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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】炭素繊維前駆体繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/18 20060101AFI20240116BHJP
   D01F 9/22 20060101ALI20240116BHJP
   C08F 220/44 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
D01F6/18 E
D01F9/22
C08F220/44
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020049450
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021147728
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】藻寄 貴也
(72)【発明者】
【氏名】栗野 透
(72)【発明者】
【氏名】中西 貴之
(72)【発明者】
【氏名】立花 圭
(72)【発明者】
【氏名】山口 順久
(72)【発明者】
【氏名】豊貞 輝敬
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/145051(WO,A1)
【文献】特開平07-133318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00 - 6/00
D01F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(工程A)ポリアクリロニトリル共重合体を溶剤に溶解して紡糸原液を得る工程、および(工程B)前記紡糸原液を紡糸して凝固糸を得えてこれを延伸する工程を含む炭素繊維前駆体繊維の製造方法において、
工程Aに供するポリアクリニトリル共重合体の遊離硫酸イオン濃度を100~1000ppmとすること、ならびに
工程Aに供するポリアクリロニトリル共重合体が、水系懸濁重合による重合反応生成物をろ過することにより重合反応生成物の固形分を得る工程(1)および該固形分を水で希釈して固形分濃度30重量%以下の水懸濁液としてこれを濾過することにより精製ポリアクリロニトリル共重合体を得る工程(2)により得られた精製ポリアクリロニトリル共重合体であり、かつ前記工程(1)および(2)において濾過前の水懸濁液を40℃以上の温度で保温して30分間以上攪拌することでポリアクリロニトリル共重合体の遊離硫酸イオン濃度が100~1000ppmにされていること、を特徴とする炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
【請求項2】
工程Bの紡糸原液中の遊離硫酸イオン濃度が20~200ppmである、請求項1記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
【請求項3】
ポリアクリロニトリル共重合体が硫酸を用いて重合して得られたポリアクリロニトリル共重合体である、請求項1または2に記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
【請求項4】
溶剤が有機溶剤である、請求項1乃至3のいずれかに記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
【請求項5】
ポリアクリロニトリル共重合体が、水系懸濁重合法による重合により得られたポリアクリロニトリル共重合体である、請求項1乃至4のいずれかに記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
【請求項6】
凝固糸中の直径0.3~1μmのボイドの個数が10個以下である、請求項1乃至のいずれかに記載の炭素繊維前駆体繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維の製造に用いる炭素繊維前駆体繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は優れた機械特性、特に高い比強度・比弾性率を有することから、宇宙航空関係、レジャー用品及び工業材料等の各種補強材料の強化材として広く用いられている。その優れた機械特性から自動車などの軽量化が見込め、深刻化する二酸化炭素削減問題に対する一環として注目されている。
