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特許7420617活物質、負極層、電池およびこれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】活物質、負極層、電池およびこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20240116BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20240116BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M10/052
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020058540
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021158003
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】大瀧 光俊
(72)【発明者】
【氏名】吉田 淳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一裕
(72)【発明者】
【氏名】原田 正則
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-017513(JP,A)
【文献】特開2016-066418(JP,A)
【文献】Hiro-omi Horie,Takashi Kikudome, Kyosuke Teramura, Shoji Yamanaka,Controlled thermal decomposition of NaSi to derive silicon clathrate compounds,Journal of Solid State Chemistry,2009年,182,PP.129-135
【文献】Thorsten Langer et al.,Electrochemical Lithiation of Silicon Clathrate-II,Journal of The Electrochemical Society,159(8),2012年,A1318-A1322
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/38
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンクラスレートII型の結晶相を主相として有し、NaSi136(1.98<x<2.54)の組成を有する、活物質。
【請求項2】
シリコンクラスレートII型の結晶相を有し、Na Si 136 (1.98<x<2.54)の組成を有し、
CuKα線を用いたX線回折測定において、前記シリコンクラスレートII型の前記結晶相のピークとして、2θ=20.09°±0.50°に位置するピークAと、2θ=31.72°±0.50°に位置するピークBと、が観察され、
前記ピークAの強度をI とし、前記ピークBの強度をI とし、2θ=22°~23°における最大強度をI とした場合に、I /I およびI /I が、それぞれ1より大きい、活物質。
【請求項3】
前記xが、2.30≦x≦2.50を満たす、請求項1または請求項2に記載の活物質。
【請求項4】
前記活物質が、一次粒子の内部に空隙を有する、請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の活物質。
【請求項5】
前記I/Iが1.02<I/Iを満たし、前記I/Iが1.03<I/Iを満たす、請求項2に記載の活物質。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の活物質を含有する負極層。
【請求項7】
正極層と、負極層と、前記正極層および前記負極層の間に形成された電解質層と、を有する電池であって、
前記負極層が、請求項6に記載の負極層である、電池。
【請求項8】
シリコンクラスレートII型の結晶相を有し、NaSi136(8≦y≦21)の組成を有する中間体を準備する準備工程と、
前記中間体およびLi系材料を合金化し、合金化合物を得る合金化工程と、
前記合金化合物からLiを除去し、一次粒子の内部に空隙を有するポーラス化合物を得るLi除去工程と、
前記ポーラス化合物からNaを除去し、Na Si 136 (1.98<x<2.54)の組成を有する活物質を得るNa除去工程と、
を有する活物質の製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の活物質の製造方法により活物質を製造する活物質製造工程と、
前記活物質を用いて負極層を形成する負極層形成工程と、
を有する負極層の製造方法。
【請求項10】
請求項8に記載の活物質の製造方法により活物質を製造する活物質製造工程と、
前記活物質を用いて負極層を形成する負極層形成工程と、
を有する電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、活物質、負極層、電池およびこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電池の開発が盛んに行われている。例えば、自動車産業界では、電気自動車またはハイブリッド自動車に用いられる電池の開発が進められている。また、電池に用いられる活物質として、Siが知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、ケイ素粒子等の合金系負極活物質粒子を含有する全固体電池システムが開示されている。一方、特許文献2には、リチウムイオン電池の負極活物質として、計算上、シリコンクラスレートを使用することが可能であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-059534号公報
【文献】米国特許出願公開第2012/0021283号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Siは理論容量が大きく、電池の高エネルギー密度化に有効である。その反面、Siは、充放電時の体積変化が大きい。
