(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】自動車用ガラスラン
(51)【国際特許分類】
B60J 10/76 20160101AFI20240116BHJP
B60J 10/20 20160101ALI20240116BHJP
B60J 10/50 20160101ALI20240116BHJP
【FI】
B60J10/76
B60J10/20
B60J10/50
(21)【出願番号】P 2020020504
(22)【出願日】2020-02-10
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】596002767
【氏名又は名称】トヨタ自動車九州株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000196107
【氏名又は名称】西川ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】船越 健司
(72)【発明者】
【氏名】神谷 佳彦
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-122366(JP,U)
【文献】特開2017-190120(JP,A)
【文献】特開2011-121407(JP,A)
【文献】特開2018-192933(JP,A)
【文献】特開2021-024388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60J 10/76
B60J 10/20
B60J 10/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用ドアのドアフレームの内周側に取り付けられ、前記自動車用ドアに昇降可能に設けられたドアガラスの昇降を案内する縦案内部を有する自動車用ガラスランであって、
前記縦案内部は、
前記ドアフレームに嵌着される基部と、
前記基部の車内側から延設された車内側側壁部と、
前記基部の車外側から延設され、前記基部及び前記車内側側壁部とともに溝形状の横断面形状をなす車外側側壁部と、
前記車内側側壁部からドアガラス側に斜めに延設されたインナーリップと、
前記車外側側壁部からドアガラス側に斜めに延設されたアウターリップと
、を有し、
前記インナーリップおよび前記アウターリップの少なくともいずれか一方は、
前記車内側側壁部または前記車外側側壁部に対する付根部分である基部と、
前記縦案内部の横断面視での延設形状の中間部分をなし前記基部よりも薄く形成された中間部と、を含み、
前記中間部を、前記ドアガラスに面接触させるように構成し
、
前記車外側側壁部は、前記基部からの延設方向の前側に、先端縁部をドアガラスの車外側の面に対する接触部とする水止め片を延設している
ことを特徴とする自動車用ガラスラン。
【請求項2】
前記インナーリップおよび前記アウターリップの少なくともいずれか一方は、前記縦案内部の横断面視での先端部分をなし前記中間部よりも厚く形成された先端部を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の自動車用ガラスラン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用ドアのドアフレームの内周に取付けられ、車両用のドアガラスの昇降を案内する自動車用ガラスランに関する。詳細には、本発明は、車両ドアフレームの縦フレーム部に装着され、ドアガラスを縦方向に案内する縦案内部を有する自動車用ガラスランに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用ドアを構成するフレームである車両ドアフレームにおいて、フレームの内周に沿ってガラスランが設けられている。このガラスランは、ゴム等の弾性材料により車両ドアフレームに沿うように延伸状に形成された部材であり、溝形断面のドアフレームに嵌合され、ドアガラスの周縁部を内外から保持しつつもドアガラスの昇降に支障がないように構成されている。また、ガラスランは、ドアガラスの縁部を内外のシールリップによって挟持した態様で設けられ、車内に対して車外の音を遮断する機能を有する。
【0003】