【0003】
炭素繊維は、前駆体である有機ポリマーから調製した繊維を酸素存在下に耐炎化処理し、次いで炭素化することで製造される。前駆体として例えば、セルロース、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール、塩化ビニリデン、ピッチ、ポリアクリロニトリル(以下、単にPANと称することがある)が挙げられるが、なかでもPAN系繊維から得られる炭素繊維が比強度、比弾性率などの力学特性に優れており、品質、性能を均一かつ安定的に製造できるため、工業的に大量に生産されている。
【0004】
PAN系繊維は、一般的に湿式紡糸法または乾湿式紡糸法により生産される。いずれの方法でも、原料のPANを溶剤に溶解した紡糸原液を使用することが一般的である。炭素繊維の高性能化には炭素繊維前駆体繊維の品位向上が効果的である。例えば、紡糸原液中のゲルの生成や増加を抑制する目的で、紡糸原液中のアクリロニトリル残存量を制御する技術(例えば、特許文献1)が提案されている。
また、紡糸原液中の異物をろ過捕集する目的で、フィルター濾材と紡糸原液のろ過速度に関する技術(例えば、特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-84002号公報
【文献】特開2017-128838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記文献に記載されている濾材の濾過精度は最小でも1μmであり、現実的に1μm以下の直径の異物を捕集することは困難である。
本発明は、上記の事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、炭素繊維前駆体繊維の品位低下の原因となるボイド、特に直径1μm以下のボイドを抑制した炭素繊維前駆体繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、(工程A)ポリアクリロニトリル共重合体を溶剤に溶解して紡糸原液を得る工程、および(工程B)前記紡糸原液を紡糸して凝固糸を得えてこれを延伸する工程を含む炭素繊維前駆体繊維の製造方法において、工程Aに供するポリアクリルニトリル共重合体の遊離硫酸イオン濃度を100~1000ppmとすることを特徴とする、炭素繊維前駆体繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、炭素繊維前駆体繊維の品位低下の原因となるボイド、特に直径1μm以下のボイドを抑制した炭素繊維前駆体繊維を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明では、工程Aに供するポリアクリロニトリル共重合体の遊離硫酸イオン濃度を100~1000ppmにすることが必要である。遊離硫酸イオンをこの範囲にすることで、ポリアクリロニトリル共重合の生産性を損なうことなく、紡糸原液中のフィルター濾材で濾別が困難な直径1μm以下の微小な未溶解異物を抑制することができ、生産性を損なわずにボイドの少ない高品位な炭素繊維前駆体繊維を得ることができる。100ppm未満にすると洗浄における水使用量が増大することでポリアクリロニトリル共重合の生産性が低下し、他方、1000ppmを超えるとボイドが増加することで炭素繊維前駆体繊維の生産性が低下する。
【0010】
〔紡糸原液を得る工程(工程A)〕
ポリアクリロニトリル共重合体は、ポリアクリロニトリルに、共重合モノマーとして重合性不飽和化合物を共重合した共重合ポリマーである。この重合性不飽和化合物として不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸エステル、不飽和カルボン酸アミド、芳香族ビニル化合物、複素環式ビニル化合物を用いることができ、具体的には、例えばアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、アクリルアミド、イタコン酸エステル、ビニルスルホン酸を用いることができる。なかでも、炭素繊維前駆体繊維から炭素繊維を得るときの生産性を高くする観点から、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸が好ましい。
【0011】
ポリアクリロニトリル共重合体におけるアクリロニトリル成分の割合は、炭素化収率や炭素繊維としての力学特性の観点から、好ましくは90~99.5重量%、さらに好ましくは94~99.5重量%である。
