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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-15
(45)【発行日】2024-01-23
(54)【発明の名称】斜面安定化構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20240116BHJP
【FI】
E02D17/20 103A
E02D17/20 103H
E02D17/20 106
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020060253
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021156136
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】石垣 拓也
(72)【発明者】
【氏名】國領 ひろし
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-320799(JP,A)
【文献】特開2018-204191(JP,A)
【文献】特開2017-186738(JP,A)
【文献】特開2020-012248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜面に設置されて当該斜面を安定させるための斜面安定化構造であって、
前記斜面の地盤内に埋め込まれる複数のアンカー部材と、
前記アンカー部材が貫通可能な下部貫通孔が形成される、前記斜面に設置される下部支圧部材と、
前記アンカー部材が貫通可能な上部貫通孔が形成される、前記下部支圧部材よりも上方に設置される上部支圧部材と、
前記斜面における複数の前記アンカー部材が埋め込まれた領域を覆う、前記下部支圧部材と前記上部支圧部材との間に配置される高強度ネットと、を備え、
前記上部支圧部材は、前記高強度ネットに対向する下面に、前記上部貫通孔から外側に向かって前記斜面に近づくように傾斜された第1傾斜面が形成され、
前記高強度ネットは、引張強度が550N/mm 2 以上の素線からなる高強度金網であり、
前記下部支圧部材は、下面が平坦に形成され、上面に前記下部貫通孔から外側に向かって前記斜面に近づくように傾斜された第2傾斜面が形成され、
前記高強度ネットは、前記第1傾斜面と前記第2傾斜面とに接触されること
を特徴とする斜面安定化構造。
【請求項2】
前記上部貫通孔から前記第1傾斜面の先端部までの距離は、前記下部貫通孔から前記下部支圧部材の外縁部までの距離より大きいこと
を特徴とする請求項1記載の斜面安定化構造。
【請求項3】
前記上部支圧部材は、前記第1傾斜面よりも外縁側に前記斜面に沿って延びる延伸面が形成されること
を特徴とする請求項1又は2記載の斜面安定化構造。
【請求項4】
前記下部支圧部材は、前記アンカー部材に螺合される下部ナットと、前記下部ナットに支圧されるとともに前記下部貫通孔が形成される下部支圧部と、を有し、
前記上部支圧部材は、前記アンカー部材に螺合される上部ナットと、前記上部ナットに支圧されるとともに前記上部貫通孔が形成される上部支圧部と、を有すること
を特徴とする請求項1~の何れか1項記載の斜面安定化構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、斜面安定化構造に関する。
【背景技術】
【0002】
土砂崩れが発生しやすい斜面では、事前に土砂を斜面に定着させて斜面を安定化しておく必要がある。従来、ネットを用いて斜面の崩壊を防止する技術として、特許文献1~2が開示されている。
【0003】
特許文献1には、斜面を覆うネットと、ネットの上でアンカー部材間に配索されたケーブルと、アンカー部材の雄ねじ部が貫通した状態でケーブルの上側に配置された拘束部材と、ケーブルを拘束部材に結合するケーブル結合部材と、雄ねじ部に螺合して拘束部材をケーブルに向けて支圧するナットとを備える斜面安定化構造体が開示されている。特許文献1の斜面安定化構造体では、ケーブルがケーブル結合部材によって拘束部材の本体部の下面に固定され、かつ、拘束部材がアンカー部材の雄ねじ部に螺合するナットによってケーブルに向けて支圧されることにより、ケーブルは、ケーブル結合部材によって上方に支圧されるとともに拘束部材の突出部によって下方へ支圧された状態で当該本体部の下面に保持される。
