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特許7420610硬化性組成物、硬化物、及び、硬化性組成物の使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】硬化性組成物、硬化物、及び、硬化性組成物の使用方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/29 20060101AFI20240116BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20240116BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20240116BHJP
   C08K 5/092 20060101ALI20240116BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20240116BHJP
   C08G 77/04 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
H01L23/30 F
H01L23/30 R
C08L83/04
C08K5/092
C08K5/54
C08G77/04
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020051070
(22)【出願日】2020-03-23
(65)【公開番号】P2021147562
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108419
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 治仁
(72)【発明者】
【氏名】三浦 迪
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 学
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/133023(WO,A1)
【文献】特開平05-302034(JP,A)
【文献】特開2015-189856(JP,A)
【文献】特開2020-063407(JP,A)
【文献】特開2018-168286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/28- 23/31
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光素子固定材用接着剤又は光素子固定材用封止材として使用する硬化性組成物であって、
下記(A)成分、及び、(B)成分を含有する化性組成物。
(A)成分:下記式(a-1)で示される繰り返し単位を、1種又は2種以上有するポリシルセスキオキサン化合物
【化1】
〔Rは、無置換の炭素数1~10のアルキル基、置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換の炭素数6~12のアリール基、及び、置換基を有する炭素数6~12のアリール基からなる群から選ばれる基である。〕
(B)成分:分子内に2以上のカルボキシ基を有するカルボキシ基含有化合物
【請求項2】
(A)成分中の式(a-1)で示される繰り返し単位の量が、(A)成分の全繰り返し単位中70~100mol%である、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
(A)成分の質量平均分子量(Mw)が、500~20,000である、請求項1又は2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
(A)成分の含有量が、硬化性組成物の固形分中40質量%以上、100質量%未満である、請求項1~3のいずれかに記載の硬化性組成物。
【請求項5】
(B)成分の分子量が、90~200である、請求項1~4のいずれかに記載の硬化性組成物。
【請求項6】
(B)成分が、脂肪族多価カルボン酸、脂環式多価カルボン酸、芳香族多価カルボン酸、及びオキシ多価カルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~5のいずれかに記載の硬化性組成物。
【請求項7】
(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して0質量部超、10質量部以下である、請求項1~6のいずれかに記載の硬化性組成物。
【請求項8】
さらに、下記(C)成分を含有する、請求項1~7のいずれかに記載の硬化性組成物。
(C)成分:シランカップリング剤
【請求項9】
さらに溶媒を含有し、固形分濃度が、50質量%以上、100質量%未満である、請求項1~8のいずれかに記載の硬化性組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の硬化性組成物を硬化させて得られる硬化物。
【請求項11】
光素子固定材である請求項10に記載の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性に優れる硬化性組成物、前記硬化性組成物が硬化してなる硬化物、及び、前記硬化性組成物を、光素子固定材用接着剤又は光素子固定材用封止材として使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、硬化性組成物は用途に応じて様々な改良がなされ、光学部品や成形体の原料、接着剤、コーティング剤等として産業上広く利用されてきている。
また、硬化性組成物は、光素子固定材用接着剤や光素子固定材用封止材等の光素子固定材用組成物としても注目を浴びてきている。
【0003】
光素子には、半導体レーザー(LD)等の各種レーザーや発光ダイオード(LED)等の発光素子、受光素子、複合光素子、光集積回路等がある。
近年においては、発光のピーク波長がより短波長である青色光や白色光の光素子が開発され広く使用されてきている。このような発光のピーク波長の短い発光素子の高輝度化が飛躍的に進み、これに伴い、光素子の発熱量がさらに大きくなっていく傾向にある。
【0004】
ところが、近年における光素子の高輝度化に伴い、光素子固定材用組成物の硬化物が、より高いエネルギーの光や光素子から発生するより高温の熱に長時間さらされ、接着力が低下するという問題が生じた。
【0005】
この問題を解決するべく、特許文献1~3には、ポリシルセスキオキサン化合物を主成分とする光素子固定材用組成物が提案されている。
光素子固定材用組成物を用いて光素子等を固定する場合、通常、光素子固定材用組成物を加熱して硬化させる。
しかしながら、硬化性に劣る光素子固定材用組成物を用いると、加熱時間を長くしたり、加熱温度を高くしたりする必要があり、光素子や、その周囲の部材の劣化を引き起こしたり、製品の製造効率を低下させたりするおそれがあった。
【0006】
このため、ポリシルセスキオキサン化合物を含有する硬化性組成物の硬化性を向上させることが行われてきた。
例えば、特許文献4には、特定のポリシルセスキオキサン化合物と縮合反応触媒とを含有する、縮合反応型シリコーン組成物が記載されている。
特許文献4には、その縮合反応型シリコーン組成物は、種々の特性に優れるとともに、硬化性(初期硬化性)に優れることも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-359933号公報
【文献】特開2005-263869号公報
【文献】特開2006-328231号公報
【文献】WO2017/122762号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、特許文献4に記載の縮合反応型シリコーン組成物は、種々の特性に優れるとともに、硬化性にも優れるとされている。
しかしながら、特許文献4の実施例に記載されている硬化条件は、120℃で1時間加熱した後、さらに150℃で3時間加熱するというものであり、さらに硬化性に優れる硬化性組成物が要望されていた。
【0009】
本発明は、上記した従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、硬化性に優れる硬化性組成物、前記硬化性組成物が硬化してなる硬化物、及び、前記硬化性組成物を、光素子固定材用接着剤又は光素子固定材用封止材として使用する方法を提供することを目的とする。
