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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】漏洩補修治具、漏洩補修方法
(51)【国際特許分類】
   F16L 55/175 20060101AFI20240116BHJP
   F16L 55/18 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
F16L55/175
F16L55/18 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020041749
(22)【出願日】2020-03-11
(65)【公開番号】P2021143701
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】592031318
【氏名又は名称】富士古河E&C株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】大前 信二
【審査官】渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-146078(JP,A)
【文献】特開2018-146037(JP,A)
【文献】特開平03-296088(JP,A)
【文献】特開平05-003099(JP,A)
【文献】実公昭45-018305(JP,Y1)
【文献】特開2018-146036(JP,A)
【文献】登録実用新案第3012087(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 55/175
F16L 55/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の漏洩箇所の補修を行うための漏洩補修治具であって、
漏洩箇所に密着させる非硬化性の粘土と、
前記粘土を漏洩箇所に固定する固定手段と、
漏洩箇所に密着する前記粘土の面と反対側の面に配置される磁石と、を具備し、
前記粘土は磁性体を含み、前記磁石と吸着した状態で漏洩箇所に密着する
ことを特徴とする漏洩補修治具。
【請求項2】
前記粘土の外周を囲むように配置される粘土流動規制部を具備することを特徴とする請求項1記載の漏洩補修治具。
【請求項3】
前記粘土流動規制部の厚みは、前記粘土の厚みよりも厚いことを特徴とする請求項2記載の漏洩補修治具。
【請求項4】
前記磁石は、磁性体からなるケースの内部に配置され、
前記磁石は、前記粘土が配置される面とは逆側の面において前記ケースと接触し、
前記磁石の側面と前記ケースとの間には、非磁性体の充填材が充填され、前記磁石が前記ケースに固定されることを特徴とする請求項に記載の漏洩補修治具。
【請求項5】
前記磁石の前記粘土の配置される面の断面形状が、凹曲面であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の漏洩補修治具。
【請求項6】
前記粘土流動規制部が発泡体であることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の漏洩補修治具。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の漏洩補修治具を用いた漏洩補修方法であって、
前記漏洩補修治具の前記粘土を、漏洩箇所にあてがい、前記漏洩補修治具を補修対象へ固定することを特徴とする漏洩補修方法。
【請求項8】
前記漏洩補修治具を補修対象に押圧するための固定部材を用いて、前記漏洩補修治具を補修対象へ固定することを特徴とする請求項7記載の漏洩補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管等において、内部腐食や外部腐食等で発生した流体の漏洩を補修するための漏洩補修治具及びこれを用いた漏洩補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば工場の設備等において、内部に流体が流れる配管が使用される。このような配管は、経時劣化(腐食)によりピンホールなどが生じる場合があり、この場合、内部の流体の漏洩が生じる。このような流体の漏洩に対しては、一度内部の流体を止めて、配管の交換等を行う必要がある。しかし、このような処置は生産を止めて行う必要があることから、生産等に支障があり装置を停止することが困難な場合には対応が困難であった。このため、より短時間で配管漏洩を応急的に補修する方法が望まれている。
【0003】