【0004】
特許文献2には、斜面に取り付ける基盤と挟み枠で構成され、基盤に1箇所または複数個所の開口部と、挟み枠を取り付けるリブを備え、受圧板と挟み枠との間に法枠を構成する多孔帯状体を中心部で挟んで固定する斜面安定化構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-025538号公報
【文献】特開2015-132038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1におけるネットや特許文献2における多孔帯状体は、斜面の不陸に追従できるような柔軟性があり、斜面表面侵食を防止するのに適しているが、ネットや多孔帯状体の強度は見込まれておらず、比較的強度の低い材料である素線引張強度が290~540N/mmであるひし形金網や樹脂製のネットなどが用いられている。
【0007】
斜面の崩壊(滑り)を防ぐには、斜面にアンカー部材を複数打ち込み、アンカー部材頭部に設けた支圧板によって、斜面を抑える(締め付ける)必要がある。さらにアンカー部材とアンカー部材間において発生する斜面の局部崩壊を防ぐ必要があり、斜面表面に設置する法面工としてネットを用いる場合は、強度が高く変形しにくいものが望まれる。
【0008】
しかしながら、特許文献1の開示技術では、平板状の拘束部材がナットに支圧され、ネットがこの支圧された拘束部材と斜面とに挟まれて固定される。このような固定方法の場合、ネットを斜面表面に直接設置して支圧板で固定するため、追従性はある程度確保できる。しかし、局部崩壊を防ぐためにネットを高強度のものに変えた場合にネットが変形しにくく柔軟性がないため、支圧板周辺の斜面の凹凸状況によっては支圧板が浮いてしまい、支圧板による必要な締め付け力が地盤に伝わらないおそれがある。
【0009】
同様に、特許文献2の開示技術による固定方法では、受圧板と挟み枠との間に多孔帯状体を設置する構造のため、局部崩壊を防ぐために多孔帯状体を柔軟性の少ない高強度ネットに変えた場合に、斜面への追従性が悪くなり局部崩壊防止効果を十分に発揮できないおそれがある。
【0010】
この発明は、上記事情に鑑みて為されたもので、その目的は、斜面全体の崩壊と斜面表層の局部崩壊とを抑制することが可能となる斜面安定化構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る斜面安定化構造は、斜面に設置されて当該斜面を安定させるための斜面安定化構造であって、前記斜面の地盤内に埋め込まれる複数のアンカー部材と、前記アンカー部材が貫通可能な下部貫通孔が形成される、前記斜面に設置される下部支圧部材と、前記アンカー部材が貫通可能な上部貫通孔が形成される、前記下部支圧部材よりも上方に設置される上部支圧部材と、前記斜面における複数の前記アンカー部材が埋め込まれた領域を覆う、前記下部支圧部材と前記上部支圧部材との間に配置される高強度ネットと、を備え、前記上部支圧部材は、前記高強度ネットに対向する下面に、前記上部貫通孔から外側に向かって前記斜面に近づくように傾斜された第1傾斜面が形成され、前記高強度ネットは、引張強度が550N/mm 2 以上の素線からなる高強度金網であり、前記下部支圧部材は、下面が平坦に形成され、上面に前記下部貫通孔から外側に向かって前記斜面に近づくように傾斜された第2傾斜面が形成され、前記高強度ネットは、前記第1傾斜面と第2傾斜面とに接触されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、斜面全体の崩壊と斜面表層の局部崩壊とを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態に係る斜面安定化構造の一例を示す断面図である。
図2図2は、実施形態に係る斜面安定化構造の一例を拡大して示す断面図である。
図3図3は、実施形態に係る斜面安定化構造で用いられる下部支圧部の第1例を示す斜視図である。
図4図4(a)は、実施形態に係る斜面安定化構造で用いられる下部支圧部の第1例を示す平面図であり、図4(b)は、実施形態に係る斜面安定化構造で用いられる下部支圧部の第1例を示す断面図である。
図5図5は、実施形態に係る斜面安定化構造で用いられる上部支圧部の第1例を示す斜視図である。
図6図6(a)は、実施形態に係る斜面安定化構造で用いられる上部支圧部の第1例を示す底面図であり、図6(b)は、実施形態に係る斜面安定化構造で用いられる上部支圧部5の第1例を示す断面図である。