このようなガラスランに関する従来の技術として、例えば、特許文献1に開示されているものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、車両用のドアガラスの両側を内外から保持するシールリップを複数設けることでシール性能を向上した車両のガラスラン構造について記載されている。
【0006】
しかしながら、上記従来の技術では、シールリップにおいて十分な剛性が得られず、車両ドアガラスとシールリップとの接触がいずれも横断面形状における点接触、つまりシールリップとしては線接触となる。このため、車外の音がガラスランと車両ドアガラスとの間を通過しやすく、静粛性の面で改善の余地がある。すなわち、上記従来の構造によれば、シールリップがドアガラスの表面に対して線接触していることから、ドアガラスに対するシールリップの接触部を音が通り抜けやすくなり、車外の音が、ガラスランに挟持されたドアガラスの縁部を回り込み、車内における静粛性を得ることが難しい。
【0007】
本発明は、上述した問題点に鑑みてなされたものであり、ドアガラスとの間の遮音性を向上することができ、車外の音に対する車内の静粛性を向上することができる自動車用ガラスランを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る自動車用ガラスランは、自動車用ドアのドアフレームの内周側に取り付けられ、前記自動車用ドアに昇降可能に設けられたドアガラスの昇降を案内する縦案内部を有する自動車用ガラスランであって、前記縦案内部は、前記ドアフレームに嵌着される基部と、前記基部の車内側から延設された車内側側壁部と、前記基部の車外側から延設され、前記基部及び前記車内側側壁部とともに溝形状の横断面形状をなす車外側側壁部と、前記車内側側壁部からドアガラス側に斜めに延設されたインナーリップと、前記車外側側壁部からドアガラス側に斜めに延設されたアウターリップとを有し、前記インナーリップおよび前記アウターリップの少なくともいずれか一方は、前記車内側側壁部または前記車外側側壁部に対する付根部分である基部と、前記縦案内部の横断面視での延設形状の中間部分をなし前記基部よりも薄く形成された中間部とを含み、前記中間部を、前記ドアガラスに面接触させるように構成したものである。
【0009】
また、本発明の他の態様に係る自動車用ガラスランは、前記自動車用ガラスランにおいて、前記インナーリップおよび前記アウターリップの少なくともいずれか一方は、前記縦案内部の横断面視での先端部分をなし前記中間部よりも厚く形成された先端部を有するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ドアガラスとの間の遮音性を向上することができ、車外の音に対する車内の静粛性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る自動車用ガラスランを備えた車両ドアを示す正面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る自動車用ガラスランのドアガラスを除いた状態の要部を模式的に示す
図1のA-A端面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る自動車用ガラスランの要部を模式的に示す
図1のA-A端面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る自動車用ガラスランによる作用についての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、自動車のドアにおいてドアフレームとドアガラスとの間にドアガラスの縁部を挟持した態様で設けられる自動車用ガラスランにおいて、ドアガラスに対する接触部となるリップ部分(シールリップ)の形状を工夫することにより、車外の音に対する車内の静粛性の向上を図ろうとするものである。以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態を説明する。以下の図面において、同一または類似の部分には同一の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、各部寸法比率などは現実のものとは必ずしも一致しない。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や異なる部分が含まれることは勿論である。
【0013】
図1乃至
図3は、本実施形態に係る自動車用ガラスラン(以下単に「ガラスラン」とする。)20の構成例を示す図である。