【0006】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、充放電による体積変化が小さい活物質を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示においては、シリコンクラスレートII型の結晶相を有し、NaSi136(1.98<x<2.54)の組成を有する、活物質を提供する。
【0008】
また、本開示においては、上述した活物質を含有する負極層を提供する。
【0009】
また、本開示においては、正極層と、負極層と、上記正極層および上記負極層の間に形成された電解質層と、を有する電池であって、上記負極層が、上述した負極層である、電池を提供する。
【0010】
また、本開示においては、シリコンクラスレートII型の結晶相を有し、NaSi136(8≦y≦21)の組成を有する中間体を準備する準備工程と、上記中間体およびLi系材料を合金化し、合金化合物を得る合金化工程と、上記合金化合物からLiを除去し、一次粒子の内部に空隙を有するポーラス化合物を得るLi除去工程と、上記ポーラス化合物からNaを除去するNa除去工程と、を有する活物質の製造方法を提供する。
【0011】
また、本開示においては、上述した活物質の製造方法により活物質を製造する活物質製造工程と、上記活物質を用いて負極層を形成する負極層形成工程と、を有する負極層の製造方法を提供する。
【0012】
また、本開示においては、上述した活物質の製造方法により活物質を製造する活物質製造工程と、上記活物質を用いて負極層を形成する負極層形成工程と、を有する電池の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本開示においては、充放電による体積変化が小さい活物質を得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】Siの結晶相を説明する概略斜視図である。
図2】本開示における電池を例示する概略断面図である。
図3】本開示における活物質の製造方法を例示するフローチャートである。
図4】実施例1、2および比較例1、2で得られた活物質に対するXRD測定の結果である。
図5】参考例で得られた負極層(ロールプレス後の負極層)の断面SEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示における活物質、負極層、電池およびこれらの製造方法について、詳細に説明する。
【0016】
A.活物質
本開示における活物質は、シリコンクラスレートII型の結晶相を有し、NaSi136(1.98<x<2.54)の組成を有する。
【0017】
本開示における活物質は、シリコンクラスレートII型の結晶相を有する。図1(a)に示すように、シリコンクラスレートII型の結晶相では、複数のSi元素により、五角形または六角形を含む多面体(ケージ)が形成されている。この多面体は、Liイオン等の金属イオンを包摂できる空間を内部に有する。この空間に金属イオンが挿入されることで、充放電による体積変化を抑制できる。特に全固体電池では、充放電による体積変化を抑制するために、一般的に、高い拘束圧を付与する必要があるが、本開示における活物質を用いることで、拘束圧の低減を図ることができ、結果として、拘束治具の大型化を抑制することができる。
【0018】
一方、通常のSiは、ダイヤモンド型の結晶相を有する。図1(b)に示すように、ダイヤモンド型のSi結晶相では、複数のSi元素により、四面体が形成されている。四面体は、Liイオン等の金属イオンを包摂できる空間を内部に有しないため、充放電による体積変化を抑制しにくい。そのため、耐久性が悪化しやすい。
【0019】
また、本開示における活物質は、所定の組成を有する。活物質中にNaが存在することにより、シリコンクラスレートII型の結晶相(特にケージ)の構造安定性が向上し、その結果、充放電による体積変化が小さい活物質が得られたと推定される。
【0020】
本開示における活物質は、NaSi136(1.98<x<2.54)の組成を有する。xは、2.30以上であってもよく、2.33以上であってもよい。一方、xは、2.50以下であってもよく、2.43以下であってもよい。なお、本開示における活物質は、不可避的成分(例えばLi)を含有していてもよい。活物質の組成は、例えば、EDX、XRD、XRF、ICP、原子吸光法により求めることができる。他の化合物の組成についても同様に測定できる。
【0021】
本開示における活物質は、シリコンクラスレートII型の結晶相を有する。シリコンクラスレートII型の結晶相は、通常、空間群(Fd-3m)に属する。シリコンクラスレートII型の結晶相は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=20.09°、21.00°、26.51°、31.72°、36.26°、53.01°の位置に典型的なピークを有する。これらのピーク位置は、それぞれ、±0.50°の範囲で前後していてもよく、±0.30°の範囲で前後していてもよく、±0.10°の範囲で前後していてもよい。
【0022】
本開示における活物質は、シリコンクラスレートII型の結晶相を主相として有することが好ましい。「シリコンクラスレートII型の結晶相を主相として有する」とは、シリコンクラスレートII型の結晶相に属するピークが、X線回折測定で観察されるピークの中で、最も回折強度が大きいピークであることをいう。「主相」に関する定義は、他の結晶相においても同様である。
【0023】
シリコンクラスレートII型の結晶相において、2θ=20.09°±0.50°に位置するピークをピークAとし、2θ=31.72°±0.50°に位置するピークをピークBとする。また、ピークAの強度をIとし、ピークBの強度をIとする。一方、2θ=22°~23°における最大強度をIとする。2θ=22°~23°には、通常、Siに関連する結晶相のピークが現れない範囲であるため、基準として用いることができる。
【0024】
/Iの値は、1よりも大きいことが好ましい。I/Iの値が1以下である場合は、シリコンクラスレートII型の結晶相が実質的に形成されていないと判断できる。I/Iの値は、例えば、1.02より大きく、1.10以上であってもよく、1.20以上であってもよく、1.25以上であってもよい。I/Iの値の上限は、特に限定されない(例えばI/Iの値が1000以上になる場合もある)。なお、後述する実施例の結果を考慮すると、I/Iの値は、例えば10以下であってもよく、5以下であってもよい。