図7図7は、実施形態に係る斜面安定化構造の作用効果を説明するための図である。
図8図8(a)は、実施形態に係る斜面安定化構造で用いられる下部支圧部の第2例を示す平面図であり、図8(b)は、実施形態に係る斜面安定化構造で用いられる下部支圧部の第2例を示す断面図である。
図9図9(a)は、実施形態に係る斜面安定化構造で用いられる上部支圧部の第2例を示す底面図であり、図9(b)は、実施形態に係る斜面安定化構造で用いられる上部支圧部の第3例を示す底面図である。
図10図10(a)は、実施形態に係る斜面安定化構造で用いられる上部支圧部の第4例を示す底面図であり、図10(b)は、実施形態に係る斜面安定化構造で用いられる上部支圧部の第5例を示す底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施形態のいくつかを、図面を参照しながら説明する。また、各図において、共通する部分については、共通する参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
図1は、実施形態に係る斜面安定化構造1の一例を示す断面図である。図2は、実施形態に係る斜面安定化構造1の一例を拡大して示す断面図である。
【0016】
斜面安定化構造1は、斜面9に設置されて当該斜面9を安定させるためのものである。斜面安定化構造1は、アンカー部材2と、下部支圧部材30と、上部支圧部材50と、高強度ネット7と、を備える。
【0017】
アンカー部材2は、斜面9において互いに離間する複数の位置にそれぞれ配設される。アンカー部材2は、斜面9の地盤内に埋め込まれる埋め込み部21と、埋め込み部21から斜面9の上に突出する雄ねじ部22と、を有する。アンカー部材2としては、例えばロックボルトが用いられる。
【0018】
埋め込み部21は、例えば、斜面9に形成された縦穴Vに挿入され、縦穴Vに注入された注入材23によって斜面9の地盤内部に定着される。埋め込み部21は、その外周部に取り付けられたスペーサ24によって縦穴V内部において当該縦穴Vの中心軸に沿って延びるように保持される。カプラー25は、埋め込み部21を構成する部材同士を連結し、埋め込み部21の長さを延伸する際に用いられる。雄ねじ部22は、先端に保護キャップ26が設けられる。
【0019】
下部支圧部材30は、斜面9に設置され、斜面9を支圧するためのものである。下部支圧部材30は、下部支圧部3と、下部ナット4と、を有する。下部支圧部3は、アンカー部材2が貫通可能な下部貫通孔31と、高強度ネット7に対向する下部支圧部3の上面に、下部貫通孔31から外側に向かって斜面9に近づくように傾斜された第2傾斜面32と、が形成される。
【0020】
図3は、実施形態に係る斜面安定化構造1で用いられる下部支圧部3の第1例を示す斜視図である。図4(a)は、実施形態に係る斜面安定化構造1で用いられる下部支圧部3の第1例を示す平面図であり、図4(b)は、実施形態に係る斜面安定化構造1で用いられる下部支圧部3の第1例を示す断面図である。下部支圧部3は、平板状の下部本体部33と、下部本体部33の上面に形成される角筒状の筒状部34と、下部本体部33の上面と筒状部34の側面とを繋ぐリブ部35と、を有する。下部本体部33は、下部貫通孔31の延びる方向から見て、外形が矩形状に形成される。なお、下部本体部33は、下部貫通孔31の延びる方向から見て、外形が円形状に形成されてもよい。筒状部34は、下部貫通孔31が形成される。リブ部35の上面に、第2傾斜面32が形成される。リブ部35は、角筒状の筒状部34の各側面に設けられる。
【0021】
図2に示すように、下部ナット4は、アンカー部材2の雄ねじ部22に螺合される。下部ナット4は、下部支圧部3を斜面9に支圧するためのものである。下部ナット4は、コマナット41が用いられる。下部ナット4と下部支圧部3との間には、球面ワッシャ42が設けられる。コマナット41を雄ねじ部22に螺合することにより、コマナット41の締結力が球面ワッシャ42を介して下部支圧部3に伝達され、下部支圧部3が斜面9を支圧する。また、下部支圧部3は、複数のリブ部35によって、支圧力を下部本体部33の全体に分散して伝達させることができる。加えて、下部本体部33の変形を抑えることができる。
【0022】
