を含有する。したがって、実施例2A及び2Bのマスターバッチ組成物は、それぞれ、100phrのゴム、及び100phrの多糖分散系又は多糖溶液の合計からなる。実施例2A又は実施例2Bのマスターバッチを使用して製造された配合スチレンブタジエンゴム調合物は、比較例Bにおいて使用されたカーボンブラックの同等フラクションに取って代わるための多糖充填剤として20phrのポリアルファ-1,3-グルカンを含有した。比較例Bのマスターバッチから製造された配合スチレンブタジエンゴム組成物には多糖は全く含有されなかった。比較例Bの配合スチレンブタジエンゴム組成物は、75phrのカーボンブラックからなった。実施例2A及び2Bの配合調合物は、100phrのゴム及び75phrの充填剤-それぞれ、実施例2Aについては55phrのカーボンブラック及び20phrの多糖分散系、並びに実施例2Bについては55phrのカーボンブラック及び20phrの多糖溶液からなった。
【0176】
【0177】
水性多糖分散系及び塩基性多糖水溶液は両方ともSBRラテックとよく混ざり、ラテックス中の多糖の良好な分散系をもたらした。100phrのラテックス(乾燥重量基準)での多糖のローディングは、ラテックスの安定性に影響を与えず、多糖粒子は、ラテックスでよく湿らされた。多糖-天然ゴムマスターバッチの調製におけるように、SBR-多糖マスターバッチ凝固工程は、1%未満の固形分を含有する、無色透明から僅かに濁った上澄み液をもたらした。多糖-スチレンブタジエンゴムマスターバッチの配合は、平滑な、均質の及び輝いた配合材料をもたらした。表5は、比較例B、実施例2A、及び実施例2Bのマスターバッチ組成物から調製されたゴム組成物の性能特性をまとめる。
【0178】
【0179】
表5の結果から、以下の結論が導かれる:
・多糖分散系を使用して調製されたSBRマスターバッチ(実施例2A)の使用は、硬化SBRゴム組成物に高度の強化を付与した。引張強さ及び破断点伸びの改善は、ベースラインと比べて多糖分散系を使って約93%の靱性改善をもたらした。
・マスターバッチプロセスによって調製された20phrの多糖(実施例2A)のローディングもまた、約22%だけカーボンブラック調合物(比較例B)のDie Cとして測定される引裂強さを改善した。
・マスターバッチ組成物を調製するためのグルカン分散系(実施例2A)か、又は塩基性グルカン溶液(実施例2B)の使用は、60℃でのtan δの低減をもたらした。これは、SBR配合ゴム組成物のヒステリシスが比較例Bのそれと比べて低減していることを意味する。
・比較例Bについてのトルクと比べて、実施例2A及び2Bのマスターバッチ組成物から調製された配合ゴム組成物のトルクの減少から分かるように、多糖の組み入れで密度の低下及び加工性の改善もまた観察された。
【0180】
実施例3
凝集剤入りの水性多糖分散系を使用する多糖-天然ゴムマスターバッチ組成物の調製
多糖-天然ゴムマスターバッチ組成物を次の通り調製した:ウェットケーキのポリアルファ-1,3-グルカン(250g、40%固形分)を、実験室ブレンダーを用いて水(1000g)に分散させて均質なスラリーを得た。カルボキシメチルポリアルファ-1,3-グルカン(10g)を凝集剤としてウェットケーキスラリーに添加し、ブレンドして均質なスラリーを得た。天然ゴムラテックス(Centrotrade Minerals & Metals Inc.)(166.7g、60%固形分)を一度にブレンダーに添加し、グルカンスラリーとよく混ぜ合わせた。多糖スラリーと天然ゴムラテックスとの混合物を、pHが5.7~5.3になるまで穏やかに撹拌しながら、塩化カルシウム(25重量%)及び酢酸(5重量%)を含有する水溶液を添加することによって凝固させた。凝固塊を集め、水でリンスして残存酸及び塩を除去した。洗浄塊を次にプレスしてできるだけ多くの水相を除去した。プレスした試料を小片へと切り刻み、窒素パージ下の真空オーブン中で55℃で乾燥させて50%多糖(100phr)を含有するマスターバッチ組成物を得た。
【0181】
実施例4
2本ロールミルを用いる多糖-天然ゴムマスターバッチ組成物の調製
50/50の多糖対ゴム組成物を有する多糖-天然ゴムマスターバッチを次の通り調製した:ウェットケーキのポリアルファ-1,3-グルカン(1280g、40重量%固形分)を、加熱も冷却もなしの6インチ(直径)×12インチ(歯幅)EEMCO2本ロールミルで、室温で天然ゴムSMR CV60(512g、固体の大きい塊の形での)と混合した。リアローラーの速度は33rpmであり、フロントローラーのそれは24rpmであった。グルカンウェットケーキを、多糖が全て天然ゴム複合体中へ組み入れられるまで、およそ1h多数回天然ゴムとともにミルに注入した。天然ゴムマスターバッチを3日間70℃でオーブン中で乾燥させ、次に後の使用のために貯蔵した。
【0182】
比較例C
天然ゴムカーボンブラックのみのコンパウンドの調製
天然ゴム複合体を使用する比較例を、多糖含有マスターバッチなしで、しかし唯一の充填剤としてカーボンブラックありで調製した。比較例Cのマスターバッチを、比較例Aに記載されたような密閉式ミキサーで調製した。
【0183】
実施例4及び比較例Cのマスターバッチ組成物を使用して比較例Aに記載された手順に従って表7にリストアップされるような配合天然ゴム組成物を調製した。表8は、実施例4及び比較例Cのマスターバッチ組成物から調製されたゴム組成物の性能特性をまとめる。
【0184】
【0185】
【0186】
表8の結果から、以下の結論が導かれる:
・2本ロールミリングによって調製されたマスターバッチ調合物(実施例4)は、比較例Cのカーボンブラックのみの調合物と比べて約47%だけ60℃でのtan δを低減した。これは、ゴム調合物での多糖の使用がゴムコンパウンドのヒステリシスを改善していることを示す。
・多糖分散系マスターバッチベースの調合物について観察された室温での反発弾性の改善はまた、より低いヒステリシスに関係している。
・より低いトルク(最小S’)は、比較例Cのカーボンブラックのみの調合物の粘度と比べて多糖調合ゴム組成物の粘度の減少があることを示唆している。調合物のより低い粘度は加工性の改善を示す。