ポリアクリロニトリル共重合体は、公知の重合方法で得ることができるが、生産性の観点から、好ましくはフリーラジカル重合法で得る。
【0012】
この場合、フリーラジカル重合に用いる重合開始剤として、例えばアゾ系化合物、有機過酸化物、過硫酸/亜硫酸、塩素酸/亜硫酸またはこれらのナトリウム塩もしくはアンモニウム塩といったレドックス開始剤を用いることができる。レドックス開始剤を使用する場合は、レドックス反応を効率良く進行させるために、触媒やpH調整剤を適宜加えてもよい。
フリーラジカル重合の場合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合といった公知の重合法を使用することができ、生産性の観点から水系懸濁重合が好ましい。
【0013】
水系懸濁重合によりポリアクリロニトリル共重合体を得る場合には、水系懸濁重合による重合反応生成物をろ過することにより重合反応生成物の固形分を得る工程、および該固形分を水で希釈して乾燥固形分濃度30重量%以下の水懸濁液としてこれを濾過することにより精製ポリアクリロニトリル共重合体を得る工程により、硫酸含有量の少ない精製ポリアクリロニトリル共重合体として、これを本発明に用いることが好ましい。
【0014】
これらの工程では、濾過前の水懸濁液を常温以上の温度、好ましくは40℃以上の温度で保温する。水で希釈した後には、好ましくは滞留時間として30分間以上、さらに好ましくは2時間以上攪拌する。これらの工程を経ることで、ポリアクリロニトリル共重合体の遊離硫酸イオン濃度を100~1000ppmにすることができる。
【0015】
本発明では、工程Aに供するポリアクリロニトリル共重合体の遊離硫酸イオン濃度を100~1000ppmにすることが必要である。遊離硫酸イオンをこの範囲にすることで、ポリアクリロニトリル共重合の生産性を損なうことなく、紡糸原液中のフィルター濾材で濾別が困難な直径1μm以下の微小な未溶解異物を抑制することができ、生産性を損なわずにボイドの少ない高品位な炭素繊維前駆体繊維を得ることができる。100ppm未満にすると洗浄における水使用量が増大することでポリアクリロニトリル共重合の生産性が低下し、他方、1000ppmを超えるとボイドが増加することで炭素繊維前駆体繊維の生産性が低下する。
【0016】
なお、ポリアクリロニトリル共重合体中の遊離硫酸イオン濃度は、イオンクロマトグラフィーにより測定および算出される硫酸イオン濃度である。
本発明では、上記のポリアクリロニトリル共重合体を溶剤に溶解して紡糸原液を得る。この溶剤として、ポリアクリロニトリル共重合体が可溶な無機溶剤および有機溶剤を用いることができ、好ましくは有機溶剤である。さらに好ましくはジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドおよび/またはジメチルホルムアミドである。これらは一種類を用いてもよく、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
〔凝固糸を得てこれを延伸する工程(工程B)〕
紡糸原液を紡糸して凝固糸を得てこれを延伸する工程(工程B)における紡糸原液中の遊離硫酸イオン濃度は、好ましくは20~200ppmである。この遊離硫酸イオンは、化学式SO 2-で表されるイオンを指し、ポリアクリロニトリル共重合体に結合していないものである。本発明では、この遊離硫酸イオンを20~200ppmにすることにより炭素繊維前駆繊維のボイドを抑制する。なお、ポリアクリロニトリル共重合体に結合した硫酸イオン基は溶剤に溶解するため、そもそも炭素繊維前駆体繊維中のボイド原因にならない。
【0018】
紡糸原液中の遊離硫酸イオン濃度をこの範囲にすることで炭素繊維前駆体繊維のボイドを抑制することができる。紡糸原液中のこの遊離硫酸イオン濃度は、上記で説明した硫酸含有量の少ない精製ポリアクリロニトリル共重合体を用いることで達成することができる。
【0019】
この遊離硫酸イオンの対となるカチオン種として、アンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオンを例示することができる。
【0020】
紡糸原液における、ポリアクリロニトリル共重合体の濃度は、好ましくは10~30重量%、さらに好ましくは15~25重量%である。この範囲の濃度とすることによって、生産性良く炭素繊維前駆体繊維を得ることができる。
【0021】
紡糸原液の調製後、紡糸原液をフィルター濾材に通してゲル状異物や非溶解成分を濾別し、湿式紡糸または乾湿式紡糸により紡糸を行い、凝固糸を得る。凝固糸を得る紡糸におけるフィラメント数は、製造効率の観点から好ましくは1000本以上とする。