【0025】
/Iの値は、1よりも大きいことが好ましい。I/Iの値が1以下である場合は、シリコンクラスレートII型の結晶相が実質的に形成されていないと判断できる。I/Iの値は、例えば、1.03より大きく、1.06以上であってもよい。I/Iの値の上限は、特に限定されない(例えばI/Iの値が1000以上になる場合もある)。なお、後述する実施例の結果を考慮すると、I/Iの値は、例えば10以下であってもよく、5以下であってもよい。
【0026】
シリコンクラスレートII型の結晶相におけるピークBは、31.60°<2θ<31.69°に位置することが好ましい。後述する実施例に記載するように、ケージ構造の安定化は、ピークBのピーク位置の変化にも表れる。ピークBのピーク位置は、31.65°以上であってもよい。一方、ピークBのピーク位置は、31.69°以下であってもよい。
【0027】
また、本開示における活物質は、ダイヤモンド型のSi結晶相を有しないことが好ましいが、僅かであれば有していてもよい。ダイヤモンド型のSi結晶相は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=28.44°、47.31°、56.10°、69.17°、76.37°の位置に典型的なピークを有する。これらのピーク位置は、それぞれ、±0.50°の範囲で前後していてもよく、±0.30°の範囲で前後していてもよく、±0.10°の範囲で前後していてもよい。
【0028】
ダイヤモンド型のSi結晶相のピークとして、2θ=28.44°±0.50°に位置するピークCが観察された場合、ピークCの強度をIとする。I/Iは、例えば、1より大きく、1.5以上であってもよく、2以上であってもよく、3以上であってもよい。I/Iの好ましい範囲は、I/Iの好ましい範囲と同様である。
【0029】
本開示における活物質は、シリコンクラスレートI型の結晶相を有していないことが好ましい。シリコンクラスレートI型の結晶相は、通常、空間群(Pm-3n)に属する。シリコンクラスレートI型の結晶相は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=19.44°、21.32°、30.33°、31.60°、32.82°、36.29°、52.39°、55.49°の位置に典型的なピークを有する。これらのピーク位置は、それぞれ、±0.50°の範囲で前後していてもよく、±0.30°の範囲で前後していてもよく、±0.10°の範囲で前後していてもよい。「結晶相を有していないこと」は、X線回折測定において、その結晶相のピークが確認されないことにより、確認できる。
【0030】
本開示における活物質の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。活物質は、一次粒子であってもよく、一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。いずれの場合であっても、一次粒子の内部に空隙を有することが好ましい。充放電による体積変化をさらに抑制できるからである。上述したように、シリコンクラスレートII型の結晶相は、Liイオン等の金属イオンを包摂できるケージを有するため、充放電による体積変化を抑制できる。その結晶相を有する一次粒子が内部に空隙を有すると、その空隙も体積変化の抑制に寄与するため、充放電による体積変化をさらに抑制できる。
【0031】
本開示における活物質は、細孔直径が100nm以下である微小な空隙を多く有していることが好ましい。充放電による体積変化を均一に緩和することができるからである。細孔直径が100nm以下である空隙の空隙量は、例えば0.05cc/g以上であり、0.07cc/g以上であってもよく、0.10cc/g以上であってもよい。一方、上記空隙量は、例えば0.15cc/g以下である。空隙量は、例えば、水銀ポロシメーター測定、BET測定、ガス吸着法、3D-SEM、3D-TEMにより求めることができる。
【0032】
本開示における活物質は、一次粒子の内部に空隙を有する。その空隙率は、例えば4%以上であり、10%以上であってもよい。また、上記空隙率は、例えば40%以下であり、20%以下であってもよい。空隙率は例えば以下のような手順で求めることができる。まず、活物質を含む電極層に対して、イオンミリング加工により断面出しを行う。そして断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察して粒子の写真を取得する。得られた写真から画像解析ソフトを用いシリコン部および空隙部を峻別して、2値化する。シリコン部と空隙部の面積を求め、以下の式から空隙率(%)を算出する。
空隙率(%)=100×(空隙部面積)/((シリコン部面積)+(空隙部面積))
【0033】
具体的な画像解析および空隙率の算出は、以下のように行うことができる。画像解析ソフトとしては、例えばFiji ImageJ bundled with Java 1.8.0_172(以下、Fiji)を用いる。同一視野の二次電子像と反射電子像を合成して、RGBカラー画像化する。そして、ピクセルごとのノイズを除去するために、得られたRGB画像をFijiにおける機能「Median(フィルタサイズ=2)」によってぼかす。次に、Fijiにおける機能「Weka Machine Learning」により、上記ノイズが除去された画像における任意の複数の領域を人がシリコン部または空隙部にそれぞれ指定して、シリコン部および空隙部を峻別する教師データを作成する。そして、作成された教師データに基づき、Fiji内で、機械によりシリコン部と空隙部との判別を行い、シリコン部および空隙部の面積比を算出する。
【0034】
RGBカラー画像化について、二次電子像と反射電子像はともにグレースケールで表わされているため、例えば、二次電子像の各ピクセルにおける明るさxをRed値に、反射電子像も同様に明るさyをGreen値に割り付ける。これにより、例えばピクセルごとに、R=x、G=y、B=(x+y)/2としてRGB画像化する。
【0035】