上部支圧部材50は、下部支圧部材30よりも上方に設置される。上部支圧部材50は、上部支圧部5と、上部ナット6と、を有する。上部支圧部5は、高強度ネット7に載置される。上部支圧部5は、アンカー部材2が貫通可能な上部貫通孔51と、高強度ネット7に対向する上部支圧部5の下面に、上部貫通孔51から外側に向かって斜面9に近づくように傾斜された第1傾斜面52と、第1傾斜面52よりも外縁側に斜面9に沿って延びる延伸面56と、が形成される。第1傾斜面52は、基端部52aが天板部53に繋がり、先端部52bが縁板部55に繋がる。
【0023】
図5は、実施形態に係る斜面安定化構造1で用いられる上部支圧部5の第1例を示す斜視図である。図6(a)は、実施形態に係る斜面安定化構造1で用いられる上部支圧部5の第1例を示す底面図であり、図6(b)は、実施形態に係る斜面安定化構造1で用いられる上部支圧部5の第1例を示す断面図である。上部支圧部5は、椀型形状に形成される。上部支圧部5は、上部貫通孔51の延びる方向から見て、外形が矩形状に形成される板材である。上部支圧部5は、上部貫通孔51が形成される天板部53と、天板部53から延びる傾斜板部54と、傾斜板部54を挟んで天板部53の反対側に配置される縁板部55と、を有する。傾斜板部54は、天板部53の周囲に配置される。傾斜板部54の下面に、第1傾斜面52が形成される。縁板部55は、その下面に延伸面56が形成される。縁板部55は、天板部53と平行に延びる。
【0024】
図2に示すように、上部貫通孔51の中心軸から第1傾斜面52の先端部52bまでの距離L1は、下部貫通孔31の中心軸から下部支圧部3の側端面3cまでの距離L2より大きい。
【0025】
上部ナット6は、雄ねじ部22に螺合される。上部ナット6は、上部支圧部5を高強度ネット7に支圧するためのものである。上部ナット6は、コマナット61が用いられる。上部ナット6と上部支圧部5との間には、球面ワッシャ62が設けられる。コマナット61を雄ねじ部22に螺合することにより、コマナット61の締結力が球面ワッシャ62を介して上部支圧部5に伝達され、上部支圧部5が高強度ネット7を支圧する。
【0026】
高強度ネット7は、複数の素線が撚り合わせられて構成される、網目が菱形状の菱形金網である。高強度ネット7は、斜面9における複数のアンカー部材2が埋め込まれた領域を覆う。高強度ネット7は、引張強度が550N/mm以上の素線により構成される高強度金網である。高強度ネット7は、局部崩壊を防ぐのに必要な強度を考慮すると、引張強度が例えば550N/mm~2000N/mm程度の素線により構成されることが好ましい。高強度ネット7は、引張強度が2000N/mmより大きい素線により構成されてもよい。高強度ネット7を構成する素線は、例えば径が3.0mm程度のものが用いられる。なお、高強度ネット7は、所定の引張強度が確保されていれば、例えば樹脂製であってもよい。
【0027】
高強度ネット7は、下部支圧部3と上部支圧部5との間に配置される。高強度ネット7は、下部支圧部3の筒状部34と、下部支圧部3の第2傾斜面32とに、接触される。高強度ネット7は、傾斜板部54の第1傾斜面52と、縁板部55の延伸面56に接触される。
【0028】
次に、本実施形態に係る斜面安定化構造1の施工方法について説明する。
【0029】
まず、アンカー部材2の埋め込み部21を、地盤の移動層91と不動層92との間のすべり面Pよりも深くまで地盤に埋め込み、地盤に定着させる。
【0030】
そして、下部支圧部材30をアンカー部材2の上方から被せ、下部貫通孔31にアンカー部材2を貫通させ、下部支圧部3を斜面9に設置する。そして、アンカー部材2の雄ねじ部22に下部ナット4を螺合させ、球面ワッシャ42を介して下部支圧部3を支圧する。
【0031】
そして、高強度ネット7を斜面9における複数のアンカー部材2が埋め込まれた領域を覆う。このとき、高強度ネット7の網目にアンカー部材2を貫通させ、高強度ネット7が斜面9に対し移動しない(ずれない)ように設置する。
【0032】
そして、上部支圧部材50をアンカー部材2の上方から被せ、上部貫通孔51にアンカー部材2を貫通させ、上部支圧部5を高強度ネット7に載置する。そして、アンカー部材2の雄ねじ部22に上部ナット6を螺合させ、球面ワッシャ62を介して上部支圧部5を支圧する。これにより、高強度ネット7が、強制的に第1傾斜面52に沿って変形され、斜面9に接触される。
【0033】
