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特許7420603ダイヤモンド砥粒を含む低気孔率ビトリファイド砥石
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】ダイヤモンド砥粒を含む低気孔率ビトリファイド砥石
(51)【国際特許分類】
   B24D 3/18 20060101AFI20240116BHJP
   B24D 3/00 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
B24D3/18
B24D3/00 320A
B24D3/00 320B
B24D3/00 330G
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020044686
(22)【出願日】2020-03-13
(65)【公開番号】P2021142634
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】大山 紘史
(72)【発明者】
【氏名】大浦 雄介
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-113843(JP,A)
【文献】特開2000-084857(JP,A)
【文献】特表2013-508185(JP,A)
【文献】国際公開第2013/108898(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 3/18
B24D 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒をガラス質のビトリファイドボンドにより結合した、ダイヤモンド砥粒を含む低気孔率ビトリファイド砥石であって、
前記砥粒は、アルミナ質砥粒および炭化珪素質砥粒の混合物から成る主砥粒と、前記主砥粒に対して0.2~0.8の平均粒径比、および砥石体積に対して0.8~4.0体積%の体積割合を有する前記ダイヤモンド砥粒とを、含む
ことを特徴とするダイヤモンド砥粒を含む低気孔率ビトリファイド砥石。
【請求項2】
前記ダイヤモンド砥粒を含む低気孔率ビトリファイド砥石には、前記主砥粒が砥石体積に対して40体積%以上の割合で含まれ、前記ビトリファイドボンドが砥石体積に対して45体積%以上の割合で含まれている
ことを特徴とする請求項1のダイヤモンド砥粒を含む低気孔率ビトリファイド砥石。
【請求項3】
前記砥粒および前記ビトリファイドボンドの砥石体積に対する充填率は、85体積%以上である
ことを特徴とする請求項1または2のダイヤモンド砥粒を含む低気孔率ビトリファイド砥石。
【請求項4】
前記ビトリファイドボンドは850℃以上の軟化点を有するものである
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1のダイヤモンド砥粒を含む低気孔率ビトリファイド砥石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削能率の高いダイヤモンド砥粒を含むビトリファイド砥石に関するものである。
【背景技術】
【0002】
砥粒がガラス質のビトリファイドボンドにより結合されることで構成されているビトリファイド砥石では、一般に、砥粒の切れ刃が材料に貫入することが重要であるため、砥粒は硬く且つ鋭利な切れ刃を維持することが必要である。最も高硬度の超硬質砥粒としてはダイヤモンド砥粒が知られているが、大気雰囲気下の800℃以上の焼成において、ダイヤモンド砥粒は空気中の酸素と反応して殆ど消失する。
【0003】
これに対して、還元雰囲気等の非酸化雰囲気下で焼成を行なうと、ダイヤモンド砥粒がビトリファイドボンドにより結合されたビトリファイドダイヤモンド砥石が得られるが、設備が高価であることによる生産コストが高くなるだけでなく、ダイヤモンド砥粒の表面に対するビトリファイドボンドの濡れ性が低く、ダイヤモンド砥粒とビトリファイドボンドとの接着性が充分でなく耐久性が得られない。このため、大気雰囲気下でダイヤモンド砥粒を含むビトリファイド砥石を焼成することが重要である。