図1に示すように、ガラスラン20は、自動車用ドアである車両ドア1のドアフレーム10の内周側に嵌合した態様で取り付けられ、車両ドア1に昇降可能に設けられた車両ドアガラス(以下単に「ドアガラス」とする。)Gの昇降を案内するものである。
【0014】
車両ドア1は、自動車の車体に取り付けられる部分となるドア本体部1aと、ドア本体部1aの上側に形成された窓枠部1bとを有する。窓枠部1bは、前側、上側、および後側の各縁部により略台形状に沿う縁部形状をなし、ドア本体部1aの上縁部とともに、ガラス板により形成されたドアガラスGにより覆われる窓用開口部を形成する。ドアガラスGは、ドア本体部1aの上縁の開口部から出没するようにドア本体部1aに対してモータ等を駆動源とした昇降機構により昇降可能に設けられている。
【0015】
ドアフレーム10は、その前後において、上下方向に延設された縦フレーム部11を有する。縦フレーム部11は、横断面視において所定の屈曲形状をなすように板状の部材により形成されている。縦フレーム部11は、
図2に示すように、横断面視(平面断面視)において、略車幅方向に延伸して縦フレーム部11の基部をなす基壁12と、基壁12の内側(車幅方向内側)の端部から車両の前方に向けて延設された内片13と、基壁12の外側(車幅方向外側)の端部から車両の前方に向けて延設された外片16とを有する。
【0016】
縦フレーム部11は、延伸方向について略一定の横断面形状を有し、横断面視において、基壁12と内片13と外片16とにより、ドアガラスG側を開放側とした略「コ」字状をなす。
図2に示す縦フレーム部11は、ドアフレーム10の後側の縦フレーム部11であり、前側を開放側としている。これに対し、ドアフレーム10の前側の縦フレーム部11の場合、平面断面視の形状は、
図2に示す態様と略前後対称(図面上は略左右対称)の形状となる。なお、
図2において、「OUT」で示す上側が車幅方向外側であり、その反対側が車幅方向内側であり、「FR」で示す左側が車両の前側であり、その反対側が車両の後側である。
【0017】
内片13は、基壁12から前方へ延設され、ガラスラン20と係合する係合凹部14、15を備えている。係合凹部14、15は、車幅方向内側に対して膨出した形状をなすことで、ガラスラン20が嵌め込まれる縦フレーム部11の内側に対して、縦フレーム部11の延設方向に沿う溝部をなす部分として形成されている。内片13は、前後方向に間隔を開けて形成された2箇所の係合凹部14、15を有する。内片13において、後側の係合凹部14は、基壁12側(後側)に形成されており、前側の係合凹部15は、後側の係合凹部14よりも前側の部位において係合凹部14よりも深い溝をなすように形成されている。
【0018】
外片16は、車両ドア1に沿って基壁12から前方へドアパネルPの端部近傍まで延設され、前側の縁部において車幅方向内側に折り返された嵌合部17を形成している。嵌合部17は、全体として横断面視において前後方向に沿うように略平面状に形成された外片16の前側の過半部を形成している。本実施形態では、外片16は、前後方向について、内片13の略半分の寸法を有する。
【0019】
ガラスラン20は、ゴム等の弾性材料によりドアフレーム10に沿うように延伸状に形成された一体成形の部材であり、溝形断面のドアフレーム10に嵌合され、ドアガラスGの周縁部を内外から保持しつつもドアガラスGの昇降に支障がないように構成されている。ガラスラン20は、延伸方向について略一定の横断面形状を有する。また、ガラスラン20は、ドアガラスGの縁部を内外のシールリップによって挟持した態様で設けられ、車内に対して車外の音を遮断する機能を有する。
【0020】
ガラスラン20は、ドアフレーム10の縦フレーム部11に嵌合装着され、ドアガラスGを縦方向に案内する縦案内部21を有している。縦案内部21は、ドアフレーム10の縦フレーム部11に嵌着される基部30と、基部30の車内側(車幅方向内側)から前方へ向けて延設された車内側側壁部40と、基部30の車外側(車幅方向外側)から前方へ向けて延設され、基部30及び車内側側壁部40とともに溝形状の横断面形状をなす車外側側壁部60とを有する。
【0021】
すなわち、ガラスラン20の縦案内部21は、横断面視において、基部30と車内側側壁部40と車外側側壁部60とにより、ドアガラスG側を開放側とした略「コ」字状をなす。
図2に示す縦案内部21は、ドアフレーム10の後側の縦案内部21であり、前側を開放側としている。これに対し、ドアフレーム10の前側の縦案内部21の場合、平面断面視の形状は、