凝固糸を、水洗、乾燥、延伸およびオイリングすることで、炭素繊維前駆体繊維を得る。水洗、乾燥、延伸およびオイリングは、いずれも周知の方法により行うことができる。
【0022】
〔ボイド〕
本発明において、工程Bにおける凝固糸中の直径0.3~1μmのボイドの個数は好ましくは10個以下、さらに好ましくは3個以下である。10個を超えると品位が低下し、炭素繊維の性能が低下する。
なお、凝固糸中の直径0.3~1μmのボイドの数は、透過型電子顕微鏡により画像から、目視にて数えた個数である。ボイドが円形でない場合、画像上で最も長い径を直径とする。
【実施例
【0023】
以下、実施例により本発明方法を更に詳しく具体的に説明する。測定または評価は、以下の方法で行った。
【0024】
(1)遊離硫酸イオン濃度
ポリアクリロニトリル共重合体の遊離硫酸イオン濃度は、ポリアクリロニトリル共重合体から遊離の硫酸イオンを抽出し、イオンクロマトグラフィーにより算出した。抽出作業としては、ポリアクリロニトリル共重合体を25g/Lとなるように、ジメチルスルホキシドに溶解し、徐々に1重量%トリエタノールアミン水溶液を加えていき、ポリアクリロニトリル共重合体を析出させた。析出したポリアクリロニトリル共重合体を除き、得られた抽出液を使用してイオンクロマトグラフィーを行った。測定装置として、ICS-6000(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用い、カラムにはIonPac AS11-HC(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用い、溶離液にはKOH水溶液を用いた。既知の硫酸イオン濃度を有する溶液を使用して検量線を作成し、硫酸イオンに該当するピーク強度より遊離硫酸イオン濃度を算出した。
【0025】
(2)凝固糸中のボイドの個数
凝固糸中のボイドの個数は、透過型電子顕微鏡(日本FEI社製TECNAI G2)での観察により測定した。凝固糸は凝固浴から引きあげられた箇所にて採取し、糸中の残存溶剤を水置換した。続いて、樹脂で包埋したうえで、ウルトラミクロトームを用いて、繊維軸に対して垂直方向断面で、約90nm厚の切片を作製した。透過型電子顕微鏡による観察は、加速電圧120kVで、観察倍率1200倍とし、エネルギーフィルターを用いて0 loss像を観察した。観察箇所は繊維断面全体とし、直径0.3~1μmのボイドを数えた。この際、ボイドの直径は画像処理ソフトウェアImageJを用いて測定を行った。ボイドが楕円の場合は長軸を直径とした。サンプル数は無作為に選択した3点とし、ボイド数の合計値を求めた。
【0026】
〔実施例1〕
攪拌翼と温水ジャケットと窒素導通管を備えた、容積40Lのオーバーフロー付き反応槽に窒素吹込みにより脱酸素させたイオン交換水40Lを仕込み、濃硫酸を使用してpHを3に調整した。
【0027】
反応液Aとして、亜硫酸水素アンモニウム(50重量%水溶液)を濃度0.58重量%、硫酸鉄7水和物を濃度0.0006重量%、硫酸を濃度0.06重量%となるように、脱酸素させたイオン交換水に溶解させ、反応液Aを調製した。
反応液Bとして、過硫酸アンモニウムを濃度0.3重量%となるように、脱酸素させたイオン交換水に溶解させ、反応液Bを調製した。
【0028】
反応液Cとして、イタコン酸を濃度0.57重量%、亜硫酸アンモニウム(50重量%水溶液)を濃度0.58重量%、硫酸鉄7水和物を濃度0.0006重量%、硫酸を濃度0.06重量%となるように、脱酸素させたイオン交換水に溶解させ、反応液Cを調製した。
【0029】
反応停止剤液として、重炭酸アンモニウムを濃度0.22重量%、シュウ酸アンモニウムを濃度0.13重量%となるように、脱酸素させたイオン交換水に溶解させ、反応停止剤液を調製した。
【0030】
前記反応槽内の攪拌を開始し、反応槽内に窒素を導通し、反応槽の内温が60℃となるように昇温を行った。その後、プランジャーポンプを使用し、反応液Aを毎時467gの速度で、反応液Bを毎時339gの速度で連続フィードを30分間行った。続けて、反応液Bを毎時168gの速度で、反応液Cを毎時233gの速度で、アクリロニトリルを毎時132gの速度で連続フィードを5時間行うことで重合反応を行った。
【0031】
この間、反応槽内の温度が60℃となるように温度調節を行った。その後、連続フィードを終了し、反応停止剤液1000gを反応槽へフィードし、均一に攪拌することで重合反応を停止させた。
【0032】