本発明において「硬化性に優れる」とは、所定の条件で硬化反応を行ったときに、より短時間で粘度が上昇し、最終的に硬化することをいう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、ポリシルセスキオキサン化合物を含有する硬化性組成物について鋭意検討を重ねた。
その結果、ポリシルセスキオキサン化合物と、分子内に2以上のカルボキシ基を有するカルボキシ基含有化合物を含有する硬化性組成物は硬化性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
かくして本発明によれば、下記〔1〕~〔9〕の硬化性組成物、〔10〕、〔11〕の硬化物、及び〔12〕、〔13〕の硬化性組成物の使用方法が提供される。
〔1〕下記(A)成分、及び、(B)成分を含有する硬化性組成物。
(A)成分:下記式(a-1)で示される繰り返し単位を、1種又は2種以上有するポリシルセスキオキサン化合物
【0012】
【化1】
【0013】
〔Rは、無置換の炭素数1~10のアルキル基、置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換の炭素数6~12のアリール基、及び、置換基を有する炭素数6~12のアリール基からなる群から選ばれる基である。〕
(B)成分:分子内に2以上のカルボキシ基を有するカルボキシ基含有化合物
〔2〕(A)成分中の式(a-1)で示される繰り返し単位の量が、(A)成分の全繰り返し単位中70~100mol%である、〔1〕に記載の硬化性組成物。
〔3〕(A)成分の質量平均分子量(Mw)が、500~20,000である、〔1〕又は〔2〕に記載の硬化性組成物。
〔4〕(A)成分の含有量が、硬化性組成物の固形分中40質量%以上、100質量%未満である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の硬化性組成物。
〔5〕(B)成分の分子量が、90~200である、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の硬化性組成物。
〔6〕(B)成分が、脂肪族多価カルボン酸、脂環式多価カルボン酸、芳香族多価カルボン酸、及びオキシ多価カルボン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の硬化性組成物。
〔7〕(B)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して0質量部超、10質量部以下である、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の硬化性組成物。
〔8〕さらに、下記(C)成分を含有する、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の硬化性組成物。
(C)成分:シランカップリング剤
〔9〕さらに溶媒を含有し、固形分濃度が、50質量%以上、100質量%未満である、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の硬化性組成物。
〔10〕前記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の硬化性組成物を硬化させて得られる硬化物。
〔11〕光素子固定材である〔10〕に記載の硬化物。
〔12〕前記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の硬化性組成物を、光素子固定材用接着剤として使用する方法。
〔13〕前記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の硬化性組成物を、光素子固定材用封止材として使用する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、硬化性に優れる硬化性組成物、前記硬化性組成物が硬化してなる硬化物、及び、前記硬化性組成物を、光素子固定材用接着剤又は光素子固定材用封止材として使用する方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を、1)硬化性組成物、2)硬化物、及び、3)硬化性組成物の使用方法、に項分けして詳細に説明する。
【0016】
1)硬化性組成物
本発明の硬化性組成物は、下記(A)成分、及び、(B)成分を含有する。
(A)成分:上記式(a-1)で示される繰り返し単位を、1種又は2種以上有するポリシルセスキオキサン化合物
(B)成分:分子内に2以上のカルボキシ基を有するカルボキシ基含有化合物
【0017】
〔(A)成分〕
本発明の硬化性組成物を構成する(A)成分は、下記式(a-1)で示される繰り返し単位を、1種又は2種以上有するポリシルセスキオキサン化合物(以下、「ポリシルセスキオキサン化合物(A)」と表すことがある。)である。
【0018】
【化2】
【0019】
式(a-1)中、Rは、無置換の炭素数1~10のアルキル基、置換基を有する炭素数1~10のアルキル基、無置換の炭素数6~12のアリール基、及び、置換基を有する炭素数6~12のアリール基からなる群から選ばれる基である。
【0020】
で表される「無置換の炭素数1~10のアルキル基」の炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましい。
「無置換の炭素数1~10のアルキル基」としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。
【0021】
で表される「置換基を有する炭素数1~10のアルキル基」の炭素数は、1~6が好ましく、1~3がより好ましい。なお、この炭素数は、置換基を除いた部分(アルキル基の部分)の炭素数を意味するものである。したがって、Rが「置換基を有する炭素数1~10のアルキル基」である場合、Rの炭素数は10を超える場合もあり得る。
「置換基を有する炭素数1~10のアルキル基」のアルキル基としては、「無置換の炭素数1~10のアルキル基」として示したものと同様のものが挙げられる。
【0022】
「置換基を有する炭素数1~10のアルキル基」の置換基の原子数(ただし水素原子の数を除く)は、通常1~30、好ましくは1~20である。
「置換基を有する炭素数1~10のアルキル基」の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;シアノ基;式:OGで表される基;等が挙げられる。
ここで、Gは水酸基の保護基を表す。水酸基の保護基としては、特に制約はなく、水酸基の保護基として知られている公知の保護基が挙げられる。例えば、アシル系の保護基;トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基等のシリル系の保護基;メトキシメチル基、メトキシエトキシメチル基、1-エトキシエチル基、テトラヒドロピラン-2-イル基、テトラヒドロフラン-2-イル基等のアセタール系の保護基;t-ブトキシカルボニル基等のアルコキシカルボニル系の保護基;メチル基、エチル基、t-ブチル基、オクチル基、アリル基、トリフェニルメチル基、ベンジル基、p-メトキシベンジル基、フルオレニル基、トリチル基、ベンズヒドリル基等のエーテル系の保護基;等が挙げられる。
【0023】
で表される「無置換の炭素数6~12のアリール基」の炭素数は6が好ましい。
「無置換の炭素数6~12のアリール基」としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等が挙げられる。
【0024】
で表される「置換基を有する炭素数6~12のアリール基」の炭素数は6が好ましい。なお、この炭素数は、置換基を除いた部分(アリール基の部分)の炭素数を意味するものである。したがって、Rが「置換基を有する炭素数6~12のアリール基」である場合、Rの炭素数は12を超える場合もあり得る。
「置換基を有する炭素数6~12のアリール基」のアリール基としては、「無置換の炭素数6~12のアリール基」として示したものと同様のものが挙げられる。
【0025】