【0004】
これに対して、大気雰囲気下でビトリファイドダイヤモンド砥石を焼成する方法が提案されている。たとえば特許文献1に記載のビトリファイドダイヤモンド砥石の製造方法がそれである。これによれば、650℃以上の軟化点を有するビトリファイドボンドを用いて700~800℃の空気雰囲気下でビトリファイドダイヤモンド砥石が焼成される。これにより、切れ味がよく耐久性のあるビトリファイドダイヤモンド砥石が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2005/072912号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に記載のビトリファイドダイヤモンド砥石の製造方法では、その段落0085に説明されているように、ダイヤモンド砥粒が消失し始める650℃よりも高い軟化点のビトリファイド結合剤を使用することにより空気雰囲気下でダイヤモンド砥粒の適度な消失を引き起し、これによってビトリファイド結合剤のダイヤモンド砥粒への濡れ性を改善でき、その結果、砥粒の保持力が向上した良好な研削性能を有するビトリファイドダイヤモンド砥石を製造可能にするものである。
【0007】
しかしながら、焼成中において、ダイヤモンド砥粒が650℃よりも高い温度で大気に晒されていることから、ダイヤモンド砥粒が痩せて切れ刃が乱れるため、ワークの面粗度と研削能率との両立が得られ難いという問題があった。
【0008】
本発明は以上の事情を背景としてなされたものであり、その目的とするところは、良好な面粗度および高い研削能率が得られるダイヤモンド砥粒を含むビトリファイド砥石を提供することにある。
【0009】
本発明者等は、以上の事情を背景として種々検討を重ねた結果、アルミナ質砥粒および炭化珪素質砥粒を含む主砥粒に対して、所定の平均粒径比を有して主砥粒よりも平均粒径が小さいダイヤモンド砥粒を所定の体積割合で添加し、且つそれら主砥粒およびダイヤモンド砥粒を結合するビトリファイドボンドの体積率を主砥粒と同等程度に高めて、気孔率の低いビトリファイド砥石を作製すると、良好なワークの面粗度が得られると同時に研削効率が高められるという事実を見いだした。本発明はこの知見に基づいて為されたものである。主砥粒に添加するダイヤモンド砥粒の体積割合を増加させるほど研削能率が高められるが、研削面の面粗度が悪化する一方で、ダイヤモンド砥粒の主砥粒に対する平均粒径比を小さくすると面粗度が良好となることから、それら面粗度および研削能率が両立する領域が存在する。また、ビトリファイドボンドの体積率を主砥粒と同等程度に高め、且つダイヤモンド砥粒の平均粒径を主砥粒よりも相対的に小さくすることで、焼成中に主砥粒よりも相対的に小さいダイヤモンド砥粒がビトリファイドボンドにより覆われやすくなって、ダイヤモンド砥粒がダイヤモンド砥粒であるときでも、大気雰囲気下での焼成が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明のダイヤモンド砥粒を含む低気孔率ビトリファイド砥石の要旨とするところは、砥粒をガラス質のビトリファイドボンドにより結合したダイヤモンド砥粒を含む低気孔率ビトリファイド砥石であって、前記砥粒は、アルミナ質砥粒および炭化珪素質砥粒の混合物から成る主砥粒と、前記主砥粒に対して0.2~0.8の平均粒径比、および砥石体積に対して0.8~4.0体積%の体積割合を有するダイヤモンド砥粒とを、含むことにある。
【発明の効果】
【0011】
本発明のダイヤモンド砥粒を含む低気孔率ビトリファイド砥石によれば、砥粒をガラス質のビトリファイドボンドにより結合した、ダイヤモンド砥粒を含む低気孔率ビトリファイド砥石であって、前記砥粒は、アルミナ質砥粒および炭化珪素質砥粒の混合物から成る主砥粒と、前記主砥粒に対して0.2~0.8の平均粒径比、および砥石体積に対して0.8~4.0体積%の体積割合を有する前記ダイヤモンド砥粒とを、含む。このことから、良好な面粗度および高い研削能率が得られる、ダイヤモンド砥粒を含む低気孔率のビトリファイド砥石が、大気雰囲気下の焼成で得られる。
【0012】