図7は、実施形態に係る斜面安定化構造1の作用効果を説明するための図である。斜面9を有する地盤は、地盤の移動層91と不動層92との間のすべり面Pを境に、斜面全体が崩壊しようとする。また、斜面9を有する地盤は、複数のアンカー部材2、2間の領域において、すべり面Qを境に斜面表層が局部崩壊しようとする。
【0034】
本実施形態によれば、斜面9の地盤内に埋め込まれる複数のアンカー部材2と、アンカー部材2が貫通可能な下部貫通孔31が形成される、斜面9に設置される下部支圧部材30と、アンカー部材2が貫通可能な上部貫通孔51が形成される、下部支圧部材30よりも上方に設置される上部支圧部材50と、斜面9における複数のアンカー部材2が埋め込まれた領域を覆う、下部支圧部材30と上部支圧部材50との間に配置される高強度ネット7と、を備え、上部支圧部材50は、高強度ネット7に対向する下面に、上部貫通孔51から外側に向かって斜面9に近づくように傾斜された第1傾斜面52が形成され、高強度ネット7は、第1傾斜面52に接触される。
【0035】
これにより、下部支圧部材30による引き抜き抵抗力T1と、アンカー部材2の周面摩擦による引き抜き抵抗力T2とを、斜面9の地盤に作用させることができる。加えて、高強度ネット7が上部支圧部材50により支圧され、支圧された高強度ネット7は、第1傾斜面52に沿って変形される。このため、複数のアンカー部材2、2間の領域に、高強度ネット7による斜面9を支圧する支圧力Tpを作用させることができる。よって、すべり面Pに対する斜面全体の崩壊を抑制することが可能となる。
【0036】
特に、上部支圧部材50により支圧された高強度ネット7は、第1傾斜面52に沿って強制的に変形され、斜面9に接触される。これにより、複数のアンカー部材2、2間の領域において、高強度ネット7が斜面9を支圧する支圧力Tpを作用させることができる。このため、すべり面Qに対する斜面表層の局部破壊を抑制することが可能となる。したがって、斜面全体の崩壊と斜面表層の局部崩壊とを抑制することが可能となる。
【0037】
本実施形態によれば、下部支圧部材30は、アンカー部材2に螺合される下部ナット4と、下部ナット4に支圧されるとともに下部貫通孔31が形成される下部支圧部3と、を有し、上部支圧部材50は、アンカー部材2に螺合される上部ナット6と、上部ナット6に支圧されるとともに上部貫通孔51が形成される上部支圧部5と、を有する。
【0038】
これにより、下部ナット4の締結力が下部支圧部3に伝達され、下部支圧部3による引き抜き抵抗力T1と、アンカー部材2の周面摩擦による引き抜き抵抗力T2とを、斜面9の地盤に作用させることができる。加えて、上部ナット6の締結力が上部支圧部5に伝達され、高強度ネット7が上部支圧部5により支圧され、支圧された高強度ネット7は、第1傾斜面52に沿って変形される。このため、複数のアンカー部材2、2間の領域に、高強度ネット7による斜面9を支圧する支圧力Tpを作用させることができる。よって、すべり面Pに対する斜面全体の崩壊を抑制することが可能となる。
【0039】
特に、高強度ネット7は引張強度が550N/mm以上の素線により構成されており柔軟性が低いものの、上部ナット6を雄ねじ部22に螺合することにより、高強度ネット7が第1傾斜面52に沿って強制的に変形され、斜面9に接触される。これにより、複数のアンカー部材2、2間の領域において、高強度ネット7が斜面9を支圧する支圧力Tpを作用させることができる。このため、すべり面Qに対する斜面表層の局部破壊を抑制することが可能となる。
【0040】
斜面全体の崩壊を抑制するために必要な抵抗力を、主に下部ナット4に下部支圧部3を支圧させて得られる、引き抜き抵抗力T1と引き抜き抵抗力T2とに負担させることができる。また、斜面表層の局部崩壊を抑制するために必要な抵抗力を、主に上部ナット6に主に上部支圧部5を支圧させて得られる、支圧力Tpに負担させることができる。したがって、斜面全体の崩壊と斜面表層の局部崩壊とを抑制することが可能となる。
【0041】
本実施形態によれば、上部貫通孔51から第1傾斜面52の先端部52bまでの距離L1は、下部貫通孔31から下部支圧部3の外縁部5cまでの距離L2より大きい。これにより、第1傾斜面52に沿って変形された高強度ネット7を斜面9に確実に接触させることが可能となる。このため、複数のアンカー部材2、2間の領域において、高強度ネット7による斜面9を支圧する支圧力Tpを確実に作用させることができる。よって、すべり面Qに対する斜面表層の局部破壊を更に抑制することが可能となる。
【0042】