図2に示す態様と略前後対称(図面上は略左右対称)の形状となる。
【0022】
そして、縦案内部21は、その略「コ」字状の横断面形状を、縦フレーム部11の横断面形状に沿わせるようにして、ドアフレーム10の縦フレーム部11に嵌着されている。すなわち、縦案内部21は、縦フレーム部11に嵌着された状態において、基部30、車内側側壁部40及び車外側側壁部60を、それぞれ縦フレーム部11の基壁12、内片13及び外片16に沿わせた状態となっている。
【0023】
なお、本実施形態では、
図1から
図3に示すように、ガラスラン20の説明に関し、ドアフレーム10の後側の部分についての縦フレーム部11及び縦案内部21の平面断面視形状を用いて説明しているが、ドアフレーム10の前側の部分は、平面断面視でドアフレーム10の後側の部分と略前後対称(図面上は略左右対称)の形状となる。また、ドアフレーム10は、前後の縦フレーム部11の上端部同士を繋ぐ上フレーム部を有し、この上フレーム部においても、ガラスラン20が、縦フレーム部11と同様の態様で設けられている。ガラスラン20は、前後の縦フレーム部11に対応する縦案内部21においては、ドアガラスGを挟持した状態を保持しながらドアガラスGの昇降動作による摺動作用を受け、ドアフレーム10の上フレーム部に対応する上辺部分においては、ドアガラスGの挿脱を受ける部分としてドアガラスGの昇降動作による摺動作用を受けることになる。
【0024】
ガラスラン20は、シールリップとして、車内側側壁部40からドアガラスG側に斜めに延設されたインナーリップ50を有する。インナーリップ50は、車内側側壁部40から基部30に向けて斜めに延設している。つまり、インナーリップ50は、車内側側壁部40の車幅方向外側の面から、略後斜め外側方向に向けて延設された板状の部分である。
【0025】
本実施形態では、前後方向に所定の間隔を隔てて2本のインナーリップ50,50が設けられている。前後方向について、前側のインナーリップ50は、車内側側壁部40の前縁部から延設されており、後側のインナーリップ50は、車内側側壁部40の略中央部から延設されている。前後のインナーリップ50,50は、車内側側壁部40からの突出形状(横断面形状)として互いに略同じ形状を有する。
【0026】
インナーリップ50は、基部51から先端部53にかけて厚みが変化するように構成している。インナーリップ50は、車内側側壁部40と連結する基部51を肉厚部とし、中間部52を肉薄部とし、先端部53を肉厚部に構成している。
【0027】
すなわち、インナーリップ50は、車内側側壁部40に対する付根部分である基部51と、縦案内部21の横断面視での延設形状の中間部分をなし基部51よりも薄く形成された中間部52と、縦案内部21の横断面視での先端部分をなし中間部52よりも厚く形成された先端部53とを含む。そして、縦案内部21は、インナーリップ50の中間部52を、ドアガラスGに面接触させるように構成されている。
【0028】
基部51は、横断面視において、裾広がり形状をなすように、インナーリップ50の先端側から車内側側壁部40側にかけて徐々に厚さを厚くしている。中間部52は、横断面視において、基部51の先側の厚さを保持し略一定の板厚を有する部分である。先端部53は、横断面視において、中間部52の先側から先端側にかけて徐々に板厚を厚くした部分であり、インナーリップ50の先端部において瘤状の部分をなしている。このように、インナーリップ50は、横断面視において、根元側から先端側にかけて、比較的太い部分である基部51から、比較的細い部分である中間部52を経て、比較的太い部分である先端部53を有し、「太」→「細」→「太」と厚さを滑らかに変化させた形態をなす部分として形成されている。
【0029】
このように構成することで、インナーリップ50は、肉厚部から肉薄部に変化する変曲点、すなわち、基部51と中間部52との連結部54を折曲起点として折曲できる。
図2及び
図3に示すように、車内側側壁部40と車外側側壁部60との間にドアガラスGが差し込まれることで、インナーリップ50は、ドアガラスGの接触作用により、連結部54を折曲起点として連結部54から先端部53までが車内側側壁部40側に倒された状態となる。この際、連結部54には元の状態に戻ろうとする弾性力が生起されており、該弾性力が中間部52及び先端部53をドアガラスGに当接させる力として作用している。