ここで、好適には、前記ダイヤモンド砥粒を含む低気孔率ビトリファイド砥石には、前記主砥粒が砥石体積に対して40体積%以上の割合で含まれ、前記ビトリファイドボンドが砥石体積に対して45体積%以上の割合で含まれている。このようにすれば、砥石体積に対するビトリファイドボンドの割合が高いので、焼成中にはダイヤモンド砥粒がガラス質のビトリファイドボンドにより覆われることで、ダイヤモンド砥粒がダイヤモンド砥粒であっても大気雰囲気下の焼成が可能となる。
【0013】
また、好適には、前記砥粒および前記ビトリファイドボンドの砥石体積に対する充填率は、85体積%以上であることから、焼成中にはダイヤモンド砥粒がガラス質のビトリファイドボンドにより覆われるので、ダイヤモンド砥粒がダイヤモンド砥粒であっても大気雰囲気下の焼成が可能となる。
【0014】
また、好適には、前記ビトリファイドボンドは850℃以上の軟化点を有するものであることから、一般的なビトリファイドボンドを用いて一般的なビトリファイド砥石の焼成条件でダイヤモンド砥粒を含む低気孔率ビトリファイド砥石を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施例の一実施例のビトリファイド砥石を用いたタップ盤を模式的に説明する斜視図である。
図2】ダイヤモンド砥粒の含有量は相違するが、その他は図1のビトリファイド砥石と同様に作製した5種類の試験砥石1~5の組成を説明するグラフである。
図3図2の試験砥石1の組織を、EDXおよびSEMを用いて示す図である。
図4図2の試験砥石2の組織を、EDXおよびSEMを用いて示す図である。
図5図2の試験砥石3の組織を、EDXおよびSEMを用いて示す図である。
図6図2の試験砥石4の組織を、EDXおよびSEMを用いて示す図である。
図7図2の試験砥石5の組織を、EDXおよびSEMを用いて示す図である。
図8図2の5種類の試験砥石を用いた研削試験の試験条件を説明する図表である。
図9図2の5種類の試験砥石を図8の試験条件を用いて研削試験を行なった結果であって、砥石摩耗量および研削能率の相対値をそれぞれ示すグラフである。
図10図1のビトリファイド砥石と同様に作製した、ダイヤモンド砥粒の含有量が2.5体積%であって、ダイヤモンド砥粒の主砥粒に対する粒径比が相違する10種類の試験砥石6~15を図8の試験条件を用いて研削試験を行なった結果であって、面粗度および研削能率をそれぞれ示す図表である。
図11図1のビトリファイド砥石と同様に作製した、主砥粒を構成するアルミナ質砥粒と炭化珪素質砥粒との割合のみが相違する5種類の試験砥石16~20を図8の試験条件を用いて研削試験を行なった結果であって、面粗度および研削能率をそれぞれ示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例
【0017】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは概念化されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【0018】
図1は、本発明の一実施例のダイヤモンド砥粒を含む均質構造の低気孔率ビトリファイド砥石10(以下、ビトリファイド砥石10という)を下定盤として用いたラップ盤12を示す概略図であり、図示しない駆動装置によってビトリファイド砥石10が垂直な回転中心軸Cまわりに回転駆動されるように設けられている。ビトリファイド砥石10は、円板状であって、たとえば外径が327mmφ、厚みが25mm、内径が112mmφである。
【0019】
図1において、ビトリファイド砥石10上には、被加工物14たとえばベアリングの外周輪或いは内周輪が載置され、図示しないワークホルダによって被加工物14の外周面が周方向の移動が阻止されつつ自転可能に保持されている。被加工物14には、適度な研削加工圧力が発生するように、ウエイト(錘)16が載置されるようになっている。ビトリファイド砥石10の上面には、湿式研削するための研削液Fがノズル18から供給されるようになっている。これにより、被加工物14の下面がビトリファイド砥石10の上面に摺接して、片面ラップされる。
【0020】