上記「Weka Machine Learning」における詳細な条件を以下に示す。Training features(機械学習において教師データを作成する際に、機械に着目させる画像の数値的特徴)として、Gaussian blur、Hessian、Membrane projections、Mean、Maximum、Anisotropic diffusion、Sobel filter、Difference of gaussians、Variance、Minimum、Medianを選択する。また、その他のパラメータとしては、Membrane thicknessを3、Membrane patch sizeを19、Minimum sigmaを1.0、Maximum sigmaを16.0に設定する。
【0036】
一次粒子の平均粒径は、例えば50nm以上であり、100nm以上であってもよく、150nm以上であってもよい。一方、一次粒子の平均粒径は、例えば3000nm以下であり、1500nm以下であってもよく、1000nm以下であってもよい。また、二次粒子の平均粒径は、例えば1μm以上であり、2μm以上であってもよく、5μm以上であってもよい。一方、二次粒子の平均粒径は、例えば60μm以下であり、40μm以下であってもよい。なお、平均粒径は、例えばSEMによる観察によって求めることができる。サンプル数は、多いことが好ましく、例えば20以上であり、50以上であってもよく、100以上であってもよい。
【0037】
本開示における活物質は、X線光電子分光測定において、Siに由来するSi(2p)のピークとして、99.2eV±0.4eVに位置するピークXと、SiOに由来するSi(2p)のピークとして、103.6eV±0.4eVに位置するピークYと、が観察されてもよい。ピークXの強度をIとし、ピークYの強度をIとした場合に、I/Iは、小さいことが好ましい。シリコン酸化物による体積変化を抑制できるからである。I/Iは、例えば1.30以下であり、1.23以下であってもよく、0.81以下であってもよい。一方、I/Iは、例えば0.50以上であり、0.70以上であってもよく、0.76以上であってもよい。
【0038】
本開示における活物質は、通常、電池に用いられる。本開示における活物質は、負極活物質であってもよく、正極活物質であってもよいが、前者が好ましい。本開示においては、上述した活物質を有する電極層(負極層または正極層)、および、その電極層を有する電池を提供することもできる。活物質の製造方法としては、例えば、後述する「D.活物質の製造方法」に記載する製造方法が挙げられる。
【0039】
B.負極層
本開示における負極層は、上述した活物質を含有する。
【0040】
本開示によれば、上述した活物質を用いることで、充放電による体積変化が小さい負極層とすることができる。
【0041】
負極層は、少なくとも負極活物質を含有する層である。負極活物質については、上記「A.活物質」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。負極層における負極活物質の割合は、例えば20重量%以上であり、30重量%以上であってもよく、40重量%以上であってもよい。負極活物質の割合が少なすぎると、十分なエネルギー密度が得られない可能性がある。一方、負極活物質の割合は、例えば80重量%以下であり、70重量%以下であってもよく、60重量%以下であってもよい。負極活物質の割合が多すぎると、相対的に、負極層におけるイオン伝導性および電子伝導性が低下する可能性がある。
【0042】
負極層は、必要に応じて、電解質、導電材およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。電解質としては、例えば、後述する「C.電池 3.電解質層」に記載する電解質が挙げられる。導電材としては、例えば、炭素材料、金属粒子、導電性ポリマーが挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)等の粒子状炭素材料、炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の繊維状炭素材料が挙げられる。また、バインダーとしては、例えば、ゴム系バインダー、フッ化物系バインダーが挙げられる。
【0043】
負極層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。本開示における負極層は、通常、電池に用いられる。
【0044】
C.電池
図2は、本開示における電池を例示する概略断面図である。図2に示す電池10は、正極層1と、負極層2と、正極層1および負極層2の間に形成された電解質層3と、正極層1の集電を行う正極集電体4と、負極層2の集電を行う負極集電体5とを有する。本開示においては、負極層2が、上記「B.負極層」に記載した負極層である。
【0045】
本開示によれば、上述した負極層を用いることで、充放電による体積変化が小さい電池とすることができる。
【0046】
1.負極層
本開示における負極層については、上記「B.負極層」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。
【0047】
2.正極層
正極層は、少なくとも正極活物質を含有する層である。また、正極層は、必要に応じて、電解質、導電材およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。
【0048】
正極活物質としては、例えば、酸化物活物質が挙げられる。酸化物活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等の岩塩層状型活物質、LiMn、LiTi12、Li(Ni0.5Mn1.5)O等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO等のオリビン型活物質が挙げられる。
【0049】
酸化物活物質の表面には、Liイオン伝導性酸化物を含有するコート層が形成されていてもよい。酸化物活物質と、固体電解質(特に硫化物固体電解質)との反応を抑制できるからである。Liイオン伝導性酸化物としては、例えば、LiNbOが挙げられる。コート層の厚さは、例えば、1nm以上30nm以下である。また、正極活物質として、例えばLiSを用いることもできる。
【0050】