【0030】
このようにインナーリップ50をドアガラスGに弾接する構成とし、さらに、連結部54を起点として折曲できる構成とすることによりインナーリップ50とドアガラスGとの面接触を実現している。インナーリップ50においては、比較的肉厚の基部51により、インナーリップ50の根元部分において高い剛性を得ることができるとともに、比較的肉薄の中間部52については、柔軟性を得ることができ、その柔軟性によって中間部52の略全体をドアガラスGに対する接触部分とすることができる。これにより、ドアガラスGに対するインナーリップ50の面接触作用を得ることができる。
【0031】
さらに、インナーリップ50は、その先端縁部に、比較的肉厚の先端部53を有する。このような構成によれば、インナーリップ50の先端縁部の剛性及び強度を向上させることができる。これにより、ドアガラスGの昇降動作による摺動作用を受けるインナーリップ50において、その先端縁部が擦り切れることを抑制することができ、インナーリップ50の劣化を抑制することができる。
【0032】
また、車内側側壁部40は、車幅方向内側において、引掛け片41、42を車内側の車両前方に向けて突設している。引掛け片41、42は、車内側側壁部40に連結した基部43から先端部44にかけて先細り状に構成している。すなわち、引掛け片41、42は、それぞれ基部43、43を肉厚とし、先端部44、44を肉薄とすることで、変形しにくい形態としている。
【0033】
引掛け片41、42は、それぞれ縦フレーム部11の係合凹部14、15に対して係合する突条部分であり、各係合凹部14、15に対応して前後方向に間隔を開けて2箇所に形成されている。すなわち、後側の引掛け片41は、基部30側(後側)に形成されており、前側の引掛け片42は、後側の引掛け片41よりも前側の部位において引掛け片41よりも高い突条部分をなすように形成されている。そして、後側の引掛け片41が、後側の係合凹部14内に位置し、係合凹部14に対する係止部分となり、前側の引掛け片42が、前側の係合凹部15内に位置し、係合凹部15に対する係止部分となる。
【0034】
引掛け片41、42は、ドアフレーム10とガラスラン20との嵌合状態を生起しつつ、車内側側壁部40から車両前方に向けて斜め方向に突設する構成とすることで返しとして機能し、ガラスラン20がドアフレーム10から外れにくい構成としている。すなわち、引掛け片41、42は、それぞれ係合凹部14、15の前側の部分に対して当接する部分となり、ドアフレーム10に対し、ガラスラン20がドアフレーム10から外れる方向のガラスラン20の移動を規制する係止部分として機能する。
【0035】
また、ガラスラン20においては、車内側側壁部40の前縁部に、被覆面部45が形成されている。被覆面部45は、横断面視において、車内側側壁部40の前縁部から車幅方向内側に向けて前側を凸側とした湾曲形状をなす板状の部分である。被覆面部45は、横断面視において、前側のインナーリップ50とともに、車内側側壁部40の前縁部から車幅方向内側・外側に延出した前側に凸の一体的な湾曲形状をなす傘状の部分を形成している。被覆面部45及び前側のインナーリップ50は、前面同士を連続させ、前側を凸側とした湾曲面45aを形成している。被覆面部45は、車内側側壁部40の前側から車幅方向内側に延出し、車内側側壁部40の車幅方向内側において、ドアフレーム10の構成部材とガラスラン20との間の隙間等を前側から被覆する部分となる。
【0036】
また、ガラスラン20は、シールリップとして、車外側側壁部60からドアガラスG側に斜めに延設されたアウターリップ70を有する。アウターリップ70は、車外側側壁部60から基部30に向けて斜めに延設している。つまり、アウターリップ70は、車外側側壁部60の車幅方向内側の面から、略後斜め内側方向に向けて延設された板状の部分である。
【0037】
本実施形態では、車外側側壁部60の前後方向の略中央部において1本のアウターリップ70が設けられている。アウターリップ70は、2本のインナーリップ50,50のうちの後側のインナーリップ50に対して車幅方向について略対称な形状部分として形成されている。
【0038】
アウターリップ70は、基部71から先端部73にかけて厚みが変化するように構成している。アウターリップ70は、車外側側壁部60と連結する基部71を肉厚部とし、中間部72を肉薄部とし、先端部73を肉厚部に構成している。
【0039】