「置換基を有する炭素数6~12のアリール基」の置換基の原子数(ただし水素原子の数を除く)は、通常1~30、好ましくは1~20である。
「置換基を有する炭素数6~12のアリール基」の置換基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、イソオクチル基等のアルキル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;等が挙げられる。
【0026】
これらの中でも、Rとしては、無置換の炭素数1~10のアルキル基、フッ素原子を有する炭素数1~10のアルキル基、シアノ基を有する炭素数1~10のアルキル基、又は無置換の炭素数6~12のアリール基が好ましい。
【0027】
が無置換の炭素数1~10のアルキル基であるポリシルセスキオキサン化合物(A)を用いることで、耐熱性及び接着性により優れる硬化物を与える硬化性組成物が得られ易くなる。
本明細書において、「接着性に優れる硬化物」とは、「接着強度が高い硬化物」を意味する。
【0028】
がフッ素原子を有する炭素数1~10のアルキル基であるポリシルセスキオキサン化合物(A)を用いることで、屈折率が低い硬化性組成物や硬化物が得られ易くなる。
【0029】
がシアノ基を有する炭素数1~10のアルキル基であるポリシルセスキオキサン化合物(A)を用いることで、高極性被着体に対する接着性に優れる硬化物を与える硬化性組成物が得られ易くなる。
【0030】
が無置換の炭素数6~12のアリール基であるポリシルセスキオキサン化合物(A)を用いることで、屈折率が高い硬化性組成物や硬化物が得られ易くなる。
【0031】
ポリシルセスキオキサン化合物(A)中の前記式(a-1)で示される繰り返し単位の含有割合は、全繰り返し単位に対して、70~100mol%が好ましく、80~100mol%がより好ましく、90~100mol%がさらに好ましい。
ポリシルセスキオキサン化合物(A)中の前記式(a-1)で示される繰り返し単位の含有割合は、後述するように、29Si-NMRを測定することにより求めることができる。
【0032】
前記式(a-1)で示される繰り返し単位は、下記式(a-2)で示されるものである。本明細書において、O1/2とは、酸素原子が隣接する繰り返し単位と共有されていることを表す。
【0033】
【化3】
【0034】
式(a-2)で示されるように、ポリシルセスキオキサン化合物(A)は、一般にTサイトと総称される、ケイ素原子に酸素原子が3つ結合し、それ以外の基(R)が1つ結合してなる部分構造を有する。
ポリシルセスキオキサン化合物(A)に含まれるTサイトとしては、下記式(a-3)~(a-5)で示されるものが挙げられる。
【0035】
【化4】
【0036】
式(a-3)~(a-5)中、Rは、前記と同じ意味を表す。Rは、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基を表す。Rの炭素数1~10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基等が挙げられる。複数のR同士は、すべて同一であっても相異なっていてもよい。また、上記式(a-3)~(a-5)中、*には、Si原子が結合している。
【0037】
ポリシルセスキオキサン化合物(A)は、アセトン等のケトン系溶媒;ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルスルホキシド等の含硫黄系溶媒;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒;クロロホルム等の含ハロゲン系溶媒;及びこれらの2種以上からなる混合溶媒;等の各種有機溶媒に可溶であるため、これらの溶媒を用いて、ポリシルセスキオキサン化合物(A)の溶液状態での29Si-NMRを測定することができる。
【0038】
ポリシルセスキオキサン化合物(A)の溶液状態での29Si-NMRを測定することにより、前記式(a-3)で示されるT3サイト、式(a-4)で示されるT2サイト、式(a-5)で示されるT1サイトの含有割合を求めることができる。
本発明で用いるポリシルセスキオキサン化合物(A)は、硬化物の接着性を向上させる観点から、T2サイトを、10~45mol%含有するものが好ましく、15~40mol%含有するものがより好ましく、20~35mol%含有するものがより更に好ましい。
また、本発明で用いるポリシルセスキオキサン化合物(A)は、硬く、耐熱性に優れる硬化物を得る観点から、T3サイトを、50~90mol%含有するものが好ましく、55~85mol%含有するものがより好ましく、60~80mol%含有するものがより更に好ましい。
【0039】
ポリシルセスキオキサン化合物(A)は、1種のRを有するもの(単独重合体)であってもよく、2種以上のRを有するもの(共重合体)であってもよい。
【0040】
ポリシルセスキオキサン化合物(A)が共重合体である場合、ポリシルセスキオキサン化合物(A)は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体、交互共重合体等のいずれであってもよいが、製造容易性等の観点からは、ランダム共重合体が好ましい。
また、ポリシルセスキオキサン化合物(A)の構造は、ラダー型構造、ダブルデッカー型構造、籠型構造、部分開裂籠型構造、環状型構造、ランダム型構造のいずれの構造であってもよい。
【0041】
ポリシルセスキオキサン化合物(A)の質量平均分子量(Mw)は、通常500~20,000、好ましくは1,000~15,000、より好ましくは1,500~12,000である。質量平均分子量(Mw)が上記範囲内にあるポリシルセスキオキサン化合物(A)を用いることで、耐熱性及び接着性により優れる硬化物を与える硬化性組成物が得られ易くなる。
【0042】
ポリシルセスキオキサン化合物(A)の分子量分布(Mw/Mn)は特に限定されないが、通常1.0~10.0、好ましくは1.1~6.0である。分子量分布(Mw/Mn)が上記範囲内にあるポリシルセスキオキサン化合物(A)を用いることで、耐熱性及び接着性により優れる硬化物を与える硬化性組成物が得られ易くなる。
質量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、例えば、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレン換算値として求めることができる。
【0043】
本発明において、ポリシルセスキオキサン化合物(A)は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
ポリシルセスキオキサン化合物(A)の含有量は、硬化性組成物の固形分中、好ましくは40質量%以上、100質量%未満であり、より好ましくは48~95質量%、さらに好ましくは56~90質量%である。
本発明において、「固形分」とは、硬化性組成物中の溶媒以外の成分をいう。
【0044】
ポリシルセスキオキサン化合物(A)の製造方法は特に限定されない。例えば、下記式(a-6)で示されるシラン化合物(1)の少なくとも1種を重縮合させることにより、ポリシルセスキオキサン化合物(A)を製造することができる。
【0045】
【化5】
【0046】
式中、Rは前記と同じ意味を表す。Rは炭素数1~10のアルキル基を表し、Xはハロゲン原子を表し、pは0~3の整数を表す。複数のR、及び複数のXは、それぞれ、互いに同一であっても、相異なっていてもよい。
の炭素数1~10のアルキル基としては、Rの炭素数1~10のアルキル基として示したものと同様のものが挙げられる。
のハロゲン原子としては、塩素原子、及び臭素原子等が挙げられる。
【0047】
シラン化合物(1)の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン等のアルキルトリアルコキシシラン化合物類;
メチルクロロジメトキシシラン、メチルクロロジエトキシシラン、メチルジクロロメトキシシラン、メチルブロモジメトキシシラン、エチルクロロジメトキシシラン、エチルクロロジエトキシシラン、エチルジクロロメトキシシラン、エチルブロモジメトキシシラン等のアルキルハロゲノアルコキシシラン化合物類;
メチルトリクロロシラン、メチルトリブロモシラン、エチルトリクロロシラン、エチルトリブロモシラン等のアルキルトリハロゲノシラン化合物類;