正極活物質の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。正極活物質の平均粒径(D50)は、特に限定されないが、例えば10nm以上であり、100nm以上であってもよい。一方、正極活物質の平均粒径(D50)は、例えば50μm以下であり、20μm以下であってもよい。平均粒径(D50)は、例えば、レーザー回折式粒度分布計、走査型電子顕微鏡(SEM)による測定から算出できる。
【0051】
正極層に用いられる電解質、導電材およびバインダーについては、上記「B.負極層」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。正極層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0052】
3.電解質層
電解質層は、正極層および負極層の間に形成される層であり、電解質を少なくとも含有する。電解質は、固体電解質であってもよく、液体電解質(電解液)であってもよい。
【0053】
固体電解質としては、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、窒化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質等の無機固体電解質、ポリマー電解質等の有機高分子電解質が挙げられる。硫化物固体電解質としては、例えば、Li元素、X元素(Xは、P、As、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、Inの少なくとも一種である)、および、S元素を含有する固体電解質が挙げられる。また、硫化物固体電解質は、O元素およびハロゲン元素の少なくとも一方をさらに含有していてもよい。ハロゲン元素としては、例えば、F元素、Cl元素、Br元素、I元素が挙げられる。硫化物固体電解質は、ガラス(非晶質)であってもよく、ガラスセラミックスであってもよい。硫化物固体電解質としては、例えば、LiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiBr-LiS-P、LiS-SiS、LiS-GeS、LiS-P-GeSが挙げられる。
【0054】
電解液は、支持塩および溶媒を含有することが好ましい。リチウムイオン伝導性を有する電解液の支持塩(リチウム塩)としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF等の無機リチウム塩、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(FSO、LiC(CFSO等の有機リチウム塩が挙げられる。電解液に用いられる溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状エステル(環状カーボネート)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の鎖状エステル(鎖状カーボネート)が挙げられる。電解液は、2種以上の溶媒を含有することが好ましい。
【0055】
電解質層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0056】
4.その他の構成
本開示における電池は、正極層の集電を行う正極集電体、および、負極層の集電を行う負極集電体を有することが好ましい。正極集電体の材料としては、例えば、SUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボンが挙げられる。一方、負極集電体の材料としては、例えば、SUS、銅、ニッケルおよびカーボンが挙げられる。
【0057】
本開示における電池は、正極層、電解質層および負極層に対して、厚さ方向に沿って拘束圧を付与する拘束治具をさらに有していてもよい。特に、電解質層が固体電解質層である場合、良好なイオン伝導パスおよび電子伝導パスを形成するために、拘束圧を付与することが好ましい。拘束圧は、例えば0.1MPa以上であり、1MPa以上であってもよく、5MPa以上であってもよい。一方、拘束圧は、例えば100MPa以下であり、50MPa以下であってもよく、20MPa以下であってもよい。
【0058】
5.電池
本開示における電池の種類は特に限定されないが、典型的にはリチウムイオン電池である。また、本開示における電池は、電解質層として電解液を含有する液電池であってもよく、電解質層として固体電解質層を有する全固体電池であってもよい。また、本開示における電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよいが、中でも二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用だからである。
【0059】
本開示における電池は、単電池であってもよく、積層電池であってもよい。積層電池は、モノポーラ型積層電池(並列接続型の積層電池)であってもよく、バイポーラ型積層電池(直列接続型の積層電池)であってもよい。電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型、角型が挙げられる。
【0060】
D.活物質の製造方法
図3は、本開示における活物質の製造方法を例示するフローチャートである。図3に示す製造方法では、まず、NaおよびSiを含有し、少なくともジントル相を有するジントル化合物を作製し、ジントル化合物からNaを除去することで、シリコンクラスレートII型の結晶相を有し、NaSi136(8≦y≦21)の組成を有する中間体を準備する(準備工程)。次に、中間体およびLi系材料を合金化し、合金化合物を得る(合金化工程)。次に、合金化合物からLiを除去し、一次粒子の内部に空隙を有するポーラス化合物を得る(Li除去工程)。次に、ポーラス化合物からNaを除去する(Na除去工程)。これにより、シリコンクラスレートII型の結晶相を有する活物質が得られる。
【0061】
本開示によれば、一次粒子の内部に空隙を形成することにより、充放電による体積変化が小さい活物質を得ることができる。また、Naを積極的に残留させた中間体を用いることで、SiおよびLiが合金化する際に、クラスレートのケージに包含されたNaが、Liの侵入を防ぎ、ケージの崩壊を抑制できたため、充放電による体積変化が小さい活物質が得られる。
【0062】
1.準備工程