すなわち、アウターリップ70は、車外側側壁部60に対する付根部分である基部71と、縦案内部21の横断面視での延設形状の中間部分をなし基部71よりも薄く形成された中間部72と、縦案内部21の横断面視での先端部分をなし中間部72よりも厚く形成された先端部73とを含む。そして、縦案内部21は、アウターリップ70の中間部72を、ドアガラスGに面接触させるように構成されている。
【0040】
このように、アウターリップ70は、インナーリップ50と同様に、横断面視において、根元側から先端側にかけて、比較的太い部分である基部71から、比較的細い部分である中間部72を経て、比較的太い部分である先端部73を有し、「太」→「細」→「太」と厚さを滑らかに変化させた形態をなす部分として形成されている。
【0041】
このように構成することで、アウターリップ70は、基部71と中間部72との連結部74を折曲起点として折曲できる。
図2及び
図3に示すように、車内側側壁部40と車外側側壁部60との間にドアガラスGが差し込まれることで、アウターリップ70は、ドアガラスGの接触作用により、連結部74から先端部73までが車外側側壁部60側に倒された状態となる。この際、連結部74には元の折曲状態に戻ろうとする弾性力が生起されており、該弾性力が中間部72及び先端部73をドアガラスGに当接させる力として作用している。
【0042】
このようにアウターリップ70をドアガラスGに弾接する構成とし、さらに、連結部74を起点として折曲できる構成とすることによりアウターリップ70とドアガラスGとの面接触を実現している。アウターリップ70においては、比較的肉厚の基部71により、アウターリップ70の根元部分において高い剛性を得ることができるとともに、比較的肉薄の中間部72については、柔軟性を得ることができ、その柔軟性によって中間部72の略全体をドアガラスGに対する接触部分とすることができる。これにより、ドアガラスGに対するアウターリップ70の面接触作用を得ることができる。
【0043】
さらに、アウターリップ70は、その先端縁部に、比較的肉厚の先端部73を有する。このような構成によれば、アウターリップ70の先端縁部の剛性及び強度を向上させることができる。これにより、ドアガラスGの昇降動作による摺動作用を受けるアウターリップ70において、その先端縁部が擦り切れることを抑制することができ、アウターリップ70の劣化を抑制することができる。
【0044】
また、車外側側壁部60は、車幅方向外側において、車外側に向けて複数の位置決め突起61、62を突設し、また、先端部に水止め片63を延設している。
【0045】
位置決め突起61は、車外側側壁部60の前後方向の中間部に形成された突条部分であり、車外側側壁部60の外側に沿う嵌合部17の先端縁部に対する係止部分となる。車外側側壁部60の車幅方向外側において、位置決め突起61は、車外側側壁部60の後部において位置決め突起61と前後方向に対向するように形成された突条部61aとともに、嵌合部17が嵌合する凹部を形成している。
【0046】
位置決め突起61の前方に、突条部分である位置決め突起62が形成されている。車外側側壁部60の車幅方向外側における前後の位置決め突起61,62の間の部位に、ドアパネルPの先端縁部(前端縁部)が当接している。
【0047】
位置決め突起61,62は、ドアフレーム10を構成する嵌合部17及びドアパネルPの前端縁と接触することで、ガラスラン20の前後方向(
図3における左右方向)への移動を規制している。すなわち、ドアパネルPの前端縁と位置決め突起61が接触することで、ガラスラン20の前方への移動が規制される。また、ドアパネルPの先端部と位置決め突起62が接触すること及び嵌合部17と位置決め突起61が接触することで、ガラスラン20の後方への移動が規制される。
【0048】
また、ガラスラン20は、車外側側壁部60の先端縁部に水止め片63を延設している。水止め片63は、車外側側壁部60の前側を延設した板状の部分であり、略前後方向に沿う車外側側壁部60の本体部分に対して車幅方向内側に斜めに屈曲状に延出している。水止め片63は、車外側側壁部60の本体部分側から先端縁部にかけて先細りするように形成されている。すなわち、水止め片63は、基部64を比較的肉厚としながら先端部65を比較的肉薄とすることで基部64側から先端部65側にかけて徐々に板厚を薄くし、横断面視においてテーパ状をなすように形成されている。このような形状により、水止め片63は、基部64側において比較的高い剛性を得ながら、先端部65側において柔軟性を得ている。