このような漏洩補修方法としては、例えば、FRPシートとFRPシートを配管に押さえつける押さえ板と、FRPシートを硬化させる硬化手段と、装置を配管に固定する磁石等の固定手段を用いた漏洩補修装置が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、シート状の磁石と、磁石の吸着面に配置される粘着部材と、粘着部材を覆い、剥離可能な磁力抑止部材からなる噴出ガス応急遮断具が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-84848号公報
【文献】特開2018-146037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、通常、配管の外面には細かな凹凸や、局所的な傷などが生じており、確実にこれらの凹凸を埋めて流体を遮断することは困難である。
【0007】
例えば特許文献1のように、FRPシートを用いた方法では、上記した凹凸や傷の隙間を確実に埋めることが困難である。また、硬化型のFRPシートが用いられるが、硬化後はシートが十分な柔軟性を有していないため、ガスの圧力によってシートと配管との隙間を流体が流れる恐れがある。特に、FRPシートの硬化時には多少の収縮が生じるため、仮に硬化前に配管の表面を確実に覆うことができても、硬化時に隙間が生じる恐れがある。
【0008】
また、特許文献2では粘着部材が用いられ、磁石によって配管に押し当てられているが、通常、定型の粘着部材は、その変形能に限界があるため、なだらかな凹凸には追従することができても、局所的な傷までを完全に埋めることは困難である。このため、少し深い傷があれば、傷部分を伝って流体が漏れるおそれがある。
【0009】
このように、例えば工場の配管系統等における漏洩が生じた際に、配管等の表面の大小さまざまな凹凸に確実に追従して、即座に応急補修し装置停止による生産への影響を最小限にするとともに、時間経過によっても漏洩が生じにくい信頼性の高い漏洩補修治具が望まれている。
【0010】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、簡易な方法で、確実に配管等の漏洩を補修することが可能な漏洩補修治具及びこれを用いた漏洩補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達するために第1の発明は、流体の漏洩箇所の補修を行うための漏洩補修治具であって、漏洩箇所に密着させる非硬化性の粘土と、前記粘土を漏洩箇所に固定する固定手段と、漏洩箇所に密着する前記粘土の面と反対側の面に配置される磁石と、を具備し、前記粘土は磁性体を含み、前記磁石と吸着した状態で漏洩箇所に密着することを特徴とする漏洩補修治具である。
【0012】
前記粘土の外周を囲むように配置される粘土流動規制部を具備することが望ましい。また、前記粘土流動規制部の厚みは、前記粘土の厚みよりも厚いことが望ましい。
【0013】
前記磁石は、磁性体からなるケースの内部に配置され、前記磁石は、前記粘土が配置される面とは逆側の面において前記ケースと接触し、前記磁石の側面と前記ケースとの間には、非磁性体の充填材が充填され、前記磁石が前記ケースに固定されることが望ましい。
【0014】
前記磁石の前記粘土の配置される面の断面形状が、凹曲面であることが望ましい。
【0016】
この場合、前記粘土流動規制部が発泡体であることが望ましい。
【0017】
第1の発明によれば、漏洩箇所と密着させる面に粘土が配置されるため、粘土を配管の表面の凹凸に追従させて変形させることで、配管との隙間を確実に埋めることができる。また、粘土が非硬化性であるため、硬化に伴う収縮等もなく、長期にわたって漏れを補修することができる。
【0018】
一方、漏洩箇所からは、常に内部の流体の圧力がかかった状態であるため、粘土の経時的な変形(いわゆるクリープ変形)が進行して、流体の流路が形成される恐れがある。しかし、このような変形を抑制するために粘土を硬化させてしまうと、硬化に伴う収縮等により、却って漏洩の要因となる。
【0019】
これに対し、粘土に磁性体を配合して、磁石を用いることで、粘土が磁石に吸着する。このような磁性粘土が磁石の面上に配置されと、磁力によって、磁石の面内方向への粘土の移動(変形)が妨げられる。このため、配管内部の流体の圧力によっても、粘土の経時的な変形が抑制され、長期にわたって漏洩をより確実に止めることができる。
【0020】
また、粘土の外周部に粘土流動規制部を配置することで、粘土を漏洩対象に押し付けた際や、その後の流体の内圧によって粘土が過剰に変形することを抑制することができる。
【0021】
特に、粘土流動規制部が発泡体であれば、より確実に配管等の外周面に粘土流動規制部を密着させることができる。