本開示における準備工程は、シリコンクラスレートII型の結晶相を有し、NaSi136(8≦y≦21)の組成を有する中間体を準備する工程である。中間体を準備する方法は、特に限定されないが、例えば、NaおよびSiを含有し、少なくともジントル相を有するジントル化合物から、上記Naを除去する方法が挙げられる。
【0063】
(1)ジントル作製
ジントル化合物は、ジントル(Zintl)相を有する。ジントル相は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=16.10°、16.56°、17.64°、20.16°、27.96°、33.60°、35.68°、40.22°、41.14°の位置に典型的なピークを有する。これらのピーク位置は、それぞれ、±0.50°の範囲で前後していてもよく、±0.30°の範囲で前後していてもよい。ジントル化合物は、ジントル(Zintl)相を主相として有することが好ましい。ジントル化合物は、シリコンクラスレートI型の結晶相を有していてもよく、有していなくてもよい。また、ジントル化合物は、シリコンクラスレートII型の結晶相を有していてもよく、有していなくてもよい。
【0064】
ジントル化合物の組成は、特に限定されないが、NaSi136の組成(121≦z≦151)で表されることが好ましい。zは、126以上であってもよく、131以上であってもよい。一方、zは、141以下であってもよい。
【0065】
ジントル化合物は、例えば、Na(単体)およびSi(単体)を含有する原料混合物に対して熱処理を行うことで得ることができる。Na(単体)およびSi(単体)の割合は、特に限定されないが、Si(単体)1モル部に対して、Na(単体)は、例えば0.8モル部以上であり、1モル部以上であってもよい。一方、Si(単体)1モル部に対して、Na(単体)は、例えば1.5モル部以下であり、1.3モル部以下であってもよい。
【0066】
熱処理温度は、例えば、500℃以上、1000℃以下である。また、熱処理時間は、例えば、1時間以上、50時間以下である。特に、約700℃(例えば650℃以上、750℃以下)および約20時間(例えば15時間以上、25時間以下)の条件で熱処理を行うことが好ましい。
【0067】
(2)Na除去
ジントル化合物からNaを除去する方法としては、例えば、熱処理が挙げられる。熱処理温度は、例えば280℃以上であり、300℃以上であってもよい。一方、熱処理温度は、例えば500℃以下である。熱処理時間は、例えば、1時間以上、50時間以下である。熱処理は、常圧雰囲気で行ってもよく、減圧雰囲気で行ってもよい。後者の場合、熱処理時の圧力は、例えば10Pa以下であり、1Pa以下であってもよく、0.1Pa以下であってもよい。また、熱処理は、Ar雰囲気等の不活性雰囲気で行ってもよい。
【0068】
(3)中間体
中間体は、通常、シリコンクラスレートII型の結晶相を有する。中間体は、シリコンクラスレートII型の結晶相を主相として有することが好ましい。中間体は、シリコンクラスレートI型の結晶相を有していてもよく、有していなくてもよい。中間体は、ダイヤモンド型のSi結晶相を有しないことが好ましいが、僅かであれば有していてもよい。また、中間体は、NaSi136(8≦y≦21)の組成を有する。yは、10以上であってもよい。一方、yは、18以下であってもよい。
【0069】
2.合金化工程
本開示における合金化工程は、上記中間体およびLi系材料を合金化し、合金化合物を得る工程である。
【0070】
Li系材料は、中間体と合金化可能な材料であれば特に限定されず、Li単体であってもよく、Li合金であってもよい。Li合金は、Liを主成分とする合金であることが好ましい。中間体と合金化しやすいからである。中間体およびLi系材料を合金化する方法としては、例えば、両者を混合する方法および両者を熱処理する方法が挙げられる。
【0071】
合金化工程では、中間体およびLi系材料を、中間体に含まれるSiに対するLi系材料に含まれるLiのモル比(Li/Si)を所定の範囲にして合金化することが好ましい。Li/Siは、例えば0.5以上であり、0.75以上であってもよく、1以上であってもよい。Li/Siが小さすぎると、一次粒子の内部に空隙が形成されない可能性がある。一方、Li/Siは、例えば3以下であり、2.5以下であってもよく、2以下であってもよい。Li/Siが大きすぎると、シリコンクラスレートII型の結晶相を維持できない可能性がある。Liとの合金化により、Siの結晶性は低下する傾向にあるため、Li/Siを制御することが好ましい。
【0072】
3.Li除去工程
本開示におけるLi除去工程は、上記合金化合物からLiを除去し、一次粒子の内部に空隙を有するポーラス化合物を得る工程である。合金化合物に含まれるLi(高度に分散されたLi)を除去することで、ナノサイズ(ナノオーダー)の空隙を形成することができる。
【0073】
合金化合物からLiを除去する方法としては、例えば、合金化合物にLi抽出材を反応させる方法が挙げられる。Li抽出材は、例えば液体である。Li抽出材としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール等の1級アルコール、2-プロパノール、2-ブタノール、2-ペンタノール、2-ヘキサノール等の2級アルコール、tert-ブチルアルコール等の3級アルコール、フェノール等のフェノール類、1,2-エタンジオール、1,3-ブタンジオール等のグリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル、b-D-グルコピラノース等のピラノース類、エリトロフラノース等のフラノース類、グルコース類、フルクトース類等の多糖類が挙げられる。Li抽出材は、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノールおよび1-ヘキサノールの少なくとも一種であることが好ましい。特に、Li抽出材は、少なくともエタノールを含有することが好ましい。また、Li抽出材として、例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、シュウ酸等の酸を用いてもよい。本開示においては、2種以上のLi抽出材を用いてもよい。この場合、2種以上のLi抽出材を混合して用いてもよく、別々に用いてもよい(Li除去として2段階以上の処理を行ってもよい)。
【0074】