【0048】
3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、2-シアノエチルトリメトキシシラン、2-シアノエチルトリエトキシシラン等の置換アルキルトリアルコキシシラン化合物類;
3,3,3-トリフルオロプロピルクロロジメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルクロロジエトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルジクロロメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルジクロロエトキシシラン、2-シアノエチルクロロジメトキシシラン、2-シアノエチルクロロジエトキシシラン、2-シアノエチルジクロロメトキシシラン、2-シアノエチルジクロロエトキシシラン等の置換アルキルハロゲノアルコキシシラン化合物類;
3,3,3-トリフルオロプロピルトリクロロシラン、2-シアノエチルトリクロロシラン等の置換アルキルトリハロゲノシラン化合物類;
【0049】
フェニルトリメトキシシラン、4-メトキシフェニルトリメトキシシラン等の、置換基を有する、又は置換基を有さないフェニルトリアルコキシシラン化合物類;
フェニルクロロジメトキシシラン、フェニルジクロロメトキシシラン、4-メトキシフェニルクロロジメトキシシラン、4-メトキシフェニルジクロロメトキシシラン等の、置換基を有する、又は置換基を有さないフェニルハロゲノアルコキシシラン化合物類;
フェニルトリクロロシラン、4-メトキシフェニルトリクロロシラン等の、置換基を有する、又は置換基を有さないフェニルトリハロゲノシラン化合物類;等が挙げられる。
これらのシラン化合物(1)は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
前記シラン化合物(1)を重縮合させる方法は特に限定されない。例えば、溶媒中、又は無溶媒で、シラン化合物(1)に、所定量の重縮合触媒を添加し、所定温度で撹拌する方法が挙げられる。より具体的には、(a)シラン化合物(1)に、所定量の酸触媒を添加し、所定温度で撹拌する方法、(b)シラン化合物(1)に、所定量の塩基触媒を添加し、所定温度で撹拌する方法、(c)シラン化合物(1)に、所定量の酸触媒を添加し、所定温度で撹拌した後、過剰量の塩基触媒を添加して、反応系を塩基性とし、所定温度で撹拌する方法等が挙げられる。これらの中でも、効率よく目的とするポリシルセスキオキサン化合物(A)を得ることができることから、(a)又は(c)の方法が好ましい。
【0051】
用いる重縮合触媒は、酸触媒及び塩基触媒のいずれであってもよい。また、2以上の重縮合触媒を組み合わせて用いてもよいが、少なくとも酸触媒を用いることが好ましい。
酸触媒としては、リン酸、塩酸、ホウ酸、硫酸、硝酸等の無機酸;クエン酸、酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等の有機酸;等が挙げられる。これらの中でも、リン酸、塩酸、ホウ酸、硫酸、クエン酸、酢酸、及びメタンスルホン酸から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0052】
塩基触媒としては、アンモニア水;トリメチルアミン、トリエチルアミン、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムビス(トリメチルシリル)アミド、ピリジン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン、アニリン、ピコリン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、イミダゾール等の有機塩基;水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等の有機水酸化物;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムt-ブトキシド、カリウムt-ブトキシド等の金属アルコキシド;水素化ナトリウム、水素化カルシウム等の金属水素化物;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の金属炭酸水素塩;等が挙げられる。
【0053】
重縮合触媒の使用量は、シラン化合物(1)の総mol量に対して、通常、0.05~10mol%、好ましくは0.1~5mol%の範囲である。
【0054】
重縮合時に溶媒を用いる場合、用いる溶媒は、シラン化合物(1)の種類等に応じて、適宜選択することができる。例えば、水;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、s-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール等のアルコール類;等が挙げられる。これらの溶媒は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、上記(c)の方法を採用する場合、酸触媒の存在下、水系で重縮合反応を行った後、反応液に、有機溶媒と過剰量の塩基触媒(アンモニア水など)を添加し、塩基性条件下で、更に重縮合反応を行うようにしてもよい。
【0055】
溶媒の使用量は、シラン化合物(1)の総mol量1mol当たり、0.1リットル以上10リットル以下、好ましくは0.1リットル以上2リットル以下である。
【0056】
シラン化合物(1)を重縮合させるときの温度は、通常0℃から用いる溶媒の沸点までの温度範囲、好ましくは20℃以上100℃以下の範囲である。反応温度があまりに低いと重縮合反応の進行が不十分となる場合がある。一方、反応温度が高くなりすぎるとゲル化抑制が困難となる。反応は、通常30分から30時間で完結する。
【0057】
なお、用いるモノマーの種類によっては、高分子量化が困難な場合がある。例えば、Rがフッ素原子を有するアルキル基であるモノマーは、Rが通常のアルキル基であるモノマーよりも反応性に劣る傾向がある。このような場合、触媒量を減らし、かつ、穏やかな条件で長時間反応を行うことにより、目的の分子量のポリシルセスキオキサン化合物(A)が得られ易くなる。
【0058】
反応終了後は、酸触媒を用いた場合は、反応溶液に炭酸水素ナトリウム等のアルカリ水溶液を添加することにより中和を行い、また、塩基触媒を用いた場合は、反応溶液に塩酸等の酸を添加することにより中和を行い、その際に生じる塩をろ別又は水洗等により除去し、目的とするポリシルセスキオキサン化合物(A)を得ることができる。
【0059】
上記方法により、ポリシルセスキオキサン化合物(A)を製造する際、シラン化合物(1)のOR又はXのうち、脱アルコール等が起こらなかった部分は、ポリシルセスキオキサン化合物(A)中に残存する。このため、ポリシルセスキオキサン化合物(A)中に、前記式(a-3)で示されるTサイト以外に、前記式(a-4)、式(a-5)で示されるTサイトが含まれることがある。
【0060】
〔(B)成分〕
本発明の硬化性組成物を構成する(B)成分は、分子内に2以上のカルボキシ基を有するカルボキシ基含有化合物(以下、「多価カルボン酸(B)」と表すことがある。)である。
本発明の硬化性組成物は、多価カルボン酸(B)を含有するため、硬化性に優れる。
また、多価カルボン酸(B)を用いることで、硬化物の接着性が向上する場合もある。
【0061】
多価カルボン酸(B)の分子量は、通常90~200、好ましくは90~150、より好ましくは90~104である。
多価カルボン酸(B)の分子量を200以下とすることで、硬化反応を効率的に促進し、高い接着強度が維持できる。また多価カルボン酸(B)の分子量を90以上とすることで、硬化物の接着性が向上する。
多価カルボン酸(B)中のカルボキシ基の数は、1分子当たり、通常2~4、好ましくは2~3であり、より好ましくは2である。
一価カルボン酸を用いても、本願発明の効果は得られにくい。更に、硬化性組成物の硬化性や硬化物の接着性を低下させる場合もある。
【0062】
多価カルボン酸(B)としては、脂肪族多価カルボン酸、脂環式多価カルボン酸、芳香族多価カルボン酸、オキシ多価カルボン酸等が挙げられる。
【0063】