ビトリファイド砥石10は、後述の図2から図7に示されるように、砥粒がガラス質のビトリファイドボンド24により結合された、気孔率が砥石体積に対して10体積%程度以下の低気孔率のビトリファイド砥石組織を有している。上記砥粒として、アルミナ質砥粒(溶融アルミナ:Al)と炭化珪素質砥粒(SiC)とが重量比で2:8~8:2である混合砥粒であって、粒度がたとえばF180である主砥粒20と、主砥粒20に対して0.2~0.8の平均粒径比(=ダイヤモンド砥粒22の平均粒径/主砥粒20の平均粒径)、および砥石体積に対して0.8~4.0体積%の体積割合を有し、粒度がたとえば#400/500であるダイヤモンド砥粒22とを、含む。主砥粒20は、砥石体積に対して44~56体積%(50~62重量%)の割合で含まれ、ビトリファイドボンド24が砥石体積に対して44~56体積%(38~50重量%)の割合で含まれている。この結果、砥粒(主砥粒20およびダイヤモンド砥粒22)およびビトリファイドボンド24の砥石体積に対する充填率は85体積%以上の高充填率、気孔体積率は15体積%以下好適には10体積%以下の低気孔率とされている。
【0021】
上記ビトリファイドボンド24は、たとえば850℃以上の軟化点を有するホウケイ酸ガラス系のガラスであって、たとえば、60wt%以上のSiO、10wt%以上のAl、1wt%以下のB、合計で20wt%以下のCaO、MgO、KO、およびNaを含む化学組成を有するものである。
【0022】
上記軟化点は、径が0.55~0.77mmφ且つ長さが235mmのガラス線材を常温から4~6℃/分で加熱したとき、ガラス線材の延びが1mmとなったときの温度として定義される。上記ビトリファイドボンド24の化学組成において、SiOが60wt%を下まわると、熱膨張係数が上昇し且つ軟化点が下がり過ぎる。Alが10wt%を下まわると、軟化点が低下し過ぎ、且つガラスの分相が発生する。CaO、MgO、KO、およびNaが合計で20wt%を上まわると軟化点が下がり過ぎる。
【0023】
上記ビトリファイド砥石10は、一般的なビトリファイド砥石と同様の製造工程により、主砥粒20、ダイヤモンド砥粒22、およびビトリファイドボンド24と水とを混合した後に、プレス成形し、乾燥して水を飛ばした後に、たとえば900℃以上の焼成温度で大気雰囲気下で焼成することによりビトリファイドボンド24を溶融させることで、製造される。
【0024】
このように構成されたビトリファイド砥石10では、砥粒(主砥粒20およびダイヤモンド砥粒22)の体積が砥石体積に対して40~60体積%好適には44~56体積%、ビトリファイドボンド24の体積が砥石体積に対して40~60体積%好適には44~56体積%で、砥石体積に対する砥粒およびビトリファイドボンド24の充填率が85体積%以上とされ、且つ、主砥粒20と主砥粒20との間に配置できるように、主砥粒20に対する粒径比が0.2~0.8のダイヤモンド砥粒22が砥石体積の0.8~4.0体積%含まれ、切れ刃を増加させると同時に主砥粒20とダイヤモンド砥粒22との硬度による研削作用が、後述のように最適化されている。主砥粒20は、アルミナ質砥粒と炭化珪素質砥粒との混合砥粒であることが好適である。炭化珪素質砥粒は、比較的硬度があるために切れ味に優れる一方で、破砕性が高いために摩耗しやすいが、比較的靱性を有するアルミナ質砥粒が炭化珪素質砥粒間に混在させられていることで、ビトリファイド砥石10の摩耗が抑制され、研削比が高められている。
【0025】
また、ビトリファイド砥石10では、10体積%程度以下の低気孔率であり、上記のように砥粒およびビトリファイドボンド24の充填率が85体積%以上であることから、主砥粒20間にガラス質のビトリファイドボンド24が入り込むことによって、主砥粒20間の酸化物に起因する酸素供給を遮断する。また、高い充填率により、ビトリファイド砥石10内の気孔が少なくされると同時に、連通気孔が低減されているので、ビトリファイド砥石10外部の雰囲気から酸素供給が遮断される。さらに、ビトリファイド砥石10の表面の反応層によってビトリファイド砥石10内部への酸素の供給が遮断され、焼成によるダイヤモンド砥粒22の焼失が抑制される。
【0026】
(実験例1)