本実施形態によれば、上部支圧部5は、第1傾斜面52よりも外縁側に斜面9に沿って延びる延伸面56が形成される。これにより、上部支圧部5の外縁部5cの尖った部分が高強度ネット7に接触するのを回避でき、延伸面56により高強度ネット7を支圧することができる。このため、上部支圧部5の外縁部5cの尖った部分により高強度ネット7が損傷するのを防止することが可能となる。
【0043】
本実施形態によれば、下部支圧部3は、高強度ネット7に対向する上面に、下部貫通孔31から外側に向かって斜面9に近づくように傾斜された第2傾斜面32が形成され、高強度ネット7は、第2傾斜面32に接触される。これにより、第2傾斜面32が上部支圧部5に支圧された高強度ネット7の変形を保持することができる。このため、複数のアンカー部材2、2間の領域において、高強度ネット7が斜面9を支圧する支圧力Tpをより確実に作用させることができる。
【0044】
本実施形態によれば、高強度ネット7は、引張強度が550N/mm以上の素線からなる高強度金網である。これにより、高強度ネット7による斜面9への支圧力を十分に確保することができる。このため、下部支圧部材30による支圧力と合わさることで斜面全体の崩壊と斜面表層の局部崩壊とを抑制することが可能となる。
【0045】
図8(a)は、実施形態に係る斜面安定化構造1で用いられる下部支圧部3の第2例を示す平面図であり、図8(b)は、実施形態に係る斜面安定化構造1で用いられる下部支圧部3の第2例を示す断面図である。
【0046】
第2例に係る下部支圧部3は、四角錐台形状に形成される。下部支圧部3は、アンカー部材2が貫通可能な下部貫通孔31と、下部支圧部3の上面に下部貫通孔31から外側に向かって斜面9に近づくように傾斜された第2傾斜面32と、が形成される。なお、本発明に係る下部支圧部3は、角錐台形状、円錐台形状等で形成されてもよい。
【0047】
図9(a)は、実施形態に係る斜面安定化構造1で用いられる上部支圧部5の第2例を示す底面図であり、図9(b)は、実施形態に係る斜面安定化構造1で用いられる上部支圧部5の第3例を示す底面図である。第2例に係る上部支圧部5は、縁板部55が省略される。また、第3例に係る上部支圧部5は、天板部53を挟んで両側に傾斜板部54が配置される。
【0048】
図10(a)は、実施形態に係る斜面安定化構造1で用いられる上部支圧部5の第4例を示す底面図であり、図10(b)は、実施形態に係る斜面安定化構造1で用いられる上部支圧部5の第5例を示す底面図である。第4例に係る上部支圧部5は、上部貫通孔51の延びる方向から見て、外形が円形状に形成される。第5例に係る上部支圧部5は、上部貫通孔51の延びる方向から見て、外形が菱形状に形成される。
【0049】
以上、この発明の実施形態のいくつかを説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。また、これらの実施形態は、適宜組み合わせて実施することが可能である。さらに、この発明は、上記いくつかの実施形態の他、様々な新規な形態で実施することができる。したがって、上記いくつかの実施形態のそれぞれは、この発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更が可能である。このような新規な形態や変形は、この発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明、及び特許請求の範囲に記載された発明の均等物の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0050】
1 :斜面安定化構造
2 :アンカー部材
21 :埋め込み部
22 :雄ねじ部
23 :注入材
24 :スペーサ
25 :カプラー
30 :下部支圧部材
3 :下部支圧部
31 :下部貫通孔
32 :第2傾斜面
33 :下部本体部
34 :筒状部
35 :リブ部
3c :側端面
4 :下部ナット
41 :コマナット
42 :球面ワッシャ
50 :上部支圧部材
5 :上部支圧部
51 :上部貫通孔
52 :第1傾斜面
52a :基端部
52b :先端部
53 :天板部
54 :傾斜板部
55 :縁板部
56 :延伸面
5c :外縁部
6 :上部ナット
61 :コマナット
62 :球面ワッシャ
7 :高強度ネット
9 :斜面
91 :移動層
92 :不動層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10