脂肪族多価カルボン酸は、分子内に、脂肪族骨格(ただし、脂環式骨格を除く)と、2以上のカルボキシ基を有する化合物である。
脂肪族多価カルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。
【0064】
脂環式多価カルボン酸は、分子内に、脂環式骨格と、2以上のカルボキシ基を有する化合物である。
脂環式多価カルボン酸としては、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸等が挙げられる。
【0065】
芳香族多価カルボン酸は、分子内に、芳香族骨格と、2以上のカルボキシ基を有する化合物である。
芳香族多価カルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等が挙げられる。
【0066】
オキシ多価カルボン酸は、分子内に、ヒドロキシ基と、2以上のカルボキシ基を有する化合物である。
オキシ多価カルボン酸としては、タルトロン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸等が挙げられる。
【0067】
これらの中でも、硬化反応を効率的に促進し、高い接着強度が維持できることから、多価カルボン酸(B)としては、脂肪族多価カルボン酸好ましく、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸がより好ましく、シュウ酸が特に好ましい。
【0068】
多価カルボン酸(B)は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
多価カルボン酸(B)の含有量は、ポリシルセスキオキサン化合物(A)100質量部に対して通常0質量部超、10質量部以下であり、好ましくは0.01~8質量部、より好ましくは0.05~6質量部であり、更に好ましくは0.1~4質量部であり、より更に好ましくは0.3~3質量部であり、特に好ましくは0.7~2質量部である。
多価カルボン酸(B)が多過ぎると、硬化物の接着性が低下するおそれがある。
【0069】
〔硬化性組成物〕
本発明の硬化性組成物は、(C)成分として、シランカップリング剤を含有してもよい。シランカップリング剤を含有する硬化性組成物を用いることで、接着性により優れる硬化物を形成し易くなる。
シランカップリング剤とは、ケイ素原子と、官能基と、前記ケイ素原子に結合した加水分解性基とを有するシラン化合物をいう。
官能基とは、他の化合物(主に有機物)と反応性を有する基をいい、例えば、アミノ基、置換アミノ基、イソシアネート基、ウレイド基、イソシアヌレート骨格を有する基等の窒素原子を有する基;酸無水物基;ビニル基;アリル基;エポキシ基;(メタ)アクリル基;メルカプト基;等が挙げられる。
本発明において、シランカップリング剤は、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明の硬化性組成物がシランカップリング剤を含有する場合、その含有量は特に限定されず、目的に応じて適宜決定することができる。
シランカップリング剤の含有量は、ポリシルセスキオキサン化合物(A)100質量部に対して通常95質量部以下、好ましくは65質量部以下、より好ましくは35質量部以下である。
【0070】
シランカップリング剤としては、分子内に窒素原子を有するシランカップリング剤や分子内に酸無水物構造を有するシランカップリング剤が好ましい。
【0071】
分子内に窒素原子を有するシランカップリング剤や分子内に酸無水物構造を有するシランカップリング剤を含有する硬化性組成物は、耐熱性及び接着性により優れる硬化物を与える傾向がある。
【0072】
分子内に窒素原子を有するシランカップリング剤としては、例えば、下記式(c-1)で表されるトリアルコキシシラン化合物、式(c-2)で表されるジアルコキシアルキルシラン化合物又はジアルコキシアリールシラン化合物等が挙げられる。
【0073】
【化6】
【0074】
上記式中、Rは、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、t-ブトキシ基等の炭素数1~6のアルコキシ基を表す。複数のR同士は同一であっても相異なっていてもよい。
は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基等の炭素数1~6のアルキル基;又は、フェニル基、4-クロロフェニル基、4-メチルフェニル基、1-ナフチル基等の、置換基を有する、又は置換基を有さないアリール基;を表す。
【0075】
は、窒素原子を有する、炭素数1~10の有機基を表す。また、Rは、さらに他のケイ素原子を含む基と結合していてもよい。
の炭素数1~10の有機基の具体例としては、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピル基、3-アミノプロピル基、N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)アミノプロピル基、3-ウレイドプロピル基、N-フェニル-アミノプロピル基等が挙げられる。
【0076】
上記式(c-1)又は(c-2)で表される化合物のうち、Rが、他のケイ素原子を含む基と結合した有機基である場合の化合物としては、イソシアヌレート骨格を有するシランカップリング剤(イソシアヌレート系シランカップリング剤)や、ウレア骨格を有するシランカップリング剤(ウレア系シランカップリング剤)が挙げられる。
【0077】
これらの中でも、分子内に窒素原子を有するシランカップリング剤としては、接着性により優れる硬化物が得られ易いことから、イソシアヌレート系シランカップリング剤、及びウレア系シランカップリング剤が好ましく、さらに、分子内に、ケイ素原子に結合したアルコキシ基を4以上有するものが好ましい。
ケイ素原子に結合したアルコキシ基を4以上有するとは、同一のケイ素原子に結合したアルコキシ基と、異なるケイ素原子に結合したアルコキシ基との総合計数が4以上という意味である。
【0078】
ケイ素原子に結合したアルコキシ基を4以上有するイソシアヌレート系シランカップリング剤としては、下記式(c-3)で表される化合物が挙げられる。ケイ素原子に結合したアルコキシ基を4以上有するウレア系シランカップリング剤としては、下記式(c-4)で表される化合物が挙げられる。
【0079】
【化7】
【0080】
式中、Rは上記と同じ意味を表す。t1~t5はそれぞれ独立して、1~10の整数を表し、1~6の整数であるのが好ましく、3であるのが特に好ましい。
【0081】
これらの中でも、分子内に窒素原子を有するシランカップリング剤としては、1,3,5-N-トリス(3-トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、1,3,5-N-トリス(3-トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレート(以下、「イソシアヌレート化合物」という。)、N,N’-ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)ウレア、N,N’-ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ウレア(以下、「ウレア化合物」という。)、及び、上記イソシアヌレート化合物とウレア化合物との組み合わせを用いるのが好ましい。
【0082】
本発明の硬化性組成物が分子内に窒素原子を有するシランカップリング剤を含有する場合、その含有量は特に限定されないが、その量は、上記(A)成分と分子内に窒素原子を有するシランカップリング剤の質量比〔(A)成分:分子内に窒素原子を有するシランカップリング剤〕で、好ましくは100:0.1~100:90、より好ましくは100:0.3~100:60、より好ましくは100:1~100:50、さらに好ましくは100:3~100:40、特に好ましくは100:5~100:35となる量である。
このような割合で(A)成分及び分子内に窒素原子を有するシランカップリング剤を含有する硬化性組成物の硬化物は、耐熱性及び接着性により優れたものになる。
【0083】
分子内に酸無水物構造を有するシランカップリング剤は、一つの分子中に、酸無水物構造を有する基と、加水分解性基の両者を併せ持つ有機ケイ素化合物である。具体的には下記式(c-5)で表される化合物が挙げられる。