Li抽出材は、水分量が少ないことが好ましい。水分量が多すぎると、合金化合物が劣化する場合がある。Li抽出材に含まれる水分量は、例えば100ppm以下であり、10ppm以下であってもよい。
【0075】
合金化合物にLi抽出材を反応させる方法は、特に限定されない。合金化合物に、Li抽出材を直接接触させてもよく、合金化合物を分散させた分散液に、Li抽出材を接触させてもよい。分散媒としては、例えば、n-ヘプタン、n-オクタン、n-デカン、2-エチルヘキサン、シクロヘキサン等の飽和炭化水素、ヘキセン、ヘプテン等の不飽和炭化水素、1,3,5-トリメチルベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、クメン、1,2,4-トリメチルベンゼン、1,2,3-トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素、n-ブチルエーテル、n-ヘキシルエーテル、イソアミルエーテル、ジフェニルエーテル、メチルフェニルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル類が挙げられる。分散媒の比誘電率は、例えば3.08以下であり、3.00以下であってもよい。一方、分散媒の比誘電率は、例えば1.50以上であり、1.70以上であってもよい。比誘電率は、例えば、JIS C 2565に記載の方法(空洞共振器法等)により測定することができる。
【0076】
4.Na除去工程
本開示におけるNa除去工程は、上記ポーラス化合物から上記Naを除去する工程である。
【0077】
ポーラス化合物からNaを除去する方法としては、例えば、熱処理が挙げられる。熱処理温度は、例えば280℃以上であり、300℃以上であってもよい。一方、熱処理温度は、例えば500℃以下である。熱処理時間は、例えば、1時間以上、50時間以下である。熱処理は、常圧雰囲気で行ってもよく、減圧雰囲気で行ってもよい。後者の場合、熱処理時の圧力は、例えば10Pa以下であり、1Pa以下であってもよく、0.1Pa以下であってもよい。また、熱処理は、Ar雰囲気等の不活性雰囲気で行ってもよい。
【0078】
5.活物質
上述した各工程により得られる活物質は、シリコンクラスレートII型の結晶相を有する。また、上記活物質は、一次粒子の内部に空隙を有する。活物質の組成の好ましい範囲、I/IおよびI/Iの好ましい範囲、および、その他の事項については、上記「A.活物質」に記載した内容を適宜引用することができる。
【0079】
E.負極層の製造方法
本開示においては、上述した活物質の製造方法により活物質を製造する活物質製造工程と、上記活物質を用いて負極層を形成する負極層形成工程と、を有する負極層の製造方法を提供する。
【0080】
本開示によれば、上述した活物質を用いることで、充放電による体積変化が小さい負極層を得ることができる。活物質製造工程については、上記「D.活物質の製造法」に記載した内容と同様である。また、負極層を形成する方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、少なくとも活物質を含有するスラリーを、負極集電体に塗工し、乾燥することにより、負極集電体上に形成された負極層を得ることができる。得られる負極層の好ましい態様については、上記「B.負極層」に記載した内容を適宜引用することができる。
【0081】
F.電池の製造方法
本開示においては、上述した活物質の製造方法により活物質を製造する活物質製造工程と、上記活物質を用いて負極層を形成する負極層形成工程と、を有する電池の製造方法を提供する。
【0082】
本開示によれば、上述した活物質を用いることで、充放電による体積変化が小さい電池を得ることができる。活物質製造工程および負極層形成工程については、上記「D.活物質の製造法」および上記「E.負極層の製造法」に記載した内容と同様である。また、電池を形成する方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。本開示における電池の製造方法は、活物質製造工程および負極層形成工程の他に、正極層を形成する正極層形成工程と、電解質層を形成する電解質層形成工程と、正極層、電解質層および負極層をこの順に配置する配置工程と、を有していてもよい。得られる電池の好ましい態様については、上記「C.電池」に記載した内容を適宜引用することができる。
【0083】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例
【0084】
[実施例1]
(活物質の合成)
Si粒子およびNa粒子を、モル比が1:1になるように混合し、るつぼに投入し、Ar雰囲気下で密閉し、700℃で加熱し、NaSi(ジントル化合物)を合成した。その後、真空下(約1Pa)、360℃で20時間加熱することでNaを除去し、中間体を得た。得られた中間体と、Li金属とを、Li/Si=2.5のモル比で秤量し、Ar雰囲気において乳鉢で混合し、合金化合物を得た。得られた合金化合物を、Ar雰囲気においてエタノールと反応させることで、一次粒子の内部に空隙を有するポーラス化合物を得た。その後、真空下(約1Pa)、430℃で6時間加熱することでNaを除去し、活物質を得た。
【0085】
(負極の作製)
ポリプロピレン製容器に、得られた活物質、硫化物固体電解質(LiS-P系ガラスセラミック)、導電材(VGCF)、PVDF系バインダーを5重量%の割合で含有する酪酸ブチル溶液、および、酪酸ブチルを加え、超音波分散装置(エスエムテー製UH-50)で30秒間撹拌した。次に、容器を振とう器(柴田科学株式会社製、TTM-1)で30分間振とうさせた。アプリケーターを使用してブレード法にて、負極集電体(Cu箔、UACJ製)上に塗工し、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させた。これにより、負極集電体および負極層を有する負極を得た。
【0086】
(正極の作製)
ポリプロピレン製容器に、正極活物質(LiNi1/3Co1/3Mn1/3、平均粒径6μm)、硫化物固体電解質(LiS-P系ガラスセラミック)、導電材(VGCF)、PVDF系バインダーを5重量%の割合で含有する酪酸ブチル溶液、および、酪酸ブチルを加え、超音波分散装置(エスエムテー製UH-50)で30秒間撹拌した。次に、容器を振とう器(柴田科学株式会社製、TTM-1)で3分間振とうさせた。アプリケーターを使用してブレード法にて、正極集電体(Al箔、昭和電工製)上に塗工し、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させた。これにより、正極集電体および正極層を有する正極を得た。なお、正極の面積は、負極の面積よりも小さくした。