【0022】
また、磁石が磁性体からなるケースの内部に配置され、磁石の側面とケースとの間に非磁性体の充填材を充填することで、磁石の吸着面の磁力を利用することができるとともに、磁石の吸着面とは逆側の磁力線がケースを通り、減衰しない状態で吸着面側に出てくるため、ケースを配管に対してより強い磁力で吸着させることができる。
【0023】
また、磁石の吸着面側の断面形状を凹曲面とすることで、配管の外形に沿って磁石を配置することができる。
【0024】
第2の発明は、第1の発明にかかる漏洩補修治具を用いた漏洩補修方法であって、前記漏洩補修治具の前記粘土を、漏洩箇所にあてがい、前記漏洩補修治具を補修対象へ固定することを特徴とする漏洩補修方法である。
【0025】
前記漏洩補修治具を補修対象に押圧するための固定部材を用いて、前記漏洩補修治具を補修対象へ固定してもよい。
【0026】
第2の発明によれば、わずかな作業で配管等の漏洩を補修することができる。
【0027】
また、固定部材を用いれば、配管等が磁性体ではない場合や、磁力による吸着のみでは内部の流体の圧力を押さえられないような場合でも、漏洩を補修することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、簡易な方法で、確実に配管等の漏洩を補修することが可能な漏洩補修治具及びこれを用いた漏洩補修方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】漏洩補修治具1を示す斜視図。
図2】(a)は、図1のA-A線断面図、(b)は、図1のB-B線断面図。
図3】漏洩補修治具1の使用状態を示す図。
図4図3のC部の拡大概念図。
図5】(a)、(b)は、図4のE部における漏れの進行を示す概念図。
図6】漏洩補修治具1の他の使用状態を示す図。
図7】漏洩補修治具1aを示す斜視図。
図8】(a)は、図7のI-I線断面図、(b)は、図7のJ-J線断面図。
図9】漏洩補修治具1aの使用状態を示す図。
図10】(a)は、図9のK-K線断面図、(b)は、図9のL-L線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。図1は、漏洩補修治具1を示す斜視図であり、図2(a)は、図1のA-A線断面図、図2(b)は、図1のB-B線断面図である。漏洩補修治具1は、漏洩箇所の補修を行うための治具であり、主に、ケース3、粘土5、流動規制部7、磁石9、充填材11等から構成される。
【0031】
ケース3は磁性体からなる略箱型であり、一方の面が開口する。ケース3の開口部側が、漏洩箇所に密着させる側となる。ケース3の内部には、磁石9が収容される。ケース3の開口部側においては、磁石9の表面上に粘土5が配置される。すなわち、磁石9の少なくとも一方の面には、漏洩箇所に密着させる粘土5が配置される。
【0032】
粘土5には、磁性体が含まれれる。例えば、粘土5には、鉄粉等が混入されている。したがって、粘土5は、磁石9に吸着する。なお、粘土5は、時間経過とともに硬化する硬化型粘土等ではなく、時間をおいても硬化しない又は硬化しにくい非硬化型粘土(非硬化型パテ含む)である。粘土5の機能については詳細を後述する。
【0033】
磁石9の側面とケース3の内面との間にはクリアランスが形成される。また、磁石9は、粘土5が配置される面とは逆側の面においてケース3と接触する。また、磁石9の側面とケース3の側壁との間には、非磁性体の充填材11が充填される。磁石9の断面形状は、下方に行くにつれて幅広となるため、充填材11によって磁石9がケース3に固定される。なお、充填材11は、例えばエポキシ樹脂である。なお、図示したように、粘土5は、磁石9からはみ出して、充填材11の上面にも配置されてもよい。
【0034】
ここで、磁石9は、ケース3の内部において、一方の磁極がケース3の開口部側に向き、他方の磁極がケース3の底面と接触するように配置される。例えば、図2(a)に示すように、磁石9のN極面に粘土5が配置され、S極面がケース3の底面と接触する。このように配置することで、漏洩箇所に密着させる側へN極の磁力線を出すことができるとともに、S極から出る磁力線も、ケース3を通して漏洩箇所に密着させる側へ出すことができる。このため、漏洩箇所に密着させる側へ、より強い磁力を得ることができる。なお、N極とS極とは逆であってもよい。
【0035】
粘土5の外周部には、粘土5の流動を規制するための流動規制部7が配置される。図1に示すように、流動規制部7は、粘土5の外周を囲むように配置される。流動規制部7は、例えば発泡体である。流動規制部7が発泡体であれば、より大きな変形が可能であるため、必要に応じて容易に潰れ、粘土5が漏洩箇所に密着する際の妨げとなることがない。流動規制部7の厚みは、粘土5の厚みよりも厚い。