【0084】
【化8】
【0085】
式中、Qは酸無水物構造を有する基を表し、Rは炭素数1~6のアルキル基、又は、置換基を有する、若しくは置換基を有さないフェニル基を表し、Rは炭素数1~6のアルコキシ基又はハロゲン原子を表し、i、kは1~3の整数を表し、jは0~2の整数を表し、i+j+k=4である。jが2であるとき、R同士は同一であっても相異なっていてもよい。kが2又は3のとき、複数のR同士は同一であっても相異なっていてもよい。iが2又は3のとき、複数のQ同士は同一であっても相異なっていてもよい。
Qとしては、下記式で表される基等が挙げられ、(Q1)で表される基が特に好ましい。
【0086】
【化9】
【0087】
式中、hは0~10の整数を表す。
【0088】
分子内に酸無水物構造を有するシランカップリング剤としては、2-(トリメトキシシリル)エチル無水コハク酸、2-(トリエトキシシリル)エチル無水コハク酸、3-(トリメトキシシリル)プロピル無水コハク酸、3-(トリエトキシシリル)プロピル無水コハク酸等の、トリ(炭素数1~6)アルコキシシリル(炭素数2~8)アルキル無水コハク酸;
2-(ジメトキシメチルシリル)エチル無水コハク酸等の、ジ(炭素数1~6)アルコキシメチルシリル(炭素数2~8)アルキル無水コハク酸;
2-(メトキシジメチルシリル)エチル無水コハク酸等の、(炭素数1~6)アルコキシジメチルシリル(炭素数2~8)アルキル無水コハク酸;
【0089】
2-(トリクロロシリル)エチル無水コハク酸、2-(トリブロモシリル)エチル無水コハク酸等の、トリハロゲノシリル(炭素数2~8)アルキル無水コハク酸;
2-(ジクロロメチルシリル)エチル無水コハク酸等の、ジハロゲノメチルシリル(炭素数2~8)アルキル無水コハク酸;
2-(クロロジメチルシリル)エチル無水コハク酸等の、ハロゲノジメチルシリル(炭素数2~8)アルキル無水コハク酸;等が挙げられる。
【0090】
これらの中でも、分子内に酸無水物構造を有するシランカップリング剤としては、トリ(炭素数1~6)アルコキシシリル(炭素数2~8)アルキル無水コハク酸が好ましく、3-(トリメトキシシリル)プロピル無水コハク酸又は3-(トリエトキシシリル)プロピル無水コハク酸が特に好ましい。
【0091】
本発明の硬化性組成物が分子内に酸無水物構造を有するシランカップリング剤を含有する場合、その含有量は特に限定されないが、その量は、上記(A)成分と分子内に酸無水物構造を有するシランカップリング剤の質量比〔(A)成分:分子内に酸無水物構造を有するシランカップリング剤〕で、好ましくは100:0.1~100:30、より好ましくは100:0.3~100:20、より好ましくは100:0.5~100:15、さらに好ましくは100:1~100:10となる量である。
このような割合で(A)成分及び分子内に酸無水物構造を有するシランカップリング剤を含有する硬化性組成物の硬化物は、接着性により優れたものになる。
【0092】
本発明の硬化性組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、他の成分を含有してもよい。
他の成分としては、微粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等が挙げられる。
【0093】
微粒子を添加すると、塗布工程における作業性に優れる硬化性組成物を得ることができる場合がある。微粒子の材質としては、金属;金属酸化物;鉱物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩;水酸化アルミニウム等の金属水酸化物;珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム等の金属珪酸塩;シリカ等の無機成分;シリコーン;アクリル系重合体等の有機成分;等が挙げられる。
また、用いる微粒子は表面が修飾されたものであってもよい。
【0094】
これらの微粒子は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。微粒子の含有量は特に限定されないが、(A)成分に対して、通常50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、35質量%以下がより更に好ましい。
【0095】
酸化防止剤は、加熱時の酸化劣化を防止するために添加される。酸化防止剤としては、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤等が挙げられる。
【0096】
リン系酸化防止剤としては、ホスファイト類、オキサホスファフェナントレンオキサイド類等が挙げられる。フェノール系酸化防止剤としては、モノフェノール類、ビスフェノール類、高分子型フェノール類等が挙げられる。硫黄系酸化防止剤としては、ジラウリル-3,3’-チオジプロピオネート、ジミリスチル-3,3’-チオジプロピオネート、ジステアリル-3,3’-チオジプロピオネート等が挙げられる。
【0097】
これらの酸化防止剤は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。酸化防止剤の含有量は特に限定されないが、(A)成分に対して、通常10質量%以下である。
【0098】
紫外線吸収剤は、得られる硬化物の耐光性を向上させる目的で添加される。
紫外線吸収剤としては、サリチル酸類、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、ヒンダードアミン類等が挙げられる。
紫外線吸収剤は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。紫外線吸収剤の含有量は特に限定されないが、(A)成分に対して、通常10質量%以下である。
【0099】
光安定剤は、得られる硬化物の耐光性を向上させる目的で添加される。
光安定剤としては、例えば、ポリ[{6-(1,1,3,3,-テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジン)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジン)イミノ}]等のヒンダードアミン類等が挙げられる。
これらの光安定剤は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。光安定剤の含有量は、(A)成分に対して、通常20質量%以下である。
【0100】
本発明の硬化性組成物は、溶媒を含有してもよい。溶媒は、本発明の硬化性組成物の成分を溶解又は分散し得るものであれば特に限定されない。
溶媒としては、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、1,6-ヘキサンジオールジアセテート等のアセテート類;トリプロピレングリコール-n-ブチルエーテル;グリセリンジグリシジルエーテル、ブタンジオールジグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ネオペンチルグリコールグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、アルキレンジグリシジルエーテル、ポリグリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等のジグリシジルエーテル類;トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル等のトリグリシジルエーテル類;4-ビニルシクロヘキセンモノオキサイド、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、メチル化ビニルシクロヘキセンジオキサイド等のビニルヘキセンオキサイド類;等が挙げられる。
溶媒は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0101】
本発明の硬化性組成物が溶媒を含有する場合、その含有量は、固形分濃度が、好ましくは50質量%以上、100質量%未満、より好ましくは60~90質量%、より更に好ましくは65~85質量%になる量である。固形分濃度がこの範囲内であることで、塗布工程における作業性に優れる硬化性組成物が得られ易くなる。