本発明者等は、主砥粒20がアルミナ質砥粒(溶融アルミナ:Al)と炭化珪素質砥粒(SiC)とが重量比で2:8である場合に、図2に示す体積割合を有する5種類の試験砥石1~5、すなわちダイヤモンド砥粒22の体積%が砥石体積に対して3.99体積%、2.08体積%、0.80体積%、0.40体積%、0体積%の5種類の試験砥石1から5を、上記の製造工程を用いて作製した。試験砥石1は、40.27体積%の主砥粒20と、3.99体積%のダイヤモンド砥粒22と、44.97体積%のビトリファイドボンド24と、10.77体積%の気孔とを有している。試験砥石2は、41.85体積%の主砥粒20と、2.08体積%のダイヤモンド砥粒22と、48.35体積%のビトリファイドボンド24と、7.72体積%の気孔とを有している。試験砥石3は、42.22体積%の主砥粒20と、0.80体積%のダイヤモンド砥粒22と、49.49体積%のビトリファイドボンド24と、7.49体積%の気孔とを有している。試験砥石4は、41.45体積%の主砥粒20と、0.40体積%のダイヤモンド砥粒22と、50.74体積%のビトリファイドボンド24と、7.41体積%の気孔とを有している。試験砥石5は、41.02体積%の主砥粒20と、0体積%のダイヤモンド砥粒22と、50.54体積%のビトリファイドボンド24と、8.43体積%の気孔とを有している。
【0027】
図3から図7は、試験砥石1から試験砥石5について、EDX(エネルギ分散型X線分光装置)を用いて得た元素および濃度を示すEDX分析写真と、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて得た、ビトリファイドボンド24による砥粒の結合状態を拡大して示すSEM写真とを、それぞれ示している。実際のEDX分析写真では、アルミナ質砥粒に含まれるAlが赤色(図3から図7で赤と示す箇所)、炭化珪素質砥粒に含まれるSiが緑色(図3から図7では白に近い灰色の箇所)、ダイヤモンド砥粒22に含まれるFeが青色(図3から図7で青と示す箇所)で示されている。青色で示される粒子は試験砥石1から4となるほど少なく且つ小さくなり、試験砥石5では存在が確認できない。緑色で示される領域は、試験砥石1から試験砥石5において空隙領域を除いてそれぞれ全体に存在している。赤色で示される粒子は、試験砥石1から試験砥石5において多少の数の差はあるがそれぞれ存在している。
【0028】
図8は、試験砥石1から5について、図1に示すものと同様の精密ラップ盤を用いたラッピング(研削)試験の研削条件を示している。
【0029】
図9は、試験砥石1から5を用いた場合の、砥石摩耗量(試験砥石5を100とした相対値)を棒グラフ、および研削時間当たりのワーク摩耗減少量を示す研削能率を折れ線グラフである。図9において、ダイヤモンド砥粒22を含まない試験砥石5に比較して、ダイヤモンド砥粒22を0.40体積%含む試験砥石4は研削能率に差異が見られないが、ダイヤモンド砥粒22を0.8体積%以上含む試験砥石1から3については、ダイヤモンド砥粒22の割合が高くなるほど研削能率について急激な向上が見られた。しかし、研削能率の更なる向上を意図してダイヤモンド砥粒22の割合を高くすると、ボンド量が少なくなって必要な砥石硬度が得られなくなる。また、ダイヤモンド砥粒22の粒度を粗くすると、被加工物14の表面粗さが粗くなって仕上げ用途に適さなくなる一方で、細かすぎると、切れ刃による研削作用が小さくなって研削能率の向上が得られなくなる。
【0030】
(実験例2)
本発明者等は、アルミナ質砥粒(溶融アルミナ:Al)と炭化珪素質砥粒(SiC)とが重量比で2:8である主砥粒20が用いられ、ダイヤモンド砥粒22を2.5体積%含む場合に、ダイヤモンド砥粒22の主砥粒20に対する粒径比(=ダイヤモンド砥粒22の平均粒径/主砥粒20の平均粒径)を0.1~1までの10段階で変化する10種類の試験砥石6から15を、前述の実験例1と同様に、作製した。そして、それら試験砥石6から15について、実験例1と同様の研削試験条件で研削試験を行なった。図10は、その研削試験の結果を示している。図10において、○印は要求値(表面粗さについてはRa=0.15μm以下、研削能率については0.2mg/min以上)を充分に満たす値を示し、△印は要求値範囲の境界近辺の値すなわち要求値の1.0~0.9の範囲内を示し、×印は要求値を全く満たさない値すなわち要求値の0.9未満の値であったことを示している。