【0036】
なお、磁石9の粘土5が配置される面の幅方向の断面形状(図2(a)に示す断面形状)は、配管等の外形に応じて凹曲面で形成され、これと直交する方向の断面(図2(b)に示す断面形状)は略矩形である。このようにすることで、配管の外面に装着した際、磁石9と粘土5とを配管の外周面に確実に密着させることができる。すなわち、漏洩補修治具1は、漏洩対象の配管の形状や配管径等の規格に合わせてそれぞれ最適な形状に設計されることが望ましい。なお、漏洩対象は配管には限られないため、平面部の漏洩を補修する場合には、凹曲面は不要である。
【0037】
次に、漏洩補修治具1を用いた、漏洩補修方法について説明する。図3は、漏洩補修治具1の使用状態を示す図である。なお、図示した例では、配管13の漏洩部15を補修する例を示すが、前述したように、配管13以外の漏洩であっても対応可能である。
【0038】
まず、漏洩補修治具1の粘土5の露出面を、配管13の漏洩部15にあてがい、漏洩補修治具1を配管13に設置する。ここで、配管13が磁性体である場合には、磁石9の磁力によって、漏洩補修治具1を補修対象である配管13へ固定することができる。すなわち、磁石9が、粘土5を漏洩部に固定するための固定手段として機能する。この際、前述したように、ケース3によって、磁石9の両方の磁極の磁力線を利用して、漏洩補修治具1を配管13へ吸着させることで、より強力に漏洩補修治具1を配管13に吸着させることができる。
【0039】
図4は、図3のC部の拡大概念図である。前述したように、粘土5は不定形であるため、配管13の外面の凹凸形状に合わせて自由に変形可能であるため、確実に配管13の表面に粘土5を密着させることができる。このため、配管13と粘土5との間に隙間が生じることを抑制することができる。
【0040】
ここで、発明者らは、このような粘土5を用いた場合において、時間の経過に伴い、一度漏洩を止めた部位から、漏洩が再度発生する場合があることを知見した。この原因として、粘土5の経時的な変形が進行しているものと推定した。
【0041】
図5(a)、図5(b)は、図4のE部の拡大概念図である。図5(a)に示すように、漏洩補修直後において粘土5によって漏洩部15が塞がれ、粘土5と配管13とが密着し、磁石9の吸着によって押さえられているため、内部の流体の漏洩を止めることができる。
【0042】
しかし、粘土5には、内部の流体の内圧が常にかかった状態となる。発明者らは、このような力が常にかかった状態では、図5(b)に示すように、粘土5の変形が徐々に進行して(図中矢印H)、配管13と粘土5との間に、微小な流路が形成されるものと推定した。すなわち、粘土5の微小な変形が徐々に進行することで、図4に示す矢印Dのように、粘土5と配管13との隙間を伝って、流体が外部に流出するものと推定した。
【0043】
しかし、これに対し、粘土5を固くして変形しにくい材料を用いれば、配管13の表面の凹凸に粘土5を確実に密着させることが困難となる。そこで、発明者らは、粘土5の変形能力自体はそのままにして、前述したような経時的な変形を抑制するため、磁石9を利用する本実施形態に至ったものである。
【0044】
本実施形態では、粘土5には、磁性体(例えば鉄粉)が配合されている。したがって、粘土5は、磁石9によって吸着される(図中矢印F)。磁性体を磁石9に吸着させると、これと垂直な方向への移動も抑制される。例えば、鉄粉は非磁性体の面上では自由に移動可能であるが、磁石の面上に配置すると、個々の鉄粉同士も磁力により引き付け合うため、面上での移動に対して抵抗力が働く。また、配管13に漏洩補修治具1を吸着させることにより、磁石9と配管13との間に磁界が発生する。このように、磁性体粒子に磁場が作用することにより鎖状構造が形成され、粘土5が半固体化して剪断抵抗が増す。これにより、粘土5の配管軸方向への移動も抑制される。このように、磁石9によって、粘土5の変形を抑制することができる。
【0045】
なお、このように磁石9によって吸着させた状態でも、粘土5自体は変形能力が大きいため、配管13へ強く押し付ければ、粘土5を配管13の表面に密着させることができる。しかし、粘土5を強く押し付けすぎると、粘土5が潰れて、粘土が周囲に広ってしまう。これに対し、本実施形態では、粘土5の外周に流動規制部7が配置されるため、粘土5が広がろうとしても(図中矢印G)、流動規制部7によってこれが規制される。また、流体の内圧が大きく、磁石9による変形抑制能力を超えて粘土5が変形しようとしても、流動規制部7によって粘土5の変形(広がり)を抑制することができる。
【0046】