【0087】
(固体電解質層の作製)
ポリプロピレン製容器に、硫化物固体電解質(LiS-P系ガラスセラミック)、ブチレンラバー系バインダーを5重量%の割合で含有するヘプタン溶液、および、ヘプタンを加え、超音波分散装置(エスエムテー製UH-50)で30秒間撹拌した。次に、容器を振とう器(柴田科学株式会社製、TTM-1)で30分間振とうさせた。アプリケーターを使用してブレード法にて、剥離シート(Al箔)上に塗工し、100℃のホットプレート上で30分間乾燥させた。これにより、剥離シートおよび固体電解質層を有する転写部材を得た。
【0088】
(全固体電池の作製)
正極における正極層上に、接合用の固体電解質層を配置し、ロールプレス機にセットし、20kN/cm(約710MPa)、165℃でプレスした。これにより、第1積層体を得た。
【0089】
次に、負極をロールプレス機にセットし、20kN/cm(約630MPa)、25℃でプレスした。その後、負極層側から順に、接合用の固体電解質層および転写部材を配置した。この際、接合用の固体電解質層と、転写部材における固体電解質層とが対向するように配置した。得られた積層体を平面一軸プレス機にセットし、100MPa、25℃で、10秒間仮プレスした。その後、固体電解質層から剥離シートを剥がした。これにより、第2積層体を得た。
【0090】
次に、第1積層体における接合用の固体電解質層と、第2積層体における固体電解質層と、を対向するように配置し、平面一軸プレス機にセットし、200MPa、135℃、1分間プレスした。これにより、全固体電池を得た。
【0091】
[実施例2、比較例1、2]
1回目のNa除去における熱処理条件を、表1に示す条件に変更したこと以外は、実施例1と同様にして活物質を得た。得られた活物質を用いたこと以外は、実施例1と同様にして全固体電池を得た。
【0092】
[評価]
(SEM-EDX測定)
実施例1、2および比較例1、2で得られた、中間体および活物質に対して、SEM-EDX(走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法)測定を行った。その結果、実施例1、2で得られた活物質は、一次粒子の内部に、ナノサイズの空隙が形成されていることが確認された。また、EDXの結果から、NaおよびSiの割合を求め、中間体および活物質の組成を求めた。その結果を表1に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
(XRD測定)
実施例1、2および比較例1、2で得られた、中間体および活物質に対して、CuKα線を用いたX線回折(XRD)測定を行った。その結果、いずれの中間体も、シリコンクラスレートII型の結晶相を主相として有することが確認された。また、得られた活物質に対するXRD測定の結果を図4に示す。
【0095】
図4に示すように、実施例1、2および比較例2で得られた活物質は、結晶相の中で、シリコンクラスレートII型の結晶相を主相として有し、ダイヤモンド型のSi結晶相を副相として有することが確認された。一方、比較例1で得られた活物質は、非晶質性が非常に高く、結晶相の中で、ダイヤモンド型のSi結晶相を主相として有し、シリコンクラスレートII型の結晶相を副相として有することが確認された。
【0096】
また、シリコンクラスレートII型の結晶相における、2θ=20.09°付近に位置するピークAの強度をIとし、2θ=31.72°付近に位置するピークBの強度をIとした。また、2θ=22°~23°における最大強度をIとし、I/IおよびI/Iを求めた。その結果を表2に示す。
【0097】
(拘束圧増加量の測定)
実施例1、2および比較例1、2で得られた全固体電池に対して充電を行い、拘束圧増加量を測定した。試験条件は、拘束圧(定寸)5MPa、充電0.1C、カット電圧4.55Vとし、4.55Vでの拘束圧を測定し、充電前の状態からの拘束圧増加量を求めた。その結果を表2に示す。なお、表2における拘束圧増加量の結果は、比較例1の結果を100とした場合の相対値である。
【0098】
【表2】
【0099】
表2に示すように、実施例1、2は、比較例1、2に比べて、拘束圧増加量が小さくなることが確認された。これは、活物質中にNaが適度に存在することにより、シリコンクラスレートII型の結晶相(特にケージ)の構造安定性が向上したためであると推定される。なお、実施例1、2および比較例1、2は、いずれもI/IおよびI/Iが1より大きかった。また、結晶相の構造安定化の影響は、ピークBのピーク位置の変化にも表れており、ピークBのピーク位置が、31.60°<2θ<31.69°である場合に、拘束圧増加量が小さくなることが示唆された。また、Naを積極的に残留させた中間体を用いることで、SiおよびLiが合金化する際に、クラスレートのケージに包含されたNaが、Liの侵入を防ぎ、ケージの崩壊を抑制できたため、拘束圧増加量が小さくなった。
【0100】
[参考例]
Si粒子およびNa粒子を、モル比が1:1になるように混合し、るつぼに投入し、Ar雰囲気下で密閉し、700℃で加熱し、NaSi(ジントル化合物)を合成した。その後、真空下(約1Pa)、340℃で加熱することでNaを除去し、中間体を得た。得られた中間体と、Li金属とを、Li/Si=1のモル比で秤量し、Ar雰囲気において乳鉢で混合し、合金化合物を得た。得られた合金化合物を、Ar雰囲気においてエタノールと反応させることで、一次粒子の内部に空隙を形成し、活物質を得た。得られた活物質を用いたこと以外は、実施例1と同様にして負極を得た。
【0101】
得られた負極層(ロールプレス後の負極層)の断面を、SEMで観察した。その結果を図5に示す。図5において、黒く映っている部分が活物質に該当し、ロールプレス後であっても、ナノサイズの空隙が維持されることが確認された。すなわち、ナノサイズの空隙が存在することで、プレスによる空隙の潰れが抑制されることが示唆された。
【符号の説明】
【0102】
1 …正極層
2 …電解質層
3 …負極層
4 …正極集電体
5 …負極集電体
10 …電池
図1
図2
図3
図4
図5