重合反応の停止の後、得られた重合体の洗浄を以下の操作で行った。1回目の洗浄操作として、反応槽内の水懸濁液を取り出し、イオン交換水を使用して固形分濃度が18重量%となるように希釈した。希釈した水懸濁液を50℃に保温して2時間攪拌した。その後、前記水懸濁液を、脱水機を用いた濾過により脱水して固形分(白色湿潤固体)を得た。
【0033】
続いて2回目の洗浄操作として、上記で得られた固形分(白色湿潤固体)を乾燥固形分濃度が16重量%となるように再度イオン交換水中に分散させて水懸濁液とし、50℃に保温して2時間攪拌した。
【0034】
その後、水懸濁液を吸引漏斗して固形分(白色湿潤固体)を得た。得られた固形分(白色湿潤固体)を真空乾燥機内に静置し、真空下にて温度70℃で乾燥させて精製ポリアクリロニトリル共重合体を得た。この精製ポリアクリロニトリル共重合体に含まれる硫酸イオン濃度をイオンクロマトグラフィーにて測定したところ204ppmであった。
【0035】
前記の精製ポリアクリロニトリル共重合体が濃度20.5重量%となるようにジメチルスルホキシドと混合して温度を50℃に保温し攪拌して溶解させ、ジメチルスルホキシド溶液を得た。その後、この溶液にアンモニアガスを吹込みpH8.5とすることで紡糸原液を調製した。この操作により紡糸原液中の遊離硫酸イオン濃度は42ppmとなった。
【0036】
紡糸原液を目開き3μmのフィルターに通過させ、温度を30℃に保温し、直径0.15mmの口金を用いて一旦空気中(行程長3mm)に吐出し、行程長3mmの空気中を通過させた後、浴温度3℃のジメチルスルホキシド水溶液(濃度35重量%)に導入して凝固糸を得た。
凝固糸中の残存溶媒を水置換し、凝固糸の断面を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、直径0.3~1μmのボイドの個数は0個であった。
【0037】
〔比較例1〕
ポリアクリロニトリル共重合体を得るに際し、2回目の洗浄操作を実施しなかったこと以外は実施例1と同様にして、ポリアクリロニトリル共重合を得た。前記ポリアクリロニトリル共重合体に含まれる遊離硫酸イオン濃度をイオンクロマトグラフィーにて測定したところ2222ppmであった。
【0038】
〔実施例2〕
2回目の洗浄操作を行う際に、固形分濃度を25重量%とした以外は実施例1と同様にしてポリアクリロニトリル共重合を得た。前記ポリアクリロニトリル共重合体に含まれる遊離硫酸イオン濃度をイオンクロマトグラフィーにて測定したところ878ppmであった。
【0039】
前記ポリアクリロニトリル共重合体を濃度20.5重量%となるようにジメチルスルホキシドと混合し、温度50℃に保温しながら攪拌して溶解させた。その後、アンモニアガスを吹込み、pHを8.5にして紡糸原液とした。この操作により紡糸原液中の遊離硫酸イオン濃度は180ppmとなった。
【0040】
紡糸原液を目開き3μmのフィルターに通過させ、温度30℃に調整し、直径0.15mmの口金を用いて、一旦空気中(行程長3mm)に吐出し、3mmの空気中を通過させた後、濃度35重量%、浴温度3℃のジメチルスルホキシド水溶液に導入して凝固糸を得た。
凝固糸中の残存溶媒を水置換し、凝固糸の断面を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、直径が0.3~1μmのボイドの個数は9個であった。
【0041】
〔比較例2〕
2回目の洗浄操作を行う際に、固形分濃度を35重量%とした以外は実施例1と同様にしてポリアクリロニトリル共重合を得た。前記ポリアクリロニトリル共重合体に含まれる遊離硫酸イオン濃度をイオンクロマトグラフィーにて測定したところ1328ppmであった。
【0042】
前記ポリアクリロニトリル共重合体を濃度20.5重量%となるようにジメチルスルホキシドと混合し、温度50℃に保温しながら攪拌して溶解させた。その後、アンモニアガスを吹込み、pHを8.5にして紡糸原液とした。この操作により紡糸原液中の遊離硫酸イオン濃度は272ppmとなった。
【0043】
紡糸原液を目開き3μmのフィルターに通過させ、温度30℃に調整し、直径0.15mmの口金を用いて、一旦空気中(行程長3mm)に吐出し、3mmの空気中を通過させた後、濃度35重量%、浴温度3℃のジメチルスルホキシド水溶液に導入して凝固糸を得た。
凝固糸中の残存溶媒を水置換し、凝固糸の断面を透過型電子顕微鏡にて観察したところ、直径が0.3~1μmのボイドの個数は13個であった。
【0044】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の炭素繊維前駆体繊維は、炭素繊維の製造に用いることができる。