以上のように、磁性体が配合された粘土5を用い、これを磁石9で吸着させた状態で漏洩部15に密着させることで、確実に漏洩を止めることができるとともに、経時的な粘土5の変形に伴う漏洩の再発生を抑制することができる。
【0047】
なお、図3に示す例では、配管13が磁性体であり、磁石9によって漏洩補修治具1を配管13に固定した例を示したが、本発明はこれには限られない。例えば、図6に示すように、漏洩補修治具1を配管13に固定部材17を用いて固定してもよい。すなわち、粘土5を漏洩部に固定するための固定手段として、固定部材17を用いてもよい。固定部材17は、例えばクランプ等であってもよく、バンドであってもよい。
【0048】
このように、本実施形態において、磁石9は、配管13への固定の目的ではなく、あくまでも粘土5の変形抑制のためであるため、磁石9の吸着力のみで漏洩補修治具1を配管13へ十分に押圧可能である場合を除き、固定部材17を用いて漏洩補修治具1を配管13へ固定することができる。このため、配管13は、必ずしも磁性体でなくてもよく、配管13の内圧が極めて大きく、磁石9の吸着のみでは漏洩が止まらないような場合でも、固定部材17によって漏洩補修治具1を配管13へ強く押圧し、漏洩を補修することができる。
【0049】
以上説明したように、本実施形態によれば、粘土5を、漏洩部15の周囲の配管13の外周面へ押圧させることで、確実に粘土5を配管13の外表面の凹凸に追従させて密着させることができる。このため、配管13と粘土5との間の隙間を埋めることができる。また、粘土5に磁性体が配合されており、磁石9に吸着させた状態で配管13に密着されるため、粘土5の経時的な変形を抑制することができる。このため、信頼性良く、漏洩を補修することができる。
【0050】
また、流動規制部7を配置することで、粘土5の変形(広がり)を抑制することができる。このため、粘土5が潰れすぎて薄くなることや、内圧によって粘土5が押し広げられることを抑制することができる。
【0051】
また、ケース3を用いることで、より強力に配管13へ漏洩補修治具1を吸着させることができる。
【0052】
また、漏洩補修治具1を補修対象に押圧するための固定部材17を用いることで、漏洩補修治具1を補修対象へ効率良く固定することができる。
【0053】
なお、例えば配管13が非磁性体である場合には、磁石9によって配管13に吸着させることができないため、漏洩補修治具1と配管13との強力な磁力による吸着は不要である。いたがって、このような場合には、必ずしもケース3は必須ではない。また、粘土5の形成範囲が十分に広い場合など、粘土5の流動を抑制する必要がない場合には、流動規制部7は必ずしも必須ではない。
【0054】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。図7は、第2の実施形態にかかる漏洩補修治具1aを示す斜視図であり、図8(a)は、図7のI-I線断面図、図8(b)は、図7のJ-J線断面図である。なお、以下の説明において、第1の実施形態と同様の機能を奏する構成については、図1図7と同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0055】
漏洩補修治具1aは、漏洩補修治具1と略同様の構成であるが、形状及び各構成の配置が異なる。漏洩補修治具1aは、一対の半割部材2がセットで使用される。なお、図7及び図8では、一方の半割部材2のみを示す。
【0056】
半割部材2のケース3aは、半円形の断面形状を有し、一対の半割部材2を対向させて突き合せることで、略円筒形となる。ケース3aの軸方向(円筒形とした際の軸方向であって、図8(b)の左右方向)の一方の端部側(図8(b)の右側端部であって、以下「小径側」とする)は、内径が小さく内面に流動規制部7aが配置される。また、流動規制部7aと軸方向に併設する部位は、ケース3aの内径が拡径され、拡径部と接触するように磁石9が配置される。磁石9も半円状であり、一対の半割部材2を対向させた際には、磁石9が突き合せられて略リング状になる。なお、ケース3aの小径側端部の内径と、磁石9の内径は略同一である。
【0057】
磁石9の内面側には粘土5aが配置される。なお、小径側に配置される流動規制部7aの内径は、これと併設される粘土5aの内径よりも小さい。磁石9の小径側とは逆側に併設するように、ケース3aの内径が縮径され、縮径部に粘土5bが配置される。すなわち、粘土5a、5bが、異なる内径となるように複数段に形成される。粘土5a、5bは、前述した粘土5と同様に磁石に吸着する。なお、磁石9の表面に配置され、内径の小さな粘土5aと、これと併設され、内径の大きな粘土5bとの間には、磁石9の側端面が露出する。
【0058】