【0102】
本発明の硬化性組成物は、例えば、上記(A)成分と(B)成分、及び、所望により他の成分を所定割合で混合し、脱泡することにより調製することができる。
混合方法、脱泡方法は特に限定されず、公知の方法を利用することができる。
【0103】
本発明の硬化性組成物を調製した後、使用するまでの間は、冷蔵保存又は冷凍保存をすることが好ましい。本発明の硬化性組成物を冷蔵又は冷凍することで、長期間保存することができる。
【0104】
本発明の硬化性組成物は、ポリシルセスキオキサン化合物(A)及び多価カルボン酸(B)を含有する。このため、本発明の硬化性組成物は硬化性に優れる。
本発明の硬化性組成物が硬化性に優れることは、例えば、実施例に記載の方法により確認することができる。
すなわち、自動硬化時間測定装置(株式会社サイバー製、商品名「まどか」)を用い、150℃に加熱されたステンレス板上に硬化性組成物のサンプルを投入して撹拌すると、撹拌トルクが上昇する。したがって、撹拌トルクが、0.049N・cmになるまでの時間を測定することにより、硬化性を数値化することができる。
撹拌トルクが0.049N・cmになるまでの時間は、1000秒以下が好ましく、800秒以下がより好ましく、500秒以下がさらに好ましい。
【0105】
上記のように、本発明の硬化性組成物は硬化性に優れる。したがって、本発明の硬化性組成物を使用することで、従来の硬化性組成物を使用する場合に比べて、作業時間を短縮化することができる。
【0106】
2)硬化物
本発明の硬化物は、本発明の硬化性組成物を硬化させて得られるものである。
本発明の硬化性組成物を硬化させる方法としては加熱硬化が挙げられる。硬化させるときの加熱温度は、通常80~140℃であり、より好ましくは90~120℃である。加熱時間は、通常30分から5時間であり、好ましくは1~3時間である。
【0107】
本発明の硬化物は、耐熱性及び接着性に優れるものが好ましい。
硬化物の耐熱性や接着性は、例えば、次のようにして確認することができる。すなわち、シリコンチップのミラー面に、本発明の硬化性組成物を所定量塗布し、塗布面を被着体の上に載せ、圧着し、加熱処理して硬化させる。これを、予め所定温度(例えば、100℃)に加熱したボンドテスターの測定ステージ上に30秒間放置し、被着体から100μmの高さの位置より、接着面に対し水平方向(せん断方向)に応力をかけ、試験片と被着体との接着力を測定する。
【0108】
本発明の硬化物の接着力は、実施例に記載の測定条件において、15N/4mm以上であることが好ましく、25N/4mm以上であることがより好ましく、30N/4mm以上であることがさらに好ましい。
本明細書において、「4mm」とは、「2mm square」、すなわち、2mm×2mm(1辺が2mmの正方形)を意味する。
【0109】
耐熱性及び接着性に優れる硬化物は、例えば、上記(C)成分を含有する硬化性組成物を硬化させることで効率よく形成することができる。
耐熱性及び接着性に優れる硬化物は、光素子固定材としてより好ましく用いられる。
【0110】
3)硬化性組成物の使用方法
本発明の方法は、本発明の硬化性組成物を、光素子固定材用接着剤又は光素子固定材用封止材として使用する方法である。
光素子としては、LED、LD等の発光素子、受光素子、複合光素子、光集積回路等が挙げられる。
【0111】
〈光素子固定材用接着剤〉
本発明の硬化性組成物は、光素子固定材用接着剤として好適に使用することができる。
本発明の硬化性組成物を光素子固定材用接着剤として使用する方法としては、接着の対象とする材料(光素子とその基板等)の一方又は両方の接着面に該組成物を塗布し、圧着した後、加熱硬化させ、接着の対象とする材料同士を強固に接着させる方法が挙げられる。本発明の硬化性組成物の塗布量は、特に限定されず、硬化させることにより、接着の対象とする材料同士を強固に接着することができる量であればよい。通常、硬化性組成物の塗膜の厚みが0.5~5μm、好ましくは1~3μmとなる量である。
【0112】
光素子を接着するための基板材料としては、ソーダライムガラス、耐熱性硬質ガラス等のガラス類;セラミックス;サファイア;鉄、銅、アルミニウム、金、銀、白金、クロム、チタン及びこれらの金属の合金、ステンレス(SUS302、SUS304、SUS304L、SUS309等)等の金属類;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルペンテン、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミド、アクリル樹脂、ノルボルネン系樹脂、シクロオレフィン樹脂、ガラスエポキシ樹脂等の合成樹脂;等が挙げられる。
【0113】
加熱硬化させる際の加熱温度は、用いる硬化性組成物等にもよるが、通常80~150℃であり、より好ましくは90~130℃である。加熱時間は、通常30分から5時間であり、好ましくは1~3時間である。
【0114】
〈光素子固定材用封止材〉
本発明の硬化性組成物は、光素子固定材用封止材として好適に用いることができる。
本発明の硬化性組成物を光素子固定材用封止材として使用する方法としては、例えば、該組成物を所望の形状に成形して、光素子を内包した成形体を得た後、このものを加熱硬化させることにより、光素子封止体を製造する方法等が挙げられる。
本発明の硬化性組成物を所望の形状に成形する方法としては、特に限定されるものではなく、通常のトランスファー成形法や、注型法等の公知のモールド法を採用できる。
【0115】
加熱硬化する際の加熱温度は、用いる硬化性組成物等にもよるが、通常80~150℃であり、より好ましくは90~130℃である。加熱時間は、通常30分から5時間であり、好ましくは1~3時間である。
【実施例
【0116】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例になんら限定されるものではない。
【0117】
(平均分子量測定)
製造例で得たポリシルセスキオキサン化合物の質量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、標準ポリスチレン換算値とし、以下の装置及び条件にて測定した。
装置名:HLC-8220GPC、東ソー株式会社製
カラム:TSKgelGMHXL、TSKgelGMHXL、及び、TSKgel2000HXLを順次連結したもの
溶媒:テトラヒドロフラン
注入量:80μl
測定温度:40℃
流速:1ml/分
検出器:示差屈折計
【0118】
(IRスペクトルの測定)
製造例で得たポリシルセスキオキサン化合物のIRスペクトルは、フーリエ変換赤外分光光度計(パーキンエルマー社製、Spectrum100)を使用して測定した。
【0119】
29Si-NMR測定)
製造例で得たポリシルセスキオキサン化合物の繰り返し単位とその量を調べるために、以下の条件で29Si-NMR測定を行った。
装置:ブルカー・バイオスピン社製 AV-500
29Si-NMR共鳴周波数:99.352MHz
プローブ:5mmφ溶液プローブ
測定温度:室温(25℃)
試料回転数:20kHz
測定法:インバースゲートデカップリング法
29Si フリップ角:90°
29Si 90°パルス幅:8.0μs
繰り返し時間:5s
積算回数:9200回
観測幅:30kHz
【0120】
29Si-NMR試料作製方法)
緩和時間短縮のため、緩和試薬としてFe(acac)を添加し測定した。
ポリシルセスキオキサン化合物濃度:30質量%
Fe(acac)濃度:0.7質量%
測定溶媒:アセトン
内部標準:TMS
【0121】
(波形処理解析)
フーリエ変換後のスペクトルの各ピークについて、ピークトップの位置によりケミカルシフトを求め、積分を行った。
【0122】
(製造例1)
300mlのナス型フラスコに、メチルトリエトキシシラン71.37g(400mmol)を仕込んだ後、これを撹拌しながら、蒸留水21.6mlに35質量%塩酸0.10g(メチルトリエトキシシランに対して0.25mol%)を溶解した水溶液を加え、全容を30℃にて2時間、次いで70℃に昇温して5時間撹拌した。
内容物の撹拌を継続しながら、そこに、酢酸プロピル140gと、28質量%アンモニア水0.12g(メチルトリエトキシシランに対して0.5mol%)を加え、そのまま70℃で3時間撹拌した。