【0031】
図10に示すように、被加工物14の面粗度(表面粗さ)については、Raは、粒径比が0.8以下、好適には0.7以下であれば、要求を充分に満たす良好な結果が得られた。一方で、研削能率については、粒径比が0.2以上、好適には0.3以上であれば、要求を充分に満たす良好な結果が得られた。この結果、粒径比が0.2~0.8の間、さらに好適には粒径比が0.3~0.7の間において、被加工物14の表面粗さと研削能率とが両立することが確認された。
【0032】
(実験例3)
さらに、本発明者は、主砥粒20を構成するアルミナ質砥粒(溶融アルミナ:Al)と炭化珪素質砥粒(SiC)との重量比が、1:9、2:8、5:5、8:2、9:1である5段階に異なる試験砥石16~20を、前述の実験例1と同様に作製した。そして、主砥粒20のうちのアルミナ質砥粒と炭化珪素質砥粒との重量比のみが異なる5種類の上記試験砥石16~20について、実験例1と同様の研削試験条件で研削を行ない、実験例2と同様の評価を行なった。図11は、その研削試験の結果を示している。
【0033】
図11において示すように、主砥粒20を構成するアルミナ質砥粒と炭化珪素質砥粒との重量比が、2:8~8:2までの範囲である試験砥石17~19では、耐摩耗性および研削能率について要求値を満たし、良好な結果が得られた。しかし、アルミナ質砥粒と炭化珪素質砥粒との重量比が1:9である試験砥石16は、耐摩耗性は満足するものの、研削能率については不十分であった。また、アルミナ質砥粒と炭化珪素質砥粒との重量比が9:1である試験砥石20は、研削能率は満足するものの、耐摩耗性については不十分であった。
【0034】
上述のように、本実施例のビトリファイド砥石10によれば、砥粒をガラス質のビトリファイドボンド24により結合した、ダイヤモンド砥粒22を含む低気孔率ビトリファイド砥石であって、前記砥粒は、アルミナ質砥粒および炭化珪素質砥粒の混合物から成る主砥粒20と、主砥粒20に対して0.2~0.8の平均粒径比、および砥石体積に対して0.8~4.0体積%の体積割合を有するダイヤモンド砥粒22とを含む。このことから、良好な面粗度および高い研削能率が得られる、ダイヤモンド砥粒22を含む低気孔率ビトリファイド砥石であるビトリファイド砥石10が、大気雰囲気下の焼成で得られる。
【0035】
本実施例のビトリファイド砥石10には、主砥粒20が砥石体積に対して40体積%以上の割合で、ビトリファイドボンド24が砥石体積に対して45体積%以上の割合で、それぞれ含まれている。このようにビトリファイドボンド24の砥石体積に対する割合が高いので、焼成中にはダイヤモンド砥粒22がガラス質のビトリファイドボンド24により覆われることで、ダイヤモンド砥粒22であっても大気雰囲気下の焼成が可能となる。
【0036】
本実施例のビトリファイド砥石10によれば、前記砥粒およびビトリファイドボンド24の砥石体積に対する充填率は、85体積%以上であることから、焼成中にはダイヤモンド砥粒22がガラス質のビトリファイドボンド24により覆われるので、ダイヤモンド砥粒22であっても大気雰囲気下の焼成が可能となる。
【0037】
本実施例のビトリファイド砥石10によれば、ビトリファイドボンド24は850℃以上の軟化点を有するものであることから、一般的なビトリファイドボンドを用いて一般的なビトリファイド砥石の焼成条件でダイヤモンド砥粒22を含む低気孔率ビトリファイド砥石であるビトリファイド砥石10を製造することができる。
【0038】
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0039】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0040】
10:ビトリファイド砥石(ダイヤモンド砥粒を含む低気孔率ビトリファイド砥石)
12:ラップ盤
14:被加工物
16:ウエイト
18:ノズル
20:主砥粒(砥粒)
22:ダイヤモンド砥粒(砥粒)
24:ビトリファイドボンド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11