ケース3aの軸方向であって、小径側とは逆側(以下「大径側」とする)の端部には、流動規制部7bが配置される。すなわち、ケース3aの両端部には流動規制部7a、7bが配置される。したがって、半割部材2を対向させて円筒形とした際に、流動規制部7a、7bは、粘土5a、5bの外周を囲むように配置される。なお、流動規制部7a、7bは前述した流動規制部7と同様に、例えば発泡体で構成される。また、ケース3aの大径側端部の内径と、これと併設される粘土5bの部位のケース3aの内径は略同一である。また、いずれの流動規制部7a、7bも、粘土5a、5bよりも厚みが厚い。
【0059】
次に、漏洩補修治具1aを用いた、漏洩補修方法について説明する。図9は、漏洩補修治具1aの使用状態を示す図(部分断面図)であり、図10(a)は、図9のK-K線断面図、図10(b)は、図9のL-L線断面図である。本実施形態では、配管13とエルボ19との接続部近傍における漏洩を補修する方法を示す。なお、本実施形態は、配管13と接続される対象がエルボ19であるが、フランジ部や他の継手部などとの接合部近傍にも適用可能である。
【0060】
配管13の外周部に一対の半割部材2を対向させて配置し、バンド等の固定部材21で固定する。すなわち、一対の半割部材2を突き合せて円筒形の漏洩補修治具1aとし、これを配管13の外周に固定する。この際、小径側が配管13側となり、大径側がエルボ19側となるように配置される。したがって、小径側の流動規制部7aは、配管13の外周面に押圧され、大径側の流動規制部7bがエルボ19の外周面に押圧される。
【0061】
また、漏洩補修治具1aは、粘土5a、5bの段差部分(磁石9の側端面)が、エルボ19の端面に接触するように配置される。また、内径の小さな粘土5aは配管13の外表面に密着し、内径の大きな粘土5bはエルボ19の外表面に密着する。
【0062】
また、このようにして配置された漏洩補修治具1aは、粘土5a、5bを漏洩箇所に固定するための固定手段である固定部材17aによって、エルボ19に固定される。固定部材17aは、例えば、配管13に外面に配置されたアングルと、エルボ19に掛けられたU字ボルトによって構成される。この場合、アングルが漏洩補修治具1aの小径側端面と接触し、エルボ19に掛けられたU字ボルトがアングルにナットで固定される。固定部材17aによって、漏洩補修治具1a(磁石9の側端面)がエルボ19(エルボ19の端面)に押圧されるようにして、漏洩補修治具1aが固定される。
【0063】
このようにすることで、エルボ19との接続部近傍の段差を有する配管13に対しても、漏洩補修治具1aを固定し、漏洩を補修することができる。
【0064】
なお、エルボ19と配管13との接続部からの漏洩にも対応可能である。この場合には、粘土5a、5bの段差における磁石の側端面にも粘土5が配置されることが望ましい。また、ケース3aは、磁石9と接触するため全体として磁石となるが、粘土5bの背面側にも別途の磁石9を配置してもよい。
【0065】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。また、漏洩補修治具1aによれば、他部材との接続部近傍における漏洩に対しても対応が可能である。
【0066】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0067】
例えば、上述した各実施形態において、粘土5、5a、5bには磁性体が配合されて、粘土5、5a、5bを磁石9によって吸着することで、粘土5、5a、5bの変形を抑制したが、漏洩部の圧力が低い場合等、粘土5、5a、5bの経時的な変形がほとんどない場合には、磁石9は不要である。すなわち、粘土5、5a、5bに磁性体を配合しなくてもよい。この場合でも、不定形の非硬化性の粘土であれば、配管等の外周部の大小さまざまな凹凸に確実に追従して変形することができるため、粘土を漏洩部に密着させて、磁石や固定部材などの固定手段で固定することで、漏洩箇所を簡易に補修することができる。
【0068】
なお、粘土に磁性体が含まれていない場合には、粘土の変形抑制を目的とした磁石は不要であるが、固定手段として磁石や固定部材を用いる場合において、粘土の背面側に、配管等の外面に応じた凹曲面を有する部材を配置して、粘土を確実に漏洩箇所近傍の全面にほぼ均等に押圧可能であることが望ましい。
【符号の説明】
【0069】
1、1a………漏洩補修治具
2………半割部材
3、3a………ケース
5、5a、5b………粘土
7、7a、7b………流動規制部
9………磁石
11………充填材
13………配管
15………漏洩部
17、17a………固定部材
19………エルボ
21………固定部材
図1
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