反応液を室温まで放冷した後、そこに精製水を加えて分液処理を行い、水層のpHが7になるまでこの操作を繰り返した。有機層をエバポレーターで濃縮し、濃縮物を真空乾燥することにより、ポリシルセスキオキサン化合物(A1)〔PSQ(A1)〕を得た。PSQ(A1)の質量平均分子量(Mw)は7,800、分子量分布(Mw/Mn)は4.52であった。
PSQ(A1)のIRスペクトルデータを以下に示す。
Si-CH:1272cm-1,1409cm-1,Si-O:1132cm-1
また、29Si-NMRスペクトル測定を行った結果、T1、T2、T3のピーク積分値比は、0:24:76であった。
【0123】
(製造例2)
300mLのナス型フラスコに、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン17.0g(77.7mmol)、及び、メチルトリエトキシシラン32.33g(181.3mmol)を仕込んだ後、これを撹拌しながら、蒸留水14.0gに35質量%塩酸0.0675g(HClの量が0.65mmol,シラン化合物の合計量に対して、0.25mol%)を溶解して得られた水溶液を加え、全容を30℃にて2時間、次いで70℃に昇温して20時間撹拌した。
内容物の撹拌を継続しながら、そこに、28質量%アンモニア水0.0394g(NHの量が0.65mmol)と酢酸プロピル46.1gの混合溶液を加えて反応液のpHを6.9にし、そのまま70℃で40分間撹拌した。
反応液を室温まで放冷した後、そこに、酢酸プロピル50g及び水100gを加えて分液処理を行い、反応生成物を含む有機層を得た。この有機層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥処理を行った。硫酸マグネシウムを濾別除去した後、有機層をエバポレーターで濃縮し、次いで、得られた濃縮物を真空乾燥することにより、ポリシルセスキオキサン化合物(A2)〔PSQ(A2)〕を得た。PSQ(A2)の質量平均分子量(Mw)は5,500、分子量分布は3.40であった。
PSQ(A2)のIRスペクトルデータを以下に示す。
Si-CH:1272cm-1,1409cm-1,Si-O:1132cm-1,C-F:1213cm-1
また、29Si-NMRスペクトル測定を行った結果、T1、T2、T3のピーク積分値比は、2:27:71であった。
【0124】
(製造例3)
300mlのナス型フラスコに、フェニルトリメトキシシラン20.2g(102mmol)、2-シアノエチルトリメトキシシラン3.15g(18mmol)、並びに、溶媒として、アセトン96ml及び蒸留水24mlを仕込んだ後、内容物を撹拌しながら、触媒としてリン酸0.15g(1.5mmol)を加え、25℃でさらに16時間撹拌した。
反応終了後、反応液をエバポレーターで50mlまで濃縮し、濃縮物に酢酸エチル100mlを加え、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液にて中和した。しばらく静置した後、有機層を分取した。次いで、有機層を蒸留水にて2回洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムをろ別後、ろ液をエバポレーターにて50mlまで濃縮し、得られた濃縮物を多量のn-ヘキサン中に滴下して沈殿させ、沈殿物をデカンテーションにより分離した。得られた沈殿物をメチルエチルケトン(MEK)に溶解させて回収し、エバポレーターで溶媒を減圧留去した。残留物を真空乾燥することにより、ポリシルセスキオキサン化合物(A3)〔PSQ(A3)〕を得た。PSQ(A3)の質量平均分子量(Mw)は1,870、分子量分布(Mw/Mn)は1.42であった。
PSQ(A3)のIRスペクトルデータを以下に示す。
Si-Ph:698cm-1,740cm-1,Si-O:1132cm-1,-CN:2259cm-1
また、29Si-NMRスペクトル測定を行った結果、T1、T2、T3のピーク積分値比は、0:33:67であった。
【0125】
(製造例4)
300mlのナス型フラスコに、フェニルトリメトキシシラン28.91g(145.8mmol)を仕込んだ後、これを撹拌しながら、蒸留水7.874gに35質量%塩酸0.0376g(フェニルトリメトキシシランに対してHClが0.25mol%)を溶解した水溶液を加え、全容を30℃にて2時間、次いで70℃に昇温して5時間撹拌した。
反応液を室温まで放冷した後、そこに、酢酸プロピル50g及び水100gを加えて分液処理を行い、反応生成物を含む有機層を得た。この有機層に硫酸マグネシウムを加えて乾燥処理を行った。硫酸マグネシウムを濾別除去した後、有機層をエバポレーターで濃縮し、次いで、得られた濃縮物を真空乾燥することにより、ポリシルセスキオキサン化合物(A4)を得た。PSQ(A4)の質量平均分子量(Mw)は1,100、分子量分布(Mw/Mn)は1.20であった。
PSQ(A4)のIRスペクトルデータを以下に示す。
Si-Ph:698cm-1,740cm-1,Si-O:1132cm-1
また、29Si-NMRスペクトル測定を行った結果、T1、T2、T3のピーク積分値比は、5:53:42であった。
【0126】
実施例及び比較例で用いた化合物を以下に示す。
(A成分)
PSQ(A1)~(A4)
【0127】
(B成分及び比較用化合物)
多価カルボン酸(B1):シュウ酸
多価カルボン酸(B2):アジピン酸
多価カルボン酸(B3):クエン酸
多価カルボン酸(B4):フタル酸
多価カルボン酸(B5):シクロヘキサンジカルボン酸
カルボキシ基含有化合物(X1):ギ酸
カルボキシ基含有化合物(X2):プロピオン酸
カルボキシ基含有化合物(X3):酪酸
【0128】
(C成分)
シランカップリング剤(C1):1,3,5-N-トリス〔3-(トリメトキシシリル)プロピル〕イソシアヌレート
シランカップリング剤(C2):3-(トリメトキシシリル)プロピルコハク酸無水物
【0129】
(実施例1)
PSQ(A1)100質量部に、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート:トリプロピレングリコール-n-ブチルエーテル=40:60(質量比)の混合溶剤を加え、全容を撹拌した。このものに、多価カルボン酸(B1)0.5部(20質量%メタノール溶液として添加)、シランカップリング剤(C1)30質量部、シランカップリング剤(C2)3質量部を加え、全容を十分に混合、脱泡することにより、硬化性組成物を得た。
【0130】
(実施例2~14、比較例1~5)
実施例1において、各成分を第1表に示すものに変更したこと以外は、実施例1と同様にして硬化性組成物を得た。
【0131】
実施例、及び比較例で得た硬化性組成物を用いて、それぞれ以下の測定、試験を行った。結果を第1表に示す。
【0132】
[硬化性評価]
自動硬化時間測定装置「まどか」(株式会社サイバー製)を用いて、以下の方法により硬化性組成物の硬化時間を測定した。
150℃に加熱されたステンレス板上に、0.30mLのサンプルを投入し、撹拌した。経時的に撹拌トルクが上昇するため、撹拌トルクが0.049N・cmになるまでの時間(秒)を測定した。撹拌条件は以下のとおりである。
・撹拌翼の自転回転数: 200rpm
・撹拌翼の公転回転数: 80rpm
・ギャップ(加熱板と撹拌翼間の距離): 0.3mm
【0133】
[接着強度評価]
一辺の長さが2mmの正方形(面積が4mm)のシリコンチップのミラー面に、実施例及び比較例で得た硬化性組成物を、それぞれ、厚さが約2μmになるように塗布し、塗布面を被着体(銀メッキ銅板)の上に載せ圧着した。その後、130℃で2時間加熱処理して硬化させて試験片付被着体を得た。この試験片付被着体を、予め100℃に加熱したボンドテスター(デイジ社製、シリーズ4000)の測定ステージ上に30秒間放置し、被着体から100μmの高さの位置より、スピード200μm/sで接着面に対し水平方向(せん断方向)に応力をかけ、100℃における、試験片と被着体との接着力(N/4mm)を測定した。
【0134】
【表1】
【0135】
上記実施例及び比較例から以下のことが分かる。
実施例1~14の硬化性組成物は硬化性評価試験において、1000秒以下という短い時間で硬化物が得られており、硬化性に優れている。
一方、比較例1~7の硬化性組成物は硬化性に劣っている。