【0049】
水止め片63は、その先端縁部を、ドアガラスGの車幅方向外側の面に対する接触部とする。このように水止め片63を有することにより、ガラスラン20は、車外側側壁部60の前側の縁部をドアガラスGの表面に確実に接触させることができ、車外からの塵埃及び水が車内側に侵入することが可及的に低減される。
【0050】
また、ガラスラン20の横断面視における基部30の両端部、すなわち、車内側側壁部40と基部30とによる角部分、及び車外側側壁部60と基部30とによる角部分の内側には、平面視で略円形状に沿う凹部31、32が形成されている。凹部31、32は、ガラスラン20の延設方向に沿う溝状の部分となる。ガラスラン20は、凹部31、32を有することで、ドアフレーム10に嵌入される際、車内側側壁部40及び車外側側壁部60が基部30に対して内側に折曲しやすくなり、容易に嵌入できる形態に変形できるように構成されている。
【0051】
以上のような構成を備えた本実施形態のガラスラン20によれば、ドアガラスGとガラスラン20との間の遮音性を向上することができ、車外の音に対する車内の静粛性を向上することができる。
【0052】
図3に示すように、平面断面視において略「コ」字状をなすガラスラン20がドアフレーム10内においてドアガラスGの縁部を挟持した態様でドアガラスGの縁部を嵌入させた構成において、車外の音は、ドアガラスGの外側からドアガラスGとガラスラン20との間を回り込み、ドアガラスGの内側から車内に到達する。すなわち、
図4において矢印A1で示すように、車外の音は、ドアガラスGの外側面と車外側側壁部60との間、ドアガラスGの縁端部と基部30との間、及びドアガラスGの内側面と車内側側壁部40との間を通過する経路をたどり、車内に侵入する。
【0053】
そこで、本実施形態に係るガラスラン20によれば、アウターリップ70及びインナーリップ50をドアガラスGに対して面接触させることができることから、ドアガラスGの外側面と車外側側壁部60との間、及びドアガラスGの内側面と車内側側壁部40との間のそれぞれにおいて音を通過させにくくすることができ、遮音性を向上させることができる。これにより、ドアガラスGに対するシールリップの接触部を音が通り抜けにくくなり、車外の音がガラスラン20に挟持されたドアガラスGの縁部を回り込んで車内に到達することを抑制することができ、車内における静粛性を向上させることができる。
【0054】
また、本実施形態のガラスラン20は、インナーリップ50及びアウターリップ70のそれぞれにおいて、比較的肉厚の先端部53,73を有する。このような構成によれば、横断面視におけるシールリップの延設方向の中間部分においては柔軟性を得ながら各シールリップの先端縁部の剛性を向上させることができ、比較的肉厚の先端部53,73を車外の音の侵入経路において障壁として作用させることができる。これにより、シールリップによる遮音性を向上させることができ、車内における静粛性を効果的に向上させることができる。
【0055】
また、本実施形態のガラスラン20によれば、ドアガラスGに対するインナーリップ50及びアウターリップ70の面接触により、ドアガラスGを車内外から確実に保持することができる。
【0056】
また、
図3に示すように、ガラスラン20の車内側側壁部40の引掛け片41、42がドアフレーム10の内片13の嵌合部14,15に掛合し、ガラスラン20の車外側側壁部60の位置決め突起61,62がドアフレーム10の外片16の嵌合部17及びドアパネルPの端縁部に掛合することで、ガラスラン20をドアフレーム10に確実に位置決めして嵌合させることができる。
【0057】
ガラスラン20の嵌合状態において、ドアガラスGは、内側からインナーリップ50,50の肉薄部分である中間部52により弾撥的に押圧され、外側からアウターリップ70の肉薄部分である中間部72により弾撥的に押圧される。これにより、車両走行時にドアガラスGが左右揺動しても内外それぞれに設けたシールリップ(インナーリップ50、アウターリップ70)がドアガラスGから離反することが抑制され、ドアガラスGが内外にがたつくことなく保持され、ドアガラスGとガラスラン20とが常時接触する状態を生起することができる。結果として、縦案内部21内においてドアガラスGとシールリップとの間に隙間が形成されることを抑制することができ、車内の静粛性を維持ないし向上することができ、しかも車外からの塵埃及び水の侵入を防止することができる。また、ガラスラン20の車外側側壁部60の水止め片63がドアガラスGに弾接して塵埃や水の侵入を防ぐとともに、ドアガラスGとガラスラン20が常に接触した状態を維持できるため高い遮音性が得られる。また、アウターリップ70は、中間部72を比較的肉薄に構成したため、連結部74を起点として変形しやすく、ドアガラスGとの面接触を実現しつつもドアガラスGが昇降する際の作動を阻害する虞がない。
【0058】
また、インナーリップ50及びアウターリップ70は、車両走行時の速度変化によって車内と車外との気圧差が変動し、ドアガラスGが車両内外に揺動する際にもドアガラスGとの接触状態を維持するため、ドアガラスGのガタツキを抑制できるとともに、インナーリップ50及びアウターリップ70とドアガラスGとの間でのバタつき音を抑制できる。このように、本実施形態のガラスラン20によれば、インナーリップ50,50によってドアガラスGを内側から保持することができるとともに、多少の変位はアウターリップ70が吸収するため、ドアガラスGががたつくことなく確実にドアガラスGを保持することができる。
【0059】
また、ドアガラスGのがたつきに関しては、ドアガラスGを保持するガラスランのシールリップについて十分な剛性が得られない場合、例えば車両の悪路走行時などにおいて、車両の揺れにともなってドアガラスGが揺れることになり、ガラスランによる支持部分においてバタつき音が生じやすくなる。こうしたドアガラスGのバタつき音は、車内における静粛性を低下させる要因となる。
【0060】
そこで、本実施形態のガラスラン20においては、インナーリップ50及びアウターリップ70が比較的肉厚の基部51,71を有することから、シールリップの付根部分の剛性を向上させることができる。これにより、ドアガラスGの揺れを抑制することができ、ドアガラスGのバタつき音を低減することができる。このような点からも、本実施形態に係るガラスラン20によれば、車内における静粛性を向上させることができる。
【0061】
また、ガラスラン20の内周面、すなわち、ガラスラン20のドアガラスGとの接触部分にはドアガラスGとの摩擦抵抗を低減するためのシリコン等を含む塗布剤を塗布してもよい。ガラスラン20の内周面に塗布剤を塗布することで、インナーリップ50及びアウターリップ70による押圧作用を受けながら、縦案内部21においてドアガラスGをより滑らかに昇降作動させることができる。
【0062】
なお、ガラスラン20は基部30に車両前方に向けてドアガラス支持部を突設してもよい。ドアガラス支持部は、平面視略方形状でドアガラスGの後端部G1と接触して車両走行時にドアガラスGに生起される前後方向の揺動を抑制できる。
【0063】
上述した本発明の実施形態は一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した実施形態以外の形態であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【0064】
上述した実施形態では、ガラスラン20は、シールリップとして、2本のインナーリップ50及び1本のアウターリップ70を有するが、シールリップの本数は特に限定されない。
【0065】
また、上述した実施形態では、インナーリップ50及びアウターリップ70の両方が、比較的肉厚の部分である基部51,71、比較的肉薄の部分である中間部52,72、及び比較的肉厚の部分である先端部53,73を有し、肉厚を「太」→「細」→「太」と変化させた形状を有するが、インナーリップ50及びアウターリップ70の少なくともいずれか一方について上記のような形状を採用することで、上述したような車内の静粛性の向上やドアガラスGのガタツキ抑制といった作用効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0066】
G ドアガラス
P ドアパネル
1 車両ドア
10 ドアフレーム
11 縦フレーム部
12 基壁
13 内片
14、15 係合凹部
16 外片
17 嵌合部
20 ガラスラン
21 縦案内部
30 基部
31、32 嵌入用凹部
40 車内側側壁部
41,42 引掛け片
43 基部
44 先端部
50,50 インナーリップ
51 基部
52 中間部
53 先端部
54 連結部
60 車外側側壁部
61,62 位置決め突起
63 水止め片
70 アウターリップ
71 基部
72 中間部
73 先端部
74 連結部